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特許拒絶査定不服審判

2016-008200

モーターを制御する方法

審判番号
2016-008200
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2012-513728
請求日
2016年06月02日
審決日
2018年11月19日
公報発行日
2019年05月31日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】カーエスベー ソシエタス ヨーロピア ウント コンパニー コマンディート ゲゼルシャフト アウフ アクチェン
  • 【請求人代理人】古谷 史旺
  • 【請求人代理人】狩野 彰
審判長/審判官
  • 審判長 藤井 昇
  • 審判官 山村 和人
  • 審判官 久保 竜一
分類
P18 .57 -WZA(H02P) / P18 .562-WZA(H02P) / P18 .121-WZA(H02P) / P18 .537-WZA(H02P)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法17条の2第3項特許法36条6項2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項、特許法第36条第5項、特許法第159条第1項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2012-513728「モーターを制御する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 9日国際公開、WO2010/140137、平成24年11月15日国内公表、特表2012-529262、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は、2010年(平成22年)6月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年6月5日、イタリア国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成26年 5月28日付け:拒絶理由通知書 平成26年 9月30日  :意見書、手続補正書の提出 平成27年 3月10日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書 平成27年 9月15日  :意見書、手続補正書の提出 平成28年 1月26日付け:平成27年9月15日提出の手続補正につ               いての補正の却下の決定、拒絶査定 平成28年 6月 2日  :審判請求書の提出 平成29年 3月21日付け:拒絶理由通知書 平成29年 9月27日  :意見書、手続補正書の提出 平成30年 2月28日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書 平成30年 9月 6日  :意見書、手続補正書の提出 第2 平成30年9月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成30年9月6日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 1.補正の内容 1-1.本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、平成29年9月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 運転時に回転速度及び位置を検出するセンサーなしの同期リラクタンスモーター(synchronous reluctance motor)をインバータとベクトル法とによって制御する方法であって、 -負荷と当該モーターによって供給されるべき望ましい関連するトルクとを設定し、 -当該モーターに必要トルクを発生させるのに必要な無効電流値Iqを決定し、 -当該モーターに供給すべき直流電流値Idを、下記の式 【数1】 Id=Iq/tan(kt) によって計算し、ここで、ktは当該モーターのトルク定数(Kt)が従属する電流ベクトルの位相であり、 -当該直流電流値Idと当該無効電流値Iqとによって、当該モーターの電力電流を計算し、 -当該インバータによって、当該モーターに当該電力電流を供給し、 -位置及び速度センサーなしに当該モーターの回転子の回転速度及び位置を確定する、 各ステップからなり、 当該回転子の回転速度及び位置を確定する当該ステップは当該モーターの電圧電源(voltage power)への付加的な正弦波電力電圧(sinusoidal power voltage)の総和を含んでおり、 当該電流ベクトルの位相ktは、モーターの運転中にモーターの効率を最大化するために、当該モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度であるとともに、当該モーターのすべての速度において一定の角度であることを特徴とする方法。 【請求項2】 当該電流ベクトルの位相又は角度ktに従属する当該最大トルク定数Ktを算出するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項3】 当該最大トルク定数Ktの当該算出ステップが、当該無効電流値Iqと当該直流電流値Idとの一次関数によって得られ、 当該一次関数が、電力電流に対するトルク定数の変化を表していることを特徴とする請求項2に記載の方法。 【請求項4】 当該無効電流値Iqを決定するステップの前に、当該電流ベクトルの位相を決定するステップが含まれることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項5】 当該直流電流値Idの値がその低い方の値において所定の閾値に制限されるように、当該直流電流値Idを調節するステップを含むことを特徴とする請求項1から4の中のいずれか一項に記載の方法。 【請求項6】 当該直流電流値Idの値がその高い方の値において所定の最大値に制限されるように、当該直流電流値Idを調節するステップを含むことを特徴とする請求項1から5の中のいずれか一項に記載の方法。 【請求項7】 当該付加的な正弦波電力電圧が、当該モーターの負荷に関する変数を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項8】 当該付加電力電圧が、回転子の回転速度に関する変数および/または当該モーターの負荷について当該モーターが必要とするトルクに関する変数を有することを特徴とする請求項7に記載の方法。 【請求項9】 当該付加電力電圧は当該モーターの負荷について当該モーターが必要とするトルクに関する変数を有し、そして、変数は普段のあるいは準普段の計算技術(a casual or pseudo casual calculating technique)によって決定されることを特徴とする請求項7に記載の方法。 【請求項10】 モーターに電力を供給する少なくとも一つのインバータと、当該モーターへの電力電流の供給を制御するために当該インバータに作用する処理手段とを有する、モーターを制御する装置であって、 当該処理手段が、直流電流Idと無効電流Iqとによって当該電力電流を計算することができ、当該無効電流Iqが、当該モーターが発生させなければならないトルク定数によって決定され、当該直流電流Idが、式 【数2】 Id=Iq/tan(kt) により当該処理手段によって計算され、ここで、ktが、当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であり、 当該電流ベクトルの位相ktはモーターの速度にかかわらず一定の角度であり、かつ、モーターの運転時にモーターの効率を最大化するために、モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度であること、 当該装置は、運転中に回転速度及び位置を検知するセンサーなしの同期リラクタンスモーターを制御するために適用されること、 当該処理手段は、モーターの電圧電源に正弦波電力電圧を付加することによって、回転子の回転速度及び位置を決定するために利用されること、 を特徴とする装置。」 1-2.本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(下線は補正箇所である。)。 「【請求項1】 インバータとベクトル法とによってモーターを制御する方法であって、 -当該モーターに必要トルクを発生させるのに必要な無効電流値Iqを確定し、 -当該モーターに供給すべき直流電流値Idを、下記の式 【数1】 Id=Iq/tan(kt) によって計算し、ここで、ktは当該モーターのトルク定数(Kt)が従属する電流ベクトルの位相であり、 -当該直流電流値Idと当該無効電流値Iqとによって、当該モーターの電力電流を計算し、 -当該インバータによって、当該モーターに当該電力電流を供給する、 各ステップからなり、 当該モーターは運転時に回転速度及び位置を検出するセンサーなしの同期リラクタンスモーター(synchronous reluctance motor)であり、位置及び速度センサーなしに当該モーターの回転子の回転速度及び位置を確定するステップをさらに有し、当該回転子の回転速度及び位置を確定する当該ステップは当該モーターの電圧電源(voltage power)へ付加的な正弦波電力電圧(an additional sinusoidal power voltage)を加えるステップを含んでおり、当該付加的な正弦波電力電圧が当該モーターの負荷によって変化する絶対値を有し、かつ、当該付加的な正弦波電力電圧が当該回転子の回転速度によって変化する絶対値及び/またはモーターの負荷について当該モーターが必要とするトルクによって変化する絶対値を有する、 ことを特徴とする方法。 【請求項2】 当該電流ベクトルの位相又は角度ktに関連する最大トルク定数Ktを算出するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項3】 当該最大トルク定数Ktの算出ステップが、当該無効電流値Iqと当該直流電流値Idとの一次関数によって実験的に又は数学的方法で得られ、 当該一次関数が、電力電流に対するトルク定数の変化を表していることを特徴とする請求項2に記載の方法。 【請求項4】 当該無効電流値Iqを決定するステップの前に、当該電流ベクトルの位相を決定するステップが含まれることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項5】 当該直流電流値Idの値がその低い方の値において所定の閾値に制限されるように、当該直流電流値Idを調節するステップを含むことを特徴とする請求項1から4の中のいずれか一項に記載の方法。 【請求項6】 当該直流電流値Idの値がその高い方の値において所定の最大値に制限されるように、当該直流電流値Idを調節するステップを含むことを特徴とする請求項1から5の中のいずれか一項に記載の方法。 【請求項7】 当該付加的な正弦波電力電圧は当該モーターの負荷について当該モーターが必要とするトルクによって変化する絶対値を有し、そして、擬似乱数生成技術によって決定される、変化する周波数を有していることを特徴とする請求項1に記載の方法。 【請求項8】 モーターに電力を供給する少なくとも一つのインバータと、当該モーターへの電力電流の供給を制御するために当該インバータに作用する処理手段とを有する、モーターを制御する装置であって、 当該処理手段が、直流電流値Idと無効電流値Iqとによって当該電力電流を計算することができ、当該無効電流値Iqは、当該モーターが発生させなければならないトルク定数によって確定され、当該直流電流値Idが、式 【数2】 Id=Iq/tan(kt) により当該処理手段によって計算され、ここで、ktが、当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であり、 当該装置は、運転中に回転速度及び位置を検知するセンサーなしの同期リラクタンスモーターを制御するために適用されること、 及び、 当該処理手段は、モーターの電圧電源に正弦波電力電圧を付加することによって、回転子の回転速度及び位置を確定するために利用されること、 を特徴とする装置。」 2.目的要件について 特許請求の範囲についての本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。 (1)特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」は、特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる。 そして、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。 (2)本件補正前の請求項1~9に記載された発明も、本件補正後の請求項1~7に記載された発明も「方法」に係るものであり、また、本件補正前の請求項10に記載された発明も、本件補正後の請求項8に係る発明も「装置」に係るものであることから、本件補正前の請求項1が本件補正後の請求項1に対応し、本件補正前の請求項10が本件補正後の請求項8に対応するものとして以下検討する。 (3)本件補正後の請求項1の記載は、本件補正前の請求項1に記載された「負荷と当該モーターによって供給されるべき望ましい関連するトルクとを設定し」及び「当該電流ベクトルの位相ktは、モーターの運転中にモーターの効率を最大化するために、当該モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度であるとともに、当該モーターのすべての速度において一定の角度であること」との発明特定事項が削除されているから、本件補正は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるとはいえない。 また、本件補正後の請求項8の記載は、本件補正前の請求項10に記載された「当該電流ベクトルの位相ktはモーターの速度にかかわらず一定の角度であり、かつ、モーターの運転時にモーターの効率を最大化するために、モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度であること」という発明特定事項が削除されていることからも、本件補正は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるとはいえない。 さらに、本件補正前の請求項1に記載された発明の課題(以下、「本件補正前の請求項1の課題」という。)は、本件補正前の請求項1に記載された【数1】の「kt」をモーターのトルク定数(Kt)が従属する電流ベクトルの位相とし、当該電流ベクトル位相ktをモーターの最大トルク定数Ktに対応する角度とすることによって、「モータの効率を最大にすること」にあるのに対して(段落【0041】等参照)、本件補正後の請求項1に記載された発明の課題(以下、「本件補正後の請求項1の課題」という。)は、本件補正後の請求項1に記載された【数1】の「kt」をモーターのトルク定数(Kt)が従属する電流ベクトルの位相とすることによって、「モーターの効率を改善すること」であるから(段落【0033】~【0036】等参照)、本件補正後の請求項1の課題は、本件補正前の請求項1の課題を概念的に上位にしたものであって下位にしたものでなく、同種のものともいえないことから、本件補正前後の請求項1の課題は技術的に密接に関連しているとはいえない。したがって、本件補正前後の請求項1に記載された発明の解決しようとする課題は同一ではない。 また、本件補正前の請求項10に記載された発明の課題(以下、「本件補正前の請求項10の課題」という。)は、本件補正前の請求項10に記載された【数2】の「kt」をモーターのトルク定数(Kt)が従属する電流ベクトルの位相とし、当該電流ベクトル位相ktをモーターの最大トルク定数Ktに対応する角度とすることによって、「モータの効率を最大にすること」にあるのに対し(段落【0041】等参照)、本件補正後の請求項8に記載された発明の課題(以下、「本件補正後の請求項8の課題」という。)は、本件補正後の請求項8に記載された【数2】の「kt」をモーターのトルク定数(Kt)が従属する電流ベクトルの位相とすることによって、「モーターの効率を改善すること」であるから(段落【0033】~【0036】等参照)、本件補正後の請求項8の課題は、本件補正前の請求項10の課題を概念的に上位にしたものであって下位にしたものでなく、同種のものともいえないことから、本件補正前の請求項10の課題と本件補正後の請求項8の課題は技術的に密接に関連しているとはいえない。したがって、本件補正前の請求項10に記載された発明の解決しようとする課題と、本件補正後の請求項8に記載された発明の解決しようとする課題も同一ではない。 したがって、これらの補正は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の解決しようとする課題が同一である「特許請求の範囲の減縮」を目的としたものには該当しない。 (4)また、上述したように、これらの補正は、本件補正前の請求項1、10に記載した発明を特定するために必要な事項を削除する補正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものではない。 そして、これらの補正は、請求項の削除、誤記の訂正を目的としたものではないことも明らかである。 (5)したがって、これらの補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項各号に規定する「請求項の削除」、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」、「明りようでない記載の釈明」のいずれを目的としたものにも該当しないから、特許法第17条の2第5項の規定を満たしていない。 よって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。 3.独立特許要件 本件補正後の請求項1、8に係る補正が、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると仮定した場合に、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)及び本件補正後の請求項8に係る発明(以下、「本件補正発明2」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 (1)特許法第36条第6項第2号について ア.本件補正発明1について (ア)「kt」について、本件補正後の請求項1では「ktは当該モーターのトルク定数(Kt)が従属する電流ベクトルの位相であり」との特定がなされているのみである。そして、本件の明細書及び図面の記載(特に、段落【0041】~【0043】、図2等参照)を考慮すると、「トルク定数(Kt)」は、直流電流Idと無効電流Iqの関係によって変化するものであって、その値を一意に定めることはできないものと解されることから、当該トルク定数(Kt)が従属する電流ベクトルの位相である「kt」の値もまた一意に定めることができない。 そして、「kt」の値が一意に定まらなければ、本件補正後の請求項1に記載の「【数1】 Id=Iq/tan(kt)」における「tan(kt)」及び「Id」の値もまた一意に定めることができない。 したがって、本件補正発明1において、「kt」、「tan(kt)」及び「Id」がどのような値を特定しているのか明確でない。 (イ)本件補正後の請求項1の「当該モーターに必要トルクを発生させるのに必要な無効電流値Iqを確定し」との記載に関し、上記(ア)で述べたように「kt」の値は一意に定まるものではなく、また、通常、発生させる一つのトルク値に対応する無効電流値は電流ベクトル位相(kt)の変化に応じて無数に存在することから、電流ベクトル位相(kt)が一意に定まらない本件補正発明1において、どのようにして必要トルクのみから演算により無効電流値を決定しているのか明確でない。 よって、本件補正発明1は明確でない。 イ.本件補正発明2について (ア)「kt」について、本件補正後の請求項8でも「ktが、当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であり」との特定がなされているのみであり、上記ア.(ア)で述べた理由により、本件補正発明2において、「kt」、「tan(kt)」及び「Id」がどのような値を特定しているのか明確でない。 (イ)本件補正後の請求項8の「当該無効電流値Iqは、当該モーターが発生させなければならないトルク定数によって確定され」との記載に関しても、上記ア.(イ)で述べた理由により、どのようにして必要トルクのみから演算により無効電流値を決定しているのか明確でない。 (ウ)本件補正後の請求項8に「当該無効電流値Iqは、当該モーターが発生させなければならないトルク定数によって確定され」及び「ktが、当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であり」と記載されているが、「トルク定数」の用語の意味が明確でない。 前者の「トルク定数」も後者の「トルク定数」も同一の用語を用いていることからその用語の意味も同一であると解されるが、「トルク定数」という用語は、一般的に、電機子電流に比例するモーターの出力トルクを求める際に用いられる比例定数をいうものであり、また、本件の明細書等において「トルク定数」の用語に対する特段の定義もなされていないことから、本願において「トルク定数」は前記通常の用語の意味で解釈すべきものであって、そうすると、後者の「ktが、当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であり」との記載に関しては明確であるものの、前者の「当該無効電流値Iqは、当該モーターが発生させなければならないトルク定数によって確定され」との記載に関しては、「モーターが発生させなければならないトルク定数」とはどのようなトルク定数を意味するのか不明である。 請求人は、平成30年9月6日における意見書の「4.拒絶理由2(明確性)」において、「(4-6)請求項10(新請求項8)に関して、審判官殿が求めている、明確性への適切な応答が、前記のパラグラフで見出すことができる。しかし、新請求項8の前提部分における、最初の「トルク定数」はモーターが生成しなければならない、「好ましいトルク」と読まなければならず、他方、2番目の「トルク定数」は審判官殿が示唆している「トルク定数(Kt)」である。このように、新請求項8は補正されている。」と主張しているが、同一の用語は同一の意味を有すると解されることから、同一の用語について異なる意味を有すると主張する請求人の主張は採用できない。 よって、本件補正発明2は、明確でない。 (2)特許法第29条第2項について ア.本件補正発明2について (ア)本件補正発明2 本件補正発明2は、上記「第2 1.1-2.本件補正後の特許請求の範囲の記載」の請求項8に記載された以下のとおりのものである。 「モーターに電力を供給する少なくとも一つのインバータと、当該モーターへの電力電流の供給を制御するために当該インバータに作用する処理手段とを有する、モーターを制御する装置であって、 当該処理手段が、直流電流値Idと無効電流値Iqとによって当該電力電流を計算することができ、当該無効電流値Iqは、当該モーターが発生させなければならないトルク定数によって確定され、当該直流電流値Idが、式 【数2】 Id=Iq/tan(kt) により当該処理手段によって計算され、ここで、ktが、当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であり、 当該装置は、運転中に回転速度及び位置を検知するセンサーなしの同期リラクタンスモーターを制御するために適用されること、 及び、 当該処理手段は、モーターの電圧電源に正弦波電力電圧を付加することによって、回転子の回転速度及び位置を確定するために利用されること、 を特徴とする装置。」 (イ)引用文献の記載事項 (イ-1)引用文献1 当審において平成29年3月21日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2000-341983号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている(当審により下線を付与した。)。 a.「【0010】逆突極性(Ld<Lq)を有する埋込磁石形同期電動機のトルクTは以下のような式で与えられる。 【0011】 T=Tm+Tr =K・ψ・Iq-K・(Lq-Ld)・Id・Iq 但し、Tm:磁石トルク、Tr:リラクタンストルク、ψ:永久磁石による鎖交磁束、K:比例定数である。 【0012】リラクタンストルクTr(下の式の右辺第2項)を有効に利用するためには、d軸電流指令Idを負の方向すなわち弱め磁束電流とし、磁石トルクTmとリラクタンストルクTrとを重畳させればよいことがわかる。 【0013】その上で所要トルクに対してモータ電流を最小化し、高効率を得るとともに、安定したトルク線形化制御を実現することを可能にするために、本発明ではベクトル制御を採用している。すなわちトルクTは磁石トルクTmとリラクタンストルクTrとの合成であるから、所要のトルクTを発生する電流指令Icを、ベクトル図(図2参照)に示す通り、直交するdq軸の電流指令にそれぞれ分配するようにd軸・q軸電流指令演算手段は演算を行う。式で表すと、 Id=|Ic|・cosφ Iq=Ic・sinφ となる。 【0014】ここでφはトルク線形性と最大トルク効率、及びモータ定数等を考慮して、所望のトルクが得られるように定めることができる。また一定電流に対し最大のトルク定数を実現できるφを選択することができる。好ましくは請求項2に記載のように、d軸・q軸電流指令演算手段は、検出速度が予め定めた低速領域にあるときにはトルク定数が最大になるようにφを一定とし、検出速度が予め定めた高速領域にあるときにはモータ電圧がPWM電力変換器の出力電圧以下になるようにφを検出速度に応じて増大させる。このような埋込磁石形同期電動機の制御装置によると、検出速度が予め定めた低速領域にあるときにはトルク定数が最大になるようにφを一定とするので最大トルク効率運転を実現することができ、検出速度が予め定めた高速領域にあるときにはモータ電圧がPWM電力変換器の出力以下になるようにφを検出速度に応じて増大させるので、モータ定数を照合することなく出力電流を制限することができる。このように構成した場合のφと検出速度(回転数)Nとの関係の一例を図3に示す。」 b.「【0015】 【発明の実施の形態】以下、図を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明に係る埋込磁石形同期電動機の制御装置の好ましい実施の形態の一例を示す回路のブロック図である。なお、この制御装置の電流制御部及び速度制御部は、例えばデジタル・シグナル・プロセッサ上にソフトウエアにより構成することができる。 【0016】同図において、IPMモータ1は複数の永久磁石がロータコアに埋め込まれているロータを備え、永久磁石の直軸であるd軸のインダクタンスLdと直軸と電気角で直交する直交軸であるq軸のインダクタンスLqとの関係がLd<Lqとなる逆突極性の埋込磁石形同期電動機である。IPMモータ1はPWM電力変換器2を用いて可変速制御される。制御装置は、IPMモータ1の駆動軸の回転を検知するエンコーダ3からの信号と速度指令ωmcとを入力として、IPMモータの回転速度と速度指令ωmcとの速度偏差に基づいて電流制御信号を作成し、PWM電力変換器2にPWM制御信号を出力するPWM制御部4に電流制御信号を出力する。 【0017】この制御装置は、d軸電流指令Idとq軸電流指令Iqとに基いて電流制御信号を出力する電流制御部5と、速度偏差に基いてd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを作成する速度制御部6とを備えている。 【0018】電流制御部5は積分制御器51及び52と、SIN信号とCOS信号とを発生する信号発生回路(OSC)53と、dq座標変換器54と、三相座標変換器55と、電流制御器56とから構成される。積分制御器51及び52は、速度制御部6から入力されたd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqと、d軸電流フィードバックIdF及びq軸電流フィードバックIqFとのそれぞれの差からそれぞれの積分補償値を作成する。OSC53は、エンコーダ3により検出されるIPMモータ1のロータの回転位置θmに基づいてSIN,COS信号を作成する。dq座標変換器54は、PWM電力変換器2の出力電流の電流フィードバックIUF,IVFを、OSC53から入力されたSIN,COS信号に従ってdq座標変換し、d軸電流フィードバックIdF及びq軸電流フィードバックIqFを出力する。三相座標変換器55は、積分制御器51,52によりそれぞれ作成された積分補償値を含んだd軸電流指令Id’及びq軸電流指令Iq’を、OSC53から入力されたSIN,COS信号に従って三相座標変換し、三相電流指令IUC,IVC及びIWCを出力する。電流制御装置56は、三相電流指令IUC,IVC及びIWCと電流フィードバックIUF,IVFとの偏差をとり、比例演算して電圧指令VUC,VVC,VWCを得てPWM制御器4に出力する。以上のような電流制御部の構成及び動作は、すでに公知であるから詳細な説明は省略する。 【0019】速度制御部6は速度検出器61と、速度制御器62と、電流指令演算器63と、リミッタ64と、q軸電流指令演算器65と、絶対値化器66と、d軸電流指令演算器67とから構成される。q軸電流指令演算器65、絶対値化器66及びd軸電流指令演算器67は、d軸・q軸電流指令演算手段を構成する。速度検出器61は、エンコーダ3からの信号を受け取ってIPMモータ1の回転速度を検出して検出速度信号ωmを出力する。速度制御器62は、速度指令信号ωmcと検出速度信号ωmとの速度偏差からトルク指令Tcを演算する。電流指令演算器63は、トルク指令Tcに電流指令換算係数KTIを乗算して電流指令Icを演算する。リミッタ64は電流指令Icを一定値にリミットする。q軸電流指令演算器65は、リミッタ64から出力された電流指令IcをSINφ倍してq軸電流指令Iqを算出する。d軸電流指令演算器67は、絶対値化器66により絶対値化された電流指令IcをCOSφ倍してd軸電流指令Idを算出する。すなわちd軸電流指令I及びq軸電流指令Iqはそれぞれ、 Id=|Ic|・cosφ Iq=Ic・sinφ の式(但し、φはd軸と電流指令Icとの間の電気角)により算出される。 【0020】この制御装置においては、IPMモータ1を可変速制御するPWM電力変換器2にPWM制御器4からPWM制御信号が入力される。PWM制御器4には電流制御部5から電圧指令VUC,VVC,VWCが入力され、これらはd軸電流指令Idとq軸電流指令Iqとに基づいて作成される。そしてd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqは速度制御部6において作成される。 【0021】まず速度検出器61がエンコーダ3からのエンコーダ値によりIPMモータ1の回転速度を検出し、検出速度信号ωmを出力する。速度指令信号ωmcと検出速度信号ωmとの速度偏差は速度制御器62により演算を施され、トルク指令Tcが算出される。トルク指令Tcには、電流指令演算器63により電流指令換算係数KTIが乗算されて電流指令Icが得られる。さらにリミッタ64により電流指令演算手段から出力された電流指令Icは一定値にリミットされる。 【0022】次に電流指令Icはq軸電流指令演算器65、絶対値化器66及びd軸電流指令演算部からなるd軸・q軸電流指令演算装置においてd軸電流指令Id及びq軸電流指令Idに分配される。すなわち電流指令Icは図2の電流ベクトル図に示すようにq軸成分とd軸成分とに分配される。このとき使用されるSINφ及びCOSφの数値は、電流制御部5のOSC53においてdq座標変換に用いられるSINテーブルから読み出される。本実施の形態においては従来の制御装置内に記憶されているSINテーブルを参照してd軸・q軸電流指令演算を行うようにしたので、特別にメモリを増やす必要がない。またSINテーブルを参照することにより演算量が少なく、演算時間も短くて済む。 【0023】φの値は所望のトルクを最大トルク効率で得られるように調整される。例えば低速時のトルク定数の調整は、電流指令Icを定格電流とし、この状態でφを変化させ、最大のトルクが発生した角度をφの最適値とすることにより容易に実行される。このようにある一定電流の元でd軸・q軸電流指令を分配すればよいため、トルク定数の調整が非常に容易である。 【0024】好ましくは、IPMモータ1の速度が予め定めた低速領域にあるときにはトルク定数が最大になるようにφを一定とし、速度が予め定めた高速領域にあるときにはモータ電圧がPWM電力変換器2の出力電圧以下になるようにφを速度に応じて増大させる。IPMモータ1の速度はエンコーダ3により検出される。このような構成においては、検出速度が予め定めた低速領域にあるときにはトルク定数が最大になるようにφを一定とするので最大トルク効率運転を実現でき、検出速度が予め定めた高速領域にあるときにはモータ電圧がPWM電力変換器の出力以下になるようにφを検出速度に応じて増大させるので、モータ定数を照合することなく出力電流を制限することができる。このように構成した場合のφと検出速度(回転数)Nとの関係を図3に示す。 【0025】速度制御部6において得られたd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqは、電流制御部5に入力され、積分制御器51,52からの積分補償量がをそれぞれ加算され、三相座標変換器55により三相の電流指令IUC,IVC,IWCに座標変換され、さらに電流制御器56により電圧指令VUC,VVC,VWCが作成されてPWM制御器4に入力される。PWM制御器4からのPWM制御信号を受けて、PWM電力変換器2はIPMモータ1を駆動する。」 c.段落【0016】、【0018】及び図1の記載より、PWM電力変換器2と制御装置とを有する装置により、IPMモータ1を可変速制御しているといえる。 d.段落【0018】、段落【0021】及び図1の記載より、IPMモータ1の回転速度及び回転位置θmをエンコーダ3により検出しているといえる。 これらの記載事項からみて、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「IPMモータ1を駆動するPWM電力変換器2と、PWM電力変換器2にPWM制御信号を出力するPWM制御部4に電流制御信号を出力する制御装置とを有する、IPMモータ1を可変速制御する装置であって、 前記制御装置は、IPMモータの回転速度と速度指令ωmcとの速度偏差に基いてd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを作成する速度制御部6を備え、前記速度制御部6は速度検出器61と、速度制御器62と、電流指令演算器63と、リミッタ64と、q軸電流指令演算器65と、絶対値化器66と、d軸電流指令演算器67とから構成されており、前記電流指令演算器63は、トルク指令Tcに電流指令換算係数KTIを乗算して電流指令Icを演算し、前記リミッタ64は電流指令Icを一定値にリミットし、前記q軸電流指令演算器65は、リミッタ64から出力された電流指令IcをSINφ倍してq軸電流指令Iqを算出し、前記d軸電流指令演算器67は、絶対値化器66により絶対値化された電流指令IcをCOSφ倍してd軸電流指令Idを算出することにより、d軸電流指令I及びq軸電流指令Iqはそれぞれ、Id=|Ic|・cosφ、Iq=Ic・sinφ、の式(但し、φはd軸と電流指令Icとの間の電気角)により算出され、ここで、IPMモータ1の速度が予め定めた低速領域にあるときにはトルク定数が最大になるようにφを一定とし、 前記IPMモータ1は埋込磁石形同期電動機であり、 前記IPMモータ1の回転速度及び回転位置θmをエンコーダ3により検出する 装置。」 (イ-2)引用文献2 当審において平成29年3月21日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2008-220169号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている(当審により下線を付与した。)。 a.「【0002】 従来より、回転子位置センサを用いることなくモータの回転子位置を推定し、この推定した回転子位置に基づいてモータを制御するモータ制御装置(位置センサレス制御装置)が開発されている。この種のモータ制御装置において、モータに対する負荷の急激な変動などが生じると、脱調が発生することがある。脱調が発生すると、モータの回転が停止して制御不能に陥ってしまうため、脱調を的確に検出する技術が求められている。」 b.「【0022】 以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して具体的に説明する。参照する各図において、同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分に関する重複する説明を原則として省略する。また、参照する各図において、同一の記号(θやωなど)を付したものは同一のものである。また、説明の簡略化上、状態量などを記号のみにて表記する場合がある。つまり、例えば、「推定モータ速度ωe」を、単に「ωe」と記すことがあるが、両者は同一のものを意味する。 <<第1実施形態>> まず、本発明の第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係るモータ駆動システムのブロック構成図である。1は、永久磁石を回転子(不図示)に、電機子巻線を固定子(不図示)に設けた三相永久磁石同期モータ1(以下、単に「モータ1」と記す)である。以下の説明において、単に、電機子巻線及び回転子といった場合、それらは、それぞれ、モータ1の固定子に設けられた電機子巻線及びモータ1の回転子を意味するものとする。モータ1は、例えば、埋込磁石形同期モータに代表される突極機(突極性を有するモータ)であるが、非突極機であっても構わない。 【0023】 2は、PWM(Pulse Width Modulation)インバータであり、モータ1の回転子位置に応じてモータ1の電機子巻線にU相、V相及びW相から成る三相交流電圧を供給する。このモータ1の電機子巻線に供給される電圧をモータ電圧(電機子電圧)Vaとし、インバータ2からモータ1の電機子巻線に供給される電流をモータ電流(電機子電流)Iaとする。 【0024】 3は、モータ制御装置(位置センサレス制御装置)であり、モータ電流Iaを用いてモータ1の回転子位置等を推定し、モータ1を所望の回転速度で回転させるための信号をPWMインバータ2に与える。この所望の回転速度は、図示されないCPU(中央処理装置;Central Processing Unit)等からモータ制御装置(本実施形態では、モータ制御装置3)にモータ速度指令値ω*として与えられる。」 したがって、上記引用文献2には次の技術的事項(以下、「引用文献2記載技術」という。」が記載されていると認められる。 「モータ1は、埋込磁石形同期モータに代表される突極機(突極性を有するモータ)であって、 モータ電流Iaを用いてモータ1の回転子位置等を推定し、モータ1を所望の回転速度で回転させるための信号をPWMインバータ2に与えること」 (イ-3)引用文献3 当審において平成29年3月21日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2007-89247号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている(当審により下線を付与した。)。 a.「【0002】 従来より永久磁石同期電動機をセンサレスベクトル制御で運転する場合、センサの代わりにロータの磁極位置を推定する必要がある。推定方法としては、誘起電圧の基本波に基づく方法と高調波に基づく方法があるが、基本波に基づく方法は中高速域しか適用できない。即ち、停止位置や低速域では誘起電圧が小さく、検出が困難であり、高周波電圧又は電流を注入して誘起電圧の高調波を発生させて磁極位置を推定することになる。従って、高速用センサレスは誘起電圧の基本波を利用して、低速用センサレスは高調波を注入する方法が利用されている。」 b.「【0018】 先ず、図1は本発明を適用した一実施例(実施例1)の電動機Mの駆動装置Dの電気回路図、図2は電動機Mの構成図、図3は駆動装置Dを構成する制御手段としての制御回路Cの制御プログラムを示すフローチャートである。実施例の駆動装置Dは、自動車のバッテリである直流電源DCに接続された6個のスイッチング素子から成るインバータ主回路1(三相インバータ)と、このインバータ主回路1の各スイッチング素子の転流を制御して電動機Mに三相疑似交流電圧を印加する制御回路(制御手段)Cなどから構成される。 【0019】 そして、前記電動機Mは例えば直巻方式にて三相のコイル3U、3V、3Wが捲装されたステータ(固定子)3と、このステータ3の内側で回転する永久磁石内蔵型のロータ4とから構成された同期電動機であり(図2)、ステータ3のU相、V相、W相の三相コイル3U、3V、3Wにインバータ主回路1の各相の二次側ライン2U、2V、2Wが接続されている。」 c.「【0025】 (三相通電について) これに対して、三相通電は所謂180°通電方式のことであり、正弦波電圧をステータ3の三相のコイル3U、3V、3Wに加えて駆動するため、電圧利用率・トルク変動において二相通電より多くの利点を有する。但し、回転するロータ4の永久磁石の磁束に対して電流位相を最適に制御するために、細かい磁極位置情報が必要となる。 【0026】 センサレスでこの三相通電における磁極位置を検出する方法を以下に説明する。電動機Mのロータ4の磁極位置が実角度θdの回転位置(実際の磁極位置)となるd-q回転座標系(d軸はロータ磁束軸、q軸は誘起電圧軸)に対して、制御回路Cにて推定角度θdcとなるdc-qc回転座標系を考える。ここに、θdcは制御回路Cで作成しているので、軸誤差Δθ(Δθ=θdc-θd)を演算できれば、ロータ4の磁極位置を推定することができる。 【0027】 実際には、例えばインバータ主回路1に与える電圧指令vd*とvq*を、巻線抵抗r、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq、発電定数kE、d軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*、q軸電流検出値Iq、速度指令ω1*(自動車の車室内温度と設定値、日射量などに基づいて車室内の制御回路などから入力される。)などと前記軸誤差Δθで表したモータモデル式を解くことにより、ロータ4の磁極位置を推定することになる。 【0028】 (センサレスベクトル制御について) 制御回路Cは、このような推定によって検出されたロータ4の磁極位置に基づいて電動機Mのセンサレスベクトル制御を実行する。この場合制御回路Cは、電流センサ6V、6Wが検出した二次側ライン2V、2Wから電動機Mに流れる電流をq軸電流成分Iqとd軸電流成分Idに分離し、q軸電流指令Iq*とd軸電流指令Id*を独立して制御することにより、入力した速度指令ω1*を実効させるために、磁束と電流位相の関係をトルク最大となるように電圧指令vd*、vq*の大きさと位相を決定し、トルクと操作量の関係を線形にする。 【0029】 また、制御回路Cはd軸電流検出値Idを用いて電動機Mに流れる電流の位相調整を行う。そして、電圧指令vd*、vq*をインバータ主回路1に与え、各スイッチング素子を制御することで、速度指令を満足するような回転速度に電動機Mを駆動することになる。」 したがって、上記引用文献3には次の技術的事項(以下、「引用文献3記載技術」という。)が記載されていると認められる。 「前記電動機Mは、ステータ(固定子)3と、このステータ3の内側で回転する永久磁石内蔵型のロータ4とから構成された同期電動機であって、 推定によって検出されたロータ4の磁極位置に基づいて電動機Mのセンサレスベクトル制御を実行すること」 (イ-4)引用文献4 当審において平成29年3月21日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2009/040965号(以下、「引用文献4」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている(当審により下線を付与した。)。 a.「【0002】 回転電機の回転動作を精度良く制御するには、回転電機の回転子位置情報と、回転電機に流れる電流情報とが必要である。ここで、回転子位置情報は、従来、回転位置センサを回転電機に別途取付けることにより回転子位置情報を得ている。しかし、回転位置センサを別途設けるのは、コスト削減、省スペース、信頼性の向上という観点からデメリットが大きいため、回転位置センサのセンサレス化が要求されている。 【0003】 回転電機における回転位置センサのセンサレス化の制御方法として、主に回転電機の誘起電圧より回転電機の回転子位置を推定する方法と、突極性を利用して回転電機の回転子位置を推定する方法とがある。前者の方法で用いる誘起電圧の大きさは回転電機の速度に比例するという特徴があるため、零速や低速域では誘起電圧が小さくなりS/N比が悪化し、回転電機の回転子位置を推定することは困難になる。一方、後者の突極性を利用した方法は回転電機の回転子位置を推定するための回転子位置推定用信号を回転電機に注入しなければならないものの、回転電機の速度に関係せずに回転電機の回転子位置を推定できるメリットがある。このため、零速や低速域において位置検出を行う上で、突極性を利用したセンサレス制御法が採用される。 【0004】 従来、このような突極性を利用したセンサレス制御法において、回転電機の駆動周波数とは異なる高周波信号(この高周波により磁極回転子位置検出を行う)を回転子位置推定用の信号として発生させるために、キャリア信号発生器で発生する任意の周波数を持つ三相分のキャリア信号を、フェーズシフタにおいてU相基準でV相の位相を角度Δθ、W相を2Δθずらし、それらをコンパレータで電圧指令値と比較してスイッチング信号を発生して、インバータ回路に入力する。そして、インバータ回路でスイッチング信号によって回転電機が駆動されることにより回転電機に生じる三相分の高周波電流をバンドパスフィルタ(BPF)で抽出し、次いでこれらの三相分の高周波電流を、座標変換器でα軸、β軸、α´軸、β´軸に変換して、電流のピーク値を取り出し、絶対値演算器とローパスフィルタによって平均化処理を行い、磁極位置演算器によりθを推定する(例えば、特許文献1参照)。」 b.「【0022】 実施の形態1. 図1~図7は、本発明の実施の形態1を示すものであり、図1は回転電機の制御装置の全体を示す構成図、図2は図1の位置推定手段の詳細を示す構成図である。また、図3~図7は動作説明に供する説明図である。 【0023】 この実施の形態1において、回転電機1は例えば埋込磁石型の同期機であって、この回転電機1には所定の制御電圧を印加する電圧印加手段としてのインバータ6が接続されている。また、インバータ6と回転電機1との間を流れる二相分の回転電機電流iu、ivを検出する電流検出手段2と、回転電機1の回転子位置を求める位置推定手段3と、回転電機1に印加する駆動電圧指令用の電圧指令Vup*,Vvp*,Vwp*を出力する制御手段4(詳細後述)と、制御手段4からの電圧指令Vup*,Vvp*,Vwp*に基づいてパルス幅変調されたロジック信号Vul,Vvl,Vwlを出力するパルス幅変調制御手段5(詳細後述)が設けられている。 【0024】 上記の制御手段4は、減算器42、d軸電流制御器7、q軸電流制御器8、座標変換器9、電圧指令手段としての二相・三相変換器10、三相・二相変換器11、座標変換器12を有するとともに、位置検出用電圧発生器14、および加算器41を備えている。また、パルス幅変調手段5は、スイッチング周期発生部としてのスイッチング周期発生器13と、パルス幅変調制御器15とを有する。 【0025】 この実施の形態1における電流検出手段2は、例えば変流器等からなり、回転電機1とインバータ6とを結ぶ電力線からU相電流iuとV相電流ivとの二相分の電流を検出する。しかし、それ以外に、U相電流、V相電流、W相電流のうち任意の二相分の電流を検出してもよい。また、電流検出手段2は、U相電流、V相電流、W相電流の三相電流を検出する方法でもよい。あるいは、電流検出手段2として、後述するようなインバータ6の入力である直流母線電流を利用した手法を用いた演算で検出することも可能である。 【0026】 後で詳述するように、位置検出用電圧発生器14が出力する三相の位置検出用電圧Vuh,Vvh,Vwhを回転電機駆動用の基本波電圧Vup*,Vvp*,Vwp*に重畳することにより、電流検出手段2により検出される回転電機1のU相電流iuとV相電流ivとの二相分の回転電機電流には、位置検出用電圧Vuh,Vvh,Vwhに対応した周波数をもつ位置検出用交流電流成分が含まれている。 【0027】 したがって、位置推定手段3は、回転電機1に発生する回転電機に含まれる高周波の位置検出用交流電流を抽出し、その位置検出用電流に基づいて回転子位置の情報θpを求めて出力するものであって、図2に示すように、三相・二相変換器19、フーリエ変換器20、2つの乗算器21、減算器22、および位置演算器23が順次接続されて構成されている。なお、三相・二相変換器19を設けているのは、二相電流に変換すれば以降の位置推定に必要な情報量を少なくすることができて演算が簡単になるためである。また、フーリエ変換器20は、回転電機電流に含まれる位置検出用交流電流を抽出するためのものである。」 c.「【0035】 なお、各位置検出用電圧Vuh,Vvh,Vwhが+Vhあるいは-Vhである区間は2区間にしないで、1区間であってもよく、あるいは、図4に示すように3区間などにしてもよい。ただし、スイッチング周期のm倍と等しい周期の位相の異なる三相交流電圧を出力する場合、+Vhあるいは-Vhである区間は、1から(m-1)の間の値でなければならず、+Vhである区間と-Vhである区間は合わせてm区間でなければならない。また、各相の位相差は、図3(a)のように1区間としないで、2区間や、3区間などにしてもよい。ただし、スイッチング周期のm倍と等しい周期の位相の異なる三相交流電圧を出力する場合、各相の位相差は、1から(m-1)の間の値でなければならない。また、位置検出用電圧Vuh,Vvh,Vwhは図3、図4に示したような方形波ではなく、正弦波で与えてもよい。」 したがって、上記引用文献4には次の技術的事項(以下、「引用文献4記載技術」という。)が記載されていると認められる。 「回転電機1は埋込磁石型の同期機であって、 位置検出用電圧発生器14が出力する三相の位置検出用電圧Vuh,Vvh,Vwhを回転電機駆動用の基本波電圧Vup*,Vvp*,Vwp*に重畳し、位置推定手段3は、回転電機1に発生する回転電機に含まれる高周波の位置検出用交流電流を抽出し、その位置検出用電流に基づいて回転子位置の情報θpを求めて出力し、位置検出用電圧Vuh,Vvh,Vwhは正弦波で与えてもよいこと」 (ウ)対比・判断 (ウ-1)対比 まず、本件補正発明2の「当該モーターが発生させなければならないトルク定数」及び「ktが、当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であり」における「トルク定数」に関し、前記「第2 3.(1)イ.(ウ)」で述べたように、これらの「トルク定数」の意味が不明であるが、平成30年9月6日提出の意見書における「4.(4-6)」の「(4-6)請求項10(新請求項8)に関して、審判官殿が求めている、明確性への適切な応答が、前記のパラグラフで見出すことができる。しかし、新請求項8の前提部分における、最初の「トルク定数」はモーターが生成しなければならない、「好ましいトルク」と読まなければならず、他方、2番目の「トルク定数」は審判官殿が示唆している「トルク定数(Kt)」である。」との主張を勘案し、前者の「トルク定数」を「好ましいトルク」、後者の「トルク定数」を「トルク定数(Kt)」と解し、以下の対比を行った。 a.本件補正発明2と引用発明とを対比すると、引用発明の「IPMモータ1」は本件補正発明2の「モーター」に相当し、以下同様に、「IPMモータ1を可変速制御する装置」は「モーターを制御する装置」に、「トルク指令Tc」は「モーターが発生させなければならないトルク定数」に相当する。 b.本件補正発明2の「無効電流値Iq」及び「直流電流値Id」に関し、本件補正発明2の「当該無効電流値Iqは、当該モーターが発生させなければならないトルク定数によって確定され、当該直流電流値Idが、式【数2】Id=Iq/tan(kt)により当該処理手段によって計算され」との記載から、本件補正発明2において、「無効電流値Iq」及び「直流電流値Id」は、モーターに流れる実際の電流値から確定(計算)される値(実測値)を意味するのではなく、「モーターが発生させなければならないトルク定数(好ましいトルク)」によって確定(計算)される値(指令値)を意味すると認められる。さらに、本件明細書の段落【0008】の「ベクトル制御においては、直流電流が磁束電流とみなされ、無効電流が電機子電流に対応する。」との記載から、本件補正発明2において、「無効電流値Iq」は電機子電流に対応し、「直流電流値Id」は磁束電流に対応すると認められる。 そして、ベクトル制御の分野において、q軸電流は電機子電流に対応し、d軸電流は磁束電流に対応することは当業者における技術常識であることから、引用発明の「q軸電流指令Iq」は本件補正発明2の「無効電流値Iq」に相当し、以下同様に、「d軸電流指令Id」は「直流電流値Id」に相当する。 c.引用発明のPWM電力変換器2に関し、PWM電力変換器2からIPMモータ1に電力を供給することによりIPMモータ1を駆動していることは明らかであることから、引用発明の「IPMモータ1を駆動するPWM電力変換器2と」と本件補正発明2の「モーターに電力を供給する少なくとも一つのインバータ」とは、「モーターに電力を供給する少なくとも一つの電力変換器」の点で共通する。 d.本件明細書の「電力電流を、直流電流および無効電流として知られている二つの要素に分離することができる。」(段落【0007】)及び「電力電流ベクトルは直流電流Idのベクトルと無効電流Iqのベクトルとに分けられるので」(段落【0043】)等の記載から、本件補正発明2において、「電力電流」は、電力及び電流を意味するのではなく、電力としての電流、すなわち電流を意味するものと認められる。 そして、引用発明の制御装置は、PWM制御信号を出力するPWM制御部4に電流制御信号を出力することにより、IPMモータ1への電流の供給を制御しており、PWM制御部4を介してPWM電力変換器2に作用していることは明らかであることから、引用発明の「PWM電力変換器2にPWM制御信号を出力するPWM制御部4に電流制御信号を出力する制御装置」と本件補正発明2の「当該モーターへの電力電流の供給を制御するために当該インバータに作用する処理手段」とは、「当該モーターへの電力電流の供給を制御するために当該電力変換器に作用する処理手段」の点で共通する。 e.引用発明の「φ」は、d軸と電流指令Icとの間の電気角であることから、「φ」は電流ベクトルの位相であるといえる。 また、引用発明の「φ」は、IPMモータ1の速度が予め定めた低速領域にあるときにはトルク定数が最大になるように一定とされていることから、IPMモータ1のトルク定数に従属する電流ベクトルの位相であるといえる。 してみると、引用発明の「φ」は、本件補正発明2のモーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相である「kt」に相当する。 f.引用発明は、「トルク指令Tc」と「φ」とにより、d軸電流指令Id、q軸電流指令Iqを算出していることから、引用発明の「前記制御装置は、IPMモータの回転速度と速度指令ωmcとの速度偏差に基いてd軸電流指令Id及びq軸電流指令Iqを作成する速度制御部6を備え、前記速度制御部6は速度検出器61と、速度制御器62と、電流指令演算器63と、リミッタ64と、q軸電流指令演算器65と、絶対値化器66と、d軸電流指令演算器67とから構成されており、前記電流指令演算器63は、トルク指令Tcに電流指令換算係数KTIを乗算して電流指令Icを演算し、前記リミッタ64は電流指令Icを一定値にリミットし、前記q軸電流指令演算器65は、リミッタ64から出力された電流指令IcをSINφ倍してq軸電流指令Iqを算出し、前記d軸電流指令演算器67は、絶対値化器66により絶対値化された電流指令IcをCOSφ倍してd軸電流指令Idを算出することにより、d軸電流指令I及びq軸電流指令Iqはそれぞれ、Id=|Ic|・cosφ、Iq=Ic・sinφ、の式(但し、φはd軸と電流指令Icとの間の電気角)により算出され、ここで、IPMモータ1の速度が予め定めた低速領域にあるときにはトルク定数が最大になるようにφを一定とし」と、本件補正発明2の「当該処理手段が、直流電流値Idと無効電流値Iqとによって当該電力電流を計算することができ、当該無効電流値Iqは、当該モーターが発生させなければならないトルク定数によって確定され、当該直流電流値Idが、式【数2】 Id=Iq/tan(kt) により当該処理手段によって計算され、ここで、ktが、当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であり」とは、「当該処理手段が、当該モーターが発生させなければならないトルク定数と当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であるktを用いて、無効電流値Iq、直流電流値Id及び電力電流を計算し」との点で共通する。 g.引用発明の「装置」は、IPMモータ1を可変速制御する装置であることから、引用発明1の「IPMモータ1を可変速制御する装置」と、本件補正発明2の「当該装置は、運転中に回転速度及び位置を検知するセンサーなしの同期リラクタンスモーターを制御するために適用されること」とは、「当該装置は、モーターを制御するために適用される」との点で共通する。 以上のことから、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「モーターに電力を供給する少なくとも一つの電力変換器と、当該モーターへの電力電流の供給を制御するために当該電力変換器に作用する処理手段とを有する、モーターを制御する装置であって、 当該処理手段が、当該モーターが発生させなければならないトルク定数と当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であるktを用いて、無効電流値Iq、直流電流値Id及び電力電流を計算し、 当該装置は、モーターを制御するために適用される、 装置。」 <相違点1> モーターに電力を供給する手段が、本件補正発明2では「インバータ」であるのに対して、引用発明では電力変換器であって、インバータであるか不明な点。 <相違点2> 直流電流値Id、無効電流値Iq及び電力電流の計算に関し、本件補正発明2では「当該処理手段が、直流電流値Idと無効電流値Iqとによって当該電力電流を計算することができ、当該無効電流値Iqは、当該モーターが発生させなければならないトルク定数によって確定され、当該直流電流値Idが、式【数2】 Id=Iq/tan(kt) により当該処理手段によって計算され、ここで、ktが、当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であり」のように計算するものであるのに対して、引用発明では、モーターが発生させなければならないトルク定数とモーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であるktとを用いて、直流電流値Id、無効電流値Iq及び電力電流を計算するものではあるが、直流電流値Id、無効電流値Iq及び電力電流を計算する際の演算順序が異なる点。 <相違点3> 本件補正発明2は「当該装置は、運転中に回転速度及び位置を検知するセンサーなしの同期リラクタンスモーターを制御するために適用され」、且つ、「当該処理手段は、モーターの電圧電源に正弦波電力電圧を付加することによって、回転子の回転速度及び位置を確定するために利用される」のに対して、引用発明は、装置が埋込磁石形同期電動機を制御するために適用されるものであって、IPMモータ1の回転速度及び回転位置θmをエンコーダ3により検出している点。 (ウ-2)判断 <相違点1について> モーターを可変速制御するためのPWM電力変換器としてインバータを用いることは文献を提示するまでもなく慣用技術であることから、引用発明のPWM電力変換器2に前記慣用技術を適用し、上記相違点1における本件補正発明2の構成とすることは当業者が容易に想到し得るものである。 <相違点2について> 本件補正発明2と引用発明は、本件補正発明2は、モーターが発生させなければならないトルク定数(好ましいトルク)から始めに無効電流値Iqを確定して、当該無効電流値Iqとモーターのトルク定数(トルク定数(Kt))が従属する電流ベクトルの位相ktから直流電流値Idを計算し、当該直流電流値Idと当該無効電流値Iqとによって電力電流を計算するものであるのに対し、引用発明は、モーターが発生させなければならないトルク定数(好ましいトルク)から始めに電力電流を算出し、当該電力電流とモーターのトルク定数(トルク定数(Kt))が従属する電流ベクトルの位相ktから無効電流値Iq、直流電流値Idを計算するものである点で相違する。 しかし、モーターが発生させなければならないトルク定数(好ましいトルク)とモーターのトルク定数(トルク定数(Kt))が従属する電流ベクトルの位相ktとを用いて、無効電流値Iq、直流電流値Id及び電力電流を算出するにあたり、どの順序で算出しても、結果として出力されるそれぞれの値は一致するものと考えられ、また、本件補正発明2の演算順序とすることにより引用発明と比較して技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果を奏するものと解することもできないことから、引用発明において、演算の容易さ等に応じて、無効電流値Iq、直流電流値Id及び電力電流の演算順序を適宜変更し、上記相違点2における本件補正発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 <相違点3について> 引用発明の「装置」は、引用文献1の段落【0010】~【0014】に記載されているように、「埋込磁石形同期電動機」の突極性(逆突極性)によるリラクタンストルクを考慮して、埋込磁石形同期電動機を制御するものである。そして、同期リラクタンスモーターが、埋込磁石形同期電動機と同じくリラクタンストルクを利用する突極性を有するモーターであることは当業者における技術常識である。 また、突極性を有するモーターにおいて、運転中に回転速度および位置を検出するセンサーなしにモーターを制御することは周知技術にすぎず(引用文献2~4記載技術参照)、特に、引用文献4には、回転電機駆動用の基本波電圧Vup*,Vvp*,Vwp*に正弦波の位置検出用電圧Vuh,Vvh,Vwhを重畳することによって、回転子位置θpを算出することが記載されている(引用文献4記載技術を参照。)。 引用発明の「装置」の制御対象を、埋込磁石形同期電動機と同じく突極性を有するモーターである同期リラクタンスモーターとすることは当業者が容易に想到し得るものであり、その際に、検出素子の削減等のモーター分野における従来周知の課題を解決するために、上記周知技術を踏まえ、引用発明に上記引用文献4に記載の点を適用することにより、IPMモータ1の回転速度及び回転位置θmをエンコーダ3により検出するのに代えて、モーターの電源電圧に正弦波電力電圧を付加することによって、回転子の回転位置θmを算出し、ロータの回転速度および回転位置を確定することにより、上記相違点3における本件補正発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本件補正発明2が奏する効果も、引用発明、引用文献4記載事項、上記周知技術及び上記慣用技術から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものとはいえない。 したがって、本件補正発明2は、引用発明、引用文献4記載事項、上記周知技術及び上記慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)独立特許要件についてのむすび 以上のとおり、本件補正発明1及び本件補正発明2は明確でないことから、特許法第36条第6項第2号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、また、本件補正発明2は、引用発明、引用文献4記載事項、上記周知技術及び上記慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1.本願 平成30年9月6日にされた手続補正は、前記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年9月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される、前記「第2〔理由〕1.1-1」に記載のとおりのものである 2.当審の拒絶理由の概要 当審において平成30年2月28日付けで通知した最後の拒絶理由の概要は,以下のとおりである。 「1.(新規事項)平成29年9月27日付け手続補正書でした補正は、下記の点で国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては、当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、翻訳文等という。)(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあっては、翻訳文等又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。 2.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 ●理由1(新規事項)について (1)請求項 1-10 補正後の請求項1に「当該電流ベクトルの位相ktは、モーターの運転中にモーターの効率を最大化するために、当該モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度であるとともに、当該モーターのすべての速度において一定の角度である」と記載されており、補正により「電流ベクトルの位相kt」が「モーターのすべての速度において一定の角度である」という構成が追加されたものと認められるが、当該構成の追加は、下記の通り、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、当該補正は新規な事項を追加するものである。 翻訳文等には、ktとモーターの速度との関係は記載されておらず、ktが「モーターのすべての速度において一定の角度である」ことは直接的に記載されていない。 また、翻訳文等において、「モーターのすべての速度」において、kt一定のままで「モーターの効率を最大化」できることは示されておらず、ktを「当該モーターのすべての速度において一定の角度」とした場合に請求項1に係る発明が成立することは記載も示唆もない。 そして、モーターの速度がどのような値をとっても(例えば、モーターの定格性能等により一定のktでは効率を最大化できない場合)、ktを一定の角度にし続けなければならない理由や、積極的な動機は記載されておらず、翻訳文等の記載に基づいて導き出せる事項とも認められない。 請求項1を引用する請求項2-9に係る発明、同様の構成が追加された請求項10に係る発明についても同様のことが言える。 よって、請求項1-10に対する補正は翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。 ●理由2(明確性)について (1)請求項 1-10 (1-1)請求項1に記載された「トルク定数(Kt)」の定義が不明である。 文章による用語の明確な定義か、他のパラメータとの関係式か、あるいは、算出する具体的な手順(~から算出される、といったあいまいな表現ではなく、算出するために必ず用いられるパラメータと、そのパラメータをどのように演算するのかまでを明確にした手順)を、翻訳文等に記載されたことを根拠として記載されたい。 一般的に「トルク定数」という用語は、電機子電流に比例するモーターの出力トルクを求める際に用いられる比例定数をいう(出力トルク=トルク定数×電機子電流。電機子電流は、回転磁界を発生させる無効分電流とトルクを発生させる有効分電流との合成からなる。)が、請求項1に係る発明における「トルク定数(Kt)」は、「電流ベクトルの位相kt」に従属するものとされているから、上記の一般的な定義のトルク定数とは異なるものを指していると推測されるものの、その具体的な内容、意味が不明であり明細書を参照しても理解できない。 (1-2)請求項1に「ktは当該モーターのトルク定数(Kt)が従属する電流ベクトルの位相であり」との定義があるが、「従属する」とはどのような意味か不明である。 電流ベクトル、kt及びトルク定数(Kt)相互の関係を、翻訳文等に記載されたことを根拠とする具体的な関係式で明示されたい。 (1-3)請求項1に記載された「トルク定数(Kt)」と「最大トルク定数Kt」の異同が不明である。 同一であれば表記を統一し(なお、表記の統一のみで上記(1-1),(1-2)の不明点は解消されない)、異なるものであれば、それぞれの定義を明確にして、両者の具体的な関係を明示されたい。 (1-4)請求項1に記載された「当該モーターによって供給されるべき望ましい関連するトルク」と「必要トルク」との異同が不明である。 同一であれば表記を統一し、異なるものであれば、後者の定義と取得方法を明示し、両者の関係を明示されたい。 (1-5)請求項1に「負荷と当該モーターによって供給されるべき望ましい関連するトルクとを設定し」との構成が補正により追加されたが、次の点が不明である。 ・「負荷」は多くの意味を有し、制御技術においても様々な状態や特性を含みうる用語であるが、ここで「設定」される内容が「負荷」に関するどのような事項を指すものか明確でない。 ・狭義では、「負荷」と「当該モーターによって供給されるべき望ましい関連するトルク」とは、所定の関係で連動して変化する値を指す場合があるが、請求項1に記載された両者の定義、関係が不明確であるから、それぞれを個別に設定する技術的意義が明確でない。 ・設定の方法(設定内容を取得する手段、設定内容を制御系に入力する手段)が不明である。 ・設定のタイミング(モーターの運転、制御中にも随時設定され変更されるものか、モーターの運転、制御が開始される前に予め設定されるものか)が不明である。 (1-6)請求項1に「当該モーターに必要トルクを発生させるのに必要な無効電流値Iqを決定し」と記載されているが、当該決定をするために必要なパラメータと演算内容が不明である、翻訳文等を根拠とした具体的な計算式を示されたい。 なお、通常、発生させる一つのトルク値に対応する無効電流値は無数に存在し、必要トルクのみから演算により一意に無効電流値を決定することは不可能であると認められるが、請求項1記載の発明が、どのようにして一意に無効電流値Iqを決定可能とするか不明である。 (上記の不明点は、下記の通り、先の拒絶理由の引用文献1記載の発明に対する請求項1に係る発明の進歩性の有無に関連すると認められる。 先の拒絶理由(平成29年3月21日付け拒絶理由書)で引用した引用文献1(特開2000-341983号公報)に記載されているように、インバーター駆動同期モーターのベクトル制御の分野において、各指令値を求めるために、所望のトルク(「必要トルク」に対応)とモーター固有のトルク定数とから電力電流値を演算し、当該電力電流値と最大トルク効率となる電気角(同「kt」)とからd軸電流値(同「直流電流値Id」)及びq軸電流値(同「無効電流値Iq」)を演算する方法が知られている。 そして、請求項1に係る発明は、「必要トルク」から「無効電流値Iq」を決定する具体的な演算方法が特定されておらず、明細書を参照しても関連する記載は無く、自明な方法であるとも認められないところ、仮に、「必要トルク」から電力電流値を演算し、当該電力電流値から無効電流値Iqを演算し、数式1により直流電流値Idを演算するという方法をとるならば、上記引用文献1記載の演算方法と比較して、 引用文献1 :必要トルク→電力電流値 電力電流値→無効電流値Iq 電力電流値→直流電流値Id 本願請求項1:必要トルク→(電力電流値→)無効電流値Iq 無効電流値Iq→直流電流値Id 無効電流値Iq,直流電流値Id→電力電流値 というように、同一のパラメータと関係式とから、演算順序が一部相違するものの、同一の値(電力電流値,無効電流値Iq,直流電流値Id)を算出するものである蓋然性が高い。また、演算順序についても、初めに無効電流値Iqを決定し、その結果を用いて直流電流値Idを決定する利点や動機は不明であるから、適宜変更可能な設計的事項であって、無効電流値Idを求める演算方法について、両者に技術的思想の創作が必要とされる相違点はない。) (1-7)請求項1に「当該回転子の回転速度及び位置を確定する当該ステップは当該モーターの電圧電源(voltage power)への付加的な正弦波電力電圧(sinusoidal power voltage)の総和を含んでおり」と記載されているが、方法の実行手順や工程などの動作を規定する「ステップ」が、動作ではない「総和」(全体をあわせたもの。総計。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版])を含むという文になっており、日本語として意味が不明であり、当該「ステップ」に「当該回転子の回転速度及び位置を確定する」ためのどのような動作が含まれることを記載したものか明確でない。 請求項1を引用する請求項2-9に係る発明についても同様のことが言える。 よって、請求項1-9に係る発明は明確でない。 (2)請求項2-3,5-6 請求項2に「最大トルク定数Ktを算出する」と記載され、請求項3に「当該最大トルク定数Ktの当該算出ステップが、当該無効電流値Iqと当該直流電流値Idとの一次関数によって得られ、当該一次関数が、電力電流に対するトルク定数の変化を表している」と記載されているが、当該算出方法が不明である。 まず、「無効電流値Iqと当該直流電流値Idとの一次関数」を導出する方法が明確でない。(また、当該「一次関数」の「無効電流値Iq」,「直流電流値Id」は、請求項1に記載の制御方法においても同一の用語が使用されているため、両者を混同して解釈可能であるところ、請求項1では「最大トルク定数Ktに対応する電流ベクトルの位相kt」を用いて「直流電流値Id」を求め、請求項3では「直流電流値Id」を用いて「最大トルク定数Kt」を算出するものとも解釈でき、計算手順が循環して「直流電流値Id」,「最大トルク定数Kt」を算出できない。) 次に、「最大トルク定数Kt」を「一次関数」によって得る方法が明確でない。 また、「当該一次関数が、電力電流に対するトルク定数の変化を表している」とあるが、一次関数は2変数間の関係を表したものであって、ここでは「無効電流値Iq」と「直流電流値Id」との関係を表す関数であると認められるが、ここに「トルク定数」がどのように関わるものか明確でない。 (明細書【0043】には、「電流に関するトルク最大化点を定める一つの関数が決定される。」「前記の決定される関数は、これら二つの電流の関数として表すことができる。」「この関数は、傾きがモータ仕様の関数として変化する直線で近似することができる。」とあり、請求項2-3記載の算出方法に関連する記載と推測される。しかし、請求項2-3の記載内容は、明細書【0043】の記載内容を表しているように読解できない。なお、明細書【0043】の記載を倣っても、「最大トルク係数Kt」との用語が何を指しているか不明であるから、その算出方法が明確になるとは限らない。) 上記不明点を解消できる、各パラメータの明確な定義及び相互の関係式か、用いるパラメータ、式、手順等を省略しない具体的な算出手順を翻訳文等に記載されたことを根拠として明示されたい。 請求項2-3を引用する請求項5-6についても同様のことが言える。 したがって、請求項2-3,5-6に係る発明は明確でない。 (3)請求項4-6 請求項4に「電流ベクトルの位相ktを決定する」と記載されているが、具体的にどのように決定するものか不明である。 翻訳文等に記載されたことを根拠とする省略の無い具体的な導出手順を明示されたい。 請求項4を引用する請求項5-6についても同様のことが言える。 したがって、請求項4-6に係る発明は明確でない。 (4)請求項7-9 請求項7-9に「電力電圧~に関する変数を有する」という表現がそれぞれ記載されているが、それぞれ電力電圧についての何を表した式の変数であるのか、当該変数の変化が電力電圧の何を変化させるものか不明である。 両者の関係を翻訳文等に記載されたことを根拠とする具体的な関係式で明示されたい。 よって、請求項7-9に係る発明は明確でない。 (5)請求項9 請求項9に「当該付加電力電圧は当該モーターの負荷について当該モーターが必要とするトルクに関する変数を有し、そして、変数は普段のあるいは準普段の計算技術(a casual or pseudo casual calculating technique)によって決定される」と記載されているが、「普段のあるいは準普段の計算技術」が、具体的にどのような計算を行うものか不明であり、「変数」の決定において、当該技術がどのように適用されるものか不明であるから「変数」を決定する方法が不明である。 よって、請求項9に係る発明は明確でない。 (6)請求項10 (6-1)請求項10に「当該無効電流Iqが、当該モーターが発生させなければならないトルク定数によって決定」、「ここで、ktが、当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であり、」と記載されており、前者の「トルク定数」と後者の「トルク定数」とを同一のものと解釈すると、当該請求項に記載された構成は技術的に意味が不明である。 (請求項1や明細書の記載事項を勘案すると、前者の「トルク定数」は「必要トルク」であり、後者の「トルク定数」は「トルク定数(Kt)」である蓋然性が高いものと認められる。) 異なるものを指す場合は、異なる用語を用いて、各用語の定義を明確(上記(1)に記載した事項についても明確となるように)にされたい。 (6-2)請求項10記載の「ktが当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であり」との記載について、(1-2)を参照されたい。 (6-3)請求項10の「モーターが発生させなければならないトルク定数」の値を特定する具体的な方法が不明である。 (6-4)請求項10の「当該無効電流Iqが、当該モーターが発生させなければならないトルク定数によって決定され」との記載について、(1-6)を参照されたい。 よって、請求項10に係る発明は明確でない。 なお、補正後の請求項1-10に係る発明は、上記理由1の新規事項追加、理由2の明確性の欠如によって新規性・進歩性の判断をすることができなかったため、上記の理由1,2が解消されたとしても、先の拒絶理由通知に記載した進歩性を否定する拒絶の理由が解消されるとは限らない。 」 3.最後の拒絶理由に対する当審の判断 (1)新規事項について ア.平成29年9月27日にされた手続補正は、補正後の請求項1に「当該電流ベクトルの位相ktは、モーターの運転中にモーターの効率を最大化するために、当該モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度であるとともに、当該モーターのすべての速度において一定の角度である」との発明特定事項を含める補正を含むものである。 上記補正が、国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、「翻訳文等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものか否かを以下に検討する。 イ.翻訳文等において、電流ベクトルの位相ktとモーターの速度との関係を直接的に記載した箇所はないことから、翻訳文等には、モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度である「電流ベクトルの位相kt」が「モーターのすべての速度において一定の角度である」ことは直接的には記載されていない。 また、翻訳文等には、電流ベクトルの位相kt、モーターの最大トルク定数Kt、モーターの速度の関係について直接的な記載はないが、関連する記載として以下の記載がある。 a.「【0022】 本発明の一つの側面においては、モーターのトルク値は、任意の負荷条件で得ることができるものであり、最大トルク値曲線を得るためにモーターの特性が直流電流Idおよび無効電流Iqの関数として決定される、特定ステップで決定される最大トルク値である。 【0023】 したがって、無効電流Iqの関数としての直流電流Idの変化が、最大可能トルク値に関係づけられる。すなわち、モーターに供給される電力電流の最適値が最大トルク値に関係づけられる。これにより、最大モーター効率が与えられる。」 b.「【0041】 本発明のもう一つの側面においては、モーターのトルク値Ktが可能な最大値を有する。これにより、またモーター効率を最大にすることができる。直流電流Idと無効電流Iqとは、生成されるベクトルが可能な最大トルク値Ktに対応する一定の角を有するような値を持つので、運転時のモーター効率を必要に応じて最大化することができる。 【0042】 いずれの場合にも、トルク値Ktはモーターに固有のパラメータであり、通常、特別な計算ステップにおいて決定される。 【0043】 たとえば、モーターへの電力電流を絶対値一定の回転ベクトルと考えると、最大トルクが生成される点は、そのような電流ベクトルの円形経路に沿って見出すことができる。電流絶対値が増大すると、電流に関するトルク最大化点を定める一つの関数が決定される。電力電流ベクトルは直流電流Idのベクトルと無効電流Iqのベクトルとに分けられるので、前記の決定される関数は、これら二つの電流の関数として表すことができる。一例を図2に見ることができる。たとえば、同期リラクタンスモーターの場合、この関数は、傾きがモーター仕様の関数として変化する曲線で近似することができる。」 c.「【0045】 本発明のもう一つの側面においては、この制御方法は、直流電流Idを調節する少なくとも一つのステップを含み、これを図3に番号5で示す。 【0046】 第一の調節例においては、電力電流の決定に使用される直流電流Idは、所定の閾値よりも大きな値の場合、前記式によって決定された直流電流値Idに等しく、また決定された直流電流Idがこの閾値よりも小さい場合には、前記所定の閾値に等しい。 【0047】 言い換えると、直流電流Idは、それ以上減少しない下限すなわち最小許容値を有し、この値は所定の閾値に等しい。 【0048】 これにより、モーターが最小のトルクを与える必要があるときに、モーターの完全消磁が避けられ、最小負荷の場合でもモーター制御が確保される。トルク値Ktに関係する前記関数が一般に線形でない、低電流運転領域も近似することができる。 【0049】 試験的実験によれば、最適閾値は、モーター磁化磁束をその公称値の約60%とすることのできる値であることがわかった。」 まず、翻訳文等には「トルク値」という用語は記載されているが、「トルク定数」という用語は記載されていない。 ここで、上記b.及び図2には、同期リラクタンスモーターの場合には、モーターの最大トルク値Ktに対応する角度(電流ベクトル位相)は、電流絶対値の増大に応じて曲線で変化することが記載されているといえる。そして、電流絶対値が変化するとモーターの速度も変化することから、モーターの速度が変化した場合には、電流絶対値が変化し、モーターの最大トルク値Ktに対応する角度である電流ベクトル位相ktもまた曲線に応じて変化することになる。したがって、「最大トルク値」が「最大トルク定数」に対応すると仮定したとしても、モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度である「電流ベクトルの位相kt」が「モーターのすべての速度において一定の角度である」ことは、上記b.及び図2の記載からみて明らかな事項であるとはいえない。 また、上記a.には「モーターのトルク値は、任意の負荷条件で得ることができるものであり、最大トルク値曲線を得るためにモーターの特性が直流電流Idおよび無効電流Iqの関数として決定される」(段落【0022】)との記載はあるが、「トルク値」が「トルク定数」に対応すると仮定したとしても、モーターの最大トルク定数Ktと直流電流Idおよび無効電流Iqの関数との関係に関する記載はないことから、モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度である「電流ベクトルの位相kt」が「モーターのすべての速度において一定の角度である」ことは、上記a.の記載からみて明らかな事項であるともいえない。 さらに、上記c.には「トルク値Ktに関係する前記関数が一般に線形でない、低電流運転領域も近似することができる。」(段落【0048】)との記載があり、トルク値Ktに関係する(電流に関するトルク最大化点を定める一つの)関数が線形でない低電流運転領域においても近似できることが記載されてはいるものの、前記関数をどのように近似するのかについて記載されておらず、段落【0043】に記載されているように曲線で近似するのであれば、先に述べたように、モーターの最大トルク値Ktに対応する角度である「電流ベクトルの位相kt」は、モーターの速度変化に応じて変化することは明らかである。よって、「トルク値」が「トルク定数」に対応すると仮定したとしても、モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度である「電流ベクトルの位相kt」が「モーターのすべての速度において一定の角度である」ことは、上記c.の記載からみて明らかな事項であるともいえない。 ウ.請求人は、平成30年9月6日における意見書の「3.拒絶理由1(新規事項)」において、「審判官殿が「補正によって電流ベクトルの位相ktがモーターのすべての速度において一定の角度であるという構成が追加されたものと認められる」((1-1-1)参照)と指摘されている。しかしながら、この補正は当初明細書0022欄及び0023欄の記載に基づくものであり、当該補正は新規事項の追加に当たらないと出願人は思料する。」と主張し、翻訳文等の段落【0022】~【0023】(上記a.参照)を補正の根拠としている。しかしながら、上述したように、段落【0022】~【0023】には、モーターの最大トルク定数Ktと直流電流Idおよび無効電流Iqの関数との関係に関する記載はなく、モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度である「電流ベクトルの位相kt」が「モーターのすべての速度において一定の角度である」ことが、上記段落【0022】~【0023】に明示されているとはいえず、上記段落【0022】~【0023】の記載からみて明らかな事項であるともいえない。 よって、請求人の上記主張を採用することはできない。 エ.以上より、「当該電流ベクトルの位相ktは、モーターの運転中にモーターの効率を最大化するために、当該モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度であるとともに、当該モーターのすべての速度において一定の角度である」とする補正は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものと認めることができない。 したがって、平成29年9月27日にされた手続補正のうち請求項1についてする上記補正については、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。 オ.平成29年9月27日にされた手続補正は、補正後の請求項10に「当該電流ベクトルの位相ktはモーターの速度にかかわらず一定の角度であり、かつ、モーターの運転時にモーターの効率を最大化するために、モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度である」との発明特定事項を含める補正を含むものであるが、上記ア.(ア)~(エ)と同様の理由により、補正後の請求項10における上記補正についても、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。 カ.よって、補正後の請求項1及び補正後の請求項10における当該補正は、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 キ.なお、翻訳文等における「たとえば、同期リラクタンスモーターの場合、この関数は、傾きがモーター仕様の関数として変化する曲線で近似することができる。」(【0043】)との記載は、平成27年9月15日提出の手続補正書において、「たとえば、同期リラクタンスモーターの場合、この関数は、傾きがモーター仕様の関数として変化する直線で近似することができる。」(下線は当審で付した。)と補正されていることから、翻訳文等の段落【0013】に「たとえば、同期リラクタンスモーターの場合、この関数は、傾きがモーター仕様の関数として変化する直線で近似することができる。」が記載されていたと仮定し、請求項1における上記補正が翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものか否かも併せて検討する。 「この関数は、傾きがモーター仕様の関数として変化する直線で近似することができる」の「直線で近似」に関し、関数の傾きをどのような直線で近似するのか翻訳文等には記載されておらず、例えば、図2に例示される電流の関数においては、どの電流領域における傾きに近似させるかによって多様な直線近似が考えられる。そして、モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度である「電流ベクトルの位相kt」が「モーターのすべての速度において一定の角度である」ためには、例えば、図2に例示される電流の関数において、少なくとも当該関数を原点を通る直線に近似する必要があると解されるが、上述したように「直線で近似」には多様な近似が考えられ、また、モーター分野において、「直線で近似」が原点を通る直線に近似することを意味することが技術常識であると解することもできないことから、モーターの最大トルク定数Ktに対応する角度である「電流ベクトルの位相kt」が「モーターのすべての速度において一定の角度である」ことは、翻訳文等のいずれにも明示されておらず、翻訳文等の記載からみて明らかな事項であるとはいえない。 したがって、仮に翻訳文等に「たとえば、同期リラクタンスモーターの場合、この関数は、傾きがモーター仕様の関数として変化する直線で近似することができる。」が記載されていたとしても、補正後の請求項1及び補正後の請求項10における当該補正は、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとの判断が変わるものではない。 (2)特許法第36条第6項第2号について ア.請求項1の「-負荷と当該モーターによって供給されるべき望ましい関連するトルクとを設定し、-当該モーターに必要トルクを発生させるのに必要な無効電流値Iqを決定し」との記載における「当該モーターによって供給されるべき望ましい関連するトルク」及び「必要トルク」の用語の意味に関し、通常、異なる用語はその意味も異なるものと解されるが、本件の明細書等には「モーターによって供給されるべき望ましい関連するトルク」との用語は記載されておらず、また、「必要トルク」の用語の定義も示されていないことから、「当該モーターによって供給されるべき望ましい関連するトルク」と「必要トルク」との意味の違いが明確でない。 請求人は、平成30年9月6日における意見書の「4.拒絶理由2(明確性)」において、「(4-1-4)「モーターによって提供される所望の関連するトルク」と「所望のトルク」は同一である。」と主張しているが、上述したように、異なる用語であればその意味も異なると解するのが通常であることから、当該請求人の主張を採用することはできない。 イ.請求項1に「当該回転子の回転速度及び位置を確定する当該ステップは当該モーターの電圧電源(voltage power)への付加的な正弦波電力電圧(sinusoidal power voltage)の総和を含んでおり」と記載されているが、方法の実行手順や工程などの動作を規定する「ステップ」が、動作ではない「総和」(全体をあわせたもの。総計。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版])を含むという文になっており、日本語として意味が不明であり、当該「ステップ」に「当該回転子の回転速度及び位置を確定する」ためのどのような動作が含まれるか明確でない。 ウ.請求項10に「当該無効電流Iqが、当該モーターが発生させなければならないトルク定数によって決定」及び「ktが、当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であり」と記載されており、前者の「トルク定数」と後者の「トルク定数」の用語の意味が不明である。 前者の「トルク定数」も後者の「トルク定数」も同一の用語を用いていることからその用語の意味も同一であると解されるが、「トルク定数」という用語は、一般的に、電機子電流に比例するモーターの出力トルクを求める際に用いられる比例定数をいうものであり、また、本件の明細書等において「トルク定数」の用語に対する特段の定義もなされていないことから、本願において「トルク定数」は前記通常の用語の意味で解釈すべきものであって、そうすると、後者の「ktが、当該モーターのトルク定数が従属する電流ベクトルの位相であり」との記載に関しては明確であるものの、前者の「当該無効電流値Iqは、当該モーターが発生させなければならないトルク定数によって確定され」との記載に関しては、「モーターが発生させなければならないトルク定数」とはどのようなトルク定数を意味するのか不明である。 請求人は、平成30年9月6日における意見書の「4.拒絶理由2(明確性)」において、「(4-6)請求項10(新請求項8)に関して、審判官殿が求めている、明確性への適切な応答が、前記のパラグラフで見出すことができる。しかし、新請求項8の前提部分における、最初の「トルク定数」はモーターが生成しなければならない、「好ましいトルク」と読まなければならず、他方、2番目の「トルク定数」は審判官殿が示唆している「トルク定数(Kt)」である。このように、新請求項8は補正されている。」と主張しているが、同一の用語は同一の意味と解されることから、同一の用語について異なる意味を有すると主張する請求人の主張は採用できない。 エ.よって、本願は、特許請求の範囲の記載が上記ア.~ウ.の点で不備であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 4.むすび 以上のとおり、平成29年9月27日に提出された手続補正書による補正は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2016-008200

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