特許拒絶査定不服審判
2016-006079
自己供給型未来エフェメリスおよびクロック予測を備えた衛星航法受信機
- 審判番号
- 2016-006079
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-174216外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年04月25日
- 審決日
- 2017年06月26日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】古野電気株式会社
- 【請求人代理人】大洞 正嗣
- 【請求人】イーライド,インク.
- 【請求人代理人】大洞 正嗣
- 分類
- P18 .121-WY (G01S) / P18 .537-WY (G01S) / P18 .574-WY (G01S)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011-174216「自己供給型未来エフェメリスおよびクロック予測を備えた衛星航法受信機」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月15日出願公開、特開2012- 53041、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成23年8月9日の出願であって、平成27年3月25日付けで拒絶理由が通知され、平成27年7月14日付けで手続補正がなされたが、平成28年1月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年4月25日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされ、当審において平成29年1月26日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成29年3月1日付けで手続補正(以下、「本件補正」)という。)がなされたものである。
なお、本願について、パリ条約による優先権主張は認められない。
第2 本件補正について
本件補正は、特許請求の範囲についてするもので、当審における、平成29年1月26日付けの最後の拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項について、本件補正前の特許請求の範囲(平成28年4月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲)の請求項4に、
「【請求項4】
前記軌道積分アルゴリズム・プログラム・コードが・・・備える請求項2または3記載の拡張エフェメリス航法受信機。」
とあったところを、
「【請求項4】
前記軌道積分アルゴリズム・プログラム・コードが・・・備える請求項2記載の拡張エフェメリス航法受信機。」
と補正するものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号(明瞭でない記載の釈明)に掲げる事項を目的とするものに該当する。
また、本件補正は、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合する。
第3 本願発明
上記のとおり、本件補正は適法であるので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
軌道上のナビゲーション・システム衛星からマイクロ波伝送を受信し、それらのナビゲーション・システム衛星用のエフェメリスを含んだ航法メッセージを復調することが可能な完全自律型の衛星航法受信機を備えた拡張エフェメリス航法受信機において、
特定の衛星ビークル(SV)に作用する加速度の力モデルを備え、該力モデルは、前記受信機にのみ配置され、各SVに対するエフェメリスについての単一の観測が、入力され、その対応する力モデルで各SVの軌道位置を積分することによって各SVの軌道位置が今後何日かに伝搬され、
それぞれのSVからの前記航法メッセージを直ちに得て復調することができない場合、完全自律型の衛星航法受信機は、その後、完全自律型の衛星航法受信機で利用可能となる、代替物として使用することができる拡張エフェメリス予測値を有する拡張エフェメリス航法受信機。
【請求項2】
前記完全自律型の衛星航法受信機に配置された機能制限付きマイクロコンピュータと、
該機能制限付きマイクロコンピュータ上で実行され、比較的僅かな演算努力で常微分方程式(ODE)に対する高精度な数値解を得るために、リチャードソン外挿法と、該リチャードソン外挿法の活用において有理関数外挿法を使用することと、中点法とを組み合わせたBulirsch-Stoer型アルゴリズムを使用することによって、このようなBulirsch-Stoer型アルゴリズムを使用しなければ生じ得る演算負荷を低減する軌道積分アルゴリズム・プログラム・コードとをさらに備え、
前記Bulirsch-Stoer型アルゴリズムは、2ステップだけを各々の積分サンプリング期間に対して行い、前記力モデルの加速度は、各サンプリング期間で2回だけ演算を行うことによって、従来のBulirsch-Stoer法の外挿法ステージの介在物は不必要とされる請求項1記載の拡張エフェメリス航法受信機。
【請求項3】
前記完全自律型の衛星航法受信機に配置された機能制限付きマイクロコンピュータと、
該機能制限付きマイクロコンピュータ上で実行され、地球中心・地球固定(ECEF)座標系における一連のX-Y-Z型SV位置サンプルに最も良く適合するエフェメリス・パラメータと等価な、
【数5】
における15個のケプラー・パラメータの推定値を演算するケプラー解法プログラム・コードとをさらに備え、
前記エフェメリス・パラメータは、ローカル・メモリにおけるコンパクトな記憶を可能にした長期コンパクト衛星モデル(LTCSM)として保存され、位置fixを演算する際には、前記機能制限付きマイクロコンピュータが今後の何日かの15個のケプラー・パラメータの推定値の演算を要しない請求項1または2記載の拡張エフェメリス航法受信機。
【請求項4】
前記軌道積分アルゴリズム・プログラム・コードが前記機能制限付きマイクロコンピュータ上での実行をスケジュールされる際に管理し、前記実行を最優先またはその他の処理の空き時間で行ない、電力を抑えるべく前記受信機のハードウェアの様々な部分に供給される動作電力を制御するスケジューラをさらに備える請求項2記載の拡張エフェメリス航法受信機。
【請求項5】
前記完全自律型の衛星航法受信機に配置された機能制限付きマイクロコンピュータと、
該機能制限付きマイクロコンピュータによって実行される座標変換プログラム・コードとをさらに備え、
2つの座標系が軌道積分演算に使用され、
ECEFから国際天文基準座標系(ICRF)へのおよびICRFからECEFへの座標変換は、4つの四元数回転と、地球方位パラメータ(EOP)に基づく極運動回転四元数とを含んでいる請求項2乃至4記載の拡張エフェメリス航法受信機。
【請求項6】
前記極運動回転四元数に対する最新のEOP正弦関数の多項式を取得し、使用する装置をさらに備える請求項5記載の拡張エフェメリス航法受信機。
【請求項7】
軌道上のナビゲーション・システム衛星からマイクロ波伝送を受信し、それらのナビゲーション・システム衛星用のエフェメリスを含んだ航法メッセージを復調することが可能な完全自律型の衛星航法受信機と、
前記完全自律型の衛星航法受信機に配置された機能制限付きマイクロコンピュータとを備えた拡張エフェメリス航法受信機において、
特定の衛星ビークル(SV)に作用する加速度の力モデルであって、該力モデルが、前記受信機にのみ配置され、各SVに対するエフェメリスについての単一の観測が、入力され、その対応する力モデルで各SVの軌道位置を積分することによって各SVの軌道位置が今後何日かに伝搬されることと、
前記機能制限付きマイクロコンピュータ上で実行され、比較的僅かな演算努力で常微分方程式(ODE)に対する高精度な数値解を得るために、リチャードソン外挿法と、該リチャードソン外挿法の活用において有理関数外挿法を使用することと、中点法とを組み合わせたBulirsch-Stoer型アルゴリズムを使用することによって、このようなBulirsch-Stoer型アルゴリズムを使用しなければ生じ得る演算負荷を低減する軌道積分アルゴリズム・プログラム・コードと、
該機能制限付きマイクロコンピュータ上で実行され、地球中心・地球固定(ECEF)座標系における一連のX-Y-Z型SV位置サンプルに最も良く適合するエフェメリス・パラメータと等価な、
【数6】
における15個のケプラー・パラメータの推定値を演算するケプラー解法プログラム・コードと、
前記機能制限付きマイクロコンピュータによって実行される座標変換プログラム・コードと、
前記軌道積分アルゴリズム・プログラム・コードが前記機能制限付きマイクロコンピュータ上での実行をスケジュールされる際に管理し、前記実行を最優先またはその他の処理の空き時間で行ない、電力を抑えるべく前記受信機のハードウェアの様々な部分に供給される動作電力を制御するスケジューラと、
極運動回転四元数に対する最新のEOP正弦関数の多項式を取得し、使用する装置とを備え、
それぞれのSVからの前記航法メッセージを直ちに得て復調することができない場合、完全自律型の衛星航法受信機は、その後、完全自律型の衛星航法受信機で利用可能となる、代替物として使用することができる拡張エフェメリス予測値を有し、
前記Bulirsch-Stoer型アルゴリズムは、2ステップだけを各々の積分サンプリング期間に対して行い、前記力モデルの加速度は、各サンプリング期間で2回だけ演算を行うことによって、従来のBulirsch-Stoer法の外挿法ステージの介在物は不必要とされ、
前記エフェメリス・パラメータは、ローカル・メモリにおけるコンパクトな記憶を可能にした長期コンパクト衛星モデル(LTCSM)として保存され、位置fixを演算する際には、前記機能制限付きマイクロコンピュータによる今後の何日かの15個のケプラー・パラメータの推定値の演算を単純化し、
2つの座標系が軌道積分演算に使用され、ECEFから国際天文基準座標系(ICRF)へのおよびICRFからECEFへの座標変換は、4つの四元数回転と、地球方位パラメータ(EOP)に基づく前記極運動回転四元数とを含んでいる拡張エフェメリス航法受信機。」
第4 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、次のとおりである。
理由1
(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由2
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1について
請求項4には「前記軌道積分アルゴリズム・プログラム・コード」と記載されているが、請求項4が請求項2を引用しない場合(請求項1-請求項3-請求項4の従属系列の場合)、それ以前には「軌道積分アルゴリズム・プログラム・コード」という記載が存在しないため、「前記」とは何を指しているのかが明確でない。
●理由2について
・請求項1-7
引用文献1、2
備考:
文献1の【0021】、【0042】-【0045】、【図2】等には、受信機内で運動方程式を数値積分することにより将来のエフェメリスを予測することが記載されている。
ここで、実際にエフェメリスが得られる場合には、予測したエフェメリスよりも実際に得たエフェメリスを優先して使用し、得られない場合にのみ予測したエフェメリスを使用することは、エフェメリスの精度の観点から当業者が容易に想到し得ることである。
また、Bulirsch-Stoer型アルゴリズムによる軌道積分については例示するまでもなく周知技術であり(本願明細書の【0035】においてもそのように記載されているといえる)、15個のケプラー・パラメータを演算することについても、例えば文献2の【0020】等に記載されているように周知技術である。
引 用 文 献 等 一 覧
1.特表2008-513738号公報
2.特表2004-529032号公報
第5 原査定の理由の判断
1 理由1について
本件補正により、請求項4は、請求項2のみを引用する請求項となったから、理由1は解消した。
2 理由2について
(1)引用例の記載等
(引用例1)
原査定の理由2に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である、特表2008-513738号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【技術分野】
【0001】
開示される実施形態は、衛星測位システム及び方法に関する。より詳細には、放送形態の軌道暦(ephemeris)情報を使用しない位置の決定に関する。」
「【0021】
当業者には、用語「軌道暦(ephemeris)」が厳密な意味で使用されていることが理解されよう。GPS技術においては、GPS衛星によるケプラーパラメータの送信を「放送軌道暦(broadcast ephemeris)」と呼ぶことが慣例であるが、ケプラーパラメータは、「真の」衛星の軌道暦ではなく、衛星の軌道暦から導き出されたパラメータである。GPS衛星からのケプラーパラメータの従来の送信を「放送軌道暦」と呼ぶことは、GPS技術において確固として定着した慣行であり、単に衛星の軌道暦から導き出されたケプラーパラメータなどのパラメータとの混乱を回避するよう、サーバ120による数値積分法の結果を「予測された衛星状態」と呼ぶ。この点において、クライアントデバイス110による衛星状態情報の予測もまた、「真の」軌道暦の予測である。しかし、この予測情報をケプラーパラメータなどのパラメータと区別するために、クライアントデバイス110からの予測を「再構築された衛星状態」情報と表す。」
「【0023】
再びデータベース130について言及すると、データベース130の履歴軌道又は状態データは、主に、衛星軌道の履歴位置状態ベクトルと衛星クロックバイアスとを含むが、他の情報も含み得る。より具体的には、履歴状態データは、衛星位置状態ベクトル、衛星速度状態ベクトル、衛星クロックバイアス、及び衛星クロック速度誤差の、少なくとも1つ又はいくつかの組合せを含む。データベース130は、サーバシステム120の1構成要素でもよく、独立のサーバ又はシステムでもよい。さらに、データベース130は、このような履歴情報の適切なプロバイダのデータベースでもよい。履歴衛星情報が受信されるプロバイダの一例に、国際GPS機構(IGS)がある。代替形態として、履歴衛星データは、サーバ120の構成要素によって作成され、提供される。」
「【0041】
本明細書に記述したデバイス及び方法は、将来の衛星状態の正確な予測を使用することにより、放送軌道暦データなしで、長い時間帯に亘って正確なナビゲーション解を作成するのに用いられる。予測は、正確な衛星状態、及び過去の衛星状態のデータから導き出された力のモデルを使用して作成される。モデルを作成するために過去の衛星状態を使用することにより、上述したように、衛星に作用する力のよりよい説明となる、より正確なモデルが作成される。より高い精度のモデルを使用することにより、比較的より低い精度のモデルによって導入される伝播誤差が減少する。これはまた、軌道暦情報において使用される衛星軌道のための準ケプラーパラメータに関連する曲線の当てはめ誤差を減少させることを補助する。力のモデルに適合するパラメータを識別すると、将来の時間の衛星状態の予測が、高忠実度の衛星の動的運動モデルを使用して作成される。
【0042】
上述したように、サーバ120上に採用される処理機能は、代替形態として、代替実施形態のクライアントデバイス110によっても採用され得る。図2は、代替実施形態における、現在の軌道暦データを使用せずに位置情報を提供するクライアントデバイス210を備えたシステム200を示すブロック図である。システム200は、GPS衛星190からGPS信号192を介して情報を受信するクライアントデバイス210を含む。クライアントデバイス210はまた、少なくとも1つのリンク232を介して、過去のGPS衛星軌道に関するデータを要求及び/又は受信するよう、1つまたはそれ以上のデータベース130と通信する。クライアントデバイス210とデータベース130との間のリンク232は、無線接続及び/又は有線接続の少なくとも1つを含む。代替実施形態のリンク232は、1つまたはそれ以上のネットワークタイプを有する1つまたはそれ以上のネットワーク(図示せず)を含み得る。
【0043】
一実施形態のクライアントデバイス210は、GPSシステム203と、通信システム204と、プロセッサ205と、メモリ206と、予測ジェネレータ207の少なくとも1つを含むいくつかのシステムを備え、これらのすべてが、自律的に又はプロセッサの制御によって動作する。GPSシステム203は、上述したように、GPS信号192を介して見える視野内のGPS衛星190から情報を受信する受信機を含む。通信システム204は、クライアントデバイス210とデータベース130との間の通信をサポートするために、任意の数の有線/無線通信チャネルと同調する構成要素と、他の通信デバイスとを含む。一例として、通信システム204は、とりわけ、携帯電話通信と、無線周波数(RF)通信と、アナログ通信と、ディジタル通信との少なくとも1つを提供する構成要素を含む。
【0044】
予測ジェネレータ207の構成要素は、データベース130から受信された履歴情報を使用して、将来の時間帯に亘ってすべてのGPS衛星190の状態を連続的に予測する。予測ジェネレータ207は、パラメータを衛星190の過去の軌道データからの衛星に対する力のモデルに適合させ、次いで衛星の動的運動についての方程式の数値積分法においてこれらの適合されたパラメータを使用することにより、予測を作成するが、これに制限されるものではない。代替実施形態においては、クライアントデバイス210は、衛星の予測を一組の短縮パラメータに局所的に圧縮し得る。これらのパラメータは、局所的に格納される。衛星状態ベクトルは、後に、これらの局所的に格納されたパラメータから再構築される。
【0045】
クライアントデバイス210は、長い時間帯に亘って放送軌道暦データを使用せずに、その位置を自動的に決定する。動作中、通信システム204は、データベース130から通信リンク232を介して履歴情報を受信する。履歴情報は、クライアントデバイス210から、データベース130によるデータ送信から、及び/又はデータベース130とのネットワーク接続を介して、適切な要求に応答して受信されるが、これらに制限されるものではない。予測ジェネレータ207は、履歴情報を使用して、将来の時間帯に亘ってすべてのGPS衛星190の状態を連続的に予測する。代替実施形態においては、所定の時間に、予測ジェネレータ207が、すべての衛星の将来の状態を予測し、その結果をパラメータとして格納し得る。別の実施形態においては、パラメータは圧縮形式で格納され得る。クライアントデバイス210の様々な構成要素は、その後、予測された衛星軌道又はパラメータを使用して、ナビゲーション解において必要な適切な時間に衛星状態を作成する。予測された衛星軌道は、約1暦週の期間に亘って有効である。」
「【0050】
上述したシステムの実施形態は、放送軌道暦データを使用せずに、少なくとも7暦日の長い期間に及ぶデバイスによる位置決定をサポートするよう衛星状態についての予測情報を使用する、プロセッサベースのクライアントデバイスを含む。図5は、一実施形態における、放送軌道暦データなしで位置情報を決定する際に使用するためのクライアントデバイスにおいて予測された衛星状態を作成するためのフローチャート500である。ブロック502で、動作中、プロセッサベースのクライアントデバイスは、少なくとも1つのデータストリームを受信する。データストリームは、将来の時間帯に及ぶ予測された衛星状態の情報を表す1つまたはそれ以上の組の圧縮パラメータを含む。代替実施形態のデータストリームは、追加情報を含み得る。
【0051】
ブロック504で、クライアントデバイスは、受信された複数組のパラメータを使用して衛星状態を選択的に再構築する。代替実施形態における衛星状態の選択的再構築は、現在の軌道暦データがないことを検出したことに応答して遂行される。さらに別の代替実施形態においては、選択的再構築は、クライアントデバイスが動作しているモードに従って遂行される。一例として、擬似自律モードで動作するクライアントデバイスは、たとえ利用可能であっても放送軌道暦情報が収集されないよう構成される。したがって、再構築された状態の選択的再生は、軌道暦が収集されないモードで動作していることに応答して遂行される。
【0052】
ブロック506で、クライアントデバイスは、再構築された衛星状態を使用して、クライアントデバイスの現在の場所及び時間に適したGPS衛星信号を取得する。GPS衛星信号は、第2の通信チャネルを通じて取得され、受信されるが、これに制限されるものではない。クライアントデバイスは、インテグリティチェックを遂行し、GPS信号処理技術により適宜衛星状態及び捕捉された衛星信号の情報を使用して、その位置を決定及び/又は追跡する。
【0053】
インテグリティチェック/整合性検査は、例えば、受信機自立型完全性モニター(RAIM)を含む。しかし、代替実施形態では、異なるインテグリティチェック/整合性検査を遂行し得る場合もあれば、インテグリティチェック/整合性検査を省く場合もある。」
引用例1の段落【0050】~【0053】、及び図5に記載された「放送軌道暦データなしで位置情報を決定する際に使用するためのクライアントデバイスにおいて予測された衛星状態を作成するためのフローチャート500」を、引用例1の段落【0042】~【0045】に記載された「図2」の「代替実施形態」について読み替えると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
(なお、拒絶査定の備考欄で指摘された、引用例1の段落【0023】の「また、データベース130は、サーバシステム120の1構成要素でもよく、独立のサーバ又はシステムでもよい。」及び、引用例1の段落【0042】の「サーバ120上に採用される処理機能は、代替形態として、代替実施形態のクライアントデバイス110によっても採用され得る。」との記載は、引用例1の段落【0041】の「予測は、正確な衛星状態、及び過去の衛星状態のデータから導き出された力のモデルを使用して作成される。」ための処理を、サーバ120上ではなく、クライアントデバイス110によって行うことを意味しているのであって、データベース130から履歴情報(つまり、「正確な衛星状態、及び過去の衛星状態のデータ)を受信することを不要とする意味ではない。)
「クライアントデバイス210は、GPSシステム203と、通信システム204と、プロセッサ205と、メモリ206と、予測ジェネレータ207の少なくとも1つを含むいくつかのシステムを備え、GPSシステム203は、GPS信号192を介して見える視野内のGPS衛星190から情報を受信する受信機を含み(段落【0043】より)、
予測ジェネレータ207の構成要素は、データベース130から受信された履歴情報を使用して、将来の時間帯に亘ってすべてのGPS衛星190の状態を連続的に予測するが、予測ジェネレータ207は、パラメータを衛星190の過去の軌道データからの衛星に対する力のモデルに適合させ、次いで衛星の動的運動についての方程式の数値積分法においてこれらの適合されたパラメータを使用することにより、予測を作成し、クライアントデバイス210は、衛星の予測を一組の短縮パラメータに局所的に圧縮し、これらのパラメータは、局所的に格納され、衛星状態ベクトルは、後に、これらの局所的に格納されたパラメータから再構築され(段落【0044】より)、
クライアントデバイス210は、長い時間帯に亘って放送軌道暦データを使用せずに、その位置を自動的に決定するが、動作中、通信システム204は、データベース130から通信リンク232を介して履歴情報を受信し、予測ジェネレータ207は、履歴情報を使用して、将来の時間帯に亘ってすべてのGPS衛星190の状態を連続的に予測し、パラメータは圧縮形式で格納され、クライアントデバイス210の様々な構成要素は、その後、予測された衛星軌道又はパラメータを使用して、ナビゲーション解において必要な適切な時間に衛星状態を作成し、予測された衛星軌道は、約1暦週の期間に亘って有効であり(段落【0045】より)、
衛星状態の選択的再構築は、現在の軌道暦データがないことを検出したことに応答して遂行され(段落【0051】より)、
クライアントデバイスは、再構築された衛星状態を使用して、クライアントデバイスの現在の場所及び時間に適したGPS衛星信号を取得し、クライアントデバイスは、GPS信号処理技術により適宜衛星状態及び捕捉された衛星信号の情報を使用して、その位置を決定及び/又は追跡する(段落【0052】より)、
クライアントデバイス210(段落【0043】より)。」
(引用例2)
原査定の拒絶の理由2において、周知技術を示す文献として引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特表2004-529032号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0006】
(発明の要約)
本発明は、長期間有効な衛星追跡データ(STD)、言い換えれば、長期STD、即ち、LT-STDの生成方法と装置である。STDには、将来の衛星軌道情報や衛星時計情報が含まれていてもよい。STDは、少なくとも1つの衛星からの信号を1つ以上の衛星追跡局で受信し、受信信号から衛星追跡情報(STI)を求めることによって得られる。STIには、現在の衛星軌道データと衛星時計情報が含まれている。
【0007】
ネットワークや通信システムを介してリモート衛星信号受信機にSTDを与えてもよい。衛星システムには、STDを用いて受信機の性能を向上させる全地球測位システム(GPS)、GLONASS、GALILEO、その他の衛星システムが含まれていてもよい。LT-STDを用いることによって、リモート受信機は、衛星から通常提供される最新の放送軌道暦情報を受信しなくても数日間正確に動作することができる。」
よって、引用例2には、次の技術が記載されているものと認められる。
「長期間有効な衛星追跡データ(STD)は、少なくとも1つの衛星からの信号を1つ以上の衛星追跡局で受信し、受信信号から衛星追跡情報(STI)を求めることによって得られ、ネットワークや通信システムを介してリモート衛星信号受信機にSTDを与えてもよい技術。」
また、引用例2には、15個の軌道パラメータについて、次の事項が記載されている。
「【0020】
好適な実施形態では、調整される15個の軌道パラメータがある。
主軸の半分の平方根(メートル∧1/2)
離心率(無次元)
軌道半径に対する正弦調和補正項の振幅(メートル)
軌道半径に対する余弦調和補正項の振幅(メートル)
計算値との平均運動差(ラジアン/秒)
基準時間での平均近点離角(ラジアン)
緯度引数に対する余弦調和補正項の振幅(ラジアン)
緯度引数に対する正弦調和補正項の振幅(ラジアン)
傾斜角に対する余弦調和補正項の振幅(ラジアン)
傾斜角に対する正弦調和補正項の振幅(ラジアン)
週間エポックの軌道面の昇交点経度(ラジアン)
基準時間での傾斜角(ラジアン)
傾斜角レート(ラジアン/秒)
近地点引数(ラジアン)
赤経レート(ラジアン/秒)
さらに合致させるためにより多くの項を用いてもよいことは明らかであるが、より簡潔なモデルを生成するためにより少ない項を用いてもよい。」
(2)対比・判断
(請求項1に係る発明について)
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1における「クライアントデバイス210」は、「GPSシステム203」を備え、「GPSシステム203は、GPS信号192を介して見える視野内のGPS衛星190から情報を受信する受信機を含」んでいる。そして、GPS衛星が、「放送軌道暦(broadcast ephemeris)」(引用例1の段落【0021】参照。)を含む航法メッセージを、マイクロ波により伝送していることは技術常識であるから、引用発明1における「クライアントデバイス210」と、本願発明1における「軌道上のナビゲーション・システム衛星からマイクロ波伝送を受信し、それらのナビゲーション・システム衛星用のエフェメリスを含んだ航法メッセージを復調することが可能な完全自律型の衛星航法受信機」とは、「軌道上のナビゲーション・システム衛星からマイクロ波伝送を受信し、それらのナビゲーション・システム衛星用のエフェメリスを含んだ航法メッセージを復調することが可能な衛星航法受信機」の点で共通する。
イ 引用発明1における「予測ジェネレータ207」は、「データベース130から受信された履歴情報を使用して、将来の時間帯に亘ってすべてのGPS衛星190の状態を連続的に予測するが、予測ジェネレータ207は、パラメータを衛星190の過去の軌道データからの衛星に対する力のモデルに適合させ、次いで衛星の動的運動についての方程式の数値積分法においてこれらの適合されたパラメータを使用することにより、予測を作成」しており、その「予測された衛星軌道は、約1暦週の期間に亘って有効であ」るとされている。そして、衛星に対する力によって衛星に加速度が生じることは物理法則であるから、引用発明1における「予測ジェネレータ207」における「力のモデル」と、本願発明1における「特定の衛星ビークル(SV)に作用する加速度の力モデルを備え、該力モデルは、前記受信機にのみ配置され、各SVに対するエフェメリスについての単一の観測が、入力され、その対応する力モデルで各SVの軌道位置を積分することによって各SVの軌道位置が今後何日かに伝搬され」ることとは、「特定の衛星ビークル(SV)に作用する加速度の力モデルを備え、該力モデルは、前記受信機にのみ配置され、各SVに対応する力モデルで各SVの軌道位置を積分することによって各SVの軌道位置が今後何日かに伝搬され」る点で共通する。
ウ 引用発明1において、「クライアントデバイス210」が備える「予測ジェネレータ207」は「将来の時間帯に亘ってすべてのGPS衛星190の状態を連続的に予測し、パラメータは圧縮形式で格納され」、「衛星状態の選択的再構築は、現在の軌道暦データがないことを検出したことに応答して遂行され」、「クライアントデバイスは、再構築された衛星状態を使用して、クライアントデバイスの現在の場所及び時間に適したGPS衛星信号を取得し、クライアントデバイスは、GPS信号処理技術により適宜衛星状態及び捕捉された衛星信号の情報を使用して、その位置を決定及び/又は追跡」している。
よって、
(ア)引用発明1における「クライアントデバイス210」が「将来の時間帯に亘ってすべてのGPS衛星190の状態を連続的に予測し、パラメータは圧縮形式で格納され」ていることと、本願発明1における「受信機」が「拡張エフェメリス予測値」を有していることは、「受信機」が「拡張予測値」を有している点で共通する。
(イ)上記「(ア)」を踏まえると、引用発明1における「クライアントデバイス210」と、本願発明1における「それぞれのSVからの前記航法メッセージを直ちに得て復調することができない場合、完全自律型の衛星航法受信機は、その後、完全自律型の衛星航法受信機で利用可能となる、代替物として使用することができる拡張エフェメリス予測値を有する拡張エフェメリス航法受信機」とは、「それぞれのSVからの前記航法メッセージを利用できない場合、衛星航法受信機は、その後、衛星航法受信機で利用可能となる、代替物として使用することができる拡張予測値を有する拡張航法受信機」の点で共通するといえる。
よって、本願発明1と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「軌道上のナビゲーション・システム衛星からマイクロ波伝送を受信し、それらのナビゲーション・システム衛星用のエフェメリスを含んだ航法メッセージを復調することが可能な衛星航法受信機を備えた拡張エフェメリス航法受信機において、
特定の衛星ビークル(SV)に作用する加速度の力モデルを備え、該力モデルは、前記受信機にのみ配置され、各SVに対応する力モデルで各SVの軌道位置を積分することによって各SVの軌道位置が今後何日かに伝搬され、
それぞれのSVからの前記航法メッセージを利用することができない場合、衛星航法受信機は、その後、衛星航法受信機で利用可能となる、代替物として使用することができる拡張予測値を有する拡張航法受信機。」
(相違点1)
本願発明1では、力モデルで各SVの軌道位置を積分するにあたり「各SVに対するエフェメリスについての単一の観測が、入力され」るが、衛星航法受信機が「完全自律型」であるから、該「各SVに対するエフェメリスについての単一の観測」は、衛星航法受信機が完全に自律して行っているのに対し、引用発明1では、「クライアントデバイス210」は、「動作中、通信システム204は、データベース130から通信リンク232を介して履歴情報を受信し」、「予測ジェネレータ207の構成要素」は、「データベース130から受信された履歴情報を使用して、将来の時間帯に亘ってすべてのGPS衛星190の状態を連続的に予測するが、予測ジェネレータ207は、パラメータを衛星190の過去の軌道データからの衛星に対する力のモデルに適合させ、次いで衛星の動的運動についての方程式の数値積分法においてこれらの適合されたパラメータを使用することにより、予測を作成」しているから、引用発明1における「クライアントデバイス210」は「完全自律型」ではなく、また、「データベース130から受信された履歴情報」は、「衛星190の過去の軌道データ」であって、「各SVに対するエフェメリスについての単一の観測」ではなく、さらに、「データベース130から受信された履歴情報」は「パラメータを衛星190の過去の軌道データからの衛星に対する力のモデルに適合させ、次いで衛星の動的運動についての方程式の数値積分法においてこれらの適合されたパラメータを使用する」ために用いられるものであって、「力モデルで各SVの軌道位置を積分する」ために「力のモデル」に「入力」されるものでもない点。
(相違点2)
本願発明1では、「それぞれのSVからの前記航法メッセージを直ちに得て復調することができない場合」に、「拡張エフェメリス予測値」を「代替物として使用」しているのに対し、引用発明1では、「衛星の予測を一組の短縮パラメータに局所的に圧縮し、これらのパラメータは、局所的に格納され、衛星状態ベクトルは、後に、これらの局所的に格納されたパラメータから再構築され」、「衛星状態の選択的再構築は、現在の軌道暦データがないことを検出したことに応答して遂行され」ている点。
そこで、上記相違点1及び相違点2について検討すると、引用例2には、「長期間有効な衛星追跡データ(STD)は、少なくとも1つの衛星からの信号を1つ以上の衛星追跡局で受信し、受信信号から衛星追跡情報(STI)を求めることによって得られ、ネットワークや通信システムを介してリモート衛星信号受信機にSTDを与えてもよい。」こと、及び「15個の軌道パラメータ」が記載されているが、上記相違点1及び相違点2に係る本願発明1の構成は、何ら記載されていない。
よって、本願発明1は、引用発明1及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(請求項2ないし6に係る発明について)
本願の請求項2ないし6に係る発明は、本願発明1を引用するものであって、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用発明1及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(請求項7に係る発明について)
本願の請求項7に係る発明は、本願発明1にさらに発明特定事項を付加して限定したものであるので、同様に、引用発明1及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)小括
以上のとおり、本願の請求項1ないし7に係る発明は、引用発明1及び(原査定において周知技術を示す文献として引用された)引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
第6 当審における拒絶理由の判断
1 当審における拒絶理由の概要
「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
(請求項4~6に係る発明について)
請求項4には、「前記軌道積分アルゴリズム・プログラム・コード・・・請求項2または3記載の拡張エフェメリス航法受信機。」と記載されている。
ここで、請求項4が請求項3を引用し、請求項3が請求項1を直接引用する場合、請求項1、3には「軌道積分アルゴリズム・プログラム・コード」が発明特定事項とされていないから、請求項4の記載における「前記軌道積分アルゴリズム・プログラム・コード」とは何を意味するものであるか、明確でない。
よって、請求項4、及び請求項4を引用する請求項5、6に係る発明は明確でない。」
2 当審における拒絶理由の判断
本件補正により、請求項4は、「前記軌道積分アルゴリズム・プログラム・コードが・・・備える請求項2記載の拡張エフェメリス航法受信機。」と補正されたから、当審における拒絶理由は解消した。
第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-006079