特許拒絶査定不服審判
2015-019663
基地局および基地局を動作させる方法
- 審判番号
- 2015-019663
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-549732外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年11月02日
- 審決日
- 2016年12月05日
- 公報発行日
- 2017年06月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アルカテル-ルーセント
- 【請求人代理人】岡部 讓
- 【請求人代理人】吉澤 弘司
- 分類
- P18 .121-WZ (H04B) / P18 .537-WZ (H04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-549732「基地局および基地局を動作させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 2日国際公開,WO2012/100856,平成26年 4月 3日国内公表,特表2014-508443〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は,成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯・本願発明
本願は,2011年11月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年1月26日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成26年7月17日付けで拒絶理由通知がなされ,平成27年1月21日付けで手続補正がなされ,同年6月30日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がなされ,その後,当審より,平成28年5月9日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,これに対し,同年11月10日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。
そして,本願の請求項10に係る発明は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,平成28年11月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項10に記載された次のとおりのものと認める(以下,「本願発明」という。)。
「 セルラ通信ネットワークの端末において,前記端末が,前記セルラ通信ネットワークの基地局から,水平面に関して異なる垂直位置に配置された異なるアンテナ要素を含む,前記基地局の少なくとも1つのアンテナ・システムを介して,特定のパイロット信号を送信するために使用される直交無線リソースにおいて送信される少なくとも2つのパイロット信号を受信するように構成され,前記端末が,前記パイロット信号間の位相シフトを判定し,フィードバック情報を前記基地局に送信するようにさらに構成され,前記フィードバック情報が,前記端末によって判定された前記パイロット信号間の前記位相シフトに依存しまたはその特徴を表すことを特徴とする,端末。」
第2 引用発明及び周知事項
1.引用発明
当審拒絶理由に引用された特開2001-237755号(以下,「引用例」という。)には,「無線送受信機及び電波放射方向制御方法」(発明の名称)に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は基地局アンテナより電波(ビーム)を移動局方向に指向性を持たせて放射する無線送信機の電波放射方向制御方法及び該方法を実現する無線送信機及び無線受信機に係わり,特に,移動局の方位を測定し該方向にビームを向けて送信する方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】移動無線通信システムにおいて,通常,基地局は移動局との間の通信に固定した指向性パターンを用いることができず,無指向性アンテナを用いて通信が行う。(以下省略)」(第3-4ページ)
イ 「【0014】(d)等間隔直線アレーアンテナの使用
基地局は指向性アンテナとして等間隔直線アレーアンテナを使用する。等間隔直線アレーアンテナは図2に示すように各アンテナ素子A0~Am(m=4)を等間隔dで直線的に配置したアレイアンテナであり,移相器PS0~PSm(m=4)において入力信号Sに順次φ=-kdsinθ(但し,k=2π/λ)の位相差を与えて各アンテナ素子A0~Amに給電するとθの方向に指向性を生じる。従って,基地局はデータ送信用アンテナとして等間隔直線アレーアンテナを使用すれば,測定された方位θを用いて次式
φ=-kdsinθ (2)
により位相差φを求め,入力信号Sに順次φづつ位相差を与えて(0,φ,2φ,3φ,...),各アンテナ素子A0~Amに給電し,θの指向性を待たせてデータを受信機に向けて送信する。」(第5-6ページ)
ウ 「【0016】(f)第1,第2の信号S1,S2を放射するアンテナの省略
基地局はデータ送信用アンテナとして等間隔直線アレーアンテナLAAを使用するとき,第1,第2の信号S1,S2を該等間隔直線アレーアンテナより放射するようにして,方位測定用のアンテナを省略することができる。すなわち,図3に示すように,移相器PSA0~PSAm-1(m=4)において信号S1の位相を順次0,φ,2φ,3φ,.,(m-1)φ遅らせて合成部ADD0~AADm-1(m=4)を介して等間隔直線アレーアンテナの各アンテナ素子A0~Am-1に入力する。又,信号S1と位相基準点が等間隔直線アレーアンテナのアンテナ素子間隔分ずれるように,移相器PSB0~PSBm-1(m=4)において別の信号S2の位相を順次0,φ,2φ,3φ,.(m-1)φ遅らせて合成部ADD1~AAD4(m=4)を介して各アンテナ素子A1~Amに入力する。
【0017】以上のように等間隔直線アレーアンテナの各アンテナ素子に給電すると,あたかも間隔d離れた2つのアンテナより第1,第2の基準信号
S1′=S1[1+exp(jφ)+exp(2jφ)+exp(3jφ)]
S2′=S2[1+exp(jφ)+exp(2jφ)+exp(3jφ)]
が放射されたのと同等になる。ただし,基地局からθ1方向の移動局が受信する第1,第2の基準信号の位相差はφ1となる。すなわち,φ1は間隔d離れた2つのアンテナからθ1の方向の移動局が受信する信号の位相差である。従って,移動局受信機は位相差φ1を基地局にフィードバックし,基地局は,図5に示すように,データ信号Sの位相を順次0,φ1,2φ1,3φ1,.,(m-1)φ1遅らせて等間隔直線アレーアンテナの各アンテナ素子A0~Am-1に給電すれば,基地局はθ1の指向性を持たせて信号を受信機に向けて送信できる。以上により,方位θの計算を省略でき,しかも,計算負荷の軽減が可能になり,更には,方位測定用のアンテナを省略できる。」(第6ページ)
エ 「【0028】(c) 変形例
図9は同一信号を時分割で第1,第2信号として送信する第1実施例の変形例であり,図7と同一部分には同一符号を付している。基地局MSにおいて図7と異なる点は,(1) 基準信号発生部RSGは1つの基準信号C(t)ejωtを発生する点,(2) 時分割スイッチTSW1を設け,該スイッチにより奇数タイムスロットt=1,3,5,...において基準信号を第1の送信アンテナAT1に入力し,偶数タイムスロットt=2,4,6,...において基準信号を第2の送信アンテナAT2に入力し,それぞれを第1,第2の基準信号S1,S2として送信する点,(3) 送信ビームフォーマBFM,等間隔直線アレイアンテナATDの図示を省略している点,である。(以下省略)」(第8ページ)
オ 「【0045】(D)第3実施例
(a)概略説明
図18は本発明の第3実施例の概略説明図であり,図15の第2実施例と同一部分には同一符号を付している。異なる点は,方位測定用信号を送出するアンテナを省き,方位測定用信号をデータ通信用の等間隔直線アレーアンテナLAAより送出する点である。図3で説明したように,信号S1の位相を順次0,φ,2φ,3φ,.,(m-1)φ遅らせて等間隔直線アレーアンテナLAAの各アンテナ素子A0~Am-1に入力する。又,信号S1と位相基準点が等間隔直線アレーアンテナLAAのアンテナ素子間隔d分ずれるように,別の信号S2の位相を順次0,φ,2φ,3φ,.,(m-1)φ遅らせて各アンテナ素子A1~Amに入力する。このように等間隔直線アレーアンテナLAAの各アンテナ素子に給電すると,あたかも間隔d離れた2つの仮想アンテナPAT1,PAT2より第1,第2の基準信号
S1′=S1[1+exp(jφ)+exp(2jφ)+exp(3jφ)]
S2′=S2[1+exp(jφ)+exp(2jφ)+exp(3jφ)]
を放射したのと同等になる。このため,基地局BSからθ1方向の移動局MSが受信する第1,第2の基準信号の位相差はφ1となる。ただし,φ1は間隔d離れた2つのアンテナPAT1,PAT2からθ1の方向の移動局MSが受信する第1,第2基準信号の位相差である。
【0046】従って,移動局MSの位相差検出部PDTは位相差φ1を検出して基地局BSにフィードバックし,基地局のビームフォーマBFMは,図3(b)に示すように,データ信号Sの位相を順次0,φ1,2φ1,3φ1,.,(m-1)φ1遅らせて等間隔直線アレーアンテナの各アンテナ素子A0~Am-1に給電する。これにより,基地局はθ1の指向性を持たせて信号を受信機に向けて送信できる。
【0047】(b)第3実施例の基地局送信機
図19は第3実施例の基地局送信機の構成図であり,図10に示す第1実施例の送信機と同一部分には同一符号を付している。異なる点は,(1) 方位測定用信号送出部15の構成,(2) 方位測定用信号送出部15が方位測定信号を合成部17i1,17q1~17im,17qm,送信部131~13mを介して等間隔直線アレーアンテナLAAの各アンテナ素子A1~Amに給電している,点である。
【0048】S/P変換部16aは方向測定用データ列を1ビットづつ交互に振り分けて同相成分と直交成分の2系列DI′,DQ′に変換し,第1拡散部16bは各系列DI′,DQ′に拡散コードC1(t)を乗算して拡散し,第1の位相回転部19aに入力する。又,第2拡散部16cは上記各系列DI′,DQ′にそれぞれ拡散コードC2(t)を乗算して拡散し,第2の位相回転部19bに入力する。第1の位相回転部19aは第1拡散部16bから入力する拡散変調信号VI1,VQ1の信号点位置ベクトルV1を順次0,φ1,2φ1,3φ1,.,(m-1)φ1回転して出力する。すなわち,位相回転部19aは次式に示す位相回転式
VIj″=VI1・cosφj-VQ1・sinφj
VQj″=VI1・sinφj+VQ1・cosφj
(ただし,φj=j・φ,j=0~m-1)で演算して出力する。
【0049】第2の位相回転部19bは第2拡散部16cから入力する拡散変調信号VI2,VQ2の信号点位置ベクトルV2を順次0,φ1,2φ1,3φ1,.,(m-1)φ1して出力する。すなわち,位相回転部19bは次式に示す位相回転式
VIj″=VI2・cosφj-VQ2・sinφj
VQj″=VI2・sinφj+VQ2・cosφj
(ただし,φj=j・φ,j=0~m-1)で演算して出力する。合成部20i1,20q1~20im,20qmは第1,第2位相回転部19a,19bから出力する対応する信号を合成し,合成部17i1,17q1~17im,17qm,送信部131~13mを介して等間隔直線アレーアンテナLAAの各アンテナ素子A1~Amに給電する。
【0050】以上により,あたかも間隔d離れた2つの仮想アンテナより第1,第2の基準信号を放射したのと同等になり,基地局BSからθ1方向の移動局MSが受信する第1,第2の基準信号の位相差はφ1となる。移動局MSの位相差検出部PDTは位相差φ1を検出して基地局BSにフィードバックし,基地局において,移動局MSに対応するチャンネルのビームフォーマ24は入力データの位相を順次0,φ1,2φ1,3φ1,.,(m-1)φ1遅らせて等間隔直線アレーアンテナの各アンテナ素子A1~Amに給電する。これにより,基地局送信機はθ1の指向性を持たせて信号を移動局に向けて送信できる。以上では,異なる信号S1,S2を同時に等間隔直線アレイアンテナに入力した場合であるが,同一の信号を時分割的に信号S1,S2として等間隔直線アレイアンテナに交互に入力するように構成することもできる。」(第10-11ページ)
以下,前記アないしオの記載及び本願の優先日における技術常識を考慮しつつ,引用例に記載された技術事項について検討する。
(ア)前記アの【0001】より,引用例には,基地局が電波を移動局の方向に指向性を持たせて放射することを目的とすることが記載されている。
また,前記アの【0002】より,引用例に記載の移動局及び基地局はいずれも,移動無線通信システムにおけるものといえる。
(イ)前記イより,引用例に記載の基地局は,等間隔dで直線的に配置した複数のアンテナ素子(A0~Am)を含む等間隔直線アレーアンテナを備えるものである。
(ウ)前記ウの【0017】及び前記オの【0045】)より,引用例に記載の基地局は,等間隔直線アレーアンテナを介して,信号S1及び信号S2のそれぞれに基づいて,第1の基準信号S1′及び第2の基準信号S2′の2つの基準信号を送信するものである。
そして,前記オの【0050】の記載「以上では,異なる信号S1,S2を同時に等間隔直線アレイアンテナに入力した場合であるが,同一の信号を時分割的に信号S1,S2として等間隔直線アレイアンテナに交互に入力するように構成することもできる。」から,引用例に記載の基地局は,等間隔直線アレーアンテナを介して,同一の信号に基づいて生成される2つの基準信号を,時分割的に交互に送信するものといえ,移動局からみれば,時分割的に交互に送信される2つの基準信号を受信するものといえる。
(エ)前記ウの【0017】及び前記オの【0050】より,引用例に記載の移動局は,基地局から受信した第1の基準信号S1′及び第2の基準信号S2′の位相差φ1,すなわち,2つの基準信号間の位相差を検出して基地局にフィードバックするものである。
そして,前記ア,前記ウの【0017】及び前記オの【0050】より,前記フィードバックは,基地局が電波を移動局の方向に指向性を持たせて放射することを目的とするものである。
以上(ア)ないし(エ)を総合すると,引用例には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「 移動無線通信システムの移動局において,前記移動局が,前記移動無線通信システムの基地局から,等間隔で直線的に配置した複数のアンテナ素子を含む,前記基地局の等間隔直線アレーアンテナを介して,時分割的に交互に送信される2つの基準信号を受信し,前記移動局が,基地局が電波を移動局の方向に指向性を持たせて放射することを目的として,前記2つの基準信号間の位相差を検出して基地局にフィードバックすることを特徴とする,移動局。」
2.周知事項
(1)周知例1
当審拒絶理由に引用された特開2008-53951号公報(以下,「周知例1」という。)には,「アレーアンテナ及び基地局」(発明の名称)に関して,図面とともに以下の事項が記載されている。
(下線は,強調のために当審が付与した。)
カ 「【0002】
セルラーシステムでは,複数の基地局を用いて,サービスエリアをカバーすることが行われる。又,FDMAやCDMAを用いたシステムでは,隣接する基地局に異なる周波数やコードを与えて移動局との通信を行う。各基地局は,セルと呼ばれる通信エリアを作るが,このとき,隣接するセルに電波を放射すると,隣接セルの通信チャネルに干渉を与えてしまい,システム全体の通信容量が減少してしまう。
【0003】
これを防ぐために,基地局では,地面に対してアレーを垂直に配置したフェーズドアンテナを用いて,垂直方向のビームが狭いアンテナのメインビーム方向をセル端に向けて電波を放射して,自セル外に放射する電波を抑圧している。本技術は,ビームチルティングと呼ばれており,一般的に水平方向からメインビーム方向の角度をチルト角と呼ぶ。図13にビームとチルト角との関係を示す。フェーズドアレーアンテナでは,位相器及びアッテネータの値を変えることによって,チルト角や再度ローブを変化させることができ,所望のサービスエリアを得られるように調整を行う(例えば,特許文献1参照。)。以降では,アッテネータの制御で与える振幅の大きさ設定を振幅分配と呼ぶ。」(第3ページ)
キ 「
」(第13ページ)
(2)周知例2
当審拒絶理由に引用された特開2002-9531号公報(以下,「周知例2」という。)には,「チルト角可変アンテナ及びチルト角制御データ格納外部記録媒体」(発明の名称)に関して,図面とともに以下の事項が記載されている。
ク 「【0020】放射部4は(n+1)個の放射素子41a乃至41(n+1)を含む。放射素子41a乃至41(n+1)には,一般に,同じアンテナ素子,例えばマイクロストリップアンテナやコーナーレフレクタアンテナが用いられる。放射素子41a乃至41(n+1)の各各はセクターアンテナであることもある。また,放射素子41a乃至41(n+1)は,一般に地上に対して縦(垂直)方向に並べられる。
【0021】このアンテナ部1は,給電線31及び位相調整回路32a乃至32nから対応する放射素子41a乃至41(n+1)の各各に給電されるRF信号の振幅及び位相によって放射パターン,例えばビームチルト角を変えることができるアレイアンテナである。このアンテナでは,放射パターンを変えるのに放射素子41a乃至41(n+1)の各各に給電する位相のみを変えている。所望の放射パターンを得るために振幅を調整しておく必要がある場合は,給電分配部2によるRF信号の分配又は合成比率を予め設定しておく方法がある。
【0022】チルト設定部5は,アンテナ部1のビームチルト角を設定・調整するために,位相調整回路32a乃至32nの位相を制御する回路である。チルト角設定部5は,複数の基地局に対してビームチルト角を設定するための制御データを格納した外部記録媒体であるICカード6をICカード挿入口51に挿入し,挿入によってICカード6が接続されたデータ読み取り部52に上記制御データを読み取らせる。なお,ICカード6は同様の外部記録媒体であるフレキシブルディスク(フロッピィディスクともいう)に置き換えることができる。
【0023】ここで,ICカード6に格納される制御データには,表1に示すビームチルト角を設定すべき基地局名(A,B,Z等),その基地局に設定すべきビームチルト角(α,β,ω等),及び設定ビームチルト角を与える位相調整回路32の設定データが含まれる。上記ビームチルト角及びそのビームチルト角に設定するための制御データは,サービスエリア設計時に計算及び実験によって決定されている。本実施の形態によるチルト角可変アンテナは,ビームチルト角の設定あるいは調整のために位相調整回路32の位相(移相量)を調整するだけでよい。ICカード6には,複数の基地局の各各に対する制御データが格納されている。従って,本実施の形態によるチルト角可変アンテナのビームチルト角設定者は,ICカード6を持って各基地局のビームチルト角を順次設定して回ることになる。」(第4ページ)
(3)周知例3
当審拒絶理由に引用された特開2001-197551号公報(以下,「周知例3」という。)には,「移動通信システムのセルセクタ構成方法および移動通信システム」(発明の名称)に関して,図面とともに以下の事項が記載されている。
ケ 「【0007】この場合には,図3に示すように,水平方向の指向性をやや大地方向に傾けて使用することが一般的である。これは,他の基地局方向に対しては利得の低い方向を向けることにより,他局への干渉や他局からの干渉を極力避け,同時に自局がカバーすべきエリアに対してアンテナ指向方向を向けて,より自局のカバーエリア内での通信品質を上げることが目的である。このような技術は,ビームチルティングあるいはビームチルトなどとよばれている。また,アンテナ指向方向の水平面内からの傾き角は通常,チルト角とよばれる。」(第3ページ)
コ 「【0037】アンテナ413のチルト角を変更するには,通常次のような2つの方法のうちのいずれかの方法が採られる。ひとつは,図5に示すように,アンテナ413を機械的に傾けて設置する方法であり,もうひとつは,図6に示すように,複数の素子601により構成されるアンテナ413において,ひとつひとつのアンテナ素子601に給電する信号の位相を位相器602により変化させることにより,電気的に指向方向を調整する方法である。603は分配器である。」(第5ページ)
サ 「
」(第6ページ)
(4)周知例4
特開2008-154278号公報(以下,「周知例4」という。)には,「基地局,アンテナの制御方法及びアンテナ制御装置」(発明の名称)に関して,図面とともに以下の事項が記載されている。
シ 「【0027】
詳述すると,前述の通りアンテナには垂直面内の指向性があり,ビーム幅φを持つため,メインビームが照射される範囲(図中矢印で示すメインローブが照射される範囲)は,同一の垂直ビーム幅を用いた場合は見込み角βが大きいほど狭くなり,従って,見込み角βが大きい(すなわちアンテナの設置高が高い場合,若しくは,エリア半径が狭い場合)は,より広い垂直ビーム幅を持つアンテナを使用しなければ,メインローブが照射される面積が狭くなる。このため,本実施形態では,図3(a)に示すように,見込み角βが大きいときは,フロントゲインが小さくても,より広い垂直ビーム幅を持つアンテナを使用する。」第6ページ)
ス 「【0030】
[第2実施形態]
次いで,本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では,上述した第1実施形態における垂直ビーム幅φの調整に加えて,チルト角αを適切に設定することで,隣接するエリアとの間での干渉を低減することを特徴とする。図4は,第2実施形態に係る基地局及び通信方法において,アンテナのチルト角の設定を示す説明図である。」(第6ページ)
セ 「
」(第11ページ)
(5)まとめ
周知例1ないし3に係る前記カないしサより,以下の事項は本願の優先日において周知であったといえる。(以下,これを「周知事項1」という。)
「移動無線通信システムの基地局が,水平面に対して垂直に複数のアンテナ素子を配置したアレーアンテナを備え,各アンテナ素子の位相を調整することにより水平面に対する下向きの角度(チルト角)を,変化させること。」
また,周知例1及び4に係る前記カ,キ及びシないしセより,以下の事項は本願の優先日において周知であったといえる。(以下,これを「周知事項2」という。)
「チルト角を調整することは,垂直ビーム・パターンのメイン・ローブを端末の方向にセンタリングするように制御することに等しいこと。」
第3 対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)本願発明の「セルラ通信ネットワーク」は,無線通信システムの一種であることは明らかである。
よって,引用発明の「移動無線通信システム」と本願発明の「セルラ通信ネットワーク」とは,「無線通信システム」である点において共通する。
また,本願発明の「端末」は,「セルラ通信ネットワーク」におけるものであるから,移動可能な装置,すなわち,「移動局」の一種であることは自明である。
そうすると,後述する相違点を除いて,引用発明の「移動局」及び「基地局」はそれぞれ,本願発明の「端末」及び「基地局」に相当する。
(2)引用発明において,「複数のアンテナ素子」に含まれる各「アンテナ素子」が,互いに異なる位置に配置され,互いに異なる「アンテナ要素」といい得るものであることは自明である。そして,引用発明の「等間隔直線アレーアンテナ」は,「複数のアンテナ素子」を複合的なアンテナのシステムとして形成しているから,「アンテナ・システム」といい得るものである。そして,引用発明の「等間隔直線アレーアンテナ」が,「1つ」存在することは自明である。
そうすると,後述する相違点を除いて,引用発明の「等間隔で直線的に配置した複数のアンテナ素子を含む,前記基地局の等間隔直線アレーアンテナ」と,本願発明の「水平面に関して異なる垂直位置に配置された異なるアンテナ要素を含む,前記基地局の少なくとも1つのアンテナ・システム」とは,「異なる位置に配置された異なるアンテナ要素を含む,前記基地局の1つのアンテナ・システム」という点において共通している。
(3)本願発明の「位相シフト」は,本願の明細書の段落【0057】の記載「位相シフト(位相差)」からすると,「位相差」と同義である。
よって,引用発明の「位相差」は,本願発明の「位相シフト」に相当する。
また,引用発明の「位相差」は,当該「位相差」に「依存」する情報であり,また,「位相差」の「特徴」を表す情報であることは自明であるから,本願発明の「位相シフトに依存しまたはその特徴を表」す「フィードバック情報」に相当する。
さらに,「検出」と「判定」は同義であり,「フィーバック」することは,「フィードバック」の対象となる情報を「送信」することと同義である。
よって,引用発明において,「位相差」を「検出」して「基地局」に「フィードバック」することは,本願発明において,「位相シフト」を「判定」して,「位相シフトに依存しまたはその特徴を表す」「フィードバック情報」を「基地局」に「送信」することに相当する。
(4)引用発明において,「移動局」は,「基地局」から受信した「2つの基準信号」間の「位相差」を「検出」して,これを「基地局」に「フィードバック」するものである。そして,当該「位相差」の「フィードバック」は,「基地局が電波を移動局の方向に指向性を持たせて放射すること」を目的とするものである。
一方,本願の明細書の段落【0057】の記載「位相差を判定する際に,端末200は,受信されたパイロット信号D1,D2の間の前記位相シフト(位相差)を,フィードバック情報の意味で基地局100に直接に返すことができる。そのようなフィードバック情報から,基地局100は,アンテナ要素110a,110bのそれぞれから端末200に送信される異なる信号間の最小化された相対位相シフトを保証するため,すなわち,メイン・ローブ111(図1)の伝搬の主方向を垂直次元で端末200の方向に位置合せするために,端末200へのデータ送信に使用すべき最適ダウンチルトθを計算することができる。」から,本願発明において,「位相シフト」に関する「フィードバック情報」は,基地局が,メイン・ローブ(主たる電波)を端末の方向に位置合せすること,すなわち,電波を移動局の方向に指向性を持たせて放射することを目的とするものである。
そうすると,引用発明における「(2つの)基準信号」と,本願発明の「(少なくとも2つ)のパイロット信号」とは,その目的が実質的に同一であるから,対応関係にあるといえる。そして,「2つ」は,「少なくとも2つ」に含まれる概念であるから,引用発明の「2つの基準信号」は,本願発明の「少なくとも2つのパイロット信号」に含まれる。
(5)引用発明において,「時分割的に交互に送信される2つの基準信号」は,「2つの基準信号」の各々が,互いに時間的に異なるリソース(例えば,タイムスロット,前記エ参照。)を使用して送信されることを意味し,当該互いに時間的に異なるリソースは,本願発明の「直交無線リソース」に相当する。
そして,「2つの基準信号」は,「直交無線リソース」である「互いに時間的に異なるリソース」において送信されるから,前記(4)を参酌すれば,本願発明の「特定のパイロット信号」にも相当する。
(6)引用発明の「移動局」(端末)が,前記「2つの基準信号」(2つのパイロット信号)を「受信するように構成され」,「位相差を検出して基地局にフィードバックする」(位相シフトを判定し,フィードバック情報を基地局に送信する)ように「さらに構成され」ていることは自明である。
2.一致点・相違点
前記「1.対比」の検討から,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致ないし相違している。
(1)一致点
「 無線通信システムの端末において,前記端末が,前記無線通信システムの基地局から,異なる位置に配置された異なるアンテナ要素を含む,前記基地局の1つのアンテナ・システムを介して,特定のパイロット信号を送信するために使用される直交無線リソースにおいて送信される2つのパイロット信号を受信するように構成され,前記端末が,前記パイロット信号間の位相シフトを判定し,フィードバック情報を前記基地局に送信するようにさらに構成され,前記フィードバック情報が,前記端末によって判定された前記パイロット信号間の前記位相シフトに依存しまたはその特徴を表すことを特徴とする,端末。」
(2)相違点
ア 相違点1
「無線通信システム」が,本願発明は,「セルラ通信ネットワーク」であるのに対し,引用発明は,「移動無線通信システム」である点。
これにともない,「端末」及び「基地局」は,いずれも「セルラ通信ネットワーク」におけるものであるのに対し,引用発明は,「移動無線通信システム」におけるものである点。
イ 相違点2
「アンテナ・システム」を構成する「異なるアンテナ要素」が,本願発明は,「水平面に関して異なる垂直位置に配置された」ものであるのに対し,引用発明は,どの面に関してどの方向(位置)に配置されたものであるのか具体的に特定していない点。
3.判断
前記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
無線通信システムとして,「セルラ通信ネットワーク」は,本願の優先日において普通に知られたものである。
よって,引用発明の「移動無線通信システム」を,「セルラ通信ネットワーク」とすることは当業者が適宜なし得たことにすぎない。
(2)相違点2について
前記「第2 引用発明及び周知事項」の「2.周知事項」の項で挙げた周知例1ないし3に記載されているように,
「移動無線通信システムの基地局が,水平面に対して垂直に複数のアンテナ素子を配置したアレーアンテナを備え,各アンテナ素子の位相を調整することにより水平面に対する下向きの角度(チルト角)を,変化させること。」
(周知事項1)は,本願の優先日における周知事項である。
そして,引用発明は,基地局のアレーアンテナの指向性を制御することを目的とする点において周知事項と共通しているから,引用発明の「複数のアンテナ素子」(アンテナ要素)を,「水平面に対して異なる垂直位置に配置された」ものとすることは当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。
そして,本願発明の作用効果も,引用発明及び周知事項に基づいて当業者が予測し得る範囲のものであり,格別なものではない。
4.請求人の主張について
請求人は,平成28年11月10日付けの意見書において,
「 本願発明は,少なくとも2つのアンテナ要素の垂直ビーム・パターンのメイン・ローブを制御することを含み,このメイン・ローブを基地局から見られる端末の方向にセンタリングすることに関連します(本願明細書の段落[0009])。
これに対し,引用文献1は複数のアンテナ要素の水平ビーム・パターンの角度と関連しており,「少なくとも2つのアンテナ要素の垂直ビーム・パターンのメイン・ローブ」を開示しておりません。したがって,引用文献1は,「垂直ビーム・パターンのメイン・ローブを基地局から見られる端末の方向にセンタリングすること」に関し,開示及び示唆しておりません。
引用文献2~4は「垂直ビーム・パターン」と関連するものの,垂直ビーム・パターンのメイン・ローブを基地局から見られる端末の方向にセンタリングすることを開示及び示唆しておりません。
このように,引用文献1~4は垂直ビーム・パターンのメイン・ローブを基地局から見られる端末の方向にセンタリングすることを教示及び示唆しておらず,したがって,引用文献1~4は,本願発明とは目的,作用効果が異なります。したがって,たとえ当業者であっても,引用文献1に引用文献2~4を組み合わせて本願発明を想到することは容易ではないと思料します。」
と主張している。
しかしながら,引用例には,引用例に記載した技術事項が,「水平ビーム・パターン」の角度を調整することを目的とすることは明記されておらず,仮にそのようなことが示唆されているとしても,引用発明と周知事項1とは,ビーム・パターンの角度を調整するという点において技術的に共通している以上,引用発明を,周知事項1のように「垂直ビーム・パターン」に適用することの技術的な阻害要因は存在しない。また,周知例1ないし3に記載されているように,「移動無線通信システムの基地局が,水平面に対して垂直に複数のアンテナ素子を配置したアレーアンテナを備え,各アンテナ素子の位相を調整することにより水平面に対する下向きの角度(チルト角)を,変化させること。」は,本願の優先日における周知事項であったこと,すなわち,「垂直ビーム・パターン」の角度(チルト角)を調整することが本願の優先日において普通に行われていたことを参酌すれば,引用発明を,「垂直ビーム・パターン」の角度を制御するためのものとし,そのために,等間隔直線アレイアンテナを構成する複数のアンテナ素子を,水平面に対して垂直方向に配置するよう構成することは,想定される移動局と等間隔直線アレイアンテナとの相対的な位置関係に応じて,当業者が適宜なし得たことである。
また,本願発明(請求項10)は,「基地局」の「アンテナ・システム」を構成する「異なるアンテナ要素」が,「水平面に関して異なる垂直位置に配置された」ものであること,及び,「端末」が,受信したパイロット信号の位相シフトに関する「フィードバック情報」を「基地局に送信する」ことを特定しているものの,「基地局」が,「端末」から送信された「フィードバック情報」をどのような制御に用いられるのかについて具体的に特定するものではない。よって,請求人が主張する本願発明の特徴である「少なくとも2つのアンテナ要素の垂直ビーム・パターンのメイン・ローブを制御すること」及び「このメイン・ローブを基地局から見られる端末の方向にセンタリングすること」は,本願発明に具体的に特定されていないから,採用することができない。
仮に,本願の明細書の段落【0009】,【0024】等の記載を参酌して,本願発明を,「少なくとも2つのアンテナ要素の垂直ビーム・パターンのメイン・ローブを制御すること」及び「このメイン・ローブを基地局から見られる端末の方向にセンタリングすること」を目的とするように限定的に解釈したとしても,前記「第2 引用発明及び周知事項」の「2.周知事項」の項で挙げた周知例1及び4に記載されているように,「チルト角を調整することは,垂直ビーム・パターンのメイン・ローブを端末の方向にセンタリングするように制御することに等しいこと。」(周知事項2)は,本願の優先日における周知事項である。
したがって,仮に,請求人の主張を採用したとしても,請求人が主張する本願発明の特徴は,本願の優先日における周知技術の範疇であって,当業者が適宜になし得たことである。
よって,上記主張は採用しない。
第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,当業者が引用発明に基づいて周知事項を参酌することにより容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
したがって,本願は,その余の請求項に論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2015-019663