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特許拒絶査定不服審判

2014-019430

エポキシエチルエーテル類又はグリシジルエーテル類の製造

審判番号
2014-019430
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2012-551533
請求日
2014年09月29日
審決日
2017年02月13日
公報発行日
2017年08月25日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】ヘキシオン・インコーポレイテッド
  • 【請求人代理人】特許業務法人川口國際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 佐藤 健史
  • 審判官 井上 雅博
  • 審判官 齊藤 真由美
分類
P18 .562-WZ (C07D) / P18 .571-WZ (C07D) / P18 .574-WZ (C07D) / P18 .575-WZ (C07D) / P18 .55 -WZ (C07D) / P18 .537-WZ (C07D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法17条の2第3項特許法36条6項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第5項第4号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2012-551533「エポキシエチルエーテル類又はグリシジルエーテル類の製造」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月11日国際公開、WO2011/095293、平成25年 5月23日国内公表、特表2013-518836〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は,2011年1月26日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2010年2月2日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって,平成26年1月20日付けで拒絶理由が通知され,平成26年4月25日に意見書及び手続補正書が提出されたところ,同年5月20日付けで拒絶査定がされ,同年9月29日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,同年5月15日に上申書が提出され,その後,当審から平成27年11月11日付けで拒絶理由が通知され,平成28年5月17日に意見書及び誤訳訂正書が提出され,同年6月6日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年12月7日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 平成28年12月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成28年12月7日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成28年12月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,平成28年5月17日付けの誤訳訂正書で補正された特許請求の範囲を以下のとおり補正する補正を含むものである。なお,補正後の補正箇所は下線で示す。 (1)請求項1に係る補正 補正前の請求項1である 「【請求項1】 エポキシエチルエーテル又はグリシジルエーテルを製造する方法であって、 水性反応媒体中で水溶性マンガン錯体の存在下にビニルエーテル又はアリルエーテルを酸化剤と反応させることを含み、前記水溶性マンガン錯体は、酸化触媒であり、前記水溶性マンガン錯体が、式(I): [LMnX3]Y(I) の単核錯体又は式(II): [LMn(μ-X)3MnL](Y)n(II) の二核錯体 〔ここで、Mnは、マンガンであり;Lは、又は、各Lは独立して、多座配位子であり;各Xは独立して、RO-、Cl-、Br-、I-、F-、NCS-、N3-、I3-、NH3、NR3、RCOO-、RSO3-、RSO4-、OH-、O2-、O22-、HOO-、H2O、SH-、CN-、OCN-及びS42-及びそれらの組合せからなる群から選択される配位化学種であり、ここで、Rが、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択される炭素原子数が1~20の基であり、及び、各μ-Xは独立して、RO-、Cl-、Br-、I-、F-、NCS-、N3-、I3-、NH3、NR3、RCOO-、RSO3-、RSO4-、OH-、O2-、O22-、HOO-、H2O、SH-、CN-、OCN-及びS42-及びそれらの組合せからなる群から選択される配位化学種であり、ここで、Rが、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択される炭素原子数が1~20の基であり;Yは、RO-、Cl-、Br-、I-、F-、SO42-、RCOO-、PF6-、トシラート、トリフラート(CF3SO3-)及びそれらの組合せからなる群から選択されるアニオン性非配位対イオンであり、ここで、Rは、再度、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択される炭素原子数が1~20の基であり、nは1又は2である〕であることを特徴とし、また、反応が、1.0から6.0の範囲内のpHで実施され、ビニルエーテル又はアリルエーテルと酸化剤のモル比は1:1から12:1であり、各多座配位子は、独立して、その骨格内に少なくとも7個の原子を含んでいる非環式化合物又はその環内に少なくとも9個の原子を含んでいる環式化合物から選択され、ここで、各多座配位子は3個の窒素原子(窒素原子は少なくとも2個の炭素原子で隔てられている。)を有し、酸化剤は過酸化水素、希過酸化水素、過酸化水素に対する前駆体を含むか、又は有機過酸化物、過酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、前記方法。」を, 補正後の請求項1である 「【請求項1】 エポキシエチルエーテル又はグリシジルエーテルを製造する方法であって、 水性反応媒体中で水溶性マンガン錯体の存在下に固体ビニルエーテル又はアリルエーテルを除くビニルエーテル又はアリルエーテルを酸化剤と反応させることを含み、前記水溶性マンガン錯体は、酸化触媒であり、前記水溶性マンガン錯体が、式(I): [LMnX3]Y(I) の単核錯体又は式(II): [LMn(μ-X)3MnL](Y)n(II) の二核錯体 〔ここで、Mnは、マンガンであり;Lは、又は、各Lは独立して、多座配位子であり、各多座配位子は、独立して、トリアザシクロノナン又は置換トリアザシクロノナンから選択され;各Xは独立して、RO-、Cl-、Br-、I-、F-、NCS-、N3-、I3-、NH3、NR3、RCOO-、RSO3-、RSO4-、OH-、O2-、O22-、HOO-、H2O、SH-、CN-、OCN-及びS42-及びそれらの組合せからなる群から選択される配位化学種であり、ここで、Rが、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択される炭素原子数が1~20の基であり、及び、各μ-Xは独立して、RO-、Cl-、Br-、I-、F-、NCS-、N3-、I3-、NH3、NR3、RCOO-、RSO3-、RSO4-、OH-、O2-、O22-、HOO-、H2O、SH-、CN-、OCN-及びS42-及びそれらの組合せからなる群から選択される配位化学種であり、ここで、Rが、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択される炭素原子数が1~20の基であり;Yは、RO-、Cl-、Br-、I-、F-、SO42-、RCOO-、PF6-、トシラート、トリフラート(CF3SO3-)及びそれらの組合せからなる群から選択されるアニオン性非配位対イオンであり、ここで、Rは、再度、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択される炭素原子数が1~20の基であり、nは1又は2である〕であることを特徴とし、また、反応が、1.0から6.0の範囲内のpHで実施され、ビニルエーテル又はアリルエーテルと酸化剤のモル比は1:1から12:1であり、各多座配位子は、独立して、その骨格内に少なくとも7個の原子を含んでいる非環式化合物又はその環内に少なくとも9個の原子を含んでいる環式化合物から選択され、ここで、各多座配位子は3個の窒素原子(窒素原子は少なくとも2個の炭素原子で隔てられている。)を有し、酸化剤は過酸化水素、希過酸化水素、過酸化水素に対する前駆体を含むか、又は有機過酸化物、過酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、前記方法。」と補正する。 (2)請求項9に係る補正 補正前の請求項9である 「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子を含む、請求項1から8のいずれか1項の方法。」を, 補正後の請求項9である 「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子である、請求項1から8のいずれか1項の方法。」と補正する。 (3)請求項11に係る補正 補正前の請求項11である 「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、式: 【化1】 〔式中、Rは、炭素原子が1個以上の2価の基であり、及び、R’は、炭素原子が1個以上の基である〕 を含んでいる、請求項1から8のいずれか1項の方法。」を, 補正後の請求項11である 「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、式: 【化1】 〔式中、Rは、炭素原子が1~20個の2価の基であり、及び、R’は、炭素原子が1~20個の基である〕 を含んでいる、請求項1から8のいずれか1項の方法。」と補正する。 (4)請求項12に係る補正 補正前の請求項12である 「【請求項12】 ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコール由来のエーテル類、ポリグリコール由来のエーテル類、脂肪アルコール由来のエーテル類、炭水化物由来のエーテル類、ベンジルアルコール由来のエーテル類、フェノール誘導体由来のエーテル類、ノバラック樹脂(novalac resins)由来のエーテル類及びそれらの組合せから選択される、 請求項11の方法。」を, 補正後の請求項12である 「【請求項12】 ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコール、ポリグリコール、脂肪アルコール、炭水化物、ベンジルアルコール、フェノール誘導体、ノボラック樹脂及びそれらの組合せを脱水縮合されて得られるビニルエーテル又はアリルエーテルから選択される、 請求項1の方法。」と補正する。 2 補正の適否 (1)新規事項 ア 新規事項の解釈について 本件補正が外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものか否かの判断基準は,当該補正が,外国語書面の翻訳文に記載された事項のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したか否かによって判断すべきと解される(平成18年(行ケ)第10563号)。 よって,この観点に立って判断する。 イ 外国語書面の翻訳文の記載について 外国語書面の翻訳文には以下の事項が記載されている。 (a)「【請求項1】 エポキシエチルエーテル又はグリシジルエーテルを製造する方法であって、 水性反応媒体中で水溶性マンガン錯体の存在下にビニルエーテル又はアリルエーテルを酸化剤と反応させることを含み、前記水溶性マンガン錯体は、酸化触媒を含み、前記水溶性マンガン錯体が、一般式(I): [LMnX3]Y(I) の単核錯体又は一般式(II): [LMn(μ-X)3MnL](Y)n(II) の二核錯体 〔ここで、Mnは、マンガンであり;Lは、又は、各Lは独立して、多座配位子であり;各Xは独立して、配位化学種であり、及び、各μ-Xは独立して、配位架橋化学種であり;Yは、非配位対イオンを含む〕であることを特徴とし、また、反応が、1.0から6.0の範囲内のpHで実施される、前記方法。 【請求項2】 各Xが独立して配位化学種であり、及び、各μ-Xが独立して、RO-、Cl-、Br-、I-、F-、NCS-、N3-、I3-、NH3、NR3、RCOO-、RSO3-、RSO4-、OH-、O2-、O22-、HOO-、H2O、SH-、CN-、OCN-及びS42-及びそれらの組合せからなる群から選択される配位架橋化学種であり、ここで、Rが、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択されるC1-C20ラジカルである、請求項1の方法。 【請求項3】 各多座配位子が、独立して、その骨格内に少なくとも7個の原子を含んでいる非環式化合物又はその環内に少なくとも9個の原子を含んでいる環式化合物から選択され、ここで、各多座配位子が3個の窒素原子(窒素原子は少なくとも2個の炭素原子で隔てられている。)を有する、請求項1の方法。 【請求項4】 酸化触媒として二核水溶性マンガン錯体を使用する、請求項1から3のいずれか1項の方法。 【請求項5】 前記触媒を、1:10から1:10,000,000の触媒(Mn)対過酸化水素のモル比で使用する、請求項1から4のいずれか1項の方法。 【請求項6】 前記水性反応媒体が、10体積%未満の共溶媒を含んでいる水相である、請求項1から5のいずれか1項の方法。 【請求項7】 水性反応媒体が、さらに緩衝液系および1.0から6.0の範囲内のpHを含む、請求項1から6のいずれか1項の方法。 【請求項8】 反応を、-5℃から40℃の範囲内の温度で実施する、請求項1から7のいずれか1項の方法。 【請求項9】 過酸化水素を、15%から98%の濃度の水溶液として使用する、請求項1から8のいずれか1項の方法。 【請求項10】 ビニルエーテル又はアリルエーテルが、分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子を含む、請求項1から9のいずれか1項の方法。 【請求項11】 ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコール又は芳香族アルコールを含んでいる、請求項10の方法。 【請求項12】 ビニルエーテル又はアリルエーテルが、一般式: 【化1】 〔式中、Rは、1個以上のヘテロ原子を場合により含んでいてもよい1個以上の炭素原子ラジカルであり、及び、R’は、1個以上の炭素原子の2価ラジカルである〕 を含んでいる、請求項1から9のいずれか1項の方法。 【請求項13】 ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコールのエーテル類、ポリグリコールのエーテル類、脂肪アルコールのエーテル類、炭水化物のエーテル類、ベンジルアルコールのエーテル類、フェノール誘導体のエーテル類、ノバラック樹脂(novalac resins)のエーテル類及びそれらの組合せから選択される、請求項12の方法。 【請求項14】 ビニルエーテル又はアリルエーテルが、ジビニルエーテル、ジアリルエーテル、アリルn-ブチルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、ビニルアリルエーテル、エチルビニルエーテル、エチレンジビニルジエーテル及びそれらの組合せからなる群から選択される、 請求項12の方法。 【請求項15】 過酸化水素を当該接触酸化の反応速度とほぼ等しい速度で水性反応媒体に添加する、請求項1から14のいずれか1項の方法。 【請求項16】 ビニルエーテル又はアリルエーテルと酸化剤のモル比が1:2を越え約12:1までである、請求項1から15のいずれか1項の方法。」 (b)「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明者らは、グリシジルエーテル類へと至る、エピクロロヒドリンに依存しない代替的な経路を見いだすことを試みた。さらに、この新規経路は、グリシジルエーテル類が使用される同じ用途で使用されるエポキシエチルエーテル類を調製する可能性も開く。本発明は、そのそうな生成物へと至る魅力的な経路を提供する。 【課題を解決するための手段】 【0007】 従って、本発明は、水性反応媒体中で水溶性マンガン錯体(ここで、該水溶性マンガン錯体は、酸化触媒を含む)の存在下にビニルエーテル又はアリルエーテルを酸化剤と反応させることを含む、エポキシエチルエーテル又はグリシジルエーテルを製造する方法を提供し、ここで、該方法は、該水溶性マンガン錯体が、一般式(I):[LMnX3]Y(I)の単核錯体又は一般式(II):[LMn(μ-X)3MnL](Y)n(II)の二核錯体〔ここで、Mnは、マンガンであり;Lは、又は、各Lは独立して、多座配位子であり;各Xは独立して、配位化学種であり、及び、各μ-Xは独立して、配位架橋化学種であり;Yは、非配位対イオンである〕であることを特徴とし、また、該反応は、1.0から6.0の範囲内のpHで実施される。」 (c)「【0014】 一実施形態では、該触媒は、1つの配位子又は複数の配位子に配位結合している1個のマンガン原子又は複数のマンガン原子を含んでいる。1個又は複数個の当該マンガン原子は、II、III又はIVの酸化状態にあることができ、そして、当該反応中に活性化され得る。特に興味深いのは、二核マンガン錯体である。従って、適切なマンガン錯体としては、一般式(I): [LMnX3]Y(I) の単核化学種、及び、一般式(II): [LMn(μ-X)3MnL](Y)n(II) の二核化学種などを挙げることができ、ここで、上記式中、Mnは、マンガンであり;Lは、又は、各Lは独立して、多座配位子、好ましくは、3個の窒素原子を含んでいる環式化合物又は非環式化合物である。各Xは、独立して、配位化学種であり、及び、各μ-Xは、独立して、配位架橋化学種であって、それらは、RO-、Cl-、Br-、I-、F-、NCS-、N3-、I3-、NH3、NR3、RCOO-、RSO3-、RSO4-、OH-、O2-、O22-、HOO-、H2O、SH-、CN-、OCN-及びS42-及びそれらの組合せからなる群から選択され、ここで、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択されるC1-C20ラジカルである。Yは、非配位対イオンである。非配位対イオンYは、該錯体の電荷的中性をもたらすことができ、nの値は、カチオン性錯体とアニオン性対イオンYの電荷に依存し、例えば、nは、1又は2であり得る。対イオンYは、例えば、RO-、Cl-、Br-、I-、F-、SO42-、RCOO-、PF6-、トシラート、トリフラート(CF3SO3-)及びそれらの組合せからなる群から選択されるアニオンであり得る(ここで、Rは、再度、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択されるC1-C20ラジカルである)。アニオンのタイプは全く重要ではないが、数種類のアニオンは他のアニオンよりも好ましい。一実施形態では、非配位対イオンとして、CH3COO-又はPF6-のイオンを使用することができる。 【0015】 本発明に適している配位子は、その骨格内に少なくとも7個の原子を含んでいる非環式化合物又はその環内に少なくとも9個の原子を含んでいる環式化合物であり、これらは、それぞれ、少なくとも2個の炭素原子で隔てられた複数の窒素原子を有している。配位子の好ましい種類は、(置換されている)トリアザシクロノナン(“Tacn”)に基づく配位子である。適切な一配位子は、1,4,7-トリメチル-1,4,7,-トリアザシクロノナン(TmTacn)であり、これは、例えば、Aldrichから市販されている。これに関して、上記マンガン触媒の水溶解性が上記で挙げた全ての触媒成分の作用であるということに留意することは重要である。水溶性マンガン錯体を使用する本発明の有利点は、該触媒が本質的に有機相に移動しないことである。」 (d)「【0020】 該水性反応媒体は、ビニルエーテル又はアリルエーテル及び/又はそれらのそれぞれのエポキシ化生成物並びに存在する場合には10体積%未満(好ましくは、ほんの少量)の別の有機化合物を含んでいる水相であり得る。好ましいわけではないが、該反応媒体は、少量の共溶媒(これは、例えば、アセトン、メタノール及び別の水溶性アルコール類を包含する)を含むことができる。反応物及びそれらのエポキシ化生成物の存在を除いた場合、該水性反応媒体は、従って、適切には、少なくとも90体積%(v%)の水を含有し、好ましくは、95v%の水、さらに好ましくは、99v%の水、及び、さらに一層好ましくは、99.9v%の水を含有している。一実施形態では、該水性反応媒体は(この場合もやはり、その水性反応媒体の中に溶解している全ての反応物及び/又はそれらのエポキシ化生成物を除いて)、本質的に100%水相である。」 (e)「【0026】 本発明の方法で使用する出発物質は、モノアルコール、ジオール、トリオール、テトラオール又はポリオールに基づくビニルエーテル又はアリルエーテルであり得る。従って、当該分子内に2以上のエーテル基を有するエーテル類が包含される。それは、脂肪族アルコール又は芳香族アルコールに基づき得る。さらに好ましくは、ジオールのジビニルエーテル類又はジアリルエーテル類、例えば、モノエチレングリコールのジビニルエーテル又はポリエチレングリコールのジビニルエーテルなどを使用する。ビスフェノール-A又はビスフェノール-F又は類似した芳香族ポリオール類のジビニルエーテル又はジアリルエーテルも同様に適切である。例えばペンタエリトリトール及び一般的な糖類の、トリエーテル類及びテトラエーテル類も同様に興味深い 該出発物質は、好ましくは、下記一般式のエーテルである: 【0027】 【化1】 上記式中、Rは、1個以上のヘテロ原子(例えば、酸素、窒素又はケイ素)を場合により含んでいてもよい1個以上の炭素原子からなるラジカルであり、及び、R’は、1個以上のヘテロ原子を場合により含んでいてもよい1個以上の炭素原子からなる2価ラジカルであり、ここで、該R’は、1以上のビニルオキシ置換基又はアリルオキシ置換基を有していてもよい。適切な例としては、ジビニルエーテル、ジアリルエーテル、アリルn-ブチルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、ビニルアリルエーテル、エチルビニルエーテル、エチレンジビニルジエーテル、1,4-ジグリシジルブチレンジエーテル、テトラアリルペンタエリトリトールテトラエーテル及びそれらの組合せなどを挙げることができる。 【0028】 出発物質として特に興味深いのは、アリル基で官能基化されているジオール類である。 これらの生成物は、例えば、2段階方法で製造することができる。例えば、第1段階において、アルコール類を脱水することによってエーテル類を調製することができる。 【0029】 【化2】 【0030】 2番目の段階において、当該エーテル類のエポキシ化を実施することができる。 【0031】 【化3】 【0032】 ビスフェノール-A(BPA)又はビスフェノール-F(BPF)の上記変換も同様に興味深い。下記反応スキームに示されているように、対応するエーテル類を形成させるために、BPA(反応スキーム)をアリルアルコールと反応させることができる。次いで、対応するエポキシ樹脂を形成させるために、そのエーテル類をエポキシ化に付す。 【0033】 【化4】 【0034】 対応するエーテル類を形成させるために、同様の方法によって、BPFをアリルアルコールと反応させることができる。例えば、BPAのビニルエーテル類は、「Advanced Organic Chemistry, Reactions, Mechanisms and Structure 5th edition M. Smith, J. March」に記載されているように、よく知られているウィリアムソン反応によって、塩化ビニルをBPAのアルコキシドと反応させることにより、製造することができる。」 (f)「【0036】 かくして、本発明において適切に使用されるビニルエーテル類及びアリルエーテル類の種類としては、以下のものを挙げることができる。 【0037】 一実施形態では、該アリルエーテル類及びビニルエーテル類は、脂肪族アルコールのモノアリルエーテル類、ビス(ジ)アリルエーテル類、トリス(トリ)アリルエーテル類及びポリアリルエーテル類並びにモノビニルエーテル類、ビス(ジ)ビニルエーテル類、トリス(トリ)ビニルエーテル類及びポリ-ビニルエーテル類である。脂肪族アルコールの上記アリルエーテル類又はビニルエーテル類は、第1級置換基、第2級置換基又は第3級置換基を有し得る。脂肪族アルコールの上記アリルエーテル類又はビニルエーテル類は、少なくとも以下の構造(Ia)又は構造(Ib)を有することができ、ここで、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は有機基(ここで、該有機基は、1個以上の炭素原子、例えば、1から20個の炭素原子を有している)を含んでいる。該有機基は、それぞれ、直鎖有機基、分枝鎖有機基又は環式有機基であり得る。該有機基は、それぞれ、さらに、アリル基(これは、アリルエーテル基を包含する)、ビニル基(これは、ビニルエーテル基を包含する)、アルコール基、ハロゲン原子及びそれらの組合せを有している置換された有機基であることもできる。該有機基は、さらに、酸素原子(エーテル基)、硫黄原子(チオール基)、窒素原子(アミノ基)及びそれらの組合せなどの非炭素原子も含み得る。 【0038】 【化5】 【0039】 そのような化合物の例は、可能な場合には、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,4-ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、1,6-ヘキサンジオール、n-ブタノール、1-デカノール、2-ブトキシエタノール、2-エチルヘキサノール、3-ジエチルアミノ-1,2-プロパンジオール、ジブロモネオペンチルグリコール、ブチルジグリコール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、ペンタエリトリトール、トリメチロールエタン、4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジシクロヘキサノール、ジグリセリン、2-ブタノール及びそれらの組合せのモノアリルエーテル類、ジアリルエーテル類及びトリアリルエーテル類である。8(C8)から15(C15)個の炭素原子を有する脂肪族アルコール(これは、C8-C10、C12-C14及びC13-C15の炭素原子を有するアルコールを包含する)のアリルエーテル類も、本明細書中に記載されている方法で使用することができる。 【0040】 この種類を代表するさらなるエーテル化合物としては、構造(II): 【0041】 【化6】 から調製される、ポリグリコール(ここで、nは、1から100、例えば、7である)のモノアリルエーテル類、ビス(ジ)アリルエーテル類、トリス(トリ)アリルエーテル類及びポリアリルエーテル類などがある。 【0042】 そして、油のポリアリルエーテル、これは、一例を挙げれば、ヒマシ油のポリアリルエーテルは、マンガン錯体の存在下で酸化剤と反応した後、ヒマシ油ポリグリシジルエーテルを形成し得る。 【0043】 基体の別の種類は、構造(III) 【0044】 【化7】 〔ここで、各Rは独立して、水素原子、ビニル基又はアリル基であるが、少なくとも1のRは、ビニル基又はアリル基である〕 を有する炭水化物から誘導されるポリアリルエーテル類又はポリビニルエーテル類である。糖アルコールのポリアリルエーテル類又はポリビニルエーテル類には、さらに、それらの誘導体も包含される。そのような化合物の例としては、アラビトール(5-炭素)、キシリトール(5-炭素)、リビロール(5-炭素)、エリトリトール(4-炭素)、トレイトール(4-炭素)、マンニトール(6-炭素)、ズルシトール(6-炭素)及びソルビトール(6-炭素)のポリアリルエーテル類又はポリビニルエーテル類、例えば、ソルビトールのテトラアリルエーテルなどを挙げることができる。 【0045】 適切な基体の別の種類は、フェノール誘導体及びベンジルアルコール類のモノアリルエーテル類、ビス(ジ)アリルエーテル類、トリス(トリ)アリルエーテル類及びポリアリルエーテル類並びにモノビニルエーテル類、ビス(ジ)ビニルエーテル類、トリス(トリ)ビニルエーテル類及びポリビニルエーテル類である。このようなものとしては、少なくとも下記構造: 【0046】 【化8】 〔ここで、Rは、当該アリルオキシ基に関してオルト位、メタ位又はパラ位に位置している炭素原子、水素原子、ハロゲン原子、窒素原子、硫黄原子又は酸素原子である〕 を有しているモノフェノール、ビスフェノール、トリスフェノール及びポリフェノールのフェノール誘導体などがある。 【0047】 このようなものとしては、可能な場合には、フェノール、4-tert-ブチルフェノール、2,4-ジブロモフェノール、4-(1,1,3,3)-テトラメチルブチルフェノール、4-(2-フェニルイソプロピル)フェノール、ノニルフェノール、o-クレゾール、p-メトキシフェノール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF、ビスフェノールP、ビスフェノールM、p-tert-ブチルフェノール、レゾルシン、スチレン化フェノール、テトラフェニロエタン(tetraphenyloethane)、トリスフェノール、ベンジルアルコール及びそれらの組合せのモノアリルエーテル類、ジアリルエーテル類及びトリアリルエーテル類などがある。上記化合物の水素化された種類のもの(例えば、水素化ビスフェノールA)も使用し得る。上記化合物のハロゲン化された種類のものの例としては、とりわけ、テトラ-ブロモビスフェノールA及びフルオレンビスフェノールなどを挙げることができる。上記化合物の窒素で置換されている種類のものの例は、(N,N)-ジアリル-p-アミノフェノールである。 【0048】 この種類を代表するさらなるエーテル化合物としては、ノボラック(novolac)化合物のアリルエーテル類などがある。ノボラック樹脂を形成させるのに使用されるフェノールの例としては、以下のものを挙げることができる:フェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クレゾール、キシレノール類、例えば、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、3,5-キシレノール、及び、3,4-キシレノール;アルキルフェノール類、例えば、m-エチルフェノール、p-エチルフェノール、o-エチルフェノール、2,3,5-トリメチルフェノール、2,3,5-トリエチルフェノール、4-tert-ブチルフェノール、3-tert-ブチルフェノール、2-tert-ブチルフェノール、2-tert-ブチル-4-メチルフェノール、及び、2-tert-ブチル-5-メチルフェノール;アルコキシフェノール類、例えば、p-メトキシフェノール、m-メトキシフェノール、p-エトキシフェノール、m-エトキシフェノール、p-プロポキシフェノール、及び、m-プロポキシフェノール;イソプロペニルフェノール類、例えば、o-イソプロペニルフェノール、p-イソプロペニルフェノール、2-メチル-4-イソプロペニルフェノール、及び、2-エチル-4-イソプロペニルフェノール;アリールフェノール類、例えば、フェニルフェノール;及び、ポリヒドロキシフェノール類、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ビスフェノールA、レゾルシノール、ヒドロ-キノン、及び、ピロガロール。これらのフェノール類は、単独で使用し得るか、又は、2種類以上の化合物の組合せで使用し得る。上記フェノール類の中で、m-クレゾール、p-クレゾール、2,5-キシレノール、3,5-キシレノール及び2,3,5-トリメチルキシレノールが好ましい。 【0049】 そのようなノバラック類(novalacs)の例は、フェノールノボラックのポリアリルエーテル類及びそれらの誘導体、例えば、ジシクロペンタジエンノボラックのポリアリルエーテル類、o-クレゾールノボラックのポリアリルエーテル類、ビスフェノールAホルムアルデヒドノボラックのポリアリルエーテル類及びビスフェノールFホルムアルデヒドノボラックのポリアリルエーテル類などである。」 (g)[【0066】 実施例1 アリルn-ブチルエーテルの接触エポキシ化(catalytic epoxidation)は、機械式撹拌機、冷却ジャケット及びボトムバルブが付いている(facilitated with)四つ口ガラス製反応器の中で、5℃で、触媒として[(TmTacn)2MnIV2(μ-O)3]2+(CH3COO-)2を用いて実施することができる。 【0067】 触媒:共触媒の比率は、1:60であり得る。かくして、100mLの水の中に約23μmolの触媒を添加した後、撹拌条件下にあるガラス製反応器の中に、0.675mmolのシュウ酸ナトリウム及び0.675mmolのシュウ酸を添加することができる。 酸化剤としての希H2O2を添加して、反応を開始させることができる。当該反応溶液の中に、例えば10mL/時間の流量で、総量で300mmolの酸化剤を添加する。酸化剤の供給は、最初の2.8時間以内で完了することが可能であり、その後しばらくの間は反応を継続させることができる。反応後、反応器の中の水溶液を分析して、H2O2の残留レベルを求めることができる。反応器内の未反応の過酸化水素は、Na2SO3で中和することができる。次いで、反応器内の水溶液及び有機溶液をGCで分析して、当該反応のエポキシ化の量を求めることができる。 【0068】 実施例2 n-ブチルビニルエーテルの接触エポキシ化は、実施例1と同様に実施することができる。該反応は、機械式撹拌機、冷却ジャケット及びボトムバルブが付いている四つ口ガラス製反応器の中で、5℃で、触媒として[(TmTacn)2MnIV2(μ-O)3] 2+(CH3COO-)2を用いて実施することができる。 【0069】 エチルビニルエーテルに対する生成物選択性及び反応性は、対応するエチルアリルエーテルよりも低いと予期される。これは、ビニル基におけるC=C結合がC=O結合と共役しており、このことが、それをアリル基内のC=C結合よりも電子的に欠乏した状態にするという事実に起因している。反応後、反応器の中の水溶液を分析して、H2O2の残留レベルを求めることができる。反応器内の未反応の過酸化水素は、Na2SO3で中和することができる。次いで、反応器内の水溶液及び有機溶液をGCで分析することができる。」 ウ 判断 (ア)請求項1に係る補正 外国語書面の翻訳文には,出発物質である「ビニルエーテル又はアリルエーテル」が, 「モノアルコール、ジオール、トリオール、テトラオール又はポリオールに基づくビニルエーテル又はアリルエーテル」であること, 「【化1】 上記式中、Rは、1個以上のヘテロ原子(例えば、酸素、窒素又はケイ素)を場合により含んでいてもよい1個以上の炭素原子からなるラジカルであり、及び、R’は、1個以上のヘテロ原子を場合により含んでいてもよい1個以上の炭素原子からなる2価ラジカルであり、ここで、該R’は、1以上のビニルオキシ置換基又はアリルオキシ置換基を有していてもよい。」ものであることが記載されている(摘記a,e参照)。 外国語書面の翻訳文には,さらに,「該アリルエーテル類及びビニルエーテル類は、脂肪族アルコールのモノアリルエーテル類、ビス(ジ)アリルエーテル類、トリス(トリ)アリルエーテル類及びポリアリルエーテル類並びにモノビニルエーテル類、ビス(ジ)ビニルエーテル類、トリス(トリ)ビニルエーテル類及びポリ-ビニルエーテル類である」であって,「以下の構造(Ia)又は構造(Ib)を有することができ、ここで、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は有機基(ここで、該有機基は、1個以上の炭素原子、例えば、1から20個の炭素原子を有している)を含んでいる。」 「 」こと, 「エーテル化合物」が,「構造(II): から調製される、ポリグリコール(ここで、nは、1から100、例えば、7である)のモノアリルエーテル類、ビス(ジ)アリルエーテル類、トリス(トリ)アリルエーテル類及びポリアリルエーテル類」であること, 「構造(III) 〔ここで、各Rは独立して、水素原子、ビニル基又はアリル基であるが、少なくとも1のRは、ビニル基又はアリル基である〕 を有する炭水化物から誘導されるポリアリルエーテル類又はポリビニルエーテル類」であること, 「フェノール誘導体及びベンジルアルコール類のモノアリルエーテル類、ビス(ジ)アリルエーテル類、トリス(トリ)アリルエーテル類及びポリアリルエーテル類並びにモノビニルエーテル類、ビス(ジ)ビニルエーテル類、トリス(トリ)ビニルエーテル類及びポリビニルエーテル類」であって, 「下記構造: 〔ここで、Rは、当該アリルオキシ基に関してオルト位、メタ位又はパラ位に位置している炭素原子、水素原子、ハロゲン原子、窒素原子、硫黄原子又は酸素原子である〕」であること, 「ノボラック(novolac)化合物のアリルエーテル類」であることがそれぞれ記載されている(摘記f参照)。 しかしながら,外国語書面の翻訳文には,補正後の請求項1に記載される「固体ビニルエーテル又はアリルエーテルを除くビニルエーテル又はアリルエーテル」についての記載はない。 一方,外国語書面の翻訳文の記載(摘記b参照)からみて,補正後の請求項1に記載された発明は,「エピクロロヒドリンを使用しないグリシジルエーテル又はエポキシエチルエーテルを調製する経路を提供すること」をその課題にするものと認められるところ,そのような課題を解決できる範囲のビニルエーテル又はアリルエーテルとして,上述の各種の「ビニルエーテル又はアリルエーテル」が記載されているものといえる。 ところが,補正後の「固体ビニルエーテル又はアリルエーテルを除くビニルエーテル又はアリルエーテル」との技術的事項は,そのような課題を解決できる「ビニルエーテル又はアリルエーテル」の範囲を新たに定めたものといえ,また,「ビニルエーテル又はアリルエーテル」のうち,「固体ビニルエーテル又はアリルエーテル」のみが上記の課題を解決できない範囲であることを,外国語書面の翻訳文の記載から当業者が導くことができるとはいえない。 してみると,補正後の請求項1に記載された「固体ビニルエーテル又はアリルエーテルを除くビニルエーテル又はアリルエーテル」との技術的事項は,外国語書面の翻訳文のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものといわざるを得ない。 (イ)請求項9に係る補正 補正前の請求項9の「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子を含む」との発明特定事項に対応する記載は,その意味するところがその文言から明確とはいえないものの,外国語書面の翻訳文に記載されていたといえる(摘記a参照)。 一方,補正後の請求項9に記載される,「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子である」との発明特定事項については,外国語書面の翻訳文に記載されていない。 補正後の上記発明特定事項を,文言どおり解釈すれば,「ビニルエーテル又はアリルエーテル」が,「分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子である」もの,すなわち,ビニルエーテル又はアリルエーテルそのものが分子であるから,「ビニルエーテル又はアリルエーテル」であると同時に,「モノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子」でもあることとなる。 一方,外国語書面の翻訳文には,上記アで述べたとおり,「モノアルコール、ジオール、トリオール、テトラオール又はポリオールに基づくビニルエーテル又はアリルエーテルであり得る」との記載がある(摘記e参照)が, 「アリル基で官能基化されているジオール類」などの「アルコール類を脱水することによって」調製された「エーテル類」であることが,以下の反応式「 」とともに記載され(摘記e参照),「フェノール誘導体及びベンジルアルコール類のモノアリルエーテル類」の構造が 「 」として記載されている(摘記f参照)ことも合わせみれば,補正前の請求項9に記載される「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子を含む」との発明特定事項は,モノアルコール、ジオール、トリオール、テトラオール又はポリオールを脱水縮合して得られるビニルエーテル又はアリルエーテルを意味していたものと解するのが自然である。 してみると,「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子である」との発明特定事項は,その文言どおりの意味として外国語書面の翻訳文に記載されているとはいえず,外国語書面の翻訳文のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものといわざるを得ない。 (ウ)請求項11に係る補正 補正後の請求項11の「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、式: 【化1】 〔式中、Rは、炭素原子が1~20個の2価の基であり、及び、R’は、炭素原子が1~20個の基である〕」との補正事項については,これらの「ビニルエーテル又はアリルエーテル」の「R」が「1個以上の炭素原子ラジカル」,「R’」が「1個以上の炭素原子の2価ラジカル」として(なお,「ラジカル」は「基」の誤訳として,「R」が「1個以上の炭素原子の2価の基」,「R’」が「炭素原子が1個以上の基」の誤記としてその後補正されている。),外国語書面の翻訳文に記載されていた(摘記a,e参照)ところ,「Rは、炭素原子が1~20個の2価の基であり、及び、R’は、炭素原子が1~20個の基である」との補正事項が導入されたものである。 外国語書面の翻訳文には,「以下の構造(Ia)又は構造(Ib)」 「 」の「R1、R2、R3」として,「有機基(ここで、該有機基は、1個以上の炭素原子、例えば、1から20個の炭素原子を有している)」ことが記載されている(摘記f参照)が, 「 」の「R」,「R’」と, 「以下の構造(Ia)又は構造(Ib) 」の「R1、R2、R3」とは異なった化学式の定義であるから,「構造(Ia)又は構造(Ib)」の「R1、R2、R3」が「1から20個の炭素原子を有している」との記載から, 「 」の「式中、Rは、炭素原子が1~20個の2価の基であり、及び、R’は、炭素原子が1~20個の基である」ことを導くことができるとはいえない。 また,補正前の請求項1を引用する補正前の請求項11において,「R」,「R’」の炭素原子が20個よりも大きいものの中には,固体の「ビニルエーテル又はアリルエーテル」も含まれ得るものであったところ,炭素原子の上限を20個としたことにより,そのような課題を解決できないものが除外され,その技術的な意味が変わることになるから,上記(ア)で述べたとおり,請求項11に係る補正も,外国語書面の翻訳文のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものといわざるを得ない。 エ 小括 以上のとおりであるから,請求項1に係る補正,請求項9に係る補正及び請求項11に係る補正を含む本件補正は,外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものではないので,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 (2)補正の目的 平成28年6月6日付けの拒絶理由通知は,最後の拒絶理由通知であるから,これに対して特許請求の範囲を補正する本件補正は,特許法第17条の2第5項各号のいずれかを目的とするものに限られる。 ア 請求項1に係る補正 補正後の請求項1に係る補正のうち,補正前の「ビニルエーテル又はアリルエーテル」を補正後の「固体ビニルエーテル又はアリルエーテルを除くビニルエーテル又はアリルエーテル」とする補正事項は,請求項1の発明特定事項である「ビニルエーテル又はアリルエーテル」を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 また,補正後の請求項1に係る補正のうち,補正前の「多座配位子」を,補正後の「各多座配位子は、独立して、トリアザシクロノナン又は置換トリアザシクロノナンから選択され」るものとする補正事項も,請求項1の発明特定事項である「多座配位子」を限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 そして,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから,請求項1に係る補正は, 特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ 請求項9に係る補正 請求項9において,補正前の「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子を含む」との発明特定事項を,「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子である」とする補正事項については,上記(1)ウ(イ)で述べた文言どおりの意味であれば,その意味は明確であり,「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものに該当するといえる。 仮に,上記補正事項について,外国語書面の翻訳文から導くことのできる「ビニルエーテル又はアリルエーテル」が「モノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子」を「脱水縮合して得られたもの」の意味に解するというのであれば,補正後の「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子である」との発明特定事項はそのような意味に解せない点で明確とはいえないから,請求項9に係る補正が特許法第17条の2第5項第4号の「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものに該当するものとはいえない。 ウ 請求項11に係る補正 請求項11に係る補正は,補正前の「〔式中、Rは、炭素原子が1個以上の2価の基であり、及び、R’は、炭素原子が1個以上の基である〕」との発明特定事項を,「〔式中、Rは、炭素原子が1~20個の2価の基であり、及び、R’は、炭素原子が1~20個の基である〕」と補正するものであるが,炭素数と価数のみでは,その具体的な構造が明確に特定できるとはいえないから,補正後の請求項11の「ビニルエーテル又はアリルエーテル」に何が含まれるのかが依然として明確とはいえず,「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものに該当するとはいえない。 そして,上記補正事項が,特許請求の範囲の減縮にも,誤記の訂正を目的とするものにも当たらないことは明らかであるから,請求項11に係る補正は,特許法第17条の2第5項各号のいずれをも目的とする補正とも認められない。 エ 請求項12に係る補正 補正前の請求項12は,請求項11を引用して記載されていたところ,補正後の請求項12は,補正後の請求項1を引用して記載され,かつ,補正前の「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコール由来のエーテル類、ポリグリコール由来のエーテル類、脂肪アルコール由来のエーテル類、炭水化物由来のエーテル類、ベンジルアルコール由来のエーテル類、フェノール誘導体由来のエーテル類、ノバラック樹脂(novalac resins)由来のエーテル類及びそれらの組合せから選択される」との発明特定事項を,補正後の「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコール、ポリグリコール、脂肪アルコール、炭水化物、ベンジルアルコール、フェノール誘導体、ノボラック樹脂及びそれらの組合せを脱水縮合されて得られるビニルエーテル又はアリルエーテルから選択される」と補正したものである。 補正前の請求項12は,補正前の請求項11の 「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、式: 〔式中、Rは、炭素原子が1個以上の2価の基であり、及び、R’は、炭素原子が1個以上の基である〕」であって,「脂肪族アルコール由来のエーテル類、ポリグリコール由来のエーテル類、脂肪アルコール由来のエーテル類、炭水化物由来のエーテル類、ベンジルアルコール由来のエーテル類、フェノール誘導体由来のエーテル類、ノバラック樹脂(novalac resins)由来のエーテル類及びそれらの組合せから選択される」ものであったところ,補正後の請求項12は,補正後の請求項1の 「固体ビニルエーテル又はアリルエーテルを除くビニルエーテル又はアリルエーテル」であって,「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコール、ポリグリコール、脂肪アルコール、炭水化物、ベンジルアルコール、フェノール誘導体、ノボラック樹脂及びそれらの組合せを脱水縮合されて得られるビニルエーテル又はアリルエーテルから選択される」ものとなったから, 「 」ではない「固体ビニルエーテル又はアリルエーテルを除くビニルエーテル又はアリルエーテル」もその範囲に含むものとなるので,請求項12に係る補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとはいえない。 次に,「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコール由来のエーテル類、ポリグリコール由来のエーテル類、脂肪アルコール由来のエーテル類、炭水化物由来のエーテル類、ベンジルアルコール由来のエーテル類、フェノール誘導体由来のエーテル類、ノバラック樹脂(novalac resins)由来のエーテル類及びそれらの組合せから選択される」との発明特定事項を,補正後の請求項12である「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコール、ポリグリコール、脂肪アルコール、炭水化物、ベンジルアルコール、フェノール誘導体、ノボラック樹脂及びそれらの組合せを脱水縮合されて得られるビニルエーテル又はアリルエーテルから選択される」とする補正事項に関して検討すると,平成28年6月6日付けの拒絶理由通知は,補正前の請求項12に対して,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(新規事項)との拒絶理由を指摘するのみで,当該記載が不明瞭である旨(明確性)の拒絶理由は指摘していない。 そして,特許法17条の2第5項4号は,「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」と規定しているから,「明りょうでない記載の釈明」を目的とする補正は,法律上,審判合議体が拒絶理由中で特許請求の範囲が明りょうでない旨を指摘した事項について,その記載を明りょうにする補正を行う場合に限られており,「新規事項の追加状態を解消する」目的の補正が特許法17条の2第5項4号に該当する余地はない(平成19年行(ケ)第10159号参照)ことからすると,上記補正事項が「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものに該当するとはいえない。 さらに,補正後の請求項12は,「ノボラック樹脂を脱水縮合されて得られるビニルエーテル又はアリルエーテル」がその範囲に含まれているが,「ノボラック樹脂」は明らかに固体である以上,それを「脱水縮合されて得られるビニルエーテル又はアリルエーテル」も固体であるといえるところ,補正後の請求項12が引用する請求項1の「ビニルエーテル又はアリルエーテル」は「固体ビニルエーテル又はアリルエーテルを除く」ものであるから,記載が矛盾しており,補正後の請求項12の「ビニルエーテル又はアリルエーテル」に何が含まれるのかが明確とはいえず,この点からも「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものに該当するとはいえない。 そして,上記補正事項が全体として誤記の訂正を目的とするものにも当たらないことは明らかであるから,請求項12に係る補正は,特許法第17条の2第5項各号のいずれをも目的とする補正とも認められない。 オ 小括 以上のとおりであるから,請求項11,12に係る補正を含む本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定を満たさない。 仮に,請求項9に係る補正が,上記(1)ウ(イ)で述べたとおりの意味に解さないというのであれば,請求項9に係る補正を含む本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定を満たさない。 (3)独立特許要件(特許法第36条第6項第1号) 請求項1に係る補正は,特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから,補正後の請求項1に記載されている事項により特定された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものでなければならないので以下検討する。 ア 特許法第36条第6項第1号の解釈 特許法第36条第6項は,「第二項の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は,明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている(平成17年(行ケ)第10042号)。 以下,この観点に立って,判断する。 イ 特許請求の範囲の記載 補正後の請求項1に係る特許請求の範囲の記載は,上記1(1)に記載したとおりである。 ウ 発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。なお,発明の詳細な説明の記載のうち,上記(1)イに摘記した外国語翻訳文の記載と同じところはその記載をそのまま引用し,異なる記載がある場合のみ以下に摘記する。 (g’)[【0066】 実施例1 アリルn-ブチルエーテルの接触エポキシ化(catalytic epoxidation)は、機械式撹拌機、冷却ジャケット及びボトムバルブが付いている(facilitated with)四つ口ガラス製反応器の中で、5℃で、触媒として[(TmTacn)2MnIV2(μ-O)3]2+(CH3COO-)2を用いて実施することができる。 【0067】 触媒:共触媒の比率は、1:60であり得る。かくして、100mLの水の中に約23μmolの触媒を添加した後、撹拌条件下にあるガラス製反応器の中に、0.675mmolのシュウ酸ナトリウム及び0.675mmolのシュウ酸を添加することができる。 酸化剤としての希H2O2を添加して、反応を開始させることができる。当該反応溶液の中に、例えば10mL/時間の流量で、総量で300mmolの酸化剤を添加する。酸化剤の供給は、最初の2.8時間以内で完了することが可能であり、その後しばらくの間は反応を継続させることができる。反応後、反応器の中の水溶液を分析して、H2O2の残留レベルを求めることができる。反応器内の未反応の過酸化水素は、Na2SO3で中和することができる。次いで、反応器内の水溶液及び有機溶液をGCで分析して、当該反応のエポキシ化の量を求めることができる。 【0068】 実施例2 n-ブチルビニルエーテルの接触エポキシ化は、実施例1と同様に実施することができる。該反応は、機械式撹拌機、冷却ジャケット及びボトムバルブが付いている四つ口ガラス製反応器の中で、5℃で、触媒として[(TmTacn)2MnIV2(μ-O)3] 2+(CH3COO-)2を用いて実施することができる。 【0069】 エチルビニルエーテルに対する生成物選択性及び反応性は、対応するエチルアリルエーテルよりも低いと予期される。これは、ビニル基におけるC=C結合がC-O結合と共役しており、このことが、それをアリル基内のC=C結合よりも電子的に欠乏した状態にするという事実に起因している。反応後、反応器の中の水溶液を分析して、H2O2の残留レベルを求めることができる。反応器内の未反応の過酸化水素は、Na2SO3で中和することができる。次いで、反応器内の水溶液及び有機溶液をGCで分析することができる。」(下線部「C-O」が外国語書面の翻訳文と異なる記載である。) エ 本願補正発明の課題 本願補正発明の課題は,発明の詳細な説明の記載(摘記b参照)からみて,エピクロロヒドリンを使用しないグリシジルエーテル又はエポキシエチルエーテルを調製する経路を提供することにあるものと認める。 オ 対比・判断 本願補正発明においては,「固体ビニルエーテル又はアリルエーテルを除くビニルエーテル又はアリルエーテル」を,「水性反応媒体中で水溶性マンガン錯体の存在下に」「酸化剤と反応させ」て,「エポキシエチルエーテル又はグリシジルエーテルを製造する」との発明特定事項を含むものである。 一方,発明の詳細な説明には,上記(1)イ(ア)で述べたとおり,各種のビニルエーテル又はアリルエーテルを用いてエポキシ化反応をすることについて記載されているが(摘記e,f参照),「固体ビニルエーテル又はアリルエーテルを除くビニルエーテル又はアリルエーテル」がそのすべての範囲にわたって実際に反応することを具体的に裏付ける記載はなく,実施例として記載されている(摘記g’参照)のは,n-ブチルビニルエーテルとアリルn-ブチルエーテルのみであって,それも実際に反応させた結果が示されているものではない。 そして,発明の詳細な説明には,「水溶性マンガン錯体・・・触媒が本質的に有機相に移動しない」こと(摘記c参照),「水性反応媒体は、ビニルエーテル又はアリルエーテル及び/又はそれらのそれぞれのエポキシ化生成物並びに存在する場合には10体積%未満(好ましくは、ほんの少量)の別の有機化合物を含んでいる水相であり得る。好ましいわけではないが、該反応媒体は、少量の共溶媒(これは、例えば、アセトン、メタノール及び別の水溶性アルコール類を包含する)を含むことができる。」と記載されている(摘記d参照)ことからみて,水性反応媒体は大部分が水相であり,酸化剤とビニルエーテル又はアリルエーテルとの触媒反応が実質的に水性媒体中の水相で生じていることが理解できる。 一方,ビニルエーテル又はアリルエーテルは,一般にエーテルが水に溶解しにくいものであること,また,この反応が水性反応媒体中の水相で生じていることを考慮すれば,技術常識に照らして,この反応は進行しにくいものといえる。 そうすると,仮に,平成28年5月17日付けの意見書に添付された本願の出願日後に実施された実験成績証明書の結果どおり,実施例1として記載されたアリルn-ブチルエーテルを「固体ビニルエーテル又はアリルエーテルを除くビニルエーテル又はアリルエーテル」として使用した場合に,実際に反応したとしても,水に対する溶解度などの物性が異なるそれ以外のすべての「固体ビニルエーテル又はアリルエーテルを除くビニルエーテル又はアリルエーテル」についてまで,同様に反応が進行すると当業者が理解できるとはいえない。 したがって,発明の詳細な説明には,本願補正発明のすべての範囲にわたって,その課題を解決できると当業者が理解できる程度に記載されているとはいえない。 カ 請求人の主張について (ア)請求人の主張の概要 請求人は,平成28年12月7日付け意見書について,サポート要件に関して,概略以下のような主張をしている。 本願発明は,ビニル基又はアリル基を有するエーテル化合物のビニル基又はアリル基の炭素-炭素二重結合を,オキシラン環へエポキシ化(酸化)することによる,エポキシエチルエーテル又はグリシジルエーテルの製造方法を対象としており,炭素-炭素二重結合のエポキシ化反応後に,エーテル化合物のエーテル基は維持されるので,エーテル化合物の形状は,本願発明の本質とは関係性が低い。 アリル基及びビニル基の炭素-炭素二重結合と酸化剤との化学反応機構は,同一であり,当業者によく知られているので,あるビニル基又はアリル基を有するエーテル化合物を用いた実施例がないとしても,当業者は,当該エーテル化合物を用いて,本願発明の方法にて,エポキシエチルエーテル又はグリシジルエーテルを製造することが可能である。 例えば,固体状のノボラック樹脂であったとしても,反応容器内での反応の際には液状になるため,ビニルエーテル又はアリルエーテルが液体状態又は固体状態にあるにかかわらず,ビニル基又はアリル基の炭素-炭素二重結合のエポキシ化の反応機構が起こり,本願発明の方法で反応し得る。 液体のビニルエーテル及びアリルエーテルのエポキシ化反応は,例えば,米国特許第6087513号,米国特許第3187018号,米国特許第5510428号,米国特許第2870171号等に記載されている通り,細部の構造に関わらず進行することが明らかである。 (イ)検討 請求人は,エーテル化合物の形状は,本願補正発明の本質とは関係性が低く,アリル基及びビニル基の炭素-炭素二重結合と酸化剤との化学反応機構は同一であり,当業者は,当該エーテル化合物を用いて,本願補正発明の方法にて,エポキシエチルエーテル又はグリシジルエーテルを製造することが可能であると主張している。 しかしながら,上記オでも述べたとおり,本願補正発明は,水性反応媒体中で水溶性マンガン錯体を触媒として反応させるものであって,同じエーテルであっても,水への溶解性などの物性が異なれば,当然反応が同様に進むといえないことは技術常識からみて明らかであるから,エーテル化合物の形状にかかわらず,本願補正発明の方法で,エポキシエチルエーテル又はグリシジルエーテルを製造することができるとはいえない。 また,請求人は,固体状のノボラック樹脂であったとしても,反応容器内での反応の際には液状になると述べているが,固体状のノボラック樹脂がなぜ反応の際に液状となるのかその根拠が不明であって,請求人の主張はその前提において認めることができない。 さらに,請求人は,液体のビニルエーテル及びアリルエーテルのエポキシ化反応の例として,米国特許第6087513号,米国特許第3187018号,米国特許第5510428号,米国特許第2870171号を挙げて,本願補正発明の反応が細部の構造に関わらず進行すると述べているので,この点を以下検討する。 米国特許第6087513号には,アリルフェニルエーテルの酸化剤によるエポキシ化反応が記載されているが,この反応は有機溶媒であるCl2CH2CH2Cl2中で行っており,本願補正発明のように水性反応媒体中で水溶性マンガン錯体を触媒として使用するものではない。 米国特許第3187018号には,ビシクロ[2.2.1]-ヘプタ‐5‐エン-2-メタノールのエポキシ化による3-オキサトリシクロ[3.2.1.02,4]オクタン-6-メタノールの製造が記載されているが,反応させているのはアルコールであって,本願補正発明のビニルエーテル又はアリルエーテルではなく,水への溶解性などの物性も当然に異なるものである。 米国特許第5510428号には,1,2-シクロヘキサンジカルボン酸の環上にビニル基を有する化合物のエポキシ化反応が記載されているが,これも有機溶媒である酢酸エチルに溶解して反応させるものであって,本願補正発明のように水性反応媒体中で水溶性マンガン錯体を触媒として使用するものではない。 米国特許第2870171号には,アリルアルコール及び1,4-ブテン-2-ジオールを過酸化水素と反応させるエポキシ化方法が記載されているが,反応させているのはアルコールであって,本願補正発明のビニルエーテル又はアリルエーテルではなく,水への溶解性などの物性も当然に異なるものである。 してみると,これらの文献の記載から,本願補正発明の水性反応媒体中で水溶性マンガン錯体を触媒とする反応が,「固体のビニルエーテル又はアリルエーテルを除くビニルエーテル又はアリルエーテル」のすべてにわたって実際に進行することを技術的に裏付けることはできない。 よって,請求人の主張は採用できない。 キ 小括 以上のとおりであるから,補正後の請求項1に記載された特許を受けようとする発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく,同法第36条第6項の規定を満たすものでないから,同法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定を満たすものではない。 (4)独立特許要件(特許法第36条第6項第2号) 請求項11,12に係る補正は,上記(2)ウ,エで述べたとおり,補正の目的の要件を満たさない補正ではあるが,仮に,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとしても,上記(2)ウ,エで述べたとおり,補正後の発明特定事項は不明確であって,補正後の請求項11,12に記載した特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく,同法第36条第6項の規定を満たすものでないから,同法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定を満たすものではない。 3 補正却下の決定のまとめ 以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3項,同条第5項及び同条第6項で準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たしておらず,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,補正の却下の決定の結論のとおり,決定する。 第3 特許請求の範囲の記載 平成28年12月7日付けの手続補正が却下されたので,本願の特許請求の範囲は,平成28年5月17日付けの誤訳訂正書で補正された特許請求の範囲の請求項1~16に記載された以下のとおりのものである。 【請求項1】 エポキシエチルエーテル又はグリシジルエーテルを製造する方法であって、 水性反応媒体中で水溶性マンガン錯体の存在下にビニルエーテル又はアリルエーテルを酸化剤と反応させることを含み、前記水溶性マンガン錯体は、酸化触媒であり、前記水溶性マンガン錯体が、式(I): [LMnX3]Y(I) の単核錯体又は式(II): [LMn(μ-X)3MnL](Y)n(II) の二核錯体 〔ここで、Mnは、マンガンであり;Lは、又は、各Lは独立して、多座配位子であり;各Xは独立して、RO-、Cl-、Br-、I-、F-、NCS-、N3-、I3-、NH3、NR3、RCOO-、RSO3-、RSO4-、OH-、O2-、O22-、HOO-、H2O、SH-、CN-、OCN-及びS42-及びそれらの組合せからなる群から選択される配位化学種であり、ここで、Rが、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択される炭素原子数が1~20の基であり、及び、各μ-Xは独立して、RO-、Cl-、Br-、I-、F-、NCS-、N3-、I3-、NH3、NR3、RCOO-、RSO3-、RSO4-、OH-、O2-、O22-、HOO-、H2O、SH-、CN-、OCN-及びS42-及びそれらの組合せからなる群から選択される配位化学種であり、ここで、Rが、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択される炭素原子数が1~20の基であり;Yは、RO-、Cl-、Br-、I-、F-、SO42-、RCOO-、PF6-、トシラート、トリフラート(CF3SO3-)及びそれらの組合せからなる群から選択されるアニオン性非配位対イオンであり、ここで、Rは、再度、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジル及びそれらの組合せからなる群から選択される炭素原子数が1~20の基であり、nは1又は2である〕であることを特徴とし、また、反応が、1.0から6.0の範囲内のpHで実施され、ビニルエーテル又はアリルエーテルと酸化剤のモル比は1:1から12:1であり、各多座配位子は、独立して、その骨格内に少なくとも7個の原子を含んでいる非環式化合物又はその環内に少なくとも9個の原子を含んでいる環式化合物から選択され、ここで、各多座配位子は3個の窒素原子(窒素原子は少なくとも2個の炭素原子で隔てられている。)を有し、酸化剤は過酸化水素、希過酸化水素、過酸化水素に対する前駆体を含むか、又は有機過酸化物、過酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、前記方法。 【請求項2】 各多座配位子が、独立して、トリアザシクロノナン又は置換トリアザシクロノナンから選択される、請求項1の方法。 【請求項3】 酸化触媒として二核水溶性マンガン錯体を使用する、請求項1または2の方法。 【請求項4】 前記触媒を、1:10から1:10,000,000の触媒(Mn)対酸化剤のモル比で使用する、請求項1から3のいずれか1項の方法。 【請求項5】 前記水性反応媒体が、10体積%未満の共溶媒を含んでいる水相である、請求項1から4のいずれか1項の方法。 【請求項6】 水性反応媒体が、さらに有機酸-塩の組み合わせの緩衝液系を含む、請求項1から5のいずれか1項の方法。 【請求項7】 反応を、-5℃から40℃の範囲内の温度で実施する、請求項1から6のいずれか1項の方法。 【請求項8】 酸化剤が過酸化水素を含む、請求項1から7のいずれか1項の方法。 【請求項9】 ビニルエーテル又はアリルエーテルが、分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子を含む、請求項1から8のいずれか1項の方法。 【請求項10】 ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコール又は芳香族アルコールを含む、請求項9の方法。 【請求項11】 ビニルエーテル又はアリルエーテルが、式: 【化1】 〔式中、Rは、炭素原子が1個以上の2価の基であり、及び、R’は、炭素原子が1個以上の基である〕 を含んでいる、請求項1から8のいずれか1項の方法。 【請求項12】 ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコール由来のエーテル類、ポリグリコール由来のエーテル類、脂肪アルコール由来のエーテル類、炭水化物由来のエーテル類、ベンジルアルコール由来のエーテル類、フェノール誘導体由来のエーテル類、ノバラック樹脂(novalac resins)由来のエーテル類及びそれらの組合せから選択される、請求項11の方法。 【請求項13】 ビニルエーテル又はアリルエーテルが、ジビニルエーテル、ジアリルエーテル、アリルn-ブチルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、ビニルアリルエーテル、エチルビニルエーテル、エチレンジビニルジエーテル及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項11の方法。 【請求項14】 酸化剤を当該接触酸化の反応速度と等しい速度で水性反応媒体に添加する、請求項1から13のいずれか1項の方法。 【請求項15】 ビニルエーテル又はアリルエーテルと酸化剤のモル比が2:1から10:1である、請求項1から14のいずれか1項の方法。 【請求項16】 水性反応媒体が2.0から5.0の範囲のpHを有する、請求項1の方法。 第4 当審が通知した拒絶理由の概要 当審が平成28年6月6日付けの拒絶理由通知で通知した拒絶理由の概要は,以下のとおりである。 [理由1]平成28年5月17日付けの誤訳訂正書でした補正は,外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内でおいてしたものではないので,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないというものであり, 請求項12の「脂肪族アルコール由来のエーテル類、ポリグリコール由来のエーテル類、脂肪アルコール由来のエーテル類、炭水化物由来のエーテル類、ベンジルアルコール由来のエーテル類、フェノール誘導体由来のエーテル類、ノバラック樹脂(novalac resins)由来のエーテル類」における「~由来のエーテル類」については,外国語書面の翻訳文に記載されていないとの指摘がなされたものである。 [理由2]本願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず,特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから,特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないというものであり,以下の3つの指摘がなされたものである。 (1)請求項9の「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子を含む」と記載により特定されるビニルエーテル又はアリルエーテルがどのような構造か不明である。 (2)請求項10の「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコール又は芳香族アルコールを含む」とはどのような化合物か不明である。 (3)請求項11の「Rは、炭素原子が1個以上の2価の基」,「R’は、炭素原子が1個以上の基」と記載されているが,その具体的な構造が特定できないから,この定義に含まれる基がどのような基なのか不明である。 [理由3]は,本願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず,特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから,特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないというものであり,以下の2つの指摘がなされている。 (1)本願の請求項1,3~16に係る発明において,Lがトリアザシクロノナン構造を有するもの以外の「その骨格内に少なくとも7個の原子を含んでいる非環式化合物又はその環内に少なくとも9個の原子を含んでいる環式化合物から選択され、ここで、多座配位子は3個の窒素原子(窒素原子は少なくとも2個の炭素原子で隔てられている。)」多座配位子を使用した式(I)の単核錯体や式(II)の二核錯体についてまで,本願発明の課題を解決できるとはいえない。 (2)本願の請求項1~12,14に係る発明においては,ビニルエーテル又はアリルエーテルは,実施例に示されるようなn-ブチルビニルエーテルとアリルn-ブチルエーテルやこれに類似するものばかりではないが,そのようなビニルエーテル又はアリルエーテルについてまで,実際にエポキシ化の反応が同様に生じるとは認めることができない。 第5 当審の判断 当審は,以下に述べるとおり,平成28年6月6日付けの拒絶理由通知で通知した拒絶理由によって,本願は拒絶すべきものと判断する。 1 理由1 (1)新規事項の解釈について 新規事項の解釈については,上記「第2 2(1)ア」で述べたとおりである。 (2)外国語書面の翻訳文の記載について 外国語書面の翻訳文の記載については,上記「第2 2(1)イ」に摘記したとおりである。 (3)判断 平成28年5月17日付けの誤訳訂正書でした補正後の請求項12には,「脂肪族アルコール由来のエーテル類、ポリグリコール由来のエーテル類、脂肪アルコール由来のエーテル類、炭水化物由来のエーテル類、ベンジルアルコール由来のエーテル類、フェノール誘導体由来のエーテル類、ノバラック樹脂(novalac resins)由来のエーテル類」と記載されているが,このような「~由来のエーテル類」については,外国語書面の翻訳文に記載されていない。 外国語書面の翻訳文には,「脂肪族アルコールのエーテル類、ポリグリコールのエーテル類、脂肪アルコールのエーテル類、炭水化物のエーテル類、ベンジルアルコールのエーテル類、フェノール誘導体のエーテル類、ノバラック樹脂(novalac resins)のエーテル類」と記載され(摘記a参照),その具体的な構造として,式(Ia),(Ib),(II),(III)などの具体的な構造(アルコールが脱水縮合してエーテルとなったもの)が記載されている(摘記f参照)。 しかしながら,「~由来のエーテル類」とは,脂肪族アルコールなどを原料として得られるエーテルを意味し,上述のアルコールが脱水縮合されて得られるエーテル類以外でも脂肪族アルコールを原料としてエーテルが得られる限り「~由来のエーテル類」に含まれることになるが,そのようなアルコールを原料として得られるエーテル類については外国語書面の翻訳文に記載されていないし,そのことを外国語書面の翻訳文から導き出せるともいえない。 そうすると,上記補正事項は,外国語書面の翻訳文のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものといわざるを得ない。 なお,上述の請求項12に係る補正は,誤訳訂正書を提出して補正するものであるが,誤訳を訂正する目的でなされたものではないので,新規事項の基準となるのは外国語書面の翻訳文である。 (4)小括 以上のとおりであるから,平成28年5月17日付けの誤訳訂正書でした補正は,外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものではないので,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 2 理由2 (1)請求項9には,「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、分子内に1以上のエーテル基を含有するモノアルコール分子、ジオール分子、トリオール分子、テトラオール分子又はポリオール分子を含む」と記載されているが,ビニルエーテル又はアリルエーテルそのものが分子であり,分子内に分子を含むというのは記載が矛盾しているから,この記載により特定されるビニルエーテル又はアリルエーテルがどのような構造か不明である。 (2)請求項10には,「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコール又は芳香族アルコールを含む」と記載されているが,ビニルエーテル又はアリルエーテルと,脂肪族アルコール又は芳香族アルコールとは別の化合物であり,「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、脂肪族アルコール又は芳香族アルコールを含む」とはどのような化合物か不明である。 (3)請求項11には, 「ビニルエーテル又はアリルエーテルが、式: 【化1】 〔式中、Rは、炭素原子が1個以上の2価の基であり、及び、R’は、炭素原子が1個以上の基である〕 を含んでいる」と記載されているが,「R」,「R’」については,炭素原子数と価数のみでは,その具体的な構造が明確に特定できないから,この定義に含まれる基がどのような基なのか不明である。 (4)小括 以上のとおりであるから,特許請求の範囲の請求項9,10,11に記載した特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから,特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 3 理由3 (1)特許法第36条第6項第1号の解釈 サポート要件の解釈については,上記「第2 2(3)ア」で述べたとおりである。 (2)特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載は,上記「第3」に記載したとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明の記載は,上記「第2 2(3)ウ」に摘記したとおりである。 (4)本願発明の課題 本願発明の課題も,発明の詳細な説明の記載(摘記b参照)からみて,エピクロロヒドリンを使用しないグリシジルエーテル又はエポキシエチルエーテルを調製する経路を提供することにあるものと認める。 (5)対比・判断 ア 触媒について 発明の詳細な説明の実施例で使用されている触媒は,(TmTacn)2MnIV2(μ-O)3]2+(CH3COO-)2である。この触媒は,本願の請求項1における式(II)の触媒 [LMn(μ-X)3MnL](Y)n において,Lとして,TmTacn(1,4,7-トリメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン)が,(μ-X)として,O2-が,YがCH3COO-がそれぞれ選択されたものであり,これ以外の触媒は実施例に記載されていない。 そして,Lがトリアザシクロノナン構造を有するものについては,実施例や出願時の技術常識に照らして,同様の触媒として機能することが一応理解できるものの,本願請求項1,3~16に係る発明において,Lは「その骨格内に少なくとも7個の原子を含んでいる非環式化合物又はその環内に少なくとも9個の原子を含んでいる環式化合物から選択され、ここで、多座配位子は3個の窒素原子(窒素原子は少なくとも2個の炭素原子で隔てられている。)」多座配位子であり,トリアザシクロノナン構造以外の配位子も含まれており,例えば,窒素原子が3個以上の炭素原子で隔てられたものであれば配位箇所である2つの窒素原子がMn原子と大きく離れてしまい,そもそも配位子となり得るとはいえない。 そして,触媒は,それを用いる化学反応に特有のものであるから,実施例に示された触媒がグリシジルエーテル又はエポキシエチルエーテルをエポキシ化することができたとしても,そもそも配位錯体としての構造が異なる式(I)の単核錯体や式(II)の二核錯体においても,同様に反応すると認めることができない。 そうすると,Lがトリアザシクロノナン構造を有するもの以外に「その骨格内に少なくとも7個の原子を含んでいる非環式化合物又はその環内に少なくとも9個の原子を含んでいる環式化合物から選択され、ここで、多座配位子は3個の窒素原子(窒素原子は少なくとも2個の炭素原子で隔てられている。)」多座配位子を使用した式(I)の単核錯体や式(II)の二核錯体についてまで,本願発明の課題が解決できると当業者が当業者に認識できる程度に記載されているということができない。 また,式(I)の単核錯体及び式(II)の二核錯体がそのすべてにおいて,同様に反応が進行するといえる技術常識があるともいえない。 イ ビニルエーテル又はアリルエーテルについて 本願の請求項1~12,14に係る発明における「ビニルエーテル又はアリルエーテル」には,実施例に示されるようなn-ブチルビニルエーテルとアリルn-ブチルエーテルやこれに類似するエーテルばかりではなく,例えば,請求項11の「R」が数多くの炭素原子からなるものや,請求項12に記載されるような,ノボラック樹脂由来のビニルエーテルやアリルエーテルなど様々なビニルエーテルやアリルエーテルが含まれている。 一方,発明の詳細な説明には,「ビニルエーテル又はアリルエーテル」がそのすべての範囲にわたって実際に反応することを具体的に裏付ける記載はなく,実施例として記載されている(摘記g’参照)のは,n-ブチルビニルエーテルとアリルn-ブチルエーテルのみであって,それも実際に反応させた結果が示されているものではない。 そして,本願の請求項1~12,14に係る発明においては,ビニルエーテルやアリルエーテルは,水性反応媒体中で水溶性マンガン錯体を触媒として酸化剤と反応させるものであるから,液相反応で行われると解するのが自然であるが,例えば,ノボラック樹脂(ノバラック樹脂)のような固体状のビニルエーテルやアリルエーテルでは液固反応となるから,そのようなビニルエーテル又はアリルエーテルについてまで,同様に反応するということは認めることができない。 さらに,上記「第2 2(3)オ」で述べたとおり,仮に,実施例1として記載されたアリルn-ブチルエーテルを「ビニルエーテル又はアリルエーテル」として使用した場合において実際に反応したとしても,水に対する溶解度などの物性も異なるそれ以外の「ビニルエーテル又はアリルエーテル」のすべてについて,同様に反応が進行すると当業者が理解できるとはいえない。 したがって,本願の請求項1~12,14に係る発明は,そのすべての範囲にわたってその課題を解決できると当業者が理解できる程度に記載されているとはいえない。 (6)小括 以上のとおりであるから,特許請求の範囲の請求項1~16に記載した特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから,特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 第6 むすび 以上のとおり,平成28年5月17日付けの誤訳訂正書でした補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず,また,本願は特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないので,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。

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2014-019430

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