特許拒絶査定不服審判
2014-007662
新たな特異的結合体を工学的に操作するための足場として使用されるOB-フォールド
- 審判番号
- 2014-007662
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2009-539833
- 請求日
- 2014年04月24日
- 審決日
- 2016年10月24日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】インスティティ・パスツール
- 【請求人代理人】野河 信太郎
- 【請求人代理人】金子 裕輔
- 【請求人】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク
- 【請求人代理人】野河 信太郎
- 審判長/審判官
- 審判長 中島 庸子
- 審判官 高堀 栄二
- 審判官 松田 芳子
- 分類
- P18 .121-WZ (C07K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2009-539833「新たな特異的結合体を工学的に操作するための足場として使用されるOB-フォールド」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月12日国際公開、WO2008/068637、平成22年 4月15日国内公表、特表2010-511691〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成19年12月4日(パリ条約による優先権主張 2006年12月4日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その請求項1~11に係る発明は、平成28年5月27日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~11に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】スルホロバス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)由来のSac7d若しくはSac7e、又はスルホロバス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)由来のSso7d若しくはp7ss、又はスルホロバス・トコダイイ(Sulfolobus tokodaii)由来のDBP 7、又はスルホロバス・シバタエ(Sulfolobus shibatae)由来のSsh7a若しくはSsh7bであるOB-フォールドタンパク質のその天然型リガンドとの結合界面の5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20のランダム化された残基を含んでなり、ランダム化された残基が、Sac7dのV2、K3、K5、K7、Y8、K9、G10、E14、T17、K21、K22、W24、V26、G27、K28、M29、S31、T33、D36、N37、G38、K39、T40、R42、A44、S46、E47、K48、D49、A50及びP51に相当する残基の中から選択される前記OB-フォールドタンパク質の変異型のコンビナトリアルライブラリ。」
2.当審における拒絶理由
一方、当審において平成27年11月26日付けで通知した拒絶理由の概要は、本願請求項1~11に係る発明は、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1~8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
3.引用例の記載事項
当審の拒絶理由で引用文献1として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2006-503580号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は合議体による。)。
ア.「【請求項1】表面残基の置換により、野生型Sso7-ポリメラーゼ融合物の伸長性よりも低く、かつSso7dドメインに融合していない場合のポリメラーゼドメインの伸長性よりも高い伸長性がもたらされる、
SEQ ID NO:2を参照して決定される表面残基位置のアミノ酸が別のアミノ酸残基で置換された;ポリメラーゼドメインに連結された、SEQ ID NO:2と少なくとも60%の同一性を有するSso7ドメインを含む、Sso7ポリメラーゼ複合体タンパク質。
【請求項2】表面残基位置が、24位のトリプトファン残基、26位のバリン残基、および29位のメチオニン残基からなる群より選択される、請求項1記載のSso7ポリメラーゼ複合体タンパク質。
【請求項3】表面残基位置が24位のトリプトファン残基であり、置換アミノ酸残基が、Asp、Glu、Arg、Lys、またはPro以外の任意のアミノ酸である、請求項2記載のSso7ポリメラーゼ複合体タンパク質。」(請求項1~3)
イ.「本発明は、ポリメラーゼまたはポリメラーゼの触媒ドメインに連結された、Sso7d、Sac7d、または関連ドメイン等の変異型DNA結合ドメインを含むポリメラーゼ複合体を提供する。変異型結合ドメインは、DNA結合ドメインポリペプチド配列の表面残基において1つまたは複数のアミノ酸置換を含む。」(【0003】)
ウ.「本発明は、野生型Sso7融合ポリメラーゼと比較して修飾された伸長性および/または増加した特異性を示す変種Sso7ポリメラーゼ複合体を提供する。これらのポリメラーゼ反応は、多くの場合、非修飾型ポリメラーゼまたは野生型Sso7融合ポリメラーゼと比較してより効率的であり、より多くの産物を産生する。変種融合ポリメラーゼは、ポリメラーゼドメインおよびこれに連結されたSso7結合ドメインを含む。Sso7結合ドメインは、表面位置のアミノ酸残基が既知である野生型Sso7のその位置に存在しないアミノ酸に置換されたSso7を含む。」(【0042】)
エ.「Sso7タンパク質
本発明のポリメラーゼは、表面残基位置においてアミノ酸置換を有するSso7ポリペプチド配列を含む。Sso7dは、超好熱性古細菌スルフォロバス・ソルファタリカス(Sulfolobussulfataricus)由来の小さな(63アミノ酸、分子量約7,000kd)塩基性染色体タンパク質である。・・・・・・これらに限定されないが、超好熱性古細菌S.アシドカルダリウス(S.acidocaldarius)由来のSac7a、Sac7b、Sac7d、およびSac7e、ならびにスルフォロバス・シバタ(Sulfolobus sibatae)由来のSsh7bを含むいくつかの既知Sso7d様タンパク質(Sso7タンパク質とも称される)が存在する。これらのタンパク質は、Sso7dと78%~98%の同一性を有する。」(【0050】~【0051】)
オ.「Sso7タンパク質の表面残基位置は、SEQ ID NO:2に記載のSso7d配列を参照して決定される。表面残基とは、DNA二重らせんの塩基と相互作用する、タンパク質の表面に露出した残基である。これらの残基は、Sso7dの構造研究により同定された(例えば、Gao et al,Nature Struct.Biol. 5:782-786, 1998を参照のこと)。SEQ ID NO:2の表面残基アミノ酸、Trp24、Val26、Met29、Ser31、Arg43、およびAla45は、本発明の融合ポリメラーゼにおいて典型的に置換される表面残基である。そのような位置表示は、特許請求する分子それ自体におけるアミノ酸の番号を示すのでなく、特許請求する分子配列をSEQ ID NO:2と最適にアラインした場合の、特許請求する分子におけるその残基の存在位置を示す。アラインメントは、手動でまたは以下に示す配列比較アルゴリズムを用いて行うことができる。例えば、SEQ ID NO:4に記載の融合ポリメラーゼ配列のN末端に存在する置換型Sso7タンパク質は、天然トリプトファン対して置換したグリシンを有する。この置換は、SEQ ID NO:4の29番目のアミノ酸残基に存在する。しかし、SEQ ID NO:2を参照すれば、置換はTrp24の位置である。記載したアラインメントに基づくと、以下の残基が典型的に野生型Sso7タンパク質の表面位置に存在する:24-Trp;26-Val;29-Met;31-Ser;43-Arg;および45-Ala。
Sso7タンパク質、Sac7eのSEQ ID NO:2に対するアラインメントおよび表面残基位置の同定の例を図2に示す。アラインメントは、初期設定パラメータを用いたNCBI BLASTプログラムによって得た(例えば、Altschul et al.,Nucl.Acids Res. 25:3389-3402,1997を参照のこと)。Sac7eは、SEQ ID NO:2と78%の同一性を有する。図2では、Sso7dの1位の開始メチオニン(SEQ ID NO:2を参照のこと)が示されていない。したがって、Ala残基が図2に示されるSso7d配列の第1残基であるが、これはSEQ ID NO:2の2位に相当する。上記したように、Sso7dの表面残基は、24位のTrp、26位のVal、29位のMet、31位のSer、43位のArg、および45位のAlaである。Sac7eの対応する表面残基は、SEQ ID NO:2を参照して決定した場合の24位のTrp(Sac7e配列の残基番号23);26位のVal(Sac7e配列の残基番号25); 29位のMet(Sac7e配列の残基番号28);31位のSer(Sac7e配列の残基番号30);43位のArg(Sac7e配列の残基番号41);および45位のAla(Sac7e配列の残基番号43)である。」(【0052】~【0053】)
カ.「これらの残基の側鎖は副溝内の塩基と直接相互作用するため、これらの残基を野生型アミノ酸以外の残基に変更することにより、Sso7ドメインの構造を破壊することなく、耐熱性を減少させることなく、またはさもなくばドメインが本発明において機能する能力を大きく減少させることなく、DNAと相互作用する強さを修飾することができる。さらに、表面残基のサブセット、Trp24、Val26、Met29、およびAla45は、DNAらせんがねじれる位置と相互作用する。したがって、これらの位置のうちの一箇所で変異を起こすことにより、ねじれ位置近傍にミスマッチを含むDNAに対するSso7ドメインの親和性を減少させることができる。
種々のアミノ酸残基で表面残基を置換することができる。典型的に置換残基は、任意の他の天然Sso7タンパク質のその位置に存在しない残基である。」(【0054】~【0055】)
キ.「Sso7配列への変異の導入
本発明のSso7配列は、表面残基における置換を含む。当業者は、所与の核酸配列のこれらの変更を起こすまたは変種を作製する多くの方法が存在することを認識すると考えられる。そのような周知の方法には、部位特異的突然変異誘発、縮重オリゴヌクレオチドを用いたPCR増幅、所望のオリゴヌクレオチドの化学合成(例えば、大きな核酸を作製するための連結および/またはクローニングと組み合わせて)、および他の周知の技法が含まれる。Giliman & Smith,Gene 8:81-97(1979)、Roberts, et al.,Nature 328:731-734(1987)、ならびにSambrook、Innis、およびAusubel(すべて前記)を参照されたい。」(【0099】)
当審の拒絶理由で引用文献2~5として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物であるNat.Struct.Biol.(1998)Vol.5,No.9,p.782-786、Nature(1998)Vol.392,No.6672,p.202-205、J.Mol.Biol.(2000)Vol.303,No.3,p.395-403、Nat.Struct.Biol.(1998)Vol.5,No.7,p.579-584(以下、「引用文献2~5」という。)には、スルホロバス・アシドカルダリウス由来のSac7d、スルホロバス・ソルファタリカス由来のSso7dなどのタンパク質の、その天然リガンドであるDNAとの結合表面領域のアミノ酸残基が、K7、Y8、K9、K21、K22、W24、V26、K28、M29、S31、T33、K39、T40、R42、A44、S46などのアミノ酸残基(アミノ酸の位置は、いずれもSac7dの位置に従って表記する。)から構成されることが記載されている(引用文献2の図1~3;引用文献3の図1~3;引用文献4の図1~2及び4~5;引用文献5の図1、4及び7)。
当審の拒絶理由で引用文献6~8として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2006/072773号、国際公開第2005/058956号、J.Mol.Biol.(2006.Apr.)Vol.358,No.2,p.455-471(以下、「引用文献6~8」という。)には、タンパク質の特性を変えることを目的としてタンパク質の変異型を製造する際に、リボソームディスプレイなどの方法でタンパク質を発現させて、特定の位置のアミノ酸残基をランダム変異させたタンパク質の変異型のライブラリを作製することが記載されている(引用文献6の特許請求の範囲;引用文献7の特許請求の範囲及び第24頁第34行~第30頁第17行;引用文献8の要約、第457頁左欄第3行~第11行及び表1)。
上記記載事項ア.~オ.によると、引用文献1には、「スルホロバス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)由来のSac7d若しくはSac7e、又はスルホロバス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)由来のSso7d、又はスルホロバス・シバタエ(Sulfolobus shibatae)由来のSsh7bであるタンパク質の表面残基において複数のアミノ酸置換を含んでなり、置換されるアミノ酸残基が、Sso7dのW24、V26、M29、S31、R43及びA45に相当する残基の中から選択される、前記タンパク質の変異型」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
Sac7d、Sso7dがOB-フォールドトポロジーを有することは、本願優先日前周知事項である(引用文献2の第783頁右欄下から第6行~第5行;引用文献3の第204頁左欄下から第1行~右欄第4行;引用文献4の第397頁右欄第9行~第10行;引用文献5の第580頁左欄第7行~第11行)から、引用発明のSac7d、Sac7e、Sso7d、Ssh7bはOB-フォールドタンパク質であるといえる。
上記記載事項オ.の「表面残基とは、DNA二重らせんの塩基と相互作用する、タンパク質の表面に露出した残基である。」との記載によると、引用発明の「表面残基」は、本願発明の「その天然型リガンドとの結合界面の残基」に相当する。
また、本願明細書【0016】の記載から、引用発明の「Sso7dのW24、V26、M29、S31、R43及びA45」は、本願発明の「Sac7dのW24、V26、M29、S31、R42及びA44」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「スルホロバス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)由来のSac7d若しくはSac7e、又はスルホロバス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)由来のSso7d、又はスルホロバス・シバタエ(Sulfolobus shibatae)由来のSsh7bであるOB-フォールドタンパク質のその天然型リガンドとの結合界面の置換された残基を含んでなり、置換される残基が、Sac7dのW24、V26、M29、S31、R42及びA44に相当する残基の中から選択される前記OB-フォールドタンパク質の変異型」に関する発明である点で一致し、両者は以下の点で相違する。
相違点1:本願発明は、天然型リガンドとの結合界面の5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20のランダム化された残基を含んでなる、OB-フォールドタンパク質の変異型のコンビナトリアルライブラリであるのに対し、引用発明は、天然型リガンドとの結合界面の複数のアミノ酸置換を含んでなる、OB-フォールドタンパク質の変異型である点で相違する。
相違点2:置換される残基が、本願発明は、Sac7dのV2、K3、K5、K7、Y8、K9、G10、E14、T17、K21、K22、W24、V26、G27、K28、M29、S31、T33、D36、N37、G38、K39、T40、R42、A44、S46、E47、K48、D49、A50及びP51に相当する残基の中から選択されるのに対し、引用発明は、Sac7dのW24、V26、M29、S31、R42及びA44に相当する残基の中から選択される点で相違する。
5.当審の判断
そこで、上記相違点について検討する。
相違点1について
引用文献1には、「これらの残基の側鎖は副溝内の塩基と直接相互作用するため、これらの残基を野生型アミノ酸以外の残基に変更すること」、「種々のアミノ酸残基で表面残基を置換することができる。典型的に置換残基は、任意の他の天然Sso7タンパク質のその位置に存在しない残基である。」と記載され(上記記載事項カ.)、アミノ酸残基の置換を、縮重オリゴヌクレオチドを用いたPCR増幅などの周知の方法を用いて行うことができることが記載されており(上記記載事項キ.)、そして、タンパク質を特性を変えることを目的としてタンパク質の変異型を製造する際に、リボソームディスプレイなどの方法でタンパク質を発現させて、特定の位置のアミノ酸残基をランダム変異させたタンパク質の変異型のコンビナトリアルライブラリを作製することは、本願優先日前周知技術である(例えば、引用文献6~8参照)から、引用発明のSac7d、Sso7dなどのOB-フォールドタンパク質の変異型について、Sac7dのW24、V26、M29、S31、R42及びA44に相当する残基のうちの5又は6のアミノ酸残基をランダム化させたアミノ酸残基を含むタンパク質の変異型のコンビナトリアルライブラリを作製することは、当業者が容易に想到し得ることである。
相違点2について
引用文献2~5には、Sac7d、Sso7dなどのOB-フォールドタンパク質の、その天然リガンドであるDNAとの結合表面領域のアミノ酸残基が、K7、Y8、K9、K21、K22、W24、V26、K28、M29、S31、T33、K39、T40、R42、A44、S46などのアミノ酸残基から構成されることが記載されているから、引用発明のSac7d、Sso7dなどのOB-フォールドタンパク質の変異型について、置換させるアミノ酸残基として、Sac7dのW24、V26、M29、S31、R42及びA44に相当する残基に加えて、Sac7dのK7、Y8、K9、K21、K22、K28、T33、K39、T40、S46に相当する残基の中から選択することは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本願明細書に実施例等により具体的に記載されているのは、Sac7dのK7、Y8、K9、W24、V26、M29、S31、T33、R42、A44、S46の11アミノ酸残基をランダム化させた変異型のライブラリ(ライブラリ11)、更なる位置(K21、K22)をランダム化させた変異型のライブラリ(ライブラリ13)、更なる位置(K21、K22、T40)をランダム化させた変異型のライブラリ(ライブラリ14)のみであり、本願発明のライブラリに含まれる、例えば、上記ライブラリ11、ライブラリ13、ライブラリ14に含まれない位置のアミノ酸残基のみから構成されるような、Sac7dのV2、K3、K5、G10、E14、T17、G27、K28、D36、N37、G38、K39、E47、K48、D49、A50及びP51の中から選択される任意の5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16又は17残基がランダム化されている変異型のライブラリー、あるいは、それらの位置と上記ライブラリ11、ライブラリ13、ライブラリ14に含まれる位置のアミノ酸残基の中から選択される任意の5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20残基がランダム化されている変異型のライブラリであって、ライブラリ11、ライブラリ13、ライブラリ14に含まれる11、13又は14アミノ酸残基をランダム化させるアミノ酸残基として必須で含まない変異型のライブラリ、等のライブラリが、当業者が予測出来ない程の格別顕著な効果を奏するとは認められない。
6.審判請求人の主張
審判請求人は、平成28年5月27日付け意見書において、以下のア.~ウ.の点を主張しているので、以下この点について検討する。
ア.引用文献1は、Sso7の変異に関して、「これらの位置のうちの一箇所で変異をおこす」(【0054】)、「本発明の融合ポリペプチドに挿入するように選択される(1つの)アミノ酸」(【0057】;注記:原文[WO2004/037979](段落[56])では、「amino acid」と単数形で表記されている)と記載されているように、唯一つの変異がなされるべきことを教示しており、本願請求項1所定のアミノ酸の全てにランダム変異を導入するような研究を記載しておらず、示唆もしていないのに対して、本願発明の目的は、天然標的(すなわちDNA)以外の標的に結合することができるSac7dタンパク質変異型を含み得るライブラリを提供することである。
イ.当時の技術常識を考慮すれば、当業者は、OB-フォールドタンパク質の結合界面(非可撓性領域)中の残基をランダム化することによって、天然型リガンド/標的とは異なる標的に結合する新たな結合分子が得られることに容易に想到し得なかった。参考資料3においてSac7dになされた変異が僅か1つ又は2つのアミノ酸の変異にすぎず、同資料は、試験した3アミノ酸変異が弱いDNA結合しか示さず、更なる特徴づけを行なわなかったと報告している。当時の技術常識、及び引用文献1の開示内容に関連する参考資料3の教示を考慮すれば、当業者は、標的特異性(結合特異性)が変化した分子を取得するための足場としてOB-フォールドタンパク質を用いることに容易に想到し得なかった。
ウ.ランダム化された残基の数が請求項1に記載の下限「5」であっても、本願発明のライブラリが天然リガンドとは異なる標的に結合するOB-フォールドタンパク質変異型の取得を可能にし得ることは、本願の対応欧州特許出願(EP07872052)において提出したオリビエ キトゥンの宣言書(参考資料4)から理解できる。
主張ア.について
引用文献1には、スルホロバス・ソルファタリカス由来のSso7d、スルホロバス・アシドカルダリウス由来のSac7dなどのタンパク質の表面残基位置において1または複数のアミノ酸置換を行うことが明確に記載されており(上記記載事項イ.)、審判請求人が指摘する箇所の記載は、DNAらせんがねじれる位置と相互作用するアミノ酸残基についての記載(【0054】)であり、また、【0057】の記載の原文が単数形で表記されていても、それらの記載から引用文献1が「唯一つの変異がなされるべきことを教示して」いるとはいえない。
また、審判請求人も、上記意見書において、「・・・参考資料3として提出致します。 同資料では、引用文献1で意図された方法が実行されています。すなわち、Sac7dのV26及び/又はM29がアラニンに置換されています(この変異は引用文献1の[0057]に明確に記載されているものです)。 重要なことは、参考資料3においてSac7dになされた変異が僅か1つ又は2つのアミノ酸の変異にすぎないこと、そして、同資料は、試験した3アミノ酸変異が弱いDNA結合しか示さず、・・・」と述べているように、引用文献1が、「唯一つの変異がなされるべきことを教示して」いるわけではないことを自ら認めており、また、本願発明のライブラリは、天然標的(すなわちDNA)以外の標的に結合することができるSac7dタンパク質変異型を取得する用途に限定されている発明ではないから、審判請求人の主張は採用できない。
主張イ.について
本願発明は、ライブラリの発明であって、「OB-フォールドタンパク質の結合界面(非可撓性領域)中の残基をランダム化することによって、天然型リガンド/標的とは異なる標的に結合する新たな結合分子が得」る発明でも「標的特異性(結合特異性)が変化した分子を取得するための足場としてOB-フォールドタンパク質を用いる」発明でもなく、また、参考資料3の記載内容は引用文献1の開示内容と全く同じわけではないから、審判請求人の主張は採用できない。
主張ウ.について
参考資料4をみると、本願明細書に実施例等により具体的に記載されているSac7dのK7、Y8、K9、W24、V26、M29、S31、T33、R42、A44、S46の11アミノ酸残基をランダム化させた変異型のライブラリ(ライブラリ11)、更なる位置(K21、K22、T40)をランダム化させた変異型のライブラリ(ライブラリ14)の、特定の位置の4または5アミノ酸残基の変異について記載されているだけであって、本願発明のライブラリに含まれる、例えば、上記ライブラリ11、ライブラリ14に含まれない位置のアミノ酸残基のみから構成されるような、Sac7dのV2、K3、K5、G10、E14、T17、G27、K28、D36、N37、G38、K39、E47、K48、D49、A50及びP51の中から選択される任意の5残基がランダム化されている変異型のライブラリ、あるいは、それらの位置と上記ライブラリ11、ライブラリ14に含まれる位置のアミノ酸残基の中から選択される任意の5残基がランダム化されている変異型のライブラリであって、上記特定の位置の4または5アミノ酸残基をランダム化させるアミノ酸残基として必須で含まない変異型のライブラリについて、「天然リガンドとは異なる標的に結合するOB-フォールドタンパク質変異型の取得を可能にし得ること」が示されているわけではないので、審判請求人の主張は採用できない。
7.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、引用文献1~8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2014-007662