特許無効審判
2010-800143
- 審判番号
- 2010-800143
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2002-302163
- 登録番号
- 特許第4171280号(P4171280)
- 請求日
- 2010年08月19日
- 審決日
- 2011年04月26日
- 公報発行日
- 2018年02月23日
- 結論
- 訂正認容・請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社クボタ
- 【請求人】クボタシーアイ株式会社
- 【請求人代理人】岩坪 哲
- 【請求人代理人】速見 禎祥
- 【被請求人】積水化学工業株式会社
- 【被請求人代理人】小林 浩
- 【被請求人代理人】加藤 志麻子
- 【被請求人代理人】片山 英二
- 【被請求人代理人】服部 誠
- 【被請求人代理人】岩間 智女
- 【被請求人代理人】重村 洋一
- 審判長/審判官
- 審判長 仁木 浩
- 審判官 堀川 一郎
- 審判官 槙原 進
- 分類
- P1113.121-YA (F16L) / P1113.536-YA (F16L) / P1113.537-YA (F16L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第123条第1項第4号、特許法第134条の2第4項、特許法第134条の2第1項、特許法第36条、特許法第36条第4項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4171280号発明「硬質塩化ビニル系樹脂管」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
訂正を認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
1.手続の経緯
(1)特許第4171280号の請求項1及び2に係る発明についての出願(以下、「本件に係る出願」という。)は、平成14年10月16日(特願2002-60814号に基づく優先権主張平成14年3月6日)の出願(特願2002-302163号)であって、平成20年8月15日にその発明について特許権の設定登録が特許第4171280号としてなされたものである。そして、平成21年12月24日付けで訂正審判の請求が訂正2009-390155号としてなされ、平成22年2月23日付けの訂正拒絶理由の通知を経て、平成22年4月16日に、訂正を認めるとの審決がなされている(以下、「本件特許に係る訂正審判事件についての審決」という。)。
(2)これに対し、請求人は、平成22年8月19日に甲第1号証から甲第14号証を提出し、特許第4171280号発明の特許請求の範囲の請求項1及び2(以下、「旧請求項1」及び「旧請求項2」という。)に記載された発明についての特許を無効とすることを求める無効審判を請求した。
(3)これに対し、被請求人は、平成22年11月24日付けで、答弁書、乙第1号証ないし乙第15号証、訂正請求書(以下、「第1回訂正請求書」という。)、及び、全文訂正明細書(以下、「第1回全文訂正明細書」という。)を提出している。
(4)第1回訂正請求書の内容は、本件特許の特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付した全文訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、旧請求項1を削除して、旧請求項2のみとするものである。
(5)平成23年1月14日付けの当審からの通知書(以下、「通知書」という。)により、請求人に対し、旧請求項2に係る無効理由に関して、主引例はどの甲号証であり、また、その甲号証に記載の発明の具体的な認定、公用発明の具体的な認定、その認定に対応した一致点、相違点の説明、判断、判断における動機付け、阻害要因の検討、及び、周知の技術・技術常識の根拠の明示を求めた。また、被請求人には、旧請求項1を削除しているが発明の詳細な説明を訂正していないので、特許請求の範囲に対応した発明の詳細な説明の記載となるような全文訂正明細書の案を提出することを求めた。
(6)これに対して、請求人は、第1回口頭審理陳述要領書、ないし、第3回口頭審理陳述要領書、及び、それらに添付された甲第15号証ないし甲第59号証を提出し、被請求人は、第1回口頭審理陳述要領書及び第2回口頭審理陳述要領書、及び、それらに添付された乙第16号証ないし乙第24号証、訂正請求書2(案)、全文訂正明細書(案)、及び、請求人の主張を踏まえて訂正請求書2(案)から修正した全文訂正明細書が添付された訂正請求書2(案その2)(以下、「訂正請求書2(案その2)」という。)を提出している。
(7)第1回口頭審理調書の「【訂正の適否】」に記載されているように、第1回訂正請求書、及び、第1回全文訂正明細書に対して、当審無効理由を告知した。そして、被請求人より、訂正請求書2(案その2)と同じ内容の訂正請求書2(以下、「訂正請求書2」という。)と訂正請求書2に添付された全文訂正明細書(以下、「全文訂正明細書2」という。)、及び、意見書が提出された。
訂正請求書2、及び、全文訂正明細書2に対して、第1回口頭審理調書に記載されているように、請求人からは、正式に提出されたとして扱うことに対して、異議はないとの主張がなされたことから、口頭審理当日に提出された訂正請求書2により訂正がなされたものとした。なお、第1回訂正請求書は、当審からの無効理由通知に応じて訂正請求書2により訂正がなされたことから、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。
(8)訂正請求書2による訂正により、旧請求項2のみに係る発明となっている。しかしながら、本件に係る出願に対して、国内優先権を主張する出願である、特願2002-60814号の出願当初の明細書には、旧請求項1に係る発明特定事項は記載されているが、旧請求項2に係る発明特定事項については記載されていないので、旧請求項2に係る発明については、国内優先権に伴う優先権主張は認められない。したがって、特許法第29条第2項の判断において基準となる、本件に係る出願の出願日は、実際の出願日である平成14年10月16日であると認められる。
(9)第1回口頭審理調書の「【無効理由の確認】」に記載されているように、請求人は、「旧請求項1が被請求人により取り下げられたことから、旧請求項2に係る無効理由2、4、5、6、9、10について争う」点を主張している。請求人の提出した甲第15号証ないし甲第59号証は、審判請求時に提出されたものではないので、同書において請求人は、「口頭審理陳述要領書に添付された甲第15号証ないし甲第59号証を、参考資料1ないし45とする」点について同意している。
(10)第1回口頭審理調書の「【無効理由6について】」に記載されているように、無効理由6の検討において、公用物件2のみについて検討する。同様に、甲第10-2-1号証の「組成内容証明書」を参考資料12(甲第26号証)への差し替えを認め、参考資料13、参考資料14(甲第27号証、甲第28号証)により公用物件4を追加することを認めることはできない。
。
(11)また、口頭審理終了後に、被請求人から平成23年3月4日付けで乙25号証が添付された上申書が提出され、この上申書に対して請求人から平成23年3月4日付けで甲第60号証が添付された上申書、及び、平成23年3月10日付けの上申書が提出されている。甲第60号証については、上記の「(9)」と同様に、参考資料46として扱う。
2.訂正の可否に対する判断
2.1 訂正の内容
被請求人が訂正請求書2により求めた訂正の内容は、下記(ア)ないし(ニ)のとおり訂正することを求めるものである。
(ア)訂正事項1
特許第4171280号における特許請求の範囲において、
「【請求項1】
外気温15℃の雰囲気下において、波長0.7~100μm、熱量4kw/m2の赤外及び遠赤外線が2時間照射された際に、管表面最大温度が60℃以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管。
【請求項2】
顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管であって、3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管。
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r0:切開前内半径 r1:切開後内半径」とあるのを、
「【請求項1】
顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管であって、3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管。σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0)(1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r0:切開前内半径 r1:切開後内半径」と訂正する。
(イ)訂正事項2
特許明細書の段落【0005】において、
「【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、請求項1の発明(以下、発明1)は、外気温15℃の雰囲気下において、波長0.7~100μm、熱量4kw/m2の赤外及び遠赤外線が2時間照射された際に、管表面最大温度が60℃以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管を提供する。
また、請求項2の発明(以下、発明2)は、顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管であって、3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管を提供する。
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r0:切開前内半径 r1:切開後内半径」とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管であって、3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管を提供する。
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r0:切開前内半径 r1:切開後内半径」と訂正する。
(ウ)訂正事項3
特許明細書の段落【0006】において、
「以下に本発明を詳述する。
本発明1の硬質塩化ビニル系樹脂管は、外気温15℃の雰囲気下において、波長0.7~100μm、熱量4kw/m2の赤外及び遠赤外線が2時間照射された際に、管表面最大温度が60℃以下でなくてはならない。管表面最大温度が60℃を超える硬質塩化ビニル系樹脂管は、特に夏場、太陽光の照射される環境下に保管した場合湾曲量が大きくなり、管体としての性能を発揮できなくなるため、この範囲に限定される。
本発明2の硬質塩化ビニル系樹脂管は、3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下でなくてはならない。
特に夏場、太陽光の照射される環境下に保管された場合、湾曲量が大きくなるため、この範囲に限定される。3500kcal/m2・日とは、夏場の日射量に相当し、実際の暴露試験で3~4週間で反り量は飽和するので、20日間としたものである。」とあるのを、
「以下に本発明を詳述する。本発明の硬質塩化ビニル系樹脂管は,3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下でなくてはならない。
特に夏場、太陽光の照射される環境下に保管された場合、湾曲量が大きくなるため、この範囲に限定される。3500kcal/m2・日とは、夏場の日射量に相当し、実際の暴露試験で3~4週間で反り量は飽和するので、20日間としたものである。」と訂正する。
(エ)訂正事項4
特許明細書の段落【0007】において、
「本発明1及び本発明2に用いられる塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル単独重合休または塩化ビニルを主成分とする複合塩化ビニル系樹脂が挙げられる。これらは単独で用いられても良く、2種類以上併用して用いても良い。」とあるのを、
「本発明に用いられる塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル単独重合体または塩化ビニルを主成分とする複合塩化ビニル系樹脂が挙げられる。これらは単独で用いられても良く、2種類以上併用して用いても良い。」と訂正する。
(オ)訂正事項5
特許明細書の段落【0008】において、
「本発明1及び本発明2に用いられる塩化ビニル系樹脂の平均重合度は600~3000が好ましく、更に好ましくは800~2000である。平均重合度が600未満であると機械的強度が不足する可能性があり、逆に平均重合度が3000を超えると成形が困難になることがある。」とあるのを、
「本発明に用いられる塩化ビニル系樹脂の平均重合度は600~3000が好ましく、更に好ましくは800~2000である。平均重合度が600未満であると機械的強度が不足する可能性があり、逆に平均重合度が3000を超えると成形が困難になることがある。」と訂正する。
(カ)訂正事項6
特許明細書の段落【0009】において、
「本発明1及び本発明2で用いられる塩化ビニルを主成分とする複合塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーや重合体との共重合体等が挙げられる。」とあるのを、
「本発明で用いられる塩化ビニルを主成分とする複合塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーや重合体との共重合体等が挙げられる。」と訂正する。
(キ)訂正事項7
特許明細書の段落【0014】において、
「本発明1及び本発明2の硬質塩化ビニル系樹脂管を得る場合には、必要に応じて熱安定剤、安定化助剤、滑剤、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料、充填剤等を添加してもよい。」とあるのを、
「本発明の硬質塩化ビニル系樹脂管を得る場合には、必要に応じて熱安定剤、安定化助剤、滑剤、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料、充填剤等を添加してもよい。」と訂正する。
(ク)訂正事項8
特許明細書の段落【0015】において、
「上記熟安定剤としては特に限定されず、例えば、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等の有機錫安定剤、ステアリン酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤、カルシウム-亜鉛系安定剤、バリウム-亜鉛系安定剤、バリウム-カドミウム系安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。」とあるのを、
「上記熱安定剤としては特に限定されず、例えば、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等の有機錫安定剤、ステアリン酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤、カルシウム-亜鉛系安定剤、バリウム-亜鉛系安定剤、バリウム-カドミウム系安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。」と訂正する。
(コ)訂正事項9
特許明細書の段落【0022】において、
「本発明1及び本発明2の硬質塩化ビニル系樹脂管の成形方法は、従来公知の方法で良く、例えば押出成形方法が好適に用いられる。」とあるのを、
「本発明の硬質塩化ビニル系樹脂管の成形方法は、従来公知の方法で良く、例えば押出成形方法が好適に用いられる。」と訂正する。
(サ)訂正事項10
特許明細書の段落【0024】において、
「【発明の実施の形態】
以下に実施例を挙げて、具体的に本発明の効果を鋭明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。」とあるのを、
「【発明の実施の形態】
以下に実施例を挙げて、具体的に本発明の効果を説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。」と訂正する。
(シ)訂正事項11
特許明細書の段落【0025】において、
「(実施例1)
[塩化ビニル系樹脂組成物の作製]」とあるのを、
「(参考例1)
[塩化ビニル系樹脂組成物の作製]」と訂正する。
(ス)訂正事項12
特許明細書の段落【0026】において、
「[塩化ビニル系樹脂管継手の成形]」とあるのを、
「[塩化ビニル系樹脂管の成形]」と訂正する。
(セ)訂正事項13
特許明細書の段落【0027】において、
「(実施例2)
塩化ビニル単独重合体を用いる代わりに、下記要領で作成した複合塩化ビニル系樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様にして塩化ビニル系樹脂管を得た。」とあるのを、
「(参考例2)
塩化ビニル単独重合体を用いる代わりに、下記要領で作成した複合塩化ビニル系樹脂を用いたこと以外は参考例1と同様にして塩化ビニル系樹脂管を得た。」と訂正する。
(ソ)訂正事項14
特許明細書の段落【0030】において、
「(比較例1)
黒色顔料を添加する代わりに、カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」、東海カーボン社製)を0.5重量部添加したこと以外は実施例1と同様にして塩化ビニル系樹脂管を得て、評価を行った。」とあるのを、
「(比較例1)
黒色顔料を添加する代わりに、カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」、東海カーボン社製)を0.5重量部添加したこと以外は参考例1と同様にして塩化ビニル系樹脂管を得て、評価を行った。」と訂正する。
(タ)訂正事項15
特許明細書の段落【0031】において、
「[塩化ビニル系樹脂管の物性評価]
実施例1,2及び比較例1で得られた塩化ビニル系樹脂管について、管表面温度及び湾曲量を以下の方法で評価し、その結果を表1に示した。」とあるのを、
「[塩化ビニル系樹脂管の物性評価]
参考例1,2及び比較例1で得られた塩化ビニル系樹脂管について、管表面温度及び湾曲量を以下の方法で評価し、その結果を表1に示した。」と訂正する。
(チ)訂正事項16
特許明細書の段落【0032】の【表1】において、
「実施例1 実施例2 比較例1」とあるのを、
「参考例1 参考例2 比較例1」と訂正する。
(ツ)訂正事項17
特許明細書の段落【0033】において、
「(実施例3)
[塩化ビニル系樹脂組成物の作製]
実施例1の黒色顔料(商品名「Black A-1103」、大日精化社製)を0.05重量部用いたこと以外は実施例1と同じ方法で塩化ビニル系樹脂組成物を得た。」とあるのを、
「(実施例1)
[塩化ビニル系樹脂組成物の作製]
参考例1の黒色顔料(商品名「Black A-1103」、大日精化社製)を0.05重量部用いたこと以外は参考例1と同じ方法で塩化ビニル系樹脂組成物を得た。」と訂正する。
(テ)訂正事項18
特許明細書の段落【0034】において、
「[塩化ビニル系樹脂管継手の成形]
得られた塩化ビニル系樹脂樹脂組成物を直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、外径60mm、肉厚4.5mmの成形体を50℃の温水で冷却後、長さ4mに切断し硬質塩化ビニル系樹脂管を得た。」とあるのを、
「[塩化ビニル系樹脂管の成形]
得られた塩化ビニル系樹脂組成物を直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、外径60mm、肉厚4.5mmの成形体を50℃の温水で冷却後、長さ4mに切断し硬質塩化ビニル系樹脂管を得た。」と訂正する。
(ト)訂正事項19
特許明細書の段落【0035】において、
「[塩化ビニル系樹脂管の物性評価]
実施例3で得られた塩化ビニル系樹脂管について、湾曲量、引張弾性率、ポアソン比、応力を以下の方法で評価し、その結果を表2に示した。」とあるのを、
「[塩化ビニル系樹脂管の物性評価]
実施例1で得られた塩化ビニル系樹脂管について、湾曲量、引張弾性率、ポアソン比、応力を以下の方法で評価し、その結果を表2に示した。」と訂正する。
(ナ)訂正事項20
特許明細書の段落【0038】において、
「(実施例4)
得られた塩化ビニル系樹脂組成物を直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、40℃の温水で冷却したこと以外は、実施例3と同様にして評価を行った。」とあるのを、
「(実施例2)
得られた塩化ビニル系樹脂組成物を直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、40℃の温水で冷却したこと以外は、実施例1と同様にして評価を行った。」と訂正する。
(ニ)訂正事項21
特許明細書の段落【0039】において、
「(比較例2)
実施例1の黒色顔料(商品名「Black A-1103」、大日精化社製)0.5重量部の代わりに、カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」、東海カーボン社製)0.05重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして塩化ビニル系樹脂組成物を得、これを直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、25℃の水で冷却した以外は、実施例3と同様にして評価を行った。」とあるのを、
「(比較例2)
参考例1の黒色顔料(商品名「Black A-1103」、大日精化社製)0.5重量部の代わりに、カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」、東海カーボン社製)0.05重量部を用いたこと以外は参考例1と同様にして塩化ビニル系樹脂組成物を得、これを直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、25℃の水で冷却した以外は、実施例1と同様にして評価を行った。」と訂正する。
(ヌ)訂正事項22
特許明細書の段落【0040】の【表2】において、
「実施例3 実施例4 比較例2」とあるのを、
「実施例1 実施例2 比較例2」と訂正する。
2.2 訂正の適否の当審の判断
(ア)訂正事項1についての判断
この訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1(以下「旧請求項1」という。)を削除し、訂正前の特許請求の範囲の請求項2(以下「旧請求項2」という。)を請求項1する訂正であるから、当該訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正は、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(イ)訂正事項2、3についての判断
この訂正は、旧請求項1を削除し、かつ、旧請求項2を請求項1に訂正したことに伴い、発明の詳細な説明の記載をこれに整合させるべく、(a)段落【0005】及び段落【0006】において、旧請求項1に関する記載を削除し、(b)旧請求項1、旧請求項2に係る発明をそれぞれ意味する「本発明1」、「本発明2」の記載を削除し、かつ(c)訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を「本発明」と記載するように訂正したものである。よって、当該訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正は、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)訂正事項4~7、9についての判断
この訂正は、旧請求項1を削除し、かつ、旧請求項2を請求項1に訂正したことに伴い、発明の詳細な説明の記載をこれに整合させるべく、段落【0007】、段落【0008】、段落【0009】及び段落【0014】において、旧請求項1、旧請求項2に係る発明をそれぞれ意味する「本発明1」、「本発明2」の記載を削除し、かつ、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を「本発明」と記載するように訂正したものである。よって、当該訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、段落【0007】においては、加えて、「塩化ビニル単独重合休」を「塩化ビニル単独重合体」に訂正しているが、当該訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、当該訂正は、明りょうでない記載の釈明に関して願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、誤記の訂正に関して願書に最初に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(エ)訂正事項8、10、12、18についての判断
この訂正は、段落【0015】において、訂正前に「熟安定性」と記載されていたのを「熱安定性」に、段落【0024】において、訂正前に「鋭明」と記載されていたのを「説明」に、特許明細書の段落【0026】及び段落【0034】において、訂正前に「塩化ビニル系樹脂管継手の成形」と記載されていたのを「塩化ビニル系樹脂管の成形」に、段落【0034】において、訂正前に「樹脂樹脂組成物」と記載されていたのを「樹脂組成物」にそれぞれ訂正するものである。よって、この訂正は誤記の訂正を目的とするものである。
そして、当該訂正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(オ)訂正事項11、13~16についての判断
この訂正は、段落【0025】、段落【0027】、段落【0030】、段落【0031】、段落【0032】において、特許請求の範囲の訂正により、実施例に該当しなくなった訂正前の「実施例1」及び「実施例2」を、それぞれ「参考例1」及び「参考例2」に訂正するものである。よって、当該訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(カ)訂正事項17、21についての判断
この訂正は、段落【0033】、段落【0039】において、特許請求の範囲の訂正により実施例に該当しなくなった訂正前の「実施例1」を「参考例1」に訂正し、かつ、「実施例1」及び「実施例2」が、それぞれ「参考例1」及び「参考例2」になったことに伴い、「実施例3」を「実施例1」に訂正するものである。よって、当該訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(キ)訂正事項19についての判断
この訂正は、段落【0035】において、特許請求の範囲の訂正により「実施例1」及び「実施例2」が、それぞれ「参考例1」及び「参考例2」になったことに伴い、「実施例3」を、「実施例1」に訂正するものである。よって、当該訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正は、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ク)訂正事項20、22についての判断
この訂正は、段落【0038】、段落【0040】において、特許請求の範囲の訂正により「実施例1」及び「実施例2」が、それぞれ「参考例1」及び「参考例2」になったことに伴い、「実施例3」を「実施例1」に、「実施例4」を「実施例2」にそれぞれ訂正するものである。よって、当該訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正は、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3項、第4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。
3.本件発明
本件発明は、被請求人が訂正請求書2により求めた本件訂正に係る訂正明細書(全文訂正明細書2)、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
【請求項1】
「顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管であって、3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニル系樹脂管。
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r0:切開前内半径 r1:切開後内半径」
4.請求人の主張
請求人は、「1.手続の経緯」で示すように、「旧請求項1が被請求人により取り下げられたことから、旧請求項1に係る無効理由は取り下げ、旧請求項2に係る無効理由2、4、5、6、9、10について争う」ものである。
請求人が主張する、特許を無効とする理由は、第1回口頭審理調書に記載されたとおり、次の点にある。
(ア)無効理由2
本件発明は、甲第4号証記載の発明に、甲第5号証ないし甲第6-1号証記載の事項、周知の技術、及び、技術常識を適用することで出願時当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ない。
(イ)無効理由4
本件発明は、甲第8号証記載の発明に、甲第2号証ないし甲第5号証、及び、甲第6-1号証記載の事項、周知の技術、及び、技術常識を適用することで出願前当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ない。
(ウ)無効理由5
本件発明は、甲第9-1号証に示される、請求人株式会社クボタが本件特許出願前に日本国内において、請求人が森定興商に対し「クボタビニルパイプVP40 0104」3本(「公用物件1-1」ないし「公用物件1-3」)、「クボタビニルパイプVU65 9909」2本(「公用物件1-4」及び「公用物件1-5」)、「クボタビニルパイプrF-VP65 0206」1本(「公用物件1-6」)、「クボタビニルパイプrF-rF-VP40 0205」1本(「公用物件1-7」)、「クボタビニルパイプVU65 0009」1本(「公用物件1-8」)、「クボタビニルパイプVU50 9004」1本(「公用物件1-9」)、「クボタビニルパイプVU125 0109」1本(「公用物件1-10」)、「クボタビニルパイプVP100 0105」1本(「公用物件1-11」)の合計11本を、請求人が木下薫に対し「クボタビニルパイプVU65 9607」1本(「公用物件1-12」)を、さらに、請求人の関連会社である日本プラスチック工業株式会社が木下薫に対し「ニホンパイプVA38X42 870210」1本(「公用物件1-13」)を、それぞれ製造販売することで公然実施した発明に、甲第5号証及び甲第6-1号証に記載された有機性黒色顔料を添加する事項を適用することで出願時当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ない。(「公用物件1-1」ないし「公用物件1-13」を総称して公用物件1という。)
(エ)無効理由6
本件発明は、甲第10-1-1号証(VP50に係る「クボタビニルパイプカタログ」、2001年3月印刷)に示される「VP50」(「公用物件2」)を、請求人株式会社クボタが本件特許出願前に日本国内において製造販売することで公然実施した発明に、甲第5号証及び甲第6-1号証に記載された有機性黒色顔料を添加する事項を適用することで出願時当業者が容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ない。
(オ)無効理由9
本件発明は硬質塩化ビニル系樹脂管における周応力σの最大値と最小値の差△σが特定の値以下であることを発明特定事項とするものであるところ、該△σに係る特定値(2.94MPa以下)は発明の詳細な説明に記載されたものではなく、したがって、本件発明は特許請求の範囲において特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に違反する。
(カ)無効理由10
本件発明に係る周応力の最大値と最小値の差△σは、本件登録後の誤記訂正によって「比較例2」(カーボンブラック0.05重量部配合)と訂正前の「実施例7」(同上)とが全く同じ成分組成及び製造方法である同一の硬質塩化ビニル樹脂管となったものであるが、両者は訂正前の明細書段落【0040】において異なる周応力σ(最大値)、σ(最小値)、△σを記載したものであり、発明の詳細な説明における△σの証明には疑問があり、且つ、公用物件1~3について曝露前後の周応力△σを測定したところ、曝露前後とも全て△σが2.94MPa以下であり且つ有意な差を示さなかったことから、当業者において本件発明が明細書に記載された「太陽光等による湾曲が生じにくいか湾曲量の小さい硬質塩化ビニル系樹脂管を得る」との作用効果を奏するものか判断することが出来ず、本件発明に係る発明の詳細な説明の記載は当業者が同発明を実施出来る程度に明確かつ十分に記載したものと言うことが出来ないものであり、且つ、本件発明は外延が不明確であるから、本件発明の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に違反し、特許請求の範囲の記載は同条第6項第2号に違反する。(なお、審判請求書の第10頁第8行には「公用物件1~4」とあるが、審判請求時には公用物件は1ないし3のみであり、現に、審判請求書の第12行には「公用物件1~3」とあるように、「公用物件1~3」の誤記であると認められる。)
また、他に、審判請求書の「7-4-10-4」には、「本件発明2に係る明細書の開示」と題して、「当業者は本件発明2の外延に含まれる硬質塩化ビニル管をどのように製造すれば実施できるか(逆に、どのようにすれば本件発明2のパラメータを満たさないものが製造できるか)、何ら把握することができない」と主張している。
請求人が提出している証拠方法
甲第1号証 KUBOTA TECHNICAL REPORT No36
甲第2号証 特開2001-139698号公報
甲第3号証 特公昭60-30347号公報
甲第4号証 特公昭61-50100号公報
甲第5号証 特開昭62-30202号公報
甲第6-1号証 大日精化ニューマテリアルズ「赤外線反射・透過性顔料」カタログ(なお、甲各号証の名称は、審判請求書に添付された甲各号証に付記された記載に応じている。以下、同じ・)
甲第6-2号証 陳述書(大日精化工業株式会社)
甲第7号証 「ポリ塩化ビニル-その基礎と応用」
甲第8号証 「下水道用硬質塩化ビニル管の曲がりに関する検討報告書」
甲第9-1号証 江戸堀公証役場平成21年第123号公正証書
甲第9-2号証 那覇地方法務局宮古島支局平成22年4号封印開披に関する事実実験公正証書
甲第9-3-1号証 陳述書(森定興商)
甲第9-3-2号証 陳述書(木下薫)
甲第9-4-1号証~甲第9-4-13号証 試験報告書(財産法人日本ウェザリングテストセンター)
甲第10-1-1号証 「クボタビニルパイプカタログ」
甲第10-1-2号証 VU65ホワイト色出荷明細
甲第10-2-1号証 再現品製造報告書 (一般管VP50)
甲第10-2-2号証 再現品製造報告書 (ホワイト管VU65)
甲第10-3-1号証、同-3-2号証 試験報告書(財団法人日本ウエザリングテストセンター)
甲第11号証 気象庁HP銚子 日ごとの値
甲第12号証 財団法人日本ウエザリングテストセンター試験報告書
甲第13号証 訂正2009-390155号公報
甲第14号証 本件特許掲載公報
参考資料1 中野貞一郎=松浦馨=鈴木正裕 新民事訴訟法講義(第2版補訂2版)抄本(請求人が「甲第15号証」として提出)
参考資料2 不服2004-473審決公報(請求人が「甲第16号証」として提出)
参考資料3 平成17年(行ケ)第10102号 知的財産高等裁判所平成17年8月30日判決(請求人が「甲第17号証」として提出)
参考資料4 「残留応力」抄(請求人が「甲第18号証」として提出)
参考資料5 第8回プラスチックパイプシンポジウム予稿(請求人が「甲第19号証」として提出)
参考資料6 第9回プラスチックパイプシンポジウム予稿(請求人が「甲第20号証」として提出)
参考資料7 「押出成形」抄(請求人が「甲第21号証」として提出)
参考資料8 特開平8-174635公報(請求人が「甲第22号証」として提出)
参考資料9 特開2001-9896公報(請求人が「甲第23号証」として提出)
参考資料10 「化学辞典」抄(請求人が「甲第24号証」として提出)
参考資料11 特許性検討会報告書 2008(請求人が「甲第25号証」として提出)
参考資料12 再現品製造報告書(公用物件2)(請求人が「甲第26号証」として提出)
参考資料13 クボタケーブル保護管カタログ(1996年6月3日発行)(請求人が「甲第27号証」として提出)
参考資料14 再現結果報告書(公用物件4)(請求人が「甲第28号証」として提出)
参考資料15 試験報告書(日本ウエザリングテストセンター)(請求人が「甲第29号証」として提出)
参考資料16 平成20年(行ケ)第10304号 知的財産高等裁判所平成21年8月18日判決(請求人が「甲第30号証」として提出)
参考資料17 組成報告書(請求人が「甲第31号証」として提出)
参考資料18 被請求人ホームページ(請求人が「甲第32号証」として提出)
参考資料19 下水道用硬質塩化ビニル管技術資料(請求人が「甲第33号証」として提出)
参考資料20 請求人から被請求人宛平成21年11月12日付け書簡(請求人が「甲第34号証」として提出)
参考資料21 被請求人から請求人宛平成22年5月11日付け書簡(請求人が「甲第35号証」として提出)
参考資料22 曝露状況報告書(請求人が「甲第36号証」として提出)
参考資料23 硬質ポリ塩化ビニル管の静置試験報告書(請求人が「甲第37号証」として提出)
参考資料24 社内検査成績書(請求人が「甲第38号証」として提出)
参考資料25 製造条件報告書 (一般管VP50)(請求人が「甲第39号証」として提出)
参考資料26 製造条件報告書 (ホワイトVU65)(請求人が「甲第40号証」として提出)
参考資料27 「プラスチック成形品に残留する応力あるいはヒズミと環境亀裂(最終回)」プラスチックエイジ1973年12月号(請求人が「甲第41号証」として提出)
参考資料28 「残留応力の発生と対策」第5版(請求人が「甲第42号証」として提出)
参考資料29 特開平6-47790号公報(請求人が「甲第43号証」として提出)
参考資料30 特開平10-128825号公報(請求人が「甲第44号証」として提出)
参考資料31 特開2001-205680号公報(請求人が「甲第45号証」として提出)
参考資料32 特開平4-89954号公報(請求人が「甲第46号証」として提出)
参考資料33 特開2002-265727号公報(請求人が「甲第47号証」として提出)
参考資料34 旭有機材工機「AVビニルカラーパイプ」カタログ(請求人が「甲第48号証」として提出)
参考資料35 特開2001-114971号公報(請求人が「甲第49号証」として提出)
参考資料36 マグローヒル科学技術用語大辞典改訂第3版 抄(請求人が「甲第50号証」として提出)
参考資料37 化学辞典 (普及版) 抄(請求人が「甲第51号証」として提出)
参考資料38 顔料便覧 抄(請求人が「甲第52号証」として提出)
参考資料39 プラスチック用着色剤 抄(請求人が「甲第53号証」として提出)
参考資料40 塩化ビニル材料便覧 抄(請求人が「甲第54号証」として提出)
参考資料41 プラスチックおよびゴム用添加剤実用便覧 抄(請求人が「甲第55号証」として提出)
参考資料42 特開平10-306194号公報(請求人が「甲第56号証」として提出)
参考資料43 特開平9-291124号公報(請求人が「甲第57号証」として提出)
参考資料44 特開平10-60159号公報(請求人が「甲第58号証」として提出)
参考資料45 特開平4-91143号公報(請求人が「甲第59号証」として提出)
参考資料46 口頭審理において提出した参考資料(請求人が「甲第60号証」として提出)
5.被請求人の主張
請求人の主張する無効理由2、4、5、6、9、10には全て根拠がなく、本件特許権は有効に存続するべきものである。
6.甲各号証
(1)甲第1号証(KUBOTA TECHNICAL REPORT No36 「下水道用及び情報通信用管路としてのリブパイプシステム」 2000年)
・「自然流下式の下水道では、管路の湾曲により汚物溜まりが発生するため、直線性が必要であるが、VU管を炎天下に長時間放置すると、管の湾曲が発生する。
管の湾曲は、直射日光が当たる部分と影の部分で温度差を生じ、その結果線膨張に差が生じることに起因する。
一般に使用されている硬質塩化ビニル管は灰色であり、直射日光が当たると管表面温度は73℃まで上昇し、影の部分とかなりの温度差が生じる。これは硬質塩化ビニル管の顔料に使用されているカーボンの遠赤外線吸収率がきわめて高いためである。
また硬質塩化ビニル管の場合、ダクタイル鋳鉄管や鋼管等の管材に比べ線膨張係数が大きいため、管の湾曲が顕著に表れる。」(第5頁左欄14~同頁同欄27行)
・「カーボンの代わりに色の3原色であるマゼンダ、シアン、イエローの顔料を混合して黒色とし、これに白色系顔料を添加しVU管と同等の灰色の顔料を開発した。この顔料を使用した管に直射日光を当てた結果、管の表面温度は60℃まで低下した。しかし管は6mm程度湾曲しており、抑制は不十分であった。
灰色の顔料でこれ以上の温度上昇を防ぐのは難しいため、次に灰色以外の顔料の検討を行った。色の選定を行う中で、反射率の高い明るい色に着目したが、ガス市場では緑色・黄色、電力市場ではオレンジ色が定着していたため、リブパイプでは明るい青紫色の顔料に決定した。ノンカーボンの明るい青紫色の顔料を使用した管では、管の表面温度が55℃まで低下し、18℃の温度上昇抑制効果が得られた。この管の湾曲は3mm程度であり、実用上問題ないレベルまで抑制できた。」(第5頁右欄3~同頁同欄17行)
(2)甲第2号証(特開2001-139698号公報)
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は屋外建材用塩化ビニル系樹脂硬質成形品に関するものである。更に詳しくは、屋外で使用され、太陽光線に加熱される際の昇温を抑制し、熱変形を防ぐことができる屋外建材用塩化ビニル系樹脂硬質成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、塩化ビニル系樹脂組成物を用いた硬質成形品が外壁、屋根材、波板、雨樋、窓枠、管、シート材等の屋外建材用に広く使用されている。この成形品が屋外建材用に用いられる場合、塩化ビニル系樹脂組成物の増量材(コスト低減を目的として)として、通常2~5μmの炭酸カルシウムが添加されている。また、建材用途に使用される成形品は建材全体での色調和を図るため、顔料を添加して茶色、暗茶色等の濃暗色系の色調に着色することが多い。これら成形品は濃暗色系に着色されているため夏場、日中に太陽光線によって成形品の表面温度が上昇し、成形品に熱変形を生じることがある。このような成形品の熱変形は、成形加工時の成形品の残留歪の復元によって寸法の伸縮、反りや径変化等が生じて使用に耐えられないこともあった。
【0003】これらの問題を解決するため特公昭60-30347号公報には太陽光線による成形品の昇温を抑制するため、赤外線透過性(つまりは赤外領域の波長を有する光波を透過させる性質)の優れた有機着色剤を使用した、赤外領域において30%以上の赤外線透過率を有する塩化ビニル系樹脂硬質成形品が提案されている。しかし、実際には、有機着色剤を使用して赤外領域において30%以上の赤外線透過率を有する塩化ビニル系樹脂硬質成形品を用いても、成形品の表面温度の急激な上昇を抑制することは不十分で、成形品に熱変形が生じることがあり、十分に満足できるものではなかった。
【0004】本発明の課題は有機着色剤で着色された塩化ビニル系樹脂硬質成形品を屋外建材に用いた際、屋外建材(成形品)の表面温度の急激な上昇を抑制し、熱変形を防ぐことができる塩化ビニル系樹脂硬質成形品を提供することにある。」
・「【0007】本発明で用いられる有機着色剤は特に制限は無いが、必要に応じて適宜選択される。このうち特に好ましい有機着色剤としてはキノン系顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料等が挙げられる。また、所望の色調に着色した際に、得られる成形品の赤外線透過率が40%(好ましくは60%)を超える顔料を用いるのが好ましい。これらを更に具体的に例示すれば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、インダンスレンブルー、ハンザイエロー、インダンスレンイエロー、インダンスレンレッド、ポリアゾレッド、イソインドリノンイエロー、キナクリドン等が挙げられる。・・・」
・「【0012】
・・・。(塩化ビニル樹脂組成物の製造)(表1)に示す配合材料を用い(表2)に示す配合割合(重量部)で塩化ビニル樹脂(PVC)、安定剤、滑剤、顔料をヘンシェルミキサーに投入して、攪拌混合して、塩化ビニル樹脂組成物を製造した。」
・「【0015】・・・。
(1)赤外線ランプ照射試験得られた押出シートを長さ15cmに切り、室温23℃、湿度50%に管理された部屋に24時間放置した後、赤外線ランプ(IR、100/110V250WRH、松下電器産業社製)を図1に示すように30cmの距離より10分間照射し、そのときの表面温度を接触温度計で測定した。また、照射後の試験片の変形を目視で確認した。・・・。
【0016】・・・。
(5)赤外線透過率 得られた厚さ2mmのシートを用いて磁気分光光度計(HITACHI 330型 Spectrometer)で、下記の条件で赤外線透過率を測定した。
測定波長領域:700~2、500nm
・・・」
・「【0018】
【発明の効果】本発明の屋外建材用塩化ビニル系樹脂硬質成形品は茶色、暗茶色等の濃暗色系色調に着色されていても、夏場、日中でも、太陽光線によって成形品の表面温度が上昇せず、成形品に熱変形を生じることがないから、本発明の屋外建材用塩化ビニル系樹脂硬質成形品は茶色、暗茶色等の濃暗色系色調に着色されたものが特に有用であり、好ましい。」
(3)甲第3号証(特公昭60-30347号公報)
・「着色剤として、赤外線透過率がすぐれたものと、調色顔料とが配色され、赤外領域において30%以上の赤外線透過率を有することを特徴とする熱可塑性樹脂成形品。」(特許請求の範囲)
・「本発明は熱可塑性樹脂成形品に関するものであり、特に屋外において使用される太陽光線による加熱を受けた際の昇温を抑制し、熱変形を防ぐことが出来る熱可塑性樹脂成形品に関する。
従来から熱可塑性樹脂成形品が、例えば外壁、屋根材、波板、雨樋、管等の建材用途とか、自動車窓枠、前面板、シート材等の用途に広く使用されているが、これらは屋外において主に使用される材料である為、太陽光線によって加熱されて高温度に昇温し、熱変形しやすい欠点があった。かかる欠点は、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂のように耐熱性の低い熱可塑性樹脂において特に著しかった。具体的に雨樋に例をとれば、建物との配色の調和を図るために、銅色、暗茶色等の色調に着色された塩化ビニル樹脂が使用されていることが多いが、比較的暗色の色調に着色されているために夏期高温時には80℃近くまで表面温度が上昇し、熱変形を生じていた。そして雨樋の熱変形は、60℃以上の温度で始まり、又成形用型を用いて得られているために成形時の残留歪の復元によって寸法の伸縮、形状の変化を生じるものであり、軒先に取付施工された雨樋では蛇行現象として見られることが多かった。又施工前であっても、太陽光線の下に放置された雨樋が湾曲したり、反ったり、径変化を起こし、使用出来なくなることもあった。
本発明は上記従来の欠点を解消することを目的としてなされたものであって、主に屋外で使用される熱可塑性樹脂成形品の太陽光線による昇温を抑制し、夏期高温時における熱変形を防ぎうる、熱可塑性樹脂成形品を提供することを目的とする。
本発明の要旨は、着色剤として、赤外線透過性がすぐれたものと、調色顔料が配合され、赤外領域において30%以上の赤外線透過率を有する、熱可塑性樹脂成形品に存する。」(第1欄7行~第2欄末行)
・「熱可塑性樹脂成形品は、用途に適した色調を得るために着色剤によって着色されているのが通常であり、成形材料にはこの為に着色剤が配合されている。例えば従来の雨樋においては塩化ビニル系樹脂に弁柄及びカーボンブラック等の複数の色調の着色剤を配合し、銅色あるいは暗茶色に調色することが行われてきた。しかしながらカーボンブラックは赤外線透過率を殆ど示さず、逆に赤外線を90%以上吸収してしまうために、雨樋は太陽光線により昇温し、成形用型を用いているため残留歪が存在し、昇温時に成形時の残留歪を復元し変形した。かかるカーボンブラックの配合量は塩化ビニル系樹脂100重量部当り0.01重量部にすぎないものであったが、太陽光線による昇温は著しく夏期高温時では80℃付近まで達することがあった。
これに対し本発明においては、着色剤として赤外線透過性、すなわち赤外領域の波長を有する光波を透過させる性質、がすぐれたものと調色顔料を用いるものである。赤外領域とは波長が770mμより大なる領域である。太陽光線による昇温の影響が最も大きいのは770mμから2000mμ迄の範囲であるとされており、したがって本発明において使用される着色剤は770mμから2000mμ迄の範囲における透過性がすぐれているものである。この場合、透過性は770mμから2000mμ迄の範囲において、かなりの波長領域に亘ってすぐれておればよく、かかる波長範囲の全域に亘る必要はない。成形品としての透過率からすれば30%以上であれば昇温抑制効果が著しいものとなる。
赤外線透過性がすぐれた着色剤としては、例えば油溶性染料、キノン系顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、等の中からかかる特性を有するものを選択することができる。」(第3欄15行~第4欄4行)
・「…赤外線透過性がすぐれた着色剤は、油溶性染料、キノン系顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料の等の中から本発明者等が赤外線透過性を測定することによって始めて見出されたものである。赤外線透過性がすぐれた着色剤は、油溶性染料、キノン系顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料の黄色、赤色、青色の色調系列のものに、該当するものが存する。
より具体的に例示すれば、インダンスレンブルー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ポリアゾレッド、バラレッド、ビラゾロンレッド、ハンザイエロー等が存するが、これらすべてが赤外線透過性を有するものでないので、これらを用いて成形品を成形してその中から赤外線透過性を測定して透過率が30%以上のものを基準に選択して使用する。」(第4欄9~25行)
・「実施例1
塩化ビニル系樹脂100重量部当り、赤外線透過性がすぐれているフタロシアニンブルー0.02重量部、調色顔料の弁柄0.5重量部、酸化チタン0.05重量部、熱安定剤の錫メルカプチド1.0重量部、滑剤1.5重量部を配合した成形材料を押出機に入れ、塩化ビニル系樹脂を加熱溶融し、押出機先端に取付けられた成形品金型から銅色の略半円筒状成形品を成形した。
この成形品を太陽光線に曝した際の表面温度の変化の状態を時間の経過との関係で測定したが、第1図曲線イで示すように、56℃以上に昇温することはなく熱変形を生じなかった。」(第5欄41行~第6欄9行)
・「比較例1
実施例1においてフタロシアニンンブルー0.02重量部を使用する代りに、カーボンブラック0.01重量部を使用した以外は実施例1と同組成の成形材料を使用した実施例1と同様にして成形品を成形した。
この成形品を太陽光線に曝した際の表面温度の変化の状態を実施例1と同時間帯で測定したが、第1図曲線ロに示すように28分間に亘って60℃以上に昇温し、この際成形品に熱変形を生じた。又この成形品の透過率を測定したところ、…赤外領域での透過率が低いものであった。」(第6欄15~26行)
・第1図には、2時間太陽光線に曝した結果、表面温度が、実施例1において、カーボンブラックが配合された比較例1に比して低温(56度未満)であった点が示されている。
(4)甲第4号証(特公昭61-50100号公報)
・「特許請求の範囲
1 塩素含有樹脂と、赤外線透過性がすぐれた有機着色剤と、金属酸化物又は金属硫化物にニツケルの錯化合物が加えられてなる該有機着色剤の紫外線安定剤からなることを特徴とする塩素含有樹脂組成物。」(第1欄第1行から同欄第6行)
・「発明の詳細な説明
本発明は塩素含有樹脂組成物に関する。
従来から、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の塩素含有樹脂を成分とする組成物から種々の成形品が得られており、かゝる成形品は例えば外壁、屋根材、波板、雨樋、管、シート材等の建材用途とか、自動車用窓枠、前面板等の用途に広く使用されているが、これらは屋外において主に使用される材料である為、太陽光線によつて加熱されて高温度に昇温し、熱変形を生じやすい欠点があつた。
又建材用途に使用される成形品では、建物との配色の調和を図るために、銅色、暗茶色等の色調に着色された塩化ビニル樹脂が使用されていることが多いが、比較的暗色の色調に着色されているために夏期高温時には80℃近く迄表面温度が上昇し、熱変形を生じていた。そしてかゝる成形品の熱変形は、又成形用型を用いて得られているために成形時の残留歪の復元によつて寸法の伸縮、形状の変化を生ずるものであり、太陽光線下に使用された成形品が彎曲したり、反つたり、径変化を起こし、使用に耐えなくなることもあつた。
又成形品の着色が有機着色剤によつてなされる場合は、成形品が太陽光線に曝されると紫外線により分解、変質等をきたし、有機着色剤の機能を短期間で喪失する欠点があつた。
本発明はかゝる欠点を解消することを目的としてなされたものであつて、成形品を太陽光線に曝した場合に夏期高温時においても高温度に昇温するのを抑制して熱変形を防止する機能を有機着色剤によつて齎しめ、又有機着色剤が紫外線により分解、変質等をきたすのを防ぎ長期間に亘つて有機着色剤の働きを保持することができる、塩素含有樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明塩素含有樹脂組成物は、塩素含有樹脂と赤外線透過性がすぐれた有機着色剤と、金属酸化物又は金属硫化物にニツケルの錯化合物が加えられてなる該有機着色剤の紫外線安定剤からなることを特徴とする、塩素含有樹脂組成物に存する。
次に本発明塩素含有樹脂組成物について更に詳細に説明する。
塩素含有樹脂とは、分子内に塩素一炭素結合を有する樹脂のことであり、例えばポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体等が存する。かゝる塩素含有樹脂は成形性、特に押出成形性が良好であることから、例えば建材用途における成形品の成形に使用できるが、用途に適した色調とするために着色剤が配合される。例えば従来の銅色、暗茶色等の成形品においては塩化ビニル系樹脂に弁柄及び青味又は黒味のカーボンブラツクを配合し、調色することが行なわれてきた。しかしながらカーボンブラツクは赤外線透過性を殆んど示さず、逆に赤外線を90%以上吸収してしまうために、成形品は太陽光線により昇温し、成形用型を用いて製造されているために残留歪が存在し、昇温時に成形時の残留歪を復元し変形した。かゝるカーボンブラツクの配合量は塩化ビニル系樹脂100重量部当り0.01重量部程度にすぎないものであつたが、太陽光線による昇温は著しく、夏期高温時では80℃付近迄達することがあつた。
そこで本発明では太陽光線による昇温を抑制するために赤外線透過性、すなわち赤外領域の波長を有する光波を透過させる性質がすぐれた有機着色剤を使用するものである。
赤外領域とは波長が770mμより大なる領域であるが、透過性は赤外領域の全体に亘つてすぐれていることを必ずしも要しない。太陽光線による昇温の影響が最も大きいのは770mμ乃至2000mμの範囲であるとされており、この点から本発明における有機着色剤も770mμ乃至2000mμの範囲における透過性がすぐれているものを使用するのが好ましい。又この場合でも透過性は770mμ乃至2000mμの範囲において、かなりの波長領域に亘つてすぐれておればよく、かゝる波長範囲の全域に亘る必要はない。又、被着色体の厚みが5mm以下の場合に、透過率が30%以上、好ましくは50%以上であれば昇温抑制効果が著しいものとなる。
赤外線透過性がすぐれた有機着色剤としては、例えば油溶性染料、キノン系顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料等の中からかゝる特性を有するものを選択することができる。油溶性染料、キノン系顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料は数多く存するが、赤外線透過性がすぐれた有機着色剤として提供されたものはない。これは従来の着色剤が着色性に主眼をおいていたからであり、赤外線透過性は考慮されず、可視領域における反射率が検討されるにすぎなかつたことによる。したがつて赤外線透過性がすぐれた有機着色剤は、油溶性染料、キノン系顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料等の中から本発明者等が赤外線透過性を測定することによつて始めて見出されたものである。赤外線透過性がすぐれた有機着色剤は、油溶性染料、キノン系顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料の青色、赤色、黄色の色調を有するものに比較的多いが、これらの系統のものに限られるものでなく、他の系統の染顔料であつて赤外線透過性がすぐれたものを使用できることは言う迄もない。
更に具体的に例示すれば、フタロシアニン、ブルー、フタロシアニングリーン、インダンスレンブルー、ハンザイエロー、インダンスレンイエロー、インダンスレンレツド、ポリアゾロツド等があるが、これらに属する染顔料のすべてが赤外線透過性がすぐれている訳でもないので、予め赤外線透過率を測定し30%以上の透過率のもの、より好ましくは50%以上のものを基準として選択使用するものが好適である。
上記の赤外線透過性がすぐれている有機着色剤には、可視光線吸収性、すなわち可視領域の波長の光波を吸収する性質がすぐれており、したがって屋外で使用される建材等の用途に相応しい暗色調を示すものも多く存する。
可視領域とは380乃至770mμの範囲の波長にあるものを指し、吸収性がすぐれている場合とは反射率が可視領域の大部分において15%程度よりも低くなつていることを意味する。しかし色調の発現の為に部分的には反射率が高くなつていてもよいことは言う迄もない。
又上記の有機着色剤には種々の色調のものが存しているが、成形品として最適な色調を得るために、赤外線透過性がすぐれたものと、調色顔料を併用することができる。かゝる調色顔料としては例えば弁柄、酸化チタン、硫化アンチモン、硫酸アンチモン等の無機顔料、例えばジアゾ系、アントラキノン系顔料等の有機顔料が存する。調色顔料は赤外線透過性がすぐれていることは必要ではないが、調色顔料の存在によつて昇温抑制が妨げられないように適当なものを選定するのが好ましい。
赤外線透過性がすぐれている有機着色剤の使用量は、塩素含有樹脂100重量部当り0.005乃至2.0重量部であるのが好適である。そして0.005重量部よりも少量の場合は、塩素含有樹脂中での分散状態がまばらになり、着色が充分でないため着色製品とならないおそれがあり、又2.0重量部よりも多量の場合は赤外線を透過させる性質は維持されるが、昇温抑制効果としては2.0重量部よりも多量になつても、もはや向上の程度が少ない。
しかして前記の有機着色剤は太陽光線に対して不安定で長期間に亘つて曝されると紫外線により光分解、光活性化による変質をきたし、褪色したり、赤外線を透過させる性質が低下する。この為に本発明では前記有機着色剤の紫外線安定剤を使用する。この紫外線安定剤とは前記有機着色剤が紫外線によつて光分解や変質をきたすのを防ぐ性質を有する物質であり、この紫外線安定剤によつて前記有機着色剤が褪色したり赤外線透過性が低下するのを防ぐことができる。前記有機着色剤の紫外線安定剤としては、金属酸化物又は金属硫化物に更にニツケルの鎖化合物を加えたものが用いられ、これによつて有機着色剤の紫外線安定剤が著るしく増進される。金属酸化物としては、例えば酸化亜鉛、・・・等が好適である。前記有機着色剤の紫外線安定剤における金属酸化物又は金属硫化物の使用量は塩素含有樹脂100重量部当り0.01乃至5.0重量部であるのが好適であり、この範囲にある場合には前記有機着色剤が紫外線によつて光分解や変質をきたすのを防ぐ効果がすぐれたものとなる。又ニツケルの錯化合物の使用量は塩素含有樹脂100重量部当り0.1乃至3.0重量部であるのが好適である。
本発明では、これらの他に、塩素含有樹脂の熱安定剤を添加してもよい。熱安定剤は、塩素含有樹脂組成物を成型加工する際に塩素含有樹脂が熱分解して塩化水素を放出し、成形品に変色をきたしたり、分子鎖切断現象を生じ劣化することを防ぐために使用される。熱安定剤としては例えば二塩基性硫酸鉛、二塩基性亜燐酸鉛、塩基性ステアリン酸鉛等の鉛化合物複塩とステアリン酸鉛、カルシウムステアレート等の有機酸金属塩からなるもの、一般式
R2SnL2(R=C4~C8のn-アルキル基、L=有機脂肪酸又はチオグリコール酸エステル基)で表わされる錫系化合物とカルシウムステアレート、バリウムステアレート等の有機脂肪酸の金属塩と水酸化カルシウム、珪酸石灰、アルミン酸石灰、チタン酸石灰等の無機化合物からなるもの、有機脂肪酸金属塩と前記無機化合物とペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ネオペンチルアルコール、トリメチルロールプロパン、グリセリン、マニトール、ソルビトール等の多価アルコールとC1~C22の炭素鎖のモノカルボン酸、ジカルボン酸、不飽和カルボン酸を多価アルコールもしくはC8~C22のアルコールでエステル化して得られる脂肪酸エステルからなるものが使用される。熱安定剤の使用量は塩素含有樹脂100重量部当り0.1乃至3.0重量部であるのが好適であり、この範囲にある場合には塩素含有樹脂の成形時の熱分解、熱劣化を防ぐ性質がすぐれたものとなる。
本発明塩素含有樹脂組成物は、更に他の添加剤、例えば抗酸化剤、滑剤、帯電防止剤、充填剤等を含有していてもよい。
本発明塩素含有樹脂組成物においては、赤外線透過性がすぐれている有機着色剤によつて、本発明塩素含有樹脂組成物からなる成形品を屋外において使用した際に太陽光線の赤外領域部分を透過させる働きがすぐれており、成形品の昇温が抑制され夏期高温時における成形品の熱変形を防ぐことができる。又前記有機着色剤の紫外線安定剤によつて、太陽光線に成形品が曝された際の有機着色剤の光分解や変質を防止し、前記有機着色剤の褪色や赤外線透過性の低下を長期間に亘つて防止することができる。
実施例 1
塩化ビニル系樹脂(重合度P=1100)100重量部当り、赤外線透過性が夫々60%以上の油溶性青色顔料0.3重量部、油溶性黄色顔料0.3重量部、油溶性赤色顔料(C.I.ソルベントレツド27)0.1重量部を混合し黒色に調色したもの、及び前記着色剤の紫外線安定剤である酸化亜鉛0.5重量部、ニツケルビス(ジ-n-ブチルジチオカルバメート)0.5重量部、塩化ビニル系樹脂の熱安定剤であるステアリン酸カルシウム0.5重量部、ステアリン酸亜鉛0.5重量部、ジペンタエリスリトールとそのアセテートエステルの混合物0.7重量部、珪酸二石灰1.0重量部からなる組成物を200℃で5分間ロール混練し、シート状物を成形した。次いでこのシート状物を190℃の熱プレス機にかけ100Kg/cm2の圧力下に5分間をかけて厚さ1.5mmのシート状物を成形した。
このシート状物を、濃紺カラートタン張り、傾斜角度30°、南向きの屋外曝露台上にのせ、晴天下の太陽光線に曝し、1時間後のシート状物の表面温度を測定したところ、66℃であつた。この場合のシート状物は熱変形を生じなかつた。このシート状物の屋外曝露を長期間継続したが、シート状物が褪色し外観上白化する迄の日数は700日であつた。
実施例 2
実施例1において酸化亜鉛0.5重量部の代りに硫化カドミウム0.5重量部を使用する以外は実施例1と同組成の組成物から実施例1と同様にしてシート状物を成形し、実施例1と同条件下で屋外曝露を行なつた際のシート状物の表面温度は66℃であつた。又シート状物は熱変形を生じなかつた。このシート状物の屋外曝露を長期間継続したが、シート状物が外観上白化する迄の日数は780日であつた。
比較例 1
実施例1における着色剤の代りにカーボンブラツク0.5重量部を使用し、又紫外線安定剤を使用しない以外は実施例1と同組成の組成物から、実施例1と同様にしてシート状物を成形し、実施例1と同条件下で屋外曝露を行なつた際のシート状物の表面温度は84℃であり昇温が著しいものであつた。この場合のシート状物は熱により軟化を著しく生じた。又シート状物が外観上白化する迄の日数は90日であつた。
比較例 2
実施例1において酸化亜鉛及びニツケルビス(ジ-n-ブチルジチオカルバメート)を使用しない以外は実施例1と同組成の組成物から、実施例1と同様にしてシート状物を成形し、実施例1と同条件下で屋外曝露を行なつた際のシート状物の表面温度の上昇は68℃に抑制された。しかし屋外曝露を継続した際にシート状物が外観上白化する迄の日数は35日であり、短期間で昇温抑制効果が低下した。」(第2欄第7行から第8欄第42行)
これらの記載事項を総合すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲第4号証記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「塩化ビニル系樹脂に赤外線透過性が夫々60%以上の油溶性青色顔料、油溶性黄色顔料、油溶性赤色顔料を混合して黒色に調色した後、ロール混練後に熱プレス機にかけて成形したシート状物であって、さらに、夏期高温時における成形品の熱変形を防ぐことを目的として、紫外線安定剤を混練し、南向きの屋外曝露台上に700日の間のせ、晴天下の太陽光線に曝して曝露した後の、シート状物の外観が白化する迄の日数は700日であったシート状物。」
(5)甲第5号証(特開昭62-30202号公報)
・「本発明は赤外線反射性材料に関し、更に詳しく云えば、従来のカーボンブラックやアニリンブラック等の如き黒色顔料による着色物に比してより高い赤外線反射性を有する赤外線反射性材料に関する。…従来、カーボンブラック等の黒色顔料により種々の物品が黒色に着色されているが、これらの黒色着色物は、熱、すなわち赤外線を吸収し易く、直射日光等により異常に高温になり易いという問題点がある。」(1頁右欄8~19行)
・「本発明は、上述の如き従来技術の要望に応えるべく鋭意研究の結果、ある特定の構造のアゾ化合物が、従来のカーボンブラック顔料に比して著しく高い赤外反射性を示すことを知見し、該アゾ化合物を用いて、例えば着色剤、塗料あるいは樹脂成形品とすることによって、優れた赤外線反射性を有する赤外線反射材料が得られることを知見して本発明を完成した。」(2頁左上欄6~13行)。
・「上記の如くして製造された本発明方法で使用するアゾ系化合物は、暗黒色~黒色であり」(3頁右下欄17~18行)
・「更に前記のアゾ化合物を用いて、上記の如き合成樹脂、その他ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリイミド、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等の熱可塑性あるいは熱硬化性樹脂を着色して、フィルム、シートその他の各種着色成形品を得る場合には、これらの熱可塑性および熱硬化性の合成樹脂も本発明における担体材料に包含されるものである。」(4頁左上欄10~19行)
・「実施例4
一般式(II)の化合物;3-(2’,5’-ジクロル-4’-アミノフェニルイミノ)-1-オキソ-4,5,6,7,-テトラクロルイソインドリン
一般式(III)の化合物;2-ヒドロキシ-N-(2’-メチル4’-メトキシフェニル)-11-H-ベンゾ〔a〕-カルバゾール-2-カルボキシアミド
色調;黒色 分解点;341℃」(5頁右上欄8~17行)。
・「実施例15
実施例4で得たアゾ化合物0.5部とパンソルブH1.0部とを混練したものをポリ塩化ビニル樹脂コンパウンド50部と混合し、6インチロールで155~160℃で3分間ロール練りしてシートを形成し、このシートを170℃で50Kgの圧力で厚さ5mmにプレス成形して黒緑色の着色シートを得た。このシートの赤外線反射率を測定したところ実施例12と同様な結果を得た」(6頁右下欄14行~7頁左上欄2行)
(6)甲第6-1号証(大日精化ニューマテリアルズ「赤外線反射・透過性顔料」カタログ 1993年3月1日発行)
・「<特徴>クロモファインブラックA-1103は黒色有機顔料で、赤外線反射、透過性という従来のものにはない特徴を持っています。
カーボンブラック等のこれまでの黒色顔料は、紫外線領域から赤外線領域まで全域にわたり吸収を示します。本顔料は、紫外線領域から可視光線領域では吸収を示しますが、近赤外線より長波長領域の光に対しては非吸収性です。
このような性質であるため…、塗装物では黒色でありながら、赤外線(熱線)を吸収しないことから、温度の上昇が少なく、熱遮へい性を示します。」(5頁左欄1~13行)
・「<用途>塗料・印刷インキ・捺染など、一般的な黒色顔料として幅広く使用することができますが、”赤外線を吸収しない”という特異な性質を活かした、セキュリティーや記録材料、赤外線迷彩及び昇温防止材料などカーボンブラック等で実現不可能な分野へ応用することが出来ます。」(5頁左欄14~末行)
・「<性状及び性質>1.黒色粉体 粒子径 約0.3×0.1μm ……… 6. 顔料として 1)黒度高く、着色力大 2)耐光性、耐候性 優 3)耐熱性[240℃、20分] 優 4)耐酸性[5%硫酸、室温] 優 5)耐アルカリ性[5%水酸化ナトリウム、室温] 優 6)耐溶剤性 優 7.紫外、可視領域の光は吸収するが、赤外領域の光はほとんど全く吸収せず、反射および透過する。」(5頁右欄1~末行)
(7)甲第6-2号証
・「一般的に、顔料は印刷インキ、塗料に限らず、樹脂成形品(例えば塩化ビニル樹脂等)の着色にも、幅広く使用することができます。
当社の特許にも記載しておりますとおり、当該顔料も印刷インキ、塗料、合成繊維、合成樹脂等において使用できる顔料として開発されております。」(第13行~第16行)
(8)甲第7号証(「ポリ塩化ビニル-その基礎と応用」)
・「屋外で使用されるPVC製品は、少なくないが、太陽光線によって製品が熱的影響を受け、物性低下や変褪色をきたすことがある。使用する顔料の種類によって、その差異があり、酸化チタンのみを用いたものは、赤外線反射率が高いので温度上昇は抑えられる。
図5・7がその一例であり、ライトブラウン色相とするのに4種類の顔料を用いて調色するのにその一部にAはフタロシアニンブルを、Bはカーボンブラックをそれぞれ用いた。赤外線反射率は、フタロシアニンブルーが入っている方が大きく、表面温度が低く抑えられることを示している。
図5・8は、同じようにそれぞれの顔料で着色した軟質のPVCシート(厚さ2mm)を屋外で水平に曝露したときのシートの表面温度を測定したものの例であり、使用する顔料の種類によって太陽光から受ける熱的影響の差をみることができる。」(第401頁8行~第402頁1行)
・図5・8には、焼成顔料を用いカーボンの含有量を下げた「B」がカーボンの含有量の多い「C」、「D」に比して日中の表面温度が低い(50℃未満)点が示されている。
(9)甲第8号証(「下水道用硬質塩化ビニル管の曲がりに関する検討報告書」 平成4年5月)
甲第8号証は、塩ビ管を含む樹脂成形体メーカー複数社(請求人、被請求人を含む)よりなる塩化ビニル管・継手協会の小委員会である排下水専門委員会が平成4年5月18日付けでまとめた検討報告書であり、請求人が「各社に守秘義務無く配布された、出願前頒布に係る刊行物である」と主張するものである。
・「1.はじめに
今般、日本下水道協会の認定工場制度拡充強化の一環として、検査方式が変更され、その中で、下水道用硬質宴かビニル管(以下、塩ビ管という)の曲がり量の判定基準について検討が行われ、近い将来定量化されることが想定できる。」(第1頁第1行から同頁第4行)
・「塩ビ管の曲がりに関する苦情は夏期に多いので、一番太陽光線の影響を受ける6月~8月に、各メーカーの塩ビ管がどの程度影響を受けるかを調査した。」(2頁「2.3[1]))(なお、丸中の数字を「[]」内に記載して表現している。以下、同じ。)
・「2.4 日本ウエザリングテストセンターによる測定 (1)実験目的 (1) 実験条件を統一し、曲がり量を測定する。(2) 各社の改善結果を確認する。(3) 曲がり影響を与える要因分析。(2)実験場所:銚子曝露試験場(屋外)(3)実験方法(…)(1) 供試管 VU200(計100本)……(2) 実験期間 平成3年7月10日~10月4日 12週間」(3頁「2.4」)
・「実験結果 表-2による。」(4頁「(4)」)
・「考察(表-2)より
(1) 管色による曲がり量(対象試料の平均値)
・現行灰色(カーボン有り) 10.49mm
・灰色(カーボン無し) 7.50mm
・淡青色(カーボン無し) 5.28mm
現行灰色(カーボン有り)に比べ、灰色(カーボン無し)は3mm程度、淡青色(カーボン無し)は5mm程度曲がりが小さくなる。したがって、顔料変更によって5mm程度の改善が期待できる。」(4頁(5)[1])
・「管の成形歪み大小による差 前半の測定結果では、歪み大の方が曲がりの大きい傾向を示したが、後半の測定結果では、歪み大小による変化があまりない。」(4頁(5)[5])
・甲第8号証には、「灰色(カーボン無し)」、「淡青色(カーボン無し)」がどのような顔料を使用しているのかは記載されていない。また、「灰色(カーボン無し)は3mm程度」・・・「曲がりが小さくなる」理由も甲第8号証には記載されていない。
これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第8号証には、次の発明(以下、「甲第8号証記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「顔料の変更によって曲がりを改善された塩ビ管であって、塩ビ管の曲がりに関する苦情は夏期に多いので、一番太陽光線の影響を受ける6月~8月に、各メーカーの塩ビ管がどの程度影響を受けるかを12週間の間での調査後の、現行灰色(カーボン有り)に比べ、灰色(カーボン無し)は3mm程度、淡青色(カーボン無し)は5mm程度曲がりが小さくなるので、顔料変更によって曲がりの改善が期待できる塩ビ管。」
(10)甲第9-1号証
甲第9-1号証には、請求人株式会社クボタが本件特許出願前に日本国内において、請求人が森定興商に対し「クボタビニルパイプVP40 0104」3本(「公用物件1-1」ないし「公用物件1-3」)、「クボタビニルパイプVU65 9909」2本(「公用物件1-4」及び「公用物件1-5」)、「クボタビニルパイプRF-VP65 0206」1本(「公用物件1-6」)、「クボタビニルパイプRF-VP40 0205」1本(「公用物件1-7」)、「クボタビニルパイプVU65 0009」1本(「公用物件1-8」)、「クボタビニルパイプVU50 9004」1本(「公用物件1-9」)、「クボタビニルパイプVU125 0109」1本(「公用物件1-10」)、「クボタビニルパイプVP100 0105」1本(「公用物件1-11」)の合計11本を、それぞれ製造販売することで公然実施した点が公正証書として提出されている。
さらに、請求人が木下薫に対し「クボタビニルパイプVU65 9607」1本(「公用物件1-12」)を、さらに、請求人の関連会社である日本プラスチック工業株式会社が木下薫に対し「ニホンパイプVA38×42 870210」1本(「公用物件1-13」)を、それぞれ製造販売することで公然実施した点が公正証書として提出されている。
請求人は、「公用物件1-1」ないし「公用物件1-13」を総称して公用物件1と称している。
まず、公然実施された点について、甲第9-1号証には、「公用物件1-1」ないし「公用物件1-13」についてそれぞれ以下のような製造年月であると記載している。
・「公用物件1-1」ないし「公用物件1-3」 「製造年月が2001年(平成13年)4月である」(第6頁第1行から同頁第2行)
・「公用物件1-4」ないし「公用物件1-5」 「製造年月が1999年(平成11年)9月である」(第6頁第19行から同頁第20行)
・「公用物件1-6」「製造年月が2002年(平成14年)6月である」(第7頁第15行から同頁第16行)
・「公用物件1-7」「製造年月が2002年(平成14年)5月である」(第8頁第5行から同頁第6行)
・「公用物件1-8」「製造年月が2000年(平成12年)9月である」(第8頁第20行から第9頁第1行)
・「公用物件1-9」「製造年月が1990年(平成2年)4月である」(第9頁第12行から同頁第13行)
・「公用物件1-10」「製造年月が2001年(平成13年)9月である」(第10頁第4行から同頁第5行)
・「公用物件1-11」「製造年月が2001年(平成13年)5月である」(第10頁第16行から同頁第17行)
・「公用物件1-12」「製造年月が1996年(平成8年)7月である」(第15頁第2行から同頁第3行)
・「公用物件1-13」「1987年(昭和62年)2月に10号機で製造」(第15頁第17行から同頁第18行)
これらの記載から、「公用物件1-1」ないし「公用物件1-13」はすべて、製造年月が本件に係る出願の実際の出願日である平成14年10月16日以前であることが記載されている。
また、「公用物件1-1」ないし「公用物件1-13」の材質については、すべて「塩化ビニル管」であると記載されているが、材質については、それ以外の記載はない。
(11)甲第9-2号証
甲第9-2号証には、「公用物件1-1」ないし「公用物件1-13」を宮古島試験所の職員である久貝安生に引き渡した点が記載されている。
(12)甲第9-4-1号証ないし甲第9-4-13号証
甲第9-4-1号証には、以下の点が記載されている。
・「1.試験体
名称、暴露時の長さ及び数量:次のとおり。
硬質塩化ビニルパイプ 試験体No.1 (3494mm)・・・1本
「クボタビニルパイプ VP40 0104」
2.試験方法
2.1 大気暴露試験
試験条件:JIS Z 2381(大気暴露試験方法通則)に準拠し、水平面に直接暴露した。
試験期間:日積算日射量が3500kcal/m2 (14651kJ/m2)以上の日が延べ20日間になるまで暴露した。(2010年1月15日~2010年3月11日)」(第1頁の「2.試験方法」の欄の「2.1 大気暴露試験」)
・「2.7 周方向応力の計算
引張試験結果から次の式によって周方向応力(σ)の計算を行った。
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0)」(第1頁の「2.試験方法」の欄の「2.7 周方向応力の計算」)
・「表1 暴露後の試験結果
クボタビニルパイプ
VP40 0104」(第3頁)
・表4には、日射量測定値として、日射量が3500kcal/m2 (14651kJ/m2)以上の日が延べ20日間の間試験した点が示されている。
したがって、甲第9-4-1号証には、公用物件1-1に対して大気暴露実験を行い、「本件に係る出願の実際の出願日前に製造された硬質塩化ビニルパイプを2010年1月15日~2010年3月11日の間において大気暴露試験を行い、下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下である硬質塩化ビニルパイプ。
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)」が示されている。
そして、甲第9-4-2号証ないし甲第9-4-13号証には、同様に「公用物件1-2」ないし「公用物件1-13」に対して暴露実験を同様に行い、甲第9-4-1号証と同様に、「本件に係る出願の実際の出願日前に製造された硬質塩化ビニルパイプを2010年1月15日~2010年3月11日の間において大気暴露試験を行い、式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニルパイプ。」が示されているといえる。
(13)甲第10-1-1号証
・「水道用VP管<JIS K6742>(品番1001)」に、呼び径が50である「一般管 VP50」が示されており、甲第10-1-1号証の発行日が2001年(平成13年)3月5日(本件に係る出願の実際の出願日である平成14年10月16日以前)であることが示されているといえる。
(14)甲第10-1-2号証
第1回口頭審理調書の「【無効理由6について】」において、被請求人が主張するように「甲10-1-2においては作成者が特定されておらず、信正に成立したものと認められず、形式的証拠力を欠く」ものであるので、上記「1.手続の経緯」の「(6)」に示すように、「無効理由6の検討において、公用物件2のみについて検討する」こととする。
(15)参考資料12(甲第26号証)(請求人からの要求により、甲第10-2-1号証は参考資料12(甲第26号証)へ差し替えられている。)
・「1.原料の配合
(1)平成13年4月当時製造していた「一般管 VP50]の原料の配合(A1001C)は、以下のとおりである(資料1[配合変更通知書]参照)。
上記は、ポリ塩化ビニル(PVC)を100とした配合割合である。
資料1には、PVCは2つに分けて書かれているが、これは、最初に配合割合12.09部のPVCをKS-6-2-3とSL-700と配合し、その後に、配合割合87.91部のPVCを配合するという手順をとるためである。
(2)上記(1)の原料のうち「KS-6-2-3]は、複数の添加剤を配合した安定剤であり、その配合組成は、以下のとおりである(資料1の2頁参照)。
なお、上記(1)の原料配合表において、「KS-6-2-3]の配合割合は、PVC100に対して2.32となっているので、これに合わせた配合割合もともに記載する。
・「「D-13321」と「D-14242」は、分散剤の成分が異なるだけで、それ以外は同一成分である。」(第3頁第14行から同頁第15行)
・「組成内容証明書
・・・
3.調査結果
・ ・・・
・D-13321のカーボンブラックの含有量は約4%です。」(組成内容証明書の第6行~同書の第25行)
したがって、参考資料12には、「顔料としてカーボンブラック含有量が約4%のD-14242が配合されたビニルパイプV50」が示されているといえる。
(16)甲第10-3-1号証
・「1.試験体
名称、暴露時の長さ及び数量:次のとおり。
硬質塩化ビニルパイプ 試験体No.14~16 (3495mm,3497mm,3496mm)・・・3本
「一般管 VP50 (配合:A1001C)」
2.試験方法
2.1 大気暴露試験
試験条件:JIS Z 2381(大気暴露試験方法通則)に準拠し、水平面に直接暴露した。
試験期間:日積算日射量が3500kcal/m2 (14651kJ/m2)以上の日が延べ20日間になるまで暴露した。(2010年1月15日~2010年3月11日)」(第1頁の「2.試験方法」の欄の「2.1 大気暴露試験」)
・「2.7 周方向応力の計算
引張試験結果から次の式によって周方向応力(σ)の計算を行った。
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)」(第1頁の「2.試験方法」の欄の「2.7 周方向応力の計算」)
・「表1 暴露後の試験結果
一般管 VP50
(配合:A1001C)」(第3頁)
・表10には、日射量測定値として、日射量が3500kcal/m2 (14651kJ/m2)以上の日が延べ20日間の間試験した点が示されている。
したがって、甲第10-3-1号証には、公用物件2に関し、「下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下である硬質塩化ビニルパイプ。
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)」が示されている。
7.無効理由2についての判断
(1)本件発明と甲第4号証記載の発明との対比
本件発明と上記の「6.甲各号証」の「(4)甲第4号証(特公昭61-50100号公報)」に記載されている甲第4号証記載の発明とを対比する。
第1回口頭審理調書の「【本件発明の確認】」に「技術的意義1」に関して、以下の記載があり、これを踏まえて以下の対比を行う。
「(1)「顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管であって」なる発明特定事項と、「3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下である」との発明特定事項との関係に関して、以下の主張がなされています。被請求人からの第1回口頭審理陳述要領書の第4頁の「(ウ)」に、『「有機系黒色顔料の添加」によって、塩化ビニル系樹脂管の赤外線吸収率を低減させることが必須の構成ですから、「例えば冷却水の水温を上げたりすることによる管の残留応力を低減したりする」ことは、有機系黒色顔料のみの添加によって「△σを2.94MPa以下」にすることができない場合の付加的手段を例示しているということになります』と記載されています(以下、「技術的意義1」という。)。」
ここで、後者の「赤外線透過性が夫々60%以上の油溶性青色顔料、油溶性黄色顔料、油溶性赤色顔料を混合し黒色に調色した塩化ビニル系樹脂を成分とするシート状物」において、「紫外線安定剤を混練し」たことにより、甲第4号証記載のシート状物が外観上白化するまでの日数を比較例1の90日から700日に伸びていることから、後者の「紫外線安定剤を混練し」た点が、前者の「付加的手段」に相当するといえることから、前者と後者では付加的手段を有する点で共通するので、甲第4号証記載の発明も、本件発明の技術的意義1を解決しているといえる。
(ア)後者の「塩化ビニル系樹脂に赤外線透過性が夫々60%以上の油溶性青色顔料、油溶性黄色顔料、油溶性赤色顔料を混合して黒色に調色した後、ロール混練後に熱プレス機にかけて成形したシート状物」と
前者の「顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管」とは、
「顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂からなる成形品」との概念で共通する。
(イ)後者の「南向きの屋外曝露台上に700日の間のせ、晴天下の太陽光線に曝して曝露した」態様と、前者の「3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された」態様とは、特許明細書の【0006】の「3500kcal/m2・日とは、夏場の日射量に相当し、実際の暴露試験で3~4週間で反り量は飽和するので、20日間としたものである」なる記載を踏まえると、「夏期高温時の環境下に20日間以上静置された」との概念で共通することから、
後者の「南向きの屋外曝露台上に700日の間のせ、晴天下の太陽光線に曝して曝露した後」と
前者の「3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後」とは、
「夏期高温時の環境下に20日間以上静置された後」との概念で共通する。
(ウ)後者において「シート状物の外観が白化する迄の日数は700日であった」であることの技術的な意義についてまず検討する。
甲第4号証には、「カーボンブラツクは赤外線透過性を殆んど示さず、逆に赤外線を90%以上吸収してしまうために、成形品は太陽光線により昇温し、成形用型を用いて製造されているために残留歪が存在し、昇温時に成形時の残留歪を復元し変形した」と記載されており(第3欄第38行から同欄第42行)、「そこで本発明では太陽光線による昇温を抑制するために赤外線透過性、すなわち赤外領域の波長を有する光波を透過させる性質がすぐれた有機着色剤を使用する」点が記載され(第4欄第3行から同欄第6行)、さらに、「有機着色剤は太陽光線に対して不安定で長期間に亘つて曝されると紫外線により光分解、光活性化による変質をきたし、褪色したり、赤外線を透過させる性質が低下する。この為に本発明では前記有機着色剤の紫外線安定剤を使用する。この紫外線安定剤とは前記有機着色剤が紫外線によつて光分解や変質をきたすのを防ぐ性質を有する物質であり、この紫外線安定剤によつて前記有機着色剤が褪色したり赤外線透過性が低下するのを防ぐことができる。」と記載されている(第5欄第38行から第6欄第3行)。
これらの記載からみて、甲第4号証のものは、赤外線透過性がすぐれた有機着色剤を使用することで昇温を抑制することにより変形を防止するものにおいて、紫外線安定剤により有機着色剤の変質を抑制する際の有機着色剤の変質の程度を推定するものであるといえるので、後者の「シート状物の外観が白化する迄の日数は700日であった」ことの技術的意義は、有機着色剤の昇温抑制効果が長期間持続し、シート状物の変形を防止し得るものであるといえる。
したがって、甲第4号証の後者の「シート状物の外観が白化する迄の日数は700日であった」態様と
前者の「下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下である」態様とは、
「変形が防止される」との概念で共通する。
なお、請求人は、第1回口頭審理調書の「【無効理由2について】」において、「シート状物は、サンプルとしての意味で解釈すべきである。」と主張している。この主張の意味は甲第4号証記載の発明を管として認定できるというものであると解される。しかしながら、シート状物は、ロール混練後に熱プレス機にかけて成形したものであり、製造方法が管とは異なるといえ、被請求人が主張するように、「サンプルであったとしても、シート状物と管とで曲がるメカニズムは異なる。管には適用できない。」のであるから、甲第4号証記載の発明が管として認定できるとの請求人の主張を採用することができない。
さらに、甲第4号証には、上記のように「カーボンブラツクは赤外線透過性を殆んど示さず、逆に赤外線を90%以上吸収してしまうために、成形品は太陽光線により昇温し、成形用型を用いて製造されているために残留歪が存在し、昇温時に成形時の残留歪を復元し変形した」とのみ記載されており(第3欄第38行から同欄第42行)、被請求人が第2回口頭審理陳述要領書の第4頁に記載している「管の湾曲のメカニズム」については触れていないので、「管」の場合の変形の防止については、明示されていないといえる。したがって、上記のように、甲第4号証には、赤外線透過性がすぐれた有機着色剤を使用することで昇温を抑制することにより変形を防止する点の示唆がなされており、さらに、「従来から、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の塩素含有樹脂を成分とする組成物から種々の成形品が得られており、かゝる成形品は例えば外壁、屋根材、波板、雨樋、管、シート材等の建材用途とか、自動車用窓枠、前面板等の用途に広く使用されているが、これらは屋外において主に使用される材料である為、太陽光線によつて加熱されて高温度に昇温し、熱変形を生じやすい欠点があつた。」と記載されている(第2欄第9行から同欄第17行)ように「管」を対象とすることも示唆はされているが、有機系黒色顔料を使用しているのは管ではなくシート状物であり、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲については、甲第4号証にはなんら記載されていないことを踏まえると、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが甲第4号証には、直接的に記載されているとは認められない。
したがって、両者は、
「顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂からなる成形品であって、夏期高温時の環境下に20日間以上静置された後の、変形が防止される、硬質塩化ビニル系樹脂からなる成形品。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。
[相違点1]
硬質塩化ビニル系樹脂からなる成形品に関し、本件発明では、「管」であるのに対し、甲第4号証記載の発明では「シート状物」である点。
[相違点2]
夏期高温時の環境下に静置する条件に関し、本件発明では「3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する」環境下に20日間静置されているのに対し、甲第4号証記載の発明では、南向きの屋外曝露台上に700日の間のせ、晴天下の太陽光線に曝して曝露した点。
[相違点3]
変形が防止されるために成形品が有する物性の特定方法に関し、本件発明では「下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下」であり、式(1)が「σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0)(1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r0:切開前内半径 r1:切開後内半径」であるのに対し、甲第4号証記載の発明ではシート状物の外観が白化する迄の日数である点。
(2)判断
判断に際しては、まず、個別の相違点に係る本件発明の発明特定事項がこれまでに請求人から提出された甲各号証に記載されているかについて検討することとする。
[相違点1]について
甲第4号証には、「従来から、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の塩素含有樹脂を成分とする組成物から種々の成形品が得られており、かゝる成形品は例えば外壁、屋根材、波板、雨樋、管、シート材等の建材用途とか、自動車用窓枠、前面板等の用途に広く使用されているが、これらは屋外において主に使用される材料である為、太陽光線によつて加熱されて高温度に昇温し、熱変形を生じやすい欠点があつた。」と記載されており(第2欄第9行から同欄第17行)、塩化ビニル系樹脂を成分とする「管」において変形が生じることが従来から課題であることが記載されている。したがって、甲第4号証には、管を対象とすることが示唆されているといえる。さらに、上記「(1)本件発明と甲第4号証記載の発明との対比」の「(ウ)」に記載したように、甲第4号証記載の発明も、赤外線透過性がすぐれた有機着色剤を使用することで昇温を抑制することにより変形を防止するものであるので、赤外線透過性がすぐれた有機着色剤を使用して変形を防止することも開示されているといえる。
そうすると、甲第4号証記載の発明において、シー地上物を「管」とすることにより相違点1に係る本件発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。
[相違点2]について
本件発明において3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する」環境下に「20日間」静置されたことによる技術的な意義は全文訂正明細書の【0006】の「3500kcal/m2・日とは、夏場の日射量に相当し、実際の暴露試験で3~4週間で反り量は飽和するので、20日間としたものである」なる記載によれば、夏場の環境で試験することにあるものと解することができる。
一般的な試験において、もっとも過酷な条件で試験することは技術常識であり、甲第8号証の第2頁「2.3」に塩ビ管の曲がり量を夏季である6月から8月に調査することが例示されているように常套手段といえる程度のものであり、さらに、全文訂正明細書2を精査してもその条件をどのような数値範囲とするのかに新規な課題及び臨界的な効果があるとは認められず、夏期の条件を実際に調査すれば済むものであるといえることから、「3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後」の数値限定が当業者にとって格別なものとは認められない。
そうすると、甲第4号証記載の発明において、夏期高温時の環境下に静置する条件を具体的にどのようなものとするのかは、設計事項にすぎないといえることから、相違点2に係る本件発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。
[相違点3]について
本件発明において、「下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下」であり、式(1)が
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r0:切開前内半径 r1:切開後内半径」であることを特定したことによる技術的な意義は、第1回口頭審理調書の「本件発明の技術的な意義についての被請求人の主張」に「技術的意義4」として記載されているように、「上記式(1)に基づき各々のσの値を算出し、その最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることをもって、湾曲しないあるいはしにくい管を客観的に特定したところに、本件発明の一つの技術的意義があります。なお、日光等が照射された場合に生じる、管の湾曲が応力緩和に基づくものであることは、特許明細書中には明確に記載されていませんが、上記式(1)自体が、応力の式であり、かつ、△σ自体が管の周方向応力の差であることからすると、日光等が照射された後の管の周方向応力が異なることに基づいて、要件Bが規定されているということは、当業者であれば理解できます。」からみて、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく管の湾曲量を客観的に特定する点にあるものと認められる。
一方、上記「4.請求人の主張」の「(ア)無効理由2」に記載されているように、審判請求書に記載された無効理由2は「本件発明は、甲第4号証記載の発明に、甲第5号証ないし甲第6-1号証記載の事項、周知の技術、及び、技術常識を適用することで出願時当業者が容易に想到できたものである」という理由であるが、上記「6.甲各号証」の「(5)甲第5号証(特開昭62-30202号公報)」及び「(6)甲第6-1号証(大日精化ニューマテリアルズ「赤外線反射・透過性顔料」カタログ 1993年3月1日発行)」には共に黒色顔料に関する記載しかなく、「式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」から硬質塩化ビニル系樹脂管における変形を判断する点が記載されていないことは明らかであり、同様に、審判請求時において提出された甲第1号証ないし甲第12号証には記載されていないと認められる。現に、請求人が平成23年2月9日付けで提出した第1回口頭審理陳述要領書の第10頁の「(3)」において、『「△σ」というパラメータを考慮する点が甲第1ないし甲第10号証に記載されていない点は、請求人も争わない』と記載している。
これに対し、第1回口頭審理調書の「【無効理由2について】」の『「式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」から硬質塩化ビニル系樹脂管における変形を判断する点について』において、請求人は、以下の主張を行っている。
「(1)参考資料5(甲第19号証)の第190頁の第4行にσMAXとあるので、MAX以外の値を考慮することも当然の事項である。
(2)残留歪みについては、参考資料27(甲第41号証)の第97頁左欄の「7.2」上から6行に「ヒズミの変化勾配に注意しなければいけない」と記載されている。分布ということから、最大値、最小値、平均値も存在するといえる。
(3)塩化ビニル管の特性を知る上で、ある指標の最大値と最小値の差を考慮することは技術常識である。具体的には、参考資料29(甲第43号証)の【0027】、参考資料30(甲第44号証)の【0037】、及び、参考資料31(甲第45号証)の【0103】~【0104】であり、第3回口頭審理陳述要領書の第12頁及び同書第13頁に詳細が記載されている。
(4)第3回口頭審理陳述要領書の第9頁の(6-10)記載のとおりである。」
そこで、上記の主張について検討する。
上記「(1)」について:参考資料5(甲第19号証)の第189頁ないし第192頁には、「円周方向最大応力」を求めることしか記載されておらず、「周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」による点は記載されていないし、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく管の湾曲量の定量化のために、残留応力の最大値と最小値がどのように変化するかについての記載はないことから、参考資料5(甲第19号証)には、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく管の湾曲量の定量化のために、「周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」を考慮することが示唆されているとは認められない。したがって、上記「(1)」の主張を採用することができない。
上記「(2)」について:参考資料27(甲第41号証)の第97頁左欄の「7.2」の上から第3行から第6行には、「冷却速度の相違による残留ヒズミの絶対値及び変化勾配いわゆる第2種形状効果(マクロ)ヒズミの顕著な増大は致命的である」と記載されているが、この記載から「周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」を考慮することが示唆されているとは認められない。したがって、上記「(2)」の主張を採用することができない。
上記「(3」)について:参考資料29(甲第43号証)の【0027】、参考資料30(甲第44号証)の【0037】、及び、参考資料31(甲第45号証)の【0103】~【0104】の記載を踏まえると、請求人が主張するように塩化ビニル管の特性を知る上で、単に、ある指標の最大値と最小値の差を考慮することは技術常識であるかもしれないが、いずれの文献にも、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく管の湾曲量の定量化のために、「周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」を考慮することが示唆されているとは認められない。したがって、上記「(3)」の主張を採用することができない。
上記「(4)」について:第3回口頭審理陳述要領書の第9頁の(6-10)には、「式(1)に示される周方向応力σの最大値(σmax)を残留応力の評価に用いることは、硬質塩化ビニル樹脂管を含むプラスチックパイプの技術分野におおける周知技術(周知技術B)であった(参考資料4(甲第18)~参考資料9(第23号証))。
一方、プラスチック成形品は物性、例えば肉厚、分子配向、残留応力の分布が均一でないことに起因して変形することが知られ、例えば、「円筒は軸対称な応力を持つものとしたが、場合によって、加工時の、たとえば塑性曲げの履歴の影響を残し、残留応力は非対称な分布を示す場合がある」と記載されている(参考資料28(甲第42号証)32頁末尾から5~3行)。残留応力の非対称な分布を知るためには複数の測定点の残留応力をプロットして分布を導き出さなければならないことは当然であるから、その過程で残留応力の差を知ることにより非対称の分布を認識することが当然の前提である。一般論としても、硬質塩化ビニル系樹脂管の様々な特性を知るために径方向のいくつかの部位の値をプロットして最大値と最小値の差を求めることは当たり前のように行われていることである(参考資料29(甲第43)~参考資料31(甲第45号証)。
よって、「式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」から硬質塩化ビニル系樹脂管における変形を判断することは技術常識(周知技術B’)であったといえる。」と記載されている。
請求人が主張するように、式(1)に示される周方向応力σの最大値(σmax)を残留応力の評価に用いることは、参考資料4(甲第18号証)~参考資料9(甲第23号証)に示されるように硬質塩化ビニル樹脂管を含むプラスチックパイプの技術分野におおける周知技術であると認められるが、参考資料4(甲第18号証)~参考資料9(甲第23号証)には、特に、「最大値と最小値の差」を考慮することが記載、もしくは、示唆されているとは認められないことから、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく管の湾曲量の定量化のために、「周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」を考慮することが示唆されているとは認められない。
そして、参考資料28(甲第42号証)32頁末尾から5~3行に、「円筒は軸対称な応力を持つものとしたが、場合によって、加工時の、たとえば塑性曲げの履歴の影響を残し、残留応力は非対称な分布を示す場合がある」と記載されているとしても、この記載は単に「残留応力が非対象」である点を示しているのみであり、同様に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく管の湾曲量の定量化のために、「周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」を考慮することが示唆されているとは認められない。また、参考資料29(甲第43号証)~参考資料31(甲第45号証)に「一般論としても、硬質塩化ビニル系樹脂管の様々な特性を知るために径方向のいくつかの部位の値をプロットして最大値と最小値の差を求めることは当たり前のように行われていることである」点が周知であるとしても、上記の「上記「(3」)について」に示すように、これらの記載から、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく管の湾曲量の定量化のために、「周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」を考慮することが示唆されているとは認められない。
したがって、上記「(3)」の主張を採用することができない。
なお、参考資料4(請求人が甲第18号証として提出)には管の特定の箇所の応力を式(1)から算出されることが周知であることが示されているにしても、「周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」から硬質塩化ビニル系樹脂管における変形を判断する点が示されているとは認められない。
してみると、請求人が主張する上記の「(1)」ないし「(4)」の主張を採用することができないので、本件発明の発明特定事項である、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく管の湾曲量の定量化のために、「周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」を考慮する点は請求人が提出した甲第1号証ないし甲第12号証、参考資料1ないし参考資料45に記載されているとも、また、これらの資料を参照しても技術常識とは認められない。
そうすると、甲第4号証記載の発明において、「式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」から硬質塩化ビニル系樹脂管における物性を特定することにより、相違点3に係る本件発明の構成とすることが、当業者にとって容易になし得たとはいえない。
このように、本件発明の発明特定事項である、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく管の湾曲量の定量化のために、「周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」を考慮する点が請求人が提出した甲第1号証ないし甲第12号証、参考資料1ないし参考資料45に記載されているとも、また、これらの資料を参照しても技術常識とは認められないから、各相違点に係る発明特定事項を本件発明が同時に備えることによる相乗効果について検討するまでもなく、本件発明が甲第4号証記載の発明、甲第1号証ないし甲第12号証記載の事項、参考資料1ないし参考資料45に記載される周知技術及び技術常識に基づいて容易になし得たとは認められない。
(3)まとめ
したがって、本件発明は、甲第4号証記載の発明、甲第5号証ないし甲第6-1号証記載の事項、請求人が提出した甲各号証・各参考資料に記載の事項、周知の技術、及び、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
したがって、無効理由2は、理由がないといえる。
8.無効理由4についての判断
(1)対比
本件発明と上記の「6.甲各号証」の「(9)甲第8号証(「下水道用硬質塩化ビニル管の曲がりに関する検討報告書」 平成4年5月)」に記載されている甲第8号証記載の発明とを対比する。
(ア)後者の「塩ビ管」が前者の「硬質塩化ビニル系樹脂管」に相当することから、
後者の「顔料の変更によって曲がりを改善された塩ビ管」と
前者の「顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管」とは、
「顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管」との概念で共通する。
(イ)後者の「塩ビ管の曲がりに関する苦情は夏期に多いので、一番太陽光線の影響を受ける6月~8月に、各メーカーの塩ビ管がどの程度影響を受けるかを12週間の間での調査後」と
前者の「3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後」とは、
「真夏の日射量が存在する環境下に所定日間静置された後」との概念で共通する。
(ウ)後者の「現行灰色(カーボン有り)に比べ、灰色(カーボン無し)は3mm程度、淡青色(カーボン無し)は5mm程度曲がりが小さくなるので、顔料変更によって曲がりの改善が期待できる塩ビ管」と
前者の「下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下である硬質塩化ビニル系樹脂管。σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r0:切開前内半径 r1:切開後内半径」とは、
「曲がりが小さい硬質塩化ビニル系樹脂管」なる概念で共通する。
なお、請求人は、第1回口頭審理調書の「【無効理由4について】」の「甲8号証記載の発明の「灰色(カーボン無し)」がどのような顔料であるのか」において、「甲第8号証の「灰色(カーボン無し)」の記載をみれば、カーボンブラックの代わりに有機系顔料を配合した黒色の着色剤が用いられていると理解するのが技術常識からの帰結である」と主張するが、被請求人が主張するように、「カーボンブラックと有機系黒色顔料の2者択一ということはない。ただちに有機系黒色顔料とはならない。」といえる。現に、請求人が提出した参考資料39(甲第53号証)の第57頁の「黒色顔料」の欄に、「カーボンブラック」以外で有機系顔料でないことが明らかな「鉄黒」が記載されているように、カーボンブラック以外で黒色顔料は「ただちに有機系黒色顔料とはならない。」といえるし、請求人も「カーボンブラックの代わりに有機系顔料を配合した黒色の着色剤が用いられていると理解するのが技術常識」であるといえる根拠は何ら提出していない。したがって、「灰色(カーボン無し)」が「有機系顔料を配合した黒色の着色剤が用いられていると理解する」ことができないといわざるをえない。
したがって、両者は、
「顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管であって、真夏の日射量が存在する環境下に所定日間静置された後の、曲がりが小さい硬質塩化ビニル系樹脂管。」
の点で一致し、以下の各点で相違している。
[相違点1]
硬質塩化ビニル系樹脂管に添加された顔料に関し、本件発明では「顔料として有機系黒色」顔料であるのに対し、甲第8号証記載の発明ではそのような特定はなされない点。
[相違点2]
真夏の日射量が存在する環境下に所定日間静置する条件に関し、本件発明では「3500kcal/m2・日以上」の日射量が存在する環境下に「20」日間静置されたのに対し、甲第8号証記載の発明では一番太陽光線の影響を受ける6月~8月で12週間の間である点。
[相違点3]
硬質塩化ビニル系樹脂管の曲がりが小さい条件に関し、本件発明では「下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下である」であり、式(1)が「σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r0:切開前内半径 r1:切開後内半径」であるのに対し、甲第8号証記載の発明では現行灰色に比べ、灰色は3mm程度、淡青色は5mm程度曲がりが小さくなるので、顔料変更によって曲がりの改善が期待できる塩ビ管であるが、どのような条件とするのかは特定されていない点。
(2)判断
[相違点1]について
最初に、硬質塩化ビニル系樹脂管において、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが周知の技術か否かを検討する。この点について、第1回口頭審理調書の「【無効理由4について】」において、請求人は、合議体からの「管において、有機系黒色顔料を使う点が周知か否かについて」の質問に対し「甲第8号証の第4頁の「灰色(カーボン無し)」は、硬質塩化ビニルであって、黒色顔料を用いるものを開示している。赤外線吸収を防止するために、有機系顔料に想到することは容易である。」と回答しているが、なぜ「黒色顔料を用いるものを開示している」ものであれば、「赤外線吸収を防止するために、有機系顔料に想到することは容易である」のか、その理由は明確に記載されていないといわざるをえない。仮に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが周知技術であるといえれば、請求人が主張するように「甲第8号証の第4頁の「灰色(カーボン無し)」は、硬質塩化ビニルであって、黒色顔料を用いるものを開示している。赤外線吸収を防止するために、有機系顔料に想到することは容易である。」ということもできるといえるが、請求人は、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが周知技術であるという根拠は示していない。そこで、請求人が提出した甲第1号証ないし甲第12号証、参考資料1ないし参考資料46に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているか否かを以下検討する。
甲第1号証:甲第1号証には、「カーボンの代わりに色の3原色であるマゼンダ、シアン、イエローの顔料を混合して黒色とし、これに白色系顔料を添加しVU管と同等の灰色の顔料を開発した。この顔料を使用した管に直射日光を当てた結果、管の表面温度は60℃まで低下した。しかし管は6mm程度湾曲しており、抑制は不十分であった。灰色の顔料でこれ以上の温度上昇を防ぐのは難しいため、次に灰色以外の顔料の検討を行った。色の選定を行う中で、反射率の高い明るい色に着目したが、ガス市場では緑色・黄色、電力市場ではオレンジ色が定着していたため、リブパイプでは明るい青紫色の顔料に決定した。ノンカーボンの明るい青紫色の顔料を使用した管では、管の表面温度が55℃まで低下し、18℃の温度上昇抑制効果が得られた。この管の湾曲は3mm程度であり、実用上問題ないレベルまで抑制できた。」(5頁右欄3~17行)なる記載からみて、有機系黒色顔料とする点は記載もしくは示唆されているとはいえない。そして、甲第1号証の全文を精査しても、有機系黒色顔料については記載もしくは示唆はないといえる。したがって、甲第1号証に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
甲第2号証:甲第2号証の【0007】には、「本発明で用いられる有機着色剤は特に制限は無いが、必要に応じて適宜選択される。このうち特に好ましい有機着色剤としてはキノン系顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料等が挙げられる。また、所望の色調に着色した際に、得られる成形品の赤外線透過率が40%(好ましくは60%)を超える顔料を用いるのが好ましい。これらを更に具体的に例示すれば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、インダンスレンブルー、ハンザイエロー、インダンスレンイエロー、インダンスレンレッド、ポリアゾレッド、イソインドリノンイエロー、キナクリドン等が挙げられる。」と記載されていることから、管において有機系顔料を使用することも記載されているといえるが、黒色の有機系顔料とすることは記載されていない。また、【0018】の「本発明の屋外建材用塩化ビニル系樹脂硬質成形品は茶色、暗茶色等の濃暗色系色調に着色されていても、夏場、日中でも、太陽光線によって成形品の表面温度が上昇せず、成形品に熱変形を生じることがないから、本発明の屋外建材用塩化ビニル系樹脂硬質成形品は茶色、暗茶色等の濃暗色系色調に着色されたものが特に有用であり、好ましい。」と記載されているように、「暗茶色等の濃暗色系色調に着色」する記載を踏まえても、「有機系黒色顔料」が記載されているとは認められない。したがって、甲第2号証に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
甲第3号証:甲第3号証の「…赤外線透過性がすぐれた着色剤は、油溶性染料、キノン系顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料の等の中から本発明者等が赤外線透過性を測定することによって始めて見出されたものである。赤外線透過性がすぐれた着色剤は、油溶性染料、キノン系顔料、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料の黄色、赤色、青色の色調系列のものに、該当するものが存する。より具体的に例示すれば、インダンスレンブルー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ポリアゾレッド、バラレッド、ビラゾロンレッド、ハンザイエロー等が存するが、これらすべてが赤外線透過性を有するものでないので、これらを用いて成形品を成形してその中から赤外線透過性を測定して透過率が30%以上のものを基準に選択して使用する。」(第4欄9行~同欄第25行)と記載されており、本件の全文訂正明細書の【0021】にも有機系顔料の一例として記載されている「アゾ系顔料」を含む例が上記の記載に含まれることから、有機系顔料を使用することが記載されているといえるが、黒色の有機系顔料とすることは記載されていないし、複数の色の顔料を混合して黒色とすることも記載されていない。したがって、甲第3号証に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
甲第4号証:上記の「7.無効理由2についての判断」の「(1)本件発明と甲第4号証記載の発明との対比」の「(ウ)」に記載しているように、甲第4号証に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
甲第5号証:甲第5号証には、「更に前記のアゾ化合物を用いて、上記の如き合成樹脂、その他ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリイミド、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等の熱可塑性あるいは熱硬化性樹脂を着色して、フィルム、シートその他の各種着色成形品を得る場合には、これらの熱可塑性および熱硬化性の合成樹脂も本発明における担体材料に包含されるものである。」(4頁左上欄10~19行)と記載されており、「上記の如くして製造された本発明方法で使用するアゾ系化合物は、暗黒色~黒色であり」(第3頁右下欄17~18行)と記載されているように、黒色とすることも記載されていると認められるが、アゾ化合物を用いているのは、「フィルム、シート」であり、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、管に使用することは記載されていない。従って、甲第5号証に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
甲第6-1号証及び甲第6-2号証:甲第6-1号証には、「<用途>塗料・印刷インキ・捺染など、一般的な黒色顔料として幅広く使用することができますが、”赤外線を吸収しない”という特異な性質を活かした、セキュリティーや記録材料、赤外線迷彩及び昇温防止材料などカーボンブラック等で実現不可能な分野へ応用することが出来ます。」(5頁左欄14~末行)と記載されており、用途は、塗料・印刷インキ・捺染であるとのみ記載されており、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、管に使用することは記載されていない。したがって、甲第6-1号証に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。なお、甲第6-2号証において、「一般的に、顔料は印刷インキ、塗料に限らず、樹脂成形品(例えば塩化ビニル樹脂等)の着色にも、幅広く使用することができます。」(第13行~第14行)と記載されているが、甲第6-2号証は平成22年7月27日に作成され、本件に係る出願の出願後の資料であることは明らかであり、本件の出願前において「樹脂成形品(例えば塩化ビニル樹脂等)の着色にも、幅広く使用することができます」ということが技術常識であることを証明するものではない。そして、単に、「樹脂成形品(例えば塩化ビニル樹脂等)の着色にも、幅広く使用することができます」とのみ記載しているものであり、そのような用途に、本件の出願前において使用した実績も何ら記載されていない。したがって、甲第6-1号証及び甲第6-2号証を参照しても、甲第6-1号証の顔料を本件の出願前に「樹脂成形品(例えば塩化ビニル樹脂等)の着色にも、幅広く使用」していたとは認められない。さらに、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、管に使用することは記載されていない。従って、甲第6-1号証及び第6-2号証に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。(なお、甲第5号証、及び、甲第6-1号証は、「4.請求人の主張」の「(イ)無効理由4」に記載するように、請求人が「本件発明は、甲第8号証記載の発明に、甲第2号証ないし甲第5号証、及び、甲第6-1号証記載の事項、周知の技術、及び、技術常識を適用することで出願時当業者が容易に想到できた」と主張する根拠であるが、上記の「甲第5号証」及び「甲第6-1号証及び甲第6-2号証」に示されるように、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
甲第7号証:甲第7号証の摘記箇所及び全文を精査しても、有機系黒色顔料を使用すること自体記載されていない。そして、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少する点も記載されていない。したがって、甲第7号証に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
甲第8号証:甲第8号証に「考察(表-2)より
(1) 管色による曲がり量(対象試料の平均値)
・現行灰色(カーボン有り) 10.49mm
・灰色(カーボン無し) 7.50mm
・淡青色(カーボン無し) 5.28mm
現行灰色(カーボン有り)に比べ、灰色(カーボン無し)は3mm程度、淡青色(カーボン無し)は5mm程度曲がりが小さくなる。したがって、顔料変更によって5mm程度の改善が期待できる。」(4頁(5)(1))と記載されているが、「淡青色(カーボン無し)」が有機系黒色顔料を使用したものであるとする根拠が甲第8号証には記載されていないし、請求人が提出した甲各号証及び参考資料には、カーボン無しとすれば有機系黒色顔料を使用するものしかあり得ないことを証明する点も記載されていないことから、甲第8号証の「淡青色(カーボン無し)」が有機系黒色顔料を使用したものであるとは認められない。したがって、甲第8号証に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
甲第9-1号証ないし甲第9-4-13号証:甲第9-1号証ないし甲第9-4-13号証には、硬質塩化ビニル管の組成については、何ら記載されていないので、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
甲第10-1-1号証ないし甲第10-3-2号証:甲第10-1-1号証及び甲第10-1-2号証には、硬質塩化ビニル管の組成については、何ら記載されていない。甲第10-2-1号証(参考資料12)の第3頁の「(3)KS-6-2-3」において、「D-13321」が製造中止となったので、同種の顔料が「D-14242」で再現した点と、組成内容証明書(参考資料12(甲第26号証))に差し替えた資料によれば、「D-14242」は、カーボンブラックであり、有機系黒色顔料ではないものと認められる。また、甲第10-2-2号証ないし甲第10-3-2号証には、有機系黒色顔料を使用することの記載はない。したがって、甲第10-1-1号証ないし甲第10-3-2号証に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
甲第11号証及び甲第12号証:甲第11号証は全天日射量について記載した資料であり、甲第12号証は、試験報告書であるので、有機系黒色顔料を使用することの記載はない。したがって、甲第11号証及び甲第12号証に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
請求人が提出した参考資料について、検討する。
参考資料13(甲第27号証)、参考資料14(甲第28号証)、参考資料15(甲第29号証):参考資料13(甲第27号証)が1996年6月3日印刷であることにより、「電力管DE75」が本件に係る出願の実際の出願日である2002年(平成14年)10月16日以前に公然実施された可能性が高いこと、参考資料14(甲第28号証)の第3頁の「(5)D-11625」に、「電力管DE75」の顔料として、「有機系赤色顔料(縮合アゾ顔料)、有機系黄色顔料(ジスアゾ顔料)」が使用されていることが記載されている。参考資料15(甲第29号証)は試験報告書であり、顔料の組成については、記載されていない。してみると、有機系顔料を使用することは記載されているといえるが、顔料の色は、有機系赤色顔料、及び、有機系黄色顔料であり、有機系黒色顔料ではないし、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少することも記載されていない。したがって、参考資料13(甲第27号証)、参考資料14(甲第28号証)、参考資料15(甲第29号証)に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
参考資料17(甲第31号証):参考資料17(甲第31号証)の第1頁の1行に「下記のリストにある製品(公用物件1)にカーボンブラックが配合されていることを証明致します。」とあるように、参考資料17(甲第31号証)には、有機系黒色顔料を使用することは記載されていない。したがって、参考資料17(甲第31号証)に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
参考資料18(甲第32号証):参考資料18(甲第32号証)の日付である2011年2月2日の日付からみると、本件に係る出願の日前のものとは認められないし、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
参考資料19(甲第33号証):参考資料19(甲第33号証)には、顔料の組成について何ら記載されていないので、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
参考資料34(甲第48号証):参考資料34(甲第48号証)には、各種の色とする点は記載されているが、顔料の組成について何ら記載されていないので、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
参考資料35(甲第49号証):参考資料35(甲第49号証)の【0027】には、「着色剤の内の顔料成分は、従来から熱可塑性樹脂に使用されている公知の顔料が使用でき、所望の色に応じて添加すればよい。例えば、アゾ系、ベンズイミダゾロン系、ジアリライド系、キナクリドン系、イソインドリノン系、バット系、フタロシアニン系、ジオキサン系などの有機顔料;酸化チタン、カーボンブラック、群青、コバルトブルー、弁柄、チタンイエロー、黄鉛などの無機顔料である。」と記載されており、有機顔料を使用することは記載されているが、有機黒色顔料とすることも、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少することも記載されていない。したがって、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
参考資料36(甲第50号証)、参考資料37(甲第51号証):参考資料36(甲第50号証)には、「顔料」の定義が記載されているのみであり、参考資料37(甲第51号証)も同様に「顔料」の定義が記載されているのみであり、いずれにも、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
参考資料38(甲第52号証):参考資料38(甲第52号証)には、各種の顔料の一覧と、プラスチック用顔料についての説明があるが、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
参考資料39(甲第53号証)、参考資料40(甲第54号証)、参考資料41(甲第55号証):参考資料39(甲第53号証)には、プラスチック用着色剤が各種記載されており、特に黒色顔料が第57頁に記載されているが、塩化ビニル樹脂に使用可能なものとしてカーボンブラックしか「○」がなく、それ以外の黒色顔料を塩化ビニル樹脂に使用することは例示されていない。同様に、参考資料40(甲第54号証)の第288頁の「黒色顔料」の欄、及び、参考資料41(甲第55号証)の第797頁の「黒色顔料」の欄において「カーボンブラック」と「鉄黒」が有機系顔料とはいえないことは明らかであり、「アニリンブラック」が有機系顔料であるとの説明もなく、本件に係る全文訂正明細書2の【0021】、甲第2号証の【0007】の有機顔料の例にも「アニリンブラック」はないことから、参考資料39(甲第53号証)ないし参考資料41(甲第55号証)に有機系黒色顔料が記載しているとは認められない。さらに、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少する点も記載されていない。したがって、参考資料39(甲第53号証)、参考資料40(甲第54号証)に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
参考資料42(甲第56号証):参考資料42(甲第56号証)の【請求項1】に「硬質塩化ビニル系樹脂管」が記載され、【0039】に「顔料としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料」が記載されているが、有機系黒色顔料を使用することは記載されていない。さらに、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少する点も記載されていない。したがって、参考資料42(甲第56号証)に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
参考資料43(甲第57号証):参考資料43(甲第57号証)の【請求項1】に「耐衝撃性硬質塩化ビニル系樹脂管」が記載され、【0041】に「顔料としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料」が記載されているが、有機系黒色顔料を使用することは記載されていない。さらに、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少する点も記載されていない。したがって、参考資料43(甲第57号証)に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
参考資料44(甲第58号証):参考資料44(甲第58号証)の【請求項3】には「熱可塑性樹脂組成物」からなる「押出成形体」と記載されおり、これは、実施例では【0034】の「管状成形体」であり、【0020】に「アゾ系、ベンズイミダゾロン系、ジアリライド系、キナクリドン系、イソインドリノン系、バット系、フタロシアニン系、ジオキサン系等の有機顔料」が記載されているが、有機系黒色顔料を使用することは記載されていない。さらに、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少する点も記載されていない。したがって、参考資料42(甲第56号証)に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
参考資料45(甲第59号証):参考資料45(甲第59号証)の第4表、第5表に有機顔料である「フタロシアニンブルー」等(6頁左上欄18行)を添加したシートが第5頁右下欄第18行から第6頁右上欄第2行に記載されているが、有機顔料は黒色でもない。なお、請求人が提出した第3回口頭審理陳述要領書の第12頁には、「甲第59号証(特開平4-91143)の第4表、第5表に有機顔料である「フタロシアニンブルー」等(6頁左上欄18行)を添加した「硬質パイプ」(7頁左下欄5行)用のPVCの組成が開示されている」と主張するが、有機顔料は黒色ではなく、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するというメカニズムも考慮されていないので、請求人の上記の主張は採用できない。したがって、参考資料45(甲第59号証)に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。
以下の資料は、明らかに日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用する点について触れたものではないこと明らかであるといえる。
参考資料1(甲第15号証)、参考資料2(甲第16号証)、参考資料3(甲第17号証)、参考資料4(甲第18号証)、参考資料5(甲第19号証)、参考資料6(甲第20号証)、参考資料7(甲第21号証)、参考資料8(甲第22号証)、参考資料9(甲第23号証)、参考資料10(甲第24号証)、参考資料11(甲第25号証)、参考資料16(甲第30号証)、参考資料20(甲第34号証)、参考資料21(甲第35号証)、参考資料22(甲第36号証)、参考資料23(甲第37号証)、参考資料24(甲第38号証)、参考資料25(甲第39号証)、参考資料26(甲第40号証)、参考資料27(甲第41号証)、参考資料28(甲第42号証)、参考資料29(甲第43号証)、参考資料30(甲第44号証)、参考資料31(甲第45号証)、参考資料32(甲第46号証)、参考資料33(甲第47号証)、参考資料36(甲第50号証)
なお、参考資料12(甲第26号証)は、甲第10-2-1号証の差し替えの資料であり、上記の「甲第10-1-1号証ないし甲第10-3-2号証」において検討しているので、除いている。
以上の検討によれば、請求人が提出した甲第1号証ないし甲第12号証、参考資料1ないし参考資料46に、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められないことから、「甲第8号証の第4頁の「灰色(カーボン無し)」は、硬質塩化ビニルであって、黒色顔料を用いるものを開示している。赤外線吸収を防止するために、有機系顔料に想到することは容易である。」との請求人の主張を採用することができない。
また、甲第8号証の「灰色(カーボン無し)」の顔料がどのようなものであるのかは不明であり曲がりが減少する理由も不明である。一方、「淡青色(カーボン無し)」の曲がりが少ないことは甲第1号証の「ノンカーボンの明るい青紫色の顔料を使用した管では、管の表面温度が55℃まで低下し、18℃の温度上昇抑制効果が得られた。この管の湾曲は3mm程度であり、実用上問題ないレベルまで抑制できた。」(第5頁右欄14~同頁同欄17行)という記載にも整合するように、「淡青色」でカーボンがないという甲第1号証の「ノンカーボンの明るい青紫色の顔料」とした場合と共通する。結局甲第8号証において理解できるのは、ノーカーボンで明るい色の顔料を使用することにより曲がりが減少することのみといえ、仮に「管を灰色に着色することが標準」であったとしても、「明るい色」と反する「黒色」の有機系黒色顔料を使用する動機付けがないといわざるをえない。さらに、甲第8号証記載の発明「この管の湾曲は3mm程度であり、実用上問題ないレベルまで抑制できた」とあるように、曲がりを抑制するという課題を解決しているので、それ以上に工夫する必要があるとは認められない。してみると、甲第8号証には、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用する動機付けがないといわざるをえない。
そうすると、有機系黒色顔料を採用する点が周知、もしくは、技術常識とはいえないし、さらに、動機付けがない以上、甲第8号証記載の発明において顔料として有機系黒色顔料を添加することにより、相違点1に係る本件発明の構成とすることが、当業者にとって容易になし得たとはいえない。
[相違点2]について
本件発明において3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する」環境下に「20日間」静置されたことによる技術的な意義は全文訂正明細書の【0006】の
「3500kcal/m2・日とは、夏場の日射量に相当し、実際の暴露試験で3~4週間で反り量は飽和するので、20日間としたものである」なる記載によれば、夏場の環境で試験することにあるものと解することができる。
一般的な試験において、もっとも過酷な条件で試験することは技術常識であり、甲第8号証の第2頁「2.3」に夏季である6月から8月に調査することが例示されているように常套手段といえる程度のものであり、さらに、全文訂正明細書2を精査しても、その条件をどのような数値範囲とするのかに新規な課題及び臨界的な効果があるとは認められないことから夏期の条件を実際に調査すれば済むものであるといえることから、「3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後」の数値限定が当業者にとって格別なものとは認められない。
そうすると、甲第8号証記載の発明において、夏期高温時の環境下に静置する条件を具体的にどのようなものとするのかは、設計事項にすぎないといえることから、相違点2に係る本件発明の構成とすることも任意であり、また、そのために格別の技術的困難性が伴うものとも認められない。
[相違点3]について
上記の「無効理由2」の「[相違点3]について」で記載しているように、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく管の湾曲量の定量化のために、「周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」を考慮する点が請求人が提出した甲第1号証ないし甲第12号証、参考資料1ないし参考資料45に記載されているとも、また、これらの資料を参照しても技術常識とは認められないことから、相違点3が当業者にとって容易になし得たとはいえない。
このように、本件発明の発明特定事項である、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、「有機系黒色顔料」を採用する点、及び、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく管の湾曲量の定量化のために、「周方向応力σの最大値と最小値の差△σ」を考慮する点が請求人が提出した甲第1号証ないし甲第12号証、参考資料1ないし参考資料45に記載されているとも、また、これらの資料を参照しても技術常識とは認められないから、各相違点に係る発明特定事項を本件発明が同時に備えることによる相乗効果について検討するまでもなく、本件発明が甲第8号証記載の発明、甲第1号証ないし甲第12号証記載の事項、参考資料1ないし参考資料45に記載される周知技術及び技術常識に基づいて容易になし得たとは認められない。
(3)まとめ
したがって、本件発明は、甲第8号証記載の発明、甲第2号証ないし甲第5号証、甲第6-1号証記載の事項、請求人の提出した甲各号証・各参考資料に記載の事項、周知の技術、及び、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
したがって、無効理由4は、理由がないといえる。
9.無効理由5についての判断
(1)公用物件1の分析
公用物件1に関して請求人から提出された甲第9-2号証、甲第9-4-1号証、及び、甲第9-4-2号証ないし甲第9-4-13号証を踏まえて、公用物件がどのようなものであるのかを、まず、分析する。
甲第9-2号証には、「公用物件1-1」ないし「公用物件1-13」を宮古島試験所の職員である久貝安生に引き渡した点が記載されている。
そして、甲第9-4-1号証には、「本件に係る出願の実際の出願日前に製造された硬質塩化ビニルパイプを2010年1月15日~2010年3月11日の間において大気暴露試験を行い、下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下である硬質塩化ビニルパイプ。
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)」が示されているといえる。
さらに、甲第9-4-2号証ないし甲第9-4-13号証には、同様に「公用物件1-2」ないし「公用物件1-13」に対して暴露実験を同様に行い、「本件に係る出願の実際の出願日前に製造された硬質塩化ビニルパイプを2010年1月15日~2010年3月11日の間において大気暴露試験を行い、式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下である硬質塩化ビニルパイプ。」が示されているといえる。
なお、被請求人は、第1回口頭審理調書の「【無効理由5について】」において、公用物件1が製造・販売されることにより公然実施をされた発明(以下、「公用物件1に係る発明」という。)の認定に関し、「答弁書第46頁から第52頁の(ア)及び(イ)のとおり」と主張しており、その内容は、以下のとおりである。
・「(ア)請求人が測定した、各公用物件の△σの値は、各譲渡時点における△σの値ではない」
この主張の概略は、「請求人は、公用物件1-1~1-13の各譲渡時点における△σが2.94MPa以下であったと主張しているが、請求人が測定した△σの値は、公用物件1-1~1-13が、平成22年1月の時点で有していた性質を示したにすぎず、各譲渡時点における△σの値は不明であるといわざるを得ない。」というものである。
・「(イ)請求人が採用した、試料の作成条件(暴露条件)は、本件特許明細書に記載された条件とは異なるから、△σの値が正確に求められていない」
この主張の概略は、「甲第9-4-1号証~甲第9-4-13号証においては、請求人が採用した試験方法について説明がされているが、暴露試験において採用された条件は、本件特許明細書に記載された条件とは異なる。」というものである。
そこで、被請求人の上記の主張「(ア)」及び「(イ)」について検討する。
主張(ア)について:上記の「(12)甲第9-4-1号証ないし甲第9-4-13号証」に記載しているように、公用物件1は「本件に係る出願の実際の出願日前に製造された」ものといえるが、「2010年1月15日~2010年3月11日の間において大気暴露試験を行」ったものであることは明らかであり、その大気暴露試験の結果が本件に係る出願の出願前に公然実施された発明における「△σ」の値であるといえるためには、「△σ」の値が変化するものではないことを請求人は証明することが必要であるといえるが、請求人が提出した第1回口頭審理陳述要領書ないし第3回口頭審理陳述要領書には「△σ」の値が変化するものではないとの説明もないし、一般的に残留応力は時間の変化に応じて変わるものであることは技術常識といえるものである。してみると、被請求人の主張(ア)は妥当なものといえる。
主張(イ)について:
被請求人は、「暴露試験において採用された条件は、本件特許明細書に記載された条件とは異なる」と主張するが、本件発明には、「3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後」において△σを算出する点が特定されているのみでありそれ以外は何ら特定されていないことは明らかである。したがって、被請求人の主張(イ)を採用することができない。
被請求人の主張(ア)は妥当なものといえることを踏まえると、「公用物件1」に係る硬質塩化ビニルパイプが本件に係る出願日前に式(1)で規定される特性を有していたとは認定できないといわざるをえない。したがって、公用物件1に係る発明としては、以下のとおりのものと認められる。
「顔料としてカーボンブラックが添加された硬質塩化ビニル系樹脂管」
(2)対比
そこで、本件発明と公用物件1に係る発明とを対比する。
後者の「顔料としてカーボンブラックが添加された硬質塩化ビニル系樹脂管」と
前者の「顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管」とは、
「顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管」なる概念で共通する。
したがって、両者は、
「顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
顔料に関し、本件発明では「顔料として有機系黒色」顔料であるのに対し、公用物件1に係る発明では顔料としてカーボンブラックである点。
[相違点2]
本件発明においては、「3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下である硬質塩化ビニル系樹脂管。
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0)(1)E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r0:切開前内半径 r1:切開後内半径。」であることを特定しているのに対し、公用物件1に係る発明においてはそのような特定がなされていない点。
(3)判断
上記[相違点1]について
第1回口頭審理調書の「【無効理由5について】」において、「請求人が製造販売している公用物件1を見ると改善しないといけない課題があるのか」に関し、請求人は、「本件出願前、塩ビ管の曲がりに関する日照による反りの苦情が夏期に多く、「灰色(カーボン有り)」にその傾向が顕著であることは甲第8号証に記載のとおり当業界共通の認識であった。(第3回口頭理陳述要領書第13頁第10行~同書同頁第12行)」と主張するが、被請求人が主張するように、「そのような課題自体はあった。しかし、公用物件1からはそのような課題は読み取れない。そして、それを解決したのが本件発明である。」と解されることから、公用物件1において、顔料として有機系黒色顔料を使用するという動機付けが存在するとは認められない。
さらに、請求人に係る甲第1号証には、「カーボンの代わりに色の3原色であるマゼンダ、シアン、イエローの顔料を混合して黒色とし、これに白色系顔料を添加しVU管と同等の灰色の顔料を開発した。この顔料を使用した管に直射日光を当てた結果、管の表面温度は60℃まで低下した。しかし管は6mm程度湾曲しており、抑制は不十分であった。灰色の顔料でこれ以上の温度上昇を防ぐのは難しいため、次に灰色以外の顔料の検討を行った。色の選定を行う中で、反射率の高い明るい色に着目したが、ガス市場では緑色・黄色、電力市場ではオレンジ色が定着していたため、リブパイプでは明るい青紫色の顔料に決定した。ノンカーボンの明るい青紫色の顔料を使用した管では、管の表面温度が55℃まで低下し、18℃の温度上昇抑制効果が得られた。この管の湾曲は3mm程度であり、実用上問題ないレベルまで抑制できた。」(5頁右欄3~17行)と記載されており、仮に請求人が主張するように、「本件出願前、塩ビ管の曲がりに関する日照による反りの苦情が夏期に多く、「灰色(カーボン有り)」にその傾向が顕著であることは甲第8号証に記載のとおり当業界共通の認識であったとしても、甲第1号証の上記の記載に例示されるように「ノンカーボンの明るい青紫色の顔料を使用」することが技術常識であると解されることから、あえて、黒色とすることに阻害要因があるといわざるをえない。
また、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用する点が周知の技術であるなら、そのような周知の技術を選択することが当業者にとって任意であるともいえなくもないが、上記の「無効理由4」の「(3)判断」において検討したように、請求人が提出した各甲号証及び各参考文献を精査しても「日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用する」点が周知の技術であると認められないことから、有機系黒色顔料を添加することが任意であるともいえない。
したがって、公用物件1には、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用する点が周知の技術、もしくは、技術常識であるとも認められず、さらに、そのような構成を採用することの動機付けがないので、相違点に係る本件発明の構成を当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
[相違点2について]
上記の「8.無効理由4についての判断」の「[相違点2について]」、及び、「[相違点3について]」に記載した理由により、上記相違点2に係る本件発明の構成を当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
(4)まとめ
したがって、本件発明は、公用物件1に係る発明、甲第2号証ないし甲第5号証、甲第6-1号証記載の事項、請求人の提出した甲各号証・各参考資料に記載の事項、周知の技術、及び、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
したがって、無効理由5は、理由がないといえる。
10.無効理由6についての判断
(1)公用物件2の分析
公用物件2に関して請求人から提出された甲第10-1-1号証、参考資料12、及び、甲第10-3-1号証を踏まえて、公用物件がどのようなものであるのかを、まず、分析する。
参考資料12には、「顔料としてカーボンブラック含有量が約4%のD-14242が配合されたビニルパイプV50」が示されているといえる。
そして、甲第10-3-1号証には、公用物件2に関し、「下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であることを特徴とする硬質塩化ビニルパイプ。
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)」が示されている。
したがって、公用物件2に係る発明は、以下のとおりのものと認められる。
「顔料としてカーボンブラック含有量が約4%のD-14242が配合されたビニルパイプV50であって、3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下であるポリ塩化ビニルを配分したビニルパイプV50。
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r0:切開前内半径 r1:切開後内半径。」
(2)対比
そこで、本件発明と公用物件2に係る発明とを対比する。
甲第10-2-1号証の第3頁の「(3)KS-6-2-3」の『「D-13321」と「D-14242」は、分散剤の成分が異なるだけで、それ以外は同一成分である』と記載され、参考資料(甲第26号証)に「組成内容証明書として添付された平成21年11月18日付けの「組成内容証明書」によれば、「PLASTERON SUPRA OGRAY D-14242」がその「3.調査結果」に「製品のカーボンブラック含有量は約4%です」とある。したがって、後者の「顔料としてカーボンブラック含有量が約4%のD-14242が配合された」態様と前者の「顔料として有機系黒色顔料が添加された」態様とは、「顔料が添加された」との概念で共通するといえることから、
後者の「ポリ塩化ビニルを配分したビニルパイプV50」が前者の「硬質塩化ビニル系樹脂管」に相当し、後者の「顔料としてカーボンブラック含有量が約4%のD-14242が配合されたビニルパイプV50」と
前者の「顔料として有機系黒色顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管」とは、
「顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管」なる概念で共通する。
したがって、両者は、
「顔料が添加された硬質塩化ビニル系樹脂管であって、
3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、下記式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σが2.94MPa以下である硬質塩化ビニル系樹脂管。
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)
E:引張弾性率 R:ポアソン比 t:肉厚 r0:切開前内半径 r1:切開後内半径。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
顔料に関し、本件発明では「顔料として有機系黒色」顔料を添加しているのに対し、公用物件2に係る発明では顔料としてカーボンブラックを添加している点。
(3)判断
上記[相違点]について以下検討する。
上記の「10.無効理由6についての判断」の「[相違点]」である『顔料に関し、本件発明では「顔料として有機系黒色」顔料であるのに対し、公用物件2に係る発明では顔料としてカーボンブラックである点』と、上記「9.無効理由5についての判断」の「[相違点]」の『顔料に関し、本件発明では「顔料として有機系黒色」顔料であるのに対し、公用物件1に係る発明では顔料としてカーボンブラックである点』とを比較すると、相違点が同じであるといえる。
したがって、上記「9.無効理由5についての判断」の「[相違点]」に対する「(3)判断」に記載した理由と同様に、公用物件2において、顔料として有機系黒色顔料を使用するという動機付けが存在するとは認められない。そして、同様に、有機系黒色顔料を添加することが任意であるといえない。したがって、上記相違点が当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
5.判断
したがって、本件発明は、公用物件2に係る発明、甲第2号証ないし甲第5号証、甲第6-1号証記載の事項、請求人の提出した甲各号証・各参考資料に記載の事項、周知の技術、及び、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
したがって、無効理由6は、理由がないといえる。
11.無効理由9についての判断
(1)請求人の具体的な主張
請求人は、審判請求書の「7-4-9-1 緒言」において、
「本件発明は硬質塩化ビニル系樹脂管における周方向応力σの最大値と最小値の差△σが特定の値以下であることを発明特定事項とするものであるところ、該△σに係る特定値(2.94MPa以下)は発明の詳細な説明に記載されたものではなく、したがって、本件発明2は特許請求の範囲において特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。」と主張し、
同書の「7-4-9-2 明細書の記載」において、「本件明細書には、本件発明2の△σ2.94MPa以下というパラメータが持つ意味について何らの説明も存在しない。下記表2を見ても、何故△σ2.94が閾値として意味を持つのか、当業者が理解することは不可能である。」と主張し、さらに、
同書の「7-3-9-3 結論」において、「以上のとおり、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、同発明に係る特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に違反するものである。よって、同発明に係る特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。」と主張している。
(2)被請求人の主張
被請求人は、答弁書の第57頁第7行から同頁第23行において、「本件発明は、何ら特許法36条6項1号の規定に違反するものなどではない。まず、上記6-3で詳述したとおり、△σによって本件発明2を特定する技術的意味は、当業者の技術常識を勘案すれば、理解しうるものである。まず、本件発明における、
σ=[E/(1-R2)]・t/2・(1/r1-1/r0) (1)
の式の意味や、異なる位置において1/4円弧を切り欠いた、C字型サンプルを用いて、△σを算出することにより、残留応力の差に基づいた湾曲度を求めることは、上記6-3で述べたとおり、本件発明の解決すべき課題に照らして理に適ったものであり、当業者であればこれらの意味を理解しうるものである。つまり、本件発明において、上記(1)式を指標としたり、試験片として、1/4円弧を切り欠いた、C字状試験片を用いて△σの差を求めることは、一見すると特殊なパラメータのように見えるが、実際は、「管の湾曲度」を簡便かつ的確に求めるために、管の湾曲抑制という発明の解決すべき課題に直接対応させるべく設定された指標であって、発明の解決すべき課題や制御の目標となる物性とは無関係な性質やパラメータによって発明を特定した、いわゆる「特殊パラメータ発明」などとは一線を画しているのである。
△σは上記したような技術的意味をもつものであるから、「2.94MPa以下」という数値限定は、許容できる湾曲度をσの値で特定したというだけのことである。この値は許容値であるから、もともと絶対的に決定できるような性質の数値ではなく、技術的妥当性(本件で言えば、管の湾曲が十分抑制されているという状態に対応している)があれば、許されるべきものである。この「2.94」という値に関しては、実験結果に基づいて決定した値であるが、2.94が何ら不当な値でないことは、実施例及び比較例の対比から容易に理解できる。すなわち、実施例4と、比較例2の△σの値の中間値は、2.45であり、2.94はこれより若干大きいに留まる。」と主張している。
(3)当審の判断
無効理由9は、「△σが2.94MPa以下である」ことの技術的な意味が不明りょうであるとするものであるが、特許法第36条第6項第1号は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」というものであり、通常サポート要件に関するものと認められる。
サポート要件では、「出願時の技術常識に照らして、当業者が、請求項に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できる」かが検討されるが、本件の場合には、全文訂正明細書2の【0023】に、
「3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の、式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差△σを2.94MPa以下にする方法は、得られる塩化ビニル系樹脂管の機能を損なわなければ、特に限定されず、例えば冷却水の水温を上げたりすることによる管の残留応力を低減させたり、塩化ビニル系樹脂管の赤外線吸収率を低減したりする方法が挙げられる。」とあるように、「周方向応力σの最大値と最小値の差△σを2.94MPa以下」とする点が記載され、本件発明の「周方向応力σの最大値と最小値の差△σを2.94MPa以下」と同じであることから、「請求項に係る発明の範囲を超えて発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化」したものではなく、請求項に特定されている発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。
してみると、△σに係る特定値(2.94MPa以下)は発明の詳細な説明に記載されたものではないとの主張を採用することができないことから、本件発明は特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものといえ、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に違反し、よって、同発明に係る特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきであるとは認められない。
よって、請求人の主張する無効理由9は理由がない。
12.無効理由10についての判断
(1)請求人の具体的な主張
上記「4.請求人の主張」の「(カ)無効理由10」に記載したように、無効理由10は、『「比較例2」(カーボンブラック0.05重量部配合)と訂正前の「実施例7」(同上)とが全く同じ成分組成及び製造方法である同一の硬質塩化ビニル樹脂管となったものであるが、両者は訂正前の明細書段落【0040】において異なる周応力σ(最大値)、σ(最小値)、△σを記載したものであり、発明の詳細な説明における△σの証明には疑問があ』るとの理由(以下、「比較例2と実施例7との対応」という。)と、「公用物件1~4について曝露前後の周応力△σを測定したところ、曝露前後とも全て△σが2.94MPa以下であり且つ有意な差を示さなかったことから、当業者において本件発明が明細書に記載された「太陽光等による湾曲が生じにくいか湾曲量の小さい硬質塩化ビニル系樹脂管を得る」との作用効果を奏するものか判断することが出来ず」との理由(以下、「公用物件1ないし4の実験結果」という。)に分かれている。さらに、「当業者は本件発明の外延に含まれる硬質塩化ビニル管をどのように製造すれば実施できるか(逆に、どのようにすれば本件発明のパラメータを満たさないものが製造できるか)、何ら把握することができない」とも主張している(以下、「本件発明のパラメータを満たさない事例」という。)。
(ア)「比較例2と実施例7との対応」についての請求人の具体的な主張
請求人は、審判請求書の「7-4-10-1 比較例2と旧実施例7」において、
『訂正によって削除された旧実施例7は、以下のとおりである。
「得られた塩化ビニル系樹脂樹脂組成物を直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、25℃の温水で冷却したこと以外は実施例3と同様にして評価を行った」(訂正前の段落【0038】)
訂正前の旧実施例3は以下のとおりである。
「実施例1の黒色顔料(商品名「Black A-1103」、大日精化社製)0.5重量部の代わりに、カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」、東海カーボン社製)0.05重量部を用いたこと以外は実施例1と同じ方法で塩化ビニル系樹脂組成物を得た。」
即ち、訂正前の旧実施例7は、「カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」、東海カーボン社製)0.05重量部を用い」、「直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、25℃の温水で冷却した」もので、その余の組成は実施例1と同じである。』と主張し、
審判請求書の「7-4-10-1-2」において、
『一方、誤記訂正を理由とする訂正後の比較例2(新比較例2)は以下のとおりのものである。
「実施例1の黒色顔料(商品名『BlackA-1103』、大日精化社製)0.5重量部の代わりに、カーボンブラック(商品名『トーカブラック#7350』、東海カーボン社製)0.05重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして塩化ビニル系樹脂組成物を得、これを直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名『SLM-50』、長田製作所社製)に供給し、25℃の水で冷却した」もの(段落【0039】)。
即ち、旧実施例7も、新比較例2も、共に、「カーボンブラック(商品名『トーカブラック#7350』、東海カーボン社製)0.05重量部を用い」、「直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名『SLM-50』、長田製作所社製)に供給し、25℃の温水で冷却した」もので、その余の組成は実施例1と同じであるという、同一の硬質塩化ビニル系樹脂管である。』と主張し、
審判請求書の「7-4-10-2 △σの相違」において、
『以上からすれば、旧実施例7と新比較例2とは、当然、明細書段落【0035】及び同【0036】の物性評価方法によって△σが定量されたはずであるから、同じ結果が導き出されてしかるべきものである(測定誤差や固体差を勘案しても微差程度のはずである)。
しかしながら、旧実施例7の△σの評価は「σ(最大値)3.34、σ(最小値)0.98、△σ2.36」であるのに対し、同一物である新比較例2の評価は「σ(最大値)3.73、σ(最小値)0.2、△σ3.53」であり、本件発明2の閾値である△σ2.94MPaを挟んで、微差とはいえない程度に大きくかい離している。同一物の測定結果がふたつあり、一方は明確に本件発明2のパラメータを満たすものであり、他方は明確に満たさないものである、という矛盾する結果となっているのである。
これでは、本件明細書に接した当業者において、発明の詳細な説明における△σの証明に疑問を持つことは当然である。』と主張している。
(イ)「公用物件1ないし4の実験結果」についての請求人の具体的な主張
審判請求書の「7-4-10-3 公用物件1~3の周応力△σ」において、
『本件発明2は、顔料としてカーボンブラックを使用する代わりに有機系黒色顔料を使用すれば20日間太陽光線に曝した後の周方向の応力△σが2.94MPa以下であることから、周方向のひずみや湾曲量等の変形の小さい硬質塩化ビニル系樹脂管を得ることができたという知見を謳い文句にしている。
無効理由5及び同6において測定に供された公用物件1~3のうち、公用物件1-1~同1-13及び公用物件2は顔料としてカーボンブラックが使用されたものであり、公用物件3はカーボンブラックが使用されていないものであるため、本件発明のパラメータに意味があるのであれば、これらのうち公用物件1-1~13及び公用物件2については曝露後の△σが2.94以上となるはずである。
しかしながら、公用物件1~3はいずれも曝露前後とも全て△σ2.94MPa以下であり、有意な差を示さなかった(甲第12号証(財団法人日本ウエザリングテストセンター試験報告書))。』と主張している。
(ウ)「本件発明のパラメータを満たさない事例」について
審判請求書の「7-4-10-4 本件発明2に係る明細書の開示」において、
『本件発明2は「3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間」という条件を提示するが、該20日間の期間に3500kcal/m2・日未満(例えば3400kcal/m2・日程度)の日射量の日が何日混在するかによって同じ日射条件であるはずがなく、曝露する場所や期間によって常に同じ日射量が得られることはありえないから、このような実施の都度条件が異なる測定条件によって特定しようとする発明の外延は不明確であって、この点に関しても発明の詳細な説明に何らの記載も存在しない。
更に言えば、管を設置する方角によって管表面における日射分布は相違する(管の長手方向を東西に設置すれば太陽の軌道を向く管頂部が集中的に日射を受け、南北に設置すれば管の上側約半分が満遍なく日射を受ける)が、本件発明2は日射条件で特定しようとする発明であるにも関わらず、発明の詳細な説明には設置の方角さえも記載されていない。
従って、当業者は本件発明2の外延に含まれる硬質塩化ビニル管をどのように製造すれば実施できるか(逆に、どのようにすれば本件発明2のパラメータを満たさないものが製造できるか)、何ら把握することができない。』と主張している。
(2)被請求人の主張
(ア)「比較例2と実施例7との対応」についての被請求人の具体的な主張
被請求人は、答弁書の第61頁第7行~同書同頁第10行において、
『本件発明2に係る明細書の記載要件の適法性は、平成22年4月16日付けで認められた訂正明細書の内容に基づいて検討されなければならないから、当該明細書に記載されていない「旧実施例7」に基づいて主張する記載不備の主張はそもそも理由がない。』と主張している。
(イ)「公用物件1ないし4の実験結果」についての被請求人の具体的な主張
被請求人は、答弁書の第61頁第11行~同書同頁第23行において、
『上記6-6、6-7で被請求人が指摘した、請求人の公用物件1~3に係る試料及び実験方法にかかる不備を自ら認めるものにすぎない。つまり、「公用物件1~3につき暴露前の△σと暴露後の△σの値の間に有意な差がない」ということは、被請求人が指摘したとおり、極めて劣悪な状況の下で長い年数が経過したため、管に、曲げ、変形が生じていた管を測定した可能性が高いこと(公用物件1)、過去の時点で製造、販売されていた管を忠実に再現せず、むしろ特殊な製造条件を適用して製造した管である可能性が高いこと(公用物件2、3)を示唆している。』と主張している。
(ウ)「本件発明のパラメータを満たさない事例」についての被請求人の具体的な主張
被請求人は、答弁書の第62頁第1行~同書同頁第22行において、
『本件発明2(「本件発明」に相当。以下同じ。)で規定する20日間の間に3500kcal/m2・日未満の日射量の日が介在することは、何ら問題にはならない。本件発明2は、上述のとおり、実際の屋外環境における条件に基づいて、発明を規定しているため、曇りや雨の日などの日射量の少ない日が介在する場合があるが、3500kcal/m2・日以上の日射量の日が20日間あれば、反り量が実質上飽和することが経験上把握できている(段落【0006】)。よって、3500kcal/m2・日未満の日が介在しても、実質的に何ら問題ない。なお、仮に3500kcal/m2・日未満の曇りや雨の日が介在したことでΔσが若干大きくなる方向に作用し、本件特許発明の範囲外のものになる場合があったとしても、上記発明の規定によって、これを受け入れることが把握できるのであるから、当該規定は公正かつ明確というべきものである。
また、管の設置方向に関しては、管を長手方向が東西方向となるように(すなわち、管全体が南向きになるように)に配置するのが当業者技術常識である。この点は、乙第12号証の7.1.2においても「暴露試験面の方位は赤道面とする。」と記載されているとおりである。よって、管の設置方向が不明確であるということはない。
なお、請求人は、管の設置方向が異なると、あたかも測定結果に大きな影響を与えるかの如く主張しているが(審判請求書71頁8~10行)、実際にはそのようなことはない。この点に関しては、甲第8号証の4頁(5)[4]において、「管台の上では、方向による曲がり量の差はみられない」と記載されているとおりである。』と主張している。
(3)当審の判断
(ア)「比較例2と実施例7との対応」についての当審の判断
本件特許に係る訂正審判事件についての審決において、上記請求人が主張する箇所について、同審決の「(6)訂正事項6」に、
『特許明細書の段落【0039】に、
「(比較例2)
得られた塩化ビニル系樹脂樹脂組成物を直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し,25℃の水で冷却したこと以外は実施例4と同様にして評価を行った。
黒色顔料を添加する代わりに、カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」,東海カーボン社製)を0.5重量部添加したこと以外は実施例3と同様にして評価を行った。」とあるのを,
「(比較例2)
実施例1の黒色顔料(商品名「Black A-1103」,大日精化社製)0.5重量部の代わりに,カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」,東海カーボン社製)0.05重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして塩化ビニル系樹脂組成物を得,これを直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」,長田製作所社製)に供給し,25℃の水で冷却した以外は,実施例3と同様にして評価を行った。」と訂正する。』と記載されている。
同審決の、「(4)訂正事項6について」において、
「訂正事項6は,訂正事項1による特許請求の範囲の減縮に付随した訂正事項3及び4による訂正前の実施例3及び4の削除に伴い,比較例2についての記載を訂正前の実施例4の構成を引用しない記載に改めて,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載の間で生じた不整合を正すとともに,誤記であった「黒色顔料を添加する代わりに,カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」,東海カーボン社製)を0.5重量部添加したこと以外は実施例3と同様にして評価を行った。」との記載を削除するものであるから,明りょうでない記載の釈明および誤記の訂正を目的とするものである。」と判断している。
そして、本件特許に係る訂正審判事件についての審決は平成22年4月26日にすでに確定しており、記載不備か否かの判断は全文訂正明細書によることであるので、請求人が主張する「比較例2と実施例7との対応」はすでに解消しているといえる。
(イ)「公用物件1ないし4の実験結果」についての当審の判断
請求人は「公用物件1-1~13及び公用物件2については曝露後の△σが2.94以上となるはずである」と主張している。
一方、全文訂正明細書2のカーボンブラックを使用した比較例2(以下、「比較例2」という。)は△σが3.53MPaであり、暴露後において有意な差を示すものであるといえることから、請求人の主張は、比較例2の試験の信頼性を疑うものであるといえる。そこで、公用物件1および2からみて、比較例2の試験の信頼性がないとまでいえるのかについて以下、検討を行う。
公用物件1は長期間保存されたものであり、残留応力が低下しているものであり、測定時が本件出願前でもないことから、被請求人が主張するように「長い年数が経過したため、管に、曲げ、変形が生じていた管を測定した可能性が高い」といえることから、比較例2の試験の信頼性を検討する際の対象とすることができないといわざるをえない。
比較例2は、「参考例1の黒色顔料0.5重量部の代わりに、カーボンブラック(商品名「トーカブラック#7350」、東海カーボン社製)0.05重量部を用いたこと以外は参考例1と同様にして塩化ビニル系樹脂組成物を得、これを直径50mmの2軸異方向回転押出機(商品名「SLM-50」、長田製作所社製)に供給し、25℃の水で冷却した以外は、実施例1と同様にして評価を行った。」ものである。なお、参考例1は、「塩化ビニル系単独重合体(商品名「TS-1000R」、徳山積水工業社製)100重量部に、有機錫系安定剤(商品名「ONZ-142F」、三共有機社製)1部、ポリエチレンワックス系滑剤(商品名「Hiwax220MP」、三井石油化学工業社製)0.5部、ステアリン酸(商品名「S-30」、花王社製)0.5部、炭酸カルシウム(商品名「ホワイトン305S」、白石カルシウム社製)5部、黒色顔料(有機系)(商品名「Black A-1103」、大日精化社製)0.5重量部、及び酸化チタン(商品名「R-3L」、堺化学社製)2重量部をスーパーミキサー(100L、カワタ社製)にて攪拌混合して塩化ビニル系樹脂組成物を得た。」ものであると記載され、塩化ビニル系樹脂組成物、カーボンブラック等の具体的な製品名、2軸異方向回転押出機の機種、冷却条件が特定されている。一方、公用物件2の「組成内容証明書」は参考資料12(甲第26号証)へ差し替えられたものを参照すると、塩化ビニル系樹脂組成物は参考資料12(甲第26号証)の第2頁から第3頁の「(2)PVC」に株式会社カネカが製造する「S1001」であることが記載されているが、比較例2の「塩化ビニル系単独重合体(商品名「TS-1000R」、徳山積水工業社製)と比較した特定は何ら記載されていない。同様にカーボンブラックの組成についても「組成内容証明書」には「D-14242」とあるのみで記載されていない。そして製造条件も「3.再現品の製造」には、「上記2記載の原料を使用し、平成21年11月26日に、弊社堺工場において、一般管 VP50(4m) 4本を製造した」とのみ記載されているだけで、押出機等の機種、冷却条件は何ら記載されていない。したがって、公用物件2の△σが2.94MPa以下であったとしても、比較例2の試験結果が疑わしいとまでいうことができない。
してみると、比較例2の試験の信頼性が疑わしいとまではいえないので、全文訂正明細書2には、比較例2としてカーボンブラックを含有させた場合に△σが2.94以上となる試験結果が例示されているといえる。それに対し、有機系黒色顔料を使用した実施例1及び実施例2は△σが2.94以下であるので、「太陽光等による湾曲が生じにくいか湾曲量の小さい硬質塩化ビニル系樹脂管を得る」との作用効果と整合しているといえる。したがって、請求人の『当業者において本件発明が明細書に記載された「太陽光等による湾曲が生じにくいか湾曲量の小さい硬質塩化ビニル系樹脂管を得る」との作用効果を奏するものか判断することが出来ず、本件発明に係る発明の詳細な説明の記載は当業者が同発明を実施出来る程度に明確かつ十分に記載したものと言うことが出来ない』という主張を採用することができない。
(ウ)「本件発明のパラメータを満たさない事例」についての当審の判断
被請求人が主張するように、「本件発明で規定する20日間の間に3500kcal/m2・日未満の日射量の日が介在することは、何ら問題にはならない。本件発明は、上述のとおり、実際の屋外環境における条件に基づいて、発明を規定しているため、曇りや雨の日などの日射量の少ない日が介在する場合があるが、3500kcal/m2・日以上の日射量の日が20日間あれば、反り量が実質上飽和することが経験上把握できている(段落【0006】)。よって、3500kcal/m2・日未満の日が介在しても、実質的に何ら問題ない。なお、仮に3500kcal/m2・日未満の曇りや雨の日が介在したことでΔσが若干大きくなる方向に作用し、本件特許発明の範囲外のものになる場合があったとしても、上記発明の規定によって、これを受け入れることが把握できるのである」といえることから、請求人の「実施の都度条件が異なる測定条件によって特定しようとする発明の外延は不明確」との主張を採用することができない。
また、請求人の提出した甲第8号証の4頁(5)[3]において、「管台の上では、方向による曲がり量の差はみられない」と記載されていることから、請求人の「本件発明2は日射条件で特定しようとする発明であるにも関わらず、発明の詳細な説明には設置の方角さえも記載されていない」との主張を採用することができない。
さらに、請求人は、「当業者は本件発明2の外延に含まれる硬質塩化ビニル管をどのように製造すれば実施できるか(逆に、どのようにすれば本件発明2のパラメータを満たさないものが製造できるか)、何ら把握することができない。」と主張するが、上記の『(イ)「公用物件1ないし4の実験結果」についての当審の判断』に記載したように、「比較例2の試験の信頼性が疑わしいとまではいえないので、全文訂正明細書2には、比較例2としてカーボンブラックを含有させた場合に△σが2.94以上となる試験結果が例示されているといえる」ことから、全文訂正明細書2には、「どのようにすれば本件発明2のパラメータを満たさないものが製造できるか」も記載されているといえる。
したがって、無効理由10は、理由がないといえる。
13. 無効理由のまとめ
以上検討したところによれば、請求人の主張する無効理由2、4、5、6、9、10にはすべて理由がない。
14.請求人の反論について
請求人は、第1回口頭審理陳述要領書、第2回口頭審理陳述要領書、及び、平成23年3月4日付けの上申書において、以下の主張を行っている。
主張1:請求人は、第1回口頭審理陳述要領書の第43頁及び同書第44頁の「6-2-2 甲第8号証の試験の妥当性」において、「適切な実施方法が把握できないことから、本件が特許法第36条第4項第1号に違反していることは明らかである。」と主張している。
主張2:第1回口頭審理調書の「【無効理由6について】」の「陳述書、試験報告書により、公知物件2、及び、公用物件3の製造販売による公然実施を証明する資料の信用性について」において、「(1)審判請求時から公用物件3は理由に含まれるものである。(2)公用物件3からの進歩性を強く主張するものではないが、本件発明の意義に関し、公用物件3を引用した主張は充分斟酌されたい。」と主張している。
主張3:請求人は、平成23年3月4日付けの上申書の「6-1」において、「公用物件4(有機系顔料を添加)は・・・、構成要件Bの技術的意義の不存在を説明するために援用するものである」と主張している。
主張4:請求人は、平成23年3月4日付けの上申書の「6-3」において、「本件発明の構成要件B(△σが2.94MPa以下)の、日照による管の湾曲の評価基準としての技術的意義は相変わらず不明である」と主張し、その理由として参考資料46(甲第60号証)により被請求人の応力緩和の説明での法則性が認められないと主張している。
主張5:請求人は、平成23年3月10日付けの上申書において、『上記試験の試供体が本件発明の実施品との前提で「通常の管を・・・適切な条件をもって暴露を行い、適切な方法によって△σを測定した」との被請求人の主張は争わざるを得ない』と主張している。
主張6:請求人は、平成23年3月10日付けの上申書において、「出願前に市販されていた公用物件からは改変の動機が生じないといった議論は、・・・妥当ではない」と主張している。
そこで、上記の主張について検討する。
主張1について:「適切な実施方法が把握できないことから、本件が特許法第36条第4項第1号に違反していることは明らかである。」という主張は、審判請求書に記載されていない主張であり、審判請求の理由の要旨変更に相当することは明らかであるので、そのような主張を採用することができない。さらに、当初から主張されていたとしても、試験方法に係る上記主張1の内容は、単に全文訂正明細書に記載された実施例の持つ問題点を指摘しているものと解されるが、仮に実施例に改善するべき課題があったとしても、本件発明が当業者にとって実施可能であれば、記載不備とはならないことは明らかであり、現に請求人は公用物件において再現を行えることから当業者が実施できないということはできないので、請求人の上記主張1を採用することができない。
主張2について:上記「1.手続の経緯」の「(10)」に記載しているように、「無効理由6の検討において、公用物件2のみについて検討する」こととしている。本件発明に特定されているが公用物件2に係る発明には特定されていない相違点は、「顔料として有機系黒色」顔料が添加された点であるが、仮に公用物件3について検討すれば、公用物件3の場合も「顔料として有機系黒色」顔料が添加された点が相違点となり、公用物件2の場合と検討の内容が変わるとはいえない。したがって、仮に公用物件3を検討したとしても、上記「10.無効理由6についての判断」の「(3)判断」の理由により公用物件3に係る発明に基づいて当業者が本件発明を容易に想到することができたとは認められないので、請求人の上記主張2を採用することができない。
主張3について:「公用物件4(有機系顔料を添加)は・・・、構成要件Bの技術的意義の不存在を説明するために援用するものである」との主張からは、周知技術を説明するためのものと認められるが、参考資料14(甲第28号証)の「組成内容証明書」の「3.調査結果」には「当該製品の着色成分は、酸化チタン、有機系赤色顔料、有機系黄色顔料です。当該製品にはカーボンブラックが含まれておりません。」と記載しているので、有機系顔料は、「黒色」ではなく、「赤色」及び「黄色」であることから、「8.無効理由4についての判断」の「(2)判断」の「参考資料13(甲第27号証)、参考資料14(甲第28号証)、参考資料15(甲第29号証):参考資料13(甲第27号証」に記載しているように、日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用することが記載されているとは認められない。また、仮に、公用物件4を主となる引用発明であるとしても、「赤色」及び「黄色」を黒色とする動機付けがなく、電力管である公用物件は通常灰色とするものではないことから、有機系黒色顔料を使用することには、動機付けがないといわざるをえない。したがって、請求人の上記主張3を採用することができない。
主張4について:請求人の上記の主張4に関し、平成23年3月4日付けの上申書により被請求人から提出された周方向部位別の残留応力は、顔料がどのようなものであるのかは特定されていないが、被請求人から提出されている乙第23号証の第4頁に記載の説明と矛盾がない。そして、全文訂正明細書の図1の記載からみて、暴露される箇所の残留応力が小さく、その反対側の部分の残留応力が大きいものであることが明らかである。なお、被請求人の説明は、暴露前に曲がっていない管を対象とすること、すなわち、暴露前において全周での残留応力が一定であることを暗黙の前提とするものであることは自明であり、暴露前に曲がっていて、残留応力に暴露前から偏りがあるようなものはそもそも本件発明の課題に反するといわざるをえない。そして、そのような前提のものであるなら、赤外線の透過率が大きければ暴露面とその反対側とで残留応力の差は小さく、赤外線の透過率が小さく、赤外線を吸収するものであれば、その差は大きくなるものであることは明らかであるといえる。したがって、被請求人の乙第23号証の第4頁に記載の説明は合理的であり、それを実証する平成23年3月4日付けの上申書により被請求人から提出された周方向部位別の残留応力の試験もその説明と整合性がとれており、合理的であるといえる。
一方、請求人が参考資料46(甲第60号証)において提出した実験結果は、再現品とあり、平成23年3月4日付けの上申書の「6-2」において、「上記再現品は、改めて公用物件2~4を再現したものであるので、暴露試験を行うに際し既に周方向応力に偏りがあったという事実も存在せず、暴露前の応力差△σは充分小さい」と主張している。この主張において、なぜ被請求人の上記説明に誤りがあるのか、請求人の実験結果についての合理的な説明等がなければ、被請求人の合理的と思われる説明を排除することは困難であるといわざるをえない(例えば、暴露による残留応力の緩和という作用以外に熱膨張による残留応力の増減もあると思われ、顔料の種類による赤外線の吸収率の違いにより残留応力の緩和と、熱膨張のいずれの影響が大きいか等を検討することが必要であると思われる。)さらに、請求人の上記主張4は、当業者が発明を実施することができない、もしくは、発明未完成という主張であり、特許法第36条第4項違反であるというものとも解されるが、このような主張は、無効理由9とは異なるものであり、審判請求時にはなされていない無効理由であるといえることから、請求の理由の要旨変更であるといわざるをえないものであるので採用することができない。
主張5について:主張5が、上記の「4.請求人の主張」のどの無効理由に関係するのかは判然としないし、本件発明の無効理由としてはどのような理由を主張しようとしているのかも判然としないといわざるをえないことから、上記の「主張4」と同様に、請求人の主張を採用することができない。
主張6について:特許法第29条第2項における判断において、本件発明と引用発明との相違点が容易であるのかの判断においては、その相違点が周知の技術であり、引用発明においてそのような相違点の採用に動機付けが必要なことは、引用発明が刊行物記載の発明であるか、公然実施された発明であるのかに関わらないことであるといえる。一方、請求人は相違点が周知であることの説明、及び、引用発明においてそのような相違点を採用することの動機付けを説明する必要があるといえるが、上記の各無効理由の判断において詳細に記載しているように、これらの説明が十分になされているとは認められない。したがって、請求人が主張するような「出願前に市販されていた公用物件からは改変の動機が生じない」という判断をおこなっているのではなく、特許法第29条第2項の判断において相違点に係る構成が公知、もしくは、周知であり、そのような構成を採用する動機付けが必要であり、本件の審理においても請求人に公知、周知、及び、動機付けの説明、及び、その根拠の明示を求めたが、第1回ないし第3回の口頭審理陳述要領書、その後の2回の上申書においても提出がなかったことは明らかである。したがって、請求人の上記の主張6を採用することができない。なお、請求人の主張する審決(無効2009-800172号)は、「従来別体であったものを一体化して小型化を図る」点が、明らかに「一般的な課題であり常套手段」であると判断したものであり、「日光等が照射された場合に生じる、応力緩和に基づく硬質塩化ビニル系樹脂管の湾曲量を減少するために、有機系黒色顔料を使用すること」が公知、周知、もしくは、技術常識であることを請求人が立証できていない本件の審理の参考にすることができるとはいえない。
15.むすび
以上のとおり、無効理由2、4、5、6、9、10にはすべて理由がなく、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2010-800143