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特許訂正審判

2025-390004

有機発光素子

審判番号
2025-390004
法域
特許
審判種別
訂正審判(訂正の審決)
出願番号
特願2024-539715外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7584198
請求日
2024年12月25日
審決日
2025年06月23日
公報発行日
2025年09月26日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P141 .841-Z (H10K) / P141 .851-Z (H10K) / P141 .852-Z (H10K) / P141 .853-Z (H10K) / P141 .854-Z (H10K) / P141 .857-Z (H10K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第126条、特許法第126条第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7584198号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 8項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本件訂正審判の請求に係る特許第7584198号(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2024-539715号)は、2024年(令和6年)3月27日(優先権主張 令和5年3月27日)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし21に係る発明について、令和6年11月7日に特許権の設定登録がされたものである。

そして、令和6年12月25日提出の審判請求書により本件訂正審判の請求がされた。その後の手続の経緯は、以下のとおりである。

令和7年3月7日 :手続補正書(方式)の提出
同年4月8日付け:訂正拒絶理由通知書

(以下「本件訂正拒絶理由」という。)

そして、令和7年4月8日付け訂正拒絶理由通知書に対して、特許権者から何ら応答がなかったものである。

第2 請求の趣旨、及び訂正の内容

本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第7584198号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」というものであって(以下、訂正前の「特許請求の範囲」を「本件特許請求の範囲」という。)、本件訂正審判の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりのものである(下線部は訂正箇所を示す。)。

訂正事項:

特許請求の範囲の請求項21に「遅延蛍光または遅延蛍光を放射する、請求項1~14のいずれか1項に記載の有機発光素子。」と記載されているのを、「蛍光または遅延蛍光を放射する、請求項1~14のいずれか1項に記載の有機発光素子。」に訂正する。

第3 本件訂正拒絶理由の概要

本件訂正拒絶理由の概要は、上記訂正事項は、特許法126条1項ただし書1号~4号のいずれかに掲げる事項を目的とするものではなく、また、仮に、請求人が主張するとおり、本件訂正が明瞭でない記載の釈明を目的とするものであったとしても、上記訂正事項に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更する訂正に該当し、かつ、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものとはいえず、特許法126条5項、及び、6項の規定に違反するものであるから、本件訂正審判に係る訂正は認められないというものである。

第4 当合議体の判断

本件訂正拒絶理由の通知に対して特許権者から何ら応答がなかったところ、当合議体においてあらためて検討しても、上記訂正拒絶理由は妥当であるから、当合議体は、本件訂正は認められないと判断する。

その理由は以下のとおりである。

1 訂正の目的について

(1)誤記の訂正(ただし書き2号)について

「誤記の訂正」とは、本来その意であることが明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう(審判便覧38-03訂正要件「3.誤記の訂正」)。

また、特許請求の範囲の記載に関する限り、誤記の訂正は、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと当業者その他一般第三者が理解する場合に限って許され、発明の詳細な説明の項の記載は、この点の判断の資料となる限度においてのみ斟酌されねばならない(最一小判昭47.12.14(昭41(行ツ)1号)民集26巻10号1888頁、判時692号18頁、判タ297号220頁、東高判昭48.12.25(昭44(行ケ)10号)無体集5巻2号530頁、知財高判平18.10.18(平18(行ケ)10204号))。

以上の判断基準に基づき、以下判断する。

まず、特許請求の範囲の記載について検討すると、「遅延蛍光または遅延蛍光を放射する」という語句は、接続詞「または」の前後に「遅延蛍光」を二度使用していて、通常の日本語としては冗長である。

しかしながら、「遅延蛍光または遅延蛍光を放射する」という語句のみからでは、どの文字が何の誤記であるかを客観的に特定することは困難である。

そこで、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、上記語句に関連する記載として、段落【0087】には、以下の記載がある。

「ある実施形態では、放射光は蛍光および遅延蛍光の両方を含む。」

上記記載は、「ある実施形態では、」「蛍光および遅延蛍光の両方を」放射することを意味すると理解できる。

しかしながら、訂正後の「蛍光または遅延蛍光を放射する」という語句は、その文言からみて「蛍光」または「遅延蛍光」の一方を「放射する」ものを含むと解され、「ある実施形態では、放射光は蛍光および遅延蛍光の両方を含む。」という語句と同一の意味を有するとはいえないから、「遅延蛍光または遅延蛍光を放射する」という訂正前の記載が、当然に訂正後の「蛍光または遅延蛍光を放射する」という記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものではない。

したがって、上記訂正事項に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものに該当しない。

(2)明瞭でない記載の釈明(ただし書き3号)について

「明瞭でない記載の釈明」とは、設定登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面中のそれ自体意味の不明瞭な記載、又は、設定登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面中の他の記載との関係で不合理が生じているために不明瞭となっている記載等、明細書、特許請求の範囲又は図面に生じている記載上の不備を訂正し、その本来の意を明らかにすることをいい、明瞭でない記載の釈明が認められるためには、設定登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面に明瞭でない記載が存在することが必要である(審判便覧38-03訂正要件「5.明瞭でない記載の釈明」)。

以上の判断基準に基づき、以下判断する。

請求人は、審判請求書の「a 訂正の目的について」(審判請求書2~3ページ)において、

「訂正事項は、「遅延蛍光または遅延蛍光を放射する」という明瞭でない記載を「蛍光または遅延蛍光を放射する」へと明瞭化するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。」

と主張している。

しかしながら、訂正前の「遅延蛍光または遅延蛍光を放射する」という語句は、「遅延蛍光」という語句を繰り返していて冗長ではあるが、「遅延蛍光または遅延蛍光」が意味する内容は「遅延蛍光」であり、「遅延蛍光または遅延蛍光を放射する」という語句が「遅延蛍光を放射する」という意味であることは明瞭であるから、訂正前の「遅延蛍光または遅延蛍光を放射する」という記載に、明瞭でない記載が存在するとまではいえない。

したがって、上記訂正事項に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当しない。

(3)特許請求の範囲の減縮(ただし書き1号)について

「特許請求の範囲の減縮」とは、請求項の記載事項を限定することを指す。請求項の削除(全請求項の削除を含む)も、これに該当する(審判便覧38-03訂正要件「2.特許請求の範囲の減縮」)。

以上の判断基準に基づき、本件訂正について以下判断する。

上記訂正事項は、「遅延蛍光または遅延蛍光を放射する、請求項1~14のいずれか1項に記載の有機発光素子。」と記載されているのを、「蛍光または遅延蛍光を放射する、請求項1~14のいずれか1項に記載の有機発光素子。」に訂正する(下線は合議体が付加した。)ものである。当該訂正事項は、有機発光素子が放射する光が「遅延蛍光」ではなく、「蛍光」のみである態様をも含むことを意味する。

そうすると、上記訂正事項に係る訂正は、本件訂正前の請求項21の「遅延蛍光または遅延蛍光」という記載事項を限定するものとはいえない。

また、上記訂正事項に係る訂正は、請求項の削除するものでもない。

したがって、上記訂正事項に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。

(4)請求項間の引用関係の解消(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること)(ただし書4号)について

「請求項間の引用関係の解消(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること)」とは、特許請求の範囲の訂正について、訂正対象とされている複数の請求項のうち、ある請求項の記載を他の請求項が引用するような引用関係がある請求項の記載を、その内容を変更することなく当該請求項の記載を引用しない形へと書き替えることをいう(審判便覧38-03訂正要件「6.請求項間の引用関係の解消(他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること)」)。

以上の判断基準に基づき、本件訂正について以下判断する。

請求項21は、上記訂正事項に係る訂正後も、依然として請求項1~14のいずれか1項を引用している。

したがって、上記訂正事項に係る訂正は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当しない。

(5)小括

上記(1)~(4)によれば、本件訂正は、特許法126条1項ただし書1~4号に掲げる何れの事項を目的とするものでもなく、同条1項に適合するものではない。

2 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるかについて

上記訂正事項に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項21に「遅延蛍光または遅延蛍光を放射する、請求項1~14のいずれか1項に記載の有機発光素子。」と記載されているのを、「蛍光または遅延蛍光を放射する、請求項1~14のいずれか1項に記載の有機発光素子。」に訂正するものである。

当該訂正によって、本件訂正前の請求項21に係る特許発明は、「遅延蛍光を放射」せず、遅延蛍光に該当しない「蛍光を放射する」有機発光素子を技術的範囲に含むこととなる。

ここで、「蛍光」と「遅延蛍光」について、本件特許の明細書の【0003】には「遅延蛍光材料は、励起状態において、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じた後、その励起一重項状態から基底状態へ戻る際に蛍光を放射する材料である。こうした経路による蛍光は、基底状態から直接生じた励起一重項状態からの蛍光(通常の蛍光)よりも遅れて観測されるため、遅延蛍光と称されている。」と記載されており、「蛍光」は「基底状態から直接生じた励起一重項状態からの蛍光(通常の蛍光)」であり、「遅延蛍光」は「励起状態において、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じた後、その励起一重項状態から基底状態へ戻る際」に放射され、「蛍光(通常の蛍光)よりも遅れて観測される」ものであって、両者は異なる発光メカニズムで発光する蛍光発光形態であることが理解される。そして、このような理解は、「蛍光」と「遅延蛍光」は異なる発光メカニズムで発光する蛍光発光形態を意味するという有機発光素子の技術分野における技術常識とも整合する。

そうすると、本件訂正前の請求項21に係る特許発明の技術的範囲に包含されなかった有機発光素子(例えば、遅延蛍光ではなく、遅延蛍光以外の発光メカニズムで蛍光を放射する有機発光素子)が、本件訂正後の請求項21に係る特許発明の技術的範囲には包含されることになる。

したがって、上記訂正事項に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更する訂正に該当する。

よって、本件訂正は、特許法126条6項の規定に適合するものでない。

3 新規事項の追加について

(1)判断

本件特許の明細書には、有機発光素子からの放射について、以下の記載がある(下線は、合議体が付加した。)。

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
遅延蛍光を放射する材料であっても、その特性が極めて良好であって、実用面における課題がないものはこれまでに提供されるに至っていない。このため、一段と特性が優れた遅延蛍光材料を提供することができれば、さらに有用である。しかし、遅延蛍光材料の改良は試行錯誤の段階にあり、有用な発光材料の化学構造を一般化することは容易でない。
【0007】
このような状況下において本発明者らは、発光素子用の遅延蛍光材料としてより有用な化合物を提供することを目的として研究を重ねた。そして、遅延蛍光材料としてより有用な化合物の一般式を導きだして一般化し、そのような化合物を有機発光素子に用いることを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、特定の条件を満たす構造を有する化合物が発光材料として有用であり、優れた有機発光素子の提供を可能にすることを見いだした。本発明は、こうした知見に基づいて提案されたものであり、具体的に、以下の構成を有する。」

これらの記載から、本件特許発明は、遅延蛍光材料に関するものであって、「蛍光」は放射するが、「遅延蛍光」は放射しない有機発光素子は想定されていないと解するのが相当である。

また、本件特許の明細書における実施例についての記載をみても、ホストH1(【0215】)、化合物C1(本件特許の請求項1の一般式(1)で表される化合物)(【0155】)及びドーパントHM1(【0215】)から発光層を形成した実施例1の有機発光素子について、「緑色の遅延蛍光」が認められたこと、実施例1においてホストH2(【0215】)を用いた実施例2、ホストH2、化合物C3(【0161】)を用いた実施例3、実施例3において、化合物C3の代わりに、化合物C4(【0166】)、C5(【0168】)、C12(【0203】)及びC14(【0207】)を用いた実施例の有機発光素子について、寿命が長くて優れていることが記載されているのみで、発光層に一般式(1)で表される化合物を用いた有機発光素子が、「蛍光」のみを放射することは記載されていない。

以上総合すると、本件特許の明細書のいずれの箇所にも、放射光として、遅延蛍光を発光しない、例えば、蛍光のみを発光する有機発光素子は記載されていないのであって、このような有機発光素子を本件特許発明の技術的範囲に包含することを許容する上記訂正事項に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものとはいえない。

よって、本件訂正は、特許法126条5項の規定に適合するものでない。

(2)審判請求人の主張(審判請求書3ページ9~14行)について

折りたたみ中(クリックで表示)

審判請求人は、本件特許の明細書における上記訂正事項の根拠箇所について、「訂正事項は、明細書の段落【0087】に記載されている。【0087】には「放射光は蛍光および遅延蛍光の両方を含む。」との記載がある。」と主張する。

しかしながら、上記段落の記載は、「ある実施形態では、」「蛍光および遅延蛍光の両方を」放射することが理解できるにとどまり、本件訂正によって、本件特許の請求項21に係る特許発明の技術的範囲に包含されることとなった、「蛍光」は放射するが「遅延蛍光」は放射しない有機発光素子を開示しているとは認められない。

したがって、上記主張は採用できない。

第5 まとめ

上記第4 1のとおり、本件訂正は、特許法126条1項ただし書1~4号に掲げる何れの事項を目的とするものでもなく、同条1項に適合しないから、認めることができない。

また、仮に、本件訂正が、特許法126条1項ただし書き各号のいずれかに掲げる事項を目的とするものと認められたとしても、上記第4 2及び3のとおり、本件訂正は、同法同条5項及び6項の規定に適合するものではないから、本件訂正を認めることができない。

よって、結論のとおり審決する。

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