特許拒絶査定不服審判
2025-010424
診断検査室システムにおける障害を予測する装置および方法
- 審判番号
- 2025-010424
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-547591
- 請求日
- 2025年07月04日
- 審決日
- 2026年03月23日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】シーメンス・ヘルスケア・ダイアグノスティックス・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】結田 純次
- 【請求人代理人】守安 智
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 浩
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 審判官 遠藤 直恵
- 分類
- P18 .121-WZ (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023-547591「診断検査室システムにおける障害を予測する装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 8月11日国際公開、WO2022/170357、令和 6年 2月16日国内公表、特表2024-507109〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2022年(令和4年)2月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2021年2月8日(以下「優先日」という。)(US)米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和 6年 8月 8日付け 拒絶理由通知書
令和 7年 1月20日 意見書・手続補正書の提出
令和 7年 2月19日付け 拒絶査定
令和 7年 7月 4日 審判請求書・手続補正書の提出
以下では、令和7年2月19日付け拒絶査定を「原査定」という。
第2 令和7年7月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年7月4日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正する補正事項を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所を示す。)
「【請求項1】
診断検査室システムにおける障害を予測する方法であって、
1つまたはそれ以上のセンサを提供することと、
該1つまたはそれ以上のセンサを使用してデータを生成することと、
該データを、教師あり学習または教師なし学習によって訓練されるモデルを含む人工知能アルゴリズム内へ入力することであって、
該教師あり学習は、例となる入力-出力ペアに基づいて入力を出力にマッピングする関数を学習する機械学習タスクを含み、教師なし学習は、既存のラベルなしのデータセット内の以前に検出されなかったパターンを探すAIアルゴリズムを含み、
該人工知能アルゴリズムは、該データに応答して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測するように構成される、ことと、
該人工知能アルゴリズムを使用して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測することであって、予測することは、既定の時間期間内の診断検査室システム内のモジュールの障害の確率を計算することを含む、ことと、
確率が既定の値よりも大きいことに応答して通知を生成することと
を含む、前記方法。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和7年1月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
診断検査室システムにおける障害を予測する方法であって、
1つまたはそれ以上のセンサを提供することと、
該1つまたはそれ以上のセンサを使用してデータを生成することと、
該データを、教師あり学習または教師なし学習によって訓練されるモデルを含む人工知能アルゴリズム内へ入力することであって、
該教師あり学習は、例となる入力-出力ペアに基づいて入力を出力にマッピングする関数を学習する機械学習タスクを含み、教師なし学習は、既存のラベルなしのデータセット内の以前に検出されなかったパターンを探すAIアルゴリズムを含み、
該人工知能アルゴリズムは、該データに応答して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測するように構成される、ことと、
該人工知能アルゴリズムを使用して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測することと、を含む、前記方法。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「人工知能アルゴリズムを使用して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測すること」について、「予測することは、既定の時間期間内の診断検査室システム内のモジュールの障害の確率を計算することを含む」ことに限定し、本件補正前の請求項1に記載された発明について、「確率が既定の値よりも大きいことに応答して通知を生成することとを含む」ことを直列的に付加するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含む。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(1)に記載した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
ここで、検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のように構成A~構成Eに分説する。(A~Eは、各構成単位毎に分説するために当審にて付した分説番号であり、以下、各構成単位について、該分説番号を用いて「構成A」などということがある。引用発明等についても同様である。)
「【請求項1】
A 診断検査室システムにおける障害を予測する方法であって、
B 1つまたはそれ以上のセンサを提供することと、
該1つまたはそれ以上のセンサを使用してデータを生成することと、
C 該データを、教師あり学習または教師なし学習によって訓練されるモデルを含む人工知能アルゴリズム内へ入力することであって、
該教師あり学習は、例となる入力-出力ペアに基づいて入力を出力にマッピングする関数を学習する機械学習タスクを含み、教師なし学習は、既存のラベルなしのデータセット内の以前に検出されなかったパターンを探すAIアルゴリズムを含み、
該人工知能アルゴリズムは、該データに応答して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測するように構成される、ことと、
D 該人工知能アルゴリズムを使用して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測することであって、予測することは、既定の時間期間内の診断検査室システム内のモジュールの障害の確率を計算することを含む、ことと、
E 確率が既定の値よりも大きいことに応答して通知を生成することと
を含む、前記方法。」
(2)引用文献
ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載
本願の出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された特表2019-536049号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の記載がある。(下線は当審において付与した。以下同様。)。
a「【0004】
本願発明の一実施例は、例えば、生物学的試料を分析する自動分析装置のための故障状態予測に関する。」
b「【0018】
かかる分析装置の例は、化学的または生物学的反応の結果を検出するため、または化学的または生物学的反応の進捗を監視するために使用される、臨床化学分析装置、凝固化学分析装置、免疫化学分析装置、尿分析装置、核酸分析装置である。」
c「【0024】
本開示で使用される用語「品質管理データ」用語は、品質管理された自動分析装置による測定結果を指すことができる。本開示による「品質管理」は、自動分析装置によって出力されるべき既知の目標測定値を有する、1種または複数種類の管理物質を含む。品質管理に関する測定手順は、自動分析装置が、正確性および/または精度の所定の限度の範囲内で動作することを確認することであろう。言い換えれば、本開示において「品質管理」は、分析装置の特定の試験または分析評価の性能を監視するために、1つまたは複数の監視プロセスで使用される物理的試料を指すものとして使用される。」
d「【0031】
本開示では、「較正データ」は、既知の組成を有する1種または複数種類の基準較正物質への応答信号が、応答信号と既知の組成との間の関係式を生成するために、分析装置によって決定される、測定の結果のデータを含むことができる。次いでこの関係式は、自動分析装置の測定範囲を設定するために使用される。たとえば、試料の吸収値を検出する装置において、基準較正物質は、既知の吸収値を有する試料を含むことができる。較正測定に応答して、自動分析装置は、それが吸収測定において真の吸収値(または少なくとも所定の限度内で真の値に近づく値)を示すように較正することができる。」
e「【0032】
本明細書で使用される用語「故障状態」は、アクチュエータ(モータ)、バルブ、センサ、または他のハードウェア(配管、バネ、ネジ、または他のあらゆる分析装置の部品)など、分析装置の破損または摩耗した構成部品を含む(ただし、これらに限定されるものではない)リストの1つまたは複数を示す、分析装置の状態に関する。故障状態という用語はさらに、調整/設定不良、機器の流体経路内の漏れ、腐食、電子部品の破損または欠陥などのうちの1つまたは複数を示すことに関する。特に、故障状態は、ソフトウェア、ハードウェアの故障、または生物学的試料の分析に影響を与える、分析装置の誤った構成を示す。」
f「【0035】
予測アルゴリズムの適用
図1は、試料のための自動分析装置2の故障状態を予測する例示的な方法における、データの流れを示す。図5は、予測アルゴリズムの適用中に実行される方法ステップを示す。」
g「【0036】
この方法は、自動分析装置2の故障状態を予測するための予測アルゴリズム1を取得するステップ201を含み、予測アルゴリズム1は、自動分析装置によって生成された較正データおよび/または品質管理データ5に基づいて、自動分析装置2の故障状態を予測するよう構成されている。さらにこの方法は、自動分析装置2の較正データおよび/または品質管理データ5を取得するステップ11、202、および自動分析装置2の故障状態を予測するために、予測アルゴリズム1を使用することによって、較正データおよび/または品質管理データを処理するステップ14、203を含む。」
h「【0052】
次いで、較正データおよび/または品質管理データ5は、自動分析装置2の故障状態についての予測6を得るために、予測アルゴリズム1によって処理される14。予測アルゴリズム1が、較正データおよび/または品質データ5を処理するやり方についての詳細を、以下で論じることにする。後の節では、様々な起こり得る予測結果、およびどのようにして予測結果が使用され得るかを、より詳細に論じることにする。」
i「【0053】
一例では、自動分析装置の故障状態に関する予測6は、所定の種類のエラー(または所定の1組のエラーのうちの1つ)が発生しそうであるという予測を含む。一例では、予測6は、故障状態が発生しそうな時間窓、もしくは故障状態が発生しそうな時間、またはその両方の仕様を含む。」
j「【0059】
さらに、予測6は、自動分析装置2の故障状態が予測される場合、または自動分析装置2の故障状態が発生する可能性が、所定のしきい値よりも高くなると予測される場合にのみ伝えられ得る。このようにして、ある例では、自動分析装置2の故障状態を回避するための、または故障状態が発生した結果を、少なくとも改善するための、対策を始めることができる。」
k「【0071】
他の例では、故障状態は、自動分析装置の適切な動作を確保するために、自動分析装置に対して特定の操作が行われるべき状態であり得る。さらに他の例では、エラーの種類は、自動分析装置の構成部品を交換するために、特定のスペアまたは交換部品を必要とするエラーであり得る。たとえば、故障状態は、自動分析装置の特定の構成部品(たとえば、分配装置または照明装置)の寿命末期を含むことができる。」
l「【0088】
本開示による予測アルゴリズム1を選択するために使用され得る例示的な分類技法の例は、決定木の利用、サポートベクトルマシンを使用する技法、ランダムフォレストマシン学習アルゴリズム、ディープラーニングアルゴリズム、ロジスティック回帰技法、(単純)ベイズ技法、勾配ブースティング技法、または線形判別分析を含む技法のうちの1つまたは複数を含むことができる。」
m「
[図:0001439040000001.jpg]
」
(イ)引用文献1に記載された発明
上記(ア)a~lの記載事項及び図面を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(各構成単位末尾の括弧内には、主たる認定根拠とした記載箇所を示す。)。
「生物学的試料を分析する、臨床化学分析装置である自動分析装置のための故障状態予測に関し、(【0004】、【0018】)
試料のための自動分析装置の故障状態を予測する方法であり、(【0035】)
故障状態は、ソフトウェア、ハードウェアの故障、または生物学的試料の分析に影響を与える、分析装置の誤った構成を示し、(【0032】)
この方法は、自動分析装置の較正データおよび/または品質管理データを取得するステップを含み、(【0036】)
較正データおよび/または品質管理データ5は、自動分析装置の故障状態についての予測を得るために、予測アルゴリズムによって処理され、(【0052】)
故障状態は、自動分析装置の特定の構成部品(たとえば、分配装置または照明装置)の寿命末期を含むことができ、(【0071】)
自動分析装置の故障状態に関する予測は、所定の種類のエラーが発生しそうであるという予測を含み、故障状態が発生しそうな時間窓を含み、(【0053】)
予測は、自動分析装置の故障状態が発生する可能性が、所定のしきい値よりも高くなると予測される場合にのみ伝えられる(【0059】)
方法。」
(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 構成Aについて
引用発明は「生物学的試料を分析する、臨床化学分析装置である自動分析装置のための故障状態予測に関し、試料のための自動分析装置の故障状態を予測する方法であり、故障状態は、ソフトウェア、ハードウェアの故障、または生物学的試料の分析に影響を与える、分析装置の誤った構成を示」すものである。
ここで、臨床分析は、検体中の成分を化学的・物理的手法で測定し、病気の診断に役立てる検査であるから、引用発明の「生物学的試料を分析する、臨床化学分析装置である自動分析装置」は、本件補正発明の「診断検査室システム」に相当する。
また引用発明の「故障状態」は、「ソフトウェア、ハードウェアの故障」又は「分析装置の誤った構成」を示すものであるから、本件補正発明の「システムにおける障害」に相当する。
したがって、引用発明の「生物学的試料を分析する、臨床化学分析装置である自動分析装置のための故障状態予測に関し、試料のための自動分析装置2の故障状態を予測する方法であり、故障状態は、ソフトウェア、ハードウェアの故障、または生物学的試料の分析に影響を与える、分析装置の誤った構成を示」すものは、本件補正発明の「診断検査室システムにおける障害を予測する方法であ」ることの要件を備えている。
イ 構成Bについて
引用発明は「自動分析装置の較正データおよび/または品質管理データを取得するステップを含」むものである。
ここで引用文献1における【0024】の「「品質管理データ」用語は、品質管理された自動分析装置による測定結果を指すことができる。」、及び【0031】の「本開示では、「較正データ」は、既知の組成を有する1種または複数種類の基準較正物質への応答信号が、応答信号と既知の組成との間の関係式を生成するために、分析装置によって決定される、測定の結果のデータを含むことができる。」との記載に基づけば、引用発明の「較正データおよび/または品質管理データ」は、自動分析装置による測定の結果が得られるものである。そうすると、引用発明は、自動分析装置が1つまたはそれ以上のセンサを有しており、当該センサを基準較正物質の分析に提供し、当該センサによってデータを生成して測定の結果を得ていることは明らかであり、当該センサを有している自動分析装置を提供することは、本件補正発明の「センサを提供すること」に相当する。
したがって、引用発明の「自動分析装置の較正データおよび/または品質管理データを取得するステップ」は、本件補正発明の「1つまたはそれ以上のセンサを提供することと、該1つまたはそれ以上のセンサを使用してデータを生成すること」に相当するといえる。
ウ 構成Cについて
引用発明の「較正データおよび/または品質管理データ」は、「自動分析装置の故障状態についての予測を得るために、予測アルゴリズムによって処理され」ている。
ここで、引用発明の「予測アルゴリズム」、「較正データおよび/または品質管理データ」はそれぞれ、本件補正発明の「アルゴリズム」、「該データ」に相当し、引用発明において当該「較正データおよび/または品質管理データ」は「予測アルゴリズムによって処理され」るから、引用発明は、当然当該データを「予測アルゴリズム」に入力していると認められる。
また上記アで述べたように、引用発明の「故障状態」は本件補正発明の「システムにおける」「障害」に相当するから、引用発明の「較正データおよび/または品質管理データ」は、「自動分析装置の故障状態についての予測を得るために、予測アルゴリズムによって処理され」ていることは、本件補正発明の「該データを、」「アルゴリズム内へ入力すること」によって「該」「アルゴリズムは、該データに応答して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測するように構成される」ことに相当する事項を有するといえる。
エ 構成Dについて
引用発明の「較正データおよび/または品質管理データ」は、「自動分析装置の故障状態についての予測を得るために、予測アルゴリズムによって処理」される。
ここで、引用発明の「予測アルゴリズム」によって「自動分析装置の故障状態についての予測を得る」ことは、本件補正発明の「該」「アルゴリズムを使用して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測すること」に相当する。
また、引用発明において「故障状態」は、「自動分析装置の特定の構成部品(たとえば、分配装置または照明装置)」「の寿命末期を含」み、当該「構成部品(たとえば、分配装置または照明装置)」は、自動分析装置における特定の機能を実現するモジュールであり、本件補正発明の「診断検査室システム内のモジュール」に相当するから、引用発明が「診断検査室システム内のモジュール」の故障状態に関する予測を行うことは明らかである。
さらに、引用発明の「エラーが発生しそうであるという予測」をすることは、エラーがどの程度発生するかを予測することであるから、本件補正発明の「障害の確率を計算」をすることに相当する。
またさらに、引用発明の「時間窓」は、本件補正発明の「既定の時間期間」に相当するから、引用発明の「故障状態に関する予測は、所定の種類のエラーが発生しそうであるという予測を含み、故障状態が発生しそうな時間窓を含」むことは、本件補正発明の「既定の時間期間」における「障害の確率を計算」することに相当する。
してみると、引用発明の「較正データおよび/または品質管理データは、自動分析装置の故障状態についての予測を得るために、予測アルゴリズムによって処理され、故障状態は、自動分析装置の特定の構成部品(たとえば、分配装置または照明装置)の寿命末期を含むことができ、自動分析装置の故障状態に関する予測は、所定の種類のエラーが発生しそうであるという予測を含み、故障状態が発生しそうな時間窓を含」むことは、本件補正発明の「該」「アルゴリズムを使用して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測することであって、予測することは、既定の時間期間内の診断検査室システム内のモジュールの障害の確率を計算することを含む」との要件を充足する。
オ 構成Eについて
引用発明は「予測は、自動分析装置の故障状態が発生する可能性が、所定のしきい値よりも高くなると予測される場合にのみ伝えられる」ものである。
ここで、引用発明の「故障状態が発生する可能性」、「所定のしきい値」は、それぞれ、本件補正発明の、障害が発生する「確率」、「既定の値」に相当し、引用発明は「伝えられる」ことから、「伝え」るための通知を生成していると認められる。
してみると、引用発明の上記構成は、本件補正発明の「確率が既定の値よりも大きいことに応答して通知を生成すること」に相当する事項を有するといえる。
カ 一致点、相違点
上記ア~オのとおりであるから、本件補正発明と引用発明とは、以下の(ア)の点で一致し、下記(イ)の点で相違する。
(ア)一致点
「A 診断検査室システムにおける障害を予測する方法であって、
B 1つまたはそれ以上のセンサを提供することと、
該1つまたはそれ以上のセンサを使用してデータを生成することと、
C’ 該データを、アルゴリズム内へ入力することであって、
該アルゴリズムは、該データに応答して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測するように構成される、ことと、
D’ 該アルゴリズムを使用して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測することであって、予測することは、既定の時間期間内の診断検査室システム内のモジュールの障害の確率を計算することを含む、ことと、
E 確率が既定の値よりも大きいことに応答して通知を生成することと
を含む、前記方法。」
(イ)相違点1(構成C、Dについて)
アルゴリズムについて、本件補正発明は、「教師あり学習または教師なし学習によって訓練されるモデルを含む人工知能」アルゴリズムであり、「該教師あり学習は、例となる入力-出力ペアに基づいて入力を出力にマッピングする関数を学習する機械学習タスクを含み、教師なし学習は、既存のラベルなしのデータセット内の以前に検出されなかったパターンを探すAIアルゴリズムを含」むと特定されているのに対し、引用発明はそのように特定されていない点。
(4)判断
ア 相違点について
(ア)相違点1
引用文献1の段落【0088】には「予測アルゴリズム1を選択するために使用され得る例示的な分類技法の例は、決定木の利用、サポートベクトルマシンを使用する技法、ランダムフォレストマシン学習アルゴリズム、ディープラーニングアルゴリズム、ロジスティック回帰技法、(単純)ベイズ技法、勾配ブースティング技法、または線形判別分析を含む技法のうちの1つまたは複数を含むことができる。」との記載がある。当該記載に基づけば、引用文献1には、引用発明の「予測アルゴリズム」として、ディープラーニングアルゴリズム等を採用することが示唆されているといえる。ここで、サポートベクトルマシンを使用する技法、ランダムフォレストマシン学習アルゴリズム、ロジスティック回帰技法や、勾配ブースティング技法は、一般に教師あり学習によって訓練されるものであり、ディープラーニングアルゴリズムや、ベイズ技法は、教師なし学習によっても訓練できるものである。そして、教師あり学習が「例となる入力-出力ペアに基づいて入力を出力にマッピングする関数を学習する機械学習タスクを含」むこと、教師なし学習が「既存のラベルなしのデータセット内の以前に検出されなかったパターンを探すAIアルゴリズムを含」むことは、常套手段である。
してみると、引用発明において、上記示唆に従い、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 効果について
本件補正発明により奏される効果も、引用発明から当業者が予期し得るものであり、格別顕著なものではない。
ウ 請求人の主張について
請求人は、令和7年7月4日提出の審判請求書において、
「a.引用文献1は、…そして、機械学習またはディープラーニングで訓練された予測アルゴリズムを使用して、システムが「壊滅的なイベント」に遭遇するかどうかを判断する可能性が一般的に記載されています(引用文献1の段落[0072]参照)。」「c.引用文献1では、特定の閾値を超えた場合に致命的な故障を予測するシステムが開示されていますが、補正後の請求項1では、既定の時間期間内の診断検査室システム内のモジュールの障害の確率を計算することで、収集されたデータを全体的に捉えて、例えば、引用文献1の故障予測を引き起こすような誤ったデータを無視して、将来のデータが誤りである可能性が高いかどうかを予測することが可能となります。」
との主張をしているので、検討する。
上記(3)エ、オで述べたように、引用発明は、本件補正発明の「該人工知能アルゴリズムを使用して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測することであって、予測することは、既定の時間期間内の診断検査室システム内のモジュールの障害の確率を計算することを含む、こと」と「確率が既定の値よりも大きいことに応答して通知を生成することとを含む」との要件を充足するから、上記「補正後の請求項1では、既定の時間期間内の診断検査室システム内のモジュールの障害の確率を計算することで、収集されたデータを全体的に捉えて、例えば、引用文献1の故障予測を引き起こすような誤ったデータを無視して、将来のデータが誤りである可能性が高いかどうかを予測することが可能となります。」との効果は、引用発明も有することは明らかである。
また「引用文献1は」「システムが「壊滅的なイベント」に遭遇するかどうかを判断する可能性が一般的に記載され」ていることが、引用発明が上記(3)エ、オで述べた要件を充足することを妨げるものではない。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。
(5)小括
以上より、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 補正の却下の決定についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~22に係る発明は、令和7年1月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~22に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(2)に示した請求項1の記載により特定されるとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
理由1(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特表2019-536049号公報
3 引用文献の記載事項等
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
(1)本願発明は、上記第2の[理由]2で独立特許要件の検討をした本件補正発明において、「人工知能アルゴリズムを使用して診断検査室システムにおける少なくとも1つの障害を予測すること」に関して、「予測することは、既定の時間期間内の診断検査室システム内のモジュールの障害の確率を計算することを含む」ことを削除し、また「確率が既定の値よりも大きいことに応答して通知を生成することとを含む」との発明特定事項を削除して拡張したものである。
(2) 本願発明は、本件補正発明から上記(1)で示した発明特定事項を削除して拡張したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-010424