特許拒絶査定不服審判
2025-002337
トレンチSiCパワー半導体デバイス
- 審判番号
- 2025-002337
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-519814
- 請求日
- 2025年02月14日
- 審決日
- 2025年11月17日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ヒタチ・エナジー・リミテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人深見特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 小宮 慎司
- 審判官 小川 将之
- 審判官 綿引 隆
- 分類
- P18 .121-Z (H10D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第3項、特許法第159条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023-519814「トレンチSiCパワー半導体デバイス」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 4月21日国際公開、WO2022/078908、令和 5年11月 1日国内公表、特表2023-545962〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2021年10月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2020年10月14日、欧州)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年5月22日:手続補正書の提出
令和6年5月16日付け:拒絶理由通知
令和6年8月21日:意見書及び手続補正書の提出
令和6年11月5日付け:拒絶査定
令和7年2月14日:審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和7年2月14日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年2月14日された手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を本件補正後の特許請求の範囲の請求項1とする補正を含むものであって、本件補正前後の請求項1はそれぞれ以下のとおりである。(下線は本件補正により付加された箇所を示し、審判請求人により付与されたものである。)
(1)本件補正前の請求項1
「【請求項1】
絶縁トレンチゲート電極(5)を有する炭化ケイ素(SiC)パワー半導体デバイス(1)を製造するための方法であって、
第1の導電型のドリフト層(3)を提供するステップ(100)と、
前記ドリフト層(3)上に前記第1の導電型のソース層(4)を形成するステップ(200)と、
前記ソース層(4)を貫通して前記ドリフト層(3)内へと延在する前記絶縁トレンチゲート電極(5)を形成するステップ(300)と、
最大8%のドーピング変動を有する均質ドーピング領域(6a)を有する、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型のインプラント層(6)を生成するために、前記第2の導電型のイオンを前記ドリフト層(3)に注入するステップ(400)とを含み、
前記均質ドーピング領域(6a)は、前記ソース層(4)と前記ドリフト層(3)との間に配置され、少なくとも150nmの均質ドーピング領域厚さ(6b)を有し、
前記絶縁トレンチゲート電極(5)を形成する前記ステップ(300)が、イオンを注入する前記ステップ(400)の後に実行される、方法。」
(2)本件補正後の請求項1
「【請求項1】
絶縁トレンチゲート電極(5)を有する炭化ケイ素(SiC)パワー半導体デバイス(1)を製造するための方法であって、
第1の導電型のドリフト層(3)を提供するステップ(100)と、
前記ドリフト層(3)上に前記第1の導電型のソース層(4)を形成するステップ(200)と、
前記ソース層(4)を貫通して前記ドリフト層(3)内へと延在する前記絶縁トレンチゲート電極(5)を形成するステップ(300)と、
最大8%のドーピング変動を有する均質ドーピング領域(6a)を有する、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型のインプラント層(6)を生成するために、前記第2の導電型のイオンを前記ドリフト層(3)に注入するステップ(400)とを含み、
前記均質ドーピング領域(6a)は、前記ソース層(4)と前記ドリフト層(3)との間に配置され、少なくとも150nmの均質ドーピング領域厚さ(6b)を有し、
前記絶縁トレンチゲート電極(5)を形成する前記ステップ(300)が、イオンを注入する前記ステップ(400)の後に実行され、
イオンを注入する前記ステップが、イオンエネルギーの異なる複数の注入サブステップを含み、これにより、前記インプラント層内の結果として生じるドーピングプロファイルは、単一のインプラントの重ね合わせによって形成される、方法。」
(3)補正事項
本件補正は、補正前の請求項1に、「イオンを注入する前記ステップが、イオンエネルギーの異なる複数の注入サブステップを含み、これにより、前記インプラント層内の結果として生じるドーピングプロファイルは、単一のインプラントの重ね合わせによって形成される」との事項を付加する補正事項(以下「補正事項1」という。)を含むものである。
2.補正の目的及び新規事項追加の有無の検討
(1)補正の目的について
上記補正事項1は、本件補正前の請求項1における「イオンを注入する前記ステップ(400)」を「イオンエネルギーの異なる複数の注入サブステップを含み、これにより、前記インプラント層内の結果として生じるドーピングプロファイルは、単一のインプラントの重ね合わせによって形成される」ものに限定することを目的とするものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(2)新規事項の追加の有無について
補正事項1は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項7に記載された事項であるから、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法17条の2第3項の規定に適合する。
3.独立特許要件の検討
上記2.(1)で検討したとおり、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1の減縮を目的とする補正事項1を含むものである。そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1)本件補正発明の認定
本件補正発明は、上記1.(2)に記載されたとおりのものである。
(2)引用文献1の記載と引用発明
ア 原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された、本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通して公衆に利用可能となった刊行物である、国際公開第2014/207793号(2014年12月31日国際公開)には、次の記載がある。(下線は当審により付加した。以下同じ。)
「[0001] 本発明は、半導体装置およびその製造方法に関し、例えば、炭化珪素(SiC)基板に溝ゲート型の電界効果トランジスタ(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:以下、MOSFETと略す)を備える半導体装置およびその製造方法に適用して有効な技術に関する。」
「[0020] (実施の形態1)
まず、本実施の形態1の半導体装置の構造について図1および図2を参照して説明する。図1は本実施の形態1の半導体装置の単位素子領域の平面図、図2は図1の半導体装置のI-I線の断面図である。
[0021] 本実施の形態1の半導体装置であるパワーMOSFETは、大電力を取り扱うのに設計された溝ゲート型のSiC-MOSFETであり、例えば電力機器の電力の変換や制御に用いられる。」
「[0031] ソース領域7Sは、例えばn+型のSiCにより形成されている。このソース領域7Sは、図1に示すように、ボディコンタクト領域3bを取り囲み、その外周が溝4に接するように枠状に形成されている。また、ソース領域7Sは、図2に示すように、第1ボディ領域3aの上部に接した状態で設けられている。」
「[0038] 次に、図3および図4は、それぞれ図2のII-II線およびIII-III線における不純物濃度プロファイルの計算値を示している。なお、図3および図4において横軸のDepは深さを、縦軸のConは不純物濃度をそれぞれ示している。
[0039] 図3および図4の太い実線はトータルの不純物濃度プロファイルを示している。また、図3および図4の破線は高濃度領域8、一点鎖線はドリフト層2の不純物濃度プロファイルをそれぞれ示している。また、図4の二点鎖線は第2ボディ領域3cの不純物濃度プロファイルを示している。
[0040] 図3および図4に示すように、高濃度領域8の不純物濃度(破線)は、ドリフト層2の不純物濃度(一点鎖線)よりも高く設定されている。また、図4に示すように、第2ボディ領域3cにおいて高濃度領域8の不純物濃度(破線)は、第2ボディ領域3cの不純物濃度(二点鎖線)よりも低くなるように設定されている。これにより、第2ボディ領域3cに高濃度領域8が重なっていても、第2ボディ領域3cが残されるようになっている。
[0041] また、図3および図4の点線は第1ボディ領域3aの不純物濃度プロファイルを示している。図4に示すように、第2ボディ領域3cの不純物濃度(二点鎖線)は、第1ボディ領域3aの不純物濃度(点線)よりも高く設定されている。
[0042]また、図3の細い実線はソース領域7Sの不純物濃度プロファイルを示している。ソース領域7Sおよびボディコンタクト領域3bの不純物濃度は第1ボディ領域3aの不純物濃度よりも高く設定されている。」
「[0077] 次に、本実施の形態1の半導体装置の製造方法の一例について図24~図31を参照しながら説明する。図24~図31は、本実施の形態の半導体装置の製造工程中における要部断面図である。
[0078] まず、図24に示すエピタキシャルウエハEPWを用意する。エピタキシャルウエハEPWを構成する基板1は、例えば、8°、4°、2°、0.5°などのオフセットを持つn+型の4H-SiCウエハにより形成されている。基板1の不純物濃度は、例えば、1×1018~1×1021cm-3である。
[0079] この基板1上には、例えば、n型のSiCにより形成されたエピタキシャル層EPがエピタキシャル成長法により形成されている。エピタキシャル層EPの不純物濃度は、例えば、1×1014~1×1018cm-3であり、ここでは、例えば2×1016cm-3である。
[0080] 続いて、エピタキシャル層EP上に第1ボディ領域形成用のマスク(図示せず)をフォトリソグラフィ(以下、単にリソグラフィという)法により形成する。このマスクの平面形状は、第1ボディ領域が露出され、それ以外の領域が覆われるような形状に形成されている。なお、ここでリソグラフィ法は、例えば、フォトレジスト膜の塗布、露光および現像等のような一連の処理によりフォトレジストパターンを形成する方法である。
[0081] その後、そのマスクをイオン注入マスクとし、マスクから露出するエピタキシャル層EPの上部に、例えば、Alイオンを注入する。注入条件としては、例えば、30keV、7×1011cm-2、80keV、1.5×1012cm-2、150keV、2×1012cm-2および250keV、3.5×1012cm-2とする。これにより、図25に示すように、エピタキシャル層EPの上部にp型の第1ボディ領域3aを形成するとともに、その第1ボディ領域3aと基板1との間にエピタキシャル層EPにより形成されるn型のドリフト層2を形成する。
[0082] ここで、第1ボディ領域3aにおいてエピタキシャル層EPの上面からの深さは、例えば0.4μmである。また、第1ボディ領域3aの不純物濃度は、例えば1×1016~1×1018cm-3である。なお、第1ボディ領域3aをAlイオンに代えてBイオンにより形成しても良い。また、第1ボディ領域3aをイオン注入法に代えてエピタキシャル法により形成しても良い。すなわち、n型のエピタキシャル層EP上に、p型のSiCをエピタキシャル法により成膜することにより、第1ボディ領域3aを形成しても良い。」
「[0092] 続いて、マスクM1を除去した後、エピタキシャル層EPに、ソース領域7Sが露出され、それ以外が覆われるマスク(図示せず)をリソグラフィ法により形成する。続いて、そのマスクをイオン注入マスクとし、第1ボディ領域3aの上部に、例えばNイオンを注入する。注入条件としては、例えば、15keV、3×1014cm-2および30keV、3×1014cm-2とする。これにより、図28に示すように、第1ボディ領3aの上部にボディコンタクト領域3bに隣接するようにn+型のソース領域7Sを形成する。
[0093] このソース領域7Sは、エピタキシャル層EPの上面から第1ボディ領域3aの深さ方向の途中位置まで延び終端するように形成されている。なお、ソース領域7Sの不純物濃度は、例えば、1×1018~1×1021cm-3である。また、ソース領域7Sに注入するイオンはPイオンでも良い。
[0094] その後、ソース領域形成用のマスクを除去した後、エピタキシャル層EP上にキャップ材としてカーボン膜(図示せず)をCVD(Chemical Vapor Deposition)法等により堆積した後、アニール処理を施すことにより、ドーピングした不純物を活性化させる。その後、カーボン膜を酸素プラズマアッシング法等により除去する。
[0095] 次いで、エピタキシャル層EP上に、溝の形成領域が露出され、それ以外が覆われるマスク(図示せず)をリソグラフィ法により形成した後、そのマスクをエッチングマスクとしてエッチング処理を施すことにより、図29に示すように、エピタキシャル層EPに溝4を形成する。溝4は、エピタキシャル層EPの上面からソース領域7Sおよび第1ボディ領域3aを貫通して下方に延び、ドリフト層2の深さ途中位置で終端するように形成される。
[0096] 続いて、溝4の形成用のマスクを除去した後、エピタキシャル層EPの上面および溝4の内面(側面および底面)を覆うようにゲート絶縁膜5をCVD法等により形成する。このゲート絶縁膜5は、例えば、厚さが10~100nm程度の酸化シリコン(SiO2)により形成されている。なお、ゲート絶縁膜5は、例えばドライ酸化法や他の方法で形成しても良い。
[0097] その後、例えば、厚さ100~300nm程度のPドープポリシリコン膜を、溝4を埋め込むようにエピタキシャル層EP上にCVD法等により堆積した後、これをリソグラフィ法およびドライエッチング法によりパターニングすることにより、図30に示すようにゲート電極6Gを形成する。ゲート電極6Gとエピタキシャル層EPとは、それらの間のゲート絶縁膜5により絶縁されている。」
また、引用文献1には、以下の図面が掲載されている。
「
[図:0001434954000001.jpg]
[図:0001434954000002.jpg]
」
「
[図:0001434954000003.jpg]
[図:0001434954000004.jpg]
」
「
[図:0001434954000005.jpg]
」
「
[図:0001434954000006.jpg]
」
イ 以上の摘記を整理すると、引用文献1には次の事項が記載されているものと理解できる。
(ア)[0021]、[0077]から、大電力を取り扱う溝ゲート型のSiC-MOSFETの製造方法が記載されている。
(イ)[0078]、[0079]から、n+型の4H-SiCウエハにより形成された基板1上に、n型のSiCにより形成されたエピタキシャル層EPを形成することが記載されている。
(ウ)上記(イ)、[0081]から、n型のエピタキシャル層EPの上部にAlイオンを注入してp型の第1ボディ領域3aを形成するとともに、その第1ボディ領域3aと基板1との間にエピタキシャル層EPにより形成されるn型のドリフト層2を形成することが記載されている。また、上記Alイオンの注入条件が、30keV、7×1011cm-2、80keV、1.5×1012cm-2、150keV、2×1012cm-2および250keV、3.5×1012cm-2であることが記載されている。
(エ)[0092]から、第1ボディ領域3aの上部にNイオンを注入してn+型のソース領域7Sを形成することが記載されている。
(オ)[0095]~[0097]から、エッチング処理を施すことにより、ソース領域7Sおよび第1ボディ領域3aを貫通して下方に延び、ドリフト層2の深さ途中位置で終端するように溝4を形成すること、当該溝の内面を覆うようにゲート絶縁膜5を形成すること、その後、溝4を埋め込むようにPドープポリシリコン膜を堆積した後パターニングすることにより、ゲート電極6Gを形成することが記載されている。
(カ)[0031]、[0081]及び図2から、第1ボディ領域3aは、ソース領域7Sとドリフト層2の間に形成されることが記載されている。
(キ)[0039]、[0041]から、図3の点線は第1ボディ領域3aの不純物濃度プロファイルを示し、太い実線はトータルの不純物濃度プロファイルを示している。そこで図3を見ると、第1ボディ領域3aは、深さ約0.13μmから約0.29μmにかけて、厚さ約0.16μmの均質な不純物濃度プロファイルの領域を有していることが見て取れる。
以上の(ア)~(キ)によれば、引用文献1には以下の「引用発明」が記載されているものと認められる。
[引用発明]
「大電力を取り扱う溝ゲート型のSiC-MOSFETの製造方法であって、
n+型の4H-SiCウエハにより形成された基板1上に、n型のSiCにより形成されたエピタキシャル層EPを形成し、
n型のエピタキシャル層EPの上部にAlイオンを注入して、エピタキシャル層EPの上部にp型の第1ボディ領域3aを形成するとともに、その第1ボディ領域3aと基板1との間にエピタキシャル層EPにより形成されるn型のドリフト層2を形成し、
第1ボディ領域3aの上部にNイオンを注入してn+型のソース領域7Sを形成し、
ソース領域7Sおよび第1ボディ領域3aを貫通して下方に延び、ドリフト層2の深さ途中位置で終端するように溝4を形成し、当該溝の内面を覆うようにゲート絶縁膜5を形成し、その後、溝4を埋め込むようにPドープポリシリコン膜を堆積した後パターニングすることにより、ゲート電極6Gを形成することを含み、
上記第1ボディ領域3aは、ソース領域7Sとドリフト層2の間に形成され、厚さ約0.16μmの均質な不純物濃度プロファイルの領域を有し、
上記Alイオンの注入条件が、30keV、7×1011cm-2、80keV、1.5×1012cm-2、150keV、2×1012cm-2および250keV、3.5×1012cm-2である、
製造方法。」
(3)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由において引用文献3として引用された、本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通して公衆に利用可能となった刊行物である、特開2008-210848号公報(2008年9月11日公開)には、次の記載がある。
「【0047】
または、LTO等のマスク(図示せず)を成膜したのち、フォトリソグラフィ工程を経て、p型ベース領域3の形成予定領域上においてマスクを開口させる。そして、マスク上から、n型層21の表層部にp型不純物となるアルミニウムをイオン注入する。この場合、アルミニウムを異なるエネルギーで多段に注入して、均一濃度のp型ベース層を形成することもできる。注入エネルギーは、加速電圧として10keVから700keVを用いて、5段程度に分割したイオン注入を行えば、0.7μmの深さの均一な不純物分布を形成できる。・・・(以下略)・・・」
(4)本件補正後の請求項1の解釈
ア 本件補正後の請求項1には、「第1の導電型のドリフト層(3)を提供するステップ(100)」(以下「ドリフト層提供ステップ(100)」という。)、「前記ドリフト層(3)上に前記第1の導電型のソース層(4)を形成するステップ(200)」(以下「ソース層形成ステップ(200)」という。)、「前記ソース層(4)を貫通して前記ドリフト層(3)内へと延在する前記絶縁トレンチゲート電極(5)を形成するステップ(300)」(以下「トレンチゲート形成ステップ(300)」という。)、「最大8%のドーピング変動を有する均質ドーピング領域(6a)を有する、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型のインプラント層(6)を生成するために、前記第2の導電型のイオンを前記ドリフト層(3)に注入するステップ(400)」(以下「インプラント層生成ステップ(400)」という。)が記載されているところ、各ステップの順序関係について、次の記載がある。
(ア)「ドリフト層提供ステップ(100)」「ソース層形成ステップ(200)」「トレンチゲート形成ステップ(300)」「インプラント層生成ステップ(400)」を「含み」と記載されている。
(イ)「インプラント層生成ステップ(400)」は「前記第2の導電型のイオンを前記ドリフト層(3)に注入する」ものであることが記載されている。
(ウ)「トレンチゲート形成ステップ(300)」が「インプラント層生成ステップ(400)」の「後に実行され」と記載されている。
(エ)「トレンチゲート形成ステップ(300)」において「前記ソース層(4)を貫通して・・・前記絶縁トレンチゲート(5)を形成する」ことが記載されている。
イ 上記(ア)によれば、各ステップは基本的に順不同であるものの、上記(イ)~(エ)の記載から、次の順序関係は特定されているものと理解できる。
a 上記(イ)から、「インプラント層生成ステップ(400)」は「ドリフト層提供ステップ(100)」の後に実行されることが理解できる。
b 上記(ウ)、aから、「ドリフト層提供ステップ(100)」「インプラント層生成ステップ(400)」「トレンチゲート形成ステップ(300)」が、この順序で実行されることが理解できる。
c 上記(エ)から、「トレンチゲート形成ステップ(300)」は「ソース層形成ステップ(200)」の後に実行されることが理解できる。
d 上記(ア)から、「ソース層形成ステップ(200)」と「インプラント層生成ステップ(400)」の2つは、上記b、cの制約の範囲内で順不同であることが理解できる。すなわち、本件補正後の請求項1では、「ソース層形成ステップ(200)」が先に実行される場合と、「インプラント層生成ステップ(400)」が先に実行される場合の、2通りの場合が特定されているといえる。
ウ 以上によれば、本件補正後の請求項1には、少なくとも「ドリフト層提供ステップ(100)」「インプラント層生成ステップ(400)」「ソース層形成ステップ(200)」「トレンチゲート形成ステップ(300)」が、この順に実行される製造方法が特定されているといえる。
エ 本願明細書の【0009】には、「層という用語は、例えばコーティング又は堆積プロセスによって下にある材料上に形成された元素に限定されず、例えば材料組成及びドーピング濃度のうちの少なくとも一方に関して、ある元素の、同じ元素の1つ以上の隣接するサブ領域とは異なるサブ領域も含む。例えば、半導体ウェハ又は半導体ウェハから形成された半導体ボディの異なるようにドープされたサブ領域も層と呼ばれる。」と記載されていることから、上記ウの「ソース層形成ステップ(200)」には、イオン注入等により半導体内にソース層となる領域を形成することも含まれていると理解できる。
オ 本件補正後の請求項1の「前記ドリフト層(3)上に」との記載は、「ドリフト層(3)」に接してその「上に」位置する場合と、「ドリフト層(3)」との間に他の層を介してその「上に」位置する場合の、両方を含む記載であると理解できる。
(5)対比
上記(4)の検討をふまえ、本件補正発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明における「n+型の4H-SiCウエハにより形成された基板1上に、n型のSiCにより形成されたエピタキシャル層EPを形成」することは、本件補正発明における「第1の導電型のドリフト層(3)を提供するステップ(100)」に相当する。
イ 引用発明における「p型の第1ボディ領域3a」は、「厚さ約0.16μmの均質な不純物濃度プロファイルの領域を有」する領域であるから、引用発明における「n型のエピタキシャル層EPの上部にAlイオンを注入して、エピタキシャル層EPの上部にp型の第1ボディ領域3aを形成する」ことは、本件補正発明における「均質ドーピング領域(6a)を有する、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型のインプラント層(6)を生成するために、前記第2の導電型のイオンを前記ドリフト層(3)に注入するステップ(400)」に相当する。
ウ 引用発明において「第1ボディ領域3a」は「エピタキシャル層EPにより形成されるn型のドリフト層2」の上にあるから、引用発明における「第1ボディ領域3aの上部にNイオンを注入してn+型のソース領域7Sを形成」することは、本件補正発明における「前記ドリフト層(3)上に前記第1の導電型のソース層(4)を形成するステップ(200)」に相当する。
エ 引用発明における「ソース領域7Sおよび第1ボディ領域3aを貫通して下方に延び、ドリフト層2の深さ途中位置で終端するように溝4を形成し、当該溝の内面を覆うようにゲート絶縁膜5を形成し、その後、溝4を埋め込むようにPドープポリシリコン膜を堆積した後パターニングすることにより、ゲート電極6Gを形成すること」は、本件補正発明における「前記ソース層(4)を貫通して前記ドリフト層(3)内へと延在する前記絶縁トレンチゲート電極(5)を形成するステップ(300)」に相当する。また、本件補正発明と引用発明は、「前記絶縁トレンチゲート電極(5)を形成する前記ステップ(300)が、イオンを注入する前記ステップ(400)の後に実行され」ている点で一致する。
オ 引用発明の「上記第1ボディ領域3aは、ソース領域7Sとドリフト層2の間に形成され、厚さ約0.16μmの均質な不純物濃度プロファイルの領域を有し」ていることは、本件補正発明の「前記均質ドーピング領域(6a)は、前記ソース層(4)と前記ドリフト層(3)との間に配置され、少なくとも150nmの均質ドーピング領域厚さ(6b)を有し」ていることに相当する。
カ 引用発明において「Alイオン注入」は、「30keV、7×1011cm-2、80keV、1.5×1012cm-2、150keV、2×1012cm-2および250keV、3.5×1012cm-2」との注入条件で行われ、これにより「厚さ約0.16μmの均質な不純物濃度プロファイルの領域」を有する「第1ボディ領域3a」が形成されるものである。そうすると、本件補正発明と引用発明は、「イオンを注入する前記ステップが、イオンエネルギーの異なる複数の注入サブステップを含み、これにより、前記インプラント層内の結果として生じるドーピングプロファイルは、単一のインプラントの重ね合わせによって形成される」点で一致する。
キ 引用発明における「大電力を取り扱う溝ゲート型のSiC-MOSFET」は、本件補正発明における「絶縁トレンチゲート電極(5)を有する炭化ケイ素(SiC)パワー半導体デバイス」に相当するから、本件補正発明と引用発明は、「絶縁トレンチゲート電極(5)を有する炭化ケイ素(SiC)パワー半導体デバイス(1)を製造するための方法」である点で一致する。
上記ア~キの対比によれば、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりであると認められる。
[一致点]
「絶縁トレンチゲート電極(5)を有する炭化ケイ素(SiC)パワー半導体デバイス(1)を製造するための方法であって、
第1の導電型のドリフト層(3)を提供するステップ(100)と、
前記ドリフト層(3)上に前記第1の導電型のソース層(4)を形成するステップ(200)と、
前記ソース層(4)を貫通して前記ドリフト層(3)内へと延在する前記絶縁トレンチゲート電極(5)を形成するステップ(300)と、
均質ドーピング領域(6a)を有する、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型のインプラント層(6)を生成するために、前記第2の導電型のイオンを前記ドリフト層(3)に注入するステップ(400)とを含み、
前記均質ドーピング領域(6a)は、前記ソース層(4)と前記ドリフト層(3)との間に配置され、少なくとも150nmの均質ドーピング領域厚さ(6b)を有し、
前記絶縁トレンチゲート電極(5)を形成する前記ステップ(300)が、イオンを注入する前記ステップ(400)の後に実行され、
イオンを注入する前記ステップが、イオンエネルギーの異なる複数の注入サブステップを含み、これにより、前記インプラント層内の結果として生じるドーピングプロファイルは、単一のインプラントの重ね合わせによって形成される、方法。」
[相違点]
本件補正発明は、「均質ドーピング領域(6a)を有する、前記第1の導電型とは異なる第2の導電型のインプラント層(6)を生成するために、前記第2の導電型のイオンを前記ドリフト層(3)に注入するステップ(400)」が「最大8%のドーピング変動を有する均質ドーピング領域(6a)を有する」のに対し、引用発明は、「n型のエピタキシャル層EPの上部にAlイオンを注入」する工程におけるドーピング変動が「最大8%のドーピング変動を有する」とは特定されていない点。
(6)相違点についての検討
引用文献1の図3から、第1ボディ領域3aの不純物濃度は約2×1017cm-3付近でほぼ一定であることが見て取れ、ドーピング変動が8%以下であるとは断定できないものの、8%を大きく超える変動を示すものではないことも明らかである。
また、引用発明は、引用文献1の[0081]に記載のとおり、4段階のAlイオン注入により第1ボディ領域3aを形成しているところ、同文献の[0082]には、「第1ボディ領域3aをイオン注入法に代えてエピタキシャル法により形成しても良い」とも記載されている。ここで、異なるエネルギーで多段にイオン注入することで深さ方向に均一な不純物分布を形成できることは、例えば引用文献3の【0047】にも記載されている、当業者に周知の技術的事項である。一方、エピタキシャル法により層厚方向に均一な不純物分布を形成できることも当業者の技術常識であり、例えば、引用文献1においてエピタキシャル層EPで構成されるドリフト層2の不純物濃度分布(図3において一点鎖線で示される分布([0039]参照。))が均一であることからも明らかである。
以上を勘案すると、引用文献1には、第1ボディ領域3aの不純物濃度プロファイルを、変動の少ない均一なものとすることが示唆されていたといえる。このような示唆は、設計どおりの特性を持つトランジスタをばらつきなく製造するという当業者の不断の課題に照らしてもごく自然なものといえる。
そうすると、引用発明のAlイオン注入において、第1ボディ領域3aの不純物濃度プロファイルをできるだけ均一となるようにすることは、当業者が普通に行うことであり、その過程でドーピング変動が8%以下のプロファイルに到達することも自然になし得たことであるといえる。そして、本願明細書を見ても、「8%」というドーピング変動の最大値に臨界的意義を見いだすことはできない。
したがって、引用発明1において上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(7)請求人主張の検討
審判請求人は、引用文献3と引用文献1は前提となる構成において相違するから、引用文献3において抽出した事項を引用文献1に適用できるとする判断は妥当ではなく、また、引用文献3に開示された事項を引用文献1に適用する具体的な動機付けが存在しないから、相違点に係る構成に容易に想到できない旨主張する。
しかしながら、上記(6)の検討で示したとおり、引用文献1には「第1ボディ領域3a」の不純物プロファイルを均一なものとすることが示唆されているところ、引用文献3の記載は、当該示唆された事項が多段注入で実現されるということの技術的根拠を示す周知例として引用されたものであるから、引用文献1と引用文献3で前提となる構成が相違することは、上記(6)の引用文献3の引用趣旨とは無関係であり、上記(6)の検討において引用文献3を引用することを妨げるものではない。また、上記(6)の検討における論理付けは、引用文献3に記載された技術的事項を引用発明に適用するとの論理付けとは異なるから、審判請求人のいう動機付けの存在の有無は、上記(6)の検討に影響しない。よって、上記審判請求人の主張は採用できない。
また、審判請求人は、周知技術とはその技術に関し相当多数の刊行物が存在しているものであるところ、引用文献3に開示された事項が周知技術であることを示す根拠は存在しない旨主張するが、例えば以下に示すとおり、「異なるエネルギーで多段にイオン注入することで深さ方向に均一な不純物分布を形成できること」を示す刊行物は相当多数存在するから、当該主張は採用できない。
本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通して公衆に利用可能となった刊行物である、特開2014-175377号公報(2014年9月22日公開)には、図面とともに次の記載がある。
「【0001】
本発明は、炭化珪素を用いて形成される半導体装置(炭化珪素半導体装置)に関し、特に、半導体素子の外周に設けられる終端構造の構成および形成方法に関する。」
「【0025】
そして、このようにして形成されたレジストパターン13をマスクにして、n型半導体層2の表層部にp型不純物をイオン注入することで、p型領域4を形成する。本実施の形態では、p型不純物の注入濃度(cm-3)がボックスプロファイル(n型半導体層2の深さ方向に均一なプロファイル)となるようにする。例えば図4は、注入エネルギーを90keVから700keVの範囲で変更しながらAlを9回イオン注入し、そのトータルでの注入濃度がボックスプロファイルとなるようにした例を示している。」
「
[図:0001434954000007.jpg]
」
本願の優先権主張日前に頒布された又は電気通信回線を通して公衆に利用可能となった刊行物である、特開2018-107477号公報(2018年7月5日公開)には、図面とともに次の記載がある。
「【0001】
本発明は炭化珪素半導体装置などの電力用半導体装置に関する。」
「【0044】
図7に示すように、付加領域7は、N(窒素)を注入エネルギー350keVで、3.00×1011/cm2のドーズ量でイオン注入する第1段階のイオン注入と、Nを注入エネルギー180keVで、2.40×1011/cm2のドーズ量でイオン注入する第2段階のイオン注入と、Nを注入エネルギー75keVで、2.00×1011/cm2のドーズ量でイオン注入する第3段階のイオン注入との3段階のイオン注入で形成されている。
【0045】
このような3段階のイオン注入を行うことで、付加領域7はボックス型の不純物プロファイルに近くなる。なお、注入回数を増やすことで、よりボックス型の不純物プロファイルに近くなる。また、イオン注入ではなくエピタキシャル成長により付加領域7を形成する場合は、さらにボックス型の不純物プロファイルに近くなる。」
「
[図:0001434954000008.jpg]
」
(8)小括
したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4.補正却下の決定についてのまとめ
上記3.の検討のとおり、本件補正発明は独立特許要件を充足しない。したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しないものであるから、特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1.本願発明
令和7年2月14日にした手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~9に係る発明は、令和6年8月21日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるものであり、その内の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2、1.(1)に本件補正前の請求項1として摘記したとおりのものである。
2.原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された事項に基づいて、また、この出願の請求項2~9に係る発明は、同じく下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:国際公開第2014/207793号
引用文献2:特開2018-098447号公報
引用文献3:特開2008-210848号公報
引用文献4:特開2018-110166号公報
3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び引用文献3の記載は、上記第2、3.(2)及び(3)で摘記したとおりである。
4.対比・判断
上記第2、2.(1)で検討したとおり、本件補正発明は、本件補正前の請求項1について補正事項1の点を限定したものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをさらに限定したものである本件補正発明が、上記第2、3.で示した理由のとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5.本願発明についてのまとめ
したがって、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
第4 結び
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-002337