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意匠無効審判

2024-880005

椅子

審判番号
2024-880005
法域
意匠
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
意願2022-026089
登録番号
1756191
請求日
2024年06月30日
審決日
2025年03月27日
公報発行日
2025年06月27日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】モリマーキンキ 株式会社
  • 【請求人代理人】前田 健壱
  • 【被請求人】愛知 株式会社
  • 【被請求人代理人】名古屋国際弁理士法人
審判長/審判官
  • 審判長 前畑 さおり
  • 審判官 玉虫 伸聡
  • 審判官 内藤 弘樹
分類
D1113.113-Y (D7-2) / D1113.121-Y (D7-2)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
意匠法52条特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
意匠法第3条第2項、意匠法第3条第1項第3号、意匠法第48条第1項第1号、意匠法第24条、意匠法第2条、意匠法第3条、意匠法第52条、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の意匠登録第1756191号「椅子」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件意匠登録第1756191号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は、令和4年(2022年)12月5日に意匠登録出願(意願2022-26089)されたものであって、令和5年(2023年)9月22日付けで登録査定がなされ、同年10月17日に意匠権の設定の登録がされた後、同年10月25日に意匠公報が発行さ、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。 令和6年(2024年) 6月30日 審判請求書の提出 令和7年(2025年) 2月 7日 審判事件答弁書の提出 同年 2月18日付け 審理事項通知書の送付 同年 2月26日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人) 同年 2月26日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人) 同年 3月 7日 口頭審理陳述要領書(2)の提出(被請求人) 同年 3月 9日 口頭審理陳述要領書(2)の提出(請求人) 同年 3月12日 口頭審理 第2 請求の趣旨及び理由 請求人は、令和6年6月30日に審判請求書を提出し、「意匠登録第1756191号の意匠登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と請求し、その理由として、要旨以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、甲第1号証から甲第11号証を提出した。(以下、下線は請求人による。) 1 請求の理由 「(1)手続の経緯 出願 令和 4年12月 5日 登録 令和 5年10月17日 (2)意匠登録無効の理由の要点 (無効理由1) 意匠登録第1756191号に係る意匠(以下、「本件登録意匠」という)(甲第1号証)は、本件意匠登録出願前に公然知られ(甲第4号証の1~甲第4号証の11)、本件意匠登録出願前に頒布された刊行物(甲第3号証の1~甲第3号証の5)に記載された意匠に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。 (無効理由2) 本件登録意匠は、本件意匠登録出願前に公然知られ(甲第4号証の1~甲第4号証の11)、本件意匠登録出願前に頒布された刊行物(甲第3号証の1~甲第3号証の5、甲第5号証~甲第11号証)に記載された形状等に基づいて当業者が容易に創作できたものであるから、同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。 (3)本件意匠登録を無効とすべき理由 (無効理由1) ア 意匠法第3条第1項第3号について (ア)「本件登録意匠」の説明 本件登録意匠は、意匠登録公報(甲第1号証)掲載のとおり、「赤色に着色された箇所を除く部分」を部分意匠として意匠登録を受けた部分(以下、「当該部分」という)としたものである。 A 本件登録意匠の意匠に係る物品 本件登録意匠の「意匠に係る物品」は、意匠登録公報(甲第1号証)掲載のとおり、「椅子」である。 B 本件登録意匠の意匠の形態 本件登録意匠の当該部分の形態は、以下のとおりである。 (A)本件登録意匠の基本的構成態様 (a)左右の側面視における座面と背もたれは、一体形成されている。 (b)平面視における座面の輪郭は、後辺が滑らかな凸円弧状で、左右長さが略同一の横長の略四角形状で形成されている。 (c)正面視における背もたれの輪郭は、上辺が滑らかな凹円弧状で、左右が上方にいくに従ってわずかに減少する略台形形状である。 (d)平面視における背もたれは、前面が左側右側輪郭辺から中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている。 (e)前方斜視における座面と背もたれの当接前面は、左側右側輪郭辺から中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている。 (f)左右の側面視における座面は、略水平方向に形成され、後方から前方にいくに従って厚さ(高さ)がわずかに薄く(小さく)なっている。 (g)右側面視およびA-A断面視における背もたれの上下断面は、上部が後方にわずかに傾斜した略S字形状で形成されている。 (B)本件登録意匠の具体的構成態様 (h)背面視および底面視における背もたれ背面から座面底面は、背もたれ背面上部から座面底面前方まで左側右側輪郭辺から所定の間隔および座面底面前方と背もたれ背面上方から所定の間隔を空けた内側表面に背面凹部形状が連続して形成され、座面底面の背面凹部形状内は略面一形状で形成されている。 (i)正面視、平面視および前方斜視における座面は、前方中央部から後方に向けて山型に上部に突出した形状の太腿内側支持部が形成され、その太腿内側支持部から左側右側輪郭辺までは円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている。 (j)右側面視における背もたれ背面は、略S字形状の上部後方が略くさび型状で突出させて形成されている。 (イ)甲第3号証および甲第4号証(「公知意匠1」掲載)について 甲第3号証(甲第3号証の1~甲第3号証の5)および甲第4号証(甲第4号証の1~甲第4号証の11)は、すべて請求人の品番「KB-6210N」の「椅子」の意匠(以下、「公知意匠1」という)に関するもので、下記において、甲第3号証(甲第3号証の1~甲第3号証の5)および甲第4号証(甲第4号証の1~甲第4号証の11)の内容について述べる。ここで、「公知意匠1」の詳細については、甲第2号証に掲載している。 A 甲第3号証について 甲第3号証は、 (A)甲第3号証の1は、本件登録意匠の出願日前の「平成25年(2013年)12月」に発刊された請求人の「ベンチコレクション Vol.15」で、品番「KB-6210N」の公知意匠1の「椅子」が68頁、70頁、84頁、90頁にそれぞれ掲載されている。 (B)甲第3号証の2は、本件登録意匠の出願日前の「平成27年(2015年)12月」に発刊された請求人の「ベンチコレクション Vol.16(発刊部数6130部)」で、品番「KB-6210N」の公知意匠1の「椅子」が66頁、68頁、84頁、90頁にそれぞれ掲載されている。甲第3号証の2の1は、甲第3号証の2が「平成27年(2015年)12月15日」に萩原株式会社から納品されたことを示す納品書(控)である。 (C)甲第3号証の3は、本件登録意匠の出願日前の「平成29年(2017年)12月」に発刊された請求人の「ベンチコレクション Vol.17(発刊部数6030部)」で、品番「KB-6210N」の公知意匠1の「椅子」が66頁、84頁、90頁にそれぞれ掲載されている。甲第3号証の3の1は、甲第3号証の3が「平成29年(2017年)12月18日」に萩原株式会社から納品されたことを示す納品書(控)である。 (D)甲第3号証の4は、本件登録意匠の出願日前の「令和元年(2019年)12月」に発刊された請求人の「ベンチコレクション Vol.18(発刊部数7105部)」で、品番「KB-6210N」の公知意匠1の「椅子」が64頁、65頁、84頁、90頁にそれぞれ掲載されている。甲第3号証の4の1は、甲第3号証の4が「令和元年(2019年)12月20日」に萩原株式会社から納品されたことを示す納品書(控)である。 (E)甲第3号証の5は、本件登録意匠の出願日前の「令和3年(2021年)12月」に発刊された請求人の「ベンチコレクション Vol.19(発刊部数7930部)」で、品番「KB-6210N」の公知意匠1の「椅子」が62頁、63頁、84頁、90頁に掲載されている。甲第3号証の5の1は、甲第3号証の5が「令和3年(2021年)12月24日」に萩原株式会社から納品されたことを示す納品書(控)である。 B 甲第4号証について 甲第4号証は、品番「KB-6210N」の「椅子」が本件登録意匠の出願日前の平成28年(2016年)~令和4年(2022年)に納品された実績表である。 (A)甲第4号証の1は、品番「KB-6210N」の「椅子」が本件登録意匠の出願日前の「平成28年(2016年)」に「岩泉球場」に納品されたことを示す愛知株式会社宛(「平成28年(2016年)6月15日」発行)の納品書(控)であり、この納品書(控)の品番には「ABM-K62N-FF」とあるが、この愛知株式会社の品番「ABM-K62N-FF」は、甲第4号証の1の1に掲載されているように、請求人の品番「KB-6210N」と同一商品である。 (B)甲第4号証の2は、品番「KB-6210N」の「椅子」が本件登録意匠の出願日前の「平成29年(2017年)」に「鹿屋市平和公園野球場」に納品されたことを示すコウフ・フィールド株式会社宛(「平成29年(2017年)12月6日」発行)の納品書(控)である。 (C)甲第4号証の3は、品番「KB-6210N」の「椅子」が本件登録意匠の出願日前の「平成30年(2018年)」に「太田市運動公園野球場」に納品されたことを示す株式会社共ショウ宛(「平成30年(2018年)3月17日」発行)の納品書(控)である。 (D)甲第4号証の4は、品番「KB-6210N」の「椅子」が本件登録意匠の出願日前の「平成30年(2018年)」に「福岡市中央体育館」に納品されたことを示す株式会社九州アイム宛(「平成30年(2018年)1月12日」発行)の納品書(控)である。 (E)甲第4号証の5は、品番「KB-6210N」の「椅子」が本件登録意匠の出願日前の「令和元年(2019年)」に「関西アイスアリーナ」に納品されたことを示す株式会社浅沼組宛(「令和元年(2019年)11月5日」発行)の納品書(控)である。 (「関西アイスアリーナ」に設置された品番「KB-6210N」の「椅子」) ※公知意匠1の「側面」「背もたれ背面」が掲載 (当審注:図省略) (F)甲第4号証の6は、品番「KB-6210N」の「椅子」が本件登録 意匠の出願日前の「令和元年(2019年)」に「神奈川県立スポーツセンター(旧神奈川県立体育センター)」に納品されたことを示す愛知株式会社宛(「令和元年(2019年)12月17日」発行)の納品書(控)であり、この納品書(控)の品番には「ABM-K62N-FF」とあるが、この愛知株式会社の品番「ABM-K62N-FF」は、甲第4号証の1の1に掲載されているように、請求人の品番「KB-6210N」と同一商品である。 (G)甲第4号証の7は、品番「KB-6210N」の「椅子」が本件登録意匠の出願日前の「令和2年(2020年)」に「伊豆ベロドローム」に納品されたことを示すNS建材販売株式会社宛(「令和2年(2020年)2月10日」発行)の納品書(控)である。 (「伊豆ベロドローム」に設置された品番「KB-6210N」の「椅子」) ※公知意匠1の「底面」が掲載 (当審注:図省略) (H)甲第4号証の8は、品番「KB-6210N」の「椅子」が本件登録意匠の出願日前の「令和3年(2021年)」に「西京極総合運動公園野球場」に納品されたことを示す甲賀高分子株式会社宛(「令和3年(2021年)2月5日発行」)の納品書(控)である。 (「西京極総合運動公園野球場」に設置された品番「KB-6210N」の「椅子」) ※公知意匠1の「側面」が掲載 (当審注:図省略) (I)甲第4号証の9は、品番「KB-6210N」の「椅子」が本件登録意匠の出願日前の「令和3年(2021年)」に「伊良部屋外運動場」に納品されたことを示す麻生商事株式会社宛(「令和3年(2021年)4月23日発行」)の納品書(控)である。 (「伊良部屋外運動場」に設置された品番「KB-6210N」の「椅子」) ※公知意匠1の「底面」「側面」「背もたれ正面」が掲載 (当審注:図省略) (J)甲第4号証の10は、品番「KB-6210N」の「椅子」が本件登録意匠の出願日前の「令和4年(2022年)」に「金亀公園陸上競技場」に納品されたことを示す弘安建設株式会社宛(「令和4年(2022年)9月22日」発行)の納品書(控)である。 (「金亀公園陸上競技場」に設置された品番「KB-6210N」の「椅子」) ※公知意匠1の「底面側面」「背もたれ側面」が掲載 (当審注:図省略) (K)甲第4号証の11は、品番「KB-6210N」の「椅子」が本件登録意匠の出願日前の「令和4年(2022年)」に「布勢総合運動公園野球場」に納品されたことを示す甲賀高分子株式会社宛(「令和4年(2022年)3月4日」発行)の納品書(控)である。 (「布勢総合運動公園野球場」に設置された品番「KB-6210N」の「椅子」) ※公知意匠1の「底側裏側」「背もたれ背面」が掲載 (当審注:図省略) (ウ)「公知意匠1」の説明 公知意匠1は、甲第3号証~甲第4号証に掲載されているように、本件登録意匠の出願日前に日本国内において公然知られた意匠および本件登録意匠の出願日前に日本国内において頒布された刊行物に記載された意匠であり、本件登録意匠の「当該部分」に対応させて、以下に述べる。ここで、「公知意匠1」の詳細については、甲第2号証に掲載している。 A 公知意匠1の意匠に係る物品 公知意匠1の意匠に係る物品は、「椅子」である。 B 公知意匠1の意匠の形態 公知意匠1の姿勢および向きを、本件登録意匠に合わせた同一の姿勢および向きとして、下記に述べる。 (A)公知意匠1の基本的構成態様 (a)座面と背もたれは、一体形成されている。 (b)座面の輪郭は、後辺が滑らかな凸円弧状で、左右長さが略同一の横長の略四角形状で形成されている。 (c)背もたれの輪郭は、上辺が滑らかな凸円弧状で、左側右側輪郭辺が略平行の横長の略四角形状で形成されている。 (d)背もたれは、前面が左側右側輪郭辺から中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている。 (e)座面と背もたれの当接前面は、左側右側輪郭辺から中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている。 (f)座面は、略水平方向に形成され、後方から前方までの厚さ(高さ)が略同一である。 (g)背もたれの上下断面は、上部が後方に少し大きく傾斜した略S字形状で形成されている。 (B)公知意匠1の具体的構成態様 (h)背もたれ背面から座面底面は、背もたれ背面上部から座面底面前方まで左側右側輪郭辺からわずかに長い所定の間隔および座面底面前方と背もたれ背面上方からわずかに長い所定の間隔を空けた内側表面に背面凹部形状が連続して形成され、座面底面の背面凹部形状内は凹凸形状で形成されている(下記の「関空アイスアリーナのホームページ」参照)。 (i)座面は、前方中央部から後方に向けて山型に上部に突出した形状の太腿内側支持部が形成され、その太腿内側支持部から左側右側輪郭辺までは円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている。 (j)背もたれ背面は、略S字形状の上部後方が略凹凸無し形状で形成されている。 (関空アイスアリーナのホームページ) ※公知意匠1の「椅子」は、令和元年(2019年)に「関西アイスアリーナ」に納品されている(「甲第4号証」および「甲第4号証の5」参照)。公知意匠1の「背もたれ背面」が掲載 (当審注:図省略) (エ)本件登録意匠と公知意匠1の対比 A 「意匠に係る物品」について 両意匠の「意匠に係る物品」は、いずれも「椅子」であり、「意匠に係る物品」は同一である。 B 「形態」の共通点及び差異点について (A)本件登録意匠と公知意匠1の形態の共通点 以下に示す本件登録意匠の構成態様と公知意匠1の構成態様との差異点以外は、すべて本件登録意匠の構成態様と公知意匠1の構成態様は共通している。具体的には、両意匠の共通点は、「本件登録意匠の基本的構成態様」と「公知意匠1の基本的構成態様」の(a)(b)(d)(e)および「本件登録意匠の具体的構成態様」と「公知意匠1の具体的構成態様」の(i)に示した構成態様である。そして、本件登録意匠の構成態様と公知意匠1の構成態様の共通点(i)は、座面の中央部という非常に看者の目につきやすく目立つ位置にあり、今までにない極めて特異な形状で、両意匠において看者の印象を支配する美感上の重要な部分であることから、類否判断に及ぼす影響が大きいといえる。 (B)本件登録意匠と公知意匠1の形態の差異点 (a)本件登録意匠の基本的構成態様(c)と公知意匠1の基本的構成態様(c)について 本件登録意匠の「背もたれの輪郭」は、上辺が滑らかな凹円弧状で、左右が上方にいくに従ってわずかに減少する略台形形状であるが、公知意匠1の「背もたれの輪郭」は、上辺が滑らかな凸円弧状で、左側右側輪郭辺が略平行の横長の略四角形状である点。 (b)本件登録意匠の構成態様(f)と公知意匠1の構成態様(f)について 本件登録意匠の「座面」は、座面側面の厚さ(高さ)が後方から前方にいくに従って厚さ(高さ)がわずかに薄く(小さく)なっているが、公知意匠1の「座面」は、座面側面の厚さ(高さ)が後方から前方までの厚さ(高さ)が略同一である点。 (c)本件登録意匠の構成態様(g)と公知意匠1の構成態様(g)について 本件登録意匠の「背もたれ」は、上部が後方にわずかに傾斜した略S字形状で形成されているが、公知意匠1の「背もたれ」は、上部が後方に少し大きく傾斜した略S字形状で形成されている点。 (d)本件登録意匠の構成態様(h)と公知意匠1の構成態様(h)について 本件登録意匠の「背もたれ背面から座面底面」は、背もたれ背面上部から座面底面前方まで左側右側輪郭辺から所定の間隔および座面底面前方と背もたれ背面上方から所定の間隔を空けた内側表面に背面凹部形状が連続して形成され、座面底面の背面凹部形状内は略面一形状で形成されているが、公知意匠1の「背もたれ背面から座面底面」は、背もたれ背面上部から座面底面前方まで左側右側輪郭辺からわずかに長い所定の間隔および座面底面前方と背もたれ背面上方からわずかに長い所定の間隔を空けた内側表面に「背面凹部形状」が連続して形成され、座面底面の背面凹部形状内は凹凸形状で形成されている点。 (e)本件登録意匠の構成態様(j)と公知意匠1の構成態様(j)について 本件登録意匠の「背もたれ背面が略S字形状の上部後方」は、略くさび型状で突出させて形成されているが、公知意匠1の「背もたれ背面が略S字形状の上部後方」は、略凹凸無し形状で形成されている点。 (オ)本件登録意匠と公知意匠1との類否判断 A 本件登録意匠と公知意匠1の「意匠に係る物品」は共通し、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1の用途および機能、並びに位置、大きさおよび範囲も共通していることは明らかである。 B 本件登録意匠の当該部分と公知意匠1の形態について 「公知意匠1」は、上記(ウ)の通り、本件登録意匠の出願前の「甲第3号証」または「甲第4号証」により公知になっている。 (A)本件登録意匠と公知意匠1の形態の共通点について 「公知意匠1」は、本件登録意匠の出願前により公知になっていることから、上記(エ)の通り、本件登録意匠の基本的構成態様(a)(b)(d)(e)、すなわち、座面と背もたれは一体形成され、座面の輪郭は後辺が滑らかな凸円弧状で左右長さが略同一の横長の略四角形状で形成され、背もたれは前面が左側右側輪郭辺から中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成され、座面と背もたれの当接前面は左側右側輪郭辺から中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成された構成態様、および本件登録意匠の具体的構成態様(i)、すなわち、座面は、前方中央部から後方に向けて山型に上部に突出した形状の太腿内側支持部が形成され、その太腿内側支持部から左側右側輪郭辺までは円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている構成態様も公知になっているということができる。特に、本件登録意匠の構成態様と公知意匠1の構成態様の共通点(i)は、座面の中央部という非常に看者の目につきやすく目立つ位置にあり、今までにない極めて特異な形状で、両意匠において両意匠において看者の印象を支配する美感上の重要な部分であり、類否判断に及ぼす影響が大きいということができる。 (B)本件登録意匠と公知意匠1の形態の差異点について 次に、本件登録意匠と公知意匠1の形態のそれぞれの差異点についての両意匠の類似判断に及ぼす影響の大きさについて、下記に説明する。 (a)本件登録意匠の基本的構成態様(c)と公知意匠1の基本的構成態様(c)について 本件登録意匠の「背もたれの輪郭」は、上辺が滑らかな凹円弧状で、左右が上方にいくに従ってわずかに減少する略台形形状であるが、公知意匠1の「背もたれの輪郭」は、上辺が滑らかな凸円弧状で、左側右側輪郭辺が略平行の横長の略四角形状である点については、本件登録意匠の出願日前の令和3年10月11日に発行された意匠登録第1696968号公報(甲第5号証)に記載された意匠(以下、「公知意匠2」という。)、本件登録意匠の出願日前の令和3年6月14日に発行された意匠登録第1687590号公報(甲第6号証)に記載された意匠(以下、「公知意匠3」という。)、本件登録意匠の出願日前の令和3年10月11日に発行された意匠登録第1696702号公報(甲第7号証)に記載された意匠(以下、「公知意匠4」という。)、本件登録意匠の出願日前の令和3年10月11日に発行された意匠登録第1696703号公報(甲第8号証)に記載された意匠(以下、「公知意匠5」という。)のそれぞれの「背もたれの輪郭」は、上辺が滑らかな凹円弧状で、左右が上方にいくに従ってわずかに減少する略台形形状であることから、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であり、新たな美感を生じさせるものではないということができる。 このことから、本件登録意匠の基本的構成態様(c)と公知意匠1の基本的構成態様(c)の差異点は、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であるので、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということができる。 (b)本件登録意匠の構成態様(f)と公知意匠1の構成態様(f)について 本件登録意匠の「座面」は、座面側面の厚さ(高さ)が後方から前方にいくに従って厚さ(高さ)がわずかに薄く(小さく)なっているが、公知意匠1の「座面」は、座面側面の厚さ(高さ)が後方から前方までの厚さ(高さ)が略同一である点については、「椅子」の座面側面の厚さ(高さ)は椅子の下部側面であることから、その部分は本件登録意匠の「椅子」を見る者の注意をひきやすい部分ということができず、また、上記した公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)および公知意匠5(甲第8号証)も、本件登録意匠のように、座面側面の厚さ(高さ)が後方から前方にいくに従って厚さ(高さ)がわずかに薄く(小さく)なっている。 ここで、本件登録意匠の座面側面の厚さ(高さ)は、上記した公知意匠2~公知意匠5の座面側面の厚さ(高さ)よりもわずかに厚い(高い)が、この「椅子」の座面側面の厚さをわずかに厚く(高く)することは、「椅子」の座面側面の厚さがわずかに厚い(高い)公知意匠1のように極く普通にみられる態様であることから、単なる選択ないしは設計の問題にすぎず、看者も気付かない程度の微細な違いであって、新たな美感を生じさせるものではないということができる。 このことから、本件登録意匠の構成態様(f)と公知意匠1の構成態様(f)の差異点は、本件登録意匠の出願日前に既に知られ存在していた公知意匠2~公知意匠5と近似する態様であり、また本件登録意匠の構成態様(f)と公知意匠1の構成態様(f)の差異点である「座面側面の厚さ(高さ)」については、外部から観察した場合に座面側面の厚さ(高さ)がどうかは格別目立つ態様とはいえず、看者も気付かない程度の微細な違いであるから、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということができる。 (c)本件登録意匠の構成態様(g)と公知意匠1の構成態様(g)について 本件登録意匠の「背もたれ」は、上部が後方にわずかに傾斜した略S字形状で形成されているが、公知意匠1の「背もたれ」は、上部が後方に少し大きく傾斜した略S字形状で形成されている点については、椅子の「背もたれ」上部の傾斜した略S字形状は椅子の側面であることから、その部分は本件登録意匠の「椅子」を見る者の注意をひきやすい部分ということができず、また、上記した公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)および公知意匠5(甲第8号証)は、本件登録意匠のように、背もたれの側面は、上部が後方にわずかに傾斜した略S字形状で形成されている。 ここで、本件登録意匠の「背もたれ」の厚さは、上記した公知意匠2~公知意匠5の「背もたれ」の厚さよりもわずかに厚いが、椅子の「背もたれ」の厚さをわずかに厚くすることは、椅子の「背もたれ」の厚さがわずかに厚い公知意匠1のように極く普通にみられる態様であることから、単なる選択ないしは設計の問題にすぎず、看者も気付かない程度の微細な違いであって、新たな美感を生じさせるものではないということができる。 このことから、本件登録意匠の構成態様(g)と公知意匠1の構成態様(g)の差異点は、本件登録意匠の出願日前に既に知られ存在していた公知意匠2~公知意匠5と近似する態様であり、また本件登録意匠の構成態様(g)と公知意匠1の構成態様(g)の差異点である「背もたれの厚さ」については、外部から観察した場合に背もたれの厚さがどうかは格別目立つ態様とはいえず、看者も気付かない程度の微細な違いであるから、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということができる。 (d)本件登録意匠の構成態様(h)と公知意匠1の構成態様(h)について 本件登録意匠の「背もたれ背面から座面底面」は、背もたれ背面上部から座面底面前方まで左側右側輪郭辺から所定の間隔および座面底面前方と背もたれ背面上方から所定の間隔を空けた内側表面に「背面凹部形状」が連続して形成され(「前半部分」)、座面底面の背面凹部形状内は略面一形状で形成されている(「後半部分」)が、公知意匠1の「背もたれ背面から座面底面」は、背もたれ背面上部から座面底面前方まで左側右側輪郭辺からわずかに長い所定の間隔および座面底面前方と背もたれ背面上方からわずかに長い所定の間隔を空けた内側表面に「背面凹部形状」が連続して形成され(「前半部分」)、座面底面の背面凹部形状内は凹凸形状で形成されている(「後半部分」)点については、「椅子の背もたれ背面」は「椅子」の背面であることから、その部分は本件登録意匠の「椅子」を見る者の注意をひきやすい部分ということができず、「椅子の座面底面」は、普通の使用状態において見えないことから、その部分は特に本件登録意匠の「椅子」を見る者の注意をひきやすい部分ということができず、また、「前半部分」の本件登録意匠の「背もたれ背面から座面底面」は、背もたれ背面上部から座面底面前方まで左側右側輪郭辺から所定の間隔および座面底面前方と背もたれ背面上方から所定の間隔を空けた内側表面に「背面凹部形状」が連続して形成されているが、公知意匠1の「背もたれ背面から座面底面」は、背もたれ背面上部から座面底面前方まで左側右側輪郭辺からわずかに長い所定の間隔および座面底面前方と背もたれ背面上方からわずかに長い所定の間隔を空けた内側表面に「背面凹部形状」が連続して形成されている点については、本件登録意匠より上記「所定の間隔」がわずかに長い公知意匠1の他、本件登録意匠より上記「所定の間隔」がわずかに短い公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)および公知意匠5(甲第8号証)や、また、本件登録意匠の出願日前の意匠登録第1633144号公報(甲第9号証)に記載された公知意匠6は、上記「所定の間隔」が本件登録意匠の上記「所定の間隔」と略同一であり、さらに、本件登録意匠の出願日前の意匠登録第1726243号公報(甲第10号証)に記載された公知意匠7、本件登録意匠の出願日前の意匠登録第1726244号公報(甲第11号証)に記載された公知意匠8についても、背もたれ背面の上記「所定の間隔」が本件登録意匠の上記「所定の間隔」と略同一であり、本件登録意匠の「背面凹部形状」の周辺の上記「所定の間隔」については、本件登録意匠の「背面凹部形状」より長い態様、略同一の態様、わずかに短い態様など、本件登録意匠の出願日前からいろいろな態様のものが普通にみられることから、単なる設計の問題にすぎず、新たな美感を生じさせるものではないということができる。 さらに、「後半部分」の本件登録意匠の「背もたれ背面から座面底面」は、座面底面の背面凹部形状内は略面一形状で形成されているが、公知意匠1の「背もたれ背面から座面底面」は、座面底面の背面凹部形状内は凹凸形状で形成されている点については、上記したように、「椅子の座面底面」は、普通の使用状態において見えないことから、その部分は特に本件登録意匠の「椅子」を見る者の注意をひきやすい部分ということができず、新たな美感を生じさせるものではないということができる。 このことから、本件登録意匠の構成態様(h)と公知意匠1の構成態様(h)の差異点は、本件登録意匠の出願日前に既に知られ存在していた公知意匠2~公知意匠8と近似する態様で、単なる設計の問題にすぎないものであるから、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということができる。 (e)本件登録意匠の構成態様(j)と公知意匠1の構成態様(j)について 本件登録意匠の「背もたれ背面が略S字形状の上部後方」は、略くさび型状で突出させて形成されているが、公知意匠1の「背もたれ背面が略S字形状の上部後方」は、略凹凸無し形状で形成されている点については、上記した公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠4(甲第7号証)、公知意匠5(甲第8号証)とほぼ一致していることから、本件登録意匠の出願日前から普通にみられる態様であり、新たな美感を生じさせるものではないということができる。 このことから、本件登録意匠の基本的構成態様(j)と公知意匠1の基本的構成態様(j)の差異点は、本件登録意匠の出願日前から普通にみられる態様であるので、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということができる。 C 小括 以上説明したように、本件登録意匠と公知意匠1とは、意匠に係る物品が共通し、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1とは、両部分のそれぞれの用途および機能並びに位置、大きさおよび範囲が共通するとともに、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1とは、類否判断に及ぼす影響が大きい本件登録意匠の構成態様(i)と公知意匠1の構成態様(i)が共通し、また本件登録意匠と公知意匠1の各構成態様の他の差異点については、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱で、意匠全体として需要者に異なる美感を起こさせる程のものではないことから両意匠は類似する意匠に該当する。 このことから、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたもので、無効理由を有するものである。 (無効理由2) イ 意匠法第3条第2項について 本件登録意匠は、本件意匠登録出願前に公然知られた公知意匠1~公知意匠8(甲第3号証~甲第11号証)に基づいて当業者が容易に創作できたものであるから、同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないことについて、以下において述べる。 (ア)「本件登録意匠」の説明 本件登録意匠の説明については、上記(無効理由1)「ア(ア)」で説明しているので、説明は省略する。 (イ)甲第5号証(「公知意匠2」掲載)について 甲第5号証は、本件意匠登録出願前の令和3年(2021年)10月11日に発行された意匠公報(意匠登録第1696968号公報)で、その意匠公報に「公知意匠2」が掲載されている。 (ウ)「公知意匠2」の説明 公知意匠2は、意匠登録公報(甲第5号証)掲載のとおりで、本件登録意匠の「当該部分」に対応させて、以下に述べる。 A 公知意匠2の意匠に係る物品 公知意匠2の「意匠に係る物品」は、意匠登録公報(甲第5号証)掲載のとおり、「椅子」である。 B 公知意匠2の意匠の形態 公知意匠2の当該部分の形態は、以下のとおりである。 (A)公知意匠2の基本的構成態様 (a)左右の側面視における座面と背もたれは、一体形成されている。 (b)平面視における座面の輪郭は、後辺が滑らかな凸円弧状で、左右長さが略同一の横長の略四角形状で形成されている。 (c)正面視における背もたれの輪郭は、上辺が滑らかな凹円弧状で、左右が上方にいくに従ってわずかに減少する略台形形状である。 (d)平面視における背もたれは、前面が左側右側輪郭辺から中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている。 (e)前方斜視における座面と背もたれの当接前面は、左側右側輪郭辺から中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている。 (f)左右の側面視における座面は、略水平方向に形成され、後方から前方にいくに従って厚さ(高さ)が薄く(小さく)なっている。 (g)右側面視およびA-A断面視における背もたれの上下断面は、上部が後方にわずかに傾斜した略S字形状で形成されている。 (B)公知意匠2の具体的構成態様 (h)背面視および底面視における背もたれ背面から座面底面は、背もたれ背面上部から座面底面前方まで左側右側輪郭辺からわずかに短い所定の間隔および座面底面前方と背もたれ背面上方からわずかに短い所定の間隔を空けた内側表面に背面凹部形状が連続して形成され、座面底面の背面凹部形状内は略面一形状で形成されている。 (i)正面視、平面視および前方斜視における座面は、左側右側輪郭辺から中央にいくに従って円弧状に滑らかに傾斜する凹凸のない凸湾曲面で形成されている。 (j)右側面視における背もたれ背面は、略S字形状の上部後方が略くさび型状で突出させて形成されている。 (エ)本件登録意匠と公知意匠2の対比 A 「意匠に係る物品」について 両意匠の「意匠に係る物品」は、いずれも「椅子」であり、「意匠に係る物品」は同一である。 B 「形態」の共通点及び差異点について (A)本件登録意匠と公知意匠2の形態の共通点 以下に示す本件登録意匠の構成態様と公知意匠2の構成態様との差異点以外は、すべて本件登録意匠の構成態様と公知意匠2の構成態様は共通している。 具体的には、両意匠の共通点は、「本件登録意匠の基本的構成態様」と「公知意匠2の基本的構成態様」の(a)(b)(c)(d)(e)および「本件登録意匠の具体的構成態様」と「公知意匠2の具体的構成態様」の(i)に示した構成態様である。 (B)本件登録意匠と公知意匠2の形態の差異点 (a)本件登録意匠の構成態様(f)と公知意匠2の構成態様(f)について 本件登録意匠と公知意匠2の「座面」は、ともに略水平方向に形成されているが、公知意匠2の座面側面の厚さ(高さ)は、本件登録意匠の座面側面の厚さ(高さ)より薄く(小さく)なっている点。 (b)本件登録意匠の構成態様(g)と公知意匠2の構成態様(g)について 本件登録意匠と公知意匠2の「背もたれ」は、ともに上部が後方に傾斜した略S字形状であるが、公知意匠2の背もたれ側面の厚さは、本件登録意匠の背もたれ側面の厚さ(高さ)より薄く(小さく)なっている点。 (c)本件登録意匠の構成態様(h)と公知意匠2の構成態様(h)について 本件登録意匠の背もたれ背面から座面底面は、背もたれ背面上部から座面底面前方まで左側右側輪郭辺から所定の間隔および座面底面前方と背もたれ背面上方から所定の間隔を空けた内側表面に背面凹部形状が連続して形成され、座面底面の背面凹部形状内は略面一形状で形成されているが、公知意匠2の背もたれ背面から座面底面は、背もたれ背面上部から座面底面前方まで左側右側輪郭辺からわずかに短い所定の間隔および座面底面前方と背もたれ背面上方からわずかに短い所定の間隔を空けた内側表面に背面凹部形状が連続して形成され、座面底面の背面凹部形状内は略面一形状で形成されている点 (d)本件登録意匠の構成態様(i)と公知意匠2の構成態様(i)について 本件登録意匠の座面は、前方中央部から後方に向けて山型に上部に突出した形状の「太腿内側支持部」が形成され、その「太腿内側支持部」から左側右側輪郭辺までは円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されているのに対し、引用意匠2の座面は、左側右側輪郭辺から中央にいくに従って円弧状に滑らかに傾斜する凹凸のない凸湾曲面で形成されている点 (e)本件登録意匠の構成態様(j)と公知意匠2の構成態様(j)について 公知意匠2の「背もたれ背面が略S字形状の上部後方」の略くさび型状突出部は、本件登録意匠の「背もたれ背面が略S字形状の上部後方」の略くさび型状突出部より、わずかに大きく形成されている点。 (オ)創作容易性について A 本件登録意匠の構成態様 (A)本件登録意匠の構成態様(a)(b)(c)(d)(e)について 本件登録意匠の構成態様(a)(b)(c)(d)(e)は、上記の公知意匠2の構成態様(a)(b)(c)(d)(e)と略同一形状で既に存在する態様である。 (B)登録意匠の構成態様(i)について 本件登録意匠の構成態様(i)は、座面の中央部という非常に看者の目につきやすく目立つ位置にあり、今までにない極めて特異な形状で、両意匠において看者の印象を支配する美感上の重要な部分であるが、本件登録意匠の出願日前の公知意匠1の構成態様(i)と略同一形状で既に存在する態様である。 (C)本件登録意匠の構成態様(f)~(h)について 本件登録意匠の構成態様(f)は、上記(無効理由1)の「ア(オ)B(B)(b)」で述べたように、本件登録意匠の出願日前の公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)および公知意匠5(甲第8号証)と略同一形状で、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であり、 本件登録意匠の構成態様(g)は、上記(無効理由1)の「ア(オ)B(B)(c)」で述べたように、本件登録意匠の出願日前の公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)および公知意匠5(甲第8号証)と略同一形状で、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であり、 本件登録意匠の構成態様(h)は、上記(無効理由1)の「ア(オ)B(B)(d)」で述べたように、本件登録意匠の出願日前の公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)および公知意匠5(甲第8号証)を軽微な変更を加えた態様であるとともに、公知意匠6(甲第9号証)と略同一形状で、本件登録意匠の出願日前から普通にみられる態様であり、 本件登録意匠の構成態様(j)は、上記(無効理由1)の「ア(オ)B(B)(e)」で述べたように、本件登録意匠の出願日前の公知意匠1(甲第3号証、甲第4号証)と略同一形状で、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様である。 B 創作容易性 上述したように、本件登録意匠は、本件登録意匠の構成態様(a)(b)(c)(d)(e)は、本件登録意匠の出願日前の公知意匠2の構成態様(a)(b)(c)(d)(e)と略同一形状で既に存在する態様であり、本件登録意匠の構成態様(f)(g)(h)(j)は、上記「A」で述べたように、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であり、新たな美感を生じさせるものではなく、本件登録意匠の出願日前の公知意匠2~公知意匠8から本件登録意匠独自の格別な特徴ということができず、さらに、本件登録意匠の構成態様(i)は、座面の中央部という非常に看者の目につきやすく目立つ位置にあり、今までにない極めて特異な形状で、両意匠において看者の印象を支配する美感上の重要な部分であるが、本件登録意匠の本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られ(甲第4号証)、および本件意匠登録出願前に頒布された刊行物(甲第3号証)に記載された公知意匠1と略同一形状で既に存在する態様であるので、本件登録意匠は、公知意匠2の構成態様(i)「左側右側輪郭辺から中央にいくに従って円弧状に滑らかに傾斜する凹凸のない凸湾曲面で形成されている座面」を、公知意匠1(甲第3号証および甲第4号証)の構成態様(i)「座面は左側右側輪郭辺から中央にいくに従って円弧状に滑らかに傾斜する凹凸のない凸湾曲面で形成されている」に単に置き換えることにより、当業者ならば容易に創作することができるということができる。 C 小括 本件登録意匠は、出願前の日本国内おいて公然知られた公知意匠1~公知意匠8(甲第3号証~甲第11号証)に基づいて当業者が容易に意匠の創作をすることができたものであるから、意匠法第3条第2項の規定に該当するにもかかわらず意匠登録を受けたもので、無効理由を有するものである。 ウ むすび したがって、本件登録意匠は、本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られ(甲第4号証)、また本件意匠登録出願前に頒布された刊行物(甲第3号証)に記載された公知意匠1に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、本件登録意匠は、同法第48条第1項第1号に該当することにより、無効理由1により無効とすべきである。 また、本件登録意匠は、本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られていた公知意匠1~公知意匠8(甲第3号証~甲第11号証)に基づいて当業者が容易に創作できたものであるから、同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり、本件登録意匠は、同法第48条第1項第1号に該当することにより、無効理由2により無効とすべきである。」 2 証拠方法 (1)甲第1号証 意匠登録第1756191号に係る意匠公報 (2)甲第2号証 請求人の品番KB-6210Nの「椅子」の写真(原本) (3)甲第3号証 「ベンチコレクション(カタログ)」のリスト(Vol.15~Vol.19) (4)甲第3号証の1 「ベンチコレクション Vol.15(平成25年12月発刊)」の表紙、68頁、70頁、84頁、90頁 (5)甲第3号証の2 「ベンチコレクション Vol.16(平成27年12月発刊)」の表紙、66頁、68頁、84頁、90頁 (6)甲第3号証の2の1 「ベンチコレクション Vol.16」の納品書(平成27年12月15日発行) (7)甲第3号証の3 「ベンチコレクション Vol.17(平成29年12月発刊)」の表紙、66頁、84頁、90頁 (8)甲第3号証の3の1 「ベンチコレクション Vol.17」の納品書(平成29年12月18日発行) (9)甲第3号証の4 「ベンチコレクション Vol.18(令和元年12月発刊)」の表紙、64頁、65頁、84頁、90頁 (10)甲第3号証の4の1 「ベンチコレクション Vol.18」の納品書(令和元年12月20日発行) (11)甲第3号証の5 「ベンチコレクション Vol.19(令和3年12月発刊)」の表紙、62頁、63頁、84頁、90頁 (12)甲第3号証の5の1 「ベンチコレクション Vol.19」の納品書(令和3年12月24日発行) (13)甲第4号証 スタジアムベンチ(品番「KB-6210N」)納品実績表(平成28年~令和4年) (14)甲第4号証の1 愛知株式会社宛の納品書(控)(「岩泉球場」に品番KB-6210Nが納品) (15)甲第4号証の1の1 愛知株式会社のホームページに掲載されたカタログ(品番「ABM-K62N-FF」と「品番KB-6210N」は同一製品) (16)甲第4号証の2 「コウフ・フィールド株式会社宛の納品書(控)(「鹿屋市平和公園野球場」に品番KB-6210Nが納品) (17)甲第4号証の3 株式会社共ショウ宛の納品書(控)(「太田市運動公園野球場」に品番「KB-6210N」が納品) (18)甲第4号証の4 株式会社九州アイム宛の納品書(控)(「福岡市中央体育館」に品番「KB-6210N」が納品) (19)甲第4号証の5 株式会社浅沼組宛の納品書(控)(「関西アイスアリーナ」に品番「KB-6210N」が納品) (20)甲第4号証の6 愛知株式会社宛の納品書(控)(「神奈川県立スポーツセンター(旧神奈川県立体育センター)」に品番「KB-6210N」が納品) (21)甲第4号証の7 NS建材販売株式会社宛の納品書(控)(「伊豆ベロドローム」に品番「KB-6210N」が納品) (22)甲第4号証の8 甲賀高分子株式会社宛の納品書(控)(「西京極総合運動公園野球場」に品番「KB-6210N」が納品) (23)甲第4号証の9 麻生商事株式会社宛の納品書(控)(「伊良部屋外運動場」に品番「KB-6210N」が納品) (24)甲第4号証の10 弘安建設株式会社宛の納品書(控)(「金亀公園陸上競技場」に品番「KB-6210N」が納品) (25)甲第4号証の11 甲賀高分子株式会社宛の納品書(控)(「布勢総合運動公園野球場」に品番「KB-6210N」が納品) (26)甲第5号証 意匠登録第1696968号の意匠公報 (27)甲第6号証 意匠登録第1687590号の意匠公報 (28)甲第7号証 意匠登録第1696702号の意匠公報 (29)甲第8号証 意匠登録第1696703号の意匠公報 (30)甲第9号証 意匠登録第1633144号の意匠公報 (31)甲第10号証 意匠登録第1726243号の意匠公報 (32)甲第11号証 意匠登録第1726244号の意匠公報 第3 答弁の趣旨及び理由 被請求人は、令和7年2月7日に、審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)を提出し、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、要旨以下のとおり主張した。(以下、下線は被請求人による。) 1 答弁の理由 「(1)緒言 請求人は、本件登録意匠と(本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠である)公知意匠1とは類似する意匠であるため、本件登録意匠は、意匠法48条第1項第1号に該当するものであり(無効理由1)、また、本件登録意匠は(本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠である)公知意匠1~公知意匠8に基づいて当業者が容易に創作できたものであるから意匠法第48条第1項第1号にも該当するものであるため(無効理由2)、無効とすべきであると主張する。 (公知意匠1~8が本件意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠であることは認めるものの)以下詳述するとおり、本件登録意匠は無効理由1、2のいずれにも該当するものではないことは明らかであって、本件登録意匠の登録が維持されるべきであることから、速やかに答弁の趣旨記載のとおりの審決を求める。 (2)無効理由1について ア.認否 まず、以下の通り認否を記載する。 (ア)「(ア)「本件登録意匠」の説明」について 認める。 (イ)「A 本件登録意匠の意匠に係る物品」について 認める。 (ウ)「B 本件登録意匠の意匠の形態 (A)本件登録意匠の基本的構成態様」について (a)、(b)、(d)、(g)について、認める。 (c)について、「わずかに減少する」との部分について否認し、その余は認める。 (e)について、「中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面」部分が不明確であり、その態様が明らかでないことから不知。 (f)について、「わずかに薄く(小さく)」との部分について否認し、その余は認める。 (エ)「B 本件登録意匠の意匠の形態 (B)本件登録意匠の具体的構成態様」について (h)について、否認する。 (i)、(j)について、認める。 (オ)「(イ)甲第3号証および甲第4号証(「公知意匠1」掲載)について」について 認める。 (カ)「(ウ)公知意匠1の説明 A 公知意匠の意匠に係る物品」について 認める。 (キ)「(ウ)公知意匠1の説明 B 公知意匠1の意匠の形態 (A)公知 意匠1の基本的構成態様」について (左右側面視であることを前提として)(a)、(平面視であることの前提下において)(b)、(正面視であることを前提として)(c)、(平面視であることを前提として)(d)、(左右の側面視であることを前提として)(f)について、それぞれ認める。 (e)について、「中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面」部分が不明確であり、その態様が明らかでないことから不知。 (g)について、(右側面視であることを前提として)「少し」部分について否認し、その余は認める。 (ク)「(ウ)公知意匠1の説明 B 公知意匠1の意匠の形態 (B)公知意匠1の具体的構成態様」について (h)について、「左側右側輪郭辺からわずかに長い所定の間隔」、「座面底面前方と背もたれ背面上方からわずかに長い所定の間隔」の部分について否認し、その余は認める。 (i)について、(正面視、平面視および前方斜視であることを前提として)認め、(j)についても、(右側面視であることを前提として)認める。 (ケ)「(エ)本件登録意匠と公知意匠1との対比 A 「意匠に係る物品」について」について 認める。 (コ)「(エ)本件登録意匠と公知意匠1との対比 B 「形態」の共通点及び差異点」について 否認する。 (サ)「(オ)本件登録意匠と公知意匠1との類否判断」について 否認する。 (シ)「C 小括」について 否認する。 (ス)「ウ むすび」について 無効理由1について否認する。 (なお、後述するとおり無効理由2に関する主張も否認する。) イ.被請求人の主張 (ア)部分意匠の類否判断について 意匠法第2条において、「この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、…(中略)…であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。」として、(1)「物品」の意匠と(2)「物品の部分」の意匠があるとされ、「部分」の意匠が存在するとはされてはいない。 そのため、意匠法の条文解釈のみをもってしても、いわゆる部分意匠の類否判断においても、意匠登録を受けようとする部分の全体に対する位置、大きさ、範囲を参酌すべきことは明らかである。 なお、このことは、以下の通り、意匠審査基準においても明記されている。 (意匠審査基準(2.2.2.1 意匠の類否判断の観点)では、「審査官は、次の(ア)から(キ)の観点により、類否判断を行う。…(イ)物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠の場合、当該部分における用途及び機能の共通点及び差異点の認定」…「(ウ)物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠の場合、当該部分の位置、大きさ、範囲の共通点及び差異点の認定」と明記されている。) そして、本件登録意匠は、いわゆる部分意匠であることから、その類否判断においては、意匠登録を受けようとする部分の形態のみを比較するのでは足りず、該意匠登録を受けようとする部分における用途及び機能や、該意匠登録を受けようとする部分の(全体に対する)位置、大きさ、範囲をも考慮しなければならない。 (イ)本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能について 本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分は、椅子の座および背もたれの部分であることから、その用途及び機能が「(人が)腰を掛けて座り体を支える」ということは明らかである。 (ウ)本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分に相当する公知意匠1の部分の用途及び機能について 本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分に相当する公知意匠1の部分も、椅子の座および背もたれの部分であることから、その用途及び機能は「(人が)腰を掛けて座り体を支える」ということであるから、両意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能は共通する。 (エ)本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分の位置、大きさ、範囲について 本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分の位置、大きさ、範囲は、 (いわゆる床固定観覧席として3席を連結して一体とした)「椅子」の(正面視)右端の一席に相当する位置、大きさ、範囲である。 ここで、後述するとおり、正面視において、背もたれの左右辺の輪郭は、平行ではなく、それぞれ背もたれ上方にいくに従って顕著に減少している(それぞれ中心方向に傾斜している)ことから、背もたれの部分の位置、大きさ、範囲は、隣席との間に逆二等辺三角形状の空間(以下の本件登録意匠の正面図中に青枠で示す部分)を除いた範囲に限定されている。 (当審注:図省略) (オ)本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分に相当する公知意匠1の位置、大きさ、範囲について 本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分に相当する公知意匠1の位置、大きさ、範囲について請求人は主張していないが、仮に以下に図示したように席を3席連結して一体としたものであり、これが本件登録意匠(の全体)に相当するという主張とするとすれば、(いわゆる床固定観覧席として3席を連結して一体とした)「椅子」の(正面視)右端の一席に相当する位置、大きさ、範囲であるという点においては、共通し得る。 しかし、これも後述するとおり、正面視において、公知意匠1の背もたれの左右辺の輪郭は、平行であって、それぞれ背もたれ上方にいくに従って減少していない(それぞれ中心方向に傾斜していない)ことから、隣席との間に空間は無く、そのために、背もたれの部分の位置、大きさ、範囲は、本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分とは異なり隣席との間に逆二等辺三角形状の空間を「含む」ものであって、本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分の範囲とは異なる。 (当審注:図省略) (カ)本件登録意匠の基本的構成態様について A.(c)について 本件登録意匠の背もたれの輪郭のうち左右辺は、以下の本件登録意匠の正面図中、青線で示すとおりであって、上方にいくに従っての減少は一目瞭然であることから、「わずかに」ではなく「顕著に」と、その構成態様が特定されるべきである。 (当審注:図省略) B.(f)について 本件登録意匠の座の輪郭は、以下の本件登録意匠の右側面図中、青線で示すとおりであって、底面側の辺が後方から前方に傾斜していることを容易に認識できることから、これを含めて座の厚さ(高さ)をみれば、後方から前方にいくに従っての減少も明らかでこれを容易に認識できることから、「わずかに」ではなく「顕著に」と、その構成態様が特定されるべきである。 (当審注:図省略) 以上から、本件登録意匠の基本的構成態様は以下のとおり特定されるべきである。 【本件登録意匠の基本的構成態様】(下線部は、請求人主張との相違箇所を示す) (a)左右の側面視における座面と背もたれは、一体形成されている。 (b)平面視における座面の輪郭は、後辺が滑らかな凸円弧状で、左右長さが略同一の横長の略四角形状で形成されている。 (c)正面視における背もたれの輪郭は、上辺が滑らかな凹円弧状で、左右が上方にいくに従って顕著に減少する略台形形状である。 (d)平面視における背もたれは、前面が左側右側輪郭辺から中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている。 (e)(請求人主張が不明確であり構成態様を特定できない) (f)左右の側面視における座面は、略水平方向に形成され、後方から前方にいくに従って厚さ(高さ)が顕著に薄く(小さく)なっている。 (g)右側面視およびA-A断面視における背もたれの上下断面は、上部が後方にわずかに傾斜した略S字形状で形成されている。 (キ)本件登録意匠の具体的構成態様について((h)について) 本件登録意匠の具体的構成態様(h)について、請求人は、背面に凹部形状が形成されていると主張するが、凹部とは、物の中心部あたりのへこみという字義であるところ、これは、物(面)の全体に対し、低い部分が占める割合が比較的小さい場合に、その低い部分を意味してのものであって、低い部分の割合が大きくなれば、それはもはや凹部として認識されるのではなく、外周が柱状や土手状、壁状に囲まれるように形成されていると認識されることとなることから、本件登録意匠の背面において凹部形状が形成されている、と、その具体的構成態様を特定する請求人の主張は、それ自体、失当と言わざるを得ない。 仮に、該凹部形状と請求人が主張する部分の形状を認定するとすれば、それは「「柱状」部材で上辺、左右辺の3方が囲まれている」という基本的な構成態様がまずもって認定され、その上で、該柱状部材が、背面視背もたれ上辺から座面底面前方まで連続して形成されているという具体的な構成態様が認定されるべきである。 ここで、請求人は、上辺の柱状部材の幅および左右辺の柱状部材に相当する部材の各幅について、(これらを「間隔」としたうえで)「所定」と、敢えて漠然と認定してもいる。 しかしながら、具体的構成態様におけるものであることを鑑みれば、このような漠然とした認定は誤りであると感じざるを得ない。 これらについても正確に認定するのであれば、「上辺の柱状部材の幅」については、(背面視)全縦幅の約5%に相当していること、他方、「左右辺の柱状部材の各横幅」は全横幅の約12%に相当していること、さらに「底面視座面底面前方の柱状部材の幅」も座面における全縦幅の約5%に相当し、「該底面左右辺の柱状部材の幅」も全横幅の約12%に相当していることから、このような認定がされるべきである。 (当審注:図省略) 以上から、本件登録意匠の具体的構成態様は以下のとおり特定されるべきである。 【本件登録意匠の具体的構成態様】(下線部は、請求人主張との相違箇所を示す) (h)背面視における背もたれは柱状部材で上辺、左右辺の3方が囲まれ、該柱状部材は、背もたれ背面上部から座面底面前方まで連続し形成され、背面視背もたれの上辺の柱状部材および底面視座面底面前方の柱状部材の縦幅はそれぞれ全縦幅の5%、背もたれおよび座面底面の左右辺の柱状部材の各幅は全横幅の12%にそれぞれ相当する幅で形成されている。 (i)正面視、平面視および前方斜視における座面は、前方中央部から後方に向けて山型に上部に突出した形状の太腿内側支持部が形成され、その太腿内側支持部から左側右側輪郭辺までは円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている。 (j)右側面視における背もたれ背面は、略S字形状の上部後方が略くさび型状で突出させて形成されている。 (ク)公知意匠1の基本的構成態様について A.(g)について 公知意匠1の背もたれ(断面)の上部は、例えば、以下の正面図中、背もたれ表面において、はっきりと稜線が表れていることを視認できることから、後方に「大きく」傾斜していることは明らかであるため、「高さの中ほどを境に」後方に「大きく」とその構成態様が特定されるべきである。 (当審注:図省略) 以上から、公知意匠1の基本的構成態様は以下のとおり特定されるべきである。 【公知意匠1の基本的構成態様】(下線部は、請求人主張との相違箇所を示す) (a)左右の側面視における座面と背もたれは、一体形成されている。 (b)平面視における座面の輪郭は、後辺が滑らかな凸円弧状で、左右長さが略同一の横長の略四角形状で形成されている。 (c)正面視における背もたれの輪郭は、上辺が滑らかな凹円弧状で、左側右側輪郭辺が略平行の横長の略四角形状で形成されている。 (d)平面視における背もたれは、前面が左側右側輪郭辺から中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている。 (e)(請求人主張が不明確であり構成態様を特定できない) (f)左右の側面視における座面は、略水平方向に形成され、後方から前方までの厚さ(高さ)が略同一である。 (g)背もたれの上下断面は、上部が高さの中ほどを境に後方に大きく傾斜した略S字形状で形成されている。 (ケ)公知意匠1の具体的構成態様について((h)について) 公知意匠1における背面凹部形状は、左側輪郭辺、右側輪郭辺からそれぞれ全幅の約21%の間隔を空けて中心部あたりに設けられていることは、以下の本件登録意匠の背面図に基づけば明らかであることから、「左側右側輪郭辺からそれぞれ全幅の21%の間隔」とその構成態様が特定されるべきである。 (当審注:図省略) また、背面凹部形状は背面視背もたれ上方から背もたれ全縦幅の約15%の間隔を空けて中心部あたりに設けられていることから、「背もたれ上方から背もたれ全幅の約15%の間隔」ともその構成態様が特定されるべきである。 さらに、底面視座面底面における凹部が設けられている座面底面の前方から座面底面の全幅から約15%の間隔を空け、他方、底面視座面底面の左右輪郭辺からそれぞれ約21%の間隔を空けて中心部あたりに設けられていることも一瞥して認識できるものであることから、このことも構成態様として特定されるべきである 以上から、公知意匠1の具体的構成態様は以下のとおり特定されるべきである。 【公知意匠1の具体的構成態様】(下線部は、請求人主張との相違箇所を示す) (h)背面視および底面視における背もたれ背面から座面底面は、背もたれ背面上部から座面底面前方まで左側右側輪郭辺からそれぞれ全幅の21%の間隔および座面底面の全幅から15%の間隔と背もたれ全縦幅の約15%の間隔を空けた内側表面に背面凹部形状が連続して形成され、座面底面の背面凹部形状内は凹凸形状で形成されている。 (i)正面視、平面視および前方斜視における座面は、前方中央部から後方に向けて山型に上部に突出した形状の太腿内側支持部が形成され、その太腿内側支持部から左側右側輪郭辺までは円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている。 (j)右側面視における背もたれ背面は、略S字形状の上部後方が略凹凸無し形状で形成されている。 (コ)本件登録意匠と公知意匠1の対比 A.「意匠に係る物品」および「意匠登録部分およびこれに相当する部分の用途及び機能」が共通することについて 両意匠の「意匠に係る物品」は、いずれも「椅子」で共通する。 また、前述のとおり、本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分とこれに相当する公知意匠1の部分は、いずれも椅子の座および背もたれの部分で、その用途及び機能が「(人が)腰を掛けて座り体を支える」ということで共通する。 B.位置、大きさ、範囲において差異点が存することについて 本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分と、これに相当する公知意匠1の位置、大きさ、範囲は、(いわゆる床固定観覧席として3席を連結して一体とした)「椅子」の(正面視)右端の一席に相当する位置、大きさ、範囲であるという点においては、共通し得る。 しかし、正面視において、公知意匠1の背もたれの左右辺の輪郭は、平行であって、それぞれ背もたれ上方にいくに従って減少していない(それぞれ中心方向に傾斜していない)ことから、隣席との間に空間はなく、そのために、背もたれの部分の位置、大きさ、範囲は、本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分とは異なり隣席との間に逆二等辺三角形状の空間を「含む」ものであって、本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分のそれとは相違している。 C.形態面について (a)基本的構成態様における両意匠の共通点および差異点 両意匠は基本的構成態様において、(a)、(b)、(d)のみで共通し、その他は相違する。 (なお、(e)は不明確であり特定し難い。) (b)具体的構成態様における両意匠の共通点および差異点 両意匠は具体的構成態様において、(i)で共通し、(h)、(j)では相違する。 D.差異点について (a)基本的構成態様における両意匠の差異点について (1)(c)について 正面視における背もたれの輪郭について、本件登録意匠は、左右が上方にいくに従って顕著に減少する略台形形状であるのに対し、公知意匠1は、略平行の横長の略四角形状である点で異なる。 (2)(f)について 左右の側面視における座面について、本件登録意匠は、後方から前方にいくに従って厚さ(高さ)が顕著に薄く(小さく)なっているのに対し、公知意匠1は、後方から前方までの厚さ(高さ)が略同一である点で異なる。 (3)(g)について 右側面視およびA-A断面視における背もたれの上下断面について、本件登録意匠は、上部が後方にわずかに傾斜した略S字形状で形成されているのに対し、公知意匠1は、上部が正面図に稜線としてはっきり視認できるとおり、高さの中ほどを境に後方に大きく傾斜した略S字形状で形成されている点で異なる。 (b)具体的構成態様における両意匠の差異点について (1)(h)について 本件登録意匠は、背面視における背もたれに公知意匠1とは異なり「背面凹部形状」はそもそも形成されていないため、(h)は、公知意匠1とは異なり存在しないという差異点が前提として存している。 仮に、該「背面凹部形状」に相当するとされる部分の形状を特定するのであれば、本件登録意匠の背もたれ背面から座面底面に柱状部材が設けられ、これが背もたれ背面の上辺、左右辺の3方を囲み、この柱状部材が、背もたれ背面上部から座面底面前方まで連続し形成され、背面視背もたれの上辺の柱状部材および底面視座面底面前方の柱状部材の縦幅はそれぞれ全縦幅の5%、背もたれおよび座面底面の左右辺の柱状部材の各幅は全横幅の12%にそれぞれ相当する幅で形成されているということになる。 これに対し、公知意匠1では、左側右側輪郭辺について言えば、それぞれ全幅の約21%の間隔、すなわち本件登録意匠とは約倍の間隔を空けている点で異なり、背面視背もたれの上辺、底面視座面底面前方についても、それぞれ約15%の間隔、すなわち本件登録意匠とは、約3倍の間隔を空けている点で異なっている。 (2)(j)について 本件登録意匠は、右側面視における背もたれ背面は、上部後方が略くさび型状で突出させて形成されているのに対し、公知意匠1は上部後方が略凹凸無し形状で形成されている点で異なる。 (c)位置、大きさ、範囲における差異点 前述のとおりである。 E.類否判断基準について 意匠法および意匠審査基準(2.2.1 判断主体)では、類否判断の判断主体は需要者(取引者を含む)である、としている。 また、意匠審査基準(2.2.2.6 対比する両意匠の形状等の共通点及び差異点の個別評価)では、共通点及び差異点の個別評価について、以下の(1)及び(2)の観点からみてどの程度注意を引くものなのかを検討することにより、各共通点及び差異点が意匠全体の美感に与える影響の大きさを判断する、としている。 (1)対比観察した場合に注意を引く部分か否かの認定及び評価 (a)意匠全体に占める割合についての評価 (b)物品の大きさの違いについての評価 (c)物品の特性に基づき観察されやすい部分か否かの評価 (d)物品等の内部の形状等の評価 (e)流通時にのみ視覚観察される形状等の評価 (2)先行意匠群との対比に基づく評価 (a)先行意匠調査を前提とする共通点の評価 (b)先行意匠調査を前提とする差異点の評価 そこで、以下これら観点からみて共通点及び差異点を個別評価する。 F.類否判断主体について 両意匠に係る「椅子」はスタジアム等に設置されるものであるため、需要者として把握されるのは、スタジアム等運営者である。 G.(1)(c)対比観察した場合に注意を引く部分か否かの認定及び評価 前掲した(1)(a)~(e)のうち、特には(c)の観点からの評価が影響を与える可能性が高いものと解されることから、以下この観点から検討する。 スタジアム等運営者は、その細部の形態や機能性に注意を払うことはもちろんであろうが、これが設置されるスタジアム等のイメージにあった優れた美感を有するものであるか否かをスタジアム等利用者である観客等の視点に立ち、より注意をもって観察するものともいうべきあり、このことは、甲3号証の1等のカタログにおいてスタジアム等に設置された状態の写真が多数掲載されている事実からも根拠づけられている。 したがって、需要者が注意を払うのは全体形状であり、全体形状を俯瞰するために、やや斜め上ないし斜め下から全体が視野に収まる程度の距離をおいて観察すること、具体的には、本件意匠に係る物品に係る「椅子」は、スタジアム等の段床に設置されることから、(スタジアムを利用する)観客等の視点は、請求人も示す下図のように斜め上方向、そして、時には斜め下方向からであることが通常であると考えられる。 (当審注:図省略) そうすると、まず目につくのは、背もたれと座の側面であり、これらの構成態様にスタジアム等の運営者はまずもって注目し、これらにおける差異点が需要者であるスタジアム等の運営者に与える印象に大きな影響を与えるものと解される。 これを両意匠についてみると、背もたれと座の側面に関する構成に相当するのは、(背もたれの部分の)「位置、大きさ、範囲」、基本的構成態様における共通点(a)、差異点(c)、(f)、(g)、具体的構成態様における差異点(h)、(j)であるところ、これらは、(a)を除き、いずれも差異点に係るものであることからこれら両意匠の差異点が類否判断に与える影響は大きいことは明らかである。 (なお、前述した視点に限らず、以下に示すとおり、これら差異点からの両意匠の対比を示すことをもっても外観上顕著に両意匠の相違を容易に認識できるものであることも補足しておく。) (当審注:図省略) H.美感の差異 公知意匠1は、成型性を良好にすることを主眼とした従来品であって、厚く、角も大きく丸みをおびていることから、重厚感・重量感という美感を生じさせるものであるところ、これに対して本件登録意匠は、従来品とは異なる現代的かつ薄さを体現したものであることから、現代的であって、かつシャープな美感を生じさせるものである。 また、その位置、大きさ、範囲において両意匠は前述のとおり差異が顕著に存するところ、これによって、本件登録意匠は、椅子の間に空間が作られ、一席ずつのパーソナル感という美感をも生じさせるものであるところ、公知意匠1のような従来品にはその構成態様および位置、大きさ、範囲から、そのような美感を生じ得ない。 このように、両意匠には先に詳述した差異点があることに加え、それぞれの意匠から生じる美感にも顕著な差異が存することは明らかである。 I.(2)(a)先行意匠調査を前提とする共通点の評価 請求人は、具体的構成態様における共通点(i)について、今までにない極めて特異な形状であると主張する。 しかしながら、何をもって、該(i)が今までにない極めて特異な形状であるとの評価に至るかの具体的評価根拠事実を示す等は何ら無く、その評価自体を肯定することは到底困難である。 この点、推認し得る判断過程として、(先行意匠調査の結果)先行意匠群に(i)の形状を有する(両意匠に係る物品としての)「椅子」が見当たらなかったため、これを前掲(a)の観点から評価すれば、それは類否判断に与える影響を大きいものと評価し得るということが考え得る。 しかしながら、例えば、意匠登録第0598658号、1025435号、1027472号、1042083号、1115725号、1115726号、1121920号、1122248号等において、本件登録意匠に係る(スタジアム等に設置される観覧席としての)「椅子」の座面形状として開示されており、ありふれていることは明らかであることから、前述した(考えられ得る)該(i)が類否判断に与える影響が大きいとの評価に至るべき事実は何ら存在してはおらず、また、(両意匠に係る物品としての「椅子」に限らず広く)「椅子」という範囲においては、(i)は、古くからある形状で、ありふれたものであることから(意匠登録第1151653号等)、そのようなありふれた形状を含む「椅子」をスタジアム等運営者も(広く)「椅子」を購入し、使用していることからも、(i)が今までにない極めて特異な形状であると到底評価し得ないことは明らかである。 そのため、(i)が両意匠において共通するとしても、これが、両意匠の類否判断に与える影響はほぼないと考えざるを得ず、このことは、前述したスタジアム等の運営者が注目する視点をも考慮すれば、明らかと考える。 (なお、共通点(a)は、輪郭そのものであるため、類否判断に与える影響は大きいものの、その具体的形状それ自体はありふれたものであることから、これが両意匠の類否判断に与える影響は、その他の両意匠の輪郭についての差異点が与える影響と比較すると低く、これと共通点(i)を組み合わせてもその影響の程度は大きくはならないものと考える。) J.小括(無効理由1について) 以上詳述したとおり、(背もたれの部分の)「位置、大きさ、範囲」、基本的構成態様における共通点(a)、差異点(c)、(f)、(g)、具体的構成態様における差異点(h)、(j)が両意匠の類否判断に与える影響が大きいものと解され、加えて、これら差異点によって両意匠から生じ得る美観にも顕著な差が存しているところ、(a)は、ありふれた形状のため、その影響の程度は、その他よりも低いことは明らかであって、これが共通点(i)をもっても、その影響を大きいものと評価することは困難であることから、両意匠は、差異点が類否判断に与える影響の大きさをもって、非類似の意匠と判断されるべきことは明らかである。 (3)無効理由2について ア.認否 まず、以下の通り認否を記載する。 (ア)「(無効理由2)イ 意匠法第3条第2項について (ア)「本件登録意匠」の説明」について 認める。 (イ)「(無効理由2)イ 意匠法第3条第2項について (イ)甲第5号証(「公知意匠2」掲載)について」について 認める。 (ウ)「(無効理由2)イ 意匠法第3条第2項について (ウ)「公知意匠2」の説明 A 公知意匠2の意匠に係る物品」について 認める。 (エ)「(無効理由2)イ 意匠法第3条第2項について (ウ)「公知意匠2」の説明 B 公知意匠2の意匠の形態 (A)公知意匠2の基本的構成態様」について (a)、(b)、(d)、(g)について認める。 (c)について、「わずかに」との部分について否認し、その余は認める。 (e)について、「中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面」部分が不明確であり、その態様が明らかでないことから不知。 (f)について、「薄く(小さく)」との部分について否認し、その余は認める。 (オ)「(無効理由2)イ 意匠法第3条第2項について (ウ)「公知意匠2」の説明 B 公知意匠2の意匠の形態 (B)公知意匠2の具体的構成態様」について (h)について、否認する。 (i)について、認める。 (j)について、「略くさび形状」部分について否認し、その余は認める。 (カ)「(無効理由2)イ 意匠法第3条第2項について (エ)本件登録意匠と公知意匠2の対比 A 「意匠に係る物品」について」について 認める。 (キ)「(無効理由2)イ 意匠法第3条第2項について (エ)本件登録意匠と公知意匠2の対比 B 「形態」の共通点及び差異点について (オ)創作容易性について B 創作容易性 C 小括」について いずれも否認する。 (ク)「ウ むすび」について 無効理由2について否認する。 (なお、前述のとおり無効理由1についても否認する。) イ.被請求人の主張 (ア)公知意匠2の基本的構成態様について A.(c)について 公知意匠2の背もたれの輪郭のうち左右辺は、上方にいくに従っての減少は一目瞭然であることから、「わずかに」ではなく「顕著に」と、その構成態様が特定されるべきである。 B.(f)について 公知意匠2の座の輪郭は、以下の公知意匠2の右側面図中、青線で示すとおりであって、底面側の辺が後方から前方に傾斜していることは一目瞭然であることから、これを含めて座の厚さ(高さ)をみれば、後方から前方にいくに従っての減少も、また明らかとなり、「極めて」とその構成態様が特定されるべきである。 (当審注:図省略) 以上から、公知意匠2の基本的構成態様は以下のとおり特定されるべきである。 【公知意匠2の基本的構成態様】(下線部は、請求人主張との相違箇所を示す) (a)左右の側面視における座面と背もたれは、一体形成されている。 (b)平面視における座面の輪郭は、後辺が滑らかな凸円弧状で、左右長さが略同一の横長の略四角形状で形成されている。 (c)正面視における背もたれの輪郭は、上辺が滑らかな凹円弧状で、左右が上方にいくに従って顕著に減少する略台形形状である。 (d)平面視における背もたれは、前面が左側右側輪郭辺から中央にいくに従って後方に円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されている。 (e)(請求人主張が不明確であり構成態様を特定できない) (f)左右の側面視における座面は、略水平方向に形成され、後方から前方にいくに従って厚さ(高さ)が極めて薄く(小さく)なっている。 (g)右側面視およびA-A断面視における背もたれの上下断面は、上部が後方わずかに傾斜した略S字形状で形成されている。 (イ)公知意匠2の具体的構成態様について A.(h)について 公知意匠2の背もたれ及び座は、きわめて薄い「薄板状」の折り返しが背裏・座裏の全周に設けられているものであって、これを凹部と認識することは先にしたとおり困難であることから、このことを踏まえると、(h)について請求人主張の具体的構成態様の認定は失当であると言わざるを得ない。 ここで、公知意匠2の(h)について、その具体的構成態様を正確に特定するとすれば、以上を踏まえて、背面視および底面視における背もたれ背面から座面底面は、正面視からの座上面としての下方凹湾曲面、および平面視からの背前面としての後方凸湾曲面とほぼ同じ表面を持ち、加えて、背もたれ背面の上端部、左側右側外端部、および座面底面の左側右側外端部、前端部にかけて全周囲を取り囲むように、ほぼ同じ厚みの薄板(リブ)が、背・座の側面と一体的に形成されている、と特定されるべきである。 B.(j)について 前述のとおりの(h)の構成態様を踏まえれば、「略くさび型状」とは認識し難くい、突出して形成されている、と特定されるべきである。 以上から、公知意匠2の具体的構成態様は以下のとおり特定されるべきである。 【公知意匠2の具体的構成態様】(下線部は、請求人主張との相違箇所を示す) (h)背面視および底面視における背もたれ背面から座面底面は、正面視からの座上面としての下方凹湾曲面、および平面視からの背前面としての後方凸湾曲面とほぼ同じ表面を持ち、加えて、背もたれ背面の上端部、左側右側外端部、および座面底面の左側右側外端部、前端部にかけて全周囲を取り囲むように、ほぼ同じ厚みの薄板(リブ)が、背・座の側面と一体的に形成されている。 (i)正面視、平面視および前方斜視における座面は、左側右側輪郭辺から中央にいくに従って円弧状に滑らかに傾斜する凹凸のない凸湾曲面で形成されている。 (j)右側面視における背もたれ背面は、略S字形状の上部後方が突出して形成されている。 (ウ)本件登録意匠と公知意匠2の対比 A.「意匠に係る物品」および「意匠登録部分およびこれに相当する部分の用途及び機能」が共通することについて 両意匠の「意匠に係る物品」は、いずれも「椅子」で共通する。 また、本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分とこれに相当する公知意匠2の部分は、いずれも椅子の座および背もたれの部分であり、その用途及び機能は「(人が)腰を掛けて座り体を支える」ということで共通する。 B.位置、大きさ、範囲において差異点が存することについて 本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分と、これに相当する公知意匠2の位置、大きさ、範囲は、(いわゆる床固定観覧席として3席を連結して一体とした)「椅子」の(正面視)右端の一席に相当する位置、大きさ、範囲であるという点においては、共通し得る。 しかし、正面視において、両意匠を比較すれば一瞥して明らかなとおり、隣席との間隔に差があることによって、背もたれの部分の大きさ、範囲が、相違していることから、両意匠の範囲とは相違していると評価できる。 (当審注:図省略) C.形態面について (a)基本的構成態様における両意匠の共通点および差異点 両意匠は基本的構成態様において、(a)、(b)、(c)、(d)、(g)で共通し、(f)で相違する。 (なお、(e)は不明確であり特定し難い。) (b)具体的構成態様における両意匠の共通点および差異点 両意匠は具体的構成態様全てにおいて相違する。 D.差異点について (a)基本的構成態様における両意匠の差異点について (1)(f)について 左右の側面視における座面について、本件登録意匠は、後方から前方にいくに従って厚さ(高さ)が顕著に薄く(小さく)なっているのに対し、公知意匠2は、後方から前方までの厚さ(高さ)が極めて薄く(小さく)なっている点で異なる。 (b)具体的構成態様における両意匠の差異点について (1)(h)について 本件登録意匠は、背面視において、背もたれが柱状部材で上辺、左右辺の3方が囲まれ、該柱状部材が、背もたれ背面上部から座面底面前方まで連続し形成されている。これに対し、公知意匠2の背もたれ及び座は、きわめて薄い「薄板状」の折り返しが背裏・座裏の全周に設けられているものであることから、両意匠の(h)は全く異なっている。 (当審注:図省略) (2)(i)について 本件登録意匠は、正面視、平面視および前方斜視における座面は、前方中央部から後方に向けて山型に上部に突出した形状の太腿内側支持部が形成され、その太腿内側支持部から左側右側輪郭辺までは円弧状に滑らかに傾斜する凸湾曲面で形成されているのに対し、公知意匠2は太腿支持部がない点で異なる。 (3)(j)について 本件登録意匠は、背もたれ背面上部後方が略くさび型状で突出させて形成されているのに対し、公知意匠2は突出して形成されている点で異なる。 (当審注:図省略) (c)位置、大きさ、範囲における差異点 前述のとおりである。 E.創作非容易性の判断について 意匠法および意匠審査基準(第2節 2 創作非容易性の判断主体)において、創作非容易性の判断主体は当業者(すなわち、その意匠に係る物品を製造したり販売したりする業界において、当該意匠登録出願の時に、その業界の意匠に関して、通常の知識を有する者)である、とされている。 また、意匠審査基準(第2節 3.創作非容易性の判断に係る基本的な考え方)では、出願された意匠が、出願前に公知となった構成要素や具体的態様を基礎とし、例えばこれらの単なる寄せ集めや置き換えといった、当該分野におけるありふれた手法などにより創作されたにすぎないものである場合は、創作容易な意匠であると判断する、として、さらに、その判断に関し、出願された意匠において、出願前に公知となった構成要素や具体的態様がほとんどそのままあらわされている場合に加えて、改変が加えられている場合であっても、当該改変が、その意匠の属する分野における軽微な改変にすぎない場合は、なおも創作容易な意匠であると判断する、としている。 一方、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさや独創性が認められる場合には、その点についても考慮して判断し、出願された意匠が、いわゆる部分意匠である場合は、その創作非容易性の判断にあたり、「意匠登録を受けようとする部分」の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合や、用途及び機能を考慮するとともに、「意匠登録を受けようとする部分」を、当該物品等の全体の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合の中において、その位置、その大きさ、その範囲とすることが、当業者にとって容易であるか否かについても考慮して判断する、ともしている。 さらに、ありふれた手法や、軽微な改変、それぞれについての具体例を以下のように列挙している(4.2.1 ありふれた手法の例等)。 【ありふれた手法】 (a)置き換え (b)寄せ集め (c)一部の構成の単なる削除 (d)配置の変更 (e)構成比率の変更 (f)連続する単位の数の増減 (g)物品等の枠を超えた構成の利用・転用 【軽微な改変】 (a)角部及び縁部の単純な隅丸化又は面取り (b)模様等の単純な削除 (c)色彩の単純な変更、区画ごとの単純な彩色、要求機能に基づく標準的な彩色 (d)素材の単純な変更によって生じる形状等の変更 一方、審査官は、出願された意匠の創作非容易性を検討する際、意匠全体が呈する美感や各部の態様等、意匠の視覚的な特徴として現れるものであって、独自の創意工夫に基づく当業者の立場からみた意匠の着想の新しさや独創性が認められる場合には、その点についても考慮するものとされている(4.3 当業者の立場から見た意匠の着想の新しさや独創性について) そこで、以下これら観点からみて差異点について検討する。 F.判断主体について 両意匠に係る「椅子」の製造、販売者は主としてはメーカーであることから、このメーカーにおいて製品開発、販売を行う者が当業者に当たる。 G.差異点について (a)「位置、大きさ、範囲」について 請求人が挙げる公知意匠2等は、(いわゆる床固定観覧席として3席を連結して一体とした)「椅子」の(正面視)右端の一席に相当する位置、大きさ、範囲であるという点で、本件登録意匠と共通し得るものの、公知意匠2等の隣席との間における空間は、いずれも本件登録意匠のそれとは異なっている。つまり、この公知意匠2との位置、大きさ、範囲の差異点は何ら公知意匠群において開示されてはおらず、置き換えること等の基礎的根拠が存していないということが前提となるものであることから、このことのみをもって、当業者であっても公知意匠2等から本件登録意匠の位置、大きさ、範囲を容易に創作するとは言い難いものと解され、加えて、位置、大きさ、範囲は、基本的構成態様、具体的構成態様を構成する各構成要素の形状等の組合せ等を考慮しつつ総合的な観点を踏まえ定まるものであることから、このことも考慮すれば、容易に創作することが当業者であっても困難であることは明らかであり、さらに、この差異点について、「軽微な改変」との評価にも当たり得ないこともまた明らかであるものと解する。 (b)(f)について この差異点は、一見すれば、構成比率の変更等としてありふれた手法により創作されたにすぎないとも評価し得るものの、本件登録意匠は、プラスチックを風船状に膨らましてボリュームのある中空構造を成形するブロー成型で形成したものであって、この点に当業者の立場からみた意匠の着想の新しさや独創性が認められるものであって、加えて、この差異点を含めて形状等の組合せ等を考慮しつつ総合的な観点から創作されるものであることも鑑みれば、この差異点についての評価としては、公知意匠2等に基づいて、単なるありふれた手法、もしくは軽微な改変にはあたり得ないとの評価に値するものと解する。 (c)(h)について 先に詳述したとおり、本件登録意匠は、背面視において、背もたれが柱状部材で上辺、左右辺の3方が囲まれ、該柱状部材が、背もたれ背面上部から座面底面前方まで連続し形成されている。これに対し、公知意匠2の背もたれ及び座は、きわめて薄い「薄板状」の折り返しが背裏・座裏の全周に設けられているものであることから、両意匠の(h)は全く異なっているものであって、更に他の公知意匠との関係でも同様であることから、この差異点が単なるありふれた手法、もしくは軽微な改変等には当たり得ない。 (d)(i)について この差異点(i)は、無効理由1において言及した古くからある形状であり、かつ「椅子」という物品において、当業者は共通するものでもあることから、(i)における差異点のみに着目するとすれば、古くからある形状(手法を含む)を単に採用した、若しくは軽微な改変に当たり得る。 (e)(j)について 先に差異点(h)等においても詳述したとおり、本件登録意匠は、背面視において、背もたれが柱状部材で上辺、左右辺の3方が囲まれ、該柱状部材が、背もたれ背面上部から座面底面前方まで連続し形成されているのに対し、公知意匠2の背もたれ及び座は、きわめて薄い「薄板状」の折り返しが背裏・座裏の全周に設けられているものであることから、両意匠の(h)は全く異なっているものであって、この(h)の結果として、(j)という差異点もあることから、論理必然的には、(h)同様、公知意匠2および他の公知意匠との関係で、同様のものは存してはいないことから、この差異点についても単なるありふれた手法、もしくは軽微な改変等には当たり得るものではない。 H.美感の差異について 意匠が意匠に係る物品の形状等に基づいた外観であることから、美感を認定、特定するために物品の形状等の創作が容易であったか否かを判断するという意味においては、前述した差異点を認定、評価することにも(審査基準に示されるとおり)妥当性があるものの、先のとおり意匠が意匠に係る物品の外観であることから、美感の創作非容易性、つまりは美感の差異をも考慮すべきこともまた当然である(平成20年(行ケ)第10069号等)。 これを、本件登録意匠と公知意匠2についてみると、本件登録意匠は、これまで詳述したとおり、全体に厚みのある背座に加え、背裏が小口面と一体の幅広の「柱状」で3方が囲まれていることによって、全体に厚みのあるソリッドな美感を生じさせるのに対し、公知意匠2は、板状の背座に、きわめて薄い板状の折り返しが背裏・座裏の全周に設けられていることによって、全体が板部材で構成、形作られたシャープな美感を生じさせていることから、両意匠からそれぞれ生ずる美感の差異は顕著であることは明らかである。 そして、その他の公知意匠についてみても、本件登録意匠同様の構成態様を備えたものは何ら存していないことから本件登録意匠同様の美感を生じさせるものも何ら存してはいない。 そうすると、公知意匠2を含めた美感の差異をも考慮すれば、当業者であっても容易に創作することのできない、意匠登録が認められてしかるべき高度の創作性が認められることも明らかである。 I.小括(無効理由2について)(創作非容易性について) これまで詳述したとおり、前掲した差異点はいずれもありふれた手法等の範疇の差異点にあたるものではないか、若しくは、その差異点を含めた全体としての意匠の評価として、その創作性を認め得るものであって、さらには、本件登録意匠と公知意匠2等から生じる美観の差異は顕著であることも考慮すれば、本件登録意匠が、公知意匠2等に基づいて当業者であれば容易に創作することができたものにはあたらないことは明らかである。 (4)むすび 以上のとおり、本件登録意匠は無効理由1、2のいずれにも該当するものではないことは明らかであって、本件登録意匠の登録が維持されるべきであることから、速やかに答弁の趣旨記載のとおりの審決を求める。」 第4 口頭審理 本件審判について、当審は、令和7年2月18日付けで審理事項通知書を通知し、これに対して、請求人は、同年2月26日付け及び同年3月9日に口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書という。」)を提出し、被請求人は、同年2月26日及び同年3月7日に口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書」という。)を提出し、同年3月12日に口頭審理を行った(令和7年3月12日付け口頭審理調書)。 1 請求人の主張 請求人は、請求人陳述要領書に基づき、要旨、以下のとおり意見を述べた。 (以下、下線は請求人による。) (1)口頭審理陳述要領書 「5.陳述の要領 (無効理由1) (1)位置、大きさ、範囲について 被請求人は、審判事件答弁書(以下、「答弁書」という)第12頁第4行~第8行において、『B.位置、大きさ、範囲において差異点が存することについて、本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分と、これに相当する公知意匠1の位置、大きさ、範囲は、(いわゆる床固定観覧席として3席を連結して一体とした)「椅子」の(正面視)右端の一席に相当する位置、大きさ、範囲であるという点においては、共通し得る。』と認めている。 また、被請求人は、答弁書第12頁第9行~第14行において、「正面視において、公知意匠1の背もたれの左右辺の輪郭は、平行であって、それぞれ背もたれ上方にいくに従って減少していない(それぞれ中心方向に傾斜していない)ことから、隣席との間に空間はなく、そのために、背もたれの部分の位置、大きさ、範囲は、本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分とは異なり隣席との間に逆二等辺三角形状の空間を「含む」ものであって、本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分のそれとは相違している。」と主張しているが、 これについては、審判請求書第17頁第15行~第33行に記載した通り、本件登録意匠の「背もたれの輪郭」が左右が上方にいくに従ってわずかに減少する「略台形形状」であることは、従来から公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)、および公知意匠5(甲第8号証)等に開示されているように、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であり、新たな美感を生じさせるものではないのは明らかであることから、需要者に何ら視覚的に変わった印象を与えるものではないということができる。 また、「意匠登録を受けようとする部分の「位置」とは、意匠全体の中で、意匠登録を受けようとする部分がどのような位置(配置関係)にあるか」を判断するための要素であり、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1の相当部分においては、ともに「同形状の椅子が3個横並びに配置されたベンチ」の「右端位置の椅子」であることから、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1の相当部分のベンチ全体の中での「位置」は、同一又は意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであるということができる(「大きさ」および「範囲」も同様)。 したがって、被請求人の「背もたれの部分の位置、大きさ、範囲」は、本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分とは異なり隣席との間に逆二等辺三角形状の空間を「含む」ものであって、本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分のそれとは相違している。」との主張は失当であるということができる。 (2)基本的構成態様(c)について 被請求人は、答弁書第12頁第24行~第27行において、「(1)(c)について 正面視における背もたれの輪郭について、本件登録意匠は、左右が上方にいくに従って顕著に減少する略台形形状であるのに対し、公知意匠1は、略平行の横長の略四角形状である点で異なる。」と主張しているが、 これについては、審判請求書第17頁第15行~第33行および上記(1)に記載した通り、本件登録意匠の基本的構成態様(c)と公知意匠1の基本的構成態様(c)の差異点は、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であり、需要者に何ら視覚的に変わった印象を与えるものではないので、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということができる。 (3)基本的構成態様(f)について 被請求人は、答弁書第12頁第28行~第31行において、「(2)(f)について 左右の側面視における座面について、本件登録意匠は、後方から前方にいくに従って厚さ(高さ)が顕著に薄く(小さく)なっているのに対し、公知意匠1は、後方から前方までの厚さ(高さ)が略同一である点で異なる。」と主張しているが、 これについては、審判請求書第17頁第34行~第18頁第21行に記載した通り、本件登録意匠の基本的構成態様(f)と公知意匠1の基本的構成態様(f)の差異点は、本件登録意匠の出願日前に既に知られていた公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)、および公知意匠5(甲第8号証)と近似する態様で、さらに本件登録意匠の出願日前に既に知られていた公知意匠6(甲第9号証)と略同一の態様であり、また本件登録意匠の構成態様(f)と公知意匠1の構成態様(f)の差異点の「座面側面の厚さ(高さ)」は、外部から観察した場合に座面側面の厚さ(高さ)がどうかは格別目立つ態様とはいえず、看者も気付かない程度の微細な違いであり、需要者に何ら視覚的に変わった印象を与えるものではないので、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということができる。 (4)基本的構成態様(g)について 被請求人は、答弁書第13頁第1行~第5行において、「(3)(g)について 右側面視およびA-A断面視における背もたれの上下断面について、本件登録意匠は、上部が後方にわずかに傾斜した略S字形状で形成されているのに対し、公知意匠1は、上部が正面図に稜線としてはっきり視認できるとおり、高さの中ほどを境に後方に大きく傾斜した略S字形状で形成されている点で異なる。」と主張しているが、 これについては、審判請求書第18頁第22行~第19頁第7行に記載した通り、本件登録意匠の基本的構成態様(g)と公知意匠1の基本的構成態様(g)の差異点は、略S字形状について、本件登録意匠の出願日前に既に知られていた公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)、および公知意匠5(甲第8号証)と近似する態様であり、また本件登録意匠の構成態様(g)と公知意匠1の構成態様(g)の差異点である「背もたれの厚さ」については、外部から観察した場合に背もたれの厚さがどうかは格別目立つ態様とはいえず、看者も気付かない程度の微細な違いであり、需要者に何ら視覚的に変わった印象を与えるものではないので、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということができる。 (5)具体的構成態様(h)について 被請求人は、答弁書第13頁第7行~第10行において、「(1)(h)について 本件登録意匠は、背面視における背もたれに公知意匠1とは異なり「背面凹部形状」 はそもそも形成されていないため、(h)は、公知意匠1とは異なり存在しないという差異点が前提として存している。」と主張しているが、 これについては、審判請求書第3頁第9行~第12行に記載した通り、本件登録意匠には「背面凹部形状」が形成されていることは明らかである。 また被請求人は、答弁書第13頁第11行~第20行において、「仮に、該「背面凹部形状」に相当するとされる部分の形状を特定するのであれば、本件登録意匠の背もたれ背面から座面底面に柱状部材が設けられ、これが背もたれ背面の上辺、左右辺の3方を囲み、この柱状部材が、背もたれ背面上部から座面底面前方まで連続し形成され、背面視背もたれの上辺の柱状部材および底面視座面底面前方の柱状部材の縦幅はそれぞれ全縦幅の5%、背もたれおよび座面底面の左右辺の柱状部材の各幅は全横幅の12%にそれぞれ相当する幅で形成されているということになる。 これに対し、公知意匠1では、左側右側輪郭辺について言えば、それぞれ全幅の約21%の間隔、すなわち本件登録意匠とは約倍の間隔を空けている点で異なり、背面視背もたれの上辺、底面視座面底面前方についても、それぞれ約15%の間隔、すなわち本件登録意匠とは、約3倍の間隔を空けている点で異なっている」と主張しているが、 この被請求人が異なると主張している「背面凹部形状」周辺の「所定の間隔幅(被請求人がいう「柱状部材」)」については、審判請求書第19頁第28行~第20頁第6行に記載した通り、本件登録意匠より「所定の間隔幅」がわずかに長い公知意匠1の他、本件登録意匠より「所定の間隔幅」がわずかに短い公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)および公知意匠5(甲第8号証)や、また本件登録意匠の出願日前に既に知られていた公知意匠6(甲第9号証)は「所定の間隔幅」が本件登録意匠の「所定の間隔」と略同一であり、さらに、本件登録意匠の出願日前に既に知られていた公知意匠7(甲第10号証)および公知意匠8(甲第11号証)についても背もたれ背面の「所定の間隔幅」が本件登録意匠の「所定の間隔幅」と極めて近似しており、本件登録意匠の「背面凹部形状」の周辺の「所定の間隔幅」については、本件登録意匠の「背面凹部形状」より長い態様、略同一の態様、わずかに短い態様など、本件登録意匠の出願日前からいろいろな態様のものが普通にみられることから、単なる設計の問題にすぎず、新たな美感を生じさせるものではなく、また「椅子の背もたれ背面」は「椅子」の背面であることから、その部分は本件登録意匠の「椅子」を見る者の注意をひきやすい部分ということができず、需要者に何ら視覚的に変わった印象を与えるものではないので、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということができる。 (6)具体的構成態様(j)について 被請求人は、答弁書第13頁第21行~第24行において、「(2)(j)について 本件登録意匠は、右側面視における背もたれ背面は、上部後方が略くさび型状で突出させて形成されているのに対し、公知意匠1は上部後方が略凹凸無し形状で形成されている点で異なる。」と主張しているが、 これについては、審判請求書第20頁第19行~第29行に記載した通り、本件登録意匠の具体的構成態様(j)と公知意匠1の具体的構成態様(j)の差異点は、本件登録意匠の出願日前から普通にみられる態様であるので、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということはできる。 (7)具体的構成態様(i)について 被請求人は、答弁書第18頁第2行~第19行において、「何をもって、該(i)が今までにない極めて特異な形状であるとの評価に至るかの具体的評価根拠事実を示す等は何ら無く、その評価自体を肯定することは到底困難である。この点、推認し得る判断過程として、(先行意匠調査の結果)先行意匠群に(i)の形状を有する(両意匠に係る物品としての)「椅子」が見当たらなかったため、これを前掲(a)の観点から評価すれば、それは類否判断に与える影響を大きいものと評価し得るということが考え得る。しかしながら、例えば、意匠登録第0598658号、1025435号、1027472号、1042083号、1115725号、1115726号、1121920号、1122248号等において、本件登録意匠に係る(スタジアム等に設置される観覧席としての)「椅子」の座面形状として開示されており、ありふれていることは明らかであることから、前述した(考えられ得る)該(i)が類否判断に与える影響が大きいとの評価に至るべき事実は何ら存在してはおらず、また、(両意匠に係る物品としての「椅子」に限らず広く)「椅子」という範囲においては、(i)は、古くからある形状で、ありふれたものであることから(意匠登録第1151653号等)、そのようなありふれた形状を含む「椅子」をスタジアム等運営者も(広く)「椅子」を購入し、使用していることからも、(i)が今までにない極めて特異な形状であると到底評価し得ないことは明らかである。」と主張している。 しかしながら、意匠登録第0598658号、1025435号、1027472号、1042083号、1115725号、1115726号、1121920号、1122248号の意匠公報に開示されている「椅子」の座面は、各意匠公報の正面図および平面図からも明らかなように、「前方中央部から左側右側輪郭辺まで円弧状に滑らかに傾斜する湾曲面で形成されている」のみであるのに対し、本件登録意匠の具体的構成態様(i)や公知意匠1の具体的構成態様(i)は、「本件登録意匠の意匠公報」および「甲第2号証」の平面図から明らかなように、『前方中央部から後方に向けて山型に上部に突出した形状の「太腿内側支持部」が形成されたもの』であることから、それぞれの「椅子」の中央部の形状がかなり相違しているということができる。 また、意匠登録第1151653号の意匠公報に開示されている「椅子」は、本件登録意匠のように座面が変形しない硬さの「スタジアム等に設置される観覧席」なく、座面が上下左右方向に変形し弾力性を有する「デスク用椅子」であり、この「デスク用椅子」は、『前方中央部から後方に向けて山型に上部に突出した横幅が広い形状の「太腿内側支持部」が形成されている』のに対し、本件登録意匠の具体的構成態様(i)や公知意匠1の具体的構成態様(i)は、「本件登録意匠の意匠公報」および「甲第2号証」の平面図に示すように、「前方中央部から後方に向けて山型に上部に突出した横幅が狭い形状の「太腿内側支持部」であることから、「太腿内側支持部」の形状がかなり相違しているということができる。 さらに、この「太腿内側支持部」の形状の違いにより、本件登録意匠は、「スタジアム等に設置される観覧席(椅子)」の強固な座面に、山型に上部に突出した横幅が狭い形状の「太腿内側支持部」が形成されているので、使用者が「椅子」に座っても座面が変形することなく、「太腿内側支持部」により使用者の太腿内側を強く支持することができるのに対し、意匠登録第1151653号の意匠公報に開示されている「椅子」は、「デスク用椅子」の柔らかい座面に、横幅が広い形状の「太腿内側支持部」を形成させているので、使用者が「椅子」に座ると座面が上下左右に柔軟に変形することにより、使用者の太腿内側を弾力的に包み込むように支持することができるというもので、それぞれの「椅子」の用途・機能に基づいて、「太腿内側支持部」の横幅を特異な形状にしていると考えられる。 このように、本件登録意匠の基本的構成態様(a)~基本的構成態様(g)、具体的構成態様(h)および具体的構成態様(j)は、上述したように、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であり、需要者に何ら視覚的に変わった印象を与えるものではなく、本件登録意匠の具体的構成態様(i)は、座面の中央部という非常に看者の目につきやすく目立つ位置にあり、今までにない極めて特異な形状であるので、両意匠において看者の印象を支配する美感上の重要な部分、つまり本件登録意匠の「意匠の要部」であるということができる。 また、仮に、被請求人が主張するように、本件登録意匠の具体的構成態様(i)が、スタジアム等に設置される観覧席の「椅子」の座面形状として従来からありふれた形状であるとして、意匠の類否判断に与える影響はほぼないとするならば、上述したように、本件登録意匠の基本的構成態様(a)~基本的構成態様(g)、具体的構成態様(h)および具体的構成態様(j)は、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であり、需要者に何ら視覚的に変わった印象を与えるものではないことから、本件登録意匠は意匠登録の要件(意匠法第3条)を具備しないものといわざるを得ない結果となる。 このように、本件登録意匠のそれぞれの構成から考えれば、本件登録意匠の特許庁審査においても、本件登録意匠の具体的構成態様(i)を本件登録意匠の「意匠の要部」であると認定されて審査されたものと思われる。 (無効理由2) (1)位置、大きさ、範囲について 被請求人は、答弁書第26頁第5行~第17行において、「(a)「位置、大きさ、範囲」について 請求人が挙げる公知意匠2等は、(いわゆる床固定観覧席として3席を連結して一体とした)「椅子」の(正面視)右端の一席に相当する位置、大きさ、範囲であるという点で、本件登録意匠と共通し得るものの、公知意匠2等の隣席との間における空間は、いずれも本件登録意匠のそれとは異なっている。つまり、この公知意匠2との位置、大きさ、範囲の差異点は何ら公知意匠群において開示されてはおらず、置き換えること等の基礎的根拠が存していないということが前提となるものであることから、このことのみをもって、当業者であっても公知意匠2等から本件登録意匠の位置、大きさ、範囲を容易に創作するとは言い難いものと解され、加えて、位置、大きさ、範囲は、基本的構成態様、具体的構成態様を構成する各構成要素の形状等の組合せ等を考慮しつつ総合的な観点を踏まえ定まるものであることから、このことも考慮すれば、容易に創作することが当業者であっても困難であることは明らかであり、さらに、この差異点について、「軽微な改変」との評価にも当たり得ないこともまた明らかであるものと解する。」と主張しているが、 これについては、上記(無効理由1)の「(1)位置、大きさ、範囲について」で述べたのと同様、審判請求書第17頁第15 行~第33行に記載した通り、本件登録意匠の「背もたれの輪郭」が左右が上方にいくに従ってわずかに減少する「略台形形状」であることは、従来から公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)、および公知意匠5(甲第8号証)等に開示されているように、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であるので、本件登録意匠に加えられた改変は、当該意匠の属する分野における軽微な改変にすぎず、意匠の着想の新しさや独創性が何ら認められないものであるということができる。 また、「意匠登録を受けようとする部分の「位置」とは、意匠全体の中で、意匠登録を受けようとする部分がどのような位置(配置関係)にあるか」を判断するための要素であり、本件登録意匠の当該部分と公知意匠2の相当部分においては、ともに「同形状の椅子が3個横並びに配置されたベンチ」の「右端位置の椅子」であることから、本件登録意匠の当該部分と公知意匠2の相当部分のベンチ全体の中での「位置」は、同一又は意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであるということができる(「大きさ」および「範囲」も同様)。 したがって、被請求人の「公知意匠2との位置、大きさ、範囲の差異点は何ら公知意匠群において開示されてはおらず、置き換えること等の基礎的根拠が存していないということが前提となるものであることから、このことのみをもって、当業者であっても公知意匠2等から本件登録意匠の位置、大きさ、範囲を容易に創作するとは言い難いものと解され、加えて、位置、大きさ、範囲は、基本的構成態様、具体的構成態様を構成する各構成要素の形状等の組合せ等を考慮しつつ総合的な観点を踏まえ定まるものであることから、このことも考慮すれば、容易に創作することが当業者であっても困難であることは明らかであり、さらに、この差異点について、「軽微な改変」との評価にも当たり得ないこともまた明らかであるものと解する。」との主張は失当であるということができる。 (2)基本的構成態様(f)について 被請求人は、答弁書第26頁第18行~第26行において、「(f)について この差異点は、一見すれば、構成比率の変更等としてありふれた手法により創作されたにすぎないとも評価し得るものの、本件登録意匠は、プラスチックを風船状に膨らましてボリュームのある中空構造を成形するブロー成型で形成したものであって、この点に当業者の立場からみた意匠の着想の新しさや独創性が認められるものであって、加えて、この差異点を含めて形状等の組合せ等を考慮しつつ総合的な観点から創作されるものであることも鑑みれば、この差異点についての評価としては、公知意匠2等に基づいて、単なるありふれた手法、もしくは軽微な改変にはあたり得ないとの評価に値するものと解する。」と主張しているが、 これについては、上記(無効理由1)の「(3)基本的構成態様(f)について」で述べたのと同様、『審判請求書第17頁第34行~第18頁第21行に記載した通り、本件登録意匠の基本的構成態様(f)と公知意匠2の基本的構成態様(f)の差異点は、本件登録意匠の出願日前に既に知られていた公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)、および公知意匠5(甲第8号証)と近似する態様』であり、さらに本件登録意匠の出願日前に既に知られていた公知意匠6(甲第9号証)と略同一の態様であることから、本件登録意匠の基本的構成態様(f)に加えられた改変は、当該意匠の属する分野における軽微な改変にすぎず、意匠の着想の新しさや独創性が何ら認められないものであるということができる。 (3)具体的構成態様(h)について 被請求人は、答弁書第26頁第27行~第33行において、「(h)について 先に詳述したとおり、本件登録意匠は、背面視において、背もたれが柱状部材で上辺、左右辺の3方が囲まれ、該柱状部材が、背もたれ背面上部から座面底面前方まで連続し形成されている。これに対し、公知意匠2の背もたれ及び座は、きわめて薄い「薄板状」の折り返しが背裏・座裏の全周に設けられているものであることから、両意匠の(h)は全く異なっているものであって、更に他の公知意匠との関係でも同様であることから、この差異点が単なるありふれた手法、もしくは軽微な改変等には当たり得ない。」と主張しているが、 これについては、上記(無効理由1)の「(5)具体的構成態様(h)について」で述べたのと同様、『被請求人が異なると主張している「背面凹部形状」周辺の「所定の間隔幅(被請求人がいう「柱状部材」)』については、審判請求書第19頁第28行~第20頁第6行に記載した通り、本件登録意匠より「所定の間隔幅」がわずかに長い公知意匠1の他、本件登録意匠より「所定の間隔幅」がわずかに短い公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)および公知意匠5(甲第8号証)や、また本件登録意匠の出願日前に既に知られていた公知意匠6(甲第9号証)は「所定の間隔幅」が本件登録意匠の「所定の間隔」と略同一であり、さらに、本件登録意匠の出願日前に既に知られていた公知意匠7(甲第10号証)および公知意匠8(甲第11号証)についても背もたれ背面の「所定の間隔幅」が本件登録意匠の「所定の間隔幅」と極めて近似しており、本件登録意匠の「背面凹部形状」の周辺の「所定の間隔幅」については、本件登録意匠の「背面凹部形状」より長い態様、略同一の態様、わずかに短い態様など、本件登録意匠の出願日前からいろいろな態様のものが普通にみられる』ことから、本件登録意匠の基本的構成態様(h)に加えられた改変は、当該意匠の属する分野における軽微な改変にすぎず、意匠の着想の新しさや独創性が何ら認められないものであるということができる。 (4)具体的構成態様(i)について 被請求人は、答弁書第27頁第1行~第5行において、「(i)について この差異点(i)は、無効理由1において言及した古くからある形状であり、かつ「椅子」という物品において、当業者は共通するものでもあることから、(i)における差異点のみに着目するとすれば、古くからある形状(手法を含む)を単に採用した、若しくは軽微な改変に当たり得る。」と主張しているが、 これについては、上記(無効理由1)の「(7)具体的構成態様(i)について」で述べたのと同様であるので、本内容の記載は省略する。 (5)具体的構成態様(j)について 被請求人は、答弁書第27頁第6行~第14行において、「(j)について 先に差異点(h)等においても詳述したとおり、本件登録意匠は、背面視において、背もたれが柱状部材で上辺、左右辺の3方が囲まれ、該柱状部材が、背もたれ背面上部から座面底面前方まで連続し形成されているのに対し、公知意匠2の背もたれ及び座は、きわめて薄い「薄板状」の折り返しが背裏・座裏の全周に設けられているものであることから、両意匠の(h)は全く異なっているものであって、この(h)の結果として、(j)という差異点もあることから、論理必然的には、(h)同様、公知意匠2および他の公知意匠との関係で、同様のものは存してはいないことから、この差異点についても単なるありふれた手法、もしくは軽微な改変等には当たり得るものではない。」と主張しているが、 これについては、審判請求書第20頁第19行~第29行に記載した通り、上記した公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠4(甲第7号証)、公知意匠5(甲第8号証)とほぼ一致していることから、本件登録意匠の出願日前から普通にみられる態様であるので、本件登録意匠の基本的構成態様(j)に加えられた改変は、当該意匠の属する分野における軽微な改変にすぎず、意匠の着想の新しさや独創性が何ら認められないものであるということができる。」 (2)口頭審理陳述要領書(請求人2) 「5.陳述の要領 (無効理由1) (1)位置、大きさ、範囲について 被請求人は、被請求人要領書(2)第4頁第22行~第5第2行において、『しかしながら、「仮に」請求人主張のとおり、本件登録意匠の「背もたれの輪郭」が公知意匠2(甲第5号証)~公知意匠5(甲第8号証)等に開示されているように、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であるとしても、そのこと「のみ」をもって、新たな美感を生じさせるものではない、つまりは、要部を構成することがない、と認定することは、先に詳述したとおり、類否判断基準についての誤った理解に基づいてのものであり、失当と言わざるを得ない。』と主張しているが、 これについては、本件登録意匠の「背もたれ」と公知意匠2(甲第5号証)~公知意匠5(甲第8号証)等の「背もたれ」の輪郭の形状は少し異なっているが、意匠に係る物品である「椅子」(特に、「背もたれ」)自体の 「性質」、「用途」、「使用態様」にほとんど変わりがなく、さらに、審判請求書第17頁第15行~第33行に記載した通り、本件登録意匠の「背もたれの輪郭」は公知意匠2(甲第5号証)~公知意匠5(甲第8号証)等に開示されているように、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であることから、取引者及び需要者の注意を強く引く部分でもないことは明らかである。 このことから、請求人提出の口頭審理陳述要領書(以下、「請求人要領書」という)第2頁第11行~第17行に記載した通り、看者の印象を支配する程の新たな美感を生じさせるものではないのは明らかである。 また、被請求人は、被請求人要領書(2)第5頁第14行~第18行において、「被請求人の主張は「位置」として公知意匠1のそれと共通し得るとしてもその大きさ、範囲が公知意匠1のそれとは異なっており、これらもが「美感」に反映されることによって、公知意匠1のそれとは美感を異にするものであるということを主張しているのであって、請求人の主張は何ら反論として妥当するものではない。」と主張し、被請求人は、本件登録意匠の当該部分の「位置」と公知意匠1の相当部分の「位置」が共通していることは認め、本件登録意匠の当該部分の「大きさ」「範囲」については、公知意匠1の相当部分の「大きさ」「範囲」と異なると反論しているが、 これについて、本件登録意匠の当該部分の「大きさ」と公知意匠1の相当部分の「大きさ」は、「同形状の椅子が3個横並びに配置されたベンチ」全体の中に占める 「右端位置の椅子」の「大きさ」であるが、取引者及び需要者の注意を強く引く程の「大きさ」に差はなく、さらに、本件登録意匠の当該部分の「範囲」と公知意匠1の相当部分の「範囲」は、「同形状の椅子が3個横並びに配置されたベンチ」全体の中に占める「右端位置の椅子」の「範囲」であるが、取引者及び需要者の注意を強く引く程の「範囲」に差はないということができる。 このことから、請求人要領書第2頁第18行~第24行に記載した通り、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1の相当部分のベンチ全体の中での 「位置、大きさ、範囲」は、同一又は意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであるということができる。 (2)基本的構成態様(c)について 被請求人は、被請求人要領書(2)第5頁第27行~第6頁第2行において、「しかし、先に詳述したとおり、類否判断基準についての誤った理解に基づいてのみ基本的構成態様を評価するものであることから、失当と言わざるを得ない。」と主張しているが、 これについては、上記の「(1)位置、大きさ、範囲について」に記載した通り、本件登録意匠の「背もたれの輪郭」は、看者の印象を支配する程の新たな美感を生じさせるものではないということができる。 このことから、請求人要領書第3頁第4行~第8行に記載した通り、本件登録意匠の基本的構成態様(c)と公知意匠1の基本的構成態様(c)の差異点は、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であり、需要者に何ら視覚的に変わった印象を与えるものではなく、看者の印象を支配する程の新たな美感を生じさせるものではないので、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということができる。 (3)基本的構成態様(f)について 被請求人は、被請求人要領書(2)第6頁第10行~第13行において、「しかしながら、その他の請求人同様、基本的構成態様(f)「のみ」の評価に終始したものであって、類否判断基準についての誤った理解に基づいてのものであることは明らかであることから、これについても失当と言わざるを得ない。」と主張しているが、 これについては、本件登録意匠の「座面」と公知意匠2(甲第5号証)~公知意匠5(甲第8号証)等の「座面」の厚さ(高さ)が少し異なっているが、意匠に係る物品である「椅子」(特に、「座面」)自体の「性質」、「用途」、「使用態様」にほとんど変わりがなく、さらに、審判請求書第17頁第34行~第18頁第21行に記載した通り、本件登録意匠の「座面の厚さ(高さ)」については、本件登録意匠の出願日前に既に知られ存在していた公知意匠2(甲第5号証)~公知意匠5(甲第8号証)と近似する態様で、さらに公知意匠6(甲第9号証)と略同一の態様であり、さらに、本件登録意匠の構成態様(f)と公知意匠1の構成態様(f)の差異点である「座面側面の厚さ(高さ)」については、外部から観察した場合に座面側面の厚さ(高さ)がどうかは格別目立つ態様とはいえず、看者も気付かない程度の微細な違いであるので、看者の印象を支配する程の新たな美感を生じさせるものでもないことから、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということができる。 (4)基本的構成態様(g)について 被請求人は、被請求人要領書(2)第6頁第20行~第23行において、「しかしながら、その他の請求人同様、基本的構成態様(g)「のみ」の評価に終始したものであって、類否判断基準についての誤った理解に基づいてのものであることは明らかであることから、これについても失当と言わざるを得ない。」と主張しているが、 これについては、本件登録意匠の「背もたれ」と公知意匠2(甲第5号証)~公知意匠5(甲第8号証)等の「背もたれ」の「略S字形状」が少し異なっても、意匠に係る物品である「椅子」(特に、「背もたれの略S字形状」)自体の「性質」、「用途」、「使用態様」にほとんど変わりがなく、さらに、審判請求書第18頁第22行~第19頁第7行に記載した通り、本件登録意匠の「背もたれの略S字形状」について、本件登録意匠の出願日前に既に知られていた公知意匠2(甲第5号証)~公知意匠5(甲第8号証)と近似する態様であり、また本件登録意匠の構成態様(g)と公知意匠1の構成態様(g)の差異点である「背もたれの厚さ」については、外部から観察した場合に背もたれの厚さがどうかは格別目立つ態様とはいえず、看者も気付かない程度の微細な違いであるので、看者の印象を支配する程の新たな美感を生じさせるものでもないことから、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということができる。 (5)具体的構成態様(h)について 被請求人は、被請求人要領書(2)第7頁第7行~第10行において、「しかしながら、無効理由1は、公知意匠1との類否を問題としてのものであるはずであって、これに何ら関係し得るはずもない「単なる設計の問題にすぎず」という、いわゆる当業者の創作の観点からのような評価が正当化されるはずがない。」と主張しているが、 これについては、被請求人が指摘する 「単なる設計の問題にすぎず」の字句は重要な字句でないことから削除しても何ら問題はない。すなわち、審判請求書第19頁第28行~第20頁第6行に記載した通り、本件登録意匠より「所定の間隔幅」がわずかに長い公知意匠1の他、本件登録意匠より「所定の間隔幅」がわずかに短い公知意匠2(甲第5号証)、公知意匠3(甲第6号証)、公知意匠4(甲第7号証)および公知意匠5(甲第8号証)や、また本件登録意匠の出願日前に既に知られていた公知意匠6(甲第9号証)は「所定の間隔幅」が本件登録意匠の「所定の間隔」と略同一であり、さらに、本件登録意匠の出願日前に既に知られていた公知意匠7(甲第10号証)および公知意匠8(甲第11号証)についても背もたれ背面の「所定の間隔幅」が本件登録意匠の 「所定の間隔幅」と極めて近似しており、本件登録意匠の「背面凹部形状」の周辺の「所定の間隔幅」については、本件登録意匠の「背面凹部形状」より長い態様、略同一の態様、わずかに短い態様など、本件登録意匠の出願日前からいろいろな近似の態様のものが普通にみられ特異な形状でないことから、看者の印象を支配する程の新たな美感を生じさせるものではなく、また、「椅子の背もたれ背面」は「椅子」の背面であることから、その部分は本件登録意匠の「椅子」を見る者の注意をひきやすい部分ということができず、需要者に何ら視覚的に変わった印象を与えるものではなく、看者の印象を支配する程の新たな美感を生じさせるものでもないので、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1との両部分の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるということができる。 (6)具体的構成態様(j)について 被請求人は、被請求人要領書(2)第7頁第27行~第8頁第3行において、「しかしながら、その他の請求人同様、基本的構成態様(j)「のみ」の評価に終始したものであって、類否判断基準についての誤った理解に基づいてのものであることは明らかであることから、これについても失当と言わざるを得ない。」と主張しているが、 これについては、審判請求書、請求人要領書および上記において、十分説明してるので繰り返しの説明は省略する。 (7)具体的構成態様(i)について 被請求人は、被請求人要領書(2)第8頁第11行~第9頁第4行において、「しかしながら、例えば、以下に図示する意匠登録第1115726号の正面図における座面の輪郭形状は、公知意匠1のそれとほぼ同一であるのであることは一目見て容易に認識できる。また、請求人主張に基づけば本件登録意匠の座面中央部分の輪郭形状は、公知意匠1のそれとほぼ同一であるということであるが、本件登録意匠の座面中央部分の輪郭形状と、該意匠登録第1115726号の座面の中央部分の断面図における輪郭形状に大きな相違がないことは以下のとおり容易に認識し得る。以上を踏まえると、意匠登録第1115726号と本件登録意匠、公知意匠1の椅子の中央部の形状がかなり相違していると評価し得る評価根拠事実が何ら示されていないことから、請求人主張は、その主張に何ら根拠がないと言わざるを得ない。」と主張しているが、 これについては、請求人要領書第6頁第16行~第7頁第30行に記載した通り、意匠登録第1151653号等は、変形可能な弾力性を有する座面の「デスク用椅子」に対し、本件登録意匠は、変形不可能な硬さを有する座面の「スタジアム観覧席」である点で相違し、さらに、意匠登録第1151653号等は、前方中央部から後方に向けて山型に上部に膨らんだ横幅が広い柔軟性を有する先端丸み山型形状の「太腿内側支持部」が形成されているのに対し、本件登録意匠は、前方中央部から後方に向けて山型に上部に突出した横幅が狭い変形不可能な硬さを有する先鋭突出山型形状の「太腿内側支持部」が形成されているところが相違している。 このように、本件登録意匠の意匠に係る物品である「椅子」は、「スタジアム等の観覧席に使用されるもの(性質(性状))」で、「観客がスポーツ等を観戦する際に座るもの(用途)」で、「スポーツ等を観戦する際に観客が座って使用するもの(使用態様)」であるのに対し、意匠登録第1151653号等の意匠に係る物品である「椅子」は、「デスクで勉強(作業)する際に使用するもの (性質(性状))」で、「勉強(作業)する際に快適に座るもの (用途)」で、「勉強(作業)する際に快適に座って使用するもの (使用態様)」であることから、 本件登録意匠の意匠に係る物品である「椅子」は、意匠登録第1151653号等の意匠に係る物品である「椅子」と、「性質(性状)」、「用途」、「使用態様」が異なり、また、本件登録意匠は、公知意匠にない新規な『横幅が狭い変形不可能な硬さを有する先鋭突出山型形状の「太腿内側支持部」』の部分を有するものであり、そして、横幅が狭い変形不可能な硬さを有する先鋭突出山型形状の「太腿内側支持部」は、座面の中央部という需要者が非常に目につきやすく目立つ位置にあることから、本件登録意匠の意匠に係る物品(「椅子」)について需要者の注意を惹き付ける部分であるということができる。 このことから、被請求人により紹介された裁判例『「(東京地裁(46部)平成20年2月19日(平成19年(ワ)1972)」、「東京地裁 平成19年3月23日 平成16年(ワ)24626」』からも明らかなように、本件登録意匠の具体的構成態様(i)は、「意匠の要部」であるということができる。 (無効理由2) 被請求人は、被請求人要領書(2)において、無効理由2についての反論も述べているが、これについては、審判請求書、請求人要領書および上記において、十分説明していることから繰り返しの説明は省略する。」 2 被請求人の主張 被請求人は、被請求人陳述要領書に基づき、要旨、以下のとおり意見を述べた。 (1)口頭審理陳述要領書 「令和7年2月18日付け審理事項通知書に示された事項に対し、被請求人は、以下の通り陳述する。 請求人の審判請求書の主張に対する意見等は、現時点では、令和7年2 月7日付け答弁書において詳述したとおりである。」 (2)口頭審理陳述要領書(2) 「第1 . 無効理由1 について 1 .類否の判断基準についての請求人の理解の誤り 要領書および先に提出されている審判請求書も踏まえると、請求人は、類否の判断基準が、いわゆる要部において構成態様を共通にするか否か、であると理解していると解される。 この類否の判断基準それ自体に争いはない。 しかし、この類否判断基準についての請求人の理解、すなわち、「公知意匠にみられる形態であれば、そのような形態が要部を構成することはない」との理解は誤りである。 このことは、既に答弁書でも指摘したことであるが、無効理由の有無を検討するにあたっての大前提であり重要であることから改めて指摘する。 意匠の類否判断基準を定める意匠法24条2項は、平成18年改正において明定されたものであり、この改正後の最初の裁判例(東京地裁(46部) 平成20年2月19日(平成19年(ワ)1972)において意匠の類否判断基準は以下のとおり示されている。 「意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して、意匠に係る物品について需要者の注意を惹き付ける部分を意匠の要部として把握し、両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきものである。」 その後、現在に至るまでのいずれの裁判例においても、前掲の類否判断基準と同一判断基準が示されている。 そのため、この類否判断基準それ自体は、争う余地がないといえるに等しいと解される。 ここで、前掲の類否判断基準において「公知意匠にない新規な創作部分の存否等」との言及があるが、その直後に、「参酌」するとされ、かつ、その直前には、「意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには」ともされていることから、「公知意匠にない新規な創作部分の存否等」は、その他列記された前掲の「意匠に係る物品の性質、用途、使用態様」と何ら差があるものではない、要部を把握するための1つの考慮要素であることは明らかであり、換言すれば、「公知意匠にない新規な創作部分の存否等」のみをもって要部と把握されるべきものでないことは明らかである。 このことは、知財高裁 平成29年1月11日判決 平成28年(行ケ)第10153号において、以下のとおり示されていることも根拠づけている(下線部分は被請求人において付記したものである)。 「(3)の主張は、要するに、「本体部及び蓋部の外観全体に凹凸形状が形成された」点は、本件登録意匠の出願前に既に複数公知であるから、類否判断を行う上で重視すべきではないとの主張と解されるが、複数公知になるだけで直ちに意匠上の要部でなくなるとはいえず(ヒット商品こそ、往々にして模倣品が現れることを考えれば当然である。)」 また、前掲の判例以前も、例えば、以下のように公知の部分が意匠の要部を構成し得ることを述べている。 【東京地裁 平成19年3月23日 平成16年(ワ)24626】(下線部分は被請求人において付記したものである) 「登録意匠の要部とは、登録意匠のうち、物品の性状、用途、使用態様などからみて、取引者及び需要者の注意を強く引く部分をいうのであり、公知意匠の組合せあるいは公知意匠と新規な意匠との組合わせにより意匠が創作されることもあり得ることからしても、単に公知意匠であるというだけで、登録意匠の要部となり得ないとする理由はない」 以上詳述したとおり、この類否判断基準についての請求人の理解、すなわち、「公知意匠にみられる形態であれば、そのような形態が要部を構成することはない」との理解は誤っていることは明らかであるから、この誤った理解に基づく本件登録意匠に関する類否判断の請求人主張、すなわち、要領書および審判請求書における主張は、そのいずれもが失当であると言わざるを得ない。 2 .要領書における各主張(無効理由1)についての反論 (1)「(1)位置、大きさ、範囲について」について 請求人は、審判請求書第17頁第15行~第33行に記載した通りとして、本件登録意匠の「背もたれの輪郭」が公知意匠2から公知意匠5等に開示されているように、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であり、新たな美感を生じさせるものではないことは明らかと主張する。 しかしながら、「仮に」請求人主張のとおり、本件登録意匠の「背もたれの輪郭」が公知意匠2から公知意匠5等に開示されているように、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であるとしても、そのこと「のみ」をもって、新たな美感を生じさせるものではない、つまりは、要部を構成することがない、と認定することは、先に詳述したとおり、類否判断基準についての誤った理解に基づいてのものであり、失当と言わざるを得ない。 また、請求人は、「意匠登録を受けようとする部分の「位置」とは、意匠全体の中で、意匠登録を受けようとする部分がどのような位置(配置関係)にあるか」を判断するための要素であり、本件登録意匠の当該部分と公知意匠1の相当部分は「同形状の椅子が3個横並びに配置されたベンチ」の「右端位置の椅子」で共通し、被請求人もこれを認めるものであることから、被請求人の主張は失当であると主張する。 しかしながら、本件登録意匠のようないわゆる部分意匠の類否についても意匠法24条2項が適用され、これについて裁判例が示す具体的な類判断基準が同様に類否判断の基準となるのであるから、「位置、大きさ、範囲」についても「美感」に反映することによって考慮されるものであって、請求人が主張するような単に配置関係をいうものではない。 被請求人の主張は「位置」として公知意匠1のそれと共通し得るとしてもその大きさ、範囲が公知意匠1のそれとは異なっており、これらもが「美感」に反映されることによって、公知意匠1のそれとは美感を異にするものであるということを主張しているのであって、請求人の主張は何ら反論として妥当するものではない。 よって、位置、大きさ、範囲についての請求人主張はいずれも失当と言わざるを得ない。 (2)「(2)基本的構成態様(c)について」について 請求人は、審判請求書第17頁第15行~第33行に記載した通りとして、本件登録意匠の基本的構成態様(c)と公知意匠1の基本的構成態様(c)との差異点は、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であり、(それのみが)需要者に何ら視覚的に変わった印象を与えるものではないため、類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であると主張する。 しかし、先に詳述したとおり、類否判断基準についての誤った理解に基づいてのみ基本的構成態様を評価するものであることから、失当と言わざるを得ない。 (3)「(3)基本的構成態様(f)について」について 請求人は、審判請求書第17頁第34行~第18頁第21行に記載した通りとして、基本的構成態様(f)の差異点は、公知意匠2から公知意匠5 等と近似する態様であって、さらに公知意匠6と略同一の態様であり、また、格別目立つ態様とはいえず、看者も気付かない程度の微細な違いであり、何ら視覚的に変わった印象を与えるものではないため、類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であると主張する。 しかしながら、その他の請求人同様、基本的構成態様(f)「のみ」の評価に終始したものであって、類否判断基準についての誤った理解に基づいてのものであることは明らかであることから、これについても失当と言わざるを得ない。 (4)「(4)基本的構成態様(g)について」について 請求人は、審判請求書第18頁第22行~第19頁第7行に記載した通りとして、基本的構成態様(g)の差異点は、公知意匠2から公知意匠5等と近似する態様であって、また、格別目立つ態様とはいえず、看者も気付かない程度の微細な違いであり、何ら視覚的に変わった印象を与えるものではないため、類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であると主張する。 しかしながら、その他の請求人同様、基本的構成態様(g)「のみ」の評価に終始したものであって、類否判断基準についての誤った理解に基づいてのものであることは明らかであることから、これについても失当と言わざるを得ない。 (5)「(5)具体的構成態様(h)について」について 請求人は、具体的構成態様(h)について、要するに、公知意匠1から公知意匠7が本件登録意匠の出願日前に既に知られていたことをもって、いろいろな態様のものが普通にみられることから、単なる設計の問題にすぎず、新たな美感を生じさせるものではなく、また、椅子の背面であることから、その部分は見る者の注意をひきやすい部分ともいえず、需要者に何ら視覚的に変わった印象を与えるものではないことから、類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であると主張する。 しかしながら、無効理由1は、公知意匠1との類否を問題としてのものであるはずであって、これに何ら関係し得るはずもない「単なる設計の問題にすぎず」という、いわゆる当業者の創作の観点からのような評価が正当化されるはずがない。 また、いろいろな態様があることをもって、新たな美感を生じさせるものではないという主張についても、(そもそも主張論理が不明であるが)「仮に」いろいろな態様があるとしても、いずれの態様から生じる美観は全て同じであるという意味において新たな美感が生ずるものではない、という主張であると解釈するとしても、態様毎に美感に反映されるべき構成要素が異なるのであるから、これらを纏めて1つの美感と評価し得る訳もない。 加えて、椅子の背面であることから、その部分は見る者の注意をひきやすい部分ともいえないとも主張するが、先の答弁書で主張しているとおり類否判断の判断主体と設置態様等をも踏まえれば、単に椅子の背面であるため、見る者の注意をひきやすい部分とは言えないとは認定し得るはずもない。 そのため、これらを踏まえた上で類否判断に与える影響が極めて微弱であるとの評価に至り得るべき妥当性が皆無であることは明らかである。 (6)「(6)具体的構成態様(j)について」について 請求人は、審判請求書第20頁第19行~第29行に記載した通りとして、基本的構成態様(j)の差異点は、本件登録意匠の出願日前から普通にみられる状態であるので、類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であると主張する。 しかしながら、その他の請求人同様、基本的構成態様(j)「のみ」の評価に終始したものであって、類否判断基準についての誤った理解に基づいてのものであることは明らかであることから、これについても失当と言わざるを得ない。 (7)「(7)具体的構成態様(i)について」について 請求人は、被請求人が提示した意匠登録第0598658号等の意匠公報に開示されている椅子の座面は「前方中央部から左側右側輪郭辺まで円弧状に滑らかに傾斜する湾曲面で形成されている」のみであるのに対し、本件登録意匠および公知意匠1の座面は、「前方中央部から後方に向けて山型に上部に突出した形状の「太腿内側支持部」が形成されたもの」であることから、椅子の中央部の形状がかなり相違していると主張する。 しかしながら、例えば、以下に図示する意匠登録第1115726号の正面図における座面の輪郭形状は、公知意匠1のそれとほぼ同一であるのであることは一目見て容易に認識できる。 (当審注:図省略。) また、請求人主張に基づけば本件登録意匠の座面中央部分の輪郭形状は、公知意匠1のそれとほぼ同一であるということであるが、本件登録意匠の座面中央部分の輪郭形状と、該意匠登録第1115726号の座面の中央部分の断面図における輪郭形状に大きな相違がないことは以下のとおり容易に認識し得る。 (当審注:図省略。) 以上を踏まえると、意匠登録第1115726号と本件登録意匠、公知意匠1の椅子の中央部の形状がかなり相違していると評価し得る評価根拠事実が何ら示されていないことから、請求人主張は、その主張に何ら根拠がないと言わざるを得ない。 (強いてその主張の意義を認定し得るとしても、座面中央部分のみの膨らみをその膨らみに着目して山型と表現するか、もしくは中央部分の膨らみの周辺に着目して円弧状と表現しているというような同じ形状のものについて表 現を変えた主張程度のものと認定し得るにすぎない。) また、請求人は、意匠登録第1151653号と本件登録意匠についての相違についても主張するが、被請求人がこの登録例を示した意義は、請求人が主張する「今までにない極めて特異な形状」との評価に至り得る事実が先のとおり何ら存していないことに加え、この座面中央部分に膨らみを設けるという発想それ自体は椅子一般において過去より広く採用されているものであって(その具体的形態が意匠登録第1151653号等と異なるとしても)、その相違の程度は、請求人が自認するように横幅の広狭程度のものにすぎないのであるから、このことをもって、請求人の主張する「今までにない極めて特異な形状」であるとは到底評価し得るものではないことが別に根拠づけられているということにあるのであって、請求人の主張は結局、相違があるということ程度のものに留まるにすぎず、その相違が今までにないようなもの等と請求人の主張を根拠づけるには足りるものではないことは明らかである。 よって、いずれにせよ、「今までにない極めて特異な形状」との請求人の主張に妥当性を見出し得ないことは明らかである。 (8)小括について((7)具体的構成態様(i)最終3段落について) 請求人は、具体的構成態様(i)以外は、本件登録意匠の出願日前から極く普通にみられる態様であるのに対し、具体的構成態様(i)は目立つ位置にあり、今までにない極めて特異な形状であるので、本件登録意匠の要部であると主張するが、この主張の前提としての類否判断基準についての請求人人の理解には、公知意匠にない新規な部分「のみ」が要部を構成し得る、というような、そもそもとして類否判断の基準および要部についての理解に大きな誤りがあることは明らかであることから、請求人の主張は、結論としての小括を含め、いずれもが妥当性を欠くものとして失当とされるべきことは明らかである。 (9)改めての主張(美感の差異について) 先の答弁書において詳述しているところであるが、改めて美感の差について述べておく。 公知意匠1は、成型性を良好にすることを主眼とした従来品であって、厚く、角も大きく丸みをおびていることから、重厚感・重量感という美感を生じさせるものであるところ、これに対して本件登録意匠は、従来品とは異なる現代的かつ薄さを体現したものであることから、現代的であって、かつソリッドでスマートな美感を生じさせるものである。 また、その位置、大きさ、範囲において両意匠は前述のとおり差異が顕著に存するところ、これによって、本件登録意匠は、椅子の間に空間が作られ、一席ずつのパーソナル感という美感をも生じさせるものであるところ、公知意匠1のような従来品にはその構成態様および位置、大きさ、範囲から、そのような美感を生じ得ない。 このように、両意匠には答弁書において詳述した差異点があることに加え、それぞれの意匠から生じる美感にも顕著な差異が存することはその形態のみをもっても明らかであり、このことは判断主体、設置態様をも考慮すれば尚更容易に認識できるものである。 第2.無効理由2について 1.要領書における各主張(無効理由2)についての反論 (1)「(1)位置、大きさ、範囲について」について 先に詳述したとおり、位置、大きさ、範囲というのは、「美感」に反映することによって考慮されるものであり、また、答弁書においても主張したとおり意匠が意匠に係る物品の形状等に基づいた外観であることから、美感の創作非容易性、つまりは美感の差異をも考慮すべきことも当然である(平成20年(行ケ)第10069号等)。 よって、位置、大きさ、範囲について、単に意匠登録を受けようとする部分がどのような位置(配置関係)にあるかを特定するためのものとするに留まるに過ぎないとの請求人の主張は、この被請求人主張に対しての反論となっておらず、また、その主張の妥当性はそもそもとして見出し難いことから失当と認定されるべきである。 (2)「(2)基本的構成態様(f)について」について 請求人は、審判請求書第17頁第34行~第18頁第21行に記載した通りとして、基本的構成態様(f)の差異点は、公知意匠2から公知意匠5 と近似する態様であり、さらに本件登録意匠の出願日前に既に知られていた公知意匠6と略同一であることから、軽微な改変すぎず、着想の新しさや独創性が何ら認められないと主張する。 しかしながら、その主張は請求人の主張する成型方法の相違を捨象するものに過ぎず、なぜその成型方法の相違が捨象されるべきであるのかについて合理性を見出せる反論ではないことから、単に自身の主張を重ねるものに過ぎず反論として認められるものではない。 加えて、被請求人は、この差異点を含めて形状等の組合せ等を考慮しつつ総合的な観点から創作されるべき視点をも踏まえて主張しているにも関わらず、これについても何ら反論はしていない。 そのため、請求人の主張には何ら合理的根拠を見出すことは困難であり、その反論が認められるに値するものではないことは明らかである。 (3)「(3)具体的構成態様(h)について」について 請求人は、審判請求書第19頁第28行~第20頁第6行に記載した通りとして、具体的構成態様(h)の差異点は、公知意匠2から公知意匠8を踏まえれば、軽微な改変にすぎず、意匠の着想の新しさや独創性が何ら認められないと主張する。 しかしながら、公知意匠2の背もたれ及び座は、きわめて薄い「薄板状」の折り返しが背裏・座裏の全周に設けられているものであって、請求人の主張するような所定の間隔幅の幅の相違という捉え方それ自体し得るものではないことを答弁書において主張しているのであって、この主張の当否を検討することなく、審判請求書同様の主張を繰り返す請求人主張に妥当性を見出し得るはずがなく、その主張自体失当と言わざるを得ない。 (4)「(4)具体的構成態様(i)について」について 先に主張したとおりであることから省略する。 (5)「(5)具体的構成態様(j)について」について (3)で述べたとおり、公知意匠2の背もたれ及び座は、きわめて薄い「薄板状」の折り返しが背裏・座裏の全周に設けられているものであって、請求人の主張するような所定の間隔幅の幅の相違という捉え方それ自体し得るものではないことを答弁書において主張しているのであって、この主張の否を検討することなく、具体的構成態様(h)同様、審判請求書同様の主張を繰り返す請求人主張に妥当性を見出し得るはずがなく、その主張自体失当と言わざるを得ない。 (6)改めての主張(美感の差異について) 先に答弁書で詳述したとおりであるが、重要であるため、改めて主張する。 意匠が意匠に係る物品の形状等に基づいた外観であることから、美感を認定、特定するために物品の形状等の創作が容易であったか否かを判断するという意味においては、前述した差異点を認定、評価することにも(審査基準に示されるとおり) 妥当性があるものの、意匠が意匠に係る物品の外観であることから、美感の創作非容易性、つまりは美感の差異をも考慮すべきこともまた当然である(平成20年(行ケ)第10069号等)。 これを、本件登録意匠と公知意匠2についてみると、本件登録意匠は、これまで詳述したとおり、全体に厚みのある背座に加え、背裏が小口面と一体の幅広の「柱状」で3方が囲まれていることによって、全体に厚みのあるソリッドな美感を生じさせるのに対し、公知意匠2は、板状の背座に、きわめて薄い板状の折り返しが背裏・座裏の全周に設けられていることによって、全体が板部材で構成、形作られたシャープな美感を生じさせていることから、両意匠からそれぞれ生ずる美感の差異は顕著であることは明らかである。 そして、その他の公知意匠についてみても、本件登録意匠同様の構成態様を備えたものは何ら存していないことから本件登録意匠同様の美感を生じさせるものも何ら存してはいない。 そうすると、公知意匠2を含めた美感の差異の程度は大きくこのことをも考慮すれば、当業者であっても容易に創作することのできない、意匠登録が認められてしかるべき高度の創作性が認められることも明らかである。」 3 審判長 審判長は、この口頭審理において甲第1号証から甲第11号証について取り調べ、本件審理を終結した。(令和7年3月13日付け「第1回口頭審理調書」) 第5 当審の判断 1 本件登録意匠 本件登録意匠(意匠登録第1756191号、甲第1号証、別紙第1参照)は、願書及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「椅子」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形状等」という。)を、願書及び願書に添付した図面に表されたとおりとし、物品の部分について意匠登録を受けようとする部分(以下「本件意匠部分」という。)を、「赤色に着色された箇所を除く部分が、意匠登録を受けようとする部分である。「A-A断面図」「B-B断面図」に表された青色は、断面形状のみを表すものである。」としたものである。 (1)本件登録意匠の意匠に係る物品 本件登録意匠の意匠に係る物品は、ベンチとして公共施設に設置して使用される「椅子」である。 (2)本件意匠部分の用途及び機能 本件意匠部分の用途及び機能は、脚を除いた背板一体型の座板(座部)であって、座面に腰掛け、背板を背もたれとして使用するものである。 (3)本件意匠部分の位置、大きさ及び範囲 本件意匠部分の位置は、横に3個取り付けた座部のうち、正面視右端の座部で、脚に対して若干背面側に傾斜した位置で、上面視において全体の約1/3を占め、背板の正面中央上端近傍の略横長長方形の小エリア及び座部の上面中央背面寄りの略正方形の小エリアを除いた大きさ及び範囲である。 (4)本件意匠部分の形状等 a 全体 全体は、側面視略「L」字状に曲がった略縦長矩形板で、座部と背板は弧状に接続し、背板は、座部の下辺に対してやや背面側に傾斜している。 正面視において、縦、横及び奥行きの長さの比率は、約1:1.2:1.3で、側面視において、背板の正面側の傾斜角度は、約10度である。 b 座部 全体は、左右にやや略凹弧状に湾曲し、座面は正面側から奥側に向かって緩やかな下傾斜面としている。 正面視において、上辺は真ん中が僅かに盛り上がっている。 上面視において、上辺は略凸弧状に湾曲し、下辺は若干略凸弧状に湾曲し、上面の下辺中央から真ん中寄りまで略縦筋状の浅い凸条を形成している。 側面視において、上辺は正面側に僅かに傾斜し、下辺は先端が小さく弧状に突出している。 底面視において、上辺は若干略凸弧状に湾曲し、下辺は略凸弧状に湾曲し、底面は上端及び左右端に余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 c 背板 正面視において、上辺は略凹弧状に湾曲し、左右辺はやや内側に傾斜している。左右辺の傾斜角度は約4度である。 上面視において、全体は略凸弧状に湾曲している。 側面視において、上辺は背面側下方に傾斜し、正面側の辺は緩やかな略凸弧状に膨出し、背面側の辺はごく僅かに略凹弧状に凹ませて上端に略矩形状の小さな突起を形成している。 背面視において、上辺は略凹弧状に湾曲し、左右辺はやや内側に傾斜し、下辺は両端を斜めに切り欠いてその内側を浅い段差状に凹ませ、背面は上端に細幅の余地と左右端に上端の余地より3倍程度幅広の余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。左右辺の傾斜角度は約4度である。 2 無効理由の要点 請求人が主張する無効理由の要旨は、以下のとおりである。 (1)無効理由1 本件登録意匠は、「本件意匠登録出願前に公然知られ(甲第4号証の1~甲第4号証の11)、本件意匠登録出願前に頒布された刊行物(甲第3号証の1~甲第3号証の5)に記載された意匠に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべき」である。 (2)無効理由2 本件登録意匠は、「本件意匠登録出願前に公然知られ(甲第4号証の1~甲第4号証の11)、本件意匠登録出願前に頒布された刊行物(甲第3号証の1~甲第3号証の5、甲第5号証~甲第11号証)に記載された形状等に基づいて当業者が容易に創作できたものであるから、同法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべき」である。 3 無効理由の判断 (1)無効理由1 請求人は、前記2(1)のとおり主張しているから、以下、本件登録意匠が、甲第3号証の意匠及び甲第4号証の意匠と類似する意匠であるか否かについて検討し、判断する。 a 証拠の説明 (a)甲第3号証の意匠及び甲第4号証の意匠 甲第3号証(別紙第2参照)は、枝番(1~5の1)と合わせて全部で10証拠からなるものであって、その内訳は、本件登録意匠の意匠登録出願前である、平成25年(2013年)12月~令和3年(2021年)12月にモリマーキンキ株式会社(請求人)が公開した内国カタログ「ベンチコレクションVol.15」~「ベンチコレクションVol.19」及びカタログリストであり、本審決においては、甲第3号証に記載の意匠のうち、品番「KB-6210N」として現される「椅子」の意匠を甲第3号証の意匠(以下「甲3意匠」という。)と特定する。 甲第4号証(別紙第3参照)は、枝番(1~11)と合わせて全部で13証拠からなるものであって、その内訳は、モリマーキンキ株式会社(請求人)が、本件登録意匠の意匠登録出願前である、平成28年(2016年)6月15日~令和4年(2022年)9月22日に品番「KB-6210N」の椅子を取引先に納入した証拠(納品書)及び愛知株式会社のホームページ(Webサイト)に掲載された「カタログ」の一部(甲第4号証の1の1)であり、意匠が現されているのは、甲第4号証の1の1の品番「ABM-K62N-FF」として現される「椅子」の意匠のみである。そして、令和6年6月30日に提出された証拠説明書によれば、甲第4号証の1の1の意匠(以下「甲4意匠」という。)は、甲3意匠と同一のものである旨説明されているところ、特段、疑義のある点は見られず、実質的に同じものであると認定して差し支えないものであるから、甲3意匠及び甲4意匠から導き出される一の意匠を「公知意匠1」と認定し、公知意匠1の本件意匠部分に相当する部分(以下「公1部分」という。)について、以下のとおり認定する。 なお、公1部分の認定に際して、適宜、甲第2号証(品番「KB-6210N」の「椅子」の写真、別紙第4参照)を参酌する。 i 公知意匠1の意匠に係る物品 公知意匠1は、ベンチとしてスタジアム等の公共施設に設置して使用される「椅子」である。 ii 公1部分の用途及び機能 公1部分の用途及び機能は、脚を除いた背板一体型の座板(座部)であって、座面に腰掛け、背板を背もたれとして使用するものである。 iii 公1部分の位置、大きさ及び範囲 公1部分の位置は、横に4個取り付けた座部のうち、正面視右端の座部で、脚に対して若干背面側に傾斜した位置で、上面視において全体の約1/4を占め、背板の正面中央上端近傍の略横長長方形の小エリア及び座部の上面中央背面寄りの略正方形の小エリアを除いた大きさ及び範囲である。 iv 公1部分の形状等 (i)全体 全体は、側面視略「L」字状に曲がった略縦長矩形板で、座部と背板は弧状に接続し、背板は、座部の下辺に対してやや背面側に傾斜している。 正面視において、縦、横及び奥行きの長さの比率は、約1:1.2:1.3で、側面視において、背板の正面側の傾斜角度は、約18度である。 (ii)座部 全体は、略水平で、 正面視において、上辺は真ん中が僅かに盛り上がっている。 上面視において、上辺は略凸弧状に湾曲し、下辺は略水平で、上面の下辺中央から真ん中寄りまで略縦筋状の浅い凸条を形成している。 側面視において、上辺は略水平で、下辺は先端が小さく弧状に突出している。 底面視において、上辺は略水平で、下辺は略凸弧状に湾曲し、底面は周縁に余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 (iii)背板 正面視において、上辺はごく僅かに略凸弧状に湾曲し、左右辺は略垂直で、正面の上から半分弱に横の稜線(屈曲線)を形成している。 上面視において、全体が略凸弧状に湾曲している。 側面視において、上辺は背面側上方に傾斜し、正面側の辺は上から半分弱を斜辺状とし、その下側全体を緩やかな略凹弧状とし、背面側の辺は僅かに略凸弧状に膨出し上端に略矩形状の小さな突起を形成している。 背面視において、上辺はごく僅かに略凸弧状に湾曲し、左右辺は略垂直で、下辺は略凹弧状に湾曲し、背面は上端に太幅の余地と左右端に上端の余地より2倍程度幅広の余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませ、上端中央に略横長長方形の浅い凹みを形成している。 b 本件登録意匠と公知意匠1の対比 (a)本件登録意匠と公知意匠1の意匠に係る物品 本件登録意匠と公知意匠1の意匠に係る物品は、どちらも、ベンチとして用いられる「椅子」であるから、一致する。 (b)本件意匠部分と公1部分の用途及び機能 本件意匠部分と公1部分(以下「両部分」ともいう。)の用途及び機能は、どちらも、脚を除いた背板一体型の座板(座部)であって、座面に腰掛け、背板を背もたれとして使用するものであるから、一致する。 (c)本件意匠部分と公1部分の位置、大きさ及び範囲 位置について、両部分は、横に複数個取り付けた座部のうち正面視右端の座部であるから一致し、大きさ及び範囲は、本件意匠部分は、上面視において全体の約1/3の大きさ及び範囲で、公1部分は、上面視において全体の約1/4の大きさ及び範囲であるから類似する。 したがって、両部分の位置、大きさ及び範囲は、類似する。 (d)本件意匠部分と公1部分の形状等 本件意匠部分と公1部分の形状等は、主として、以下の共通点と相違点がある。 i 共通点 (共通点1)全体について、両部分は、側面視略「L」字状に曲がった略縦長矩形板で、座部と背板は弧状に接続し、背板は、座部の下辺に対してやや背面側に傾斜し、縦、横及び奥行きの長さの比率がほぼ一致している点、 (共通点2)座部について、正面視において、上辺の真ん中が僅かに盛り上がり、上面視において、上辺が略凸弧状に湾曲し、上面の下辺中央から真ん中寄りまで略縦筋状の浅い凸条を形成し、側面視において、下辺の先端が小さく弧状に突出し、底面視において下辺が略凸弧状に湾曲し、底面の真ん中が略矩形状に浅く凹んでいる点、 (共通点3)背板について、上面視において、全体が略凸弧状に湾曲し、側面視において、背面側の辺の上端に略矩形状の小さな突起を形成し、背面視において、背面が上端と左右端に余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている点、 において共通している。 ii 相違点 (相違点1)背板の正面側の傾斜角度について、本件意匠部分は、約10度であるのに対し、公1部分は、約18度である点、 (相違点2)座部について、 [1]全体において、本件意匠部分は、左右にやや略凹弧状に湾曲し、座面を正面側から奥側に向かって緩やかな下傾斜面としているのに対し、公1部分は、略水平で、 [2]上面視において、本件意匠部分は、下辺が若干略凸弧状に湾曲しているのに対し、公1部分は、下辺が略水平で、 [3]側面視において、本件登録部分は、上辺が正面側に僅かに傾斜しているのに対し、公1部分は、上辺が略水平で、 [4]底面視において、本件登録部分は、上辺が若干略凸弧状に湾曲し、底面中央の凹陥の上端及び左右端に余地を設けているのに対し、公1部分は、上辺が略水平で、底面中央の凹陥の周縁に余地を設けている点、 (相違点3)背板について、 [1]正面視において、本件意匠部分は、上辺が略凹弧状に湾曲し、左右辺がやや内側に傾斜しているのに対し、公1部分は、上辺がごく僅かに略凸弧状に湾曲し、左右辺が略垂直で、正面の上から半分弱に横の稜線(屈曲線)を形成し、 [2]側面視において、本件登録部分は、上辺が背面側下方に傾斜し、正面側の辺が緩やかな略凸弧状に膨出し、背面側の辺がごく僅かに略凹弧状に凹んでいるのに対し、公1部分は、上辺が背面側上方に傾斜し、正面側の辺が上から半分弱を斜辺状とし、その下側全体を緩やかな略凹弧状とし、背面側の辺を僅かに略凸弧状に膨出させ、 [3]背面視において、本件登録部分は、上辺が略凹弧状に湾曲し、左右辺がやや内側に傾斜し、下辺の両端を斜めに切り欠いてその内側を浅い段差状に凹ませ、背面の上端の余地は細幅で左右の余地はこれより3倍程度幅広であるのに対し、公1部分は、上辺をごく僅かに略凸弧状に湾曲させ、左右辺を略垂直とし、下辺を略凹弧状に湾曲し、背面の上端の余地は太幅で左右の余地はこれより2倍程度幅広で、上端中央に略横長長方形の浅い凹みを形成している点、 において相違している。 c 本件登録意匠と公知意匠1の類否判断 (a)本件登録意匠と公知意匠1の意匠に係る物品 本件登録意匠と公知意匠1の意匠に係る物品は一致するから、同一である。 (b)本件意匠部分と公1部分の用途及び機能 両部分の用途及び機能は一致するから、同一である。 (c)本件意匠部分と公1部分の位置、大きさ及び範囲 両部分の位置は一致し、大きさ及び範囲は類似するから、両部分の位置、大きさ及び範囲は、類似する。 (d)本件意匠部分と公1部分の共通点及び相違点の評価 両部分は、公共施設に設置されるベンチの「椅子」であるから、需要者は、主に公共施設の施工主であり、これに加え、施工業者及びベンチの取引業者が含まれる。 したがって、まず、施工主の関心が高い利用者の視点や施設全体に与える印象や雰囲気にしたがい、目に付きやすい座部の上面(座面)や背板の正背面の態様について評価し、かつそれ以外の形状等も併せて、各部を総合して意匠全体として形状等を評価することとする。 i 共通点の評価 (共通点1)全体について、この種物品の分野においては、全体を、側面視略「L」字状に曲がった略縦長矩形板で、座部と背板を弧状に接続し、背板を、座部の下辺に対してやや背面側に傾斜し、縦、横及び奥行きの長さの比率を、約1:1.2:1.3としたものが、本件登録意匠の出願前から公然知られていることから(例えば、意匠登録第1696968号の「椅子」の意匠、甲第5号証。)、格別、需要者が注意を惹くものとはいえず、両部分の類否判断に与える影響は小さい。 (共通点2)座部について、当該物品の分野においては、正面視上辺の真ん中が僅かに盛り上がったものが、本件登録意匠の出願前から公然知られており(例えば、意匠登録第1115726号の「椅子」の意匠、別紙第5参照。)、また、上面視上辺を略凸弧状に湾曲し、側面視下辺の先端を小さく弧状に突出し、底面視下辺が略凸弧状に湾曲し、底面を略矩形状に浅く凹ませたものも、本件登録意匠の出願前から公然知られていることから(甲第5号証)、これらの共通点は、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両部分の類否判断に与える影響は小さい。 (共通点3)背板について、当該物品の分野においては、上面視において全体を略凸弧状に湾曲し、側面視背面側の辺の上端に略矩形状の小さな突起を形成し、背面の上端と左右端に余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませたものが、本件登録意匠の出願前から公然知られていることから(甲第5号証)、これらの共通点は、需要者が特に注意を惹くものとはいえず、両部分の類否判断に与える影響は小さい。 ii 相違点の評価 (相違点1)背板の正面側の傾斜角度について、公1部分は、真ん中よりやや上側全体が背面側に大きく傾いていることから、座った際、リラックスした体勢となって、スタジアムのような長時間着座する状況に適しており、こうした使用目的に応じた傾斜角度の相違が、利用者の使用感を左右するものであることを考慮すると、(相違点1)について、需要者は一定の注意を払うものといえ、両部分の類否判断に一定の影響を与えるものといえる。 (相違点2)座部について、座部は利用者にとって座り心地を直接感取する重要な部位であるから、需要者にとって最も関心が高い部位であるところ、とりわけ[1]の全体における態様の相違については、視覚的に大きく異なっており、上面視及び側面視における相違と相まって、需要者に異なる美感をもたらしているから、両部分の類否判断に与える影響は大きい。 (相違点3)背板について、背板は、座部(座面)とともに、利用者の使用感を左右する部位であり、また、最も目に付きやすいことから、需要者の注意を引きやすい部位であるところ、[1]の正面視における態様の相違は、上辺が略凹弧状に湾曲し、左右辺がやや内側に傾斜している本件意匠部分と、左右辺が略垂直で、正面の上から半分弱に横の稜線(屈曲線)を形成している公1部分とは、全く異なっており、需要者に異なる美感を強く与えているものといえるから、背面視における相違と相まって、両部分の類否判断に与える影響は極めて大きい。 (e)共通点及び相違点の評価 したがって、本件意匠部分と公1部分は、共通点が、両部分の類否判断に与える影響は小さいのに対して、相違点のうち、(相違点2)及び(相違点3)が、両部分の類否判断に与える影響は大きく、(相違点1)についても両部分の類否判断に一定の影響を与えているから、意匠全体としてみた場合には、相違点が相まって生じる視覚的効果は、共通点のそれを凌駕して需要者に別異の印象を与え、両部分に異なる美感を起こさせるものである。 d 小括 上記のとおり、本件登録意匠と公知意匠1は、意匠に係る物品が同一であるが、形状等においては、共通点が本件意匠部分と公1部分の類否判断に与える影響は小さいのに対し、相違点については、両部分の類否判断に与える影響は大きいものであるから、相違点が共通点を凌駕し、本件登録意匠は、公知意匠1に類似しているとはいえない。 したがって、請求人が主張する本件登録意匠の無効理由1には、理由がない。 (2)無効理由2 請求人は、前記2(2)のとおり、本件登録意匠は、当業者(当該物品の分野における通常の知識を有する者)が、甲第3号証の意匠~甲第11号証の意匠(公知意匠1~公知意匠8)から容易に意匠の創作をすることができたものであるから、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきと主張しているから、以下、本件登録意匠が、これらの意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるか否かについて、検討し、判断する。 a 証拠の説明 (a)甲第3号証の意匠及び甲第4号証の意匠(公知意匠1) 公知意匠1は、前記(1)a(a)において認定したとおりである。 (b)甲第5号証の意匠(公知意匠2、別紙第6参照) 甲第5号証の意匠は、本件登録意匠の出願前である令和3年(2021年)10月11日発行の意匠公報所載の意匠登録第1696968号の意匠(意匠に係る物品、椅子)であって、左右の脚の上端に略横長棒状の支柱を設け、その上面に同じ椅子を等間隔に3個取り付けたものである。 椅子の形状等 i 全体 全体は、側面視略「L」字状に曲がった略縦長矩形薄板とし、座部と背板は弧状に接続し、背板は、座部の下辺に対してやや背面側に傾斜している。 ii 座部 正面視において、左右に僅かに略凹弧状に湾曲し、下辺の両端に突起を形成している。 上面視において、上辺は略凸弧状に湾曲し、下辺は僅かに略凸弧状に湾曲し、上面中央上端寄りに略長円孔を形成している。 底面視において、上辺は僅かに略凸弧状に湾曲し、下辺は略凸弧状に湾曲し、底面は上端及び左右端に僅かに余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 iii 背板 正面視において、上辺は略凹弧状に湾曲し、左右辺はやや内側に傾斜し、下辺は両端に突起を形成している。 上面視において、全体は略凸弧状に湾曲している。 側面視において、上辺は背面側下方に傾斜し、正面側の辺はやや上方寄りを緩やかな略凸弧状に膨出し、背面側の辺はごく僅かに略凹弧状に凹ませて上端に略矩形状の小さな突起を形成している。 背面視において、上辺は略凹弧状に湾曲し、左右辺はやや内側に傾斜し、下辺は僅かに略凸弧状に湾曲し両端に突起を形成し、背面は上端及び左右端に僅かに余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 (c)甲第6号証の意匠(公知意匠3、別紙第7参照) 甲第6号証の意匠は、本件登録意匠の出願前である令和3年(2021年)6月14日発行の意匠公報所載の意匠登録第1687590号の意匠(意匠に係る物品、椅子)であって、左右の脚の上端に略横長棒状の支柱を設け、その上面に同じ椅子を等間隔に3個取り付けたものである。 椅子の形状等 i 全体 全体は、側面視略「L」字状に曲がった略縦長矩形板とし、座部と背板は弧状に接続し、背板は、座部の下辺に対してやや背面側に傾斜している。 ii 座部 正面視において、左右に僅かに略凹弧状に湾曲し、下辺の両端に突起を形成している。 上面視において、上辺は略凸弧状に湾曲し、下辺は僅かに略凸弧状に湾曲している。 底面視において、上辺は僅かに略凸弧状に湾曲し、下辺は略凸弧状に湾曲し、底面は上端及び左右端に僅かに余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 iii 背板 正面視において、上辺は僅かに略凹弧状に湾曲し、左右辺はやや内側に傾斜している。 上面視において、全体は略凸弧状に湾曲している。 側面視において、上辺は背面側下方に傾斜し、正面側の辺は緩やかな略凸弧状に膨出し、背面側の辺はごく僅かに略凹弧状に凹ませている。 背面視において、上辺は僅かに略凹弧状に湾曲し、左右辺はやや内側に傾斜し、下辺は僅かに略凸弧状に湾曲し両端に突起を形成し、背面は上端及び左右端に僅かに余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 (d)甲第7号証の意匠(公知意匠4、別紙第8参照) 甲第7号証の意匠は、本件登録意匠の出願前である令和3年(2021年)10月11日発行の意匠公報所載の意匠登録第1696702号の意匠(意匠に係る物品、椅子)であって、左右の脚の上端に略横長棒状の支柱を設け、その上面に同じ椅子を等間隔に3個取り付け、支柱の両端と椅子の間に略矩形枠状の肘掛けを合計4個取り付けたものである。 椅子の形状等 i 全体 全体は、側面視略「L」字状に曲がった略縦長矩形板とし、座部と背板は弧状に接続し、背板は、座部の下辺に対してやや背面側に傾斜している。 ii 座部 正面視において、左右に僅かに略凹弧状に湾曲し、下辺の両端に突起を形成している。 上面視において、上辺は略凸弧状に湾曲し、下辺は僅かに略凸弧状に湾曲し、上面中央上端寄りに略長円孔を形成している。 底面視において、上辺は僅かに略凸弧状に湾曲し、下辺は略凸弧状に湾曲し、底面は上端及び左右端に僅かに余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 iii 背板 正面視において、上辺は略凹弧状に湾曲し、左右辺はやや内側に傾斜している。 上面視において、全体は略凸弧状に湾曲している。 側面視において、上辺は背面側下方に傾斜し、正面側の辺はやや上方寄りを緩やかな略凸弧状に膨出し、背面側の辺はやや上方寄りをごく僅かに略凹弧状に凹ませて上端に略矩形状の小さな突起を形成している。 背面視において、上辺は略凹弧状に湾曲し、左右辺はやや内側に傾斜し、下辺は僅かに略凸弧状に湾曲し両端に突起を形成し、背面は上端及び左右端に僅かに余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 (e)甲第8号証の意匠(公知意匠5、別紙第9参照) 甲第8号証の意匠は、本件登録意匠の出願前である令和3年(2021年)10月11日発行の意匠公報所載の意匠登録第1696703号の意匠(意匠に係る物品、椅子)であって、左右の脚の上端に略横長棒状の支柱を設け、その上面に同じ椅子を等間隔に3個取り付け、支柱の両端と椅子の間に略矩形枠状の肘掛けを合計4個取り付け、右端を除いた3個の肘掛けの正面上端寄りに略有底円筒形のカップホルダーを取り付けたものである。 椅子の形状等 i 全体 全体は、側面視略「L」字状に曲がった略縦長矩形板とし、座部と背板は弧状に接続し、背板は、座部の下辺に対してやや背面側に傾斜している。 ii 座部 正面視において、左右に僅かに略凹弧状に湾曲し、下辺の両端に突起を形成している。 上面視において、上辺は略凸弧状に湾曲し、下辺は僅かに略凸弧状に湾曲し、上面中央上端寄りに略長円孔を形成している。 底面視において、上辺は僅かに略凸弧状に湾曲し、下辺は略凸弧状に湾曲し、底面は上端及び左右端に僅かに余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 iii 背板 正面視において、上辺は略凹弧状に湾曲し、左右辺はやや内側に傾斜している。 上面視において、全体は略凸弧状に湾曲している。 側面視において、上辺は背面側下方に傾斜し、正面側の辺はやや上方寄りを緩やかな略凸弧状に膨出し、背面側の辺はやや上方寄りをごく僅かに略凹弧状に凹ませて上端に略矩形状の小さな突起を形成している。 背面視において、上辺は略凹弧状に湾曲し、左右辺はやや内側に傾斜し、下辺は僅かに略凸弧状に湾曲し両端に突起を形成し、背面は上端及び左右端に僅かに余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 (f)甲第9号証の意匠(公知意匠6、別紙第10参照) 甲第9号証の意匠は、本件登録意匠の出願前である令和1年(2019年)6月3日発行の意匠公報所載の意匠登録第1633144号の意匠(意匠に係る物品、いす)であって、左右の脚の上端に略横長棒状の支柱を設け、その上面の左右端寄りに同じ椅子を2個取り付けたものである。 椅子の形状等 i 全体 全体は、側面視略「L」字状に曲がった略縦長角丸矩形板とし、座部と背板は弧状に接続している。 ii 座部 正面視において、左右に僅かに略凹弧状に湾曲し、下辺の両端に突起を形成している。 上面視において、上辺は略凸弧状に湾曲し、下辺は僅かに略凸弧状に湾曲し、上面中央上端寄りに略半楕円孔を形成している。 底面視において、上辺は僅かに略凸弧状に湾曲し、下辺は略凸弧状に湾曲し、底面は上端及び左右端に余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 iii 背板 正面視において、上辺は僅かに略凸弧状に湾曲している。 上面視において、全体は略凸弧状に湾曲している。 側面視において、上辺は正面側下方に傾斜し、正面側の辺は略凸弧状に膨出し、背面側の辺は僅かに略凹弧状に凹ませている。 背面視において、上辺は僅かに略凸弧状に湾曲し、下辺は両端を斜めに切り欠いてその内側を浅い段差状に凹ませ、背面は上端に細幅の余地と左右端に上端の余地より4倍程度幅広の余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 (g)甲第10号証の意匠(公知意匠7、別紙第11参照) 甲第10号証の意匠は、本件登録意匠の出願前である令和4年(2022年)9月30日発行の意匠公報所載の意匠登録第1726243号の意匠(意匠に係る物品、椅子)であって、カップホルダー付きの支持板に挟持された背板と座部からなる椅子を3個取り付けたものである。 椅子の形状等 i 全体 全体は、側面視略逆「F」字状で、正面視において、略縦長矩形板状の背板の下方に、略矩形板状の座部を斜め上向きに取り付けている。 ii 背板 背面視において、上辺及び左右辺は僅かに略凸弧状に湾曲し、背面は上端及び左右端に余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 (h)甲第11号証の意匠(公知意匠8、別紙第12参照) 甲第11号証の意匠は、本件登録意匠の出願前である令和4年(2022年)9月30日発行の意匠公報所載の意匠登録第1726244号の意匠(意匠に係る物品、椅子)であって、カップホルダー付きの支持板に挟持された背板と座部からなる椅子を3個取り付けたものである。 椅子の形状等 i 全体 全体は、側面視略逆「F」字状で、正面視において、略縦長矩形板状の背板の下方に、略矩形板状の座部を斜め上向きに取り付けている。 ii 背板 背面視において、上辺及び左右辺は僅かに略凸弧状に湾曲し、背面は上端及び左右端に余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませている。 b 本件登録意匠の創作性の判断 本件登録意匠は、公知意匠1~公知意匠8に基づいて、当業者にとって容易に創作できたものであるか否かについて、検討し判断する。 (a)座部の置換 請求人は、審判請求書の中で、本件登録意匠は、「公知意匠2の構成態様(i)「左側右側輪郭辺から中央にいくに従って円弧状に滑らかに傾斜する凹凸のない凸湾曲面で形成されている座面」を、公知意匠1(甲第3号証および甲第4号証)の構成態様(i)「座面は左側右側輪郭辺から中央にいくに従って円弧状に滑らかに傾斜する凹凸のない凸湾曲面で形成されている」に単に置き換えることにより、当業者ならば容易に創作することができるということができる。(第24頁、(無効理由2)イ(オ)B)」と主張しているが、本件意匠部分と公知意匠1は、当該座面の態様以外にも、一致しない点があることは前記3(1)b(d)iiで示したとおりであり、また、公知意匠2の座部は、正面視において、略凹弧状に湾曲してはいるものの、座部自体が薄板であり、座部の厚みにおいて本件意匠部分とは異なるものであるから、本件登録意匠は、本件意匠部分において、公知意匠1の座部を公知意匠2に単に置換したものとはいえず、当業者であれば、容易に意匠の創作をすることができたということはできない。なお、一般に、座面とは座部の表面のことを指すが、椅子の形状に関し、座面のみを置換することはできないので、座部と解釈し、上記のとおり判断した。 (b)背板の背面中央の凹陥 本件意匠部分の背板の背面は、前記1(4)cで認定のとおり、上端に細幅の余地と左右端に上端の余地より3倍程度幅広の余地を残して真ん中を略矩形状に浅く凹ませているものであるが、公知意匠1~公知意匠8の背板において、本件意匠部分と同じ態様のものは見当たらず、本件登録意匠は、当業者が、これらの公知意匠に基づいて容易に意匠の創作をすることができたということはできない。 したがって、請求人が主張する本件登録意匠の無効理由2には、理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由に係る理由及び証拠方法によっては、本件登録意匠の登録は無効とすることはできない。 審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-880005

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