特許拒絶査定不服審判
2024-014193
生体分子分析方法、生体分子分析試薬及び生体分子分析デバイス
- 審判番号
- 2024-014193
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-539932
- 請求日
- 2024年09月04日
- 審決日
- 2025年10月20日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社日立ハイテク
- 【請求人代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 南 宏輔
- 審判官 萩田 裕介
- 審判官 加々美 一恵
- 分類
- P18 .121-WZ (G01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2022-539932「生体分子分析方法、生体分子分析試薬及び生体分子分析デバイス」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 2月 3日国際公開、WO2022/024335〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯の概要
本願は、2020年(令和2年)7月31日を国際出願日とする出願であって、本願の出願後の主な手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和6年 1月19日付け 拒絶理由通知
令和6年 3月12日 意見書、手続補正書の提出
令和6年 6月 7日付け 拒絶査定
令和6年 9月 4日 審判請求書、手続補正書の提出
令和7年 7月 7日付け 拒絶理由通知
令和7年 9月 1日 意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~10に係る発明は、令和7年9月1日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。(下線は、補正箇所として請求人が付したものである。)
【請求項1】
薄膜と、前記薄膜により隔てられる第1の液槽及び第2の液槽と、前記第1の液槽に配置される第1の電極と、前記第2の液槽に配置される第2の電極と、を備える生体分子分析デバイスを準備することと、
前記第1の液槽及び前記第2の液槽にナノポア形成溶液が封入された状態で、前記第1の電極及び前記第2の電極間に第1の電圧を印加して、前記薄膜にナノポアを形成することと、
前記ナノポアの形成後、前記第1の液槽及び前記第2の液槽に計測溶液が封入された状態で、前記第1の電極及び前記第2の電極間に第2の電圧を印加して、前記第1の電極及び前記第2の電極間に流れる電流を計測することと、を含み、
前記ナノポア形成溶液は、塩として硫酸アンモニウムのみを含み、
前記計測溶液は、塩として硫酸アンモニウムのみを含み、
前記ナノポアを形成した後、前記ナノポア形成溶液を他の溶液へ置換せずに前記計測溶液として用いることにより、前記電流を計測することを実施する
ことを特徴とする生体分子分析方法。
第3 拒絶の理由の概要
令和7年7月7日付けの拒絶理由通知書で当審が通知した拒絶理由は、概略、次のとおりのものである。
(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
引用文献3 国際公開第2020/084705号
第4 当審の判断
1 引用文献
(1)引用文献3
ア 引用文献3の記載
本願出願前に公知となった刊行物で、令和7年7月7日付けの拒絶理由通知書で通知した拒絶理由で引用文献3として引用された国際公開第2020/084705号(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は合議体が付した。
「[0017] 1.第1の実施形態
図1は、第1の実施形態に係る分析装置1の構成を示す模式図である。分析装置1は、生体ポリマ分析デバイス100、電流計106、電源107及びコンピュータ108(分析部)を備える。本開示において、分析対象となる生体ポリマは、例えば、核酸をモノマとするDNAやRNA、あるいはアミノ酸をモノマとするポリペプチドやタンパク質である。本実施形態においては、一例として、分析装置1がDNAを分析するDNAシーケンサである例を説明する。
[0018] 生体ポリマ分析デバイス100は、ナノポア101を有する薄膜102A、電解質溶液103を収容する液槽104A及び104B(第1の液槽及び第2の液槽)、並びに電極105A及び105B(外部場印加部)を備える。生体ポリマ分析デバイス100は、電気泳動により生体ポリマ109をナノポア101へ導入する方式を採用する。なお、生体ポリマ109のナノポア101への導入方式はこれに限定されず、その他の方式を採用してもよい。
[0019] 薄膜102Aは、中心に細孔を有するタンパク質が埋め込まれた両親媒性分子層からなる脂質二重層(バイオ式ナノポア)であってもよいし、半導体微細加工技術で形成可能な材質からなる薄膜(ソリッド式ナノポア)であってもよい。半導体微細加工技術で形成可能な材質としては、例えば窒化ケイ素(SiN)、酸化ケイ素(SiO2)、酸窒化ケイ素(SiON)、酸化ハフニウム(HfO2)、二硫化モリブデン(MoS2)、グラフェンなどが挙げられる。
[0020] 薄膜102Aの厚さは、1Å~200nmであることが好ましく、より好ましくは1Å~100nm、さらに好ましくは1Å~50nmであり、例としては約5nmである。
[0021] ナノポア101の深さは、薄膜102Aの厚さを調節することにより調節することができる。ナノポア101の深さは、好ましくは生体ポリマ109を構成するモノマ単位の2倍以上、より好ましくは3倍以上、さらに好ましくは5倍以上の大きさである。生体ポリマ109が核酸から構成されている場合には、ナノポア101の深さは、例えば塩基3個以上の大きさ、すなわち約1nm以上とすることが好ましい。これにより、生体ポリマ109をその形状と移動速度を制御しながらナノポア101に進入させることができ、高感度及び高精度な解析が可能となる。また、ナノポア101の水平面における断面の形状は、基本的には円形であるが、楕円形や多角形とすることも可能である。
[0022] 液槽104A及び104Bは、薄膜102Aの両側に配置され、電解質溶液103が満たされる。液槽104A内に電極105Aが配置され、液槽104B内に電極105Bが配置される。液槽104A及び104Bは、封鎖電流の測定に影響を及ぼさない材質、形状及び大きさで形成される。電解質溶液103の容量は、例えばマイクロリットルオーダー又はミリリットルオーダーである。電解質溶液103の詳細は後述する。
[0023] 詳細は後述するが、生体ポリマ109は、前処理により制御鎖111と結合された状態で、ナノポア分析時に液槽104Aに導入される。
[0024] 電極105A及び105Bは、電解質溶液103中の電解質と電子授受反応(ファラデー反応)を行うことが可能な材質で作製されることが好ましく、典型的には、ハロゲン化銀又はハロゲン化アルカリ銀で作製される。電位安定性及び信頼性の観点からは、銀又は塩化銀を使用することが好ましい。
[0025] 電極105A及び105Bは、分極電極となる材質で作製されてもよく、例えば金や白金などで作製されてもよい。その場合、安定的なイオン電流を確保するために電解質溶液103に電子授受反応を補助することができる物質、例えばフェリシアン化カリウム又はフェロシアン化カリウムなどを添加することが好ましい。あるいは、電子授受反応を行うことが可能な物質、例えばフェロセン類をその分極電極表面に固定化することが好ましい。
[0026] 電極105A及び105Bは、全体的に上記の材質で構成されていてもよいし、下地材(銅、アルミニウムなど)の表面に上記の材質が被覆されていてもよい。電極105A及び105Bの形状は特に限定されるものではないが、電解質溶液103と接する表面積が大きくなる形状が好ましい。
[0027] 電極105A及び105Bは、配線と接合されて、電流計106の測定回路へと電気的信号が送られる。図1において図示は省略しているが、生体ポリマ分析デバイス100の外周面には、電極105A及び105Bと電気的に接続された接続端子が設けられ、これにより電極105A及び105Bは、電源107及び電流計106と接続される。
[0028] 生体ポリマ109の分析時において、電源107により、電極105Aと電極105Bとの間に電圧を印加すると、ナノポア101が形成された薄膜102Aの両面の間に電位差(外部場)が生じ、上側の液槽104Aに溶解している生体ポリマ109が、ナノポア101を通過して、下側に位置する液槽104Bの方向に泳動される。
[0029] 後述するように、生体ポリマ109は、分子モータ110と結合された状態でナノポア101を通過する。分子モータ110は、一般にナノポア101の直径よりも大きいため、ナノポア101を通過することができない。この制限を実現するために、ナノポア101の直径は、一本鎖DNAが通過可能な下限値である0.8nmから、分子モータ110である酵素が通過しない上限値である3nmの範囲にあることが好ましい。
[0030] 電流計106は、電極105Aと105Bとの間に流れるイオン電流(封鎖電流)を測定する。図示は省略しているが、電極105Aと105Bとの間に流れる電流を増幅するアンプと、アナログ/デジタル変換器とを有する。電流計106は、コンピュータ108に接続され、アナログ/デジタル変換器は、検出したイオン電流の電流値をデジタル信号としてコンピュータ108に出力する。
[0031] コンピュータ108は、検出されたイオン電流の電流値に基づいて、生体ポリマのモノマ配列情報を取得する。また、コンピュータ108は、電流値や、取得したモノマ配列情報を記録する。
[0032] 生体ポリマ分析デバイス100を用いた封鎖電流計測では、生体ポリマ109の非存在下で計測される電流値を基準(ポア電流)とし、生体ポリマ109を封入した際に観測される電流の減少(ナノポア101の生体ポリマ109による封鎖)を計測し、分子の通過速度や状態を観測する。生体ポリマ109がナノポア101を通過し終わると、取得電流値は、ポア電流に戻る。この封鎖時間から、生体ポリマ109のナノポア通過速度を解析し、封鎖量から生体ポリマ109の特性を解析することができる。」
図1は以下のとおりである。
「
[図:0001430753000001.jpg]
」
「[0035] 次に、薄膜102A中にナノポア101を形成する方法について説明する。ナノポア101は、例えば、透過型電子顕微鏡などによる電子ビーム照射や電圧印加による絶縁破壊などにより、薄膜102Aに形成される。
[0036] 電圧印加によるナノポア101の形成は、例えば以下の手順で行うことができる。薄膜102Aを生体ポリマ分析デバイス100等にセットする前に、Ar/O2 plasma(サムコ株式会社製)により、10WW、20sccm、20Pa、45secの条件で、Si3N4薄膜を親水化する。次に、生体ポリマ分析デバイス100に薄膜102Aをセットする。その後、液槽104A及び104Bに電解質溶液103を満たし、液槽104A及び104Bのそれぞれに電極105A及び105Bを導入し、電圧を印加する。
[0037] ここで、下側に位置する液槽104Bをcis槽と呼び、上側に位置する液槽104Aをtrans槽と呼ぶ。cis槽側の電極に印加する電圧Vcisを0Vに設定し、trans槽側の電極に電圧Vtransを印加する。電圧Vtransは、例えばパルス発生器(41501B SMU AND Pulse Generator Expander、アジレントテクノロジーズ社製)によりパルス電圧として印加される。ナノポア101の形成のために電圧を印加するプロセスは、例えば自作プログラム(Excel VBA、Visual Basic for Applications)で制御する。
[0038] パルス電圧の印加後の電流値は、電流計106(4156B PRECISION SEMICONDUCTOR ANALYZER、アジレントテクノロジーズ社製)で読み取ることができる。ナノポア101の直径は、イオン電流値から見積もることができる。パルス電圧の印加前に形成されたナノポア101の直径に応じて電流値条件(閾値電流)を選択し、順次、ナノポア101の直径を大きくしつつ、目的とする直径を得る。
条件選択の基準は表1の通りである。ここで、n番目のパルス電圧印加時間tn(ただし、n>2の整数。)は、次式で決定される。」(なお、表1は略)
「[0062] 次に、電解質溶液103について詳細に説明する。電解質溶液103は、分子モータ110に適したバッファを含む。バッファは、例えば、Tris、EDTA、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、非イオン性界面活性剤、Tris-HClなどを含むことができる。
[0063] 電解質溶液103に溶解される電解質として、例えば塩化カリウム(KCl)等のカリウム塩、塩化アンモニウム(NH4Cl)や硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)等のアンモニウム塩、塩化マグネシウム(MgCl2)や硫酸マグネシウム(MgSO4)等のマグネシウム塩など、一般に用いられる電解質を使用することができる。電解質として、リチウム塩、ナトリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩等を使用してもよい。これらの電解質のうち、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。」
イ 引用発明
上記アより、引用文献3には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のため、認定の根拠となった主な箇所を括弧内に示す。
(引用発明)
ナノポア101を有する薄膜102A、電解質溶液103を収容する液槽104A及び104B(第1の液槽及び第2の液槽)、並びに電極105A及び105B(外部場印加部)を備え、(0018段落)
液槽104A及び104Bは、薄膜102Aの両側に配置され、電解質溶液103が満たされ、液槽104A内に電極105Aが配置され、液槽104B内に電極105Bが配置された、 生体ポリマ分析デバイス100において、(0022段落)
生体ポリマ109の分析時において、電源107により、電極105Aと電極105Bとの間に電圧を印加すると、ナノポア101が形成された薄膜102Aの両面の間に電位差(外部場)が生じ、上側の液槽104Aに溶解している生体ポリマ109が、ナノポア101を通過して、下側に位置する液槽104Bの方向に泳動され、(0028段落)
生体ポリマ分析デバイス100を用いた封鎖電流計測では、生体ポリマ109の非存在下で計測される電流値を基準(ポア電流)とし、生体ポリマ109を封入した際に観測される電流の減少(ナノポア101の生体ポリマ109による封鎖)を計測し、分子の通過速度や状態を観測し、生体ポリマ109がナノポア101を通過し終わると、取得電流値は、ポア電流に戻り、この封鎖時間から、生体ポリマ109のナノポア通過速度を解析し、封鎖量から生体ポリマ109の特性を解析する、(0032段落)
生体ポリマ分析方法であって、
薄膜102A中にナノポア101を形成する手段として、ナノポア101は、電圧印加による絶縁破壊などにより、薄膜102Aに形成され、(0035段落)
その手順は、薄膜102Aを生体ポリマ分析デバイス100等にセットする前に、薄膜102Aを親水化し、次に、生体ポリマ分析デバイス100に薄膜102Aをセットし、その後、液槽104A及び104Bに電解質溶液103を満たし、液槽104A及び104Bのそれぞれに電極105A及び105Bを導入し、電圧を印加するものである、(0036段落)
生体ポリマ分析方法
(2)引用文献4
ア 引用文献4の記載
新たに引用する、本願出願前に頒布された刊行物である国際公開第2020/012804号(以下、「引用文献4」という。)には以下の記載がある。下線は合議体が付した。
「請求項12
試料がナノポアを通過する際の電流の変化を同時に複数観測する生体試料分析方法であって、
前記ナノポアが形成されるメンブレンに積層された第1の層に設けられた複数の開口部と前記メンブレンの表面とによって形成される複数の凹部に対して、互いに接触しないように液滴状に溶液を導入するステップと、
前記メンブレンを支持する基板に設けられた開口部に溶液を導入するステップと、
前記メンブレンを挟んで設けられた複数の独立電極と単一の共通電極との間に電圧を印加することによって、前記開口部によって露出した前記メンブレンの複数の部分領域にナノポアを形成するステップと、
前記複数の凹部に導入された前記溶液と前記基板に設けられた前記開口部に導入された前記溶液との何れか一方に含まれる生体試料が前記ナノポアを通過する際の前記ナノポアを流れる電流値を計測するステップと、
を含む生体試料分析方法。」
イ 引用文献4に記載された事項
上記アより、引用文献4には以下の事項が記載されている。
(引用文献4に記載された事項)
ナノポアを形成するステップで使用する溶液を置換することなしに電流値を計測すること。
2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)「薄膜と、前記薄膜により隔てられる第1の液槽及び第2の液槽と、前記第1の液槽に配置される第1の電極と、前記第2の液槽に配置される第2の電極と、を備える生体分子分析デバイスを準備することと、」の構成について
引用発明の「薄膜102A」は、本願発明の「薄膜」に、
引用発明の「液槽104A」「液槽104B」は、本願発明の「第1の液槽」「第2の液槽」に、
引用発明の「電極105A」「電極105B」は、本願発明の「第1の電極」「第2の電極」に、
引用発明の「生体ポリマ分析デバイス100」は、本願発明の「生体分子分析デバイス」に、
それぞれ相当する。
そうすると、引用発明の「液槽104A及び104Bは、薄膜102Aの両側に配置され、電解質溶液103が満たされ、液槽104A内に電極105Aが配置され、液槽104B内に電極105Bが配置された、生体ポリマ分析デバイス100」は、本願発明の上記構成を満たす。
(2)「前記第1の液槽及び前記第2の液槽にナノポア形成溶液が封入された状態で、前記第1の電極及び前記第2の電極間に第1の電圧を印加して、前記薄膜にナノポアを形成することと、」の構成について
引用発明は「薄膜102A中にナノポア101を形成する手段として、ナノポア101は、電圧印加による絶縁破壊などにより、薄膜102Aに形成され、」「その手順は、薄膜102Aを生体ポリマ分析デバイス100等にセットする前に、薄膜102Aを親水化し、次に、生体ポリマ分析デバイス100に薄膜102Aをセットし、その後、液槽104A及び104Bに電解質溶液103を満たし、液槽104A及び104Bのそれぞれに電極105A及び105Bを導入し、電圧を印加するもの」であることからして、引用発明の「電解質溶液103」は「薄膜102A中にナノポアを形成する」ための溶液であるから、本願発明の「ナノポア形成溶液」に相当する。
そうすると、引用発明は本願発明の上記構成を満たす。
(3)「前記ナノポアの形成後、前記第1の液槽及び前記第2の液槽に計測溶液が封入された状態で、前記第1の電極及び前記第2の電極間に第2の電圧を印加して、前記第1の電極及び前記第2の電極間に流れる電流を計測することと、を含み、」の構成について
引用発明は「ナノポア101を有する薄膜102A、電解質溶液103を収容する液槽104A及び104B」を備えた「生体ポリマ分析デバイス100」を用いて「生体ポリマ109の分析時において、電源107により、電極105Aと電極105Bとの間に電圧を印加すると、ナノポア101が形成された薄膜102Aの両面の間に電位差(外部場)が生じ、上側の液槽104Aに溶解している生体ポリマ109が、ナノポア101を通過して、下側に位置する液槽104Bの方向に泳動され、」「生体ポリマ分析デバイス100を用いた封鎖電流計測では、生体ポリマ109の非存在下で計測される電流値を基準(ポア電流)とし、生体ポリマ109を封入した際に観測される電流の減少(ナノポア101の生体ポリマ109による封鎖)を計測し、分子の通過速度や状態を観測し、生体ポリマ109がナノポア101を通過し終わると、取得電流値は、ポア電流に戻り、この封鎖時間から、生体ポリマ109のナノポア通過速度を解析し、封鎖量から生体ポリマ109の特性を解析する」ものであることからして、引用発明の「電解質溶液103」は、「電流」を「計測」して「生体ポリマ109の特性を解析する」ための溶液であるから、本願発明の「計測溶液」に相当する。また、引用発明は「ナノポア101を有する薄膜102A」を有していることから、引用発明の上記構成は既に「ナノポア」が「形成」された「後」であることは明らかである。
そうすると、引用発明は本願発明の上記構成を満たす。
(4)「前記ナノポア形成溶液は、塩として硫酸アンモニウムのみを含み、前記ナノポア形成溶液は、塩として硫酸アンモニウムのみを含み、」の構成について
引用発明は、この構成を満たさない。
(5)「前記ナノポアを形成した後、前記ナノポア形成溶液を他の溶液へ置換せずに前記計測溶液として用いることにより、前記電流を計測することを実施する」の構成について
引用発明は、この構成を満たさない。
(6)「ことを特徴とする生体分子分析方法。」の構成について
引用発明の「生体ポリマ分析方法」は、本願発明の「生体分子分析方法」に相当する。
そうすると、引用発明は本願発明の上記構成を満たす。
以上によれば、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また相違する。
(一致点)
薄膜と、前記薄膜により隔てられる第1の液槽及び第2の液槽と、前記第1の液槽に配置される第1の電極と、前記第2の液槽に配置される第2の電極と、を備える生体分子分析デバイスを準備することと、
前記第1の液槽及び前記第2の液槽にナノポア形成溶液が封入された状態で、前記第1の電極及び前記第2の電極間に第1の電圧を印加して、前記薄膜にナノポアを形成することと、
前記ナノポアの形成後、前記第1の液槽及び前記第2の液槽に計測溶液が封入された状態で、前記第1の電極及び前記第2の電極間に第2の電圧を印加して、前記第1の電極及び前記第2の電極間に流れる電流を計測することと、を含む、
ことを特徴とする生体分子分析方法。
(相違点1)
本願発明は「前記ナノポア形成溶液は、塩として硫酸アンモニウムのみを含み、前記計測溶液は、塩として硫酸アンモニウムのみを含」むのに対し、引用発明はナノポア形成溶液と計測溶液の塩の種類が特定されておらず、硫酸アンモニウム「のみ」を含むものなのかについても特定されていない点。
(相違点2)
本願発明は「前記ナノポアを形成した後、前記ナノポア形成溶液を他の溶液へ置換せずに前記計測溶液として用いることにより、前記電流を計測することを実施する」のに対し、引用発明ではそのような特定がない点。
3 判断
ア 相違点1について
上記1(1)アで摘記したように、引用文献3の0063段落には「電解質溶液103に溶解される電解質として、例えば塩化カリウム(KCl)等のカリウム塩、塩化アンモニウム(NH4Cl)や硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)等のアンモニウム塩、塩化マグネシウム(MgCl2)や硫酸マグネシウム(MgSO4)等のマグネシウム塩など、一般に用いられる電解質を使用することができる。電解質として、リチウム塩、ナトリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩等を使用してもよい。これらの電解質のうち、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。」(下線は合議体が付した。)とあり、「電解質溶液103」として「硫酸アンモニウム」を「単独」で使用することが記載されている。そして、「硫酸アンモニウム」は一般に用いられる電解質のうちの一つに過ぎず、これを単独で使用するか否かについても任意に選びうる程度のものであり、単独で使用することに当業者が想定できない格別の効果があるとも認められないことから、引用発明の「電解質溶液103」として、引用文献3に列挙されたいくつかの電解質のうち「塩として硫酸アンモニウムのみを含む」ものを採用することは、当業者が容易になし得るものであるし、そうすると、引用発明において、本願発明の上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。
イ 相違点2について
引用発明は「ナノポア101を有する薄膜102A、電解質溶液103を収容する液槽104A及び104B」を備え「液槽104A及び104Bは、薄膜102Aの両側に配置され、電解質溶液103が満たされ」た「生体ポリマ分析デバイス100」を用いた「生体ポリマ分析方法」に係る発明であって、当該「ナノポア101を有する薄膜102A」を作成するに当たっては、「薄膜102A中にナノポア101を形成する手段として、ナノポア101は、電圧印加による絶縁破壊などにより、薄膜102Aに形成され、その手順は、薄膜102Aを生体ポリマ分析デバイス100等にセットする前に、薄膜102Aを親水化し、次に、生体ポリマ分析デバイス100に薄膜102Aをセットし、その後、液槽104A及び104Bに電解質溶液103を満たし、液槽104A及び104Bのそれぞれに電極105A及び105Bを導入し、電圧を印加するもの」である。すなわち、最初に、ナノポア101を作成するために、「電解質溶液103を収容する液槽104A及び104B」を用意し、「液槽104A及び104Bは、薄膜102Aの両側に配置され、電解質溶液103が満たされ」た状態とし、次に、ナノポア101が薄膜102Aに作成された後に、「生体ポリマ分析方法」を実行しており、その際に「電解質溶液103」を用いている。つまり、生体ポリマ分析方法を実行するためには、まずナノポア101を作成することが必要となるが、その際に使用するのはいずれも「電解質溶液103」である。そうすると、ナノポア形成した後引き続き生体ポリマ分析を実施するには、いずれも「電解質溶液103」を使用するのであるから、両者の濃度や組成が異なるなどの格別の事情がない限り、敢えて他の溶液に置換することなく使用するのが自然である。
そして、上記アで検討したように、「計測溶液」と「ナノポア計測溶液」をいずれも「硫酸アンモニウム」を「単独」で使用することは、当業者が容易になし得たものであって、その際のナノポア形成の際の「電解質溶液103」と生体ポリマ分析の際の「電解質溶液103」はいずれも「硫酸アンモニウム」を「単独」で使用した溶液であって、その組成は同一である。また、本願の発明の詳細な説明や技術常識を参酌しても、両者の濃度を変更しなければならないなどの格別の事情は見いだせないし、上記1(2)イで記載したように「ナノポアを形成するステップで使用する溶液を置換することなしに電流値を計測すること。」は、本願出願前に既に行われていることを参酌しても、両者の濃度を変更しなければならないことが技術常識であるともいえない。そうすると、引用発明においても、ナノポア形成した後引き続き生体ポリマ分析を実施するには、「前記ナノポアを形成した後、前記ナノポア形成溶液を他の溶液へ置換せずに前記計測溶液として用いることにより、前記電流を計測することを実施する」という相違点2に係る構成が満たされているものと認められる。よって、相違点2は実質的な相違点ではない。また、引用発明において、ナノポア形成の際に使用する溶液も生体ポリマ分析の際に使用する溶液も、いずれも「電解質溶液103」という同一の名称と番号が付されており、両者が同一物質を指し示すことが窺えることも、当該判断を支持するものである。
仮に、相違点2が実質的な相違点だったとしても、ナノポア形成の際に使用する「塩として硫酸アンモニウムのみを含」む「電解質溶液103」と生体ポリマ分析の際に使用する「塩として硫酸アンモニウムのみを含」む「電解質溶液103」は、両者の濃度や組成が異なるなどの格別の事情や、ナノポア形成の際の「電解質溶液103」が存在すると生体ポリマ分析の際に不具合を起こすなどの事情が見当たらないため、ナノポア形成の後、使用した「塩として硫酸アンモニウムのみを含」む「電解質溶液103」をそのまま生体ポリマ分析に使用したり、使用した「電解質溶液103」を排出せずに新たな溶液を追加するなど、「他の溶液へ置換せずに、前記計測溶液として用いることにより、前記電流を計測することを実施する」ことは、当業者が容易になし得たものである。
ウ 効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明および引用文献3に記載された事項から想定される範囲を超えるものではない。
エ 小括
したがって、本願発明は、引用発明および引用文献3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 令和7年9月1日提出の意見書における主張
令和7年9月1日提出の意見書において、請求人は進歩性について以下の主張をしている。
「引用文献3において、電解質溶液103は、同文献の0036が記載しているようにナノポア形成溶液として用いることができることに加え、同文献の0053が記載しているように計測溶液としても用いることができると見受けられます。しかし同文献においては、ナノポア形成時と計測時との間において、電解質溶液103を置換することなくそのまま用いる点については記載がなく、そのことによる効果の実証結果も記載されていません。したがって、引用文献3の0063において、硫酸アンモニウム1種を単独で用いることが記載されているとしても、本願0041のようにナノポア形成溶液を計測溶液に置換することなく、ナノポア形成溶液を用いて計測すること、さらに本願0095~0098が記載している効果の実証について、当業者が当然に想到するものではありません。」
これについて検討するに、ナノポア形成溶液を計測溶液に置換することなく、計測溶液として計測することに起因する効果は、ナノポア形成溶液である塩として硫酸アンモニウムのみを含む溶液を、計測溶液である塩として硫酸アンモニウムのみを含む溶液に置換した場合と、置換しなかった場合を比較することによって実証されるものであるが、0095~0098段落を含む本願明細書には、このような実証実験は記載されておらず、その効果は明らかでない。また、本願発明が引用発明および引用文献3に記載された事項から容易に想到できることは、上記3で示したとおりである。よって、当該主張は採用することができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項に規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-014193