特許拒絶査定不服審判
2024-012898
最適化装置、最適化方法、及び最適化プログラム
- 審判番号
- 2024-012898
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-561230
- 請求日
- 2024年08月07日
- 審決日
- 2025年08月18日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】NTT株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 林 毅
- 審判官 吉田 美彦
- 審判官 脇岡 剛
- 分類
- P18 .113-WZ (G06N) / P18 .121-WZ (G06N) / P18 .537-WZ (G06N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-561230「最適化装置、最適化方法、及び最適化プログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 5月19日国際公開、WO2022/102106〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1.手続の経緯
本願は、令和2年(2020年)11月13日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年 1月 9日付け:拒絶理由通知書
令和6年 3月15日 :意見書、手続補正書の提出
令和6年 4月23日付け:拒絶査定
令和6年 8月 7日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和6年 9月18日付け:前置報告書
令和6年12月17日 :上申書の提出
令和7年 4月 1日付け:拒絶理由通知書
令和7年 6月 5日 :意見書、手続補正書の提出
第2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和7年6月5日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項7に係る発明(以下、「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「 【請求項7】
少なくとも2つのデジタルツインが含まれるデジタルツインシステムを最適化する最適化方法であって、
第一のパラメータが与えられた場合に第一のデジタルツインにおける第一の指標の値である第一の指標値を取得し、
前記第一のパラメータを与えた後の前記第一のデジタルツインの状態を推定し、
前記第一のパラメータが与えられた場合の第二のデジタルツインにおける第二の指標の指標値である第二の指標値及び前記第二のデジタルツインの状態を取得し、
前記第一のデジタルツインの状態、前記第二のデジタルツインの状態、前記第一の指標及び前記第二の指標を用いて前記第一のデジタルツインと前記第二のデジタルツインの少なくともいずれかを最適化すること、
をコンピュータが実行する、最適化方法。」
第3.拒絶の理由
令和7年4月1日付けで当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、次のとおりである。
「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(新規性)、理由2(進歩性)
(1)請求項7
・引用文献等 1
・備考
…中略… 本願発明7と引用文献1に記載された発明とは同一である。また、本願発明7は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。(新規性、進歩性)
(2)請求項1、8
・引用文献等 1
・備考
…中略… 本願発明1、及び、本願発明8は、引用発明と同一であり、また、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。(新規性、進歩性)
(3)請求項6
・引用文献等 1
・備考
…中略… 本願発明6は、引用発明と同一であり、また、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。(新規性、進歩性)
(4)請求項2
・引用文献等 1
・備考
…中略… 本願発明2は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。(進歩性)
・(5)請求項3ないし5
・引用文献等 1
・備考
…中略… 本願発明3ないし5は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(進歩性)
●理由3(明確性)について
…中略…
<引用文献等一覧>
1.藤垣洋平、外2名、不確実な社会を解くには -マルチエージェントと最適化-、オペレーションズ・リサーチ、日本、公益社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会、2016年、第61巻第1号、p.24-29 」
第4.当審の判断
1 引用文献1の記載事項
当審拒絶理由で引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同様である。)
ア.「シミュレーション内で移動するEVエージェントは、シナリオに基づいて出発地と目的地が設定され、経路の探索を行う。出発後は、走行距離や道路勾配、エアコンなどの補器利用に応じて電池を消費する。電池残量が一定の閾値以下になると、目的地よりも近い地点に充電ステーションがあれば、充電ステーションへと向かうといった充電行動を行う。充電ステーションでは、先に到着したEVの充電待ちや電池残量と充電電力に応じた時間で充電を行う。充電が完了したEVは、再度目的地に向かって走行を開始する。
EVのパラメータとしては、搭載電池容量、走行燃費、補器消費電力、充電行動を開始する電池残量閾値などを設定できる。また、充電ステーションのパラメータとしては、充電電力や設置充電器数(同時充電可能台数)、営業時間などを設定でき、充電ステーションごとの設備の違いを考慮したシミュレーションの実施も可能である。」(第27頁左欄第5行ないし第27行)
イ.「EV-OLYENTORのEV交通シミュレーションでは、利用者の視点や充電ステーション運営者の視点からの多様な評価指標を算出することができる。利用者視点での評価指標としては、「電池切れ発生率」や「電池切れ発生分布」に加えて、「EVの走行距離」や「充電ステーションでの待ち時間」などを出力できる。
運営者視点での指標としては、「充電ステーションの時間帯ごとの利用状況」を評価することができる。また、その利用状況を考慮して、充電ステーションごとにどの程度の需要があるか、また充電設備をどの程度配置すればよいかといった運営上の問題も、シミュレーション結果を用いて検討することができる。
ユーザはこれらの指標に基づき、どのような配置が最もよいかの検討を行うが、可能であれば「よい案」を自動で導き出しユーザに提示されることが望ましい。」(第27頁左欄第28行ないし第44行)
ウ.「EV-OLYENTORには、前述のとおりシミュレーションの結果から得られたEVの電池切れ発生状況と、すでに配置されている充電ステーションからの距離などを用いて、設置する充電ステーションの位置を調整する、充電ステーション適正配置機能がある。
適正配置計算の概念を図4に示す。まず、対象とする地域での1日のEVの交通シミュレーションを「EVレイヤ」で実行する。その際に、電池が切れた地点をプロットする。次に、「充電ステーションレイヤ(充電STレイヤ)」において1日分の電池切れ発生分布および充電ステーションの間隔などに基づき適正配置アルゴリズムにより充電ステーションの位置を決定する。その後、更新された充電ステーションの位置をEVレイヤに反映し、再度EVの交通シミュレーションを行う。充電ステーション位置を変更することでEVの行動も変化し、電池切れを起こす地点も変化するため、これを繰り返し、最終的に電池切れ発生率が変化しない状況における充電ステーションの配置および箇所数が適切な配置としている。」(第27頁右欄第3行ないし第21行)
2 引用発明
ア.上記(1)アないしウによると、引用文献1には、「シミュレーション内で移動するそれぞれのEVは、出発地と目的地が設定され、走行距離や道路勾配、エアコンなどの補器利用に応じて電池を消費し、電池残量が一定の閾値以下になると、目的地よりも近い地点に充電ステーションがあれば、充電ステーションへと向かうといった充電行動を行うものであって、各EVについて、走行距離、電池の残量、電池が切れた地点を算出する」ことが記載されているといえる。
イ.上記(1)アによると、引用文献1の「シミュレーション内の充電ステーション」は、「パラメータとしては、充電電力や設置充電器数(同時充電可能台数)、営業時間などを設定でき、充電ステーションごとの設備の違いを考慮したシミュレーションの実施も可能である。」、及び、「充電ステーションでは、先に到着したEVの充電待ちや電池残量と充電電力に応じた時間で充電を行う」ものであることからすると、引用文献1には、「シミュレーション内のそれぞれの充電ステーションは、充電電力や設置充電器数、営業時間などを設定でき、先に到着したEVの充電待ちや電池残量と充電電力に応じた時間で充電を行う」ことが記載されているといえる。
ウ.上記(1)ウによると、引用文献1には、「シミュレーションの結果から得られたEVの電池切れ発生率や電池切れ発生分布と、すでに配置されている充電ステーションからの距離などを用いて、設置する充電ステーションの位置を調整し、調整された充電ステーションの位置を反映して再度シミュレーションを行い、これを繰り返し、最終的に電池切れ発生率が変化しない状況における充電ステーションの配置および箇所数が適切な配置を決定する」ことが記載されているといえる。
エ.上記(1)イによると、引用文献1には、「充電ステーションの時間帯ごとの利用状況などの評価指標を算出し、これらの指標に基づき、どのような配置が最もよいかの検討を行うものであり、可能であれば「よい案」を自動で導き出しユーザに提示されることが望ましい」ことが記載されているといえるところ、上記ウをふまえると、引用文献1の「最終的に電池切れ発生率が変化しない状況における充電ステーションの配置および箇所数が適切な配置を決定する」ことは、「シミュレーションの結果から得られたEVの電池切れ発生率や電池切れ発生分布と、すでに配置されている充電ステーションからの距離」、「充電ステーションの時間帯ごとの利用状況などの評価指標」などを用いて決定されるものと解される。
オ.したがって、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「シミュレーション内で移動するそれぞれのEVは、出発地と目的地が設定され、走行距離や道路勾配、エアコンなどの補器利用に応じて電池を消費し、電池残量が一定の閾値以下になると、目的地よりも近い地点に充電ステーションがあれば、充電ステーションへと向かうといった充電行動を行うものであって、各EVについて、走行距離、電池の残量、電池が切れた地点を算出し、
シミュレーション内のそれぞれの充電ステーションは、充電電力や設置充電器数、営業時間などを設定でき、先に到着したEVの充電待ちや電池残量と充電電力に応じた時間などを算出し、
シミュレーションの結果から得られたEVの電池切れ発生率や電池切れ発生分布と、すでに配置されている充電ステーションからの距離、充電ステーションの時間帯ごとの利用状況などの評価指標などを用いて、設置する充電ステーションの位置を調整し、調整された充電ステーションの位置を反映して再度シミュレーションを行い、これを繰り返し、最終的に電池切れ発生率が変化しない状況における充電ステーションの配置および箇所数が適切な配置を決定する、
方法」
3 本願発明と引用発明との対比
ア.本願発明の「デジタルツイン」は、本願明細書の段落0002の記載によると、「現実空間に存在するオブジェクト又は事象をコンピュータ上でモデル化したもの」であると解されるものであって、当該解釈は、本願出願時の技術常識とも整合する。
一方、引用発明の「シミュレーション内」の「EV」及び「充電ステーション」はそれぞれ、現実空間に存在する「EV」及び「充電ステーション」を「シミュレーション内」で模擬することによりモデル化したもの(オブジェクト)、と解されることから、本願発明の「第一のデジタルツイン」、「第二のデジタルツイン」に相当する。
イ.システムとは、「複数の要素が有機的に関係し合い、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体(広辞苑 第四版)」であるところ、本願発明の「少なくとも2つのデジタルツインが含まれるデジタルツインシステム」は、少なくとも第一のデジタルツインと第二のデジタルツインとを要素として含み、それらが有機的に関係し合い、全体としてまとまった機能を発揮しているコンピュータ上の要素の集合体であると解される。そして、引用発明の方法は、シミュレーション内でEVと充電ステーションとを要素として含み、それらが有機的に関係し合い、全体としてまとまった機能を発揮しているコンピュータ上の要素の集合体を用いて、充電ステーションの配置を最適化する方法といえるから、引用発明の当該コンピュータ上の要素の集合体は、本願発明の「デジタルツインシステム」に相当する。また、引用発明の「方法」は、「EV」及び「充電ステーション」のモデルを用いて、充電ステーションの配置を最適化するものであるから、本願発明の「少なくとも2つのデジタルツインが含まれるデジタルツインシステムを最適化する最適化方法」に相当する。
ウ.引用発明の「各EVについて、走行距離、電池の残量、電池が切れた地点」は、EVの状態を示すものであるから、本願発明の「第一のデジタルツインの状態」に相当する。
また、引用発明の各充電ステーションは、シミュレーション内に「配置」されているものといえるところ、当該各充電ステーションの「配置」や「先に到着したEVの充電待ちや電池残量と充電電力に応じた時間」は、充電ステーションの状態を示すものであるから、本願発明の「第二のデジタルツインの状態」に相当する。
エ.「指標」とは、「物事の見当をつけるためのめじるし(広辞苑 第四版)」であって、引用発明において、「EVの電池切れ発生率や電池切れ発生分布」は、EVの走行距離、電池の残量、電池が切れた地点等に基づいて取得される、EVにおける「指標」であるといえるから、本願発明の「第一のデジタルツインにおける第一の指標」に相当する。また、引用発明において、「すでに配置されている充電ステーションからの距離」や「充電ステーションの時間帯ごとの利用状況」は、各充電ステーションの「配置」や「先に到着したEVの充電待ちや電池残量と充電電力に応じた時間」等に基づいて取得される、充電ステーションにおける「指標」であるといえるから、本願発明の「第二のデジタルツインの第二の指標」に相当する。
オ.情報処理において、シミュレーション内における算出する処理は、取得処理又は推定処理ともいい得るところ、引用発明は、「シミュレーションの結果から得られたEVの電池切れ発生率や電池切れ発生分布と、すでに配置されている充電ステーションからの距離、充電ステーションの時間帯ごとの利用状況などの評価指標などを用いて、設置する充電ステーションの位置を調整し、調整された充電ステーションの位置を反映して再度シミュレーションを行い、これを繰り返し、最終的に電池切れ発生率が変化しない状況における充電ステーションの配置および箇所数が適切な配置を決定する」ものであることに鑑みれば、少なくとも「充電ステーションの位置」が調整されるごとに当該「位置」に基づいて「シミュレーション」を繰り返し行い、当該各「シミュレーション」内において、「EVの電池切れ発生率や電池切れ発生分布」(第一のデジタルツインにおける第一の指標の値)、「各EVについて、走行距離、電池の残量、電池が切れた地点」(第一のデジタルツインの状態)、「すでに配置されている充電ステーションからの距離」や「充電ステーションの時間帯ごとの利用状況」(第二のデジタルツインにおける第二の指標の値)及び各充電ステーションの「配置」や「先に到着したEVの充電待ちや電池残量と充電電力に応じた時間」(第二のデジタルツインの状態)を、取得ないし推定しているといえるから、各「シミュレーション」内では、「充電ステーションの位置」が与えられた場合に又は与えられた後の上記「第一のデジタルツインの状態」、「第一の指標」、「第二のデジタルツインの状態」、及び、「第二の指標」を取得ないし推定していると解される。よって、引用発明において、充電ステーションの「位置」は、本願発明の「第一のパラメータ」に相当する。
カ.上記オをふまえると、引用発明の「EVの電池切れ発生率や電池切れ発生分布」を得ること、及び、「各EVについて、走行距離、電池の残量、電池が切れた地点を算出」することは、本願発明の「第一のパラメータが与えられた場合に第一のデジタルツインにおける第一の指標の値である第一の指標値を取得」すること、及び、「前記第一のパラメータを与えた後の前記第一のデジタルツインの状態を推定」することに相当するといえる。また、引用発明において、「すでに配置されている充電ステーションからの距離」や「充電ステーションの時間帯ごとの利用状況などの評価指標を算出」すること、及び、各充電ステーションの「配置」や「先に到着したEVの充電待ちや電池残量と充電電力に応じた時間」を算出することは、「前記第一のパラメータが与えられた場合の第二のデジタルツインにおける第二の指標の指標値である第二の指標値及び前記第二のデジタルツインの状態を取得」することに相当する。
キ.引用発明の「シミュレーションの結果から得られたEVの電池切れ発生率や電池切れ発生分布と、すでに配置されている充電ステーションからの距離、充電ステーションの時間帯ごとの利用状況などの評価指標などを用いて、設置する充電ステーションの位置を調整し、調整された充電ステーションの位置を反映して再度シミュレーションを行い、これを繰り返し、最終的に電池切れ発生率が変化しない状況における充電ステーションの配置および箇所数が適切な配置を決定する」との事項は、「シミュレーションの結果から得られたEVの電池切れ発生率や電池切れ発生分布と、すでに配置されている充電ステーションからの距離、充電ステーションの時間帯ごとの利用状況などの評価指標などを用いて」、「充電ステーションの配置」とを最適化すること、すなわち「第一のデジタルツイン」と「第二のデジタルツイン」を最適化することであるといえる。
そうすると、引用発明の当該事項は、本願発明の「前記第一のデジタルツインの状態、前記第二のデジタルツインの状態、前記第一の指標及び前記第二の指標を用いて前記第一のデジタルツインと前記第二のデジタルツインの少なくともいずれかを最適化する」ことに相当する。
ク.したがって、本願発明と引用発明とは次の事項で一致する。
【一致点】
「 少なくとも2つのデジタルツインが含まれるデジタルツインシステムを最適化する最適化方法であって、
第一のパラメータが与えられた場合に第一のデジタルツインにおける第一の指標の値である第一の指標値を取得し、
前記第一のパラメータを与えた後の前記第一のデジタルツインの状態を推定し、
前記第一のパラメータが与えられた場合の第二のデジタルツインにおける第二の指標の指標値である第二の指標値及び前記第二のデジタルツインの状態を取得し、
前記第一のデジタルツインの状態、前記第二のデジタルツインの状態、前記第一の指標及び前記第二の指標を用いて前記第一のデジタルツインと前記第二のデジタルツインの少なくともいずれかを最適化すること、
をコンピュータが実行する、最適化方法。」
4 判断
以上のとおりであるから、本願発明と引用発明とは同一である。
5 請求人の主張について
請求人は、令和7年6月5日提出の意見書において次の主張をしている。
「 デジタルツインとMASは、共に複雑なシステムを仮想空間で再現し、挙動を分析・最適化するために用いられる技術と理解しており、仮想環境での実験や予測を可能にするものであるものという点では、確かに一致するものであります。
引用文献1で開示されているMASは、あくまでエージェントの動作をシミュレーションする技術であります。すなわち、引用文献1で開示されているMASは、エージェント間の相互作用を通じたシステムの挙動を理解するための技術であります。
これに対して、本願発明のデジタルツインは、現実世界のシステムをリアルタイムで監視・最適化するための技術である点で、引用文献1で開示されているMASと相違しています。
また引用文献1で開示されているMASは、仮説に基づくモデル化とシナリオ設定を行うものであります。これに対して、本願発明のデジタルツインは、センサーやIoTからのリアルタイムデータを用いている点で、引用文献1で開示されているMASと相違しています。
また引用文献1で開示されているMASは、基本的にオフラインでのシミュレーションを行うものであります。これに対して、本願発明のデジタルツインは、現実世界と仮想空間の双方向連携を行うものである点で、引用文献1で開示されているMASと相違しています。
このように、MASとデジタルツインとは、そのコンセプトや実現手法について大きく隔たりがあると思われますから、引用文献1により新規性及び進歩性が無いとした審判官の判断は正しいとは言えません。」
上記主張について検討する。
上記3.アで説示したとおり、本願発明の「デジタルツイン」は、本願出願時の技術常識、及び、本願明細書によると、「現実空間に存在するオブジェクト又は事象をコンピュータ上でモデル化したもの」であると解されるところ、本願出願時の技術常識を参酌しても、「デジタルツイン」が、当該解釈に加えて、「現実世界のシステムをリアルタイムで監視・最適化する」こと、「センサーやIoTからのリアルタイムデータを用いる」こと、及び、「現実世界と仮想空間の双方向連携を行う」ことを必須の構成として備えるものであるとすべき理由は認められない。仮に、本願発明の「デジタルツイン」がリアルタイムデータを使用したりリアルタイムに処理をしたりする機能を有しているとしても、請求項7には、そのような機能を具体的に特定する記載はないから、本願発明は、上記機能を使用することは必須ではなく、むしろ使用しない範囲で発明を特定したものと解さざるを得ないから、請求人が主張する点は、実質的な相違点とは認められない。
さらに、Zhang et a, "Time series behavior modeling with digital twin for Internet of Vehicles", EURASIP Journal on Wireless Communications and Networking,2019, 2019:271, p.1-11(URL: https://jwcn-eurasipjournals.springeropen.com/articles/10.1186/s13638-019-1589-8)などに記載されているように、EVや充電ステーションのシミュレーション技術を、デジタルツインと称するオブジェクトで実現することは、本願優先日前における周知技術と認められる。よって、仮に、引用発明におけるシミュレーションの対象物が「デジタルツイン」ではないことが本願発明との間の実質的な相違点であるとしても、これを上記周知技術に基づいて「デジタルツイン」と称する程度のことは当業者が容易に想到し得たものである。
第5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。仮に、本願発明と引用発明との間に相違点があるとしても、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて周知技術を参酌することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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