特許拒絶査定不服審判
2024-012617
メモリサブシステムの動的コマンド拡張
- 審判番号
- 2024-012617
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-544233
- 請求日
- 2024年08月02日
- 審決日
- 2025年08月29日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】マイクロン テクノロジー,インク.
- 【請求人代理人】青木 宏義
- 【請求人代理人】天田 昌行
- 【請求人代理人】大菅 義之
- 審判長/審判官
- 審判長 林 毅
- 審判官 山崎 慎一
- 審判官 脇岡 剛
- 分類
- P18 .121-WY (H04L) / P18 .537-WY (H04L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-544233「メモリサブシステムの動的コマンド拡張」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 7月29日国際公開、WO2021/150719、令和 5年 3月17日国内公表、特表2023-511364、請求項の数(18)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1.手続きの経緯
本願は、2021年(令和3年)1月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2020年1月22日 (以下、「本願優先日」という。)、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続きの経緯は、概略、以下のとおりである。
令和5年10月19日付け :拒絶理由通知
令和6年 1月19日 :意見書、手続補正書の提出
令和6年 4月18日付け :拒絶査定
令和6年 8月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和6年11月25日付け :前置報告
令和7年 2月25日 :上申書の提出
令和7年 4月10日付け :拒絶理由通知
令和7年 6月18日 :意見書、手続補正書の提出
第2.本願発明
本願の請求項1ないし18に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明18」という。)は、令和7年6月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲1ないし18に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
揮発性メモリデバイスと、
初期のコマンドタイプのセットを処理するように構成された処理デバイスと、
を備えるメモリサブシステムであって、
前記処理デバイスは、
コマンド拡張モジュール及びデジタル署名を受信することであって、前記デジタル署名が、鍵ペアの秘密鍵を使用して前記コマンド拡張モジュールに基づいて生成され、前記コマンド拡張モジュールが、前記処理デバイスによってインストールされると、前記処理デバイスが、前記初期のコマンドタイプのセットには含まれていない新しいコマンドタイプを処理することを可能にする、前記受信することと、
前記鍵ペアの公開鍵を使用して前記デジタル署名を検証することと、
前記コマンド拡張モジュールが以前にインストールされたかどうかを、前記コマンド拡張モジュールのセキュリティバージョンを確認することによって判定することであって、前記セキュリティバージョンの前記確認は、前記コマンド拡張モジュールの前記セキュリティバージョンを、以前にインストールされたコマンド拡張モジュールが前記メモリサブシステムに再インストールされるのを防止するアンチロールバックサポートのための、前記処理デバイスによって維持されているセキュリティバージョンカウンタと比較することを含む、前記判定することと、
前記デジタル署名の検証の成功と、前記コマンド拡張モジュールが以前にインストールされていないことを示す前記セキュリティバージョンの確認の成功とに基づいて、前記コマンド拡張モジュールを前記メモリサブシステムに一時的にインストールすることであって、前記コマンド拡張モジュールの前記一時的なインストールが、前記揮発性メモリデバイスに前記コマンド拡張モジュールをロードすることを含む、前記一時的にインストールすることと、
前記コマンド拡張モジュールがインストールされていることを示すために前記セキュリティバージョンカウンタをインクリメントすることであって、前記セキュリティバージョンカウンタの前記インクリメントに応じて、前記処理デバイスは前記コマンド拡張モジュールを再インストールすることができなくなる、前記インクリメントすることと、
を含む操作を実行するように、前記揮発性メモリデバイスと動作可能に結合される、前記メモリサブシステム。
【請求項2】
前記処理デバイスが、
コマンドを受信し、
前記コマンドが前記新しいコマンドタイプに対応すると判断し、
前記コマンドが前記新しいコマンドタイプに対応することに基づいて、前記コマンドを前記コマンド拡張モジュールに転送する
ための拡張リダイレクトコンポーネントを備える、請求項1に記載のメモリサブシステム。
【請求項3】
前記コマンド拡張モジュールが前記コマンドを処理する、請求項2に記載のメモリサブシステム。
【請求項4】
前記コマンド拡張モジュールが、前記コマンドを処理する際に、前記処理デバイスへの1つまたは複数のコールバックを実行する、請求項3に記載のメモリサブシステム。
【請求項5】
前記コマンド拡張モジュールが、システムリブート時または有効期限(TTL)値の満了時に消去される、請求項1に記載のメモリサブシステム。
【請求項6】
前記操作が、
前記コマンド拡張モジュールの前記セキュリティバージョンを決定すること
をさらに含む、請求項1に記載のメモリサブシステム。
【請求項7】
前記公開鍵を格納するための不揮発性記憶媒体をさらに備える、請求項1に記載のメモリサブシステム。
【請求項8】
ホストインタフェースをさらに備え、前記コマンド拡張モジュール及び前記デジタル署名が、コマンド拡張要求の一部として、前記ホストインタフェースを介して受信される、請求項1に記載のメモリサブシステム。
【請求項9】
前記処理デバイスによる前記デジタル署名の前記検証が、前記公開鍵及び前記秘密鍵の組み合わせに基づいて前記デジタル署名を検証するために、非対称暗号アルゴリズムを使用することを含む、請求項1に記載のメモリサブシステム。
【請求項10】
方法であって、
マシンの1つまたは複数のプロセッサを備えるメモリサブシステムコントローラによって、コマンド拡張モジュール及びデジタル署名を受信することであって、前記デジタル署名が、鍵ペアの秘密鍵を使用して前記コマンド拡張モジュールに基づいて生成され、前記メモリサブシステムコントローラが、前記メモリサブシステムコントローラが初期のコマンドタイプのセットを処理することを可能にするファームウェアを備え、前記コマンド拡張モジュールが、前記メモリサブシステムコントローラによってインストールされると、前記初期のコマンドタイプのセットには含まれていない新しいコマンドタイプを、前記メモリサブシステムコントローラが処理することを可能にするマシン可読命令のセットを含む、前記受信することと、
前記メモリサブシステムコントローラによって、前記鍵ペアの公開鍵を使用して前記デジタル署名を検証することと、
前記コマンド拡張モジュールが以前にインストールされたかどうかを、前記コマンド拡張モジュールのセキュリティバージョンを確認することによって判定することであって、前記セキュリティバージョンの前記確認は、前記コマンド拡張モジュールの前記セキュリティバージョンを、以前にインストールされたコマンド拡張モジュールが前記システムに再インストールされるのを防止するアンチロールバックサポートのための、前記メモリサブシステムコントローラによって維持されているセキュリティバージョンカウンタと比較することを含む、前記判定することと、
前記デジタル署名の検証の成功と、前記コマンド拡張モジュールが以前にインストールされていないことを示す前記セキュリティバージョンの確認の成功とに基づいて、前記メモリサブシステムコントローラで、前記コマンド拡張モジュールを一時的にインストールすることであって、前記コマンド拡張モジュールの前記一時的なインストールが、前記メモリサブシステムコントローラの揮発性メモリデバイスに前記コマンド拡張モジュールを格納することを含む、前記インストールすることと、
前記コマンド拡張モジュールがインストールされていることを示すために前記セキュリティバージョンカウンタをインクリメントすることであって、前記セキュリティバージョンカウンタの前記インクリメントに応じて、前記処理デバイスは前記コマンド拡張モジュールを再インストールすることができなくなる、前記インクリメントすることと、
を含む、前記方法。
【請求項11】
コマンドを受信することと、
前記コマンドが前記新しいコマンドタイプに対応すると判断することと、
前記メモリサブシステムコントローラのリダイレクトコンポーネントによって、前記コマンドが前記新しいコマンドタイプに対応することに基づいて、前記コマンドを前記コマンド拡張モジュールに転送することと
をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記コマンド拡張モジュールによって、前記コマンドを処理することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記コマンド拡張モジュールが、システムリブート時に消去される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記コマンド拡張モジュールの前記セキュリティバージョンを決定することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記コマンド拡張モジュールを一時的にインストールすることに基づいて、前記セキュリティバージョンカウンタをインクリメントすること、をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記コマンド拡張モジュール及び前記デジタル署名が、コマンド拡張要求の一部として、前記メモリサブシステムコントローラのホストインタフェースを介してホストシステムから受信される、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記デジタル署名の前記検証が、前記公開鍵及び前記秘密鍵の組み合わせに基づいて前記デジタル署名を検証するために、非対称暗号アルゴリズムを使用することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
命令を含む非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、
前記命令は、メモリサブシステムの処理デバイスによる実行時に、
コマンド拡張モジュール及びデジタル署名を受信することであって、前記デジタル署名が、鍵ペアの秘密鍵を使用して前記コマンド拡張モジュールに基づいて生成され、前記処理デバイスが、前記処理デバイスが初期のコマンドタイプのセットを処理することを可能にするファームウェアを備え、前記コマンド拡張モジュールが、前記処理デバイスによってインストールされると、前記初期のコマンドタイプのセットには含まれていない新しいコマンドタイプを、前記処理デバイスが処理することを可能にするマシン可読命令のセットを含む、前記受信することと、
前記鍵ペアの公開鍵を使用して前記デジタル署名を検証することと、
前記コマンド拡張モジュールが以前にインストールされたかどうかを、前記コマンド拡張モジュールのセキュリティバージョンを確認することによって判定することであって、前記セキュリティバージョンの前記確認は、前記コマンド拡張モジュールの前記セキュリティバージョンを、以前にインストールされたコマンド拡張モジュールが前記メモリサブシステムに再インストールされるのを防止するアンチロールバックサポートのための、前記処理デバイスによって維持されているセキュリティバージョンカウンタと比較することを含む、前記判定することと、
前記デジタル署名の検証の成功と、前記コマンド拡張モジュールが以前にインストールされていないことを示す前記セキュリティバージョンの確認の成功とに基づいて、前記コマンド拡張モジュールを一時的にインストールすることであって、前記コマンド拡張モジュールの前記一時的なインストールが、前記処理デバイスの揮発性メモリデバイスに前記コマンド拡張モジュールを格納することを含む、前記インストールすることと、
前記コマンド拡張モジュールがインストールされていることを示すために前記セキュリティバージョンカウンタをインクリメントすることであって、前記セキュリティバージョンカウンタの前記インクリメントに応じて、前記処理デバイスは前記コマンド拡張モジュールを再インストールすることができなくなる、前記インクリメントすることと、
を含む操作を実行するように前記処理デバイスを構成する、前記非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。」
第3.原査定及び当審による拒絶理由の概要
1.原査定の概要
令和6年4月18日付け拒絶査定(以下、「原査定」という。)の概要は次のとおりである。
(進歩性)この出願の請求項1-19に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.特開昭63-163626号公報
2.特開2003-122588号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平6-44063号公報
4.特開平4-248754号公報
5.特表2009-512076号公報
2.当審拒絶理由の概要
令和7年4月10日付け拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。
(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が次の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
「本願明細書の段落0002、0003、0006ないし0011等の記載によると、本願明細書には、「メモリサブシステム」における特有のコマンド拡張方法が記載されているといえるところ、他の記載を参酌しても、本願明細書及び図面には、「メモリサブシステム」以外のシステムは記載も示唆もない。
一方、本願請求項1に係る発明の「揮発性メモリデバイスと、初期のコマンドタイプのセットを処理するように構成された処理デバイスと、を備えるシステム」は、請求項1の他の記載及び本願優先日前の技術常識を参酌しても、「メモリサブシステム」に限定して解釈すべき事情はなく、むしろ、揮発性メモリ(RAM)と処理デバイス(CPU)とを備えた汎用的な情報処理システムをも含むものと解される。
したがって、本願優先日前の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。また、同様の理由により、請求項2ないし9、18に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」
第4.当審拒絶理由について
令和7年6月18日に提出された手続補正書による補正により、本願発明1ないし9、18は、「メモリサブシステム」に係るものとなり、本願明細書の段落0002、0003、0006ないし0011に記載したものであることが明確になった。
したがって、当審拒絶理由は解消した。
第5.原査定の理由について
1.引用文献の記載事項
(1)引用文献1
引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「プリンタであって(2頁右上欄9-14行)、
コマンド管理手段を介してプリンタの処理プログラムの一部が書込まれる、書込み消去可能なプログラム記憶手段と、上記プログラム記憶手段へ、入力部から入力するコマンドに従ってプリンタの処理プログラムを書込み、また入力部から入力するコマンドによりプログラムをコマンドに従って読出すコマンド管理手段と、コマンド管理手段により読出されたプログラムに従って印字制御を行う制御手段を備え(2頁右上欄16行-左下欄12行)、
ROM部内にはモニター部、内蔵コマンド実行部を有し、RAM部内にはコマンド管理部、拡張コマンド実行部を有し(2頁右下欄7-14行)、
モニター部はホストコンピュータから送られてくる各種コマンドを受信して、これらのコマンドをコマンド管理部へ出力し(2頁右下欄18行-3頁左上欄3行)、
コマンド管理部は内蔵コマンド実行部、拡張コマンド実行部内の各処理ルーチンを上述の各コマンドにより選択するものあって、拡張コマンド実行部はRAM内にあるため書換え可能に構成されており(3頁左上欄4-8行)、
内蔵コマンド実行部は、プリンタの動作をサポートする標準のサポート用プログラムが書込まれており、拡張コマンド実行部には必要に応じてユーザにより新規追加されたプリンタのサポート用プログラムが書込まれ(3頁左上欄9-13行)、
内蔵コマンド実行部及び拡張コマンド実行部の各実行ルーチンに対応するシンタック管理情報のアドレスはコマンド管理部にポイントされており、前述の各コマンドがコマンド管理部へ入力すると、対応する実行ルーチンをコマンド管理部の上述のポイントによって選択し、これらはコマンド管理部と内蔵コマンド実行部、拡張コマンド実行部とを各々結ぶリンクを介して行われ(3頁左上欄16行-右上欄5行)、
拡張コマンド実行部に新たなコマンドを追加する場合には、内蔵コマンド実行部内の新規コマンド/関数追加命令プログラムの制御によりリンクを介して行われる、すなわち、この新規コマンド/関数追加命令プログラムの制御により、コマンド管理部内に新規コマンドのポイントを作成し、拡張コマンド実行部内に新たなコマンド実行プログラムを書込む(3頁右上欄6-14行)、
すなわち、新規コマンドの追加命令と新規登録コマンドとコマンド実行プログラムとを含む新規コマンド追加命令(第5図)を入力すると、モニター部、リンクを介して新規登録コマンドがコマンド管理部ヘシンタックスのポイントとして書込まれ、拡張コマンド実行部内のシンタックス部にはそれに続くコマンド実行プログラムが書込まれ、以後印字処理に際してこの新たなプログラム換言するならば特殊なコマンドを利用することができる(4頁左上欄1行-右上欄10行)、
プリンタ」
(2)引用文献2
引用文献2には、次の事項が記載されている。
「ソフトウェアモジュールと共にデジタル署名をも受信し、デジタル署名が、鍵ペアの秘密鍵を使用してソフトウェアモジュールに基づいて生成されたものとし、鍵ペアの公開鍵を使用してデジタル署名を検証することを行い、デジタル署名の検証の成功に基づいてソフトウェアモジュールをシステムにインストールすること(段落0005、0006など)。」、及び、
「ソフトウェアにバージョン情報を付加しておき、バージョン情報の新旧の比較結果に応じて、ソフトウェアをメモリに保存するか否かを決定すること(段落0084)。」
(3)引用文献3
引用文献3には、次の事項が記載されている。
「サブプログラムにサブプログラム機能を実行するためのアクセスコマンドが含まれ、個別サブプログラムはこのコマンドに対して応答し(段落0006)、個別サブプログラムをメインプログラムに完全に統合することによって、メインプログラムのコマンドと同じ方法でサブプログラムのコマンドを呼び出せるようにすることにおいて、個別サブプログラムは、メインプログラムで利用可能な機能を実行するためのものであること(段落0007)。」、及び、
「コールバックワードにより、導入可能サブプログラムがメインプログラムに実行させるオペレーションを要求することができること(段落0025)。」
(4)引用文献4
引用文献4には、次の事項が記載されている。
「ユーザの拡大機能用プログラム(段落0030)について、データを書き換え可能に記憶するメモリに、プログラムを格納するとともに、このプログラムを保存しておく期間を決定する時間データを各プログラム毎に格納するようにして(段落0015、0029)、プログラムを受信してメモリに書き込むと(段落0020)、メモリに格納された時間データと現在時間とを参照して、プログラムを消去すべき時刻を算出し(段落0023)、現在時刻を参照することにより、設定した時刻が経過したかどうかどうか監視し、経過していれば、メモリに格納されたプログラムを消去すること(段落0026)。」
(5)引用文献5
引用文献5には、次の事項が記載されている。
「メモリサブシステムコントーラが(段落0008、0009)、パススルーコマンドを実行することにより(段落0036)、ファームウェアを更新すること(段落0045、0046)。」
2.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明との対比
ア.引用発明の「プリンタ」は、複数の処理手段を備えたシステムであるといえることからすると、本願発明1の「メモリサブシステム」とは、「システム」の点で共通する。また、引用発明の「RAM部」は、本願発明1の「揮発性メモリデバイス」に相当する。
イ.本願発明1の「初期のコマンドタイプ」とは、予め定められた(「新しいコマンドタイプ」ではないコマンドタイプ)コマンドであると解されるところ、引用発明の「入力部から入力するコマンドに従ってプリンタの処理プログラムを書込み、また入力部から入力するコマンドによりプログラムをコマンドに従って読出すコマンド管理手段」及び「コマンド管理手段により読出されたプログラムに従って印字制御を行う制御手段」は、入力するコマンドにより、プリンタの動作をサポートする標準のサポート用プログラムの各実行ルーチンを選択して実行するものであるといえることからすると、本願発明1の「初期のコマンドタイプのセットを処理するように構成された処理デバイス」に相当する。
ウ.引用発明の「新規コマンドの追加命令と新規登録コマンドとコマンド実行プログラムとを含む新規コマンド追加命令」における「コマンド実行プログラム」は、新規登録コマンドを実行するプログラムであるところ、当該プログラムを「拡張モジュール」と称することは任意であるから、本願発明1の「コマンド拡張モジュール」に相当する。
オ.上記エをふまえると、引用発明の「新規コマンド追加命令を入力すると、モニター部、リンクを介して新規登録コマンドがコマンド管理部ヘシンタックスのポイントとして書込まれ、拡張コマンド実行部内のシンタックス部にはそれに続くコマンド実行プログラムが書込まれ、以後印字処理に際してこの新たなプログラム換言するならば特殊なコマンドを利用することができる」ことは、本願発明1の「コマンド拡張モジュール及びデジタル署名を受信することであって、前記デジタル署名が、鍵ペアの秘密鍵を使用して前記コマンド拡張モジュールに基づいて生成され、前記コマンド拡張モジュールが、前記処理デバイスによってインストールされると、前記処理デバイスが、前記初期のコマンドタイプのセットには含まれていない新しいコマンドタイプを処理することを可能にする、前記受信すること」と、「コマンド拡張モジュールを受信することであって、前記コマンド拡張モジュールが、前記処理デバイスによってインストールされると、前記処理デバイスが、前記初期のコマンドタイプのセットには含まれていない新しいコマンドタイプを処理することを可能にする、前記受信すること」との点で共通する。
エ.引用発明において、「拡張コマンド実行部はRAM内にあるため書換え可能に構成されて」いることからすると、「新規コマンドの追加命令と新規登録コマンドとコマンド実行プログラムとを含む新規コマンド追加命令(第5図)を入力すると、モニター部、リンクを介して新規登録コマンドがコマンド管理部ヘシンタックスのポイントとして書込まれ、拡張コマンド実行部内のシンタックス部にはそれに続くコマンド実行プログラムが書込まれ」ることは、その書込みが一時的な「RAM」に対して行われるものであると解される。そうすると、引用発明の「新規コマンドの追加命令と新規登録コマンドとコマンド実行プログラムとを含む新規コマンド追加命令(第5図)を入力すると、モニター部、リンクを介して新規登録コマンドがコマンド管理部ヘシンタックスのポイントとして書込まれ、拡張コマンド実行部内のシンタックス部にはそれに続くコマンド実行プログラムが書込まれ」ることは、本願発明1の「前記コマンド拡張モジュールを前記システムに一時的にインストールすることであって、前記コマンド拡張モジュールの前記一時的なインストールが、前記揮発性メモリデバイスに前記コマンド拡張モジュールをロードすることを含む、前記一時的にインストールすること」に相当する。
オ.以上によると、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致し、また、相違していると認められる。
【一致点】
「揮発性メモリデバイスと、
初期のコマンドタイプのセットを処理するように構成された処理デバイスと、
を備えるシステムであって、
前記処理デバイスは、
コマンド拡張モジュールを受信することであって、前記コマンド拡張モジュールが、前記処理デバイスによってインストールされると、前記処理デバイスが、前記初期のコマンドタイプのセットには含まれていない新しいコマンドタイプを処理することを可能にする、前記受信することと、
前記コマンド拡張モジュールを前記メモリサブシステムに一時的にインストールすることであって、前記コマンド拡張モジュールの前記一時的なインストールが、前記揮発性メモリデバイスに前記コマンド拡張モジュールをロードすることを含む、前記一時的にインストールすることと、
を含む操作を実行するように、前記揮発性メモリデバイスと動作可能に結合される、前記システム。」
【相違点】
・相違点1
本願発明1では、「デジタル署名」に関し、「前記デジタル署名が、鍵ペアの秘密鍵を使用して前記コマンド拡張モジュールに基づいて生成され」るものであること、「コマンド拡張モジュール及びデジタル署名を受信すること」、及び、「前記鍵ペアの公開鍵を使用して前記デジタル署名を検証」することとの構成を備えているのに対して、引用発明には、当該「デジタル署名」に係る構成を備えていない点。
・相違点2
本願発明1では、「コマンド拡張モジュールのセキュリティバージョン」に関し、「前記コマンド拡張モジュールが以前にインストールされたかどうかを、前記コマンド拡張モジュールのセキュリティバージョンを確認することによって判定することであって、前記セキュリティバージョンの前記確認は、前記コマンド拡張モジュールの前記セキュリティバージョンを、以前にインストールされたコマンド拡張モジュールが前記メモリサブシステムに再インストールされるのを防止するアンチロールバックサポートのための、前記処理デバイスによって維持されているセキュリティバージョンカウンタと比較することを含む、前記判定すること」、及び、「前記コマンド拡張モジュールがインストールされていることを示すために前記セキュリティバージョンカウンタをインクリメントすることであって、前記セキュリティバージョンカウンタの前記インクリメントに応じて、前記処理デバイスは前記コマンド拡張モジュールを再インストールすることができなくなる、前記インクリメントすること」との構成を備えているのに対して、引用発明には、当該「コマンド拡張モジュールのセキュリティバージョン」に関する構成を備えていない点。
・相違点3
本願発明1では、「前記コマンド拡張モジュールを前記メモリサブシステムに一時的にインストールする」ことは、「前記デジタル署名の検証の成功と、前記コマンド拡張モジュールが以前にインストールされていないことを示す前記セキュリティバージョンの確認の成功とに基づいて」行われるものであるのに対して、引用発明の「前記コマンド拡張モジュールを前記メモリサブシステムに一時的にインストールする」ことにおいては、当該事項が特定されていない点。
(2)判断
事案に鑑みて、まず、相違点1ないし2について検討する。
引用文献1の「本発明はプリンタを用いて印字制御する際に、印字処理プログラムに使用されるサポート用のプログラムを新たなコマンドと共にユーザが自由にRAMに書込むことを可能とすることにより、ROMを新たに作成する必要がなく、ユーザが容易に必要とするサポート用プログラムを作成することを可能とするものである。」(1頁右欄12行-18行)、及び、「以上詳細に説明したように本発明によれば、新たな実行プログラムや関数プログラムを新たなコマンドとしてRAM上に拡張可能であるので、ユーザはアプリケーションプログラムで自由にコマンドを追加することができる。」(4頁左下欄20行-右下欄4行)との記載によると、引用発明は、ユーザがサポート用プログラムを作成してRAMに書き込むことによって、自由にコマンドを追加することができることを課題とするものと認められる。
ここで、コンピュータプログラムのアップデート用プログラムに付されたデジタル署名は、当該コンピュータプログラムのベンダ以外の者による改変を防ぐためのものであることが本願優先日における技術常識であるから、引用文献2に記載された「デジタル署名」に係る事項は、ベンダ以外の者からの改変を防ぐためのものであるといえる。
そして、引用発明の「ユーザ」はベンダ以外の者であると解されるところ、引用発明に引用文献2に記載された「デジタル署名」に係る事項を適用した場合、「ユーザがサポート用プログラムを作成してRAMに書き込むことによって、自由にコマンドを追加する」ことは困難となるから、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用するには、阻害要因が存在するというべきである。
さらに検討をすすめると、仮に、引用発明に引用文献2に記載された事項を適用したとしても、「コマンド拡張モジュールのセキュリティバージョン」に係る構成として、「前記コマンド拡張モジュールが以前にインストールされたかどうかを、前記コマンド拡張モジュールのセキュリティバージョンを確認することによって判定することであって、前記セキュリティバージョンの前記確認は、前記コマンド拡張モジュールの前記セキュリティバージョンを、以前にインストールされたコマンド拡張モジュールが前記メモリサブシステムに再インストールされるのを防止するアンチロールバックサポートのための、前記処理デバイスによって維持されているセキュリティバージョンカウンタと比較することを含む、前記判定すること」、及び、「前記コマンド拡張モジュールがインストールされていることを示すために前記セキュリティバージョンカウンタをインクリメントすることであって、前記セキュリティバージョンカウンタの前記インクリメントに応じて、前記処理デバイスは前記コマンド拡張モジュールを再インストールすることができなくなる、前記インクリメントすること」とすることは、当業者が容易に想到できたこととはいえない。
また、その他の引用文献には、相違点1ないし2に係る本願発明1の構成について開示されているとはいえない。
したがって、相違点1ないし2に係る本願発明1の構成は、引用発明、及び、引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到できたものではない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明、及び、引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3.本願発明10、18について
本願発明10、18は、本願発明1を、「方法」又は「命令を含む非一時的なコンピュータ可読記憶媒体」として記載したものであり、いずれも相違点1ないし3に対応する特定事項を備えるものといえるところ、上記2.で説示したとおり、本願発明1は、引用発明、及び、引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、同様の理由により、本願発明10、18は、引用発明、及び、引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4.本願発明2ないし9、11ないし17について
本願発明2ないし9、11ないし17は、それぞれ本願発明1、10を引用するものであって、本願発明1、10の特定事項をさらに減縮したものであるから、上記2.に示した理由と同様の理由により、引用発明、及び、引用文献2ないし5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5.小括
上記2.ないし4.で説示したとおり、本願発明1ないし18は、拒絶査定において引用された引用文献1ないし5に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。
第6.まとめ
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-012617