特許拒絶査定不服審判
2024-008568
注射器本体
- 審判番号
- 2024-008568
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-186929
- 請求日
- 2024年05月23日
- 審決日
- 2025年12月23日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ショット ファーマ シュヴァイツ アー・ゲー
- 【請求人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【請求人代理人】森田 拓
- 【請求人代理人】前川 純一
- 【請求人代理人】永島 秀郎
- 【請求人代理人】上島 類
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 哲男
- 審判官 立花 啓
- 審判官 土田 嘉一
- 分類
- P18 .121-Z (A61M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-186929「注射器本体」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 4月16日出願公開、特開2020- 58805〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和 元年(2019年)10月10日(パリ条約による優先権主張 2018年10月11日 (DE)ドイツ)の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和 5年 7月14日付け:拒絶理由通知書
同年10月 4日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 6年 1月16日付け:拒絶査定
同年 5月23日 :審判請求書の提出
令和 7年 8月12日付け:審尋
同年 9月25日 :回答書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和 5年10月 4日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「製薬用の注射器(4)のための注射器本体(1)であって、
前記注射器本体(1)は、円筒状の中空室(6)を有しており、前記中空室(6)は、円錐体(10)を有する第1の基底面(8)と、ピストン(2)を挿入するために開いた第2の基底面と、前記開いた基底面の周囲の領域に配置されたフィンガフランジ(16)と、を備えており、
前記フィンガフランジ(16)は、前記円錐体(10)に面した側に、注射過程の際の指の滑り落ちを防ぐための滑り止め部材(18)を有しており、
前記滑り止め部材(18)は、0.8μm~150μmの算術平均粗さ値を有する表面として形成されており、
前記フィンガフランジ(16)の、前記円錐体(10)とは反対の側で立てたときの前記注射器本体(1)の傾きを回避する、
注射器本体(1)。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、次の理由を含むものである。
(進歩性)本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3記載の周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2001-187140号公報
引用文献2:国際公開第2014/178242号
引用文献3:特開平10-137336号公報
第4 引用文献の記載並びに引用発明
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
「【0008】
【発明の実施の形態】本発明にかかる注射器は、透明な樹脂からなり、円筒形で中空なシリンダ部と、シリンダ内部を往復動する摺動部材(図示せず)を先端部に備えたピストン部から構成される。以下に、添付図面を参照して、本発明である注射器の詳細について説明する。図1及び図2は本発明の一実施例にかかる注射器の夫々側面図、斜視図である。図1及び図2が示すように本発明の注射器はフランジ部12を端部に備えたシリンダー本体1と摺動部材(図示せず)を備えたピストン2からなり、シリンダ本体1には目盛表示部11を挟んで対向する両側面部全体にシリンダ本体1の長軸方向に沿って、表面粗面加工部31及び32を2箇所形成している。」
「【0010】本発明の作用について説明すると、注射器を使用する際、例えば、注射器内に薬液、血液等の液体を充填する際には、シリンダ本体1を片方の手の人差し指及び中指(場合によっては薬指を含めて)とを添えた状態で親指との間に挟みこんで保持するか、あるいは片手でシリンダー本体1を手の掌内で握り込むようにして保持する。この場合、使用者は必ず内容液の性状の確認及び充填量の確認を行うため、目盛表示部11が目視可能な位置、即ち手前に向けて保持する。すると、必然的に目盛表示部11を挟んだシリンダ本体1の両側面部、即ち表面粗面加工部31、32に手指の少なくとも一部分が位置することとなる。これにより、表面粗面加工部31及び32と保持する手指の接触面において高い摩擦抵抗が得られ、仮に手指が血液等の液体が付着し、滑りやすい状態であっても、安定して注射器を保持することができ、安全な操作が可能となる。」
「【0014】本発明にかかる表面粗面加工部の好ましい態様としては、その表面粗さ(Ra)が0.1μmから5μmであることが好ましく、最も好ましい態様としては、表面粗さ(Ra)が1から2μmである。その理由としては、その表面粗さ(Ra)が0.1μm未満であると、適度な摩擦抵抗が得られず、充分な滑り止め効果が得られない。一方、その表面粗さ(Ra)が5μmを超えると、成形品を金型より離型する際に凸部がアンダーカットになり、離型性が悪くなるばかりか、凸部がつぶれてしまい、設計された形状が成形されないという欠点があるため、その表面粗さ(Ra)は0.1μmから5μmであることが好ましい。なかでも、滑り止め効果と金型からの離型性を考慮すると、表面粗面加工部の最も好ましい態様は、表面粗さ(Ra)が1μmから2μmである。」
「【0017】尚、シリンダ本体1のフランジ部12の手指の係止する位置には、例えば、線状、格子状、梨地状等の粗面加工が施されていても差し支えない。」
図1「
[図:0001435606000001.jpg]
」
図2「
[図:0001435606000002.jpg]
」
上記の記載を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「薬液を充填する注射器のシリンダー本体1であって、
シリンダー本体1は、円筒形で中空であり、往復動する摺動部材を先端部に備えたピストン2が内部を往復動し、フランジ部12を端部に備えており、
フランジ部12の手指の係止する位置には、梨地状等の粗面加工が施されている、
シリンダー本体1。」
第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の「薬液を充填する注射器のシリンダー本体1」は、その構造及び機能から、本願発明の「製薬用の注射器のための注射器本体」に相当する。
2 引用発明の「シリンダー本体1」は、「円筒形で中空であ」るから、円筒状の中空室を有している。また、注射器のシリンダー本体は、通常、先端側に円錐体を有する基底面を有しており、そのことは引用文献1の図1、2からも看て取れる。さらに、引用発明の「シリンダー本体1」は、「往復動する摺動部材を先端部に備えたピストン2が内部を往復動」するから、ピストン2を挿入するために開いた基底面を有することが明らかであり、図1、2より「フランジ部12」は開いた基底面の周囲の領域に配置されたものと表現できる。
したがって、引用発明の「シリンダー本体1は、円筒形で中空であり、往復動する摺動部材を先端部に備えたピストン2が内部を往復動し、フランジ部12を端部に備えて」いることは、本願発明の「前記注射器本体は、円筒状の中空室を有しており、前記中空室は、円錐体を有する第1の基底面と、ピストンを挿入するために開いた第2の基底面と、前記開いた基底面の周囲の領域に配置されたフィンガフランジと、を備えて」いることに相当する。
3 引用発明の「フランジ部12の手指の係止する位置」は、その構造及び機能から、本願発明の「前記フィンガフランジ」の「前記円錐体に面した側」に相当する。また、引用発明の「梨地状等の粗面加工」は、「手指の係止する位置」に施されているから、注射過程の際の指の滑り落ちを防ぐことが明らかであり、本願発明の「滑り止め部材」に相当する。
したがって、引用発明の「フランジ部12の手指の係止する位置には、梨地状等の粗面加工が施されている」ことは、本願発明の「前記フィンガフランジは、前記円錐体に面した側に、注射過程の際の指の滑り落ちを防ぐための滑り止め部材を有して」いることに相当する。
したがって、両者は、
「製薬用の注射器のための注射器本体であって、
前記注射器本体は、円筒状の中空室を有しており、前記中空室は、円錐体を有する第1の基底面と、ピストンを挿入するために開いた第2の基底面と、前記開いた基底面の周囲の領域に配置されたフィンガフランジと、を備えており、
前記フィンガフランジは、前記円錐体に面した側に、注射過程の際の指の滑り落ちを防ぐための滑り止め部材を有している、
注射器本体。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
本願発明は、「前記滑り止め部材(18)は、0.8μm~150μmの算術平均粗さ値を有する表面として形成されており、前記フィンガフランジ(16)の、前記円錐体(10)とは反対の側で立てたときの前記注射器本体(1)の傾きを回避する」のに対し、引用発明は、「梨地状等の粗面加工が施されている」点。
第6 判断
上記相違点について検討する。
引用発明において、梨地状等の粗面加工をどの程度の粗さとするかは、当業者が適宜設定し得ることにすぎず、また、引用文献1の段落0010及び0014にあるように手指との摩擦抵抗を考慮して表面粗さ(Ra)を設定することは、当業者が通常行うことである。さらに、引用文献1の段落0014に0.1μmから5μmの表面粗さ(Ra)が好ましい旨が記載されている。よって、引用発明において、上記記載を参照して、上記相違点に係る本願発明の事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
上記相違点に係る本願発明の発明特定事項に関して、当審において、令和 7年 8月12日付けで「請求項1の「前記フィンガフランジ(16)の、前記円錐体(10)とは反対の側で立てたときの前記注射器本体(1)の傾きを回避する」という事項は、どのような構成を特定しているのか明らかでない。請求項1に特定される他の構成により生じる作用を表しているのか、あるいは何らかの具体的な構成を特定しているのか、回答書にて説明されたい。」と審尋をしたところ、請求人は、令和 7年 9月25日提出の回答書において、「明細書段落0012に記載されているように、仮に、把持性を高めるために、フランジ16のB側に隆起した構造(凸部)を設けると、フランジ16のA側に凹部が設けられることがあり得ます。このような凹部が不均一に設けられていると、フランジ16をA側の面で立てたときに(注射器本体1を自立させたときに)、注射器本体1の重心が中心からずれ、注射器本体1が傾くと考えられます。また、フランジ16のA側に凹部が設けられていると、仮に、凹部が均一に設けられていたとしても、フランジ16のA側の表面積が減少します。すると、フランジ16をA側の面で立てたときの安定性が低下します。
そこで、本願発明では、請求項1において規定したように、フランジのB側に、0.8μm~150μmの算術平均粗さ値を有する表面として滑り止め部材18を形成することにより、フランジ16のA側に凹部を設けることなく、フランジ16のA側の表面を滑らかに形成することができ、その結果、注射器本体1の傾きを回避することができます。
[図:0001435606000003.jpg]
」と回答しているが、引用発明は、フランジ部12のB側に隆起した構造(凸部)を設けるものではない。
そして、フィンガフランジで注射器本体を立てることは、例えば、引用文献2(特に、段落0027、0029、0038を参照。)及び引用文献3(特に、段落0018を参照。)に記載されているように、周知技術であり、注射器本体を立てる際に傾きを回避することは、当業者が当然考慮することである。さらに、引用発明は、本願発明同様、滑り止め部材として、隆起した構成(凸部)ではなく粗面加工を採用しているのであるから、明記はなくとも、フィンガフランジで注射器本体を立てる際に傾きを回避するよう構成されているものである。
また、本願発明の効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別なものということはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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