特許拒絶査定不服審判
2024-008445
電力変換装置、及びスイッチング素子の故障診断方法
- 審判番号
- 2024-008445
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-532935
- 請求日
- 2024年05月21日
- 審決日
- 2024年12月10日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社TMEIC
- 【請求人代理人】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 須田 勝巳
- 審判官 脇岡 剛
- 審判官 山崎 慎一
- 分類
- P18 .121-WY (H02M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第1号、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023-532935「電力変換装置、及びスイッチング素子の故障診断方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 1月12日国際公開、WO2023/281643、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1.手続の経緯
本願は、2021年(令和3年)7月7日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は以下のとおりである。
令和5年 2月 9日 :手続補正書の提出
同年10月30日付け:拒絶理由通知
同年12月27日 :意見書の提出
令和6年 3月11日付け:拒絶査定
同年 5月21日 :拒絶査定不服審判の請求、
及び、手続補正書の提出
同年 6月26日付け:前置報告書
同年 7月12日 :上申書の提出
第2.原査定の拒絶の理由
原査定(令和6年3月11日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
(進歩性)この出願の請求項1-12に係る発明は、以下の引用文献1-2、請求項13-16に係る発明は、以下の引用文献1-3に、それぞれ基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2013-176240号公報
2.特開2020-072503号公報
3.特開2003-033045号公報
第3.審判請求時の補正について
令和6年5月21日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、当該補正前の請求項7-16を削除するものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とする補正に該当する。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項から第5項までの規定に違反するものとはいえない。
第4.本願発明
本願請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次の発明である。
「 【請求項1】
3レベルTNPP回路を備えた電力変換装置において、
直流正極と直流中性点との間の電圧、直流中性点と直流負極との間の電圧、及び直流正極と直流負極との間の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部が検出した電圧それぞれが上昇して低電圧領域内の所定の閾値を超えた場合に、直流中性点から交流出力端に向かって順方向に接続された内側スイッチング素子に対してテストパルスを出力するテストパルス出力部と、
前記テストパルス出力部が直流中性点から交流出力端に向かって順方向に接続された内側スイッチング素子に対してテストパルスを出力した場合に、前記電圧検出部が検出する直流中性点と直流負極との間の電圧が低下すると、直流負極に接続された外側スイッチング素子が短絡故障していると判定する判定部と
を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
3レベルTNPP回路を備えた電力変換装置において、
直流正極と直流中性点との間の電圧、直流中性点と直流負極との間の電圧、及び直流正極と直流負極との間の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部が検出した電圧それぞれが上昇して低電圧領域内の所定の閾値を超えた場合に、直流中性点から交流出力端に向かって逆方向に接続された内側スイッチング素子に対してテストパルスを出力するテストパルス出力部と、
前記テストパルス出力部が直流中性点から交流出力端に向かって逆方向に接続された内側スイッチング素子に対してテストパルスを出力した場合に、前記電圧検出部が検出する直流正極と直流中性点との間の電圧が低下すると、直流正極に接続された外側スイッチング素子が短絡故障していると判定する判定部と
を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
3レベルTNPP回路を備えた電力変換装置において、
直流正極と直流中性点との間の電圧、直流中性点と直流負極との間の電圧、及び直流正極と直流負極との間の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部が検出した電圧それぞれが上昇して低電圧領域内の所定の閾値を超えた場合に、直流正極に接続された外側スイッチング素子に対してテストパルスを出力するテストパルス出力部と、
前記テストパルス出力部が直流正極に接続された外側スイッチング素子に対してテストパルスを出力した場合に、前記電圧検出部が検出する直流正極と直流中性点との間の電圧が低下すると、直流中性点から交流出力端に向かって逆方向に接続された内側スイッチング素子が短絡故障していると判定する判定部と
を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
3レベルTNPP回路を備えた電力変換装置において、
直流正極と直流中性点との間の電圧、直流中性点と直流負極との間の電圧、及び直流正極と直流負極との間の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部が検出した電圧それぞれが上昇して低電圧領域内の所定の閾値を超えた場合に、直流正極に接続された外側スイッチング素子に対してテストパルスを出力するテストパルス出力部と、
前記テストパルス出力部が直流正極に接続された外側スイッチング素子に対してテストパルスを出力した場合に、前記電圧検出部が検出する直流正極と直流負極との間の電圧が低下すると、直流負極に接続された外側スイッチング素子が短絡故障していると判定する判定部と
を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
3レベルTNPP回路を備えた電力変換装置において、
直流正極と直流中性点との間の電圧、直流中性点と直流負極との間の電圧、及び直流正極と直流負極との間の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部が検出した電圧それぞれが上昇して低電圧領域内の所定の閾値を超えた場合に、直流負極に接続された外側スイッチング素子に対してテストパルスを出力するテストパルス出力部と、
前記テストパルス出力部が直流負極に接続された外側スイッチング素子に対してテストパルスを出力した場合に、前記電圧検出部が検出する直流正極と直流負極との間の電圧が低下すると、直流正極に接続された外側スイッチング素子が短絡故障していると判定する判定部と
を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
3レベルTNPP回路を備えた電力変換装置において、
直流正極と直流中性点との間の電圧、直流中性点と直流負極との間の電圧、及び直流正極と直流負極との間の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部が検出した電圧それぞれが上昇して低電圧領域内の所定の閾値を超えた場合に、直流負極に接続された外側スイッチング素子に対してテストパルスを出力するテストパルス出力部と、
前記テストパルス出力部が直流負極に接続された外側スイッチング素子に対してテストパルスを出力した場合に、前記電圧検出部が検出する直流中性点と直流負極との間の電圧が低下すると、直流中性点から交流出力端に向かって順方向に接続された内側スイッチング素子が短絡故障していると判定する判定部と
を有することを特徴とする電力変換装置。」
第5.当審の判断
1.引用文献
(1)引用文献1
ア.引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下、同様である。)
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
中性点スイッチ式の3レベル主回路を用いた電力変換装置では、中性点に接続したスイッチ素子が故障すると、3レベル主回路の動作が2レベル動作となる。電力変換装置は、3レベル主回路が2レベル動作になると、正常時の3レベル動作に比べて大きなサージ電圧が生じる。3レベル主回路に大きなサージ電圧が生じると、3レベル主回路を構成するメイン素子が破損する可能性があった。
【0008】
しかし、特許文献1~特許文献3を含め、従来の電力変換装置には、中性点スイッチ式の3レベル主回路において、中性点に接続したスイッチ素子の故障を検出したりや、破損を防止したりするための構成を設けていなかった。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、中性点スイッチ式の3レベル主回路を用いた電力変換装置において、中性点に接続したスイッチ素子の故障を検出することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
…中略…
【0017】
図2は、U相ユニット3Uの回路構成を示す回路図である。図2を参照して、U相ユニット3Uは、ACスイッチ素子Q2,Q3(第3および第4のスイッチ素子)と、メイン素子Q1,Q4(第1および第2のスイッチ素子)と、ダイオードD1~D4と、電流センサ7(第1の電流センサ)と、リアクトルと8を備える。電力変換装置100は、U相ユニット3U(V相ユニット3VおよびW相ユニット3Wも同様)を制御するための制御回路9をさらに備えている。
…中略…
【0022】
制御回路9は、電流センサ7の出力に基づいてACスイッチ素子Q2,Q3およびメイン素子Q1,Q4をオン/オフするための制御信号Sを生成し、その制御信号Sをそれらのスイッチ素子に供給する。さらに制御回路9は、電流センサ7の出力に基づいてACスイッチ素子Q2,Q3の故障(たとえば開放故障)を検出する。開放故障とは、スイッチ素子がオンしない(オフしたままとなる)故障である。なお、図示していないが、制御回路9には、インバータ出力電流指令値も入力される。
…中略…
【0030】
図4は、図2に示すコンデンサC1,C2の電圧をセンシングする電圧センサ41と、コンデンサC1,C2の電圧から異常を検出する異常検出回路42を追加したU相ユニット3Uの回路構成を示す回路図である。
【0031】
図4に示す電圧センサ41は、コンデンサC1,C2の正極および負極に接続し、コンデンサC1,C2の電圧をセンシングする。異常検出回路42は、電圧センサ41がセンシングしたコンデンサC1,C2の電圧から異常を検出して、スイッチ素子の故障を検出する。
【0032】
メイン素子Q1が短絡故障した場合、ACスイッチ素子Q3がオンすると、コンデンサC1が短絡して、コンデンサC1の電圧が急激に低下する。また、メイン素子Q1が短絡故障した場合、メイン素子Q4がオンすると、コンデンサC1,C2が短絡して、コンデンサC1+コンデンサC2の電圧が急激に低下する。そのため、異常検出回路42は、電圧センサ41でコンデンサC1の電圧、またはコンデンサC1+コンデンサC2の電圧が急激に低下する異常を検出することで、メイン素子Q1が短絡故障であることを検出することができる。
【0033】
メイン素子Q1が開放故障した場合、コンデンサC1からメイン素子Q1へ放電する経路がなくなるため、コンデンサC1の電圧と、コンデンサC2の電圧とのバランスが崩れる。そのため、異常検出回路42は、コンデンサC1の電圧と、コンデンサC2の電圧とのバランスを検出することで、メイン素子Q1が開放故障であることを検出することができる。
【0034】
ACスイッチ素子Q2が短絡故障の場合、メイン素子Q1またはメイン素子Q4がオンのタイミングで、コンデンサC1またはコンデンサC2が短絡して、コンデンサC1の電圧またはコンデンサC2の電圧が急激に低下する。そのため、異常検出回路42は、電圧センサ41でコンデンサC1の電圧、またはコンデンサC2の電圧が急激に低下する異常を検出することで、ACスイッチ素子Q2が短絡故障であることを検出することができる。ただし、メイン素子Q1が短絡故障した場合でも、コンデンサC1の電圧、またはコンデンサC1+コンデンサC2の電圧が急激に低下するので、故障検出回路13での検出結果も考慮する必要がある。なお、ACスイッチ素子Q3が短絡故障の場合も、ACスイッチ素子Q2が短絡故障の場合と同様である。
【0035】
ACスイッチ素子Q2が開放故障の場合、電力変換装置100の動作が2レベル動作となるため、コンデンサC1,C2の電圧に異常は現れない。そのため、異常検出回路42では、ACスイッチ素子Q2の開放故障を検出することができないが、故障検出回路13では、検出することができる。
【0036】
このように、故障検出回路13または異常検出回路42でスイッチ素子の故障部位を限定することで、復旧費用の低減、復旧作業時間の短縮、故障原因追及などを容易に行なうことができるメリットがある。」
「【図2】
[図:0001419214000001.jpg]
【図4】
[図:0001419214000002.jpg]
」
イ.引用発明1
(ア)上記段落0007によると、引用文献1には、「中性点スイッチ式の3レベル主回路を用いた電力変換装置」が記載されているといえる。
(イ)上記段落0031、図4には、「電圧センサ41は、コンデンサC1、C2の正極および負極に接続し、コンデンサC1,C2の電圧をセンシングする」と記載されており、また、段落0032の「異常検出回路42は、電圧センサ41でコンデンサC1の電圧、またはコンデンサC1+コンデンサC2の電圧が急激に低下する異常を検出する」との記載によると、電圧センサ41は、「コンデンサC1,C2の電圧」、及び、「コンデンサC1+コンデンサC2の電圧」を検出するものであると解される。よって、引用文献1には、「コンデンサC1、C2の正極および負極に接続し、コンデンサC1、C2の電圧、及び、コンデンサC1+コンデンサC2の電圧をセンシングする電圧センサ41」が記載されていると認められる。
(ウ)上記段落0022の「制御回路9は、電流センサ7の出力に基づいてACスイッチ素子Q2,Q3およびメイン素子Q1,Q4をオン/オフするための制御信号Sを生成し、その制御信号Sをそれらのスイッチ素子に供給する。」との記載によると、制御回路9は、ACスイッチ素子Q2、Q3、及び、メイン素子Q1、Q2をオン/オフするための制御信号Sを供給するものであるといえるところ、上記段落0030ないし0036の記載によると、上記図4に記載された制御回路9は、「図2に示すコンデンサC1,C2の電圧をセンシングする電圧センサ41と、コンデンサC1,C2の電圧から異常を検出する異常検出回路42を追加した」ものであるから、電圧センサ41の出力に基づいて、上記各スイッチQ1ないしQ4のオン/オフを制御するものであると解される。よって、引用文献1には、「電圧センサ41の出力に基づいて、ACスイッチ素子Q2、Q3、及び、メイン素子Q1、Q2をオン/オフするための制御信号Sを供給する制御回路9」が記載されていると認められる。
(エ)上記段落0032によると、引用文献1には、「ACスイッチ素子Q3をオンにし、コンデンサC1の電圧が急激に低下すると、メイン素子Q1が短絡故障であることを検出する異常検出回路42」が記載されているといえる。
(オ)以上のとおりであるから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「中性点スイッチ式の3レベル主回路を用いた電力変換装置において、
コンデンサC1、C2の正極および負極に接続し、コンデンサC1、C2の電圧、及び、コンデンサC1+C2の電圧をセンシングする電圧センサ41と、
電圧センサ41の出力に基づいて、ACスイッチ素子Q2、Q3、及び、メイン素子Q1、Q2をオン/オフするための制御信号Sを供給する制御回路9と、
ACスイッチ素子Q3をオンにし、コンデンサC1の電圧が急激に低下すると、メイン素子Q1が短絡故障であることを検出する異常検出回路42と
を有する電力変換装置。」
(2)引用文献2
ア.引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0005】
この従来技術における故障診断処理を、図10のフローチャートに基づいて説明する。
図1の初期充電リレーSW1をONしてコンデンサC1の初期充電を開始し(ステップS10)、これに合わせて故障診断部15が計時を開始すると共に、直流中間電圧(コンデンサC1の電圧)及び主回路INVの出力電流の監視を開始する。
故障診断部15は、全てのスイッチング素子にOFF指令が与えられている状態で、計時開始から所定時間が経過するまでに直流中間電圧が所定電圧に到達しない場合には(S11 No)、各相の上アームのスイッチング素子のうち少なくとも1個と同一相の下アームのスイッチング素子とに短絡故障が発生している(直流母線間が短絡している)と判断する(S12)。その後、初期充電リレーSW1をOFFし(S13)、短絡故障の表示や上位コントローラ等への通知を行い、通常運転への移行を禁止して処理を終了する(S14)。
【0006】
計時開始から所定時間内に直流中間電圧が所定電圧に到達した場合(S11 Yes)、故障診断部15は短絡故障なしと診断し、直流中間電圧が所定の診断用電圧に到達したか否かを判断する(S15)。そして、直流中間電圧が上記診断用電圧以上になると初期充電リレーSW1をOFFし(S15Yes,S16)、各スイッチング素子を短時間だけONさせるようにゲート駆動回路17から微小パルスを与え(S17)、ONさせるスイッチング素子を切り替えながらステップS18以後の処理を行う。
…中略…
【0028】
始めに、図3に基づいて診断1を説明する。この診断1は、モータMが静止していてインバータ主回路INVの全てのスイッチング素子がOFFしている状態で開始する。
まず、故障診断部15がリレー駆動回路16に指令を送って初期充電リレーSW1をONし、抵抗R1を介してコンデンサC1を充電する(ステップS101)。
【0029】
次に、初期充電リレーSW1をONしてから所定時間を経過するまでに、直流中間電圧検出回路14により検出される直流中間電圧Vdcが規定値A以上になった否かを判断する(S102)。ここで、直流中間電圧Vdcの上昇率は、抵抗R1とコンデンサC1の容量とに依存する。しかし、主回路INVの同一相の上アーム及び下アームに短絡故障したスイッチング素子がある場合、例えば、U相の上下アームのスイッチング素子Qu,Qxが短絡固着していると、正負の直流母線の短絡により直流中間電圧Vdcは上記所定時間内に規定値A以上になることはない。また、U相の上アームスイッチング素子QuとV相の下アームスイッチング素子Qyとが短絡固着していると、初期充電中にQu→モータMの固定子巻線→Qyという経路で通流するため、直流中間電圧Vdcの上昇は緩やかになり、やはり、上記所定時間内に規定値A以上になることはない。
【0030】
従って、故障診断部15は、初期充電リレーSW1をONしてから所定時間を経過するまでに直流中間電圧Vdcが規定値A以上にならない場合(S102 No)には、上下アームのそれぞれ少なくとも1個以上のスイッチング素子が短絡固着していると判断することができる(S104)。インバータをPWM(パルス幅変調)制御する場合、1アームでも短絡固着していると運転不可能であるため、ステップS104により重故障発生と判断し、初期充電リレーSW1をOFFして運転を停止する(S105)。
【0031】
上述したステップS101,S102,S104,105は、コンデンサC1の初期充電時に行われる短絡固着の有無の診断である。仮に、スイッチング素子に短絡固着があったとしても、主回路INVに流入する電流は抵抗R1によって制限されているため、抵抗R1の値を適切に選定することで、正常なスイッチング素子や直流電源E1、モータM等に過電流が流れることはなく、故障が波及するのを防止することができる。また、ステップS102における所定時間や規定値Aを低めに設定することで、短絡固着の診断に要する時間の短縮も可能になる。
【0032】
所定時間内に直流中間電圧Vdcが規定値A以上になった場合(S102 Yes)には、上下アームにそれぞれ短絡固着しているスイッチング素子はないと判断して初期充電リレーSW1をON状態に保ち、抵抗R1を介してコンデンサC1の初期充電を継続する。
上下アームにそれぞれ短絡固着しているスイッチング素子がない場合は直流中間電圧Vdcが上昇し続け、この電圧Vdcが規定値B(請求項における直流電圧規定値)以上になったら初期充電リレーSW1をOFFして初期充電を完了する(S103 Yes,S106)。
【0033】
初期充電リレーSW1をOFFすることにより、主回路INVは直流電源E1と切り離される。この時、コンデンサC1に蓄積されているエネルギー、言い換えれば直流中間電圧Vdcは限定的であるため、この電圧Vdcを用いてスイッチング素子の故障診断を行ったとしてもスイッチング素子を破損する恐れはない。また、ステップS103における規定値Bを低めに設定すれば、より安全に故障診断を行うことができる。
主回路INVを直流電源E1と切り離した状態では、直流中間電圧Vdcの変化はコンデンサC1の自然放電と故障診断に伴う放電のみによって生じる。コンデンサC1の自然放電による電圧の変化量は事前に把握可能であるから、後述するステップS108のように、コンデンサC1の自然放電による電圧変化量を考慮した直流中間電圧Vdcの変化量ΔVdcを所定の規定値C(請求項における変化量規定値)と比較することにより、スイッチング素子の短絡固着の有無を検出することができる。
…中略…
【0036】
このように、ステップS107~S115では、下アームまたは上アームのスイッチング素子の短絡固着の有無を診断している。この点、図10の従来技術では、1アームずつONさせて診断する必要がある(ステップS17等)のに対し、本実施形態では、上アームまたは下アームをそれぞれ一括してONさせながら診断するので、三相インバータの場合、処理の手順は1/3に低減される。」
「【図1】
[図:0001419214000003.jpg]
」
イ.引用技術2
上記引用文献2の図面及び記載事項によると、引用文献2には、次の技術(以下、「引用技術2-1」、「引用技術2-2」という。)が記載されていると認められる。
・引用技術2-1
「スイッチング素子の短絡診断を行う際に、スイッチング素子を短時間だけONさせるように微小パルスを与えること。(段落0006)」
・引用技術2-2
「スイッチング素子の短絡診断を安全に行うために(段落0033)、コンデンサC1への初期充電を行い、コンデンサC1の電圧が規定値B以上になったら初期充電を完了し(段落0032)、主回路INVを直流電源E1と切り離し、コンデンサC1に蓄積されているエネルギーを用いて故障診断を行う(段落0033)こと。」
(3)引用文献3
ア.引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor )等の高速スイッチング素子が短絡した時の大電流を検出してゲートを遮断するインバータ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図7は従来の3相インバータ装置の回路図、図8は図7の従来のインバータ装置の1相分の回路図である。図9はIGBT素子の電極間容量を示す図、図10はIGBT素子の帰還容量とVC E との関係を示す図、図11は従来のIGBT素子が短絡したときの各部の電流・電圧波形を示す図、図12はIGBT素子に流れる電流を説明する図、図13は主回路インダクタンスが小さい場合にIGBT素子が短絡したときの各部の電流・電圧波形図である。
【0003】図7、図8において、1は直流電圧をスイッチングするP(プラス)側のIGBT素子であり、2はN(マイナス)側のIGBT素子である。3はサージ電圧を抑制するためのスナバコンデンサ、4,5は直流電圧を平滑化するための電解コンデンサ、6はIGBT素子1,2の短絡時の電流を検出するためのCT、7はIGBT素子1,2から電解コンデンサ4,5に至る配線も含めた主回路のインダクタンス、8はフライホイールダイオード、9はスナバコンデンサ3のインダクタンスである。
【0004】次に動作について図8を中心にして説明する。図9に示すように、IGBT素子1,2は電圧駆動形素子で各端子間に容量を持っている。その中でCres(帰還容量)は、図10に示すように、IGBTのCE間電圧VCEが高くなると小さくなる特性を持っている。いま上側(P側)IGBT素子1がオンしており、このときに下側(N側)IGBT素子2がオンして短絡した場合を考える。図11において、主回路電流が流れていない短絡前は、P側IGBT素子1のVCEはVCE(sat) 程度しかなく、直流電圧の殆どがオフしているN側IGBT素子2に印加されている。a 点で短絡電流が流れ始めたとすると、主回路インダクタンスにLdi/dtの電圧が発生するから、N側IGBT素子2のVCEは次第に下がっていく。また、P側、N側のIGBT素子1,2のVCEが低いため帰還容量Cresが大きく、短絡電流による飽和が始まると図12に示すようにコレクタからゲート方向に変位電流が流れ、これがドライバ側とCGE側の充電電流に分流する。その結果、ゲート電圧が上昇し短絡電流が大きくなり、CTの検出レベルに至る。」
「【図8】
[図:0001419214000004.jpg]
」
イ.引用技術3
上記引用文献3の図面及び記載事項によると、引用文献3には、次の技術(以下、「引用技術3」という。)が記載されていると認められる。
「高速スイッチング素子が短絡した時の大電流を検出してゲートを遮断するインバータ装置(段落0001)であって、
直流電圧をスイッチングするプラス側のIGBT素子1とマイナス側のIGBT素子2と(段落0002、図8)、
サージ電圧を抑制するためのスパナコンデンサ3と(段落0002、図8)、
IGBT素子1、2の短絡時の電流を検出するためのCT6とを含む主回路を備え(段落0002、図8)、
IGBT素子1がオンしており、IGBT素子2が短絡した場合、ゲート電圧が上昇し短絡電流が大きくなることで、CTが短絡を検出する(段落0004、図8)、
インバータ装置。」
2.本願発明2
(1)対比
本願発明2と引用発明1とを対比する。
ア.引用発明1の「中性点スイッチ式の3レベル主回路」は、本願発明2の「3レベルTNPP回路」に相当する。
イ.引用発明1の電圧センサ41は、本願発明2の「直流正極と直流中性点との間の電圧、直流中性点と直流負極との間の電圧、及び直流正極と直流負極との間の電圧を検出する電圧検出部」に相当する。
ウ.引用発明1の「ACスイッチ素子Q3」は、本願発明2の「直流中性点から交流出力端に向かって逆方向に接続された内側スイッチング素子」に相当する。また、本願発明2の「テストパルス」と引用発明1の「制御信号」とは、共に「制御信号」で共通する。よって、本願発明2の「前記電圧検出部が検出した電圧それぞれが上昇して低電圧領域内の所定の閾値を超えた場合に、直流中性点から交流出力端に向かって逆方向に接続された内側スイッチング素子に対してテストパルスを出力するテストパルス出力部」と、引用発明1の「電圧センサ41の出力に基づいて、ACスイッチ素子Q2、Q3、及び、メイン素子Q1、Q2をオン/オフするための制御信号Sを供給する制御回路9」とは、「前記電圧検出部が検出した電圧に基づいて、直流中性点から交流出力端に向かって逆方向に接続された内側スイッチング素子に対して制御信号を出力する制御信号出力部」である点で共通する。
エ.引用発明1の「メイン素子Q1」は、本願発明2の「直流正極に接続された外側スイッチング素子」に相当する。よって、本願発明2の「前記テストパルス出力部が直流中性点から交流出力端に向かって逆方向に接続された内側スイッチング素子に対してテストパルスを出力した場合に、前記電圧検出部が検出する直流正極と直流中性点との間の電圧が低下すると、直流正極に接続された外側スイッチング素子が短絡故障していると判定する判定部」と、引用発明1の「ACスイッチ素子Q3をオンにし、コンデンサC1の電圧が急激に低下すると、メイン素子Q1が短絡故障であることを検出する異常検出回路42」とは、「直流中性点から交流出力端に向かって逆方向に接続された内側スイッチング素子に対して制御信号を出力した場合に、前記電圧検出部が検出する直流正極と直流中性点との間の電圧が低下すると、直流正極に接続された外側スイッチング素子が短絡故障していると判定する判定部」で共通する。
オ.以上のとおりであるから、本願発明2と引用発明1とは、次の点で一致し、また、相違している。
【一致点】
「3レベルTNPP回路を備えた電力変換装置において、
直流正極と直流中性点との間の電圧、直流中性点と直流負極との間の電圧、及び直流正極と直流負極との間の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部が検出した電圧に基づいて、直流中性点から交流出力端に向かって逆方向に接続された内側スイッチング素子に対して制御信号を出力する制御信号出力部と、
直流中性点から交流出力端に向かって逆方向に接続された内側スイッチング素子に対してテストパルスを出力した場合に、前記電圧検出部が検出する直流正極と直流中性点との間の電圧が低下すると、直流正極に接続された外側スイッチング素子が短絡故障していると判定する判定部と、
を有する電力変換装置。」
【相違点】
・相違点1
一致点の制御信号出力部について、本願発明2は、「前記電圧検出部が検出した電圧それぞれが上昇して低電圧領域内の所定の閾値を超えた場合」に制御信号を出力するのに対して、引用発明1では、当該事項が特定されていない点。
・相違点2
一致点の制御信号について、本願発明2は、「テストパルス」であるのに対して、引用発明1では、当該事項が特定されていない点。
(2)判断
まず、相違点1について検討する。
引用発明1は、引用文献1の図2、図4によると、2つのコンデンサを備えたものであり、電源に接続された状態でスイッチ素子の短絡故障を検出するものであると認められる。
これに対し、引用技術2は、「主回路INVを直流電源E1と切り離し、コンデンサC1に蓄積されているエネルギーを用いて故障診断を行う」際に、「コンデンサC1の電圧が規定値B以上になったら初期充電を完了」し、「故障診断を行う」ものであって、一のコンデンサC1に蓄積されたエネルギーを用いて故障診断を行うものを前提としたものであるから、引用発明1と引用技術2とは、故障診断を行うための前提となる構成が異なるものである。
したがって、引用発明1において、「故障診断を行う」ための構成を変更してまで、引用技術2を採用する動機付けがあるとはいえない。そして、仮に引用発明1に引用技術2を採用したとしても、引用発明1のコンデンサと引用技術2のコンデンサとは、インバータ装置全体における役割、及び、個数が異なるものであって、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
さらに加えると、本願発明2の「前記電圧検出部が検出した電圧それぞれが上昇して低電圧領域内の所定の閾値を超えた」とは、「直流正極と直流中性点との間の電圧」及び「直流中性点と直流負極との間の電圧」及び「直流正極と直流負極との間の電圧」の3つの電圧が、「それぞれ上昇」し、「低電圧領域内の所定の閾値を超えた」ことを検出するものであると解されるところ、引用発明1に引用技術2を採用して、「直流正極と直流中性点との間の電圧」及び「直流中性点と直流負極との間の電圧」及び「直流正極と直流負極との間の電圧」の3つの電圧が、「それぞれ上昇」し、「低電圧領域内の所定の閾値を超えた」ことを検出することは、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
また、引用文献3にも上記相違点1に係る構成は、記載されていない。
そうすると、相違点2については検討するまでもなく、本願発明2は、引用発明1及び引用文献2、3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3.本願発明1、3ないし6
本願発明1、3ないし6は、「電源検出部」と「テストパルス出力部」と「判定部」とを備えた「3レベルTNPP回路を備えた電力変換装置」において、故障判定をするスイッチング素子と、テストパルスを出力するスイッチング素子との組み合わせを、本願発明2とは異なるものとしたものであって、いずれも本願発明2の相違点1に係る構成を備えるものである。
そうすると、上記2(2)で説示した理由により、本願発明1、3ないし6は、引用発明1及び引用文献2、3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6.原査定について
本件補正により、本件補正前の請求項7ないし16は削除された。
そして、本願発明1ないし6について、原査定では、引用文献1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとしているところ、上記第5で説示したとおりであるから、本願発明1ないし6は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第7.まとめ
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-008445