特許拒絶査定不服審判
2024-006131
軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物
- 審判番号
- 2024-006131
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-216020
- 請求日
- 2024年04月11日
- 審決日
- 2025年12月01日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】サカタインクス株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 川村 大輔
- 審判官 高松 大
- 分類
- P18 .121-WZ (C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-216020「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 6月 3日出願公開、特開2021- 84987〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特願2019-216020号(以下「本件出願」という。)は、令和元年11月29日の出願であって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 5年 9月27日付け:拒絶理由通知
同年11月17日 :手続補正書、意見書の提出
令和 6年 1月31日付け:拒絶査定
同年 4月11日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 7年 6月 9日付け:拒絶理由通知
同年 7月28日 :手続補正書、意見書の提出
第2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、令和6年7月28日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のものである。
「 顔料と、バインダー樹脂と、有機溶剤とを含み、
前記バインダー樹脂は、ポリウレタン樹脂を含み、
前記ポリウレタン樹脂は、バイオマスポリウレタン樹脂を含み、かつ、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含み、
前記バイオマスポリウレタン樹脂の含有量は、前記ポリウレタン樹脂中、10~100質量%であり、
前記バイオマスポリウレタン樹脂は、バイオポリオール成分と、イソシアネート成分とを反応させたバイオマスポリウレタン樹脂を含み、
前記バイオポリオール成分は、植物由来の炭素数が2~4の短鎖ジオール成分と、植物由来のカルボン酸成分とを反応させたバイオポリエステルポリオールを含み、
前記カルボン酸成分は、セバシン酸およびコハク酸からなり、
セバシン酸/コハク酸=10/90~50/50(質量比)である(ただし、セバシン酸/コハク酸=50/50(質量比)である場合を除き、かつ、前記短鎖ジオール成分が分岐状である場合を除く)、軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。」
第3 当合議体が通知した拒絶の理由
令和7年6月9日付けで当合議体が通知した拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
理由1:(進歩性)本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
<引用文献等一覧>
引用文献1:国際公開第2018/110664号
引用文献2:特開2019-203066号公報
(当合議体注:引用文献1は主引例である。引用文献2は、周知技術を示す文献である。)
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
当合議体が通知した拒絶の理由で引用された引用文献1は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明を記載するものであるところ、そこには以下の記載がある。下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定及び判断等に活用した箇所を示す(以下、同様である。)。
(1) 「技術分野
[0001] 本発明は、軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物に関する。より詳細には、本発明は、顔料分散性がよく、耐ブロッキング性、ラミネート適性等の耐性の優れた軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物に関する。
[0002] 近年、枯渇性資源でない産業資源として「バイオマス」が注目されている。「バイオマス」は、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」である。また、環境保全を目的に、1980年代から、バイオマスを原材料とする、バイオマスポリマーが開発されている。バイオマスポリマーは、地球環境温暖化防止策として有用と考えられており、成形加工、繊維、不織布、包装、トナー、インキ、塗料、フィルム・シート、フォーム、コーティング、接着剤など、多種多様な製品の素材として期待されている。特許文献1には、植物由来の原料利用率の高いバイオポリウレタン樹脂が開示されている。特許文献2、3には、ジカルボン酸中の25℃におけるpKa値が3.7以下の有機酸の含有量がジカルボン酸に対して0~1000ppmであるバイオポリウレタン樹脂の製造方法が開示されている。
・・・(略)・・・
[0004] しかしながら、特許文献1~3に記載のバイオポリウレタン樹脂は、インキ組成物として用いられる場合において、より高いブロッキング性、ラミネート適性が要求された場合には充分でない。特に、特許文献1~3に記載のバイオポリウレタン樹脂を用いたインキ組成物は、軟包装(フレキシブルパッケージ)に用いられる場合において、より高い耐ブロッキング性、ラミネート適性が要求された場合には充分でない。
[0005] 本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、地球温暖化防止や環境負荷低減に貢献でき、顔料分散性がよく、かつ、軟包装に用いられる場合であっても優れた耐ブロッキング性、ラミネート適性を示す軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、地球温暖化防止や環境負荷低減に貢献でき、顔料分散性がよく、かつ、軟包装に用いられる場合であっても優れたラミネート適性を示す軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物を提供することを目的とする。
・・・(略)・・・
[0007] また、本発明者は、特定の末端基構造を有するポリウレタン樹脂を含み、かつ、ポリウレタン樹脂として特定量のバイオマスポリウレタン樹脂を含むことにより、地球温暖化防止や環境負荷低減に貢献でき、かつ、軟包装に用いられる場合であっても優れたラミネート適性を示すインキ組成物が得られることを見出し、本発明(第2の発明)を完成した。
・・・(略)・・・
[0009] また、上記課題を解決する本発明(第2の発明)の一局面の軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物は、顔料と、バインダー樹脂と、有機溶剤とを含み、前記バインダー樹脂は、ポリウレタン樹脂を含み、前記ポリウレタン樹脂は、バイオマスポリウレタン樹脂を含み、かつ、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含み、前記バイオマスポリウレタン樹脂の含有量は、前記ポリウレタン樹脂中、10~100質量%である、軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物である。」
(2) 「発明を実施するための形態
・・・(略)・・・
[0083][第2の発明に関する実施形態]
<軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物>
本発明の一実施形態の軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物(以下、インキ組成物ともいう)は、顔料と、バインダー樹脂と、有機溶剤とを主に含む。以下、それぞれについて説明する。
[0084](顔料)
顔料は、一般に有機溶剤を含有するインキ組成物で使用され得る無機、有機および体質顔料が例示される。無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等が例示される。有機顔料としては、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等が例示される。体質顔料としては、炭酸カルシウム、カオリンクレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク等が例示される。
・・・(略)・・・
[0086](バインダー樹脂)
バインダー樹脂は、ポリウレタン樹脂を含む。ポリウレタン樹脂は、バイオマスポリウレタン樹脂を含む。また、本実施形態のポリウレタン樹脂は、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含む。このようなバインダー樹脂が含まれていることにより、本実施形態のインキ組成物は、樹脂の粘度が低減される。そのため、インキ組成物は、顔料分散性が向上し、インキ組成物中の顔料濃度を高くすることができる。その結果、インキ組成物は、浅版を使用して印刷することも可能である。浅版が使用されることにより、必要な溶剤量が低減する。これにより、本実施形態のインキ組成物は、さらに、環境負荷を低減し得る。
[0087] ポリウレタン樹脂は、高分子ジオールおよびポリイソシアネートを反応させた、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端が第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含むポリアミン化合物とを反応させて得られる、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含むポリウレタン樹脂である。
・・・(略)・・・
[0097] ポリイソシアネートと高分子ジオール化合物との配合割合は特に限定されない。一例を挙げると、配合割合は、イソシアネート基:水酸基の当量比(イソシアネートインデックス)が、好ましくは1.2:1~3.0:1、より好ましくは1.3:1~2.0:1である。イソシアネートインデックスが1.2未満である場合、ポリウレタン樹脂が柔らかくなりやすく、インキ組成物の印刷時に耐ブロッキング性等が低下する傾向がある。
・・・(略)・・・
[0107] バイオマスポリウレタン樹脂は、バイオマス由来(植物由来)の成分を含むポリウレタン樹脂である。本実施形態において、バイオマスポリウレタン樹脂は、他の枯渇性資源を用いる場合と比較して地球温暖化防止や環境負荷低減により貢献できる点から、バイオポリオール成分と、イソシアネート成分とを反応させたバイオマスポリウレタン樹脂であることが好ましく、イソシアネート成分が植物由来のバイオイソシアネートであることがより好ましい。
[0108] バイオポリオール成分は、炭素数が2~4の短鎖ジオール成分と、カルボン酸成分とを反応させたバイオポリエステルポリオールであることが好ましい。バイオポリオール成分は、短鎖ジオール成分およびカルボン酸成分のうち、少なくともいずれか一方が植物由来であることがより好ましく、両方が植物由来であることがさらに好ましい。
[0109] 植物由来の炭素数が2~4の短鎖ジオール成分は特に限定されない。一例を挙げると、短鎖ジオール成分は、以下の方法により植物原料から得られる、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール等であってもよい。これらは併用されてもよい。
・・・(略)・・・
[0111] 植物由来のカルボン酸成分は特に限定されない。一例を挙げると、カルボン酸成分は、セバシン酸、コハク酸、乳酸、グルタル酸、ダイマー酸等である。これらは併用されてもよい。これらの中でも、カルボン酸成分は、セバシン酸、コハク酸およびダイマー酸からなる群から選択される少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。
・・・(略)・・・
[0113] バイオマスポリウレタン樹脂は、環境面から、ポリウレタン樹脂中、固形分換算で、10質量%以上含まれることが好ましく、40質量%以上含まれることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
・・・(略)・・・
[0132](有機溶剤)
有機溶剤は、顔料およびバインダー樹脂を溶解させるために配合される。有機溶剤は特に限定されない。一例を挙げると、有機溶剤は、トルエン、ケトン系有機溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、エステル系有機溶剤(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル等)、アルコール系有機溶剤(メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等)、炭化水素系溶剤(トルエン、メチルシクロヘキサン等)であってもよい。これらの中でも、環境問題への対応と、インキの印刷適性や乾燥性などを考慮して、有機溶剤は、エステル系有機溶剤とアルコール系有機溶剤との混合溶剤であることが好ましい。
・・・(略)・・・
[0133] 有機溶剤の含有量は、得られるインキ組成物の印刷性が優れる点から、インキ組成物中15質量%以上であることが好ましい。また、有機溶剤の使用量は、90質量%以下であることが好ましい。有機溶剤の使用量が15質量%未満である場合、印刷適性が低位となる傾向がある。一方、有機溶剤の使用量が90質量%を超える場合、充分な発色が得られない傾向がある。
・・・(略)・・・
[0138] 以上、本実施形態によれば、バインダー樹脂に含まれるポリウレタン樹脂は、バイオマスポリウレタン樹脂を含む。このようなバイオマスポリウレタン樹脂は、バイオマスポリマーであり、枯渇性資源でない産業資源であるため、他の枯渇性資源を用いる場合と比較して地球温暖化防止や環境負荷低減に貢献できる。また、ポリウレタン樹脂は、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含む。このようなポリウレタン樹脂を含むインキ組成物は、軟包装にプリントされた際に、得られるプリント物のラミネート適性が優れる。」
(3) 「[0177][第2の発明に関する実施例]
<ポリウレタン樹脂ワニスA(バイオマスポリウレタンでないもの、アミン価3.2)の製造例>
攪拌機、冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、平均分子量2000の3-メチル-1,5-ペンチレンアジペートジオールの200質量部、イソホロンジイソシアネートの17.6質量部、水添MDIの21.0質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100~105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチルの400質量部、イソプロピルアルコールの171質量部を加えた後、イソホロンジアミンの8.2質量部を加えて鎖伸長させ、さらにモノエタノールアミンの0.35質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミンの1.3質量部、ジエチレントリアミンの0.6質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニスA(固形分30質量%、アミン価3.2)を得た。
・・・(略)・・・
[0181]<ポリウレタン樹脂ワニスE(バイオマスポリウレタン、アミン価3.2)の製造例>
攪拌機、冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、セバシン酸(ひまし油由来)/コハク酸(植物由来)=70/30(質量比)と1,3-プロパンジオール(植物由来)から得られる平均分子量2000のポリエステルジオールの200質量部、イソホロンジイソシアネートの17.6質量部、水添MDIの21.0質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら100~105℃で6時間反応させた。室温近くまで放冷し、酢酸エチルの400質量部、イソプロピルアルコールの171質量部を加えた後、イソホロンジアミンの8.2質量部を加えて鎖伸長させ、さらにモノエタノールアミンの0.35質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミンの1.3質量部、ジエチレントリアミンの0.6質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニスE(固形分30質量%、アミン価3.2)を得た。
・・・(略)・・・
[0183] <実施例B1~B10、比較例B1、B2、参考例B1:軟包装用ラミネート用白色印刷インキ組成物の調製>
顔料(酸化チタンR-960、デュポン社製)、上記ポリウレタン樹脂ワニスA~E、塩化ビニル-酢酸ビニル系樹脂(ソルバインTA-3,日信化学工業(株)製)を、レッドデビル社製のペイントコンデショナーを用いて混練し、さらに溶媒を加えて、表2に示した実施例B1~B10、比較例B1、B2、参考例B1の軟包装用ラミネート用白色インキ組成物を得た。
・・・(略)・・・
[0185][表2]
[図:0001431653000001.jpg]
[0186](評価)
上記で得られた実施例B1~B10、比較例B1、B2、参考例B1の軟包装用ラミネート用白色インキ組成物、実施例B11、B12の軟包装用ラミネート用藍色インキ組成物の性能評価を下記方法にて行った。評価結果を表2に示す。
[0187](インキの保存安定性)
上記で得られた実施例B1~B10、比較例B1、B2、参考例B1の軟包装用ラミネート用白色インキ組成物、実施例B11、B12の軟包装用ラミネート用藍色インキ組成物の各々をガラス瓶に採取し、60℃の雰囲気温度で14日間保存した時の顔料の沈降の有無から、インキの保存安定性を評価した。
A:インキは、沈降が見られず、保存安定性が良好であった。
B:インキは、沈降が見られ、保存安定性が不良であった。
[0188](印刷評価)
実施例B1~B10、比較例B1、B2、参考例B1の軟包装用ラミネート用白色インキ組成物、実施例B11、B12の軟包装用ラミネート用藍色インキ組成物の各々100質量部に対し、さらに表2の配合にしたがって混合液の50質量部で希釈し、粘度を(株)離合社製ザーンカップ3号で15秒に調整した後、彫刻版(印刷刷版、ヘリオ175線/inch)を備えたグラビア印刷機にて、OPP、PET、NYの処理面に印刷速度150m/分で印刷を行った。
[0189]<フィルムについて>
PET:片面にコロナ放電処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム、東洋紡績(株)製、E-5102、厚さ12μm
OPP:二軸延伸ポリプロピレンフィルム、東洋紡績(株)製、P-2161、厚さ30μm
NY:ナイロンフィルム、東洋紡績(株)製、N-1102、厚さ15μm
[0190](印刷適性(カスレ))
印刷適性については、印刷終了時の印刷部分における、版にインキが詰まったことに起因するカスレの面積の割合から評価した。
A:カスレが全くみられなかった。
B:カスレが少しみられた。
C:カスレが多くみられた。
[0191](レトルト適性)
ポリエチレンテレフタレート(PET)およびナイロン(NY)に印刷後1日経過した各印刷物に、固形分で2.0g/m2となる量のウレタン系接着剤(タケラックA-525/タケネートA-52、三井化学ポリウレタン(株)製)を塗布した後、ドライラミネート機で無延伸ポリプロピレンフィルム(RXC-22、厚さ60μm、三井化学東セロ(株)製)を貼り合わせ、40℃で3日放置してドライラミネート物を得た。このドライラミネート物を製袋し、中に水90重量%、サラダ油10重量%の混合物を詰めて溶封後、PETに印刷したものは135℃の加圧熱水中に60分間浸漬した時のラミ浮きの程度からレトルト適性を評価した。NYに印刷したものは120℃で同様の試験評価を行った。この評価によって、ラミネート適性を確認できる。
A:全くラミ浮きが見られなかった。
B:ピンホール状もしくは一部に細くて短いラミ浮きが見られた。
C:長い筋状のラミ浮きが全面に見られた。」
(当合議体注:[0185][表2]は、便宜のため、時計回りに90°回転させた。)
2 引用発明
引用文献1には、段落[0177]、[0181]、[0183]及び[0185][表2]の記載から理解される、実施例B7として、以下に示す、「軟包装用ラミネート用白色インキ組成物」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「 平均分子量2000の3-メチル-1,5-ペンチレンアジペートジオールの200質量部、イソホロンジイソシアネートの17.6質量部、水添MDIの21.0質量部を仕込み、反応させ、酢酸エチル、イソプロピルアルコールを加えた後、イソホロンジアミンの8.2質量部を加えて鎖伸長させ、モノエタノールアミンの0.35質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミンの1.3質量部、ジエチレントリアミンの0.6質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニスA(バイオマスポリウレタンでないもの、アミン価3.2)を得、
セバシン酸(ひまし油由来)/コハク酸(植物由来)=70/30(質量比)と1,3-プロパンジオール(植物由来)から得られる平均分子量2000のポリエステルジオールの200質量部、イソホロンジイソシアネートの17.6質量部、水添MDIの21.0質量部を仕込み、反応させ、酢酸エチル、イソプロピルアルコールを加えた後、イソホロンジアミンの8.2質量部を加えて鎖伸長させ、モノエタノールアミンの0.35質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミンの1.3質量部、ジエチレントリアミンの0.6質量部を加えて反応停止させてポリウレタン樹脂ワニスE(バイオマスポリウレタン、アミン価3.2)を得、
顔料(酸化チタンR-960、デュポン社製)、上記ポリウレタン樹脂ワニスA、Eを混練し、さらに溶媒を加えて得られる、
以下に示した配合の軟包装用ラミネート用白色インキ組成物。
バイオマスでないウレタン樹脂ワニス(ポリウレタン樹脂ワニスA)15
バイオマスウレタン樹脂ワニス (ポリウレタン樹脂ワニスE)15
顔料(酸化チタン) 35
混合液(酢酸エチル/酢酸プロピル/IPA=50/25/25) 35
合計 100」
3 引用文献2の記載
当合議体が通知した拒絶の理由で引用された引用文献2は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明を記載するものであるところ、そこには以下の記載がある。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、軟包装用ラミネートグラビアインキやフレキソインキとして使用可能なリキッドインキ組成物に関する。
・・・(略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シランカップリング剤を使用せずとも、多種多様化する各機能フィルム基材に対する密着性、及び耐ブロッキング性を兼備するリキッドインキ組成物を提供することを目的とする。
・・・(略)・・・
【0022】
本発明は、ポリウレタン樹脂(A)と塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂(B)を含有するリキッドインキ組成物であって、前記ポリウレタン樹脂(A)が、炭素原子数6以下で2つ以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(a)と、炭素原子数が7以上で2つ以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(b)とを含有するポリエステルポリオールを反応原料とするポリウレタン樹脂(A)であることを特徴とするリキッドインキ組成物である。
・・・(略)・・・
【0025】
本発明のリキッドインキ組成物で使用するポリウレタン樹脂(A)の反応原料であるポリエステルポリオールは、炭素原子数6以下で2つ以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(a)と、炭素原子数が7以上で2つ以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(b)を反応原料とする事を必須とし、水酸基を2個以上有する化合物と反応させて得られる。
ポリエステルポリオールは、エステル基を導入して極性を高くさせる事で、ラミネート強度をより一層高めることが出来るが、炭素原子数が7以上、かつカルボキシル基を2つ以上有するポリカルボン酸を原料とする事で、適度な柔軟性とラミネート強度を兼備させる事ができる一方、炭素原子数が6以下かつカルボキシル基を2つ以上有するポリカルボン酸を原料を併用する事で、樹脂の過度の軟化を防止する事による印刷後の耐ブロキング性を向上させる事が出来る。
【0026】
炭素原子数が6以下、かつカルボキシル基を2つ以上有するポリカルボン酸(a)としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、及びこれらの酸の無水物を用いる事が出来る。
また、炭素原子数が7以上、かつカルボキシル基を2つ以上有するポリカルボン酸(b)としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、及びこれらの酸の無水物等の芳香族ジカルボン酸やピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、トリメリット酸及びその無水物等のトリカルボン酸、ベンゼンテトラカルボン酸、ベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸及びこれらの酸の無水物等を用いる事が出来る。
中でも、炭素原子数6以下のポリカルボン酸コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、の単独使用並びにその併用、炭素原子数7以上のポリカルボン酸としては、セバシン酸、ダイマー酸の単独使用並びにその併用した場合、幅広い種類の各種フィルムへの密着性、耐ブロッキング性、並びに高いラミネート強度を両立できる点で好ましい。
・・・(略)・・・
【0031】
本発明のリキッドインキ組成物で使用する炭素原子数が6以下、かつカルボキシル基を2つ以上有するポリカルボン酸(a)と、炭素原子数が7以上、かつカルボキシル基を2つ以上有するポリカルボン酸(b)のモル比率は、(a)/(b)=20/80から(a)/(b)=80/20の範囲にある事が好ましい。
前記ポリカルボン酸(a)と前記ポリカルボン酸(b)のモル比率が、(a)/(b)=20/80から(a)/(b)=80/20の範囲であれば、印刷後の耐ブロッキング性を抑制しつつ、多種多様化する各機能フィルム基材に対する密着性を保持する事ができる。
・・・(略)・・・
【0038】
更に、本発明のリキッドインキ組成物では、前記ポリウレタン樹脂(A)に加えて、水酸基を有する塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂(B)を必須とする事で、より耐レトルト適性が向上する。」
(2) 「【実施例】
【0054】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。以下、「部」及び「%」は、いずれも質量基準によるものとする。
・・・(略)・・・
【0058】
(合成実施例4)A-4
攪拌機、温度計、環流冷却器および窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに、ネオペンチルグリコールとコハク酸とセバシン酸(コハク酸/セバシン酸=75/25(mol%))を原料とするポリエステルポリオール95部(水酸基価:122mgKOH/g)とポリエチレングリコール5部(水酸基価:278mgKOH/g)とイソホロンジイソシアネート37.2部を仕込み、窒素気流下に90℃で10時間反応させ、イソシアネート基含有率3.10質量%のウレタンプレポリマーを製造した後、これに酢酸エチル73.9部を加えてウレタンプレポリマーの均一溶液とした。次いで、イソホロンジアミン8.72部、ジ-n-ブチルアミン0.54部、酢酸エチル148部およびイソプロピルアルコール120部からなる混合物に、前記ウレタンプレポリマー溶液を添加し、45℃で5時間攪拌反応させて、ポリウレタン樹脂溶液A-4得た。得られたポリウレタン樹脂溶液A-4は、樹脂固形分濃度30.1質量%、樹脂固形分の重量平均分子量は25,000であった。
・・・(略)・・・
【0067】
(合成実施例13)A-13
攪拌機、温度計、環流冷却器および窒素ガス導入管を備えた4つ口フラスコに、ネオペンチルグリコールとコハク酸とセバシン酸(コハク酸/セバシン酸=90/10(mol%))を原料とするポリエステルポリオール100部(水酸基価:108mgKOH/g)とイソホロンジイソシアネート32.3部を仕込み、窒素気流下に90℃で10時間反応させ、イソシアネート基含有率3.08質量%のウレタンプレポリマーを製造した後、これに酢酸エチル71.2部を加えてウレタンプレポリマーの均一溶液とした。次いで、イソホロンジアミン8.47部、ジ-n-ブチルアミン0.46部、酢酸エチル143部およびイソプロピルアルコール115部からなる混合物に、前記ウレタンプレポリマー溶液を添加し、45℃で5時間攪拌反応させて、ポリウレタン樹脂溶液A-13を得た。得られたポリウレタン樹脂溶液A-13は、樹脂固形分濃度29.9質量%、樹脂固形分の重量平均分子量は54,000であった。
・・・(略)・・・
【0076】
[実施例1]
得られたポリウレタン樹脂溶液A-1を 30部、水酸基を有する塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂溶液A-1(15%溶液) 30部、フタロシアニン系青色顔料10部(DIC(株)製FASTGEN Blue LA5380)、酢酸エチル27部、及び水3部の混合物を練肉し、藍色印刷インキを作成した。
・・・(略)・・・
【0078】
〔評価項目2:耐ブロキング性〕
評価項目1の各種フィルムへの密着性で作製した同様の印刷物の印刷面と非印刷面が接触するようにフィルムを重ね合わせ、10kgf/cm2の加重をかけ、40℃の環境下に12時間経時させ、取り出し後、非印刷面へのインキの転移の状態を、次の3段階で目視評価した。
○:非印刷面へのインキの転移量0%で転移が見られない
△:20%未満の転移が見られる (ここまでが実用範囲)
×:転移量20%以上が転移している
【0079】
[実施例1~14,比較例1~6]
表1~3に示す実施例1~14、及び表4に示す比較例1~6の組成配合により、実施例1と同様の手順にてインキを作製した。
各々の評価結果も併記する。
【0080】
【表1】
[図:0001431653000002.jpg]
・・・(略)・・・
【0082】
【表3】
[図:0001431653000003.jpg]
」
第5 当合議体の判断
1 対比
本願発明と、引用発明を対比する。
(1) 顔料
引用発明の「顔料(酸化チタンR-960、デュポン社製)」は、本願発明の「顔料」に相当する。
(2) バインダー樹脂
ア 引用発明の「ポリウレタン樹脂ワニスA」に含まれるポリウレタン樹脂(以下「ポリウレタン樹脂A」という。)及び「ポリウレタン樹脂ワニスE」に含まれるポリウレタン樹脂(以下「ポリウレタン樹脂E」という。)は、技術的にみて、本願発明の「ポリウレタン樹脂を含」む「バインダー樹脂」に相当する。
イ また、引用発明の「ポリウレタン樹脂ワニスA」は、「バイオマスでないウレタン樹脂ワニス」であり、「ポリウレタン樹脂ワニスE」が、「バイオマスウレタン樹脂ワニス」であるから、引用発明において、「バイオマスポリウレタン樹脂」である「ポリウレタン樹脂E」の含有量は、「ポリウレタン樹脂A」及び「ポリウレタン樹脂E」からなる「ポリウレタン樹脂」中、{15/(15+15)}×100=50質量%と算出される。
ウ 引用発明の「ポリウレタン樹脂ワニスE」は、「セバシン酸(ひまし油由来)/コハク酸(植物由来)=70/30(質量比)と1,3-プロパンジオール(植物由来)から得られる平均分子量2000のポリエステルジオールの200質量部、イソホロンジイソシアネートの17.6質量部、水添MDIの21.0質量部を仕込み、反応させ、酢酸エチル、イソプロピルアルコールを加えた後、イソホロンジアミンの8.2質量部を加えて鎖伸長させ、モノエタノールアミンの0.35質量部を加え反応させ、その後、イソホロンジアミンの1.3質量部、ジエチレントリアミンの0.6質量部を加えて反応停止させて」得たものである。
エ したがって、引用発明の「セバシン酸(ひまし油由来)」と「コハク酸(植物由来)」、「1,3-プロパンジオール(植物由来)」、「ポリエステルジオール」、及び、「イソホロンジイソシアネート」と「水添MDI」は、それぞれ、本願発明の、「植物由来のカルボン酸成分」、「植物由来の炭素数が2~4の短鎖ジオール成分」、「バイオポリオール成分」及び「イソシアネート成分」に相当する。
オ また、上記記載より、引用発明の「ポリウレタン樹脂E」は、合成する際に、末端封止材として、「イソホロンジアミン」及び「ジエチレントリアミン」を用いているから、末端に「第1級アミノ基」(-NH2)を含んでいるものと認められる。
カ さらに、引用発明の「軟包装用ラミネート用白色インキ組成物」は、本願発明の「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」における短鎖ジオール成分が分岐状である場合を除」くという要件を満たすものである。
キ したがって、引用発明の「ポリウレタン樹脂A」及び「ポリウレタン樹脂E」は、本願発明の「 前記バインダー樹脂は、ポリウレタン樹脂を含み、
前記ポリウレタン樹脂は、バイオマスポリウレタン樹脂を含み、かつ、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含み、
前記バイオマスポリウレタン樹脂の含有量は、前記ポリウレタン樹脂中、10~100質量%であり、
前記バイオマスポリウレタン樹脂は、バイオポリオール成分と、イソシアネート成分とを反応させたバイオマスポリウレタン樹脂を含み、
前記バイオポリオール成分は、植物由来の炭素数が2~4の短鎖ジオール成分と、植物由来のカルボン酸成分とを反応させたバイオポリエステルポリオールを含み、
前記カルボン酸成分は、セバシン酸およびコハク酸からな」「る(ただし、セバシン酸/コハク酸=50/50(質量比)である場合を除き、かつ、前記短鎖ジオール成分が分岐状である場合を除く)」という要件を満たす。
(3) 有機溶剤
引用発明の「混合液(酢酸エチル/酢酸プロピル/IPA=50/25/25)」は、引用文献1の[0132]に「有機溶剤は、・・・(略)・・・エステル系有機溶剤(・・・(略)・・・酢酸エチル、酢酸n-プロピル、・・・(略)・・・等)、アルコール系有機溶剤(・・・(略)・・・イソプロパノール・・・(略)・・・等)・・・(略)・・・であってもよい。これらの中でも、環境問題への対応と、インキの印刷適性や乾燥性などを考慮して、有機溶剤は、エステル系有機溶剤とアルコール系有機溶剤との混合溶剤であることが好ましい。」と記載されていることからみて「エステル系有機溶剤とアルコール系有機溶剤との混合溶剤」であり、本願発明の「有機溶剤」に相当することは明らかである。
(4) 軟包装用ラミネート用白色印刷インキ組成物
引用発明の「軟包装用ラミネート用白色印刷インキ組成物」は、本願発明の「軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物」に相当する。
2 一致点及び相違点
上記1(1)~(4)の対比結果によれば、本願発明と引用発明とは、以下の(1)の点で一致し、(2)の点で相違する。
(1) 一致点
「 顔料と、バインダー樹脂と、有機溶剤とを含み、
前記バインダー樹脂は、ポリウレタン樹脂を含み、
前記ポリウレタン樹脂は、バイオマスポリウレタン樹脂を含み、かつ、末端に第1級アミノ基または第2級アミノ基の少なくともいずれか一方を含み、
前記バイオマスポリウレタン樹脂の含有量は、前記ポリウレタン樹脂中、10~100質量%であり、
前記バイオマスポリウレタン樹脂は、バイオポリオール成分と、イソシアネート成分とを反応させたバイオマスポリウレタン樹脂を含み、
前記バイオポリオール成分は、植物由来の炭素数が2~4の短鎖ジオール成分と、植物由来のカルボン酸成分とを反応させたバイオポリエステルポリオールを含み、
前記カルボン酸成分は、セバシン酸およびコハク酸からなる(ただし、セバシン酸/コハク酸=50/50(質量比)である場合を除き、かつ、前記短鎖ジオール成分が分岐状である場合を除く)、軟包装用ラミネート用印刷インキ組成物。」
(2) 相違点
セバシン酸及びコハク酸の割合について、本願発明は、「セバシン酸/コハク酸=10/90~50/50(質量比)である(ただし、セバシン酸/コハク酸=50/50(質量比)である場合を除」く)」のに対し、引用発明は、「セバシン酸/コハク酸=70/30(質量比)」である点。
3 判断
上記相違点について検討する。
(1) 数値限定を用いて特定される発明の進歩性の判断基準について
請求項に数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合において、相違点がその数値限定のみにあるときは、限定された数値の範囲内において奏される効果が引用発明の示された証拠に開示されていない有利なものであり、異質、又は同質であるが際だって優れたものであって、本件出願の出願時点の技術水準から当業者が予測できたものでない場合を除き、進歩性を有していないと判断される(特許実用新案審査基準第III部第2章第4節6.2参照)。
したがって、限定された数値の範囲内において奏される効果が引用発明の示された証拠に開示されていない有利なものであり、異質、又は同質であるが際だって優れたものであって、本件出願の出願時点の技術水準から当業者が予測できたものであったかどうかについて、以下検討する。
(2) 本件出願の出願時点の技術水準について
上記第4の3(1)によれば、引用文献2には、「各機能フィルム基材に対する密着性、及び耐ブロッキング性を兼備するリキッドインキ組成物を提供する」ために、「軟包装用ラミネートグラビアインキ」「として使用可能なリキッドインキ組成物に関」して、「リキッドインキ組成物で使用するポリウレタン樹脂(A)の反応原料であるポリエステルポリオールは、炭素原子数6以下で2つ以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(a)と、炭素原子数が7以上で2つ以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(b)を反応原料とする事を必須とし」、「炭素原子数が6以下、かつカルボキシル基を2つ以上有するポリカルボン酸(a)としては」、「コハク酸」「を用い」、「炭素原子数が7以上、かつカルボキシル基を2つ以上有するポリカルボン酸(b)としては」、「セバシン酸」「を用い」、前記「ポリカルボン酸(a)と」前記「ポリカルボン酸(b)のモル比率は、(a)/(b)=20/80から(a)/(b)=80/20の範囲にある事が好ましい」ことが記載されている。
さらに、上記第4の3(2)によれば、引用文献2には、実施例4及び13として、コハク酸とセバシン酸(コハク酸/セバシン酸=75/25(mol%))を原料とするポリエステルポリオールや、コハク酸とセバシン酸(コハク酸/セバシン酸=90/10(mol%))を原料とするポリエステルポリオールを反応原料としたポリウレタン樹脂(A)を使用したリキッドインキ組成物が記載されている。ここで、コハク酸の分子量は118.0、セバシン酸の分子量は202.25であることからみて、コハク酸/セバシン酸=75/25(mol%)は64/36(質量%)、90/10(mol%)は84/16(質量%)に換算できる。
そうしてみると、ポリエステルポリオールを反応原料としたポリウレタン樹脂を使用したインキ組成物において、各機能フィルム基材に対する密着性、及び耐ブロッキング性を兼備するリキッドインキ組成物を提供するために、当業者がポリエステルポリオールの原料として使用するセバシン酸とコハク酸の質量比を調整し、16/84や36/64程度とすることは、本件出願の出願時点の技術水準であったといえる。
(3) 本願発明の効果について
ア 本件出願の願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)の段落【0074】【表1】には、軟包装用ラミネート用白色インキ組成物の評価指標として、「印刷適性(カスレ)」及び「ラミネート適性」が挙げられ、段落【0079】には、「印刷適性(カスレ)」を、「印刷適性については、印刷終了時の印刷部分における、版にインキが詰まったことに起因するカスレの面積の割合から評価」すること、段落【0080】には、「ラミネート適性」を、「ポリエチレンテレフタレート(PET)およびナイロン(NY)に印刷後1日経過した各印刷物に、固形分で2.0g/m2となる量のウレタン系接着剤(タケラックA-525/タケネートA-52、三井化学ポリウレタン(株)製)を塗布した後、ドライラミネート機で無延伸ポリプロピレンフィルム(RXC-22、厚さ60μm、三井化学東セロ(株)製)を貼り合わせ、40℃で3日放置してドライラミネート物を得」、「このドライラミネート物を製袋し、中に水90重量%、サラダ油10重量%の混合物を詰めて溶封後、PETに印刷したものは135℃の加圧熱水中に60分間浸漬した時のラミ浮きの程度からレトルト適性を評価し」、「NYに印刷したものは120℃で同様の試験評価を行」うことが記載されている。
一方、引用文献1の段落[0185][表2]には、軟包装用ラミネート用白色インキ組成物の評価指標として、「印刷適性(カスレ)」及び「レトルト適性」が挙げられ、段落[0190]には、「印刷適性(カスレ)」を、「印刷適性については、印刷終了時の印刷部分における、版にインキが詰まったことに起因するカスレの面積の割合から評価」すること、段落[0191]には、「レトルト適性」を、「ポリエチレンテレフタレート(PET)およびナイロン(NY)に印刷後1日経過した各印刷物に、固形分で2.0g/m2となる量のウレタン系接着剤(タケラックA-525/タケネートA-52、三井化学ポリウレタン(株)製)を塗布した後、ドライラミネート機で無延伸ポリプロピレンフィルム(RXC-22、厚さ60μm、三井化学東セロ(株)製)を貼り合わせ、40℃で3日放置してドライラミネート物を得」、「このドライラミネート物を製袋し、中に水90重量%、サラダ油10重量%の混合物を詰めて溶封後、PETに印刷したものは135℃の加圧熱水中に60分間浸漬した時のラミ浮きの程度からレトルト適性を評価し」、「NYに印刷したものは120℃で同様の試験評価を行」うことが記載されている。
そうしてみると、引用文献1に記載の「印刷適性(カスレ)」及び「レトルト適性」は、それぞれ、本願明細書に記載の「印刷適性(カスレ)」及び「ラミネート適性」と同一の指標であるといえる。
イ そして、本願明細書の【0074】【表1】において、本願発明に含まれる「実施例1」の軟包装用ラミネート用白色インキ組成物の「印刷適性」に関する評価は「4:カスレがごくわずかにみられたが実用範囲内であった。」、及び「ラミネート適性」に関する評価は「4:ピンホール状のラミ浮きが少し見られた。」であるのに対し、引用発明の「印刷適性(カスレ)」に関する評価は「A:カスレが全くみられなかった。」、及び「レトルト適性」に関する評価は「A:全くラミ浮きが見られなかった。」である。
加えて、本願明細書の【0074】【表1】において、バイオマスでないポリウレタン樹脂におけるポリオール成分が「アジピン酸(石油由来)と1,3-プロパンジオール(植物由来)」であることを除き、引用発明と同じ材料組成からなる「実施例6」の軟包装用ラミネート用白色インキ組成物についても、「印刷適性」に関する評価は「5:カスレが全くみられなかった。」、及び「ラミネート適性」に関する評価は「5:全くラミ浮きが見られなかった。」である。
してみると、引用発明は、本願明細書に記載された実施例と同等以上の「印刷適性(カスレ)」及び「ラミネート適性」を有するものであるといえる。
したがって、本願発明の「印刷適性(カスレ)」及び「ラミネート適性」についての効果が、引用発明に対して格別顕著なものとは認められない。
ウ さらに、引用文献1の段落[0097]には、ポリウレタン樹脂の「ポリイソシアネートと高分子ジオール化合物との配合割合」について、「イソシアネート基:水酸基の当量比(イソシアネートインデックス)」を、「好ましくは1.2:1~3.0:1、より好ましくは1.3:1~2.0:1」とすること、「イソシアネートインデックスが1.2未満である場合」、「インキ組成物の印刷時に耐ブロッキング性等が低下する傾向がある」と記載されているところ、引用発明の「バイオマスウレタン樹脂ワニス」は、イソシアネートインデックスが1.59であるから、「インキ組成物の印刷時」の「耐ブロッキング性」が「低下」するとはいえない。
(合議体注:引用発明の「バイオマスウレタン樹脂ワニス」は、「セバシン酸(ひまし油由来)/コハク酸(植物由来)=70/30(質量比)と1,3-プロパンジオール(植物由来)から得られる平均分子量2000のポリエステルジオールの200質量部」と、「イソホロンジイソシアネートの17.6質量部」及び「水添MDIの21.0質量部」を反応させて得られる樹脂である。ここで、上記「ポリエステルジオール」にはOH基が、200÷2000×NA×2=0.2×NA個含まれ(ここで、「NA」は、アボガドロ数である。)、「イソホロンジイソシアネート」(分子量222.29)にはNCO基が、17.6÷222.29×NA×2=0.158×NA個含まれ、「水添MDI」(ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、分子量262.353)にはNCO基が、21.0÷262.353×NA×2=0.160×NA個含まれることになる。したがって、引用発明の「バイオマスウレタン樹脂ワニス」のイソシアネートインデックスは、(0.158×NA+0.160×NA)÷(0.2×NA)=1.59となる。そして、上記(2)で述べたセバシン酸とコハク酸の質量比を16/84や36/64とする際に、平均分子量を同程度とした態様における当該イソシアネートインデックスの値は、ポリエステルジオールにおけるセバシン酸とコハク酸の割合が変化しても同程度となる。)
エ そうしてみると、本願発明の効果が、引用発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際だって優れたものであるということはできない。また、本願発明の効果が出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないということもできない。加えて、本願明細書に記載された「セバシン酸/コハク酸」の質量比が「10/90」から「90/10」まで異なる実施例1~6を比較してもその効果に顕著な差はなく、本願発明において、「セバシン酸/コハク酸」の下限を10/90(質量比)、上限を50/50(質量比)にすることの臨界的意義を認めることもできない。
(4)小括
したがって、上記相違点に係る限定された数値の範囲内において奏される効果が引用発明の示された証拠に開示されていない有利なものであり、異質、又は同質であるが際だって優れたものであって、本件出願の出願時点の技術水準から当業者が予測できたものでないとはいえない。
よって、引用発明において、印刷後の耐ブロッキング性を抑制しつつ、各機能フィルム基材に対する密着性を保持する事を考慮した当業者が、ポリオール成分を合成するために使用されるセバシン酸とコハク酸の組成比を、「セバシン酸/コハク酸=10/90~50/50(質量比)(ただし、セバシン酸/コハク酸=50/50(質量比)である場合を除く)」とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず、当業者が容易に想到し得たことである。
4 請求人の主張について
(1) 請求人は、令和7年7月28日に提出した意見書3頁において、「引用文献1には、印刷適正(カスレ)およびレトルト適正を評価したことが開示されているに過ぎず、セバシン酸とコハク酸とを適量となるよう組み合わせた場合に上記効果を奏する点は、引用文献1からは予期することができません。」と主張している。
(2) しかしながら、上記3で述べたとおり、引用発明において、ポリオール成分を合成するために使用されるカルボン酸成分として、セバシン酸とコハク酸を使用するにあたり、その組成比について実験的に数値範囲の最適化又は好適化をおこなうことは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
(3) また、請求人は、同意見書3頁において、「本願発明では、「耐ブロッキング性、印刷適正、ラミネート適性」を評価しているのに対し、引用文献1では、「印刷適正(カスレ)、レトルト適正」を評価しており、そこから読み取れる効果は同じではありません。」と主張している。
(4) しかしながら、上記3(3)で述べたとおり、引用文献1に記載の「印刷適性(カスレ)」及び「レトルト適性」は、それぞれ、本願明細書に記載の「印刷適性(カスレ)」及び「ラミネート適性」と同一の指標である。そして、上記3(3)で述べたとおり、引用発明は、本願発明よりも「印刷適正」及び「ラミネート適性」について同等以上であるといえるし、「耐ブロッキング性」も発揮するものであることが理解でき、本願発明の効果を参酌することによって本願発明の進歩性を認めることができないことは、上記3で既に検討したとおりである。
(5) したがって、上記請求人の主張を採用することはできない。
5 小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-006131