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特許拒絶査定不服審判

2024-004794

リング精紡機またはリング加撚機用の巻取り加撚装置

審判番号
2024-004794
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2022-549948
請求日
2024年03月19日
審決日
2026年03月31日
公報発行日
2026年09月25日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】サンコ・テクスタイル・アイレットメレリ・サナーイ・ベ・ティジャレット・アノニム・シルケティ
  • 【請求人代理人】弁理士法人深見特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 神山 茂樹
  • 審判官 長谷川 一郎
  • 審判官 長清 吉範
分類
P18 .537-WZ (D01H) / P18 .121-WZ (D01H)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第3号、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
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特願2022-549948「リング精紡機またはリング加撚機用の巻取り加撚装置」拒絶査定不服審判事件〔2021年(令和3年)8月26日国際公開、WO2021/165374、令和5年4月4日国内公表、特表2023-513965〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2021年(令和3年)2月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2020年2月20日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その主な手続きの経緯は以下の通りである。 令和5年 8月16日付け:拒絶理由の通知 同年11月 7日 :意見書、手続補正書の提出 同月17日付け:拒絶査定(謄本送達日:同月21日) 令和6年 3月19日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出 令和7年10月17日付け:拒絶理由(最後)の通知 令和8年 1月20日 :意見書、誤訳訂正書の提出 第2 令和8年1月20日に提出された誤訳訂正書による手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和8年1月20日に提出された誤訳訂正書による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。また、請求項1に係る発明を「本件補正発明」という。)。 「【請求項1】 超伝導材料(211,311)を含むステータ(210)と、 ステータ冷却装置(240)と、 磁場を発生させるように構成されるロータ(220)と、 回転可能なスピンドル(208)と を備え、 前記ロータ(220)および前記ステータ(210)は、前記スピンドル(208)と同軸に配置され、 前記ロータ(220)は、前記ロータ(220)の上に取り付けられたリング/トラベラシステム(230,330)を有し、 前記スピンドル(208)のスピンドル速度の段階的な増分は、プログラムされた制御によって適用されるように構成され、それぞれの前記段階的な増分は、複数の加速ランプを備え、 前記リング/トラベラシステム(230,330)はリング(231,331)およびトラベラ(232,332)を備え、前記リング(231,331)が、前記ロータ(220)の内側部分に機械的に接続されるように構成される円形基部(233a)を有し、 前記リング(231,331)は、前記円形基部(233a)と前記トラベラ(232,332)が配置されるリング状上部との間に設けられた円錐部を備える ことを特徴とする、 リング精紡機またはリング加撚機用の巻取り加撚装置(200)。」 (2) 本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、令和6年3月19日に提出された手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は次のとおりである(「・・・」は省略を表す。以下同様。また、請求項1に係る発明から順に「補正前発明1」、「補正前発明2」・・・という。)。 「【請求項1】 超伝導材料(211,311)を含むステータ(210)と、 ステータ冷却装置(240)と、 磁場を発生させるように構成されるロータ(220)と、 回転可能なスピンドル(208)と を備え、 前記ロータ(220)および前記ステータ(210)は、前記スピンドル(208)と同軸に配置され、 前記ロータ(220)は、前記ロータ(220)の上に取り付けられたリング/トラベラシステム(230,330)を有し、 前記スピンドル(208)のスピンドル速度の段階的な増分は、プログラムされた制御によって適用されるように構成され、前記段階的な増分は、複数の加速度ランプを備える ことを特徴とする、 リング精紡機またはリング加撚機用の巻取り加撚装置(200)。 ・・・ 【請求項5】 前記リング/トラベラシステム(230,330)はリング(231,331)を備え、前記リング(231,331)が、前記ロータ(220)の内側部分に機械的に接続されるように構成される円形基部(233a)を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の巻取り加撚装置(200)。 ・・・」 2 補正の適否 本件補正は、「スピンドル速度の段階的な増分」に関して、上記のとおり誤記の訂正を行うとともに、令和7年10月17日付けの拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項について明りようでない記載の釈明を目的として補正するものであるから、特許法17条の2第5項第3号の誤記の訂正及び同項第4号の明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものに該当する。 また、本件補正は、補正前発明1を特定するために必要な事項である「リング/トラベラシステム」について、補正前発明5、明細書【0037】、【0055】の記載に基づき、上記のとおり限定を付加するものでもあって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1) 本件補正発明について 本件補正発明は、上記1(1)【請求項1】のとおりのものである。 (2) 引用文献の記載事項及び引用発明 ア 引用文献6及び引用発明 (ア) 引用文献6の記載 令和7年10月17日付けの拒絶の理由(最後)で引用された引用文献6である、国際公開第91/02112号(1991年2月21日国際公開)には、次の記載がある。 a 「 [図:0001438660000001.jpg] 」 (明細書第1ページ第4~13行) b 「 [図:0001438660000002.jpg] ・・・ [図:0001438660000003.jpg] 」 (明細書第12ページ第1~11、16~21行) c 「 [図:0001438660000004.jpg] ・・・ [図:0001438660000005.jpg] 」 (明細書第13ページ第6~8、17~18行) d 「 [図:0001438660000006.jpg] 」 (明細書第15ページ第4~6行) e 「 [図:0001438660000007.jpg] 」 (明細書第17ページ第2~7行) f 「 [図:0001438660000008.jpg] ・・・ [図:0001438660000009.jpg] [図:0001438660000010.jpg] [図:0001438660000011.jpg] ・・・ [図:0001438660000012.jpg] [図:0001438660000013.jpg] [図:0001438660000014.jpg] [図:0001438660000015.jpg] [図:0001438660000016.jpg] [図:0001438660000017.jpg] [図:0001438660000018.jpg] 」 (明細書第18ページ第6行~第22ページ第11行) g 「第2図 [図:0001438660000019.jpg] 第3図 [図:0001438660000020.jpg] ・・・ 第6図 [図:0001438660000021.jpg] 」 (第2、3、6図) (イ) 引用文献6から認定できる事項 a 上記(ア)aの技術分野には「本発明はリングレールとスピンドル駆動機構が設けられたリング精績機及びリング撚糸機のような繊維機械に用いられ、リングレールに水平に固定された環状のホルダー、軸受機構を介して前記ホルダーに回転自在に同軸支承されたリング回転体、該リング回転体の内側空間に同軸に配置されて前記スピンドル駆動機構によって駆動されるスピンドル、および前記リング回転体の回転速度を制御する回転速度制御手段を含んで成る回転リング装置をコントロールする方法と装置に関する。」とあるから、上記b、gに記載された「回転リング装置A」の構成要素である「リング回転体1」の内部空間には、同軸に配置されてスピンドル駆動機構によって駆動されるスピンドルが備えられていると認められる。 b 上記(ア)gの第2図からは、フランジロータ2における、リングフランジ部2aよりも下方の、1の符号が付された矢印の部分から、ダストカバー4が設けられている箇所までの箇所に、傾斜壁があることが看取される。そして、この傾斜壁は、第2図が回転リング装置の部分軸断面図であることを踏まえると、円錐台の側面形状であると認められる。 c 上記(ア)gの第2図からは、フランジロータ2の構成として、上方から順に、リングフランジ部2a、上記bの傾斜壁、螺子2bによって下部ローター3に結合される部分を含む円筒形状の構成、が看取される。 d 上記(ア)gの第3図のスピンドル変速制御曲線SCからは、スピンドル回転速度0から1速を経て2速に至るまでの区間でN1~N4と付された4つの増速勾配が、2速から3速までの区間でN5と付された1つの増速勾配が、3速から4速までの区間でN6と付された1つの増速勾配が、それぞれ看取される。また、同曲線からは、2速におけるN4とN5との間、3速におけるN5とN6との間、4速におけるN6の後、において、それぞれ速度の勾配がなく、等速制御されている事項も看取される。このことから、第3図におけるスピンドル速度は、断続的な増速勾配、すなわち段階的な増分を有することが理解できる。加えて、速度0から2速までの4つの増速勾配は、傾斜角度が異なるから、速度0から2速、2速から3速、3速から4速の複数の段階的な増分のうち、速度0から2速への段階的な増分は、複数の異なる速度傾斜を備えているといえる。 e 上記(ア)gの第6図からは、リングフランジ部2aを備えたフランジロータ2が螺子2bによって下部ローター3の内側に挿入されて結合された構成が看取される。 (ウ) 引用発明 上記(ア)及び(イ)から、引用文献6には、特に第2図の構成に着目すると、以下の発明(以下「引用発明」という。また、括弧内は特に関連する箇所である。)が記載されている。 「ホルダー7並びに当該ホルダー7に形成された凹部7aに固定された環状の永久磁石13及び環状の電磁石14と(明細書第13ページ第17~18行)、 フランジロータ2と、下部ローター3とで構成され、下部ローター3に形成された凹溝3aに、2個の環状の永久磁石11、12がスペーサ15a、15bを介して固定されているリング回転体1と(明細書第12ページ第18~21行、明細書第13ページ第6~8行)、 軸受機構を介して前記ホルダー7に回転自在に同軸支承されたリング回転体1の内側空間に同軸に配置されてスピンドル駆動機構によって駆動されるスピンドルと(明細書第1ページ第7~10行及び第2図)、 を備え、 前記フランジロータ2はトラベラー21が摺動回転するリングフランジ部2aを有し(明細書第12ページ第18~21行)、フランジロータ2の構成は、上方から順に、リングフランジ部2a、円錐台の側面形状である傾斜壁、螺子2bによって下部ローター3に結合される部分を含む円筒形状部分であり(第2図、上記(イ)b及びc)、 前記スピンドルのスピンドル回転速度(第3図におけるS.C曲線)は、シーケンサー等の制御装置を備えた高速精紡機による紡出プログラム(明細書第18ページ第6~8行)において、速度0から2速、2速から3速、3速から4速の、複数の段階的な増分を有し、前記複数の段階的な増分のうち、速度0から2速のものは、複数の増速勾配((第3図、上記(イ)d))を備える、 リング精紡機またはリング撚糸機(明細書第1ページ第6行)の回転リング装置。」 (エ) 引用文献6技術 上記(ア)bにおける第2図と第6図との関係及び、上記(イ)eからみて、引用文献6には以下の技術(以下「引用文献6技術」という。)が記載されている。 「リングフランジ部2aを備えたフランジロータ2を螺子2bによって下部ローター3に結合する構成において、フランジロータ2を下部ローター3の内側に配置する技術。」 イ 周知技術 (ア) 引用文献3 令和7年10月17日付けの拒絶の理由(最後)で引用された引用文献3である、米国特許出願公開第2019/0127892号明細書(2019年5月2日発行)には、次の記載がある(丸括弧内は当審訳であり、下線は当審で付した。以下同様。)。 a 「 [図:0001438660000022.jpg] 」 (フロントページ要約)(本発明は、リング精紡機或いはリング加撚機の巻き取り及び加撚装置を提供するものであり、当該装置は、少なくとも1つの超伝導材料及びステータ冷却システムからなる少なくとも1つのステータと、磁界を生成する少なくとも1つのロータと、回転可能なスピンドルを含んでおり、ここで、ロータとステータは、スピンドルに対して同軸に配置されており、このロータとステータにより、スピンドルに対して同軸に配置され、巻き取られる糸が循環できる、環状空間が、ロータとステータとの間に形成される。さらに、繊維材料が撚られて巻き取られるリング精紡又はリング加撚方法が提供されるものであり、巻き取り及び加撚装置が使用されるそのような方法であって、ロータは、ロータ保持装置によってステータに対して間隔をおいて同軸に保持されており、ステータの超伝導材料の温度は、超伝導材料の転移温度を下回るまで低下しており、ロータは、ロータ保持装置によって解放されている。) b 「 [図:0001438660000023.jpg] 」 (第6ページ右欄第18~31行、請求項1)(1.次の構成を備えることを特徴とする、リング精紡機或いはリング加撚機の巻き取り及び加撚装置であって、 少なくとも1つの超伝導材料とステータ冷却装置からなる少なくとも1つのステータと、 磁界を生成する少なくとも1つのロータと、 回転可能なスピンドルとを備え、 前記ロータ及び前記ステータは、前記スピンドルに対して同軸に配置され、 前記ロータ及び前記ステータは、前記スピンドルに対して同軸に配置され、巻き取られる糸が循環できるような環状空間を、ロータとステータとの間に形成するように構成されている、 リング撚糸機の巻き取り及び加撚装置。) (イ) 引用文献4 令和7年10月17日付けの拒絶の理由(最後)で引用された引用文献4である、国際公開第2012/100964号(2012年8月2日国際公開)には、次の記載がある。 a 「 [図:0001438660000024.jpg] 」 (第14ページ第10~19行、請求項1)(1.リング精紡機又はリング加撚機(17)の巻取り及び加撚装置であって、リング状のステータ(1)と、ステータ(1)に対して相対的に回転可能な、少なくとも1つの糸ガイドエレメント(3)を備えた少なくとも1つのリング状の磁界発生ロータ(2)と、回転可能なボビン(6)とを有しており、ロータ(2)及びステータ(1)がボビン(6)に対して同軸的に配置されているものにおいて、前記ステータ(1)は、少なくとも1つの超伝導材料(19)と、ステータ冷却装置(9)を含むことを特徴とする装置。) (ウ) 周知技術 上記(ア)、(イ)には、ともにリング精紡機またはリング加撚機用の巻取り加撚装置において、少なくとも1つの超伝導材料とステータ冷却装置を用いる事項が示されている。 そうすると、上記(ア)及び(イ)からみて、次の事項は当業者にとって本願優先日以前に周知の技術的事項(以下「周知技術」という。)である。 「リング精紡機またはリング加撚機用の巻取り加撚装置において、ステータに超伝導材料及び当該材料を冷却するための冷却装置を備えた構成とする技術。」 (3) 対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア) 引用発明における「ホルダー7」及び「環状の永久磁石13及び環状の電磁石14」は本件補正発明における「ステータ(210)」に相当する。 (イ) 引用発明の「下部ローター3」は本件補正発明の「ロータ(220)」に相当する。ここで、引用発明の「下部ローター3」に固定されている「2個の環状の永久磁石11、12」は磁場を発生することは明らかであって、本件補正発明の「磁場を発生させるように構成され」ている事項に相当するから、引用発明における「2個の環状の永久磁石11、12」が固定されている「下部ローター3」は、本件補正発明における「磁場を発生させるように構成されるロータ(220)」に相当する。 (ウ) 引用発明における「リング回転体1の内側空間に同軸に配置されてスピンドル駆動機構によって駆動されるスピンドル」は、本件補正発明における「回転可能なスピンドル(208)」に相当する。 (エ) 引用発明の「軸受機構を介して前記ホルダー7に回転自在に同軸支承されたリング回転体1の内側空間に同軸に配置されてスピンドル駆動機構によって駆動されるスピンドル」という配置は、「リング回転体1」の構成要素である「下部ローター3」、及び「ホルダー7」と「スピンドル」とが同軸に配置されている事項にほかならないから、当該事項は、本件補正発明における「前記ロータ(220)および前記ステータ(210)は、前記スピンドル(208)と同軸に配置され」ている事項に相当する。 (オ) 引用発明の「トラベラー21」は本件補正発明の「トラベラ(232,332)」に相当する。引用発明の「トラベラー21」及び「トラベラー21が摺動回転するリングフランジ部2a」は、本件補正発明の「リング/トラベラシステム(230,330)」に相当する。また、引用発明の「フランジロータ2の構成は、上方から順に、リングフランジ部2a、円錐台の側面形状である傾斜壁、螺子2bによって下部ローター3に結合される部分を含む円筒形状部分であ」り、引用発明の「リングフランジ部2a及びトラベラー21」は、磁場を発生させる機構である「2個の環状の永久磁石11、12」が固定された「下部ローター3」よりも上に配置されていることになるから、本件補正発明の「前記ロータ(220)の上に取り付けられたリング/トラベラシステム(230,330)」に相当する。 (カ) 引用発明の「前記スピンドルのスピンドル回転速度」が有する「段階的な増分」及び「増速勾配」は、本件補正発明の「前記スピンドル(208)のスピンドル速度の段階的な増分」及び「加速ランプ」に相当し、引用発明の「シーケンサー等の制御装置を備えた高速精紡機による紡出プログラム」において「スピンドル回転速度」が制御されている事項は、本件補正発明の「プログラムされた制御によって適用されるように構成され」ている事項に相当する。 そうすると、引用発明の「前記スピンドルのスピンドル回転速度は、シーケンサー等の制御装置を備えた高速精紡機による紡出プログラムにおいて、速度0から2速、2速から3速、3速から4速の、複数の段階的な増分を有し、前記複数の段階的な増分のうち、速度0から2速のものは、複数の増速勾配を備える」事項は、本件補正発明における「前記スピンドル(208)のスピンドル速度の段階的な増分は、プログラムされた制御によって適用されるように構成され、それぞれの前記段階的な増分は、複数の加速ランプを備え」る事項と、「前記スピンドルのスピンドル速度の段階的な増分は、プログラムされた制御によって適用されるように構成され、それぞれの前記段階的な増分は、加速ランプを備え」る事項に限り一致する。 (キ) 引用発明の「フランジロータ2」は本件補正発明の「リング(231,331)」に相当し、引用発明における「リングフランジ部2a」、「円錐台の側面形状である傾斜壁」はそれぞれ、本件補正発明における「前記トラベラ(232,332)が配置されるリング状上部」、「円錐部」に相当する。また、引用発明の「螺子2bによって下部ローター3に結合される部分を含む円筒形状部分」は、「螺子2b」が「機械的に接続」する手段であることを踏まえると、本件補正発明の「前記ロータ(220)の内側部分に機械的に接続されるように構成される円形基部(233a)」と、「前記ロータに機械的に接続されるように構成される円形基部」に限り一致する。 (ク) 引用発明の「リング精紡機またはリング撚糸機」及び「回転リング装置」はそれぞれ、本件補正発明の「リング精紡機またはリング加撚機」及び「巻取り加撚装置(200)」に相当する。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。なお、以下において本件補正発明の参照符号は省略する。 <一致点> ステータと、 磁場を発生させるように構成されるロータと、 回転可能なスピンドルと を備え、 前記ロータおよび前記ステータは、前記スピンドルと同軸に配置され、 前記ロータは、前記ロータの上に取り付けられたリング/トラベラシステムを有し、 前記スピンドルのスピンドル速度の段階的な増分は、プログラムされた制御によって適用されるように構成され、それぞれの前記段階的な増分は、複数の加速ランプを備え、 前記リング/トラベラシステムはリングおよびトラベラを備え、前記リングが、前記ロータの内側部分に機械的に接続されるように構成される円形基部を有し、 前記リングは、前記円形基部と前記トラベラが配置されるリング状上部との間に設けられた円錐部を備える、 リング精紡機またはリング加撚機用の巻取り加撚装置。」 <相違点1> 本件補正発明は、ステータが超伝導材料を含むとともに、ステータ冷却装置を備えているのに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。 <相違点2> 本件補正発明は「それぞれの前記段階的な増分は、複数の加速ランプを備え」ているのに対し、引用発明の「段階的な増分」はそのような構成であるか明らかでない点。 <相違点3> 本件補正発明は「前記リングが、前記ロータの内側部分に」接続されるのに対し、引用発明はフランジロータ2は下部ローター3の内側ではない点。 (4) 判断 以下、相違点1~3について検討する。 ア 相違点1について 上記(2)イ(ウ)のとおり、リング精紡機またはリング加撚機用の巻取り加撚装置において、ステータに超伝導材料及び当該材料を冷却するための冷却装置を備えた構成は、上記周知技術である。また、超伝導材料を特定の温度以下として超伝導体とすることで、強力な磁場を生成できるようになることは、例示するまでもない技術常識である。 そして、引用発明は、リング精紡機またはリング加撚機用の巻取り加撚装置であって、ステータに磁石を用いた軸受機構を備えているところ、装置構成の高性能化は工業製品における周知の課題であって、引用発明においても内在する課題であるから、引用発明のステータに上記周知技術を適用し、ステータが超伝導材料を含むとともに、ステータ冷却装置を備えている構成とすることで、引用発明が上記相違点1に係る本件補正発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことである。 イ 相違点2について スピンドル回転速度を段階的に加速させるにあたり、複数の増速勾配を備えた段階的な増分により加速する事項は、上記(2)ア(イ)dのとおり、引用発明においても、速度0から2速へ速度を段階的に増分する際に用いられている。そして、速度を増加させる際に、複数の増速勾配による加速とするかどうかは、当業者が適宜設定すべき事項であるから、引用発明における2速から3速、3速から4速といった、他の段階的な速度増加においても、複数の増速勾配により加速することも、当業者が適宜設定すべき事項にすぎない。 してみれば、引用発明において、段階的な増分のそれぞれにおいて、複数の増速勾配を備えるものとし、上記相違点2に係る本件補正発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たことである ウ 相違点3について 上記(2)ア(エ)のとおり、リングフランジ部2aを備えたフランジロータ2を螺子2bによって下部ローター3に結合する構成において、フランジロータ2を下部ローター3の内側に配置するのは、引用文献6技術である。 そうすると、フランジロータ2を螺子2bによって下部ローター3に結合する構成において、引用文献6には、フランジロータ2と下部ローター3のどちらを内側に配置した例も記載されており、いずれの構成を採用するかは、当業者が設計において適宜設定すべき事項にすぎない。 してみれば、引用発明において、引用文献6技術を適用して、フランジロータ2を下部ロータ3の内側に配置し、上記相違点3に係る本件補正発明の構成を備えたものにすることは、当業者が容易になし得たことである。 エ 請求人の主張について 請求人は令和8年1月20日に提出した意見書において、引用文献6は円錐部について開示も示唆もしておらず、少なくともこの点で相違する旨主張する。 しかしながら、上記(3)のとおり、引用発明は「円錐部」に相当する構成を備えているから、当該主張は採用できない。 オ 本件補正発明の効果について 上記相違点1~3を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び上記周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 (5) 小括 したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献6技術及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび 上記2のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下するものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和8年1月20日に提出された誤訳訂正書による手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~15に係る発明は、令和6年3月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)【請求項1】に記載のとおりの補正前発明1である。 2 当審における令和7年10月17日付け最後の拒絶の理由 本願発明についての令和7年10月17日付けの最後の拒絶の理由(以下「先の拒絶の理由」という。)は、概略次のとおりである。 拒絶理由1:(明確性要件)この出願の特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記スピンドル(208)のスピンドル速度の段階的な増分は、プログラムされた制御によって適用されるように構成され、前記段階的な増分は、複数の加速度ランプを備える」という事項は、「加速度ランプ」という事項が一般的な日本語表現ではなく、その意味を理解できない点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 拒絶理由2:(サポート要件)この出願の特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記スピンドル(208)のスピンドル速度の段階的な増分は、プログラムされた制御によって適用されるように構成され、前記段階的な増分は、複数の加速度ランプを備える」という事項によりリングとトラベラとの間の摩擦熱の問題を解決できるとしているところ、そのメカニズムが不明であり、当該事項により本願発明の課題を解決できると認識できない点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 拒絶理由3:(進歩性)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 3:米国特許出願公開第2019/0127892号明細書(周知技術を示す文献) 4:国際公開第2012/100964号(周知技術を示す文献) 6:国際公開第91/02112号 3 明確性要件について 請求項1に記載された「前記スピンドル(208)のスピンドル速度の段階的な増分は、プログラムされた制御によって適用されるように構成され、前記段階的な増分は、複数の加速度ランプを備える」という事項は、「加速度ランプ」という事項が一般的な日本語表現ではなく、その意味を理解できない。 ここで、仮に「ランプ」が「傾斜」を意味し、「加速度ランプ」が「加速度」が「傾斜」していることを意味するとしても、加速度が傾斜することの意味が特定できない(この傾斜について、スピンドルの速度-時間のグラフで、速度が増加する部分(グラフの傾き)を意図しているとした場合、速度グラフの傾き(速度の時間微分)は「加速度」そのものとなるから、その「加速度」をさらに「傾斜」させたものではない。 また、「前記段階的な増分は、複数の加速度ランプを備える」という記載は、「段階的な増分」の1つの増分(例えば、A、B、Cと3回に分かれてスピンドル速度が増加する場合の、A、B、Cのそれぞれ)が、複数の加速度ランプを備えている(すなわち、Aが複数の加速度ランプを備え、Bが複数の加速度ランプを備え、Cが複数の加速度ランプを備えている)のか、それとも、「段階的な増分」全体として、複数の加速度ランプを備えている(例えば、A、B、Cという3段階の増分に対し、Aの加速度ランプ、Bの加速度ランプ、Cの加速度ランプのうちの少なくとも1つの加速度ランプが他の加速度ランプと異なる)のか、が明らかでない。 そのため、上記記載事項の発明特定事項にどのようなものが含まれ、どのようなものが含まれないか、という判断ができないため、本願発明は明確でない。 4 進歩性について (1) 読み替え後の本願発明 本願発明は、上記3のとおり明確でないから明確に特定できない。 しかしながら、令和8年1月20日に提出された誤訳訂正書により、請求項1の「加速度」が「加速」と訂正されるとともに、「前記段階的な増分は、複数の加速度ランプを備える」が「それぞれの前記段階的な増分は、複数の加速ランプを備える」と補正され、同日に提出された意見書において、「加速度」が「加速」の誤訳であり、「段階的な増分」の1つの増分が複数の加速度ランプ(ここで、「加速度ランプ」は「加速ランプ」の誤記と認める。)を備えている旨、請求人が主張することを踏まえ、本願発明における「前記段階的な増分は、複数の加速度ランプを備える」を「それぞれの前記段階的な増分は、複数の加速ランプを備える」と読み替えて、進歩性についても予備的に検討する。 (2) 引用文献の記載事項及び引用発明 先の拒絶の理由で引用された引用文献3、4、6の記載事項、引用発明、引用文献6技術及び周知技術は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。 (3) 対比・判断 読み替え後の本願発明は、上記第2[理由]2(3)及び(4)で検討した本件補正発明から、「前記リング/トラベラシステム(230,330)はリング(231,331)およびトラベラ(232,332)を備え、前記リング(231,331)が、前記ロータ(220)の内側部分に機械的に接続されるように構成される円形基部(233a)を有し、 前記リング(231,331)は、前記円形基部(233a)と前記トラベラ(232,332)が配置されるリング状上部との間に設けられた円錐部を備える」という限定事項を削除したものである。 そうすると、読み替え後の本願発明と引用発明とは、上記第2[理由]2(3)イに記載した一致点から上記限定事項を削除した点で一致し、上記相違点1で相違するから、上記第2[理由]2(4)アと同様の理由により、引用発明において上記相違点1に係る読み替え後の本願発明の事項を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものである。 したがって、読み替え後の本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許請求の範囲の記載が第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-004794

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