特許拒絶査定不服審判
2024-001326
パターニング発光可能な有機EL素子、有機EL照明装置、およびパターニング発光可能な有機EL素子の製造方法
- 審判番号
- 2024-001326
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-104971
- 請求日
- 2024年01月25日
- 審決日
- 2024年09月11日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社ホタルクス
- 【請求人代理人】辻丸 光一郎
- 【請求人代理人】松縄 正登
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 橿本 英吾
- 審判官 本田 博幸
- 分類
- P18 .121-Z (H05B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-104971「パターニング発光可能な有機EL素子、有機EL照明装置、およびパターニング発光可能な有機EL素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年12月27日出願公開、特開2021-197325〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 事案の概要
1 手続の経緯
本願は、令和2年6月18日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年 9月28日付け:拒絶理由通知書
令和5年11月28日 :意見書、手続補正書の提出
(この手続補正書による補正を、以下「本件補正」という。)
令和5年12月 5日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和6年 1月25日 :審判請求書の提出
2 本願発明
本件出願の請求項1~7に係る発明は、それぞれ、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は次のものである。
「【請求項1】
基板、第1の電極、有機EL層、および第2の電極を含み、
前記基板、前記第1の電極、前記有機EL層、および前記第2の電極が、この順序で積層されており、
前記第1の電極および前記第2の電極は、一方が陽極であり、他方が陰極であり、
前記第1の電極および前記第2の電極の少なくとも一方は、透明電極であり、
前記有機EL層は、発光層、注入層および輸送層を含み、
前記注入層は、正孔注入層および電子注入層の少なくとも一方であり、
前記輸送層は、正孔輸送層および電子輸送層の少なくとも一方であり、
前記有機EL層内において、前記注入層および前記輸送層が、パターニング形成されている、
パターニング発光可能な有機EL素子。」
3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
●理由1:(新規性)本件出願の請求項1、4~5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
●理由2:(進歩性)本件出願の請求項1、4~5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献3:特表2009-529234号公報
第2 当合議体の判断
1 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3(特表2009-529234号公報)は、本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
(1) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板;前記基板上に順次位置する第1導電層および第2導電層;および前記第1導電層と第2導電層との間に位置する、発光層を初めとする1層以上の有機層を含む有機発光素子であって、前記第1導電層と第2導電層のうちの少なくとも1つの導電層と前記1層以上の有機層との間に発光領域に相応するように形成されたパターン層が備えられ、該パターン層を介して導電層と有機層との間に電荷が注入または輸送され、前記パターン層の上面および下面に各々接する2層が直接接する領域では電荷が直接注入または輸送されないことを特徴とする有機発光素子。
・・・中略・・・
【請求項4】
前記第1導電層はアノード電極であり、前記第2導電層はカソード電極であることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記アノード電極と有機層との間のパターン層は正孔注入層または正孔輸送層であることを特徴とする、請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記カソード電極と有機層との間のパターン層は正孔抑制層、電子輸送層、または電子注入層であることを特徴とする、請求項4に記載の有機発光素子。」
(2) 「【技術分野】
【0001】
本発明は有機発光素子およびその製造方法に関し、より詳しくは、電荷注入または電荷抽出用電極から有機層へのエネルギー障壁を下げることができるパターン層を備える有機発光素子およびその製造方法に関するものである。」
(3) 「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする技術的課題は、有機発光素子の電極と有機層との間に正孔または電子の注入または輸送のための電気的障壁を下げることができるパターン層を形成することにより、パターン層の模様で発光させることができる有機発光素子およびその製造方法を提供することをその目的とする。
【0010】
また、本発明が解決しようとする技術的課題は、有機発光素子の電極と有機層との間に正孔または電子の注入または輸送のための電気的障壁を下げることができるパターン層を形成することにより、より多様な物質からなる電極を備えることができる有機発光素子およびその製造方法を提供することを他の目的とする。」
(4) 「【課題を解決するための手段】
【0011】
前記技術的課題を解決するために、本発明は、基板;前記基板上に順次位置する第1導電層および第2導電層;および前記第1導電層と第2導電層との間に位置する、発光層を初めとする1層以上の有機層を含む有機発光素子であって、前記第1導電層と第2導電層のうちの少なくとも1つの導電層と前記1層以上の有機層との間に発光領域に相応するように形成されたパターン層が備えられ、該パターン層を介して導電層と有機層との間に電荷が注入または輸送され、前記パターン層の上面および下面に各々接する2層が直接接する領域では電荷が直接注入または輸送されないことを特徴とする有機発光素子を提供する。
【0012】
また、本発明は、第1導電層と、少なくとも1つの中間導電層および第2導電層と、前記導電層の間に各々配置された発光層を初めとする1層以上の有機層とを含む積層型有機発光素子であって、前記導電層のうちの少なくとも1つと前記1層以上の有機層との間に発光領域に相応するように形成されたパターン層が備えられ、該パターン層を介して導電層と有機層との間に電荷が注入または輸送され、前記パターン層の上面および下面に各々接する2層が直接接する領域では電荷が直接注入または輸送されないことを特徴とする積層型有機発光素子を提供する。」
(5) 「【0016】
本発明に係る有機発光素子は、基板;前記基板上に順次積層され位置する第1導電層および第2 導電層;および前記第1導電層と第2導電層との間に位置する、発光層を初めとする1層以上の有機層を含む有機発光素子であって、前記第1 導電層と第2 導電層のうちの少なくとも1 つの導電層と前記1層以上の有機層との間に発光領域に相応するように形成されたパターン層が備えられ、該パターン層を介して導電層と有機層との間に電荷が注入または輸送され、前記パターン層の上面および下面に各々接する2 層が直接接する領域では電荷が直接注入または輸送されないことを特徴とする。つまり、本発明では、電極と有機層との間に正孔または電子の注入または輸送のための電気的障壁を下げることができるパターン層を用いることにより、パターン層模様の発光領域を有する有機発光素子を実現することができる。
【0017】
本発明において、有機層から発生した光は基板に向かう方向(bottom emission)、基板の反対方向(top emission)または両方向に放出することができる。
・・・中略・・・
【0023】
前記実施形態において、前記パターン層と接する導電層は第1導電層または第2導電層であってもよい。前記パターン層と接する導電層が第1導電層である場合、前記第2導電層はアルミニウム(Al)、銀(Ag)または透明電極材料、例えばITOからなってもよい。前記有機層は、正孔注入層(HIL)、正孔輸送層(HTL)、電子輸送層(ETL)および電子注入層(EIL)からなる群から選択された1つ以上の層をさらに含むことができる。前記実施形態において、前記第2導電層と前記有機層との間にパターン層をさらに含むことができ、この場合、前記追加のパターン層はLiF、NaF、CsF、Ca、MgおよびMgOからなる群から選択された1つのものからなってもよい。
・・・中略・・・
【0025】
本発明に係る積層型有機発光素子はそれぞれの導電層とその導電層の上部に位置する有機層との間に前記パターン層を全て備えることが好ましい。前記パターン層が2つ以上含まれる場合、これらは互いに同じパターンまたは異なるパターンを有してもよい。複数層の多様な形態のパターン層を形成することによって色々な形態の発光模様を実現することができる。
・・・中略・・・
【0031】
本発明のまた他の一実施形態によれば、基板上に第1導電層を形成するステップ;前記第1導電層上に発光領域に相応するように第1パターン層を形成するステップ;前記第1導電層の露出部およびおよび(当審注:「およびおよび」は「および」の誤記である。)前記第1パターン層上に、発光層を初めとする1層以上の有機層を形成するステップ;前記有機層上に発光領域に対応するように第2パターン層を形成するステップ;および前記有機層の露出部および前記第2パターン層上に第2導電層を形成するステップを含み、前記第1パターン層は前記第1パターン層を介して第1導電層と有機層との間に電荷が注入または輸送され得る材料で形成し、前記第1パターン層と接する有機層は前記第1導電層と接する領域において前記第1導電層から電荷が直接注入または輸送されない材料で形成し、前記第2パターン層は第2パターン層を介して第2導電層と有機層との間に電荷が注入または輸送され得る材料で形成し、前記第2パターン層と接する有機層は前記第2導電層と接する領域において前記第2導電層から電荷が直接注入または輸送されない材料で形成する有機発光素子の製造方法を提供する。」
(6) 「【0074】
図4を参照して本発明の第3実施形態に係る有機発光素子の製造方法を説明すると、本実施形態では有機層ユニットが2つ以上積層された有機発光素子を形成する。
・・・中略・・・
【0079】
第3実施形態では前記特徴を有するパターン層を形成し、発光領域上の電荷移動に対する電気的障壁を下げることによって電荷注入能力を向上させるだけでなく、複数層の多様な形態のパターン層を形成することによって色々な形態の発光模様を実現することができる。」
(7) 図2
「
[図:0001416304000001.jpg]
」
(8) 図4
「
[図:0001416304000002.jpg]
」
2 引用文献3に開示された技術的事項及び引用発明
(1) 引用文献3に開示された技術的事項
上記1の記載事項によれば、引用文献3には、次のような技術的事項が開示されていると認められる。
ア 請求項1には、「前記第1導電層と第2導電層のうちの少なくとも1つの導電層と前記1層以上の有機層との間に発光領域に相応するように形成されたパターン層が備えられ」との記載があり、当該記載における「第1導電層と第2導電層のうちの少なくとも1つの導電層」に、第1導電層と第2導電層の両方の導電層が含まれることは文言上明らかである。
そうすると、請求項1に係る有機発光素子の発明には、第1導電層と有機層との間及び第2導電層と有機層との間の両方に発光領域に相応するように形成されたパターン層が備えられることが開示されている。
イ 【0017】には、「本発明において、有機層から発生した光は基板に向かう方向(bottomemission)、基板の反対方向(topemission)または両方向に放出することができる」ものであること、【0023】には、第2導電層が透明導電材料からなることが記載されている。当該記載から、引用文献3に記載の発明においては、第2導電層が透明導電材料からなることが開示されているといえる。
ウ 請求項1を引用する請求項4には、「前記第1導電層はアノード電極であり、前記第2導電層はカソード電極である」と、請求項4を引用する請求項5には、「前記アノード電極と有機層との間のパターン層は正孔注入層または正孔輸送層である」と、同じく請求項4を引用する請求項6には、「前記カソード電極と有機層との間のパターン層は正孔抑制層、電子輸送層、または電子注入層であること」とそれぞれ記載されている。
エ 【0016】には、「本発明では、電極と有機層との間に正孔または電子の注入または輸送のための電気的障壁を下げることができるパターン層を用いることにより、パターン層模様の発光領域を有する有機発光素子を実現することができる」との記載がある。
当該記載によれば、上記アの有機発光素子を含む引用文献3に記載の発明は、パターン層模様の発光領域を有する有機発光素子であると認められる。
(2) 引用発明
上記(1)のア~エを総合すると、引用文献3には、次の「有機発光素子」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(当合議体注:引用発明における丸括弧内は、引用文献3の該当箇所及び上記(1)で認定した技術的事項との関係を参考までに示すものである。)
「基板、
前記基板上に順次位置する第1導電層および第2導電層、
前記第1導電層と第2導電層との間に位置する、発光層を初めとする1層以上の有機層を含み(請求項1)、
前記第1導電層はアノード電極であり、前記第2導電層はカソード電極であり(上記(1)ウ)、
前記第2導電層が透明導電材料からなり(上記(1)イ)、
前記第1導電層及び第2導電層と前記1層以上の有機層との間に発光領域に相応するように形成されたパターン層が備えられ(上記(1)ア)、
前記アノード電極と有機層との間のパターン層は正孔注入層または正孔輸送層であり、
前記カソード電極と有機層との間のパターン層は正孔抑制層、電子輸送層、または電子注入層である、(上記(1)ウ)
パターン層模様の発光領域を有する有機発光素子(上記(1)エ)。」
3 対比及び判断
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。
ア 基板、第1の電極、第2の電極、有機EL層
引用発明の「基板」、「第1導電層」、「発光層を初めとする1層以上の有機層」及び「第2導電層」は、それぞれ本願発明1の「基板」、「第1の電極」、「有機EL層」及び「第2の電極」に相当する。
また、引用発明の「有機EL素子」は、「基板、前記基板上に順次位置する第1導電層および第2導電層、前記第1導電層と第2導電層との間に位置する、発光層を初めとする1層以上の有機層を含」む。
上記構成からみて、引用発明が、本願発明1の「基板、第1の電極、有機EL層、および第2の電極を含み、前記基板、前記第1の電極、前記有機EL層、および前記第2の電極が、この順序で積層されており」との構成を備えることは明らかである。
さらに、引用発明は、「前記第1導電層はアノード電極であり、前記第2導電層はカソード電極であり、前記第2導電層が透明導電材料からなり」との構成を有する。したがって、引用発明は、本願発明1の「前記第1の電極および前記第2の電極は、一方が陽極であり、他方が陰極であり、前記第1の電極および前記第2の電極の少なくとも一方は、透明電極であり」との構成を有する。
イ パターニング形成、パターニング発光可能な有機EL素子
引用発明は、「前記第1導電層及び第2導電層と前記1層以上の有機層との間に発光領域に相応するように形成されたパターン層」を備える。
そうすると、引用発明の「パターン層模様の発光領域を有する有機発光素子」は、本願発明1の「パターニング発光可能な有機EL素子」に相当し、本願発明1と引用発明とは、少なくとも「パターニングされた層を備える」点で共通する。
(2) 一致点及び相違点
上記(1)の対比結果を踏まえると、本願発明1と引用発明とは、
「基板、第1の電極、有機EL層、および第2の電極を含み、
前記基板、前記第1の電極、前記有機EL層、および前記第2の電極が、この順序で積層されており、
前記第1の電極および前記第2の電極は、一方が陽極であり、他方が陰極であり、
前記第1の電極および前記第2の電極の少なくとも一方は、透明電極であり、
パターニングされた層を備えた、
パターニング発光可能な有機EL素子。」
という点で一致し、
次の点で相違又は一応相違する。
(相違点1)
パターニングされた層が、本願発明1では、「前記注入層および前記輸送層が、パターニング形成されている」と特定されているのに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。
(相違点2)
パターニングされた層の位置が、本願発明1では、「前記有機EL層は、発光層、注入層および輸送層を含み、前記注入層は、正孔注入層および電子注入層の少なくとも一方であり、前記輸送層は、正孔輸送層および電子輸送層の少なくとも一方であり、前記有機EL層内において、前記注入層および前記輸送層が、パターニング形成されている」との構成から、パターニングされた層は有機EL層に含まれているのに対して、引用発明では「前記第1導電層及び第2導電層と前記1層以上の有機層との間に発光領域に相応するように形成されたパターン層が備えられ」とされ、パターニングされた層は第1の電極及び第2の電極と有機EL層との間に位置している点。
(3) 判断
上記相違点1及び2は、いずれも「パターニングされた層」に関する事項であるので、以下、まとめて検討する。
ア 引用発明は、「前記第1導電層はアノード電極であり、前記第2導電層はカソード電極であり」、「前記第1導電層及び第2導電層と前記1層以上の有機層との間に発光領域に相応するように形成されたパターン層が備えられ、前記アノード電極と有機層との間のパターン層は正孔注入層または正孔輸送層であり、前記カソード電極と有機層との間のパターン層は正孔抑制層、電子輸送層、または電子注入層である」との構成を備える。
上記構成は、その文言からみて、アノード電極、カソード電極及びパターン層について、以下の選択肢が含まれていると解される。
(選択肢1)アノード電極(第1の電極)と有機層(有機EL層)との間のパターン層は正孔注入層であり、カソード電極(第2の電極)と有機層(有機EL層)との間のパターン層は正孔抑制層である。
(選択肢2)アノード電極(第1の電極)と有機層(有機EL層)との間のパターン層は正孔注入層であり、カソード電極(第2の電極)と有機層(有機EL層)との間のパターン層は電子輸送層である。
(選択肢3)アノード電極(第1の電極)と有機層(有機EL層)との間のパターン層は正孔注入層であり、カソード電極(第2の電極)と有機層(有機EL層)との間のパターン層は電子注入層である。
(選択肢4)アノード電極(第1の電極)と有機層(有機EL層)との間のパターン層は正孔輸送層であり、カソード電極(第2の電極)と有機層(有機EL層)との間のパターン層は正孔抑制層である。
(選択肢5)アノード電極(第1の電極)と有機層(有機EL層)との間のパターン層は正孔輸送層であり、カソード電極(第2の電極)と有機層(有機EL層)との間のパターン層は電子輸送層である。
(選択肢6)アノード電極(第1の電極)と有機層(有機EL層)との間のパターン層は正孔輸送層であり、カソード電極(第2の電極)と有機層(有機EL層)との間のパターン層は電子注入層である。
イ 上記6つの選択肢のうち選択肢2及び6は、「注入層および輸送層が、パターニング形成されている」態様に該当するから、相違点1に係る本願発明1の構成を満たす。
ここで、引用発明が「有機発光素子の電極と有機層との間に正孔または電子の注入または輸送のための電気的障壁を下げることができるパターン層を形成することにより、パターン層の模様で発光させることができる有機発光素子およびその製造方法を提供すること」(【0009】)としており、さらには「有機発光素子の電極と有機層との間に正孔または電子の注入または輸送のための電気的障壁を下げることができるパターン層を形成することにより、より多様な物質からなる電極を備えることができる有機発光素子およびその製造方法を提供すること」(【0010】)を目的としていることに照らせば、上記6つの選択肢からいずれの選択肢を選択するかは適宜なし得ることであって、選択肢2又は6が他の選択肢に比して格別に顕著な効果を奏するものでもない。
したがって、引用発明において、選択肢2又は6を採用すること、すなわち、相違点1に係る本願発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
ウ そして、引用発明において、各「パターニングされた層」を、有機層(有機EL層)内の層と規定するか、当該有機層(有機EL層)に含まれない層と規定するかは、単なる表現上の差異であって実質的な差異ではない。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。
(4) 発明の効果について
本件出願の明細書の【0036】には、発明の効果として、「本発明によれば、図10に示すような従来の絶縁層によるパターニング手法と比較して、例えば、有機EL素子1における正孔注入層121の厚みが薄いことから、正孔注入層121の有無により、有機EL素子1の厚みの変化(段差)が生じにくい。このため、有機EL素子1の非発光時に、発光部(領域P)と非発光部(領域Aにおける領域P以外の部分)との境界を見えにくくすることができる。」と記載されている。
しかしながら、引用発明は、本願発明1と同様、注入層及び輸送層をパターニングしてパターニング発光を可能とするものであって、非発光時における発光部と非発光部との境界が絶縁層を設けた場合と比較して見えにくいことは技術的に明らかであるから、上記効果は、引用発明から容易に想到し得た発明の構成(本願発明1の構成)が奏するものとして、本件出願時の当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものではない。
(5) 審判請求人の主張
ア 主張の内容
審判請求人は、令和6年1月25日に提出された審判請求書(9頁~10頁)において、概略以下の点を主張する。
(ア)電極
第3導電層358は、交流電圧が印加されるものであって、本願発明1における「第1の電極(陽極又は陰極)」、「第2の電極(陰極又は陽極)」のいずれにも相当するものではない。まして、第1導電層310と第2導電層370は、「互いに電気的に接地電位に連結され」ているので、本願発明1における「第1の電極(陽極又は陰極)」、「第2の電極(陰極又は陽極)」のいずれにも相当するものではない。
さらに、第1パターン層320は、第1導電層310と第3導電層358との間の第1有機層380aの発光に関与するものであるのに対し、第2パターン層360は、第3導電層358と第2導電層370との間の第2有機層380bの発光に関与するもので、このような事項からみても、第1導電層310と第2導電層370は、本願発明1における「第1の電極(陽極又は陰極)」、「第2の電極(陰極又は陽極)」のいずれにも相当するものではない。
(イ)効果
本願発明1は、パターニング形成されている注入層及び輸送層の両方を含んでいるで、注入層、輸送層の一方を含むものよりも、正孔の注入や輸送、電子の注入や輸送を効率的にして電気的障壁を下げることができるという顕著な効果を奏する。
イ 判断
上記主張について検討する。
(ア) 上記主張(ア)について
原査定が、引用文献3に記載された第3実施形態の記載を引用した趣旨は、注入層および輸送層の両方にパターン層を形成することの示唆が引用文献3に存在することを示すことにあるのであって、後記のとおり、そのような示唆は存在するから、引用文献3の第3実施形態において、第1導電層、第2導電層及び第2導電層について「陽極」か「陰極」かが明記されていないことや、交流の電圧を印加していることは、上記(3)の判断を左右しない。
すなわち、引用発明の「前記第1導電層と第2導電層のうちの少なくとも1つの導電層と前記1層以上の有機層との間に発光領域に相応するように形成されたパターン層が備えられ」との構成は、第1導電層と有機層との間及び第2導電層と有機層との間の両方にパターン層を設けること含むことは文言上明らかである。さらに、引用文献3には、パターン層と接する導電層が第1導電層である場合に第2導電層と有機層との間にパターン層をさらに含むことが可能であること(【0023】)及び第1導電層と有機層との間にパターン層を設け第2導電層と有機層との間に第2のパターン層を設けること(【0031】)が開示されている。
したがって、上記主張(ア)は採用すべき理由がない。
(イ) 上記主張(イ)について
本願発明1では、注入層及び輸送層がパターニング形成されていることは限定されているが、
・パターン形成されている注入層が正孔注入層なのか電子注入層なのかの限定はない
・パターン形成されている輸送層が正孔輸送層なのか電子輸送層なのかの限定はない
・パターニング形成された注入層と輸送層とパターニング発光可能であることの関係は特定されていない
・パターニング形成された注入層とパターニング形成された輸送層との関係は特定されていない
したがって、本願発明1の構成を満たすもの全てが「注入層、輸送層の一方を含むものよりも、正孔の注入や輸送、電子の注入や輸送を効率的にして電気的障壁を下げることができる」との効果を奏するとは認められない。
したがって、上記主張(イ)は採用すべき理由がない。
(ウ) 以上によれば、請求人の上記主張はいずれも採用すべき理由がない。
4 小括
本願発明1は、引用文献3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第3 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献3に記載された発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-001326