特許拒絶査定不服審判
2024-001045
核酸配列計測装置及び核酸配列計測方法
- 審判番号
- 2024-001045
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-231995
- 請求日
- 2024年01月22日
- 審決日
- 2026年04月15日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】横河電機株式会社
- 【請求人代理人】田▲崎▼ 聡
- 【請求人代理人】片岡 央
- 【請求人代理人】高橋 久典
- 【請求人代理人】沖田 壮男
- 審判長/審判官
- 審判長 濱野 隆
- 審判官 谷垣 圭二
- 審判官 井海田 隆
- 分類
- P18 .121-WZ (C12M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-231995「核酸配列計測装置及び核酸配列計測方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 7月 1日出願公開、特開2021- 97648〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、令和元年12月23日の特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年 6月 5日付け:拒絶理由通知書
同年 8月 9日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月13日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月24日 :原査定の謄本の送達)
令和6年 1月22日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和7年12月 4日付け:拒絶理由通知書
令和8年 2月 9日 :意見書、手続補正書の提出
なお、令和7年12月4日付けで当審において通知した拒絶理由通知を、以下「当審拒絶理由通知」といい、これに対して、令和8年2月9日に請求人から提出された意見書を、以下、単に「意見書」という。
2 本願発明について
(1) 本願発明の認定
本願の請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和8年2月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項4に記載された次に示す事項により特定されるとおりのものである。
なお、上記補正後の請求項4の記載は、上記補正前の請求項7の記載と同じである。
「【請求項4】
サンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットを計測する核酸配列計測方法であって、
前記ターゲットの添加によって蛍光を発する核酸配列計測用デバイスに対する前記サンプルの添加前又は添加直後の第1時点で、少なくとも前記核酸配列計測用デバイスの予め規定された計測領域が含まれる画像取得領域の画像である第1画像を取得するステップと、
前記核酸配列計測用デバイスに対する前記サンプルの添加から予め規定された時間が経過した後の第2時点で、前記予め規定された計測領域と同じ計測領域が含まれる画像取得領域の画像である第2画像を取得するステップと、
前記第1画像と前記第2画像との画素毎の階調値の差が予め規定された第1閾値を超える画素を抽出するステップと、
前記第1画像に含まれる前記計測領域の画像をなす画素のうち、抽出した画素の平均階調値を、前記第1時点で前記予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第1光量として求めるステップと、
前記第2画像に含まれる前記計測領域の画像をなす画素のうち、抽出した画素の平均階調値を、前記第2時点で前記予め規定された計測領域と同じ計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第2光量として求めるステップと、
前記第1光量と前記第2光量との差に基づいて前記ターゲットを計測するステップと、
を有する核酸配列計測方法。」
(2) 本願発明の分説
検討の便宜上、本願発明の構成を次のように構成X(X’)と構成Aから構成Fまでに分説する。また、参考図として、本願の【図6】を掲載する。
<本願発明の分説>
X’サンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットを計測する核酸配列計測方法であって、
A 前記ターゲットの添加によって蛍光を発する核酸配列計測用デバイスに対する前記サンプルの添加前又は添加直後の第1時点で、少なくとも前記核酸配列計測用デバイスの予め規定された計測領域が含まれる画像取得領域の画像である第1画像を取得するステップと、
B 前記核酸配列計測用デバイスに対する前記サンプルの添加から予め規定された時間が経過した後の第2時点で、前記予め規定された計測領域と同じ計測領域が含まれる画像取得領域の画像である第2画像を取得するステップと、
C 前記第1画像と前記第2画像との画素毎の階調値の差が予め規定された第1閾値を超える画素を抽出するステップと、
D 前記第1画像に含まれる前記計測領域の画像をなす画素のうち、抽出した画素の平均階調値を、前記第1時点で前記予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第1光量として求めるステップと、
E 前記第2画像に含まれる前記計測領域の画像をなす画素のうち、抽出した画素の平均階調値を、前記第2時点で前記予め規定された計測領域と同じ計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第2光量として求めるステップと、
F 前記第1光量と前記第2光量との差に基づいて前記ターゲットを計測するステップと、
X を有する核酸配列計測方法。
<参考図>
【図6】
[図:0001435533000001.jpg]
(3) 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸配列計測装置及び核酸配列計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットを計測する方法として、DNAチップ(上記特定の核酸配列の相補配列を有する検出プローブが基板等の固相面に設けられたもの)を用いる方法が広く知られている。この方法は、DNAチップに添加されたサンプルに含まれるターゲットが、ハイブリダイゼーションによりDNAチップの検出プローブに捕集される性質を利用してターゲットを計測する方法である。この方法では、ターゲットがサンプルに含まれるか否かに加えて、サンプルに含まれるターゲットの量を計測することができる。
【0003】
以下の特許文献1には、上記の検出プローブとして、蛍光分子が付加された蛍光プローブと、蛍光分子の蛍光を消光する消光分子が付加された消光プローブとが設けられた核酸配列計測用デバイス(DNAチップ)を用いてターゲットを計測する方法が開示されている。この方法では、ターゲットに対する蛍光分子の付加、及びDNAチップの洗浄(捕集されていないターゲット等を除去するための洗浄)を行うことなくターゲットを計測することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-43702号公報」
「【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、サンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットの計測精度を従来よりも向上させることができる、という効果がある。」
「【0020】
〔概要〕
本発明の実施形態は、サンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットの計測精度を従来よりも向上させるようにするものである。例えば、サンプルに含まれるターゲットがごく僅かであっても、ターゲットの計測を可能にするものである。具体的には、サンプルが添加されてない場合でも核酸配列計測用デバイスから発せられる微弱な蛍光(オフセット光)や、蛍光のムラ(光量バラツキ)等の影響を極力排除することによって、高い計測精度を実現するものである。
【0021】
上述の特許文献1に開示された核酸配列計測用デバイスは、蛍光分子が付加された蛍光プローブと、消光分子が付加された消光プローブとを有し、蛍光分子の蛍光が消光分子によって消光されるように蛍光プローブと消光プローブとが結合されたものである。この核酸配列計測用デバイスは、計測対象であるターゲットが添加されると、ハイブリダイゼーションにより、蛍光プローブと消光プローブとの結合が解消されて蛍光が発せられるようにされている。
【0022】
このため、ターゲットが核酸配列計測用デバイスに添加されなければ、蛍光プローブに付加された蛍光分子の蛍光が、消光プローブに付加された消光分子によって消光されるため、核酸配列計測用デバイスからは蛍光が発せられない筈である。しかしながら、消光分子による蛍光の消光が不完全な場合には、核酸配列計測用デバイスからオフセット光が発せられてしまう。このようなオフセット光は、ノイズとなることから計測精度を悪化させてしまう。例えば、ターゲットが僅かである場合には、核酸配列計測用デバイスから発せられる蛍光も微弱なものとなるところ、この微弱な蛍光が、オフセット光に埋もれてしまうとターゲットの計測を行うことができない。
【0023】
また、核酸配列計測用デバイスを用いてターゲットを計測する場合には、ハイブリダイゼーション前後において核酸配列計測用デバイスから発せられる蛍光の光量を比較する処理が行われる。つまり、ハイブリダイゼーション前に核酸配列計測用デバイスから発せられるオフセット光の光量と、ハイブリダイゼーション後に核酸配列計測用デバイスから発せられる蛍光の光量とを比較する処理が行われる。
【0024】
従来は、ターゲットが含まれるサンプルが添加されるブロック(第1ブロック)以外に、ターゲットが含まれないサンプルが添加されるブロック(第2ブロック)が用意された核酸配列計測用デバイスを用いて上記の処理を行っていた。つまり、第2ブロックから発せられる蛍光(オフセット光)の光量と、第1ブロックから発せられる蛍光(ハイブリダイゼーション後に発せられる蛍光)の光量とを比較するようにしていた。
【0025】
或いは、ターゲットが含まれるサンプルが添加される核酸配列計測用デバイスと、ターゲットが含まれないサンプルが添加される核酸配列計測用デバイスとを用いて上記の処理を行っていた。つまり、後者の核酸配列計測用デバイスから発せられる蛍光(オフセット光)の光量と、前者の核酸配列計測用デバイスから発せられる蛍光(ハイブリダイゼーション後に発せられる蛍光)の光量とを比較するようにしていた。
【0026】
しかしながら、核酸配列計測用デバイスの製造バラツキ等が原因で、オフセット光の光量は、ブロック間、核酸配列計測用デバイス間でバラツキがある。このため、オフセット光の光量が相対的に少なければターゲットを計測することができるが、オフセット光の光量が相対的に大きくなるとターゲットを計測することができなくなるといったことが起こり得る。このように、ブロック間、核酸配列計測用デバイス間でのオフセット光の光量バラツキの大きさに応じて計測精度が悪化してしまう。
【0027】
また、上述の特許文献1に開示された核酸配列計測用デバイスでは、スポット(上述した結合状態にある蛍光プローブ及び消光プローブが基板上に固定されている領域)から発せられる蛍光の光量バラツキもある。これは、スポット内におけるプローブの固定量や反応のムラ等が原因である。このようなスポット内における光量バラツキも、計測精度を悪化させる原因となる。
【0028】
本発明の実施形態では、まず、核酸配列計測用デバイスに対するサンプルの添加前又は添加直後の第1時点で、核酸配列計測用デバイスの予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第1光量と、核酸配列計測用デバイスに対するサンプルの添加から予め規定された時間が経過した後の第2時点で、計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第2光量との差を求める。そして、第1光量と第2光量との差に基づいてターゲットを計測するようにしている。
【0029】
このように、本発明の実施形態では、第1時点で、ある計測領域から発せられる蛍光の第1光量と、第2時点で、上記と同じ計測領域から発せられる蛍光の第2光量との差を求めている。そして、第1光量と第2光量との差に基づいてターゲットを計測するようにしている。このため、サンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットの計測精度を従来よりも向上させることができる。」
「【0064】
以上の通り、第1核酸配列計測方法では、サンプル添加直後の時点(第1時点)で、あるスポットSPから発せられる蛍光の第1光量と、サンプル添加から所定時間後の時点(第2時点)で、上記と同じスポットSPから発せられる蛍光の第2光量との差を求めている。そして、第1光量と第2光量との差に基づいてターゲットを計測するようにしている。これにより、オフセット光の影響を効果的に排除することができることから、サンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットの計測精度を従来よりも向上させることができる。」
「【0072】
図7は、第2核酸配列計測方法で取得される画像の一例を示す図である。図7(a)は、例えば、ハイブリダイゼーション前に取得された対象ブロックBK0の画像(第1画像)の一部である。図7(b)は、ハイブリダイゼーション前後において取得された画像(第1画像、第2画像)の1つのスポット領域を拡大したものある。尚、図7(b)において、画像G1は、ハイブリダイゼーション前のものであり、画像G2は、ハイブリダイゼーション後のものである。」
「【図7】
[図:0001435533000002.jpg]
」
「【0073】
図7(a)を参照すると、3つのスポット領域が示されている。これら3つのスポット領域の内部は、階調値が同一ではなく斑模様となっている。また、これら3つのスポット領域の斑模様は、同じではなく互いに異なっている。これにより、オフセット光の光量バラツキは、スポット領域内のみならず、スポット領域間においてもあることが分かる。
【0074】
図7(b)を参照すると、画像G1よりも画像G2の方が全体的に白っぽい(階調値が大きい)ことが分かる。これは、ハイブリダイゼーション後の方がハイブリダイゼーション前よりも全体的な光量が増していることを意味する。また、図7(b)を参照すると、画像G1,G2の何れも、階調値が同一ではなく斑模様になっている。これにより、スポット領域内における蛍光の光量バラツキは、ハイブリダイゼーション前のみならず、ハイブリダイゼーション後においても生ずることが分かる。
【0075】
図8は、ハイブリダイゼーション前後におけるスポット領域内の画素の階調値のバラツキ分布の一例を示す図である。図8(a)は、図7(b)に示す画像G1,G2についての階調値のバラツキ分布をヒストグラムで示したものである。これに対し、図8(b)は、図7(b)に示す画像G1,G2から抽出された画素(階調変化量の大きな画素)の階調値のバラツキ分布をヒストグラムで示したものである。つまり、図8(b)は、図6に示すステップS25の処理が行われた後のものについて、階調値のバラツキ分布をヒストグラムで示したものである。」
「【図8】
[図:0001435533000003.jpg]
」
「【0076】
図8を参照すると、ハイブリダイゼーション前においては、画素の階調値の分布は「20000」付近であり、ハイブリダイゼーション後においては、画素の階調値の分布は「40000」付近であることが分かる。また、図8(a)と図8(b)とを比較すると、図8(a)に比べて図8(b)の方が、バラツキが小さく平均的な階調値が大きくなることが分かる。
【0077】
図9は、ハイブリダイゼーション前後におけるスポット領域内の画素の平均階調値及び標準偏差の一例を示す図である。図9において、「画素の抽出無し」と付記されているものは、図7(b)に示す画像G1,G2についての平均階調値及び標準偏差であり、「画素の抽出あり」と付記されているものは、図7(b)に示す画像G1,G2から抽出された画素(階調変化量の大きな画素)の平均階調値及び標準偏差である。図9では、平均階調値を棒グラフで示しており、標準偏差をエラーバーで示している。」
「【図9】
[図:0001435533000004.jpg]
」
「【0078】
図9を参照すると、ハイブリダイゼーション前であっても、ハイブリダイゼーション後であっても、「画素の抽出あり」と付記されたものの平均階調値が、「画素の抽出無し」と付記されたものの平均階調値よりも大きくなっていることが分かる。また、ハイブリダイゼーション前であっても、ハイブリダイゼーション後であっても、「画素の抽出あり」と付記されたものの標準偏差は、「画素の抽出無し」と付記されたものの標準偏差の三分の一程度に減少していることが分かる。
【0079】
図6に示すステップS28の処理では、ハイブリダイゼーション前の平均階調値と、ハイブリダイゼーション後の平均階調値との差である光量変化量を、ハイブリダイゼーション前後の標準偏差を用いて検定している。図6に示すステップS25の処理を行うことで、標準偏差を三分の一程度に減少することができるため、ターゲットの計測精度を向上させることができる。
【0080】
以上の通り、第2核酸配列計測方法では、まず、第1画像から抽出したスポット領域の階調値標準偏差から信頼区間を設定し、信頼区間以上の階調値変化がある画素を抽出している。次に、第1画像のスポット領域毎に、抽出した画素の平均階調値(第1光量)を求め、第1画像のスポット領域毎に、抽出した画素の平均階調値(第2光量)を求め、これらの差である光量変化量を検定している。そして、検定結果に基づいてターゲットを計測するようにしている。これにより、スポット領域内の光量ムラの影響を効果的に排除することができることから、サンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットの計測精度を従来よりも向上させることができる。」
3 当審拒絶理由通知における拒絶の理由の概要
当審拒絶理由通知で指摘した拒絶の理由のうち、本願発明に対する理由2(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由2(進歩性の欠如) 本願発明は、出願前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献2.蓼沼 崇等,迅速微生物検査に向けた核酸検出法の開発,横河技報,2017,vol.60,no.1,pp.7~12(主たる引用文献)
引用文献5.特開2010-8107号公報(周知技術を示す文献)
4 引用文献2の記載事項及び引用発明の認定
(1) 引用文献2に記載された事項
当審拒絶理由通知において引用した、本願の出願前に発行された文献である蓼沼 崇等,迅速微生物検査に向けた核酸検出法の開発,横河技報,2017,vol.60,no.1,pp.7~12(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記(3)の引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。
ア 「2.2 シグナリングアレイプローブの構造と検出原理」の項
「新たに開発した発光型プローブであるシグナリングアレイプローブの模式図を図3に示す。」
「
[図:0001435533000005.jpg]
」
「シグナリングアレイプローブは,5’末端に蛍光色素であるCy(R)3 を修飾した(化学的に結合させた)蛍光プローブと,3’末端に消光物質であるBHQ(R)2(Black Hole Quencher(R)2)を修飾した消光プローブの2本のプローブを,固相表面に2本一対となるように固定する。このとき,プローブのCy3もしくはBHQ2をそれぞれ修飾した末端からの数塩基を,お互いに相補配列とする。このことにより,溶液中に存在している初期の状態では,Cy3分子とBHQ2が近接した状態となる。そのため,Cy3分子蛍光放出は蛍光共鳴エネルギー移動により抑制される(図3左側の状態)。しかし,高い相同性を有する標的核酸分子がプローブにハイブリダイズすると,先端の蛍光分子と消光分子が互いに引き離され,抑制が解放され蛍光を発するようになる(図3右側の状態)。この原理により,標的核酸分子のハイブリダイズを蛍光強度の変化によって検出可能なプローブを実現している。本プローブを用いたDNAチップにおいては,標的核酸分子をチップに滴下することだけで検出が可能となる。これにより,前項で述べたハイブリダイズ後のDNAチップの洗浄工程を省略することができ,操作をより簡略化したプロトコールを構築できる。」
(当審注:原文では、(R)の「()」は「○」と記載されている。)
イ 「2.4 検出感度の確認」の項
「 微生物検出プローブとしてシグナリングアレイプローブが適用可能かどうかを判断すべく,検出感度の確認を行った。大腸菌から抽出したゲノムDNA をテンプレートとし,16S rDNAを標的としてPCR(Polymerase Chain Reaction)増幅した。増幅産物の検出対象鎖のみを精製し,一本鎖化した核酸分子を検出標的として用いた。サンプル溶液中の標的核酸分子濃度を0.1~3.2nMとなるように調製した溶液を用いて,60℃,5rpmの条件下で30分間ハイブリダイズし,その後スポットの蛍光量を室温にて測定した(図5)。」
「
[図:0001435533000006.jpg]
」
「シグナリングアレイプローブは前述のとおり,初期状態において蛍光の放出は抑制されている。しかし,蛍光共鳴エネルギー転移効率は100%とはならないため,初期状態,つまりサンプル中に標的核酸分子が存在しない場合においても,わずかに蛍光が確認される(N光量)。したがって,プローブへの標的核酸のハイブリダイズは,蛍光量の変化量を測定することで確認することができる。本研究においては,N光量との光量比が2以上となる光量変化を検出下限と定めた。検出感度の確認結果では,サンプル中のターゲット濃度が低くなるとともにスポットの蛍光量は低下し,0.1nMの結果においてはN光量と同程度となった。N光量との光量比が2以上となる光量を示したターゲット濃度,つまりプローブの検出下限濃度は,0.4nM程度と見積もることができた。検査対象のPCR増幅産物を検出するプローブとして十分な検出感度を有しており,微生物検査への適用は可能であると考えられる。」
ウ 「3. 微生物検出プロトコールの構築」の項
「(前略)
高温加圧核酸抽出法とシグナリングアレイプローブを固定したDNAチップを用い,簡易な操作で微生物の検出が可能なプロトコールを構築した。検査のフローを図6に示す。」
「
[図:0001435533000007.jpg]
」
「検出遺伝子の増幅工程に非対称PCRを採用することで,増幅DNAを一本鎖化することなくDNAチップでの検出ができる設計とした。各工程にかかる時間は,核酸抽出に数分,遺伝子増幅に30~60分,ハイブリダイズに30分程度であり,増菌培養サンプルの核酸抽出から検出までの全工程を2時間以内で終了する。その結果,増菌培養工程を含めても2日間以内で完了することが可能である。」
エ 「4.1 単一菌種の検出」の項
「人体に害をもたらす可能性のある細菌は数多く報告されているが,その中で日本薬局方にて指定されている微生物試験の指標菌で主要なCandida albicans (CA),Escherichia coli (EC), Pseudomonas aeruginosa (PA),Staphylococcus aureus (SA), Salmonella enterica (Sal)の5種類の菌を選定し(表1),これらの菌を一括で検査できるDNAチップを作製した。」
「
[図:0001435533000008.jpg]
」
「菌種ごとに異なる検出対象遺伝子を独自に選択した。CAでは厚膜胞子形成関連遺伝子SSP2を,PAでは鉄代謝関連遺伝子furを,SAでは温度安定性DNA分解酵素遺伝子nucを,Salではfur遺伝子制御遺伝子iroBを,ECではDNAプライマーゼ遺伝子であるdnaGをそれぞれ選択した。本DNAチップを用いて,構築したプロトコールによる微生物の検出を確認した。
現在の食品検査においては,生菌のみを検出する狙いなどから検査前に一度増菌培養が行われる。これに倣い,DNAチップに検出プローブを搭載した5菌種を,それぞれSoybean-Casein Digest Broth with Lecithin &Polysorbate 80(SCDLP),もしくはGlucose Peptone Broth with Lecithin & Polysorbate 80(GPLP)培地中に103 cellsを標準として植菌し,静置で24時間増菌培養した溶液を疑似陽性サンプルとして用いた。各サンプルから高温加圧核酸抽出法により抽出したゲノムDNAをテンプレートとして,非対称PCRを行った増幅サンプルに,終濃度5x(5倍濃度)となるようにSaline Sodium Citrate Buffer(SSC)を添加し,DNAチップにアプライした。DNAチップを60℃,5rpmの条件下で30分間ハイブリダイズした後,蛍光読取装置により撮像し,画像解析ソフトによる解析で各スポットの蛍光量を算出した。ハイブリダイゼーション前後の代表DNAチップ画像と,各スポット光量のグラフを図7に示す。」
「
[図:0001435533000009.jpg]
」
「試験に供した5菌種すべての結果において,ハイブリダイズ前のスポットは暗く消光しているのに対し,ハイブリダイズ後には各スポットに蛍光が確認された。また,検出対象としたスポットにのみハイブリダイズ後に特異的な蛍光量増加が確認され,誤検出は確認されなかった。ハイブリダイズ後の光量とN光量との比は20~146と,良好なS/N比で検出可能であることが確認された。」
(2) 引用文献2の記載に関する認定事項
ア 認定事項1
図7に「ハイブリダイゼーション前後の代表DNAチップ画像」が示されていることから、前記(1)エにおける「画像解析ソフトによる解析」の対象に、ハイブリダイゼーション前後のDNAチップ画像が含まれると認められる。
イ 認定事項2
図7に「ハイブリダイゼーション前後の代表DNAチップ画像と,各スポット光量のグラフ」が示され、前記(1)エにおいてハイブリダイゼーション前後のスポット光量が比較されていることから、当業者にとってみれば、前記(1)エにおける「ハイブリダイズ後の光量とN光量との比は20~146と,良好なS/N比で検出可能であることが確認された」との記載に接した際に、「N光量」がハイブリダイゼーション前の光量であることを観念できるといえる。
ウ 認定事項3
図7に示された「ハイブリダイゼーション前後の代表DNAチップ画像」から、DNAチップ画像は、DNAチップ上のスポットとスポットの周囲の領域が含まれる画像であることが見て取れる。
エ 認定事項4
図7に示された「各スポット光量のグラフ」の縦軸から、「ハイブリダイズ後の光量」と「N光量」(ハイブリダイズ前の光量)として、平均スポット光量(mW/m2)が取得されていることが見て取れる。
(3) 引用発明の認定
前記(2)において認定した事項及び前記(1)に摘記した引用文献2の記載事項を総合すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「Candida albicans(CA)、Escherichia coli(EC)、 Pseudomonas aeruginosa(PA)、Staphylococcus aureus (SA)、 Salmonella enterica(Sal)の5種類の菌を一括で検査できるDNAチップを用いた微生物の検出方法であって、((1)エ)
DNAチップは、5’末端に蛍光色素を修飾した蛍光プローブと、3’末端に消光物質を修飾した消光プローブの2本のプローブを、固相表面に2本一対となるように固定し、高い相同性を有する標的核酸分子がプローブにハイブリダイズすると、先端の蛍光分子と消光分子が互いに引き離され、抑制が解放され蛍光を発するようになり、この原理により、標的核酸分子のハイブリダイズを蛍光強度の変化によって検出可能なプローブであるシグナリングアレイプローブを用いたものであって、((1)ア)
菌種ごとに異なる検出対象遺伝子を独自に選択し、CAでは厚膜胞子形成関連遺伝子SSP2を、PAでは鉄代謝関連遺伝子furを、SAでは温度安定性DNA分解酵素遺伝子nucを、Salではfur遺伝子制御遺伝子iroBを、ECではDNAプライマーゼ遺伝子であるdnaGをそれぞれ選択し、((1)エ)
DNAチップに検出プローブを搭載した5菌種を静置で24時間増菌培養した溶液を疑似陽性サンプルとして用い、各サンプルから高温加圧核酸抽出法により抽出したゲノムDNAをテンプレートとして、非対称PCRを行った増幅サンプルに、終濃度5x(5倍濃度)となるようにSaline Sodium Citrate Buffer(SSC)を添加し、DNAチップにアプライし、DNAチップを60℃、5rpmの条件下で30分間ハイブリダイズした後、蛍光読取装置により撮像し、ハイブリダイゼーション前後のDNAチップ画像を含む画像の画像解析ソフトによる解析で各スポットの蛍光量を算出し、((1)エ、認定事項1)
DNAチップ画像は、DNAチップ上のスポットとスポットの周囲の領域が含まれる画像であり、(認定事項3)
プローブへの標的核酸のハイブリダイズは、蛍光量の変化量を測定することで確認することができ、初期状態において確認される蛍光のN光量との光量比が2以上となる光量変化を検出下限と定めたところ、((1)イ)
試験に供した5菌種すべての結果において,ハイブリダイズ前のスポットは暗く消光しているのに対し,ハイブリダイズ後には各スポットに蛍光が確認され、また、検出対象としたスポットにのみハイブリダイズ後に特異的な蛍光量増加が確認され、誤検出は確認されず、ハイブリダイズ後の光量とハイブリダイゼーション前の光量であるN光量との比は20~146と、良好なS/N比で検出可能であることが確認され、((1)エ、認定事項2)
ここで、ハイブリダイズ後の光量とN光量として、平均スポット光量(mW/m2)が取得される、(認定事項4)
方法。」
5 引用文献5~8の記載事項及び周知技術1等の認定
(1) 引用文献5に記載された事項及び周知技術1の認定
ア 引用文献5に記載された事項
当審拒絶理由通知において引用した、本願の出願前に発行された文献である特開2010-8107号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
(ア) 【0001】~【0004】
「【技術分野】
【0001】
本発明は生体分子の検査技術に係り、特に生体分子検査装置、この生体分子検査装置に用いられる生体分子検査チップ、この生体分子検査装置を用いた生体分子検査方法、この生体分子検査装置にコンピュータ処理を実行させる生体分子検査プログラムに関する。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、複数の条件下で、反応系の体積を減少させたELISAを一括して実施し、各条件下での検査結果を取得するのには、時間がかかり、且つデータのバラツキが大きく、信頼性及び再現性が低いという不都合があった。
【0004】
本発明は、上記した従来の技術の欠点を除くためになされたものであって、その目的とするところは、標的生体分子の周りに存在する反応生成物の濃度を高速に測定可能で、且つデータのバラツキが小さく、信頼性及び再現性の高い生体分子検査装置、この生体分子検査装置に用いられる生体分子検査チップ、この生体分子検査装置を用いた生体分子検査方法、この生体分子検査装置にコンピュータ処理を実行させる生体分子検査プログラムを提供することにある。」
(イ) 【0026】~【0029】
「【0026】
(a)…(中略)…、ステップS13で、例えば、図3に示す分割プレート3122の反応用流路63Aを例に挙げると、注入用カップ部43Aに、抗体521が表面に固定された複数の担体510a,510b,510c,・・・を含む溶液をマルチピペット等で分注し、排出口103Aから、吸引ポンプ500を用いて溶液を吸引することにより、図6及び図7に示すように表面に抗体521が固定された(図示省略)複数の担体510a,510b,510c,・・・を反応用流路63Aの堰き止め部83Aに堰き止める。…(中略)…
【0027】
(b)ステップS14で、抗体521によって補足される標的生体分子として抗原522を含むサンプル溶液を,図3に示すように、反応用流路63Aに接続されたウェル23Aの上部に設けられた注入用カップ部43Aにマルチピペット等で分注し、吸引ポンプ500を用いて反応用流路63Aの排出口103Aからサンプル溶液を吸引する。このとき、サンプル溶液に含まれる抗原522が、複数の担体510a,510b,510c,・・・のそれぞれの表面に固定された抗体521によって補足される。次に、ステップS15でリン酸緩衝液(PBS)等の洗浄液を注入用カップ部43Aにマルチピペット等で分注し、吸引ポンプ500で吸引することにより反応用流路63A内の余剰試薬を洗浄する。
【0028】
(c)ステップS16で、抗原522に特異的に結合し、ビオチン524で標識された抗体523を含む溶液を注入用カップ部43Aに供給し、吸引ポンプ500を用いて反応用流路63Aの排出口103Aから溶液を吸引する。このとき、溶液に含まれるビオチン524で標識された抗体523が、複数のビーズ510a,510b,510c,・・・のそれぞれの表面に固定された抗体521によって補足された抗原522に結合する。次に、ステップS17でPBS等の洗浄液を注入用カップ部43Aにマルチピペット等で分注し、吸引ポンプ500で吸引することにより反応用流路63A内の余剰試薬を洗浄する。
【0029】
(d)ステップS18で、酵素526で標識されたストレプトアビジン525を含む溶液を注入用カップ部43Aに供給し、吸引ポンプ500を用いて反応用流路63Aの排出口103Aから溶液を吸引する。このとき、溶液に含まれる酵素526で標識されたストレプトアビジン525のストレプトアビジン525が、複数の担体510a,510b,510c,・・・のそれぞれの表面に固定された抗体521によって補足された抗原522に結合しているビオチン524に結合する。次に、ステップS19でPBS等の洗浄液を注入用カップ部43Aにマルチピペット等で分注し、吸引ポンプ500で吸引することにより反応用流路63A内の余剰試薬を洗浄する。また、洗浄後、プレート312あるいは、分割プレート3121,3122,3123,3124,3125,3126の内の一つあるいは複数を吸引ボックス313に固定する際に、間に挟んだシリコンゴムシート317の交換及び注入用カップ部43Aの除去を行う。…(後略)」
(ウ) 【0030】~【0034】
「【0030】
(e)ステップS20で、光源311a及び311bから、使用しているプレート312あるいは、分割プレート3121,3122,3123,3124,3125,3126の内の一つあるいは複数に検査光を照射して背景画像を撮像し、撮像した画像をコントローラ2の画像記憶装置217に収納する。その後、酵素基質527a,527b,527c,・・・を含む溶液をウェル23Aに直接マルチピペット等で分注し、使用しているプレート312あるいは、分割プレート3121,3122,3123,3124,3125,3126の内の一つあるいは複数に、励起光を照射し、動画撮像による蛍光測定を開始し、撮像した画像をコントローラ2の画像記憶装置に収納する。…(中略)…。
【0031】
(f)ステップS21では、コントローラ2において、画像解析を行う。まずステップS241で、コントローラの演算制御回路(CPU)40における差分画像計算手段414は、画像記憶装置217から、測定した時間毎の蛍光検出画像と、背景画像とをそれぞれ読み出し、ステップS242で、各画素毎の蛍光検出画像と背景画像の差を計算して差分画像を取得し、輝度積算手段415と、画素数判定手段416に送信する。
【0032】
(g)ステップ243aで、輝度積算手段415は、各画素の差分画像を受信し、更に、閾値記憶装置218と検出座標記憶装置221から、閾値のデータと検出する座標のデータをそれぞれ読み出し、差分画像中の各検出領域の閾値レベル以上の値を有する画素を積算して輝度を求め、明度計算手段417に送信する。また、ステップS243bで、画素数判定手段416は、各画素の差分画像を受信し、更に、閾値記憶装置218と検出座標記憶装置221及び規定数記憶装置222から、閾値のデータと検出する領域座標のデータ及び検出画素数の下限値となる規定数のデータをそれぞれ読み出し、差分画像中の各検出領域の閾値レベル以上の検出画素数が規定数よりも多いかどうかを判定する。画素数判定手段416は、検出画素数が規定数よりも多ければ、検出画素数を明度計算手段417に送信し、検出画素数が規定数よりも少なければ、検出画素数をゼロと明度計算手段417に送信する。
【0033】
(h)ステップS244aで、明度計算手段417は輝度積算手段415から送信された積算輝度と画素数判定手段416から送信された検出画素数をそれぞれ受信し、積算輝度と検出画素数から、各検出領域(スポット)における画素当たりの明度を算出し、明度記憶装置219に収納する。また、ステップS244bで、明度計算手段417は、画素数判定手段416から検出画素数ゼロと受信すると、各スポット当たりの明度なしと算出する。
【0034】
(i)ステップS245で、撮像した動画の総ての蛍光検出画像について解析が終了したかどうかを判断し、解析する画像が残っていれば、ステップS242に戻る。総ての画像の解析が終了したら、ステップS246に進み、明度表示手段418は、明度計算手段417が算出した各スポット当たりの明度のデータを明度記憶装置219から読み出して、各スポット当たりの明度の時系列データを表示装置214にて表示する。次に、ステップS247で、明度時間変化計算手段419は、各スポット当たりの明度の時系列データを直線近似して、画素当たりの明度時間変化を求めて明度時間変化記憶装置220に収納する。濃度決定手段423は、較正データ記憶装置223から、既知の反応生成物の濃度と直線の傾きとの対照表を読み出し、更に、明度時間変化記憶装置220から、画素当たりの明度時間変化を読み出して、対照表と照らし合わせることにより、反応生成物の濃度を決定する。」
(エ) 【0059】
「【0059】
図22に、実施例における蛍光検出領域の画素当たりの明度の時系列データを、横軸を時間、縦軸を明度で示している。グラフは、分割プレート3122の内の各反応用流路63A,63B,63C,63D,63E,63F,63G,63Hの蛍光検出領域における画素当たりの明度の変化を示している.ここで、画素当たりの明度の求め方としては、図20に示した蛍光検出画像の図21の検出領域870に示されるような各蛍光検出領域から、図14に示した背景画像における図20の各蛍光検出領域と大きさ及び位置の同じ領域をそれぞれ差し引いて、蛍光検出領域における差分画像を求める。次に、閾値を7以上、規定数を検出領域870内の全画素数の20%以上と定めて、得られた差分画像中の閾値レベル以上の値を有する画素を積算して輝度を求め、同時に、閾値レベル以上の値を有する画素数が検出領域870内の全画素数の20%以上の場合に、積算輝度を検出画素数で割ることにより画素当たりの明度を求めている。また、閾値レベル以上の値を有する画素数が20%よりも少ない場合は、画素当たりの明度はゼロと判断している。…(後略)」
イ 周知技術1の認定
前記(ア)に摘記した引用文献5の記載事項に例示されるように、次の技術事項は、当業者にとって周知の技術であったと認められる。(以下「周知技術1」という。)
<周知技術1>
「生体分子検査チップを用いた生体分子検査方法において、
生体分子の特異的結合に起因した蛍光が生じるようになる前と後のそれぞれの時点で、生体分子検査チップの計測領域の画像を取得し、取得した二つの画像から光量の変化量を算出することで、特定の生体分子の存否又は濃度を検出する際に、
算出する変化量を「差」として、
変化量が大きな画素に基づいて検出を行うために、二つの画像の画素毎の輝度の差が予め定められた閾値レベルを超える画素を抽出し、
抽出した画素に基いて画素あたりの輝度の差を算出すること。」
(2) 引用文献6~8に記載された事項及び技術常識1、2の認定
ア 引用文献6に記載された事項
当審拒絶理由通知において引用した、本願の出願前に発行された文献である米国特許出願公開第2003/0072476号明細書(以下「引用文献6」という。)には、次の記載がある。なお、括弧内に当合議体が作成した日本語訳を示した。
(ア) [0002]~[0022]
「[0002] (a) Field of the Invention
[0003] The present invention relates to an image analysis system and method of a biochip. More specifically, the present invention relates to an image analysis system and method for detecting an edge of a cDNA (complementary deoxyribonucleic acid) chip.
【BACKGROUND OF THE INVENTION】
[0002] (a) Field of the Invention
[0003] The present invention relates to an image analysis system and method of a biochip. More specifically, the present invention relates to an image analysis system and method for detecting an edge of a cDNA (complementary deoxyribonucleic acid) chip.
[0004] (b) Description of the Related Art
…(中略)…
[0019] When analyzing gene information, since the cDNA micro-array chip has cDNA of different genes formed as spots of about 100 λm diameter and printed on a glass slide or nylon fabric, the respective spots are separated into segments so as to measure expression degrees of the respective genes.
[0020] In this instance, a reference circle of a predetermined size is injected on the center of the segment so as to extract an effective spot, and if the size of the reference circle is greater than that of the spot, the background as well as the spot are positioned in the reference circle, and accordingly, errors occur in data mean values.
[0021] In another case, when the center of the spot is not located on the center of the segment but it digresses to a side, since the positions of the reference circle and the spot are not matched, a portion of the spot located in the reference circle is used as effective information, and the remaining spot area outside the reference circle is processed as a background to thereby increase data error rates.
[0022] In order to correct the errors generated from the above-described method, the intensity in the segment is represented in a histogram format, predetermined amounts of data values provided on the top and bottom portions of the histogram are discarded, and remaining data values are taken as effective information. In this case, effective data values may be problematically discarded even when correct data are extracted.」
([0002] (a) 発明の技術分野
[0003] 本発明は、バイオチップの画像解析システム及び方法に関するものである。より具体的には、本発明は、cDNA(相補的デオキシリボ核酸)チップのエッジを検出するための画像解析システム及び方法に関するものである。)
【発明の背景】
[0004] (b) 関連する技術の説明
…(中略)…
[0019] 遺伝子情報を分析する際、cDNAマイクロアレイチップは、直径約100μmのスポットとして形成された異なる遺伝子のcDNAがガラススライド又はナイロンファブリック上に印刷されているので、各スポットは各遺伝子の発現度を測定するためにセグメントに分割される。
[0020] この場合、所定の大きさの基準円が有効スポットを抽出するためにセグメントの中心に注入され、そして、基準円の大きさがスポットの大きさよりも大きい場合、スポットだけでなく背景も基準円内に位置するので、データ平均値に誤差が発生する。
[0021] 別の場合、スポットの中心がセグメントの中心に位置せず側方にずれるとき、基準円とスポットの位置が一致しないので、基準円内に位置するスポットの一部分が有効情報として使用され、そして、基準円外の残りのスポット部分が背景として処理されることによりデータ誤差率が増加する。
[0022] 上述した方法から生成される誤差を補正するために、セグメント内の強度がヒストグラム形式で表され、ヒストグラムの上部及び下部に提供された所定量のデータ値が破棄され、残りのデータ値が有効情報として採用される。この場合、正確なデータが抽出される場合であっても、有効データ値が問題として破棄され得る。)
(イ) [0048]~[0050]
「[0048] A cDNA micro-array image represents a scanned image on which respective cDNAs of different genes are printed in a spot form of about 100 λm diameter, and the image includes approximately 10,000 spots, the number of which may be varied according to chip categories.
[0049] Therefore, the edge detector 40 performs a segmentation process for separating the respective spots so as to measure expression degrees of the respective genes, and measures the luminance of the spots and the background on the cDNA micro-array image to thereby detect edges.
[0050] In this instance, a segment coordinate of the spot is stored in an array format, index information may be input if needed, and the remaining region excluding the spot in a single segment is defined as a background.」
([0048] cDNAマイクロアレイ画像は、異なる遺伝子の各cDNAが直径約100μmのスポット状に印刷されたスキャン画像を表しており、画像には約10,000個のスポットが含まれているが、この数はチップの種類によって異なる場合がある。
[0049] したがって、エッジ検出器40は、各遺伝子の発現度を測定するために各スポットを分離するセグメンテーション処理を行い、cDNAマイクロアレイ画像上のスポット及び背景の輝度を測定することでエッジを検出する。
[0050] この場合、スポットのセグメント座標は配列形式で保存され、必要に応じてインデックス情報を入力することができ、単一セグメント内のスポットを除いた残りの領域は背景として定義される。)
(ウ) [0081]~[0085]
「[0081] FIG. 6 shows a flowchart for a data process stage of the biochip's image analysis method according to a preferred embodiment of the present invention.
[0082] As shown, the data processor 50 uses 16-bit original images Cy3 and Cy5, spot and background templates, and the spot's segment coordinate information to extract a first image segment, and to extract a spot and a background of Cy3 and Cy5 from the first image segment in step S41.
[0083] The data processor 50 calculates a mean value M and a standard deviation SD from the backgrounds of the extracted Cy3 and Cy5, and solves the equation
T=M+α×SD
[0084] using the mean value and the standard deviation in step S43, where ‘α’ represents a value selected by a user so that the user may assign the threshold for the pixels in the spot data options.
[0085] The data processor 50 extracts pixels having a value greater than the value T from the spots of Cy3 and Cy5 in step S44, and stores the extracted mean value, the standard deviation, and the pixels as statistical data in the data storage unit 60 in step S45.」
([0081] 図6は、本発明の好適な実施形態によるバイオチップの画像解析方法のデータ処理段階のフローチャートを示している。
[0082] 図に示すように、データプロセッサ50は、16ビットの元画像Cy3及びCy5、スポット及び背景のテンプレート、ならびにスポットのセグメント座標情報を用いて、第一画像セグメントを抽出し、ステップS41で第一画像セグメントからCy3及びCy5のスポット及び背景を抽出する。
[0083] データプロセッサ50は、抽出されたCy3及びCy5の背景から平均値M及び標準偏差SDを算出し、
T = M + α × SD
[0084] という式をステップS43で平均値及び標準偏差を用いて解く。ここで「α」はユーザーが選択する値であり、ユーザーがスポットデータオプションの画素のしきい値を指定できるようになっている。
[0085] データプロセッサ50は、ステップS44でCy3及びCy5のスポットから値Tより大きい画素を抽出し、ステップS45で抽出した平均値、標準偏差、及び画素を統計データとしてデータ記憶部60に保存する。)
イ 引用文献7に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である国際公開第2013/133283号(以下「引用文献7」という。)には、次の記載がある。
「【背景技術】
[0002] 近年、マイクロアレイ実験やマクロアレイ実験等の技術発展により、膨大な量の遺伝子やタンパク質等を網羅的に解析することが可能となった。例えば、DNAマイクロアレイでは、スライドガラス等の担体上に、数百から数万のDNAを、マトリックス状に整列させてスポットとして固定化しておき、検査対象の細胞から抽出・標識したmRNAあるいはcDNAをハイブリダイズさせることによって遺伝子発現レベルを測定することができる。
[0003] すなわち、標識されたcDNA等の被検査物質が、担体上の相補的DNAに選択的に結合するので、標識の検出強度を取得することによって、遺伝子発現レベルを推定することができる。ここで、遺伝子発現レベル等の被検査物質の選択的結合量には、データとしての信頼性が求められるものの、スポットとして担体上に固定化した相補的DNA等の選択結合性物質が不均一でムラがある場合や、スポット箇所にごみが付着している場合などのように非生物学的な要因によって、検出強度が変動する虞があった。」
「[0016] 図2および図3の左図に示すように、スポット箇所の強度画像においては、検出強度は均一な円となっておらず、不均一なムラとなっている。変動グラフ(右図)は、横1ピクセル縦十数ピクセルにわたってスポット箇所を縦断するラインにおける検出強度の変動を表しており、理想的には一定の強度であるべきところ大きく変動している。不良の原因は、主に、スポットの不良(選択結合性物質の固定時の不良など)やごみの付着である。」
「[図2]
[図:0001435533000010.jpg]
」
「[図3]
[図:0001435533000011.jpg]
」
ウ 引用文献8に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である特表2019-515254号公報(以下「引用文献8」という。)には、次の記載がある。
「【0152】
アッセイ手順
本明細書に記述される抗原アレイを使用して検出抗原または一組の検出抗原に特異的な免疫グロブリンを検出するin vitro方法が、本明細書にさらに記述される。特に、本方法は、
(i)本明細書に記載の抗原アレイを準備する工程と、
(ii)アレイをサンプルとインキュベートする工程と、
(iii)アレイを検出試薬とインキュベートする工程と、
(iv)任意選択でアレイをシグナル生成試薬とインキュベートする工程と、
(v)検出可能なシグナルを測定する工程と
を含む。
【0153】
陰性対照シグナルと比較して増大した検出可能なシグナルは、サンプル中に免疫グロブリンがあることを示し、シグナル増加がないことは、サンプル中に免疫グロブリンがないことを示す。
【0154】
一部の実施形態において、検出可能なシグナルは、比色、蛍光、電気または化学発光シグナルである。
本明細書に記載の生物学的アッセイは、単一の解析手順で複数の抗原に対する特異的免疫グロブリンを検出する目的を有し、その方法は、ELISA原理に基づき、通常以下の基本的な工程:
1)前洗浄
2)ブロッキング
3)サンプルとのインキュベーション
4)洗浄
5)検出試薬とのインキュベーション
6)洗浄
7)任意選択で:シグナル生成を伴うインキュベーション
8)任意選択で:シグナル生成を停止する
9)結果の検出および測定
からなる。
…(中略)…
【0176】
固定化された抗原飽和粒子の一般に丸い各領域に対して、シグナル統合は、合計シグナルに予想されるシグナル内にある各ピクセルを加えることによって算出することができ、外側にある各ピクセルは、バックグラウンドに加えることができる。加えて、平均、中央値および標準偏差を、シグナルおよびバックグラウンドについて算出することができる。全ての算出は、当業者に公知の、例えばNIHのImageJのような画像分析ソフトウェアツールによって取り扱うことになる。」
エ 技術常識1の認定
前記ア(ア)及びイに摘記した引用文献6及び7の記載事項に例示されるように、次の事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる。(以下「技術常識1」という。)
<技術常識1>
「蛍光標識の検出により生体分子の検出を行うためのバイオチップの検出画像において、バイオチップのスポット領域を抽出するためのセグメントのサイズや位置の不整合、バイオチップのスポットにおける選択結合性物質の配置ムラ等に起因して、スポット領域として特定した領域に、生体分子の結合前の画像と比べて輝度の変化がなく又は小さいため、蛍光標識の検出に適さない画素の領域が生じること。」
オ 技術常識2の認定
前記ア(ウ)及びウに摘記した引用文献6及び8の記載事項に例示されるように、次の事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる。(以下「技術常識2」という。)
<技術常識2>
「蛍光標識の検出により生体分子の検出を行うためのバイオチップの検出画像について、画像中のスポットに対応する画素領域及びバックグラウンドに対応する画素領域のそれぞれについて、輝度値の平均値、標準偏差等の統計値を取得することが、様々な解析を行う上で有用であること。」
6 本願発明と引用発明の対比
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア 構成X’(X)の観点
(ア) 構成X’は、「サンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットを計測する核酸配列計測方法」の発明であることである。
(イ) 引用発明における「5菌種を静置で24時間増菌培養した溶液を疑似陽性サンプルとして用い、各サンプルから高温加圧核酸抽出法により抽出したゲノムDNAをテンプレートとして、非対称PCRを行った増幅サンプルに、終濃度5x(5倍濃度)となるようにSaline Sodium Citrate Buffer(SSC)を添加し」た液体は、本願発明における「サンプル」に相当する。
(ウ) 引用発明における「各サンプルから高温加圧核酸抽出法により抽出したゲノムDNAをテンプレートとして、非対称PCRを行っ[て]」「増幅」した核酸分子は、前記(イ)も踏まえると、本願発明における「サンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲット」に相当する。
(エ) 引用発明の「DNAチップを用いた微生物の検出方法」は、「厚膜胞子形成関連遺伝子SSP2」等を含む「各サンプルから高温加圧核酸抽出法により抽出したゲノムDNAをテンプレートとして、非対称PCRを行っ[て]」「増幅」した核酸分子の「検出」を行う方法であることが明らかであるから、前記(ウ)も踏まえると、本願発明の「ターゲットを計測する核酸配列計測方法」に相当する。
(オ) したがって、本願発明と引用発明は、構成X’の観点に関し、次の点において一致する。
<構成X’の観点における一致点>
「サンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットを計測する核酸配列計測方法」の発明である点。
イ 構成Aの観点
(ア) 構成Aは、「前記ターゲットの添加によって蛍光を発する核酸配列計測用デバイスに対する前記サンプルの添加前又は添加直後の第1時点で、少なくとも前記核酸配列計測用デバイスの予め規定された計測領域が含まれる画像取得領域の画像である第1画像を取得するステップ」を有することである。
(イ) 引用発明における「5’末端に蛍光色素を修飾した蛍光プローブと、3’末端に消光物質を修飾した消光プローブの2本のプローブを、固相表面に2本一対となるように固定し、高い相同性を有する標的核酸分子がプローブにハイブリダイズすると、先端の蛍光分子と消光分子が互いに引き離され、抑制が解放され蛍光を発する」ことを「原理」とする「シグナリングアレイプローブを用いた」「DNAチップ」は、「標的核酸分子」が前記ア(ウ)の核酸分子であることが明らかであるから、本願発明における「前記ターゲットの添加によって蛍光を発する核酸配列計測用デバイス」に相当する。
(ウ) 引用発明における「5菌種を静置で24時間増菌培養した溶液を疑似陽性サンプルとして用い、各サンプルから高温加圧核酸抽出法により抽出したゲノムDNAをテンプレートとして、非対称PCRを行った増幅サンプルに、終濃度5x(5倍濃度)となるようにSaline Sodium Citrate Buffer(SSC)を添加し、DNAチップにアプライ」することは、前記(イ)も踏まえると、本願発明における「前記ターゲットの添加によって蛍光を発する核酸配列計測用デバイスに対する前記サンプルの添加」を行うことに相当する。
(エ) 引用発明における「ハイブリダイズ前」の時点は、前記ア(イ)の液体を「DNAチップにアプライ」する前かすぐ後のいずれかであることは明らかであるから、本願発明における「前記サンプルの添加前又は添加直後の第1時点」に相当する。
また、引用発明における「DNAチップ上のスポット」「の領域」は、本願発明における「少なくとも前記核酸配列計測用デバイスの予め規定された計測領域」に相当する。
そのため、引用発明における「DNAチップ上のスポット」「の領域が含まれる画像」は、本願発明における「少なくとも前記核酸配列計測用デバイスの予め規定された計測領域が含まれる画像取得領域の画像」に相当する。
以上を踏まえると、引用発明における「ハイブリダイゼーション前」の「DNAチップ上のスポット」「の領域が含まれる画像であ[る]」「DNAチップ画像」を「撮像」する工程は、本願発明における「第1時点で、少なくとも前記核酸配列計測用デバイスの予め規定された計測領域が含まれる画像取得領域の画像である第1画像を取得するステップ」に相当する。
(オ) したがって、本願発明と引用発明は、構成Aの観点に関し、次の点において一致する。
<構成Aの観点における一致点>
「前記ターゲットの添加によって蛍光を発する核酸配列計測用デバイスに対する前記サンプルの添加前又は添加直後の第1時点で、少なくとも前記核酸配列計測用デバイスの予め規定された計測領域が含まれる画像取得領域の画像である第1画像を取得するステップ」を有する点。
ウ 構成Bの観点
(ア) 構成Bは、「前記核酸配列計測用デバイスに対する前記サンプルの添加から予め規定された時間が経過した後の第2時点で、前記予め規定された計測領域と同じ計測領域が含まれる画像取得領域の画像である第2画像を取得するステップ」を有することである。
(イ) 引用発明における「ハイブリダイズ後」の時点は、前記ア(イ)の液体を「DNAチップにアプライ」してから「ハイブリダイズ」のための時間が経過した後の時点であることは明らかであって、ハイブリダイズのための時間は通常予め定められるから、本願発明における「前記核酸配列計測用デバイスに対する前記サンプルの添加から予め規定された時間が経過した後の第2時点」に相当する。
(ウ) 引用発明において、「ハイブリダイゼーション前後」で同じ「DNAチップ」を「撮像」していることは明らかであるから、前記イにおける対比分析も踏まえると、「ハイブリダイゼーション」「後」の「DNAチップ上のスポット」「の領域が含まれる画像であ[る]」「DNAチップ画像」を「撮像」する工程は、本願発明において、「第2時点で、前記予め規定された計測領域と同じ計測領域が含まれる画像取得領域の画像である第2画像を取得するステップ」に相当する。
(エ) したがって、本願発明と引用発明は、構成Bの観点に関し、次の点において一致する。
<構成Bの観点における一致点>
「前記核酸配列計測用デバイスに対する前記サンプルの添加から予め規定された時間が経過した後の第2時点で、前記予め規定された計測領域と同じ計測領域が含まれる画像取得領域の画像である第2画像を取得するステップ」を有する点。
エ 構成Cの観点
(ア) 構成Cは、「前記第1画像と前記第2画像との画素毎の階調値の差が予め規定された第1閾値を超える画素を抽出するステップ」を有することである。
(イ) 引用発明は、本願発明の構成Cに相当する構成を備えていないから、本願発明と引用発明は、次の点において相違する。
<構成Cの観点における相違点>
本願発明においては、「前記第1画像と前記第2画像との画素毎の階調値の差が予め規定された第1閾値を超える画素を抽出するステップ」を有するのに対して、
引用発明においては、そのようなステップを有することの特定がない点。
オ 構成Dの観点
(ア) 構成Dは、「前記第1画像に含まれる前記計測領域の画像をなす画素のうち、抽出した画素の平均階調値を、前記第1時点で前記予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第1光量として求めるステップ」を有することである。
(イ) 引用発明における「ハイブリダイゼーション前の光量」としての「平均スポット光量(mW/m2)」は、「ハイブリダイゼーション前」の「DNAチップ画像」における「スポット」「の領域」をもとにしたものといえるから、前記イ(エ)の対比分析も踏まえると、本願発明における「前記第1画像に含まれる前記計測領域の画像をなす画素のうち、抽出した画素の平均階調値」と、「前記第1画像に含まれる前記計測領域の画像をもとにした光量に関する平均値」である点で共通する。
また、引用発明における「ハイブリダイゼーション前の光量」としての「平均スポット光量(mW/m2)」は、「スポットの蛍光量を算出し[た]」ものであるから、本願発明における「前記予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第1光量」に相当する。
そのため、引用発明における「ハイブリダイゼーション前の光量であるN光量」「として、平均スポット光量(mW/m2)が取得される」工程は、本願発明における「前記第1画像に含まれる前記計測領域の画像をなす画素のうち、抽出した画素の平均階調値を、前記第1時点で前記予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第1光量として求めるステップ」と、「前記第1画像に含まれる前記計測領域の画像をもとにした光量に関する平均値を、前記第1時点で前記予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第1光量として求めるステップ」である点で共通する。
(ウ) 以上の検討結果を踏まえると、本願発明と引用発明の構成Dの観点における一致点及び相違点は、次のa及びbのとおりである。
a 構成Dの観点における一致点
「前記第1画像に含まれる前記計測領域の画像をもとにした光量に関する平均値を、前記第1時点で前記予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第1光量として求めるステップ」を有する点。
b 構成Dの観点における相違点
「前記第1画像に含まれる前記計測領域の画像をもとにした光量に関する平均値」が、
本願発明においては、「前記計測領域の画像をなす画素のうち、抽出した画素の平均階調値」であるのに対して、
引用発明においては、「DNAチップ画像」における「スポット」「の領域」をもとにした「平均スポット光量(mW/m2)」である点。
カ 構成Eの観点
(ア) 構成Eは、「前記第2画像に含まれる前記計測領域の画像をなす画素のうち、抽出した画素の平均階調値を、前記第2時点で前記予め規定された計測領域と同じ計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第2光量として求めるステップ」を有することである。
(イ) 引用発明における「ハイブリダイズ後の光量」としての「平均スポット光量(mW/m2)」は、「ハイブリダイゼーション」「後のDNAチップ画像」における「スポット」「の領域」をもとにしたものといえるから、前記イ(エ)の対比分析も踏まえると、本願発明における「前記第2画像に含まれる前記計測領域の画像をなす画素のうち、抽出した画素の平均階調値」と、「前記第2画像に含まれる前記計測領域の画像をもとにした光量に関する平均値」である点で共通する。
また、引用発明における「ハイブリダイズ後の光量」としての「平均スポット光量(mW/m2)」は、「スポットの蛍光量を算出し[た]」ものであるから、本願発明における「前記予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第2光量」に相当する。
そのため、引用発明における「ハイブリダイズ後の光量」「として、平均スポット光量(mW/m2)が取得される」工程は、本願発明における「前記第2画像に含まれる前記計測領域の画像をなす画素のうち、抽出した画素の平均階調値を、前記第2時点で前記予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第2光量として求めるステップ」と、「前記第2画像に含まれる前記計測領域の画像をもとにした光量に関する平均値を、前記第2時点で前記予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第2光量として求めるステップ」である点で共通する。
(ウ) 以上の検討結果を踏まえると、本願発明と引用発明の構成Eの観点における一致点及び相違点は、次のa及びbのとおりである。
a 構成Eの観点における一致点
「前記第2画像に含まれる前記計測領域の画像をもとにした光量に関する平均値を、前記第2時点で前記予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第2光量として求めるステップ」を有する点。
b 構成Eの観点における相違点
「前記第2画像に含まれる前記計測領域の画像をもとにした光量に関する平均値」が、
本願発明においては、「前記計測領域の画像をなす画素のうち、抽出した画素の平均階調値」であるのに対して、
引用発明においては、「DNAチップ画像」における「スポット」「の領域」をもとにした「平均スポット光量(mW/m2)」である点。
キ 構成Fの観点
(ア) 構成Fは、「前記第1光量と前記第2光量との差に基づいて前記ターゲットを計測するステップ」を有することである。
(イ) 引用発明における「ハイブリダイズ後の光量とハイブリダイゼーション前の光量であるN光量との比」は、本願発明における「前記第1光量と前記第2光量との差」と、「前記第1光量の第2光量に対する変化量」である点で共通する。
(ウ) そのため、引用発明において、「N光量との光量比が2以上となる光量変化を検出[する]」ことで「プローブへの標的核酸のハイブリダイズ」を「確認する」工程は、前記オ及びカの対比分析も踏まえると、本願発明において「前記第1光量と前記第2光量との差に基づいて前記ターゲットを計測するステップ」と、「前記第1光量の前記第2光量に対する変化量に基づいて前記ターゲットを計測するステップ」である点で共通する。
(エ) 以上の検討結果を踏まえると、本願発明と引用発明の構成Fの観点における一致点及び相違点は、次のa及びbのとおりである。
a 構成Fの観点における一致点
「前記第1光量の前記第2光量に対する変化量に基づいて前記ターゲットを計測するステップ」を有する点。
b 構成Fの観点における相違点
「前記第1光量の前記第2光量に対する変化量」が、
本願発明においては、「差」であるのに対して、
引用発明においては、「比」である点。
(2) 一致点及び相違点
前記(1)の対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次のアに示す一致点において一致し、後記イに示す相違点において相違すると認められる。
ア 一致点
「サンプルに含まれる特定の核酸配列を有するターゲットを計測する核酸配列計測方法であって、
前記ターゲットの添加によって蛍光を発する核酸配列計測用デバイスに対する前記サンプルの添加前又は添加直後の第1時点で、少なくとも前記核酸配列計測用デバイスの予め規定された計測領域が含まれる画像取得領域の画像である第1画像を取得するステップと、
前記核酸配列計測用デバイスに対する前記サンプルの添加から予め規定された時間が経過した後の第2時点で、前記予め規定された計測領域と同じ計測領域が含まれる画像取得領域の画像である第2画像を取得するステップと、
前記第1画像に含まれる前記計測領域の画像をもとにした光量に関する平均値を、前記第1時点で前記予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第1光量として求めるステップと、
前記第2画像に含まれる前記計測領域の画像をもとにした光量に関する平均値を、前記第2時点で前記予め規定された計測領域から発せられる蛍光の光量を示す第2光量として求めるステップと、
前記第1光量の前記第2光量に対する変化量に基づいて前記ターゲットを計測するステップと、
を有する核酸配列計測方法。」の発明である点。
イ 相違点
本願発明においては、
i 「前記第1画像と前記第2画像との画素毎の階調値の差が予め規定された第1閾値を超える画素を抽出するステップ」を有し、
ii 「前記第1画像」及び「前記第2画像に含まれる前記計測領域の画像をもとにした光量に関する平均値」が、「前記計測領域の画像をなす画素のうち、抽出した画素の平均階調値」であって、
iii 「前記第1光量の前記第2光量に対する変化量」が、「差」であるのに対して、
引用発明においては、
i’ そのようなステップを有することの特定がなく、
ii’「前記第1画像」及び「前記第2画像に含まれる前記計測領域の画像をもとにした光量に関する平均値」が、「DNAチップ画像」における「スポット」「の領域」をもとにした「平均スポット光量(mW/m2)」であって、
iii’「前記第1光量の前記第2光量に対する変化量」が、「比」である点。
7 判断
(1) 相違点について
ア 周知技術1について
前記5(1)イにおいて周知技術1として認定したとおり、
「生体分子検査チップを用いた生体分子検査方法において、
生体分子の特異的結合に起因した蛍光が生じるようになる前と後のそれぞれの時点で、生体分子検査チップの計測領域の画像を取得し、取得した二つの画像から光量の変化量を算出することで、特定の生体分子の存否又は濃度を検出する際に、
算出する変化量を「差」として、
変化量が大きな画素に基づいて検出を行うために、二つの画像の画素毎の輝度の差が予め定められた閾値レベルを超える画素を抽出し、
抽出した画素に基いて画素あたりの輝度の差を算出すること。」
は周知技術であったと認められる。
イ 相違点におけるiiiの構成(変化量を差とすること)について
引用発明において、「測定する」「蛍光量の変化量」、すなわち、「N光量」に対する「ハイブリダイズ後の光量」の「変化量」として、「比」に代えてどのような変化量を採用するかは当業者が適宜決定し得たことである。 そして、一般にAのBに対する比A/Bについては、
A/B=(A-B)/B+1
という恒等式が成立するところ、右辺の第1項の分子に差(A-B)が登場することに着目すれば、変化量を「比」として捉えることと、「差」として捉えることとは、実質的に等価なことである。
したがって、引用発明において、周知技術1を踏まえて、前記「変化量」を前記二つの「光量」の「差」とすることで、前記相違点における前記iiiの構成を備えるようにすることは、当業者にとって単なる設計上の選択肢の中から一つを選んだことにすぎない。
ウ 相違点におけるi及びiiの構成について
(ア) 技術常識1について
前記5(2)エにおいて技術常識1として認定したとおり、「蛍光標識の検出により生体分子の検出を行うためのバイオチップの検出画像において、バイオチップのスポット領域を抽出するためのセグメントのサイズや位置の不整合、バイオチップのスポットにおける選択結合性物質の配置ムラ等に起因して、スポット領域として特定した領域に、生体分子の結合前の画像と比べて輝度の変化がなく又は小さいため、蛍光標識の検出に適さない画素の領域が生じること。」は技術常識である。
(イ) 動機について
技術常識1を踏まえると、引用発明において「撮像」した「DNAチップ画像」における「スポット」「の領域」においても同様の課題が生じ得たことは明らかであるから(なお、鮮明でないものの、引用文献2の図7に示された画像から、「スポット」「の領域」において輝度の変化が相対的に低い画素領域が生じていることが見て取れる。)、当業者にとって、引用発明において「DNAチップ画像」から「ハイブリダイズ後の光量とN光量」を「取得」して「解析」するに当たって、「ハイブリダイゼーション前後のDNAチップ画像」の「スポット」「の領域」における輝度の変化量の小さい画素領域を除外して「解析」しようとする動機は生じ得たといえる。
(ウ) 相違点におけるiの構成について
引用発明において、前記相違点における前記iiiの構成を備えるようにする場合において(前記イ参照)、前記(イ)において検討した動機を契機として、階調値と輝度が互いに変換可能なパラメータであることも考慮して周知技術1を適用して、「ハイブリダイゼーション前後のDNAチップ画像」の「スポット」「の領域」において画素毎の階調値の差が予め定められた閾値レベルを超える画素を抽出することで、前記相違点における前記iの構成を備えるようにすることは、当業者にとって自明な設計事項にすぎない。
(エ) 相違点におけるiiの構成について
引用発明において、階調値と輝度が互いに変換可能なパラメータであることも考慮して周知技術1を適用することで、前記相違点における前記iの構成を備えるようにする際に(前記(ウ)参照)、「平均スポット光量(mW/m2)」を示す値を「平均階調値」とすることは当業者であれば適宜なし得た事項であるところ、「ハイブリダイゼーション前後のDNAチップ画像」における「スポット」「の領域」について、予め規定された第1閾値を超える画素を抽出して、平均階調値の差を取得するにあたって、
a 「ハイブリダイゼーション前後のDNAチップ画像」である二つの画像のそれぞれについて、画素あたりの平均階調値を取得して、当該平均階調値の差を取得するか、
b 上記二つの画像について、対応する画素ごとに階調値の差を取得して、当該階調値の差の画素あたりの平均値を取得するか、
が想定できるところ、両者は、差をとる前に平均するか、差をとった後に平均するかという計算処理の順序の点で相違するにすぎないから、上記aの手法を採用することに格別な困難性は認められない。
また、前記5(2)オにおいて技術常識2として認定したとおり、「蛍光標識の検出により生体分子の検出を行うためのバイオチップの検出画像について、画像中のスポットに対応する画素領域及びバックグラウンドに対応する画素領域のそれぞれについて、輝度値の平均値、標準偏差等の統計値を取得することが、様々な解析を行う上で有用であること。」は技術常識であるところ、そのような技術常識を踏まえて、各画像についての統計値を取得可能な前記aの手法を採用することも、格別なことではない。
したがって、引用発明において前記相違点における前記iiの構成を採用することは、周知技術1の具体的適用に際して適宜選択できる設計事項というべきものであり、格別のものでない。
(2) 総合評価
前記(1)において検討したとおり、引用発明において、前記相違点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、引用発明、技術常識1及び周知技術1、又は、引用発明、技術常識1、技術常識2及び周知技術1に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明、技術常識1及び周知技術1、又は、引用発明、技術常識1、技術常識2及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
8 請求人の主張について
(1) 請求人の主張内容
請求人は意見書において、本願発明では、ハイブリダイゼーション前後の光量変化量がある程度大きな画素(階調値の差がある程度大きな画素)を抽出するために、「差分画像」に相当するものを用いているが、画素を抽出した後は、第1画像に含まれる画素のうちの抽出した画素の平均階調値を第1光量(第1時点で計測領域から発せられる蛍光の光量)として求め、第2画像に含まれる画素のうちの抽出した画素の平均階調値を第2光量(第2時点で計測領域から発せられる蛍光の光量)として求め、求めた第1光量と第2光量との差に基づいてターゲットを計測するようにしており、周知技術1とは全く異なる処理を行っている旨を主張している。
(2) 請求人の主張についての検討
請求人の上記主張は、本願発明と周知技術1にかかる構成との対比についてのものであって、引用発明に周知技術1を適用した構成との対比についてのものではないから、そのような主張が前記7(2)の結論を左右するとは認められない。
また、請求人の主張が引用発明に周知技術1を適用した構成との対比についての主張であると善解したとしても、そのような主張は前記相違点に係る構成についてのものであるところ、前記7(1)において説示したとおり、引用発明において技術常識1(及び必要に応じて技術常識2)を踏まえて周知技術1を適用することで、前記相違点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは当業者が容易に想到し得たことであるから、そのような主張が前記7(2)の結論を左右するとは認められない。
9 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-001045