特許拒絶査定不服審判
2024-000022
筋萎縮性側索硬化症を処置するためのrAAVベースの組成物および方法
- 審判番号
- 2024-000022
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-093003
- 請求日
- 2024年01月04日
- 審決日
- 2025年10月14日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ユニバーシティ オブ マサチューセッツ
- 【請求人代理人】弁理士法人葛和国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 冨永 みどり
- 審判官 小堀 麻子
- 審判官 田村 直寛
- 分類
- P18 .536-Z (A61K) / P18 .537-Z (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 93003「筋萎縮性側索硬化症を処置するためのrAAVベースの組成物および方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月30日出願公開、特開2021-152030〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)3月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年3月18日 米国(US))を国際出願日とする特願2017-501101号の一部を令和元年9月2日に新たな特許出願とした特願2019-159514号の一部を、さらに令和3年6月2日に新たな特許出願としたものであって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 7月 2日 :翻訳文提出
令和3年 7月 2日 :手続補正書の提出
令和4年 6月 3日付け :拒絶理由通知
令和4年 9月 8日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年10月31日付け :拒絶理由通知(最後)
令和5年 5月 8日 :意見書の提出
令和5年 8月25日付け :拒絶査定
令和6年 1月 4日 :審判請求書の提出
令和6年 1月19日 :手続補正書(方式)の提出
令和7年 7月25日 :上申書の提出
第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和4年9月8日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~22に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項16に係る発明(以下「本願発明16」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項16】
FTDまたはALSを有するか、または有することが疑われる対象を処置するための医薬組成物であって、医薬組成物が、対象の細胞においてC9orf72のmRNAを標的とする阻害性核酸を発現するように操作された核酸を保有する組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の有効量を含み、
ここで阻害性核酸が、配列番号6および7に示された配列によってコードされる20個または21個の連続したヌクレオチドを含むマイクロRNAであり、
ここでマイクロRNAがさらに、miR-155の隣接領域を含む、前記医薬組成物。」
第3 原査定の拒絶の理由
令和5年8月25日付けの拒絶査定における拒絶の理由(理由1及び理由2)は、概略、次のとおりである。
理由1(実施可能要件)
本願の発明の詳細な説明の段落[0073]には、配列番号6、7にそれぞれ示されるヌクレオチド配列を有するmiR-C9-21、miR-C9-48について、miRNAによる遺伝子発現抑制効果を試験した結果は記載されていない一方、miRNAの配列が異なれば、その遺伝子発現抑制効果は大きく変化し得るものであって、当該核酸の機能等を確実に予測することは困難であることが本願出願時の技術常識であるから、本願の特許請求の範囲の請求項1~22で特定される配列番号6および7に示された配列によってコードされる20個または21個の連続したヌクレオチドを含むマイクロRNAがC9orf72の発現を阻害する効果を有するとは直ちには認められない。
したがって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2(サポート要件)
本願の発明の詳細な説明の段落[0073]には、配列番号6、7にそれぞれ示されるヌクレオチド配列を有するmiR-C9-21、miR-C9-48について、miRNAによる遺伝子発現抑制効果を試験した結果は記載されていない一方、miRNAの配列が異なれば、その遺伝子発現抑制効果は大きく変化し得るものであって、当該核酸の機能等を確実に予測することは困難であることが本願出願時の技術常識であるから、本願請求項1~22に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 当審の判断
1.理由1(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断について
本願発明16は「FTDまたはALSを有するか、または有することが疑われる対象を処置するための医薬組成物」という物の発明である。ここで、「FTD」、「ALS」とは、本願の発明の詳細な説明【0003】段落を参照すれば、それぞれ「前頭側頭型認知症」、「筋萎縮性側索硬化症」を意味するものである。そして、物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることが必要である。
(2)発明の詳細な説明について
本願の発明の詳細な説明には、次の内容が記載されている。(なお、下線は強調のために当審で付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。)
「【0003】
発明の背景
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、一般に致命的な進行性の運動ニューロン疾患であり、これは前頭側頭型認知症(FTD)と同時に発症することもある。ALSは、散発性(SALS)および家族性(FALS)両方の形態で生じる。症例の約10%は、常染色体優性形質として遺伝する。ALSに対するFDA承認療法は、生存を約10%延長する化合物である、リルゾールである。
【0004】
本開示の側面は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関連する遺伝子の発現を調節するための、組成物および方法に関する。特に、ALSに関連するC9orf72およびSOD1などの遺伝子のサイレンシングに有用な、阻害性核酸が提供される。例えば、本開示のいくつかの側面において、C9orf72の全てのバリアントを標的とする、阻害性核酸が提供される。本開示の他の側面において、C9orf72のバリアントのサブセットを標的とする、阻害性核酸が提供される。本開示のいくつかの態様は、miRNAなどの特定の阻害性核酸は一般に細胞質において機能するにも関わらず、それらを細胞質のアルゴノートタンパク質(例えば、AGO2、RNA誘導サイレンシング複合体の触媒成分、またはRISC)に負荷して、pre-mRNAのサイレンシングが可能な核に移入して戻すことができる、との認識に関する。したがって、いくつかの態様において、核内のRNAおよび細胞質内のRNAの両方を標的とすることができて、タンパク質翻訳を含むRNAの機能を妨害または阻害する、阻害性核酸(例えば、miRNA)が提供される。」
「【0023】
詳細な説明
本開示の側面は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関連する遺伝子の発現を調節するための、組成物および方法に関する。本開示の側面は、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを用いてALSを処置するための、改良された遺伝子治療用組成物および関連する方法に関する。特に、ALSに関連するC9orf72およびSOD1などの遺伝子をサイレンシングする阻害性核酸を発現するように操作された核酸を保有する、rAAVが提供される。いくつかの態様において、本開示は、組換えAAV(例えば、rAAV.Rh10)を利用して、マイクロRNAをCNSに送達し、これによってSOD1またはC9orf72などのALS遺伝子をサイレンシングする。
【0024】
ALS症例は、遺伝子C9orf72における非コードヘキサヌクレオチドのG4C2伸長に関連する。これらの伸長はまた、家族性前頭側頭型認知症(FTD)の10~20%、散発性FTDの10%、およびSALSの~5%においても検出されている。これらの統計は、C9orf72G4C2伸長を、ALSの一般的な原因として規定する。正常な個体では、G4C2伸長は、2または3から25までの反復のサイズ範囲であり;対照的に、FTD/ALS患者は、これらの反復を数百から数千有する。正常なC9orf72遺伝子からの転写は、3つのmRNAバリアント、V1(例えば、Genbank:NM_145005.6;配列番号:18)、V2(例えば、Genbank:NM_018325.3;配列番号:19)、およびV3(例えば、Genbank:NM_001256054.1;配列番号:20)を生成する。転写物V1はエクソン1a~6bを含み、222アミノ酸タンパク質をコードする。エクソンV2とV3はそれぞれ、エクソン2~12およびエクソン1b~12を含み、同一の481aaタンパク質をコードする(図1)。
【0025】
本開示の側面は、V1およびV3がG4C2伸長を保有するとの認識に関する。この伸長を有するヒトALSおよびFTDの脳の分析は、RNA転写物の核内蓄積と、前頭皮質および脊髄でのRNA核内凝集体の生成を示す。これは、転写物V1とV3における伸長が、運動ニューロンで細胞毒性を引き起こす主要な有害物質であることを支持する。C9orf72がコードするタンパク質の機能は十分に特徴付けられていないが、バイオインフォマティクスのアプローチは、C9orf72タンパク質が、構造的な特徴を(DENN)およびGDP/GTP交換因子(GEF)4と共有し、したがって他の潜在的な機能のうち、膜の細胞輸送を調節し得ることを示す。G4C2伸長の細胞毒性は、1または2以上の機能獲得のメカニズムに関連付けられる可能性があり、その例としては以下が挙げられる:1)RNA凝集体による転写因子の過剰な隔離(sequestering)(例えば筋強直性ジストロフィーにおける筋肉ブラインド(muscleblind));2)伸長された反復の、反復関連非ATG(RAN)翻訳が、ジペプチドの発現をもたらす(Gly-Ala;Gly-Pro;Gly-Arg);この様式で産生されるペプチドは、CNS全体で神経細胞封入体を形成する;(3)および、C9orf72転写物の発現の減少による、ハプロ不全の誘導。本開示の側面は、rAAV(例えば、髄腔内送達rAAV.Rh10)を使用して、阻害性核酸(例えば、マイクロRNA)を導入し、問題となるG4C2伸長を保有するC9orf72の転写物の発現をサイレンシングすることに関する。いくつかの態様において、本開示は、in vitroでC9orf72のキーとなるpre-mRNAおよび成熟mRNA転写物のサイレンシングを達成する、方法および組成物を提供する。
・・・
【0027】
阻害性核酸
いくつかの態様において、本開示は、SOD1およびC9orf72などのALSの原因となる遺伝子の発現を阻害する、阻害性核酸を提供する。いくつかの態様において、阻害性核酸は、RNA、pre-mRNA、mRNAなどの標的核酸の少なくとも一部にハイブリダイズして、その機能または発現を阻害する核酸である。いくつかの態様において、阻害性核酸は、一本鎖または二本鎖である。いくつかの態様において、阻害性核酸は、マイクロRNA(miRNA)である。いくつかの態様において、阻害性核酸は、miR-155の隣接領域を有する標的配列を含む、マイクロRNAである。」
「【0035】
所望のキャプシドタンパク質を有する組換えAAVを得るための方法は、当技術分野で知られている(例えば、米国特許公開番号2003/0138772を参照;この内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。本発明のrAAVで使用することができるAAVキャプシドタンパク質としては、例えば、G. Gao, et al., J. Virol, 78(12):6381-6388 (June 2004);G. Gao, et al, Proc Natl Acad Sci USA, 100(10):6081-6086 (May 13, 2003);US 2003-0138772、US 2007/0036760、US 2009/0197338、およびWO 2010/138263に開示されているものが挙げられ、AAVキャプシドタンパク質および関連するヌクレオチドおよびアミノ酸配列に関するそれらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。典型的には、方法は、AAVキャプシドタンパク質またはその断片をコードする核酸配列;機能的rep遺伝子;AAV逆方向末端反復(ITR)および導入遺伝子から成る組換えAAVベクター;および十分なヘルパー機能、を含む宿主細胞を培養して、組換えAAVベクターのAAVキャプシドタンパク質へのパッケージングを可能にすることを含む。」
「【実施例】
【0067】
例1:C9orf72発現の評価および標的化
C9orf72を標的とするmiRNAを送達する組換えアデノ随伴ウイルスベクターが、開発された。
細胞株および正常なヒト脳におけるC9orf72発現の評価:
WTまたは変異型C9orf72のいずれかを発現する、2種類の細胞株を使用した。83のリンパ芽球様細胞株のセットを、C9orf72のG4C2伸長が陽性である78の家族性ALS(FALS)家系の患者から得た。また、以下を有する、継続的HEKおよびSH-SY5Y細胞株を生成した:
・エクソン1aの上流の、2.0kbのC9orf72プロモーター、
・G4C2反復を含む介在イントロンを有する、エクソン1aおよび1b、および
・2.1kbの続くイントロンおよびエクソン2、この開始コドンがルシフェラーゼを駆動する。
4つの下位株が、50、90、160および200の反復のG4C2伸長を有するこれらの細胞株から生産された。線維芽細胞培養物は、C9orf72G4C2伸長の症例からも得た。
【0068】
C9orf72の原理的(principle)転写産物を探索するために、pre-mRNAまたはスプライスされたmRNAのいずれかを検出する、プローブおよびプライマーの系列を生成した。図1に示すように(上)、異なるpre-mRNAアイソフォームに対するTaqManプローブを開発した。1つのプローブであるVallはすべてのpre-mRNA転写物を検出し、一方他の2つ(V1またはV3)は、pre-mRNAアイソフォームV1またはV3を検出する。図1に示すように(下)、3つの異なるスプライスされたmRNAアイソフォームを検出するプライマー対が、生成された。V1は、アイソフォームBを検出し、一方プライマー対V2とV3は、アイソフォームAの2つのバリアントを検出する。
図2に示すように、TaqManプライマーは、HEK293およびSH-SY5Y細胞およびヒトの脳からの、3つの主要なpre-mRNA転写物を検出する。V1とV3についての転写レベルは、Vallよりもかなり小さく、示されるように、脳およびこれらの細胞における主要な転写物が、V2であることを示す。
【0069】
細胞におけるpre-mRNAおよびスプライスされたmRNAの発現の、マイクロRNA媒介性サイレンシング:
C9orf72遺伝子を標的とするマイクロRNAの、そのRNA転写物をサイレンシングする能力を評価した。C9orf72のエクソン3におけるORFの塩基220~241を標的とする、C9-miR220と称される人工マイクロRNAを開発した。このmiRNAはエクソン3に結合するため、mRNAバリアントの全てを標的とすることが予想される。図3は、ヒトC9orf72のin vitroでのmiRNA媒介性ノックダウンを示す。これらは、HEK293T細胞における、mir220(CBAプロモータ-GFP)の一過性トランスフェクションの、3つの生物学的複製からの結果である。対照は、SOD1に対するmiRである。
miRNAを、U6またはニワトリβアクチン(CBA)プロモーターのいずれかを使用して、2つの異なるプラスミドにクローニングした。これらのプラスミドを次に、Hek-293細胞にトランスフェクトした。72時間後、定量的RT-PCRを使用し、pre-mRNA転写物を検出するカスタムTaqManプローブまたはスプライスされたmRNAバリアントを検出するプライマーを用いて、転写物をアッセイした。図3および図4に示すように、U6またはCBAプロモーターによって駆動されると、C9-miR220マイクロRNAの両方の形態は、スプライスされたmRNAのレベルを約50%低下させた。pre-mRNA転写物のレベルは、CBA-C9miR220マイクロRNAにより~65%に低下し(例えば、~35%の減少)、一方U6-C9miR220は、pre-mRNAのレベルを~25%に低下させた(例えば、~75%の減少)(図4参照)。これらの結果は、人工マイクロRNAを用いた、C9orf72遺伝子のpre-mRNAおよびmRNA両方のサイレンシングを実証する。
・・・
【0071】
マイクロRNAの設計:
miRNAのAAVプラットフォームは、miR-155をベースにする。標的化配列とステムループを、Drosha/DGCR8複合体による効率的な認識および処理のために、miR-155隣接領域のコンテキスト内にクローニングする(図7)。miRNAデザインは、5′末端にアデニンまたはウラシルのいずれかを有する、成熟した21マーのmiRNAのガイド配列を生成する。5′末端でのUまたはAの選択は、Ago2の中間領域が成熟miRNAの5′末端と相互作用し、これら2つの塩基に対して、シトシンおよびグアニンより20倍高い親和性を有するという事実により、駆動される。この設計はまた、RISC複合体へのガイド鎖の熱力学的取り込みを促進する。miRNAは、低い第二級および第三級複雑性標的mRNAの領域を標的とするように、設計される。これはRNAフォールディングアルゴリズムを用いて行われ、標的部位におけるmiRNA:mRNA同族結合の可能性を高めることを目標とする。図7Bに示すように、miRNAは次いで、ポリメラーゼIIまたはポリメラーゼIIIプロモーターのいずれかからの、GFPと関心のmiRNAを発現するITRを有する、プロウイルスプラスミドにクローニングする。選択的にバリアント1および3のいずれかを、またはすべてのバリアントを標的とする、8つのmiRNAを、これらのプラスミドにクローニングした(表1参照)。
【0072】
【表1】
[図:0001432439000001.jpg]
【0073】
表1に示すように、潜在的なmiRNAが同定され、ヘキサヌクレオチド反復にわたる領域についてクローニングされた。pre-mRNAアイソフォームV1およびV3が標的とされたが、その理由は、これらがG4C2のヘキサヌクレオチド反復を包含しているためである;表1に示すように、miR-C9-21および-48は、V1およびV3を標的とすることが予想される。
さらに、すべてのバリアントを標的とするmiRNAが使用された。miR-C9-220は、mRNAおよびpre-mRNA種両方のin vitroでのノックダウンについて効果的である。特定の場合において、in vitroで40~50%ノックダウン効率のmiRNAは、ウイルスベクターを用いて達成された形質導入およびゲノムコピーの効率の増加により、翻訳してin vivoで80%を超えるノックダウンを達成する。このmiRNAは、pre-mRNAのノックダウンによって決定されるように、核において機能する。核標的化は、miRNAの3′末端の最後の3塩基を、同族mRNAから脱標的化されるように修飾することによって、改善することができる。miRNAがそのメッセージに100%相補的でなく、3′末端で脱標的化される場合、該miRNAは著しくより安定な複合体をAgo2と形成する。これは、miRNAのAgo2複合体中の滞留時間を増加させ、それによって核移行の可能性を増加させる。表1で示したように、我々は、3′ミスマッチを有するmiRNA(miR-C9-220-3′mm)をクローニングし、これは、この活性を評価するために有用である。
・・・
【0080】
例2:髄腔内送達された組換えアデノ随伴ウイルスRh10型(rAAV.Rh10-C9miR)の、マウスC9orf72遺伝子からのpre-mRNAおよび成熟mRNAの発現をサイレンシングすることにおける、in vivo有効性
抗C9miRを発現する髄腔内送達されたrAAV.Rh10は、野生型マウスおよびBAC由来C9orf72mutantトランスジェニックマウスの両方においてC9orf72 RNA転写物の中枢神経系レベルを減少させる。rAAV.Rh10-C9miRの、C9orf72および関連するG4C2転写物のレベルを抑制する有効性を、トランスジェニックマウスにおいて評価する。
プライマーV1、V2、V3、およびVallを用いて、C9orf72転写物を評価する。図8に示すように、V1、V2、およびV3プライマーを使用するアッセイは、トランスジェニックマウスの転写物を検出し、一方Vallプライマーは、マウスおよびヒトのC9orf72の両方を検出する。
rAAV.Rh10-C9miRの、C9orf72のpre-mRNAおよびスプライスされたmRNA転写物のレベルを低下させることに対する有効性を、野生型および当社のC9orf72mutantトランスジェニックマウスの両方を使用して評価する。rAAV.Rh10-C9miRが、トランスジェニックマウスにおけるRNAi凝集体の数を減少させる程度を、評価する。・・・
【0091】
例3:霊長類におけるC9orf72のmiRNA標的化。
髄腔内送達後の非ヒト霊長類(NHP)の中枢神経系における、rAAV.Rh10-C9miRの評価およびC9orf72転写物のサイレンシングの程度の評価。
髄腔内投与されたrAAV.Rh10-C9miRが、非ヒト霊長類(NHP)の脊髄、大脳および小脳全体に広がる程度を評価する。3種のrAAV.Rh10ベクターを、抗C9 miRNAをコードする発現構築物の送達用に調製する。ベクターは、髄腔内注射を介して送達される。AAVRh10の広がりおよび向性(tropism)ならびに、2つの異なるプロモーターからのC9-miRの、サイレンシング有効性を、3週間にわたって評価する。・・・」
「【図1AB】
[図:0001432439000002.jpg]
」
「【図2】
[図:0001432439000003.jpg]
」
「【図3】
[図:0001432439000004.jpg]
」
「【図4】
[図:0001432439000005.jpg]
」
(3)参考文献に記載された事項について
ア 参考文献1に記載された事項について
参考文献1は、本願出願日前に発行された、「Argonaute:RNA サイレンシングの構造基盤」と題する総説(領域融合レビュー, 1, e001 (2012), DOI: 10.7875/leading.author.1.e001)であって、次の事項が記載されている。
(ア)1頁右欄1行~2頁左欄4行
「RNAサイレンシングとは,20~30塩基長の小分子RNA(small RNA)を介して,それと相補的な配列領域をもつ遺伝子の発現が抑制される現象である.RNAサイレンシングは1998年,線虫についてはじめて報告され1),2001年には,真核生物に特異的な遺伝子発現の制御機構として広く保存されていることが知られるようになった2).また,応用的な観点からみると,RNAサイレンシングは特定の遺伝子産物の発現を人為的に抑制する方法として,高い選択性と汎用性とを兼ね備えたアプローチである.すでに,実験室レベルでは遺伝子の機能を解明するうえで欠かせないツールとして生命科学の実験に幅広く利用されている.」
(イ)2頁左欄6行~2頁右欄下から4行
「RNAサイレンシングのなかでもとくにくわしく調べられている経路として,おもにウイルスなど外因性の長い二本鎖RNAに由来するsmall interfering RNA(siRNA)が原始的な防御システムとしてはたらくRNAi経路,および,ヘアピン型をとる前駆体RNAとしてゲノムにコードされていてさまざまな生命現象の制御を行うmicroRNA(miRNA)のかかわるmiRNA経路の2つがある3-6)(図1).どちらの経路でも,生合成された21~23塩基長のRNAがRISC(RNA-induced silencing complex)とよばれるRNA-タンパク質複合体を形成し,相補的な配列領域をもつmRNAの発現を抑制するという共通点がある.このRNAサイレンシングの機能複合体であるRISCにおいて,中心的な役割をはたしているのがArgonaute(Ago)とよばれる一群のタンパク質である7).
Agoは,4つのドメイン(Nドメイン,PAZドメイン,MIDドメイン,PIWIドメイン)と2つのリンカー(L1リンカーとL2リンカー)から構成される,分子量が約100 kDaのタンパク質である.siRNAやmiRNAなどのsmall RNAは,通常,二本鎖RNAとして生合成され,二本鎖のままAgoに積み込まれる(図1).つぎに,Agoのなかで二本鎖RNA鎖の片方の鎖(パッセンジャー鎖)が引きはがされ捨てられることにより,もう片方の鎖(ガイド鎖)のみがAgoに取り込まれた成熟体RISCが形成される3-6).こうして形成されたRISCは,ガイド鎖の配列相補性を利用して特異的な標的mRNAをみつけだし,翻訳の抑制やポリA鎖の短縮による不安定化をひき起こす(miRNA経路).また,Agoファミリーに属するタンパク質のなかには“スライサー”とよばれるエンドヌクレアーゼ活性をもつものがあり,こうしたAgoは標的mRNAを切断することもできる(RNAi経路).」
(ウ)図1
「
[図:0001432439000006.jpg]
図 1 ヒトにおける RNA サイレンシングの分子機構」
イ 参考文献2に記載された事項について
参考文献2は、本願出願日前に発行された、「沈黙の音を探る:標的同定と検証のためのRNAi媒介遺伝子サイレンシング」と題する総説(DDT , Volume 10, Number 22, November 2005, 1559-1565)であって、次の事項が記載されている。なお、参考文献2は英文で記載されているので、合議体の訳文で示す。
(ア)1559頁 要約
「創薬は、新規生物学的標的の同定と初期前臨床検証から始まる。このプロセスはしばしば「標的同定と検証」と呼ばれる。通常、文献からの観察や動物・臨床研究の知見に加え、遺伝子・タンパク質の発現、相互作用、機能解析を含む最先端の分子技術が用いられる。ヒトゲノムの解読により、遺伝子およびタンパク質発現解析の研究が活発化している。RNA干渉技術と組み合わせることで、既知遺伝子の新規機能評価に加え、疾患に関連する機能を持つこれまで未知または未研究の遺伝子評価が可能となる。」
(イ)1560頁左欄12行~右欄21行
「適切なRNAi試薬の設計
標的同定および検証実験に使用する最も効果的なRNAi試薬をどのように特定すればよいか?理論的には、特定の標的RNAに対応するすべての短い二本鎖RNA(dsRNA)はサイレンシング活性を有するはずである。しかし、同一遺伝子に対する異なる試薬が異なるレベルの遺伝子ノックダウンを示すため、最も効果的なRNAi試薬を特定するアルゴリズムは精力的に研究されている分野である[19-21]。これは、RNA二次構造、結合エネルギー、標的アクセシビリティ、および標的配列の熱力学的特性がRNAi試薬の活性に影響を与えることを示唆している[22]。ほとんどの siRNA 識別アルゴリズムは、RNAi 設計に設定された基本的な制約 [23] を考慮に入れ、適切なゲノム全体(例えば、基本局所配列検索ツール(BLAST-N)やスミス・ウォーターマン法に基づくツール)を検索して、識別された配列と、そのゲノム内の他の配列との間に十分なミスマッチがあることを保証する。一部のアルゴリズムでは、RNA二次構造や熱力学的安定性などのパラメータも使用される[22]。しかし、ヒトsiRNAデータベース(HuSiDa, http://itb.biologie.hu-berlin.de/~nebulus/sirna/v2/)など複数のsiRNAを対象とした遡及的解析では、RNAi試薬選定の既発表基準との有意な相関は認められなかった[24]。したがって、効率的なRNAi活性を示す複数の基準が発表され、そのような配列を同定するための複数のアルゴリズムが利用可能であるにもかかわらず、RNAiベース(特にshRNA)アプローチのユーザー間の現在のコンセンサスは、有意な活性(低レベルのRNAi発現で標的遺伝子の75%以上のノックダウンと定義)を持つRNAi試薬を同定するには、複数の(3~10個、場合によってはそれ以上)オリゴヌクレオチドを設計する必要があるというものである。」
ウ 参考文献3に記載された事項について
参考文献3は、本願出願日後に発行された、「C9orf72を標的とする人工マイクロRNAは、ALSおよびFTD患者における核内転写産物の蓄積を減少させ得る」と題する学術論文(Molecular Therapy: Nucleic Acids Vol. 14 March 2019, 593-608)であって、次の事項が記載されている。なお、参考文献3は英文で記載されているので、合議体の訳文で示す。
(ア)593頁 要約
「筋萎縮性側索硬化症(ALS)および前頭側頭型認知症(FTD)において最も一般的な病原性変異は、染色体9番オープンリーディングフレーム72(C9orf72)遺伝子内のイントロン領域におけるGGGGCC(G4C2)リピートである。センスおよびアンチセンス反復配列を含む転写産物によって産生されるRNA凝集およびジペプチド反復(DPR)タンパク質による細胞毒性が、両疾患の病態形成の根底にあると考えられている。
C9orf72-ALS患者と対照群のRNAシーケンス(RNA-seq)データを解析し、患者におけるC9orf72の配列保存性をより深く理解した。保存領域においてC9orf72をサイレンシングするマイクロRNA(miC)を開発し、レポーター過剰発現システムにおいて異なるサイレンシング手法の実現可能性を実証した。さらに、2つの連結miCヘアピンを発現させることで双方向標的化アプローチの実現可能性を示した。miCの有効性は、核内および細胞質内における内因性C9orf72 mRNAの発現減少、ならびに(G4C2)44発現細胞における核内RNA凝集の~50%減少によって確認された。最終的に、2つのmiC候補がアデノ随伴ウイルスベクター血清型5(AAV5)に組み込まれ、HEK293T細胞および誘導多能性幹細胞(iPSC)由来ニューロンにおいてC9orf72のサイレンシングが実証された。これらのデータは、ALS および FTD 患者に見られる毒性の増大を軽減できる、マイクロ RNA (miRNA) ベースの AAV デリバリーによる遺伝子治療の実現可能性を裏付けている。」
(イ)595頁左欄8行~596頁左欄最終行
「保存されたC9orf72領域を標的とするmiRNAの設計
完全なサイレンシングアプローチの標的部位として、保存性の高いエクソン2及びエクソン11を選択した。イントロン1のカバー率が悪いため、過去にASOで標的化に成功した領域を選択した13。アンチセンス鎖については、PCRで以前に同定された領域を選択した21。miC発現構築体miC1-miC11およびmiC22-miC31をイントロン1に設計し、センス鎖イントロン転写物のみを標的とした(図2A)。miC32-miC50はエクソン2およびエクソン11に設計され、全てのセンスC9orf72転写産物を標的とする。miC12*-miC22*はアンチセンス鎖上に設計され、アンチセンス転写産物のみを標的とし、アスタリスクで示される。我々の先行研究でpri-miR-101及びpri-miR-451骨格が活性ガイド鎖を大量産生することが判明したため、miC配列は、両骨格に組み込まれた29。pri-miC-101及びpri-miC-451構造は、それぞれ21及び22塩基長の成熟miCを生成すると予測された(図2B)。・・・
miC-101及びmiC-451構築体のレポーターシステムを用いたin vitro試験
miC候補の有効性を検証するため、補完的なC9orf72標的領域をレニラ・ルシフェラーゼ(RL)遺伝子に融合させたルシフェラーゼ(Luc)レポーターを設計した(図2D)。・・・センス鎖イントロン転写物を標的とするmiC変異体の中で、miC2_101とmiC4_101は中程度のノックダウン(~50%)、miC31_101は強力なノックダウン(~80%)を示した(図3A)。これらをさらに最適化するために選択した。
・・・
我々のデータは、イントロン1が依然として困難な標的領域であることを示している。エクソン1aと1bの間の高度に構造化された反復領域にある全てのmiC候補は、強いノックダウンを誘導できなかった。」
(ウ)図2
「
[図:0001432439000007.jpg]
図2. センスとアンチセンスC9orf72を標的とする人工miC発現構築体の設計
(A) ヒトC9orf72遺伝子の模式図。12のエクソン(代替スプライシングエクソン1aおよび1bを含む)とイントロン内のG4C2リピートで構成される。miC標的部位の位置は番号で示される。緑色の数字はLagier-Tourenneら17が報告したASOの位置を示す。灰色はmiR-101骨格に組み込まれたセンス標的miC候補、青色はmiR-451骨格に組み込まれたセンス標的miC候補、赤色はmiR-451骨格に組み込まれたアンチセンス標的miC候補を示す。(B) miC-101およびmiC-451二次構造の模式図。骨格はmiRBaseデータベース(www.mirbase.org)から選択した。ガイド鎖は成熟miC配列に置換し、パッセンジャー鎖はpri-miCの骨格構造を保持するよう修正した。miR-101は活性ガイド鎖(赤)に加工され、場合によってはパッセンジャー鎖(灰色)も生成する。miR-451はガイド鎖のみを生成する。(C) CAGプロモーター、pri-miC配列、ヒト成長ホルモンポリアデニル化(hGH polyA)シグナルで構成されるpri-miC-451およびpri-miC-101構築体の模式図。(D) レポーター遺伝子の模式図。C9orf72のセンス転写物を表現するため、C9orf72イントロン1(int1aおよびint1b)、エクソン2(ex2)、エクソン11(ex11)の配列をRL遺伝子下流にクローニングした。さらに、内部対照としてベクターからFLを共発現させた。アンチセンスレポーター(AS)については、イントロン内のアンチセンス配列をクローニングした。」
(エ)図3
「
[図:0001432439000008.jpg]
図3. LucレポーターにおけるmiC候補遺伝子のサイレンシング効率
(A) miC1~miC11およびmiC22~miC31によるノックダウン効果。いずれもイントロン1を標的とし、エクソン1aとG4C2リピート間、またはエクソン1bとエクソン2間の領域を対象とした。HEK293T細胞に、ルシフェラーゼレポーターとmiR-101(灰色バー)またはmiR-451(青色バー)骨格に組み込まれた異なるmiC変異体を1:1の比率で共トランスフェクトした。トランスフェクション2日後にRLとFLを測定し、RLをFL発現で正規化した。スクランブルmiRNA(miScr)を陰性対照として100%に設定。追加試験対象候補は下線表示した。(BおよびC) miC32~miC45によるエクソン2レポーター(B)およびmiC46~miC50によるエクソン11レポーター(C)のノックダウン効果。(D) miC12_451*~miC21_451*によるアンチセンスレポーターのノックダウン。(E-H) 選択されたmiC候補がLucレポーターに及ぼす用量依存的効果。HEK293T細胞に10 ngのルシフェラーゼレポーターと、イントロン1用(E)、エクソン2用(F)、エクソン11用(G)、アンチセンス転写産物用(H)に選択されたmiC構築体を1、5、10、25 ngで共トランスフェクトした。RLおよびFLルシフェラーゼは前述の方法で測定した。データは多重比較用一元配置分散分析を用いて解析し、スクランブルおよびmiC処理細胞に対して統計的有意性を判定した。追加試験対象として選抜されたmiC候補のp値はグラフ内でアスタリスクで示される:****p < 0.0001。各棒グラフは3回の独立実験の平均値と標準偏差を示す。」
(4)本願出願当時の技術常識について
参考文献1及び2の記載によれば、本願出願当時、次の事項が技術常識であったと認められる。
ア 20~30塩基長の小分子RNA(small RNA)を用いて、それと相補的な配列領域をもつ遺伝子の発現を抑制するRNAサイレンシングは、特定の遺伝子産物の発現を人為的に抑制する方法として幅広く利用されており、small interfering RNA(siRNA)とmicroRNA(miRNA)が詳細に研究されていた(前記(3)ア(ア)、(イ))。
イ miRNA及びsiRNAは、いずれも二本鎖RNAとして生合成され、RISC(RNA-induced silencing complex)とよばれるRNA-タンパク質複合体の形成を介して、配列特異的な標的mRNAの不安定化(miRNA経路)、又は標的mRNAの切断をそれぞれ引き起こし(RNAi経路)、遺伝子の発現を抑制する(前記(3)ア(イ)、(ウ))。
ウ 特定の標的RNAに対応する短い二本鎖RNA(dsRNA)は、理論的には、すべてサイレンシング活性を有するはずであるが、実際には、RNA二次構造、結合エネルギー、標的アクセシビリティ、及び標的配列の熱力学的特性により、同一遺伝子に対する異なる二本鎖RNAが、異なるレベルの遺伝子ノックダウンを示す(前記(3)イ(イ))。そのため、効率的なRNAi活性を示す配列を同定するための複数のsiRNA識別アルゴリズムが利用可能であるにもかかわらず、有意な活性(低レベルのRNAi発現で標的遺伝子の75%以上のノックダウンと定義)を持つRNAi試薬を同定するには、複数(3~10個、場合によってはそれ以上)のオリゴヌクレオチドを設計する必要がある(前記(3)イ(イ)。
(5)判断
ア 本願の発明の詳細な説明では、【0024】段落において、「遺伝子C9orf72における非コードヘキサヌクレオチドのG4C2伸長」が「正常な個体では、」「2または3から25までの反復のサイズ範囲」である一方、「FTD/ALS患者は、これらの反復を数百から数千有する」ことから、「C9orf72G4C2伸長」が「ALSの一般的な原因として規定」されていることが説明されたうえで、「正常なC9orf72遺伝子からの転写は、3つのmRNAバリアント」、すなわち「エクソン1a~6bを含」む「転写物V1」、「エクソン2~12およびエクソン1b~12を含」む「V2」及び「V3」を生成することが記載されている。そして、続く【0025】段落では、「V1およびV3がG4C2伸長を保有」し、「RNA転写物の核内蓄積と、前頭皮質および脊髄でのRNA核内凝集体の生成を示す」ものであるから、「転写物V1とV3における伸長が、運動ニューロンで細胞毒性を引き起こす主要な有害物質であ」って、「G4C2伸長の細胞毒性は、」「1)RNA凝集体による転写因子の過剰な隔離(sequestering)(例えば筋強直性ジストロフィーにおける筋肉ブラインド(muscleblind));2)伸長された反復の、反復関連非ATG(RAN)翻訳が、ジペプチドの発現をもたらす(Gly-Ala;Gly-Pro;Gly-Arg);この様式で産生されるペプチドは、CNS全体で神経細胞封入体を形成する;(3)および、C9orf72転写物の発現の減少による、ハプロ不全の誘導」といった「1または2以上の機能獲得のメカニズムに関連付けられる可能性があ」ることが記載されている。
これに対し、本願の発明の詳細な説明の実施例では、まず、「WTまたは変異型C9orf72のいずれかを発現する、2種類の細胞株」及び「ヒト脳」において、「V1とV3についての転写レベルは、Vallよりもかなり小さく」、「脳およびこれらの細胞における主要な転写物が、V2であること」(例1及び図2)が記載されている。そして、「C9orf72のエクソン3におけるORFの塩基220~241を標的と」し、「mRNAバリアントの全てを標的とすることが予想される」「C9-miR220」が「ヒトC9orf72のin vitroでのmiRNA媒介性ノックダウンを示」したこと(例2及び図3)、及び「U6またはCBAプロモーターによって駆動される」「C9-miR220マイクロRNA」が、「スプライスされたmRNAのレベルを約50%低下させ」、さらに「pre-mRNA転写物のレベルは、CBA-C9miR220マイクロRNAにより~65%に低下し(例えば、~35%の減少)、一方U6-C9miR220は、pre-mRNAのレベルを~25%に低下させた(例えば、~75%の減少)」こと(例2及び図4)が具体的な実験データの裏付けを伴って記載されている。しかしながら、当該C9miR220マイクロRNAによるpre-mRNAレベルの低下が、V1~V3のどのバリアントをどの程度低下させるのかについては確認されておらず、それによりRNA転写物の核内蓄積が減少するかどうかについても確認されていない。
また、本願の発明の詳細な説明の【表1】には、「標的部位におけるmiRNA:mRNA同族結合の可能性を高めることを目標と」して「RNAフォールディングアルゴリズムを用いて」設計された「選択的にバリアント1および3のいずれかを、またはすべてのバリアントを標的とする、8つのmiRNA」が記載されており、このうち、配列番号6及び7の配列を有する「miR-C9-21および-48」は、エクソン1a及び1bを標的エクソンとし、バリアントの「V1およびV3を標的とすることが予想される」ものであって、これは「pre-mRNAアイソフォームV1およびV3」が「G4C2のヘキサヌクレオチド反復を包含しているためである」ことが文言上記載されている。さらに、「髄腔内送達された組換えアデノ随伴ウイルスRh10型(rAAV.Rh10-C9miR)の、マウスC9orf72遺伝子からのpre-mRNAおよび成熟mRNAの発現をサイレンシングすることにおける、in vivo有効性」(例2)や、「霊長類におけるC9orf72のmiRNA標的化」(例3)についても評価できることも、文言上記載されている。しかしながら、いずれも具体的な実験データについては記載されていない。
イ 上述のような本願の発明の詳細な説明の記載によれば、FTD及びALSの病態は、C9orf72の転写物V1及びV3が異常なG4C2伸長を有することにより生成されるRNA転写物の核内蓄積やRNA核内凝集体が細胞毒性を引き起こすことを発端とするものであって、本願発明16は、エクソン1a及び1bを標的エクソンとし、バリアントV1およびV3を標的とする本願発明16に係るマイクロRNAにより、pre-mRNAアイソフォームV1及びV3を阻害し、G4C2伸長による核内のRNAの蓄積・凝集体を減少させることで、FTD又はALSを処置しようとするものであることは理解できる。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明では、エクソン3を標的エクソンとし、V1~V3の全てのバリアントを標的として設計された、本願発明16で特定するマイクロRNAとは異なる塩基配列からなるものであるC9-miR220について、pre-mRNAレベル全体が低下することを確認している一方、各バリアントごとの低下作用については確認されておらず、しかも、脳における主要な転写物がV2バリアントであったことが記載されている(本願の発明の詳細な説明の図2ではC9orf72の相対的発現量が対数で示されていることを踏まえると、V2バリアントはV1及びV3バリアントの10倍程度の発現量であることがうかがわれる。)。そうすると、本願の発明の詳細な説明の記載から、C9orf72の転写物について唯一具体的な実験結果が示されているマイクロRNAであるC9-miR220でさえ、V1~V3バリアント中でも少数である核内V1及びV3バリアントのpre-mRNAレベルを、核内RNA転写物の蓄積・凝集体を減少させることができる程度にまで低下させることができると理解することができない。ましてや、何ら具体的な実験結果が示されていない本願発明16で特定するマイクロRNAについて、核内V1及びV3バリアントのpre-mRNAレベル低下作用を推認できるとはいえない。
ウ また、前記(4)で説示した本願出願当時の技術常識によれば、RNAサイレンシングの技術分野においては、標的遺伝子産物と小分子RNAの配列特異的な相互作用が必要であることにくわえ(前記(4)ア、イ)、同一遺伝子に対する異なる試薬が異なるレベルの遺伝子ノックダウンを示すため、たとえRNAi設計用のアルゴリズムを用いたとしても、有意な活性を示す配列を得るためには、複数のオリゴヌクレオチドを設計し(前記(4)ウ)、その活性を確認する必要があったものと認められる。そしてこれは、G4C2伸長を有するC9orf72の転写物に対するマイクロRNAの阻害活性に関する参考文献3において、C9orf72の異なる配列に対して設計されたマイクロRNA候補が、それぞれ異なる阻害活性を示し、中には全く阻害活性を示さないものも含まれている(前記(3)ウ(イ)、(エ);全く阻害活性を示さないものとして、図3AのmiCプラスミド8及び図3BのmiCプラスミド44を参照。)ことが記載されていることとも符合するものである。
そうすると、上記のような本願出願当時の技術常識を参酌すればなおのこと、当業者が、本願の発明の詳細な説明の記載から、実施例で使用されたC9-miR220とは塩基配列が異なり、標的エクソンや標的バリアントも異なる上に、何ら具体的な実験結果が示されていない本願発明16で特定するマイクロRNAについて、G4C2伸長を有する核内V1及びV3バリアントのpre-mRNAレベルを低下させて、核内RNA転写物の蓄積・凝集体を減少させることができ、ひいてはFTD又はALSを処置することができると認識できるとは到底認められない。
エ したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が、本願出願当時の技術常識に照らし、過度の試行錯誤を要することなく、本願発明16に係る医薬組成物を製造し、使用することができる程度の記載があるとはいえない。
オ 請求人の主張
請求人は、令和6年1月19日提出の手続補正書(方式)により補正された審判請求書において、「配列番号6,7に夫々示されるヌクレオチド配列を有するmiR-C9-21、miR-C9-48は、本願の明細書の段落[0071]に記載されているとおり、RNAフォールディングアルゴリズムを使用し、標的mRNA、すなわちC9orf72の二次構造および三次構造の複雑性が低い領域を標的とするように設計されているものであります。RNAフォールディングアルゴリズムは、当該技術分野においてRNAの低複雑性領域を予測するために使用される一般的なツールであり、かかるツールを用いて設計されたmiRNAとmRNAとが同族(cognate)結合する可能性が最大限に高められ、ひいては標的mRNAの分解が最適化されることを当業者は理解できます」と主張する。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明では、miR-C9-21及びmiR-C9-48の塩基配列が、RNAフォールディングアルゴリズムとしていかなるツールを使用し、どのような条件にて設計され、標的エクソン1a及び1bのどの塩基配列に結合し、どの程度のV1及びV3バリアント分解効果が期待されるものであるのか何ら記載されていないから、請求人の主張は発明の詳細な説明の記載に基づかない主張であり採用できない。これに、前記(4)ア~ウで説示した技術常識をも併せ考慮すると、信頼性も不明な何らかのRNAフォールディングアルゴリズムを使用した旨の主張のみをもって、miR-C9-21及びmiR-C9-48が、異常なG4C2伸長を有する核内V1及びV3バリアントのエクソン1a及び1bに結合してそのpre-mRNAレベルを低下させ、核内RNA転写物の蓄積・凝集体を減少させることができ、ひいてはFTD又はALSを処置することができるとは認識できない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
(6)小括
以上のとおりであるから、この出願の発明の詳細な説明の記載は、本願発明16を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
2.理由2(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)について
(1)本願発明16の課題について
特許請求の範囲が、特許法36条6項1号に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
これを本願についてみると、前記1.(5)で説示したとおり、本願の発明の詳細な説明は、本願発明16に係るマイクロRNAがFTD又はALSを処置できることは記載されていないのであるから、本願発明16は発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
また、本願発明16の解決しようとする課題は、本願の発明の詳細ナ説明の【0004】段落の記載及び特許請求の範囲の請求項16の記載からみて、「ALSに関連するC9orf72遺伝子のサイレンシングに有用であり、FTDまたはALSを有するか、または有することが疑われる対象を処置するための医薬組成物」を提供することと認められる。
しかしながら、前記1.(5)で説示したとおり、本願の発明の詳細な説明及び出願当時の技術常識等を参酌しても、本願発明16の医薬組成物が、G4C2伸長を有する核内V1及びV3バリアントのpre-mRNAレベルを低下させて、核内RNA転写物の蓄積・凝集体を減少させることができ、ひいてはFTD又はALSを処置することができることを理解するとはいえない。
したがって、本願発明16は、本願の発明の詳細な説明に、本願発明の上記課題が解決できると当業者が認識できるように記載された範囲のものではない。
(2)審判請求人の主張について
請求人は、令和6年1月19日提出の手続補正書(方式)により補正された審判請求書において、前記1.(5)オと同様の主張を行っているが、当該主張を採用することができないことは、前記1.(5)オのとおりである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本願発明16について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.付記
請求人は、令和7年7月25日提出の上申書において、「令和6年1月4日審判請求書および令和6年1月19日付手続補正書(方式)において主張したとおり、原審における拒絶理由は全て解消されましたので、原査定を取り消す、本願は特許するものとする、との審決を賜るものと確信しますが、前置審査官殿による前置報告がなされたこともあり、審判合議体において、万が一、本願発明の特許性につきなお疑義が払しょくできないとされる場合には、本審判請求人は、さらなる補正の用意もあることから、合議体による拒絶理由通知に基づく補正の機会を与えていただき、また必要に応じその前後において合議体との面接の機会を頂戴したく、ここに希求する次第であります」と主張しているが、前記第1で説示したとおり、本願は前置審査を経ていないものであるから、当該主張は本願の手続の経緯に基づかない主張である。そして、本願は令和4年10月31日付けの拒絶理由通知(最後)に対する応答期間中、及び審判請求時にも補正の機会があったにもかかわらず、何ら補正を行っていないこと、及び前記1.及び2.のとおり原査定の拒絶の理由が解消しているとは認められないことを併せ考慮すると、審判合議体において、さらなる補正の機会を与えることが必要であるとは認められない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が同条6項1号に規定する要件も満たしていないから、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-000022