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意匠無効審判

2023-880006

眼鏡用前枠

審判番号
2023-880006
法域
意匠
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
意願2019-027600
登録番号
1663217
請求日
2023年07月19日
審決日
2024年05月31日
公報発行日
2025年04月25日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社 インターメスティック
  • 【請求人代理人】白崎 真二
  • 【請求人代理人】阿部 綽勝
  • 【請求人代理人】勝木 俊晴
  • 【請求人代理人】岡崎 紳吾
  • 【被請求人】株式会社 ジンズホールディングス
  • 【被請求人代理人】長谷川 芳樹
  • 【被請求人代理人】黒川 朋也
  • 【被請求人代理人】尾関 孝彰
  • 【被請求人代理人】佐藤 英二
  • 【被請求人代理人】野村 信三郎
  • 【被請求人代理人】松本 良太
審判長/審判官
  • 審判長 前畑 さおり
  • 審判官 北代 真一
  • 審判官 清野 貴雄
分類
D1113.14 -Y (B3-6) / D1113.113-Y (B3-6) / D1113.121-Y (B3-6)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
意匠法3条2項意匠法52条特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
意匠法第3条第1項、意匠法第3条第1項第3号、意匠法第3条第2項、意匠法第3条、意匠法第48条第1項第1号、意匠法第24条、意匠法第24条第2項、意匠法第2条第1項、意匠法第52条、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の意匠登録第1663217号「眼鏡用前枠」の意匠登録無効審判事件について,次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨 1 請求の趣旨 登録第1663217号意匠の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。 2 答弁の趣旨 本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。 第2 手続の経緯 本件意匠登録第1663217号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は、令和元年12月12日に意匠登録出願されたものであって(意願2019-27600号)、審査を経て、令和2年6月19日に意匠権の設定の登録が、同年7月6日に意匠公報の発行がなされたものであり、その後の主な経緯は以下のとおりである。 令和5年 7月19日 : 審判請求書の提出 8月22日付: 手続補正指令書(方式) 9月20日 : 手続補正書(方式)の提出 (対象書類:審判請求書) (対象項目:代理権を証明する書面、 証拠方法の翻訳文(追加)) 9月26日 : 手続補正書(方式)の提出 (対象書類:令和5年9月20日付手続補正書) (補正の内容:包括委任状番号) 10月 4日付: 審尋 10月20日 : 回答書の提出 12月11日 : 審判事件答弁書の提出 12月27日付: 審理事項通知書 令和6年 2月13日 : 請求人による口頭審理陳述要領書の提出 2月14日 : 被請求人による口頭審理陳述要領書の提出 2月29日 : 口頭審理、書面審理通知(口頭) 3月12日 : 請求人による上申書の提出 3月25日 : 被請求人による上申書の提出 第3 本件登録意匠 本件登録意匠は、願書及び願書に添付した図面(以下、単に「図面」という。)の記載によれば、意匠に係る物品が「眼鏡用前枠」であり、願書の意匠に係る物品の説明欄には、「本物品は、本物品に設けられた磁着部を介して、磁着部を備える眼鏡に着脱自在に装着できる眼鏡用前枠である。本物品は、「眼鏡に装着した状態を示す参考図1」及び「眼鏡に装着した状態を示す参考図2」に示すように、本物品を眼鏡に装着する際には、「各部名称を示す参考底面側斜視図」に示す本物品の背面側に設けた磁着部が、眼鏡の磁着部と吸着し、「跳ね上げた状態を示す参考図1」及び「跳ね上げた状態を示す参考図2」に示すように、本物品を跳ね上げた際には、「各部名称を示す参考底面側斜視図」に示す本物品の平面側に略下向きに設けた磁着部が、眼鏡の磁着部と吸着して、本物品が眼鏡に保持される。本物品は、リム部にサングラス用レンズやリーディング用レンズを嵌めて使用することができ、本物品を眼鏡に装着した場合には、通常の眼鏡を跳ね上げ式のサングラスやリーディンググラスとして使用することができる。本物品のひさし部は、本物品を眼鏡に装着した状態において、眼鏡のリム上端部を覆い、本物品が眼鏡から脱落するのを防ぐとともに、サングラスとして使用する際には本物品と眼鏡との隙間からの光の進入を防ぐものである。」と記載されている。 また、本件登録意匠の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状等」という。)は、願書及び図面に記載されたとおりのものであって、図面には、「正面図」、「背面図」、「平面図」、「底面図」、「右側面図」、「左側面図」、「平面側斜視図」、「底面側斜視図」、「C-C部分の拡大A-A断面図」、「C-C部分の拡大B-B断面図」、「各部名称を示す参考底面側斜視図」、「各部名称及び使用状態を示す参考図」、「眼鏡に装着した状態を示す参考図1」、「眼鏡に装着した状態を示す参考図2」、「跳ね上げた状態を示す参考図1」、「跳ね上げた状態を示す参考図2」の各図が表され、願書の意匠の説明欄には、「実線で表した部分が、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。一点鎖線は、部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す線である。各図において、物品の表面部に表された細線は、いずれも立体表面の形状を表す線である。」と記載されている(別紙第1参照)。 第4 審判請求書における請求人の主張及び証拠方法 1 請求人の主張 請求人は、本件登録意匠に係る無効理由として、以下の無効理由1から無効理由3を主張した。 (1)無効理由1(工業上利用することができる意匠に該当しない) 本件登録意匠は、図面の記載が相互に一致せず、登録意匠を正確に認識できないので、意匠法第3条第1項柱書の「工業上利用することができる意匠」に該当しないにも拘わらず、誤って意匠登録されたものであるから、意匠法第48条第1項第1号の理由により無効とすべきものである。 登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書添付の図面に記載された意匠に基づいて定めるべきであるところ(意匠法第24条)、本件登録意匠である意匠登録第1663217号公報(甲第1号証)の願書添付の図面の「平面側斜視図」及び「底面側斜視図」の記載においては、図Aに示すように、庇部が、前枠ブリッジ部の上端の形状に沿うように、中央部が下方に凹んだ正面視でU字状となっているのに対し、「正面図」及び「背面図」の記載においては、図Bに示すように、庇部が、前枠ブリッジ部の上端の形状に沿うように、中央部が上方に凸となった正面視で逆U字状となっている。 [図A] [図:0001421415000001.jpg] [図B] [図:0001421415000002.jpg] すなわち、部分意匠である庇部の中央部の正面視における形状が、平面側斜視図及び底面側斜視図は相互に一致し、正面図及び背面図は相互に一致しているものの、平面側斜視図及び底面側斜視図と、正面図及び背面図とでは、不一致となっている。 本件登録意匠は、眼鏡用前枠の庇部の部分意匠であるところ、その庇部の中央部の正面視における形状が不明確であるため、その意匠を認識することができない。 したがって、本件登録意匠は、その意匠を特定することができない。 (2)無効理由2(新規性の欠如) 本件登録意匠は、本件意匠の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証に記載された意匠に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。 ア 本件登録意匠について 本件登録意匠に係る物品は、意匠登録第1663217号公報(甲第1号証)に記載された「眼鏡用前枠」であり、下記図Cに示すように、前枠ブリッジ部及びその両側に位置する前枠リム部からなる前枠本体部と、前枠本体部上端から後方に延出する庇部と、前枠リム部に取り付けられるレンズ部とを有する。 また、庇部は、両端の凸状部と、両端の凸状部を連結する中央部とを有し、凸状部が中央部よりも後方に突出している。 なお、図Cは、各部名称を示すため、本件の意匠公報に掲載された「底面側斜視図」を用いたものである。また、前枠本体部を取り付けた眼鏡を装着者が装着した場合、前枠本体部側を「前」、装着の頭部側を「後」とし、前枠本体部の幅方向を左右方向としている。 [図C] [図:0001421415000003.jpg] (ア)本件登録意匠における意匠に係る物品(眼鏡用前枠)の用途、機能 上記眼鏡用前枠は、レンズ部として、サングラス用レンズやリーディング用レンズ等を用いた状態で、被磁着部を有する眼鏡(以下単に「眼鏡」という。)に装着することにより、眼鏡を跳ね上げ式のサングラスやリーディンググラスとして使用することができる。 上記眼鏡用前枠は、前枠本体部の両側に磁着部を有しており、眼鏡に装着する際には、背面側に設けた第1磁着部が、眼鏡の被磁着部と吸着してその状態が保持され、その位置から跳ね上げた際には、庇部の下面側に設けた第2磁着部が、眼鏡の被磁着部と吸着してその状態が保持されるようになっている。 (イ)本件登録意匠(部分意匠)の用途、機能 本件登録意匠は、部分意匠であり、眼鏡用前枠のうちの庇部の部分である。 当該庇部は、眼鏡用前枠を眼鏡に装着した状態において、眼鏡の上端部を覆い、眼鏡用前枠が眼鏡から脱落するのを防ぐとともに、眼鏡用前枠と眼鏡との隙間からの光の進入を防ぐことができる。 (ウ)本件登録意匠(部分意匠)の眼鏡用前枠に対する位置、大きさ、範囲 上記庇部は、左右方向に延びる前枠本体部の上端に位置している。 上記庇部は、板状であり、前枠本体部の上端から後方に延出している。 また、凸状部の外側(中央部とは反対側)は、それぞれ、跳ね上げ時に眼鏡のヨロイ部に衝突しないように切り欠かれており、左右方向においては、両端の凸状部と、それらを連結する中央部とが、庇部の範囲となっている。 (エ)本件登録意匠(部分意匠)の形態 本件登録意匠は、意匠登録第1663217号公報(甲第1号証)に記載のとおり、意匠に係る物品を「眼鏡用前枠」とする部分意匠であって、その形態は、下記構成態様からなる。 a 基本的構成態様 (A1)平面視において、左右方向に延びる前枠本体部の上端から後方に延出し、全体として弓状となっている。 (A2)板状であり、側面視において、前枠本体部に対して略直角となっている。 (A3)正面視において、前枠本体部の上端の上下方向に湾曲した形状に沿う形状となっている。 b 具体的構成態様 (B1)平面視において、両端の凸状部は、庇部の両端に位置し、中央部よりも更に後方に突出している。 (B2)平面視において、両端の凸状部は、凸状部の前後方向の距離:庇部の左右幅の比率が約1:15となる程度に突出している。 (B3)平面視において、両側の凸状部の外側の端部は、前枠本体部の両端より内側となっている。 (B4)平面視において、後端は、両端の凸状部の後端である突出端部から、急勾配で前方に湾曲し、その後、緩やかな線を描いて中央部に連なっており、略U字状となっている。 (B5)平面視において、中央部は、後方に延出している。 (B6)背面視において、庇部の厚みは、両端の凸状部が厚く、中央に行く程薄くなっている。 (B7)正面視において、庇部の中央部は、前枠ブリッジ部の上端の位置では、図面によって形状が一致しないためその形状が不明確であり、その部分の両端から外側に向かって、略直線的に延在している。 イ 先行周辺意匠の摘示 (ア)先行周辺意匠 甲第2号証は、中国において、本件登録意匠の出願前である、2019年6月7日に公告された意匠特許(CN305203897S)である。甲第2号証に記載の意匠(以下「先行意匠」という。)は、跳ね上げ式の前枠を有し、且つ、前枠は庇部を有している。 (イ)その他の先行周辺意匠 甲第3号証は、中国において、本件登録意匠の出願前である、2019年4月26日に公開された発明特許出願(CN109683349A)である。甲第3号証に記載の意匠は、跳ね上げ式の前枠を有し、且つ、前枠は庇部を有している。 甲第4号証は、中国において、本件登録意匠の出願前である、2019年8月16日に公告された実用新案特許(CN209265106U)である。甲第4号証に記載の意匠は、跳ね上げ式の前枠を有し、且つ、前枠は庇部を有している。 甲第5号証は、中国において、本件登録意匠の出願前である、2019年9月6日に公告された意匠特許(CN305337625S)である。甲第5号証に記載の意匠は、跳ね上げ式ではないが、前枠は庇部を有している。 甲第6号証は、中国において、本件登録意匠の出願前である、2016年4月13日に公告された実用新案特許(CN205157912U)である。甲第6号証に記載の意匠は、跳ね上げ式ではないが、前枠は庇部を有している。 甲第7号証は、中国において、本件登録意匠の出願前である、2015年12月30日に公告された実用新案特許(CN204925535U)である。甲第7号証に記載の意匠は、跳ね上げ式ではないが、前枠は庇部を有している。 甲第8号証は、中国において、本件登録意匠の出願前である、2014年5月21日に公告された実用新案特許(CN203606579U)である。甲第8号証に記載の意匠は、跳ね上げ式ではないが、前枠は庇部を有している。 甲第9号証は、中国において、本件登録意匠の出願前である、2015年5月13日に公告された実用新案特許(CN204331186U)である。甲第9号証に記載の意匠は、跳ね上げ式ではないが、前枠は庇部を有している。 甲第10号証は、中国において、本件登録意匠の出願前である、2019年1月22日に公告された実用新案特許(CN208421447U)である。甲第10号証に記載の意匠は、跳ね上げ式ではないが、前枠は庇部を有している。 甲第11号証は、中国において、本件登録意匠の出願前である、2015年9月23日に公告された実用新案特許(CN204666989U)である。甲第11号証に記載の意匠は、跳ね上げ式ではないが、前枠は庇部を有している。 ウ 先行意匠(甲第2号証)について 先行意匠は、「クイックリリースマグネットフリップグラス」(請求人提出の翻訳文より「別紙第2(甲第2号証の機械翻訳)参照」)である。 先行意匠は、下記図D及び図Eに示すように、被磁着部を備えた眼鏡と、磁着部を備えた前枠とからなる。そして、前枠は、本体部と、本体部上端から後方に延出する庇部と、本体部に取り付けられるレンズ部とを有する。また、庇部は、両端の凸状部と、両端の凸状部を連結する中央部とを有し、凸状部が中央部よりも後方に突出している。 なお、図Dは、甲第2号証に掲載された「立体図」を用いたものであり、図Eは、甲第2号証に掲載された「左視図」を用いたものである。また、前枠を取り付けた眼鏡を装着者が装着した場合、前枠側を「前」、装着の頭部側を「後」とし、前枠の幅方向を左右方向としている。 [図D] [図:0001421415000004.jpg] [図E] [図:0001421415000005.jpg] (ア)先行意匠部分(庇部)の形態 本件登録意匠に相当する先行意匠部分は、庇部であり、その形態は、下記構成態様からなる。 a 基本的構成態様 (a1)平面視において、左右方向に延びる前枠の上端から後方に延出し、全体として弓状となっている。 (a2)板状であり、側面視において、本体部に対して略直角となっている。 (a3)正面視において、本体部の上端の上下方向に湾曲した形状に沿う形状となっている。 b 具体的構成態様 (b1)平面視において、両端の凸状部は、庇部の両端に位置し、中央部よりも更に後方に突出している。 (b2)平面視において、両端の凸状部は、凸状部の前後方向の距離:庇部の左右幅の比率が約1:13となる程度に突出している。 (b3)平面視において、両側の凸状部の外側の端部は、前枠の両端より内側となっている。 (b4)平面視において、後端は、両端の凸状部の後端である突出端部から、急勾配で前方に湾曲し、その後、緩やかな線を描いて中央部に連なっており、略U字状となっている。 (b5)平面視において、中央部が、後方に延出しているか否かは図からは不明である。 (b6)背面視において、庇部の厚みは、両端の凸状部が厚く、中央に行く程薄くなっている。 (b7)正面視において、庇部の中央部は、前枠本体部のブリッジ部の上端の位置で、緩やかに下方に凹んでおり、その両端から外側に向かって、略直線的に延在している。 エ 本件登録意匠と先行意匠との対比 (ア)意匠に係る物品の対比 本件登録意匠の意匠に係る物品は、「眼鏡用前枠」であり、これに対応する先行意匠の物品は、上述した前枠である。 先行意匠の前枠も、レンズ部として、サングラス用レンズやリーディング用レンズ等を用いた状態で、通常の眼鏡に装着することにより、通常の眼鏡を跳ね上げ式のサングラスやリーディンググラスとして使用することができる。 また、当該前枠は、通常の眼鏡に装着した状態(甲第2号証「立体図」参照)から跳ね上げた場合(甲第2号証「使用状態図」参照)、庇部の下面側に設けた磁着部(甲第2号証「仰視図」参照)が、通常の眼鏡の被磁着部(甲第2号証「后視図」参照)と吸着してその状態が保持されるようになっている。 したがって、両物品は、用途及び機能が同一である。 (イ)「意匠登録を受けようとする部分」の対比 本件登録意匠の「意匠登録を受けようとする部分」は、庇部であり、これに対応する先行意匠部分は、上述した庇部である。 先行意匠の庇部は、眼鏡に装着した状態(甲第2号証「俯視図」参照)において、通常の眼鏡の上端部を覆い、眼鏡用前枠が眼鏡から脱落するのを防ぐとともに、眼鏡用前枠と眼鏡との隙間からの光の進入を防いでいる。 したがって、両部分は、用途及び機能が同一である。 (ウ)「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲の対比 先行意匠の庇部は、左右方向に延びる前枠の上端に位置している。 先行意匠の庇部は、板状であり、前枠の上端から後方に延出している(甲第2号証「左視図」「右視図」参照)。 また、凸状部の外側(中央部とは反対側)は、それぞれ、跳ね上げ時に通常の眼鏡のヨロイ部に衝突しないように切り欠かれており、左右方向においては、両端の凸状部と、それらを連結する中央部とが、庇部の範囲である。 したがって、両部分の位置、大きさ、範囲は、同一ないしは略同一である。 (エ)意匠の構成の対比 本件登録意匠と、先行意匠との構成を対比すると、以下の共通点及び差異点を有する。 a 共通点 [共通点1](基本的構成態様における共通点) 両意匠は、基本的構成態様に係る構成A1~A3と構成a1~a3において共通する。 [共通点2](具体的構成態様における共通点) 両意匠は、具体的構成態様に係る構成B1と構成b1において、両端の凸状部が、庇部の両端に位置する点で共通する。 両意匠は、具体的構成態様に係る構成Bl,B3,B4及びB6と構成b1,b3,b4及びb6において共通する。 b 差異点 [差異点1] 具体的構成態様に係る構成B2と構成b2において、本件登録意匠の凸状部の前後方向の距離:庇部の左右幅の比率が約1:15であるのに対し、先行意匠の凸状部の前後方向の距離:庇部の左右幅の比率が約1:13である点。 c 不明点 [不明点1] 具体的構成態様に係る構成B5と構成b5において、本件登録意匠の中央部は、後方に突出しているのに対し、先行意匠の中央部は、後方に突出しているのか否か不明である。よって、先行意匠の中央部が後方に突出しているのであれば、具体的構成態様に係る構成B5と構成b5は一致するので共通点となり、先行意匠の中央部が後方に突出していないのであれば、具体的構成態様に係る構成B5と構成b5は異なるので差異点となる。 [不明点2] 具体的構成態様に係る構成B7と構成b7において、本件登録意匠の中央部の形状が不明である。図Cを参照した場合、庇部の中央部は、前枠本体部のブリッジ部の上端の位置で、緩やかに下方に凹んでおり、その両端から外側に向かって、略直線的に延在しているので、具体的構成態様に係る構成B7と構成b7は共通点となる。 オ 本件登録意匠と先行意匠の類否 (ア)判断基準 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法第24条第2項)。 具体的には、意匠の類否を判断するに当たっては、意匠全体を観察した上、需要者が最も注意を惹く意匠の構成、すなわち要部がどこであるかを、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等をも斟酌して把握し、登録意匠と類否判断の対象となる意匠とが、要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して、両意匠が全体として美感を共通するか否かを判断すべきものである(平成20年2月19日東京地裁判決 平成19年(ワ)第1972号意匠権侵害差止等請求事件)。 上記判断基準に従って、本件意匠と先行意匠との類否について検討する。 (イ)両意匠の需要者 両意匠を含む物品である眼鏡は、一般的に製造業者から卸売を経て小売店で販売されるものであるから、両意匠の需要者は、取引者、及び、一般消費者である。 (ウ)意匠に係る物品の性質、用途、使用態様から見た本件登録意匠の要部 [要部1] 意匠に係る物品である眼鏡用前枠は、被磁着部を有する眼鏡と同時に用いられるものであり、単独では需要者に用途がわからないため、通常は眼鏡に取り付けた状態で陳列されるものである。 そして、眼鏡用前枠は、例えば、眼鏡用前枠のレンズ部として、サングラス用レンズやリーディング用レンズ等を用いて眼鏡のフロント部に重ねた状態(以下単に「通常状態」という。)とすることで、これらの組み合わせを、サングラスやリーディンググラスとして用いることができ、また、その状態から眼鏡用前枠を跳ね上げた状態(以下単に「跳ね上げ状態」という。)にすることで、サングラス用レンズやリーディング用レンズ等を外した通常の眼鏡として用いることができるようになっている。 このため、需要者は、通常状態と、跳ね上げ状態とで形態が変化する点に興味を示すと共に、通常状態においては、眼鏡用前枠の前枠本体部の背面側に設けられた第1磁着部が、眼鏡の被磁着部と吸着することにより、その状態が保持され、跳ね上げ状態においては、眼鏡用前枠の庇部の下面側に設けられた第2磁着部が、眼鏡の被磁着部と吸着することにより、その状態が保持されることから、磁着に関連する部分、すなわち、眼鏡の被磁着部部分と、眼鏡用前枠の第1磁着部が設けられた前枠本体部の背面側と、第2磁着部が設けられた庇部の凸状部に特に着目するといえる。 また、通常状態から跳ね上げ状態とする際には、庇部の凸状部を押し下げることになるため、この点からも庇部の凸状部の構成に着目するといえる。 してみると、部分意匠である庇部としては、凸状部が、需要者が最も注意を惹く意匠の構成であるといえる(具体的構成態様B1)。 [要部2] 眼鏡においては、眼鏡用前枠が備えられていないものの方が多いため、眼鏡用前枠自体も注目されるといえる。 また、一般的な眼鏡用前枠は、前枠本体部と庇部とを備えるものが多く存在するが(例えば、甲第5号証から甲第11号証)、平面視において、庇部の後端が直線状であるものが多く、庇部の後端が、凸状部の突出端部から、急勾配で前方に湾曲し、その後、緩やかな線を描いて中央部に連なっている形状は、需要者の注意を惹き付ける構成であるといえる(具体的構成態様B4)。 (エ)本件登録意匠と先行意匠の類否判断 [判断1] 以上を踏まえて検討すると、本件登録意匠と、先行意匠とは、上記「(ウ)意匠に係る物品の性質、用途、使用態様から見た本件登録意匠の要部」で認定した要部において、その構成態様が共通するものである。すなわち、両意匠部分は、いずれも、平面視において、両端の凸状部が、庇部の両端に位置し、中央部よりも更に後方に突出しており、且つ、後端が、両端の凸状部の後端である突出端部から、急勾配で前方に湾曲し、その後、緩やかな線を描いて中央部に連なっており、略U字状となっている。 したがって、本件登録意匠と先行意匠とは、需要者に対し、共通の美感を生じさせるものというべきである。 [判断2] 一方で、上記「エ 本件登録意匠と先行意匠との対比 (エ)意匠の構成の対比」で説明した[差異点1]において、本件登録意匠の凸状部の前後方向の距離:庇部の左右幅の比率が約1:15であるのに対し、先行意匠の凸状部の前後方向の距離:庇部の左右幅の比率が約1:13となっているが、この差異点は、要部ではなく、しかも、需要者がかなり注意深く観察しなければ認識できない程度の差異であるため、類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であるといえる。 [判断3] 同[不明点1]において、仮に、先行意匠の中央部が後方に突出していない場合、差異点となるが、この点は、そもそも、眼鏡から取り外して前枠を下面視しないと気付かれない点である。 そして、先行意匠は、眼鏡に装着した場合を含め、通常、俯角で観察するものであるし、平面視(上面視)における先行意匠の中央部を含む庇部は、本件登録意匠と同様に、弓状であり、庇部の後端がU字状となっているから、この差異点は、かかる共通点に埋没する程度の微差でしかない。 [まとめ] 以上の通り、本件登録意匠と先行意匠とは、意匠に係る物品が共通し、「意匠登録を受けようとする部分」の用途及び機能並びに位置、大きさ、範囲も共通する。 また、構成上も、両意匠の共通点は類否判断に支配的な影響を及ぼすのに対し、両意匠の差異点は限られた部位における微差に過ぎず、共通点が醸成する美感を凌駕するものではない。 したがって、本件登録意匠は、先行意匠と類似する。 (3)無効理由3(創作非容易性の欠如) 本件登録意匠は、本件意匠の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号から至甲第4号証、及び、甲第5号証から甲第11号証に記載された意匠に基づいて容易に創作をすることができたものであるから、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものであるので、本件意匠登録は同法第48条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。 先行意匠(当審注:甲第2号証に記載の意匠)の凸状部の前後方向の距離:庇部の左右幅の比率を変更することは、当業者にとってありふれた手法であり、先行意匠の庇部の中央部に、甲第5号証から甲第11号証に記載の意匠と同様に、庇部の中央部を後方に突出させた構成とすることは、軽微な改変に過ぎず、本件登録意匠は、少なくとも、先行意匠に基づいて容易に意匠の創作ができたものである。 なお、上述した内容においては、先行意匠として甲第2号証を用いているが、これを甲第3号証又は甲第4号証と置き換えても同じことがいえる。 2 証拠方法 請求人は、以下の甲第1号証から甲第11号証を、審判請求書の添付書類として提出した。 甲第1号証 意匠登録第1663217号公報(本件登録意匠) 甲第2号証 中華人民共和国意匠公報 CN305203897S 甲第3号証 中華人民共和国特許出願公報 CN109683349A 甲第4号証 中華人民共和国実用新案公報 CN209265106U 甲第5号証 中華人民共和国意匠公報 CN305337625S 甲第6号証 中華人民共和国実用新案公報 CN205157912U 甲第7号証 中華人民共和国実用新案公報 CN204925535U 甲第8号証 中華人民共和国実用新案公報 CN203606579U 甲第9号証 中華人民共和国実用新案公報 CN204331186U 甲第10号証 中華人民共和国実用新案公報 CN208421447U 甲第11号証 中華人民共和国実用新案公報 CN204666989U 第5 答弁書における被請求人の主張及び証拠方法 1 被請求人の主張 被請求人は、請求人が主張する本件登録意匠に係る無効理由1から無効理由3について、審判事件答弁書において以下のとおり主張した。 (1)無効理由1について 請求人は、「本件登録意匠は、図面の記載が相互に一致せず、登録意匠を正確に認識できないので、意匠法第3条第1項柱書の「工業上利用することができる意匠」に該当しない」旨主張する。 しかしながら、本件登録意匠の形状は意匠登録第1663217号公報(甲第1号証、以下、「本件登録意匠公報」という。)の願書添付の6面図(【正面図】、【背面図】、【平面図】、【底面図】、【右側面図】及び【左側面図】)により明確に特定されている。すなわち、請求人が述べるところの本件登録意匠の中央部の形状は、6面図のうち【正面図】及び【背面図】により明確に表されているとおり、上方にわずかに湾曲して凸状に形成されているものである。 本件登録意匠における庇部のような曲面形状は、特に斜視図等においては正確にその形状を表すことが必ずしも容易ではない場合もあるところ、その場合は6面図によって補うことで、具体的な意匠の特定を可能としている。この点について、意匠審査基準には、「意匠として保護されるのは、願書の記載及び願書に添付した図面等を通じて把握される無体の財産としての物品等に関する美的創作であるので、願書の記載及び願書に添付した図面等から、出願された意匠の内容について、具体的に導き出すことができればよく、願書に添付した図面等についてみれば、意匠の創作の内容を特定する上で必要なものが含まれていれば十分であり、また、必ずしも製品設計図面のように意匠の全体について均しく高度な正確性をもって記載されていることが必要となるものではない」と記載されている(乙第1号証:意匠審査基準・第3部・第1章「3.1意匠が具体的なものであることの要件」9頁)。また、仮に、図面に誤記や不明瞭な記載などの記載不備を有しているとしても、「その意匠の属する分野における通常の知識に基づいて総合的に判断した場合に、合理的に善解し得る」場合や、「いずれが正しいか未決定のまま保留しても意匠の要旨の認定に影響を及ぼさない程度の微細な部分についての記載不備である場合」については、なお「具体的な意匠」と判断される(乙第1号証:同9頁(a)(b))。 この点について、図面の不一致に関する裁判例である大阪地裁昭和46年12月22日判決(乙第2号証)は、意匠の特定について、「符合しない箇所を当業者の常識をもって合理的に善解しうる余地があるか、右不一致の箇所の何れが正しいかを未決定のまま保留しても、それが全体の意匠の把握に大した影響を及ぼさない程度の微細な点である場合には、可能な限り右図面の記載を統一的、綜合的に判断して創作者の意図した意匠の具体的構成の究明につとめるのが条理上自然な解釈態度である」としている。また、同じく図面の不一致に関する裁判例である大阪地裁昭和63年12月22日判決(乙第3号証)は、「侵害訴訟の場において登録意匠の内容ないしその類似範囲を検討する場合には、当該登録意匠の願書及び願書に添付した図面の記載相互間に多少の矛盾ないし不一致がみられても、そのことから直ちに当該意匠の範囲を確定不能とするのではなく、願書及び添付図面の記載内容並びに当該意匠に係る物品の性状を総合的に勘案し、当該意匠の創作者が意図した意匠の具体的な構成がどのようなものであつたかを当業者の立場から合理的、客観的に判断し、かかる観点から判断した場合に、右矛盾ないし不一致が、願書やその添付図面作成上の誤記や不手際ないし作図上の制約から生ずるものであることが理解され、具体的に構成された統一性ある意匠を想定しうる場合には、右のごとき観点から合理的に想定される意匠をもつて当該登録意匠の内容をなすものと認めるのが相当である」と説示している。 以上を踏まえると、登録意匠の内容を検討するに際して、仮に図面相互間に多少の矛盾ないし不一致がみられても、願書及び添付図面の記載内容並びに本件登録意匠に係る物品の性状を総合的に勘案し、当業者の立場から合理的、客観的に判断して、具体的に構成された統一性ある意匠を想定しうる場合は、なお具体的に特定された意匠と認められるものであると言うことができる。 以上を本件意匠に当てはめて考察するに、本件登録意匠の形状は、上述のとおり、本件登録意匠公報の願書添付の6面図(【正面図】、【背面図】、【平面図】、【底面図】、【右側面図】及び【左側面図】)により明確に特定されているため、仮に【平面側斜視図】又は【底面側斜視図】との間に厳密には一致しない箇所があったとしても、当業者の立場から合理的、客観的に判断した場合に、【平面側斜視図】又は【底面側斜視図】について曲面から構成される立体物の図面を作成する上での制約等から生ずるものであることが理解され、具体的に構成された統一性ある意匠、すなわち請求人が述べるところの本件登録意匠の中央部の形状が、上方にわずかに湾曲して凸状に形成された意匠であることを想定できるものである。 したがって、本件登録意匠は、具体的に特定された意匠であり、意匠の内容を正確に認識することができるため、意匠法第3条第1項柱書の「工業上利用することができる意匠」に該当することは明らかである。 そして、このことは、審査主義を採用する我が国の意匠制度の下、本件登録意匠が方式審査における不備で指令をかけられることも、審査において拒絶の理由の通知を受けることもなく意匠登録が認められていることからも首肯される。 以上より、本件登録意匠は願書の記載及び願書に添付された図面から具体的に特定されているものであるから、本件登録意匠が意匠法第3条第1項柱書の規定に違反して登録されたものであって無効とされるべきであるとの請求人の主張には全く理由がない。 (2)無効理由2について ア 甲第2号証に記載された意匠の形態の認定に係る請求人の主張について 請求人は、甲第2号証に記載された意匠(以下、「甲2意匠」という)に係る前枠について、「前枠は、本体部と、本体部上端から後方に延出する庇部と、本体部に取り付けられるレンズ部とを有する。また、庇部は、両端の凸状部と、両端の凸状部を連結する中央部とを有し、凸状部が中央部よりも後方に突出している」(審判請求書11頁19~22行)旨主張する。 しかしながら、甲2意匠は、請求人が示す「中央部」において、庇部自体が存在しない。すなわち、甲2意匠のうち請求人が示す「中央部」においては、そもそも、本件登録意匠と対比し得る構成自体が存在しない。 この点について、請求人自身、甲2意匠の形態に係る認定のうち、具体的構成態様(b5)で「平面視において、中央部が、後方に延出しているか否かは図からは不明である」旨自認しているが、当該中央部が後方に延出しているか否かは、意匠の骨格的形状、すなわち基本的構成態様に直結する極めて重要かつ本質的な問題である。そのため、当該中央部に係る構成を具体的構成態様レベルで認定すること自体失当である。そして、当該中央部が後方に延出しているか否か「不明」であるにも関わらず、請求人は、当該中央部が後方に延出していることを前提に甲2意匠の各構成態様(具体的構成態様(b5)を除く)を認定している。 したがって、請求人が認定する甲2意匠の各構成態様は、甲2意匠の形態について誤った理解に基づくものであるため、妥当ではない。そして、それらの構成態様を前提とした第4、1(2)エ「本件登録意匠と先行意匠との対比」及び第4、1(2)オ「本件登録意匠と先行意匠の類否」における主張は、いずれも誤った前提に基づくものであり、到底認められない。 イ 甲2意匠について 上述のとおり、甲2意匠は、請求人が示す「中央部」において、庇部自体が存在しない。 この点を立証するために、以下、甲第2号証の公報に掲載された図面を用いて、具体的に検証する。 甲2意匠の意匠に係る物品は「クイックリリースマグネットフリップグラス」(請求人提出の翻訳文より「別紙第2(甲第2号証の機械翻訳)参照」)であるところ、前枠の形態が視認しやすい【俯視図】【立体図】及び【使用状況図】を用いて、以下、それぞれ【図1-1】【図1-2】及び【図1-3】として検証結果を示す。 【図1-1】及び【図1-2】は、前枠を眼鏡本体前面(正面側)にぴったりと貼り合わせるように装着した状態を示しているところ、前枠中央上面(天面のうち、図面上で線として表れている前端及び後端の正面及び背面側に連続する角のアール部分を除く平坦部)の前後方向の長さ(【図1-1】乃至【図1-3】における赤線部分)と、眼鏡本体のブリッジ部中央上面(天面の平坦部)の前後方向の長さ(【図1-1】乃至【図1-3】における青線部分)の比率は、「1:2」である。 【図1-1】甲第2号証の俯視図 [図:0001421415000006.jpg] 【図1-2】甲第2号証の立体図 [図:0001421415000007.jpg] 【図1-3】は、前枠を眼鏡本体上方に跳ね上げて(フリップアップして)装着した状態を示しているところ、前枠中央上面の前後方向の長さと、眼鏡本体のブリッジ部中央上面の前後方向の長さの比率は、【図1-1】及び【図1-2】と同じく「1:2」である。 【図1-3】甲第2号証の使用状況図 [図:0001421415000008.jpg] ここで、仮に、甲2意匠の前枠の中央部が後方に突出しているとすれば、【図1-3】における眼鏡本体のブリッジ部中央上面の前後方向の長さは、該庇部によって覆われていた分だけ長く(少なくとも「2」よりも長く)表れるはずである。 しかしながら、【図1-3】における前枠中央上面の前後方向の長さと、眼鏡本体のブリッジ部中央上面の前後方向の長さの比率は、上述のとおり「1:2」のままである。 以上より、甲2意匠について、中央部において庇部(前枠本体に対して略直角に後方に突出して設けられた略板状部)自体存在しないことは、図面上明らかである。 なお、請求人が甲第2号証と「置き換えても同じことがいえる」(審判請求書19頁5~6行)とする甲第3号証及び甲第4号証に係る意匠(以下、それぞれ「甲3意匠」及び「甲4意匠」という)についても、甲2意匠と同じく、中央部において庇部自体存在しないため、以下、具体的に検証する。 ここでは、甲3意匠について、前枠の形態が視認しやすい【図1】【図2】及び【図3】を用いて、以下、それぞれ【図2-1】【図2-2】及び【図2-3】として検証結果を示す。なお、甲第3号証(特許出願)と甲第4号証(実用新案)は同一出願人による出願に係る公報であるところ、甲第3号証及び甲第4号証に開示された各図面は、いずれも両号証間で共通するため、以下、甲3意匠及び甲4意匠双方についてまとめて記載する。 【図2-1】(図1)は、前枠を眼鏡本体前面(正面側)にぴったりと貼り合わせるように装着した状態を示しているところ、前枠中央上面(天面のうち、図面上で線として表れている前端及び後端の正面及び背面側に連続する角のアール部分を除く平坦部)の前後方向の長さ(【図2-1】乃至【図2-3】における赤線部分)と、眼鏡本体のブリッジ部中央上面(天面の平坦部)の前後方向の長さ(【図2-1】乃至【図2-3】における青線部分)の比率は、「1:2」である。 【図2-1】甲第3号証及び甲第4号証の図1 [図:0001421415000009.jpg] 【図2-2】(図2)は前枠を眼鏡本体上方に跳ね上げて(フリップアップして)装着した状態を、【図2-3】(図3)は前枠と眼鏡本体を分離した状態を示しているところ、【図2-2】(図2)及び【図2-3】(図3)の前枠中央上面の前後方向の長さと、眼鏡本体のブリッジ部中央上面の前後方向の長さの比率は、【図2-1】(図1)と同じく「1:2」である。 【図2-2】甲第3号証及び甲第4号証の図2 [図:0001421415000010.jpg] 【図2-3】甲第3号証及び甲第4号証の図3 [図:0001421415000011.jpg] ここで、仮に、甲3意匠及び甲4意匠の前枠の中央部が後方に突出しているとすれば、【図2-2】(図2)及び【図2-3】(図3)における眼鏡本体のブリッジ部中央上面の前後方向の長さは、該庇部によって覆われていた分だけ長く(少なくとも「2」よりも長く)表れるはずである。 しかしながら、【図2-2】(図2)及び【図2-3】(図3)における前枠中央上面の前後方向の長さと、眼鏡本体のブリッジ部中央上面の前後方向の長さの比率は、上述のとおり「1:2」のままである。 さらに、【図2-1】(図1)の前枠中央付近を拡大した【図2-1-1】において黄緑色で示す部分には、前枠背面側上端の一部が表れているところ、前枠と眼鏡本体を分離した状態を示す【図2-3】(図3)の前枠中央付近を拡大した【図2-3-1】において黄緑色で示す相当部分には、庇部に相当する段差等を表現する輪郭線(形状線等)は見られない。 【図2-1-1】【図2-1】(図1)の前枠中央付近を拡大した参考図 [図:0001421415000012.jpg] 【図2-3-1】【図2-3】(図3)の前枠中央付近を拡大した参考図 [図:0001421415000013.jpg] 以上より、甲3意匠及び甲4意匠について、中央部において庇部(前枠本体に対して略直角に後方に突出して設けられた略板状部)自体存在しないことは、図面上明らかである。 上記に加えて、甲3意匠及び甲4意匠については、図面のみならず願書(説明書)の記載からも、中央部において庇部自体存在しないことが強く推認されるため、以下、補足的にその理由を述べる。なお、甲第3号証(特許出願)及び甲第4号証(実用新案)の願書(説明書)の記載は、その要旨において共通するため、以下、甲第3号証について記載する。 甲第3号証の願書(説明書)には、前枠(甲第3号証では「20-副鏡框」)に関する説明がいくつか記載されているところ、例えば、甲第3号証公報5頁には下記のとおり記載されている(請求人提出の「甲第3号証の機械翻訳」。下線被請求人)。 本実施例の中に、前記磁気吸着部30は含んでサブミラーの枠20と主ミラーの枠10が貼り合わせる時、サブミラーの枠に位置して20の頂部主ミラーの枠10に方向に延びて、且つ主ミラーの枠10の頂部相殺が接触する組み立てた掛部31と、前記掛部31およびサブミラーの枠20の筐体上を組み立てていずれも副吸着ブロック32が設けられていて、前記磁気吸着部は主ミラー枠上設置に位置するメイン吸着ブロック33を含む。 上記の構造中、搭掛部31は副眼鏡フレーム20がメイン眼鏡フレーム10と貼り合わせる時副眼鏡フレーム20を保証して重力方向が直交して衝突される時依然としてメイン眼鏡フレーム10上に掛かることができ、副眼鏡フレーム20はメイン眼鏡フレーム10と副吸着ブロック32によってメイン吸着ブロック33と互いに固定を実現することと相互に吸引する。 上記日本語訳は機械翻訳であることもあってにわかには判読し難いが、上記引用箇所のうち下線部について、原文に基づき被請求人において敷衍すれば、それぞれ下記の趣旨と理解される(説明の便宜のため、甲第3号証における【図1】【図4】及び【図6】を貼付する)。 [0037]磁性吸附部30(両端部)は、副鏡框20(前枠)と主鏡框10(眼鏡本体)が貼り合わされる際に、副鏡框20(前枠)の上部から主鏡框10(眼鏡本体)の方向に延伸し、主鏡框10(眼鏡本体)の上部と接触する搭挂部31(凸状部)を含む [0038]搭挂部31(凸状部)は、副鏡框20(前枠)と主鏡框10(眼鏡本体)が貼り合わされる際に、副鏡框20(前枠)が垂直方向の重力を受けても主鏡框10(眼鏡本体)に掛かり続けることができるように保持するものである。 [図:0001421415000014.jpg] [図:0001421415000015.jpg] [図:0001421415000016.jpg] 一方で、上記の磁性吸附部30(両端部)(搭挂部31(凸状部)を含む)以外に、庇部に相当する構成(すなわち、副鏡框20(前枠)の上部から主鏡框10(眼鏡本体)の方向に延伸する構成)を有するといった記載は一切見られない。また、前枠と眼鏡本体の接着態様について、下線部中「副鏡框20与主鏡框10貼合」(副鏡框20(前枠)と主鏡框10(眼鏡本体)を貼り合わす)と表現されていることからも、磁性吸附部30(両端部)(搭挂部31(凸状部)を含む)を除いて、前枠を眼鏡本体に掛止しうるような庇部等の構成は備えていないことが想定される。 そのため、甲第3号証の願書(説明書)の記載を総合して考察すれば、甲3意匠の前枠について、庇部に相当する構成(副鏡框20(前枠)の上部から主鏡框10(眼鏡本体)の方向に延伸する構成)を有するのは、磁性吸附部30(両端部)(搭挂部31(凸状部)を含む)のみであり、前枠の中央部には庇部に相当する構成自体存在しないと理解するのが自然な解釈であると言える。 よって、甲3意匠及び甲4意匠については、願書(説明書)の記載からも、前枠の中央部において庇部自体存在しないことが強く推認される。 上述した甲2意匠(並びに甲3意匠及び甲4意匠)に係る正確な理解に基づき、以下、本件登録意匠と、甲第2号証に記載された意匠のうち、本件登録意匠の意匠登録を受けている部分(以下、「本件意匠部分」という)と対比し得る部分(以下、「甲2意匠部分」という)の形態について、それぞれ認定する。 ウ 本件意匠部分の形態 本件意匠部分の構成態様は次のとおりである。下記の【図3-1】乃至【図3-5】は、当該構成態様の説明を補助する図面である。 (ア)基本的構成態様 A1 前枠本体上端部において、前枠左右方向の略全幅に亘って前枠本体に対して略直角に後方に突出して設けられた略板状の庇部であって、庇部左右端部に凸状部が形成され、平面視において全体として緩やかな略U字状としたものである。 (イ)具体的構成態様 B1 凸状部について、平面視において庇部の左右端部より略垂直に立ち上がり、上端で突出端部を形成し、次いで内側へ向かってえぐられるような湾曲線を描いて傾斜し、庇部に一体的に連続している。 B2 凸状部について、背面視において内側から外側にいくにしたがって下方に向けて緩やかに傾斜している。 B3 凸状部について、背面視において内側から外側にいくにしたがって徐々に厚みが増している。 B4 平面視における凸状部の高さについて、凸状部の外端側の前後方向の長さ:庇部の左右方向の幅の比率が約1:15である。 B5 庇部の上面について、リム部に相当する部分は正背面視において略直線状に左右方向に延在するとともに、ブリッジ部に相当する部分は凹状に落ち込んでおり、庇部の上下方向の落差:庇部全体の左右方向の幅の比率は約1:16.5である。 B6 庇部の前後方向の幅について、ブリッジ部に相当する部分の幅:庇部全体の左右方向の幅の比率は約1:33である。 【図3-1】各部名称を示す参考図(平面側斜視図) [図:0001421415000017.jpg] 【図3-2】各部名称を示す参考図(底面側斜視図) [図:0001421415000018.jpg] 【図3-3】具体的構成態様B1、B4に係る参考図(平面図) [図:0001421415000019.jpg] 【図3-4】具体的構成態様B2、B3、B5に係る参考図(背面図) [図:0001421415000020.jpg] 【図3-5】具体的構成態様B6に係る参考図(平面図) [図:0001421415000021.jpg] エ 甲2意匠部分の形態 甲2意匠部分の構成態様は次のとおりである。下記の【図4-1】乃至【図4-3】は、当該構成態様の説明を補助する図面である。また、あわせて後述の【図5-2】も参照されたい。 (ア)基本的構成態様 a1 前枠本体上端部の左右端部付近において、前枠本体に対して略直角に後方に突出して離隔して形成された一対の略板状の凸状部であって、平面視において略変形台形状が対向する略逆「ハ」の字状としたものである。 (イ)具体的構成態様 b1 凸状部について、平面視において前枠本体上端部の左右端部より略垂直に立ち上がり、上端で突出端部を形成し、次いで内側へ向かってえぐられるような湾曲線を描いて傾斜し、前枠リム部の略中央付近で終端している。 b2 凸状部について、背面視において内側から外側にいくにしたがって上方に向けて緩やかに傾斜している。 b3 凸状部について、背面視において内側から突出端部にいくにしたがって徐々に厚みが増した後、突出端部から外側にいくにしたがって徐々に薄くなっている。なお、甲2意匠は凸状部底面側の磁着部(本件意匠における破線部分に相当)の構成が必ずしも明確ではないが、背面視における凸状部(突出端部)の左右外端の上下方向の長さ(本件意匠における実線部分に相当)が、凸状部(突出端部)の左右内端部分の上下方向の長さに比して短いため、磁着部の構成に不明な点があったとしても、前段の具体的構成態様(すなわち、「背面視において内側から突出端部にいくにしたがって徐々に厚みが増した後、突出端部から外側にいくにしたがって徐々に薄くなっている」構成態様)が強く推認できるものと思料する。 【図4-1】各部名称を示す参考図(立体図) [図:0001421415000022.jpg] 【図4-2】具体的構成態様b1に係る参考図(俯視図) [図:0001421415000023.jpg] 【図4-3】具体的構成態様b2、b3に係る参考図(后視図) [図:0001421415000024.jpg] なお、上述のとおり、甲2意匠は、中央部(【図5-2】における前枠中央付近と前枠リム部の略中央付近)においてそもそも庇部自体が存在しないことから、中央部に庇部が存在することを前提とする本件意匠部分に係る具体的構成態様(B4)乃至(B6)に相当する構成は認定しえない。 ここで、本件意匠部分(下記【図5-1】の赤着色部分)と対比し得る甲2意匠部分をあえて模式的に図示すれば、下記【図5-2】の赤着色部分あたりが想定される。 【図5-1】本件意匠部分(赤着色部分) [図:0001421415000025.jpg] 【図5-2】甲2意匠部分(赤着色部分) [図:0001421415000026.jpg] オ 本件意匠部分と甲2意匠部分の形態の対比 本件意匠部分と甲2意匠部分の共通点及び差異点は次のとおりである。 [共通点] (ア)凸状部について、平面視において庇部又は前枠本体上端部の左右端部より略垂直に立ち上がり、上端で突出端部を形成し、次いで内側へ向かってえぐられるような湾曲線を描いて傾斜している点(具体的構成態様B1とb1の一部) [差異点] (イ)本件意匠部分は「前枠本体上端部において、前枠左右方向の略全幅に亘って前枠本体に対して略直角に後方に突出して設けられた略板状の庇部であって、庇部左右端部に凸状部が形成され、平面視において全体として緩やかな略U字状としたものである」のに対して、甲2意匠部分は「前枠本体上端部の左右端部付近において、前枠本体に対して略直角に後方に突出して離隔して形成された一対の略板状の凸状部であって、平面視において略変形台形状が対向する略逆「ハ」の字状としたものである」点(基本的構成態様A1とa1) (ウ)凸状部について、本件意匠部分は「(湾曲線を描いて傾斜し、)庇部に一体的に連続している」のに対して、甲2意匠部分は「(湾曲線を描いて傾斜し、)前枠リム部の略中央付近で終端している」点(前記具体的構成態様B1とb1の一部) (エ)凸状部について、本件意匠部分は「背面視において内側から外側にいくにしたがって下方に向けて緩やかに傾斜している」のに対して、甲2意匠部分は「背面視において内側から外側にいくにしたがって上方に向けて緩やかに傾斜している」点(具体的構成態様B2とb2) (オ)凸状部について、本件意匠部分は「背面視において内側から外側にいくにしたがって徐々に厚みが増している」のに対して、甲2意匠部分は「背面視において内側から突出端部にいくにしたがって徐々に厚みが増した後、突出端部から外側にいくにしたがって徐々に薄くなっている」点(具体的構成態様B3とb3) (カ)平面視における凸状部の高さについて、本件意匠部分は「凸状部の外端側の前後方向の長さ:庇部の左右方向の幅の比率が約1:15である」のに対して、甲2意匠部分は、前枠の中央部においてそもそも庇部自体が存在しないため、当該比率を認定し得ない点(具体的構成態様B4) (キ)庇部の上面について、本件意匠部分は「リム部に相当する部分は正背面視において略直線状に左右方向に延在するとともに、ブリッジ部に相当する部分は凹状に落ち込んでおり、庇部の上下方向の落差:庇部全体の左右方向の幅の比率は約1:16.5である」のに対して、甲2意匠部分は、前枠の中央部においてそもそも庇部自体が存在しないため、当該比率を認定し得ない点(具体的構成態様B5) (ク)庇部の前後方向の幅について、本件意匠部分は「ブリッジ部に相当する部分の幅:庇部全体の左右方向の幅の比率は約1:33である」のに対して、甲2意匠部分は、前枠の中央部においてそもそも庇部自体が存在しないため、当該比率を認定し得ない点(具体的構成態様B6) カ 本件意匠部分と甲2意匠部分の用途及び機能の対比 本件意匠部分は、前枠本体上端部の左右方向の略全幅に亘って設けられた庇部であるところ、前枠本体をサングラス等の使用目的で眼鏡本体に装着した状態において、眼鏡本体のリム上端部全体を覆い、前枠本体が眼鏡本体から脱落するのを防ぐとともに、前枠と眼鏡本体との隙間からの光の進入を防ぐものである(甲第1号証【意匠に係る物品の説明】参照)。また、庇部左右端部に形成した凸状部は、前枠本体の着脱に際して、当該凸状部を手指等で押し下げることで、容易に前枠本体を跳ね上げることを可能にするものである。 これに対して、甲2意匠部分は、前枠本体上端部の左右端部付近において離隔して形成された一対の凸状部であるところ、前枠本体の眼鏡本体への掛止及び跳ね上げといった機能は想定しうるものの、眼鏡本体のリム上端部全体を覆うほどの庇部は設けられていないことから、光の進入を防ぐといった機能は期待し難い。 したがって、両意匠部分はその用途及び機能において相違する。 キ 本件意匠部分と甲2意匠部分の位置・大きさ・範囲の対比 本件意匠部分は、前枠本体上端部の位置において、前枠左右方向の略全幅の範囲に亘って存在するものである。 これに対して、甲2意匠部分は、前枠本体上端部の左右端部付近の位置において、互いに離隔して(物理的に分離した範囲において)存在するに留まるものでる。 したがって、両意匠部分は物品全体における位置、大きさ及び範囲において明らかに相違する。 ク 本件意匠部分と甲2意匠部分との類否 新規性(意匠法第3条1項3号)に係る審査においては、「両意匠の形状等における各共通点及び差異点についての個別評価に基づき、意匠全体として両意匠の全ての共通点及び差異点を総合的に観察した場合に、需要者(取引者を含む) に対して異なる美感を起こさせるか否か」という観点から類否判断される(乙第4号証:意匠審査基準・第2部・第2章「2.2.2.7 総合的な類否判断」9頁)。そして、意匠が類似するためには、原則として、意匠に係る物品等の全体の形状等(基本的構成態様)が共通することが必要である(乙第4号証:同上)。 本件意匠部分と甲2意匠部分は、基本的構成態様において明らかに相違する。すなわち、本件意匠部分は「前枠本体上端部において、前枠左右方向の略全幅に亘って前枠本体に対して略直角に後方に突出して設けられた略板状の庇部であって、庇部左右端部に凸状部が形成され、平面視において全体として緩やかな略U字状としたものである」のに対して、甲2意匠部分は「前枠本体上端部の左右端部付近において、前枠本体に対して略直角に後方に突出して離隔して形成された一対の略板状の凸状部であって、平面視において略変形台形状が対向する略逆「ハ」の字状としたものである」点において相違する(差異点(イ))。 そして、本件意匠部分の基本的構成態様、すなわち「前枠本体上端部において、前枠左右方向の略全幅に亘って前枠本体に対して略直角に後方に突出して設けられた略板状の庇部であって、庇部左右端部に凸状部が形成され、平面視において全体として緩やかな略U字状とした」ものは公知意匠(甲第2号証から甲第11号証)には見られない新規で斬新な態様であることから、需要者の注意を強く惹きつける構成であると言える。なお、請求人は「庇部の後端が、凸状部の突出端部から、急勾配で前方に湾曲し、その後、緩やかな線を描いて中央部に連なっている形状」(すなわち、平面視略U字状の形状)は、「需要者の注意を惹き付ける構成であるといえる」(審判請求書17頁19~21行)と述べているため、「平面視において全体として緩やかな略U字状とした」構成が需要者の注意を惹き付け、類否判断に影響を及ぼすことは、請求人自身も認めている。 したがって、基本的構成態様に係る差異点(イ)は、両意匠部分の形態に係る決定的な差異として類否判断に支配的な影響を及ぼすものであり、両意匠部分全体として比較すれば、需要者に対して互いに全く異なった美感を与えるものである。 さらに、両意匠部分は、凸状部の具体的構成態様においても相違する。すなわち、凸状部について、本件意匠部分は「(平面視において庇部の左右端部より略垂直に立ち上がり、上端で突出端部を形成し、次いで内側へ向かってえぐられるような湾曲線を描いて傾斜し、)庇部に一体的に連続している」のに対して、甲2意匠部分は「(平面視において前枠本体上端部の左右端部より略垂直に立ち上がり、上端で突出端部を形成し、次いで内側へ向かってえぐられるような湾曲線を描いて傾斜し、)前枠リム部の略中央付近で終端している」(差異点(ウ))。また、本件意匠部分は「背面視において内側から外側にいくにしたがって下方に向けて緩やかに傾斜している」のに対して、甲2意匠部分は「背面視において内側から外側にいくにしたがって上方に向けて緩やかに傾斜している」(差異点(エ))。さらに、本件意匠部分は「背面視において内側から外側にいくにしたがって徐々に厚みが増している」のに対して、甲2意匠部分は「背面視において内側から突出端部にいくにしたがって徐々に厚みが増した後、突出端部から外側にいくにしたがって徐々に薄くなっている」(差異点(オ))。 当該凸状部は、前枠本体を跳ね上げる際に、需要者が直接触れる部分であり、両意匠部分全体の中で比較的目立つ部分であることから、需要者が一定の注意をもって観察する部分であると言える。この点について、請求人自身も「凸状部が、需要者が最も注意を惹く意匠の構成である」と述べている(審判請求書17頁12~13行)。そして、本件意匠部分の凸状部は、「(湾曲線を描いて傾斜し、)庇部に一体的に連続している」ため、「平面視において全体として緩やかな略U字状」の滑らかで曲線的な庇部の美感を強く印象付けるものである。また、本件意匠部分は「背面視において内側から外側にいくにしたがって下方に向けて緩やかに傾斜している」ため、眼鏡本体のリムの形状(緩やかな湾曲形状)に沿うように自然にフィットするとともに、「背面視において内側から外側にいくにしたがって徐々に厚みが増している」ため、庇部の存在も相俟って、前枠本体上端部分に量感のある安定的な美感を創出している。一方で、甲2意匠部分の凸状部は、「(湾曲線を描いて傾斜し、)前枠リム部の略中央付近で終端している」ため、平面視で終端付近が鋭利に表れることから、シャープな美感を強く印象付けるものである。また、甲2意匠部分は「背面視において内側から外側にいくにしたがって上方に向けて緩やかに傾斜している」ため、上掲【図4-3】(后視図)からも明らかなように、凸状部が眼鏡本体のリムから離れて内外方向に向かって直線的に浮くように表れるとともに、「背面視において内側から突出端部にいくにしたがって徐々に厚みが増した後、突出端部から外側にいくにしたがって徐々に薄くなっている」ため、庇部を備えない構成と相俟って、前枠本体上端部分に軽快で不安定な印象を与えている。 したがって、需要者が注目する凸状部の具体的構成態様に係る差異点(ウ)乃至(オ)は、本物品を眼鏡本体に装着して使用する際に眼鏡の装用者(需要者)から特に視認されやすい平面視及び背面視方向における明らかな形態的差異であり、需要者に対して対照的な美感を強く与えるものであるから、類否判断に一定の影響を及ぼすものであると言える。 なお、差異点(カ)乃至(ク)は、両意匠部分の基本的構成態様の相違に係る庇部の有無に起因する相違であるところ、上述のとおり基本的構成態様に係る差異点(イ)は類否判断に支配的な影響を及ぼすものであるため、差異点(イ)に係る相違と相俟って、類否判断に一定の影響を及ぼすものであると評価できる。 加えて、上述のとおり、両意匠部分は、その用途及び機能においても異なり、物品全体における位置、大きさ及び範囲についても明らかに相違する。 一方で、本件意匠部分と甲2意匠部分は、凸状部について「平面視において庇部又は前枠本体上端部の左右端部より略垂直に立ち上がり、上端で突出端部を形成し、次いで内側へ向かってえぐられるような湾曲線を描いて傾斜している点」(共通点(ア))において共通する。 しかしながら、両意匠部分が基本的構成態様からして異なる前にあっては、凸状部の具体的構成態様の一部のみに着目した部分的な共通点に過ぎないため、共通点(ア)が与える印象が、当該基本的構成態様に係る差異点(イ)が与える印象を凌駕するとは到底言えない。なお、「えぐられるような湾曲線」については、共通点として挙げたものの、本件意匠部分が庇部に一体的に連続する滑らかな二次曲線的印象であるのに対し、甲2意匠部分は前枠リム部の略中央付近の終端に向かうやや直線的印象が強い。 したがって、共通点(ア)が類否判断に与える影響は微弱であると言わざるを得ない。 以上を総合して考察するに、本件意匠部分と甲2意匠部分は、基本的構成態様、すなわち、意匠の骨格的形状からして明らかに異なるため、当該差異点(イ)は類否判断に決定的な影響を与えている。また、差異点(ウ)乃至(ク)は、差異点(イ)が与える互いに異なった印象を一層増幅させるものである。すなわち、本件意匠部分が、両意匠部分全体として、需要者に対して「翼を広げたような曲線的な優美で安定的な美感」を強く訴求する一方で、甲2意匠部分は「離隔した一対の破片のような直線的な軽快でシャープな美感」を醸成している。 さらに、両意匠部分は、その用途及び機能においても異なり、物品全体における位置、大きさ及び範囲においても明らかに相違するため、これらの相違が類否判断に与える影響も重視されるべきである。 他方、凸状部に係る共通点(ア)については、基本的構成態様が相違する前にあっては、凸状部の一部の構成にのみに着目した部分的な共通点に過ぎず、差異点(イ)乃至(ク)が与える印象に埋没するものである。 したがって、両意匠部分は、意匠全体として総合的に観察した場合に、差異点が共通点を遥かに凌駕し、需要者(取引者を含む) に対して異なる美感を起こさせるものであるため、非類似の意匠である。 以上より、本件登録意匠は甲第2号証に記載の意匠に類似するものではないから、本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号の規定に違反して登録されたものであって無効とされるべきであるとの請求人の主張には全く理由がない。 なお、請求人は、両意匠部分の類否に係る判断基準として、要部認定を前提とする判断基準を定立しているが(審判請求書16頁5~11行)、当該判断基準は主として意匠権侵害訴訟における類否判断に際して採用されるものである(代表的裁判例として、例えば、「自走式クレーン事件」(平成9年(ネ)第404号)等が挙げられる)。そのため、新規性(意匠法第3条1項3号)に係る審査・審判に際して採用するのは適切ではないと被請求人は考える。また、仮に、当該判断基準の採用が許容されたとしても、[要部1](審判請求書16頁19行~17頁13行)、[要部2](審判請求書17頁14~21行)のように異なる構成態様を要部として並列的に認定するのは、規範に対するあてはめとして妥当ではない。 (3)無効理由3について 請求人は、「先行意匠の凸状部の前後方向の距離:庇部の左右幅の比率を変更することは、当業者にとってありふれた手法」である旨主張する(審判請求書18頁28行~19頁1行)。 しかしながら、上掲の「(2)無効理由2について」の「イ 甲2意匠について」にて詳細に主張立証しているとおり、甲2意匠は請求人が示す「中央部」において、庇部自体が存在しない。そのため、そもそも「先行意匠の凸状部の前後方向の距離:庇部の左右幅の比率」自体存在しない(認定し得ない)ことから、当業者にとって「比率を変更すること」自体不可能である。そして、甲2意匠の中央部において存在しない庇部を、本件意匠部分として形成することは、新たな造形の創出にほかならないため、当該庇部の創出が当業者にとって「ありふれた手法」であるはずがない。 したがって、「先行意匠の凸状部の前後方向の距離:庇部の左右幅の比率を変更することは、当業者にとってありふれた手法」であるとする請求人の主張は妥当ではない。 また、請求人は、「先行意匠の庇部の中央部に、甲第5号証から甲第11号証に記載の意匠と同様に、庇部の中央部を後方に突出させた構成とすることは、軽微な改変に過ぎ」ない旨主張する(審判請求書19頁1~3行)。 しかしながら、甲第5号証から甲第11号証に記載された意匠は、いずれも跳ね上げ式前枠に係るものではないため、庇部を備えない跳ね上げ式前枠である甲2意匠とはその用途及び機能において明らかに異なる。そのため、そもそも庇部が存在しない甲2意匠について、用途及び機能の異なる甲第5号証から甲第11号証に記載された意匠と同様に庇部の中央部を後方に突出させた構成とすることは、「軽微な改変」には全く当たらない。 したがって、「先行意匠の庇部の中央部に、甲第5号証から甲第11号証に記載の意匠と同様に、庇部の中央部を後方に突出させた構成とすることは、軽微な改変に過ぎ」ないとする請求人の主張は妥当ではない。 なお、甲第5号証から甲第11号証には前枠上端において後方への突出部が表されているが、多くはごく幅狭に形成されたものであり、また、眼鏡本体に前枠本体を掛止するための係止爪部やフック部などを別途付加して備える等に留まるものである。また、甲第5号証から甲第11号証において、本件意匠部分のように前枠と眼鏡本体との隙間からの光の侵入を防ぐといった機能については何ら開示されていない。 さらに、甲第5号証から甲第11号証に記載された意匠は、平面視における突出部上端(前後方向における後端)の形状について、多くは単調な直線状であるため、本件意匠部分の庇部のように、平面視で略U字状に表れるように深く滑らかな湾曲線を描くものではない。そして、この点については、請求人が一般的な眼鏡用前枠について「平面視において、庇部の後端が直線状であるものが多」いと述べていることから(審判請求書17頁18~19行)、請求人自身も認めている。 よって、甲2意匠部分と甲第5号証から甲第11号証に記載された意匠とから、本件意匠部分を創作することは到底できない。すなわち「意匠の創作は、個々の構成態様だけではなく、それらの結合に基づく全体としての美観を基準として判断すべきものである」(乙第5号証:「収納容器」無効審判審決取消事件_令和5年(行ケ)第10001号)ところ、本件登録意匠のように、凸状部と庇部が一体となって滑らかな湾曲線を描きながらまとまりよく結合し、前枠本体上端の左右方向の略全幅に亘る略U字状の庇部全体として「翼を広げたような曲線的な優美で安定的な美感」を創出している意匠は、直線的な軽快でシャープな美感を呈する甲第2号証から甲第4号証や「庇部の後端が直線状」の甲第5号証から甲第11号証には見られないものであり、高度な創作性が発揮された本件登録意匠独自の造形である。 したがって、本件登録意匠は、「ありふれた手法」又は「軽微な改変」によるものでないことは明らかである。 以上より、本件登録意匠は甲第2号証から甲第4号証、及び、甲第5号証から甲第11号証に記載された意匠に基づいて容易に創作できたものではないから、本件登録意匠が意匠法第3条第2項の規定に違反して登録されたものであって無効とされるべきであるとの請求人の主張には全く理由がない。 2 証拠方法 被請求人は、以下の乙第1号証から乙第5号証を、審判事件答弁書の添付書類として提出した。 乙第1号証 意匠審査基準・第3部・第1章 乙第2号証 大阪地裁昭和46年12月22日判決(昭和44年(ワ)第3847号) 乙第3号証 大阪地裁昭和63年12月22日判決(昭和59年(ワ)第6494号) 乙第4号証 意匠審査基準・第2部・第2章 乙第5号証 知財高裁令和5年5月31日判決(令和5年(行ケ)第10001号) 第6 口頭審理 本件審判事件について、当審は、令和5年12月27日付で、次の事項に係る追加説明を求める旨等を記載した審理事項通知書を請求人及び被請求人に送付した。 【請求人】無効理由2(法3条1項3号)について 「[不明点1]具体的構成態様に係る構成B5と構成b5において、本件登録意匠の中央部は、後方に突出しているのに対し、先行意匠の中央部は、後方に突出しているのか否か不明である。」(審判請求書15頁15~18行目)に関し、「先行意匠」(甲第2号証に表された意匠)の該部形状について。 【被請求人】無効理由1(法3条1項柱書)について 「本件登録意匠の形状は・・・願書添付の6面図・・・により明確に特定されている。・・・本件登録意匠における庇部のような曲面形状は、特に斜視図等においては正確にその形状を表すことが必ずしも容易ではない場合もある・・・」(審判事件答弁書4頁10~17行目)に関し、本件登録意匠の前枠中央ブリッジ部が具体的にどのような立体形状として特定されているといえるのか。 これに対して、請求人からは令和6年2月13日に、被請求人からは同年2月14日に、それぞれ口頭審理陳述要領書の提出があり、これらを受けて、同年2月29日に口頭審理を行った。 1 請求人の主張 請求人は、口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書」という。)に基づき、以下のとおり意見を述べた。 (1)無効理由1(意匠法第3条第1項柱書)について 被請求人は令和5年12月11日付審判事件答弁書4頁15~17行において、「すなわち、請求人が述べるところの本件登録意匠の中央部の形状は、6面図のうち【正面図】及び【背面図】により明確に表されている通り、上方に僅かに湾曲して凸状に形成されているものである。」と断言する。 しかし、既に請求人が無効審判申立書において指摘したように、本件登録意匠【平面側斜視図】及び【底面側斜視図】において、中央部の形状は下方に湾曲して凸状に形成されていることが一致しており、明確に特定されている。 互いに一致する図面が複数組ある本件登録意匠において、一方が明確に特定されているといって、他方を無視することはできない。 被請求人は自らの主張に反すること、すなわち上記【平面側斜視図】及び【底面側斜視図】の一致については何ら言及していない。 したがって、上記の断言には根拠がない。 本件登録意匠は、一致する図面が複数組あることから、上方に凸状の意匠と、下方に凸状の意匠との2つの意匠が出願に含まれており、明らかに一意匠一出願の原則に反するものである。 更に述べると、意匠は物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合についての権利である(意匠法第2条第1項)。 また、本項で論議される中央部は、実線で示されており意匠を構成する。さらに、中央部はメガネのいわゆるブリッジの上辺であり、鼻の凹凸に影響されないため自由にその形状をデザイン可能な部分でもある。 これについて、出願人が上方に凸状となる形状としたのか、下方に凸状となる形状としたのかについては、いずれの可能性もありうるところ、第三者はどちらが選択されたものか本件意匠公報から知りえない。 また、上方に凸か、下方に凸かの違いは本件登録意匠部分を構成する部分の形状の違いであるから「いずれが正しいか未決定のまま保留しても意匠の要旨の認定に影響を及ぼさない程度の微細な部分についての記載不備」(乙第1号証9頁(a)(b))とは言えないし、「右不一致の箇所の何れが正しいか未決定のまま保留しても、それが全体の意匠の把握に対し大した影響を及ぼさない程度の微細な点である」(乙第3号証)とも言えない。 また、上記2通りの可能性がある以上、「当業者の常識を以って合理的に善解しうる余地がある」(乙第3号証)場合にもあたらない。 さらに、上方に凸か下方に凸かの違いは、線の曲率を変更するだけで容易に描写できるものであるから、本件意匠公報における図面の不一致は「製品設計図面のように意匠の全体について均しく高度な正確性をもって記載されている」(乙第1号証9頁)か否かの問題ではなく、意匠審査基準の「意匠の内容について、具体的に導き出すことができ」(乙第1号証9頁)るか否かの問題である。 そして、上記の通り本件意匠公報においては、2種類の中央部が記載されており、いずれも互いに一致する図面が存在する。そして、当該2種類の中央部は、どちらも物品の形状として採用し得るところであるから、本件意匠公報の図面より、意匠を具体的に導き出すことができない。 (2)無効理由2(意匠法第3条第1項第3号)について 被請求人は、甲第2号証記載の意匠について、庇部の中央部が存在しないことを、甲第2号証記載の各図面を計測することによって論証しようとする。 しかしながら、意匠の図面は「製品設計図面のように意匠の全体について均しく高度な正確性をもって記載されていることが必要となるものではない」(乙第1号証:「意匠審査基準」9頁)以上、意匠公報記載の図面を計測したところで、その裏付けを得られないことは自明である。 そして、甲第2号証記載の図面(特に「俯視図」)において、庇部は中央部においても左右から連続し、途切れていない。 さらに、被請求人が「庇部に段差等を表現する輪郭線(形状線等)は見られない。」(14頁11~12行)として適示する【図2-1】(12頁)、【図2-1-1】(14頁)及び【図2-3-1】(15頁)において、被請求人が付した「1」の幅を示す線の直下には、庇部の左右端部から連続して庇部後方の面取り(下記【図1】赤色の矢印)、及び庇部の上下方向の厚み部分(下記【図1】水色の矢印)が示されている。 すなわち、上下方向の厚みがある。 さらに、甲第2号証の前枠及び眼鏡は入り組んだ形状であるにも関わらず、中央部においても両者に隙間はない。 したがって、中央部においても厚みがあり、眼鏡との隙間がないことから、中央部においても庇部は後方に突出している可能性を否定できない。被請求人は、この点を看過して甲第2号証記載の意匠においては、庇部中央部が存在しないと強弁するものである。 なお、被請求人は、甲第2号証の「立体図」は等角投影図法によって作成されているから同図の記載を計測しての主張には十分な裏付けがある旨、及び、日本の意匠審査基準を当てはめて解釈するのは妥当でない旨を主張するが(後記2(3)参照)、被請求人によるこれらの主張を否認するとともに、甲第2号証の「立体図」の認定について、追って上申書を提出する。 【図1】甲第2号証「立体図」(矢印は請求人が付したもの) [図:0001421415000027.jpg] したがって、20頁以下の被請求人による本件意匠と甲2意匠の対比は、そもそも甲2意匠の認定を誤っているものであるから、前提を欠き対比として不適当である。 例えば、28頁(力)~(ク)、及び29頁キは甲2意匠において庇部中央部分が存在するか不明である以上、一方的な解釈に過ぎない。 また、甲第2号証において中央部の庇部中央が全く後方に突出していない形状も、左右端部と比べて小さい幅で突出した形状もありうるため、甲第2号証にはその両方が開示されているといえる。少なくとも、中央部においても左右から連続する庇部が開示されている。 また、被請求人は甲2意匠について「眼鏡本体のリム状端部全体を覆うほどの庇部は設けられていないことから、光の進入を防ぐといった機能は期待し難い。」(28頁26~28行)とするが、本件意匠公報【意匠に係る物品の説明】には本件意匠部分について「本物品と眼鏡との隙間からの光の進入を防ぐものである」とのみ記載している。 上述【図1】や甲第2号証「俯視図」に示されるように、甲第2号証記載の意匠において前枠(「本物品」に相当する)と眼鏡との間は、庇部によって隙間なく完全に覆われており、本件意匠公報記載のように“眼鏡との隙間からの光の進入を防ぐものである”といえる。 被請求人は当該光の進入について、前枠と眼鏡との間を、敢えて前枠又は眼鏡と顔との間からの光の進入に恣意的に誤読させ、意匠公報の記載外の事項を本件意匠の解釈に用いるものであり、本件意匠を正確に理解していない。 本件意匠と甲2意匠との対比について、無効審判申立書記載の通りである。 (3)無効理由3(意匠法第3条第2項)について 上記の通り、甲第2号証記載の意匠には中央部も含めて後方に突出した庇部が記載されており、被請求人の主張はその前提を欠く。 仮に、甲2号証において庇部の中央部が後方に突出せず、左右に分かれているものであるとしても、上記の通り甲2意匠において眼鏡本体の上部前側は、前枠に隙間なく覆われており、前枠によって前枠と眼鏡本体との間の隙間からの光の進入が防がれている。 また、被請求人が認めるように甲第5号証から甲第11号証には前枠上端から後方に突出した庇部が表されており、光は直進するものであるから、これらに記載の意匠においても、前枠によって前枠と眼鏡本体との間の隙間からの光の進入は防がれている。この点で、「甲第5号証から甲第11号証において、本件意匠部分のように前枠と眼鏡本体との隙間からの光の進入を防ぐといった機能については何ら開示されていない。」(35頁4~6行)との被請求人の主張は誤りである。 裏を返せば、甲第5号証から甲第11号証記載の物品と本件意匠に係る物品とは同一の機能を有するものであり、甲第5号証から甲第11号証は本件意匠に対する先行意匠となるものである。 そうすると、甲第2号証と甲第5号証から甲第11号証の庇部は機能が共通するから、甲第5号証から甲第11号証を参照して甲第2号証の庇部を左右の端部と連続して後方に突出させることは「軽微な改変」に過ぎない。 また、被請求人が主張するように甲第5号証から甲第11号証記載の意匠は、物品において本件意匠と異なる点がある。 しかし、甲第2号証から甲第4号証記載の意匠は、被請求人が言及していないことから黙示的に認めるように本件意匠と物品が同一であり、かつ本件意匠の出願日よりも前に公開されたものである(甲第2号証から甲第4号証)。 2 被請求人の主張 被請求人は、口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書という。」)に基づき、以下のとおり意見を述べた。 (1)無効理由1(法3条1項柱書)について 正面視のみならず平面視の観点も含めて、本件登録意匠の前枠中央ブリッジ部が具体的にどのような立体形状として特定されているといえるのかについて、以下説明する。 まず、【平面図】において、前枠中央ブリッジ部が平面視で「前方にやや湾曲した帯状」として表されている。(下記【図1】参照。以下、説明の便宜上、前枠中央ブリッジ部に当たる部分に薄赤着色を施している。)。 【図1】本件意匠の【平面図】 [図:0001421415000028.jpg] 続いて、【正面図】及び【背面図】において、前枠中央ブリッジ部の形状が正背面視で「上方にわずかに湾曲して凸状」に形成されていることが表されており、また、【背面図】により、当該前枠中央ブリッジ部が「上下方向に略均一な厚みに形成された略板状」であることが示されている(下記【図2】及び【図3】参照。)。 【図2】本件意匠の【正面図】 [図:0001421415000029.jpg] 【図3】本件意匠の【背面図】 [図:0001421415000030.jpg] したがって、以上を総合して観察すると、本件登録意匠の前枠中央ブリッジ部の形状は、正面視、背面視、および平面視の観点から「平面視で前方にやや湾曲した帯状であり、上下方向に略均一の厚みに形成された略板状であって、正背面視で上方にわずかに湾曲して凸状に形成された立体形状」として特定されていると言える。 (2)審判請求書における請求人の主張に対する意見 審判事件答弁書4頁16行~17行目に記載のとおり、本件登録意匠における庇部のような曲面形状は、特に斜視図等においては正確にその形状を表すことが必ずしも容易ではない場合もあるところ、【平面側斜視図】及び【底面側斜視図】に記載された前枠中央ブリッジ部の形状については、図面を作成する上での制約や投影角度等の事情から、必ずしも高度な正確性をもって記載されていない部分も認められ得るものと思料する(もっとも、仮に【平面側斜視図】及び【底面側斜視図】において前枠中央ブリッジ部の形状が高度な正確性をもって記載されていないとしても、上記(1)記載のとおり、少なくとも正面図、背面図、および平面図を含めて総合的に観察すれば、当該前枠中央ブリッジ部の形状は具体的に特定されている。)。 【平面側斜視図】及び【底面側斜視図】に記載された前枠中央ブリッジ部の形状について、請求人は、「願書添付の図面の「平面側斜視図」及び「底面側斜視図」の記載においては、(中略)庇部が、前枠ブリッジ部の上端の形状に沿うように、中央部が下方に凹んだ正面視でU字状となっている」旨主張している(審判請求書4頁1行~3行目)。 しかしながら、【平面側斜視図】及び【底面側斜視図】はあくまで「斜視」における形態を記載したものに過ぎないため、【平面側斜視図】及び【底面側斜視図】をもって、当該前枠中央ブリッジ部の中央部が下方に凹んだ「正面視」でU字状であると直ちに特定することは妥当ではない。 また、後述のとおり、少なくとも、当該前枠中央ブリッジ部は【平面側斜視図】及び【底面側斜視図】において下方に凹んだU字状の態様では記載されていないと被請求人は考えており、請求人の上記特定は、図面の解釈における誤解に基づくものと思われる。 そのため、以下、この点について補足的に説明する。 まず、【平面図】について、下記【図4】において緑線で示す一点鎖線が、「前方」に向かって膨出して湾曲して記載されている(当該湾曲態様の理解に資するために、以下、前枠中央ブリッジ部の後端(青線)と略同形の補助線(赤線)を追記している。)。 【図4】本件意匠の【平面図】 [図:0001421415000031.jpg] 次に【平面側斜視図】について、下記【図5】において緑線で示すとおり、当該一点鎖線が湾曲して表れているが、投影角度等の影響で、当該一点鎖線が下方に向かって湾曲しているように見える可能性もあることから、作図上の制約でやや正確性に欠ける表現と解釈できる可能性もある。そのため、この記載が原因の一つとなって、当該前枠中央ブリッジ部の形状について「中央部が下方に凹んだ正面視でU字状」(審判請求書4頁3行目)との誤解が生じたのではないかと推察される。 【図5】本件意匠の【平面側斜視図】 [図:0001421415000032.jpg] しかしながら、【図5】において緑色で示す当該一点鎖線は、上記【図4】(平面図)において緑色で示す一点鎖線、すなわち、「前方」に向かって膨出して湾曲した一点鎖線を平面側斜視において表したものであり、「下方」に向かって凹んだ態様を表したものではない。 したがって、当該前枠中央ブリッジ部の中央部について、【平面側斜視図】において下方に凹んだ態様であると直ちに特定することは妥当ではない。 また、【底面側斜視図】についても下記【図6】において緑線で示す一点鎖線が湾曲して表れている。しかしながら、【図6】において緑色で示す一点鎖線は、上記【図4】(平面図)において緑色で示す一点鎖線に対応する底面側の一点鎖線、すなわち、「前方」に向かって膨出して湾曲した一点鎖線を底面側斜視において表したものであり、「下方」に向かって凹んだ態様を表したものではない。 したがって、当該前枠中央ブリッジ部の中央部について、【底面側斜視図】においても下方に凹んだ態様であると直ちに特定することは妥当ではない。 【図6】本件意匠の【底面側斜視図】 [図:0001421415000033.jpg] 以上より、【平面側斜視図】及び【底面側斜視図】をもって、当該前枠中央ブリッジ部について「中央部が下方に凹んだ正面視でU字状」であると特定する請求人の上記主張は妥当ではない。 なお、意匠図面に高度な正確性を要求するのであれば、実物の見本乃至図面代用写真を開示することが考えられる。 ここで、本件登録意匠に係る実施品(被請求人が製造販売する商品(品番CFS-23S-A100))の眼鏡用前枠(下記【参考写真1】(背面視)及び【参考写真2】(平面視)参照)を、底面側斜視の角度において視認すると、下記【参考写真3-1】及び【参考写真3-2】に示すように、前枠中央ブリッジ部が下方に向けてやや凹んだように微妙な湾曲状に表れる場合がある。少なくとも、底面側斜視のみをもって、正面視に表れるような上方に湾曲した立体形状であるかどうかは、にわかには判断しづらい形状として視認される。すなわち、当該態様を図面(線画)として表す場合、湾曲度合い等について実物見本を観察した場合と同程度に高度な正確性をもって記載できたとしても、上記のとおり斜視のみでは必ずしも容易に形状が特定できる態様として描けない場合があると言える。 したがって、本件登録意匠においても、前記前枠中央ブリッジ部の微妙な湾曲形状について、仮に不明瞭等の記載不備と認められ得る表現があったとしても、意匠審査基準(乙第1号証)や裁判例(乙第2号証から乙第3号証)の解釈を踏まえて総合的に観察すれば、前枠中央ブリッジ部は、正背面視で上方にわずかに湾曲して凸状に形成されていることは明らかであると思料する。 【参考写真1】本件登録意匠に係る実施品の写真(背面視) [図:0001421415000034.jpg] 【参考写真2】本件登録意匠に係る実施品の写真(平面視) (ブリッジ部周辺の拡大写真) [図:0001421415000035.jpg] 【参考写真3-1】本件登録意匠に係る実施品の写真(底面側斜視) [図:0001421415000036.jpg] 【参考写真3-2】本件登録意匠に係る実施品の写真(底面側斜視) (写真奥側から光を当てて前枠中央ブリッジ部の態様をより明示した状態) [図:0001421415000037.jpg] (3)無効理由2に係る請求人の主張に対する意見 被請求人が、甲第2号証記載の意匠には庇部の中央部が存在しないことを甲第2号証の各図を計測することによって論証しようとしている点(前記第5、1(2)イ参照)について、請求人は、意匠の図面は「製品設計図面のように意匠の全体について均しく高度な正確性をもって記載されていることが必要となるものではない」(乙第1号証:「意匠審査基準」9頁)以上、意匠公報記載の図面を計測したところで、その裏付けを得られないことは自明であるとして否定しているが、以下の理由により失当である。 ア 審判事件答弁書において論証の根拠として用いた甲第2号証の「立体図」は、等角投影図法によって作成されているものと理解されるから、同図の記載を計測しての主張には十分な裏付けがある。 イ 甲第2号証から甲第4号証は、中国で発行された公報類であるから、日本での意匠登録出願の審査について定める意匠審査基準をこれらに当てはめて解釈するのは妥当でない。 3 審判長 審判長は、この口頭審理において甲第1号証から甲第11号証及び乙第1号証から乙第5号証について取り調べ、本件審理は以後書面審理とすることを口頭で通知した(令和6年2月29日付「第1回口頭審理調書」)。 第7 口頭審理後に提出された上申書における両当事者の主張 1 請求人の主張 (1)調書「陳述の要領」3記載の主張について ア 定義の確認 図面の描写法において「等角図」は物体を斜め上方からの視点で描写する斜視図である。物体が配置される空間軸(xyz軸)がそれぞれ2次元において等しい角度(120°)の間隔をおいて描写されるものである。等角軸上の線分は、実寸で描写される。 また、「等角投影図」は、物体を斜め上方からの視点で描写する斜視図である。物体が配置される空間軸(xyz軸)がそれぞれ2次元において等しい角度(120°)の間隔をおいて描写されるものである。等角軸上の線分は、視覚上の縮小を反映して描写される。 イ 申立人の認否について 令和6年2月29日付第1回口頭審理において、被請求人より、甲第2号証における図は等角投影法によるものであると考える旨の主張(調書「陳述の要領」記載の3の主張)があり、請求人はこれを否認した。 請求人は上述の否認を撤回する。 上述(1)ア記載の通り、等角投影法において図面上の寸法は描写された物体の寸法と一致しない。したがって、図面上の寸法を計測することによって当該図面上の、同一軸上にない他の部分と比較しても、不正確な結果としかならない。したがって、これらの点に係る被請求人の主張は誤りである。 ウ 仮に、上記調書3の被請求人の主張が、甲第2号証の図は上記の等角法によるものであるとの主旨だとしても、これに基づく被請求人の測定結果及び主張には賛同し得ない。 甲第2号証記載の意匠が、本件意匠の新規性との関係で意義を有するのは前枠中央部付近における後方に突出した庇部の有無であってその長さの比ではない。 被請求人の計測において、赤色の線(前枠の前後方向の幅)として甲2意匠における前枠の面取りと思われる部分(下記図2で赤色と青色の線の間の部分)が計測されていない。当該部分も眼鏡本体部の上方に位置し庇部を形成するものであるから、被請求人の計測結果が信頼できるものであれば、当 該面取りの部分だけ庇部は後方に突出しており、甲2意匠の前枠中央部には後方に突出した庇部が存在するといえる。 仮に被請求人の主張に則って甲第2号証記載の図面を物理的に計測したものを信頼する場合、後方に突出した庇部が存在すれば被請求人の主張は成立しないものであるところ、長さの比を1:2とした被請求人の計測結果はいかにも大雑把に過ぎる。 下記図1において、請求人側の実測値(赤色の線と青色の線との比)は0.3:1.0(mm)である。また、図2においては0.8:1.6(mm)であり、両者の比は異なる。 [図:0001421415000038.jpg] 【図1】甲第2号証「立体図」部分拡大図(赤色及び青色の線は請求人が付したもの) [図:0001421415000039.jpg] 【図2】甲第2号証「俯視図」部分拡大図(赤色及び青色の線は請求人が付したもの) エ 被請求人は、甲第2号証使用状態図における計測において、同一平面上になく、かつ平行でもない前枠部の前後方向の幅と眼鏡本体部の前後方向の幅との比を、両者が平行である他の図面(俯視図及び立体図)と同じく1:2としている。作図の常識、又は一般的感覚からしても、視点が一定である場合、同一の長さの線分はねじれの位置に配置された際、又は奥行きが変更されて配置された際には、長さが異なって描写されるはずである。特に、ねじれの位置に配置された際の長さが異なることは、等角法と等角投影法のいずれにおいても変わらない。 さらに、俯視図及び立体図においても前枠部の上面と眼鏡本体部の上面とは、視点の位置からの奥行きが異なる。 これらの点からも、甲第2号証における線分の長さの比、又は被請求人の計測結果は到底信用できるものではない。 したがって、被請求人による本件意匠と甲2意匠の対比は、そもそも甲2意匠の認定を誤っているものであるから、前提を欠き対比として不適当である。甲3意匠及び甲4意匠についても同様である。 (2)調書「陳述の要領」4記載の主張について 被請求人は、甲第2号証から甲第4号証の各図について、意匠審査基準を適用して解釈することは適切ではないと主張する。 甲第2から4号証は中国の権利であるから、中国の「専利審査指南」を参照すると、意匠図面に係る「4.2」内「4.2.4 写真または写真の欠陥(機械翻訳)」において、意匠記載の図面が相互に一致しないことを図の欠陥とする等、日本の審査基準同様の同程度の図面を要求しているものと理解される。すなわち中国においても、例えばブリッジの凸が上か下か図面間で一致しないことは図の欠陥となる。 一方で、「必ずしも製品設計図面のように意匠の全体について均しく高度な正確性をもって記載されていることが必要となるものではない」という記載は発見できなかった。 したがって、上述被請求人の「陳述の要領」4記載の主張について正確を期せば、中国の「専利審査指南」に当該規定が存在するか否かは不知と請求人の認否を訂正する。 また、これらの審査基準等は、甲第2号証の図面が製品設計図面のように高度な正確性を持っている可能性までも排除するものではないが、甲第2号証の図面が製品設計図面同様に高度な正確性を有するものであると判断できる根拠は被請求人から示されていない。 2 被請求人の主張 (1)令和6年2月29日付第1回口頭審理調書「陳述の要領」被請求人3記載の主張について ア 主張の趣旨及び補足 被請求人は、甲第2号証の「立体図」について、等角投影図法により作図されたものと考える旨主張した。 甲第2号証の「立体図」は、等角投影図法(又はこれに準ずる図法)により一定の正確性をもって作図されたものであり、少なくとも、前枠中央ブリッジ部において「庇部を有さない」ことが特定できる程度には、その形状が具体的に開示されていると、被請求人は認識している。 したがって、上記認識を前提として図面上の寸法を計測することは、庇部の有無について立証するための一法として妥当であると、被請求人は考える。 イ 請求人の上申書に対する意見等 被請求人の上記主張に対して、請求人は「等角投影法において図面上の寸法は描写された物体の寸法と一致しない。したがって、図面上の寸法を計測することによって当該図面上の、同一軸上にない他の部分と比較しても、不正確な結果としかならない」(請求人上申書3頁17~20行)旨主張する。 ここで請求人が述べる「物体の寸法と一致しない」との主張の趣旨が定かではないものの、仮に「甲第2号証の図面に基づいて立体化した実物(現物製品)の寸法と一致しない」と理解するのであれば、(令和6年2月29日付第1回口頭審理において被請求人が指摘したとおり)本件意匠の新規性乃至創作性を議論するのに際しては、甲第2号証の図面に基づく仮想の実物の意匠を類否判断等の対比の基準とすることは妥当ではない。 すなわち、あくまでも甲第2号証(乃至甲第4号証)の“図面に描かれた意匠”を類否判断等の対比の基準とすべきである。だからこそ、被請求人は甲第2号証の図面に基づいて計測乃至立証を試みた次第である。 したがって、図面上の寸法と描写された物体(実物)の寸法とが一致しないことを理由として被請求人の主張を否認するのであれば、請求人の当該主張は失当である。 また、請求人は「被請求人の計測において、赤色の線(前枠の前後方向の幅)として甲2意匠における前枠の面取りと思われる部分(中略)が計測されていない。当該部分も眼鏡本体部の上方に位置し庇部を形成するものであるから、被請求人の計測結果が信頼できるものであれば、当該面取りの部分だけ庇部は後方に突出しており、甲2意匠の前枠中央部には後方に突出した庇部が存在するといえる」(請求人上申書4頁2~7行)旨主張する。 しかしながら、面取りに相当する部分が計測されていないとしても、これをもって直ちに当該部分が「庇部を形成する」ものであり「当該面取りの部分だけ庇部は後方に突出して」いると断定することは到底首肯できない。 例えば、同一創作者かつ同一出願人の出願に係る甲第3号証乃至甲第4号証の特許及び実用新案の図面に開示される意匠では、甲第2号証と同様に眼鏡用前枠ブリッジ部の上縁部後方に面取りに相当する部分が確認できるが、令和5年12月11日付審判事件答弁書14頁8~12行において被請求人が立証するとおり、甲第3号証乃至甲第4号証の図3の前枠中央付近を拡大した参考図(桃色破線を補足して下記に再掲)等を参酌すれば、面取りに相当する部分が庇部を形成しない意匠も十分にあり得ると言える。 [図:0001421415000040.jpg] 被請求人は、甲第2号証及び甲第3号証乃至甲第4号証について、同一の統一的な判断基準に基づいて各部位の長さを比較している。甲第2号証には前記図3に相当する図面(前枠と眼鏡本体を分離した状態を示す図)がないものの、請求人が述べるように「被請求人の計測結果が信頼できるものである」との前提に立つのであれば、むしろ甲第2号証の図面についても、甲第3号証乃至甲第4号証と同様に「庇部が存在しない」との認定に至るのが、当業者にとって合理的かつ自然な解釈態度であると、被請求人は考える。 したがって、当該面取りに相当する部分が計測されていないことをもって、直ちに当該部分が「庇部を形成する」ものであり「当該面取りの部分だけ庇部は後方に突出して」いると断定することは、あまりに強引であり、恣意的乃至作為的な解釈によるものであると言わざるを得ない。 なお、当該面取り部分は前後方向の幅が極めて狭いことから、百歩譲って、仮に当該面取りの部分だけ後方に突出しているとしても、意匠の新規性乃至創作性の検討において対比し得る程度の大きさや形状を有する「庇部」とまでは到底言えないため、いずれにせよ、本件意匠部分とは基本的構成態様において明らかに相違する。 加えて、請求人は令和6年2月13日付口頭審理陳述要領書6頁6~8行において「甲第2号証において中央部の庇部中央が全く後方に突出していない形状も、左右端部と比べて小さい幅で突出した形状もありうるため、甲第2号証にはその両方が開示されているといえる」と、甲第2号証に係る意匠を具体的に特定することができないことを自認している。それにも関わらず、面取りに相当する部分の解釈については、「庇部を形成する」と断定的に主張するものであるため、請求人の当該主張は論理的一貫性を欠くものである。 なお、請求人が主張するとおり、本件意匠の新規性に係る重要な論点は「前枠中央部付近における後方に突出した庇部の有無」(請求人上申書3頁26行)であるところ、甲第2号証が無効理由2(意匠法第3条第1項第3号違反)の引例たるためには、本件意匠と正確に対比して類否判断できる程度にまで、客観的に明確かつ具体的にその形状が請求人により特定されていることが求められるべきである。 しかしながら、上掲のとおり、請求人は甲第2号証に係る意匠を具体的に特定することができないことを自認している。また、請求人は甲第2号証が前枠中央ブリッジ部において「庇部を有する」ことを客観的かつ積極的に立証するには未だ至っておらず、「中央部においても厚みがあり、眼鏡との隙間がないことから、中央部においても庇部は後方に突出している可能性を否定できない」(請求人側口頭審理陳述要領書5頁14~15行)という極めて曖昧かつ消極的なレベルでの主張にとどまっている。 したがって、そのように形状が具体的に特定されていない甲第2号証をもって、無効理由2に係る引例とすることは到底許容されるものではないし、仮にそれを許すとしても、そのような薄弱な根拠をもとに本件意匠と甲第2号証とを対比する請求人の検討手法は妥当性を欠くと言わざるを得ないと被請求人は考える。 続いて、請求人は「長さの比を1:2とした被請求人の計測結果はいかにも大雑把に過ぎる」(請求人上申書4頁10~11行)旨主張する。 しかしながら、被請求人は、あくまで「庇部が存在しない」ことを、甲第2号証(及び甲第3号証乃至甲第4号証)に開示される意匠に基づいて論理的かつ合理的に立証する一法として、前枠の跳上げ前後における前枠及び眼鏡本体部のブリッジ部中央上面の相対的な長さに実質的な差がないことを、計測値を用いて客観的に主張したものである。 請求人の主張するように、図面上における0.1mm単位の差異をもって庇部の有無を立証することが求められるのだとすると、そもそも図面の解像度や描写角度、作図方法等の違いによって計測値に相違(誤差)が生じかねない。 また、請求人は「被請求人は、甲第2号証使用状態図における計測において、同一平面上になく、かつ平行でもない前枠部の前後方向の幅と眼鏡本体部の前後方向の幅との比を、両者が平行である他の図面(俯視図及び立体図)と同じく1:2としている。作図の常識、又は一般的感覚からしても、視点が一定である場合、同一の長さの線分はねじれの位置に配置された際、又は奥行きが変更されて配置された際には、長さが異なって描写されるはずである」(請求人上申書6頁1~7行)旨主張する。 しかしながら、先述のとおり、被請求人は、あくまで「庇部が存在しない」ことを論理的かつ合理的に立証する一法として、前枠及び眼鏡本体のブリッジ部中央上面の長さの比を用いているに過ぎない。 したがって、長さの比に係る数値自体が極めて厳密な意味で正確であるかどうか(極めて厳密に「1:2」であるかどうか)が本質的な問題なのではなく、前枠中央ブリッジ部において「庇部が存在しない」ことを論理的かつ合理的に立証し得るかどうかが本質的な問題であり、重要な論点であると被請求人は考える。 すなわち、重要なのは、前枠の跳ね上げ(フリップアップ)前後における眼鏡本体のブリッジ部中央上面(天面の平坦部)の前後方向の相対的な長さ(審判事件答弁書9~10頁に示す下記【図1-2】及び【図1-3】並びに同12~13頁に示す下記【図2-1】乃至【図2-3】における青線部分)が、(赤線部分を「1」とした場合に)「2」のままで変わっていないという点である。この点により、眼鏡本体のブリッジ部中央上面(天面の平坦部)が庇部によって覆われていない(すなわち、「庇部が存在しない」)ことが図面上明らかになっている。 [図:0001421415000041.jpg] [図:0001421415000042.jpg] [図:0001421415000043.jpg] よって、被請求人が示す各図の比率について、仮に厳密には「1:2」と言えない場合があるとしても、前枠の跳ね上げ「前」の青線部分の相対的な長さが、前枠の跳ね上げ「後」の同部分の相対的な長さより「短く」表れていないことを立証するうえで実質的な影響を及ぼすものではなく、前枠中央ブリッジ部において「庇部が存在しない」ことを論理的かつ合理的に立証するための計測値に基づく被請求人の立証手法は、十分に信用できるものであり、妥当性があるものである。 この点について、請求人は「下記図1(甲第2号証「立体図」部分拡大図:被請求人注)において、請求人側の実測値(赤色の線と青色の線との比)は0.3:1.0(mm)である。また、図2(甲第2号証「俯視図」部分拡大図:被請求人注)においては 0.8:1.6(mm)であり、両者の比は異なる」旨主張する(請求人上申書4頁12~14行)。 図1及び2は、いずれも前枠を跳ね上げる「前」の状態を示しているが、仮に図1における請求人の実測値(0.3:1.0)を信用するとすれば、「赤線部分:青線部分」の比率は「3:10」であり、被請求人が主張する前枠の跳ね上げ「後」の比率、すなわち1:2に比べ、むしろ青線部分の相対的な長さが「長く」表れていることになる。 したがって、仮に図1に係る請求人の実測値を用いたとしても、前枠中央ブリッジ部において「庇部が存在しない」という結論を覆すには至らない。(むしろ、「庇部が存在しない」ことの裏付けを一層強めることとなる。) また、上記赤線部分について、請求人は前枠の面取りに相当する部分が計測されていない旨指摘するが(請求人上申書4頁2~4行)、上述のとおり、重要なのは青線部分の相対的な長さが前枠の跳ね上げ前後で変わらないことから前枠中央付近に庇部が存在しないことを論理的かつ合理的に立証できる点であり、当該赤線部分は、青線部分の相対的な長さが変わらないことを「長さの比(ここでは1:2)」をもって立証するために、比較対象として付したものに過ぎない。 そのため、赤線部分について前枠の面取りに相当する部分が計測されていないことは、青線部分の相対的な長さが前枠の跳ね上げ前後で変わらない(すなわち、「庇部が存在しない」)という結果に何ら影響を与えるものではない。 なお、被請求人の計測値を「到底信用できるものではない」(請求人上申書6頁12行)として否定するのであれば、請求人が信用できると考える方法をもって「庇部を有する」旨を客観的かつ積極的に主張立証すべきであるところ、請求人がそれに未だ至っていないのは上述のとおりである。 (2)令和6年2月29日付第1回口頭審理調書「陳述の要領」被請求人4記載の主張について ア 主張の趣旨及び補足 被請求人は、甲第2号証から甲第4号証の各図について、意匠審査基準を適用して解釈することは適切でない旨主張した。 被請求人が乙第1号証として引用する意匠審査基準は、あくまで日本の意匠出願に係る願書に添付した図面の解釈について記述したものであると解される。そのため、(無効理由の引例として適示された)海外の公知意匠である甲第2号証から甲第4号証の各図に高度な正確性が要求されないこと等の根拠として、当該意匠審査基準を直ちに適用することは妥当ではない旨主張したまでであって、甲第2号証から甲第4号証の各図が高度な正確性をもって記載されている旨を積極的に主張するものではない。 イ 請求人の上申書に対する意見等 請求人は「甲第2から4号証は中国の権利であるから、中国の「専利審査指南」を参照」(請求人上申書7頁7~8行)している。 しかしながら、中国の「専利審査指南」を参照した結果、「「必ずしも製品設計図面のように意匠の全体について均しく高度な正確性をもって記載されていることが必要となるものではない」という記載は発見できなかった」(請求人上申書7頁14~16行)旨自認するに至っている。 したがって、中国の「専利審査指南」を参照したところで、甲第2号証から甲第4号証の各図に高度な正確性が要求されないことの根拠になりえないことは明らかである。 なお、請求人が引用する「「4.2」内「4.2.4 写真または写真の欠陥(機械翻訳)」」(請求人上申書7頁8~10行)は、あくまで「外観設計」すなわち「意匠」の図面に係る記述であるところ、甲第3号証及び甲第4号証はいずれも特許乃至実用新案に係る図面であるため、請求人の当該主張は、甲第3号証及び甲第4号証についてはそもそも直接的な意味を成さない。 また、請求人は「甲第2号証の図面が製品設計図面同様に高度な正確性を有するものであると判断できる根拠は被請求人から示されていない」(請求人上申書7頁21~23行)旨主張する。 しかしながら、上記「ア 主張の趣旨及び補足」にて述べたとおり、被請求人はもとより甲第2号証等の各図が高度な正確性を有するものである旨を積極的に主張するものではない。すなわち、上記(1)アで述べたとおり、甲第2号証等の各図は「一定の正確性をもって作図されたものであり、少なくとも、前枠中央ブリッジ部において「庇部を有さない」ことが特定できる程度には、その形状が具体的に開示されている」ことを前提に「庇部を有さない」ことを主張立証したまでであって、甲第2号証の図面が製品設計図面同様に高度な正確性を有するものである旨は何ら主張してきていない。よって、そもそも被請求人は「甲第2号証の図面が製品設計図面同様に高度な正確性を有するものであると判断できる根拠」を示す必要がない。 したがって、請求人の当該主張は当を得ていないものと被請求人は考える。 第8 当審の判断 1 本件登録意匠 願書及び図面の記載によれば、本件登録意匠は、意匠に係る物品及びその形状等を次のとおりとしたものである。 (1)意匠に係る物品 本件登録意匠の意匠に係る物品(以下「本物品」という。)は、リム部に各種レンズを嵌めて使用する「眼鏡用前枠」であり、本物品に設けられた磁着部を介して、磁着部を備える眼鏡に着脱自在に装着することができ、本物品を装着した眼鏡を跳ね上げ式のサングラスなどとして使用することができるものであると認められる。 (2)意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能 本件登録意匠の意匠登録を受けようとする部分(以下「本件登録意匠部分」という。)は、本物品を眼鏡の正面側に装着した状態において、眼鏡のリム上端部を覆い、本物品の眼鏡からの脱落防止及び眼鏡との隙間からの光の進入防止のための庇部としての用途及び機能を有し、また、そのうちの左右両端部は、跳ね上げ時に眼鏡に固定するための磁石取り付け枠が想定された台座部としての用途及び機能も有するものと認められる。 (3)本件登録意匠部分の位置、大きさ及び範囲 意匠に係る物品全体に対して占める本件登録意匠部分の位置、大きさ及び範囲は、眼鏡用前枠の本体部(左右のリムによる「リム部」、左右のヨロイ(智)による「ヨロイ部」及び中央の「ブリッジ部」による構成。以下、単に「本体部」という。)を構成するブリッジ部及びリム部の上端部から、背面側(眼鏡着用者側)に略水平状に延出させてなる庇部のみの領域に係るものである。 (4)本件登録意匠部分の形状等 ア 全体の構成は、正面視における眼鏡用前枠のブリッジ部及びリム部の上端部に沿って後方に延設された略帯状板体であって、側面視では全体が略水平の配設角度となっている。 イ 背面視の態様 (ア)ブリッジ部 眼鏡用前枠のブリッジ部の後方に相当する部位(以下「ブリッジ後方部」という。)の形状は、中心が緩やかに上方向に盛り上がる凸弧状(逆U字状)であり、その厚みは薄く均一で、両端部が凹弧状の態様で左右に連接しており、 (イ)リム部 (イ-1)眼鏡用前枠のリム部の後方に相当する部位(以下「リム後方部」という。)の形状は、内側に位置するブリッジ後方部との連接部(以下「リム内側端部」という。)の高さが最も低く、そこからリムの横幅の中央付近にかけて大きく上昇して頂部となり、頂部からリムの外側の端部(以下「リム外側端部」という。)にかけて僅かに下降する緩やかな凸弧状とするもので、庇部の外側端部は、おおむねリム外側端部とヨロイ部内側の境界までとし、かつ、リム内側端部と頂部高さ幅の半分より上の位置にとどまるものである。 (イ-2)また、その厚みは、リム内側端部から頂部までの範囲は薄く略均一である一方、頂部からリム外側端部にかけて次第に厚みが増し、庇部の外側端部ではリム内側端部の2倍強の厚みとなっている。 ウ 平面視の態様 (ア)ブリッジ部 (ア-1)ブリッジ後方部の背面側後端は、本体部のブリッジ部の平面視形状と呼応して下方(正面側)に凹んだもので、緩やかな略V字状凹部を構成し、 (ア-2)装着する眼鏡のブリッジ部上面を完全に覆う程度の幅広の庇部を構成するもので、 (イ)リム部 (イ-1)左右リム後方部の背面側後端は、ブリッジ後方部から左右端部へ向けて指数曲線的に立ち上がる態様とするもので、リム部の横幅略4/10まではほぼ水平を保ち、同略7/10(以下「立ち上がり点」という。)から急激に立ち上がるもので、 (イ-2)装着する眼鏡のリム部上面を完全に覆う程度の幅広の庇部を構成するもので、 (イ-3)立ち上がり点から外側は、ヨロイ部よりも背面側に張り出しており、全体として下面に想定された磁石取り付け枠を受ける台座部(以下「台座突出部」という。)を構成するもので、 (イ-4)台座突出部は、背面側後端を、ブリッジ部中心から庇部の外側端部までの横幅の略1/17とする短い直線部を略水平状に、外側端部を直角状にリム部とつなげ、その奥行き幅を、ブリッジ部中心から庇部の外側端部までの横幅に対して略7:1とする、略台形状とするものである。 2 無効理由1(工業上利用することができる意匠に該当しない)について (1)請求人は、願書添付の図面の「平面側斜視図」及び「底面側斜視図」の記載において、庇部が、前枠ブリッジ部の上端の形状に沿うように、中央部が下方に凹んだ正面視でU字状となっているのに対し、「正面図」及び「背面図」の記載においては、庇部が、前枠ブリッジ部の上端の形状に沿うように、中央部が上方に凸となった正面視で逆U字状となっており、平面側斜視図及び底面側斜視図と、正面図及び背面図とでは、不一致となっている旨主張する。 (2)各図から把握されるブリッジ部における庇部の態様 当合議体における本件登録意匠の認定は、前記「第8 1(1)から(4)」のとおりであるところ、特に、本件登録意匠部分のブリッジ部における庇部の態様に着目し、各図の記載について検討する。 〔A〕「正面図」及び「背面図」 中心が緩やかに上方向に盛り上がる逆U字状とするものであり、リム部との連接部であるリム内側端部の高さを最も低いものとし、そこからリムの横幅の中央付近にかけて大きく上昇する態様とするものである。 〔B〕「平面図」 本体部のブリッジ部が正面側に突出しているのと呼応して、ブリッジ部における庇部もその後端を緩やかに正面側に凹ませ、略V字状凹部を構成している。 〔C〕「左右側面図」及び「C-C部分の拡大A-A断面図」 〔C-1〕庇部は、略水平の配設角度とするものであり、ブリッジ部頂部においても側面視水平の薄板状とするものである。 なお、「C-C部分の拡大A-A断面図」では、本来ブリッジ部頂部の切断面が表れるはずであるため、本体部のブリッジ部の正面側上端部の破線及びブリッジ部における庇部の領域を示す一点鎖線は、ブリッジ部の頂部よりも低い位置に「リム内側端部」に相当する谷部が示されるはずであるが、そのようには表れておらず、切断面から斜め上方へ向かう破線及び一点鎖線が表れており、その点上記〔A〕と符合しない。 一方で、「C-C部分の拡大B-B断面図」では本体部のブリッジ部の頂部からリム部に向かう斜めの破線が見られ、この点から、ブリッジ部の頂部より手前にはブリッジ部の頂部よりも低い位置に「リム内側端部」に相当する谷部があることはその意匠が属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)であれば想定しうるもので、上記〔A〕の認定と一致する。 〔C-2〕上方が正面側に傾けて表された本体部のブリッジ部に沿って、庇部のブリッジ部も中央は正面側に寄って突出した領域とされる。 ただし、「C-C部分の拡大A-A断面図」の記載について、庇部の後端も正面側に寄ることからブリッジ部中央の切断面の後端はわずかに正面側に寄った位置になるはずであるが、そのようには表れておらず、リム部後端と略同じ奥行き幅に表れており、その点上記〔B〕と符合しない。 (3)本件登録意匠が具体的に特定されたものであるか否かの判断 以上を踏まえ、「平面側斜視図」及び「背面側斜視図」について検討する。 ア 「平面側斜視図」 この図のみではブリッジ部の庇部はあたかも中央部が下方に凹んだ正面視でU字状となっているようにも見えるが、上記〔C-1〕のとおり、庇部は全体が略水平の配設角度となっており、また、〔B〕のとおり、平面図から、本体部のブリッジ部も正面側に突出し、〔C-2〕のとおり、側面図等から、本体部のブリッジ部は上方が正面側に前傾し、ブリッジ部の庇部も中央は正面側に寄って突出した領域とされることから、ブリッジ部を前方斜め上から見た場合、ブリッジ上端の実線及び破線の記載や本件登録意匠部分の前端の一点鎖線が、中央部分を下方に湾曲した線として表れることは不合理ではなく、「平面側斜視図」の記載に、上記〔A〕の認定とおおむね矛盾は認められない。 なお、ブリッジ部の背面側について、〔B〕に示す略V字状凹部が明確に表れていないようにも見えるが、上記〔A〕のとおり、ブリッジ部は逆U字状で、リムとの連接部であるリム内側端部の高さを最も低いものとし、そこから大きく上昇する態様であることを考慮すれば、「平面側斜視図」の記載に、上記〔B〕の認定とおおむね矛盾は認められない。 イ 「底面側斜視図」 「底面側斜視図」においても、この図のみではブリッジ部の庇部はあたかも中央部が下方に凹んだ正面視でU字状となっているようにも見えるが、上記〔B〕及び〔C〕を考慮すると、「底面側斜視図」の記載に、上記〔A〕の認定とおおむね矛盾は認められない。 なお、図面の記載に、その他の図と符合しない部分があるとしても、そのことから直ちに意匠が特定できないとするのではなく、願書及び添付図面の記載内容を総合的に勘案し、当業者の立場から合理的、客観的に判断し、矛盾ないし不一致が、願書やその添付図面作成上の誤記や不手際から生じるものであることが理解され、具体的に構成された統一性ある意匠を想定しうる場合には、合理的に想定される意匠をもって意匠を特定することが相当である。 「C―C部分の拡大A-A断面図」における〔A〕及び〔B〕と符合しない点については、願書及その他の添付図面を考慮すれば、誤記であることが理解され、当業者の知識に基づいて総合的に判断した場合に、ブリッジ部における庇部の態様は合理的に善解し得るものであり、一に特定できるものであるから、本件登録意匠は工業上利用できる意匠であると認められる。 (4)小括 以上のとおり、本件登録意匠は、願書及び添付図面の記載によりその形状等が具体的に特定されたものであり、意匠法第3条第1項柱書に規定する工業上利用することができる意匠に該当するから、請求人が主張する無効理由1には理由がない。 3 無効理由2(新規性の欠如)について (1)請求人は、本件登録意匠は、本件意匠の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証に記載された意匠に類似する意匠であり、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものである旨主張する。 (2)引用意匠 甲第2号証に記載された引用意匠(以下「甲2意匠」という。)は、以下のとおりのものである(別紙第2参照)。 ア 甲2意匠の意匠に係る物品 甲第2号証である中華人民共和国意匠公報の記載内容を総合すると、甲2意匠の意匠に係る物品(以下「甲2物品」という。)は、製品名「クイックリリースマグネットフリップグラス」(請求人提出の翻訳文より「別紙第2(甲第2号証の機械翻訳)参照」)のうち、甲2物品に設けられた磁着部を介して、磁着部を備える眼鏡に着脱自在に装着することができるフラップ部に相当する「眼鏡用前枠」であり、甲2物品を装着した眼鏡を跳ね上げ式のサングラスなどとして使用することができるものであると認められる。 イ 本件登録意匠部分に相当する部分の用途及び機能 甲2意匠の本件登録意匠部分に相当する部分(以下「甲2意匠部分」という。)は、甲2物品を眼鏡の正面側に装着した状態において、眼鏡のリム上端部を覆い、本物品の眼鏡からの脱落防止及び眼鏡との隙間からの光の進入防止のための庇部としての用途及び機能を有し、また、そのうちの左右両端部は、跳ね上げ時に眼鏡に固定するための磁石取り付け部が想定された台座部としての用途及び機能も有するものと認められる。 ウ 甲2意匠部分の位置、大きさ及び範囲 意匠に係る物品全体に対して占める甲2意匠部分の位置、大きさ及び範囲は、眼鏡用前枠の本体部を構成するブリッジ部及び左右リム部の上端部から、背面側(眼鏡着用者側)に略水平状に延出させてなる庇部のみの領域に係るものある。 エ 甲2意匠部分の形状等 (ア)全体の構成は、正面視におけるブリッジ部及びリム部の上端部に沿って後方に延設された略帯状板体であって、側面視では全体が略水平の配設角度となっている。 (イ)背面視の態様 (イ-1)ブリッジ部 ブリッジ後方部の形状は、中心を谷として緩やかに左右に上昇する凹弧状であり、その厚みは、全体的に薄いものであるが、均一ではなく、中心の谷部が最も厚く、左右に広がるにつれて薄くなる態様とするもので、 (イ-2)リム部 a リム後方部の形状は、凹弧状のブリッジ部から左右に上向きに連接し、リム後方部全体としては、リム内側端部の高さが最も低く、そこからリムの横幅の略3分の1の範囲にかけてごく緩やかな凸弧状に上昇し、さらに、そこからリム外側端部にかけておおむね直線状に上昇し、庇部の外側端部は、ヨロイ部のごく端部近くまで延伸し、かつ、リム部と同じ最も高い位置とするもので、 b リム後方部の厚みは、リム内側端部からリム外側端部にかけて次第に厚みが増し、リム外側端部の手前でリム内側端部の3倍程度の厚みとなった後、庇部の外側端部へかけてブリッジ後方部の中心と同程度にすぼまる態様とするものである。 (ウ)平面視の態様 (ウ-1)ブリッジ部 a ブリッジ後方部の背面側後端は、本体部のブリッジ部の平面視形状と呼応して下方(正面側)に凹んだもので、緩やかな略U字状凹部を構成し、 b 装着する眼鏡のブリッジ部上面を覆うことのない細幅とするもので、 (ウ-2)リム部 a リム後方部の背面側後端は、ブリッジ後方部から左右端部へ向けて緩やかな放物線状に立ち上がる態様とするもので、 b リム内側端部では、ブリッジ部と同様、装着する眼鏡のブリッジ部上面を覆うことのない細幅から始まり、徐々にその幅を広げ、リムの横幅の略7/10には装着する眼鏡のリム幅と同幅となり、 c そこから外側はヨロイ部よりも背面側に張り出しており、全体として下面に想定された磁石取り付け枠を受ける台座突出部を構成するもので、 d 台座突出部は、背面側後端を、ブリッジ部中心から庇部の外側端部までの横幅の略1/12とする短い直線部を略水平状に、外側端部を直角状にリム端部とつなげ、その奥行き幅を、ブリッジ部中心から庇部の外側端部までの横幅の略1/12とする、略台形状とするものである。 エ 甲2意匠の公知日 甲第2号証の中華人民共和国国家知識産権局発行による意匠公報中には「授権公告日2019.06.07」の記載があるため、甲2意匠は、本件登録意匠の出願日である令和元年12月12日より前の令和元年(2019年)6月7日に、日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に該当するものと認められる。 (3)本件登録意匠と甲2意匠の対比 そこで、本件登録意匠と甲2意匠(以下、これらを合わせて「両意匠」という。)を対比し、両意匠が類似するか否か検討する。 ア 意匠に係る物品 本件登録意匠及び甲2意匠の意匠に係る物品(以下、これらを合わせて「両物品」という。)は、いずれも「眼鏡用前枠」であって一致し、両物品に設けられた磁着部を介して、磁着部を備える眼鏡に着脱自在に装着することができ、跳ね上げ式のサングラスなどとして使用することができるものである点においてもその用途及び機能が共通する。 イ 本件登録意匠部分と甲2意匠部分の用途及び機能 本件登録意匠部分と甲2意匠部分(以下、これらを合わせて「両意匠部分」という。)の用途及び機能は、いずれも眼鏡の正面側に装着した状態において、眼鏡リム上端部を覆い、眼鏡からの脱落防止及び眼鏡との隙間からの光の進入防止のための庇部としての用途及び機能を有し、また、そのうちの左右両端部は、跳ね上げ時に眼鏡に固定するための磁石取り付け枠が想定された台座部としての用途及び機能も有する点で共通する。 ウ 両意匠部分の位置、大きさ及び範囲 両意匠部分の位置、大きさ及び範囲は、いずれも、眼鏡用前枠の本体部を構成するブリッジ部及びリム部の上端部から、背面側(眼鏡着用者側)に略水平状に延出させてなる庇部のみに係るもので、共通する。 エ 両意匠部分の形状等 (ア)共通点 両意匠部分の形状等を対比すると、主として以下の共通点が認められる。 〔共通点1〕全体の構成を、正面視における眼鏡用前枠のブリッジ部及びリム部の上端部に沿って後方に延設された略帯状板体であって、側面視では全体が略水平の配設角度とする点。 〔共通点2〕平面視の態様について、 〔共通点2-1〕ブリッジ後方部の背面側後端は、本体部のブリッジ部の平面視形状と呼応して下方(正面側)に凹んだ緩やかな凹部を構成する点。 〔共通点2-2〕リム部後方部のリムの横幅略7/10から先の外側端部に、下面に想定された磁石取り付け枠を受ける略台形状の台座突出部を有する点。 (イ)相違点 一方、両意匠部分の形状等には、主として以下の相違点が認められる。 〔相違点1〕背面視の態様 〔相違点1-1〕ブリッジ後方部の形状について、 〔相違点1-1a〕本件登録意匠部分は、中心が緩やかに上方向に盛り上がる凸弧状(逆U字状)であるのに対し、甲2意匠部分は、中心を谷として緩やかに左右に上昇する凹弧状とする点。 〔相違点1-1b〕本件登録意匠部分の厚みは薄く均一で、両端部が凹弧状の態様で左右に連接しているのに対し、甲2意匠部分の厚みは、全体的に薄いものであるが、均一ではなく、中心の谷部が最も厚く、左右に広がるにつれて薄くなる態様とする点。 〔相違点1-2〕リム後方部の形状について、 〔相違点1-2a〕本件登録意匠部分は、リム内側端部からリムの横幅の中央付近にかけて大きく上昇して頂部となり、頂部からリム外側端部にかけて僅かに下降する緩やかな凸弧状とするもので、庇部の外側端部は、おおむねリム外側端部とヨロイ部内側の境界までとし、かつ、リム内側端部と頂部高さ幅の半分より上の位置にとどまるものとするのに対し、甲2意匠部分は、リム内側端部からリムの横幅の略3分の1の範囲にかけてごく緩やかな凸弧状に上昇し、さらに、そこからリム外側端部にかけておおむね直線状に上昇し、庇部の外側端部は、ヨロイ部のごく端部近くまで延伸し、かつ、リム部と同じ最も高い位置とする点。 〔相違点1-2b〕本件登録意匠部分のリム後方部の厚みは、リム内側端部から頂部までの範囲は薄く略均一である一方、頂部からリム外側端部にかけて次第に厚みが増し、庇部の外側端部ではリム内側端部の2倍強の厚みとなっているのに対し、甲2意匠部分の厚みは、リム内側端部からリム外側端部にかけて次第に増し、リム外側端部の手前でリム内側端部の3倍程度の厚みとなった後、庇部の外側端部へかけてブリッジ後方部の中心と同程度にすぼまる態様とする点。 〔相違点2〕平面視の態様 〔相違点2-1〕ブリッジ部 〔相違点2-1a〕本件登録意匠部分の後方部の背面側後端は、下方(正面側)に凹んだ凹部を緩やかな略V字状凹部とするのに対し、甲2意匠部分は、緩やかな略U字状凹部とする点。 〔相違点2-1b〕また、本件登録意匠部分は、装着する眼鏡のブリッジ部上面を完全に覆う程度の幅広の庇部を構成するのに対し、甲2意匠部分は、装着する眼鏡のブリッジ部上面を覆うことのない細幅とする点。 〔相違点2-2〕リム部 〔相違点2-2a〕本件登録意匠部分のリム後方部の背面側後端は、ブリッジ後方部から外側端部へ向けて指数曲線的に立ち上がる態様とするもので、リムの横幅略4/10まではほぼ水平を保ち、同略7/10から急激に立ち上がるのに対し、甲2意匠部分は、ブリッジ後方部から外側端部へ向けて緩やかな放物線状に立ち上がる態様とする点。 〔相違点2-2b〕本件登録意匠部分は、装着する眼鏡のリム部上面を完全に覆う幅広の庇部を構成するのに対し、甲2意匠部分は、リム内側端部では、ブリッジ部と同様、装着する眼鏡のブリッジ部上面を覆うことのない細幅から始まり、徐々にその幅を広げ、リムの横幅の略7/10には装着する眼鏡のリム幅と同幅となる点。 〔相違点2-2c〕本件登録意匠部分の台座突出部は、背面側後端を、ブリッジ部中心から庇部の外側端部までの横幅の略1/17とする短い直線部を略水平状とし、外側端部を、直角状にリム部とつなげ、その奥行き幅を、ブリッジ部中心から庇部の外側端部までの横幅の略1/7とするのに対し、甲2意匠部分は、略水平状の短い直線部を同略1/12とし、庇部の外側端部の奥行き幅を同略1/12とする点。 (4)本件登録意匠が甲2意匠に類似するか否かの判断 以上の共通点及び相違点を評価、総合し、本件登録意匠が甲2意匠に類似するか否かについて判断する。 ア 意匠に係る物品 本件登録意匠と甲2意匠は、意匠に係る物品が同一である。 イ 両意匠部分の用途及び機能 用途及び機能が共通する。 ウ 両意匠部分の位置、大きさ及び範囲 両意匠部分は、意匠に係る物品全体に占める位置、大きさ及び範囲が共通する。 エ 両意匠部分の形状等 両意匠の意匠に係る物品は、眼鏡に装着する眼鏡用前枠であるから、需要者は、眼鏡を常用しつつ、サングラスやリーディンググラスなど、眼鏡の機能性・利便性やファッション性に関心のある一般消費者であり、具体的な操作感や形状等について手に取って観察することを前提に評価する。 (ア)共通点の評価 a 全体の構成における〔共通点1〕は、両意匠の基幹を示すものであるが、この態様は、本件登録意匠の出願前より一般に見受けられるものであり、類否判断に及ぼす影響は限定的である。 b 平面視の態様における〔共通点2〕のうち、 (a)〔共通点2-1〕は、ブリッジ部と呼応したものにすぎず、類否判断に及ぼす影響は小さい。 (b)〔共通点2-2〕は、両意匠部分を特徴付ける態様であり、類否判断に及ぼす影響は大きい。 (イ)相違点の評価 a 背面視の態様における〔相違点1〕について、 (a)ブリッジ部における〔相違点1-1〕のうち、 (a-1)ブリッジ部の〔相違点1-1a〕は、両意匠の中心部の態様であり、需要者がよく目にする部分ではあるが、両意匠部分のいずれの態様も、よく見受けられるものにすぎず、類否判断に及ぼす影響は限定的なものにすぎない。 (a-2)一方、ブリッジ部の厚みにおける〔相違点1-1b〕は、ブリッジ部から連接するリム部の厚みにおける〔相違点1-2b〕と相まって、甲2意匠部分を特徴付けており、両意匠部分の類否判断に及ぼす影響は大きい。 (b)また、リム部における〔相違点1-2〕のうち、〔相違点1-2a〕は、本件登録意匠部分は、眼鏡のリムの形状によく見られる態様であることから、眼鏡を装着する際、装着する眼鏡のリム部に隙間なく重なることが想定されていると考えられるのに対し、甲2意匠部分は、左右両端部が上方に大きく張り出したもので、この相違は、両意匠部分の骨格にかかるものであることから、類否判断に及ぼす影響は非常に大きい。 b 平面視の態様における〔相違点2〕のうち、 (a)ブリッジ部の〔相違点2-1〕について、 (a-1)本件登録意匠部分の凹部を略V字状、甲2意匠部分の凹部を略U字状とする〔相違点2-1a〕は、ともに緩やかな凹部という点ではむしろ共通し、類否判断に及ぼす影響は小さい。 (a-2)一方、装着する眼鏡のブリッジ部上面を完全に覆う幅広の庇部とするか否かの〔相違点2-1b〕は、両意匠の中心部であり、需要者に異なる印象を与えるもので、類否判断に及ぼす影響は非常に大きい。 (b)リム部の〔相違点2-2〕について、 (b-1)ブリッジ後方部から外側端部へ向けて立ち上がる曲線の態様における〔相違点2-2a〕は、全体として外側に向かって立ち上がっている点では共通しており、類否判断に及ぼす影響は限定的である。 (b-2)一方、装着した眼鏡の上面の態様における〔相違点2-2b〕は、両意匠部分が庇部に相当している点を考慮すれば、需要者が着目する点でもあるところ、装着した眼鏡のリム部を覆う態様が大きく異なっており、ブリッジ部における相違点〔2-1b〕と合わせ、両意匠の類否判断に及ぼす影響は非常に大きい。 (b-3)台座突出部の具体的な態様における〔相違点2-2c〕は、略台形状の突出部という共通性の印象の方が強く、類否判断に及ぼす影響は小さい。 (ウ)両意匠部分の形状等の類否 共通点には、〔共通点2-2〕に示す台座突出部を有する点のように、類否判断に及ぼす影響は大きいと評価できる項目もあるが、一方、上記相違点の評価に示すように、その共通点も、装着する眼鏡のリム部を覆う具体的態様が大きく相違しており、相違点は総じて共通点を圧倒するもので、これら相違点は相まって需要者に別異の美感を与えているといわざるをえない。 したがって、上記共通点及び相違点を総合すると、両意匠部分の形状等は類似するとは認められない。 ウ 両意匠の類否 そうすると、意匠に係る物品が同一であり、両意匠部分の用途及び機能、そして位置、大きさ及び範囲が共通しているものの、その形状等は類似しないから、本件登録意匠は甲2意匠とは類似しないものである。 (5)小括 以上のとおり、本件登録意匠は、甲2意匠とは類似せず、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠には該当しないから、請求人が主張する無効理由2には理由がない。 4 無効理由3(創作非容易性の欠如)について (1)請求人は、本件登録意匠は、本件意匠の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証から甲第4号証、及び、甲第5号証から甲第11号証に記載された意匠に基づいて容易に創作をすることができたものであるから、意匠法第3条第2項の規定により意匠登録を受けることができないものである旨主張する。 また、具体的には、「先行意匠(当審注:甲第2号証に記載の意匠)の凸状部の前後方向の距離:庇部の左右幅の比率を変更することは、当業者にとってありふれた手法であり、先行意匠の庇部の中央部に、甲第5号証から甲第11号証に記載の意匠と同様に、庇部の中央部を後方に突出させた構成とすることは、軽微な改変に過ぎず、本件登録意匠は、少なくとも、先行意匠に基づいて容易に意匠の創作ができたものである。なお、上述した内容においては、先行意匠として甲第2号証を用いているが、これを甲第3号証又は甲第4号証と置き換えても同じことがいえる。」と述べるので、はじめに、甲2意匠と甲第5号証から甲第11号証に記載の意匠に基づく無効理由該当性について検討し、その後、甲第3号証及び甲第4号証に記載の意匠と甲第5号証から甲第11号証に記載の意匠に基づく無効理由該当性について検討することとする(「甲2意匠」と同様、以下、甲第3号証から甲第11号証に記載の各意匠を「甲3意匠」から「甲11意匠」という。)。 (2)甲2意匠と甲5意匠から甲11意匠に基づく創作非容易性の欠如について ア 先行公知意匠 (ア)甲2意匠 甲2意匠は、前記「3 無効理由2(新規性の欠如)について」の「(2)引用意匠」で認定したとおり。 (イ)甲5意匠 甲5意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前である令和1年(2019年)9月6日発行の中華人民共和国意匠公報(CN305337625 S)に記載された「組件2」で示す眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」の意匠と認められる(別紙第5参照)。 a 甲5意匠の意匠に係る物品 甲5意匠の意匠に係る物品は、眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」である。 b 甲5意匠の(庇部の)形状等 (a)全体の構成を、正面視における眼鏡用前枠のブリッジ部及びリム部の上端部に沿って後方に延設された略帯状板体であって、側面視では全体が略水平の配設角度とするもので、 (b)背面視の態様は、ブリッジ部を略U字状の凹弧状とし、リム部をリムの横幅中央を頂部とした緩やかな凸弧状とするもので、庇部の外側端部はヨロイ部をわずかに超えて延出し、 (c)平面視の態様は、ブリッジ部を正面側に突出させた凸弧状とし、後端もそれに呼応して凹弧状に正面側に凹んだもので、リム部を、ブリッジ部の左右端部からリムの横幅中央を頂点とした凸弧状とし、装着する眼鏡のリム部上面を完全に覆う幅広の庇部を構成するもので、全体を略同幅とするものと認められる。 なお、「眼鏡用前枠」の平面図及び底面図には、ブリッジ部中央背面側に小さな矩形状の突出片が見受けられるが、その具体的な態様は不明である。 (ウ)甲6意匠 甲6意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前である平成28年(2016年)4月13日発行の中華人民共和国実用新案公報(CN205157912 U)に記載された眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」の意匠と認められる(別紙第6参照)。 a 甲6意匠の意匠に係る物品 甲6意匠の意匠に係る物品は、眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」である。 b 甲6意匠の(庇部の)形状等 (a)全体の構成を、正面視における眼鏡用前枠のブリッジ部及びリム部の上端部に沿って後方に延設された略帯状板体であって、側面視では全体が略水平の配設角度とするもので、 (b)背面視の態様は、ブリッジ部を略U字状の凹弧状とし、リム部をリムの横幅中央を頂部とした緩やかな凸弧状とするもので、庇部の外側端部はヨロイ部の外側端部までとし、庇部の外側端部のやや内側に眼鏡を挟む小さな引っかけ片を垂直に設けた態様とするもので、 (c)平面視の態様は、正面側及び背面側に極端な凹凸が見られない、略平板状とするもので、装着する眼鏡のリム部上面より引っかけ片の厚み分奥行き幅が広い、幅広の庇部を構成するもので、庇部全体は略同幅とするものと認められる。 (エ)甲7意匠 甲7意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前である平成27年(2015年)12月30日発行の中華人民共和国実用新案公報(CN204925535 U)に記載された眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」の意匠と認められる(別紙第7参照)。 a 甲7意匠の意匠に係る物品 甲7意匠の意匠に係る物品は、眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」である。 b 甲7意匠の(庇部の)形状等 (a)全体の構成を、正面視における眼鏡用前枠のブリッジ部及びリム部の上端部に沿って後方に延設された略帯状板体であって、側面視では全体が略水平の配設角度とするもので、 (b)背面視の態様は、ブリッジ部を略U字状の凹弧状とし、リム部をリムの横幅中央を頂部とした緩やかな凸弧状とするもので、庇部の外側端部をわずかに凹弧状に跳ね上げる形とし、庇部の外側端部はヨロイ部の外側端部までとするもので、 (c)平面視の態様は、正面側及び背面側に極端な凹凸が見られない、略平板状とするもので、装着する眼鏡のリム部上面完全に覆う幅広の庇部を構成するもので、庇部全体は略同幅とするものと認められる。 (オ)甲8意匠 甲8意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前である平成26年(2014年)5月21日発行の中華人民共和国実用新案公報(CN203606579 U)に記載された眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」の意匠と認められる(別紙第8参照)。 a 甲8意匠の意匠に係る物品 甲8意匠の意匠に係る物品は、眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」である。 b 甲8意匠の(庇部の)形状等 (a)全体の構成を、正面視における眼鏡用前枠のブリッジ部、リム部及びヨロイ部の全周にわたって後方に延設され、装着する眼鏡の前枠全体を覆う略帯状板体のカバー状とするものであって、眼鏡用前枠本体部に沿ってそのまま背面側へ延伸(リブ上部の庇部は略水平状に)させたものである。 (b)背面視の態様は、ブリッジ部を凸弧状(逆U字状)として中心部の背面側下面に小さな引っかけ片を設け、リム部をリムの横幅中央を頂部とした緩やかな凸弧状とするもので、庇部の外側端部はヨロイ部の外側端部を囲むものとし、 (c)平面視の態様は、ブリッジ部を正面側に突出した凸弧状とし、ブリッジ部の後端もそれに呼応して凹弧状に正面側に凹ませたもので、リム部をブリッジ部の左右端部からリムの横幅中央を頂点とした凸弧状とするもので、 装着する眼鏡のリム部上面より引っかけ片の厚み分奥行き幅が広い、幅広の庇部を構成するもので、全体を略同幅とするものと認められる。 (カ)甲9意匠 甲9意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前である平成27年(2015年)5月13日発行の中華人民共和国実用新案公報(CN204331186 U)に記載された眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」の意匠と認められる(別紙第9参照)。 a 甲9意匠の意匠に係る物品 甲9意匠の意匠に係る物品は、眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」である。 b 甲9意匠の(庇部の)形状等 (a)全体の構成を、正面視における眼鏡用前枠のブリッジ部及びリム部の上端部に沿って後方に延設された略帯状板体であって、側面視では全体が略水平の配設角度とするもので、 (b)背面視の態様は、ブリッジ部を凸弧状(逆U字状)として背面側にブリッジ部の形状と同形の短い引っかけ片を垂直に設け、リム部をリムの横幅中央よりやや内側を頂部とした緩やかな凸弧状とするもので、庇部の外側端部はヨロイ部の外側端部までとし、 (c)平面視の態様は、正面側及び背面側に極端な凹凸が見られない、略平板状とするもので、装着する眼鏡のリム部上面より引っかけ片の厚み分奥行き幅が広い、幅広の庇部を構成するもので、庇部全体は略同幅とするものと認められる。 (キ)甲10意匠 甲10意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前である平成31年(2019年)1月22日発行の中華人民共和国実用新案公報(CN208421447 U)に記載された眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」の意匠と認められる(別紙第10参照)。 a 甲10意匠の意匠に係る物品 甲10意匠の意匠に係る物品は、眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」である。 b 甲10意匠の(庇部の)形状等 (a)全体の構成を、正面視における眼鏡用前枠のブリッジ部及びリム部の上端部に沿って後方に延設された略帯状板体であって、側面視では全体が略水平の配設角度とするもので、 (b)背面視の態様は、ブリッジ部を中心部がフラットに近い略U字状の凹弧状として中心部の背面側に小さな縦長長方形の引っかけ部を垂直(側面視では逆L字状)に設け、リム部はリム内側端部からリム外側端部にかけて略直線状にわずかな角度で上向きに開き、リム外側端部からヨロイ部端部へ向けて下方に向かう態様とし、庇部の外側端部はヨロイ部の外側端部までとするもので、 (c)平面視の態様は、リム部を含めた全体を、正面側及び背面側に極端な凹凸が見られない略平板状とするもので、ブリッジ部背面側に設けられた引っかけ片が側面視逆L字状である点を考慮すると、装着する眼鏡のリム部上面の幅は引っかけ片に合わせることから、眼鏡の装着時にはリム部上面は一部が露出する可能性を有する程度の幅の庇部が構成されているもので、庇部全体は略同幅であると認められる。 (ク)甲11意匠 甲11意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前である平成27年(2015年)9月23日発行の中華人民共和国実用新案公報(CN204666989 U)に記載された眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」の意匠と認められる(別紙第11参照)。 a 甲11意匠の意匠に係る物品 甲11意匠の意匠に係る物品は、眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」である。 b 甲11意匠の(庇部の)形状等 (a)全体の構成を、正面視における眼鏡用前枠のブリッジ部及びリム部の上端部に沿って後方に延設された略帯状板体であって、側面視では全体が略水平の配設角度とするもので、 (b)背面視の態様は、ブリッジ部を中心部がフラットに近い略U字状の凹弧状として中心部の背面側に小さな矩形の引っかけ部を垂直(側面視では逆L字状)に設け、リム部をリムの横幅中央を頂部とした緩やかな凸弧状とするもので、庇部の外側端部はヨロイ部の外側端部までとするもので、 (c)平面視の態様は、庇部の外側端部の正面側を斜めに切り落とした態様とするもので、装着する眼鏡のリム部上面の幅は引っかけ片に合わせることから、眼鏡の装着時にはリム部上面は一部が露出する程度の細幅の庇部が構成されているもので、庇部全体は略同幅であると認められる。 イ 創作非容易性の判断 甲2意匠は、庇部の外側に平面視略台形状の台座突出部を有する点が本件登録意匠と共通している一方、庇部の中央であるブリッジ部からリムの横幅略7/10までは、装着するリム部を覆うことがない態様としているところ、請求人は、この台座突出部の奥行き幅と庇部の左右幅の比率を変更することは、当業者にとってありふれた手法であり、また、先行意匠の庇部の中央部に、甲第5号証から甲第11号証に記載の意匠と同様に、庇部の中央部を後方に突出させた構成とすることは、軽微な改変に過ぎず、本件登録意匠は、先行意匠に基づいて容易に意匠の創作ができたものである旨主張する。 確かに、眼鏡に装着する眼鏡用前枠の物品分野において、装着する眼鏡のリム部上面を覆う庇部を備えるものは、甲5意匠から甲11意匠に見受けられ、その中には本件登録意匠のようにリム部を完全に覆う態様のものも存在する。 しかしながら、甲5意匠から甲11意匠に表された庇部は、いずれも庇部に「台座突出部」を有さないもので、全体にわたって略同幅とする単調なものである。 一方、本件登録意匠部分の庇部は、平面視、背面側後端をブリッジ部の緩やかな略V字状凹部からリム部へと繋げ、左右端部へ向けて指数曲線的に立ち上がり、台座突出部へとわたる曲面によって構成されており、この態様は、甲2意匠及び甲5意匠から甲11意匠のいずれにも表されておらず、当業者が甲5意匠から甲11意匠に基づいて甲2意匠の庇部の中央部を後方に突出させることが軽微な改変であるとすることはできないし、台座突出部の奥行き幅と庇部の左右幅の比率を変更することが、当業者にとってありふれた手法であることの事実を証明するものでもない。 また、台座突出部を有する点が共通するとしても、両部分の台座突出部には、前記「3(3)(イ)」における〔相違点1-2a〕や〔相違点1-2b〕といった相違点を有しているのであって、本件登録意匠の態様は、格別の創作を要したものといわざるを得ない。 本件登録意匠は、甲2意匠と甲5意匠から甲11意匠にはない独自の形態的特徴を有していると認められ、これら先行公知意匠に基づいて当業者が容易に創作できたものということはできない。 (3)甲3意匠と甲5意匠から甲11意匠に基づく創作非容易性の欠如について ア 甲3意匠 甲3意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前である平成31年(2019年)4月26日発行の中華人民共和国特許出願公報(CN109683349 A)に記載された眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」の意匠と認められる(別紙第3参照)。 甲3意匠は、前記「3 無効理由2(新規性の欠如)について」の「(2)引用意匠」で認定した甲2意匠と実質同一である。 また、甲5意匠から甲11意匠は、前記「4(2)ア(イ)から(ク)」で認定したとおりである。 イ 創作非容易性の判断 甲3意匠は、甲2意匠と実質同一であるため、創作非容易性の判断は、前記「4(2)イ」のとおりであり、本件登録意匠は、甲3意匠と甲5意匠から甲11意匠に基づいて当業者が容易に創作できた意匠には該当しない。 (4)甲4意匠と甲5意匠から甲11意匠に基づく創作非容易性の欠如について ア 甲4意匠 甲4意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前であ令和1年(2019年)8月16日発行の中華人民共和国実用新案公報(CN109683349 A)に記載された眼鏡に磁石で装着する「眼鏡用前枠」の意匠と認められる(別紙第4参照)。 甲4意匠は、甲2意匠と実質同一である。 また、甲5意匠から甲11意匠は、前記「4(2)ア(イ)から(ク)」で認定したとおりである。 イ 創作非容易性の判断 甲4意匠は、上記のとおり、甲2意匠と実質同一であるため、創作非容易性の判断は、前記「4(2)イ」のとおりであり、本件登録意匠は、甲4意匠と甲5意匠から甲11意匠に基づいて当業者が容易に創作できた意匠には該当しない。 (5)小括 以上のとおり、本件登録意匠は、甲2意匠、甲3意匠又は甲4意匠と甲5意匠から甲11意匠に基づいて当業者が容易に創作をすることができた意匠とはいえず、意匠法第3条第2項に規定する意匠には該当しないから、請求人が主張する無効理由3には理由がない。 第8 結び 以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1、無効理由2及び無効理由3にはいずれも理由がなく、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件意匠登録を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-880006

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