意匠無効審判
2023-880002
懐中電灯
- 審判番号
- 2023-880002
- 法域
- 意匠
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 意願2021-025611外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 1716259
- 請求日
- 2023年01月11日
- 審決日
- 2023年08月08日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】株式会社 オウル・クラフト
- 【請求人代理人】早川 裕司
- 【請求人代理人】村雨 圭介
- 【被請求人】広州▲イク▼拓山皓運動用品有限公司
- 【被請求人代理人】幸谷 泰造
- 分類
- D1113.113-Z (D3-5)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 意匠法第3条第1項第2号、意匠法第3条第1項第3号、意匠法第48条第1項第1号、意匠法第52条、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の意匠登録第1716259号「懐中電灯」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
意匠登録第1716259号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件意匠登録第1716259号の意匠(以下「本件登録意匠」という。)は、令和3年11月24日に意匠登録出願されたものであって(意願2021-25611号)、審査を経て、令和4年5月23日に意匠権の設定の登録が、同年5月31日に意匠公報の発行がなされたものであり、その後の主な経緯は以下のとおりである。
令和5年 1月11日 : 審判請求書の提出
4月11日付: 請求書副本の送達通知(答弁指令)
7月11日付: 書面審理通知書
第2 請求人の申立て及び理由
請求人は、「意匠登録第1716259号の意匠登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と申し立て、その理由として以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、甲第1号証及び甲第2号証を提出した。
1 請求の理由
(1)意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠は、甲第1号証及び甲第2号証の意匠と同一又は類似のものであるから、意匠法第3条第1項第2号又は同第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。
(2)本件意匠登録を無効とすべき理由
ア 本件登録意匠の説明
本件登録意匠は、意匠登録第1716259号の意匠公報に記載のとおり、意匠に係る物品を「懐中電灯」とする意匠であり、その構成態様は次のとおりである。
(ア)基本的構成態様
ハンドルが設けられている上端部と、内部に光源が設けられた逆円錐台形状の光源部と、全周に亘って凹凸が施されているグリップ部と、略円筒形状の下端部とからなる。
(イ)具体的構成態様
グリップ部には四角錐(ピラミッド)形状の凹凸が施されている。
グリップ部は、周方向に12個の凹凸が並置され、それが軸方向に3列並置された第1凹凸部と、周面が平坦な環状部と、第1凹凸部と同じ構成を有する第2凹凸部とからなる。
イ 甲第1号証及び甲第2号証の意匠の説明
甲第1号証は、請求人が展開する商品ブランド「LOCKFIELD EQUIPMENT」(参考ウェブサイト:https://1ockfield.official.ec)の公式SNS(インスタグラム)サイト(https://www.instagram.com/lockfie1d_equipment/)において、2021年(令和3年)1月13日にアップされた投稿(https://www.instagram.com/p/CJ-FAFeB_ON/)の写しである。
また、甲第2号証は、同サイトにおいて、2021年(令和3年)1月15日にアップされた投稿(https://www.instagram.com/p/CKD-RZGhNvr/)の写しである。
甲第1号証及び甲第2号証に示されているように、請求人は、米国GOAL ZERO社製の「Lighthouse Micro」と呼ばれるランタン製品(参考ウェブサイト:https://www.goa1zero.com/co11ections/1ights)に取り付けて使用するランタン用グリップ(商品名:ZEROレギ)及びランタン用シェード(商品名:アダムスキーハット)を製造・販売している。
甲第1号証及び甲第2号証には、「懐中電灯(ランタン)」の意匠であって、ハンドルが設けられている上端部と、内部に光源が設けられた逆円錐台形状の光源部と、全周に亘って凹凸が施されているグリップ部と、略円筒形状の下端部とからなる意匠が開示されている(以下、「甲号意匠」という)。
また、甲号意匠において、グリップ部には四角錐(ピラミッド)形状の凹凸が施されており、グリップ部は、周方向に12個の凹凸が並置され、それが軸方向に3列並置された第1凹凸部と、周面が平坦な環状部と、第1凹凸部と同じ構成を有する第2凹凸部とからなるものである。
なお、「ランタン」は一般的に、掛けたり吊り下げたりして使用する移動式照明器具を意味し、「懐中電灯」は手持ちで使用する移動式照明器具を意味するが、「ランタン」を手持ちで使用すればそれは「懐中電灯」であるし、「懐中電灯」を掛けたり吊り下げたりして使用すればそれは「ランタン」であるから、実質的に両者は同一の物品であると理解される。
ウ 本件登録意匠と甲号意匠との対比
本件登録意匠と甲号意匠とは、意匠に係る物品が共に「懐中電灯」であって共通している。また、両意匠は、全体の基本的構成態様が一致しており、各部位における具体的構成態様も一致している。仮に具体的な構成態様に若干の差異があったとしても、それらは無視できる微差に過ぎず、両意匠は同一性の範囲内にあり、少なくとも類似するものである。
(3)むすび
したがって、本件登録意匠は、甲第1号証及び甲第2号証の意匠と同一又は類似のものであるから、意匠法第3条第1項第2号又は同第3号に該当し、意匠登録を受けることができない意匠であるにもかかわらず意匠登録を受けたものであるから、同法第48条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきものである。
2 請求人が提出した証拠
請求人は、以下の甲第1号証及び甲第2号証を、審判請求書の添付書類として提出した。
(1)甲第1号証 SNSサイトの2021年1月13日付投稿の写し
(2)甲第2号証 SNSサイトの2021年1月15日付投稿の写し
第3 被請求人の答弁
審判長は、被請求人に対し、令和5年4月11日付で審判請求書の副本を送付し、期間を指定して答弁書の提出を求めたが、被請求人からの応答はなかった。
第4 当審の判断
1 請求人が主張する無効理由及び証拠についての検討
請求人は、審判請求書において、「甲第1号証及び甲第2号証には、「懐中電灯(ランタン)」の意匠であって、ハンドルが設けられている上端部と、内部に光源が設けられた逆円錐台形状の光源部と、全周に亘って凹凸が施されているグリップ部と、略円筒形状の下端部とからなる意匠が開示されている(以下、「甲号意匠」という)。」、及び、「本件登録意匠は、甲第1号証及び甲第2号証の意匠と同一又は類似のものであるから、意匠法第3条第1項第2号又は同第3号に該当し、意匠登録を受けることができない意匠であるにもかかわらず意匠登録を受けたものであるから、同法第48条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきものである。」と述べている。
しかしながら、甲第1号証及び甲第2号証として提出されたSNSサイトの投稿の写しには、意匠に係る物品や形状、模様、色彩等が異なる複数の意匠が表されており、請求人が、このうちのどの意匠を「甲号意匠」として特定しようとしているのかが必ずしも明らかではない。また、請求人は、本件登録意匠の無効理由として、意匠法第3条第1項第2号及び同条同項第3号の2つの規定を並記している。
よって、まず、本件審判請求に係る無効理由及び証拠(甲号意匠の特定)についての検討を行う。
(1)甲号意匠についての検討
ア 甲第1号証
甲第1号証は、審判請求書の記載によれば、請求人が展開する商品ブランド「LOCKFIELD EQUIPMENT」の公式SNS(インスタグラム)サイトにおいて、2021年(令和3年)1月13日にアップされた投稿(https://www.instagram.com/p/CJ-FAFeB_ON/)の写しである。
甲第1号証は全6ページから成り、同サイトのトップページに加え、商品写真を示す計9枚の画像が表されている。しかしながら、これらの画像中には、発光部を伴わないモックと推認される物体にグリップを装着したものが混在して表されていると考えられることを考慮すると、これら計8枚の画像のうち、請求人がいう「「懐中電灯(ランタン)」の意匠であって、ハンドルが設けられている上端部と、内部に光源が設けられた逆円錐台形状の光源部と、全周に亘って凹凸が施されているグリップ部と、略円筒形状の下端部とからなる意匠」に該当するものは、1枚目、2枚目及び3枚目の各画像に表されていると認められる。また、これらの画像に表されている意匠は、グリップ部の色彩が相互に異なるものの、いずれも同一の形状を有していると認められる。さらに、6枚目の画像には、3枚目の画像の左端と同じ色彩のグリップを有する同一の意匠の、ハンドルを立て別体の傘を取り付けた使用状態が表されているものと認められる。
よって、当審においては、3枚目の画像(左端)により表された意匠であって、6枚目の画像によりその使用状態が表された意匠を、甲第1号証に表された甲号意匠(以下「甲1意匠」という。)と特定することとする。
イ 甲第2号証
甲第2号証は、審判請求書の記載によれば、請求人が展開する商品ブランド「LOCKFIELD EQUIPMENT」の公式SNS(インスタグラム)サイトにおいて、2021年(令和3年)1月15日にアップされた投稿(https://www.instagram.com/p/CKD-RZGhNvr/)の写しである。
甲第2号証は全5ページから成り、同サイトのトップページに加え、商品写真を示す計8枚の画像が表されている。しかしながら、これらの画像中には、発光部を伴わないモックと推認される物体にグリップを装着したものが混在して表されていると考えられることを考慮すると、これら計8枚の画像のうち、請求人がいう「「懐中電灯(ランタン)」の意匠であって、ハンドルが設けられている上端部と、内部に光源が設けられた逆円錐台形状の光源部と、全周に亘って凹凸が施されているグリップ部と、略円筒形状の下端部とからなる意匠」に該当するものは、3枚目、4枚目、6枚目ないし8枚目の各画像に表されていると認められる。また、3枚目及び4枚目の画像には、同じ模様及び色彩のグリップを有する同一の意匠が異なる視点(角度)から表されていると認められる。さらに、1枚目及び2枚目の画像には、3枚目及び4枚目の画像と同じ模様及び色彩のグリップを有する同一の意匠の、ハンドルを立て別体の傘を取り付けた使用状態が表されているものと認められる。
よって、当審においては、3枚目及び4枚目の画像により表された意匠であって、1枚目及び2枚目の画像によりその使用状態が表された意匠を、甲第2号証に表された甲号意匠(以下「甲2意匠」という。)と特定することとする。
(2)無効理由についての検討
上記(1)の検討を踏まえ、本件審判請求における無効理由を以下のとおり認定する。
ア 無効理由1
本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である甲1意匠と同一であるため、意匠法第3条第1項第2号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができない意匠であるにもかかわらず意匠登録を受けたものであるから、同法第48条第1項第1号に該当し、その登録は無効とされるべきものである。
イ 無効理由2
本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である甲1意匠と類似するため、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができない意匠であるにもかかわらず意匠登録を受けたものであるから、同法第48条第1項第1号に該当し、その登録は無効とされるべきものである。
ウ 無効理由3
本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である甲2意匠と同一であるため、意匠法第3条第1項第2号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができない意匠であるにもかかわらず意匠登録を受けたものであるから、同法第48条第1項第1号に該当し、その登録は無効とされるべきものである。
エ 無効理由4
本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である甲2意匠と類似するため、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができない意匠であるにもかかわらず意匠登録を受けたものであるから、同法第48条第1項第1号に該当し、その登録は無効とされるべきものである。
2 無効理由該当性についての検討
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は、願書及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品、及び、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状等」という。)を以下のとおりとしたものである(別紙第1参照)。
ア 意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は「懐中電灯」である。
イ 本件登録意匠の形状等
〔A1〕全体は、本体部及びハンドル部から成る、略回転体形状である。
〔A2〕本体部は、グリップ部及び発光部から成り、グリップ部と発光部の長さの構成比率は約5:3である。
〔A3〕グリップ部は、その上側約5分の4の範囲を占める突起部と、残余の本体基端部とにより構成され、
〔A3-1〕突起部は、帯状の略平滑環状面及びそれを挟んで上下対称に配された2つの凸環状面から成り、2つの凸環状面はいずれも、ピラミッド状の形状を呈する四角錐を、隣り合う四角錐の底辺同士が略接する態様で、周方向に12個、垂直方向に3段重ねた態様のものであり、
〔A3-2〕本体基端部は、その外周が下方に向けて僅かに拡幅する略円錐台形状であり、【参考斜視図】の記載も参酌すると、底面の中心部には略円形状の凹陥部があると認められる。
〔A4〕発光部は、本体頂部に位置する第1発光部とグリップ部上方の本体周側面に位置する第2発光部の2つから構成され、
〔A4-1〕第1発光部は、本体頂部の中心に小円形状区画として現れ、当該区画に隣接し対向する位置には、スイッチ部と推認される平面視形状が略台形状を呈する段部、及び、表示部と推認される4つの極小円が認められ、
〔A4-2〕第2発光部は、上方に向けて拡幅し、最上部に帯状の段部を有する略円錐台形状で、【参考斜視図】の記載も参酌すると、透光性を有する素材でできていると認められる。
〔A5〕ハンドル部は、一本のワイヤーを中央部が一段盛り上がるように屈曲させて成る略釣り鐘状のものであり、本体上端面に位置する基端部を中心に回動可能とされているものと認められる。
〔A6〕本件登録意匠は、無模様、無彩色である。
(2)無効理由1及び無効理由2について
無効理由1及び無効理由2は、本件登録意匠が甲1意匠と同一又は類似であることを理由にその意匠登録が無効とされるべきというものであるから、以下、無効理由1と無効理由2を合わせて検討する。
ア 甲1意匠
甲1意匠は、以下のとおりのものである(別紙第2参照)。
(ア)甲1意匠の意匠に係る物品
甲1意匠の意匠に係る物品は「懐中電灯」であり、ハンドルを立てた状態でも使用できるものと認められる。
(イ)甲1意匠の形状等
〔B1〕全体は、本体部及びハンドル部から成る、略回転体形状である。
〔B2〕本体部は、グリップ部及び発光部から成り、グリップ部と発光部の長さの構成比率は約5:3である。
〔B3〕グリップ部は、その上側約5分の4の範囲を占める突起部と、残余の本体基端部とにより構成され、
〔B3-1〕突起部は、帯状の略平滑環状面及びそれを挟んで上下対称に配された2つの凸環状面から成り、2つの凸環状面はいずれも、ピラミッド状の形状を呈する四角錐を、隣り合う四角錐の底辺同士が略接する態様で、周方向に12個、垂直方向に3段重ねた態様のものと推認され、
〔B3-2〕本体基端部は、その外周が下方に向けて僅かに拡幅する略円錐台形状であり、底面には端子状のものが配設されていると推認されるものの、その具体的な形状までは認定できない。
〔B4〕発光部は、本体頂部に位置する第1発光部とグリップ部上方の本体周側面に位置する第2発光部の2つから構成されているものと推認され、
〔B4-1〕第1発光部は、本体頂部の中心に段部として現れると推認され、具体的な形状までは認定できないものの、本体頂部にはスイッチ部と推認される区画段部も形成され、
〔B4-2〕第2発光部は、上方に向けて拡幅し、最上部に帯状の段部を有する略円錐台形状で、透光性を有する素材でできている。
〔B5〕ハンドル部は、一本のワイヤーを中央部が一段盛り上がるように屈曲させて成る略釣り鐘状のものであり、本体上端面に位置する基端部を中心に回動可能とされているものと認められる。
〔B6〕甲1意匠は、無模様であり、グリップ部の外側面全体が濃青色に、本体基端部及び第2発光部最上部の帯状段部が黒色に、それぞれ彩色されている。
(ウ)甲1意匠の公知性及び公知日
甲第1号証として提出された各画像には、審判請求書の請求の理由中に記載されたインターネットのアドレス情報(上記第2 1(2)イ参照。)が表示されていない。しかしながら、記載されたアドレス情報に基づくと、甲第1号証と同じ投稿を当審においても確認することができる。また、甲第1号証の画像中には「1月13,2021」という日付が表示されており、甲第1号証に係る投稿記事及び掲載写真が2021年(令和3年)1月13日に公開されたことについて、その信用性を疑わせるような事情はない。
よって、甲1意匠は、本件登録意匠の出願日である令和3年11月24日以前である令和3年1月13日から、日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたものと認められる。
イ 本件登録意匠と甲1意匠との対比
(ア)意匠に係る物品
本件登録意匠及び甲1意匠の意匠に係る物品は、いずれも「懐中電灯」であり、一致する。
(イ)本件登録意匠と甲1意匠の形状等
a 共通点
本件登録意匠と甲1意匠の形状等を対比すると、主として以下の共通点が認められる。
〔共通点1〕全体は、本体部及びハンドル部から成る、略回転体形状である。
〔共通点2〕本体部は、グリップ部及び発光部から成り、グリップ部と発光部の長さの構成比率は約5:3である。
〔共通点3〕グリップ部は、その上側約5分の4の範囲を占める突起部と、残余の本体基端部とにより構成され、突起部は、帯状の略平滑環状面及びそれを挟んで上下対称に配された2つの凸環状面から成り、2つの凸環状面はいずれも、ピラミッド状の形状を呈する四角錐を、隣り合う四角錐の底辺同士が略接する態様で、周方向に12個、垂直方向に3段重ねた態様のものであり、本体基端部は、その外周が下方に向けて僅かに拡幅する略円錐台形状である。
〔共通点4〕発光部は、本体頂部に位置する第1発光部とグリップ部上方の本体周側面に位置する第2発光部の2つから構成され、第1発光部は、本体頂部の中心に現れ、隣接する位置にスイッチ部と推認される区画段部が形成されており、第2発光部は、上方に向けて拡幅し、最上部に帯状の段部を有する略円錐台形状で、透光性を有する素材でできている。
〔共通点5〕ハンドル部は、一本のワイヤーを中央部が一段盛り上がるように屈曲させて成る略釣り鐘状のものであり、本体上端面に位置する基端部を中心に回動可能とされているものと認められる。
〔共通点6〕全体が無模様である。
b 相違点
一方、本件登録意匠と甲1意匠の形状等には、主として以下の相違点が認められる。
〔相違点1〕本体基端部の底面の態様について、本件登録意匠は中心部に略円形状の凹陥部があると認められるのに対し、甲1意匠は端子状のものが配設されていると推認されるものの、その具体的な形状は明らかではない。
〔相違点2〕第1発光部及びその周辺の態様について、本件登録意匠は発光部が小円形状の区画として現れ、隣接する位置に略台形状のスイッチ部及び4つの極小円から成る表示部が認められるのに対し、甲1意匠では本体頂部の中心に発光部、その隣接位置にスイッチ部と推認される区画段部がそれぞれ形成されているものの、その具体的な形状は明らかではない。
〔相違点3〕本件登録意匠は彩色されていないのに対し、甲1意匠は、グリップ部及び傘部の外側面全体が濃青色に、本体基端部及び第1発光部最上部の帯状段部が黒色に、それぞれ彩色されている。
ウ 本件登録意匠と甲1意匠が同一又は類似であるかの判断
以上の共通点及び相違点を評価、総合し、本件登録意匠と甲1意匠が同一又は類似であるかについて判断する。
(ア)意匠に係る物品
本件登録意匠と甲1意匠は、意匠に係る物品が同一である。
(イ)本件登録意匠と甲1意匠の形状等
a 共通点の評価
まず、〔共通点1〕、〔共通点2〕及び〔共通点7〕に示した意匠全体の基本的な形状等の共通性は、「懐中電灯」の意匠として格別新規なものとはいえないものの、本件登録意匠と甲1意匠においては、意匠全体の造形における共通の基盤を形成するものとなっている。その前提の下、本件登録意匠と甲1意匠においては、特に〔共通点3〕にいうグリップ部の態様、すなわち、グリップ部全体の上側約5分の4という広範囲を占め、周方向に12個、垂直方向に計6段という、滑り止めとしては通常のローレット加工と比べて極めて大柄な四角錐(ピラミッド)の規則配列から成る突起部を有する点が、これら意匠の造形を強く特徴付けるものとなっている。
また、〔共通点4〕及び〔共通点5〕に示した発光部及びハンドル部の各部は、懐中電灯としての使用時における機能面にも大きく影響し、需要者が強い関心を持って観察する部分であると理解されるため、それら部位における具体的形状の共通性は、上記した〔共通点3〕とも相まって、これら意匠の形状等に係る共通の印象を更に強めるものとなっている。
よって、上記〔共通点1〕ないし〔共通点6〕に係る態様は、それら全てが相まって両意匠を強く特徴付け、需要者に強い共通の印象を与えるものであるから、これらの共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は非常に大きいといえる。
b 相違点の評価
まず、〔相違点1〕、すなわち、本件登録意匠の本体基端部底面には略円形状の凹陥部があるのに対し、甲1意匠では端子状のものが付設されているという以上の具体的形状が明らかではないという点について、この種、電池式の携帯用照明器具においては、該部に充電用の端子又は電池交換用のロック機構付き開閉蓋を備えるものが従来からよく見られ、本体底面という通常の使用時には目に付きにくい位置であることも考慮すると、これら既存の配置箇所及び機能の範囲内にとどまるものと解されるこの相違については、本件登録意匠と甲1意匠の類否判断に及ぼす影響はごく限定的である。
また、〔相違点2〕、すなわち、本体頂部に位置する第1発光部及びその周辺の態様について、本件登録意匠では、発光部、スイッチ部及び表示部の具体的形状が明らかであるのに対し、甲1意匠では開示が制限され各部の具体的な形状が明らかとはいえないという相違点があるものの、甲1意匠においても、本体頂部には第1発光部及びスイッチ部の存在が認められ、この種物品の先端部に位置する発光部は円形状を呈することが通例であることを考慮すると、この点に係る相違も、本件登録意匠と甲1意匠の類否判断に及ぼす影響は限定的なものにとどまるものといえる。
そして、〔相違点3〕にいう彩色の有無に係る相違については、甲1意匠における彩色の態様はいずれも各部位を部材ごとに単純彩色したのみであるため、本件登録意匠と甲1意匠の類否判断には格別の影響を及ぼさない。
c 形状等の類否
上記した共通点及び相違点の評価に基づくと、本件登録意匠と甲1意匠の形状等の共通点が類否判断に及ぼす影響は非常に大きく、これら共通点は相まって需要者に共通の美感を与えているのに対して、相違点が類否判断に及ぼす影響は総じて限定的なものにとどまるため、これらを総合すると、本件登録意匠と甲1意匠の形状等は類似すると認められる。
(ウ)判断
そうすると、意匠に係る物品は同一であるが、その形状等は同一とは認められないので、本件登録意匠と甲1意匠は同一とはいえない。一方、意匠に係る物品が同一であり、その形状等も類似するから、本件登録意匠と甲1意匠は類似すると認められる。
エ 小括
以上のとおり、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である甲1意匠と同一ではないから、意匠法第3条第1項第2号に掲げる意匠に該当せず、請求人が主張する無効理由1には理由がない。しかしながら、本件登録意匠は甲1意匠に類似するから、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、請求人が主張する無効理由2には理由がある。
(3)無効理由3及び無効理由4について
無効理由3及び無効理由4は、本件登録意匠が甲2意匠と同一又は類似であることを理由にその意匠登録が無効とされるべきというものであるから、以下、無効理由3と無効理由4を合わせて検討する。
ア 甲2意匠
甲2意匠は、以下のとおりのものである(別紙第3参照)。
(ア)甲2意匠の意匠に係る物品
甲2意匠の意匠に係る物品は「懐中電灯」であり、ハンドルを立てた状態でも使用できるものと認められる。
(イ)甲2意匠の形状等
〔C1〕全体は、本体部及びハンドル部から成る、略回転体形状である。
〔C2〕本体部は、グリップ部及び発光部から成り、グリップ部と発光部の長さの構成比率は約5:3である。
〔C3〕グリップ部は、その上側約5分の4の範囲を占める突起部と、残余の本体基端部とにより構成され、
〔C3-1〕突起部は、帯状の略平滑環状面及びそれを挟んで上下対称に配された2つの凸環状面から成り、2つの凸環状面はいずれも、ピラミッド状の形状を呈する四角錐を、隣り合う四角錐の底辺同士が略接する態様で、周方向に12個、垂直方向に3段重ねた態様のものと推認され、
〔C3-2〕本体基端部は、その外周が下方に向けて僅かに拡幅する略円錐台形状であり、底面には端子状のものが配設されていると推認されるものの、その具体的な形状までは認定できない。
〔C4〕発光部は、本体頂部に位置する第1発光部とグリップ部上方の本体周側面に位置する第2発光部の2つから構成され、
〔C4-1〕第1発光部は、本体頂部の中心に小円形状の段部として現れ、当該段部に隣接する位置には、スイッチ部と推認される区画段部が形成されており、
〔C4-2〕第2発光部は、上方に向けて拡幅し、最上部に帯状の段部を有する略円錐台形状で、透光性を有する素材でできている。
〔C5〕ハンドル部は、一本のワイヤーを中央部が一段盛り上がるように屈曲させて成る略釣り鐘状のものであり、本体上端面に位置する基端部を中心に回動可能とされているものと認められる。
〔C6〕甲2意匠は、本体基端部及び第2発光部最上部の帯状段部が黒色に彩色されており、グリップ部には、青色と白色の塗り分けによる縞模様が施されている。
(ウ)甲2意匠の公知性及び公知日
甲第2号証として提出された各画像には、審判請求書の請求の理由中に記載されたインターネットのアドレス情報(上記第2 1(2)イ参照。)が表示されていない。しかしながら、記載されたアドレス情報に基づくと、甲第2号証と同じ投稿を当審においても確認することができる。また、甲第2号証の画像中には「1月15,2021」という日付が表示されており、甲第2号証に係る投稿記事及び掲載写真が2021年(令和3年)1月15日に公開されたことについて、その信用性を疑わせるような事情はない。
よって、甲2意匠は、本件登録意匠の出願日である令和3年11月24日以前である令和3年1月15日から、日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていたものと認められる。
イ 本件登録意匠と甲2意匠との対比
(ア)意匠に係る物品
本件登録意匠及び甲2意匠の意匠に係る物品は、いずれも「懐中電灯」であり、一致する。
(イ)本件登録意匠と甲2意匠の形状等
a 共通点
本件登録意匠と甲2意匠の形状等を対比すると、主として以下の共通点が認められる。
〔共通点1〕全体は、本体部及びハンドル部から成る、略回転体形状である。
〔共通点2〕本体部は、グリップ部及び発光部から成り、グリップ部と発光部の長さの構成比率は約5:3である。
〔共通点3〕グリップ部は、その上側約5分の4の範囲を占める突起部と、残余の本体基端部とにより構成され、突起部は、帯状の略平滑環状面及びそれを挟んで上下対称に配された2つの凸環状面から成り、2つの凸環状面はいずれも、ピラミッド状の形状を呈する四角錐を、隣り合う四角錐の底辺同士が略接する態様で、周方向に12個、垂直方向に3段重ねた態様のものであり、本体基端部は、その外周が下方に向けて僅かに拡幅する略円錐台形状である。
〔共通点4〕発光部は、本体頂部に位置する第1発光部とグリップ部上方の本体周側面に位置する第2発光部の2つから構成され、第1発光部は、本体頂部の中心に小円形状の段部として現れ、当該段部に隣接する位置には、スイッチ部と推認される区画段部が形成されており、第2発光部は、上方に向けて拡幅し、最上部に帯状の段部を有する略円錐台形状で、透光性を有する素材でできている。
〔共通点5〕ハンドル部は、一本のワイヤーを中央部が一段盛り上がるように屈曲させて成る略釣り鐘状のものであり、本体上端面に位置する基端部を中心に回動可能とされているものと認められる。
b 相違点
一方、本件登録意匠と甲2意匠の形状等には、主として以下の相違点が認められる。
〔相違点1〕本体基端部の底面の態様について、本件登録意匠は中心部に略円形状の凹陥部があると認められるのに対し、甲2意匠は端子状のものが配設されていると推認されるものの、その具体的な形状は明らかではない。
〔相違点2〕本件登録意匠は彩色されていないのに対し、甲2意匠は、本体基端部及び第2発光部最上部の帯状段部が黒色に彩色されており、グリップ部には、青色と白色の塗り分けによる縞模様が施されている。
ウ 本件登録意匠と甲2意匠が同一又は類似であるかの判断
以上の共通点及び相違点を評価、総合し、本件登録意匠と甲2意匠が同一又は類似であるかについて判断する。
(ア)意匠に係る物品
本件登録意匠と甲2意匠は、意匠に係る物品が同一である。
(イ)本件登録意匠と甲2意匠の形状等
a 共通点の評価
まず、〔共通点1〕及び〔共通点2〕に示した意匠全体の基本的な形状の共通性は、「懐中電灯」の意匠として格別新規なものとはいえないものの、本件登録意匠と甲2意匠においては、意匠全体の造形における共通の基盤を形成するものとなっている。その前提の下、本件登録意匠と甲2意匠においては、特に〔共通点3〕にいうグリップ部の態様、すなわち、グリップ部全体の上側約5分の4という広範囲を占め、周方向に12個、垂直方向に計6段という、滑り止めとしては通常のローレット加工と比べて極めて大柄な四角錐(ピラミッド)の規則配列から成る突起部を有する点が、これら意匠の造形を強く特徴付けるものとなっている。
また、〔共通点4〕及び〔共通点5〕に示した発光部及びハンドル部の各部は、懐中電灯としての使用時における機能面にも大きく影響し、需要者が強い関心を持って観察する部分であると理解されるため、それら部位における具体的形状の共通性は、上記した〔共通点3〕とも相まって、これら意匠の形状等に係る共通の印象を更に強めるものとなっている。
よって、上記〔共通点1〕ないし〔共通点5〕に係る態様は、それら全てが相まって両意匠を強く特徴付け、需要者に強い共通の印象を与えるものであるから、これらの共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は非常に大きいといえる。
b 相違点の評価
まず、〔相違点1〕、すなわち、本件登録意匠の本体基端部底面には略円形状の凹陥部があるのに対し、甲2意匠では端子状のものが付設されているという以上の具体的形状が明らかではないという点について、この種、電池式の携帯用照明器具においては、該部に充電用の端子又は電池交換用のロック機構付き開閉蓋を備えるものが従来からよく見られ、本体底面という通常の使用時には目に付きにくい位置であることも考慮すると、これら既存の配置箇所及び機能の範囲内にとどまるものと解されるこの相違については、本件登録意匠と甲2意匠の類否判断に及ぼす影響はごく限定的である。
また、〔相違点3〕にいう彩色及び塗り分け模様の有無に係る相違についても、甲2意匠における彩色の態様はいずれも各部位を部材又は形状の区画ごとに単純彩色したのみであるため、本件登録意匠と甲2意匠の類否判断には格別の影響を及ぼさない。
c 形状等の類否
上記した共通点及び相違点の評価に基づくと、本件登録意匠と甲2意匠の形状等の共通点が類否判断に及ぼす影響は非常に大きく、これら共通点は相まって需要者に共通の美感を与えているのに対して、相違点が類否判断に及ぼす影響は総じて限定的なものにとどまるため、これらを総合すると、本件登録意匠と甲2意匠の形状等は類似すると認められる。
(ウ)判断
そうすると、意匠に係る物品は同一であるが、その形状等は同一とは認められないので、本件登録意匠と甲2意匠は同一とはいえない。一方、意匠に係る物品が同一であり、その形状等も類似するから、本件登録意匠と甲2意匠は類似すると認められる。
エ 小括
以上のとおり、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠である甲2意匠と同一ではないから、意匠法第3条第1項第2号に掲げる意匠に該当せず、請求人が主張する無効理由3には理由がない。しかしながら、本件登録意匠は甲2意匠に類似するから、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、請求人が主張する無効理由4には理由がある。
第5 結び
以上のとおりであって、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠に類似するものであり、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないものであるにもかかわらず意匠登録を受けたものであるから、意匠法第48条第1項第1号に該当し、その意匠登録は無効理由2及び無効理由4により無効とすべきものである。
審判に関する費用については、意匠法第52条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-880002