特許異議申立
2023-700912
膜透過性の高い環状ペプチド化合物、及びこれを含むライブラリ
- 審判番号
- 2023-700912
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-523996
- 登録番号
- 7232758
- 請求日
- 2023年09月05日
- 審決日
- 2024年01月09日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】中外製薬株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【異議申立人】須長 英男
- 審判長/審判官
- 審判長 上條 肇
- 審判官 中根 知大
- 審判官 福井 悟
- 分類
- P1651.121-Y (C40B) / P1651.536-Y (C40B) / P1651.537-Y (C40B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7232758号発明「膜透過性の高い環状ペプチド化合物、及びこれを含むライブラリ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7232758号の請求項1~13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7232758号(請求項の数13。以下、「本件特許」という。)は、平成30年6月8日(優先権主張 平成29年6月9日)を国際出願日とする特願2019-523996号の請求項1~13に係る発明について、令和5年2月22日に特許権の設定登録がされ、特許掲載公報が令和5年3月6日に発行されたものである。
その後、令和5年9月5日に、本件特許の請求項1~13に係る特許に対して、特許異議申立人である須長英男(以下、「申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。
よって、本件特許異議の申立てに係る審理対象は、全ての請求項に係る特許についてであり、審理対象外の請求項は存しない。
第2 本件発明
本件特許第7232758号の請求項1~13の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、請求項1~13に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」~「本件発明13」といい、それらを総称して、「本件発明」という。また、本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。
「【請求項1】
標的分子に特異的に結合できる化合物の同定に使用するための、環状ペプチド化合物のライブラリであって、前記ライブラリが、環状部の側鎖に、(1)インドール骨格、及び(2)置換又は無置換のヒドロキシフェニル基、を有しない環状ペプチド化合物から実質的になり、
前記ライブラリに、環状部に酸性の側鎖を有する環状ペプチド化合物が含まれる場合、同環状ペプチド化合物が、該酸性の側鎖のpKaが3.5~10である環状ペプチド化合物から実質的になり、
前記ライブラリに、環状部に塩基性の側鎖を有する環状ペプチド化合物が含まれる場合、同環状ペプチド化合物が、該塩基性の側鎖のBasic pKaが4.0~10である環状ペプチド化合物から実質的になり、
前記ライブラリに含まれる環状ペプチド化合物の環状部を構成するアミノ酸の数の平均が7~14であり、
前記ライブラリが、長さが5.4~13オングストロームの長側鎖を環状部に有する環状ペプチド化合物を含み、
前記ライブラリが、1×103以上の多様性を有する、
ライブラリ。
【請求項2】
前記長側鎖が、その側鎖上にアミド結合を含まないか、又は1個のアミド結合を含む側鎖である、請求項1に記載のライブラリ。
【請求項3】
前記ライブラリに含まれる環状ペプチド化合物のClogP/total aaの平均が、1.0~1.8である、請求項1又は2に記載のライブラリ。
【請求項4】
前記ライブラリに含まれる環状ペプチド化合物が、環状ペプチド-核酸複合体である、請求項1~3のいずれか一項に記載のライブラリ。
【請求項5】
前記環状ペプチド-核酸複合体が、核酸が連結されている直鎖部(核酸連結部)を含む、請求項4に記載のライブラリ。
【請求項6】
前記ライブラリに含まれる環状ペプチド-核酸複合体の核酸連結部以外のペプチド部位を構成するアミノ酸の数の平均が、7~20である、請求項5に記載のライブラリ。
【請求項7】
前記ライブラリに含まれる環状ペプチド-核酸複合体の核酸連結部以外のペプチド部位に含まれるアミノ酸の数に占めるN置換アミノ酸の数の割合の平均が30%以上である、請求項5又は6に記載のライブラリ。
【請求項8】
前記ライブラリに含まれる環状ペプチド化合物のClogP/total aaの平均が、1.0~1.8であり、
前記環状ペプチド-核酸複合体のClogP/total aaが、核酸によりコードされる環状ペプチド化合物の核酸連結部以外のペプチド部位のClogP/total aaである、請求項5~7のいずれか一項に記載のライブラリ。
【請求項9】
前記長側鎖がR1を含み、ここでR1は、
(a)フェニル基、若しくは、(b)酸素原子及び窒素原子からなる群より独立に選択されるヘテロ原子を環内に1~3個有している4~6員の複素環基、
ここで(a)及び(b)は下記A群より独立に選択される置換基を少なくとも一つ有していてもよく、
A群:オキソ、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいC1-C4アルキル基、及びC1-C4ジアルキルアミノ基(ここで、C1-C4アルキル基中の隣接しない1又は2個のメチレン基が酸素原子で置換されていてもよい)
又は、
(c)以下の一般式(II)、(III)、若しくは(IV):
【化1】
[図:0001406724000001.jpg]
[式中、
X1は単結合、又は下記B群より独立して選択される置換基を少なくとも一つ有していてもよいC1-C2アルキレン基を表し、
X2は単結合、又は下記B群より独立して選択される置換基を少なくとも一つ有していてもよいC1-C2アルキレン基を表し、
Y1は単結合、酸素原子、カルボニル基(-CO-)、又はスルホニル基(-SO2-)を表し、
Y2は単結合、C1-C4アルキル基で置換されていてもよいC1-C2アルキレン基、カルボニル基(-CO-)、又はスルホニル基(-SO2-)を表し、
Z1は単結合、下記B群より独立して選択される置換基を少なくとも一つ有していてもよいメチレン基、又は酸素原子を表し、
R2及びR3はそれぞれ独立して、水素原子、C1-C6アルキル基、C2-C4アルケニル基、又はC2-C4アルキニル基を表し、ここで該C1-C6アルキル基は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、また、該C1-C6アルキル基中の隣接しない1若しくは2個のメチレン基が酸素原子で置換されていてもよく
R2及びR3、又はR2及びX1が結合して4~6員環の環状構造を形成していてもよく、この場合に該環状構造は、C1-C4アルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよく、環内に酸素原子を有していてもよく、該環状構造は部分的に不飽和であってもよく、
R4はC1-C6アルキル基、C2-C6アルケニル基、C2-C6アルキニル基、又はC1-C6アルカノイル基を表し、
R5は水素原子、C1-C6アルキル基、C2-C6アルケニル基、又はC2-C6アルキニル基を表し、R4及び/又はR5のC1-C6アルキル基中の隣接しない1若しくは2個のメチレン基が酸素原子で置換されていてもよく、
あるいはR4及びR5、又はR5及びX2はそれらが結合している原子と一緒になって4~6員環の環状構造を形成していてもよく、この場合に該環状構造は、C1-C4アルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよく、環内に酸素原子を有していてもよく、該環状構造は部分的に不飽和であってもよく、
R6、R7、R8、R9、及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1-C4アルキル基、C2-C4アルケニル基、又はC2-C4アルキニル基を表し、該C1-C4アルキル基中の隣接しない1若しくは2個のメチレン基が酸素原子で置換されていてもよく、
【化2】
[図:0001406724000002.jpg]
は結合点を表す。
B群:ハロゲン原子、C1-C4アルキル基、及びC1-C2アルコキシ基]
で表される基である、
請求項1~8のいずれか一項に記載のライブラリ。
【請求項10】
前記ライブラリに含まれる環状ペプチド化合物の環状部の側鎖に含まれる芳香環の数の平均が0~3である、請求項1~9のいずれか一項に記載のライブラリ。
【請求項11】
以下の工程を含む、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物のスクリーニング方法:
(i)請求項1~10のいずれか一項に記載のライブラリと該標的分子を接触させる工程;及び
(ii)該標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物を選択する工程。
【請求項12】
請求項1に記載の環状ペプチド化合物のライブラリの製造方法であって、以下(a)及び(b)からなる群より選択される少なくとも一つの工程を含む、方法:
(a)(1)側鎖にインドール骨格を有するアミノ酸を実質的に含まず、
(2)側鎖に置換又は無置換のヒドロキシフェニル基を有するアミノ酸を実質的に含まず、
(3)長さが5.4~13オングストロームの長側鎖を有するアミノ酸を含み、
(4)酸性の側鎖を有するアミノ酸を含む場合、該酸性の側鎖のpKaが3.5~10であり、かつ、
(5)塩基性の側鎖を有するアミノ酸を含む場合、該塩基性の側鎖のBasic pKaが4.0~10である、
アミノ酸プールを用意し、該プールに含まれるアミノ酸の一部又は全部を構成アミノ酸としてペプチド化合物を合成する工程;及び
(b)(1)側鎖にインドール骨格を有するアミノ酸をコードする核酸を実質的に含まず、
(2)側鎖に置換又は無置換のヒドロキシフェニル基を有するアミノ酸をコードする核酸を実質的に含まず、
(3)長さが5.4~13オングストロームの長側鎖を有するアミノ酸をコードする核酸を含み、
(4)酸性の側鎖を有するアミノ酸をコードする核酸を含む場合、該酸性の側鎖のpKaが3.5~10であり、かつ、
(5)塩基性の側鎖を有するアミノ酸をコードする核酸を含む場合、該塩基性の側鎖のBasic pKaが4.0~10である、
鋳型プールを用意し、該鋳型プールからペプチド化合物を合成する工程。
【請求項13】
以下の工程を含む、環状ペプチド化合物の製造方法:
(i)請求項1~10のいずれか一項に記載のライブラリと標的分子を接触させる工程;
(ii)該標的分子に結合できる環状ペプチド化合物を選択する工程;及び
(iii)(ii)で選択された環状ペプチド化合物のアミノ酸配列に基づき、環状ペプチド化合物を製造する工程。」
第3 申立人が申し立てた特許異議申立理由
申立人が申し立てた特許異議申立の理由(以下、「申立理由」という。)の概要及び証拠方法は以下のとおりである。
1.申立理由の概要
(1)申立理由1(進歩性)
本件発明1~13は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1~13に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
(2)申立理由2(実施可能要件、サポート要件)
「(1)インドール骨格、及び(2)置換又は無置換のヒドロキシフェニル基」以外の環状部の側鎖に有するとすると膜透過性が低くなると推認される基、例えばアミノブチル基、を側鎖として有するペプチド化合物を含むライブラリを使用する場合、又は、実施例に記載された特定の4種類以外の標的の場合に、膜透過性の高い環状ペプチド化合物をスクリーニングできるとする根拠が不明である。
また、ライブラリに含まれる、長側鎖を環状部に有する環状ペプチド化合物の比率が少なくなると、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物のヒット率が低下するものと推測される。
したがって、本件発明1~12についての本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(実施可能要件)
ア.本件発明13について
本件発明13において、工程(iii)を行うためには、工程(ii)で選択された環状ペプチド化合物のアミノ酸配列を把握する必要があるが、工程(i)で用いられる多様な環状ペプチド化合物群からどのようなものが選択されるか当業者は理解することができないうえ、実施例に記載された特定の標的分子を用いて選択された特定の環状ペプチド化合物のアミノ酸配列から、それ以外の標的分子を用いた場合の環状ペプチド化合物のアミノ酸配列を類推できるといえない。
よって、本件発明13は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
イ.本件発明1について
環状部にpKa3.5~10である酸性の側鎖を有する環状ペプチド化合物がライブラリに含まれる場合、及び、環状部にBasic pKaが4.0~10である塩基性の側鎖を有する環状ペプチド化合物がライブラリに含まれる場合において、膜透過性の高い環状ペプチド化合物をスクリーニングできるとの根拠が不明である。
よって、本件発明1は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
ウ.本件発明3、8について
本件明細書等の発明の詳細な説明には、1×103以上の多様性を有し、かつClogP/total aaの平均が1.0~1.8であるライブラリをどのように製造すべきか記載されておらず、かかるライブラリが技術常識に基づいて当業者が作製できるとも理解できない。
よって、本件発明3、8についての本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件発明1、3、8、13についての本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2.証拠方法
甲第1号証:国際公開第2013/100132号
甲第2号証:Medchemcomm. 2012 October ; 3(10): 1282-1289
(以下、「甲第1号証」、「甲第2号証」を、「甲1」、「甲2」という。)
第4 当審の判断
当審は、申立人が主張する上記の申立理由は、いずれも理由がなく、ほかに本件発明1~13に係る特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件発明1~13に係る特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきものと判断する。
1.本件明細書等の記載
本件明細書等には、以下の事項が記載されている。(下線は当審による。)
本a
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、非限定的な一側面において、細胞膜透過性(「膜透過性」ともいう。)の高い環状ペプチド化合物をスクリーニングするための、環状ペプチド化合物のライブラリを提供することを課題とする。また、本発明は、非限定的な一側面において、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物を効率的にスクリーニングするための、環状ペプチド化合物のライブラリを提供することを課題とする。本発明は、他の側面において、膜透過性の高い環状ペプチド化合物、又はその製造方法、若しくはスクリーニング方法を提供することを課題とする。」
本b
「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物をスクリーニングする際に、長い側鎖を環状部に有する環状ペプチド化合物を含むライブラリを用いることで、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物のヒット率が向上し得ること、すなわちスクリーニングの効率を高め得ることを見出した。
【0009】
一方で、従来経口低分子医薬品に採用されていたインドール骨格やヒドロキシフェニル基を有するアミノ酸残基であるトリプトファンやチロシン残基が、実は、高い膜透過性を狙うペプチドには適さないこと、つまり、同構造を有するペプチドは高い膜透過性を発揮することが難しくなることを驚くべきことに見出した。
【0010】
特に、トリプトファンやチロシン残基のような長い側鎖を有するアミノ酸残基を有する環状ペプチド化合物を含むライブラリを用いて、標的分子に結合できる化合物のパニングを繰り返すと、膜透過性の低い環状ペプチド化合物がヒット化合物として濃縮されることを、本発明者らは見出した。
【0011】
また、特定の理論に拘束されることを必ずしも意図しないが、上記により濃縮された環状ペプチド化合物から、hit to leadにより高い膜透過性を有する環状ペプチド化合物を得ようとしても、標的分子との結合に寄与すると考えられる長い側鎖自体が、高い膜透過性を発揮しにくい構造を有することから、(i)標的分子との結合親和性と(ii)高い膜透過性を両立できる可能性は低いと考えられる。
【0012】
そこで、本発明者らは、膜透過性が高く、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物を効率よくスクリーニングすることができるライブラリの一態様として、環状部に長い側鎖を有し、かつ、高い膜透過性を発揮しにくい側鎖を有しない環状ペプチド化合物のライブラリを見出し、本発明を完成するに至った。」
本c
「【0083】
ペプチド化合物
限定を意図しないが、本開示における「ペプチド化合物」には、鎖状ペプチド化合物、及び環状ペプチド化合物が含まれる。また、本開示におけるペプチド化合物には、ペプチド、ペプチドと核酸の複合体(ペプチド-核酸複合体)、ペプチドとリボソームと核酸の複合体等が含まれる。限定を意図しないが、本開示におけるペプチド化合物には、鎖状ペプチド、環状ペプチド、鎖状ペプチド部位と核酸の複合体(鎖状ペプチド-核酸複合体)、及び環状ペプチド部位と核酸の複合体(環状ペプチド-核酸複合体)が含まれる。非限定の一態様において、環状ペプチド化合物の環状部は、翻訳合成されたペプチド化合物を環化反応に供することにより形成される。本明細書において、ペプチドそのもの、又はペプチド-核酸複合体におけるペプチドの部分を「ペプチド部位」と記載する場合がある。また、本開示における「核酸」にはDNA、mRNA、及びtRNAが含まれる。本明細書において、ペプチド化合物を構成する「アミノ酸」を「アミノ酸残基」ということがある。本明細書において、環状部を有するペプチド化合物を「環状ペプチド化合物」とよぶことがある。本明細書において、ペプチド化合物の「環状部」とは、2以上のアミノ酸残基が連結され、形成されている環状の部分を意味する。本明細書において、環状ペプチド化合物の部分構造を指す際に使用される「直鎖部」とは、環状部の主鎖構造に含まれない部分であって、該部分の鎖上に少なくとも一つのアミド結合及び/又はエステル結合を有するものをいう。また、本明細書における「ペプチド化合物」には、その薬学的に許容される塩が含まれてもよい。」
本d
「【0109】
非限定の一態様において、本開示における環状ペプチド化合物のClogPは、4以上が好ましく、5以上がより好ましく、6以上が更に好ましく、8以上が特に好ましく、18以下、17以下、16以下が好ましく例示され、4~18、5~17、及び6~16が例示される。本明細書におけるClogPは、コンピューターで計算した分配係数であって、Daylight Chemical Information Systems, Inc.のDaylight Version 4.9を用いて計算できる。
【0110】
非限定の一態において、本開示における環状ペプチド化合物のClogP/total aaは、1.0以上が好ましく、1.1以上がより好ましく、1.2以上が更に好ましく、1.8以下、1.7以下、1.6以下、1.5以下が好ましく例示され、1.0~1.8、1.0~1.7、1.1~1.6、及び1.1~1.5が例示される。本明細書において「total aa」 (「total AA」とも表記される。) とは、ペプチド化合物の核酸連結部以外のペプチド部位を構成するアミノ酸の数を意味する。例えば、環状部が10個のアミノ酸からなり、核酸が連結していない直鎖部が1個のアミノ酸からなる環状ペプチド化合物のtotal aaは11である。本明細書においてClogP/total aaとは、ClogPをtotal aaで除することにより算出される。」
本e
「【0115】
上述の方法により算出したアミノ酸の側鎖の長さを表1-1および表1-2に示す。
【表1-1】
[図:0001406724000003.jpg]
【表1-2】
[図:0001406724000004.jpg]
」
本f
「【0186】
ライブラリ
本開示におけるライブラリには、本開示におけるペプチド化合物を含むライブラリ、及び本開示におけるペプチド化合物をコードする核酸を含むライブラリが含まれる。本開示におけるライブラリには、本開示におけるペプチド化合物のライブラリ、ペプチド-核酸複合体のライブラリが含まれ、中でも環状ペプチド化合物、又は環状ペプチド-核酸複合代のライブラリが好ましく、特に環状ペプチド-mRNA複合体のライブラリが好ましい。ライブラリとしては、ディスプレイライブラリが好ましい。ディスプレイライブラリとしては、ディスプレイを利用したライブラリが例示され、中でもmRNAディスプレイライブラリ、DNAディスプレイライブラリ、リボソームディスプレイライブラリが好ましく、mRNAディスプレイライブラリがより好ましい。」
本g
「【0211】
本開示におけるライブラリにおいて、環状ペプチド化合物の「バリエーションの理論上の(総)数」を求める際、実際に環状ペプチド化合物として製造され得ないものは、理論上の(総)数には算入しない。例えば、以下(1)及び(2)のような場合には、該当するアミノ酸は翻訳合成されないことから、このようなアミノ酸を含むペプチド化合物は、理論上の(総)数に算入しない:(1)ペプチド化合物の材料として翻訳液中にアミノ酸が添加されていても、同アミノ酸をコードする核酸を鋳型として含まない場合;(2)ペプチド化合物の鋳型となる核酸には塩基配列を含むが、これに対応するアミノ酸を含まない翻訳液を使用する場合。また、環状ペプチド化合物を製造する過程での副反応物や未反応物が存在する場合には、これらは前記理論上の(総)数には算入しない。」
本h
「【0214】
本開示におけるライブラリには、環状ペプチド化合物、又はこれらをコードする核酸が複数含まれる。本明細書において、ライブラリに含まれる環状ペプチド化合物のバリエーション(種類)の数のことを「多様性」という。本開示におけるライブラリに含まれる環状ペプチド化合物、又はこれらをコードする核酸の多様性は特に限定されないが、103以上、104以上、105以上、106以上、107以上、108以上、109以上、1010以上、1011以上、及び1012以上が例示される。これら多様性は、実測値に限定されるものではなく、理論値であってよい。」
本i
「【0222】
ディスプレイライブラリ
ディスプレイライブラリは表現型であるペプチドとその遺伝子型であるペプチドをコードするRNAもしくはDNAが対応付けられているライブラリである。このライブラリを使用して、標的分子に特異的に結合できるペプチド化合物を同定することができる。例えば、所望の固定した標的にライブラリを接触させ、標的に結合しない分子を洗い流すことで、標的に結合するペプチドの濃縮が可能である(パニング法)。このような過程を経て選択されたペプチドに対応付けられている遺伝子情報を解析することで標的に結合したペプチドの配列を明らかにすることができる。例えば、アミノアシルtRNAのアナログである抗生物質ピューロマイシンがリボソームによるmRNA翻訳伸長中の蛋白質に非特異的に連結されることを利用する方法がmRNAディスプレイ(Proc Natl Acad Sci USA. 1997;94:12297-302. RNA-peptide fusions for the in vitro selection of peptides and proteins. Roberts RW, Szostak JW.)ないしはin vitro virus(FEBS Lett. 1997;414:405-8. In vitro virus: bonding of mRNA bearing puromycin at the 3'-terminal end to the C-terminal end of its encoded protein on the ribosome in vitro. Nemoto N, Miyamoto-Sato E, Husimi Y, Yanagawa H.)として報告されている。
【0223】
T7プロモーターなどのプロモーターを含むDNAライブラリから転写にて得たmRNAのライブラリの3'端にピューロマイシンなどのスペーサーを結合しておき、無細胞翻訳系でmRNAをタンパク質に翻訳させるとピューロマイシンがリボソームによってアミノ酸と間違ってタンパク質に取り込まれ、mRNAとこれにコードされる蛋白質が連結され、mRNAとその産物が対応付けられたライブラリになる。この過程では大腸菌などの形質転換を含まないため高い効率が実現され、大規模なディスプレイライブラリを構築することが出来る。パニングで濃縮、選択された分子についている遺伝子情報を含むタグであるmRNAからcDNAを合成し、PCR増幅し、塩基配列を解析することで結合した蛋白の配列を明らかにすることが出来る。」
本j
「【0228】
ペプチド化合物、及びライブラリの製造方法
一実施態様において、本開示における製造方法には、ペプチド化合物、及びペプチド化合物を含むライブラリの製造方法が含まれる。これら製造方法としては、特に限定されないが、例えば化学合成、翻訳合成、又はこれらの組み合わせを利用することができる。」
本k
「【0229】
ペプチド化合物の化学合成方法
本開示におけるペプチド化合物の化学合成方法としては、液相合成法、Fmoc合成やBoc合成等を用いた固相合成法、及びこれらの組み合わせ等が例示される。Fmoc合成では、主鎖アミノ基がFmoc基により保護され、側鎖官能基が必要に応じてピペリジンなどの塩基性で切断されない保護基で保護され、主鎖カルボン酸を保護しないアミノ酸を基本単位とする。基本単位としては、その他、Fmoc保護されたアミノ基とカルボン酸基を有する組み合わせであれば、特に限定されない。例えばジペプチドを基本単位としてもよい。N末端に配置させる基本単位は、Fmocアミノ酸以外であってもよい。例えば、Bocアミノ酸であってもよく、アミノ基を有しないカルボン酸類縁体であってもよい。主鎖カルボン酸基を固相担体の官能基との化学反応により固相に担持させる。続いてピペリジンやDBUなどの塩基によりFmoc基を脱保護し、新たに生じたアミノ基と続いて添加される基本単位のカルボン酸を有する保護アミノ酸とを縮合反応させることで、ペプチド結合を生成させる。縮合反応では、DICとHOBtの組み合わせ、DICとHOAtの組み合わせ、HATUとDIPEAとの組み合わせなど様々な組み合わせが可能である。脱Fmoc基とそれに続くペプチド結合生成反応の繰り返しにより、望みのペプチド配列を生成させることができる。望みの配列が得られた後、固相からの切り出しと必要に応じて導入した側鎖官能基の保護基の脱保護が行われる。また、固相からの切り出しを行う前にペプチドの構造変換や環化を行うことも可能である。固相からの切り出しと、脱保護は同一の条件、例えば90:10のTFA/H2Oで行っても良いし、必要に応じて別々の条件で脱保護しても良い。固相からの切り出しは、1%TFAなどの弱酸での切り出しが可能なものもあれば、保護基としてPdなどを利用して、両者の化学反応の直行性を利用することが可能である。これらの工程の間もしくは最後に、環化などの工程を実施することもできる。例えば、側鎖カルボン酸とN末端主鎖のアミノ基とを縮合させることや、側鎖アミノ基とC末端主鎖のカルボン酸を縮合させることができる。この際、C末端側のカルボン酸と環化させる側鎖カルボン酸の間、もしくはN末端側の主鎖アミノ基またはヒドロキシ基と環化させる側鎖アミノ基の間で反応直行性が必要であり、前述のとおり保護基の直行性を考慮して保護基の選択が行われる。このようにして得られた反応物を逆相カラムや、分子ふるいカラムなどで精製することができる。これらの詳細は、例えばメルク株式会社が平成14年5月1日に発行した固相合成ハンドブックなどに記載されている。
【0230】
ペプチド化合物の翻訳合成方法
本開示におけるペプチド化合物の翻訳合成方法としては、無細胞翻訳系を用いて合成する方法が例示され、同方法には再構成無細胞翻訳系による合成法が含まれる。排除したい因子を除くことができる点で、再構成無細胞翻訳系を利用するのが好ましい。
【0231】
一局面において、本開示は、表2-1~表2-6に記載されたアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種、2種以上、又は3種以上のアミノ酸を含むペプチド化合物の翻訳合成方法を提供する。限定はされないが、このような翻訳合成方法は、以下(i)および(ii)を含んでよい:
(i) 表2-1~表2-6に記載されたアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種、2種以上、又は3種以上のアミノ酸が結合したtRNAを用意する工程;
(ii) 前記tRNAのアンチコドンに対応するコドンを少なくとも1つ含む核酸を無細胞翻訳系で翻訳し、前記ペプチド化合物を得る工程。
非限定の一態様において、本開示における翻訳合成方法は、環状ペプチド化合物の翻訳合成方法であってよい。
【0232】
無細胞翻訳系
本明細書において「無細胞翻訳系」とは、細胞より抽出したリボソームの他、翻訳に関与する蛋白因子群、tRNA、アミノ酸、ATPなどのエネルギー源、その再生系を組み合わせたもので、mRNAを蛋白質に翻訳することが出来るものであれば限定されない。また、翻訳合成反応が進行している間の系も、本明細書における「無細胞翻訳系」に含まれてよい。本明細書における無細胞翻訳系は、ペプチドを翻訳する際の鋳型となる核酸を含んでいてよく、これら以外にも、開始因子、伸長因子、解離因子、アミノアシルtRNA合成酵素などを含むことができる。これらの因子は、種々の細胞の抽出液から精製することによって得ることができる。因子を精製するための細胞は、例えば原核細胞、または真核細胞を挙げることができる。原核細胞としては、大腸菌細胞、高度好熱菌細胞、または枯草菌細胞を挙げることができる。真核細胞としては、酵母細胞、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球、植物細胞、昆虫細胞、または動物細胞を材料にしたものが知られている。またtRNAやアミノアシルtRNA合成酵素(ARS)は天然に存在するものに加え、人工tRNAや非天然アミノ酸を認識する人工アミノアシルtRNA合成酵素を用いることもできる。人工tRNAや人工アミノアシルtRNA合成酵素を用いることにより部位特異的に非天然アミノ酸を導入したペプチドを合成することができる。なお、必要に応じて、無細胞翻訳系にT7 RNA polymeraseなどのRNAポリメラーゼを加えることで、鋳型DNAから転写させることもできる。
【0233】
本明細書において、「無細胞翻訳系がある物質を含む」とは、翻訳合成の開始時に該物質を含んでいなくても、翻訳合成の過程において系内で該物質が合成され含まれることになる態様も含む。例えば、翻訳合成の過程で、アミノ酸がアシル化されたtRNAが合成される場合には、無細胞翻訳系が該アミノアシルtRNAを含むと理解される。
【0234】
PURESYSTEM(登録商標)(BioComber, Japan)は大腸菌の翻訳に必要な蛋白因子類、エネルギー再生系酵素、リボソームそれぞれを抽出、精製し、tRNA、アミノ酸、ATP、GTPなどと混合した再構成無細胞翻訳系である。不純物の含有量が少ないだけでなく、再構成系であるため排除したい蛋白因子、アミノ酸を含まない系を容易に作製することができる。((i)Nat Biotechnol. 2001;19:751-5. Cell-free translation reconstituted with purified components. Shimizu Y, Inoue A, Tomari Y, Suzuki T, Yokogawa T, Nishikawa K, Ueda T.(ii)Methods Mol Biol. 2010;607:11-21.PURE technology.Shimizu Y, Ueda T.)。
【0235】
例えば、非天然アミノ酸を導入するコドンとして終止コドンを利用する方法が多く報告されているが、前述のPURESYSTEMを用いることで天然アミノ酸、ARSを除いた合成系を構築できる。これにより、除外する天然アミノ酸をコードするコドンに、非天然アミノ酸を対応付けることが出来る(J Am Chem Soc. 2005;127:11727-35.Ribosomal synthesis of unnatural peptides. Josephson K, Hartman MC, Szostak JW.)。さらにコドンの縮重を解くことにより天然アミノ酸を除外することなく非天然アミノ酸を加えることが出来る(Kwon I,et al. Breaking the degeneracy of the genetic code. J Am Chem Soc. 2003, 125, 7512-3.)。N-メチルアミノ酸を含むペプチドがPURESYSTEMなどの無細胞翻訳系の活用によりリボソームにて合成できる。
【0236】
より具体的には、翻訳合成は、例えば、大腸菌の翻訳に必要な蛋白因子類(メチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ、EF-G、RF1、RF2、RF3、RRF、IF1、IF2、IF3、EF-Tu、EF-Ts、ARS(AlaRS、ArgRS、AsnRS、AspRS、CysRS、GlnRS、GluRS、GlyRS、HisRS、IleRS、LeuRS、LysRS、MetRS、PheRS、ProRS、SerRS、ThrRS、TrpRS、TyrRS、ValRSから必要なものを選ぶ))、リボソーム、アミノ酸、クレアチンキナーゼ、ミオキナーゼ、無機ピロフォスファターゼ、ヌクレオシド二リン酸キナーゼ、E. coli 由来tRNA、クレアチンリン酸、グルタミン酸カリウム、HEPES-KOH pH7.6、酢酸マグネシウム、スペルミジン、ジチオスレイトール、GTP、ATP、CTP、UTPなどを適宜取捨選択して混合したPURESYSTEM等の公知の無細胞翻訳系にmRNAを加えることによって行うことが出来る。また、T7 RNA polymeraseを加えておけば、T7プロモーターを含む鋳型DNAからの転写、翻訳を共役して行なうこともできる。また、所望のアミノアシルtRNA群やアミノアシルtRNA合成酵素(ARS)が許容する非天然アミノ酸群(例えばF-Tyr)を系に添加することによって非天然アミノ酸を含むペプチド化合物を翻訳合成することが出来る(Kawakami T, et al. Ribosomal synthesis of polypeptoids and peptoid-peptide hybrids. J Am Chem Soc. 2008, 130, 16861-3., Kawakami T, et al. Diverse backbone-cyclized peptides via codon reprogramming. Nat Chem Biol. 2009, 5, 888-90.)。さらに、天然のARSに代えて又はこれら加えて、ARSの改変体を系に含めるとともに、非天然アミノ酸群を系に含めることによっても、非天然アミノ酸を含むペプチド化合物を翻訳合成することが出来る。あるいは、リボソームやEF-Tuなどの変異体を利用することによって非天然アミノ酸の翻訳導入の効率を高めることも出来る(Dedkova LM, et al. Construction of modified ribosomes for incorporation of D-amino acids into proteins. Biochemistry. 2006, 45, 15541-51., Doi Y, et al. Elongation factor Tu mutants expand amino acid tolerance of protein biosynthesis system. J Am Chem Soc. 2007, 129, 14458-62., Park HS, et al. Expanding the genetic code of Escherichia coli with phosphoserine. Science. 2011, 333, 1151-4.)。
【0237】
非限定の一態様において、本開示にける無細胞翻訳系(「本開示における翻訳系」ともいう。)は、ペプチド化合物を製造するための翻訳系であってよく、好ましくは環状ペプチド化合物を製造するための翻訳系である。
【0238】
非限定の一態様において、本開示におけ翻訳系は、以下(a)~(c)からなる群より選択される少なくとも一つ、二つ、又はすべてを実質的に含まない無細胞翻訳系であってよい:(a)側鎖にインドール骨格を有するアミノ酸、又は該アミノ酸をコードする核酸;(b)側鎖に2以上の芳香環による縮環構造を有するアミノ酸、又は該アミノ酸をコードする核酸;及び(c)側鎖に置換又は無置換のヒドロキシフェニル基を有するアミノ酸、又は該アミノ酸をコードする核酸。非限定の一態様において、本開示におけ翻訳系は、以下(d)~(f)からなる群より選択される少なくとも一つ、二つ、又はすべてを実質的に含まない無細胞翻訳系であってよい:(d)側鎖にインドール骨格を有するアミノ酸をコードする核酸;(e)側鎖に2以上の芳香環による縮環構造を有するアミノ酸をコードする核酸;及び(f)側鎖に置換又は無置換のヒドロキシフェニル基を有するアミノ酸をコードする核酸。非限定の一態様において、本開示におけ翻訳系は、以下(g)~(i)からなる群より選択される少なくとも一つ、二つ、又はすべてを実質的に含まない無細胞翻訳系であってよい:(g)側鎖にインドール骨格を有するアミノ酸;(h)側鎖に2以上の芳香環による縮環構造を有するアミノ酸;及び(i)側鎖に置換又は無置換のヒドロキシフェニル基を有するアミノ酸。なお、翻訳系にあるアミノ酸や核酸が含まれていたとしても、翻訳合成に利用されないような態様で含まれている場合には、該翻訳系は、該アミノ酸や該核酸を実質的に含まないと理解される。例えば、アミノ酸は存在するものの、対応するARSが含まれていないために、該アミノ酸が翻訳合成に利用されないような場合等が挙げられる。非限定の一態様において、前記「2以上の芳香環による縮環構造」は、「縮環構造」であってもよい。
【0239】
非限定の一態様において、本開示における翻訳系は、該翻訳系が酸性の側鎖を有するアミノ酸がアシル化されたtRNA、及び該アミノ酸をコードする核酸を含む場合、該アミノ酸の側鎖のpKaが3.5~10であってよい。一態様において、前記pKaは、3.5~10、3.9~10、4.5~10、5.0~10,又は5.5~10,5.7~10の範囲が好ましく例示される。これらpKaを計算pKaであらわすと、3.5~10、4.5~10、5.0~10,5.4~10,8.0~10,又は8.3~10の範囲が好ましく例示される。
【0240】
非限定の一態様において、本開示における翻訳系は、該翻訳系が塩基性の側鎖を有するアミノ酸がアシル化されたtRNA、及び該アミノ酸をコードする核酸を含む場合、該アミノ酸の側鎖のBasic pKaが4.0~10であってよい。一態様において、前記Basic pKaは4.0~10、4.0~9.5、4.0~9.0、4.0~8.5、4.0~7.5、4.0~7.2、4.0~6.5の範囲が好ましく例示される。これらpKaを計算pKaであらわすと、4.0~10、4.0~9.5、4.0~9.0、4.0~8.8,4.0~8.6,4.0~8.5、4.0~7.5、4.0~6.5の範囲が好ましく例示される。
【0241】
非限定の一態様において、本開示における翻訳系は、例えば長さが5.4~13、又は5.4~10オングストロームの長側鎖を有するアミノ酸を含んでいてよい。一態様における前記「長側鎖」は、「ペプチド化合物」の項目に記載したとおりであってよい。一態様において、長側鎖の少なくとも一種、又は二種以上が、芳香環を有する側鎖であってもよい。
【0242】
非限定の一態様において、本開示における翻訳系は、5~32種類、5~28種類、又は5~20種類の非天然アミノ酸を含んでいてよく、8~20種類、10~20種類、13~20種類が好ましく例示される。一態様において、本開示における翻訳系に含まれるアミノ酸の種類の数のうち、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上が非天然アミノ酸であってよい。
【0243】
非限定の一態様において、本開示における翻訳系は、5~28種類、又は5~20種類のN置換アミノ酸を含んでいてよく、5~18種類、5~15種類が好ましく例示される。一態様において、本開示における翻訳系に含まれるアミノ酸の種類の数のうち、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上がN置換アミノ酸であってよい。ここでのN置換アミノ酸は、N-アルキルアミノ酸、又はN-メチルアミノ酸を意味してもよいが、その場合であっても、本開示における翻訳系に他のN置換アミノ酸が含まれることを否定するものではない。
【0244】
非限定の一態様において、本開示における翻訳系は、該翻訳系を用いて製造される環状ペプチド化合物に含まれる芳香環の数の平均が一定の範囲内となるように調整されていてもよい。例えば、翻訳合成される環状ペプチド化合物において、環状部を構成するアミノ酸の数に占める芳香環を有するアミノ酸の数の割合の平均が40%以下、35%以下、30%以下、27%以下、25%以下、若しくは20%以下になるように、又は、8~11個のアミノ酸から構成される環状部を有する環状ペプチド化合物の環状部の側鎖に含まれる芳香環の数の平均が0~3になるように、本開示における翻訳系を調整してよい。調整方法は特に限定されないが、例えば、翻訳系に含まれるアミノ酸の種類の数に占める芳香環を有するアミノ酸の種類の数を調整することが挙げられる。
【0245】
非限定の一態様において、本開示における翻訳系は、芳香環を有するアミノ酸を含んでいてよく、翻訳系に含まれるアミノ酸の種類の数に占める芳香環を有するアミノ酸の種類の数の割合は40%以下が好ましく、35%以下、30%以下、27%以下、25%以下、20%以下が好ましく例示される。
【0246】
非限定の一態様において、本開示における無細胞翻訳系は、表2-1~表2-6に記載されたアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種、2種以上、又は3種以上のアミノ酸を含むペプチド化合物を製造するための無細胞翻訳系であってよい。限定はされないが、このような無細胞翻訳系は、以下(i)および(ii)を含んでよい:
(i) 表2-1~表2-6に記載されたアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種、2種以上、又は3種以上のアミノ酸が結合したtRNA;
(ii) 前記ペプチド化合物をコードする核酸、
ここで該核酸は前記tRNAのアンチコドンに対応するコドンを少なくとも1つ含んでよい。」
本l
「【0250】
ペプチド部位の環化方法
非限定的な一態様において、本開示におけるペプチド化合物のペプチド部位は、環状部を有することが好ましい。ペプチド化合物の環化方法は特に限定されないが、例えば、化学合成、又は翻訳合成等によりペプチド化合物を合成した後に、環化反応を行うことができる。例えば、アミド結合、炭素-炭素結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、エステル結合、チオエステル結合、ラクタム結合、トリアゾール構造を介した結合、フルオロフォア構造を介した結合等を利用した環化が挙げられる。ペプチド化合物の合成工程と環化反応の工程は、分離していても、連続して進行してもよい。環化は、例えばWO2013/100132、WO2008/117833、WO2012/074129等に記載された当業者に公知の方法により行うことができる。
【0251】
環化部としては、限定されないが、ペプチドのN末端とC末端の結合、ペプチドのN末端と他のアミノ酸残基の側鎖の結合、ペプチドのC末端と他のアミノ酸残基の側鎖の結合、又はアミノ酸残基の側鎖同士の結合のいずれであってもよく、これらの二以上を組み合わせて使用してもよい。C末端側に核酸が連結されているペプチド-核酸複合体を環化させる場合には、ペプチドのN末端と他のアミノ酸残基の側鎖の結合、又はアミノ酸残基の側鎖同士の結合であってよい。
【0252】
非限定の一態様において本開示における環状ペプチド化合物は、以下の方法により製造できる。例えば、以下の工程を含む製造方法を挙げることができる:
(1)アミノ酸残基、もしくは、アミノ酸残基及びN末端カルボン酸類縁体により構成される非環状のペプチド化合物を、該ペプチド化合物をコードする核酸から翻訳して合成する工程であって、該非環状のペプチド化合物は、C末端側に側鎖の1つに反応点を有するアミノ酸残基、及び、N末端側にもう1つの反応点を有するアミノ酸残基又はN末端カルボン酸類縁体を含む、工程;及び
(2)N末端側のアミノ酸残基、又はN末端カルボン酸類縁体の反応点と、C末端側の側鎖に有するアミノ酸残基の反応点とを結合させ、アミド結合、炭素-炭素結合又はチオエーテル結合を形成させる工程。
なお、これら(1)と(2)の工程は、分離していても、連続して進行してもよい。
【0253】
アミド結合によるペプチド化合物の環化方法の非限定的な一態様として、N末端にシステインまたはシステイン類縁体を持ち、C末端側のアミノ酸の側鎖に活性エステルを持つペプチド化合物を翻訳してネイティブケミカルライゲーションを用いて環化させる方法がある。この環状ペプチド化合物の前駆体であるN末端にシステインまたはシステイン類縁体を持つペプチド化合物を翻訳合成する方法は特に制限されない。」
本m
「【0259】
ライブラリの製造方法
非限定の一態様において、本開示におけるライブラリを製造する際は、所望の特性に寄与する構成アミノ酸を含ませるとともに、好ましくない性質を有する構成アミノ酸を含ませないことが好ましい。また、一態様においては、できる限りライブラリの多様性を拡大することが望ましい。具体的には、以下(1)~(4)からなる群より選択される少なくとも一つに寄与し得るアミノ酸を構成アミノ酸として含めるのが好ましい:(1)標的分子と特異的に結合できるペプチド化合物のヒット率向上;(2)標的分子との結合親和性増大;(3)代謝安定性増大;及び(4)膜透過性増大。一方で、前記(1)~(4)からなる群より選択される少なくとも一つに対して負の影響を与え得るアミノ酸は構成アミノ酸に含めないことが好ましい。
【0260】
非限定の一態様において、本開示におけるライブラリの製造は、上述した本開示におけるペプチド化合物の製造方法に準じて行うことができ、適宜公知の方法と組み合わせることができる。一態様において、上述した本開示における無細胞翻訳系を使用して本開示におけるペプチド化合物のライブラリを製造できる。すなわち、本開示におけるライブラリの製造方法には、本開示における無細胞翻訳系を使用してペプチド化合物を合成する工程を含んでよい。一態様において、本開示における無細胞翻訳系において記述した、例示、好ましい範囲、態様が、本開示におけるライブラリの製造方法においてもそのまま適用できる。
【0261】
非限定の一態様において、本開示におけるペプチド化合物のライブラリの製造方法は、以下(a)の工程を含んでよい:(a)側鎖にインドール骨格を有するアミノ酸を実質的に含まないアミノ酸プールを用意し、該プールに含まれるアミノ酸の一部又は全部を構成アミノ酸としてペプチド化合物を合成する工程。また、一態様において、本開示におけるペプチド化合物のライブラリの製造方法は、以下(b)の工程を含んでよい:(b)側鎖にインドール骨格を有するアミノ酸をコードする核酸を実質的に含まない鋳型プールを用意し、該鋳型プールからペプチド化合物を合成する工程。
【0262】
本明細書において、アミノ酸プールがあるアミノ酸を含んでいても、そのアミノ酸が翻訳合成に利用されない態様で含まれる場合や極少量しか含まれない場合には、該アミノ酸プールは該アミノ酸を実質的に含まないと理解される。例えば、アミノ酸プールがあるアミノ酸を含んでいても、該アミノ酸に対応するARSを含まないために該アミノ酸が翻訳合成に利用されないような場合には、該アミノ酸プールは、該アミノ酸を実質的に含んでいないと理解される。なお、ARSを含まなくても、翻訳合成に利用される態様で該当するアミノ酸が含まれていれば、アミノ酸プールに該アミノ酸が含まれると理解される。
【0263】
本明細書において、鋳型プールがあるアミノ酸をコードする核酸を含んでいても、該アミノ酸が翻訳合成に利用されない態様で該核酸が含まれる場合や極少量しか含まれない場合には、該鋳型プールは該核酸を実質的に含まないと理解される。
【0264】
非限定の一態様において、前記工程(a)及び(b)のプールは、それぞれ、側鎖に2以上の芳香環による縮環構造を有するアミノ酸、及び該アミノ酸をコードする核酸、を実質的に含まないプールであってよい。一態様において、前記工程(a)及び(b)のプールは、それぞれ、側鎖に置換又は無置換のヒドロキシフェニル基を有するアミノ酸、及び該アミノ酸をコードする核酸、を実質的に含まないプールであってよい。非限定の一態様において、前記「2以上の芳香環による縮環構造」は、「縮環構造」であってもよい。
【0265】
非限定の一態様において、前記ペプチド化合物の合成の際に使用されるアミノ酸プールに酸性の側鎖を有するアミノ酸が含まれ、かつ鋳型プールに該アミノ酸をコードする核酸が含まれてもよく、この場合、該アミノ酸の側鎖のpKaは3.5~10、3.9~10、4.5~10、5.0~10,又は5.5~10,5.7~10の範囲が好ましく例示される。これらpKaを計算pKaであらわすと、3.5~10、4.5~10、5.0~10,5.4~10,8.0~10,又は8.3~10の範囲が好ましく例示される。
【0266】
非限定の一態様において、前記ペプチド化合物の合成の際に使用されるアミノ酸プールに塩基性の側鎖を有するアミノ酸が含まれ、かつ鋳型プールに該アミノ酸をコードする核酸が含まれてもよく、この場合、該アミノ酸の側鎖のBasic pKaは4.0~10、4.0~9.5、4.0~9.0、4.0~8.5、4.0~7.5、4.0~7.2、4.0~6.5の範囲が好ましく例示される。これらpKaを計算pKaであらわすと、4.0~10、4.0~9.5、4.0~9.0、4.0~8.8,4.0~8.6,4.0~8.5、4.0~7.5、4.0~6.5の範囲が好ましく例示される。
【0267】
非限定の一態様において、前記ペプチド化合物の合成の際に使用されるアミノ酸プールは、上述の長側鎖を有するアミノ酸を含んでいてよい。該「長側鎖」には、上述の例示、好ましい範囲、態様に関する記述がそのまま適用できる。一態様において、前記アミノ酸プールに含まれる長側鎖の少なくとも一種、二種、又は三種以上が、芳香環を有する側鎖であってもよい。
【0268】
非限定の一態様において、前記ペプチド化合物の合成の際に使用されるアミノ酸プールは、上述の非天然アミノ酸、N置換アミノ酸、及び芳香環を有するアミノ酸を含んでいてよく、「無細胞翻訳系」の項目に記載した例示、好ましい範囲、態様がそのまま適用できる。前記アミノ酸プールに含まれるアミノ酸の種類の数に占める、非天然アミノ酸、N置換アミノ酸、又は芳香環を有するアミノ酸の種類の数の割合は、本開示における翻訳系におけるそれらの割合と同様に選択されてよい。
【0269】
mRNAディスプレイライブラリは、非限定の一態様において、以下のように製造することができる。まずT7プロモーターなどのプロモーターの下流に所望の配列を配置したDNAのライブラリを化学合成し、これを鋳型にプライマー伸長反応にて二本鎖DNAにする。これを鋳型にT7 RNApolymeraseなどのRNAポリメラーゼを用いてmRNAに転写する。このRNAの3'末端にアミノアシルtRNAのアナログである抗生物質ピューロマイシンなどがつながったリンカー(スペーサー)を結合させる。これを上記のPURESYSTEMなど公知の無細胞翻訳系に加え、保温することによってmRNAが翻訳され、mRNAとこれにコードされるペプチドがピューロマイシンなどを含むリンカーを介して連結される。このようにしてmRNAとその産物が対応付けられたmRNAとその産物の複合体からなるディスプレイライブラリを構築することが出来る。リンカーはさらに、当業者に周知のスペーサーを含むことができる。また、必要に応じて、上述の方法や公知の方法により、環化等の翻訳後修飾を行うことができる。
【0270】
非限定の一態様において、本開示におけるライブラリは、表2-1~表2-6に記載されたアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種、2種以上、又は3種以上のアミノ酸を含むペプチド化合物を含むペプチド化合物ライブラリであってよい。このようなライブラリの製造方法としては、以下(i)および(ii)を含む無細胞翻訳系でペプチド化合物を翻訳合成する工程を含んでよい:
(i) 表2-1~表2-6に記載されたアミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種、2種以上、又は3種以上のアミノ酸が結合したtRNA;
(ii) 前記ペプチド化合物ライブラリをコードする核酸ライブラリ、
ここで該核酸ライブラリには前記tRNAのアンチコドンに対応するコドンを少なくとも1つ含む核酸が含まれてよい。」
本n
「【0272】
非限定の一態様において、本開示におけるスクリーニング方法は、本開示における環状ペプチド化合物のライブラリと標的分子を接触させ、標的分子に結合しないペプチド化合物を洗い流すことで標的分子に結合するペプチド化合物を濃縮することができる(パニング)。一態様においては、このようにして選択されたペプチド化合物に含まれる塩基配列情報を含むタグであるmRNAからcDNAを合成し、PCR増幅し、塩基配列を解析することで、結合したペプチドのアミノ酸配列を明らかにすることができる。なお、一態様において、上記で増幅されたcDNAを転写することによって、mRNAライブラリを得てもよく、これらを鋳型として再度ペプチド化合物のライブラリを製造してもよい。このライブラリは標的分子に結合できるペプチド化合物が濃縮されているため、このライブラリを用いて再度パニングを行うことで、標的分子に特異的に結合できるペプチド化合物を、より濃縮することができる。この工程を複数回繰り返すことにより、目的のペプチド化合物を、更に濃縮することができる。一態様において、このようにして濃縮されたペプチド化合物に含まれる塩基配列情報を基にアミノ酸配列を同定し、標的分子に特異的に結合できるペプチド化合物を製造することができる。一態様において、本開示におけるスクリーニング方法は、in vitroで行うことができる。」
本o
「【0296】
実施例1 ペプチド化合物の化学合成
WO2013/100132に記載のFmoc法によるペプチド合成法に従い、下記の基本ルートでペプチドの伸長を行った。すなわち、1)Asp側鎖のカルボン酸を2-クロロトリチルレジンに担持させたものの、AspのN末からのFmoc法によるペプチド伸長反応、2)2-クロロトリチルレジンからのペプチドの切り出し過程、3)切り出し過程によって2-クロロトリチルレジンから外れて生じたAsp側鎖のカルボン酸と、ペプチド鎖N末端(三角ユニット)のアミノ基との縮合によるアミド環化、4)ペプチド鎖に含む側鎖官能基の保護基の脱保護、5)preparativeHPLCによる化合物の精製、の5段階の工程である。本実施例において、特に記述がない限り、この基本ルートをもとにペプチド化合物の合成をおこなった。
[図:0001406724000005.jpg]
・・・
【0522】
1-4.ペプチドの化学合成
特別な記載がない限り、pd50~pd70、pd100~pd247、およびpd300~pd504のペプチド化合物の合成は実施例1の冒頭に記載した基本ルートで、以下の方法にて行った。
1)自動合成機によるペプチド固相合成
WO2013/100132に記載の方法にてペプチド合成機(MultipepRS;Intavis社製)を用いて、Fmoc法によりペプチド合成を行った。なお、操作の詳細な手順については合成機に付属のマニュアルに従った。
【0523】
合成機にN末端がFmocで保護されたアスパラギン酸の側鎖カルボン酸部位が結合した2-クロロトリチルレジン(1カラムあたり100mg)と、各種Fmoc-アミノ酸(0.6mol/L、Fmoc-MeHis(Trt)-OH(化合物aa05)の場合は下記の方法で塩酸塩とした後、0.5mol/Lの溶液として用いた)と1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)もしくはoxyma(0.375mol/L)のNMP溶液と、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(10%v/v)をセットした。Fmoc-Thr(THP)-OH(化合物aa01)、Fmoc-MeSer(THP)-OH(化合物aa06)はNMP溶液においてoxymaと共存させ、さらにモレキュラシーブス4A1/8(和光純薬工業)もしくはモレキュラシーブス4A1/16(和光純薬工業)を添加してセットした。また、使用するアミノ酸が塩酸塩などの塩(例えばFmoc-MeHis(Trt)-OH(化合物aa05)の塩酸塩)を用いる場合、DIPEA/DMF=3/1の溶液をセットし、ペプチド伸長の際に使用するアミノ酸に対して、0.96等量分のDIPEAを上記のDMF溶液として別途添加した。
【0524】
Fmoc-MeHis(Trt)-OH(化合物aa05)の塩酸塩は下記の方法で調製した。
Fmoc-MeHis(Trt)-OH(化合物aa05)(1.166g)にDCM(10.5mL)を加え、0℃にて4NのHCl/1,4-dioxane(0.88mL)をDCM(5.3mL)で希釈した溶液を滴下しながら加えた。その後、反応液を0℃にて5分間撹拌し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下濃縮した。得られた残渣をオイルポンプを用いて減圧下乾燥させることでFmoc-MeHis(Trt)-OH(化合物aa05)を塩酸塩として得た。その後、NMP(2.21mL)を加え、0.5mol/Lの溶液として調整した。
Fmoc脱保護溶液としてジアザビシクロウンデセン(DBU)のDMF溶液(2%v/v)を用いて合成を行った。レジンはDMFにて洗浄した後、Fmoc脱保護に次いでFmocアミノ酸の縮合反応を1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことでレジン表面上にペプチドを伸長させた。ペプチド伸長完了後、レジンのN末端のFmoc基の除去をペプチド合成機上にて行った後、レジンをDMFにて洗浄した。
【0525】
2)伸長したペプチドのレジンからの切り出し
WO2013/100132に記載の方法にて、上記の方法によって得られた固相上に担持された鎖状ペプチドに対し、DCMを加えレジンを再膨潤させた後、レジンに2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)/DCM(1/1,v/v,2mL)を加えて室温にて2時間振とうした。続いてチューブ内の溶液を合成用カラムでろ過することによりレジンを除き、残ったレジンをさらに2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)/DCM(1/1,v/v,1mL)にて2回洗浄した。得られた全ての切り出し溶液を混合し、減圧下濃縮した。
【0526】
3)切り出したペプチドの環化法
切り出し後に減圧下濃縮した残渣をDMF/DCM(1/1,v/v,8mL)に溶解した。0.5MのO-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N,N-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)/DMF溶液(用いたレジン上のモル数(ローディング量(mmol/g)に使用したレジン量(通常は0.10g)をかけたもの)に対して1.5等量となる容量)と、DIPEA(用いたレジン上のモル数に対して1.8等量)を加え、室温にて2時間振とうした。その後、減圧下溶媒を留去した。目的の環状ペプチドの生成はLCMS測定によって確認した。
【0527】
4)5)環状ペプチドが有する側鎖官能基の保護基の脱保護
配列中にTyr(3-F,tBu)を含む場合には、調製した0.1Mの硫酸水素テトラメチルアンモニウム/1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)溶液(2%トリイソプロピルシラン(TIPS))を2mL加え、残渣を溶解させた後、室温もしくは30度にて24時間静置した。配列中にTyr(3-F)を含まない場合には、調製した0.05Mの硫酸水素テトラメチルアンモニウム/1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)溶液(2%トリイソプロピルシラン(TIPS))を4mL加え、残渣を溶解させた後、室温にて4時間静置した。いずれの場合においても、一定時間静置した後、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(70μL)を加え、減圧下溶媒を留去した。
【0528】
減圧下、溶媒を留去した後、DMFもしくはDMSOを加え、不溶物をフィルターろ過にて取り除いた後、preparative-HPLCで精製した。
なお、0.1Mの硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液(2%TIPS)、は、HFIP(11.66mL)、TIPS(0.24mL)、DCE(0.10mL)を混合した溶液から4mLを抜き取り、これに68.5mgの硫酸水素テトラブチルアンモニウムを溶解させて調製した。また、0.05Mの硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液(2%TIPS)は、HFIP(11.66mL)、TIPS(0.24mL)、DCE(0.10mL)を混合した溶液から4mLを抜き取り、これに34.3mgの硫酸水素テトラブチルアンモニウムを溶解させて調製した。これらの溶液(0.1Mの硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液(2%TIPS)及び0.05Mの硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液(2%TIPS))はHFIPの代わりに別のフルオロアルコール、例えば2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)なども用いることができる。」
本p
「【0533】
実施例2 ペプチド化合物の翻訳合成
・・・
【0835】
2-3.ペプチド化合物の翻訳合成
様々なアミノ酸によりアミノアシル化されたtRNAを、無細胞翻訳系に加えて翻訳を開始することにより、所望の非天然アミノ酸を含有するペプチド化合物の翻訳合成を行った。翻訳系は、原核生物由来の再構成無細胞タンパク質合成系であるPUREsystemを用いた。具体的には、翻訳液(1mMGTP,1mMATP,20mMクレアチンリン酸,50mMHEPES-KOHpH7.6,100mM酢酸カリウム,10mM酢酸マグネシウム,2mMスペルミジン,1mMジチオスレイトール,1.5mg/mlE.coliMRE600(RNaseネガティブ)由来tRNA(Roche社),0.1mM10-HCO-H4folate,0.6μMメチオニルtRNAトランスフォルミラーゼ,0.26μMEF-G,0.24μMRF2,0.17μMRF3,0.5μMRRF,4μg/mlクレアチンキナーゼ,3μg/mlミオキナーゼ,2unit/ml無機ピロフォスファターゼ,1.1μg/mlヌクレオシド二リン酸キナーゼ,2.7μMIF1,0.4μMIF2,1.5μMIF3,40μMEF-Tu,28μMEF-Ts,1.2μMリボソーム,0.73μMAlaRS,0.03μMArgRS,0.38μMAsnRS,0.13μMAspRS,0.02μMCysRS,0.06μMGlnRS,0.23μMGluRS,0.09μMGlyRS,0.02μMHisRS,0.4μMIleRS,0.04μMLeuRS,0.11μMLysRS,0.03μMMetRS,0.68μMPheRS,0.16μMProRS,0.04μMSerRS,0.09μMThrRS,0.03μMTrpRS,0.02μMTyrRS,0.02μMValRS)に、鋳型mRNA(配列番号:12)、それぞれの鋳型mRNAにコードされている天然アミノ酸群をそれぞれ0.25mMずつ、ならびにアミノアシル化tRNAを翻訳反応混合物に添加し、37℃で30分から1時間静置することで行った。翻訳産物はマトリックスとしてα-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸を用いてMALDI-MSスペクトルを測定して同定した。
【0836】
2-4.非天然アミノ酸を含むペプチド化合物の翻訳合成
1μMの鋳型mRNA(配列番号:12)に、各0.25mMのLeuを除く19種類のタンパク質を構成するアミノ酸(Ala,Arg,Asn,Asp,Cys,Gln,Glu,Gly,His,Ile,Lys,Met,Phe,Pro,Ser、Thr,Trp,TyrおよびVal)、20μMのアシル化tRNAを含む前述の転写翻訳液、F-Pnaz保護を持つ非天然アミノ酸を翻訳する場合は0.5μM大腸菌由来ペニシリンGアミダーゼ(PGA)を加え、37℃で60分間保温した。なお、Phe(4-OCHF2)を評価するときは、アミノアシルtRNAは加えず、Pheのアミノ酸を除き、かわりにPhe(4-OCHF2)を1mMとなるように添加した。得られた翻訳反応物を、SEPC-TIP(日京テクノス社)で精製し、MALDI-MSで分析した。その結果、非天然アミノ酸を含むペプチド化合物の分子量を示すマススペクトル(MS)が主生成物として観測された(図3~図6)。鋳型mRNAと期待される翻訳ペプチド化合物(配列番号:11)、その分子量(計算値)に関しては、以下の表9(個別翻訳)に記載した。
【0837】
【表9】
[図:0001406724000006.jpg]
[図:0001406724000007.jpg]
」
本q
「【0847】
実施例4 標的結合ペプチド化合物のパニング(試験管内選択)
4-1.アシル化tRNAの合成
特許文献(WO2013/100132)に記載の手法でパニングに使用するアシル化tRNAを調製した。使用したtRNA(CA欠損)の塩基配列を表11に示した。表12に示すElongatorアミノアシル化tRNA混合物を調製した。以降、翻訳で使用する際には、表12に示す最終濃度となるよう翻訳液を調製した。Acbz保護のpCpAアミノ酸は、ヨウ素による脱保護の代わりに、最終濃度42mMとなるようにTCEPを添加し、室温で45分間脱保護を行ったのち、フェノール抽出以降の作業を行った。Pnaz保護のpCpAアミノ酸は、脱保護を実施せずにフェノール抽出以降の作業を行った。Initiatorアミノアシル化tRNAの調製は、ライゲーション反応後、脱保護を実施せずにフェノール抽出以降の作業を行った。表13に示す三種類を個別に調製し、翻訳で使用する際にもいずれか一つを表に示す最終濃度で翻訳液に添加した。
【0848】
【表11】
[図:0001406724000008.jpg]
【0849】
【表12】
[図:0001406724000009.jpg]
【0850】
【表13】
[図:0001406724000010.jpg]
【0851】
4-2.ペプチド化合物ライブラリをコードするランダム化された二本鎖DNAライブラリ
特許文献(WO2013/100132)に記載の手法で、DNAライブラリを構築した。膜透過性の低い長い側鎖のアミノ酸を含むパニングのうち、iSP用として、TTT, TTG, CTA, ATT, GTT, CCG, ACT, GCT, TAC, CAT, CAG, TGG, CGG, AGT, AGG, GGTのいずれかのコドンがランダムに9回繰り返しで出現するもの、iRT用として、CTT, CTA , ATT, ATG, GTT, ACT, TAC, CAG, TGG, AGT, GGT, TTT, TTG , CCG , GCT, TAG, CAT, AAC, GAA, CGG, AGGのいずれかのコドンが9回繰り返しで出現するもの、および、膜透過性の高い長い側鎖のアミノ酸評価パニング用として、ランダム領域のトリプレットが8回ないし9回繰り返しで出現するものを用意した。
【0852】
4-3.ビオチン化標的タンパク質の調製
パニングに使用する標的タンパク質として、GTPaseKRas(KRAS)、Dualspecificitymitogen-activatedproteinkinasekinase1(MEK1)、Mitogen-activatedproteinkinase3(ERK1)、インターロイキン6受容体(IL-6R)を用いた。KRAS、ERK1、IL-6Rのビオチン化は非特許文献BMC biotechnology, 2008,8,41、及び非特許文献Protein Science,1999,8,921-929の方法を用いた。IL-6Rの調製は非特許文献J Biochem. 1990;108(4):673-6.に従って行った。ERK1の調製はBiochem Biophys Res Commun. 2008 Dec 26;377(4):1123-7.の方法に準じ行った。MEK1はカルナバイオサイエンス社よりビオチン化されたactive体(Product Number: 07-441-20N)を購入した。KRASは、大腸菌で発現・精製したものを使用した。
【0853】
4-4.パニングに使用する翻訳液
膜透過性の低い長い側鎖のアミノ酸を含むパニングに使用した翻訳液は以下の組成で構成される。1mMのGTP,1mMのATP,20mMのクレアチンリン酸,50mMのHEPES-KOHpH7.6,100mMの酢酸カリウム,10mMの酢酸マグネシウム,2mMのスペルミジン,1mMのジチオスレイトール,0.5mg/mlのE.coliMRE600(RNaseネガティブ)由来tRNA(Roche社),4μg/mlのクレアチンキナーゼ,3μg/mlのミオキナーゼ,2unit/mlの無機ピロフォスファターゼ,1.1μg/mlのヌクレオシド二リン酸キナーゼ,0.26μMのEF-G,2.7μMのIF1,0.4μMのIF2,1.5μMのIF3,40μMのEF-Tu,44μMのEF-Ts,1.2μMのリボソーム,2.73μMのAlaRS,0.09μMのGlyRS,0.4μMのIleRS,0.5μMの変異体PheRS05(WO2016/148044),0.16μMのProRS,1μMの変異体SerRS37(WO2016/148044),0.09μMのThrRS,0.01μMのTrpRS,0.02μMのTyrRS,1μMの変異体ValRS13(WO2016/148044),0.11μMのLysRS,0.33μMのHisRS,3μMのin vitro転写大腸菌tRNA Ala1B,3μMの精製大腸菌tRNA His QUG(Nucleic Acids Res. 2010 Apr;38(6):e89.の手法に習い精製。),250μMのグリシン、250μMのイソロイシン、250μMのプロリン、250μMのスレオニン、250μMのトリプトファン、250μMのリジン、5mMのN-メチルバリン、5mMのN-メチルセリン、5mMのN-メチルアラニン、5mMのN-メチルフェニルアラニン、250μMの3-フルオロチロシン、5mMのN-メチルヒスチジン、表12に示すElongatorアミノアシル化tRNA混合物(膜透過性の低い長い側鎖のアミノ酸を含むパニング)。さらに、Initiationsuppression法(iSP)を用いる場合は、Initiatorアミノアシル化tRNA(表13)のなかのいずれか一つを、Initiation read-through法(iRT)を用いる場合は、250μMのシステインおよび0.02μMのCysRSを加えて調製した。膜透過性の高い長い側鎖のアミノ酸評価パニング用の翻訳液は以下の組成で構成される。1mMのGTP,1mMのATP,20mMのクレアチンリン酸,50mMのHEPES-KOHpH7.6,100mMの酢酸カリウム,10mMの酢酸マグネシウム,2mMのスペルミジン,1mMのジチオスレイトール,1.0mg/mlのE.coliMRE600(RNaseネガティブ)由来tRNA(Roche社),4μg/mlのクレアチンキナーゼ,3μg/mlのミオキナーゼ,2unit/mlの無機ピロフォスファターゼ,1.1μg/mlのヌクレオシド二リン酸キナーゼ,0.26μMのEF-G,2.
7μMのIF1,0.4μMのIF2,1.5μMのIF3,40μMのEF-Tu,46μMのEF-Ts,1.2μMのリボソーム,5.46μMのAlaRS,0.09μMのGlyRS,0.5μMの変異体PheRS05(WO2016/148044),0.16μMのProRS,0.09μMのThrRS,1μMの変異体ValRS13(WO2016/148044),3μMのin vitro転写大腸菌tRNAAla1B,250μMのグリシン、250μMのプロリン、250μMのスレオニン、5mMのN-メチルバリン、5mMのN-メチルアラニン、5mMのN-メチルフェニルアラニン、表12に示すElongatorアミノアシル化tRNA混合物(膜透過性の高い長い側鎖のアミノ酸評価パニング)、Initiatorアミノアシル化tRNA(表13)のAcbz-MeCys(StBu)-tRNAfMetCAU。
【0854】
4-5.パニングの実施
前述の二本鎖DNAライブラリと翻訳液を使用し、WO2013/100132に倣ってパニングを実施した。膜透過性の高い長い側鎖のアミノ酸評価パニングでは、標的タンパク質とビオチンとの間にTEVプロテアーゼ認識配列を導入し、TEVプロテアーゼによる溶出を行った。ペプチドライブラリをビオチン化タンパク質と相互作用させた後に、ストレプトアビジン固定化磁気ビーズで回収後、洗浄作業を行った後、ビーズにTEV溶出液(50mMTris-HClpH8.0、0.5mMEDTA、1mMDTT、0.1U/μLAcTEVプロテアーゼ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、製品番号12575015))を添加し、30℃10分間反応した。反応後、上清を回収しPCRを行った。各パニングに使用したN末端のアミノ酸と標的の一覧を以下の表14に示す。
【0855】
【表14】
[図:0001406724000011.jpg]
【0856】
4-6.濃縮配列の解析
パニングの各ラウンドのDNAプールの塩基配列解析を行い、UPGMAによる系統樹構築を行った。類似度マトリックスには、アミノ酸が一致する場合に1を、一致しない場合には0をあたえるものを用いた。プルーニングラインをリーフから0.2として、クラスタを分割した。さらに、最低1ラウンド以上で出現頻度が0.05%を上回り、直前のラウンドのプールを分割し標的を添加せずにパニングした場合に比べ、標的を添加した場合に出現頻度が10倍以上増加する配列を抽出した。クラスタごとに、ランダム領域の各アミノ酸グループ(長側鎖を有するアミノ酸、長側鎖を有しない芳香族アミノ酸、長側鎖を有しない非芳香族アミノ酸)の出現頻度を計算した。得られた全クラスタのアミノ酸出現頻度を合計しクラスタ数で割った値を、そのパニングにおける各アミノ酸グループの出現頻度とした。アミノ酸を以下の表15「アミノ酸分類」に従い3つに分類し、パニングごとの出現頻度をまとめたものを表16に示す。解析の結果、標的によらず長側鎖のアミノ酸の出現頻度が高い傾向があることが明らかとなった。このことから、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物をスクリーニングする際に、長側鎖を有する環状ペプチド化合物を含むライブラリを用いることで、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物のヒット率が向上し得ること、すなわちスクリーニングの効率を高め得ることが考えられた。
【0857】
【表15】
[図:0001406724000012.jpg]
【0858】
【表16】
[図:0001406724000013.jpg]
」
本r
「【0859】
実施例5 長側鎖を有する環状ペプチド化合物の膜透過性試験
上述のとおり、Trp、Tyr(3-F)、Phe(3-Cl)、MePhe(4-Cl)の側鎖のような長側鎖を有する環状ペプチド化合物が、標的分子と特異的に結合できるヒット化合物としてパニングにより濃縮されることが分かった。次に、これら側鎖を有する環状ペプチド化合物の膜透過性を前記の改良法により評価した。
【0860】
5-1.Trpの側鎖を有する環状ペプチド化合物の膜透過性試験
Trpの側鎖を有する環状ペプチド化合物、及び同側鎖を有しない環状ペプチド化合物を合成し、改良法により膜透過性試験を行った。なお、MeTrpはTrpの側鎖を含むことから、構成アミノ酸にMeTrpを含む環状ペプチド化合物も、Trpの側鎖を有する環状ペプチド化合物に含まれる。その結果、Trpの側鎖を持たない環状ペプチド化合物はClogPを上昇させることによりPapp≧1.0×10-6cm/秒を達成することが可能であった(図11)。一方、Trpの側鎖を1つ以上有しているとClogPを上昇させてもPapp≧1.0×10-6cm/秒まで膜透過性を上げるのは難しかった(図12)。例えばTrp側鎖の位置、Nアルキルのパターンを変えたもので、1.06≦ClogP/totalaa≦1.43の範囲にある環状ペプチド化合物の配列を表17に示すが、これらはPapp≧1.0×10-6cm/秒の膜透過性を達成することは難しかった。
【0861】
ClogPはコンピューターで計算した分配係数であって、DayLightChemicalInformationSystems,Inc.社のDayLightVersion4.95を用いて計算した。なお、膜透過性評価を行ったペプチド配列(pd50-pd70、pd100-pd247、およびpd300-pd504)の構造情報及び分析情報は下記表26、表27にまとめて記載した。
【0862】
pd100を例にとり、表17のカラムについて説明する。交差ユニットの部分を1番目のアミノ酸と定義する。pd100の場合ではAspが該当する。交差ユニット(Asp)の隣で環状部を構成するアミノ酸を2番目のアミノ酸と定義し(pd100の場合Thrが該当)、以下3番目、4番目とN末端(▲ユニット)まで繰り返す(pd100の場合3番目MeAla、4番目MeGlyとなり、環状部が11残基からなるためN末端(▲ユニット)は11番目のD-Val)。またC-termのカラムはC末端のアミノ酸のカルボン酸部位と縮合する官能基を意味しており、pipはPiperidineを表し、pyrroはPyrroridineを意味している。C-termがnoneの場合は、C末端がカルボン酸のまま存在していることを表している(pd100の場合、C末端のアミノ酸は交差ユニットであるAspであり、そのカルボン酸部位がpip(piperidine)と縮合した構造になる)。そして、▲ユニットと交差ユニットをアミド結合により環化させたペプチドであるということを表17で表している。本文中に記載の環状ペプチド化合物に関しては特に記述が無い限り、全て同様の手法で表現している。なお、表17に記載のすべての化合物で1番目と11番目のアミノ酸残基が環状部を形成している。
[図:0001406724000014.jpg]
【0863】
【表17】
Trpの側鎖を有する環状ペプチド化合物の膜透過性
[図:0001406724000015.jpg]
【0864】
以上のとおり、Trpの側鎖を有する環状ペプチド化合物は、修飾によりClogP/total aaを上昇させても、膜透過性をPapp≧1.0×10-6cm/秒のレベルまで向上させることは困難であることが示された。
【0865】
5-2.Tyr(3-F)又はTyrの側鎖を有する環状ペプチド化合物の膜透過性試験
Tyr(3-F)又はTyrの側鎖を有する環状ペプチド化合物を合成し、改良法により膜透過性試験を行った。その結果、Tyr(3-F)又はTyrの側鎖を有する環状ペプチド化合物もTrpの側鎖を有する環状ペプチド化合物と同様の傾向であった。1.06≦ClogP/total aa≦1.29の範囲にある環状ペプチド化合物の配列を表18に示すが、Trpの場合と同様、これらがPapp≧1.0×10-6cm/秒を達成することは困難であった。
【0866】
【表18】
Tyr(3-F)又はTyrの側鎖を有する環状ペプチド化合物の膜透過性
[図:0001406724000016.jpg]
【0867】
5-3.Phe(3-Cl)、MePhe(4-Cl)、又はPhe(4-CF3)の側鎖を有する環状ペプチド化合物の膜透過性試験
Phe(3-Cl)、MePhe(4-Cl)、又はPhe(4-CF 3)の側鎖を有する環状ペプチド化合物を合成し、改良法により膜透過性試験を行った。その結果、これら側鎖を有する環状ペプチド化合物の中には、ClogP/totalaa≧1.10の領域でPapp≧1.0×10-6cm/秒を達成するものが多数存在した。図13にPhe(4-CF3)の例を示す。Phe(4-CF3)の側鎖を有する環状ペプチド化合物はClogP/total aa≧1.10の範囲で、Papp≧1.0×10-6cm/秒を達成可能であった(図13)。
【0868】
Phe(4-CF3)の側鎖を有する環状ペプチド化合物で1.10≦ClogP/total aa≦1.50の範囲でPapp≧1.0×10-6cm/秒であった環状ペプチド化合物の一部の配列を表19に示す。
【0869】
【表19】
[図:0001406724000017.jpg]
【0870】
Phe(3-Cl)の側鎖を有する環状ペプチド化合物もPhe(4-CF3)の側鎖を有する環状ペプチド化合物と同様の傾向であった。1.17≦ClogP/total aa≦1.31の範囲でPapp≧1.0×10-6cm/秒であった環状ペプチド化合物の一部の配列を表20に示す。
【0871】
【表20】
[図:0001406724000018.jpg]
【0872】
MePhe(4-Cl)の側鎖を有する環状ペプチド化合物もPhe(3-Cl)、又はPhe(4-CF3)の側鎖を有する環状ペプチド化合物と同様の傾向であった。1.22≦ClogP/totalaa≦1.31の範囲でPapp≧1.0×10-6cm/秒であった環状ペプチド化合物の一部の配列を表21に示す。
【0873】
【表21】
[図:0001406724000019.jpg]
【0874】
以上より、Trp、Tyr、及びTyr(3-F)の側鎖を有する環状ペプチド化合物は、修飾を加えClogP/total aaを上昇させても、Papp≧1.0×10-6 cm/秒の基準を満たす環状ペプチド化合物を得ることは難しかった。一方、その他の長側鎖を有する環状ペプチド化合物は、修飾を加えClogP/total aaを上昇させることで、Papp≧1.0×10-6 cm/秒の基準を満たす化合物を多数得ることができた。
例えば、長側鎖を有するアミノ酸(Ser(iPen)、MeSer(iPen)、Hph、MeHph、Ser(nPr)、Hnl(7-F2)、Ser(Ph-2-Cl)、Ser(Ph-3-Cl)、Ser(3-F-5-Me-Pyr)、Ser(F(4)nPr)、Hph(2-Cl)、Hph(3-Cl)、Hph(4-Cl)、Phe{#(CH2)2}、Ser(Bn)、Hyp(Et)、MeAbu(pip-3-F2)、MeAbu(pip-4-F2)、Ala(3-Pyr-4-NMe2)、nPenGly、nHexGly、(PhEt)NGly、(EtOEt)NGly、(PhOEt)Gly、Ser(S-2-PrOH)、Ser(tBuOH)、Ser(2-Me-2-BuOH)、Gln(Me2)、Ser(NtBu-Aca)、MeSer(NtBu-Aca)、Hse(Et)、Nle(6-OH)、MeAbu(Mor)、2-((pip-4-F2)-Et)Gly、Pro(pip-4-F2)、cisPro(pip-4-F2)、Gln(Me)、Ahp(2)(3-R-OH)、Lys(Ac)、Phe(4-CHF2)、Phe(4-OCHF2)、Ser(Et-2-Mor)、Abu(5-Oxo-Odz)、Ser(EtOH)、Ser(R-2-PrOH)、Hnl(7-F3-6-OH)、Ser(1-CF3-EtOH)を含む環状ペプチドの膜透過性評価したところ、1.13≦ClogP/totalAA≦1.35の領域でCaco-2≧1.0x10-6cm/secを達成することが可能であった。下記に配列情報の一部を示す。
【0875】
【表22】
[図:0001406724000020.jpg]
【0876】
必ずしも特定の理論に拘束されることを意図しないが、本発明者らは以下のように考える。上記の結果から、Trp、Tyr、又はTyr(3-F)のような側鎖を有する環状ペプチド化合物をヒット化合物として得たとしても、hit to leadにより膜透過性を高めることは難しいと考えられる。一方、その他の長側鎖であれば、パニングの際に標的分子との結合に寄与し得るし、これらの側鎖を有する環状ペプチド化合物は高い膜透過性を有し得るため、標的分子に特定的に結合でき、かつ、膜透過性の高い環状ペプチド化合物を得るために有用であると考えられる。」
本s
「【0877】
実施例6 環状ペプチド中の芳香環の数(ARC)が膜透過性に与える影響の評価
Papp≧1.0×10-6を達成するためには、環状ペプチド化合物の環状部の側鎖に含まれる芳香環の数(ARC)が3以下であることが好ましいことが以下のデータより示された(図14)。ARCが増加するにともなって環状ペプチド化合物のPappが低下、すなわち膜透過性が低下する傾向があり、ARCが4以上になるとPapp≧1.0×10-6を達成するのは困難であった。
なお、本解析では、環状部の側鎖に縮環構造を有するもの、並びに置換及び無置換のヒドロキシフェニル基を有する環状ペプチド化合物を解析対象から除外した。ARC=3の場合、ClogP/total AAが0.88以上の配列で、1.0×10-6以上のPappが認められた。一方、ARC=4の場合は前記ARC=3の化合物群と同程度のClogP/total AA(0.88以上)の化合物であっても、Pappが1.0×10-6以上となるものはほとんど存在しなかった。このことから、同程度の脂溶性の配列群であるにも関わらず、ARC=3とARC=4を比較すると、ARC=3の方が良好な膜透過性を示すことが示された(表23-1、表23-2、表24)。また、直鎖部1を含むペプチドであるpd198を例にとり、表23-1、表23-2及び表24のカラムについて説明する。前述した通り、交差ユニットの部分を1番目のアミノ酸と定義する。pd198の場合ではAspが該当する。交差ユニット(Asp)の隣で環状部を構成するアミノ酸を2番目のアミノ酸と定義し(pd198の場合Pheが該当)、以下3番目、4番目とN末端(▲ユニット)まで繰り返す(pd198の場合3番目MeVal、4番目MeLeuとなり、環状部が10残基からなるためN末端(▲ユニット)は10番目のg-MeAbu)。また直鎖部1のアミノ酸を交差ユニット(pd198の場合はAsp)から近い順に、H-1、H-2、H-3で示している。pd198の場合H-1はMePhe、H-2はAlaであるので、直鎖部1は交差ユニットであるAspのC末端にMePheが結合しており、ついでAlaが結合していることを意味している。またC-termのカラムはC末端のアミノ酸のカルボン酸部位と縮合する官能基を意味しており、pipはPiperidineを表し、pyrroはPyrroridineを意味している。C-termがnoneの場合はC末端はカルボン酸のまま存在していることを表している(pd198の場合、C末端のアミノ酸はH-2のAlaであり、そのカルボン酸部位がpip(piperidine)と縮合した構造になる)。そして、▲ユニットと交差ユニットをアミド結合により環化させたペプチドであるということを表23-1、表23-2及び表24で表している。本文中に記載の環状ペプチドに関しては特に記述が無い限り、全て同様の手法で表現している。
・・・
【0880】
塩基性および酸性側鎖を有するアミノ酸で膜透過性に関して、Papp≧1.0x10-6cm/秒を達成することが困難であったアミノ酸の例
実測値のbasic pKaが9.1、計算値のbasic pKaが8.9のアミノ酸であるSer(Et-2-NMe2)を含む配列は、1.21≦ClogP/total aa≦1.36の範囲で、膜透過性に関してPapp≧1.0x10-6cm/秒を達成することが困難であった(pd50~pd58)。一方、本明細書に記載の通り、MeAbu(pip-4-F2)、MeAbu(Mor)、Ser(Et-2-Mor)、MeAbu(pip-3-F2)を含む配列は膜透過性、Papp≧1.0x10-6cm/秒を達成することが可能であった。
【0881】
一方、実測値のpKaが3.8、計算値のpKaが5.3のアミノ酸であるGln(Ms)を含む配列は1.20≦ClogP/total aa≦1.33の範囲で、膜透過性に関してPapp≧1.0x10-6cm/秒を達成することが困難であった(pd59~pd70)。一方、本明細書に記載の通り、Abu(5-Oxo-Odz)を含む配列は膜透過性、Papp≧1.0x10-6cm/秒を達成することが可能であった。
【0882】
Ser(Et-2-NMe2)またはGln(Ms)を含む環状ペプチド化合物の膜透過性
【表25】
[図:0001406724000021.jpg]
」
2.甲号証に記載された事項
(1)甲1に記載された事項
甲1には、以下の記載がある。(下線は当審による。)
甲1a
「[0068] 以下にアミド環化を利用する場合を例にした反応設計を述べる。三角ユニットの反応させたいアミノ基と反応させたくない塩基性官能基との反応選択性を獲得するためには反応させたいアミンの反応性をその他の官能基に対して向上させる必要がある場合があり得る。通常アミンより活性化させる手法として、例えば、アミン近傍に反応補助基を導入することが可能である。反応補助基としてはRNAが反応しない程度にアミンを活性化できるものであれば特に限定されないが、例えば末端アミンからメルカプトエチル基やメルカプトプロピル基を導入することも可能であり、また、システインのように、アミンのα位からチオール部位を位置させることも可能である(スキームC参照)。これらのチオール基は翻訳導入の過程では、保護されていても、保護されていなくてもよいが、反応時もしくは事前に必要に応じて脱保護反応によりチオール基を生成させる。このように活性化されたアミンとカルボン酸活性エステルとの反応により望みの位置でのアミド環化されたペプチドが得られる。得られた環状ペプチドのSH基をTCEP(トリス(2-カルボキシルエチル)ホスフィン)とVA-044(2,2'-アゾビスー2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)などの試薬を加えるRNAが反応しない温和な反応条件で脱硫させることができる。」
甲1b
「[0104] initiation read through(イニシエーション リード スルー:開始コドンの読み飛ばし)を利用することによって、上記のメチオニン以外のアミノ酸、アミノ酸類縁体又はN末端カルボン酸類縁体のN末端導入による末端が多様なペプチド化合物又はペプチド化合物ライブラリーの合成法での複数種類アミノアシル翻訳開始tRNAの用意の必要がない方法がある。initiation read throughとは、一般的にはタンパクやペプチドはAUCコドンとしてコードされる翻訳開始アミノ酸であるメチオニンから翻訳されるが、無細胞翻訳系において翻訳開始メチオニルtRNAが含まれない場合や翻訳効率の低い非天然アミノ酸が翻訳開始tRNAに付加されたものからの翻訳を開始させようとした際に2番目以降のコドンにコードされるアミノ酸からの翻訳産物が生じる現象を意味する。」
甲1c
「[0180] ここで、上述の工程(i)に記載のアミノ酸及びアミノ酸類縁体の総数、及び、工程(ii)に記載の環状部のアミノ酸及びアミノ酸類縁体の残基数の合計には、翻訳後修飾によって除かれるアミノ酸又はアミノ酸類縁体は含まれない。例えば、上述のスキームF3において、直鎖部2を有するペプチド化合物の製造中で翻訳後修飾中に当該ペプチドから脱離されるCys-Pro配列は、工程(i)及び(ii)のアミノ酸及びアミノ酸類縁体の数には含まれない、その他、例えば、ペプチド化合物とRNAのリンカー部位としてGly-Serの繰り返し構造部を含むものを利用する場合は当該Gly-Serの繰り返し構造部や、固定されているアミノ酸領域、本発明の環状部を有するペプチド化合物、特にドラックライクなペプチド化合物部分と核酸とを結合させる目的の部分はリンカーに含まれ、工程(i)及び(ii)のアミノ酸及びアミノ酸類縁体の数には含まれない。その場合には、工程(ii)の環化後の環部の残基数は5~11ではなくそれより長い残基数であるが、直鎖部2を生成させる反応後に環部の残基数が5~11になればよい。」
甲1d
「[0187] さらに、所望の固定した標的に当該ライブラリーを接触させ、標的に結合しない分子を洗い流すことで標的に結合する分子を濃縮することが出来る(パニング)。このように選択された分子についている遺伝子情報を含むタグであるmRNAからcDNAを合成し、PCR増幅し、塩基配列を解析することで結合したペプチドの配列を明らかにすることが出来る。」
甲1e
「[0390] 配列番号 D-6(配列番号:6)
KA03 DNA配列
GTAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAAGAAGGAGATATACATatgACTAGAACTaaggcgTACTGGAGCcttCCGggcggctaa」
甲1f
「[0549] 2.メチオニン以外のアミノ酸、アミノ酸類縁体又はN末端カルボン酸類縁体をN末端に導入する方法を用いた翻訳合成およびアミド環化反応
鋳型DNAとしてKA03 DNA配列(配列番号 D-6)を用いて翻訳反応を行った。
鋳型DNAに、前述の転写翻訳液、MetおよびLeuを除く各0.3mMの18種類のタンパク質性アミノ酸,および前記の方法で調製した25μM tBuSSEtGABA-tRNAfMetCAU(化合物番号 AT-6-C)と50μM Asp(SMe)-tRNAEnAsnGAG(化合物番号 AT-1-IA2)を加え37℃で3時間翻訳した。翻訳産物に、1/20(v/v)量の200mM TCEP(pH6.6)を添加し、37℃で15分反応させ、Asp(SMe)部位と分子内環化反応を行った。その結果、目的の環状ペプチド(ペプチド配列P-43)がMSスペクトルで確認された(図27)。チオエステルに続くアミノ酸をN-アルキルアミノ酸とすることで効率的に翻訳・環化が実現された。
[0550] ペプチド配列P-42
[tBuSSEtGABA]ThrArgThrLysAlaTyrTrpSer[Asp(SMe)]ProGlyGly
MALDI-MS:m/z: [M+H]+ = 1601.7 (Calc.1601.0)
[0551] ペプチド配列P-43
[HSEtGABA]ThrArgThrLysAlaTyrTrpSer[Asp(SMe)]ProGlyGlyのGABAの主鎖窒素原子とAspの側鎖カルボン酸でアミド環化した化合物
MALDI-MS:m/z: [M+H]+ = 1465.6 (Calc.1465.0)
[図:0001406724000022.jpg]
」
甲1g
「
[図:0001406724000023.jpg]
」
甲1h
「[0552] [実施例15]Intioation read through法を用いた翻訳および環化
1.NCL(Native Chemical Ligation)を介したアミド型環化ペプチドの合成
鋳型DNAとしてKA02.5U DNA配列(配列番号 D-32)を用いて翻訳反応を行った。
鋳型DNAに、前述の転写翻訳液、MetおよびAla、Leuを除く各0.3mMの17種類のタンパク質性アミノ酸,3 mM乳酸、および前記の方法で調製した50μM Asp(SRex2)-tRNAEnAsnGAG (Rex2:ベンジル,メチル,エチル,イソプロピル、ターシャリーブチル、フェネチル)(化合物番号 AT-1-IA2、IB2、IC2、ID2、IE2,IG2)を加え37℃で3時間翻訳した。その結果、環化した全長ペプチドがMSスペクトルで確認された(図28~図29)。
[0553] 配列番号 D-32(配列番号:28)
KA02.5U DNA配列:
GTAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAAGAAGGAGATATACATATG
tgcACTAGAACTaaggcgTACTGGAGCcttCCGggctaa
[0554] 翻訳ペプチド
CysThrArgThrLys[Lac]TyrTrpSer[Asp(SRex2)]ProGly
(Rex2:ベンジル、メチル、エチル、イソプロピル、ターシャリーブチル、フェネチル、Lac:乳酸)
翻訳後、環化したペプチドの化学構造(ペプチド配列番号P-44からP-49)
CysThrArgThrLys[Lac]TyrTrpSer[Asp(SRex2)]ProGlyのCysの主鎖アミノ基とAspの側鎖カルボン酸との分子内アミド化された化合物
[図:0001406724000024.jpg]
[0555] [表6]
[図:0001406724000025.jpg]
[0556] 以上の結果からIninitiation read through法によりCysが翻訳導入され、翻訳および環化がスムースに進行し、様々なチオエステル体から主生成物としてアミド環化体が得られることが明らかとなった。さらに、乳酸を含む本配列が有効に翻訳されたことから、乳酸がAlaRSにより選択的かつ効率的に導入できることが初めて明らかとなった。
[0557] Initiation read through法にて述べたように、アミンを活性化させる役割のSH基が保護されていない場合には、チオエステルに続く非天然型アミノ酸(タンパク性アミノ酸も含む)はN-アルキル基を有するアミノ酸に拘らなくとも良い。翻訳後すぐにSH基との反応を経由してアミドが生成するためである。SH基が保護されたアミノ酸を翻訳させる場合には、翻訳工程終了後から脱保護工程に至る時間内にアスパルチミド形成される。
・・・」
甲1i
「[1517] [実施例25] アミド環化にて環化されたディスプレイライブラリーの実施
pdCpA-アミノ酸群の合成、続いてtRNA-アミノ酸複合体の合成により、導入される非天然型アミノ酸のうち、ARSによらずに導入されるものの準備を行った。続いて、多様性が高いランダムDNAの準備を行った。転写、翻訳、化学修飾によるRNAと環化ペプチドとの複合体作製に続き、パニングを実施してTNFα、TNFR1、IL-6Rに対する結合ペプチドを取得するための実験を行った
[1518] 1.ディスプレイライブラリ構築のためのpdCpA-アミノ酸の合成
pdCpAとの複合体として、以下の非天然型アミノ酸(MeGly、Phg、Phe(4-CF3)、Met(O2)、βAla、MeAla(4-Thz)、MePhe(3-Cl)、nPrGly、MeSer、Hyp(Et))を翻訳導入するための合成を行った。すなわち、以下のスキームに従い、化合物SP705(Pen-MeGly-pdCpA)、化合物SP710(Pen-Phg-pdCpA)、化合物SP715(Pen-Phe(4-CF3)-pdCpA)、化合物SP720(Pen-Met(O2)-pdCpA)、化合物SP725(Pen-βAla-pdCpA)、化合物SP731(Pen-MeAla(4-Thz)-pdCpA)、化合物SP737(Pen-MePhe(3-Cl)-pdCpA)、化合物SP742(Pen-nPrGly-pdCpA)、化合物SP754(Pen-Hyp(Et)-pdCpA)を合成した。化合物6i-C(tBuSSEtGABA)、化合物1i-IAの合成は既に記載済である。
・・・
[1605] 2.ディスプレイライブラリ構築のための転写tRNAおよび転写tRNA(CA欠損)の合成
パニングに使用する転写tRNAおよび転写tRNA(CA欠損)を以下の通り調製した。
・・・
[1635] 3.tRNA(CA欠損)とpdCpA-アミノ酸との反応による、tRNA-アミノ酸複合体の合成
[1636] アミノアシル化pdCpAと転写tRNA(CA欠損)のligationによるパニング用アミノアシル化tRNA(化合物ATL-1~13)の合成、およびアミノアシル化tRNA混合物の調製
まず、個別にアミノアシル化tRNA(化合物ATL-1~13)を調製した。ライゲーションは、ligation buffer (50mM HEPES-KOH pH7.5, 20mM MgCl2, 1mM ATP)、25μM転写tRNA (-CA)(配列番号MTL-1~12、R-5)、0.6U/μlT4 RNAリガーゼ(New england bio lab.社)、0.5mM アミノアシル化pdCpAの条件で行った。25μM転写tRNA (-CA) と0.5 mM アミノアシル化pdCpAの組み合わせは、以下の表20~22の通りに行った。
ライゲーションを行う前に、ligation buffer、転写tRNA (-CA)(配列番号MTL-1~12、R-5)およびNuclease free waterを混合したものを、95℃で2分間加熱した後、室温で5分間放置し、予めtRNAのリフォールディングを行った。その後、T4 RNAリガーゼ、アミノアシル化pdCpAのDMSO溶液を上述の通り加え、15℃で45分間ライゲーション反応を行った。
ライゲーション反応液に、0.3M 酢酸ナトリウムと、62.5mMヨウ素(水:THF=1:1溶液)を加え、室温で1時間(ただし、化合物SP749を用いる際は室温で5分間)、ペンテノイル基の脱保護を行い、化合物ATL-1~12を得た。ペンテノイル基を持たない化合物6i-Cを用いる際は、脱保護は行わず、ライゲーション反応まで行い、化合物ATL-13を得た。
次に、翻訳液S用アミノアシル化tRNA 混合物(Initiation suppression翻訳に使用)、翻訳液S用Initiatorアミノアシル化tRNA(Initiation suppression翻訳に使用)、および翻訳液T用アミノアシル化tRNA混合物(Read through翻訳に使用)を調製した。得られた化合物ATL-1~13を、表20~22に示す混合比で混合し、翻訳液S用アミノアシル化tRNA混合物、翻訳液S用Initiatorアミノアシル化tRNA、翻訳液T用アミノアシル化tRNA混合物として、フェノール抽出した後、エタノール沈殿により回収した。調製したアミノアシル化tRNAは、翻訳液に添加する直前に1mM酢酸ナトリウムに溶解した。以降、翻訳で使用する際には、表20~22に示す最終濃度となるよう翻訳液を調製した。
[1637]
[表20]
[図:0001406724000026.jpg]
[1638]
[表21]
[図:0001406724000027.jpg]
[1639]
[表22]
[図:0001406724000028.jpg]
[1640] 化合物ATL-1(配列番号:127)
βAla-tRNAGluCUG (-CA)
[図:0001406724000029.jpg]
[1641] 化合物ATL-2(配列番号:128)
Asp(SMe)-tRNAGluACG (-CA)
[図:0001406724000030.jpg]
[1642] 化合物ATL-3(配列番号:129)
MeAla(4-Thz)-tRNAGluUUC (-CA)
[図:0001406724000031.jpg]
[1643] 化合物ATL-4(配列番号:130)
MePhe(3-Cl)-tRNAGluCCU (-CA)
[図:0001406724000032.jpg]
[1644] 化合物ATL-5(配列番号:131)
MeGly-tRNAGluCAA (-CA)
[図:0001406724000033.jpg]
[1645] 化合物ATL-6(配列番号:132)
Phe(4-CF3)-tRNAGluUAG (-CA)
[図:0001406724000034.jpg]
[1646] 化合物ATL-7(配列番号:133)
Hyp(Et)-tRNAGluCUA (-CA)
[図:0001406724000035.jpg]
[1647] 化合物ATL-8(配列番号:134)
MeSer-tRNAGluCCG (-CA)
[図:0001406724000036.jpg]
[1648] 化合物ATL-9(配列番号:135)
Phg-tRNAGluAAG (-CA)
[図:0001406724000037.jpg]
[1649] 化合物ATL-10(配列番号:136)
Met(O2)-tRNAGluGCA (-CA)
[図:0001406724000038.jpg]
[1650] 化合物ATL-11(配列番号:137)
Met(O2)-tRNAGluCAU (-CA)
[図:0001406724000039.jpg]
[1651] 化合物ATL-12(配列番号:138)
nPrGly-tRNAAsn-E2GUU (-CA)
[図:0001406724000040.jpg]
[1652] 化合物ATL-13(配列番号:139)
tBuSSEtGABA-tRNAfMetCAU (-CA)
[図:0001406724000041.jpg]
・・・
[1710] 7.mRNA-ピューロマイシンリンカーライゲーション産物調製
PCRにより調製したDNAライブラリー(配列番号 DML-1~DML-3(Initiation suppression翻訳用)、DML-4~DML-6(Read throuth翻訳用)) を鋳型に、in vitro転写により以下のmRNA(配列番号MML-1~MML-3(Initiation suppression翻訳用)、配列番号MML-4~MML-6(Read throuth翻訳用))を調製し、RNeasy mini kit (Qiagen社)を用いて精製した。10μMのmRNAに、15μMのピューロマイシンリンカー (Sigma社)(配列番号C-1)、 1X T4 RNAライゲースリアクションバッファー(New england bio lab.社)、1mM ATP、10% DMSO、0.625unit/μl T4 RNAライゲース(New england bio lab.社)を加え、37℃で30分間ライゲーション反応させた後、RNeasy Mini kit(Qiagen社)により精製した。配列番号MML-1とMML-4は30μlスケール、配列番号MML-2とMML-5は60μlスケール、配列番号MML-3とMML-6は240μlスケールで、ライゲーションを行い、精製した。ピューロマイシンリンカー(配列番号C-1)と連結したMML-1,MML-2,MML-3をそれぞれモル比1:21:441となるように、ピューロマイシンリンカー(配列番号C-1)と連結したMML-4,MML-5,MML-6をそれぞれモル比1:21:441となるように混合し、前者をinitiation suppression翻訳用mRNA-ピューロマイシンリンカーライゲーション産物混合物と、後者をRead throuth 翻訳用mRNA-ピューロマイシンリンカーライゲーション産物混合物とした。
[1711] 配列中に(RRR)と示した箇所は、UUU、AUU、GUU、AGU、CCG、ACU、GCU、CAU、UGG、GGU、UAC、CAG、AAC、CGG、AGG、UUG、CUU、CUA、UAG、UGC、GAA がランダムに出現することを、(YYY)と示した箇所には、UUU、CCG、GCU、CAU、AAC、CGG、AGG、UUG、UAG、GAAがランダムに出現することを、(SSS)と示した箇所には、UUU、AUU、AUG、GUU、AGU、CCG、ACU、GCU、CAU、UGG、GGU、UAC、CAG、AAC、CGG、AGG、UUG、CUU、CUA、UAG、GAAがランダムに出現することを意味する。
[1712] 配列番号MML-1(配列番号:154)
GGGUUAACUUUAAGAAGGAGAUAUACAUAUG(RRR)7CGU(YYY)(RRR)AGCGGCUCUGGCUCUGGCUCUUAGGGCGGCGGGGACAAA
[1713] 配列番号MML-2(配列番号:155)
GGGUUAACUUUAAGAAGGAGAUAUACAUAUG(RRR)8CGU(YYY)(RRR)AGCGGCUCUGGCUCUGGCUCUUAGGGCGGCGGGGACAAA
[1714] 配列番号MML-3(配列番号:156)
GGGUUAACUUUAAGAAGGAGAUAUACAUAUG(RRR)9CGU(YYY)(RRR)AGCGGCUCUGGCUCUGGCUCUUAGGGCGGCGGGGACAAA
[1715] 配列番号MML-4(配列番号:157)
GGGUUAACUUUAAGAAGGAGAUAUACAUAUGUGC(SSS)7CGU(SSS)2 AGCGGCUCUGGCUCUGGCUCUUAGGGCGGCGGGGACAAA
[1716] 配列番号MML-5(配列番号:158)
GGGUUAACUUUAAGAAGGAGAUAUACAUAUGUGC(SSS)8CGU(SSS)2 AGCGGCUCUGGCUCUGGCUCUUAGGGCGGCGGGGACAAA
[1717] 配列番号MML-6(配列番号:159)
GGGUUAACUUUAAGAAGGAGAUAUACAUAUGUGC(SSS)9CGU(SSS)2 AGCGGCUCUGGCUCUGGCUCUUAGGGCGGCGGGGACAAA
[1718] ビオチン化標的タンパク質の調製
パニングに使用する標的タンパク質として、インターロイキン6受容体(IL-6R)、Tumor Necrosis Factor-α(TNFα)、Tumor Necrosis Factor Receptor1(TNFR1)を用いた。IL-6Rのビオチン化は非特許文献BMC biotechnology, 2008,8,41、および非特許文献Protein Science,1999,8,921-929の方法を用いた。IL-6Rの調製は非特許文献J Biochem. 1990;108(4):673-6.に従って行った。TNFαはProspec社のRcombinant Human Tumor Necrosis Factor-alpha(Catalog Number #CYT-223)を、TNFR1はSinoBiological社のRecombinant Human TNFR1/Fc Chimera(Catalog Number 10872-H03H)を購入した。それぞれThermo scientific社のEZ-Link NHS-PEG4-Biotin(Catalog Number 21329)を用いてビオチン化を行った。
[1719] ・パニングに使用する翻訳液の定義
パニングに使用した翻訳液Sは以下の組成で構成される。1mM GTP,1mM ATP,20mMクレアチンリン酸,50mM HEPES-KOH pH7.6,100mM 酢酸カリウム,10mM 酢酸マグネシウム,2mMスペルミジン,1mM ジチオスレイトール,0.5mg/ml E.coli MRE600(RNaseネガティブ)由来tRNA(Roche社),4μg/ml クレアチンキナーゼ,3μg/ml ミオキナーゼ,2unit/ml 無機ピロフォスファターゼ,1.1μg/ml ヌクレオシド二リン酸キナーゼ,0.26μM EF-G,2.7μM IF1,0.4μM IF2,1.5μM IF3,40μM EF-Tu,84μM EF-Ts,1.2μM リボソーム,2.73μM AlaRS,0.09μM GlyRS,0.4μM IleRS,0.68μM PheRS,0.16μM ProRS,0.04μM SerRS,0.09μM ThrRS,0.03μM TrpRS,0.22μM TyrRS,0.02μM ValRS、3μM 転写tRNA Ala1B(配列番号MTL-13)、3μM 転写tRNA Tyr1(配列番号MTL-14)、250μMグリシン、250μMイソロイシン、250μMプロリン、250μMスレオニン、250μMトリプトファン、250μMバリン、100μMセリン、5mM N-メチルアラニン、5mM N-メチルフェニルアラニン、2mM D-チロシン。さらに翻訳液S用アミノアシル化tRNA混合物および翻訳液S用Initiatorアミノアシル化tRNAを加えて調製した。また翻訳液Tは上記の翻訳液S用アミノアシル化tRNA混合物および翻訳液S用Initiatorアミノアシル化tRNAを含まない翻訳液Sに0.02μM CysRS、250μMシステイン、および翻訳液T用アミノアシル化tRNA混合物を加えて調製した。
[1720] ・ラウンド1のパニングを行うための翻訳、環化、脱硫、逆転写反応、パニング、PCR
1μM initiation suppression翻訳用もしくはRead throuth 翻訳用mRNA-ピューロマイシンリンカーライゲーション産物混合物を含む前述のS用、T用それぞれ2ml翻訳液を調製し、37℃で120分間保温後、室温で12分間放置した。この翻訳混合物に対して、200μlの200mM EDTA溶液(pH8.0、Nacalai社、14362-24)および100μlの200mM TCEP溶液(pH7.0)を加え、37℃で120分間保温し、環化反応を行った。その後、翻訳混合物に対して、260μlの250mM Cys溶液および4000μlの400mM TCEP溶液(pH7.0)を加え、40℃で5分間保温した。続けて、1600μlの1M VA-044(Wako社、CAS No.27776-21-2)を加えて、40℃で1時間脱硫反応後、RNeasy mini kit(Qiagen社)により精製し、1mlのペプチド-mRNA複合体溶液を調製した。この溶液に、3μM プライマー(配列番号DOL-3)、M-MLV reverse transcriptase reaction buffer(Promega社、M368B)、0.5mM dGTP,0.5mM dATP,0.5mM dCTP,0.5mM dTTP、8U/μl M-MLV Reverse transcriptase (H-) (Promega社、M368B)を加えNuclease free waterで2mlにメスアップし、42℃、1時間保温し、逆転写反応を行った。逆転写溶液に対してブロッキング剤SuperBlock T20(Pierce社、37516)を等量加え、4mlのペプチド-mRNA複合体溶液とした。
[1721] 上記の溶液に対して、ビオチン化標的タンパク質を200nMとなるように加え、4℃、30分間回転混和を行った。その後、Dynabeads M-270 streptavidin(invitrogen社、653-05)を加え、4℃、5分間回転混和を行った。上清を取り除き、1xTBST(Nacalai社)で2度洗浄した。DNAポリメラーゼを含まず、0.5μM プライマー(配列番号DOL-4)および0.5μM プライマー(配列番号DOL-5)を含むPCR溶液をDynabeadsに加え、95℃で10分間加熱溶出し、上清を回収した。上清に対してDNAポリメラーゼ Ex taq(Takara社、RR001A-24)を加え、PCRによってcDNAを増幅後、QIAquick PCR purification kit(Qiagen社)によりDNAを精製した。
[1722] 配列番号DOL-3(配列番号:160)
TTTGTCCCCGCCGCCCTAAGAGCCAGAGCCAGAGCCGCT
[1723] 配列番号DOL-4(配列番号:161)
GTAATACGACTCACTATAGGGTTAACTTTAAGAAGGAGA
[1724] 配列番号DOL-5(配列番号:162)
TTTGTCCCCGCCGCCcta
[1725] ・ラウンド2のパニングを行うための転写、ライゲーション、翻訳、環化、脱硫、逆転写反応→パニング操作→PCR
ラウンド1で増幅したcDNAから、RiboMAX Express Large Scale RNA Production System (Promega社,P1320)を用いてmRNAを合成し、RNeasy MinElute kit(Qiagen社)により精製した。次にT4 RNA ligase(NEB, M0204L)を利用してmRNAとピューロマイシンリンカーを連結し、RNeasy MinElute kit(Qiagen社)により精製した。1μM mRNA-ピューロマイシンリンカーライゲーション産物を含む前述の100μl翻訳液を調製し、37℃で60分間保温後、室温で12分間放置した。この翻訳混合物に対して環化反応のために、10μlの200mM EDTA溶液(pH8.0、Nacalai社、14362-24)および5μlの200mM TCEP溶液(pH7.0)を加え、37℃で120分間保温した。翻訳液Sに0.5M KOHを加えて、pH10に調整後、42℃で30分間保温した。その後、0.5M HClを加えて、pH7に調整した。その後、それぞれの翻訳混合物に対して、13μlの250mM Cys溶液および200μlの400mM TCEP溶液(pH7.0)を加え、40℃で1分間保温した。続けて、80μlの1M VA-044(Wako社、CAS No.27776-21-2)を加えて、40℃で1時間脱硫反応後、RNeasy MinElute kit(Qiagen社)により精製し、100μlのペプチド-mRNA複合体溶液を調製した。この溶液に、3μM プライマー(配列番号DOL-3)、M-MLV reverse transcriptase reaction buffer(Promega社、M368B)、0.5mM dGTP,0.5mM dATP,0.5mM dCTP,0.5mM dTTP、8U/μl M-MLV Reverse transcriptase (H-) (Promega社、M368B)を加えNuclease free waterでメスアップし、200μl溶液で42℃、15分間保温し、逆転写反応を行った。逆転写溶液に対してブロッキング剤SuperBlock T20(Pierce社、37516)を等量加え、400μlのペプチド-mRNA複合体溶液とした。
[1726] 上記の溶液に対して、Dynabeads M-270 streptavidinを加え、4℃、5分間回転混和を行い、上清を回収した。上清に対してビオチン化標的タンパク質を200nMとなるように加え、4℃、30分間回転混和を行った。その後、Dynabeads M-270 streptavidinを加え、4℃、5分間回転混和し、上清を取り除き、1xTBST(Nacalai社)で3度洗浄した。DNAポリメラーゼを含まず、0.5μM プライマー(配列番号DOL-4)および0.5μM プライマー(配列番号DOL-5)を含むPCR溶液をDynabeadsに加え、95℃で10分間加熱溶出し、上清を回収した。上清に対してDNAポリメラーゼ Extaq(Takara社、RR001A-24)を加え、PCRによってcDNAを増幅後、QIAquick PCR purification kit(Qiagen社)によりDNAを精製した。
[1727] ・ラウンド3のパニングを行うための転写、ライゲーション、翻訳、環化、脱硫、逆転写反応→パニング操作→PCR
ラウンド2で増幅したcDNAから、RiboMAX Express Large Scale RNA Production System (Promega社,P1320)を用いてmRNAを合成し、RNeasy MinElute kit(Qiagen社)により精製した。次にT4 RNA ligase(NEB, M0204L)を利用してmRNAとピューロマイシンリンカーを連結し、RNeasy MinElute kit(Qiagen社)により精製した。1μM mRNA-ピューロマイシンリンカーライゲーション産物を含む前述の10μl翻訳液を調製し、37℃で60分間保温後、室温で12分間放置した。この翻訳混合物に対して環化反応のために、1μlの200mM EDTA溶液(pH8.0、Nacalai社、14362-24)および0.5μlの200mM TCEP溶液(pH7.0)を加え、37℃で120分間保温した。翻訳液Sに0.5M KOHを加えて、pH10に調整後、42℃で30分間保温した。その後、0.5M HClを加えて、pH7に調整した。その後、それぞれの翻訳混合物に対して、1.3μlの250mM Cys溶液および20μlの400mM TCEP溶液(pH7.0)を加え、40℃で1分間保温した。続けて、8μlの1M VA-044(Wako社、CAS No.27776-21-2)を加えて、40℃で1時間脱硫反応後、RNeasy MinElute kit(Qiagen社)により精製し、10μlのペプチド-mRNA複合体溶液を調製した。この溶液に、3μM プライマー(配列番号DOL-3)、M-MLV reverse transcriptase reaction buffer(Promega社、M368B)、0.5mM dGTP,0.5mM dATP,0.5mM dCTP,0.5mM dTTP、8U/μl M-MLV Reverse transcriptase (H-)(Promega社、M368B)を加えNuclease free waterで200μlにメスアップし、42℃、15分間保温し、逆転写反応を行った。逆転写溶液に対してブロッキング剤SuperBlock T20(Pierce社、37516)を等量加え、40μlのペプチド-mRNA複合体溶液とした。
[1728] 上記の溶液10μlに対して、Dynabeads M-270 streptavidinを加え、4℃、5分間回転混和を行い、上清を回収した。この操作を計3回繰り返した上清に対してビオチン化標的タンパク質を200nMとなるように加え、4℃、30分間回転混和を行った。その後、Dynabeads M-270 streptavidinを加え、4℃、5分間回転混和を行った。上清を取り除き、1xTBST(Nacalai社)で3度洗浄した。DNAポリメラーゼを含まず、0.5μM プライマー(配列番号DOL-4)および0.5μM プライマー(配列番号DOL-5)を含むPCR溶液をDynabeadsに加え、95℃で10分間加熱溶出し、上清を回収した。上清に対してDNAポリメラーゼ Ex taq(Takara社、RR001A-24)を加え、PCRによってcDNAを増幅後、QIAquick PCR purification kit(Qiagen社)によりDNAを精製した。
ラウンド4-6においても、ラウンド3と同じ操作を繰り返すことで標的タンパク質特異的な結合を示すcDNAの濃縮を行った。濃縮されたDNAプールの塩基配列解析を行い、濃縮されたペプチド配列を同定した。」
(2)甲2に記載された事項
甲2には、以下の記載がある。(原文は英文であるため当審による翻訳文で示す。下線は当審による。)
甲2a
「本研究の目的は、ペプチドおよびペプチド模倣体のin vitroアッセイの予測性を最適化するために、ADMEデータのin vitro/in vivo相関を構築することである。立体化学、分子内水素結合、及びN-メチル化を考慮すると、計算モデルにより、環状ペプチドの相対的なin vitro膜透過性を正確に予測できることがこれまでに示されている。本研究のもう一つの目的は、側鎖の極性が膜透過性に及ぼす影響を考慮するための計算モデルの有効性をさらに最適化することである。」(第2頁第3パラグラフ)
甲2b
「化合物1のデザインは、脂溶性環状ペプチド天然物の一種にヒントを得たもので、この天然物は、「薬物らしくない」外見にもかかわらず、経ロバイオアベイラビリティを含め、薬物のようなPK特性を示し得る。これらの天然物は、主鎖のN-メチル化、広範な分子内水素結合、及び、脂肪族アミノ酸の優位性により特徴付けられる。以前の研究では、立体化学とN-メチル化のパターンが主鎖の形状に及ぼす効果と、その結果として生じる膜透過性への影響を評価した。
この環状ヘキサペプチドテンプレートの膜透過性とクリアランス特性に対する個々のアミノ酸置換の影響をより詳細に理解するために、Rを、さまざまなイオン化状態およびlog D値の範囲にまたがる8つの追加の標準アミノ酸側鎖(化合物3-10)で置換した。これらの化合物をin vitroでプロファイリングし、脂溶性、膜透過性、クリアランス特性を評価した。脂溶性はシェイクフラスコlog Dを用いて測定し、膜透過性はRRCK (ラルフ・ラス イヌ腎細胞株、低流出特性を求めて選択されたマディン・ダービーイヌ腎細胞株由来) を用いて測定し、クリアランスはHLMを用いて測定した。以前に報告された化合物1および2に、新規な8つの化合物を加えた結果を表lに示した。この化学空間のADME特性に関する知識をさらに広げるために、6種類の非天然Nーメチル化アミノ酸を合成し、それらを環状ヘキサペプチドに組み込んで化合物11-16を作製した(表2)。」(第2頁第5パラグラフ~第3頁第1パラグラフ)
甲2c
「このシリーズのin vitro物性は、log D値によって大きく変化した。この位置に芳香族または極性脂肪族側鎖を導入した場合(化合物4-8)、log Dは有意に低下せず (log Dは 3.64~4.57) 、HLM値は高いままであり、CLint,app,scaled値は29.4 mL min-1 kg-1かそれ以上であった。イオン化可能なアスパラギン酸およびリジンの側鎖を導入した場合(化合物9および10)、log Dとクリアランスが劇的に低下したが、その代償として膜透過性が低下した。脂肪族アルコールであるスレオニン側鎖(3)は、中程度の膜透過性(RRCK Papp=4.69×10-6 cm s-1-1)を維持しながら、log Dを低下させた(3.17)。化合物3は、log Dが低下したにもかかわらず、in vitro HLM値は高く(CLint,app,scaled=88.9 mL min-1 kg-1)、他の脂肪族アルコールであるセリンの誘導体2に見られるものと同様の値であった。」(第3頁第3パラグラフ)
甲2d
「16種類の環状ペプチドにわたって、log DとRRCK膜透過性(図1)、log DとHLMクリアランス(図2)の間に良好な相関が見られた。3付近のlog Dが特に好ましいように思われ、化合物3(log D=3.17)は中程度の膜透過性(RRCK Papp=4.69×10-6 cm s-1)を、化合物15(log D=2.7)は中程度のクリアランス(HLM CLint,app,scaled=15.8 mL min-1 kg-1)を示した。我々は、この有望な化学領域におけるN-メチル化環状ペプチドのプロファイリングをさらに進めていく予定である。」(第4頁第2パラグラフ)
甲2e
「要約と結論
本研究の目的は、同じコア足場に基づく一連の化合物のPK特性に対する側鎖機能性の影響を評価することであった。具体的には、極性側鎖を組み込んだ結果、幅広いlog D値を持つ1の構造モチーフを持つ分子の特徴を明らかにしようとした。我々は、log Dを調節することで、in vitroでのクリアランスと透過性を最適化するための特性空間を定義できると考えた。このような本質的に経口的に生物学的に利用可能な足場に極性基を導入する能力は、構造の多様性と特性空間に劇的な影響を与えることができるため、環状ペプチドベースの治療薬の設計に示唆を与える。誘導体の5つから得られたin vivoバイオアベイラビリティのデータに基づくと、側鎖の極性、透過性、%Fの間には明らかな傾向があった。Leuを正(Lys)または負(Asp)に荷電した残基で置換すると、in vitroでの透過性、ひいては経口バイオアベイラビリティが著しく低下したが、LeuからThrへの置換では%Fがわずかに低下しただけであった。驚くべきことに、β-メチルを除去してSer誘導体を作製すると、細胞透過性と経口バイオアベイラビリティの両方が劇的に低下した。この結果は、2級および3級のβ-ヒドロキシル基は親油性の環状ペプチド天然物(多くの場合、β-ヒドロキシバリンやβ-ヒドロキシロイシンのような非タンパク質性残基の形をしている)によく見られるが、1級のヒドロキシル基(例えば、Ser残基)は比較的稀であるという逸話的観察と一致する(55,000以上の海洋および陸上の天然物のAntimarinデータベースでの環状ペプチド天然物の調査に基づく)。
これらは別々に開発されたが、Kesslerとその共同研究者によって報告されたソマトスタチンアナログであるcyclo-[LPro-LPhe-DTrp(NMe)-LLys(NMe)-LThr-LPhe(NMe)]は、N-メチル化のパターンが同じであり、化合物1と同じβ-ヘアピン様骨格構造を共有している。このKesslerペプチドは、Lys残基を1つ含むという点で、われわれの化合物10と似ているが、10とは異なり、Caco-2透過性はよく、ラットでの経口バイオアベイラビリティはまあまあ(10%)であった。このペプチドはCaco-2アッセイにおいて、頂端側から基底膜側への透過率と基底膜側から頂端側への透過率が同じであったことから、あり得る透過性のメカニズムとして能動輸送は除外された。上記の方法でKesslerペプチドをモデル化したところ(データは示していない)、発表されたNMR構造と類似した膜結合型コンフォメーションが予測された。しかし、予測された透過性は低く(log Pm=-0.36)、10で観察された透過性と経口バイオアベイラビリティの低さと一致していた。KesslerペプチドはThr残基を含んでおり、Thr変異体3が示すように有利な内部水素結合を形成する可能性があるが、このペプチドはカチオン性のLys残基も持っており、10とそのNε-Me変異体11では細胞透過性を劇的に低下させる。Kesslerペプチドには、Lys残基に隣接するDTrpを含む3つの芳香族残基があり、これらの芳香族残基が陽イオン-π相互作用を介して疎水性膜環境からプロトン化Lys側鎖を遮蔽し、このペプチドの予想外に高い透過性と経口バイオアベイラビリティに寄与していると推測される。今後の研究では、LeuからXへの置換(ここで、X=Phe、Trp、Tyrなど)が10の透過性に及ぼす影響を調べることによって、この仮説に取り組む予定である。」(第7頁第2パラグラフ~第8頁第1パラグラフ)
甲2f
「
[図:0001406724000042.jpg]
[図:0001406724000043.jpg]
[図:0001406724000044.jpg]
[図:0001406724000045.jpg]
」(表1、2)
3.申立理由1(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 甲1発明
甲1の実施例25(特に段落[1710]、[1720])(甲1i)の記載からすると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「ピューロマイシンリンカーと連結したMML-1、MML-2、MML-3をそれぞれモル比1:21:441となるように混合して得られるinitiation suppression翻訳用mRNA-ピューロマイシンリンカーライゲーション産物混合物を含むS用翻訳液から得られる翻訳混合物に対して、環化反応、脱硫反応、逆転写反応を行って得られるペプチド-mRNA複合体溶液」
(以下「甲1発明1」という。)
「ピューロマイシンリンカーと連結したMML-4、MML-5、MML-6をそれぞれモル比1:21:441となるように混合して得られるRead throuth翻訳用mRNA-ピューロマイシンリンカーライゲーション産物混合物を含むT用翻訳液から得られる翻訳混合物に対して、環化反応、脱硫反応、逆転写反応を行って得られるペプチド-mRNA複合体溶液」
(以下「甲1発明2」という。)
イ 甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「ペプチド」部分の解釈
(ア)甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「ペプチド」は環状であること
甲1の段落[1710](甲1i)には、「PCRにより調製したDNAライブラリー(配列番号 DML-1~DML-3(Initiation suppression翻訳用)、DML-4~DML-6(Read throuth翻訳用)) を鋳型に、in vitro転写により以下のmRNA(配列番号MML-1~MML-3(Initiation suppression翻訳用)、配列番号MML-4~MML-6(Read throuth翻訳用))を調製し、RNeasy mini kit (Qiagen社)を用いて精製した。」と記載されていることから、MML-1、MML-2、MML-3が、initiation suppression翻訳用mRNA-ピューロマイシンリンカーライゲーション産物混合物におけるmRNA部分である。そうすると、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「ペプチド」部分は、initiation suppression翻訳用mRNA-ピューロマイシンリンカーライゲーション産物混合物のMML-1~3からの翻訳産物に由来するものであると解される。
そこで、MML-1~3からどのような翻訳産物が翻訳され得るのか、その後の環化反応、脱硫反応、逆転写反応を経ることで、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「ペプチド」部分がどのような構造を有するものになるのかについて、以下に検討する。
a MML-1~3の配列におけるオープンリーディングフレーム
一般に開始コドンがAUGであり、終止コドンがUAA、UAG、UGAであることからすると、甲1の段落[1712]~[1714](甲1i)に記載されたMML-1~3の配列におけるオープンリーディングフレームは、それぞれ以下のとおりであると解される。
・MML-1:AUG(RRR)7CGU(YYY)(RRR)AGCGGCUCUGGCUCUGGCUCUUAG
・MML-2:AUG(RRR)8CGU(YYY)(RRR)AGCGGCUCUGGCUCUGGCUCUUAG
・MML-3:AUG(RRR)9CGU(YYY)(RRR)AGCGGCUCUGGCUCUGGCUCUUAG
b 開始コドンAUGがコードするアミノ酸
甲1の段落 [1638]の表21及び段落[1712](甲1i)の記載によると、S用翻訳液には、initiatorアミノアシル化tRNAとして化合物ATL-13が用いられている。そして、甲1の段落 [1652](甲1i)の記載よれば、化合物ATL-13は、アンチコドンとしてCAU(対応するコドンはAUG)を有するtRNAに、tBuSSEtGABAをアミノアシル化させたものであることから、MML-1~3の開始コドンAUGがコードするアミノ酸は、tBuSSEtGABAであると解される。
c CGUがコードするアミノ酸
甲1の段落[1712](甲1i)の記載によると、S用翻訳液には、翻訳液S用アミノアシル化tRNA混合物が含まれており、段落[1637]の表20(甲1i)によると、この翻訳液S用アミノアシル化tRNA混合物には、アミノアシル化tRNAとして化合物ATL-1~10、12が含まれることが示されている。このうち、化合物ATL-2は、甲1の段落[1641](甲1i)を参照すると、アンチコドンとしてACG(対応するコドンはCGU)を有するtRNAに、Asp(SMe)がアミノアシル化されたものであることから、MML-1~3の配列中、(YYY)の直前に位置するCGUがコードするアミノ酸は、Asp(SMe)であると解される。
d RRRがコードするアミノ酸
甲1の段落[1711](甲1i)には、(RRR)と示した箇所は、UUU、AUU、GUU、AGU、CCG、ACU、GCU、CAU、UGG、GGU、UAC、CAG、AAC、CGG、AGG、UUG、CUU、CUA、UAG、UGC、GAA がランダムに出現することを意味すると記載されている。
そして、翻訳液S用アミノアシル化tRNA混合物に含まれる化合物ATL-1~10、12が有するアンチコドンの配列との対応関係、及び、S用翻訳液に含まれるアミノ酸に対応するコドンとの対応関係を考慮すると、RRRと示した箇所においてランダムに出現するUUU、AUU、GUU、AGU、CCG、ACU、GCU、UGG、GGU、UAC、CAG、AAC、CGG、AGG、UUG、CUU、CUA、UAG、UGC、GAAがコードするアミノ酸は、それぞれMePhe、Ile、Val、Ser、Pro、Thr、MeAla、Trp、Gly、D-Tyr、β-Ala、nPrGly、MeSer、MePhe(3-Cl)、MeGly、Phg、MePhe(4-CF3)、Hyp(Et)、Met(O2)、MeAla(4-Thz)であると解される。
なお、CAUについては、これに対応するアンチコドン(AUG)を有するアミノアシル化tRNAないし通常CAUがコードするHisがS用翻訳液に含まれていないため、CAUがコードするアミノ酸は不明である。
したがって、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「ペプチド」部分のRRRと示した箇所に対応する位置には、ランダムにインドール骨格を有するTrp、無置換のヒドロキシフェニル基を有するD-Tyrが存在することとなる。
e YYYがコードするアミノ酸
甲1の段落[1711](甲1i)には、(YYY)と示した箇所には、UUU、CCG、GCU、CAU、AAC、CGG、AGG、UUG、UAG、GAAがランダムに出現することを意味すると記載されている。
そして、YYYと示した箇所においてランダムに出現するUUU、CCG、GCU、AAC、CGG、AGG、UUG、UAG、GAAがコードするアミノ酸は、上記dで検討したとおり、それぞれMePhe、Pro、MeAla、nPrGly、MeSer、MePhe(3-Cl)、MeGly、Hyp(Et)、MeAla(4-Thz)であると解される。
なお、上記dでも述べたとおり、CAUがコードするアミノ酸は不明である。
f AGCGGCUCUGGCUCUGGCUCUがコードするアミノ酸配列
MML-1~3の配列中の(YYY)(RRR)の直後に位置する、AGCGGCUCUGGCUCUGGCUCUがコードするアミノ酸配列は、上記dと同様に対応関係を検討すると、Ser-Gly-Ser-Gly-Ser-Gly-Serであると解される。
g 環化反応
甲1の段落[0549]~[0551](甲1f)及び図27(甲1g)には、鋳型DNAであるKA03 DNA配列(配列番号 D-6)に、転写翻訳液、MetおよびLeuを除く各0.3mMの18種類のタンパク質性アミノ酸,および25μM tBuSSEtGABA-tRNAfMetCAU(化合物番号 AT-6-C)と50μM Asp(SMe)-tRNAEnAsnGAG(化合物番号 AT-1-IA2)を加え37℃で3時間翻訳して得た翻訳産物に、1/20(v/v)量の200mM TCEP(pH6.6)を添加し、37℃で15分反応させ、Asp(SMe)部位と分子内環化反応を行ったこと、その結果、目的の環状ペプチド(ペプチド配列P-43)がMSスペクトルで確認されたことが記載されている。
ここで、甲1の段落[0390](甲1e)に示されたKA03 DNA配列(配列番号 D-6)と、転写翻訳液に含まれるアミノアシルtRNAが有するアンチコドンの配列ないし転写翻訳液に含まれるアミノ酸に対応するコドンとの対応関係を考慮すると、KA03 DNA配列からの転写翻訳産物のアミノ酸配列は、ペプチド配列P-42のとおりであると解される。この翻訳産物が環化することにより、段落[0551](甲1f)に記載の環状ペプチドが得られるのであるから、上記環化反応では、ペプチド配列P-42におけるtBuSSEtGABAの主鎖窒素原子とAsp(SMe)の側鎖チオエステル基とがアミド結合により環化するとともに、tBuSSEtGABAのtBuS基が脱保護され、HSEtGABAになるものと解される。
そうすると、MML-1~3からの翻訳産物とペプチド配列P-42とは、そのアミノ酸配列に開始アミノ酸としてのtBuSSEtGABAに加えて、Asp(SMe)を有している点で一致しており、かつ、同様の条件で環化反応が行われていることから、MML-1~3からの翻訳産物は、甲1発明1の「環化反応」により、tBuSSEtGABAの主鎖窒素原子とAsp(SMe)の側鎖チオエステル基とがアミド結合により環化するとともに、tBuSSEtGABAのtBuS基が脱保護され、HSEtGABA になることで、環状ペプチド化合物が生成するものと解される。
h 脱硫反応
甲1の段落[0068](甲1a)には、「得られた環状ペプチドのSH基をTCEP(トリス(2-カルボキシルエチル)ホスフィン)とVA-044(2,2'-アゾビスー2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)などの試薬を加えるRNAが反応しない温和な反応条件で脱硫させることができる。」と記載されていることから、甲1発明1の「脱硫反応」では、環化反応で得られた環状ペプチド化合物中のHSEtGABAが有するSH基を脱硫する反応であると解される。
i 逆転写反応
逆転写反応は、RNAを鋳型にしてcDNAを合成する反応であるから、ペプチドの構造には影響しないと解される。
以上の検討から、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「ペプチド」部分は、MML-1~3の翻訳産物が、tBuSSEtGABAの主鎖窒素原子とAsp(SMe)の側鎖チオエステル基とがアミド結合により環化するとともに、tBuSSEtGABAのtBuS基が脱保護され、HSEtGABAになり、さらにHSEtGABAが有するSH基が脱硫された環状ペプチド化合物であると解される。
(イ)甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「環状ペプチド」がライブラリであること
上記(ア)で検討したとおり、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「ペプチド」部分は、環状ペプチド化合物であるから、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」は、環状ペプチド化合物-mRNA複合体である。
また、本件明細書等の【0214】(本h)の「本開示におけるライブラリには、環状ペプチド化合物、又はこれらをコードする核酸が複数含まれる。」との記載からすると、環状ペプチド化合物、又はこれらをコードする核酸が複数含まれていれば、ライブラリであるといえる。
ここで、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体溶液」は、MML-1~3中に (RRR)や(YYY)の配列を有することで、アミノ酸配列の異なる多数の環状ペプチド化合物を含み得るものであるから、ライブラリであるといえる。
さらに、甲1の実施例25(特に段落[1721]~[1728])(甲1i)には、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体溶液」を用いて、ビオチン化タンパク質に対するパニングをラウンド6まで繰り返すことにより、標的タンパク質特異的な結合を示すcDNAの濃縮を行い、濃縮されたDNAプールの塩基配列解析を行い、濃縮されたペプチド配列を同定した旨記載されているから、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体溶液」は、標的分子に特異的に結合できる化合物の同定に使用されるものである。
そして、上記(ア)dで検討したとおり、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「ペプチド」部分のRRRと示した箇所に対応する位置には、ランダムにインドール骨格を有するTrp、置換又は無置換のヒドロキシフェニル基を有するD-Tyrが存在する。
そうすると、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「環状ペプチド」は、標的分子に特異的に結合できる化合物の同定に使用されるライブラリであり、ライブラリには、環状部の側鎖に(1)インドール骨格、及び(2)無置換のヒドロキシフェニル基を有する環状ペプチド化合物が含まれているといえる。
(ウ)甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「環状ペプチド」のアミノ酸の数と多様性
甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「ペプチド」部分は、MML-1~3からの翻訳産物が、tBuSSEtGABAの主鎖窒素原子とAsp(SMe)の側鎖チオエステル基とがアミド結合により環化したものであるから、その環状部を構成するアミノ酸は、MML-1に由来する環状ペプチド化合物であれば9個、MML-2に由来するものであれば10個、MML-3に由来するものであれば11個である。
甲1発明1の「MML-1」には、そのコード領域に、RRRを8個、YYYを1個含むものであり、RRR、YYYに出現する配列はそれぞれ21種類、10種類である。しかし、上記(ア)d、eで述べたとおり、RRR、YYYに出現する配列のうちCAUはコードするアミノ酸が不明であり、CAUをコードするアミノ酸を含む環状ペプチド化合物が製造されないものとしてMML-1に由来する環状ペプチド化合物の多様性を計算すると、208×9となる。そして、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体溶液」には、MML-1に由来する環状ペプチド化合物のほか、MML-2、3に由来するペプチド化合物も含まれるので、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「環状ペプチド」は、少なくとも208×9の多様性を有するといえる。
そうすると、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「環状ペプチド」の環状部を構成するアミノ酸の数は9~11個であり、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「環状ペプチド」のライブラリは、少なくとも208×9の多様性を有するものであるといえる。
(エ)小括
上記の(ア)~(ウ)をまとめると、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「ペプチド」部分は、環状部を構成するアミノ酸の数が9~11個の環状ペプチドであり、標的分子に特異的に結合できる化合物の同定に使用される、少なくとも208×9の多様性を有するライブラリであり、ライブラリには、環状部の側鎖に(1)インドール骨格、及び(2)無置換のヒドロキシフェニル基を有する環状ペプチド化合物が含まれるものであるといえる。
ウ 本件発明1と甲1発明1の対比
本件明細書等の段落【0083】(本c)の「本開示におけるペプチド化合物には、ペプチド、ペプチドと核酸の複合体(ペプチド-核酸複合体)、ペプチドとリボソームと核酸の複合体等が含まれる。」の記載によると、本件発明1の「ペプチド化合物」には、ペプチドと核酸の複合体(ペプチド-核酸複合体)が含まれるので、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」は、本件発明1の「環状ペプチド化合物」に相当する。
そして、甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「ペプチド」部分は、上記イ(エ)で示したとおり、「環状部を構成するアミノ酸の数が9~11個の環状ペプチド」であって「標的分子に特異的に結合できる化合物の同定に使用される」、「少なくとも208×9の多様性を有するライブラリ」というものであり、それらは、本件発明1の「環状ペプチド化合物の環状部を構成するアミノ酸の数の平均が7~14」、「標的分子に特異的に結合できる化合物の同定に使用する」、「ライブラリが、1×103以上の多様性を有する」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1は、
「標的分子に特異的に結合できる化合物の同定に使用するための、環状ペプチド化合物のライブラリであって、
前記ライブラリに含まれる環状ペプチド化合物の環状部を構成するアミノ酸の数の平均が7~14であり、
前記ライブラリが、1×103以上の多様性を有する、
ライブラリ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では、「ライブラリが、環状部の側鎖に、(1)インドール骨格、及び(2)置換又は無置換のヒドロキシフェニル基、を有しない環状ペプチド化合物から実質的にな」ることが特定されているのに対し、
甲1発明1では、「ライブラリに、環状部の側鎖に、(1)インドール骨格、及び(2)無置換のヒドロキシフェニル基、を有する環状ペプチド化合物が含まれる」点
<相違点2>
本件発明1では、「ライブラリが、長さが5.4~13オングストロームの長側鎖を環状部に有する環状ペプチド化合物を含」むことが特定されているのに対し、
甲1発明1では、そのような特定がない点
<相違点3>
本件発明1では、「ライブラリに、環状部に酸性の側鎖を有する環状ペプチド化合物が含まれる場合、同環状ペプチド化合物が、該酸性の側鎖のpKaが3.5~10である環状ペプチド化合物から実質的にな」ること、及び、「ライブラリに、環状部に塩基性の側鎖を有する環状ペプチド化合物が含まれる場合、同環状ペプチド化合物が、該塩基性の側鎖のBasic pKaが4.0~10である環状ペプチド化合物から実質的にな」ることが特定されているのに対し、
甲1発明1では、そのような特定がない点
エ 相違点1の判断
甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「環状ペプチド」には、環状部の側鎖に(1)インドール骨格、及び(2)無置換のヒドロキシフェニル基を有する環状ペプチド化合物が含まれるところ、甲1には、これらの環状ペプチド化合物のみを排除し、環状部の側鎖に、(1)インドール骨格、及び(2)置換又は無置換のヒドロキシフェニル基を有しない「環状ペプチド化合物」から実質的になるものにすることを動機付ける記載や示唆は何ら見当たらない。
一方、甲2の第3頁第1パラグラフ(甲2b)には、「この環状ヘキサペプチドテンプレートの膜透過性とクリアランス特性に対する個々のアミノ酸置換の影響をより詳細に理解するために、Rを、さまざまなイオン化状態およびlog D値の範囲にまたがる8つの追加の標準アミノ酸側鎖(化合物3-10) で置換した。これらの化合物をin vitroでプロファイリングし、脂溶性、膜透過性、クリアランス特性を評価した。・・・以前に報告された化合物1および2に、新規な8つの化合物を加えた結果を表lに示した。この化学空間のADME特性に関する知識をさらに広げるために、6種類の非天然Nーメチル化アミノ酸を合成し、それらを環状ヘキサペプチドに組み込んで化合物11-16を作製した(表2)。」ことが記載されており、甲2の表1、2(甲2f)には、化合物1~16について、膜透過性の指標となるRRCK Papp等の値が示されている。
ここで、甲2において、膜透過性が低下したと明示的に記載されている箇所は、イオン化可能なアスパラギン酸およびリジン側鎖 (化合物9および10 ) を組み込んだ場合(甲2c、甲2e)についてと、化合物10のNε-Me変異体11についてのみであって(甲2e)、特にインドール骨格とヒドロキシフェニル基の側鎖に着目した記載は見られない。また、甲2の表1、2を参照すると、環状部の側鎖にアスパラギン酸側鎖を有する環状ペプチド(化合物9)のRRCK Papp値は0.4、環状部の側鎖にリジン側鎖を有する環状ペプチド(化合物10)のRRCK Papp値は0.3、環状部の側鎖にリジン側鎖のNε-Me変異体を有する環状ペプチド(化合物11)のRRCK Papp値は0.2である一方、環状部の側鎖にヒドロキシフェニル基を有する環状ペプチド(化合物6)のRRCK Papp値は1.3とこれら膜透過性が低下したとされる化合物9~11とはRRCK Papp値が相当異なっており、化合物6については、log Dは有意に低下せず (log Dは 3.64~4.57)、HLM値は高いままであり、CLint,app,scaled値は29.4 mL min-1 kg-1かそれ以上であったと評価されているのみで(甲2c)、膜透過性が低下しているとは記載されていない。
さらに、環状ヘキサペプチドテンプレートは、もともと別の位置にもヒドロキシフェニル基を有するが(甲2f)、当該位置のヒドロキシフェニル基を他の残基に変更することについては記載も示唆もない。また、甲2では、芳香族残基が陽イオン-π相互作用を介して疎水性膜環境からプロトン化Lys側鎖を遮蔽し、ペプチドの予想外に高い透過性と経口バイオアベイラビリティに寄与しているとも論じている(甲2e)。
そうすると、甲2の上記記載は、膜透過性の観点で、甲2に記載される環状ペプチド化合物の環状部の側鎖として、特に、インドール骨格及びヒドロキシフェニル基を排除することを当業者に示唆するものとは認められない。
また、甲2には、「ペプチド-mRNA複合体」や「ライブラリ」について記載も示唆も見当たらないから、甲1、2の記載に接した当業者が、甲2の表1、2の結果を、ライブラリである甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「環状ペプチド」の膜透過性に関連付けることはできないといえる。
そうすると、甲1、2の記載を勘案しても、ライブラリである甲1発明1の「ペプチド-mRNA複合体」の「ペプチド」部分において、特に、環状部の側鎖が、(1)インドール骨格、及び(2)置換又は無置換のヒドロキシフェニル基である環状ペプチド化合物を排除すること、すなわち、相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項である「ライブラリが、環状部の側鎖に、(1)インドール骨格、及び(2)置換又は無置換のヒドロキシフェニル基、を有しない環状ペプチド化合物から実質的にな」るものにすることが当業者に動機づけられるとは認められない。
一方、本件明細書等の段落【0008】~【0012】(本b)、実施例4(本q。特に段落【0854】~【0858】)及び実施例5(本r。特に【0874】等)によると、本件発明1は、相違点1と相違点2を備えることで、膜透過性が高く、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物を効率よくスクリーニングすることができるという甲1、2の記載からでは当業者が予測できない効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、相違点2、3の容易想到性について検討するまでもなく、甲1、甲2の記載を勘案しても、甲1発明1に基づき、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。
また、本件発明1と甲1発明2とを対比した場合も、両者は少なくとも上記相違点1で相違しているから、上記説示したとおりの理由により、本件発明1は、甲1、甲2の記載を勘案しても、甲1発明2に基づき、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。
以上のことから、本件発明1は、甲1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(2)本件発明2~13について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~10は、本件発明1と同様の理由により、甲1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、申立理由1(進歩性)は、理由がない。
4.申立理由2(実施可能要件、サポート要件)について
(1)実施可能要件、サポート要件の考え方
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。
また、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明が解決しようとする課題
本件明細書等の【0007】(本a)の記載によると、本件発明が解決しようとする課題は、細胞膜透過性(「膜透過性」ともいう。)の高い環状ペプチド化合物をスクリーニングするための、環状ペプチド化合物のライブラリを提供すること、及び、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物を効率的にスクリーニングするための、環状ペプチド化合物のライブラリを提供することにあるものと認められる。
(3)本件発明1のサポート要件の判断
本件明細書等の段落【0008】~【0012】(本b)には、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物をスクリーニングする際に、長い側鎖を環状部に有する環状ペプチド化合物を含むライブラリを用いることで、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物のヒット率が向上し得ること、すなわちスクリーニングの効率を高め得ることを見出したこと、及び、インドール骨格やヒドロキシフェニル基を有するペプチドは高い膜透過性を発揮することが難しくなることを見出したことから、膜透過性が高く、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物を効率よくスクリーニングすることができるライブラリの一態様として、環状部に長い側鎖を有し、かつ、高い膜透過性を発揮しにくい側鎖を有しない環状ペプチド化合物のライブラリを見出し、本発明を完成するに至ったことが記載されている。
そして、本件明細書等の実施例4(特に段落【0854】~【0858】)(本q)では、ペプチド化合物ライブラリをコードするランダム化された二本鎖DNAライブラリと翻訳液を使用し、WO2013/100132に倣ってパニングを実施して、ランダム領域の各アミノ酸グループ(長側鎖を有するアミノ酸、長側鎖を有しない芳香族アミノ酸、長側鎖を有しない非芳香族アミノ酸)の出現頻度をパニングごとに計算し、標的によらず長側鎖のアミノ酸の出現頻度が高い傾向があったことが具体的に示されている。そして、表15(本q)のアミノ酸分類表において、長側鎖を有するアミノ酸としてグループ分けされた各アミノ酸について、その側鎖の長さは、本件明細書等の表1-1、1-2(本e)を参照すると、いずれも本件発明1において規定された範囲内である。そうすると、長さが5.4~13オングストロームの長側鎖を環状部に有する環状ペプチドを含むライブラリを用いることで、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物のヒット率が向上し得ること、すなわちスクリーニングの効率を高め得ることが理解できる。
また、本件明細書等の実施例5(特に【0874】等)(本r)では、Trp、Tyr、及びTyr(3-F)の側鎖を有する環状ペプチド化合物は、修飾を加えClogP/total aaを上昇させても、Papp≧1.0×10-6 cm/秒の基準を満たす環状ペプチド化合物を得ることは難しかった一方で、その他の長側鎖を有する環状ペプチド化合物は、修飾を加えClogP/total aaを上昇させることで、Papp≧1.0×10-6 cm/秒の基準を満たす化合物を多数得ることができたことが具体的に示されていることから、ライブラリが、環状部の側鎖に、(1)インドール骨格、及び(2)置換又は無置換のヒドロキシフェニル基、を有しない環状ペプチド化合物から実質的になることにより、細胞膜透過性の高い環状ペプチド化合物をスクリーニングし得る環状ペプチド化合物のライブラリを提供できることが理解できる。
よって、本件発明1は、当業者が、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載から、上記(2)で示した課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。
したがって、本件発明1は、サポート要件を満たすものである。
(4)本件発明1の実施可能要件の判断
本件明細書等の段落【0229】~【0246】(本k)には、ペプチド化合物の化学合成方法及び翻訳合成方法が記載されており、段落【0250】~【0253】(本l)には、ペプチド化合物の環化方法が記載されている。そして、本件明細書等の実施例1の1-4(本o)では、化学合成により環状ペプチド化合物を合成したことが、実施例2の2-3,2-4(本p)では、環化させてはいないものの、翻訳合成によりペプチド化合物を合成したことがそれぞれ記載されている。さらに、本件明細書等の段落【0259】~【0270】(本m)には、ペプチド化合物のライブラリの製造方法が記載されており、実施例4(本q)では、ペプチド化合物ライブラリをコードするランダム化された二本鎖DNAライブラリと翻訳液を使用し、WO2013/100132に倣ってパニングを実施している。
ここで、WO2013/100132(すなわち、甲1)の実施例25(甲1i)では、ランダム化されたDNAライブラリを鋳型in vitro転写によりmRNAを調製し、それにピューロマイシンリンカーを連結したものを用いて、翻訳を実施した後、環化反応、脱硫を行って、ペプチド-mRNA複合体溶液を調製し、これを用いてビオチン化標的タンパク質に対するパニングを実施していることを勘案すると、本件明細書等の実施例4では、WO2013/100132と同様の方法により、ペプチド-mRNA複合体溶液が調製されているものと解される。そして、このペプチド-mRNA複合体のペプチド部分は、上記二本鎖DNAライブラリのランダム化された配列に起因して、さまざまなアミノ酸配列を有するものと解されるので、本件明細書等の実施例4では、ペプチド化合物のライブラリが実際に製造されているといえる。
したがって、本件発明1のライブラリは、本件明細書等の上記記載及びWO2013/100132の記載に基づき当業者が過度の試行錯誤を要することなく、製造し得るものである。
また、上記(3)で説示したとおり、本件明細書等の実施例4、5(本q、r)の記載から、本件発明1のライブラリは、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物のスクリーニングの効率を高め得るものであって、細胞膜透過性の高い環状ペプチド化合物をスクリーニングし得るものであるから、本件発明1のライブラリは、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、標的分子に特異的に結合できる化合物の同定のために使用し得るものであるといえる。
したがって、当業者であれば、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施することができるものと認められるので、本件発明1は、実施可能要件を満たすものである。
(5)申立人の主張について
申立人は、「(1)インドール骨格、及び(2)置換又は無置換のヒドロキシフェニル基」以外の環状部の側鎖に有するとすると膜透過性が低くなると推認される基、例えばアミノブチル基、を側鎖として有するペプチド化合物を含むライブラリを使用する場合、又は、実施例に記載された特定の4種類以外の標的の場合に、膜透過性の高い環状ペプチド化合物をスクリーニングできるとする根拠が不明であると主張する。
また、申立人は、ライブラリに含まれる、長側鎖を環状部に有する環状ペプチド化合物の比率が少なくなると、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物のヒット率が低下するものと推測されるとも主張する。
しかしながら、4.(2)で示したとおり、本件発明が解決しようとする課題は、膜透過性の高い環状ペプチド化合物をスクリーニングするための、環状ペプチド化合物のライブラリを提供することだけでなく、標的分子に特異的に結合できる環状ペプチド化合物を効率的にスクリーニングするための環状ペプチド化合物のライブラリを提供することにあるから、アミノブチル基等を側鎖として有することや長側鎖を環状部に有する環状ペプチド化合物の比率が変わることで膜透過性やスクリーニングの効率性に多少の影響が生じる可能性があったとしても、本件発明の上記課題の達成や本件発明の実施において支障が生じるとまではいえない。
また、4.(3)で示したとおり、本件明細書等の実施例に、本件発明のライブラリが、複数の標的分子において、細胞膜透過性の高い環状ペプチド化合物を効率的にスクリーニングできることが記載されている以上、他の標的分子に対しても、同様の方法で本件発明のライブラリが適用可能であることは当業者が通常認識し得ることであり、このことを否定するような具体的な反証、例えば、追試実験や本件特許の優先日の技術常識等の客観的証拠は、申立人から何ら提示されていない。
したがって、申立人の上記主張は、いずれも理由がない。
(6)本件発明2~12について
本件発明2~12は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を含む発明であるので、本件発明1と同様の理由により、実施可能要件及びサポート要件を満たすものである。
(7)小括
以上のとおりであるから、申立理由2(実施可能要件、サポート要件)は、理由がない。
5.申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の考え方
上記4.(1)に記載のとおりである。
(2)本件発明13の実施可能要件の判断
本件明細書等の【0186】(本f)には、本開示におけるライブラリには、特に環状ペプチド-mRNA複合体のライブラリが好ましいこと、ライブラリとしては、ディスプレイライブラリが好ましいこと、ディスプレイライブラリとしては、ディスプレイを利用したライブラリが例示され、中でもmRNAディスプレイライブラリ、DNAディスプレイライブラリ、リボソームディスプレイライブラリが好ましく、mRNAディスプレイライブラリがより好ましいことが記載されている。
また、本件明細書等の【0222】~【0223】(本i)には、ディスプレイライブラリは表現型であるペプチドとその遺伝子型であるペプチドをコードするRNAもしくはDNAが対応付けられているライブラリであること、このライブラリを使用して、標的分子に特異的に結合できるペプチド化合物を同定することができ、このような過程を経て選択されたペプチドに対応付けられている遺伝子情報を解析することで標的に結合したペプチドの配列を明らかにすることができることが記載されるとともに、mRNAディスプレイ法について、「T7プロモーターなどのプロモーターを含むDNAライブラリから転写にて得たmRNAのライブラリの3'端にピューロマイシンなどのスペーサーを結合しておき、無細胞翻訳系でmRNAをタンパク質に翻訳させるとピューロマイシンがリボソームによってアミノ酸と間違ってタンパク質に取り込まれ、mRNAとこれにコードされる蛋白質が連結され、mRNAとその産物が対応付けられたライブラリになる。この過程では大腸菌などの形質転換を含まないため高い効率が実現され、大規模なディスプレイライブラリを構築することが出来る。パニングで濃縮、選択された分子についている遺伝子情報を含むタグであるmRNAからcDNAを合成し、PCR増幅し、塩基配列を解析することで結合した蛋白の配列を明らかにすることが出来る。」と記載されている。
さらに、本件明細書等の【0272】(本n)には、本開示におけるスクリーニング方法は、本開示における環状ペプチド化合物のライブラリと標的分子を接触させ、標的分子に結合しないペプチド化合物を洗い流すことで標的分子に結合するペプチド化合物を濃縮することができること、及び、このようにして選択されたペプチド化合物に含まれる塩基配列情報を含むタグであるmRNAからcDNAを合成し、PCR増幅し、塩基配列を解析することで、結合したペプチドのアミノ酸配列を明らかにすることができることが記載されている。
以上の本件明細書等の記載によれば、当業者は、mRNAディスプレイライブラリのようなディスプレイライブラリを用いることにより、標的に結合した環状ペプチド化合物のアミノ酸配列を明らかにでき、その明らかになったアミノ酸配列に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明13の環状ペプチド化合物を製造することができるといえる。
したがって、「工程(i)で用いられる多様な環状ペプチド化合物群からどのようなものが選択されるか当業者は理解することができない」、実施例「以外の標的分子を用いた場合の環状ペプチド化合物のアミノ酸配列を類推できるといえない。」との申立人の主張は理由がない。
(3)本件発明1の実施可能要件の判断
申立人は、本件発明1が実施可能要件を満たさない理由として、環状部にpKa3.5~10である酸性の側鎖を有する環状ペプチド化合物がライブラリに含まれる場合、及び、環状部にBasic pKaが4.0~10である塩基性の側鎖を有する環状ペプチド化合物がライブラリに含まれる場合において、膜透過性の高い環状ペプチド化合物をスクリーニングできるとの根拠が不明である点を挙げる。
しかし、上記4.(4)で説示したとおり、本件発明1が実施可能要件を満たすことは、本件明細書等の実施例4、5(本q、r)の記載からも明らかである。
確かに本件明細書等の発明の詳細な説明には、実測値のpKaが3.8であるGln(Ms)を含む配列や、実測値のBasic pKaが9.1であるSer(Et-2-NMe2)を含む配列が、膜透過性に関してPapp≧1.0×10-6cm/秒を達成することが困難であったことが記載されているが(本s)、本件発明1は、膜透過性に関してPapp≧1.0×10-6cm/秒を達成することを発明特定事項とする発明でないから、申立人による上記の根拠が不明である旨の指摘は失当である。
したがって、申立人の上記主張は、理由がない。
(4)本件発明3、8の実施可能要件の判断
本件明細書等の段落【0109】~【0110】(本d)には、ClogPは、コンピューターで計算した分配係数であって、Daylight Chemical Information Systems, Inc.のDaylight Version 4.9を用いて計算できること、及び、「total aa」 (「total AA」とも表記される。) とは、ペプチド化合物の核酸連結部以外のペプチド部位を構成するアミノ酸の数を意味することが記載されている。
そして、本件明細書等の段落【0228】(本j)には、ペプチド化合物を含むライブラリの製造方法としては、例えば化学合成、翻訳合成、又はこれらの組み合わせを利用できることが記載されている。
ここで、環状ペプチド化合物を化学合成してライブラリを製造する場合であれば、合成する1つ1つの環状ペプチド化合物について、total aaは決まった値であり、また、ClogPは計算可能なものであるため、ClogP/total aaの値は把握することができる。したがって、当業者は、化学合成した個々の環状ペプチド化合物のClogP/total aaの値に留意しながら、ライブラリに含ませる環状ペプチド化合物を選択することで、過度の試行錯誤を強いることなく、ライブラリに含まれる環状ペプチド化合物のClogP/total aaの平均を所定の範囲内に調節することができるといえる。
また、環状ペプチド化合物を翻訳合成してライブラリを製造する場合であれば、鋳型の配列に応じて、翻訳合成される環状ペプチド化合物の化学構造は予測可能であって、その化学構造から、total aaが一義的に定まるし、ClogPも計算により求めることが可能である。すなわち、鋳型の配列が決まればClogP/total aaの値も決まるといえる。したがって、当業者は、鋳型の配列に対応する環状ペプチド化合物のClogP/total aaの値に留意しながら、翻訳合成に用いる鋳型の配列を設計することにより、過度の試行錯誤を強いることなく、ライブラリに含まれる環状ペプチド化合物のClogP/total aaの平均を所定の範囲内に調節することができる。
そうすると、いずれの方法でライブラリを製造する場合であっても、当業者であれば、過度の試行錯誤を要することなく、ライブラリに含まれる環状ペプチド化合物のClogP/total aaの平均を所定の範囲に調節できるといえるから、本件発明3、8は、実施可能要件を満たすといえる。
したがって、「1×103以上の多様性を有し、かつClogP/total aaの平均が1.0~1.8であるライブラリ」について「当業者が作製できるとも理解できない。」との申立人の主張は理由がない。
(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由3(実施可能要件)は、理由がない。
第5 むすび
本件特許に係る特許異議申立てにおいて申立人が主張する申立理由は、いずれも理由がないから、本件発明1~13に係る特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件発明1~13に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700912