特許拒絶査定不服審判
2023-020135
電波吸収体
- 審判番号
- 2023-020135
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-101479
- 請求日
- 2023年11月28日
- 審決日
- 2024年08月05日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】兵庫県公立大学法人
- 【請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【請求人】キーパー株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【請求人】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
- 【請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 山澤 宏
- 審判官 伊藤 隆夫
- 審判官 村松 貴士
- 分類
- P18 .121-WY (H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-101479「電波吸収体」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 1月 4日出願公開、特開2023- 572、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年6月18日の出願であって、令和5年1月31日付けで拒絶理由通知がされ、令和5年6月6日付けで手続補正がされ、令和5年8月25日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和5年11月28日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。
第2 原査定の概要
原査定(令和5年8月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1-6に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願請求項1-6、10に係る発明は、以下の引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願請求項1-9に係る発明は、以下の引用文献3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願請求項10に係る発明は、以下の引用文献1、3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開昭59-6600号公報
2.特開2004-327888号公報
3.中国特許出願公開第112698433号明細書
第3 本願発明
本願請求項1-10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明10」という。)は、令和5年6月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
30GHz~100GHzのミリ波を吸収する電波吸収体であって、
誘電体層と、
前記誘電体層上に設けられた導電材層と、を備え、
前記導電材層の厚さは前記電波の周波数に対する表皮深さよりも大きく、
前記導電材層の導電率は10S/m~200S/mであることを特徴とする電波吸収体。」
なお、本願発明2-10の概要は以下のとおりである。
本願発明2-10は、本願発明1を減縮した発明である。
第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同様。)
「本発明は共鳴形の電波吸収体に関する。
共鳴形の電波吸収体は、図に示す如く反射層(イ)の上に電波吸収材(ロ)を設けることにより、電波吸収材(ロ)の内部で共鳴現象を生ぜしめ、電磁波エネルギーを消失するものである。」
(公報第1頁左欄第10-14行)
「図において、反射層(イ)に要求される特性は電気抵抗率が小さいということであり、この要求を満たすならば、金属板である必要はない。本発明はこのような視点から反射層(イ)を見直した末に生れたものである。図の反射層(イ)の電気抵抗率は小さいほどよいが、実質的にはその体積抵抗が100Ω/cm3以下であれば充分である。」
(公報第1頁右欄第13-19行)
「また、その厚さは、表皮深さ以上であればよいので、使用周波数を100MHz以上と限定すると0.1mm以上の厚さであればよい。」
(公報第2頁左上欄第8-10行)
「電波吸収体(ロ)(当審注:「電波吸収材(ロ)」の誤記と認める。)は例えば「電波吸収体組成物(特願昭53-110441号)」にて公知の如く、高分子樹脂に磁性体粉末を混合した材料が良く使われる。」
(公報第2頁左上欄第16-19行)
「図
[図:0001413209000001.jpg]
」
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「共鳴形の電波吸収体は、反射層(イ)の上に電波吸収材(ロ)を設け、反射層(イ)の体積抵抗が100Ω/cm3以下であれば充分であり、その厚さは、表皮深さ以上であればよいので、使用周波数を100MHz以上と限定すると0.1mm以上の厚さであればよく、電波吸収材(ロ)は高分子樹脂に磁性体粉末を混合した材料が良く使われる共鳴型の電波吸収体。」
2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0013】
図3は、本発明の電波吸収パネルPの断面図であり、この電波吸収パネルPは、シート状電波吸収体1と、そのシート状電波吸収体1を収容する浅皿状の筐体4と、を具備する。そして、シート状電波吸収体1は、表て面2a(当審注:「表面2a」の誤記と認める。)が電波入射面側となる電波吸収シート2と、電波吸収シート2の裏面2bに積層状に設けた反射層3とからなる。」
「【図3】
[図:0001413209000002.jpg]
」
したがって、上記引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「表面2aが電波入射面側となる電波吸収シート2と、電波吸収シート2の裏面2bに積層状に設けた反射層3とからなるシート状電波吸収体1。」
3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。(訳は当審訳。)
「
[図:0001413209000003.jpg]
」
[当審訳]
[0003]本発明はメタマテリアル赤外吸収体およびその製造方法を提供し、同時に中波赤外線帯域と長波赤外帯域の電磁波を吸収し、同時に構造を簡略化する。
「
[図:0001413209000004.jpg]
」
[当審訳]
[0043]図1、2および3を参照すると、基板1を設置する際には、基板1は硬質の平坦な基板であってもよく、支持構造としては、基板1の材料はシリコン、石英ガラスまたは他の任意の平坦な硬質材料であってもよい。基板1上に下から上へ順に金属膜層2、誘電体分離層3及び金属構造4が設置され、且つ金属構造4は周期的な間隔で分布し、即ち金属-誘電体分離層-金属構造を形成する。具体的に金属膜層2を設置する時に、金属膜層2の厚みtmirrorは100nm以上であってもよく、具体的には、tmirrorは100nm、110nm、120nm、130nm、140nm、150nm等の100nm以上の任意の値であってもよく、それにより膜層2の厚みが赤外線帯電磁波の電磁波の金属膜層2における表皮深さより遥かに大きくなり、光の透過を完全に防止する。金属膜層2の材料はチタンであってもよく、それによりメタマテリアルの赤外線吸収体の吸収効果を向上させ、同時に集積回路CMOS互換プロセスを用いて基板1上に金属膜層2を成長させる。もちろん、金属膜層2は、他の金属材料であってもよい。誘電体分離層3の材料を特定する場合、誘電体分離層3の材料はシリコン、アンチモン化ガリウム又はヒ化ガリウムであってもよく、それにより現在の技術で実現しやすい半導体プロセスを選択して金属膜層2上に誘電体分離層3を成長させ、それにより誘電体分離層3を金属膜層2に結合する必要がなく、加工プロセスを簡略化する。
「図1
[図:0001413209000005.jpg]
」
「図2
[図:0001413209000006.jpg]
」
「図3
[図:0001413209000007.jpg]
」
したがって、上記引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「基板1上に下から上へ順に金属膜層2、誘電体分離層3及び金属構造4が設置され、且つ金属構造4は周期的な間隔で分布し、即ち金属-誘電体分離層-金属構造を形成し、具体的に金属膜層2を設置する時に、金属膜層2の厚みtmirrorは100nm以上であってもよく、それにより膜層2の厚みが赤外線帯電磁波の電磁波の金属膜層2における表皮深さより遥かに大きくなり、光の透過を完全に防止するメタマテリアル赤外吸収体。」
第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明1における「電波吸収材(ロ)」は、高分子樹脂に磁性体粉末を混合した材料(誘電体)が良く使われ、層状をなすものであるから、本願発明1における「誘電体層」に相当する。
イ 引用発明1における「反射層(イ)」は、体積抵抗が100Ω/cm3以下であり、その材質が導電材であるといえるから、本願発明1における「導電材層」に相当する。
ウ 引用発明1は、「反射層(イ)の上に電波吸収材(ロ)を設け」るものであるが、見方をかえれば、「電波吸収材(ロ)」の面上に「反射層(イ)」を設けているともいえるから、引用発明1と本願発明1はともに、「誘電体層上に設けられた導電材層」を備える点で一致する。
エ 引用発明1における「反射層(イ)」について、その厚さは、表皮深さ以上であればよいので、使用周波数を100MHz以上と限定すると0.1mm以上の厚さであればよいのであるから、引用発明1の「反射層(イ)」と本願発明1の「導電材層」とは、その厚さが吸収する電波の周波数に対する表皮深さよりも大きい点で共通する。
オ 引用発明1における「反射層(イ)」は、体積抵抗が100Ω/cm3以下なので、導電率に換算すると、導電率が1S/m以上となるから、引用発明1の「反射層(イ)」と本願発明1の「導電材層」とは、その導電率が1S/m以上である点で共通する。
カ 引用発明1の「共鳴形の電波吸収体」と本願発明1の「電波吸収体」は、ともに電波を吸収する「電波吸収体」という点で一致する。
したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「電波を吸収する電波吸収体であって、
誘電体層と、
前記誘電体層上に設けられた導電材層と、を備え、
前記導電材層の厚さは前記電波の周波数に対する表皮深さよりも大きく、
前記導電材層の導電率は1S/m以上であることを特徴とする電波吸収体。」
(相違点)
(相違点1)本願発明1は30GHz~100GHzのミリ波を吸収する電波吸収体であるのに対し、引用発明1の電波吸収体は100MHz以上の電波を吸収することが想定される点。
(相違点2)本願発明1の「導電材層」の導電率は、10S/m~200S/mの範囲に限定されるのに対し、引用発明1の「反射層(イ)」は、1S/m以上である点。
(2)相違点についての判断
上記相違点1および相違点2について、あわせて検討する。
本願発明1は、「透過型電波吸収体201を透過する電波を抑える場合、誘電体層202の誘電率を非常に高くするとともに、誘電体層202を非常に薄く形成する必要がある。例えば、特許文献1の図3に示されるように、透過型電波吸収体201を透過する電波(透過電力係数Tp)を1/100(-20dB)に抑える場合、誘電体層202の比誘電率を100、厚さを電波波長の1/40にしなければならない。そうすると、誘電体層202を形成する材料の選択自由度が少なくなり、透過型電波吸収体201の製造が困難になる。」(本願明細書【0007】)という課題を解決するために、「電波が一般的に使用される30GHz~100GHzのミリ波である場合、導電材層3の導電率σを10S/m~200S/mに設定する」ことにより、「誘電率εr2が2.35~13.93の誘電体層2を使用することができ」、「このような誘電率εr2を有する誘電体層は、例えば図2に示す誘電体層2a~2dのような構成とすることにより、比較的容易に製造することができる。」(本願明細書【0045】)というものである。
つまり、本願発明1の数値限定は、電波が一般的に使用される30GHz~100GHzのミリ波である場合(相違点1)に、導電材層3の導電率σを10S/m~200S/mに設定する(相違点2)ことによって、誘電率が2.35~13.93の誘電体層2を使用することができる(誘電体層を比較的容易に製造できる)という効果を奏することに基づくものである。
一方、上記引用文献1には、上記数値限定に関して開示も示唆もされておらず、本願の出願前から既に周知の技術事項ともいえない。そして、誘電率が2.35~13.93の誘電体層とすることにより、当該誘電体層を比較的容易に製造できるという、本願発明1が奏する技術的効果は、上記引用文献1の記載からは、予測し得ない有利な効果であるといえる。
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
引用発明2、引用発明3についても、上記引用文献2、引用文献3には、前述のとおり有利な効果を奏する数値限定に関して開示も示唆もされていないから、引用発明1と同様に、引用発明2又は引用発明3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
2.本願発明2-10について
本願発明2-10も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1-3に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-10は、当業者が引用発明1-3に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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