特許拒絶査定不服審判
2023-018856
動物における代謝健康を増進する方法
- 審判番号
- 2023-018856
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-525224
- 請求日
- 2023年11月07日
- 審決日
- 2025年06月26日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
- 【請求人代理人】長谷川 芳樹
- 【請求人代理人】池田 成人
- 【請求人代理人】酒巻 順一郎
- 【請求人代理人】戸津 洋介
- 【請求人代理人】和田 雄二
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 山本 一
- 審判官 立澤 正樹
- 分類
- P18 .121-WZ (A23K) / P18 .537-WZ (A23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-525224「動物における代謝健康を増進する方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 6月18日国際公開、WO2020/121145、令和 4年 2月 1日国内公表、特表2022-511693〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)12月6日を国際出願日とする外国語特許出願であって(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2018年12月13日 米国)、その手続の経緯は、概略以下のとおりである。なお、平成30年12月13日を以下「優先日」という。
令和3年 5月10日 :翻訳文の提出
令和5年 5月17日付け:拒絶理由通知書
同年 6月28日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月26日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
( 同年10月 3日 :原査定の謄本の送達)
同年11月 7日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和6年10月 4日付け:拒絶理由通知書
令和7年 1月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年 2月21日付け:拒絶理由通知書
同年 5月16日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~9に係る発明は、令和7年5月16日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次に特定されるとおりのものであると認める。
「 【請求項1】
動物における代謝健康を増進するための方法であって、
食品組成物を前記動物に投与する工程を含み、
前記食品組成物が、総エネルギー基準で
30%~55%のタンパク質と、
11%~20%の炭水化物と、
30%~40%の脂肪と、を含み、
前記食品組成物が、総エネルギー基準で3:1~5:1のタンパク質対炭水化物比を有し、
前記動物がイヌ科動物であり、
前記食品組成物を摂取していないときの前記動物の血中遊離脂肪酸値と比較して、より低い血中遊離脂肪酸値をもたらす、方法。」
第3 当審の拒絶理由の概要
令和7年2月21日付けで、当審において本願発明に対して通知した拒絶理由の概要は、次の理由を含むものである。
2.(進歩性欠如)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1記載の発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特表2005-527233号公報
第4 当審の判断
1 引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
(1)引用文献1
上記第3で示したとおり、当審において通知した拒絶理由で引用した引用文献1は、本願の優先日前に発行された特表2005-527233号公報であって、以下の記載がある。なお、下線は合議体によるものである。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物におけるグルコース代謝異常、インスリン耐性、糖尿病、糖尿病前症、高グリセリド血症、高脂血症、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される症状を治療するのに、又は動物の寿命を延ばすのに好適な薬物を製造するために食事処方を用いる方法であって、前記食事処方が、より多量のタンパク質と組み合わせて適量の炭水化物及び脂肪を含む方法。
【請求項2】
動物におけるグルコース代謝異常、インスリン耐性、糖尿病、糖尿病前症、高グリセリド血症、高脂血症、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される症状を治療するための、又は前記動物の寿命を延ばすための方法であって、より多量のタンパク質と組み合わせて適量の炭水化物及び脂肪を含む食事処方を前記動物に投与することを含む方法。
【請求項3】
前記動物がコンパニオンアニマルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記動物がイヌ科動物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記動物がネコ科動物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記食事処方が、乾燥物基準で少なくとも40重量%のタンパク質を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記食事処方が、全て乾燥物基準で少なくとも40重量%のタンパク質、32重量%以下の炭水化物、17重量%以下の脂肪を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記食事処方が、全てカロリーパーセント基準で少なくとも40%のタンパク質、35%以下の炭水化物、及び32%以下の脂肪を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記食事処方が、全てカロリーパーセント基準で40%~54%のタンパク質、14%~35%の炭水化物、及び22%~32%の脂肪を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記食事処方が、全てカロリーパーセント基準で44%~48%のタンパク質、25%~29%の炭水化物、及び25%~29%の脂肪を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース代謝と関連する異常な症状を治療するための方法に関する。本発明はまた、特にグルコース代謝を調節し、インスリン耐性の発現を低減させることによって寿命を延ばす方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンパニオンアニマルは、ヒトと同じ多くの健康状態を患うことが知られている。そのため、イヌ及びネコの予防及び治療方法がヒトの予防及び治療方法に密接に従うことは、珍しいことではない。例えば、糖尿病は、最も頻繁に診断されるネコの内分泌障害の1つであり、ネコの糖尿病治療はヒトの糖尿病治療と同様である。インスリン治療、経口血糖降下、及びグルコース代謝の食事調節及び減量のようなヒトの治療法は、ペット用ネコ科動物及びイヌ科動物の両方に一般に使用される。
【0003】
ヒトの食事は、従来炭水化物類が多く、コンパニオンアニマル、特にネコの食事も炭水化物類が多かった。しかし、近年の調査によって、多量の炭水化物の摂取はグルコース代謝異常及びそれに関連する疾患症状と関連する可能性があることが示唆されている。これらの調査に対応して、食事は、炭水化物の摂取量を低減させることで、より健康的な食事を提供し、グルコース代謝又はその関連する疾患症状をより有効に管理するという期待から、炭水化物の摂取量を低減させるように処方されている。
【0004】
ヒトについて周知のアトキンスダイエット(Atkins'diet)は、低減させた炭水化物類の摂取量を相殺するために、食事により多量のタンパク質及び脂肪を使用することを促進しており、結果として食事は全体のカロリー摂取量を低減しなくても炭水化物からのカロリー摂取量の割合を顕著に低減できる。コンパニオンアニマルについては、米国特許第6,203,825号に記載される食事、及びピュリナDM糖尿病管理ネコ科動物用処方(Purina DM Diabetes Management Feline Formula)(ネスレピュリナペットケア社(Nestle Purina Pet Care Company))として市販されているもののような食事も、炭水化物供給源から得られるカロリーの割合を制限している。米国特許第6,203,825号に含まれる実施例に食事1~3として概ね記載されるようなこの種の食事は、食物脂肪の形態のカロリー割合が高い(食事1(55%)、食事2(48%)及び食事3(61%))。食物脂肪からのカロリー割合が高いと、動物に望ましくない体重増加をもたらす危険性がある。これは、炭水化物からのカロリー量を制限する際の間接的副作用である。」
ウ 「【0012】
そのため、本発明によって記載される方法において、グルコース管理は、適量の炭水化物及びより少量の脂肪を含有すると同時に高タンパク質の食事を与えることによって達成される。この方法は、ヒト及びその他の動物、特にコンパニオンアニマル、例えば家庭用イヌ科動物及びネコ科動物に利用される。これらのコンパニオンアニマルの治療は、特に好ましい。そのようなものとして本発明の方法は、グルコース代謝異常又はそれらに関連する症状、例えばインスリン耐性、糖尿病、糖尿病前症(pre-diabetes)(当該技術分野において症候群Xと特徴付けられる場合がある)、高トリグリセリド血症、高脂血症、及びこれらの組み合わせの治療に有用である。本明細書で使用する時、「治療」という用語は、病状又は関連する症状の存在の予防、阻害及び調節を含む。本方法は、これとは別に、又はさらに、特にグルコース代謝異常を調節することによって動物の寿命を延ばすのに有用である。
【0013】
本発明の方法は、動物への食事処方の投与によって機能し、この食事処方は、より多量のタンパク質と組み合わせて適量の炭水化物及び脂肪を含む。動物は、ヒト又はその他の動物であってもよく、好ましくは家庭用のイヌ科動物又はネコ科動物のようなコンパニオンアニマルである。投与の頻度は制限されない。しかし、食事は通常頻繁ではなく、若しくは必要に応じて投与され、又は1日に1回、2回、若しくは3回という、より日課的な様式で投与されるのが好ましい。例えば、コンパニオンアニマルに関して、食事は無制限に与えられることができ、追加の健康上の利益のために当業者に既知の給餌指針を用いて計量された一部として与えることができる。」
エ 「【0019】
本発明の方法にて利用される食事処方のための炭水化物類は、例えば、トウモロコシ、大麦、サトウモロコシ、米、小麦、オート麦、又はこれらの混合物のような当業者に既知の多数の供給源から得ることができる。本発明者らは、グルコース代謝のより最適な調節を達成するために、低血糖指数の穀物炭水化物供給源の使用を特に推奨する。
本発明の方法によって説明される食事処方に導入される脂肪類はまた、例えば、家禽脂肪、豚脂肪、鶏脂肪、牛又はその他の動物脂肪類、植物油類(例えば、ヒマワリ又はトウモロコシ油など)、魚油、魚粉、又はこれらの混合物のような当業者に既知の多数の供給源から得ることができる。
・・・
【0020】
図1~図8に示される結果からわかるように、(カロリーパーセント基準で)約27%の炭水化物を含有する、食事1として表される高タンパク質の食事は、食事2(高脂肪)又は食事3(高炭水化物)のいずれよりもグルコース及びインスリン濃度が低い。より重要なことに、図9に示されるように、適量の炭水化物を与える高タンパク質の食事は、実際、高炭水化物の食事に匹敵するインスリン:グルコース比を与え、高脂肪食よりも低いインスリン:グルコース比を与える。インスリン:グルコース比は、インスリンに対する体の感応性の指標であり、その値が高い場合はインスリンに対する感応性が低いことを示すが、図9に示される結果は、より高いレベルの脂肪を提供する食事を与えると、インスリン耐性の発現の尺度であるインスリン:グルコース比が増大し得ることを示している。しかし、適量の炭水化物を含み、脂肪のレベルがより低い、タンパク質がより多い食事を与えると、より好ましいインスリン:グルコース比を与え、インスリン耐性の発現をほとんど促進しない。
【0021】
インスリン耐性は、通常、老化及び寿命の短縮に関連する特定の疾患の発現に関連するので(ファッチーニ(Facchini)ら、「年齢に関連する疾患の予測基準としてのインスリン耐性(Insulin Resistance as a Predictor of Age-Related Diseases)」、J.Clin.Endocrinology & Metabolism、第86巻、3574(2001))、インスリン感応性を促進し、インスリン耐性を低減させる食事は、年齢に深く関連した疾患を予防し、寿命を延ばし、ヒト又はその他の動物の生活の質を改善する手段を提供する。ラムゼイ(Ramsey)らの「アカゲザルの食事制限と老化:ウィスコンシン大学の調査(Dietary restriction and aging in rhesus monkeys:the University of Wisconsin study)」、Exp.Geronotology、第35巻、1131(2000)は、インスリン感応性が食事制限のレジメンを維持した動物においてより高く、それがげっ歯類、霊長類、及びイヌ科動物の寿命の延長につながったことを示した(例えば、キーリー(Kealy)ら、「イヌにおける寿命及び年齢に関連する変化に対する食事制限の影響(Effects of diet restriction on life span and age-related changes in dogs)」、JAVMA、第220巻、1315(2002);レーン(Lane)ら、「ヒトでない霊長類におけるカロリー制限:年齢に関連する疾患リスクとの関連(Calorie restriction in nonhuman primates:implications for age-related disease risk)」、J.Anti-aging Med.、第1巻、315(1998)を参照のこと)。
【0022】
そのため本発明の方法は、年齢に関連するグルコース代謝異常を、個人用又はコンパニオンアニマル用の食事制限又はカロリー制限によって予防できない又は予防することを好まない個人のための手段を提供する。」
オ 上記ア~エより、引用文献1には、次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「動物におけるグルコース代謝異常、インスリン耐性、糖尿病、糖尿病前症、高グリセリド血症、高脂血症、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される症状を治療するための、又は前記動物の寿命を延ばすための方法であって、より多量のタンパク質と組み合わせて適量の炭水化物及び脂肪を含む食事処方を前記動物に投与することを含み(【請求項2】)、
前記動物がイヌ科動物であり(【請求項4】)、
前記食事処方が、全てカロリーパーセント基準で40%~54%のタンパク質、14%~35%の炭水化物、及び22%~32%の脂肪を含み(【請求項9】)、
食事処方に導入される脂肪類はまた、例えば、家禽脂肪、豚脂肪、鶏脂肪、牛又はその他の動物脂肪類、植物油類(例えば、ヒマワリ又はトウモロコシ油など)、魚油、魚粉、又はこれらの混合物のような当業者に既知の多数の供給源から得ることができ(【0019】)、
高タンパク質の食事は、高脂肪又は高炭水化物のいずれよりもグルコース及びインスリン濃度が低く、適量の炭水化物を含み、脂肪のレベルがより低い、タンパク質がより多い食事を与えると、より好ましいインスリン:グルコース比を与え、インスリン耐性の発現をほとんど促進せず(【0020】)、
食事は、1日に1回、2回、若しくは3回という、より日課的な様式で投与される(【0013】)、
方法」
2 対比
(1)本願発明と引用発明との対比
ア 引用発明は、「グルコース代謝異常、インスリン耐性、糖尿病、糖尿病前症、高グリセリド血症、高脂血症、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される症状を治療する」ものであり、これらの症状が糖又は脂質の代謝異常に関連するという技術常識を踏まえれば、「グルコース代謝異常、インスリン耐性、糖尿病、糖尿病前症、高グリセリド血症、高脂血症」を治療する結果、代謝健康が増進することは明らかであるから、引用発明の「動物におけるグルコース代謝異常、インスリン耐性、糖尿病、糖尿病前症、高グリセリド血症、高脂血症、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される症状を治療するための、又は前記動物の寿命を延ばすための方法」は、「動物における代謝健康を増進するための方法」に相当する。
イ 引用発明の「食事処方」は、「より多量のタンパク質と組み合わせて適量の炭水化物及び脂肪を含む」ものであるから、本願発明の「食品組成物」に相当する。したがって、「食事処方を前記動物に投与する」ことは、「食品組成物を前記動物に投与する工程」に相当する。
ウ 引用発明の「全てカロリーパーセント基準」は、カロリー、すなわち、食事のエネルギー量を基準にした割合をいうと理解できるから、本願発明の「総エネルギー基準」に相当する。また、引用発明は、「前記食事処方が、全てカロリーパーセント基準で40%~54%のタンパク質、14%~35%の炭水化物、及び22%~32%の脂肪を含」むものであるから、引用発明のタンパク質は、40%~54%で全て本願発明の数値範囲に包含され、炭水化物は、14%~20%で本願発明の数値範囲と一部一致し、脂肪が30%~32%で本願発明の数値範囲と一部一致する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「食品組成物が、総エネルギー基準で40%~54%のタンパク質と、14%~20%の炭水化物と、30%~32%の脂肪とを含む」点で共通する。
エ 引用発明の「イヌ科動物」は、本願発明の「イヌ科動物」に相当するから、引用発明の「方法」と本願発明の「方法」とは、「前記動物がイヌ科動物である」点で一致する。
(2)一致点・相違点
したがって、本願発明と引用発明とは、以下の一致点を有し、相違点1~2で相違する。
[一致点]
「 動物における代謝健康を増進するための方法であって、
食品組成物を前記動物に投与する工程を含み、
前記食品組成物が、
総エネルギー基準で
40%~54%のタンパク質と、
14%~20%の炭水化物と、
30%~32%の脂肪と、を含み、
前記動物がイヌ科動物である、
方法。」
[相違点1]
本願発明の「食品組成物」が、
「30%~55%のタンパク質と、11%~20%の炭水化物と、30%~40%の脂肪と、を含み」、「3:1~5:1のタンパク質対炭水化物比を有する」のに対し、引用発明の「食事処方」が、「全てカロリーパーセント基準で40%~54%のタンパク質、14%~35%の炭水化物、及び22%~32%の脂肪を含」むとされ、比率が一部相違するとともに、タンパク質対炭水化物比は不明である点。
[相違点2]
本願発明においては、「前記食品組成物を摂取していないときの前記動物の血中遊離脂肪酸値と比較して、より低い血中遊離脂肪酸値をもたらす」のに対し、引用発明においては、血中遊離脂肪酸値がどのようになるか特定されていない点。
3 判断
(1)相違点1について
引用発明の方法は、「より多量のタンパク質と組み合わせて適量の炭水化物及び脂肪を含む食事処方」を動物に投与するものであり、「全てカロリーパーセント基準で40%~54%のタンパク質、14%~35%の炭水化物、及び22%~32%の脂肪を含」むことを開示するものである。
そうすると、引用発明において、示される含有量を参照しつつ、例えば、全てカロリーパーセント基準で54%のタンパク質、14%の炭水化物、32%の脂肪(タンパク質:炭水化物=3.86:1)、又はこの近傍の数値に調整し、上記相違点に係る本願発明のタンパク質、炭水化物、脂肪のパーセンテージとなすこと、及び、3:1~5:1の範囲内のタンパク質対炭水化物比を有するようになすことは、「グルコース代謝異常、インスリン耐性、糖尿病、糖尿病前症、高グリセリド血症、高脂血症、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される症状を治療する」ことを解決するために、具体的なイヌ科動物の種や年齢等に応じて、当業者が適宜調整し得る程度の単なる数値範囲の好適化にすぎない。
(2)相違点2について
引用発明の方法は、「グルコース代謝異常、インスリン耐性、糖尿病、糖尿病前症、高グリセリド血症、高脂血症、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される症状を治療する」ためのものであり、「高タンパク質の食事は、高脂肪又は高炭水化物のいずれよりもグルコース及びインスリン濃度が低く」なり、「適量の炭水化物を含み、脂肪のレベルがより低い、タンパク質がより多い食事」は、「インスリン耐性の発現をほとんど促進」しないものである。
そして、インスリン耐性の発現と血中遊離脂肪酸値の上昇は互いに関係することが技術常識であることに鑑み、引用発明の「食事処方」よりも「高脂肪」の食事を与えたときに比べると、「インスリン耐性の発現をほとんど促進しない」といえるから、それに関連した「血中遊離脂肪酸値」がより低くなることは前記の技術常識に照らすと明らかである。
そうすると、本願発明の「方法」と引用発明の「方法」は、「摂取していないときの前記動物の血中遊離脂肪酸値と比較して、より低い血中遊離脂肪酸値をもたらす」点で一致する。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。
(3)本願発明の奏する効果について
引用発明の方法が「インスリン耐性、糖尿病、糖尿病前症、高グリセリド血症、高脂血症、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される症状を治療する」ためのものであり、「高タンパク質の食事は、高脂肪又は高炭水化物のいずれよりもグルコース及びインスリン濃度が低く」なり、「適量の炭水化物を含み、脂肪のレベルがより低い、タンパク質がより多い食事」は、「インスリン耐性の発現をほとんど促進」しないものであることからみて、本願発明は、当業者の予測し得ない格別顕著な効果を奏するものではない。また、本願発明の数値範囲に臨界的な技術的意義を見出すこともできない。
(4)本願発明のまとめ
上記(1)~(3)のとおりであるから、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
(5)請求人の主張について
ア 請求人の主張
請求人は、令和7年5月16日付け意見書の(3-2)において、概略次のように主張する。なお、以下(ア)~(イ)をそれぞれ「主張(ア)」~「主張(イ)」という。
(ア)実施例で具体的に開示された食事1の構成を考慮すると、引用文献1において好ましいとされる食事処方は、引用文献1の請求項10に記載の食事処方であり、この記載における割合はいずれも本願発明に係る総エネルギー基準でのタンパク質対炭水化物比の範囲「3:1~5:1」から離れている。
(イ)引用文献1には、血中遊離脂肪酸値を低下させるために、食事処方におけるタンパク質対炭水化物比を調節することについて何ら記載も示唆もなく、本願明細書の表5のように、食餌D604と食餌D603は、インスリン濃度においてはほぼ同等であるが、血中遊離脂肪酸値については前者の方が明らかに低い値を示しているから、本願発明による「血中遊離脂肪酸値を低下させる」という効果は、引用文献1に記載の発明から当業者が容易に想到し得たものではない。
イ 上記主張(ア)について
引用文献1において、請求項9の記載は、実施例での具体的な栄養素の割合を包含するものであって、明記される数値範囲の一部又全部をことさらに除外する特段の事由を引用文献1から見いだせるものではないから、請求人の主張(ア)は採用できない。
ウ 上記主張(イ)について
(ア)本願発明の「タンパク質」、「炭水化物」、「脂肪」の含有割合、及び「タンパク質対炭水化物の比」の上限下限は、「本食品組成物は、血中遊離脂肪酸値、総コレステロール値、トリアシルグリセロール値、及び/又はインスリン値を低下させることによって代謝健康を増進する、タンパク質対炭水化物比を利用することで、低カロリー食品組成物、食事療法、又は高価な添加剤若しくは補給剤の使用などの従来の治療計画と比較して健康効果を提供する」(【0029】)との目的に照らして、本願明細書の【0029】~【0034】に記載された数値範囲から選択されたものと理解できるのであって、その数値が境界において臨界的な意味を有すること等の技術的意義が十分に説明されているものではない。
また、本願明細書の【0079】~【0083】において、ラットに対する実験例(以下「本願実験例」という。)として、D601~D604を3週間給餌期間の後、採取した血液サンプルによって、D601及びD602に比べて、D603及びD604の食餌によって、「血中遊離脂肪酸値、総コレステロール値、トリアシルグリセロール値、インスリン値を低下させ、タンパク質:CHO比が5:1の食餌は血糖値も低下させた。これらのデータは、食餌脂肪を制限せずとも、タンパク質:CHO比が2:1~5:1の食餌によりラットにおける代謝健康を促進できることを示した。」(【0083】)というにとどまり、他の数値範囲、特に数値範囲の境界において、どの程度の効果等の差異があるかについてを示すものではない。
そうすると、表5においてD604がD603とインスリン濃度においてはほぼ同等であるにもかかわらず、血中遊離脂肪酸値について低い値を示しているとしても、タンパク質:CHO比が5:1であるD604の実験例のみから、3:1~5:1の範囲の全体に、上記技術常識を覆すような、インスリン濃度によらず血中遊離脂肪酸値を低下させるとの、顕著な効果があるとする根拠は見いだせない。
(イ)また、引用文献1の図1~9からも看取できるように、血液検査の代謝に関する測定値は、例えば、食事後の時間によって値が変動し得るのが技術常識であるところ、本願実験例においては、それぞれのラット個体に対して、食餌後の時間など血液サンプルの採取をどのように行ったかの条件、及び、2連の分析対象など分析をどのように行ったかの条件の詳細は不明であるから、そもそも表5の実験結果が主張(イ)で挙げる効果を裏付けているかも判然としない。
(ウ)以上の(ア)~(イ)を踏まえると、本願発明の「タンパク質」、「炭水化物」、「脂肪」の総エネルギー基準での含有割合及び「タンパク質対炭水化物比」については、「血中遊離脂肪酸値、総コレステロール値、トリアシルグリセロール値、及び/又はインスリン値を低下させることによって代謝健康を増進する、タンパク質対炭水化物比を利用することで、低カロリー食品組成物、食事療法、又は高価な添加剤若しくは補給剤の使用などの従来の治療計画と比較して健康効果を提供する」との目的のために数値範囲を好適化したことをいうにすぎないと理解できる。
(エ)そうすると、上記主張(イ)で挙げる効果を「顕著」なものとして参酌することはできず、上記(2)のとおり、「前記食品組成物を摂取していないときの前記動物の血中遊離脂肪酸値と比較して、より低い血中遊離脂肪酸値をもたらす」ことは、実質的な相違点ではなく、上記(3)のとおり、本願発明は、当業者が予測できない格別顕著な効果を奏するともいえない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-018856