特許拒絶査定不服審判
2023-017769
ガス置換方法
- 審判番号
- 2023-017769
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-229388
- 請求日
- 2023年10月19日
- 審決日
- 2024年12月02日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】三菱造船株式会社
- 【請求人代理人】松沼 泰史
- 【請求人代理人】伊藤 英輔
- 【請求人代理人】橋本 宏之
- 【請求人代理人】古都 智
- 【請求人代理人】鎌田 康一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 津熊 哲朗
- 審判官 西田 秀彦
- 分類
- P18 .121-WZ (B63B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 行政事件訴訟法46条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-229388「ガス置換方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 6月24日出願公開、特開2021- 95092〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)12月19日の特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 5年 3月17日付け:拒絶理由通知書
(令和 5年 3月28日発送)
令和 5年 5月22日 :意見書、手続補正書の提出
令和 5年 8月18日付け:拒絶査定
(令和 5年 8月22日発送)
令和 5年10月19日 :審判請求書の提出
令和 6年 7月26日付け:拒絶理由通知書
(令和 6年 7月30日発送)
令和 6年 9月 4日 :意見書、手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
第2 当審における拒絶の理由
当審において通知した令和6年7月26日付け拒絶理由の概要は、次のとおりである。
理由1(進歩性)本願の令和5年5月22日提出の手続補正書により補正された請求項1ないし6に係る発明は、下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1.特開2001-32998号公報
引用文献2.特開2007-24271号公報
引用文献3.特開平8-310482号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.韓国公開特許第10-2019-0012546号公報(周知技術を示す文献)
第3 本件補正
1 本件補正の内容
(1)令和5年5月22日提出の手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)請求項1ないし6に記載された事項より特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
第一ガスが充填されたタンクに、前記第一ガスよりも比重の大きい不活性ガスを供給し、前記第一ガスの下方に前記不活性ガスによる分離層を形成する工程と、
前記タンクの下部に前記不活性ガスよりも比重の大きい第二ガスを供給し、前記タンクの上部から前記第一ガス及び前記分離層を順次排出する工程と、
を含むガス置換方法。
【請求項2】
前記不活性ガス、及び前記第二ガスを、前記タンク内の下部に開口する下部配管を通し、前記タンクに供給する
請求項1に記載のガス置換方法。
【請求項3】
第二ガスが充填されたタンクに、前記第二ガスよりも比重の小さい不活性ガスを供給し、前記第二ガスの上方に前記不活性ガスによる分離層を形成する工程と、
前記タンクの上部に前記不活性ガスよりも比重の小さい第一ガスを供給し、前記タンクの下部から前記第二ガス及び前記分離層を順次排出する工程と、
を含むガス置換方法。
【請求項4】
前記不活性ガス、及び第一ガスを、前記タンク内の上部に開口する上部供給管を通し、前記タンク内に供給する
請求項3に記載のガス置換方法。
【請求項5】
前記不活性ガスによる分離層を形成する工程では、
前記分離層を形成する前記不活性ガスは、前記タンクの容量よりも少ない量を前記タンクに供給する
請求項1から4の何れか一項に記載のガス置換方法。
【請求項6】
前記タンクは、船舶の船体に設けられたものである
請求項1から5の何れか一項に記載のガス置換方法。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5(以下「本件補正発明1」などという。)は、以下のとおりである。(下線は補正箇所を示し、当審が付した。)
「 【請求項1】
第一ガスが充填されたタンクに、前記第一ガスよりも比重の大きい不活性ガスを供給し、前記第一ガスからなる第一ガス層の下方に、上下方向の厚さが前記第一ガス層よりも薄い前記不活性ガスからなる分離層を形成する工程と、
前記タンクの下部に前記不活性ガスよりも比重の大きい第二ガスを供給し、前記タンク内で前記分離層の下方に前記第二ガスからなる第二ガス層を形成するとともに、前記第一ガス層と前記第二ガス層との間に前記分離層を介在させた状態で、前記タンクの下部への前記第二ガスの供給により前記タンクの上部から前記第一ガス層の前記第一ガスを排出し、前記第一ガスの排出が完了して前記タンク内の上部に前記分離層が存在し前記分離層の下方に前記第二ガス層のみが存在した状態で、前記タンクの下部への前記第二ガスの供給により前記分離層の前記不活性ガスを前記タンクの上部から排出する工程と、
を含むガス置換方法。
【請求項2】
前記不活性ガス、及び前記第二ガスを、前記タンク内の下部に開口する下部配管を通し、前記タンクに供給する
請求項1に記載のガス置換方法。
【請求項3】
第二ガスが充填されたタンクに、前記第二ガスよりも比重の小さい不活性ガスを供給し、前記第二ガスからなる第二ガス層の上方に、上下方向の厚さが前記第二ガス層よりも薄い前記不活性ガスによる分離層を形成する工程と、
前記タンクの上部に前記不活性ガスよりも比重の小さい第一ガスを供給し、前記タンク内で前記分離層の上方に前記第一ガスからなる第一ガス層を形成するとともに、前記第二ガス層と前記第一ガス層との間に前記分離層を介在させた状態で、前記タンクの上部への前記第一ガスの供給により前記タンクの下部から前記第二ガス層の前記第二ガスを排出し、前記第二ガスの排出が完了して前記タンク内の下部に前記分離層が存在し前記分離層の上方に前記第一ガス層のみが存在した状態で、前記タンクの上部への前記第一ガスの供給により前記分離層の前記不活性ガスを前記タンクの下部から排出する工程と、
を含むガス置換方法。
【請求項4】
前記不活性ガス、及び第一ガスを、前記タンク内の上部に開口する上部供給管を通し、前記タンク内に供給する
請求項3に記載のガス置換方法。
【請求項5】
前記タンクは、船舶の船体に設けられたものである
請求項1から4の何れか一項に記載のガス置換方法。」
2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1の「分離層を形成する工程」及び「タンクの上部から第一ガス及び分離層を順次排出する工程」について、出願当初の明細書の【0022】ないし【0025】の記載及び図6,7に基いて補正し、本件補正前の請求項3の「分離層を形成する工程」及び「タンクの下部から第二ガス及び分離層を順次排出する工程」について、出願当初の明細書の【0028】ないし【0031】の記載及び図11,12に基いて補正し、本件補正前の請求項5を削除して、本件補正前の請求項6を本件補正後の請求項5とするものであるから、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしている。
したがって、本件補正は適法になされたものである。
第4 引用文献
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項
本願の出願日前である平成13年2月6日に頒布された刊行物であり、当審の拒絶理由に引用した引用文献1(特開2001-32998号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当審が付した。以下同様。)。
ア 【0001】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ガスホルダーとして用いられる球形タンクや液化天然ガスの貯蔵タンク等の大型タンクの内部を点検する際に、内部の可燃性ガスを空気に置換する大型タンクのガス置換方法及びそれを用いるタンク構造に関する。」
イ 【0003】
「【0003】このような内側からの検査の際には、内部に充満している可燃性ガス(CH4)を空気に置換する必要があるが、可燃性ガスと空気が混合しては危険であるため、まず可燃性ガスを窒素ガスに置換し、次いで窒素ガスを空気に置換する。また、検査終了後には空気を窒素ガスに置換した後、窒素ガスを可燃性ガスに置換する。」
ウ 【0004】~【0006】
「【0004】ここで、可燃性ガス,窒素ガス及び空気にはそれぞれ比重差があるため、これら比重差を利用した置換操作が行われる。
【0005】即ち、各気体の比重は、可燃性ガス(CH4)<窒素(N2)<空気となっており、可燃性ガスを比重の大きな窒素ガスに置換する場合には、図5に球形タンクの例を示すように、タンク10′の上部に設けられた上部予備ノズル13U′を開放して下部に設けられた下部予備ノズル13L′を介して窒素ガスを注入する。これにより、比重の大きな窒素ガス:Nがタンク10′の下部から徐々に溜まって可燃性ガス:CHを押し上げて上部予備ノズル13Uから排出させ、最終的に全量を窒素ガス:N置換するものである。窒素ガスを空気に置換する際も同様である。
【0006】また、空気をより比重の小さな窒素ガスに置換する場合には、下部予備ノズル13Lを開放して上部予備ノズル13Uを介して窒素ガスを注入する。これにより、比重の小さな窒素ガスはタンク10′の上部に溜まって徐々に空気を押し下げて下部予備ノズル13Lから排出させ、最終的に全量を置換する。窒素ガスを可燃性ガスに置換する際も同様である。」
エ 【0009】
「【0009】本発明は、上記解決課題に鑑みてなされたものであって、被置換ガスとの境界層を破壊することなく置換ガスの大流量での注入を可能とし、短時間で効率良くガス置換を行うことのできる大型タンクのガス置換方法及びそれを用いるタンク構造を提供することを目的とする。」
オ 【0014】
「【0014】図示タンク10は、ガスホルダーとして用いられる球形タンクであって、最下部にガス導管11が接続され、頂部にはマンホール12が設けられている。また、頂部近傍にバルブを備えた上部予備ノズル13Uが、最下部近傍にバルブを備えた下部予備ノズル13Lがそれぞれ配設されている。これら上部予備ノズル13U及び下部予備ノズル13Lが本構成例における開口部を構成している。」
カ 【0015】
「【0015】タンク10の内部には、その上部及び下部に、それぞれノズルリング20(上部ノズル部材としての上部ノズルリング20U,下部ノズル部材としての下部ノズルリング20L)がステー15によってタンク10の内面に内接するように水平に配設されている。」
キ 【0018】
「【0018】下部ノズルリング20Lは、上タンク10の下半球の内部に、ノズル孔22を上側に向けて、タンク10の内面に内接するように水平に設けられている。」
ク 【0021】
「【0021】即ち、図4に示すように、タンク10内に充満する被置換ガス:Aを、より比重の大きな置換ガス:Bで置換する場合には、タンク10の上部に設けられた上部予備ノズル13Uを開放して下部ノズルリング20Lに供給管23Uを介して置換ガス:Bを供給する。これにより、置換ガス;Bが下部ノズルリング20Lのノズル孔22Lからタンク10内に注入され、その比重差によってタンク10の下部から順次溜まって被置換ガス:Aを押し上げて上部予備ノズル13Uから排出させ、最終的に全量を置換ガス:Bに置換することができる。」
ケ
「【図4】
[図:0001418897000001.jpg]
」
コ 上記クを踏まえ、図4より、被置換ガス:Aと置換ガス:Bの比重差によって、被置換ガス:Aの層の下方に置換ガス:Bによる層が形成されることが見てとれる。
(3)引用発明について
引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
<引用発明1>
「ガスホルダーとして用いられる球形タンクや液化天然ガスの貯蔵タンク等の大型タンクの内部を点検する際に、内部の可燃性ガスを空気に置換する大型タンクのガス置換方法であって(【0001】)、
内側からの検査の際には、内部に充満している可燃性ガス(CH4)を空気に置換する必要があるが、可燃性ガスと空気が混合しては危険であるため、まず可燃性ガスを窒素ガスに置換し、次いで窒素ガスを空気に置換し、検査終了後には空気を窒素ガスに置換した後、窒素ガスを可燃性ガスに置換し(【0003】)、
可燃性ガス,窒素ガス及び空気にはそれぞれ比重差があるため、これら比重差を利用した置換操作が行われ(【0004】)、
各気体の比重は、可燃性ガス(CH4)<窒素(N2)<空気となっており(【0005】)、
タンク10の内部には、その上部及び下部に、それぞれノズルリング20(上部ノズル部材としての上部ノズルリング20U,下部ノズル部材としての下部ノズルリング20L)が配設され(【0015】)、
下部ノズルリング20Lは、上タンク10の下半球の内部に、ノズル孔22を上側に向けて設けられ(【0018】)、
頂部近傍にバルブを備えた上部予備ノズル13Uが配設され(【0014】)、
タンク10内に充満する被置換ガス:Aを、より比重の大きな置換ガス:Bで置換する場合には、タンク10の上部に設けられた上部予備ノズル13Uを開放して下部ノズルリング20Lに供給管23Uを介して置換ガス:Bを供給し、置換ガス;Bが下部ノズルリング20Lのノズル孔22Lからタンク10内に注入され(【0021】)、
被置換ガス:Aと置換ガス:Bの比重差によって、被置換ガス:Aの層の下方に置換ガス:Bによる層が形成され(上記コ)、
タンク10の下部から順次溜まって被置換ガス:Aを押し上げて上部予備ノズル13Uから排出させ、最終的に全量を置換ガス:Bに置換する(【0021】)、
被置換ガスとの境界層を破壊することなく、短時間でガス置換を行うガス置換方法(【0009】)。」
2 引用文献2について
(1)引用文献2の記載事項
本願の出願日前である平成19年2月1日に頒布された刊行物である引用文献2(特開2007-24271号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 【0008】
「【0008】
本発明の目的は、安全に短時間で、またガス置換するために必要なガス量が少ない配管内の可燃性ガスを空気に置換する配管内のガス置換方法、及びガス置換装置を提供することにある。」
イ 【0020】
「【発明の効果】
【0020】
本発明の配管内のガス置換方法は、配管内に局所的に不活性ガス濃度の高い不活性ガス領域を形成し、その後、配管内に残留する可燃性ガスに直接接触しないように、配管内に空気を供給し、供給する空気で不活性ガスを押出し、配管内の可燃性ガス及び不活性ガスを空気に置換する。従来のガス置換方法では、配管内全体を不活性ガスに置換した後、空気を供給し配管内を空気に置換していたけれども、本発明のガス置換方法は、配管内に局所的に不活性ガス濃度の高い領域を形成した後、この不活性ガスを空気で押出すことでガス置換を行うので、従来のように配管全体を不活性ガスに置換する必要がない。このため不活性ガスに置換する時間が短縮されるとともに、ガス置換に必要な不活性ガスの量も従来法に比較して少なくすることができる。」
(2)引用文献2記載技術について
引用文献2には、次の技術的事項(以下「引用文献2記載技術」という。)が記載されている。
<引用文献2記載技術>
「安全に短時間で、またガス置換するために必要なガス量が少ない配管内の可燃性ガスを空気に置換する配管内のガス置換方法において(【0008】)、
従来のガス置換方法では、配管内全体を不活性ガスに置換した後、空気を供給し配管内を空気に置換していたのに対し(【0020】)、
配管内に局所的に不活性ガス濃度の高い不活性ガス領域を形成し、その後、配管内に残留する可燃性ガスに直接接触しないように、配管内に空気を供給し、供給する空気で不活性ガスを押出し、配管内の可燃性ガス及び不活性ガスを空気に置換することで(【0020】)、
従来のように配管全体を不活性ガスに置換する必要がなく、不活性ガスに置換する時間が短縮されるとともに、ガス置換に必要な不活性ガスの量も従来法に比較して少なくすること(【0020】)。」
第5 対比・判断
1 対比
本件補正発明1と引用発明1を対比する。
ア 引用発明1において、「可燃性ガス,窒素ガス及び空気にはそれぞれ比重差があり、各気体の比重は、可燃性ガス(CH4)<窒素(N2)<空気となって」おり、「窒素」が不活性ガスであることは自明であるから、引用発明1の「可燃性ガス」、「窒素ガス」及び「空気」は、それぞれ本件補正発明1の「第一ガス」、「第一ガスよりも比重が大きい不活性ガス」及び「不活性ガスよりも比重が大きい第二ガス」に相当する。
イ 引用発明1において、「可燃性ガスを窒素ガスに置換」する際、「タンク10内に充満する被置換ガス:Aを、より比重の大きな置換ガス:Bで置換する場合」における「タンク10内に充満する被置換ガス:A」は「可燃性ガス」であり、「より比重の大きな置換ガス:B」は「窒素ガス」であるから、引用発明1において、「被置換ガス:A」が「充満」する「タンク10」に、「下部ノズルリング20Lに供給管23Uを介して置換ガス:Bを供給し、置換ガス;Bが下部ノズルリング20Lのノズル孔22Lからタンク10内に注入され」ることは、本件補正発明1において、「第一ガスが充填されたタンクに、前記第一ガスよりも比重の大きい不活性ガスを供給」することに相当する。
ウ 上記イを踏まえると、引用発明1において、「可燃性ガスを窒素ガスに置換」する際、「被置換ガス:Aと置換ガス:Bの比重差によって、被置換ガス:Aの層の下方に置換ガス:Bによる層が形成され」ることは、本件補正発明1と、「前記第一ガスからなる第一ガス層の下方に」、「前記不活性ガスからなる分離層を形成する」点で一致する。
エ 引用発明1において、「窒素ガスを空気に置換」する際、「タンク10内に充満する被置換ガス:Aを、より比重の大きな置換ガス:Bで置換する場合」における「タンク10内に充満する被置換ガス:A」は「窒素ガス」であり、「より比重の大きな置換ガス:B」は「空気」であるから、引用発明1において、「被置換ガス:A」が「充満」する「タンク10」に、「下部ノズルリング20Lに供給管23Uを介して置換ガス:Bを供給し、置換ガス;Bが下部ノズルリング20Lのノズル孔22Lからタンク10内に注入され」ることは、本件補正発明1において、「前記タンクの下部に、前記不活性ガスよりも比重の大きい第二ガスを供給」することに相当する。
オ 上記エを踏まえると、引用発明1において、「窒素ガスを空気に置換」する際、「被置換ガス:Aと置換ガス:Bの比重差によって、被置換ガス:Aの層の下方に置換ガス:Bによる層が形成され」ることは、本件補正発明1と、「前記タンク内で前記分離層の下方に前記第二ガスからなる第二ガス層を形成する」点で一致する。
カ 引用発明1において、「窒素ガスを空気に置換」する際、「タンク10の下部から順次溜まって被置換ガス:Aを押し上げて上部予備ノズル13Uから排出させ」ることは、本件補正発明1と、「前記タンク内の上部に前記分離層が存在し前記分離層の下方に前記第二ガス層のみが存在した状態で、前記タンクの下部への前記第二ガスの供給により前記分離層の前記不活性ガスを前記タンクの上部から排出する」点で一致する。
キ 引用発明1の「ガス置換方法」は、本件補正発明1の「ガス置換方法」に相当する。
ク よって、本件補正発明1と引用発明1は、次の一致点1で一致し、相違点1で相違する。
<一致点1>
第一ガスが充填されたタンクに、前記第一ガスよりも比重の大きい不活性ガスを供給し、前記第一ガスからなる第一ガス層の下方に、前記不活性ガスからなる分離層を形成する工程と、
前記タンクの下部に前記不活性ガスよりも比重の大きい第二ガスを供給し、前記タンク内で前記分離層の下方に前記第二ガスからなる第二ガス層を形成し、前記タンク内の上部に前記分離層が存在し前記分離層の下方に前記第二ガス層のみが存在した状態で、前記タンクの下部への前記第二ガスの供給により前記タンクの上部から前記分離層を排出する工程と、
を含むガス置換方法。
<相違点1>
本件補正発明1では、「分離層」の「上下方向の厚さが前記第一ガス層よりも薄」く、「前記第一ガス層と前記第二ガス層との間に前記分離層を介在させた状態で、前記タンクの下部への前記第二ガスの供給により前記タンクの上部から前記第一ガス層の前記第一ガスを排出し、前記第一ガスの排出が完了して前記タンク内の上部に前記分離層が存在し前記分離層の下方に前記第二ガス層のみが存在した状態で、前記タンクの下部への前記第二ガスの供給により前記分離層の前記不活性ガスを前記タンクの上部から排出」しているのに対し、引用発明1では、被置換ガス:Aの全量を置換ガス:Bに置換しているため、窒素ガスを注入し、可燃性ガスを押し上げて上部予備ノズル13Uから排出させ、タンク10内の可燃性ガスの全量を窒素ガスに置換し、窒素ガスが充満するタンク10内に空気を注入し、窒素ガスを押し上げて上部予備ノズル13Uから排出させている。
すなわち、引用発明1は、「分離層」の「上下方向の厚さ」が異なることに伴い、「分離層を形成する工程」の後の工程において「第二ガスの供給」による「タンク」内における「第一ガス層」、「第二ガス層」及び「分離層」を有する層構造や「第二ガスの供給」により「第一ガス」及び「不活性ガス」を排出するものではない点。
2 判断
相違点1について検討する。
引用文献2記載技術の「配管内に局所的に不活性ガス濃度の高い不活性ガス領域を形成」することは、本件補正発明1と、「前記第一ガスからなる第一ガス層の」ガス排出方向上流側に、「厚さが前記第一ガス層よりも薄い前記不活性ガスからなる分離層を形成する」点で共通する。
引用文献2記載技術の「配管内に残留する可燃性ガスに直接接触しないように、配管内に空気を供給し、供給する空気で不活性ガスを押出し、配管内の可燃性ガス及び不活性ガスを空気に置換する」ことは、本件補正発明1と、ガス排出方向上流側に「第二ガスを供給し」、「第一ガス層と第二ガス層との間に分離層を介在させた状態で」、「第二ガスの供給により」「第一ガスを排出し、第一ガスの排出が完了して」ガス排出方向上流側に「分離層が存在し分離層の」ガス排出方向下流側に「第二ガス層のみが存在した状態で」、「第二ガスの供給により前記分離層の前記不活性ガスを」「排出する」点で共通している。
ここで、引用発明1と引用文献2記載技術は、いずれも可燃性ガスと空気とが接触しないように可燃性ガスを空気に置換するガス置換方法に関するものであり、属する技術分野が共通している。
また、引用発明1と引用文献2記載技術は、いずれも短時間でガス置換を行うという共通の課題を有するものである。
したがって、引用発明1において、短時間でガス置換を行うために、可燃性ガスの全量を窒素ガスに置換し、次いで窒素ガスの全量を空気に置換する構成に代えて、より効率良くガス置換を行うことができる引用文献2記載技術を適用して、タンク10内に局所的に窒素ガスを形成し、その後、タンク10内に残留する可燃性ガスに直接接触しないように、タンク10内に空気を供給し、可燃性ガスの層と空気の層との間に窒素ガスの層を介在させた状態で、供給する空気で窒素を押出し、タンク10内の可燃性ガス及び窒素ガスを順番に排出する構成とし、本件補正発明1の構成とすることは当業者が容易に相当し得るものである。
また、その効果についても、引用発明1及び引用文献2記載技術から、当業者が予測し得た程度のものにすぎない。
3 請求人の主張について
(1)請求人は、審判請求書にて以下の点を主張している。
主張A:「さらに、本願請求項1に係る発明と引用文献2に記載の発明とは、第二ガスを供給し、第一ガス及び分離層を順次排出する点で一致しています。しかし、引用文献2では、配管内に、第一ガス、分離層、第二ガスが、配管の長手方向で順次存在しているだけです。このような配管内では、タンク内とは状況が異なり、第一ガスと分離層との各比重の大小に関わらず、第二ガスを供給することで、第二ガスと第一ガスとが混ざることなく第一ガス及び分離層を押し出すことができます。また、引用文献2では、第一ガス、分離層、第二ガスの上下方向における位置関係も記載されていません。なお、引用文献2には、本願請求項3に係る発明のように、第一ガスを供給して第二ガス及び分離層を順次排出することは開示されていません。
そして、上述した引用文献1のタンク内のガス置換方法に対して、引用文献2のような配管内のガス置換方法を適用したとしても、タンク内で第一ガスと不活性ガスとが混ざり、第一ガスと第二ガスとが接触してしまいますので、引用文献1のタンク内のガス置換方法に対して引用文献2のような配管内のガス置換方法を適用する動機付けはありません。」
主張B:「本願請求項1,3に係る発明は、上記「前記タンクの下部に前記不活性ガスよりも比重の大きい第二ガスを供給し、前記タンクの上部から前記第一ガス及び前記分離層を順次排出する工程」、「前記タンクの上部に前記不活性ガスよりも比重の小さい第一ガスを供給し、前記タンクの下部から前記第二ガス及び前記分離層を順次排出する工程」を採用することにより、比重差を利用して分離層を形成することができるため、断面積が大きなタンクでも、第一ガスと第二ガスとを上下方向に分離する分離層を有効に形成し、作業に要する手間と時間を抑えることができるという格別顕著な作用効果を奏します。」
(2)請求人は、令和6年9月4日提出の意見書にて以下の点を主張している。
主張C:「しかしながら、本願発明のように、同一のタンクの中に分離層を介在させた状態で第一ガス層と第二ガス層とを存在させるという技術思想は、引用文献1から4の何れにも開示がありません。
また、本願請求項1に係る発明のように、第一ガス層の下方に、上下方向の厚さが第一ガス層よりも薄い分離層を形成することは、引用文献1から4に記載も示唆もされていません。
つまり、引用文献1から4を単に組み合わせたとしても、本願請求項1に係る発明の、第一ガスが充填されたタンクに、第一ガスよりも比重の大きい不活性ガスを供給し、第一ガスからなる第一ガス層の下方に、上下方向の厚さが前記第一ガス層よりも薄い前記不活性ガスからなる分離層を形成する工程と、タンクの下部に不活性ガスよりも比重の大きい第二ガスを供給し、タンク内で分離層の下方に第二ガスからなる第二ガス層を形成するとともに、第一ガス層と第二ガス層との間に分離層を介在させた状態で、タンクの下部への第二ガスの供給によりタンクの上部から第一ガス層の第一ガスを排出し、第一ガスの排出が完了してタンク内の上部に分離層が存在し分離層の下方に第二ガス層のみが存在した状態で、タンクの下部への第二ガスの供給により分離層の不活性ガスをタンクの上部から排出する工程と、を含むものには到底なり得ません。」
(3)主張に対する当審の判断
引用発明1において、「置換ガス;Bが下部ノズルリング20Lのノズル孔22Lからタンク10内に注入され、被置換ガス:Aと置換ガス:Bの比重差によって、被置換ガス:Aの下方に置換ガス:Bによる層が形成され、タンク10の下部から順次溜まって被置換ガス:Aを押し上げて」おり、また、引用発明1は、被置換ガスとの境界層を破壊することなく、ガス置換を行うことを目的としていることから、タンク10内で置換ガスと被置換ガスが混ざることがないことは自明である。
また、可燃性ガス、窒素ガス、空気の上下方向における位置関係は、引用文献1に開示されている。
そして、上記2に示したとおり、引用発明1と引用文献2記載技術は、いずれも短時間でガス置換を行うという共通の課題を有するから、引用発明1に対して、より効率良くガス置換を行うことができる引用文献2記載技術を適用して、可燃性ガスの全量を窒素ガスに置換し、次いで窒素ガスの全量を空気に置換する構成に代えて、タンク10内に局所的に窒素ガスを形成し、その後、タンク10内に残留する可燃性ガスに直接接触しないように、可燃性ガスの層と空気の層との間に窒素ガスの層を介在させた状態で、供給する空気で窒素を押出し、タンク10内の可燃性ガス及び窒素ガスを順番に排出する構成とし、本件補正発明1の構成とすることは当業者が容易に相当し得るものである。
そして、上記適用により、短時間でガス置換を行うことができるという効果を当然奏するため、本件補正発明1の効果は、引用発明1及び引用文献2記載技術から、当業者が予測し得た程度のものにすぎない。
第6 むすび
以上検討のとおりであるから、本件補正発明1は、引用発明1及び引用文献2記載技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
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2023-017769