特許拒絶査定不服審判
2023-016040
リチウム硫黄(Li-S)電池の電気化学的充放電のための方法及びその方法を使用するデバイス
- 審判番号
- 2023-016040
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-069622
- 請求日
- 2023年09月22日
- 審決日
- 2024年05月21日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ハイドロ-ケベック
- 【請求人代理人】山本 秀策
- 【請求人代理人】森下 夏樹
- 【請求人代理人】飯田 貴敏
- 【請求人代理人】石川 大輔
- 【請求人代理人】山本 健策
- 審判長/審判官
- 審判長 土居 仁士
- 審判官 馬場 慎
- 審判官 丸山 高政
- 分類
- P18 .121-Z (H02J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021- 69622「リチウム硫黄(Li-S)電池の電気化学的充放電のための方法及びその方法を使用するデバイス」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 7月26日出願公開、特開2021-106497〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)4月14日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2014年4月15日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2016-561306号の一部を平成31年3月27日に新たな特許出願とした特願2019-61066号の一部を令和3年4月16日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。
令和 3年 4月16日 上申書
令和 4年 1月13日付け 拒絶理由通知書
令和 4年 6月17日 意見書、手続補正書
令和 4年10月17日付け 拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
令和 5年 1月19日 意見書、手続補正書
令和 5年 5月18日付け 補正の却下の決定、拒絶査定
令和 5年 9月22日 審判請求書、手続補正書
以下では、令和5年5月18日付け拒絶査定を「原査定」といい、同年9月22日の手続補正書による補正を「本件補正」という。
第2 本願発明
本願の請求項1~17に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項7は本件補正により補正されておらず、請求項7に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。なお、後の参照の便宜のため、本願発明を以下のA~Cに分説し、「発明特定事項A」のようにして参照する。
「A Li-S電池またはセルを充電および/または放電するためのデバイスであって、
B 前記デバイスは、
パルス電流、またはパルス電流と定電流との組み合わせ
を提供することによって、前記Li-S電池またはセルにおける活性物質の形態を制御するように構成され、
C ここで、限られた期間に電流を印加し、それに続く限られた期間に前記電流を反転することまたは限られた中断期間により、前記パルス電流が取得される、デバイス。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項7に係る発明(本願発明と同じ)は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1.特開2010-40198号公報
引用文献2.特開2013-219017号公報
引用文献3.特開2004-172126号公報
第4 引用文献
1 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-40198号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質がリチウムイオン伝導性固体電解質からなる二次電池に対して充電や放電を行う二次電池充放電装置、この二次電池充放電装置を備えた電気機器、それら充電や放電の手順を示す二次電池充放電方法、及び、この二次電池充放電方法を実現するための二次電池充放電プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられる高性能リチウム電池等の二次電池の需要が増加している。
使用される用途が広がるのに伴い、二次電池の更なる安全性の向上及び高性能化が要求されている。
【0003】
リチウム二次電池は、ニッケル-カドミウム二次電池等と比較して、作動電圧が高く、軽量であることから、高エネルギー密度の二次電池として注目されている。
このリチウム二次電池の負極活物質としては、リチウムを安定的かつ可逆的に脱・挿入することができるグラファイトなどの炭素質材料が主に使用されている。
しかし、炭素質材料を用いたリチウム二次電池のエネルギー密度は、負極活物質としてリチウム金属そのものを使用した二次電池のエネルギー密度よりも小さいという欠点がある。
【0004】
これに対し、リチウム金属を負極活物質として使用した場合には、充電に伴い負極近傍の電解液中でのリチウムイオン濃度が急激に低下し、そのために負極にリチウムの樹状析出物(デンドライト)が形成されることがある。
このようなデンドライトが形成されると、リチウムの溶解・析出反応が阻害され、サイクル特性が大きく劣化したり、電池内の短絡の発生の危険性が増大したりする。
【0005】
そこで、デンドライトの形成を抑制するための技術が提案されている。
すなわち、負極活物質として金属リチウムを用い、正極活物質として二酸化マンガンを用い、非水電解液として過塩素酸リチウムをプロピレンカーボネートに溶解した液を用い、この電池に対してパルス充電を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
このような提案技術によれば、パルスの休止時間の間に負極近傍のリチウムイオン濃度を回復させることができる。このため、リチウムイオンの濃度の電極近傍での急激な増加を抑制でき、デンドライトの形成を抑えることができる。
【特許文献1】特開平5-152002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リチウム二次電池は、充電電流と充電電圧をともに管理する必要があることから、本来は、定電流定電圧充電方式を採用することが望ましい。
また、上述したパルス充電は、高周波側ではデンドライトの抑制効果が低く、低周波側では逆にサイクル寿命に影響を与えることから、パルス充電を常時使用することには、問題があった。
【0007】
さらに、内部短絡によりセル電圧が異常値に達した場合、従前の技術では、そのセルを電気的に切り離し、充電しないようにしていた。
ところが、そのセル自体は、二次電池としての機能を維持している場合があるため、そのセルの機能を活かして、モジュールの充電量を確保することが望まれていた。
【0008】
また、ユニットやモジュールの充放電の場合、セルの充電容量、充電電圧、放電容量、放電電圧等が設定値に達したら、これらの充電、又は放電を終了させる方法が取られていた。例えば充電の場合、一部のセルは満充電であるが、他のセルは十分に充電されていないことがあった。このことから、ユニットやモジュールの電池性能を維持するため、セル個々の性能ばらつきを低減する方法がとられている。例えば、各セルの電極活物質重量と、電極の厚さの精度を均一にする方法がとられていた。
ところが、それら方法を講じてもセル個々の性能ばらつきを完全に無くすことはできず、ユニットやモジュールの電池性能を維持するための新たな技術の提案が求められていた。
【0009】
本発明は、上記の事情にかんがみなされたものであり、リチウム二次電池のサイクル寿命への影響を抑えた充電を行うとともに、内部短絡が生じた場合でも、モジュールの充電量を確保して、ユニットやモジュールの電池性能の維持を可能とする二次電池充放電装置、電気機器、二次電池充放電方法及び二次電池充放電プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため、本発明の二次電池充放電装置は、リチウムイオン伝導性固体電解質を有する一又は二以上の二次電池と、これら二次電池の充電及び/又は放電を制御する制御手段とを備えた二次電池充放電装置であって、制御手段は、充電時の電圧及び/又は電流に異常が検出された二次電池に対し、パルス波及び/又は低電圧の充電電圧で充電を行う構成としてある。
【0011】
また、本発明の電気機器は、リチウムイオン伝導性固体電解質を有する一又は二以上の二次電池と、これら二次電池の充電及び/又は放電を制御する二次電池充放電装置と、二次電池から電力の供給を受ける負荷とを備えた電気機器であって、二次電池充放電装置が、特許請求の範囲の請求項1~請求項3のいずれかに記載の二次電池充放電装置からなる構成としてある。
【0012】
また、本発明の二次電池充放電制御方法は、リチウムイオン伝導性固体電解質を有する一又は二以上の二次電池の充電及び/又は放電を制御する二次電池充放電制御方法であって、二次電池に対して充電を行い、二次電池で発生した異常を検出し、電圧及び/又は電流の異常が検出された二次電池に対し、パルス波及び/又は低電圧の充電電圧で充電を行う方法としてある。
【0013】
また、本発明の二次電池充放電制御プログラムは、リチウムイオン伝導性固体電解質を有する一又は二以上の二次電池の充電及び/又は放電を制御する処理をコンピュータに実行させるための二次電池充放電制御プログラムであって、二次電池に対して充電を行う処理と、二次電池で発生した異常を検出する処理と、電圧及び/又は電流の異常が検出された二次電池に対し、パルス波及び/又は低電圧の充電電圧で充電を行う処理とをコンピュータに実行させる構成としてある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二次電池充放電装置、電気機器、二次電池充放電方法及び二次電池充放電プログラムによれば、通常の充電時は、定電流定電圧充電方式を採用し、内部短絡等にもとづく電圧等の異常が検出されたときには、その二次電池(セル)に対しては、パルス波電圧又は低電圧の充電電圧で充電を行うことができる。これにより、パルス波電圧による充電が異常発生時にのみ行われるため、リチウム二次電池のサイクル寿命への影響を抑えることができる。
【0015】
また、内部短絡により電圧異常が発生した場合でも、その内部短絡が生じた二次電池については、パルス波電圧又は低電圧の充電電圧で充電を行うこととしたので、モジュールの充電量を確保できる。
さらに、各セルに性能ばらつきがある場合でも、異常が検出されたセルへの充電を可能にして、ユニットやモジュールの電池性能を維持することができる。」
「【0046】
(充電処理(内部短絡・パルス充電))
次に、リチウムイオン二次電池の充電時における内部短絡時の他の処理手順について、図10を参照して説明する。
同図は、充電時における内部短絡時の他の処理手順を示すフローチャートである。
同図に示すように、充電の開始にあたっては、モジュール全体の充電(ステップ60)によって、各セルに対し、定電流で充電を行い、単セルの充電電圧が上限に達すると、今度は、充電電圧を一定にし、充電電流を低下させる(ステップ61)。
この定電流定電圧充電において、単セルでの内部短絡による電圧異常の発生を検出すると(ステップ62)、この単セルに対して単セルパルス充電処理を行う(ステップ63)。他の単セルに対しては、バイパス回路を介して充電を行う。
【0047】
その後、単セルの充電が所定の閾値(充電量の100%あるいは150%など)に達すると、この単セルの充電を終了する(単セル満充電、ステップ64)。
一つのユニットを構成する複数のセルの充電がすべて完了することにより、そのユニットの充電が完了する(単ユニット満充電、ステップ65)。そして、各ユニットの充電がすべて完了することにより、モジュールの充電が完了する(モジュール満充電、ステップ66)。
【0048】
なお、パルス充電に用いるパルス波としては、図11(i)~(iii)に示すものがある。
すなわち、同図(i)に示すように、所定間隔でパルス波を与えるものがある。
また、同図(ii)に示すように、パルス波の一部を0Aよりも小さい値を与えるものがある。この場合、0Aより大きい値では充電となり、0Aより小さい値では、放電となる。
さらに、同図(iii)に示すように、最小値が0Aよりも大きい値のパルス波を与えるものがある。」
「【図11】
[図:0001416131000001.jpg]
」
2 引用発明
したがって、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。なお、後の参照の便宜のため、引用発明を以下のa~dに分説し、「構成a」のようにして参照する。
「a リチウム二次電池のサイクル寿命への影響を抑えた充電を行うとともに、内部短絡が生じた場合でも、モジュールの充電量を確保して、ユニットやモジュールの電池性能の維持を可能とする二次電池充放電装置であって(【0009】)、
b リチウム金属を負極活物質として使用した場合には、充電に伴い負極近傍の電解液中でのリチウムイオン濃度が急激に低下し、そのために負極にリチウムの樹状析出物(デンドライト)が形成されることがあり(【0004】)、電池に対してパルス充電を行うことで、パルスの休止時間の間に負極近傍のリチウムイオン濃度を回復させることができ、リチウムイオンの濃度の電極近傍での急激な増加を抑制でき、デンドライトの形成を抑えることができ(【0005】)、
c 二次電池の充電及び/又は放電を制御する制御手段を備え、制御手段は、充電時の電圧及び/又は電流に異常が検出された二次電池に対し、パルス波の充電電圧で充電を行う構成としてあり(【0010】)、内部短絡等にもとづく電圧等の異常が検出されたときには、その二次電池(セル)に対しては、パルス波電圧の充電電圧で充電を行うことができ、これにより、リチウム二次電池のサイクル寿命への影響を抑えることができ(【0014】)、モジュールの充電量を確保でき(【0015】)、
d パルス充電に用いるパルス波としては、所定間隔でパルス波を与えるもの、または、パルス波の一部を0Aよりも小さい値を与えるものである(【0048】、図11)、二次電池充放電装置。」
第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 発明特定事項Aについて
(1)引用発明の「二次電池充放電装置」(構成a)は、「二次電池の充電及び/又は放電を制御する制御手段を備え」(構成c)、「二次電池(セル)に対して」「充電を行うことができ」る(構成c)から、本願発明の「電池またはセルを充電および/または放電するためのデバイス」に相当する。
(2)技術常識によれば、引用発明の「リチウム二次電池」も本願発明の「Li-S電池」も、正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池である。このことは、引用文献1のリチウムイオン二次電池に関する記載(【0010】等の「リチウムイオン伝導性固体電解質」を有する旨の記載、【0004】、【0005】の「リチウム金属を負極活物質として使用した場合」に関する記載、【0046】等の「リチウムイオン二次電池」の充電方法や放電方法に関する記載)、及び、本願明細書のLi-S電池に関する記載(【0003】の化学反応の記載、【0004】の固体生成物の「リチウムイオン導電率」に関する記載)とも整合する。よって、本願発明の「Li-S電池」と引用発明の「リチウム二次電池」とは、正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池である点で共通する。
(3)上記(1)及び(2)によれば、本願発明と引用発明とは、正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池またはセルを充電および/または放電するためのデバイスである点で共通する。
ただし、正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池に関して、本願発明は「Li-S電池」であるのに対して、引用発明は「リチウム二次電池」である点で相違する。
2 発明特定事項Bについて
(1)発明特定事項Bは、文言上、以下の発明特定事項B1、B2が択一的に選択されると解釈し得ることは明らかである。
「B1 前記デバイスは、
パルス電流
を提供することによって、前記Li-S電池またはセルにおける活性物質の形態を制御するように構成され、」
または
「B2 前記デバイスは、
パルス電流と定電流との組み合わせ
を提供することによって、前記Li-S電池またはセルにおける活性物質の形態を制御するように構成され、」
(2)上記発明特定事項B1について、引用発明と対比する。
ア 引用発明の「パルス波電圧」で充電を行うこと(構成c)により、充電電流の波形が引用文献1の図11に示されるようなパルス電流(構成d)になることは明白であるから、引用発明の「パルス波電圧」で充電を行うことは、本願発明の「パルス電流を提供すること」に相当する。
イ 引用発明の「リチウム金属を負極活物質として使用した場合には、充電に伴い負極近傍の電解液中でのリチウムイオン濃度が急激に低下し、そのために負極にリチウムの樹状析出物(デンドライト)が形成されることがあり、電池に対してパルス充電を行うことで、パルスの休止時間の間に負極近傍のリチウムイオン濃度を回復させることができ、リチウムイオンの濃度の電極近傍での急激な増加を抑制でき、デンドライトの形成を抑えることができ」ること(構成b)は、パルス充電を行うことで、負極でのリチウムのデンドライトの形成を抑えており、活性物質(負極活物質であるリチウム)の形態(デンドライトの形成状態)を制御(抑制)しているといえるので、上記アを踏まえると、本願発明の「パルス電流を提供することによって、」「電池またはセルにおける活性物質の形態を制御するように構成され」ることに相当する。
ウ 上記ア及びイ並びに上記1(2)によれば、本願発明と引用発明とは、前記デバイスは、パルス電流を提供することによって、前記正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池またはセルにおける活性物質の形態を制御するように構成される点で共通する。
(3)上記(1)及び(2)によれば、本願発明と引用発明とは、前記デバイスは、パルス電流、またはパルス電流と定電流との組み合わせを提供することによって、前記正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池またはセルにおける活性物質の形態を制御するように構成される点で共通する。
3 発明特定事項Cについて
(1)発明特定事項Cは、文言上、以下の発明特定事項C1、C2が択一的に選択されると解釈し得ることは明らかである。
「C1 ここで、限られた期間に電流を印加し、それに続く限られた期間に前記電流を反転することにより、前記パルス電流が取得される、デバイス。」
または
「C2 ここで、限られた期間に電流を印加し、それに続く限られた中断期間により、前記パルス電流が取得される、デバイス。」
(2)上記発明特定事項C1について、引用発明と対比する。
上記2(2)アを踏まえると、引用発明の「パルス充電に用いるパルス波」が「パルス波の一部を0Aよりも小さい値を与えるもの」であること(構成d)は、引用文献1の図11(ii)に示されるものであり、本願発明の「限られた期間に電流を印加し、それに続く限られた期間に前記電流を反転することにより、前記パルス電流が取得される」ことに相当する。
(3)上記発明特定事項C2について、引用発明と対比する。
上記2(2)アを踏まえると、引用発明の「パルス充電に用いるパルス波」が「所定間隔でパルス波を与えるもの」であること(構成d)は、引用文献1の図11(i)に示されるものであり、本願発明の「限られた期間に電流を印加し、それに続く限られた中断期間により、前記パルス電流が取得される」ことに相当する。
(4)上記(1)~(3)によれば、本願発明と引用発明とは、「ここで、限られた期間に電流を印加し、それに続く限られた期間に前記電流を反転することまたは限られた中断期間により、前記パルス電流が取得される、デバイス。」である点で一致する。
4 上記1~3によれば、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「 正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池またはセルを充電および/または放電するためのデバイスであって、
前記デバイスは、
パルス電流、またはパルス電流と定電流との組み合わせ
を提供することによって、前記二次電池またはセルにおける活性物質の形態を制御するように構成され、
ここで、限られた期間に電流を印加し、それに続く限られた期間に前記電流を反転することまたは限られた中断期間により、前記パルス電流が取得される、デバイス。」
<相違点>
正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池(またはセル)に関して、本願発明は「Li-S電池」であるのに対して、引用発明は「リチウム二次電池」である点。
第6 当審の判断
1 相違点についての判断
引用発明の「リチウム二次電池」が、正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行うものであることは、技術常識である。そして、正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池として、リチウム硫黄電池(Li-S電池)は、例示するまでもなく周知であり、リチウム硫黄電池の負極において、リチウム金属の析出によるデンドライト形成による短絡を防ぐことは周知の課題である(必要であれば、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2の【0029】等、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3の【0023】等を参照。)。
そうすると、引用発明の二次電池充放電装置でパルス充電を行うリチウム二次電池と、周知のリチウム硫黄電池とは、負極にリチウム系材料を用いることが共通しており、負極におけるデンドライト形成を防ぐという同じ課題を有しているから、引用発明において、リチウム二次電池に代えて、周知のリチウム硫黄電池に対してパルス充電を行うことで、パルスの休止時間の間に負極近傍のリチウムイオン濃度を回復させ、負極におけるデンドライトの形成を抑える(パルス充電を行うことで、リチウム硫黄電池の活性物質(負極のリチウム系材料)の形態(デンドライトの形成状態)を制御(抑制)する)ようにして、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
2 効果についての判断
本願発明には「パルス電流(、またはパルス電流と定電流との組み合わせ)を提供することによって、前記Li-S電池またはセルにおける活性物質の形態を制御する」との特定があり、本願明細書には「Li-S電池の性能及び特性を改善するための方策を開発する」ことが課題とされ(【0011】)、「Li-S電池における活性物質の形態制御を可能にし、それ故に、電池の容量及びライフサイクルが改善された充放電プロセスを開発した」ことが記載されている(【0013】)。すなわち、Li-S電池を充電および/または放電する際に、パルス電流を印可することで、Li-S電池における活性物質の形態を制御することができ、それ故に、電池の容量及びライフサイクルが改善されるという効果を奏することが記載されている。
ここで、本願発明において、「活性物質の形態」が硫黄系材料からなる正極の活性物質の形態であるのか、リチウム系材料からなる負極の活性物質の形態であるのか、上記正極及び負極の活性物質の形態であるのか、が特定されていないところ、Li-S電池を充電する際に、パルス電流を印可することで、Li-S電池におけるリチウム系材料からなる負極の活性物質の形態を制御することができ、その結果、電池の容量及びライフサイクルが改善される場合を含むと認められる。
一方、引用発明には、「リチウム金属を負極活物質として使用した」リチウム二次電池に対して「パルス充電を行うこと」で、「デンドライトの形成を抑えることができ」るとあり(構成b)、「二次電池(セル)に対しては、パルス波電圧の充電電圧で充電を行うことができ、これにより、リチウム二次電池のサイクル寿命への影響を抑えることができ、モジュールの充電量を確保でき」るとある(構成c)ので、引用発明には、リチウム二次電池を充電する際に、パルス電流を印可することで、リチウム二次電池におけるリチウム金属からなる負極活物質におけるデンドライトの形成を抑える(すなわち、リチウム金属からなる負極の活性物質の形態を制御する)ことができ、これにより、リチウム二次電池のサイクル寿命への影響を抑えることができ(すなわち、リチウム二次電池のライフサイクルが改善され)、モジュールの充電量を確保できる(すなわち、リチウム二次電池の容量が改善される)ことが開示されているといえる。
そうすると、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術から想到される構成から当業者が予想できた範囲のものである。
3 請求人の主張についての判断
(1)請求人は、審判請求書において、引用文献のいずれにも、本願発明の根底にある概念、すなわち、「充電期、放電期、または充電期および放電期の両方において、パルス電流を印加することで、限られた期間に電流を印加し、それに続く限られた期間に前記電流を反転させることまたは限られた中断期間により、前記パルス電流が取得されること」を含む組み合わせが開示されていない旨を主張している。
この主張は、「充電期、放電期、または充電期および放電期の両方において、パルス電流を印加すること」を特定している請求項1及び請求項1を直接または間接的に引用する各請求項に係る発明についての主張と理解されるが、仮に、本願発明についての主張であるとしても、上記第4、第5に記載のとおり、引用発明は、「パルス波の充電電圧で充電を行う構成」(構成c)(すなわち、充電時、パルス電流を印可すること)、「パルス充電に用いるパルス波としては、所定間隔でパルス波を与えるもの、または、パルス波の一部を0Aよりも小さい値を与えるものである」構成(構成d)(すなわち、限られた期間に電流を印加し、それに続く限られた期間に前記電流を反転させることまたは限られた中断期間により、パルス電流が取得されること)を備えているので、当該主張は採用できない。
(2)また、請求人は、引用文献には、本願補正後の請求項に記載された発明に当業者が到達するために引用文献の発明を改変することの示唆や動機付けとなるものはない旨を主張している。
しかしながら、上記1で説示したとおり、リチウム系材料を用いた負極におけるデンドライト形成を防ぐという課題に着目すると、引用発明には、本願発明が容易想到であることの示唆や動機付けはあるといえるので、当該主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-016040