特許拒絶査定不服審判
2023-003132
運動選手の走行速度を監視または可視化する方法及び運動用衣類
- 審判番号
- 2023-003132
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-531143
- 請求日
- 2023年02月24日
- 審決日
- 2025年04月17日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】プーマ エス イー
- 【請求人代理人】新保 斉
- 審判長/審判官
- 審判長 田口 傑
- 審判官 長清 吉範
- 審判官 武市 匡紘
- 分類
- P18 .121-WZ (A41D) / P18 .536-WZ (A41D) / P18 .537-WZ (A41D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-531143号「運動選手の走行速度を監視または可視化する方法及び運動用衣類」拒絶査定不服審判事件〔令和2年6月11日国際公開、WO2020/114596、令和4年2月9日国内公表、特表2022-513688号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)12月6日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 6月14日 :翻訳文及び特許協力条約第34条補正の翻訳
文提出
令和4年 6月29日付け:拒絶理由通知書
令和4年10月 4日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年10月18日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(令和4年11月 1日 :原査定の謄本の送達)
令和5年 2月24日 :審判請求書の提出、同時に手続補正書の提出
令和6年11月22日付け:拒絶理由通知書
令和7年 2月20日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明について
本願の請求項に係る発明は、令和7年2月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であるところ、その請求項1の記載は次のとおりである。
以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。
「【請求項1】
運動選手(1)の速度(v)、走行速度を監視または可視化する方法であって、前記方法は:
a)走行中に前記運動選手(1)によって着用される衣類(2)を提供するステップであって、前記衣類(2)は、前記衣類(2)に適用したコーティング(3)を備え、前記コーティング(3)は、少なくとも1つの熱変色性染料または少なくとも1つの液晶を含む、或いは、前記衣類(2)を、少なくとも部分的に、少なくとも1つの熱変色性染料または少なくとも1つの液晶を含む糸で作製する、ステップ;
b)前記運動選手(1)の前記スポーツ活動中、走行中に、前記少なくとも1つの熱変色性染料または液晶の色(C1、C2、C3)を監視するステップ;
c)前記運動選手(1)の前記速度(v)、前記走行速度を、前記少なくとも1つの熱変色性染料または液晶の実際の色(C1、C2、C3)に基づいて評価するステップを含む
ことを特徴とする方法。」
第3 当審の拒絶理由通知書の概要
当審の拒絶の理由である、令和6年11月22日付け拒絶理由通知の理由2、3は、概略次のとおりである。
1 理由2(実施可能要件)
発明の詳細な説明には、100m競走中の衣類の胸領域の外観が速度に応じてC1、C2、C3と変化することが記載されているが、熱変色性染料や液晶の温度は、運動選手の速度のみにより決定されるものではなく、他にも運動選手の体温や周囲の環境に応じても変化することは明らかであるので、熱変色性染料又は液晶の色のみに基づいて、運動選手の速度を評価することはできない。そのため、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 理由3(サポート要件)
本願発明が解決しようとする課題は、容易な手段で、運動選手のコースに沿った現在の走行速度について判定可能、又は少なくとも推定可能にする方法、及び各衣類、靴又は靴用カバーを提案することと認められる。
しかしながら、運動選手のスポーツ活動中に、衣類又は靴に備えられた熱変色性染料または液晶の色を監視することで、運動選手の速度を熱変色性染料又は液晶の色に基づいて評価することが実施できるとは認められず、請求項に記載された方法の発明は、本願発明が解決しようとする課題を解決できるとは認められない。そのため、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 当審の判断
1 本願の発明の詳細な説明の記載
令和3年6月14日提出の特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書により補正及び翻訳された発明の詳細な説明(以下単に「発明の詳細な説明」という。)には以下の記載がある。なお、下線は当審で付与し、・・・は記載の省略を示す。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、運動選手の走行速度を監視又は可視化する方法に関する。更に、本発明は、運動用衣類又は靴に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、容易な手段で、運動選手のコースに沿った現在の走行速度について判定可能、又は少なくとも推定可能にする方法、及び各衣類、靴又は靴用カバーを提案することである。」
「【発明を実施するための形態】
【0027】
図1では、衣類2及び運動靴2’を着用する運動選手1を、表している。衣類2には、衣類2の意図した使用中に、運動選手1の胸を被覆する胸領域5がある。更に、衣類2には、該衣類の側域に、走行中に空力抵抗に影響を及ぼすための要素を備えた領域がある。
【0028】
図2では、運動選手2の上体を被覆する衣類2の上部を、示している。ここでは、衣類2の外面4に、コーティング3(図示した実施形態の場合、ドットパターンを有する)を備えることが分かる。コーティング3は、熱変色性染料である、又は熱変色性染料を含有する混合物から成る。
【0029】
コーティング3と熱変色性染料はそれぞれ、温度に対して感応する。温度に応じて、熱変色性染料の色は変化する。
【0030】
この場合、熱変色性染料は、液晶を含み、該液晶は、衣類2の外面4上に適用される混合物に含有される。混合物中の液晶の割合は、ここでは、混合物の約45重量%である。
【0031】
従って、適用されるコーティング3は、高感温性で、それに応じて色を変化させる有機化合物の光学活性混合物である。この場合、低温(例えば、10℃未満)で黒色から始まり、高温(例えば、45℃超)で再び黒色になるまで、温度が上昇するにつれて虹色(赤から青)になる。この色の変化は、逆にすることもできる。
【0032】
この効果を使用して、図3に表したように、運動選手1の走行速度vを判定する。
【0033】
ここでは、胸領域5は、走行中に発生する気流に曝される。その結果、特に胸領域5の冷却効果は、増大することとなり、その結果、胸領域5のコーティング3の温度は、運動選手1が早く走行するほど、低下する。よって、運動選手1の走行速度vに応じて、コーティング3の色は、C 1からC 2及びC 3に変化する。
【0034】
観測者11は、ランナーの胸領域5を観測でき、その結果、運動選手1の(ほぼ)実際の走行速度を判定できる。
・・・
【0043】
提案した衣類や各方法により、目立つ変色効果によって運動選手1の実際の走行速度の目視観測が可能になる。それは、運動選手1の全力疾走中の対流冷却効果の結果である。
【0044】
例えば、コーティング3として適用する混合物に応じて、以下の効果を得ることができる。
【0045】
100m競走中(ウォーミングアップした運動選手による)、衣類の胸領域の外観が、30km/時(8.33m/秒)の走行速度で青く(色C 1)なり、34km/時(9.44m/秒)の走行速度で緑(色C 2)になり、最終的に38km/時(10.56m/秒)の速度で黄(色C 3)になる。そのため、観測者11は、運動選手が競走中に、既にどのパフォーマンスをその時点で達成しているかが分かる。」
「【図3】
[図:0001427088000001.jpg]
」
2 判断
(1)理由2(実施可能要件)について
本願発明は、運動選手の走行速度を、衣類に備えられた熱変色性染料または液晶の色を監視することで、運動選手の走行速度を熱変色性染料または液晶の色に基づいて評価する方法に関するものである。
発明の詳細な説明の段落【0029】、【0031】の記載を踏まえると、熱変色性染料または液晶は、温度に応じて色が変色すると認められる。また、段落【0032】~【0034】の記載を踏まえると、運動選手が走行することで、気流による冷却効果により胸領域5のコーティング3(熱変色性染料または液晶)が冷却され、コーティング3の色が変化していると認められる。そして、段落【0045】では、特定の条件下において、100m競走中の速度の変化に応じて、コーティング3の色が変化する実施例が記載されている。
上記事項及び技術常識を踏まえると、熱変色性染料または液晶は温度に応じて色が変化するとともに、運動選手の走行速度に応じて熱変色性染料または液晶が冷却されるため、走行速度に応じても色が変化するといえる。
しかしながら、熱変色性染料または液晶の色は温度に応じて決まるのであり、運動選手の走行速度によって直接決まるものではない。
ここで、発明の詳細な説明の段落【0045】には、特定の条件下において100m競走中の速度と色について実施例が記載されているが、それとは異なる条件の際にも、同様に熱変色性染料または液晶の色に基づいて、運動選手の走行速度を判定できるとは認められない。例えば、ある気温の際に30km/時(8.33m/秒)の走行速度で熱変色性染料または液晶の色が青色になったとしても、それよりも低温環境や高温環境では、同じ30km/時(8.33m/秒)で走行したとしても、走行前の熱変色性染料または液晶の温度が異なるため、同じ冷却効果があったとしても、走行中の熱変色性染料または液晶の温度は異なる温度になると考えられる。
そのため、運動選手の体温や周囲の環境(気温)に応じて、熱変色性染料または液晶の色は変化するといえ、運動選手が走行中の熱変色性染料または液晶の色に基づいて、運動選手の走行速度を判定できるとは認められない。
以上より、発明の詳細な説明を参酌しても、当業者が本願発明を実施することができるとはいえない。
ゆえに、発明の詳細な説明の記載は、本願発明の全体について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
(2)理由3(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下検討する。
本願発明が解決しようとする課題は、容易な手段で、運動選手のコースに沿った現在の走行速度について判定可能、又は少なくとも推定可能にする方法、及び各衣類、靴又は靴用カバーを提案すること(明細書の段落【0005】)と認められる。
しかしながら、上記(1)で述べたように、運動選手の走行中に衣類に備えられた熱変色性染料または液晶の色を監視することで、運動選手の速度を熱変色性染料または液晶の色に基づいて評価することは実施できるとは認められず、本願発明は、本願発明が解決しようとする課題を解決できるとは認められない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
3 請求人の主張について
請求人は令和7年2月20日提出の意見書(以下単に「意見書」という。)において、以下の主張をしている。
「確かに、スポーツの種類や形態によっては、熱変色性染料や液晶の温度は、運動選手の速度以外によっても決定され得る。例えば、長時間を要する特殊な競技であるマラソン競技は通常、屋外で、変化する風の状況の影響を受けながら行われ、アスリート自身が発する熱も影響する。
しかし、一般的な走行距離では、状況は異なる。この点で、上記補正のように「走行速度」に具体的に限定している。
例えば、短距離走は屋内または競技場内で通常行われ、そこでは走っている間、環境の影響から基本的に保護された状態になっている。なお、悪天候など特殊な場合は、本出願発明が適用できない例外的状況があっても仕方ないものと思料する。
例えば、100m走を考えてみると、走っている時間はわずか10秒程度であり、体育館や競技場で行われる場合、周囲の条件 (風量、風向、太陽放射) と選手自身の発熱はどちらも、保護された環境では重要ではないため無視できる。それとは逆に、空気力学的効果、すなわち、選手の胸部などの冷却効果や、熱変色性染料や液晶の外観色は、選手の速度によってのみ決定される。」(意見書の第2ページ第12行~第25行)
しかしながら、本願発明では、「運動選手(1)の速度(v)、走行速度を監視または可視化する方法」と特定されているのみであり、100m走に限定されておらず、中長距離走やマラソン等のあらゆる運動状態での速度(v)の監視方法を含むものである。
してみると、上記主張は本願発明に基づく主張ではない。
また、仮に100m走であったとしても、請求人が意見書で主張するように、100m走行中の周囲の環境の変化は無視できるとしても、気温や風向き・風速、運動者の体温等周囲の環境自体の変化によって、熱変色性染料または液晶の色は異なるといえ、同じ色(例えば青色)を示しているとしても、それが特定の条件下で30km/時(8.33m/秒)で走行しているためであるのか、低温または高温環境下で別の速度で走行しているためであるのか判断することができず、熱変色性染料または液晶の色だけで、走行速度を判定することができるとはいえない。
なお、請求項4では、熱変色性染料をジャケットまたはシャツの前袖領域に適用することが特定されているが、前袖領域は胸領域と比べ運動速度や運動頻度が大きく、袖(腕)の速度と運動選手の速度には相当程度の差が生じるとともに、運動選手の走行フォームによっても影響があると認められるが、このような状態であっても色の変化で走行速度を判定することができることは、発明の詳細な説明に記載されていない。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第36条第4項第1号及び同第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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