特許拒絶査定不服審判
2023-001609
血液透析用の透析液
- 審判番号
- 2023-001609
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-112133
- 請求日
- 2023年01月31日
- 審決日
- 2023年11月28日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】中山 昌明
- 【請求人代理人】弁理士法人前田特許事務所
- 【請求人】国立研究開発法人理化学研究所
- 【請求人代理人】弁理士法人前田特許事務所
- 【請求人】西澤 良記
- 【請求人代理人】弁理士法人前田特許事務所
- 【請求人】株式会社日本トリム
- 【請求人代理人】弁理士法人前田特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 一浩
- 審判官 栗山 卓也
- 審判官 安井 寿儀
- 分類
- P18 .121-Z (A61M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-112133「血液透析用の透析液」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和 4年 7月13日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和 4年 8月16日付け:拒絶理由通知書
令和 4年10月 3日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年11月 8日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 5年 1月31日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和 5年 1月31日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和 5年 1月31日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された。(下線は、補正箇所であり、当審が付与したものである。)
「【請求項1】
電解水素水を含有し、溶存水素濃度が120~163ppbであり、血液透析に由来する継続的な疲労感を抑制する活性を有する血液透析用の透析液であって、
前記血液透析に由来する継続的な疲労感が、前記透析液を使用した血液透析を開始してから8週間経過後の重度疲労の患者の疲労感であることを特徴とする血液透析用の透析液。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和 4年10月 3日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
電解水素水を含有し、溶存水素濃度が120~163ppbであり、血液透析に由来する継続的な疲労感を抑制する活性を有する血液透析用の透析液であって、
前記血液透析に由来する継続的な疲労感が、前記透析液を使用した血液透析を開始してから8週間経過後の疲労感であることを特徴とする血液透析用の透析液。」
2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「疲労感」について、「重度疲労の患者の」と限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項及び引用発明
(2-1)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2018/181074号(2018年(平成30年)10月 4日国際公開。以下「引用文献」という。)には、図面とともに次の記載がある。(下線は、当審が付与したものである。)
ア「[0001] 本発明は、血液透析用の透析液に関する。」
イ「[0050] そして、今回、30~550ppbの溶存水素濃(当審注:表2等の記載に照らして、「溶存水素濃度」の誤りと認められる。)を有する透析液27を使用することにより、透析時に発生する活性酸素を消去して酸化ストレスを軽減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
ウ「[0051] より具体的には、本発明の逆浸透水25を含有する透析液27を患者50に投与することにより、血中ミエロペルオキシザーゼならびに単球走化性促進因子(MCP-1)の低下が生じ、生体の酸化ストレス、及び炎症反応が軽減される。従って、酸化ストレスに起因する痒みや倦怠感、高血圧症等の合併症を抑制することが可能になる。」
エ「[0053] なお、透析液27の溶存水素濃度は、30~550ppbが好ましく、30~230ppbがより好ましい。これは、溶存水素濃度が30ppb未満の場合、溶存水素濃度が低すぎるため、上述の倦怠感の抑制等の効果を十分に得られない場合があるためである。また、550ppb以下の場合は、透析液27における気泡の発生を効果的に抑制することができ、特に、230ppb以下の場合は、透析液27における気泡の発生を効果的に抑制して、安全かつ安定して透析を行うことができるためである。」
オ「[0060] より具体的には、まず、原水(水道水)をプレフィルターでろ過した後、軟水化装置とカーボンフィルターを使用して処理し、この処理水を電解水生成装置に供給し、電解水素水(溶存水素水)を得た。
[0061] なお、電解水生成装置として、電解水素水生成器((株)日本トリム社製、商品名:TRIMION HD-24D)を用いて、流速が12L/minの条件で、電流を12Aに設定して定電流電気分解を行うことにより、pHが9.69の電解水素水(溶存水素水)を得た。なお、pHの測定にはpHメータ(φ260、ベックマン社製)を用いた。
[0062] 次に、逆浸透膜処理装置として、逆浸透精製水製造システム(日本ウォーターシステム(株)製、商品名:MH500CX)を用いて、電気分解処理により生成した電解水素水に対して逆浸透膜処理を行い、逆浸透水(透析液調製用水)を得た。なお、逆浸透膜処理装置に対して、電解水素水を500mL/分の速度で供給した。
[0063] 次に、この逆浸透水(500ml)を、透析装置である単身用患者監視装置(日機装(株)製、商品名:DBB-22B)に供給し、保険収載されている透析原液を規定に従って特定の割合にて混合することにより、本実施例の透析液を得た。」
カ「[0068] <倦怠感の評価>
製造した透析液を使用して、12ヶ月間、血液透析を行い、試験開始時、試験開始6ヶ月後、及び試験開始12ヶ月後における患者の倦怠感(倦怠感の強度)の評価を行った。より具体的には、患者本人からの聞き取り調査を実施し、以下の基準に従って「倦怠感の強度」を評価した。
倦怠感が高度であるため、身体活動が障害を受け、休息が必要:高度
倦怠感が中程度あり、身体活動が低下:中度
倦怠感が軽度であり、身体活動は正常:低度
倦怠感がなく、身体活動は正常:倦怠感なし」
キ「[0073] (比較群:患者数122例)
電解水素水生成器を用いて電気分解処理を行わなかったこと以外は、実施群と同様にして、透析液を製造した。その後、実施群と同様にして、痒み、倦怠感、及び降圧薬処方量の評価を行った。以上の結果を表1~3、図6~7,9に示す。」
ク「
[図:0001406484000001.jpg]
[図:0001406484000002.jpg]
[図:0001406484000003.jpg]
」
ケ「[0078] また、表2、図8~9に示すように、比較群の透析液を使用した場合は、試験開始後、時間の経過と共に、強い倦怠感を訴求する患者の割合が増加しているのに対し、実施群の透析液を使用した場合は、試験開始から12ヶ月後においても、強い倦怠感を訴求する患者の割合が増加しておらず、酸化ストレスに起因する痒みを抑制することができることが分かる。」
コ「[請求項4]痒み、倦怠感、及び高血圧症を抑制する活性を有することを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の血液透析用の透析液。」
(2-2)上記(2-1)ア~コの記載事項から、引用文献には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 上記ア、コより、引用文献に記載された透析液は、倦怠感を抑制する活性を有する血液透析用の透析液である。
b 上記イ~エより、30~230ppbの溶存水素濃度を有する透析液を使用し、透析時に発生する活性酸素を消去して酸化ストレスを軽減することで、酸化ストレスに起因する倦怠感を抑制することができる。
c 上記オより、原水(水道水)を処理して得た電解水素水にさらに処理を行うことにより、透析液を得るものである。このことから、透析液は電解水素水を含有している。
上記a~cを総合すると、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「電解水素水を含有し、
溶存水素濃度が30~230ppbであり、
透析時に発生する活性酸素を消去して酸化ストレスを軽減することで、酸化ストレスに起因する倦怠感を抑制することができる、倦怠感を抑制する活性を有する血液透析用の透析液。」
(3)対比・判断
ア 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)「倦怠感」とは、「身体が疲れてだるい感じ」(出典:デジタル大辞泉)を意味する語であることに照らせば、引用発明の「倦怠感」は、本件補正発明の「疲労感」に相当する。
そして、引用発明の「倦怠感」は、通常、定期的に実施する「透析時」の「酸化ストレスに起因する」ものであるから、血液透析に由来して継続的に生じるものであるといえ、本件補正発明の「血液透析に由来する継続的な疲労感」に相当する。
(イ)上記(ア)を踏まえれば、引用発明の透析液が有する「倦怠感を抑制する活性」は、本件補正発明の透析液が有する「血液透析に由来する継続的な疲労感を抑制する活性」に相当する。
そうすると、両者は、
「電解水素水を含有し、血液透析に由来する継続的な疲労感を抑制する活性を有する血液透析用の透析液。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
[相違点1]
透析液の溶存水素濃度が、本件補正発明は、「120~163ppbであ」るのに対し、引用発明は、「30~230ppbであ」る点。
[相違点2]
疲労感について、本件補正発明では、「前記透析液を使用した血液透析を開始してから8週間経過後の重度疲労の患者の疲労感である」のに対し、引用発明では、通常、定期的に実施する「透析時」の「酸化ストレスに起因する」「倦怠感」、すなわち血液透析に由来する継続的な疲労感である点。
イ 判断
上記相違点1、2について検討する。
(ア)本件の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0054】には、透析液の溶存水素濃度を100~200ppbとする理由として、「透析液27の溶存水素濃度は、100~200ppbである。これは、溶存水素濃度が100ppb未満の場合、溶存水素濃度が低いため、上述の疲労感の軽減効果を十分に得られない場合があるためである。また、200ppb以下の場合は、透析液27における気泡の発生を効果的に抑制して、気泡血栓等が発生するリスクを抑えられるため、安全に透析を行うことができ、かつ透析用水作製装置等の流路に気泡が付着することに起因する電気分解効率の低下やエアロック発生の可能性を減らすことにより、安定して透析液の提供を行うことができるためである。」と記載されている。
そして、本件明細書の段落【0056】~【0061】には、実施例として、溶存水素濃度が120~163ppbの透析液を製造し、血液透析に用いることが記載されているが、溶存水素濃度の範囲を120~163ppbに設定した理由の記載はなく、120~163ppb以外の数値範囲の場合と比べて格別顕著な効果があることは記載されていない。
よって、本件補正発明の透析液の溶存水素濃度の範囲の上限値及び下限値を120ppb及び163ppbとしたことに臨界的意義はない。
(イ)一方、引用発明の透析液は、その溶存水素濃度の範囲が、本件補正発明の透析液の溶存水素濃度の範囲を全て含んでいるところ、上記(2-1)エには、透析液の溶存水素濃度が30ppb未満の場合、濃度が低すぎて倦怠感の抑制の効果を十分に得られない場合があること、230ppb以下の場合、透析液における気泡の発生を効果的に抑制して安全かつ安定して透析を行うことができることが記載されており、これらの点を考慮すれば、引用発明の血液透析用の透析液において、その溶存水素濃度について単にその範囲で上限値及び下限値を選択し、当該濃度の範囲を120~163ppbとすることは、当業者であれば容易になし得た程度のことである。
(ウ)そして、引用発明において本件補正発明の透析液の溶存水素濃度の範囲とした透析液は、本件補正発明と、透析液という物として差異はないから、当該透析液を使用した血液透析により、血液透析を開始してから8週間経過後の重度疲労の患者の疲労感を抑制することは明らかである。
(エ)以上のとおりであるから、引用発明において上記相違点1、2に係る本件補正発明の事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
ウ 効果について
引用発明の透析液が奏する効果についてみると、当該透析液を用いて血液透析を行った結果として、引用文献の表2、図8、9から、倦怠感の強度が「高度+中度」の患者の割合が、試験開始時から6ヶ月後、12ヶ月後までの間、実施群は、溶存水素を含まない比較群に対して少ないことが記載されている。
そうすると、引用発明の透析液は、溶存水素を含まない透析液に比べて、試験開始から8週間経過後の疲労感を抑制する効果が高いといえる。
そして、本件補正発明の効果は、透析液に固有の効果であることを踏まえれば、このような疲労感の抑制をもたらす引用発明の透析液により、本件補正発明の「重度疲労の患者」、すなわち、従来の透析液を使用する血液透析において、透析当日のみならず、透析翌日まで疲労感が継続している患者(本件明細書【0053】参照)に対して、血液透析を開始してから8週間経過後の疲労感を抑制できることは、当業者であれば予測し得た程度のことである。
ゆえに、本件補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別のものでない。
エ 小活
したがって、本件補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
3 むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和 4年10月 3日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1(2)に記載されたとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「重度疲労の患者の」との発明特定事項を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)に記載したとおり、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由で引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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