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特許拒絶査定不服審判

2023-000984

情報処理装置

審判番号
2023-000984
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-558424
請求日
2023年01月20日
審決日
2023年09月11日
公報発行日
2023年12月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社IHI
  • 【請求人代理人】西澤 和純
  • 【請求人代理人】寺本 光生
  • 【請求人代理人】清水 雄一郎
  • 【請求人代理人】高橋 久典
審判長/審判官
  • 審判長 水野 治彦
  • 審判官 竹下 和志
  • 審判官 白土 博之
分類
P18 .121-Z (F22B) / P18 .536-Z (F22B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2021-558424「情報処理装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 5月27日国際公開、WO2021/100760〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件に係る出願(以下、「本願」という。)は、2020年11月18日(優先権主張 令和1年11月20日)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は以下のとおりである。 令和4年7月5日付け 拒絶理由通知 令和4年9月12日 意見書及び手続補正書の提出 令和4年10月18日付け 拒絶査定(以下、「原査定」という。) 令和5年1月20日 拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の提出 第2 令和5年1月20日提出の手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)について 1 本件補正の内容 (1)本件補正に関連する願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、当初明細書等」という。)の記載は、以下のとおりである。 「【0009】 (3)本開示の第3の態様の情報処理装置は、上記第1又は第2の態様の情報処理装置であって、前記情報処理部により求められた前記指標が所定値以上である場合に前記伝熱状態が異常であると判定する判定部を更に備える。」 「【0047】 情報処理部31は、運転データから、熱交換器20-nの収熱量Qnと、ボイラ本体10内の排ガスと熱交換器20-n内の蒸気との温度差ΔTnを算出し、算出した収熱量Qnと温度差ΔTnとを含む情報に基づいて当該熱交換器20-nの伝熱状態を示す指標Knを熱交換器20ごとに算出する。本実施形態では、情報処理部31は、以下に示す式(1)を用いて指標Kを算出する。この指標Knは、熱交換器20-nの伝熱状態を直接表現するものであって、高い値ほど熱交換器20-nの伝熱状態が悪い(熱吸収量が低下している)ことを示す。換言すれば、指標Knは、熱交換器20-nの伝熱阻害の状態を表現する指数である。」 「【0069】 判定部32は、指標算出部42により求められた各指標Knが所定値Kth以上か否かを一定周期ごとに判定する。ここで、指標Knが所定値Kth以上である場合は、灰障害等により伝熱状態が異常であることを示し、指標Knが所定値Kth未満である場合は、伝熱状態が正常であることを示す。すなわち、判定部32は、情報処理部31により求められた指標Knが所定値Kth以上である場合に、当該指標Knの熱交換器20の伝熱状態が異常であると判定する。」 「【0078】 情報処理装置2は、求めた指標Knが所定値Kth以上か否かを判定する(ステップS103)。情報処理装置2は、指標Knが所定値Kth以上であると判定した場合には、その判定結果を示す第1の判定結果を通信装置3に送信する(ステップS104)。一方、情報処理装置2は、指標Knが所定値Kth未満であると判定した場合には、その判定結果を示す第2の判定結果とを通信装置3に送信する(ステップS104)。」 「【図6】 [図:0001404570000001.jpg] 」 (2)本件補正により補正された明細書及び図面の記載は、以下のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。 「【0009】 (3)本開示の第3の態様の情報処理装置は、上記第1又は第2の態様の情報処理装置であって、前記情報処理部により求められた前記指標が所定値未満である場合に前記伝熱状態が異常であると判定する判定部を更に備える。」 「【0047】 情報処理部31は、運転データから、熱交換器20-nの収熱量Qnと、ボイラ本体10内の排ガスと熱交換器20-n内の蒸気との温度差ΔTnを算出し、算出した収熱量Qnと温度差ΔTnとを含む情報に基づいて当該熱交換器20-nの伝熱状態を示す指標Knを熱交換器20ごとに算出する。本実施形態では、情報処理部31は、以下に示す式(1)を用いて指標Kを算出する。この指標Knは、熱交換器20-nの伝熱状態を直接表現するものであって、低い値ほど熱交換器20-nの伝熱状態が悪い(熱吸収量が低下している)ことを示す。換言すれば、指標Knは、熱交換器20-nの伝熱阻害の状態を表現する指数である。」 「【0069】 判定部32は、指標算出部42により求められた各指標Knが所定値Kth未満か否かを一定周期ごとに判定する。ここで、指標Knが所定値Kth未満である場合は、灰障害等により伝熱状態が異常であることを示し、指標Knが所定値Kth以上である場合は、伝熱状態が正常であることを示す。すなわち、判定部32は、情報処理部31により求められた指標Knが所定値Kth未満である場合に、当該指標Knの熱交換器20の伝熱状態が異常であると判定する。」 「【0078】 情報処理装置2は、求めた指標Knが所定値Kth未満か否かを判定する(ステップS103)。情報処理装置2は、指標Knが所定値Kth未満であると判定した場合には、その判定結果を示す第1の判定結果を通信装置3に送信する(ステップS104)。一方、情報処理装置2は、指標Knが所定値Kth以上であると判定した場合には、その判定結果を示す第2の判定結果とを通信装置3に送信する(ステップS104)。」 「【図6】 [図:0001404570000002.jpg] 」 2 補正の適否について 本件補正は、本件補正前の明細書及び図面について、段落【0009】の「以上」を「未満」に補正し、段落【0047】の「高い」を「低い」に補正し、段落【0069】、【0078】における「以上」と「未満」とを入換え、また図6における「以上」を「未満」に補正するものである。 ここで、当初明細書等には、次の記載がある。 「【0002】 例えば、石炭焚ボイラにおいて、石炭の燃焼により生成される灰が過熱器や再熱器等の熱交換器に付着すると、熱交換器20の伝熱状態が悪化して、熱吸収量が低下する灰障害が生じる場合がある。」 「【0008】 (2)本開示の第2の態様の情報処理装置は、上記第1の態様の情報処理装置であって、前記情報処理部は、前記収熱量をQとし、前記対数平均温度差をΔTとし、前記指標をKとした場合に、前記指標をK=Q/ΔTの式に従って求める。」 「【0048】 Kn=Qn/ΔTn …(1)」 これらの記載を踏まえて、段落【0047】における「温度差ΔTn」について、検討する。 石炭の燃焼により生成される灰が熱交換器に付着すると、熱交換器の伝熱状態が悪化して、熱吸収量が低下することが技術常識であることに照らすと、段落【0047】に記載されている熱交換器の収熱量Qを、段落【0008】に記載されている対数平均温度差ΔTで除算した値である指標Kが高い値ほど熱吸収量が低下していると判断することが一貫して記載された明細書及び図面は誤りであり、指標Kが低い値ほど熱吸収量が低下することは、当業者であれば当然理解できることである。この理解において、本件補正前の明細書の段落【0009】、【0047】、【0069】、【0078】の記載事項及び【図6】の図示事項は、当該誤りを導く記載、すなわち明らかな誤記を含むものといえる。 また、段落【0047】に記載されている「灰障害等により伝熱状態が異常であること」とは、段落【0002】の記載を踏まえると少しでも灰が付着した状態に変化することが「灰障害等により伝熱状態が異常であること」といえる。 そうすると、熱交換器に灰が全く付着していない状態の指標Kから、少しでも灰が付着した状態の値に指標Kが変化することで伝熱状態が異常と判定すること、すなわち指標Kの値が所定値「未満」となることで伝熱状態が異常であると判定することが当初明細書等の記載から一義的に導かれるといえる。 したがって、上記誤記を含む明細書及び図面が本来どのように記載されるべきであったかも、段落【0002】、【0047】の記載や、上記技術常識を踏まえると一義的に決まることも当業者であれば明らかといえる。 そうすると、本件補正は、技術的な誤記を含む記載を、当初明細書等に接した当業者にとって自明な記載へと補正するものである。また、本件補正は、技術的な誤りを修正するものであるから、当初明細書等に対して新たな技術的事項を導入するものでもない。 よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしした適法なものである。 第3 本願発明 本願の請求項1-5に係る発明は、令和4年9月12日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。 〔本願発明〕 「一以上の熱交換器が設けられた石炭焚ボイラの保守を支援するサーバであって、前記熱交換器の収熱量と、前記石炭焚ボイラ内の排ガスと当該熱交換器内の蒸気との対数平均温度差と、を含む情報に基づいて当該熱交換器の伝熱状態を示す指標を算出する情報処理装置と、 前記石炭焚ボイラの保守を行う事業者が保有する通信装置と、 前記石炭焚ボイラ、前記情報処理装置及び前記通信装置を接続する通信ネットワークと を備える保守管理システム」 第4 原査定における拒絶の理由 原査定の拒絶の理由のうち、理由2の概要は、この出願の請求項1-5に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明と従来周知の技術とに基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 記 引用文献1.特開2006-10229号公報 引用文献2.特開2010-14323号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3.特開2005-345046号公報(周知技術を示す文献) 第5 引用文献 1 引用文献1について (1)引用文献1に記載された事項 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、次の記載事項及び図面事項がある(なお、下線は当審において付したものである。以下同様。)。 ア「【0001】 本発明は、ボイラの劣化診断方法及びシステムに係り、特に、ボイラに関連する計測値を基に高精度での計測が困難なボイラ全体を流れるガス流量、及び各熱交換器のガス温度を推定し、計測値とこれらの推定値を用いて、熱交換器の伝熱性能の劣化を監視するボイラの劣化診断方法及びシステムに関する。 【背景技術】 【0002】 火力発電プラントを構成するボイラでは、石炭や石油等の燃焼時に発生する高温の燃焼ガスによって蒸気を生成し、この蒸気を動力源として蒸気タービンで発電を行う。また、コンバインドサイクル発電プラントを構成する排熱回収ボイラでは、ガスタービンから排気される高温の排気ガスによって蒸気を生成し、蒸気タービンで発電を行う。 【0003】 これらの発電プラントを構成するボイラに性能の低下が発生した場合、発電に必要な蒸気を維持するために、燃料が通常に比べてより多く消費される。このため、発電効率の低下に伴って、燃料費等の発電コストが上昇し、発電会社は経済的な損失を被る。 【0004】 このような背景から、ボイラに取り付けた各種センサによる計測値を用いて、ボイラの性能に関する情報を取得し、これを監視することが重要となる。特に、ボイラの性能を低下させる大きな要因として、熱交換器を構成する配管に汚れが付着し、配管外を流れる高温のガスから配管内を流れる蒸気への伝熱性能が低下する現象がある。汚れによる伝熱性能の低下は、ボイラの運転時間が長くなるにつれて、徐々に発生するものであり、長期的な傾向を監視し、性能低下を検知するための監視診断システムを構築することが有効である。 【0005】 火力発電プラントを一定の運転条件の下で運転することを考えた場合、生成される蒸気の状態量(温度,圧力,流量)も本来一定となるはずであり、ボイラの性能を監視するには、単位燃料流量当たりに生成される蒸気の状態量が一定値にあるかを判別するのみでよい。しかしながら、通常の火力プラントでは負荷(発電出力)を変化させて運転するため、単位燃料流量当たりに生成される蒸気の状態量も運転条件に応じて変化する。つまり、ボイラの性能が低下した場合に、それが運転条件に応じて変化したものであるのか、あるいは、汚れなどのボイラの劣化により変化したもので効率改善のための対策が必要なのかを容易に判別できる手段が有効である。」 イ「【0014】 図1は、本発明による劣化診断の対象となる排熱回収ボイラの機器構成を示す図である。排熱回収ボイラ1は、ガスタービン及び蒸気タービンと共にコンバインドサイクル(C/C)発電プラントの構成機器として使用される。ガスタービンから排出される高温の排気ガスは、図のボイラ入口から排熱回収ボイラに取り込まれ、各熱交換器を介して、最後に出口から大気へ放出される。排熱回収ボイラを構成する熱交換器は、図に示す例では、ガスの上流側から高圧過熱器12,高圧蒸発器13,高圧節炭器14,低圧蒸発器15、及び低圧節炭器16からなる。各熱交換器は、複数の配管から構成されており、配管内には蒸気が流れている。ボイラを流れるガスは、各熱交換器において配管を通して蒸気へ熱を伝達することにより、徐々にガス温度が低下していく。一方、配管内の蒸気はガス側からの熱の伝達によって温度が上昇する。熱交換器によって、配管の径,本数等の構造は異なり、ガスの持つ熱エネルギーが効率よく蒸気に変換できる設計としている。」 ウ「【0024】 【数1】 [図:0001404570000003.jpg] 【0025】 式(1)はFwが熱交換器を流れる蒸気(水)の流量(kg/s)、Hw,outが出口蒸気のエンタルピー(J/KG)、Hw,inが入口蒸気エンタルピー(J/kg)、Fgがガスの流量(kg/s)、Hg,inが入口ガスのエンタルピー(J/kg)、Hg,outが出口ガスのエンタルピー(J/kg)である。」 エ「【0043】 熱交換器の伝熱特性を表す指標に熱通過率というパラメータがある。前記した熱バランス式と熱通過率との関係は式(4)の形で表すことができる。この関係は各熱交換器で成立する。 【0044】 【数4】 [図:0001404570000004.jpg] 【0045】 Qはガスから蒸気への伝熱量(W)を表す、式(4)aで使用している他の記号は式(1)と同じである。また、式(4)bにおいて、Kは熱通過率(W/(m2・K)) であり、単位伝熱面積(m2)当たり、かつ、単位ガス-蒸気温度差(K)当たりにガスから蒸気へ伝えることができる熱流(時間当たりの熱量)を表す。Aは伝熱面積(m2 )であり、ガスが蒸気への伝熱のために触れている面積のことで、排熱回収ボイラの場合、各熱交換器を構成する配管の全表面積となる。ΔTはガスと蒸気との対数平均温度差(K)であり、式(5)で表す。 【0046】 [図:0001404570000005.jpg] 【0047】 式(5)においてTgは各熱交換器におけるガスの代表温度、Twは蒸気の代表温度である。 【0048】 式(4)bが示すように、熱通過率K,伝熱面積A、及び対数平均温度差ΔTを乗じれば、ガスから蒸気への伝熱量Qとなる。伝熱量Qは、ボイラ外への放熱によるエネルギー損失を無視すれば、静特性を考えると、前記した熱バランスの式で計算される値と同値になる。つまり、式(4)(a)の蒸気についての熱量差又はガスについての熱量差のどちらかを用いれば良い。 【0049】 前述の図2に示した処理で、熱バランスの式から各熱交換器における伝熱量Q、及び蒸気とガスの温度は既に計算されている。つまり、ガスと蒸気それぞれについて入口と出口温度の中間値を温度の代表点とすれば、各熱交換器のガス温度Tgと蒸気温度Twが求まり、対数平均温度差ΔTは計算できる。また、伝熱面積Aはボイラの構造に関する設計情報から求めることができ、これは定数のパラメータとなる。 【0050】 したがって、前記の収束計算で求めたガス流量と各熱交換器のガス温度、及び実測したガス圧力と蒸気に関するプロセス値(温度/流量/圧力)から、式(4)bを用いて、熱通過率Kの観測値を計算することができる。ここで、観測値とは、実際にガスから蒸気へ伝わった熱量を求めて、これを基に評価した熱通過率の値である。 【0051】 前記したように、熱通過率とは、ガスから蒸気への伝熱性能、すなわち、伝熱のしやすさを表す指標であるため、熱通過率を計算し、この変化傾向を監視すれば、熱交換器の劣化を検知することができる。」 オ「【0080】 図3は、熱通過率の観測値と理論値からボイラ劣化を診断する処理の流れを示した図である。まず、前述の図2で説明したガス流量の推定処理を行うことにより、ガス流量に加えて、各熱交換器の前後におけるガス温度を推定する(S31)。この処理及び計測値によって、各熱交換器における蒸気及びガスの状態量(流量,温度,圧力)が決定したので、次に、式(4)から熱通過率の観測値K1を計算する(S32)。また、これと平行して、式(6)から熱通過率の理論値K2を計算する(S33)。次に、それぞれ計算された熱通過率の観測値K1と理論値K2を比較し(S34)、観測値が理論値に対して、あらかじめ許容された熱通過率の誤差ΔKを超えて低くなった場合には、異常と判定する(S35)。また、それ以外は正常とする(S36)。図3で示した診断処理は、決められた時間間隔ごとに繰り返し実施する。S32とS33は平行して行う他、別途行っても良く、順序は問わない。 【0081】 このように、前記処理によって推定されたガス流量とガス温度、及び、計測されたガス圧力と蒸気(水)側の流量,温度,圧力を用いて、熱交換器の伝熱性能を示す指標である熱通過率について理論値と観測値をそれぞれ計算し、両者を比較することにより劣化を検知する。したがって、運転条件に応じて変化する熱通過率の理論値を用いて、熱通過率の観測値の妥当性が評価できる。以上に述べた処理により、ボイラの劣化検知を高精度で行うことができる。 【0082】 理論値を算出する式(6)の特徴としては、蒸気及びガスの熱伝導率を考慮したhw やhgを有し、配管の熱伝導率λmを有することであり、これらの物性値をデータベースに有することにより、運転条件に応じて変化する熱通過率を算出し、厳密な値を算出できる。 【0083】 図4は、以上に示した診断処理を実施するための装置の構成例を示している。41は診断の対象となる排熱回収ボイラである。42は排熱回収ボイラの計測値を取り込み、診断処理を行う演算装置である。また、43は演算装置で行った診断結果を表示するための表示装置である。 【0084】 図5は、演算装置42の内部の構成を示す図である。ボイラから取り込まれた蒸気/ガスに関する計測値は計測値データベース52に格納される。演算部51は、周期的に、計測値データベースから計測値を取り込み、また、設計データベース53から各熱交換器の配管に関する設計情報(ガス塔寸法,配管外径/内径,フィン寸法,設置間隔,伝熱面積,構成材料など)を取り込み、前述したボイラの診断処理を行う。この処理で必要となる蒸気やガスの物性情報は物性値データベース54に格納されており、演算部51は必要に応じて物性値を取り込み、計算に使用する。データベース52,53,54は演算装置の外に設けても良い。 【0085】 図7に、設計データベース53の中に格納されるデータの構成例を示す。設計データベースは、ボイラを構成する熱交換器ごとに、熱通過率の理論値の計算に必要なガス塔や配管の寸法等の設計データを格納している。 【0086】 演算部51は表示装置43に診断結果を表示する。 【0087】 図6は、表示装置43における診断結果の表示例である。図では、前述した処理により求めた熱通過率の理論値と観測値のトレンドを、低圧節炭器,高圧節炭器、及び高圧過熱器について表示している。理論値と観測値がほぼ同じ値を示していれば正常であり、差が大きい場合は異常である。図の例では、低圧節炭器において、熱通過率の理論値と観測値との差が徐々に大きくなっており、診断装置が異常と判定している。他の熱交換器については、両者はほぼ同じ値を示しており、診断装置は正常と判定している。このように、熱通過率の理論値と観測値を熱交換器ごとに提示することより、ボイラを構成するどの熱交換器で伝熱性能が低下しているのかが容易に分かり、さらに劣化の進行状況についても定量的に知ることができる。これらの情報によって、ボイラ異常を早期に検知し、余裕をもって異常対応の運転操作を行うといった運転支援が実現できるのに加えて、どの熱交換器をいつ補修するかといった補修内容や補修時期を検討するための判断材料となり、補修計画の策定も支援できる。 【0088】 上述した演算部の処理内容は、可搬型のディスクやハードディスク等のコンピュータに読み取り可能な記録媒体に劣化診断プログラムとして記録することができる。」 カ「【図1】 [図:0001404570000006.jpg] 」 キ「【図3】 [図:0001404570000007.jpg] 」 ク「【図4】 [図:0001404570000008.jpg] 」 (2)上記(1)から認められること ア 上記(1)アの段落【0002】における「火力発電プラントを構成するボイラでは、石炭や石油等の燃焼時に発生する高温の燃焼ガスによって蒸気を生成し、この蒸気を動力源として蒸気タービンで発電を行う。」という記載から、引用文献1では、ボイラに石炭ボイラを採用するものであるといえる。そして、一般に石炭ボイラは、「石炭焚ボイラ」であるから、引用文献1のボイラの劣化診断方法及びシステムは、石炭焚ボイラの劣化診断方法及びシステムであると認められる。 イ 上記アの認定及び(1)オの段落【0087】における、「熱通過率の理論値と観測値を熱交換器ごとに提示することより、・・・どの熱交換器をいつ補修するかといった補修内容や補修時期を検討するための判断材料となり、補修計画の策定も支援できる。」という記載から、引用文献1は、石炭焚ボイラの保守管理方法及びシステムに係るものであると認められる。 ウ 上記アの認定及び(1)エの段落【0044】-【0050】の記載及び(1)オの記載から、「演算装置42」は、引用文献1の石炭焚ボイラの保守管理システムにおいて、熱交換器における伝熱量Qと、石炭焚ボイラ内のガス温度Tgと蒸気温度Twとの対数平均温度差ΔTと、を含む情報に基づいて熱通過率Kを算出していると認められる。 エ 上記アの認定及び(1)オの段落【0086】、【0087】の記載から、「表示装置43」は、診断結果を表示することで、熱交換器をいつ補修するかといった補修内容や補修時期を検討するための判断材料に用いられ、補修計画の策定を支援することから、石炭焚ボイラの保守を行う事業者が保有するものと認められる。「演算装置42」も、(1)オの段落【0084】、【0086】の記載から、診断結果を「表示装置43」に表示させるものであるから、同様の理由で、補修計画の策定を支援するものと認められる。 オ 上記アの認定及び(1)オの段落【0084】の記載及び(1)カの図示事項から、「演算装置42」は、ボイラ41から蒸気/ガスに関する計測値を取り込んでいるといえる。そして、データの伝送は、一般に通信により行われるという技術常識を踏まえると、石炭焚きボイラと演算装置42のデータの伝送は、通信により接続されているものと認められる。同様に、上記(1)オの段落【0086】の記載及び(1)クの図示事項から、「演算装置42」は、診断結果を「表示装置43」に表示させるものであるから、「表示装置43」と通信により接続されているものと認められる。 カ 上記ア及びオの認定から、石炭焚ボイラの保守管理システムは、石炭焚ボイラ、演算装置42及び表示装置43におけるデータの伝送は、通信により接続されていると認められる。 (3)引用発明 上記(1)及び(2)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 〔引用発明〕 「高圧過熱器12、高圧蒸発器13、高圧節炭器14、低圧蒸発器15、及び低圧節炭器16からなる熱交換器が設けられた石炭焚ボイラの補修計画の策定を支援する演算装置42であって、前記熱交換器における伝熱量Qと、前記石炭焚ボイラ内のガス温度Tgと蒸気温度Twとの対数平均温度差ΔTと、を含む情報に基づいて熱通過率Kを算出する演算装置42と、 石炭焚ボイラの保守を行う事業者が保有し、前記演算装置42で行った診断結果を表示するための表示装置43と、を備え、 前記石炭焚ボイラ、前記演算装置42及び前記表示装置43は通信により接続されている、 石炭焚ボイラの保守管理システム。」 2 引用文献2について (1)引用文献2に記載された事項 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、次の記載事項及び図示事項がある。 ア「【0001】 本発明は、冷熱供給システムの劣化診断装置、劣化診断方法、及び劣化診断システムに関する。」 イ「【0010】 図1は、本実施形態に係る冷熱供給システムの劣化診断を行う劣化診断システムの構成例を示す機能ブロック図である。 図1に示すように、本実施形態に係る劣化診断システム1は、測定データ収録データベース(DB:Database)200(200a、…、200n)を備えた冷熱供給システム20(20a、…、20n)と、その冷熱供給システム20に情報通信ネットワーク30を介して接続される劣化診断装置10とを含んで構成される。 【0011】 冷熱供給システム20は、図7に示すように、凝縮器21と、蒸発器22と、圧縮機23、膨張弁24とを含んで構成される熱源機器である。 また、この冷熱供給システム20には、温度や圧力等を測定するための各種センサが設置される。そして、冷熱供給システム20は、各種センサが測定した測定データを測定データ収録データベース200に収録し、その収録した測定データを、情報通信ネットワーク30を介して劣化診断装置10へ送信する。」 ウ「【0013】 次に、劣化診断装置10は、制御部101と、記憶部300と、通信部500と、表示部(表示装置)600とを含んで構成される。 【0014】 制御部101は、劣化診断演算部100と、表示制御部400とを含んで構成される。なお、この制御部101は、例えば劣化診断装置10の記憶部300に格納されたプログラムをCPU(Central Processing Unit)がRAM(Random Access Memory)に展開し実行することで実現される。」 エ「【図1】 [図:0001404570000009.jpg] 」 (2)引用文献2に記載された技術的事項 上記(1)から、引用文献2には、次の事項(以下、「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。 「冷熱供給システム20の測定データを、情報通信ネットワーク30を介して劣化診断装置10に伝送すること。」 3 引用文献3について (1)引用文献3に記載された事項 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3には、次の記載事項及び図示事項がある。 ア「【0001】 本発明は、凝縮器に冷却水が通水されるターボ冷凍機や吸収冷温水機などの熱源機器およびその劣化診断システムに関し、特に伝熱管の汚れによる性能の劣化を診断する熱源機器の劣化診断システムに関するものである。」 イ「【0017】 図1に示すように劣化診断システムは、各サイトに設けられた診断対象である熱源機1、熱源機2、……、熱源機nにそれぞれ設けられたデータ収録部1a、2a、……、naと、これらのデータ収録部と接続された情報通信ネットワーク100と、この情報通信ネットワーク100に接続された劣化診断装置200とによって構成する。」 ウ「【0022】 これらの熱源機の計測値は情報通信ネットワーク100を介して図1に示す劣化診断装置200に送信される。劣化診断装置200は、演算部210、記憶部250、表示部290などを有しており、記憶部250内には熱源機仕様データベース251(形状データ、伝熱特性等の各種仕様データを記憶)、劣化履歴データベース261が記憶されている。図3は演算部210における演算内容を示したブロック図である。以下、熱源機1を例として演算部210における伝熱管汚れの劣化診断方法について詳細に説明する。」 エ「【図1】 [図:0001404570000010.jpg] 」 (2)引用文献3に記載された技術的事項 上記(1)から、引用文献3には、次の事項(以下、「引用文献3に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 「熱源機の計測値を、情報通信ネットワーク100を介して劣化診断装置200に送信すること。」 第6 対比・判断 1 対比 本願発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 引用発明の「高圧過熱器12、高圧蒸発器13、高圧節炭器14、低圧蒸発器15、及び低圧節炭器16からなる熱交換器」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明の「一以上の熱交換器」に相当する。以下同様に、「補修計画の策定を支援する」は「保守を支援する」に、「熱交換器における伝熱量Q」は「熱交換器の収熱量」に、「石炭焚ボイラ内のガス温度Tgと蒸気温度Twとの対数平均温度差ΔT」は「石炭焚ボイラ内の排ガスと当該熱交換器内の蒸気との対数平均温度差」に、「熱通過率K」は「当該熱交換器の伝熱状態を示す指標」に、「石炭焚ボイラの保守管理システム」は「保守管理システム」に相当する。 また、引用発明の「演算装置42」は、本願発明の「情報処理装置」に相当する機能を備えるものである。そうすると、引用発明の「石炭焚ボイラの補修計画の策定を支援する演算装置42」は、本願発明の「石炭焚ボイラの保守を支援するサーバであ」る「情報処理装置」と、「石炭焚ボイラの保守を支援する情報処理装置」である限りにおいて一致する。 また、引用発明の「石炭焚ボイラの保守を行う事業者が保有し、前記演算装置42で行った診断結果を表示するための表示装置43」は、演算装置42によって診断結果を表示するように演算装置42との通信を行うものであるから、本願発明の「前記石炭焚ボイラの保守を行う事業者が保有する通信装置」に相当する。 また、引用発明の「前記石炭焚ボイラ、前記演算装置42及び前記表示装置43は通信により接続されている」ことは、本願発明の「前記石炭焚ボイラ、前記情報処理装置及び前記通信装置を接続する通信ネットワーク」を備えることと、「前記石炭焚ボイラ、前記情報処理装置及び前記通信装置が通信により接続されている」ものである限りにおいて一致する。 以上のことから、本願発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。 [一致点] 「一以上の熱交換器が設けられた石炭焚ボイラの保守を支援する情報処理装置であって、前記熱交換器の収熱量と、前記石炭焚ボイラ内の排ガスと当該熱交換器内の蒸気との対数平均温度差と、を含む情報に基づいて当該熱交換器の伝熱状態を示す指標を算出する情報処理装置と、 前記石炭焚ボイラの保守を行う事業者が保有する通信装置と、を備え、 前記石炭焚ボイラ、前記情報処理装置及び前記通信装置が通信により接続されている 保守管理システム」 [相違点1] 「石炭焚ボイラの保守を支援する情報処理装置」について、本願発明では、「サーバ」であるのに対して、引用発明の「演算装置42」がサーバであることを特定していない点。 [相違点2] 「前記石炭焚ボイラ、前記情報処理装置及び前記通信装置が通信により接続されている」ことについて、本願発明では、「前記石炭焚ボイラ、前記情報処理装置及び前記通信装置」の「接続」が「通信ネットワーク」により行われるのに対して、引用発明では、「前記石炭焚ボイラ、前記演算装置42及び前記表示装置43」を「接続」する「通信」が通信ネットワークにより行われていることを特定していない点。 2 判断 まず、上記相違点1について検討する。 引用発明の「演算装置42」は、上記第5の1(1)オの段落【0084】及び【0088】の記載から、演算装置42の内部に演算部51を含むものであり、また、演算部51の処理内容が、可搬型のディスクやハードディスク等のコンピュータに読み取り可能な記録媒体に劣化診断プログラムとして記録されるものであって、段落【0083】の記載からボイラ41及び表示装置43と通信を行うものであるから、通信を行うコンピュータといえる。 ここで、「サーバ」とは、「ネットワーク上で他のコンピューターやソフト、すなわちクライアントにサービスを提供するコンピューター。」([株式会社岩波書店 広辞苑第六版])であり、引用文献2に記載された技術的事項及び引用文献3に記載された技術的事項に見られるとおり、データを通信ネットワークを介して通信することは、従来周知の技術であるから、引用発明の通信を行うコンピュータである「演算装置42」をサーバとし、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得た事項である。 次に、相違点2について検討する。 相違点1において検討したとおり、データを通信ネットワークを介して通信することは、従来周知の技術であるから、引用発明において、石炭焚ボイラ、演算装置42及び表示装置43の通信による接続を、従来周知の技術を踏まえて情報通信ネットワークにより行うことは、当業者にとって容易になし得た事項である。 そうすると、引用発明において、従来周知の技術を踏まえて相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得た事項である。 また、本願発明の効果は、引用発明及び従来周知の技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 したがって、本願発明は、引用発明及び従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第7 請求人の主張 審判請求人は、令和5年1月20日に提出の審判請求書において、「4.本願発明と引用発明との対比」の項において、「拒絶査定では、本願発明と引用発明1との相違点について、「劣化を演算する演算部を備えた劣化診断システムにおいて、保守を行う事業者が保有する通信装置と、情報処理装置及び通信装置を接続する通信ネットワークとを備えることは引用文献2(特に、図1を参照されたい。)及び引用文献3(特に、図1を参照されたい。)に記載されるように従来周知の事項である」と認定された。 しかしながら、引用発明2及び引用発明3は、本願発明における『保守を行う事業者が保有する通信装置』を備えるものではない。 また、引用発明2及び引用発明3は、石炭焚ボイラの保守を支援するサーバである本願発明の情報処理装置を備えるものではない。」と主張している。 しかしながら、引用発明は、上記第5の1(3)引用発明の項で認定したとおり、「石炭焚ボイラの保守を行う事業者が保有し、前記演算装置42で行った診断結果を表示するための表示装置43」を備えるものである。そして、この「表示装置43」は、上記第6の1対比の項で判断したとおり、本願発明の「通信装置」と、石炭焚ボイラの保守を行う事業者が保有する通信装置に係るものである限りにおいて一致するものである。 すなわち、通信装置が、保守を行う事業者が保有するものであるか、否かは、本願発明と引用発明との相違点ではない。 また、上記第6の2判断の項で示したとおり、引用文献2に記載された技術的事項及び引用文献3に記載された技術的事項を例示として周知技術として採用したのは、「データを通信ネットワークを介して通信する」ことである。 よって、引用文献2及び引用文献3に、「保守を行う事業者が保有する通信装置」についての開示がなく、また、石炭焚ボイラの保守を支援するサーバである本願発明の情報処理装置についての開示がなくとも、進歩性の判断を左右するものではない。 したがって、請求人の主張は採用できない。 第8 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-000984

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