特許拒絶査定不服審判
2023-000812
吸着式ヒートポンプ
- 審判番号
- 2023-000812
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-165351
- 請求日
- 2023年01月18日
- 審決日
- 2024年08月05日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイキン工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
- 【請求人】株式会社Atomis
- 【請求人代理人】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 充
- 審判官 間中 耕治
- 審判官 村山 美保
- 分類
- P18 .121-WZ (F25B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-165351「吸着式ヒートポンプ」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 4月11日出願公開、特開2022- 57217〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件に係る出願は、令和2年9月30日の出願であって、令和3年11月26日付けで拒絶理由通知がされ、令和4年2月7日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年4月14日付けで拒絶理由通知がされたが、この拒絶理由通知に対して応答がなく、同年10月13日付けで拒絶査定がされた。
これに対し、令和5年1月18日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年3月16日に手続補正(方式)がされ、同年9月29日付けで当審から拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、同年12月4日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~3係る発明は、令和5年12月4日にした手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
(本願発明)
「 【請求項1】
冷媒として二酸化炭素を用いる吸着式ヒートポンプであって、
吸着材(15)として、金属イオンと、1種類または複数種類の有機配位子とを含む金属有機構造体を用い、
少なくとも1種類の前記有機配位子は、
【化1】
[図:0001414635000001.jpg]
(式中、R1~R15は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、アルケン、アルキン、フェニル基、これらの置換基、硫黄含有基、ケイ素含有基、窒素含有基、酸素含有基、ハロゲン、ニトロ、アミノ、シアノ、ホウ素含有基、リン含有基、カルボン酸、エステル、H、NH2、CN、OH、=O、=S、Cl、I、F、
【化2】
[図:0001414635000002.jpg]
(式中、xは、1、2または3である。)から選択され、
R16~R18は、存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、R16~R18は、
炭素原子を1個~20個含むアルキル基またはシクロアルキル基、
フェニル環を1個~5個含むアリール基、
炭素原子を1個~20個含むアルキル基またはシクロアルキル基、または、フェニル環を1個~5個含むアリール基を含む、アルキルアミン、アリールアミン、ジアゾまたはアルキルアミド、および、
―C≡C―から選択される。)
で表され、
前記金属有機構造体は、MOF-200であり、
吸着サイクルでは、蒸発圧力において、冷媒が前記吸着材に吸着され、凝縮圧力において、冷媒が前記吸着材から脱着され、前記蒸発圧力は3.5MPa~4.5MPaの範囲内にあり、前記凝縮圧力は6.0MPa~7.0MPaの範囲内にあり、
1gの前記金属有機構造体が、1回の吸着サイクルで吸着および脱着することができる二酸化炭素の質量は、0.65g~0.75gである、
吸着式ヒートポンプ(100)。」
第3 当審拒絶理由通知の概要
当審拒絶理由通知の概要は、次のとおりのものである。
(進歩性)本願の請求項1~4に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1及び2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
引用文献1:特表2015-529258号公報
引用文献2:Jiang Ning, Deng Zhiyong, Wang Gongying, Liu Shaoyig, “Preparation of Metal-Organic Frameworks and Application for CO2 Adsorption and Separation (in Chinese) “,PROGRESS IN CHEMISTRY, 2014, 26(10): 1645~1654ページ, DOI: 10.7536/PC140634
第4 引用文献
1.引用文献1について
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審にて付したものである。以下同様。)。
ア 「【0004】
基本的な吸着チラー機械は、一つは蒸発器、もう一つは凝縮器の、二つの収着媒チャンバーからなっている。第一の区画(脱着器)の中の収着媒が、外部熱源から、たとえば熱水からの熱を使用して再生されるのに対して、第二の区画(吸着器)の中の収着媒は、蒸発器から入ってくる作動流体の蒸気を吸着するので、この区画は、連続的な吸着を可能とするために、冷却しなければならない。作動流体は、蒸発器の中で蒸発され、熱交換を介して、外部伝熱流体、典型的には水(たとえば、チルド水)を冷却またはチルするために使用される。吸着器の中の収着媒が作動流体によって飽和されたら、それらの区画の機能を切り換える。例として、基本的な吸着チラー系の模式図(これらに限定される訳ではない)を図1および2に示している。基本的な構成においては、熱流体たとえば熱水を使用して脱着器を加熱して収着媒を再生させ;冷流体たとえば冷水を使用して、吸着器の中の収着媒を冷却し;冷流体(場合によっては、吸着器を冷却するのに使用したのと同一の流体または流体ストリームであってもよい)を使用して、凝縮器を冷却させ;チルド流体たとえばチルド水を、蒸発器の中で冷却する。蒸発器、凝縮器、吸着器、および脱着器においては、各種の熱交換器の構成または伝熱構成を使用することができる。各種の制御およびエンジニアリング方式を使用して、それら二つの収着媒チャンバーの機能を切り換えることができる。一つの例(これに限定される訳ではない)においては、収着媒チャンバーと蒸発器および凝縮器との間の連結にはフラッパー値が使用されていてよく;(図1および2におけるように)チャンバー1が脱着器、チャンバー2が吸着器である場合には、チャンバー1を蒸発器に連結しているフラッパー弁が閉であるのに対して、チャンパー1を凝縮器に連結しているが開であり;チャンバー2を蒸発器に連結しているフラッパー弁が開であるのに対して、チャンパー2を凝縮器に連結しているフラッパー弁が閉であり;それら二つの収着媒チャンバーの機能を切り換える場合には、それらのフラッパー値の開/閉の位置を切り換える。一つの例(これに限定される訳ではない)においては、それら二つの収着媒チャンバーの機能を切り換える場合に、熱流体および冷流体のための回路もまた、たとえば調節弁を使用して、切り換えてよい。その系はさらに、凝縮器において凝縮された液体の作動流体を蒸発器に戻す回路からなっていてもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、冷媒と収着媒たとえば金属-有機構造体(MOF)とのある種の組合せを含む極めて高い質量担持量(mass loading)および相対的に低い吸着熱を有する吸着系を目的としており、これは、高効率な吸着チラーを与える。」
イ 「【0007】
本発明は、気体もしくは液体の分離のため、気体の貯蔵のため、ならびに冷却および加熱用途のための、たとえば、金属-有機構造体(MOF)、共有結合性有機構造体(COF)、多孔性芳香族構造体(PAF)または多孔性ポリマーネットワーク(PPN)のような収着剤に関する。本発明はさらに、伝熱操作のための、MOFとある種の作動流体との組合せにも関する。本発明はさらに、二重効用チラー系にも関する。MOFは、(多くの場合硬質の)有機分子と配位結合させて、多孔性となりうる、一次元、二次元または三次元構造を形成させた、金属イオンまたはクラスターからなる化合物である。いくつかの場合においては、それらの細孔が安定的にゲスト分子(多くの場合溶媒)を排除し、たとえば水素および二酸化炭素のような気体を貯蔵するのに使用することができる。MOFのその他の可能性のある用途は、気体の精製、気体の分離、触媒反応、センサーなどである。」
ウ 「【0008】
金属-有機構造体(MOF)
本発明の一つの好ましい実施態様においては、その金属-有機構造体(MOF)が、Zn、Fe、Al、Mg、V、Ni、Mn、Co、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Tc、Re、Ru、Os、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Hg、Sr、Ba、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biからなる群より選択される少なくとも1種の金属成分、およびそれらの組合せを含む、多孔性の金属有機構造体またはハイブリッド有機-無機物質である。
【0009】
本発明のまた別な好ましい実施態様においては、二価の金属イオンたとえば、Ni+2、Zn+2、Cu+2、Co+2、Mg+2、Ca+2、Fe+2、Mn+2など、および三価の金属イオンたとえば、Fe+3、Al+3、Cr+3、Mn+3などが、金属有機構造体の中に組み込まれている。また別な実施態様においては、その多孔性の金属有機構造体が、Zr、Ti、Sn、V、W、MoまたはNbの四価、五価、または六価の金属イオンを用いて配位することによって形成されていてもよい。」
エ 「【0011】
多孔性の金属有機構造体物質の中の有機の構成単位は、リンカーまたは有機リンカーと呼ばれる。一つの実施態様においては、その有機リンカーが、配位結合を可能とする官能基を有している。それらの金属イオンと配位結合させることが可能な官能基の例としては、以下のものが挙げられるが、それらに限定される訳ではない:炭酸(-CO3H)、炭酸のアニオンの形(-CO3-)、カルボン酸のカルボキシルアニオン基、アミノ基(-NH2)、イミノ基、ヒドロキシル基(-OH)、アミド基(-CONH2)、スルホン酸基(-SO3H)、スルホン酸のアニオンの形(-SO3-)、シアニド(-CN)、ニトロシル(-NO)ピリジンなど。たとえば、一つの実施態様においては、ニトロプルシドとしても知られている、化学式T[Fe(CN)5NO](ここで、T=Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、およびCd)、さらには混合組成物、Co1-xTx[Fe(CN)5NO](T=Mn、Fe、Ni、Zn、およびCdなど)。」
オ 「【0049】
本発明の一つの実施態様においては、チラーによって生成される流体または空気の温度が、30゜F~60゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、チラーによって生成される流体または空気の温度が、33゜F~55゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、チラーによって生成される流体または空気の温度が、44゜F~54゜Fの範囲である。本発明の一つの実施態様においては、チラーによって生成される流体または空気の温度が30゜Fよりも高い。本発明の一つの実施態様においては、チラーによって生成される流体または空気の温度が80゜Fよりも低い。
【0050】
本発明の一つの実施態様においては、その冷流体の温度が、55゜F~180゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、その冷流体の温度が、65゜F~130゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、その冷流体の温度が、75゜F~120゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、その冷流体の温度が、80゜F~110゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、その冷流体の温度が、85゜F~100゜Fの範囲である。本発明の一つの実施態様においては、その冷流体の温度が、50゜Fよりも高い。本発明の一つの実施態様においては、その冷流体の温度が、200゜Fよりも低い。
【0051】
本発明の一つの実施態様においては、その熱流体の温度が、100゜F~600゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、その熱流体の温度が、120゜F~500゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、その熱流体の温度が、130゜F~400゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、その熱流体の温度が、140゜F~300゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、その熱流体の温度が、150゜F~250゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、その熱流体の温度が、160゜F~220゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、その熱流体の温度が、170゜F~210゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、その熱流体の温度が、175゜F~200゜Fの範囲である。本発明のまた別な実施態様においては、その熱流体の温度が、180゜F~195゜Fの範囲である。本発明の一つの実施態様においては、その熱流体の温度が、90゜Fよりも高い。本発明の一つの実施態様においては、その熱流体の温度が、600゜Fよりも低い。」
カ 「【0061】
本発明の一つの実施態様においては、その作動流体が二酸化炭素である。」
キ 「【0064】
本発明の作動流体は低毒性であるのが好ましく、非毒性であればより好ましい。本発明の作動流体は、中~低程度の蒸気圧を有しているのが好ましく、25℃で70bar未満の蒸気圧が好ましく、25℃で20bar未満の蒸気圧ならばより好ましい。」
ク 「【0069】
本発明においては、作動流体、または作動流体の成分のMOFに対する収着は、低温および/または高圧で起こすことができる。本発明の一つの実施態様においては、作動流体、または作動流体の成分のMOFに対する収着は、相対圧力P/Poが0.0を超えるところで起き;また別な実施態様においては0.01を超える;また別な実施態様においては0.05を超える;また別な実施態様においては0.1を超える;また別な実施態様においては0.2を超える;また別な実施態様においては0.3を超える;また別な実施態様においては0.4を超える;また別な実施態様においては0.5を超える;また別な実施態様においては0.6を超える;また別な実施態様においては0.7を超える;また別な実施態様においては0.8を超える;また別な実施態様においては0.9を超えるところで起きる。
【0070】
本発明においては、作動流体、または作動流体の成分のMOFからの脱着は、高温および/または低圧で起こすことができる。本発明の一つの実施態様においては、作動流体、または作動流体の成分のMOFからの脱着は、相対圧力P/Poが1.0未満のところで起き;また別な実施態様においては0.9を超える;また別な実施態様においては0.8を超える;また別な実施態様においては0.7を超える;また別な実施態様においては0.6を超える;また別な実施態様においては0.5を超える;また別な実施態様においては0.4を超える;また別な実施態様においては0.3を超える;また別な実施態様においては0.2を超える;また別な実施態様においては0.1を超える;また別な実施態様においては0.05を超える;また別な実施態様においては0.02を超える;また別な実施態様においては0.01を超える;また別な実施態様においてはおよそ0のところで起きる。」
ケ 「【0096】
実施例18
R-12と、MOF-74(Fe)、MOF-74(Ni)、およびMOF-74(Co)との組合せについて、収着速度論実験を25℃で実施した。MOF-74(Ni)との組合せの結果は、低いP/Poで高い取込み量を示した。」
コ 「【図1】
[図:0001414635000003.jpg]
」
(2)上記(1)から認められること
ア 上記(1)ア及びコから、吸着チラー機械は、第一の区画(脱着器)の中の収着媒が再生され、第二の区画(吸着器)の中の収着媒は作動流体の蒸気を吸着し、吸着器の中の収着媒が作動流体によって飽和されたらそれらの区画の機能を切り換えるものであることが把握できる。
イ 上記(1)カから、吸着チラー機械は、作動流体として二酸化炭素を用いるものを含むことが理解できる。
ウ 上記(1)ア、イ、ウ及びエから、脱着器又は吸着器の収着媒として、少なくとも1種の金属成分、およびそれらの組合せを含む多孔性の金属-有機構造体(MOF)を用いるものであり、金属成分として二価の金属イオン及び三価の金属イオンなどが、金属有機構造体の中に組み込まれ、有機構造体としては、配位結合を可能とする官能基を有していることが把握できる。
エ 上記(1)クから、作動流体の収着媒への収着は、低温および/または高圧で起こすことができ、脱着は、高温および/または低圧で起こすことができることが把握できる。
オ 上記(1)ア、オから、チャンバー2が吸着器の場合、チャンバー2と蒸発器とを連絡しているフラッパー弁が開であるから、蒸発器においてチルド流体を30°F~60°Fに冷却した作動流体は、蒸発するとともにチャンバー2に流入し、吸着媒に吸着される。
また、チャンバー1が脱着器の場合、チャンバー1で熱流体により吸着媒から脱着された作動流体は、チャンバー1と凝縮器とを連結しているフラッパー弁が開であるから凝縮器に流入するとともに、凝縮器において55°F~180°Fの冷流体によって冷却されて凝縮される。
(3) 引用発明
上記(1)及び(2)から、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。
(引用発明)
「作動流体として二酸化炭素を用い、第一の区画(脱着器)の中の収着媒が再生され、第二の区画(吸着器)の中の収着媒は作動流体の蒸気を吸着し、吸着器の中の収着媒が作動流体によって飽和されたらそれらの区画の機能を切り換える吸着チラー機械であって、
収着媒として、少なくとも1種の金属成分、およびそれらの組合せを含む多孔性の金属-有機構造体(MOF)であって、金属成分として二価の金属イオン及び三価の金属イオンなどが金属有機構造体の中に組み込まれ、有機構造体として配位結合を可能とする官能基を有している金属-有機構造体(MOF)を用い、
作動流体の収着媒への収着は低温および/または高圧で起こすことができ、脱着は高温および/または低圧で起こすことができ、チャンバー2が吸着器の場合、蒸発器においてチルド流体を30°F~60°Fに冷却した作動流体は、蒸発するとともにチャンバー2に流入し、吸着媒に吸着され、チャンバー1が脱着器の場合、チャンバー1で熱流体により吸着媒から脱着された作動流体は、凝縮器において55°F~180°Fの冷流体によって冷却されて凝縮される、吸着チラー機械。」
2.引用文献2について
(1) 引用文献2の記載事項
引用文献2には、次の事項が記載されている。
ア 「
[図:0001414635000004.jpg]
」
(第1646ページ右欄第11行~20行)
[当審訳]
(・・・ほとんどのMOFs材料のガス吸着のメカニズムは物理吸着に属し、より多くのMOFs材料がCO2吸着・分離に使用され、選択性が良く、吸着容量が大きく、安定性に優れ、再生が容易であるなど、従来の材料に比べて大きな利点があり、大規模なCO2回収・貯留技術に使用される可能性のある材料の一種であり、温室効果を効果的に制御・緩和し、CO2の固定・貯留に使用できるため、C1資源をフル活用するという戦略的目標を達成することができる。)
イ 「
[図:0001414635000005.jpg]
[図:0001414635000006.jpg]
[図:0001414635000007.jpg]
[図:0001414635000008.jpg]
」
(第1649ページ左欄第10行~同右欄第6行)
[当審訳]
(3 CO2吸着・分離におけるMOFs材料
3.1 単成分CO2の吸着
長い間、MOFsによる単成分CO2の吸着は、活性炭やモレキュラーシーブと比較してあまり改善されておらず、ほとんどのMOFs構造材料のCO2吸着量は298K、1気圧で1mmol/g以下である。
しかし、ZIFsシリーズの報告、特にZIF-68, 69, 70の発見により、CO2吸着能は画期的な進歩を遂げ、中でもZIF-69の吸着能は82.6倍と高く(図9)、すなわち、273K、1atm、1体積の材料で82.6体積のCO2を吸着することができ、CO2 CCS技術へのMOFsの応用が大幅に向上した。
MOFsによるCO2吸着は、主に比表面積と官能基に影響される。MOFは比表面積で大きな進歩を遂げたが、MOFのミクロ骨格構造もCO2吸着に重要な影響を及ぼす。よく知られているIRMOF、UiOs、MOF -Nシリーズはいずれも規則的な整列またはハニカム3次元空間構造を持つが、ZIFsシリーズは規則的な3次元構造を持つだけでなく、典型的なケージ構造も持つ(図10、中央の黄色部分はケージ内の空間の体積を表す)。三次元構造を持つが、ZIFsシリーズは規則的な三次元構造を持つだけでなく、典型的なケージ構造を持つ(図10、真ん中の黄色い部分はケージ内の空間の体積を表す)。
また、MIL-53は、低圧下でのCO2吸着に適した小さなケージと狭い細孔構造、高圧下でのCO2吸着に適した大きなケージと広い細孔構造という安定した二重ケージの双安定構造を持っており、独特の「呼吸効果」を持っている。
中でも、Denayerらによって研究されたCO2/CH4の固定床吸着分離では、Al-MIL-53が低圧・高圧を問わず高いCO2吸着能力を持つことが証明された。
異なるMOFsシステム材料による単成分CO2の吸着を表1に示す。)
ウ 「
[図:0001414635000009.jpg]
」(第1650ページ左上欄)
[当審訳(「MOF-74~MOF-505」の記載箇所を抜粋)]
(表1 MOFsの単成分CO2吸着能力
MOFs CO2(mmol・g-1) 条件(T,P) ref
MOF-74 10.4 298K,35bar 43
MOF-177 33.5 298K,35bar 43
MOF-200 64.3b 298K,50bar 37
MOF-205 38.1b 298K,50bar 37
MOF-210 65.2b 298K,50bar 37
MOF-505 10.2 298K,35bar 43
)
(2)上記(1)から認められること
ア 上記(1)ウから、MOFsが二酸化炭素を吸着する能力は、二酸化炭素(CO2)を44g/molとして換算すると、温度298K、圧力3.5MPa又は5MPaにおいて、以下のとおりである。
[図:0001414635000010.jpg]
*CO2のg/gは、CO2=44g/molとして換算
イ (1)ウの表1から、MOF-200とMOF-210は、MOF-74やMOF-177に比べて顕著に向上した二酸化炭素吸着能力を有していることが把握できる。
ウ MOF-200の吸着能力は、二酸化炭素(CO2)を44g/molとして換算すると、298K、5MPaにおいて2.8292g/gであることが把握できる。
(3)引用文献2に記載の技術事項
上記(1)及び(2)から、引用文献2には、以下の技術事項(以下、「引用文献2に記載の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
「MOF-200は、二酸化炭素の吸着材として利用することができ、その吸着能力は、二酸化炭素(CO2)を44g/molとして換算すると、298K、5MPaにおいて2.8292g/gであること。」
第5 当審の判断
1.対比
本願発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
(1)引用発明の「作動流体」は、本願発明の「冷媒」に相当し、引用発明の「作動流体として二酸化炭素を用い」ることは、本願発明の「冷媒として二酸化炭素を用いる」ことに相当する。
(2)引用発明の「第一の区画(脱着器)の中の収着媒が再生され、第二の区画(吸着器)の中の収着媒は作動流体の蒸気を吸着し、吸着器の中の収着媒が作動流体によって飽和されたらそれらの区画の機能を切り換える吸着チラー機械」は、本願発明の「吸着式ヒートポンプ」に相当する。
(3)引用発明の「収着媒」は、本願発明の「吸着材」に相当し、引用発明の「金属成分として二価の金属イオン及び三価の金属イオン」は、本願発明の「金属イオン」に相当する。
引用発明の「有機構造体として配位結合を可能とする官能基」は、本願発明の「1種類または複数種類の有機配位子」に相当し、引用発明の「金属-有機構造体」は、本願発明の「金属有機構造体」に相当する。
してみると、引用発明の「収着媒として、少なくとも1種の金属成分、およびそれらの組合せを含む多孔性の金属-有機構造体(MOF)であって、金属成分として二価の金属イオン及び三価の金属イオンなどが金属-有機構造体の中に組み込まれ、有機構造体として配位結合を可能とする官能基を有している金属-有機構造体(MOF)を用いる」ことは、本願発明1の「吸着材(15)として、金属イオンと、1種類または複数種類の有機配位子とを含む金属有機構造体を用い」ることに相当する。
(4)引用発明の「作動流体の収着媒への収着は低温および/または高圧で起こすことができ、脱着は高温および/または低圧で起こすことができる」ことは、作動流体が吸着サイクルの過程で収着媒に収着又は脱着されることが技術的に明らかである。
してみると、引用発明の「作動流体の収着媒への収着は低温および/または高圧で起こすことができ、脱着は高温および/または低圧で起こすことができる」ことと、本願発明の「吸着サイクルでは、蒸発圧力において、冷媒が前記吸着材に吸着され、凝縮圧力において、冷媒が前記吸着材から脱着され」ることとは、「吸着サイクルでは、冷媒が前記吸着材に吸着され、冷媒が前記吸着材から脱着され」ることの限りにおいて一致する。
(5)以上をまとめると、本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、相違点で相違する。
(一致点)
「冷媒として二酸化炭素を用いる吸着式ヒートポンプであって、
吸着材として、金属イオンと、1種類または複数種類の有機配位子とを含む金属有機構造体を用い、
吸着サイクルでは、冷媒が前記吸着材に吸着され、冷媒が前記吸着材から脱着される、
吸着式ヒートポンプ。」
(相違点1)
本願発明は、「少なくとも1種類の前記有機配位子は、
【化1】
[図:0001414635000011.jpg]
(式中、R1~R15は、それぞれ独立して、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、アルケン、アルキン、フェニル基、これらの置換基、硫黄含有基、ケイ素含有基、窒素含有基、酸素含有基、ハロゲン、ニトロ、アミノ、シアノ、ホウ素含有基、リン含有基、カルボン酸、エステル、H、NH2、CN、OH、=O、=S、Cl、I、F、
【化2】
[図:0001414635000012.jpg]
(式中、xは、1、2または3である。)から選択され、
R16~R18は、存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、R16~R18は、
炭素原子を1個~20個含むアルキル基またはシクロアルキル基、
フェニル環を1個~5個含むアリール基、
炭素原子を1個~20個含むアルキル基またはシクロアルキル基、または、フェニル環を1個~5個含むアリール基を含む、アルキルアミン、アリールアミン、ジアゾまたはアルキルアミド、および、
―C≡C―から選択される。)
で表され」るのに対して、引用発明は、そのような構成がない点。
(相違点2)
本願発明は、「前記金属有機構造体は、MOF-200」であり、「1gの前記金属有機構造体が、1回の吸着サイクルで吸着および脱着することができる二酸化炭素の質量は、0.65g~0.75gである」のに対し、引用発明は、「金属-有機構造体(MOF)」が「MOF-200」ではなく、収着媒が1回の吸着サイクルで吸着および脱着することができる二酸化炭素の質量が明らかでない点。
(相違点3)
吸着材に対する冷媒の吸着及び脱着に関して、本願発明は、「蒸発圧力」において吸着し、「凝縮圧力」において脱着するものであり、「前記蒸発圧力は3.5MPa~4.5MPaの範囲内にあり、前記凝縮圧力は6.0MPa~7.0MPaの範囲内」にあるのに対して、引用発明は、「低温および/または高温」で収着し、「高温および/または低圧」で脱着するものであり、「チャンバー2が吸着器の場合、蒸発器においてチルド流体を30°F~60°Fに冷却した作動流体は、蒸発するとともにチャンバー2に流入し、吸着媒に吸着され、チャンバー1が脱着器の場合、チャンバー1で熱流体により吸着媒から脱着された作動流体は、凝縮器において55°F~180°Fの冷流体によって冷却されて凝縮される」ものである点。
2.判断
上記相違点1について検討する。
引用発明と引用文献2に記載の技術事項とは、二酸化炭素の吸着材として金属有機構造体(MOF)を利用する点で共通するから、引用文献1に接した当業者にとって、引用発明の吸着材の機能を向上させるために、引用文献2に記載の技術事項を適用する動機付けが存在するとともに、引用発明に引用文献2に記載の技術事項を適用することについて阻害事由があるとは認められない。
そして、引用文献2に記載された金属有機構造体のうち、MOF-74やMOF-177に比べて二酸化炭素の吸着能力が顕著に向上したMOF-200を選択して引用発明の金属有機構造体(MOF)に適用して、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易に想到し得たことであるといわざるを得ない。
上記相違点2について検討する。
上記相違点1の判断のとおり、金属有機構造体(MOF)として、MOF-200を選択して引用発明に適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、1gの金属有機構造体(MOF)が1回の吸着サイクルで吸着および脱着することができる二酸化炭素の質量を、その金属有機構造体(MOF)の二酸化炭素を吸着する能力の範囲内、かつ、吸着サイクルの適切な温度と圧力の範囲内において、実験的に決定することは、数値範囲の最適化に過ぎない。
そして、引用文献2に記載の技術的事項に示したとおり、MOF-200の二酸化炭素を吸着する能力が298K、5MPaにおいて2.8292g/gであることに照らせば、1回の吸着サイクルで吸着および脱着することができる二酸化炭素の質量を0.65g~0.75gとなるように吸着式ヒートポンプを運転することは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、当該質量の範囲において予測できないような効果が生じるものでもない。
上記相違点3について検討する。
引用発明は、「チャンバー2が吸着器の場合、蒸発器においてチルド流体を30°F~60°Fに冷却した作動流体は、蒸発するとともにチャンバー2に流入し、吸着媒に吸着され、チャンバー1が脱着器の場合、チャンバー1で熱流体により吸着媒から脱着された作動流体は、凝縮器において55°F~180°Fの冷流体によって冷却されて凝縮される」ものであるから、作動流体である二酸化炭素は、蒸発器において30°F~60°Fで蒸発してチャンバー2に流入して収着媒に収着されるものと解される。
そこで、蒸発器における蒸発が、温度30°F~60°F(-1.11℃~15.6℃)で起こる場合の圧力を二酸化炭素の温度-圧力線図から読み取ると、3.3MPa~5MPaであることが理解できる。
さらに、引用文献1には、蒸発器における蒸発温度を、「33°F~55°Fの範囲」、「44°F~54°Fの範囲」とすることが記載されており、それぞれの場合の二酸化炭素の温度-圧力線図から読み取れる圧力は、「3.4MPa~4.7MPa」、「4.1MPa~4.6MPa」であるから、引用文献1には、引用発明の蒸発器における蒸発時の圧力を、本願発明の「蒸発圧力」である「3.5MPa~4.5MPa」の範囲内にすることが示唆されているといえる。
同様に、凝縮器における凝縮が、温度55°F~180°F(12.8℃~82.2℃)で起こる場の圧力を二酸化炭素の温度-圧力線図から読み取ると、3.4MPa~であることが理解できる。
また、引用文献1には、蒸発温度と同様に、凝縮器における凝縮温度を、「65゜F~130゜Fの範囲」、「75゜F~120゜Fの範囲」及び「85°F~100°F」とすることが記載されており、それぞれの場合の二酸化炭素の温度-圧力線図から読み取れる圧力は、「5.3MPa~」と「6.2MPa~」及び「7.0MPa~」である。
してみると、引用文献1には、引用発明の凝縮器における凝縮時の圧力を、本願発明の「凝縮圧力」である「6.0MPa~7.0MPa」の範囲内である、「6.2MPa」や「7.0MPa」とすることが示唆されており、当該記載から実験的に「6.0MPa~7.0MPa」との圧力範囲を求めることは、当業者が容易に成し得たことというほかない。
してみると、相違点3は、実質的な相違点ではない。
また、仮に相違点3が実質的な相違点であったとしても、引用文献1の記載を参酌して、実験的に本願発明で特定する蒸発圧力及び凝縮圧力とすることは、単なる数値範囲の好適化、最適化に過ぎないから、やはり、当業者が容易に想到し得たものであるというほかない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-000812