特許拒絶査定不服審判
2023-000610
薬品容器にいっぱいに充填するためのデバイス及び方法
- 審判番号
- 2023-000610
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-571701
- 請求日
- 2023年01月13日
- 審決日
- 2024年12月12日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】恩田 誠
- 【請求人代理人】恩田 博宣
- 【請求人代理人】本田 淳
- 【請求人代理人】中村 美樹
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 哲男
- 審判官 佐々木 正章
- 審判官 栗山 卓也
- 分類
- P18 .121-WZ (A61J) / P18 .537-WZ (A61J) / P18 .113-WZ (A61J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-571701号「薬品容器にいっぱいに充填するためのデバイス及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月 3日国際公開、WO2019/005072、令和 2年11月 5日国内公表、特表2020-531057号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年) 6月29日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は概略以下のとおりである。
令和 4年 8月31日付け 拒絶査定
令和 5年 1月13日提出 審判請求書及び手続補正書
令和 5年 8月16日付け 拒絶理由通知
令和 6年 2月14日提出 意見書及び手続補正書
令和 6年 3月21日付け 拒絶理由通知
令和 6年 6月26日提出 意見書及び手続補正書
令和 6年 7月11日付け 拒絶理由通知
令和 6年10月 4日提出 意見書
第2 本願発明
令和 6年 6月26日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び19に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明19」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
ある体積を有する処方薬物を注射器内に導入するステップであって、前記処方薬物の前記体積が、前記注射器の容量より大である、前記導入するステップと、
前記注射器に導入された前記処方薬物の高さおよび前記注射器の寸法に基づいて、前記注射器内にあり、かつ前記注射器の近位端から遠位にあるストッパ位置を判定するステップと、
前記導入するステップにおいて導入された前記処方薬物をシールするために前記判定するステップにおいて判定された前記ストッパ位置で前記注射器内にストッパを配置するステップであって、前記ストッパを配置することには、前記ストッパに真空を印加することが含まれ、前記注射器は本体を含み、前記ストッパは前記本体の内部の壁にぴったりとフィットするようにサイズ化され、かつ構成されており、前記ストッパ位置は、コネクタを介して前記ストッパに接続されたプランジャロッドが前記本体の長手軸に対して傾けられることが前記本体の前記壁および前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記プランジャロッドの最大傾斜角度までに制限される位置であるとともに前記プランジャロッドの前記最大傾斜角度は、少なくとも前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記ストッパを前記本体の前記壁から引き離して前記処方薬物の前記シールを損なわせるには不十分な角度である、前記配置するステップと、
を含む、薬製品の準備方法。」
「【請求項19】
本体を有する注射器と、
前記注射器内のある体積を有する処方薬物であって、前記処方薬物の前記体積が、前記注射器の容量より大である、前記体積の処方薬物と、
コネクタを介してプランジャロッドに接続されているストッパであって、前記プランジャロッドが前記ストッパから近位方向に延びている、前記ストッパと、を備え、
前記ストッパは前記本体の内部の壁にぴったりとフィットするようにサイズ化され、かつ構成されており、前記注射器の容量より大である前記体積を有する前記処方薬物が前記注射器に充填されかつ前記ストッパによってシールされた状態にて前記ストッパは、前記注射器の近位端から遠位側にあるストッパ位置に配置され、前記ストッパ位置は、前記ストッパによって形成されたシールを損なう程度まで前記コネクタを介して前記ストッパに接続されたプランジャロッドが前記ストッパを変形させるべく傾くことを制限する判定された距離であって、前記注射器のフランジから遠位側にある判定された距離に基づいており、
前記ストッパ位置は、前記プランジャロッドを前記本体の長手軸に対して傾けることが前記本体の前記壁および前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記プランジャロッドの最大傾斜角度までに制限される位置であり、前記プランジャロッドの前記最大傾斜角度は、少なくとも前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記ストッパを前記本体の前記壁から引き離して前記処方薬物の前記シールを損なわせるには不十分な角度である、薬製品。」
第3 拒絶の理由
1 令和 6年 7月11日付けで当審が通知した拒絶理由は、概略次の拒絶理由を包含するものである。
(1)(明確性要件)本件出願は、請求項1の「ある体積を有する処方薬物を注射器内に導入するステップであって、前記処方薬物の前記体積が、前記注射器の容量より大である、前記導入するステップ」は、「注射器の容量」が注射器からどのようにして一義的に決まる容量であるのか明確でなく、「注射器内に導入する」「前記処方薬物の前記体積」がどのような体積であるのか明確でなく、請求項19の「前記注射器内のある体積を有する処方薬物であって、前記処方薬物の前記体積が、前記注射器の容量より大である、前記体積の処方薬物」は、同様の理由で明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(2)(新規性)本願発明19は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用例5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(3)(進歩性)本願発明19は、その出願前日本国内または外国において頒布された引用例5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 令和 6年 7月11日付けで当審が通知した拒絶理由通知で留保するとされた、令和 6年 3月21日付けで当審が通知した拒絶理由は、概略次の拒絶理由を包含するものである。
(1)(進歩性)本願発明1は、その出願前日本国内または外国において頒布された引用例1~3及び5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用例等一覧:
1.米国特許出願公開第2006/0168916号明細書
2.特開2007-143957号公報
3.国際公開第2017/047295号
5.特開2003-52824号公報
第4 当審の判断
1 明確性要件について
本願発明1は、「ある体積を有する処方薬物を注射器内に導入するステップであって、前記処方薬物の前記体積が、前記注射器の容量より大である、前記導入するステップ」「を含む、薬製品の準備方法。」であって、「ある体積を有する処方薬物を注射器内に導入」した時の「前記ストッパ位置は、コネクタを介して前記ストッパに接続されたプランジャロッドが前記本体の長手軸に対して傾けられることが前記本体の前記壁および前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記プランジャロッドの最大傾斜角度までに制限される位置であるとともに前記プランジャロッドの前記最大傾斜角度は、少なくとも前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記ストッパを前記本体の前記壁から引き離して前記処方薬物の前記シールを損なわせるには不十分な角度である」。
すなわち、「ある体積を有する処方薬物」は、その体積が「前記注射器の容量より大であ」り、「コネクタを介して前記ストッパに接続されたプランジャロッドが前記本体の長手軸に対して傾けられることが前記本体の前記壁および前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記プランジャロッドの最大傾斜角度までに制限される位置であるとともに前記プランジャロッドの前記最大傾斜角度は、少なくとも前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記ストッパを前記本体の前記壁から引き離して前記処方薬物の前記シールを損なわせるには不十分な角度である」「ストッパの位置」となる範囲である。
しかし、本願明細書の【0014】に、「容器の「公称の容量(nominal volume)」(「特定の容量(specified volume)」または「特定のキャパシティ(specified capacity)」とも呼ばれる)は、容器の製造業者、または、安全規格の組織によって指定されるような、容器の最大キャパシティに関する。製造業者または安全規格の組織は、容器の公称の容量を特定して、容器をその容量の流体(無菌であるか、無菌ではない)で充填し、閉じることができ、ストッパを付すことができ、消毒することができ、パッケージングすることができ、輸送することができ、及び/または、容器の閉鎖の完全性を維持しつつ、また、内部に包含される流体の安全性、殺菌状態、及び/または殺菌の性質を維持しつつ、使用できることを示す場合がある。容器の公称の容量の判定において、製造業者または安全規格の組織は、通常の充填、閉鎖、ストッパ取付け、パッケージング、輸送、及び投与の手順の間に生じる可変性をも考慮する場合がある。」と記載されているが、上記容器の公称の容量の決定においてどのような試験を行うのか具体的に記載されておらず、「注射器の容量」が、どのように一義的に決まるのか理解できない。
また、令和 6年10月 4日提出の意見書の(1)において、公称の容量は、ISO7886-1に定義されている旨主張するが、当該規格の3.1に「nominal capacity
capacity of the syringe as designated by manufacturer」と記載されており、注射器の形状、構造等から一義的に決定されるものとは、理解できない。
そうすると、「注射器の容量」がどのような量であるのか明確でないから、「注射器の容量より大である」「前記処方薬物の前記体積」は明確でなく、「ある体積を有する処方薬物を注射器内に導入するステップ」は、どのような体積を有する処方薬物を注射器内に導入するステップなのか明確でない。
したがって、本願発明1は、明確でない。
また、本願発明19も同様に、「注射器の容量」が明確でないから、「注射器の容量より大である」「注射器内のある体積を有する処方薬物」が明確でなく、「注射器内のある体積を有する処方薬物」を備えた際の「ストッパの位置」が明確でない。
したがって、本願発明19は、明確でない。
2 新規性・進歩性について
(1)引用例の記載及び引用発明
ア 引用例5の記載
引用例5には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付与した。)
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シリンジ、特に、薬液等の液体を収納したプレフィルドシリンジに関する。
【0002】
【従来の技術】予め薬液等を収納したプレフィルドシリンジが知られている。このプレフィルドシリンジは、外筒と、この外筒内に挿入されたガスケットと、このガスケットに連結されたプランジャ(押し子)とを備え、外筒とガスケットとで囲まれる空間に、薬液が収納(密封)されている。」
(イ)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、プランジャが斜めの姿勢で押圧操作された場合でも、ガスケットの変形を防止し、気密性、液密性を確保することができるプレフィルドシリンジ、特に、小型化に有利で、操作性を損なうことなく前記目的を達成できるプレフィルドシリンジを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】このような目的は、下記(1)~(15)の本発明により達成される。
【0010】(1) 外筒と、前記外筒内で摺動し得るガスケットと、前記ガスケットに連結され、前記ガスケットを移動操作するプランジャとを備え、前記外筒と前記ガスケットとで囲まれる空間に液体が収納されたプレフィルドシリンジであって、前記プランジャの前記ガスケットの近傍に、曲げ応力が作用した際、前記ガスケットの前記外筒内面に作用すべき応力を減じ密着性を損なうことなく弾性変形し、かつその曲げ応力が解除されたらほぼ元の状態に復元するような首部を有することを特徴とするプレフィルドシリンジ。」
(ウ)「【0027】本実施形態のプレフィルドシリンジ(以下単に「シリンジ」と言う)1は、シリンジ内部に予め薬液等の液体が収納されたシリンジであって、外筒(シリンジ外筒)2と、外筒2内で摺動し得るガスケット3と、ガスケット3を移動操作するプランジャ(押し子)4とを備えている。ガスケット3は、プランジャ4の先端に連結されている。
【0028】外筒2は、有底筒状の部材で構成され、底部21の中央部には、外筒2の胴部に対し縮径した縮径部22が一体的に形成されている。この縮径部22には、例えば、針管のハブ(図示せず)、コネクタ類等が嵌合、装着されて使用される。」
(エ)「【0031】また、外筒2の基端外周には、板状のフランジ25が一体的に形成されている。プランジャ4を外筒2に対し相対的に移動操作する際などには、このフランジ25に指を掛けて操作を行うことができる。」
(オ)「【0040】また、ガスケット3には、その基端面に開放する中空部33が形成されている。この中空部33は、後述するプランジャ4のヘッド部が挿入(螺入)される。中空部33の内面には、雌ネジ34が形成されている。」
(カ)「【0085】図17は、本発明のシリンジの第6実施形態におけるプランジャおよびガスケットの構造を示す正面図である。以下、これらの図に基づき、第6実施形態の構成を説明するが、前記第1実施形態等と同様の事項についてはその説明を省略する。
【0086】第6実施形態のシリンジにおけるプランジャ4は、板片47と48とを十文字状に交差させた形状の本体部40を有しており、該本体部40の基端に、フランジ状の指当て部401が形成されている。また、本体部40の先端には、第1のフランジ41が形成されており、前記第1実施形態等のような第2のフランジ42は形成されていない。
【0087】このプランジャ4においては、第1のフランジ41の先端側近傍に首部5が設けられている。すなわち、首部5は、第1のフランジ41とヘッド部43とを連結する棒状の軸部53で構成されている。
【0088】この軸部53が存在することにより、プランジャ4とガスケット3との連結状態、すなわちヘッド部43が中空部33に螺合(嵌合)した状態では、第1のフランジ41の先端面とガスケット3の基端面36とは、密着せず、所定距離離間している。
【0089】図示の構成では、軸部53の断面形状は円形であるが、軸部53の断面形状はこれに限らず、例えば、四角形、六角形、八角形等の多角形や、楕円形など、いかなる形状のものでもよい。また、軸部53は、中実軸のみならず、中空軸であってもよい。
【0090】このような構成の首部5では、軸部53の断面形状や太さ等を適宜設定することにより、所望の曲げ弾性を得ることができる。従って、首部5に曲げ応力が作用した際、首部5の折れ曲がりや破断を有効に防止しつつ、適度に弾性変形することができる。その結果、ガスケット3の姿勢の変化(傾斜等)による隙間の形成が防止され、液漏れを有効に防止することができる。
【0091】本発明のシリンジにおいて、首部5の物理的特性(機械的強度等)は、特に限定されないが、首部5を形成する材料の曲げ弾性率(JIS K 6758)は、500~2000MPa程度であるのが好ましく、800~1500MPa程度であるのがより好ましい。このような範囲であると、特に、首部5の折れ曲がりや破断を有効に防止しつつ、適度に弾性変形して曲げ応力を吸収することができるので、液体7の漏れを防止する効果が高い。
【0092】首部5を形成する材料の引っ張り強度(破断強度、JIS K 6758)は、特に限定されないが、15~50MPa程度であるのが好ましい。このような範囲であると、特に、首部5の折れ曲がりや破断を有効に防止しつつ、適度に弾性変形して曲げ応力を吸収することができるので、液体7の漏れを防止する効果が高い。
【0093】例えば、首部5をポリプロピレンによりプランジャ4と一体的に形成し、その曲げ弾性率(JIS K 6758)を1000MPa程度、引っ張り強度を25MPa程度とすることができる。
【0094】以上、本発明のシリンジを各実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。特に、プランジャの構造、首部の構造、ガスケットの構造等は、図示の構成に限定されず、同様の機能を発揮し得る任意のものとすることができる。
【0095】特に、首部5は、前記各実施形態のものに限らず、弾性変形するよう構成されていれば、いかなる構成のものでもよく、例えば、比較的硬めに形成したバネ(コイルバネ等)のようなものであってもよい。」
(キ)「【図1】
[図:0001421687000001.jpg]
」
(ク)「【図17】
[図:0001421687000002.jpg]
」
イ 引用発明
上記(ア)~(ク)の特に下線部の記載からすれば、引用例5には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「板状のフランジ25が一体的に形成されている外筒(シリンジ外筒)2と、
シリンジ内部に予め収納された薬液等の液体と、
本体部40の先端には、第1のフランジ41が形成されており、
第1のフランジ41とヘッド部43とを棒状の軸部53で構成される首部5で連結するプランジャ4と、
ヘッド部43が螺合(嵌合)する中空部33が形成されたガスケット3と、を備え、
首部5に曲げ応力が作用した際、首部5の折れ曲がりや破断を有効に防止しつつ、適度に弾性変形することができ、その結果、ガスケット3の姿勢の変化(傾斜等)による隙間の形成が防止され、液漏れを有効に防止する、
プレフィルドシリンジ1。」
また、引用例5には、【0002】を参照すると、実質的にシリンジ内部に予め収納される薬液等の液体を外筒(シリンジ外筒)2に導入するステップ、外筒(シリンジ外筒)2にガスケット3を配置するステップを有するプレフィルドシリンジ1の準備方法が記載されているといえるから、引用文献1には次の発明(以下、「引用方法発明」という。)が記載されている。
「シリンジ内部に予め収納される薬液等の液体を外筒(シリンジ外筒)2に導入するステップと、
本体部40の先端には、第1のフランジ41が形成されており、
第1のフランジ41とヘッド部43とを棒状の軸部53で構成される首部5で連結するプランジャ4と、
ヘッド部43が螺合(嵌合)する中空部33が形成されたガスケット3と、を備え、
首部5に曲げ応力が作用した際、首部5の折れ曲がりや破断を有効に防止しつつ、適度に弾性変形することができ、その結果、ガスケット3の姿勢の変化(傾斜等)による隙間の形成が防止され、液漏れを有効に防止するものであって、
外筒(シリンジ外筒)2にガスケット3を配置するステップと、
を含む、プレフィルドシリンジ1の準備方法。」
(2)本願発明19についての対比・判断
ア 対比
(ア)引用発明の「外筒(シリンジ外筒)2」は、【0028】を参照すると、例えば、針管のハブが嵌合、装着されて使用されるものであって、当該外筒2を本体とする注射器と表現できるから、本願発明19の「本体を有する注射器」に相当する。
(イ)引用発明の「シリンジ内部」は、「外筒(シリンジ外筒)2」の内部であるから、引用発明の「シリンジ内部に予め収納された薬液等の液体」と、本願発明19の「前記注射器内のある体積を有する処方薬物であって、前記処方薬物の前記体積が、前記注射器の容量より大である、前記体積の処方薬物」とは、前記注射器内のある体積を有する処方薬物の限りで一致する。
(ウ)引用発明の「本体部40の先端には、第1のフランジ41が形成されており、第1のフランジ41とヘッド部43とを棒状の軸部53で構成される首部5で連結するプランジャ4と、ヘッド部43が螺合(嵌合)する中空部33が形成されたガスケット3」は、【図17】を参照すると、ガスケット3がヘッド部43を介して本体部40に接続されており、本体部40がガスケット3から近位方向に延びていることが明らかであるから、本願発明19の「コネクタを介してプランジャロッドに接続されているストッパであって、前記プランジャロッドが前記ストッパから近位方向に延びている、前記ストッパ」に相当する。
(エ)引用発明の「ガスケット3の姿勢の変化(傾斜等)による隙間の形成が防止され、液漏れを有効に防止する」「ガスケット3」は、ガスケット3が、外筒(シリンジ外筒)2の内壁にフィットするサイズであることが明らかであるから、本願発明19の「前記本体の内部の壁にぴったりとフィットするようにサイズ化され、かつ構成されて」いる「前記ストッパ」に相当する。
(オ)引用発明の「首部5に曲げ応力が作用した際、首部5の折れ曲がりや破断を有効に防止しつつ、適度に弾性変形することができ、その結果、ガスケット3の姿勢の変化(傾斜等)による隙間の形成が防止され、液漏れを有効に防止する」態様は、首部5に曲げ応力が作用した際とは「シリンジ内部に予め収納された薬液等の液体」を「外筒(シリンジ外筒)2」に充填し、かつ「ガスケット3」によってシールされた状態で、「ガスケット3」が「外筒(シリンジ外筒)2」の近位端から遠位側の位置にあることが明らかであって、「ガスケット3」の位置が、「ガスケット3」によって形成されたシールによる液漏れが起こる程度まで、ヘッド部43を介してガスケット3に接続された軸部53がガスケット3を変形させるべく傾かない位置、すなわち軸部53がガスケット3を変形させるべく傾くことを制限する判定された距離であって、前記「外筒(シリンジ外筒)2」の「フランジ25」から遠位側にある判定された距離に基づいて」いることと表現できるから、引用発明の当該態様と、本願発明19の「前記注射器の容量より大である前記体積を有する前記処方薬物が前記注射器に充填されかつ前記ストッパによってシールされた状態にて前記ストッパは、前記注射器の近位端から遠位側にあるストッパ位置に配置され、前記ストッパ位置は、前記ストッパによって形成されたシールを損なう程度まで前記コネクタを介して前記ストッパに接続されたプランジャロッドが前記ストッパを変形させるべく傾くことを制限する判定された距離であって、前記注射器のフランジから遠位側にある判定された距離に基づいて」いる態様とは、前記体積を有する前記処方薬物が前記注射器に充填されかつ前記ストッパによってシールされた状態にて前記ストッパは、前記注射器の近位端から遠位側にあるストッパ位置に配置され、前記ストッパ位置は、前記ストッパによって形成されたシールを損なう程度まで前記コネクタを介して前記ストッパに接続されたプランジャロッドが前記ストッパを変形させるべく傾くことを制限する判定された距離であって、前記注射器のフランジから遠位側にある判定された距離に基づいている態様の限りで一致する。
(カ)引用発明の「首部5に曲げ応力が作用した際、首部5の折れ曲がりや破断を有効に防止しつつ、適度に弾性変形することができ、その結果、ガスケット3の姿勢の変化(傾斜等)による隙間の形成が防止され、液漏れを有効に防止する」態様は、首部5に曲げ応力が作用した際のストッパ3の位置が、本体部40を外筒(シリンジ外筒)2の長手軸に対して傾けることが前記外筒(シリンジ外筒)2の内壁およびヘッド部43の本体部40との接続部分である首部5の弾性変形によってガスケット3の姿勢の変化(傾斜等)による隙間の形成が防止され、液漏れを有効に防止する位置であること、すなわち、少なくとも前記ヘッド部43の前記本体部40との接続部分である首部5の弾性変形によって前記ガスケット3を前記外筒(シリンジ外筒)2の前記壁から引き離して前記シリンジ内部に予め収納された薬液等の液体の前記シールを損なわせるには不十分な角度を最大傾斜角度とした場合に、前記本体部40の前記最大傾斜角度までに制限される位置であると表現できるから、本願発明19の「前記ストッパ位置は、前記プランジャロッドを前記本体の長手軸に対して傾けることが前記本体の前記壁および前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記プランジャロッドの最大傾斜角度までに制限される位置であり、前記プランジャロッドの前記最大傾斜角度は、少なくとも前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記ストッパを前記本体の前記壁から引き離して前記処方薬物の前記シールを損なわせるには不十分な角度である」態様に相当する。
(キ)引用発明の「プレフィルドシリンジ1」は、その作用、構造から、本願発明19の「薬製品」に相当する。
してみれば、本願発明19と引用発明は、以下の一致点で一致し、相違点1で一応相違する。
【一致点】
「本体を有する注射器と、
前記注射器内のある体積を有する処方薬物と、
コネクタを介してプランジャロッドに接続されているストッパであって、前記プランジャロッドが前記ストッパから近位方向に延びている、前記ストッパと、を備え、
前記ストッパは前記本体の内部の壁にぴったりとフィットするようにサイズ化され、かつ構成されており、前記体積を有する前記処方薬物が前記注射器に充填されかつ前記ストッパによってシールされた状態にて前記ストッパは、前記注射器の近位端から遠位側にあるストッパ位置に配置され、前記ストッパ位置は、前記ストッパによって形成されたシールを損なう程度まで前記コネクタを介して前記ストッパに接続されたプランジャロッドが前記ストッパを変形させるべく傾くことを制限する判定された距離であって、前記注射器のフランジから遠位側にある判定された距離に基づいており、
前記ストッパ位置は、前記プランジャロッドを前記本体の長手軸に対して傾けることが前記本体の前記壁および前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記プランジャロッドの最大傾斜角度までに制限される位置であり、前記プランジャロッドの前記最大傾斜角度は、少なくとも前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記ストッパを前記本体の前記壁から引き離して前記処方薬物の前記シールを損なわせるには不十分な角度である、薬製品。」
【相違点1】
本願発明19では、「前記処方薬物の前記体積が、前記注射器の容量より大であ」って、「前記注射器の容量より大である」のに対して、引用発明では、シリンジ内部に予め収納された薬液等の液体の体積がそのように特定されていない点。
上記相違点1について検討する。
「注射器の容量」は、上記1のとおり不明確であるが、注射器の製造業者等によって、適宜決定される量であるとすると、引用発明のシリンジ内部に予め収納された薬液等の液体の体積は、注射器の容量より大であると表現できる。
したがって、上記一応の相違点1は、実質的な相違点でなく、本願発明19は引用発明である。
仮に、相違点1が実質的な相違点であるとしても、プレフィルドシリンジにおいて、製造時の誤差や使用時の安全性を考慮して実際の使用する薬液の量より多く充填すること、及び例えば、引用例2(【0020】)に記載されているように、エア抜きのために規格容量より多い液量を充填することは周知である。
また、注射器の外筒の長さを、少なくとも公称容量より10%多い使用最大容量を許容するものとすることは、通常のことである(厚生省医薬安全局長,”医療事故を防止するための医療用具に関する基準の制定等について(注射筒型手動式医薬品注入器基準等)”,平成12年8月31日,医薬発第888号の別添 6.4.1参照。)。
したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明19の事項とすることは当業者が容易になし得たことである。
そして、本願発明19の奏する効果は、引用発明及び周知の事項から、当業者が予測しうる程度のものであって、格別なものでない。
よって、本願発明19は、引用発明及び周知の事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)小括
以上のとおり、本願発明19は、引用発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定により、または、引用発明及び引用例2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(4)本願発明1についての対比・判断
ア 対比
(ア)引用方法発明の「シリンジ内部に予め収納される薬液等の液体を外筒(シリンジ外筒)2に導入するステップ」と本願発明1の「ある体積を有する処方薬物を注射器内に導入するステップであって、前記処方薬物の前記体積が、前記注射器の容量より大である、前記導入するステップ」とは、ある体積を有する処方薬物を注射器内に導入するステップの限りで一致する。
(イ)引用方法発明の「外筒(シリンジ外筒)2にガスケット3を配置するステップ」は、当然に、配置するガスケット3の位置を決定するステップを有し、当該ガスケット3の位置は、「シリンジ内部に予め収納される薬液等の液体」の高さ及び外筒(シリンジ外筒)2の寸法に基づいて、前記外筒(シリンジ外筒)2内にあり、かつ外筒(シリンジ外筒)2の近位端から遠位にあることが明らかであるから、本願発明1の「前記注射器に導入された前記処方薬物の高さおよび前記注射器の寸法に基づいて、前記注射器内にあり、かつ前記注射器の近位端から遠位にあるストッパ位置を判定するステップ」に相当する。
(ウ)引用方法発明の「外筒(シリンジ外筒)2にガスケット3を配置するステップ」は、「シリンジ内部に予め収納された薬液等の液体を外筒(シリンジ外筒)2に導入するステップ」において導入した薬液等の液体をシールするためであって、上記(イ)の当該ガスケット3の位置で外筒(シリンジ外筒)2内にガスケット3を配置するから、本願発明1の「前記導入するステップにおいて導入された前記処方薬物をシールするために前記判定するステップにおいて判定された前記ストッパ位置で前記注射器内にストッパを配置するステップ」に相当する。
(エ)引用方法発明の「ガスケット3の姿勢の変化(傾斜等)による隙間の形成が防止され、液漏れを有効に防止する」「ガスケット3」は、ガスケット3が、外筒(シリンジ外筒)2の本体の内壁にフィットするサイズであることが明らかであるから、本願発明1の「前記ストッパは前記本体の内部の壁にぴったりとフィットするようにサイズ化され、かつ構成されており」に相当する。
引用方法発明の「外筒(シリンジ外筒)2」は、外筒2が本体としての外筒2を有すると表現できるから、本願発明1の「前記注射器は本体を含」むことに相当する。
引用方法発明の「首部5に曲げ応力が作用した際、首部5の折れ曲がりや破断を有効に防止しつつ、適度に弾性変形することができ、その結果、ガスケット3の姿勢の変化(傾斜等)による隙間の形成が防止され、液漏れを有効に防止する」態様は、首部5に曲げ応力が作用した際のガスケット3の位置が、本体部40を外筒(シリンジ外筒)2の本体の長手軸に対して傾けることが前記外筒(シリンジ外筒)2の内壁およびヘッド部43の本体部40との接続部分である首部5の弾性変形によってガスケット3の姿勢の変化(傾斜等)による隙間の形成が防止され、液漏れを有効に防止する位置であること、すなわち、少なくとも前記ヘッド部43の前記本体部40との接続部分である首部5の弾性変形によって前記ガスケット3を前記外筒(シリンジ外筒)2の前記壁から引き離して前記外筒(シリンジ外筒)2内部に予め収納された薬液等の液体の前記シールを損なわせるには不十分な角度を最大傾斜角度とした場合に、前記本体部40の前記最大傾斜角度までに制限される位置であると表現できるから、本願発明1の「前記ストッパ位置は、コネクタを介して前記ストッパに接続されたプランジャロッドが前記本体の長手軸に対して傾けられることが前記本体の前記壁および前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記プランジャロッドの最大傾斜角度までに制限される位置であるとともに前記プランジャロッドの前記最大傾斜角度は、少なくとも前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記ストッパを前記本体の前記壁から引き離して前記処方薬物の前記シールを損なわせるには不十分な角度である」態様に相当する。
(オ)引用方法発明の「プレフィルドシリンジ1の準備方法」は、その作用、構造から、本願発明1の「薬製品の準備方法」に相当する。
してみれば、本願発明1と引用方法発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
【一致点】
ある体積を有する処方薬物を注射器内に導入するステップと、
前記注射器に導入された前記処方薬物の高さおよび前記注射器の寸法に基づいて、前記注射器内にあり、かつ前記注射器の近位端から遠位にあるストッパ位置を判定するステップと、
前記導入するステップにおいて導入された前記処方薬物をシールするために前記判定するステップにおいて判定された前記ストッパ位置で前記注射器内にストッパを配置するステップであって、前記注射器は本体を含み、前記ストッパは前記本体の内部の壁にぴったりとフィットするようにサイズ化され、かつ構成されており、前記ストッパ位置は、コネクタを介して前記ストッパに接続されたプランジャロッドが前記本体の長手軸に対して傾けられることが前記本体の前記壁および前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記プランジャロッドの最大傾斜角度までに制限される位置であるとともに前記プランジャロッドの前記最大傾斜角度は、少なくとも前記コネクタの前記プランジャロッドとの接続部分の弾性変形によって前記ストッパを前記本体の前記壁から引き離して前記処方薬物の前記シールを損なわせるには不十分な角度である、前記配置するステップと、
を含む、薬製品の準備方法。」
【相違点2】
本願発明1では、「前記処方薬物の前記体積が、前記注射器の容量より大である」のに対して、引用方法発明では、シリンジ内部に予め収納される薬液等の液体がそのように特定されていない点。
【相違点3】
本願発明1では、「前記ストッパを配置することには、前記ストッパに真空を印加することが含まれ」るのに対して、引用方法発明では、そのように特定されていない点。
イ 判断
上記相違点2について検討する。
「注射器の容量」は、上記1のとおり不明確であるが、注射器の製造業者等によって、適宜決定される量であるとすると、引用方法発明のシリンジ内部に予め収納される薬液等の液体の体積は、注射器の容量より大であると表現できる。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点でない。
仮に、相違点2が実質的な相違点であるとしても、プレフィルドシリンジにおいて、製造時の誤差や使用時の安全性を考慮して実際の使用する薬液の量より多く充填すること、及び例えば、引用例2(【0020】)に記載されているように、エア抜きのために規格容量より多い液量を充填することは周知である。
また、注射器の外筒の長さを、少なくとも公称容量より10%多い使用最大容量を許容するものとすることは、通常のことである(厚生省医薬安全局長,”医療事故を防止するための医療用具に関する基準の制定等について(注射筒型手動式医薬品注入器基準等)”,平成12年8月31日,医薬発第888号の別添 6.4.1参照。)。
したがって、引用方法発明において、上記相違点2に係る本願発明1の事項とすることは当業者が容易になし得たことである。
上記相違点3について検討する。
充填において、ストッパを配置する際に、ストッパに真空を印加することは、周知(引用文献1の[0016]、引用文献3の[0003]参照。)である。
したがって、引用方法発明において、前記周知の事項を適用して、上記相違点3に係る本願発明1の事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明1の奏する効果は、引用方法発明及び周知の事項から、当業者が想到しうる程度のものであって、格別なものでない。
(5)小括
以上のとおり、本願発明1は、引用方法発明及び周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第5 むすび
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-000610