特許拒絶査定不服審判
2023-000306
リプログラミングT細胞および造血細胞
- 審判番号
- 2023-000306
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-160507
- 請求日
- 2023年01月10日
- 審決日
- 2024年08月27日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】フジフィルム セルラー ダイナミクス,インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人特許事務所サイクス
- 審判長/審判官
- 審判長 福井 悟
- 審判官 小暮 道明
- 審判官 小金井 悟
- 分類
- P18 .562-Z (C12N) / P18 .121-Z (C12N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第3項、特許法第159条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-160507「リプログラミングT細胞および造血細胞」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 1月 7日出願公開、特開2021- 131〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成22年6月4日(パリ条約による優先権主張 2009年6月5日、2009年9月4日、いずれも米国)を国際出願日とする特願2012-514169号の一部を新たな特許出願とした特願2017-052542号の一部をさらに新たな特許出願とした特願2018-138432号の一部をさらに新たな特許出願としたものであって、その手続の主な経緯は次のとおりである。
令和2年 9月25日 翻訳文提出書
令和2年10月23日 手続補正書
令和3年11月22日付け 拒絶理由通知書
令和4年 5月24日 意見書・手続補正書
同年 9月12日付け 拒絶査定
令和5年 1月10日 審判請求書・手続補正書
第2 令和5年1月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年1月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は補正箇所である。)。
「【請求項1】
CD34+造血始原細胞から人工多能性幹(iPS)細胞を作製する方法であって、
(a)CD34+造血始原細胞の増大を可能にする1つ以上のサイトカインと共に低接着プレートを用いた接着培養においてin vitroで培養して、その中で前記CD34+造血始原細胞の集団を増大させている精製されたCD34+造血始原細胞を含む細胞集団を入手する工程であって、前記CD34+造血始原細胞が、末梢血単核細胞(PBMC)から精製されたものであり、前記末梢血単核細胞が、健常なヒト被験体の末梢血サンプルから単離されたものであり、前記健常なヒト被験体の細胞が、外的に加えられる因子で動員されていない、工程と、
(b)Oct4およびSox2、ならびにcMyc、Klf4、NanogおよびLin28から選択されるリプログラミング因子の少なくとも2つをコードする1つ以上の発現カセットを含む1つ以上のエピソーム複製ベクターの導入を介して前記細胞集団の前記CD34+造血始原細胞からiPS細胞を産生させて、組み込まれた外来性ウイルス要素を本質的に含まないiPS細胞集団を提供する工程であって、前記1つ以上の発現カセットは、少なくとも2つのリプログラミング因子を含むポリシストロニック転写単位を少なくとも含む、工程、
を含む、方法。」
(2)本件補正の適否について
ア 本件補正前の請求項1には「(a)CD34+造血始原細胞の増大を可能にする1つ以上のサイトカインと共にin vitroで培養」と記載されていたところ、上記(1)のとおり、本件補正後の請求項1には「(a)CD34+造血始原細胞の増大を可能にする1つ以上のサイトカインと共に低接着プレートを用いた接着培養においてin vitroで培養」と記載されているので、本件補正は、CD34+造血始原細胞を低接着プレートを用いた接着培養において培養するとの事項を追加することを含むものである。
イ 翻訳文等の記載
令和2年9月25日に提出された外国語書面の翻訳文(外国語による明細書、特許請求の範囲及び図面の翻訳文。以下、これらをまとめて「翻訳文等」あるいは「本願明細書等」という。)の段落【0354】には「…CD34+細胞のMACS分離を行った。CD34+MACS精製細胞の画分をFACS分析のために収集し、残った細胞を、以下に示すCD34+細胞増大培地を用いて低接着6ウェルプレートに再プレーティングした。…」と記載され、また、同【0358】には「…富化CD34+細胞画分を収集する。FACS分析のために富化集団の画分を収集する。CD34+細胞増大培地を用いて低接着6ウェルプレートに残った細胞を再プレーティングする。…」と記載されていることから、CD34+造血始原細胞を低接着プレートを用いて培養するとの事項は翻訳文等に記載されているといえる。
しかし、CD34+造血始原細胞を「接着培養」において培養するとの事項は翻訳文等に明記されていない。
ウ 技術常識について
下記第3の4(11)に示す引用文献12には「精製されたCD34+造血前駆細胞を、…7日間培養し、その後、非接着細胞を2つのグループに分けた。…グループA…の細胞は4種類のサイトカインとともにさらに7日間培養し、…グループB…の細胞はG-CSFのみとともにさらに7日間培養した。14日目には、非接着細胞の数がグループAで220倍、グループBで130倍増加した。…」(摘記事項(12ア))と記載され、また、下記第3の4(12)に示す引用文献15には「…ヒトCD34陽性造血系幹細胞は通常浮遊培養で増殖するために、…造血系幹細胞培地(HPGM)で培養することが必要である。微粒子コーティング24ウェル組織培養プレートにCD34陽性造血系幹細胞を播種し、…無血清HPGM培地で6日間浮遊培養し、…。」(摘記事項(15ア))と記載されるように、血液に由来するCD34+細胞を培養させる際には「浮遊培養」することが本願出願日当時の技術常識である。
また、下記第3の4(13)に示す引用文献16には「細胞低接着表面及び細胞低接着容器で重要な事は、基材から細胞に対する刺激を抑える事であり、本発明においては…細胞がより完全な浮遊状態で培養できる細胞低接着表面を達成している。」(摘記事項(16ア))と記載され、そして、下記第3の4(14)に示す引用文献17には「…まず、腸管細胞を適当な媒体中、低接着性の培養容器上で浮遊培養する。…低接着性の培養容器としては、通常、当分野で用いられている培養容器に低接着性となるような処理を施したものが例示される。培養容器としては、…市販されているものを用いることもできる。」(摘記事項(17ア))と記載され、さらに、下記第3の4(15)に示す引用文献18には「…脂肪前駆細胞の培養は、…低接着培養皿内で当該脂肪前駆細胞を浮遊させた状態で実施してもよい。」と記載されるように、低接着の培養容器は「浮遊培養」で使用されるものであることが本願出願日当時の技術常識である。
エ 本件補正の適否について
上記ウで示した本願出願日当時の技術常識からみて、当業者は、上記イで示した翻訳文等に記載されたCD34+造血始原細胞を低接着プレートを用いて培養するとの事項を、CD34+造血始原細胞を低接着プレートを用いて「浮遊培養」するとの事項と理解するから、翻訳文等に当該細胞を低接着プレートを用いて「接着培養」するとの事項が記載されてあったとは認められない。
したがって、CD34+造血始原細胞を低接着プレートを用いた「接着培養」において培養するとの事項を含む本件補正は、翻訳文等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、翻訳文等に記載された事項の範囲内においてするものであるとは認められない。
2 請求人の主張について
審判請求人(以下「請求人」という。)は、上記1(2)イで示した翻訳文等の段落【0354】の「CD34+細胞増大培地を用いて低接着6ウェルプレートに再プレーティングした。」との記載、及び同【0358】の「CD34+細胞増大培地を用いて低接着6ウェルプレートに残った細胞を再プレーティングする。」との記載の「再プレーティング」との記載から、「接着培養」であることが理解できる旨を主張する。
しかし、「プレーティング」なる文言は、「プレートの中に播種する」程度の意味を有するに過ぎず、上記1(2)ウで示した本願出願日当時の技術常識に基づく、CD34+造血始原細胞を「浮遊培養」することとは異なる、当該細胞を「接着培養」することを示す文言であると、当業者が理解し得る根拠にはなり得ないから、上記請求人の主張は採用できない。
3 むすび
以上のとおり、本件補正は、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないから、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に適合しない。
したがって、本件補正は、特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり本件補正は却下されたので、本願の請求項1~19に係る発明は、令和4年5月24日にされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1~19に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】
CD34+造血始原細胞から人工多能性幹(iPS)細胞を作製する方法であって、
(a)CD34+造血始原細胞の増大を可能にする1つ以上のサイトカインと共に低接着条件下でin vitroで培養して、その中で前記CD34+造血始原細胞の集団を増大させている精製されたCD34+造血始原細胞を含む細胞集団を入手する工程であって、前記CD34+造血始原細胞が、末梢血単核細胞(PBMC)から精製されたものであり、前記末梢血単核細胞が、ヒト被験体の末梢血サンプルから単離されたものであり、前記ヒト被験体の細胞が、外的に加えられる因子で動員されていない、工程と、
(b)Oct4およびSox2、ならびにcMyc、Klf4、NanogおよびLin28から選択されるリプログラミング因子の少なくとも2つをコードする1つ以上の発現カセットを含む1つ以上のエピソーム複製ベクターの導入を介して前記細胞集団の前記CD34+造血始原細胞からiPS細胞を産生させて、組み込まれた外来性ウイルス要素を本質的に含まないiPS細胞集団を提供する工程であって、前記1つ以上の発現カセットは、少なくとも2つのリプログラミング因子を含むポリシストロニック転写単位を少なくとも含む、工程、
を含む、方法。」
2 原査定における理由の概要
令和4年9月12日付け拒絶査定(以下「原査定」という。)の理由は、令和3年11月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由1であって、本願の請求項1~19に係る発明は、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1~14に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
3 本願の優先権主張について
本願の請求項1~19に係る発明は、CD34+造血始原細胞からiPS細胞を作製する方法に係る発明であるが、CD34+造血始原細胞からiPS細胞を作製することについては、本願の第1の優先権主張の基礎となる米国出願第184546号(2009年6月5日出願)の明細書には記載されておらず、本願の第2の優先権主張の基礎となる米国出願第240116号(2009年9月4日出願)の明細書においてはじめて記載されたものであるので、本願の請求項1~19に係る発明については、本願の第2の優先権主張日(以下「本願優先日」という。)である2009年9月4日を進歩性の基準日として判断を行う。
4 引用文献の記載事項
(1)引用文献1
原査定で引用文献1として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるBlood(2009.May)Vol.113,No.22,p.5476~5479には、次の事項が記載されている(英語で記載されているため、当審による日本語訳で摘記する。また、下線は当審による。)。
(1ア)「ヒト血液からの人工多能性幹細胞の作製」(表題)
(1イ)「皮膚生検によって得られたヒト真皮線維芽細胞は、限定された転写因子の異所性発現によって多能性へと直接リプログラムすることができる。ここでは、OCT4/SOX2/KLF4/MYCのレトロウイルス形質導入を用いた、CD34+動員ヒト末梢血細胞からの人工多能性幹細胞の誘導について記述する。血液由来のヒト誘導多能性幹細胞は、形態学、表面抗原の発現、多能性関連転写因子、多能性細胞特異的遺伝子におけるDNAメチル化状態、及びin vitroや奇形腫における分化能力に関してヒト胚性幹細胞と区別できない。ヒト血液から細胞のリプログラムが可能になれば、疾患を起こす体細胞突然変異が造血系細胞に限定される疾患患者特有の幹細胞の生成が可能になる。」(要約)
(1ウ)「方法
詳細な方法は、ドキュメントS1(Bloodウェブサイトで入手可能、オンライン記事の上部にある補足資料のリンクを参照)に含まれている。簡潔には、Allcells(Emeryville、CA)から入手した動員された末梢血細胞は、26歳の男性ドナーから収集され、CD34+細胞(mPB014F)を単離した。以前に公表された方法9から改変されたプロトコルを使用して、CD34 iPS細胞の作製を行った。」(5476頁右欄1~7行)
(1エ)「結果及び考察
…骨髄採取に関連するリスクを回避するため10に、末梢血から単離した動員されたCD34+造血幹細胞/前駆細胞を得た11。レトロウイルス構築物の組み込み及び発現は、標的細胞の有糸分裂を必要とするので、我々はまず、CD34+細胞をhSCF、hFlt3L及びIL-3サイトカインの組み合わせと共にin vitroで培養して12、CD34+細胞を数桁のオーダーで増殖及び増大させた(図1A、B、S1A)。6日間の培養期間の過程にわたるフローサイトメトリー分析により、CD34+/CD38-造血前駆細胞のパーセンテージの漸進的減少及び分化した表現型(CD14、CD15;図S1B、C)を有する細胞のパーセンテージの同時的な増加を示した。分化細胞又は成熟細胞の割合が高いと、造血前駆細胞の増大能に対して強い抑制効果が生じる13。したがって、我々は、大部分の細胞が依然としてCD34を発現しており、活発に増殖していた培養の4日目に、CD34+細胞のウイルス形質導入を行った(図S1)。形質導入の3日後、細胞を回収し、フィーダーMEF細胞上にプレーティングした(図1A)。10ng/mLの塩基性線維芽細胞成長因子を補充したヒトES(hES)細胞培地を5日目に添加した(図1A)。我々は、形質導入の約14日後に初めてコロニーを検出した。ほとんどがhES細胞特性を有さない顆粒化細胞クラスターに発達し(図1C)、その他の細胞はhES細胞に特徴的な明瞭な丸いエッジを有する平坦でコンパクトな形態を示した(図1D)。我々は、5×104個のCD34+細胞から、常に約5~10個のhES細胞様コロニーを観察した(3回の独立した実験からのデータ)。…全部で、8個の独立したGfp-コロ二ーを選んで増大し、2つの系統、CD34 iPS1及びCD34 iPS2について十分に特性解析した。」(5476頁右欄8行~5477頁右欄4行)
(1オ)「細胞培養。 動員された末梢血CD34+細胞(Allcells、mPB014F)を、hSCF(100ng/ml)、hFlt3L(100ng/ml)及びインターロイキン-3(20ng/ml)(Peprotech)を補充した、15%ウシ胎仔血清(StemCell Technologies)を含むIMDM(Invitrogen)中で維持した。4日間培養で増殖させたCD34+細胞を、レトロウイルス形質導入に使用した。胚様体を形成するために、コンフルエントな未分化CD34 iPS細胞を、ストリップに機械的にこすり付け、20%ウシ胎仔血清(StemCell Technologies)、0.1mM非必須アミノ酸(Invitrogen)、1mM L-グルタミン(Invitrogen)、50μg/mlアスコルビン酸(Sigma)、2mg/mlヒトホロトランスフェリン(Sigma)及び0.1mM b-メルカプトエタノール(Sigma)を補充した、ノックアウトDMEM(Invitrogen)からなる分化培地中で6ウェル低接触プレートに移した。
…
CD34+細胞採取。 供給者(Allcells、CA、USA)に従い、動員された末梢血から以下のように入手した。ドナーを、Amgenで製造されたNeupogen(G-CSF)で3日間5μ/kg/日の容量で注射した。4日目に、7血液容量のアフェレーシスを、Cobeアフェレーシス装置で実施し、300mlの血液を採取した。この採取物の総細胞数は、3.4×1010であり、CD34+細胞の収量は~1%であった。リプログラミング実験は、リプログラミング因子を保有するウイルスで感染させる前に4日間培養で増殖させた、5×104のCD34+細胞で行った。
…
レトロウイルス作製及びヒトiPS細胞誘導。 ヒトOCT4、SOX2、KLF4、及びMYCレトロウイルスベクターは、線維芽細胞のリプログラミングのために以前使用された1。15cmプレート中の293T細胞に、6.25μgのレトロウイルスベクター、0.75μgのVSV-Gベクター及び5.625μgのGag-PolベクターをFUGENE6試薬を用いてトランスフェクトした。トランスフェクションの3日後、上清を0.45μm酢酸セルロースフィルターで濾過し、23,000rpmで90分間の遠心分離により濃縮し、使用するまで-80℃で保存した。形質導入は、記載されているように2フィブロネクチンフラグメントCH-296(レトロネクチン;タカラ酒造、大津、日本)でコーティングされた6マルチウェルプレート中のCD34+細胞上で行った。MOI(感染多重度)5でウイルスを加え、12時間後に感染を繰り返した。各感染の間、細胞を1,300rpmで1.5時間遠心分離した。感染の3日後、細胞をマウス胚線維芽細胞(MEF)で予め播種したプレートに分割した。感染の5日後に培地をヒトES培地に交換した。
…
フローサイトメトリー。 動員された末梢血CD34+細胞は、20分間氷上でPBS/1%BSA中で異なる抗体で染色して2、4、及び6日間培養した後で採取した。BDバイオサイエンス(San Jose、CA)からの抗体は、PEコンジュゲートCD34(クローン563)、APCコンジュゲートCD45(クローンHI30)、FITCコンジュゲートCD38(クローンHB7)、及びFITCコンジュゲートCD15(クローンHI98)を含み、Caltag/Invitrogen(Carlsbad、CA)からの抗体は、FITCコンジュゲートCD14(クローンTUK4)を含んだ。細胞は、5レーザーLSR-II(BDバイオサイエンス、San Jose、CA)で分析し、死んだ細胞は、ヨウ化プロピジウム染色で除いた。
…」(補足資料)
(2)引用文献2
原査定で引用文献2として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるNat.Genet.(published online Aug.2009)Vol.41,No.9,p.968~976には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、当審による日本語訳で摘記する。)。
(2ア)「ヒト造血前駆細胞が等しくiPS細胞にリプログラミングすることができるかを試すために、我々は、rtTAを発現するレンチウイルス構築物(補足の図6)と同様にドキシサイクリン制御下でOct4、Sox2、Klf4及びcMycを発現するヒトポリシストロニックベクターに、CD34+臍帯血前駆細胞を感染させた。…この実験は、ヒト造血前駆細胞からiPS細胞を誘導する原理の証明を提供する。」(973頁右欄20~32行)
(2イ)「CD34+臍帯血前駆細胞からのヒトiPS細胞の誘導 ヒトCD34+臍帯血細胞は、STEMCELL Technologiesから購入し、StemSpan CC100サイトカインカクテル(STEMCELL Technologies)で補充したStemSpan血清不含増大培地(SFEM)で(解凍後)24時間培養した。我々は、最近記述されたマウスポリシストロニックレンチウイルスベクターと同じく、Oct4、Sox2、Klf4及びcMycのヒトcDNAを発現するポリシストロニックレンチウイルスに、1×105細胞を丸底96穴プレートで感染させた。」(「オンライン方法」の項)
(3)引用文献3
原査定で引用文献3として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるScience(2009.May)Vol.324,No.5928,p.797~801には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、当審による日本語訳で摘記する。また、下線は当審による。)。
(3ア)「ベクター及び導入遺伝子配列を含まないヒト人工多能性幹細胞」(表題)
(3イ)「分化したヒト細胞を人工多能性幹(iPS)細胞にリプログラミングすることは、基礎生物学、薬剤開発、及び移植に応用されている。ヒトiPS細胞誘導には、以前はゲノムに組み込まれるベクターが必要であり、これは変異を作出し、研究及び臨床応用の両方において細胞の有効性を制限し得る。我々は、非組み込みエピソームベクターの使用によるヒトiPS細胞の誘導を記載する。エピソームの除去後、増殖及び発生能においてヒト胚性幹(ES)細胞に類似した、ベクター及び導入遺伝子配列を完全に含まないiPS細胞が誘導される。これらの結果は、ヒト体細胞のリプログラミングが、外因性リプログラミング因子のゲノムへの組み込み又は継続的な存在を必要とせず、ヒトiPS細胞の臨床応用への障害の一つを除去することを実証する。」(要約)
(3ウ)「OCT4、SOX2、NANOG及びLIN28は、ヒトの胚性、新生児及び成人の線維芽細胞をiPS細胞にリプログラミングするのに十分であるが(2、16)、リプログラミング効率は低い(新生児包皮線維芽細胞について0.01%未満)(2)。安定なトランスフェクション効率は、我々のレンチウイルスベクターよりもほぼ二桁低いため、このように低い効率ではoriP/EBNA1によるベクターを用いたリプログラミングを困難にする(2)。そのため、我々はまず、レンチウイルスベクターを使用してリプログラミング効率を向上させた。OCT4及びSOX2を共発現するために異なるリンカーを試験することにより、我々は、内部リボソーム進入部位2(IRES2)がより高いリプログラミング効率を維持することを見出した(図S1、A及びB)。リンカーは、NANOG及びLIN28を共発現させるために使用した場合、リプログラミング効率に対する影響が小さいので(図S1B)、リプログラミング因子を共発現させるためにIRES2を選択した。OCT4、SOX2、NANOG及びLIN28のIRES2媒介性発現を使用して、我々は、ヒト包皮線維芽細胞についてのリプログラミング効率を、我々が以前に報告したものよりも約10倍(~約0.1%)向上させた(図S1C)。c-Myc及びKLF4を追加することで、リプログラミング効率は、これらの細胞について我々が達成した最高の効率である1%超へと、さらに向上した(図S1C)(17)。そのため、我々は、共発現のためにIRES2を使用して、6個全てのリプログラミング因子(OCT4、SOX2、NANOG、LIN28、c-Myc及びKLF4)をoriP/EBNA1ベクターにクローニングした。」(798頁左欄下から9行~右欄5行)
(3エ)「エピソームベクター中の6個のリプログラミング遺伝子を用いた最初の試験では、ヒトiPS細胞コロニーは得られなかった(表S2)。この遺伝子の組合せでは、おそらく高いc-Myc発現の毒性効果のために、トランスフェクション後の1週間の間に実質的な細胞死が観察された(18)。c-Myc発現の毒性効果を打ち消すために、我々は、いくつかの組合せにSV40ラージT遺伝子(SV40LT)を含ませた(19)。これらの組合せは全てOCT4、SOX2、NANOG、LIN28、c-Myc、KLF4及びSV40LTを含み、その組合せのうち3つが、oriP/EBNA1によるベクターを用いてヒト包皮線維芽細胞からiPS細胞を作製することに成功した(図1A、図S2D及び表S2)。それぞれの成功した組合せの中の少なくとも2つのプラスミドはOCT4及びSOX2を発現し、このことは、これらの導入遺伝子の高い発現がリプログラミングを向上させるという観察と一致する。これらの組合せのうち2つに由来するクローン(実験3から19、実験4から6及び表S2)を増大及び分析のために選択した。これらのiPS細胞コロニーは、典型的なヒトES細胞形態(例えば、小型のコロニー、高い核対細胞質比、及び顕著な核)を示し(図1B)、ヒトES細胞株と非常に類似した遺伝子発現プロフィールを示したが、親の線維芽細胞とは類似していなかった(図1C及び表S3)。これらのiPS細胞は、免疫減弱化マウスに注射した場合に、ヒトES細胞と同様に、3つ全ての一次胚葉の分化派生物からなる奇形種を形成した(図1D)。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析では、ゲノム中のエピソームベクターの組み込みは検出されなかったが、ベクターはエピソーム画分中に残ることが検出された(図1E)。エピソームベクターの持続性は、長期の導入遺伝子発現がリプログラミングの成功に必要なことを示唆する。」(798頁右欄12行~800頁左欄7行)
(3オ)「
[図:0001418527000001.jpg]
」(図1A)
(4)引用文献4
原査定で拒引用文献4として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2009/032456号には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、当審による日本語訳で摘記する。また、下線は当審による。)。
(4ア)「1.リプログラムされた細胞を産生する方法であって、
被験体から細胞を単離し、
少なくとも1つの多能性因子をウイルスを使用しないで細胞に導入し、リプログラムされた細胞を産生し、
リプログラムされた細胞の5%以上の細胞が、Oct-4、Nanog、SSEA-3、SSEA-4、TRA1-60、Stella、アルカリフォスファターゼ、VASA、cRET及びRex-1からなる群から選択される少なくとも1つの胚性幹細胞マーカーを発現しているかを決定する、ステップを含む方法。
…
7.前記細胞が、体細胞、生殖細胞及び生後幹細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。」(特許請求の範囲)
(4イ)「…本方法に有用な成人体細胞の代表例は、繊維芽細胞、上皮細胞のような外胚葉細胞、骨髄細胞、CD34+末梢血幹細胞、心筋細胞、筋細胞、血管平滑筋細胞、肝細胞、腎細胞のような中胚葉組織細胞、血管内皮細胞のような内胚葉上皮細胞を含む。」([00105])
(5)引用文献5の記載
原査定で引用文献5として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるNat.Protoc.(2006)Vol.1,No.4,p.2178~2183には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、当審による日本語訳で摘記する。また、下線は当審による。)。
(5ア)「本プロトコルは、幹細胞動員処置を使用せずに、正常ドナー由来の末梢血細胞から相当数のヒト肥満細胞を得るための方法を詳述する。磁気セル・ソーティング・システムを用いることによって、健常ドナーから100m1の血液を採取した場合に、104~105細胞がCD34+画分に回収される。これらの細胞を、幹細胞因子及びインターロイキン6を補充したメチルセルロース培地を使用して培養する場合、103~104の肥満細胞コロニーが6週間で形成される。培養6週間での総肥満細胞数は、106~107である。」(要約)
(5イ)「手順
1日目
1 100mlのヒト末梢血を、各々がPBS中に5mlの100mM EDTAを含む2つの50mlシリンジに回収する。
重要工程 本プロトコルには、新しい(4時間以内)試料が必要である。
注意 本研究の被験体は、本研究所の倫理検査評議会により承認された書面のインフォームドコンセントを提出するべきである。
2 2容量(100ml)のPBSで細胞を希釈する。
3 50mlコニカルチューブ中で13mlのリンパ球分離培地(1.077密度)上に33mlの希釈した細胞懸濁液を重ね、ブレーキをかけずにスイングバケットローター中で室温(24℃)で400gで30分遠心分離する。
4 界面の細胞(単核細胞画分)を回収し、6つの新しい50mlコニカルチューブに移す。
5 6つのコニカルチューブをPBSで満たし、室温で400gで10分遠心分離する。
6 上清を捨て、各細胞ペレットを5mlのPBSに再懸濁する。6つのチューブから細胞懸濁液を回収し、1つの50mlコニカルチューブに移し、4℃で400gで10分遠心分離する。
7 細胞ペレットを20mlの溶血性溶液中に再懸濁し、赤血球を破壊する。3分後、チューブを製造業者のMACSリンス緩衝液(2mM EDTAを含むPBS)で満たし、室温で400gで10分遠心分離する。
8 細胞ペレットを40mlのMACSリンス緩衝液に再懸濁し、細胞数を計数し、4℃で500gで4分遠心分離する。
9 細胞ペレットを108の総細胞あたり300μlのMACSリンス緩衝液の最終容量に再懸濁する。我々は、通常、100mlの血液から108の末梢血単核細胞を得る。
10 108の総細胞あたり100μlのFcRブロッキング試薬を細胞懸濁液に添加し、非標的細胞へのCD34 MicroBeadsの非特異的またはFcレセプター媒介性結合を阻害する。
MicroBeadsでの細胞の標識
11 MicroBeadsでの細胞の標識には、2つのオプション(細胞のポジティブ選択またはネガティブ選択)が利用可能である。
(A)CD34+細胞のポジティブ選択
(i)108の総細胞あたり100μlのCD34 MicroBeadsを添加し、ウェルを混合し(10分ごとに指でチューブをたたく)、4℃で30分インキュベートすることにより細胞を標識する。
(B)系統陰性細胞のネガティブ選択
(i)CD4、CD8、CD11b、CD14、CD16及びCD19のMicroBeads(108の総細胞あたり各々100μl)を添加し、ウェルを混合し(10分ごとに指でチューブをたたく)、4℃で30分インキュベートすることにより細胞を標識する。
12 4℃で500gで4分遠心分離することにより、40mlのMACSランニング緩衝液で細胞を2回洗浄する。
13 1×108の総細胞あたり5mlのMACSランニング緩衝液で細胞を再懸濁する。
14 細胞を30μmナイロンメッシュに通し、凝集塊を除去する。使用前にMACS緩衝液でメッシュを湿らせる。
前駆細胞の分離
15 前駆細胞を、autoMACSを使用してポジティブ選択(オプションA)若しくはネガティブ選択(オプションB)、又はLSカラムを用いたSuperMACS IIを使用するポジティブ選択(オプションC)若しくはCSカラムを用いたSuperMACS IIを使用するネガティブ選択(オプションD)のいずれかにより、細胞懸濁液から単離し得る。
(A)autoMACSセパレーターを使用するCD34+細胞のポジティブ選択
(i)ポジティブ選択のためにPossel-D2プログラムを選択することにより、細胞をautoMACSカラムにアプライし、細胞をカラムに通過させ、緩衝液で洗浄する。
(B)autoMACSセパレーターを使用する系統陰性細胞ネガティブ選択
(i)Depl-05プログラムを選択することにより、細胞をautoMACSカラムにアプライし、細胞をカラムに通過させ、緩衝液で洗浄する。
(C)LSカラムを用いたSuperMACS IIを使用するポジティブ選択
(i)1×108細胞をMACS LSカラムにアプライし、細胞をカラムに通過させ、緩衝液で洗浄する(詳細なプロトコルについては、製造業者のウェブページ:http:/www.miltenyibiotec.com/を参照)。簡単に、磁力での反応の後、セパレーターからカラムを取り外し、カラムを適切なチューブに配置し、カラムの上部に緩衝液をピペットする。カラムを供給したプランジャーを使用することにより圧力で残存細胞を確実に洗い出すことによりCD34+細胞を回収する。
(D)CSカラムを用いたSuperMACS IIを使用するネガティブ選択
(i)CD4、CD8、CD11b、CD14、CD16及びCD19のMicroBeadsで標識した最大108細胞をCSカラム(ネガティブ選択のために指定される)にアプライする。セパレーターからカラムを取り外す前に、系統陰性細胞を、カラムの上部に緩衝液を繰り返しアプライすることにより完全に回収するべきである。
重要工程 多すぎる細胞をアプライすると標的細胞の回収に影響するので、MACSカラムにアプライする細胞数は重要である。本プロトコルにおける最適細胞数は、108~2×108である。また、カラムの使用期限の確認も必要である。
16 CD34+細胞または系統陰性細胞を回収し、4℃で500gで4分で2回基本培養培地で洗浄する。」(2179頁下から25行~2180頁29行)
(6)引用文献6
原査定で引用文献6として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるBlood(1995)Vol.86,No.1,p.141~146には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、当審による日本語訳で摘記する。)。
(6ア)「我々は、臨床的に許容できるレトロウイルス上清形質導入プロトコルを用いて、ゴーシェ病患者由来の非動員末梢血(PB)CD34+細胞に高効率遺伝子導入を達成した。」(要約左欄1~4行)
(6イ)「CD34+細胞の単離 形質導入実験は、インフォームドコンセント及び研究所審査会の承認後の、正常志願者又はゴーシェ病患者から得られたPB又はBM細胞を用いて行われた。PB細胞は、Fenwall CS3000血液細胞分離装置(バクスター ヘルスケア、Inc、ディアフィールド、IL)を用いて、8~10Lのアフェレーシスにより、動員せずに集められた。…
PB又はBMからの単核(MN)細胞は、製造者の使用説明書に従って、研究室規模のCeprate LC細胞分離システム又は臨床規模のCeprate幹細胞濃縮装置(CellPro Inc、ボセル、WA)を用いて、CD34+細胞を濃縮した。」(142頁左欄10~22行)
(7)引用文献7
原査定で引用文献7として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるStem Cells(2006)Vol.24,p.333~336には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、当審による日本語訳で摘記する。)。
(7ア)「…我々は、6人のAMI患者において動員せずに末梢血CD34+細胞の単離をこころみた。大容量細胞吸着及びCD34+細胞のポジティブ選択後、360~2760万個のCD34+細胞が得られた。」(要約左欄4~8行)
(7イ)「CD34+細胞濃縮 自己末梢血HSCは、Cobe Spectra細胞分離装置で実施される大容量(15~20L)細胞吸着後に得られた。CD34+細胞のポジティブ選択は、バクスターIsolex 300i医療機器で実施した。選択した細胞は、約20時間4℃で維持した後、標識した。」(334頁左欄30~35行)
(8)引用文献8
原査定で引用文献8として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるBone Marrow Transplant.(2007)Vol.39,p.577~588には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、当審による日本語訳で摘記する。)。
(8ア)「しかし、G-CSF動員には、いくつかの重大な副作用が伴うことがあり、数日の投与レジメンが要求される。」(要約5~7行)
(9)引用文献9
原査定で引用文献9として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2006-342131号公報には、以下の事項が記載されている。
(9ア)「G-CSF製剤はタンパク質製剤であるため、経済的に負担が大きい。また、造血幹・前駆細胞の骨髄から末梢血への動員剤としてG-CSF製剤を使用する場合、入院で連日最低4日間の投与が必要であり、骨痛、発熱、頭痛等の副作用が報告されている。また、健常人ドナーの約10%で造血幹・前駆細胞の動員効果が低いといわれており、移植に十分な造血幹・前駆細胞を採取するのは困難である。さらに、白血球増加剤としての使用は、頻回投与が必要であり、患者及び医師は苦痛と負担を強いられてきた。」(【0005】)
(10)引用文献10
原査定で引用文献10として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2006-67858号公報には、以下の事項が記載されている。
(10ア)「最近、骨髄に代わる造血幹細胞源として末梢血がしばしば用いられている。造血幹細胞を含むCD34陽性細胞は、健常人の末梢血にはごく少数しか存在していないが、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を連続投与すると骨髄から末梢血に動員される。このG-CSFの連続投与によって造血幹細胞を動員した末梢血から、血液成分分離装置を用いて末梢血造血幹細胞/造血前駆細胞が採取され、移植に用いられている。しかし、この末梢血幹細胞移植は、G-CSFをドナーに投与する必要があり、それに伴う副作用などドナーへの負担が大きい。また、G-CSF投与により骨髄から末梢血への造血幹細胞の動員が増えるとはいえ、その効率は低い。」(【0003】)
(11)引用文献12
原査定で引用文献12として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるBritish Journal of Haematology(2000)Vol.109,p.314~321には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、当審による日本語訳で摘記する。また、下線は当審による。)。
(12ア)「精製されたCD34+造血前駆細胞を、幹細胞因子、インターロイキン3(IL-3)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、および顆粒球CSF(G-CSF)とともに7日間培養し、その後、非接着細胞を2つのグループに分けた。一方のグループ(グループA)の細胞は4種類のサイトカインとともにさらに7日間培養し、もう一方のグループ(グループB)の細胞はG-CSFのみとともにさらに7日間培養した。14日目には、非接着細胞の数がグループAで220倍、グループBで130倍増加した。これらの細胞調製物には、グループAでは65%の顆粒球、グループBでは95%の顆粒球が含まれていた。…」(要約)
(12)引用文献15
本願優先日当時の技術常識を示すものとして、当審で新たに引用文献15として引用する、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2009/066468号には、以下の事項が記載されている(下線は当審による。)。
(15ア)「…ヒトCD34陽性造血系幹細胞は通常浮遊培養で増殖するために、…造血系幹細胞培地(HPGM)で培養することが必要である。微粒子コーティング24ウェル組織培養プレートにCD34陽性造血系幹細胞を播種し、…無血清HPGM培地で6日間浮遊培養し、…。」([0059])
(13)引用文献16
本願優先日当時の技術常識を示すものとして、当審で新たに引用文献16として引用する、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2008-61609号公報には、以下の事項が記載されている(下線は当審による。)。
(16ア)「細胞低接着表面及び細胞低接着容器で重要な事は、基材から細胞に対する刺激を抑える事であり、本発明においては超親水性表面による疎水性相互作用の低減、及びハイドロゲル層の最適な厚みを構築する事による物理的な刺激の低減、更に水不溶性の硬化皮膜とする事で溶出物による刺激の低減、の3つの効果によって細胞がより完全な浮遊状態で培養できる細胞低接着表面を達成している。」(【0012】)
(14)引用文献17
本願優先日当時の技術常識を示すものとして、当審で新たに引用文献17として引用する、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2008-206510号公報には、以下の事項が記載されている(下線は当審による。)。
(17ア)「腸管細胞の凝集体は、具体的には以下のようにして調製することができる。まず、腸管細胞を適当な媒体中、低接着性の培養容器上で浮遊培養する。例えば低接着性の培養容器として96ウェルの丸底ディッシュを用いた場合には、1ウェルあたり20~40万細胞を播種し、形成した凝集体を低接着性の6cmディッシュ等に移したりしながら、37℃で、2~10日間、好ましくは7日間、適当な媒体中で培養する。低接着性の培養容器としては、通常、当分野で用いられている培養容器に低接着性となるような処理を施したものが例示される。培養容器としては、培養ディッシュ、培養フラスコ、回転培養用器具(スピナーフラスコ等)等が挙げられる。低接着性となるような処理としては、ハイドロゲルを共有結合させること(コーティング)によって蛋白質や細胞の接着を抑制するような処理が用いられる。又、市販されているものを用いることもできる。」(【0014】)
(15)引用文献18
本願優先日当時の技術常識を示すものとして、当審で新たに引用文献18として引用する、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2008/038572号には、以下の事項が記載されている(下線は当審による。)。
(18ア)「上記脂肪前駆細胞を培養する条件については特に制限されないが、通常、37℃、5%二酸化炭素存在下で、1~30日間、好ましくは2~14日間培養を行えばよい。このように培養を行うことによって、上記脂肪前駆細胞を歯周硬組織細胞に分化誘導させることができる。
なお、上記脂肪前駆細胞の培養は、培地中で当該脂肪前駆細胞が基材に付着させた状態で実施してもよく、また低接着培養皿内で当該脂肪前駆細胞を浮遊させた状態で実施してもよい。」([0028]、[0029])
5 対比
(1)引用発明
摘記事項(1オ)の記載中、「OCT4、SOX2、KLF4、及びMYCレトロウイルスベクター」は、その前の「リプログラミング因子を保有するウイルス」との記載より、OCT4、SOX2、KLF4、及びMYCのリプログラミング因子を発現させるためのウイルスベクターといえるから、該ベクターがOCT4、SOX2、KLF4、及びMYCのリプログラミング因子をコードする発現カセットを含むものであることは明らかである。
また、摘記事項(1オ)の「動員された末梢血CD34+細胞」及び「CD34+細胞採取。…ドナーを、Amgenで製造されたNeupogen(G-CSF)で3日間5μ/kg/日の容量で注射した。4日目に、7血液容量のアフェレーシスを、Cobeアフェレーシス装置で実施し、300mlの血液を採取した。」との記載より、ヒト被験体の末梢血サンプルから採取された、CD34+造血前駆細胞を含む細胞は、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)で動員されたものであり、かかる細胞より単離されたCD34+造血前駆細胞がin vitroで培養されているといえる。
そうすると、摘記事項(1ア)~(1オ)によると、引用文献1には、次の発明が記載されていると認める(以下「引用発明」という。)。
「CD34+造血前駆細胞から人工多能性幹(iPS)細胞を作製する方法であって、
CD34+造血前駆細胞をhSCF、hFlt3LおよびIL-3サイトカインの組み合わせと共にin vitroで培養して、前記CD34+造血前駆細胞の集団を増大させている単離されたCD34+造血前駆細胞を含む細胞集団を入手する工程であって、前記CD34+造血前駆細胞が、ヒト被験体の末梢血サンプルから単離されたものであり、前記ヒト被験体の細胞が、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)で動員されたものである、工程と、
ヒトOCT4、SOX2、KLF4及びMYCのリプログラミング因子をコードする発現カセットを含むレトロウイルスベクターの導入を介して前記細胞集団の前記CD34+造血前駆細胞からiPS細胞を産生させる工程、
を含む、方法。」
(2)対比
引用発明の「CD34+造血前駆細胞」及び「単離」は、本願発明の「CD34+造血始原細胞」及び「精製」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明の「CD34+造血前駆細胞」は、ヒト被験体の末梢血サンプルから単離されたものであるから、本願発明の「末梢血単核細胞(PBMC)から精製されたもの」に相当する。
また、引用発明の「OCT4」、「SOX2」、「KLF4」及び「MYC」は、本願発明の「Oct4」、「Sox2」、「Klf4」及び「cMyc」にそれぞれ相当する。
さらに、摘記事項(1エ)には、「CD34+細胞をhSCF、hFlt3L及びIL-3サイトカインの組み合わせと共にin vitroで培養して12、CD34+細胞を数桁のオーダーで増殖及び増大させた」と記載されているから、引用発明の「hSCF、hFlt3LおよびIL-3サイトカインの組み合わせ」は、本願発明の「CD34+造血前駆細胞の増大を可能にする1つ以上のサイトカイン」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「CD34+造血始原細胞から人工多能性幹(iPS)細胞を作製する方法であって、
(a)CD34+造血始原細胞の増大を可能にする1つ以上のサイトカインと共にin vitroで培養して、その中で前記CD34+造血始原細胞の集団を増大させている精製されたCD34+造血始原細胞を含む細胞集団を入手する工程であって、前記CD34+造血始原細胞が、末梢血単核細胞(PBMC)から精製されたものであり、前記末梢血単核細胞が、ヒト被験体の末梢血サンプルから単離されたものである、工程と、
(b)Oct4、Sox2、cMycおよびKlf4のリプログラミング因子をコードする発現カセットを含むベクターの導入を介して前記細胞集団の前記CD34+造血始原細胞からiPS細胞を産生させる工程、
を含む、方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:ヒト被験体の細胞が、本願発明では、「外的に加えられる因子で動員されていない」ものであるのに対し、引用発明では、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)で動員されたものである点。
相違点2:ベクターが、本願発明では、リプログラミング因子をコードする1つ以上の発現カセットを含む1つ以上のエピソーム複製ベクターであり、前記1つ以上の発現カセットは、少なくとも2つのリプログラミング因子を含むポリシストロニック転写単位を少なくとも含むものであり、組み込まれた外来性ウイルス要素を本質的に含まないiPS細胞集団を提供するものであるのに対し、引用発明では、レトロウイルスベクターであり、また、発現カセットが、少なくとも2つのリプログラミング因子を含むポリシストロニック転写単位を含むものであることは特定されておらず、さらに、組み込まれた外来性ウイルス要素を本質的に含まないiPS細胞集団を提供することも特定されていない点。
相違点3:CD34+造血始原細胞のサイトカインとの培養が、本願発明では「低接着条件下」で行うものであるのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
6 当審の判断
(1)相違点1について
引用文献2には、CD34+臍帯血前駆細胞からiPS細胞を作製することができたことが記載されているところ(摘記事項(2ア)、(2イ))、CD34+臍帯血前駆細胞が「外的に加えられる因子で動員されていない」ことは明らかなので、引用文献2は、「外的に加えられる因子で動員されていない」CD34+造血始原細胞からiPS細胞を作製することができたことを実証するものといえる。
また、引用文献4には、CD34+末梢血幹細胞からiPS細胞を作製することが記載されている(摘記事項(4ア)、(4イ))ところ、iPS細胞の作製に使用するCD34+末梢血幹細胞として、G-CSFで動員された末梢血から精製されたものを使用することは記載されていないから、引用文献4は、「外的に加えられる因子で動員されていない」CD34+造血始原細胞からiPS細胞を作製することを記載するものである。
さらに、引用文献5~7に記載されているように、G-CSFなどの因子で動員されていない末梢血からCD34+造血始原細胞を単離する方法は、本願優先日前に当業者に広く知られている(摘記事項(5ア)、(5イ)、(6ア)、(6イ)、(7ア)、(7イ))。
よって、以上の引用文献2、4、5~7の記載からすると、iPS細胞を作製する際の原料となるCD34+造血始原細胞を末梢血から得る場合に、末梢血にG-CSFなどの外的因子による動員が不可欠であるとの技術常識が、本願優先日当時に存したとは認められない。
一方、引用文献8~10に記載されているように、G-CSFによる動員を使用した場合には、副作用が報告されており、また、動員に日数を要する等の問題があったことは、本願優先日前に当業者に周知であったと認められる(摘記事項(8ア)、(9ア)、(10ア))。
そうすると、引用発明のiPS細胞の作製方法において、G-CSFによる動員を使用する場合の副作用や日数を要する等の問題を避けるために、引用文献5~7に記載されているようなG-CSFなどの「外的に加えられる因子で動員されていない」末梢血を用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。
(2)相違点2について
摘記事項(3ア)~(3エ)から、引用文献3に記載されている「エピソームベクター」は、リプログラミング因子をコードする1つ以上の発現カセットを含む1つ以上のエピソーム複製ベクターであり、組み込まれた外来性ウイルス要素を本質的に含まないiPS細胞集団を提供することができるものである。
また、本願明細書等には、「具体的な実施形態では、1つ以上の発現カセットは、1つ以上のポリシストロニック転写単位を含み得る。ポリシストロニック単位は、例えば、(i)少なくとも2つのリプログラミング遺伝子、例えば、Sox-Oct、c-Myc-Klf、またはNanog-Lin28;あるいは、(ii)選択可能なまたはスクリーニング可能なマーカーに連結されたリプログラミング遺伝子などの作動可能に連結されたコード領域の異なる組み合わせを含み得る。」(【0017】)と記載されており、本願発明の「ポリシストロニック転写単位」は、少なくとも2つのリプログラミング遺伝子の転写単位を含むものであるといえるところ、摘記事項(3オ)から、引用文献3に記載されている「エピソームベクター」は、「少なくとも2つのリプログラミング因子を含むポリシストロニック転写単位を少なくとも含む」ものである。
そして、摘記事項(3イ)によると、引用文献3に記載されている「エピソームベクター」は、引用発明で採用されている「レトロウイルスベクター」と異なり、ベクター及び導入遺伝子配列を含まないiPS細胞を作製できるという利点を有し、ヒトiPS細胞の臨床応用への障害の一つを除去するものであると説明されている。
そうすると、上記の引用文献3の記載に接した当業者であれば、引用発明のiPS細胞の作製方法において使用される「レトロウイルスベクター」に代えて、臨床応用への利点を備える、引用文献3に記載されているエピソーム複製ベクター、すなわち、「リプログラミング因子をコードする1つ以上の発現カセットを含む1つ以上のエピソーム複製ベクターであり、前記1つ以上の発現カセットは、少なくとも2つのリプログラミング因子を含むポリシストロニック転写単位を少なくとも含むものであり、組み込まれた外来性ウイルス要素を本質的に含まないiPS細胞集団を提供するものである」ベクターを用いることは、容易に想到し得ることである。
(3)相違点3について
上記第2の1(2)ウで検討したとおり、引用文献12及び15からみて、血液に由来するCD34+細胞を培養させる際には「浮遊培養」すること(以下「技術常識1」という。)が、また、引用文献16~18からみて、低接着の培養容器は「浮遊培養」で使用されるものであること(以下「技術常識2」という。)が、本願優先日当時の技術常識である。
本願発明は、「CD34+造血始原細胞の増大を可能にする1つ以上のサイトカインと共に低接着条件下でin vitroで培養」して、当該CD34+造血始原細胞の集団を増大させるものであるところ、「CD34+造血始原細胞の集団を増大させる」こと、及び「低接着条件下でin vitroで培養」することという特定は、上記の本願優先日当時の技術常識1及び2に照らすと、「CD34+造血始原細胞」の培養を、「浮遊培養」で行うことを意味するものと認められる。
ここで、引用発明は、「CD34+造血前駆細胞をhSCF、hFlt3LおよびIL-3サイトカインの組み合わせと共にin vitroで培養」して、当該CD34+造血前駆細胞の集団を増大させるのであることから、上記の技術常識1からみて、引用発明においても、「CD34+造血前駆細胞」の培養を「浮遊培養」で行うものといえる。
そうすると、CD34+造血始原細胞のサイトカインとの培養は、本願発明及び引用発明のいずれでも「浮遊培養」で行うものであるといえるから、相違点3は実質的な相違点でない。
(4)本願発明の効果について
本願明細書等の記載を検討しても、本願発明が、引用発明、引用文献1~14に記載された事項、及び本願優先日当時の周知技術や技術常識からでは予測できない顕著な効果を奏するものとは認められない。
(5)小括
以上からみて、本願発明は、引用発明、引用文献1~14に記載された事項、及び本願優先日当時の引周知技術や技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
7 請求人の主張について
(1)審判請求書での主張について
ア 請求人は、本件補正後の請求項1では、工程(a)において、低接着プレートを用いた接着培養において培養することが規定されているところ、血液由来細胞は浮遊培養することが周知慣用であったことからみて、それを接着培養に変更する動機付けはない旨、また、引用文献4におけるCD34+末梢血幹細胞は患者由来の細胞であるところ、本件補正後の請求項1においては、健常なヒト被験体であることが規定されており相違点1は容易に想到できるものではない旨を主張する。
しかし、上記主張は、本件補正が適法であることを前提になされたものであるところ、上記第2のとおり、本件補正は却下されているので、上記主張アは、採用できない。
イ 請求人は、臍帯血始原細胞からiPS細胞を製造する引用文献2の知見を、末梢血を使用する場合にそのまま当てはめることはできず、相違点1は容易に想到できるものではないと主張する。
しかし、引用文献2に記載されたCD34+臍帯血前駆細胞と、引用発明の末梢血に由来するCD34+造血前駆細胞とは、いずれもCD34+前駆細胞である点で共通するし、引用文献2以外にも、引用文献4で「外的に加えられる因子で動員されていない」CD34+造血始原細胞からiPS細胞を作製することが記載され、引用文献5~7より、G-CSFなどの因子で動員されていない末梢血からCD34+造血始原細胞を単離する方法が、本願優先日前に当業者に広く知られているので、引用発明のiPS細胞の作製方法において、末梢血由来の非動員の細胞を用いることに格別の創意を要するとは認められない。
したがって、上記主張イは、採用できない。
ウ 請求人は、本願発明において、外的因子で動員されていない少量の細胞を出発細胞として使用し、かつ染色体に組み込まれるベクターと比較した場合には初期化の達成が困難と考えらえるエピソーマルベクターを用いてiPS細胞を製造できることが実証されたところ、本願発明で実証された事実は、当業者には全く予想外の知見であると主張する。
しかし、本願明細書等には、外的因子で動員されていないCD34+造血始原細胞からiPS細胞を作製した実施例は実施例11のみであるところ、当該実施例11で使用されているベクターはMMLVレトロウイルスベクターであって(【0357】~【0360】)、エピソーマルベクターではないから、外的因子で動員されていない少量の細胞を出発細胞として使用し、エピソーマルベクターを用いてiPS細胞を製造できることが本願発明で実証されたとの主張は、そもそも、本願明細書等の記載に基づくものとはいえない。
もっとも、上記主張が本願明細書等の記載に基づくものであるとしても、末梢血由来の非動員の細胞とエピソーマルベクターの両者を用いることによる効果が全くの予想外であることは、実施例11の実験結果及び令和4年5月24日付け意見書に添付された参考資料をみても確認できない。
したがって、上記主張ウは、採用できない。
エ 請求人は、エピソーマルベクターを使用する場合には初期化の効率は低下することが予想されることから、細胞数が少なくなることが想定される「外的因子で動員されていない細胞」を使用することには大きな阻害要因があり、本願発明は引用文献から容易想到であるとはいえないと主張する。
しかし、引用文献5には、100mlの末梢血から104~105の非動員CD34+細胞を得ることができること(摘記事項(5ア))が記載され、末梢血由来の非動員の細胞を用いた場合、iPS細胞の作製に支障が生じるほどにCD34+細胞の数が少なくなることは確認できない。また、末梢血由来の非動員の細胞を用いることでCD34+細胞の数が幾分少なくなったとしても、ヒト被験体から採取する血液量を増やせば(採血1回分の量を増やす、同一人から複数回採血する等)、得られるCD34+細胞の細胞数を増やすことは可能であるといえる。
そうすると、引用発明で、エピソーマルベクターと末梢血由来の非動員の細胞を組み合わせることに阻害事由があるとは認められない。
したがって、上記主張エは、採用できない。
(2)令和4年5月24日付け意見書での主張について
上記第2のとおり本件補正は却下され、上記第3の1のとおり、本願発明は、令和4年5月24日にされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係るものであるから、念のため、令和4年5月24日付け意見書における請求人(出願人)の主な主張についても検討する。
ア 請求人は、本願発明によると、低接着条件下においてCD34+細胞を培養することにより、iPS細胞の産生に適したCD34+造血始原細胞を拡大することができ、CD34+造血始原細胞からiPS細胞を作製することが可能になったと主張する。
しかし、本願明細書等には、低接着条件下とそのほかの条件で培養したCD34+造血始原細胞からiPS細胞を作製して、その作製効率等を比較した実験結果は示されていないので、上記主張アは本願明細書等の記載に基づかないものである。
また、上記6(3)で検討したとおり、本願発明において、「CD34+造血始原細胞の集団を増大させる」こと、及び、「低接着条件下でin vitroで培養」することという特定は、上記6(3)で示した本願優先日当時の技術常識1及び2に照らすと、「CD34+造血始原細胞」の培養を、「浮遊培養」で行うことを意味するものに過ぎないので、上記主張アの効果が、当業者の予測を超えるものとは認められない。
したがって、上記主張アは、採用できない。
イ 請求人は、本願発明によると、CD34+造血前駆細胞とiPS細胞の間の接着性の差異を利用して、リプログラミング後にiPS細胞のみを効率的に分別することができると主張する。
しかし、接着性を示すiPS細胞と、接着性を示さないCD34+造血始原細胞との分別が容易になるという効果は、本願発明によらずとも、当業者が認識できるものであり、格別なものではない。
したがって、上記主張イは、採用できない。
ウ 相違点1に関する請求人の主張について
(ア)請求人は、参考資料2(British Journal of Haematology(1997)Vol.97,p.146~152)に、G-CSF動員によりCD34+細胞のアポトーシスが抑制されることが記載され、参考資料3(Clinical Immunology and Immunopathology(1994)Vol.40,p.10~18)に、非動員末梢血から得られるCD34+細胞の数は極めて少ないことが記載されていることから、得られるCD34+細胞が少なくなる非動員の末梢血を引用文献1に採用する動機付けはないと主張する。
しかし、参考資料2はG-CSFにより動員されていないCD34+細胞はアポトーシスにより死滅してしまうことまでを記載した文献ではなく、動員されたCD34+細胞はアポトーシス性が低いことを示すにとどまるものである。また、参考資料3も、非動員末梢血から得られるCD34+細胞が、動員末梢血よりも少ないことを示すに過ぎないものであり、参考資料2、3が、末梢血由来の非動員の細胞を用いた場合、iPS細胞の作製に支障が生じるほどにCD34+細胞の数が少なくなることを実証するものであるとは認められない。
さらに、末梢血由来の非動員の細胞を用いることでCD34+細胞の数が幾分少なくなっても、ヒト被験体から採取する血液量を増やせば、得られるCD34+細胞の細胞数を増やすことは可能なので、引用発明で、末梢血由来の非動員の細胞を使用することに阻害事由があったとはいえない。
したがって、上記主張(ア)は、採用できない。
(イ)請求人は、当業者であれば、G-CSFのデメリットを解消するために、非動員の末梢血を用いる方法を採用するよりも、むしろ引用文献8に記載されているAMD3100など他の動員剤の使用を考えるはずであると主張する。
しかし、上記6(1)で示したとおり、動員剤の使用には副作用等の問題が想定されるので、かかる問題に着目すれば、当業者は別の動員剤の使用を検討するより、動員剤自体の使用を回避することを動機づけられるといえる。
したがって、上記主張(イ)は、採用できない。
(ウ)請求人は、参考資料4(Curr.Opin.Hematol.(2009)Vol.16,p.35~40)に、G-CSFの動員の有無でCD34+細胞の生物学的な性質が異なることが記載され、リプログラミングに影響を及ぼすことが考えられるため、リプログラミング効率を変化させる可能性のある非動員末梢血細胞を引用発明に採用する動機付けがないと主張する。
しかし、参考資料4を参照しても、G-CSFによる動員が無いことで、iPS細胞の作製に支障が生じるほどに、CD34+細胞の生物学的な性質に相違が生じ、リプログラミング効率に影響を与えることは記載されていないので、参考資料4が、引用発明で、末梢血由来の非動員の細胞を使用することを躊躇させるに足りるものであるとは認められない。
したがって、上記主張(ウ)は、採用できない。
8 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1~14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-000306