特許無効審判
2022-800086
生体信号が表す情報を識別するためのシステム
- 審判番号
- 2022-800086
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2019-523894
- 登録番号
- 6656633
- 請求日
- 2022年11月11日
- 審決日
- 2025年05月01日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】CYBERDYNE 株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
- 【被請求人】FrontAct 株式会社
- 【被請求人代理人】山本 健策
- 【被請求人代理人】福永 聡
- 【被請求人代理人】本田 輝人
- 【被請求人代理人】橋本 卓行
- 【被請求人代理人】田中 宏樹
- 【被請求人代理人】池田 有沙
- 【被請求人代理人】山本 秀策
- 【被請求人代理人】森下 夏樹
- 【被請求人代理人】飯田 貴敏
- 【被請求人代理人】石川 大輔
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 正章
- 審判官 土田 嘉一
- 審判官 井上 哲男
- 分類
- P1123.121-YAA(A61F) / P1123.113-YAA(A61F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6656633号発明「生体信号が表す情報を識別するためのシステム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6656633号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第6656633号は、2018年(平成30年)11月30日(優先権主張 平成29年11月30日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和2年2月7日に設定登録されたものである。
また、本件無効審判に係る手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 4年11月11日 審判請求書提出(請求項1、2に対して)
令和 5年 2月 2日 審判請求書の手続補正書提出
令和 5年 6月 2日 審判事件答弁書提出
令和 5年 9月26日付け 審理事項通知
令和 5年10月16日 口頭審理陳述要領書(請求人)提出
令和 5年10月30日 口頭審理陳述要領書(被請求人)提出
令和 5年11月 9日付け 審理事項通知
令和 5年12月 4日 口頭審理陳述要領書(被請求人)提出
令和 5年12月 8日 口頭審理陳述要領書(請求人)提出
令和 5年12月13日 口頭審理
令和 6年 1月15日 上申書(請求人)提出
令和 6年 1月15日 上申書(被請求人)提出
令和 6年 4月 3日付け 審決の予告
令和 6年 6月 7日 訂正請求書提出
令和 6年11月 7日 上申書(被請求人)提出
令和 6年12月20日 弁駁書(請求人)提出
第2 訂正請求について
1 訂正の内容
被請求人により請求された訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許の特許請求の範囲を、令和 6年 6月 7日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正するものである。具体的な内容は以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「生体信号が表す情報を識別するためのシステムであって、前記システムは、
生体信号を検出する検出手段と、
前記検出された生体信号を解析して特徴データを出力する解析手段と、
前記特徴データと、複数の教示データのうちの各々との類似度を示す出力ベクトルを決定する第1の決定手段と、
前記出力ベクトルを時刻ごとに時系列に記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された時系列の出力ベクトルにおける所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて、前記生体信号が表す情報を決定する第2の決定手段と
を備える、システム。」とあるのを、
「生体信号が表す情報を識別するためのシステムであって、前記システムは、
生体信号を検出する検出手段と、
前記検出された生体信号を解析して特徴データを出力する解析手段と、
前記特徴データと、複数の教示データのうちの各々との類似度を示す出力ベクトルを決定する第1の決定手段と、
前記出力ベクトルを時刻ごとに時系列に記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された時系列の出力ベクトルにおける所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて、前記生体信号が表す情報を決定する第2の決定手段と
を備え、前記第2の決定手段は、
前記複数の教示データごとに、前記所定期間内の複数の出力ベクトルの各々が示す類似度に対する演算を行うことにより、演算値を算出することであって、前記演算が行われる類似度の各々は、0~1の範囲の値を有する、ことと、
前記演算値に基づいて、前記生体信号が表す情報を決定することと
を行う、システム。」と訂正する。
また、請求項1の記載を引用する請求項8~14も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記第2の決定手段は、
前記所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて前記複数の教示データごとに演算値を算出することと、
前記演算値に基づいて、前記生体信号が表す情報を決定することと
を行う、請求項1に記載のシステム。」とあるのを、
「生体信号が表す情報を識別するためのシステムであって、前記システムは、
生体信号を検出する検出手段と、
前記検出された生体信号を解析して特徴データを出力する解析手段と、
前記特徴データと、複数の教示データのうちの各々との類似度を示す出力ベクトルを決定する第1の決定手段と、
前記出力ベクトルを時刻ごとに時系列に記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された時系列の出力ベクトルにおける所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて、前記生体信号が表す情報を決定する第2の決定手段と
を備え、
前記第2の決定手段は、
前記所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて前記複数の教示データごとに演算値を算出することであって、前記所定期間の終点は、前記記憶手段に前記出力ベクトルが記憶された最後の時刻であり、後続の新たな出力ベクトルが記憶されると、前記後続の新たな出力ベクトルが演算値を算出するために用いられ、前記後続の新たな出力ベクトルが記憶される前の前記所定期間の始点の前記出力ベクトルは前記演算値を算出するために用いられない、ことと、
前記演算値に基づいて、前記生体信号が表す情報を決定することと
を行う、システム。」と訂正する。
また、請求項2の記載を引用する請求項3~14も同様に訂正する。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は,訂正前の請求項1記載の「第2の決定手段」について、「前記第2の決定手段は、前記複数の教示データごとに、前記所定期間内の複数の出力ベクトルの各々が示す類似度に対する演算を行うことにより、演算値を算出することであって、前記演算が行われる類似度の各々は、0~1の範囲の値を有する、ことと、前記演算値に基づいて、前記生体信号が表す情報を決定することとを行う」ことを限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張又は変更
訂正事項1の「前記第2の決定手段は、前記複数の教示データごとに、前記所定期間内の複数の出力ベクトルの各々が示す類似度に対する演算を行うことにより、演算値を算出することであって、・・・前記演算値に基づいて、前記生体信号が表す情報を決定することとを行う」点については、願書に添付した明細書の段落【0062】の「第2の決定手段223は、例えば、所定期間内の複数の類似度に基づいて、複数の教示データごとに演算値を算出しし、その演算値に基づいて、生体信号が表す情報を決定するようにしてもよい。」の記載に基づくものである。
また、「前記演算が行われる類似度の各々は、0~1の範囲の値を有する」点については、願書に添付した明細書の段落【0044】の「実際は、出力層の1つ以上のノードが0~1の範囲の値を出力することになる。出力層の各ノードの値は、入力された特徴データと、それぞれのノードが関連付けられた動作に対応するそれぞれの教示データとの類似度に相当する。」の記載に基づくものである。
よって、訂正事項1は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載された事項の範囲内であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
さらに、訂正事項1は、上記のとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する請求項2の記載を、当該請求項1記載を引用しないものに改めると共に、訂正前の「前記第2の決定手段は、前記所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて前記複数の教示データごとに演算値を算出することと、・・・を行う」の記載を、「前記第2の決定手段は、前記所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて前記複数の教示データごとに演算値を算出することであって、前記所定時間の終点は、前記記憶手段に前記出力ベクトルが記憶された最後の時刻であり、後続の新たな出力ベクトルが記憶されると,前記後続の新たな出力ベクトルが演算値を算出するために用いられ、前記後続の新たな出力ベクトルが記憶される前の前記所定期間の始点の前記出力ベクトルは前記演算値を算出するために用いられない、ことと、・・・を行う」と改め、第2の決定手段における演算値の算出について具体的に限定するものである。
よって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするもの及び同項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加及び特許請求の範囲の拡張又は変更
願書に添付した明細書の段落【0068】~【0079】及び図6A~Cには次の記載がある(下線は当審で付与。)。
「【0068】
ここで、一例として、使用者が、教示データ0~9に対応する動作のうちの教示データ5に対応する動作を行った場合のシステム10の処理について、図6A~図6Cを参照して説明する。使用者は、時刻1から時刻5まで教示データ5に対応する動作を行っているものとする。ここでは、時刻5における処理を説明する。各時刻の間隔は、20msであり、所定期間は100msであるとする。メモリ部230のバッファには、図6Aに示されるように、時刻1~時刻4の出力ベクトルがすでに記憶されているとする。
【0069】
ステップS501において、生体信号検出手段100の検出部110が、使用者が行った動作に由来する生体信号を検出する。
【0070】
ステップS502において、コンピュータ装置200のプロセッサ部220の解析手段221が、検出された生体信号を解析して特徴データを出力する。
【0071】
ステップS503において、コンピュータ装置200のプロセッサ部220の第1の決定手段222が、ステップS502で出力された特徴データと、教示データ0~9のうちの各々との類似度を決定する。ステップS502で出力された特徴データをニューラルネットワーク300に入力すると、出力として、教示データ0~9のうちの各々との類似度(0.0、0.9、0.2、0.0、0.0、0.7、0.0、0.0、0.0、0.0)が得られた。
【0072】
ステップS504において、コンピュータ装置200のメモリ部230のバッファが、ステップS503で決定された類似度を時系列に記憶する。メモリ部230のバッファは、図6Bに示されるように、時刻1~時刻5の出力ベクトルを時刻ごとに時系列に記憶することになる。
【0073】
ステップS505において、コンピュータ装置200のプロセッサ部220の第2の決定手段223が、バッファに記憶された時系列の類似度における所定期間内の複数の類似度に基づいて、使用者が行った動作に由来する生体信号が表す動作を決定する。まず、第2の決定手段223は、図6Bに示されるように、所定期間に相当する時刻1~時刻5の類似度を教示データごとに合計することにより、合計値を得る。次いで、第2の決定手段223は、最も高い合計値に対応する「5」の教示データが示す動作を、時刻5で検出された生体信号が表す動作として決定する。代替として、所定の閾値を2.5とした場合、第2の決定手段223は、所定の閾値を超える合計値に対応する「5」の教示データが示す動作を、時刻5で検出された生体信号が表す動作として決定する。このようにして、本発明のシステム10は、使用者が行った動作を適切に識別することが可能である。
【0074】
例えば、ステップS503で得られた類似度から直接、生体信号が表す動作を識別しようとすると、最も高い類似度に対応する教示データは教示データ「1」であることから、教示データ「1」に対応する動作であると誤って識別してしまう。これに対し、本発明のシステム10は、バッファに記憶された時系列の類似度における所定期間内の複数の類似度に基づいて、生体信号が表す動作を決定するため、極めて高精度で生体信号が表す動作を識別することが可能である。
【0075】
使用者が時刻6で教示データ5に対応する動作を行った場合の処理も同様である。
【0076】
ステップS501において、生体信号検出手段100の検出部110が、使用者が行った動作に由来する生体信号を検出し、ステップS502において、コンピュータ装置200のプロセッサ部220の解析手段221が、検出された生体信号を解析して特徴データを出力し、ステップS503において、コンピュータ装置200のプロセッサ部220の第1の決定手段222が、ステップS502で出力された特徴データと、教示データ0~9のうちの各々との類似度を決定する。ステップS502で出力された特徴データをニューラルネットワーク300に入力すると、出力として、教示データ0~9のうちの各々との類似度(0.0、0.0、0.2、0.0、0.0、0.7、0.9、0.0、0.0、0.0)が得られた。
【0077】
ステップS504において、コンピュータ装置200のメモリ部230のバッファが、ステップS503で決定された類似度を時系列に記憶する。メモリ部230のバッファは、図6Cに示されるように、時刻1~時刻6の出力ベクトルを時刻ごとに時系列に記憶することになる。
【0078】
ステップS505において、コンピュータ装置200のプロセッサ部220の第2の決定手段223が、バッファに記憶された時系列の類似度における所定期間内の複数の類似度に基づいて、使用者が行った動作に由来する生体信号が表す動作を決定する。まず、第2の決定手段223は、図6Cに示されるように、所定期間に相当する時刻2~時刻6の類似度を教示データごとに合計することにより、合計値を得る。次いで、第2の決定手段223は、最も高い合計値に対応する「5」の教示データを抽出し、抽出された「5」の教示データが示す動作を、時刻5で検出された生体信号が表す動作として決定する。代替として、所定の閾値を2.5とした場合、第2の決定手段223は、所定の閾値を超える合計値に対応する「5」の教示データが示す動作を、時刻5で検出された生体信号が表す動作として決定する。このようにして、本発明のシステム10は、使用者が行った動作を適切に識別することが可能である。」
「【図6A】
[図:0001426158000001.jpg]
」
「【図6B】
[図:0001426158000002.jpg]
」
「【図6C】
[図:0001426158000003.jpg]
」
上記記載からすれば、本件明細書等には、第2の決定手段は、所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて前記複数の教示データ(教示データ0~9)ごとに演算値を算出することであって、所定の終点は、記憶手段に前記出力ベクトルが記憶された最後の時刻であり、後続の新たな出力ベクトル(時刻6でのベクトル)が記憶されると,前記後続の新たな出力ベクトル(時刻6でのベクトル)が演算値を算出するために用いられ、前記後続の新たな出力ベクトル(時刻6でのベクトル)が記憶される前の前記所定期間の始点の出力ベクトル(時刻1でのベクトル)は前記演算値を算出するために用いられないことが記載されている。
よって、訂正事項2は、本件明細書等に記載された事項の範囲内であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
さらに、訂正事項2は、上記のとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
本件においては、訂正前の請求項1、2について特許無効審判が請求されているので、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件については、特許無効審判請求がされていない請求項3~14に記載された発明について検討されるが、後記のように訂正後の請求項1、2に記載された発明は、甲第1号証記載の発明から当業者が容易に発明できたものではないし、甲第2号証に記載された発明ではないから、同様の理由により、これらを引用する請求項3~14に記載された発明は、甲第1号証記載の発明から当業者が容易に発明できたものではないし、甲第2号証に記載された発明ではない。
また、請求項3~14に記載された発明には、その他特許出願の際に独立して特許を受けることができないとする理由はない。
よって、訂正後の請求項1、2を引用する請求項3~14に記載された発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができたものであり、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
(4)小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第4号及び同条第9項で準用する同法第126条第5項~第7項の規定に適合するので、これを認める。
第3 本件特許に係る発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1、2に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。
以下、請求項1、2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」といい、両者をまとめて「本件発明」という。
「【請求項1】
生体信号が表す情報を識別するためのシステムであって、前記システムは、
生体信号を検出する検出手段と、
前記検出された生体信号を解析して特徴データを出力する解析手段と、
前記特徴データと、複数の教示データのうちの各々との類似度を示す出力ベクトルを決定する第1の決定手段と、
前記出力ベクトルを時刻ごとに時系列に記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された時系列の出力ベクトルにおける所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて、前記生体信号が表す情報を決定する第2の決定手段と
を備え、前記第2の決定手段は、
前記複数の教示データごとに、前記所定期間内の複数の出力ベクトルの各々が示す類似度に対する演算を行うことにより、演算値を算出することであって、前記演算が行われる類似度の各々は、0~1の範囲の値を有する、ことと、
前記演算値に基づいて、前記生体信号が表す情報を決定することと
を行う、システム。
【請求項2】
生体信号が表す情報を識別するためのシステムであって、前記システムは、
生体信号を検出する検出手段と、
前記検出された生体信号を解析して特徴データを出力する解析手段と、
前記特徴データと、複数の教示データのうちの各々との類似度を示す出力ベクトルを決定する第1の決定手段と、
前記出力ベクトルを時刻ごとに時系列に記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された時系列の出力ベクトルにおける所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて、前記生体信号が表す情報を決定する第2の決定手段と
を備え、
前記第2の決定手段は、
前記所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて前記複数の教示データごとに演算値を算出することであって、前記所定期間の終点は、前記記憶手段に前記出力ベクトルが記憶された最後の時刻であり、後続の新たな出力ベクトルが記憶されると、前記後続の新たな出力ベクトルが演算値を算出するために用いられ、前記後続の新たな出力ベクトルが記憶される前の前記所定期間の始点の前記出力ベクトルは前記演算値を算出するために用いられない、ことと、
前記演算値に基づいて、前記生体信号が表す情報を決定することと
を行う、システム。」
第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張
請求人の主張は、「特許第6656633号発明の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」ものであって、無効理由の概要は、以下のとおりである。
(1)無効理由1(進歩性の欠如)
本件発明1及び2は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証(以下「甲1」という。)に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由2(新規性の欠如)
本件発明1は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証(以下「甲2」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
2 証拠方法
請求人は、証拠方法として以下の甲1及び甲2を提出している。
甲1:特表2017-532093号公報
甲2:国際公開第2017/073770号
なお、当事者間に甲1及び甲2の成立に争いはない。
第5 被請求人の主張
被請求人の主張は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」ものである。
第6 当審の判断
1 甲各号証の記載事項
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
ア「【0072】
本明細書で使用される場合、「事象関連脱同期化」および「ERD」という用語は、運動計画および実行の間に生じる、EEG信号(とりわけ)等の脳活動信号における電力の低下を指す。EEG信号事象の場合、ERDは、典型的にアルファ(8~12Hz)およびベータ(13~30Hz)帯内で生じるが、ERD特徴は、他の周波数または他の周波数範囲でもまた生じ得る。「ERD信号」は、測定可能なERDを呈する信号を指す。
【0073】
本明細書で使用される場合、「合成ERD信号」という用語は、数学的な関数によって定義される、自然発生ERDを近似する波形を指す。
【0074】
図1は、EEGに基づくBCIを使用して、別個のスペクトル(周波数)、時間(temporal)(時間(time))、またはERD信号の他の特長を検出および分類するための、参照番号10で全体的に特定される、例示的なシステムの最上位構成要素アーキテクチャ図を示すが、ERD信号は、硬膜下および/または硬膜外電極で侵襲的に記録される脳皮質電位(ECoG)等の他の形態でもあり得る。図1~3を参照すると、この場合はEEG信号の形態であるERD信号は、脳の活動を感知するように参加者の頭13上に位置付けられた、電極アレイ12を使用して、得られる。参加者の手に着用されたセンサ手袋14は、神経筋事象の開始を検出するための抵抗センサを含み、この場合は手の運動を生じさせる。表示モニタ16は、参加者に視覚的キューを提示し、表示モニタ16上に目立たないように位置付けられた光センサが、視覚的キューを記録して、データ分析の間に実験の段階を特定する。電極アレイ12に加えて、センサ手袋14および光センサ18の両方からの信号は、米国、ノースカロライナ州、Neuroscanから入手可能な、SynAmps RT EEG増幅器等の、増幅器20を使用して記録され、米国、ノースカロライナ州、Neuroscanから入手可能な、CURRY7取得ソフトウェア等の、少なくとも1つのアプリケーションプログラムを用いる取得コンピュータ22への出力として、提供される。センサ手袋14および光センサ18からの信号は、取得コンピュータ22への入力としてもまた提供される。信号は、リード線を通して直接的に、または無線伝達信号を通して間接的に、取得コンピュータ22に提供され得る。ERD信号は解釈され、少なくとも1つのアルゴリズムを使用してそこから特定の特長が抽出されて、意図された活動(IA)に関係する意図された神経筋事象に対応するERD表またはデータテンプレートを生成し、例えば腕、脚、手指、および足指等の、体の部分の運動のための筋肉および/または筋肉群の、意図された燃焼を含む。特長は、それらを、合成ERD信号を表す関数に対して相関させることによって、分類される。ERDの主な特徴は、経時的に低下または低減することであり、これは、操作可能に適合する関数は、非直線正接関数等の、経時的に低下または低減するものを含むことを意味する。しかしながら、直線関数を含む他の関数もまた使用され得る。組み合わされたBCIおよびFESシステム30において、データテンプレートは、取得コンピュータ22によってクエリーされて、1つ以上の命令と共に信号出力をFESシステム34に発出する、テンプレートデータベース32内に格納される。(FESシステム34は、他の例示的な実施形態では、とりわけ、ロボットアーム、全肢プロテーゼ、部分肢プロテーゼ、矯正装置等の、動作を行うユーザ装置によって交換され得る。)FES治療の場合、命令は、参加者に、特定された、意図された神経筋事象またはIAに基づいて、具体的な動作または効果治療を行わせ得る。」
イ「【0077】
8つの電極を有する電極アレイ12が、図2に示されるように、以下のEEG部位:C1、C2、C3、C4、CZ、F3、F4、およびFZ(電極配置の国際10~20システムに従って)で、参加者の頭に配置された。全電極部位、基準(連結された耳たぶ)、および下地(鎖骨)は、米国、コロラド州、オーロラ、Weaver and Companyから入手可能な、Ten20(登録商標)Conductive EEG Pasteでの電極配置の前に、70%のイソプロピルアルコール、および米国、コロラド州、オーロラ、Weaver and Companyから入手可能なNuprep(登録商標)Skin Prep Gelで調製された。各EEG部位でのインピーダンスが測定され、好ましくは、インピーダンスは10kΩ未満の値を有した。8つのEEG電極アレイ12から検出された信号は、高域フィルタを通過し、その後で試料採取された。一実施例では、0.15Hzの切断周波数および1kHzの試料採取周波数が選択された。信号分析方法はオフラインで適用され得るため、この試料採取周波数は、時間分解能を促進するように、およびデータ点の数を増加させるように選択された。」
ウ「【0099】
新しい脳活動信号は、工程100から108を適用することによって分類され得、距離に基づく分類器については、分類するデータについての相関ヒストグラム(工程108)と、調査された挙動の1つずつについての相関マトリクスの1つずつとの間の距離(ユークリッドまたは任意の他の好適な定義)が測定され得る。例示的なアプローチは、下記により詳細に記載される。
【0100】
特定の運動(図12)と、異なる(特徴付けられていない)運動の個々の試行(図11)についての、「全部込みの」テンプレート間のユークリッド距離は、2つの運動の間の類似性の測定として使用され得る。例えば、単一の電極部位および相関閾値からのデータを使用して、つまみ把握(把握1)の第1の試行と、非機能性1運動(把握2)の全試行の平均との間の距離は、以下の等式で計算され得る。
【数4】
[図:0001426158000004.jpg]
NNF1=非機能性1運動が実行された試行の数 (等式4.4)
【0101】
式中、
[図:0001426158000005.jpg]
は、つまみ把握の第1の試行の各要素(G(i,j,1))と、非機能性1運動の全ての試行の平均との間の距離の数値を含有するマトリクスである。等式4.4は次に、つまみ把握の第1の試行、ならびに虫様筋把握、指伸展、非機能性2運動、および手掌把握を含む、残りの4つの運動の、全ての「全部込みの」平均に、適用される。個々の試行を同じ運動のテンプレートと比較するときに、分類される個々の試行が、「1つ抜き」テンプレートを作成するために使用される平均に含まれないように、「1つ抜き」テンプレートが使用される。
【0102】
例えば、先に記載される実験プロトコルでは、つまみ把握の試行1と、この運動の試行の平均との間の距離を計算するときに、以下の等式が使用された。
【数5】
[図:0001426158000006.jpg]
Nつまみ=つまみ把握が実行された試行の数
(等式4.5)
【0103】
式中、
[図:0001426158000007.jpg]
は、つまみ把握の第1の試行の各要素(G(i,j,1))と、試行1が除去されたその運動の全試行の平均(G(i,j,k)1)との間の距離の数値を含有するマトリクスである。等式4.4および4.5の結果は、つまみ把握の試行1と全ての他の運動との間の数値的な距離を含有する、20×50×6テンソルにまとめられた。次に、このテンソルは、第2の次元(分析に含まれる周波数:1~50Hzを指す)に沿って合計され、20×6のマトリクスをもたらす。次いで各時間インスタンスでの最小非ゼロ値が特定され、1の値が与えられ、全ての他のエントリには0の値が与えられた。例えば、表2は、運動の前の各時間間隔で、つまみ把握の試行1と各追加の把握の「全部込みの」テンプレート(表2の行3~7)との間、ならびにつまみ把握の試行1とつまみ把握の「1つ抜き」テンプレート(表2の行2)との間で計算された、距離の実際の値を例示する。表3は、データの二値版を表し、各列における最小距離を超える値には1の値が与えられ、全ての他の距離には0の値が与えられる。
【0104】
表3に示される表におけるゼロ値は、これらのインスタンスは、2つのゼロ値の削減を示すため、最小のエントリの計算から排除され、どちらのインスタンスも、設定された閾値を超える合成ERDとの相関の値をもたらさないことを意味する(等式4.3)。「つまみ」(強調)と標識した行における1のエントリは、つまみの試行1が、残りの把握の平均に対してつまみ把握についての平均からの最小距離を有したときの時間間隔を示す。
【0105】
この過程は、次につまみ把握の全ての試行に適用され、Nつまみ×20×6マトリクスをもたらした。次いで、つまみ把握からの最小距離を有すると特定された、全つまみ把握試行のパーセンテージが計算された。図14は、つまみ把握の最初の5つの試行について、表2および3によって記載される過程を例示し、白い面積は、各時間間隔でつまみ把握の試行1の間の最小距離を有した運動を表す。6つの運動の各々が最小距離を有すると特定された、全つまみ試行のパーセンテージは、図14に示される。より明るい色の面積は、運動からの最小距離を有するつまみ試行の、より高いパーセンテージを指し、より暗い色の面積は、より低いパーセンテージを表す。最後に、全時間間隔にわたって最大パーセンテージを含有する運動が、運動を分類するために選択された。図14によって例示される実施例では、最大パーセンテージは長円によって示され、運動の開始の1.56~0.88秒前の時間間隔の間に、最大値71%で、つまみ把握に指定される第1の行内に生じる。換言すると、本参加者については、つまみ把握は、この具体的な時間間隔の間、この特定の電極および相関閾値を使用して、試行の71%において、正確に分類される。つまみ把握についての分類を完了するために、本節に記載される同じ手順が、全ての電極部位(C1、C2、C3、C4、CZ、F3、F4、およびFZ)ならびに相関閾値の全ての値(0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、および0.90)について反復され、56のマトリクス(8つの電極部位×7閾値)をもたらした。最終的に、56のマトリクスのうちのいずれかをわたって達成された分類の最高のパーセンテージが、運動を分類するために選択される。残っている運動は、同じ手順を使用して分類された。」
エ「【表2】
[図:0001426158000008.jpg]
」
オ「【表3】
[図:0001426158000009.jpg]
」
カ「【図2】
[図:0001426158000010.jpg]
」
キ「【図9】
[図:0001426158000011.jpg]
」
ク「【図14】
[図:0001426158000012.jpg]
」
上記ア~ウの特に下線部の記載及びカ、キの図面の記載からすれば、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「脳活動信号を分類するためのシステムであって、
ERD信号は、脳の活動を感知するように参加者の頭上13に位置付けられた、8つの電極を有する電極アレイ12を使用して得られ、
単一の電極部位および相関閾値からのデータを使用して、つまみ把持(把持1)の第1の試行と、非機能性1運動(把持2)の全試行の平均との間の
距離である
【数4】
[図:0001426158000013.jpg]
NNF1=非機能性1運動が実行された試行の数 (等式4.4)
を計算し、
つまみ把持の試行1と、この運動の試行の平均との間の距離である
【数5】
[図:0001426158000014.jpg]
Nつまみ=つまみ把握が実行された試行の数
(等式4.5)
を計算し、
【数4】及び【数5】の結果は、つまみ把持の試行1と全ての他の運動との間の数値的な距離を含有する、20×50×6テンソルにまとめられ、
次に、このテンソルは、周波数1~50に沿って合計され、20×6のマトリクスをもたらし、
次いで、各時間インスタンスでの最小非ゼロ値が特定され、1の値が与えられ、全ての他のエントリには0の値が与えられ、
つまみ把持の全ての試行に適用され、Nつまみ×20×6マトリクスをもたらし、
次いで、つまみ把持からの最小距離を有すると特定された、全つまみ把持試行のパーセンテージが計算され、
最後に、全時間間隔にわたって最大パーセンテージを含有する運動が、運動を分類するために選択され、
同じ手順が、全ての電極部位ならびに相関閾値の全ての値について反復され、56のマトリクス(8つの電極部位×7閾値)をもたらし、最終的に、56のマトリクスのうちのいずれかをわたって達成された分類の最高のパーセンテージが、運動を分類するために選択される、システム。」
(2)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
ア「[0001]本発明は、筋電で制御される機器で用いられる筋電パターンの識別に関するものである。
[0002]筋電義手、筋電義足など、筋肉に発生する表面筋電位の出力量によって動作制御を行う機器が開発されている。」
イ「[0025]本発明では、識別された筋電パターンの時系列をバッファに保存しておき、その時系列データを元に2段階目の識別を行うことにより識別率を向上させる。1段階目の識別には、従来から用いられてきたBPニューラルネットワークによるアルゴリズムを用いる。このアルゴリズムでは、まず筋電波形を計測しベクトルemgに保存する。ベクトルemgは3チャンネルの筋電計から計測された時系列データが格納されている。次に特徴抽出関数GFEによって、ベクトルemgからベクトルemgの周波数分布を示す特徴ベクトルXが抽出される。
[0026][数1]
[図:0001426158000015.jpg]
この特徴ベクトルXを特徴量としてBPニューラルネットワークの入力層に入力し、結果として異なる手の姿勢に対応した出力層のいずれかのノードが発火し、識別が行われる(図2参照)。この筋電パターンの識別処理を行う機構を、本願の図1(a)(b)では筋電識別器として模式的に示している。
[0027]ここで、BPニューラルネットの出力層における出力値をベクトルL、識別する筋電パターンの数をMとすると
[0028][数2]
[図:0001426158000016.jpg]
と表される。最終的なBPニューラルネットの出力をy、筋電パターンのIDをmi、IDがmiの筋電パターンが出力yとして識別される際のベクトルLの集合をoiとすると
[0029][数3]
[図:0001426158000017.jpg]
[0030][数4]
[図:0001426158000018.jpg]
と決定される。識別不能の場合、yには-1が代入される。筋電パターンmiが義手のどのような姿勢に割り当てられるかはあらかじめ実験者によりプログラミングされる。一般的に筋電波形には移動平均などの平滑化処理が行われるが、ニューラルネットワークで識別された出力は離散的な姿勢となるため、単純な平滑処理は用いることができない。また、平滑化においては時間幅を多く取り過ぎると応答性が低下するため、平滑化の時間幅は最小限に留める必要がある。そこで着目したのが、対象とする筋電パターンのうち、同時に発現する可能性がある動作は限られることである。本実施例で取り扱う筋電パターンは、一例として、前腕の回内・回外、手首の掌屈・背屈、五指の握り・開き、母指の曲げ、第4指及び第5指の握り、安静状態の9パターンとする。例えば五指を握りながら手首の掌背屈を行うことはありうるが、手首を背屈させながら掌屈させることは手首を拮抗状態にしていることを意味し、現状の筋電義手は拮抗制御を行っていないため、識別する必要のない状態である。このことを踏まえ、複合動作としては前腕の回内または回外と、手首の掌屈または背屈と、指のパターンいずれか、という3つのパターンの同時識別が最大である。なお、本発明で取り扱い可能な筋電パターンは9パターンに限定されるものではなく、9パターン未満もしくは10パターン以上であっても良い。
[0031]筋電パターンが9パターンの場合には同時に発現する可能性のある動作は3パターンであることを踏まえ、図3のようにアルゴリズムを構築した。このアルゴリズムでは、リングバッファに保存した一定時間の筋電パターンの時系列データを参照し、時系列に含まれる筋電パターンの割合を元に出力を決定するものである。一定時間にバッファされる筋電パターンの数をNとすると、ある時tにおけるリングバッファbufftは
[0032][数5]
[図:0001426158000019.jpg]
と表される。bufftの構成要素であるyiには筋電パターンのIDが記憶されている。この後、次の制御周期で再び筋電計測が行われ、新たな筋電パターンyの識別が行われたt1秒後、リングバッファbuffは
[0033][数6]
[図:0001426158000020.jpg]
と更新される。リングバッファbufft+t1中に含まれる筋電パターンmiの数Siは
[0034][数7]
[図:0001426158000021.jpg]
と表される。これより、リングバッファbuff中に含まれる筋電パターンmiの占める割合Piは
[0035][数8]
[図:0001426158000022.jpg]
となる。提案するアルゴリズムではまず、筋電パターンが単一であるか、複数の筋電パターンを含むかを判別する。リングバッファbuffの半数以上が任意の筋電パターンMpであれば、単一であると判断し、筋電パターンMpに対応付けられた動作を義手に出力する。
[0036]すなわち、まず提案するアルゴリズムが、リングバッファbuffに保存されたN個の筋電パターンを参照する。そして、半数以上が筋電パターンMpである場合には、制御部は筋電パターンMpに対応付けられた動作指令を出し、義手はその動作指令の通りの動作をする。
[0037]リングバッファbuffに複数の筋電パターンMp1、Mp2・・・を含む場合、先に述べたように同時に発現する動作数を3としたため、少なくともリングバッファbuffの1/4以上を占めた筋電パターンMp1、Mp2・・・をすべて出力する。ここで、一般化のために、最終的に出力される動作oを、同時に発現する動作数の最大値をnとして記述すると
[0038][数9]
[図:0001426158000023.jpg]
となる。ここで、出力する筋電パターンoが複数の場合、実際には同時に出力されず、yiからykが順に出力されることとなる。
[0039]なお、同時に発現する動作数がnである場合には、同時発現の基準となるリングバッファbuffの閾占有率を1/(n+1)に設定し、リングバッファbuffに占める割合が1/(n+1)以上の筋電パターンの全てを同時に発現するのが望ましい。しかし、基準となる閾占有率は1/(n+1)に限られず、任意に設定することもできる。
[0040]本研究で提案するフィルタアルゴリズムを、識別結果の時系列buffを引数としてフィルタ結果としての義手への出力oを出力する関数GTSとして定義すると
[0041][数10]
[図:0001426158000024.jpg]
のように記述できる。」
上記ア~イの特に下線部の記載からすれば、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「筋電パターンを識別する筋電義手であって、前記筋電義手は、
ベクトルemgを計測する筋電計と、
ベクトルemgからベクトルemgの周波数分布を示す特徴ベクトルXを抽出する特徴抽出関数GFEと、
特徴ベクトルXと複数の識別された筋電パターンの各々との識別処理を行った出力値であるベクトルLを出力するBPニューラルネットワークと、
筋電パターンのIDであるmiの出力yを一定時間バッファするリングバッファbuffと、
識別結果の時系列buffを引数としてフィルタ結果としての義手への出力oを出力する関数GTSと、
を備える、筋電義手。」
2 無効理由1について
(1)本件発明1について
ア 対比
以下、本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「脳活動信号」は本件発明1の「生体信号」に相当し、同様に「分類する」ことは「識別する」ことに相当するから、甲1発明の「脳活動信号を分類するためのシステム」は、本件発明1の「生体信号が表す情報を識別するためのシステム」に相当する。
(イ)甲1発明の「ERD信号」を得るための、「脳の活動を感知するように参加者の頭上13に位置付けられた、8つの電極を有する電極アレイ12」は、本件発明1の「生体信号を検出する検出手段」に相当する。
(ウ)甲1発明の「つまみ把握の第1の試行の各要素G(i,j,1)1」は、ERD信号から相互相関計算の結果算出されるものであるから、本件発明1の「生体信号を解析し」た「特徴データ」に相当する。そして、甲1発明が当該つまみ把握の第1の試行の各要素G(i,j,1)1を算出する手段を備えていることは明らかであり、当該手段は本件発明1の「前記検出された生体信号を解析して特徴データを出力する解析手段」に相当する。
してみれば、本件発明1と甲1発明は、次の一致点及び相違点を有する。
【一致点】
生体信号が表す情報を識別するためのシステムであって、前記システムは、
生体信号を検出する検出手段と、
前記検出された生体信号を解析して特徴データを出力する解析手段と、
を備える、システム。
【相違点1】
本件発明1は、「前記特徴データと、複数の教示データのうちの各々との類似度を示す出力ベクトルを決定する第1の決定手段」を備えるのに対し、
甲1発明は、「単一の電極部位および相関閾値からのデータを使用して、つまみ把持(把持1)の第1の試行と、非機能性1運動(把持2)の全試行の平均との間の距離である
【数4】
[図:0001426158000025.jpg]
NNF1=非機能性1運動が実行された試行の数 (等式4.4)
を計算し、
つまみ把持の試行1と、この運動の試行の平均との間の距離である
【数5】
[図:0001426158000026.jpg]
Nつまみ=つまみ把握が実行された試行の数
(等式4.5)
を計算し、
【数4】及び【数5】の結果は、つまみ把持の試行1と全ての他の運動との間の数値的な距離を含有する、20×50×6テンソルにまとめられ、
次に、このテンソルは、周波数1~50に沿って合計され、20×6のマトリクスをもたらし、
次いで、各時間インスタンスでの最小非ゼロ値が特定され、1の値が与えられ、全ての他のエントリには0の値が与えられ、
つまみ把持の全ての試行に適用され、Nつまみ×20×6マトリクスをもたらし、
次いで、つまみ把持からの最小距離を有すると特定された、全つまみ把持試行のパーセンテージが計算され、
最後に、全時間間隔にわたって最大パーセンテージを含有する運動が、運動を分類するために選択され、
同じ手順が、全ての電極部位ならびに相関閾値の全ての値について反復され、56のマトリクス(8つの電極部位×7閾値)をもたらし、最終的に、56のマトリクスのうちのいずれかをわたって達成された分類の最高のパーセンテージが、運動を分類するために選択される」点。
【相違点2】
本件発明1は、「前記出力ベクトルを時刻ごとに時系列に記憶する記憶手段」を備えるのに対し、甲1発明は、そのような記憶手段を備えるのか明らかでない点。
【相違点3】
本件発明1は、「前記記憶手段に記憶された時系列の出力ベクトルにおける所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて、前記生体信号が表す情報を決定する第2の決定手段を備え、前記第2の決定手段は、前記複数の教示データごとに、前記所定期間内の複数の出力ベクトルの各々が示す類似度に対する演算を行うことにより、演算値を算出することであって、前記演算が行われる類似度の各々は、0~1の範囲の値を有する、ことと、前記演算値に基づいて、前記生体信号が表す情報を決定する」を備えるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。
イ 判断
以下、事案に鑑み、相違点3から検討する。
甲1発明は、当該20×50×6テンソルから求められたマトリックス(図14参照。)に基づき、「次に、このテンソルは、周波数1~50に沿って合計され、20×6のマトリクスをもたらし、次いで、各時間インスタンスでの最小非ゼロ値が特定され、1の値が与えられ、全ての他のエントリには0の値が与えられ、つまみ把持の全ての試行に適用され、Nつまみ×20×6マトリクスをもたらし、次いで、つまみ把持からの最小距離を有すると特定された、全つまみ把持試行のパーセンテージが計算され、最後に、全時間間隔にわたって最大パーセンテージを含有する運動が、運動を分類するために選択され、同じ手順が、全ての電極部位ならびに相関閾値の全ての値について反復され、56のマトリクス(8つの電極部位×7閾値)をもたらし、最終的に、56のマトリクスのうちのいずれかをわたって達成された分類の最高のパーセンテージが、運動を分類するために選択される」とされているのであるから、結果的に20の時間間隔を含む時系列の出力ベクトルにおける20の時間間隔を総合した期間内の複数の出力ベクトルに基いて、生体信号が表す情報を決定している。
しかし、甲1発明は、段落【0105】及び図14(上記1(1)ウ、ク参照。)に記載されているように、運動を分類(生体信号を表す情報を決定)するにあたって、20×6のマトリックスで、各時間間隔でつまみ把持の試行1の間が最小距離のものとそれ以外のものを0か1の二値版にし、全つまみ試行において、最小距離を有すると特定されたパーセンテージ(すなわち、0のパーセンテージ、図14の白い面積のパーセンテージ)が最大のパーセンテージを含有する運動が、運動を分類するために選択されるのであるから、運動を分類(生体信号を表す情報を決定)する演算値を算出するにあたって、類似度(最小距離)を間接的に利用しているにすぎず、類似度に対する演算を行っているものではない。
よって、甲1発明が、本件発明1の「前記複数の教示データごとに、前記所定期間内の複数の出力ベクトルの各々が示す類似度に対する演算を行うことにより、演算値を算出することであって、前記演算が行われる類似度の各々は、0~1の範囲の値を有する、ことと、前記演算値に基づいて、前記生体信号が表す情報を決定する」第2の決定手段を備えているとはいえず、また、その様な第2の決定手段を甲第1号証の記載から当業者が容易に想到できるともいえない。
なお、請求人は令和6年12月20日提出の弁駁書において、「1H(審決注、すなわち、「前記複数の教示データごとに、前記所定期間内の複数の出力ベクトルの各々が示す類似度に対する演算を行うことにより、演算値を算出することであって、」の記載。)では「複数の出力ベクトルに基づいて」を「複数の出力ベクトルの各々が示す類似度に対する演算を行うことにより」に補正しているが、「類似度」の定義が記載されておらず何と何の類似度であるか不明である。」(3頁9~11行)と主張しているが、「類似度」が「特徴データと複数の教示データのうちの各々との類似度」であることは請求項1の記載から明らかである。
よって、上記相違点3に係る相違点は、甲1発明から当業者が容易に想到できたものではない。
したがって、相違点1及び2については検討するまでもなく、本件発明1は甲1から容易に発明できたものではない。
(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明を対比すると、上記(1)アで検討した【一致点】を有し、次の相違点を有する。
【相違点1】
本件発明2は、「前記特徴データと、複数の教示データのうちの各々との類似度を示す出力ベクトルを決定する第1の決定手段」を備えるのに対し、
甲1発明は、「単一の電極部位および相関閾値からのデータを使用して、つまみ把持(把持1)の第1の試行と、非機能性1運動(把持2)の全試行の平均との間の距離である
【数4】
[図:0001426158000027.jpg]
NNF1=非機能性1運動が実行された試行の数 (等式4.4)
を計算し、
つまみ把持の試行1と、この運動の試行の平均との間の距離である
【数5】
[図:0001426158000028.jpg]
Nつまみ=つまみ把握が実行された試行の数
(等式4.5)
を計算し、
【数4】及び【数5】の結果は、つまみ把持の試行1と全ての他の運動との間の数値的な距離を含有する、20×50×6テンソルにまとめられ、
次に、このテンソルは、周波数1~50に沿って合計され、20×6のマトリクスをもたらし、
次いで、各時間インスタンスでの最小非ゼロ値が特定され、1の値が与えられ、全ての他のエントリには0の値が与えられ、
つまみ把持の全ての試行に適用され、Nつまみ×20×6マトリクスをもたらし、
次いで、つまみ把持からの最小距離を有すると特定された、全つまみ把持試行のパーセンテージが計算され、
最後に、全時間間隔にわたって最大パーセンテージを含有する運動が、運動を分類するために選択され、
同じ手順が、全ての電極部位ならびに相関閾値の全ての値について反復され、56のマトリクス(8つの電極部位×7閾値)をもたらし、最終的に、56のマトリクスのうちのいずれかをわたって達成された分類の最高のパーセンテージが、運動を分類するために選択される」点。
【相違点2】
本件発明2は、「前記出力ベクトルを時刻ごとに時系列に記憶する記憶手段」を備えるのに対し、甲1発明は、そのような記憶手段を備えるのか明らかでない点。
【相違点4】
本件発明2は、「前記記憶手段に記憶された時系列の出力ベクトルにおける所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて、前記生体信号が表す情報を決定する第2の決定手段を備え、前記第2の決定手段は、前記所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて前記複数の教示データごとに演算値を算出することであって、前記所定期間の終点は、前記記憶手段に前記出力ベクトルが記憶された最後の時刻であり、後続の新たな出力ベクトルが記憶されると,前記後続の新たな出力ベクトルが演算値を算出するために用いられ、前記後続の新たな出力ベクトルが記憶される前の前記所定期間の始点の前記出力ベクトルは前記演算値を算出するために用いられない、ことと、前記演算値に基づいて、前記生体信号が表す情報を決定すること」を備えるのに対し、甲1発明は、そのような第2の決定手段を備えるのか明らかでない点。
イ 判断
以下、事案に鑑み、相違点4から検討する。
甲1発明は当該20×50×6テンソルから求められたマトリックス(図14参照。)に基づき、「次に、このテンソルは、周波数1~50に沿って合計され、20×6のマトリクスをもたらし、次いで、各時間インスタンスでの最小非ゼロ値が特定され、1の値が与えられ、全ての他のエントリには0の値が与えられ、つまみ把持の全ての試行に適用され、Nつまみ×20×6マトリクスをもたらし、次いで、つまみ把持からの最小距離を有すると特定された、全つまみ把持試行のパーセンテージが計算され、最後に、全時間間隔にわたって最大パーセンテージを含有する運動が、運動を分類するために選択され、同じ手順が、全ての電極部位ならびに相関閾値の全ての値について反復され、56のマトリクス(8つの電極部位×7閾値)をもたらし、最終的に、56のマトリクスのうちのいずれかをわたって達成された分類の最高のパーセンテージが、運動を分類するために選択される」とされているのであるから、結果的に20の時間間隔を含む時系列の出力ベクトルにおける20の時間間隔を総合した期間内の複数の出力ベクトルに基いて、生体信号が表す情報を決定しているといえる。
しかし、甲1発明には、第2の決定手段が、所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて複数の教示データごとに演算値を算出するにあたって、「前記所定期間の終点は、前記記憶手段に前記出力ベクトルが記憶された最後の時刻であり、後続の新たな出力ベクトルが記憶されると,前記後続の新たな出力ベクトルが演算値を算出するために用いられ、前記後続の新たな出力ベクトルが記憶される前の前記所定期間の始点の前記出力ベクトルは前記演算値を算出するために用いられない」点(以下「特徴構成」という。)については記載がない。
そして、本件発明2は、当該特徴構成を備えることにより、所定期間内の複数の類似度に基づいて、生体信号が表す動作を決定するため、極めて高精度で生体信号が表す動作を識別できる(本件特許明細書の段落【0074】参照。)という特有の作用効果を奏するものであるから、当該特徴構成を甲1発明から当業者が容易に発明できたということはできない。
よって、上記相違点4に係る相違点は、甲1発明から当業者が容易に想到できたものではない。
したがって、相違点1及び2については検討するまでもなく、本件発明2は甲1から容易に発明できたものではない。
(3)小括
以上のとおり、本件発明1及び2は、甲1発明から当業者が容易に発明できたものではない。
3 無効理由2について
(1)対比
以下、本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「筋電パターンを識別する筋電義手」は本件発明1の「生体信号が表す情報を識別するためのシステム」に相当し、以下同様に、「ベクトルemgを計測する筋電計」は「生体信号を検出する検出手段」に、「ベクトルemgからベクトルemgの周波数分布を示す特徴ベクトルXを抽出する特徴抽出関数GFE」は「前記検出された生体信号を解析して特徴データを出力する解析手段」に相当する。
また、甲2発明の「特徴ベクトルXと複数の識別する筋電パターンの各々との識別処理を行った出力値である出力ベクトルLを出力するBPニューラルネットワーク」は、特徴ベクトルXと複数の識別する筋電パターンの各々との対比により識別処理を行い、出力ベクトルLを出力しているといえるから、本件発明1の「前記特徴データと、複数の教示データのうちの各々との類似度を示す出力ベクトルを決定する第1の決定手段」に相当する。
そして、甲2発明の「筋電パターンのIDであるmiの出力yを一定時間バッファするリングバッファbufft」と本件発明1の「前記出力ベクトルを時刻ごとに時系列に記憶する記憶手段」は、データを時刻ごとに時系列に記憶する記憶手段である点で一致する。
また、甲2発明の「識別結果の時系列buffを引数としてフィルタ結果としての義手への出力oを出力する関数GTS」と本件発明1の「前記記憶手段に記憶された時系列の出力ベクトルにおける所定期間内の複数の出力ベクトルに基づいて、前記生体信号が表す情報を決定する第2の決定手段」は、記憶手段に記憶された時系列のデータにおける所定期間内の複数のデータに基づいて、前記生体信号が表す情報を決定する第2の決定手段である点で一致する。
してみれば、本件発明1と甲2発明は、次の一致点及び相違点を有する。
【一致点】
生体信号が表す情報を識別するためのシステムであって、前記システムは、
生体信号を検出する検出手段と、
前記検出された生体信号を解析して特徴データを出力する解析手段と、
前記特徴データと、複数の教示データのうちの各々との類似度を示す出力ベクトルを決定する第1の決定手段と、
データを時刻ごとに時系列に記憶する記憶手段と、
記憶手段に記憶された時系列のデータにおける所定期間内の複数のデータに基づいて、前記生体信号が表す情報を決定する第2の決定手段と
を備える、システム。
【相違点】
時刻ごとに時系列に記憶手段に記憶されるデータが、本件発明1は、「記憶手段に記憶され、生体信号が表す情報を決定するデータが、出力ベクトル」であるのに対して、甲2発明は「筋電パターンのIDであるmiの出力y」である点。
(2)判断
甲2発明の「筋電パターンのIDであるmiの出力y」は、筋電パターンのIDであるからスカラー値であり、ベクトルではない。
よって、上記相違点は実質的相違点である。
(3)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2発明ではない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1及び2に係る特許は、請求人が主張する無効理由1及び2により、無効とすることはできない。
そして、審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-800086