特許無効審判
2022-800044
構築物用基礎構造
- 審判番号
- 2022-800044
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2021-017883
- 登録番号
- 6944224
- 請求日
- 2022年05月11日
- 審決日
- 2023年06月02日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】中村物産 有限会社
- 【請求人代理人】赤尾 直人
- 【請求人代理人】細井 勇
- 【被請求人】株式会社 ピーエルジー
- 【被請求人代理人】水野 博文
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 西田 秀彦
- 審判官 前川 慎喜
- 分類
- P1113.536-Y (E02D) / P1113.537-Y (E02D) / P1113.113-Y (E02D) / P1113.121-Y (E02D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第123条第1項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項、特許法第1条、特許法第2条第3項、特許法第2条、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6944224号発明「構築物用基礎構造」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
特許第6944224号発明の特許請求の範囲の請求項1、2、3、4、5に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求める。
2 答弁の趣旨
「本審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求める。
第2 手続の経緯
1 本件特許の手続の経緯の概略
(1) 本件特許の出願から設定登録までの経緯
令和3年 2月 7日 :出願
8月24日 :特許査定
9月14日 :設定登録
(2) 本件無効審判の手続の経緯
令和 4年 5月11日 :審判請求書の提出
11月14日 :答弁書の提出
令和 5年 2月24日付け:審理事項通知
3月15日 :口頭審理陳述要領書(請求人)の提出
3月31日 :口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出
4月 7日 :上申書(被請求人)の提出
4月14日 :口頭審理
第3 本件発明
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」などという。また、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~5の記載は、次のとおりである。
なお、構成要件A~Gの分説は請求人による。
「【請求項1】
A 構築物計画の地面を整地した面上に、又は掘削排土して形成した凹部底面を整地した面上に発泡樹脂材を敷設して形成した発泡樹脂基盤と、
該発泡樹脂基盤の上面に一体的に構築したベタ基礎と、
から成る構築物用基礎構造において、
B 前記発泡樹脂基盤の外周に発泡樹脂材の溶融を阻止する耐溶融性材から成る防護部材を、前記外周の端面から所定寸法だけ前記発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ位置で前記外周端面に沿って平行に配置すると共に、前記防護部材で閉ループ状に連続して取り囲むように配設した
C ことを特徴とする構築物用基礎構造。
【請求項2】
D 前記閉ループ状を形成する各防護部材を直線状に形成すると共にその両端部を、前記発泡樹脂層の端部まで延長させたことを特徴とする請求項1記載の構築物用基礎構造。
【請求項3】
E 前記耐溶融性材が、
耐溶融性を有する発泡樹脂ブロック又は樹脂板であることを特徴とする請求項1、又は2記載の構築物用基礎構造。
【請求項4】
F 前記耐溶融性材が、
所定厚さに塗布して成る耐溶融性の塗布材であることを特徴とする請求項1、又は2記載の構築物用基礎構造。
【請求項5】
G 前記耐溶融性材が、
灯油、ガソリン、等の薬品、並びにこれらを含有する液状体に対して耐溶融性を有するものであることを特徴とする請求項1、2、3、又は4記載の構築物用基礎構造。」
第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人は、概ね以下のとおり主張し(請求書、請求人要領書)、証拠方法として甲第1号証~甲第8号証を提出している(口頭審理調書参照)。
(1) 無効理由1(実施可能要件違反)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、「所定寸法」について説明がされておらず、当業者が実施可能な程度に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(2) 無効理由2(明確性要件違反)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、「所定寸法」という表現が、不明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(3) 無効理由3(新規性欠如)
本件特許の請求項1、3、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであって、本件発明1、3、5についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(4) 無効理由4(進歩性欠如)
本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項4及び5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明~甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
2 証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2006-207288号公報
甲第2号証:特開2000-154550号公報
甲第3号証:特開昭63-210308号公報
甲第4号証:意見書(特願2021-17883号)
甲第5号証:日本建築学会編「建築学用語辞典」第2版、岩波書店、1999年9月8日、380、668、745、746頁
甲第6号証:特開2011-99282号公報
甲第7号証:新村出編「広辞苑」、岩波書店、2018年1月12日、1259、1588頁
甲第8号証:高分子学会編「高分子辞典」第3版、朝倉書店、2005年6月30日、42頁
なお、「甲第1号証」等をその数字により「甲1」等ということがある。
3 請求人の具体的な主張
(1)無効理由1(実施可能要件違反)
ア 発泡樹脂基盤が薬品液の浸入による不同沈下を原因とする構築物の傾斜を防止するという本特許発明の効果を達成する(段落[0014]の(1))ためには、「内側に入り込んだ位置」がどの程度であるかが明瞭に説明されていなければならない。即ち、請求項1の「所定寸法だけ前記発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ位置」の「所定寸法」が発泡樹脂基盤のうちのどの程度内側に入り込んでいるのかが明らかにされることを必要不可欠としている。
然るに、本特許明細書においては、「所定寸法」がどのような程度にて内側に入り込んでいるかについては、全く説明されていない。このような説明状況では、当業者においては、段落[0014]の発明の効果の項における(1)の薬品液の外部からの浸入を阻止することによって、構築物の傾斜の抑止に至る基準を把握することができない。
かくして、本特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明(以下、「請求項1発明」と略称する。)における「所定寸法」につき客観的な基準が記載されておらず、当業者においては必要不可欠な前記効果の発揮を伴う実施を行うことが不可能である以上、請求項1発明に従属している請求項2、3、4、5に係る各発明(以下、それぞれ「請求項2発明」、「請求項3発明」、「請求項4発明」、及び「請求項5発明」と略称する。)についても同様の評価が可能であって、上記請求項発明に立脚している本特許発明については、特許法第36条第4項第一号及び同第123条第1項第四号に基づく無効理由が成立する。
(請求書3頁下から3行~5頁4行)
イ 請求項1発明において、ベタ基礎は、例えば図3(A)、(B)、図4(A)、図5(A)、(B)に示すように、構築物の端部において大きな荷重が形成され、その結果、図6(A)、(B)に示すように、前記領域(審決注:「防護部材で閉ループ状に連続して取り囲」まれた領域)の外側における発泡樹脂基盤3によって、前記大きな荷重を支えねばならない実施形態が包摂されている。
実施形態において、防護部材によって囲まれた前記領域における発泡樹脂盤3のみの支持によって傾斜状態を抑止できるのであれば、ベタ基礎6は、曲げ応力が作用しても変形しないことを必要不可欠としており、その根拠は、○1(審決注:○の中に1を意味する。以下同様。)実施形態においては、別紙図面の白矢印のように、構築物の荷重によって、ベタ基礎の端部及びその近傍に対し下方への荷重が生じ、○2前記領域における発泡樹脂基盤3のみの支持が実現している以上、当該発泡樹脂基盤3は、構築物の荷重及びその余の荷重を支持しており、当該支持によって、前記領域に対応するベタ基礎の各位置に対し、別紙図面の黒矢印に示すように、上側方向への外力が作用し、○3前記○1のベタ基礎の端部及びその近傍における下方への荷重、及び前記領域に対応するベタ基礎の各位置に対する上側への力の作用の結果、ベタ基礎においては曲げ応力が発生しているからである。
<別紙図面>
「
[図:0001400373000001.jpg]
」
にも拘わらず、ベタ基礎の端部及びその近傍に対応している前記領域の外側に存在し、かつ薬液によって溶融している発泡樹脂基盤3が変形せず、その結果、「構築物の傾斜」を抑制するためには、ベタ基礎が、前記曲げ応力にも拘らず、変形しない状態でなければならないが、ベタ基礎は、曲げ応力に対し変形しないという保証は存在しない。
かくして、防護部材によって、「閉ループ状に連続して取り囲」まれた領域における発泡樹脂基盤3のみの支持では、薬液の溶融による傾斜を抑止することができない。
かくして、請求項1発明において、実施可能要件をクリアしうるか否かに関する技術的考察事項を設定したとしても、前記クリアは、本来不可能である。
(請求書9頁下から3行~10頁23行、10頁下から2行~11頁1行、11頁19~23行)
ウ 構築物の傾斜を排除するために必要な基準について
図6(A)、(B)に示す実施例において、防護板材7の設置位置がベタ基礎の存在領域の内側の場合には、構造物Bによる荷重との関係において構造物モデルに即して、どのような場合に構築物の傾斜を回避し得るかの基準を具体的に検討し、かつ設定する以外にない。
しかしながら、たとえモデルを設定したとしても、ベタ基礎6のうち、基礎スラブの下側に配置されている防護板材の外側に薬液が侵入し、かつ発泡樹脂材の弾性機能が減少するか又は喪失した場合には、当該基礎スラブは曲げ変形が生じ、ひいては構造物の傾斜原因が発生する可能性を否定することができない。
このような可能性において、如何なる場合に傾斜し、如何なる場合に傾斜しないかにつき、具体的な計算によって確実に特定することは、不可能又は極めて困難である。
このような場合、「所定寸法」の技術用語によって、前記弾性変形、更には構造物傾斜を避ける客観的基準を設定することは、もとより不可能である。
このように、防護板材7が基礎スラブの下側に配置されている図6の実施例においては、請求項1発明の「所定寸法」という基準では、構築物の傾斜を避けるような客観的基準を設定したことにはならない。
にも拘らず、発明の詳細な説明においては、「所定寸法」につき、前記客観的基準に即した説明は全く行われていない以上、本特許明細書の記載につき、実施可能要件違反は明白に成立する。
(請求人要領書6頁15行~7頁3行)
エ 本発明の効果に関する請求人の主張について
(ア)地盤状況、建築物の荷重、建築面積の測量は、本発明の構築物用基礎構造の設計においては、当然要請される事項であって、これらを想定したことによって直ちに構築物の傾斜を防止するような「所定寸法」に関する客観的基準を設定したことにはならない。構築物の傾斜を避けるためには、防護部材をベタ基礎の存在する領域に即して客観的基準を設置することを必要不可欠とする。
(請求人要領書7頁14~20行)
(イ)図6(A)、(B)の実施形態において防護板材7から、発泡樹脂基盤3の外側端部に至る距離をaとし、当該端部から格子梁のコーナーに至る距離をcとし、防護板材7間の距離を2bとしたうえで、前記外側の領域が薬液によって浸食された場合を想定する。前記浸食の場合には、防護板材7の外側領域における発泡樹脂基盤の荷重吸収力が減少しているのに対し、内側の発泡樹脂基盤の荷重吸収力は維持されている。
したがって、ベタ基礎6のうち、防護板材7の位置においては、別紙図面1に示すように、前記吸収力の減少を原因として構築物Bの荷重に基づく曲げモーメントが発生している。
格子梁が支える荷重をF1とし、図6(A)の左右方向にて基礎スラブが支える単位長さ当たりの荷重をf2とした場合には、
[図:0001400373000002.jpg]
が成立する。
図6(A)の左右方向において基礎スラブが支える全荷重をF2とした場合には、
[図:0001400373000003.jpg]
が成立することから、曲げモーメントMについては、
[図:0001400373000004.jpg]
が成立する。
基礎スラブ6において、防護部材7の位置における曲率半径をRとし、基礎スラブの平面方向のヤング率をEとし、当該平面に直行する断面の慣性モーメントをIとした場合には、R=EI/Mという材料力学における基本的な一般式が成立する。
甲6特許明細書記載のように、荷重が格子梁に集中することを考慮するならば、F1>>F2が明らかに成立し、しかも、cが一定値である以上、aがbよりも圧倒的に大きい場合には、曲げモーメントMが大きな数値と化すと共に、曲率半径Rが小さな値と化し、ベタ基礎6の曲げ変形によって構造物Bの傾斜の原因となり得るのに対し、逆にbがaよりも圧倒的に大きい場合には、曲げモーメントMは小さな値と化し、かつ前記原因が生じ難い以上、請求人の指摘事項が正しいことを裏付けている。
このように、被請求人の前記主張は、現実に薬液による浸潤が行われた場合には、前記曲げモーメントMが発生し、程度如何によっては構造物の傾斜が生じ得ることに気付いていないことによる立論であって、到底前記請求人の指摘に対する反論足り得ていない。
<別紙図面1>(請求人要領書に添付)
[図:0001400373000005.jpg]
(請求人要領書9頁22行~10頁22行)
(ウ)作用効果が発明の特定事項に該当せず、しかも明細書における必要な記載事項に該当しないことと、明細書において発明の効果を記載した場合の実施可能要件の成否は全く別意の事項である。即ち、明細書において発明の効果を記載した以上、当該効果を達成するための具体的説明が必要不可欠であって、前記被請求人の一般論は、作用効果が明細書に記載された場合に必要不可欠な事項に対する考察を欠落していることに他ならない。
(請求人要領書11頁9~15行)
(2)無効理由2(明確性要件違反)
ア 請求項1の「所定寸法」という表現では、どの程度防護部材が「発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ」状態を表すのかの基準が不特定であって、当業者においては「入り込んだ程度」を把握することができない。このような場合、当業者において、如何なる基準の下に前記段落[0014]における(1)の効果を発揮し得るのか基準を把握することができない。即ち、実施可能要件違反は、請求項1発明の明確性要件違反に連動している。
かくして、請求項1に係る発明において「所定寸法」が不特定であって、必要な作用効果を発揮し得る基準が不明確である以上、当該評価が請求項2発明、請求項3発明、請求項4発明、及び請求項5発明についても同様の評価が可能であって、本特許発明については、特許法第36条第6項第二号及び同第123条第1項第四号に基づく無効理由が成立する。
(請求書5頁6~19行)
イ 特許法第36条第6項第2号の「発明」においては、所定の効果を発揮することを当然の前提としており、効果を発揮し得ない発明は、「産業の発達に寄与することを目的とする」(特許法第1条)ことができない。このような場合、請求項1発明の「所定寸法」のように、発明の効果と表裏の関係にある構成要件については、目的とする効果を発揮し得るかを尺度として、特許法第36条第6項第2号を充足するか否かを論ずることは当然可能である。
判例(最判平成27年6月5日民集69-4-700)に即するならば、請求項1発明の「所定条件」という記載には、構築物の傾斜の抑止という「特性により直接特定することが不可能である」以上、同条同項に適合しないという帰結を導出することができる。請求項1において、「所定寸法」に関し、防護部材を「外周端面に沿って平行に配置する」こと、及び「防護部材で閉ループ状に連続して取り囲むように配設したこと」は、防護部材を対象とする生産行為に該当し、ひいては、構築物用基礎構造の製造行為に該当する(特許法第2条第3項第三号)。前記判例の説示事項は、請求項1発明の「所定寸法」が、同条同項同号を充足していないことを客観的に裏付けている。
(請求書12頁2~8行、12頁下から3行~13頁1行、13頁4~8、13~14行)
ウ 本発明は、「所定寸法」にて配置された防護部材による発泡樹脂基盤の浸潤防止効果及び引用文献1との峻別の強調によって本発明の特許査定が実現した以上、「所定寸法」は必然的に前記浸潤を防止するうえで必要不可欠な基準に該当するが、請求項1の「所定寸法」は、前記効果を発揮する客観的な基準を、当業者において把握することは不可能である。
(請求人要領書12頁12~18行)
エ 明細書に効果を記載することが義務であるか否かと、・・・明細書に効果を記載した場合に当該効果を達成するような技術的事項は特許請求の範囲に記載されているかという明確性要件の成否とは、全く別異の事項であり、構造物の傾斜の防止等の効果を明細書に記載された以上、「所定寸法」という発明特定事項が、当該効果を達成するうえで必要にして十分であるか否かに関する、特許法第36条第6項第2号の成否は、必然的に斟酌の対象となる。
(請求人要領書13頁19~27行)
(3)無効理由3(新規性欠如)及び無効理由4(進歩性欠如)
ア 甲1発明~甲3発明の構成について
(ア)甲1発明の構成について
a 図1の開示状況及び免震部15に関する段落[0014]の説明によれば、盛土材3は、凹部底面を形成している基礎地盤1上の位置に敷設され、かつ建物基礎2によるベタ基礎を支える基盤に該当する。しかも前記盛土材3に関する段落[0007]の説明のように、盛土材3として、選択されたブロック状の発泡スチロールは、Aの発泡樹脂基盤に該当する。
b 図1に示すように、発泡ウレタン20は、凹部底面である基礎地盤1に敷設されている。しかも[0021]の説明によれば、発泡ウレタン20は、振動吸収部17の最外周部に位置しており、かつ免震支承体3と協働して上部構造体12を対象とする免震作用を発揮している。前記敷設状態及び前記協働による免震作用を考慮するならば、発泡ウレタン20もまた、免震支承体3と同様にAの発泡樹脂基盤に該当する。
(請求書16頁21行~17頁5行)
c 甲1発明は、以下の構成を開示している。
「a 地盤14を掘削排土して形成された凹部底面である基礎地盤1を整地した面上に、ブロック状の発泡スチロールによる盛土材3及び発泡ウレタン20を敷設して形成したことによる発泡樹脂基盤と、当該ブロック状の発泡スチロールによる発泡樹脂基盤の上面に一体的に構築した建物基礎2によるベタ基礎と、からなる基礎構造体13において、
b 発泡樹脂基盤に該当する発泡ウレタン20の外周に発泡スチロールの溶融を抑止し得る外周板19を、前記発泡ウレタン20の外周の端面から基礎地盤1において所定寸法だけ前記発泡ウレタン20の内側に入り込んだ位置で、前記外周端面に沿って平行に配置すると共に、外周板19によって閉ループ状に連続して取り囲むように配置した
c ことを特徴とする基礎構造体13。」
(審決注:請求人が、以下で、上記「a」等を指す場合、「甲1発明の構成a」等と記載する。)
(請求書21頁12~24行)
(イ)甲2発明について
発泡樹脂盤として、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等の何れかの種類を選択することができ(発泡樹脂盤に関する段落[0012])、しかも当該発泡樹脂基盤2は、連続した態様にて敷設されている(図2)。発泡樹脂基盤2の外周端面は鉛直方向を形成している(図2)。
(請求書22頁14~20行)
(ウ)甲3発明の構成について
a 発泡スチロール材を用いた地盤等の造成方法を対象としている甲3発明は、以下の構成を開示している。基本構成として「地盤や路盤等に盛土・埋戻しする際に、荷重や土圧を軽減するべく発泡スチロール材を使用する地盤等の造成方法において、同発泡スチロール材の表面に、少なくともアクリル酸エステル共重合体を主成分としてなる複合ポリマーエマルジョンを含有する塗膜を形成したことを特徴とする発泡スチロール材を用いた地盤等の造成方法。」(1頁左下欄特許請求の範囲1)。
b 前記基本構成の効果として、「発泡スチロール材の表面に塗布した、アクリル酸エステル共重合体を主成分としてなる複合ポリマーエマルジョンは、石油等に対しても化学反応を起こすことがないので、発泡スチロール材の腐食・溶解を完全に防止することができる。」(2頁左下欄○2)と説明している。前記効果は、発泡スチロール材に対する薬液による溶融を防止しうる点において、甲1発明の外周板19の機能と共通している。
(請求書22頁22行~23頁8行)
イ 請求項1発明、請求項3発明及び請求項5発明の新規性欠如について
(ア)請求項1発明について
a 甲1発明の構成aの発泡樹脂基盤は、ブロック状の発泡スチロールからなる盛土材3及び発泡ウレタンによって構成されているが、甲1の図1、2に示すように、盛土材3は連続しておらず、相互に離れた状態を形成している。しかしながら、「基盤」とは「物事の土台」の趣旨であって(広辞苑)、物事を支える機能を発揮している土台の全てを包摂している。従って、相互に離れた状態にある盛土材3が上部構造体12を支持する土台としての機能を発揮している以上「基盤」に該当することに疑いの余地はない。
(請求書23頁13行~23行)
b 甲1発明の構成aにおいて、発泡ウレタン20がベタ基礎2によるベタ基礎に対し、専ら盛土材3のみによって具体的に構築されているとしても、このような構築状態は、却って、請求項1発明の基本的技術思想に合致しており、甲1発明の構成aが、請求項1発明のAを充足することに対する支承とはなり得ない。
(請求書24頁23行~26行)
c 甲1発明の構成bにおいては、外周板19の内側には発泡スチロールによる盛土材3が敷設されているのに対して、外周板19の外側には、発泡ウレタン20が敷設されており、このような2種類の発泡樹脂が採用されている。しかしながら、請求項1発明の構成Bは、1種類の発泡樹脂に限定している訳ではない。
本件特許明細書においては発泡樹脂ブロック31の材質として、ポリスチレン系樹脂発泡体、ポリエチレン系樹脂発泡体、ポリプロピレン系樹脂発泡体を例示した上で、「軽量性及び強度性などの確保の点からこれらの組合せとしてもよい」(段落[0024])ことを明示しており、異なる発泡樹脂の採用が可能であることを裏付けている。かくして、外周板19の内側及び外側において、異なる2個の発泡樹脂を採用することは、構成bが、請求項1発明の構成要件Bを充足することの支障とはなり得ない。
甲1発明の構成cは、請求項1発明の構成要件Cに該当し、かつ構成要件Cを充足している
(請求書24頁下から1行~25頁17行、25頁24行)
d 基本構成の対比について
本発明の請求項1は、「発砲樹脂材を敷設して形成した発泡樹脂基盤」で有ることを要件としており、当該発砲樹脂材として、「ブロック状の樹脂材」を採用することができ([0014]の(3)及び図1)、発泡樹脂ブロック31を点在状に敷設する構成を排斥しているわけではない。発泡樹脂基盤の敷設によって「地震震度の低減」という作用効果が発揮される以上(本特許明細書の段落[0002])、本発明の発泡樹脂基盤もまた、当然地震震度における水平方向の揺れを吸収する機能を発揮しており、この点において、甲1発明の場合と変わりはない。
・・・実施例によって、防護板材7によって発泡樹脂基盤3が分離されていることを考慮するならば、本発明は決して密接な状態にて敷設された発泡樹脂基盤に限定されているわけではない。
(請求人要領書17頁10行~18頁5行)
e 甲1発明における発泡ウレタン20とベタ基礎である建物基礎2との関係
(a)請求項1発明は、「発泡樹脂基盤の上面に一体的に構築したベタ基礎」を要件としている。前記要件における一体的構築状態とは、(イ)発泡樹脂基盤の全上面がベタ基礎の底部と直接接続するか、又は他の素材を介して間接的に接続することによる一体構築状態、又は、(ロ)発泡樹脂基盤の水平方向内側の中央領域の一部上面がベタ基礎の底部と直接接続するか、又は他の素材を介して間接的に接続し合うと共に、当該中央領域以外の水平方向周辺領域にて発泡樹脂基盤の外側の他の一部上面と、ベタ基礎の側部とが他の素材を介して間接的に接続し合うことによる一体構築状態である。
・・・
調整コンクリート5は、発泡樹脂基盤3の上面とベタ基礎6の底部又は側部と間接的な接続に寄与しているが、請求項1を含む特許請求の範囲においては、間接的な接続に寄与する土台を調整コンクリートに特定している訳ではないから、前記(イ)及び(ロ)において、間接的な接続状態を実現する介在物については、調整コンクリートに限定する必要はなく、「他の素材」を以って必要にして十分である。
(請求人要領書19頁1~19行、20頁30行~21頁3行)
(b)本発明の各実施例においては、ベタ基礎6の外側にあって、発泡樹脂基盤3又は発泡樹脂による防護材4の上側に調整コンクリート5を、「外側に拡張して設置」(段落[0026])することにより延設しており、前記延設状態の調整コンクリート5は、前記(ロ)のように、ベタ基礎6の側部と発泡樹脂基盤とを間接的に接続する機能を発揮している。
前記各実施例において、ベタ基礎6から外側に延設されている調整コンクリート5は、決して下側にてベタ基礎6の荷重を支えているのではなく、ベタ基礎6の側部との接続によって曲げ変形が発生しているに過ぎない。
別紙図面2に即して具体的に説明するに、延設された調整コンクリート5の各位置と、ベタ基礎6の側部との距離をxとし、ベタ基礎6が側部にて調整コンクリート5との接続位置に作用する力をF´とした場合には、当該xの位置においては
M=xF´
による曲げモーメントが発生している。
<別紙図面2>
[図:0001400373000006.jpg]
前記力F´は決してベタ基礎6が支えている荷重ではなく、その一部に過ぎない。
前記xの位置における調整コンクリート5の曲率半径Rとし、調整コンクリート5における板状方向のヤング率をEとし、当該板の断面の慣性モーメントをIとした場合には、
R=EI/M
という一般式が成立する。
前記一般式によれば、延設された調整コンクリート5においては、ベタ基礎6の側部の距離をxが大きくなるにしたがって、曲げモーメントMが増加し、かつ曲率半径Rが小さい値と化し、曲げ変形の程度が大きいことを裏付けている。
かくして、前記各実施例において、ベタ基礎6から外側に延設されている調整コンクリートは、ベタ基礎6の荷重を支えているのではなく、ベタ基礎6が側部にて作用する力F´によって発生した曲げモーメントを原因として変形しているに過ぎない。
(請求人要領書21頁5行~22頁8行)
(c)甲1発明の免震支承体3においては、EPSが好ましい実施形態として好的に採用されているが(段落[0007])、図1に示すように、免震支承体3は板状の盛土材5を介して間接的にベタ基礎である建物基礎2と接続し、かつ建物基礎2に伝達される荷重を支えている。甲1は、図1に即して発泡ウレタン20に関し、「その上方には細石を敷き詰めて発泡ウレタン20を養生するスラブ21が形成される。」と説明している。
甲7の広辞苑によれば、「敷き詰める」とは、「敷いて押さえ付ける」の趣旨である。
したがって、細石を介して発泡ウレタン20を下側に押さえ付けた場合には、発泡ウレタン20が水平方向に拡張し、横側の建物基礎2と密着状態に至ると共に、スラブ21における細石もまた、建物基礎2と密着状態にある。
甲5の建築用語辞典、及び甲7の広辞苑に示すように、「スラブ」とは、鉛直荷重を支持する床板、又は板状の物という趣旨であり、甲5の建築用語辞典によれば、「養生」とは、「打ち込まれたコンクリートなどが所要の性能を発揮するために必要な要件を与える」趣旨であるから、スラブ21が「発泡ウレタン20を養生する」とは、「スラブ21が「発泡ウレタン20に対し鉛直方向の荷重を弾性変形を伴って支持するという本来の機能を発揮させる」ことを意味している。
甲1発明のスラブ21においては、各実施例、即ちベタ基礎6の側部から延設された調整コンクリート5の場合と同様に、M=xF´という曲げモーメントが発生していることに変わりはない。前記曲げ変形を考慮するならば、スラブ21が前記のように「発泡ウレタン20を養生する荷重」とは、曲げモーメントを原因として発生した曲げ変形を原因とする「荷重」の趣旨に他ならない。
かくみるならば、甲1においては、発泡樹脂基盤のうち、EPS等による免震支承体3が、水平方向中央領域にて、べた基礎である建物基礎2の底部と板状の盛土材5を介して間接的に接続し合うと共に、当該中央領域以外の周辺領域にて発泡ウレタン20の上面と前記建物基礎2の側部とがスラブ21を介して間接的に接続し合うことによる一体構築状態、即ち前記(ロ)の一体構築状態を実現している。
(請求人要領書22頁9~30行、23頁18~23行、23頁32行~24頁2行)
(d)かくして、甲1発明においては、免震支承体3及び発泡ウレタン20の上面と、建築基礎2とが前記(ロ)の一体構築状態を構築しており、その結果、請求項1発明は新規性を欠如している。
(請求人要領書24頁4~6行)
(イ)請求項3発明
甲1発明のウレタン樹脂による外周板19は、請求項3発明の「樹脂板」に該当する以上、樹脂板の場合の前記特徴点及び請求項3発明は、甲1に開示されており、新規性を欠如している。
(請求書8頁の「e」、27頁10~13行、請求人要領書27頁3~7行)
(ウ)請求項5発明
甲1の外周板19が請求項5発明における灯油、ガソリン等の薬品、並びにこれらを含有する液状態に対して耐溶融性を有する「耐溶融性材」に該当することに帰するから、請求項5発明は、その特徴点だけではなく、構成自体が甲1に開示されており、新規性を欠如している。
(請求書8頁の「g」、27頁18~22行、請求人要領書29頁13~21行)
ウ 請求項1発明~請求項5発明の進歩性欠如について
(ア)請求項1発明
a 甲1の発泡ウレタン20に代えて、甲2のポリスチレンによる発泡樹脂盤を採用すること、及び甲1のブロック状の発泡ポリスチレンに代えて、連続した態様に置換することは、当業者が任意に採用し得る選択事項に過ぎない。
甲1の発泡ウレタン20の傾斜した外周端面に代えて、甲2のような鉛直方向の発泡樹脂基盤2を採用することもまた、当業者が任意に採用し得る選択事項に他ならない。
したがって、敢えて、請求項1発明の実施形態の構成に限定したとしても、当該限定に基づく発明は、進歩性を欠如している。
(請求書25頁26行~26頁19行)
b 甲2発明においては、面状又は凹部底面を整地した面状に発泡樹脂基盤2を形成し、かつ当該発泡樹脂の上面にベタ基礎3を一体的に構築している(図1(A)、(B))。このような構築状態は、請求項1発明と共通している。甲2発明の発泡樹脂基盤2は、ブロック毎に分離されていない発泡樹脂を形成しているから、敢えて本発明のうち図2,図3,図4(A)、図5、図6掲載の各実施例ように、ブロック毎に区分されていない発泡樹脂に限定したとしても、甲1発明において外周板19を残存したうえで盛土材3及び発泡ウレタン20と置換した場合には、前記実施形態の構成が容易に得られることは、必然的な帰結である。
(請求人要領書24頁19~29行)
(イ)請求項2発明
本特許明細書は、防護部材7の端部を構築基盤の端部にまで延長させることによって、どうして施工しやすい配設であるかの根拠を明らかにしていない。因みに、図6の実施例のように延長させない正方形状の閉ループの場合の構成に対し、図6のような井桁状の構成は、無意味かつ余分な形状による配置を施工しているに過ぎず、決して施工を容易としている訳ではない。延長部分が防御機能に寄与していない以上、被請求人主張の技術的効果の発揮はあり得ない。被請求人が主張しているブロック毎の交換については、本特許明細書には説明されていない。明細書の記載による裏付けを伴っていない前記被請求人の主張は失当かつ無意味である。
(請求書26頁下から1行~27頁9行、請求人要領書26頁8~25行)
(ウ)請求項3発明
甲8の高分子辞典に示すように、発泡ウレタンポリマー、即ちウレタンフォームのうち、建築物等に使用される硬質フォームの場合には、独立気泡構造を有しており、気泡領域以外のウレタン領域は、連続したポリマーを形成している。したがって、甲1の発泡ウレタンポリマー20のように建築物に使用されている硬質フォームは、ウレタンによる外周板19と同程度又は準ずるような防御部材としての機能を発揮することができる。甲1発明においては、薬剤からの防御機能については、基本的にウレタンによる外周板19が発揮しており、発泡ウレタンポリマー20については防御部材として扱わられていない。その原因は、甲1発明の発泡ウレタンポリマー20は傾斜した地盤、外周板19との間に注入され、下側の領域が極めて狭幅状態と化しているために十分な防御材機能を期待し得ないことにあると解される。しかしながら、発泡ウレタンポリマー20が独立気泡を備えることによってウレタンによる外周板19と同様に耐溶融性を発揮し得ることを考慮するならば、甲1発明は、発泡ウレタンポリマー20につき、所定の厚さを備えたうえで外周板19を置換することによって防御部材として採用されることを明瞭に示唆している。
かくして、請求項3発明のうち発泡樹脂ブロックについては、甲1発明に比し進歩性を欠如している。
(請求人要領書27頁8~28行)
(エ)請求項4発明
発泡スチロール材を用いた地盤等との造成方法を対象としている甲3発明は、発泡スチロール材の表面にアクリル酸エッセル共重合体を主成分とする複合ポリマーエマルジョン材を有する塗膜を形成する構成を開示しており(1頁左欄の特許請求の範囲)、このような構成は、請求項4発明の特徴点である所定の厚さに塗布してなる耐溶融性塗布材に他ならない。甲3発明が請求項4発明の特徴点を開示していることを考慮するならば、請求項4発明は、甲1発明の外周板19と甲3発明の複合ポリマーエマルジョン材を発泡スチロール材の表面に塗布した防護板材と置換することによって、容易に想到することができ、ひいては、進歩性が成立しない。即ち、甲3発明は、甲1発明との結合によって、請求項4発明の進歩性の欠如を裏付けている。
(請求書8頁の「f」、27頁14~17行、請求人要領書28頁14~26行)
(オ)請求項5発明
甲3の前記複合ポリマーエマルジョンが請求項5発明の特徴点を裏付ける耐溶融性材に該当することについては、既に審判請求書において指摘したとおりである(8頁g及び27頁請求項5発明の項)。このような場合、甲1発明において外周板19を、甲3発明のように、複合ポリマーエマルジョンを発泡スチロール材の表面に塗布した構成に置換することによって、請求項5発明は容易に想到し得る状況にある。即ち、甲請求項5発明は甲1発明及び甲3発明の結合に比し、進歩性を欠如している。
(請求書8頁の「g」、27頁18~22行、請求人要領書29頁22~30行)
なお、請求人は、口頭審理において、審判請求書及び請求人要領書に記載の「防御板」、「防御板材」等を、いずれも「防護板材」に、また「防腐剤」を「防護材」に、請求人要領書の5頁16行の「配置」を「排除」に訂正し、これらの訂正につき、被請求人は了承したため、その通り理解した。また、その他の明らかな誤記についても、読み替えて理解した。
第5 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
請求人は、概ね以下の「2」のとおり主張し、証拠方法として乙第1号証を提出している(口頭審理陳述要領書参照)。
乙第1号証:建築知識編、「世界で一番強い地盤・基礎を設計する方法」、株式会社エクスナレッジ、2011年4月1日、13,14,87-89、103,104頁
2 被請求人の具体的な主張
(1)無効理由1(実施可能要件違反)
技術的効果が発揮できる位置を如何なる寸法位置に設定するかは、施工地の地盤状況や建築物の荷重、建築面積などを測量して、施工設計者の経験則や技術常識に基づいて適宜設定されるものである。
本件特許発明の目的(解決課題)は、発泡樹脂基盤内の内側に入り込んだ位置に耐溶融性の防護部材を配設して、発泡樹脂基礎崩壊等を防止することが課題なのであって、この構成を建築物用基礎構造に対して実施でき、何らかの技術的効果を得られる以上、当該効果を最も効果的に発揮または確保するために上記寸法をどの程度にするかは、当業者の裁量の範囲内であると解するのが妥当である。
提示した別紙図面において、構造物の荷重(白矢印)が防護部材の外側のみ作用するように表記しているが、構築物の荷重は通常ベタ基礎6の下面に略均等に作用するものとして設計しており、そのためベタ基礎にはコンクリート打設前に、適切に設計した配筋を行っており、容易に湾曲しないよう設計するのが通常である。請求人は、敢えて都合よく歪曲した作図図面(別紙図面)を挙げて主張している。
ベタ基礎は、無筋コンクリートで構築することはなく配筋をすることにより相互の優れた性能が保持されて、曲げ応力にも強い基礎構造となる。部分的に一部が溶解されてもすぐに建物が傾斜倒壊することはなく、請求書の記載は技術常識を無視したものであり失当である。
(答弁書2頁下から7行~3頁2行、3頁11~下から2行)
(2)無効理由2(明確性要件違反)
ア「所定寸法だけ入り込んだ位置」の設定は、施工場所の地盤や状況により、適宜に行う設計的事項であり、施工事業者であれば、どの程度入り込んだ位置に防護板材を配置するかは、一般的に行うものであり、ここに寸法的な記載がないからと言って、発明の特定事項が不明確であるとの主張は妥当性がない。
本特許発明の構成要素である発泡樹脂材と防護部材の組み合わせによって想定された課題解決のための効果を奏することは容易に予測できる事項の範囲内であり、入り込む寸法を具体的に特定する必要があるとする主張は、明細書の理解対象者である「当業者がその実施をすることができる程度に記載する」(36条4号1号)との規定を曲解していると言わざるを得ない。
発明の効果を把握できないから、発明を実施することができないとの主張は、効果の記載が義務的でないとする明細書記載の基準(特許法施行規則24条の2)に基づけば、成り立たないことを知るべきである。
(答弁書7~23行)
イ 「所定寸法」なる用語は、特許請求の範囲の記載において一般的に使用されているものです。特許請求の範囲の請求項は、発明特定事項を記載する項目であり、「発明とは、自然法則を利用した技術的思想」であり(特許法第2条一項)、「技術思想」と「技術」とは異なる概念であり、技術を特定する具体的な設計事項を記載する必要はないと理解するべきである。この「所定寸法」の具体的寸法の設定は、施工場所の地盤や状況により、適宜に行う設計的事項であり、施工事業者であれば、どの程度入り込んだ位置に防護板材を配置するかは、一般的に行うものであります。現場が特定されない段階で具体的寸法を決められないことは、当然である。
(被請求人要領書5頁4~13行)
(2)無効理由3及び無効理由4
ア 請求項1について
(ア)本特許発明と甲1発明の構成との根本的相違及び対比
a 甲1発明の解決課題は、「施工が容易で免震機能に優れた免震基礎構造、木造住宅、およびこれらに使用可能な建物の免震支障体の提供」(【0004】)にあり、本特許発明の解決課題とは全く相違する。そのため、甲1発明は振動吸収を主眼として各要素を構成している。先ず大きな違いは、盛土材3は、発泡樹脂のブロック体であるが、それと同時にスリット4を形成して断面2次モーメントを低下させたものである(【0007】)。これにより、水平方向の揺れを吸収することを目的としており、実施例では声Rを免震支承体3と同義にして記載している(【0014】)。本特許の発泡樹脂基盤とは全く別物である。別言すると、本特許発明では、密接に配設(ブロック体の密接に限定していない。)して基盤を形成することを必須としているのに対して、甲1発明は、横揺れを積極的に促進させたブロック状の免震支承体を散点状に配置することを必須要素としており、むしろ本特許発明とは課題を解決するための手段及びそれによる機能が逆である。
(答弁書5頁2~15行)
b 発泡ウレタン20は、外周囲を整地するために隙間に注入する発泡体に過ぎず、または建物基礎2の横揺れを吸収又は緩和させる目的で注入施工の発泡ウレタン20の配置であり、ベタ基礎2の荷重を負担していないことは図1の断面図をみれば明らかである。このようにベタ基礎の荷重を負担するものでない以上、本特許発明を特定する発泡樹脂基盤とは、明らかに異なることは容易に理解できる。
(答弁書5頁24~29行)
c 本発明1の基盤3の形成において、鉛直方向スリットを設けることは、単なる設計的事項の範囲、又は当業者であれば容易に選択しうる事項となるものではなく、むしろ、本発明1の基盤3に多数の鉛直スリットを設けて横揺れを許容する構成とした場合は、「該発泡樹脂基盤の上面に一体的に構築したベタ基礎と」の一体性に反する結果を招くことになる。
(被請求人要領書2頁19~23行)
d 防護部材の配置による比較
(a)本発明1の防護部材の配置は、前記外周(発泡樹脂基盤の外周)の端面から所定寸法だけ前記発泡樹脂基盤(上記略称、「基盤3」)の内側に入り込んだ位置で前記外周端面に沿って平行に配置する点で著しく異なっており、本発明1の必須の発明特定事項の1つとなるものである。【図6】の断面図から分かるように、防護板材7を基準として内側及び外側には、共通材質の発泡樹脂基盤3を配設している。これは内側と外側で同様の耐圧縮強度を企図したものだからである。したがって、甲1発明の外周板19の外側に充填敷設されたウレタン20とは、目的機能からして明らかに異なっている([0021])。
(被請求人要領書4頁3~12行)
(b)本発明1の防護部材7の外側周囲に配置した基盤3においても、ベタ基礎6の立ち上がり部からの鉛直荷重が作用しているは容易に把握できるのに対して、甲1発明の明細書([0019])の記載と別紙1をみれば、ベタ基礎の立ち上がり部からの鉛直荷重はウレタン20の領域には作用していないことは明らかである。たとえ、ウレタン注入後に、その上方に細石を敷き詰めて発泡ウレタン20を養生するスラブ21を形成するとしても、このスラブ21は配筋コンクリートで有ることの記載も示唆もない。仮にこのスラブ21が配筋コンクリート製であったとしても、その配筋とベタ基礎の配筋との連結状態が不明であり、かつその選択について示唆もないから、このスラブ21とべた基礎との一体化しているとする請求人の主張は、勝手都合の想定に過ぎない。
(被請求人要領書4頁14-24行)
<被請求人要領書別紙1>
「
[図:0001400373000007.jpg]
」
(イ)本特許発明と甲2発明及び甲3発明の構成との根本的相違
甲2及び甲3の発明特定事項には、「前記発泡樹脂基盤の外周に発泡樹脂材の溶融を阻止する耐溶融性材から成る防護部材」及び「前記外周の端面から所定寸法だけ前記発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ位置で前記外周端面に沿って平行に配置すると共に、前記防護部材で閉ループ状に連続して取り囲むように配設」の構成がなく、これを一般的な技術常識に基づいた置換の可能性が無いため、新規性を充足していることは明白である。
(答弁書6頁4~12行)
(ウ)進歩性否定の論理付けがないこと
請求人は、進歩性否定において通常行われる主引用発明と副引用発明の特定もなく、進歩性の否定を実施可能要件違反、新規性欠如の主張とを混在しており、論旨が不明である。仮に甲1発明を主引用例として述べると、発明特定事項が相違しているのは明らかであるが、この相違事項を甲2発明及び甲3発明を副引用発明として、その相違点は当業者であれば想定できる事項であることの論理付けが不明である、全体としての論旨が不明である。
(答弁書6頁13~21行)
イ 請求項2~5について
請求項1において、新規性及び進歩性が肯定される以上、従属項である請求項2~請求項5についても同様に新規性及び進歩性を充足する。
(答弁書6頁23~25行)
第6 当審の判断
1 甲号証の記載事項
(1)甲1
甲1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)
ア「【0001】
本発明は免震基礎構造、木造住宅、および建物の免震支承体に関するものである。」
イ「【0004】
本発明は、以上の欠点を解消すべくなされたものであって、施工が容易で免震機能に優れた免震基礎構造、木造住宅、およびこれらに使用可能な建物の免震支承体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば上記目的は、
基礎地盤1と建物基礎2の間に設置されて該建物基礎2を支承する可撓性を備えたブロック状の盛土材3に鉛直方向にスリット4を設けてなる免震基礎構造を提供することにより達成される。
【0006】
本発明によれば、可撓性を備えたブロック状の盛土材3に対して鉛直方向にスリット4を設け、その水平方向の剛性を下げるために、建物の荷重を支持可能な程度に耐圧縮性に優れた材料からなる盛土材を横方向に変形しやすくすることができ、免震性能を向上させることができる。また、かかる免震基礎構造の施工は、地盤表層を削るなどして形成される基礎地盤1とべた基礎等の建物基礎2との間にブロック状の盛土材3を埋設して上記建物基礎2を支承させるだけでよく、あまり手間がかかることはない。
【0007】
上記盛土材3は、耐圧縮力に優れ、可撓性を備えるとともにブロック状に成形できるものであればよく、例えば合成樹脂材を発泡させて形成することが可能である。また、このように盛土材3として合成樹脂材の発泡体など軽量のものを用いた場合には、施工をより簡単にすることができるとともに、荷重や土圧が軽減することで軟弱地盤における不等沈下対策を兼ねることもできる。さらに、上記盛土材3としては、入手が容易であるとともに、建物の耐用年数に応じて長期の品質安定性に優れたものであることが望ましく、上述したように合成樹脂材を用いる場合には、例えば盛土材として既に広く使用されているEPS(Expanded Poly-Styrene:ビーズ法ポリエチレンフォーム)が好適である。
【0008】
また、上記盛土材3に形成されるスリット4は、盛土材3の横方向の剛性、すなわち盛土材3全体の断面2次モーメントを免震に必要な程度低下させることができるように、構造計算により数量を適宜決定することが可能で、また、その深さについても同様に計算により決定することができる。このように適宜の断面積を備えたブロック状盛土材3の高さ方向の一部を切り欠き、断面を分割して比較的小さい断面積を備える複数の免震脚6を形成することにより、単に断面積の小さい細長柱状体を多数立設させる場合に比して、設置作業を簡単にすることができるとともに、盛土材3の転倒を容易に防止することが可能となる。
【0009】
さらに、上記ブロック状盛土材3は、座屈することなく建物の鉛直荷重を支持できれば足りるために、比較的耐圧縮力の高い材料により形成すれば、基礎地盤1と建物基礎2との間に散点状に、すなわち建物の支持面上に適宜間隔を隔てて複数個設置することも可能で、この場合には基礎地盤1の支持荷重をより低減できる。この場合において、ブロック状盛土材3の上面に同様に可撓性を備えた板状の盛土材5を積み重ねれば、該板状盛土材5の変形を利用してブロック状盛土材3を撓みやすくすることができる。また、上記板状盛土材5は散点状に配置されるブロック状盛土材3により局部的に支持され、建物の荷重によってブロック状盛土材3の上面を包み込むように弾性変形することから、これによりブロック状盛土材3の上部を簡単な施工によって所定位置に拘束することができる。
【0010】
加えて、散点状にブロック状盛土材3を並べた場合には、複数が協働して全体として荷重負担すればよいために、その並べ方によって特定の構造物の免震性を向上させることができる。例えば、重心と剛心のずれによって生じる建物の地震時のねじれに関し、外観等を高めるためなど種々の理由により不均等なバランスに形成されやすい戸建て住宅や比較的低層の集合住宅などの建物、特に比較的軽量で剛性の低くなりやすい木造住宅の免震性をより向上させることができる。なお、特定の振動方向に対する吸収しやすさの向上は、上述したスリット4の数量や形状、深さなどをブロック状盛土材3の配置に応じて変化させることにより付与することも可能である。
【発明の効果】
【0011】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、施工が容易で免震機能に優れた免震基礎構造、木造住宅、およびこれらに使用可能な免震盛土材を提供することができるために、低価格化による戸建て住宅への免震工法の普及を促進することができる。」
ウ「【0012】
図1および図2に戸建て住宅の建築状態を示す。図1に示すように戸建て住宅は地上2階建てであり、1階正面にはドア11が家屋内方側にやや入り込むようにして形成される。この戸建て住宅は居住空間を形成する上部構造体12を基礎構造体13上に立設して形成される。
【0013】
基礎構造体13は、地盤14を掘り下げて形成される基礎地盤1と、上記上部構造体12の底面を支持する建物基礎2と、これらの間に配置される免震部15とを有し、掘削により基礎地盤1を形成した後にその上面に免震部15を形成し、さらにこの後建物基礎1を積層して形成される。上記基礎地盤1は地盤14表層をやや掘り下げてその底面に形成されるほぼ平坦な地盤面であり、周縁は上方に広がるように傾斜して掘削されることにより傾斜した地盤面に包囲される。また、建物基礎2は、図1に示すように、上部構造体12の荷重をその底面全面に分散して下方に伝達可能なべた基礎であり、コンクリートを打設して上部構造体12の底面全面にほぼ対応する広さを備えて形成される。
【0014】
一方、免震部15は、図1および図2に示すように、ほぼブロック形状に形成される免震支承体(ブロック状の盛土材3)の複数を上記基礎地盤1と建物基礎2の間に散点状に配置して形成される。この実施の形態において、上記免震支承体3は、入手が容易であるとともに、軽量で、かつ物理的性質の経年変化が少ない発泡スチロール(ビーズ法ポリエチレンフォーム)により形成され、より具体的には0.3kN/m3という土に比して格段低い単位体積重量と、上部構造体12の荷重の支持に適した90kN/m2という高い許容圧縮応力とを備えたものが使用される。以上の免震支承体3は、図2に示すように、荷重が偏りやすい上部構造体12の外周、すなわち建物基礎2の外周に沿って所定ピッチで配設されるとともに、建物基礎2の内方にその平面形状に応じて所定ピッチでほぼ均等に格子状に配設され、上部構造体12の荷重を全数でほぼ協働して支える。なお、図1および図2において16は免震支承体3と同じ材質により形成される直方体形状の補助免震支承体である。
【0015】
さらに、上述したように高い圧縮応力を備える素材によって免震効果を発揮するために、図3(a)および(b)に示すように、上記免震支承体3には下面から上面に向かって適宜深さの複数のスリット4、4・・が設けられて免震機能に優れた振動吸収部17が形成される。振動吸収部17は、直交する各4本のスリット4、4、4、4によって形成される合計16本の免震脚6からなり、免震支承体3のスリット4が到達していない上部の連結基部7に比べて水平力に対する変形しやすさが高められる。すなわち、この実施の形態において、発泡スチロールの製造メーカの一般的流通サイズである一辺(L,W,H)50cmの立方体からなる外形形状をそのまま利用することによりほぼブロック状に形成される免震支承体3は、直交するスリット4により下部が均等に16分割されることで、部材の曲がりにくさを示す断面2次モーメントIが、分割前の1/12×50(L)×50(W)3=約520833cm4から、分割後には各免震脚6当たりで凡そ1/12×12.5(l)×12.5(w)3=約2034、免震脚6を全数合計すると、2034(I)×16個=約32544cm4へと1/16に低下し、より曲がりやすく形成される。
【0016】
また、地震の振動吸収力を示す変形量は、片持ち梁の最大たわみ量δに置き換えて試算することが可能であり、上述した免震支承体3が備えるヤング係数(E)130kg/cm2、スリット4の深さ(h)を32.5cmを利用し、地震の横力(P)を1000kgf(凡そ10KN)に仮定すると、分割前の最大たわみ量δが1/3×1000(P)×50(H)3/130(E)・520833(I)=約0.6cmとなるに対し、分割後には1/3×1000(P)・32.54(h)3/130(E)×32544(I)=約2.70cmと同様にスリット4によって免震性能が高められることが確認される。なお、上述したスリット4は、熱線等を利用することにより発泡スチロールからなる免震支承体3に簡単に形成することができる。
【0017】
また、上述した振動吸収部17は、図1および図4に示すように、基礎地盤1上で免震支承体3を支持するレベル調整盤18と、免震支承体3上面に載置されて建物基礎2を支承する蓋材(板状の盛土材5)と、免震支承体3を側方から包囲して外部から遮断する外周板19とを備え、免震支承体3をほぼ密閉空間に配置することにより、発泡スチロールが溶解してしまうガソリン等の薬品の万一の混入が防止される。レベル調整盤18は、基礎地盤1上に上面が水平になるように打設されるコンクリート等により形成され、免震支承体3の底面を水平に支持する。このレベル調整盤18は載置される免震支承体3を所定位置に固定するために戸建て住宅の底面よりも一回り大きい面積を備えるとともに、表面が粗面にされて免震支承体3との摩擦が高められる。なお、免震支承体3の底面は、施工時の風圧等によってはレベル調整盤18に対して接着剤等で適宜固定することにより配置作業性が高められる。
【0018】
蓋材5は、上記免震支承体3よりも許容圧縮応力の低い材料を板状にして形成され、免震支承体3の上方を覆うことによりレベル調整板18上に散点状に配置される免震支承体3、3・・間の隙間へのべた基礎のコンクリートの流入を防止する。また、外周板19も同様に隙間への土等の進入を防止するもので、この外周板19は成形性に優れたウレタンにより形成される。
【0019】
さらに、上記振動吸収部17の最外周部には、図1に示すように上述した傾斜する地盤面と外周板19、蓋材5との間を埋めるようにして施工作業性に優れた発泡ウレタン20が注入され、また、その上方には細石を敷き詰めて発泡ウレタン20を養生するスラブ21が形成される。なお、このスラブ21は土間コンクリート22により覆われて戸建て住宅の外観が高められる。
【0020】
したがって、以上の基礎構造体13は、図4(a)に示すように、上部構造体12の荷重により蓋材5に上部がやや嵌り込むようにして免震支承体3と蓋材5の相対移動が規制され、また、断面積の大きい連結基部7が上方に位置することで地震力による蓋材5との間での免震支承体3の剪断が防がれる。地震が発生した際には、上述したように上部が蓋材5の所定位置に嵌合することで拘束されるとともに、下部が摩擦によってレベル調整盤18の所定位置に拘束される免震支承体3は、図4に示すように振動吸収部17のたわみにより地震の水平力を絶縁して上部構造体12への振動の伝達を遮断し、これにより戸建て住宅の倒壊や家具の転倒等を防止する。また、変形した免震支承体3はその復元力により地震による振動を漸次減衰し、緩やかに定常状態に復帰する。加えて、地盤14が比較的軟弱な場合であっても、免震支承体3やその配置間の空隙により地盤14への支持荷重を軽減させることができるために、費用の多大な杭基礎等を施すことなく不等沈下の発生を抑制することができる。
【0021】
なお、地震力が免震支承体3の歪み限界値を超える場合には、発泡ウレタン20および傾斜する地盤面により免震支承体3の過度の変形が適宜抑えられる。また、上述したスリット4の深さや数、免震構造体の配置間隔等を調整したり、任意の免震脚6の断面積を変更し、あるいは免震脚6を適宜間引くことなどにより、免震部15の図心位置を調節することが可能になるために、上部構造体12の剛心に図心を一致させるようにすることで剛心と重心のずれによる上部構造体12のムチ振り現象を解消することができる。さらに、上記スリット4の数等は風圧による振動によって不用意に上部構造体12が振動しないように適宜決定することが望ましい。」
エ 図1
「
[図:0001400373000008.jpg]
」
オ 図2
「
[図:0001400373000009.jpg]
」
上記ウをふまえると、上記図2から、外周板19は、散点状に配置した複数のブロック状の盛土材3の全体を側方から包囲するものであって、外側に位置する各ブロック状の盛土材3の外側の面に対して平行に配設されている点が看取できる。
カ 図3
「
[図:0001400373000010.jpg]
」
キ 甲1に記載された発明
上記ア~カをふまえると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、甲1には、「免震支承体3」及び「ブロック状の盛土材3」の記載があるが、「ブロック状の盛土材3」に統一して認定し、同様に、「蓋材5」及び「板状の盛土材5」を「板状の盛土材5」に統一して認定する。
〔甲1発明〕
「地盤14を掘り下げて形成される基礎地盤1と、上記上部構造体12の底面を支持する建物基礎2と、これらの間に配置される免震部15とを有する基礎構造体13であり、
建物基礎2は、上部構造体12の荷重をその底面全面に分散して下方に伝達可能なべた基礎であり、
居住空間を形成する上部構造体12を基礎構造体13上に立設するものであり、
免震部15は、ほぼブロック形状に形成されるブロック状の盛土材3の複数を上記基礎地盤1と建物基礎2の間に散点状に配置して形成され、盛土材3は、発泡スチロールにより形成され、
上記ブロック状の盛土材3には下面から上面に向かって適宜深さの複数のスリット4、4・・が設けられて免震機能に優れた振動吸収部17が形成され、
振動吸収部17は、基礎地盤1上でブロック状の盛土材3を支持するレベル調整盤18と、ブロック状の盛土材3上面に載置されて建物基礎2を支承する板状の盛土材5と、ブロック状の盛土材3を側方から包囲して外部から遮断する外周板19とを備え、外周板19は、散点状に配置した複数のブロック状の盛土材3の全体を側方から包囲するものであって、外側に位置する各ブロック状の盛土材3の外側の面に対して平行に配設され、ブロック状の盛土材3をほぼ密閉空間に配置することにより、発泡スチロールが溶解してしまうガソリン等の薬品の万一の混入が防止されるものであり、この外周板19は成形性に優れたウレタンにより形成されるものであり、
上記振動吸収部17の最外周部には、傾斜する地盤面と外周板19、板状の盛土材5との間を埋めるようにして施工作業性に優れた発泡ウレタン20が注入され、また、その上方には細石を敷き詰めて発泡ウレタン20を養生するスラブ21が形成され、このスラブ21は土間コンクリート22により覆われており、
地震力がブロック状の盛土材3の歪み限界値を超える場合には、発泡ウレタン20および傾斜する地盤面によりブロック状の盛土材3の過度の変形が適宜抑えられる、
基礎構造体13。」
(2)甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。
ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建造物における地震、交通震動等の耐震性向上や地盤沈下対策として施工することのできる建造物における防振基礎構造及びその構築工法に関する。」
イ「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、地震又は交通の振動波を効率的に吸収及び反射して、建造物における基礎構造の耐震性及び免震性の向上を目的として施工することのできる建造物における防振基礎構造及びその構築工法を提供することを目的とする。」
ウ「【0009】図1は、ベタ基礎の建造物に本発明補強構造を適用した例を示す。図1(a)は、ベタ基礎と、発泡樹脂基盤とを空気層を有する連接体を介在させて接合して、補強を施した一例を示す縦断面略図である。図1(b)は、ベタ基礎と連接体の接合面を楔形にした一例を示す縦断面略図である。2は発泡樹脂基盤又は発泡樹脂コンクリート基盤、3はベタ基礎、4は砂利、1は発泡樹脂基盤又は発泡樹脂コンクリート基盤2とベタ基礎3の接合部分に設けられる空気層を有する連接体である。尚、GLはグランドラインである。
【0010】建造物のベタ基礎3と、該ベタ基礎3の下部に埋設した発泡樹脂基盤又は発泡樹脂コンクリート基盤2とを、空気層を有する連接体1を介在させて接合することにより、地震、交通震動等の振動波を該空気層により効率的に吸収し、該空気層とベタ基礎3の境界で反射することができ、建造物の耐震性及び免震性の向上に極めて有効なものとなる。
・・・
【0012】空気層は、連通したもの又は連通していないものが挙げられる。前者の例としては、溝8及び/又は貫通した孔7を設けた発泡樹脂盤6(図5)、発泡ビーズ9間に連続した隙間(空隙部)10を有する発泡樹脂盤(図6)、マカロニ形状又はチップ形状等の発泡粒子を成形した発泡樹脂盤等である。後者としては、密閉した穴部を有する穴あき樹脂盤等である。連接体として発泡樹脂盤を用いた場合、発泡樹脂盤において空気層の占める割合は、弾性変形等の効果を得るため、15~40%が好ましい。発泡樹脂盤としては、軽量で、必要な圧縮強度を有するものであればよく、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等の発泡体よりなるものを挙げることができるが、ポリウレタンは、加水分解が起こるので耐久性に難があり、ポリ塩化ビニルは燃えると塩酸ガスが発生し、公害上の問題を有するので、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の発泡体よりなるものが好ましい。この発泡樹脂盤の圧縮強度は、建物の構造が木造、鉄筋コンクリート、鉄骨等により異なるが一般的には3~25t/m2 である。尚、図5は、連接体の一実施例として用いる溝8及び/又は貫通孔7を設けた発泡樹脂盤6であり、同図(a)は、その平面図、同図(b)は、同図(a)のX-Y線に沿う縦断面略図である。図6は、連接体の一実施例として用いる発泡ビーズ間9に連続した隙間(空隙部)10を有する発泡樹脂盤の縦断面略図である。」
エ 図2
「
[図:0001400373000011.jpg]
」
上記ウを踏まえると、上記図2から、発泡樹脂コンクリート基盤2の外周端面が鉛直方向に形成されている点が看取できる。
オ 図5
「
[図:0001400373000012.jpg]
」
カ 甲2に記載された発明
上記ア~エをふまえると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲2発明]
「ベタ基礎3に対して、空気層を有する連接体を介在させて接合される発泡樹脂基盤2であって、
ベタ基礎3の下部に埋設されるものであり、
発泡樹脂コンクリート基盤2の外周端面が鉛直方向に形成されており、
空気層は、溝8及び/又は貫通した孔7を設けた発泡樹脂盤6であり、発泡樹脂盤6としては、軽量で、必要な圧縮強度を有するものであればよく、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等の発泡体よりなるものを挙げることができる、
発泡樹脂基盤2。」
(3)甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
ア「2.特許請求の範囲
1.地盤や路盤等に盛土・埋戻しする際に、荷重や土圧を軽減するべく発泡スチロール材を使用する地盤等の造成方法において、
同発泡スチロール材の表面に、少なくともアクリル酸エステル共重合体を主成分としてなる複合ポリマーエマルジョンを含有する塗膜を形成したことを特徴とする発泡スチロール材を用いた地盤等の造成方法。」
(1頁左欄4-12行)
イ「(ホ)作用及び効果
・・・
○2(○の中に2が有ることを意味する。以下同様。)発泡スチロール材の表面に塗布した、アクリル散エステル共重合体を主成分としてなる複合ポリマーエマルジョンは、石油等に対しても化学反応を起こすことがないので、発泡スチロール材の腐食・溶解を完全に防止することができる。
・・・
○5以上の効果○1~○4によって、発泡スチロール材を地盤や路盤の造成に有効に用いることができる。」
(2頁左下欄1行―右下欄8行)
ウ 甲3に記載された発明
上記ア及びイをふまえると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲3発明]
「地盤や路盤等に盛土・埋戻しする際に、荷重や土圧を軽減するべく発泡スチロール材を使用する地盤等の造成方法において、
同発泡スチロール材の表面に、少なくともアクリル酸エステル共重合体を主成分としてなる複合ポリマーエマルジョンを含有する塗膜を形成するものであり、
発泡スチロール材の表面に塗布した、アクリル散エステル共重合体を主成分としてなる複合ポリマーエマルジョンは、石油等に対しても化学反応を起こすことがないので、発泡スチロール材の腐食・溶解を完全に防止することができるものである、
発泡スチロール材を用いた地盤等の造成方法。」
2 無効理由1(実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件の判断基準
本件発明1は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
以下、この観点に立って、本件発明が、明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、実施可能であるか否かについて検討する。
(2) 本件明細書等の記載について
本件特許明細書及び図面には次の記載がある。
ア「【0001】
本願に係る発明(以下、「本発明」と称する。)は、構築物計画の地面を整地して、又は掘削排土して形成した凹部底面を整地して施工する構築物用基礎構造に関する。」
イ「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示した基礎構造では、基盤上の発泡樹脂材の周囲には砂利や枠材等を設置しているものの、薬品液の浸入を防止し目的とする材質及び構造を形成するものではなかった。このため、発泡樹脂基盤内に上記溶融起因となる薬品液が浸透した場合に発泡樹脂材の溶解が発生し、基礎構造の不同沈下や、建物の傾きや崩壊が生じる課題を解決するものではなかった。
【0008】
一方で、上記課題解決の一案として、広範囲に敷設する上記発泡樹脂材そのものを、耐溶融性を有する発泡樹脂材とすれば良いが、材料コストが高価になり、ひいては施工費が上昇してしまうという問題があった。
【0009】
そこで、本願発明は、施工費をできるだけ抑えて、上記課題の解決を目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる構築物用基礎構造は、構築物計画の地面を整地した面上に、又は掘削排土して整地した面上に発泡樹脂材を敷設して形成した発泡樹脂基盤と、該発泡樹脂基盤の上面に一体的に構築したベタ基礎と、から成る構築物用基礎構造において、前記発泡樹脂基盤の外周部に発泡樹脂材の溶融を阻止する耐溶融性材からなる防護部材を、前記外周の端面から所定寸法だけ前記発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ位置で前記外周端面に沿って平行に配置すると共に、該防護部材で閉ループ状に連続して取り囲むように配設したことを特徴とする。
【0011】
ここで、閉ループ状に配設とは、少なくとも発泡樹脂を溶融させる薬品液が、何れの箇所からも防護部材の囲み内に進入しない程度に閉じた状態を意味する。
【0012】
さらに、上記防護部材の配設においては、前記閉ループ状を形成する各防護部材を直線状に形成すると共にその両端部を、前記発泡樹脂層の端部まで延長させたことを特徴としている。
【0013】
また、前記防護部材は、耐溶融性材からなる発泡樹脂ブロック又は非発泡性の樹脂板を用いており、当該耐溶融材は、灯油やガソリンなどの薬品液との接触による溶融を阻止する部材から成ることを特徴としている。」
ウ「【発明の効果】
【0014】
上記構成により本発明は、以下に列挙した効果を奏する。
(1)構築物に付設した貯留タンクや地下埋設の貯留槽の亀裂などから浸出した薬品液の外部からの浸入を阻止して、発泡樹脂材の溶融を防止することができる。その結果、基礎崩壊による不同沈下による構築物の傾斜などを抑止できる。
(2)発泡樹脂基盤の外周のみの配設であるため、高価な防護部材を基礎全面に敷設することなく、外周部のみを囲むように配設しているため、施工費の低減を図ることができる。
(3)防護部材には、ブロック状の発泡樹脂材だけでなく所定厚さの非発泡性の樹脂板も選択できることにより、多様な構築物の基礎構造に応用できる。」
エ「【0034】
[他の実施例]
上記の本構造1の防護部材4は発泡樹脂材を採用していたが、防護部材4はこれに限定するものではない。例えば、図5の(A)~(D)に示すように、耐溶融材を塗布材として塗布した樹脂製の防護板材7を採用してもよい。
【0035】
この防護板材7を採用した場合、発泡樹脂ブロック31の外周面だけでなく上面を覆う必要があり、配設は調整コンクリート5までも覆う配設となる。
【0036】
また、防護板材7は、(C)の場合を除き、ベタ基礎6とは別体的に配置しているため、施工後においても防護板材7の交換が容易であり、保守性が向上する効果もある。
【0037】
さらに、図6に示したように、前記した防護板材7の配設を発泡樹脂基盤3の外周端面への当接配置の他に、該外周端面から発泡樹脂基盤3の内側に所定寸法だけ入り込んだ位置で、前記外周端面に沿って平行に配設してもよい。この場合、防護板材7による閉ループが形成できれば、端部を発泡樹脂基盤の端部に迄延長させ、施工し易い配設としてもよい」
オ 図6は次のものである。
「
[図:0001400373000013.jpg]
」
(3) 実施可能要件についての検討・判断
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1の「防護部材」の配設について
本件発明1の「防護部材」は、「前記外周の端面から所定寸法だけ前記発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ位置で前記外周端面に沿って平行に配置すると共に、前記防護部材で閉ループ状に連続して取り囲むように配設」されるものであり、本件明細書の詳細な説明の段落【0037】及び図6から「図6に示したように、前記した防護板材7の配設を発泡樹脂基盤3の外周端面への当接配置の他に、該外周端面から発泡樹脂基盤3の内側に所定寸法だけ入り込んだ位置で、前記外周端面に沿って平行に配設してもよい。この場合、防護板材7による閉ループが形成できれば、端部を発泡樹脂基盤の端部に迄延長させ、施工し易い配設としてもよい」とあるように、配設位置が記載されている。
ここで、「前記外周の端面から所定寸法だけ前記発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ位置」について、「所定寸法」がどの程度の寸法であるかについて本件明細書には記載がない。
一方、本件発明1の「構築物用基礎構造」は、「発泡樹脂基盤」が、その上面の「ベタ基礎」とともに構築物の基礎構造をなすものであり、本件発明1は、本件明細書の段落【0014】にあるように「構築物に付設した貯留タンクや地下埋設の貯留槽の亀裂などから浸出した薬品液の外部からの浸入を阻止して、発泡樹脂材の溶融を防止することができる。その結果、基礎崩壊による不同沈下による構築物の傾斜などを抑止できる。」ものであるから、仮に「構築物用基礎構造」に「薬品液の外部からの浸入」したとしても基礎構造として「基礎崩壊による不同沈下による構築物の傾斜などを抑止できる」程度の構造に設計することは特許明細書の記載をもとに当業者が設計し実施し得ることである。
そうすると、「防護部材」と「発泡樹脂基盤」の位置関係は、仮に「構築物用基礎構造」に「薬品液の外部からの浸入」したとしても基礎構造としての機能を発揮し得る程度に「前記外周の端面から所定寸法だけ前記発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ位置」であればよい程度の位置であり、その位置については、具体的な寸法等について本件特許明細書に明示されていなくても、実施の際に、当該基礎構造が支持する構築物の構造・重量や基礎構造の具体的な構造や強度等に応じた強度計算等の当業者が通常なしえる試行錯誤の範囲で適宜設計し実施し得ることである。
(イ)本件発明1のその他の構成について
本件発明1のその他の構成については、段落【0037】及び図6の記載をみれば、実施できることは明らかである。
イ 本件発明2~5について
本件発明2~5についても、本件発明1と同様の構成を有していることから、段落【0037】及び図6の記載を見れば、実施できることは明らかである。
ウ 小括
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~5について、当業者が実施可能な程度に記載されているといえる。
(4)請求人の主張について
以下、請求人の主張について検討する。
ア 第3の3(1)ア、ウ及びエ(ア)の主張について
要するに、請求人は、発泡樹脂基盤が薬品液の浸入による不同沈下を原因とする構築物の傾斜を防止するという本件発明の効果を達成するためには、請求項1の「所定寸法だけ前記発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ位置」の「所定寸法」が発泡樹脂基盤のうちのどの程度内側に入り込んでいるのかが明らかにされることを必要不可欠としている。そして、「所定寸法」がどのような程度にて内側に入り込んでいるかについては、発明の詳細な説明において、全く説明されていないことから、実施可能要件を満たしていないと主張するとともに、「所定寸法」という基準では、構築物の傾斜を避けるような客観的基準を設定したことにはならない旨主張している。
しかしながら、上記(1)で述べたように、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることが必要なことであり、この観点で検討したところ、上記(3)で述べたとおり、本件発明1~5は、実施可能要件を満たしているといえる。
以上のとおりであるから、請求人の主張を採用することはできない。
イ 第3の3(1)イ及びエ(イ)の主張について
要するに、請求人は、現実に薬液による浸潤が行われた場合には、前記曲げモーメントMが発生し、傾斜を抑止できない旨主張する。
しかしながら、ベタ基礎6にかかる荷重は、甲1(上記1(1)ウの【0013】参照)に記載されているように、その下面に対して分散して作用するのが技術常識であり、請求人が示す別紙図面の白矢印のみに構造物の荷重がかかるような構造は、べた基礎の機能からみてかなり特殊なものといわざるを得ない。
そのため、現実に薬液による浸潤が行われた場合に、所定の位置に曲げモーメントが発生することはあるものの、曲げモーメントが発生したとしても、ベタ基礎等の構造体の剛性や強度等の特性に応じ、湾曲や破壊されるかが決まるというのが技術常識であり、そのような事態にならないような構造や材料等を設計することは当業者であれば当然なし得ることである。よって、上記(3)ア(ア)で述べたとおり、薬液による浸潤が行われたことで、傾斜を抑止できないとはいえない。
以上のとおりであるから、請求人の主張を採用することはできない。
ウ 第3の3(1)エ(ウ)の主張について
請求人は、明細書において、効果を達成するための具体的説明が必要不可欠について縷々述べるが、実施可能要件については、上記(1)で述べた観点で検討するものであって、上記(3)で述べたとおり、本件発明1~5は、実施可能要件を満たしているといえる。
以上のとおりであるから、請求人の主張を採用することはできない。
(5)無効理由1についてのまとめ
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たしており、無効理由1には理由がない。
3 無効理由2(明確性要件違反)
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
以下、この観点に立って、本件特許の請求項の記載が明確であるか否かについて検討する。
(2)本件特許の請求項1について
ア 「所定寸法」について
上記2(3)ア(ア)で示したとおり、本件発明1の「防護部材」と「発泡樹脂基盤」の位置関係は、基礎構造としての機能を発揮し得る程度に「前記外周の端面から所定寸法だけ前記発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ位置」であればよい程度の位置であるから、その位置となるような「所定寸法」は、明示されていなくても、実施の際に、当該基礎構造が支持する構築物の構造・重量や基礎構造の具体的な構造や強度等に応じた強度計算等の当業者が通常なしえる試行錯誤の範囲で適宜設計し得るものといえる。
したがって、本件特許の請求項1において「所定寸法」との表現であっても、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはない。
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1の記載は明確である。
イ 「外周端面に沿って平行に配置する」及び「防護部材で閉ループ状に連続して取り囲むように配設した」について
請求項1の「外周端面に沿って平行に配置する」ことは、「防護部材」と「発泡樹脂基盤」の「外周端面」が平行になる位置関係を特定するものであり、「防護部材で閉ループ状に連続して取り囲むように配設したこと」は、本件明細書の【0011】、【0025】から、発泡樹脂を溶融させる薬品液が、何れの箇所からも防護部材の囲み内に進入しない程度に閉じた状態で、ブロック状の盛土材3を囲むように配設することを示すものであるから、「構築物用基礎構造」という物の発明において、「防護部材」の配置状態ないし配設状態を示すものとして明確である。
(3)本件特許の請求項2~5について
上記(2)ア及びイについては、本件特許の請求項2~5においても同様であるから、本件特許の請求項2~5の記載も明確である。
(4)請求人の主張について
請求人は、請求項1発明の「所定寸法」のように、発明の効果と表裏の関係にある構成要件については、目的とする効果を発揮し得るかを尺度として、特許法第36条第6項第2号を充足するか否かを論ずることは可能であること、請求項1の「所定寸法」という表現では、どの程度防護部材が「発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ」状態を表すのかの基準が不特定であること等、縷々主張している。
しかしながら、明確性要件については、上記(1)で述べた観点で検討するものであって、上記(2)で述べたとおり、本件特許の請求項1は、明確性要件を満たしているといえる。
なお、本件特許の請求項1の「外周端面に沿って平行に配置する」こと、及び「防護部材で閉ループ状に連続して取り囲むように配設したこと」は、「構築物用基礎構造」という物の発明において、「防護部材」の配置状態ないし配設状態を示すものであるから、防護部材を対象とする生産行為に該当しない。
以上のとおりであるから、請求人の主張を採用することはできない。
(5)無効理由2についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項1~5の記載は、明確性要件を満たしており、無効理由2には理由がない。
4 無効理由3(新規性欠如)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「地盤14を掘り下げて形成される基礎地盤1」は、本件発明1の「掘削排土して形成した凹部底面を整地した面」に相当する。
甲1発明の「発泡スチロールにより形成され」る「ブロック状の盛土材3」は、本件発明1の「発泡樹脂材」に相当する。
甲1発明の「建物基礎2」は、「上部構造体に荷重をその底面全面に分散して下方に伝達可能なべた基礎」であるから、本件発明1の「ベタ基礎」に相当する。
甲1発明の「上記基礎地盤1と建物基礎2の間に散点状に配置」した「ブロック状の盛土材3」は、「板状の盛土材5」を介して「建物基礎2」を支承するから、本件発明1の「発泡樹脂材を敷設して形成した発泡樹脂基盤」に相当する。
甲1発明の「基礎構造体13」は、本件発明1の「基礎構造」に相当する。
(イ)上記(ア)をふまえると、甲1発明の「建物基礎2」は、本件発明1の「該発泡樹脂基盤の上面に一体的に構築したベタ基礎」に相当する。
(ウ)甲1発明の「基礎構造体13」は、その上に「居住空間を形成する上部構造体12」を立設するものであり、その「居住空間を形成する上部構造体12」は、本件発明1の「構築物」に相当している。
そうすると、甲1発明の「居住空間を形成する上部構造体12」を立設する「基礎構造体13」は、本件発明1の「構築物用基礎構造」に相当する。
(エ)甲1発明の「発泡スチロールが溶解してしまうガソリン等の薬品の万一の混入が防止されるものであ」る「外周板19」は、本件発明1の「発泡樹脂材の溶融を阻止する耐溶融性材から成る防護部材」に相当する。
甲1発明の「外周板19」が「包囲する」ことは、本件発明1の「防護部材で閉ループ状に連続して取り囲むように配設」されることに相当する。
甲1発明の「外周板19」が、「散点状に配置した複数のブロック状の盛土材3」において、「外側に位置する各ブロック上の盛土材3の外側の面に対して平行に配設」されることは、本件発明1の「防護部材」が、発泡樹脂基盤において、「外周端面に沿って平行に配置」されることに相当する。
そうすると、甲1発明の「外周板19は、散点状に配置した複数のブロック状の盛土材3の全体を側方から包囲するものであって、外側に位置する各ブロック状の盛土材3の外側の面に対して平行に配設され」ていることと、本件発明1の「防護部材を、前記外周(「前記発泡樹脂基盤の外周」)の端面から所定寸法だけ前記発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ位置で前記外周端面に沿って平行に配置すると共に、前記防護部材で閉ループ状に連続して取り囲むように配設したこと」とは、「防護部材」を、「前記外周端面に沿って平行に配置すると共に」、発泡樹脂基盤について「前記防護部材で閉ループ状に連続して取り囲むように配設した」点で共通する。
(オ)上記(ア)~(エ)からみて、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「構築物計画の地面を整地した面上に、又は掘削排土して形成した凹部底面を整地した面上に発泡樹脂材を敷設して形成した発泡樹脂基盤と、
該発泡樹脂基盤の上面に一体的に構築したベタ基礎と、
から成る構築物用基礎構造において、
前記発泡樹脂基盤の外周に発泡樹脂材の溶融を阻止する耐溶融性材から成る防護部材を、前記外周端面に沿って平行に配置すると共に、前記防護部材で閉ループ状に連続して取り囲むように配設した
構築物用基礎構造。」
<相違点1>
「防護部材」について、本件発明1では、「前記外周の端面から所定寸法だけ前記発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ位置」で「配置」しているのに対して、甲1発明では、「外周板19は、散点状に配置した複数のブロック状の盛土材3の全体を側方から包囲するように配設され」ている、すなわち、全てのブロック状の盛土材3を包囲するように配設されている点。
イ 判断
上記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明において自明な事項とはいえないから、実質的な相違点である。
ウ 請求人の主張について
(ア)請求人は、甲1発明の「発泡ウレタン20」もまた、免震支承体3と同様に発泡樹脂基盤に該当する旨主張している(上記第4の3(3)ア(ア)b)。
しかしながら、甲1発明の「発泡ウレタン20」は甲1の段落【0019】~【0021】に記載されているように、「傾斜する地盤面と外周板19、蓋材5との間を埋めるようにして施工作業性に優れた発泡ウレタン20が注入され、また、その上方には細石を敷き詰めて発泡ウレタン20を養生するスラブ21が形成される。なお、このスラブ21は土間コンクリート22により覆われて戸建て住宅の外観が高められる。」ものであり、「地震力が免震支承体3の歪み限界値を超える場合には、発泡ウレタン20および傾斜する地盤面により免震支承体3の過度の変形が適宜抑えられる」機能を有するものである。
一方、甲1には、「発泡ウレタン20」が「べた基礎」(「建物基礎2」)の土台、すなわち、基盤として機能していることを示す記載も示唆もない。
したがって、甲1における「発泡樹脂基盤」に係る記載からみて、甲1発明の「発泡ウレタン20」が「発泡樹脂基盤」に相当するということはできない。
以上のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
(イ)甲1発明の「発泡ウレタン20」は、建物基礎2の側部とスラブ21を介して間接的に接続し合うことによる一体構築状態となっている旨主張している(第4の3(3)イ(ア)e(a)~(d))。
しかしながら、甲1の図1において、「建物基礎2」と「スラブ21」とは接触しているように記載されているものの、甲1には、「発泡ウレタン20」が、「べた基礎」(建物基礎2)と一体構築状態となっていることを示す記載も示唆もない。
以上のとおりであるから、請求人の主張を採用することはできない。
なお、請求人は、第4の3(3)において、上記の他にも縷々主張するが、これらの主張を検討しても、上記の判断を左右するものではない。
エ 小括
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
(2)本件発明3及び5について
本件発明3及び5は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(1)で検討した理由と同じ理由により、本件発明3及び本件発明5は、甲第1号証に記載された発明ではない。
(3)無効理由3についてのまとめ
したがって、本件発明1、3及び5は、甲第1号証に記載された発明ではないから、無効理由3には理由がない。
5 無効理由4(進歩性欠如)
(1)本件発明1について
ア 対比・判断
本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点については、上記4(1)ア(オ)で説明したとおりである。
上記相違点1について検討する。
甲2には上記1(2)カのとおりの発泡樹脂基盤2が記載されており、甲3には、上記1(3)ウのとおりの「発泡スチロール材を用いた地盤等の造成方法」が記載されているが、甲2及び甲3のいずれにも、「防護部材」を「前記外周の端面から所定寸法だけ前記発泡樹脂基盤の内側に入り込んだ位置」で「配置」する技術が記載されておらず示唆するものでもない。
よって、甲1発明に、甲2発明及び甲3発明を適用しても、本件発明1とすることはできない。
イ 小括
よって、本件発明1は、甲1発明、甲2発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記(1)で検討した理由と同じ理由により、甲1発明、甲2発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)無効理由4についてのまとめ
したがって、本件発明1~5は、甲1発明、甲2発明及び甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、無効理由4には理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由1~4はいずれも理由がないものであるから、本件発明1~5に係る特許は、上記無効理由1~4によって無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-800044