特許拒絶査定不服審判
2022-020978
電子源の製造方法
- 審判番号
- 2022-020978
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-522320
- 請求日
- 2022年12月23日
- 審決日
- 2024年04月15日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】デンカ株式会社
- 【請求人代理人】長谷川 芳樹
- 【請求人代理人】清水 義憲
- 【請求人代理人】中塚 岳
- 【請求人代理人】鈴木 洋平
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 松川 直樹
- 審判官 野村 伸雄
- 分類
- P18 .536-WZ (H01J) / P18 .537-WZ (H01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-522320号「電子源の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和4年6月30日国際公開、WO2022/138558号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2021年(令和3年)12月20日(優先権主張 令和2年12月25日)を国際出願日とする日本語特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 6月23日付け:拒絶理由通知書
同年 8月 5日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月14日付け:拒絶査定
同年12月23日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和5年12月21日付け:拒絶理由通知書(以下同書で通知された拒絶
理由を「当審拒絶理由」という。)及び特許
法第39条第6項に基づく協議指令の指令書
令和6年 3月 6日 :意見書(以下、単に「意見書」という。)、
手続補正書(以下、この手続補正書による補
正を「本件補正」という。)の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1の記載は次のとおりのものである。
「【請求項1】
電子放出材料のチップとタングステンフィラメントが直接接するように重ね合わせた被溶接物を一対の溶接電極で挟み込む工程と、
前記被溶接物に対して前記一対の溶接電極によって押圧力を加えながら電流を流すことによって前記チップと前記タングステンフィラメントを溶接する工程と、
を含み、
前記被溶接物の溶接方向の厚さが50~500μmであり、
前記電子放出材料がLaB6である、電子源の製造方法。」
第3 当審拒絶理由の概要
本願発明は本件補正前の請求項1に係る発明を補正したものであるところ、当審拒絶理由は、概略、本件補正前の請求項1に係る発明に対する次の各理由を含むものである。
1 理由2(委任省令要件違反)について
本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより(すなわち、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することにより)、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、本願は、発明の詳細な説明の記載が、請求項1に係る発明について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 理由3(サポート要件違反)について
当業者は、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、請求項1に係る発明によって発明の課題が解決できることを認識できるとはいえないから、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 当審の判断
当審は、以下に示すとおり、本件補正及び意見書の内容を考慮しても、前記第3に記載した理由2及び理由3は解消していないと判断する。
1 理由2(委任省令要件違反)について
(1) 委任省令要件違反の概要
後記(2)において検討するように、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)で定めるところにより(すなわち、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することにより)、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、本願は、発明の詳細な説明の記載が、本願発明について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(2) 当審の判断の詳細な説明
ア 本願発明が解決しようとする課題及びその解決手段
前記経済産業省令で定められる「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」として、請求項に係る発明によってどのように課題が解決されたかについて記載されていることが、通常、求められる。
そして、発明の詳細な説明の記載によれば、本願の発明が解決しようとする課題は、「電子放出材料のチップがタングステンフィラメントに直接接合された構造の電子源の製造方法を提供する」(【0006】)ことであり、本願発明におけるその解決手段は、「前記被溶接物の厚さが50~500μmであ[る]」こと(【0008】、【0021】)であると認められる。
しかしながら、下記エで検討するとおり、本願発明は、「電子放出材料のチップとタングステンフィラメントが直接接するように重ね合わせた被溶接物」に関して、「前記被溶接物の溶接方向の厚さが50~500μmであ[る]」という数値により特定されているところ、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、発明の課題とその数値による特定との実質的な関係を理解することができず、発明の課題の解決手段を理解できない。
イ 出願時の技術常識について
LaB6とタングステンフィラメントを直接溶接すると、LaB6がタングステンと化学反応を起こし、安定に使用することは困難であることが、本願の出願時の技術常識であった。
(例えば、特開昭64-7450号公報の「LaB6を熱陰極として使用する場合、1500~1600℃の作動温度では、通常の支持金属であるタングステン、タンタルなどと化学反応を起こし、長時間安定に使用することが困難であった。」(1頁右欄14-18行)、特開昭54-51461号公報の「しかしながら、六ホウ化ランタンは高温度では支持金属であるタングステンやタンタルなどの高融点金属と反応し、熱陰極材料としての特徴が失なわれるため、六ホウ化ランタン熱陰極を実用化することは困難であった。」(1頁右欄7-11行)との記載参照。)
ウ 発明の詳細な説明の記載
「電子放出材料のチップとタングステンフィラメントが直接接するように重ね合わせた被溶接物」に関して、「前記被溶接物の溶接方向の厚さが50~500μmであ[る]」ことの技術上の意義に関連する記載として、発明の詳細な説明には次の記載がある。下線は特に関連する記載に対して当合議体が付したものである。
「【0008】
本発明者らは、図3(a)及び図3(b)に示す構成の抵抗溶接機を使用して電子放出材料(LaB6の単結晶)のチップとタングステンフィラメントとを直接溶接することを試みた。その結果、被溶接物の厚さ(チップとタングステンフィラメントの厚さの合計)が50~500μmの範囲であれば、一対の溶接電極による通電によって被溶接物を局所的に高温にすることができ、チップとタングステンフィラメントを溶接によって強固に接合することができる。」
「【0021】
(A)工程において、被溶接物5の厚さ(チップ1とタングステンフィラメント2の厚さの合計、図3(a)における厚さT5)は50~500μmの範囲であり、好ましくは170~400μmであり、180~350μm又は180~280μmであってもよい。被溶接物5の厚さは、(A)工程において、被溶接物5を挟み込んだ状態の一対の溶接電極6a,6bの離間距離と同じである。被溶接物5の厚さ(一対の溶接電極6a,6bの離間距離)が上記範囲であることで、一対の溶接電極6a,6bによる通電によって被溶接物5を局所的に高温にすることができ、チップ1とタングステンフィラメント2を溶接によって強固に接合することができる。」
「【実施例】
【0028】
以下、本開示について実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
以下のサイズのLaB6のチップ及びタングステンフィラメントを準備した。
<LaB6のチップ>
・厚さT1:90μm
・幅:90μm
・長さ:1000μm
<タングステンフィラメント>
・径(厚さT2):127μm
・タングステン純度:99.999質量%以上
【0030】
次のようにしてチップとタングステンフィラメントを直接溶接した。まず、チップとタングステンフィラメントが直接接するように重ね合わせた状態でこれらを一対の溶接電極で挟み込んだ(図3(a)参照)。チップとタングステンフィラメントに対して一対の溶接電極によって押圧力を加えながら電流を流すことによって両者を溶接した(図3(b)参照)。チップとタングステンフィラメントの界面の温度が3422℃(タングステンの融点)を超えるように、溶接電流を設定した。その結果、図5のSEM写真に示されたように、タングステンフィラメントに対してチップが埋め込まれた状態で両者が強固に接合された電子源が得られた。
【0031】
(比較例)
以下のサイズのLaB6のチップ及びタングステンフィラメントを準備した。
<LaB6のチップ>
・厚さT1:500μm
・幅:750μm
・長さ:1500μm
<タングステンフィラメント>
・径(厚さT2):127μm
・タングステン純度:99.999質量%以上
【0032】
実施例1と同様にしてチップとタングステンフィラメントの溶接を試みた。溶接電流の設定を種々変更してチップとタングステンフィラメントを加熱したものの、両者を溶接することができなかった。
【0033】
(実施例2)
以下のサイズのHfCのチップ及びタングステンフィラメントを準備した。
<HfCのチップ>
・厚さT1:90μm
・幅:90μm
・長さ:1000μm
<タングステンフィラメント>
・径(厚さT2):127μm
・タングステン純度:99.999質量%以上
【0034】
実施例1と同様にしてチップとタングステンフィラメントの溶接を試みた。チップとタングステンフィラメントの界面の温度が3422℃(タングステンの融点)を超えるように、溶接電流を設定した。その結果、図6のSEM写真に示されたように、タングステンフィラメントに対してチップの一部が埋め込まれた状態で両者が強固に接合された電子源が得られた。
【0035】
(実施例3)
以下のサイズのIrCe化合物(Ir7Ce2)のチップ及びタングステンフィラメントを準備した。
<IrCe化合物のチップ>
・厚さT1:90μm
・幅:90μm
・長さ:1000μm
<タングステンフィラメント>
・径(厚さT2):127μm
・タングステン純度:99.999質量%以上
【0036】
実施例1と同様にしてチップとタングステンフィラメントの溶接を試みた。チップとタングステンフィラメントの界面の温度が3422℃(タングステンの融点)を超えるように、溶接電流を設定した。その結果、図7のSEM写真に示されたように、タングステンフィラメントに対してチップが埋め込まれた状態で両者が強固に接合された電子源が得られた。」
エ 発明が解決しようとする課題とその解決手段の関係について
前記ウで摘記した記載によれば、「電子放出材料のチップとタングステンフィラメントが直接接するように重ね合わせた被溶接物」に関して、「前記被溶接物の溶接方向の厚さが50~500μmであ[る]」ことの技術上の意義は、「一対の溶接電極による通電によって被溶接物を局所的に高温にすることができ、チップとタングステンフィラメントを溶接によって強固に接合することができる」(【0008】・【0021】)ことであるとされている。
しかしながら、上記イで示した出願時の技術常識を考慮すると、被溶接物5の溶接方向の厚さ(一対の溶接電極6a,6bの離間距離/チップ1とタングステンフィラメント2の厚さの合計)を50~500μmとすることにより、なぜチップとタングステンフィラメントを溶接によって強固に接合することができるのか、次の(ア)~(ウ)に示すとおり、その理由が理解できない。
(ア) 被溶接物の厚さと被溶接物を局所的に高温にすることができることとの関係について
a 前記ウで摘記した記載によれば、「被溶接物の厚さ(チップとタングステンフィラメントの厚さの合計)が50~500μmの範囲であれば、一対の溶接電極による通電によって被溶接物を局所的に高温にすることができ[る]」(【0008】)とされる。
しかしながら、被溶接物の厚さが50~500μmであることと、被溶接物を局所的に高温にすることができることとの間に、どのような技術的な関係があるのか、被溶接物の厚さが50μmより薄い場合や、500μmより厚い場合に比べて、なぜ被溶接物を局所的に高温にすることができるのか、出願時の技術常識を考慮してもなお不明である。
b この点について審判請求人は意見書において、被溶接物が薄い場合、被溶接物が厚い場合と比較し、通電によって発生した熱が逃げにくいため、局所的に高温にすることができること、チップが厚い場合、フィラメントからチップに伝わった熱がチップの横方向(溶接方向に直交する方向)に伝わりやすく、チップのフィラメントとの接点を起点としてチップのやや広めの領域が加熱されるのに対し、チップが薄い場合、フィラメントからチップに伝わった熱がチップの横方向に伝わりにくく、チップのフィラメントとの接点を起点としてチップの局所的な領域が加熱される旨を主張している。
審判請求人の上記主張は、チップの厚さの上限の技術上の意義を説明するものであるが、本願発明で特定されているのは、チップの厚さではなく、「チップとタングステンフィラメントが直接接するように重ね合わせた被溶接物」の厚さである。そして、本願発明においては、被溶接物の厚さは、チップの厚さを維持したままタングステンフィラメントの厚さを変更することによっても変更されるものの、タングステンフィラメントについては、チップと異なり、下記参考図(意見書で審判請求人が提示したもの)のように、チップとタングステンフィラメントの間の溶接部から横方向へ熱が伝わる部分を備えていないため、チップの厚さを変化させたときと、タングステンフィラメントの厚さを変化させたときとでは、溶接部からの熱の逃げに関する現象は大きく異なるから、チップの厚さではなく、タングステンフィラメントの厚さを加えた被溶接物の厚さの上限を特定することの技術上の意義は依然として不明である。また、被溶接物の厚さの下限を特定することの技術上の意義も依然として不明である。
よって、審判請求人の主張は採用できない。
参考図
[図:0001411802000001.jpg]
(イ) 被溶接物を局所的に高温にすることと強固に接合することの関係について
a 被溶接物の溶接方向の厚さが50~500μmの範囲であれば、一対の溶接電極による通電によって被溶接物を局所的に高温にすることができ[る]」こととの技術的な関係は、前記(ア)で説示したとおり不明であるが、仮に両者の間に技術的な関係が認められるとしてさらに検討すると、LaB6とタングステンフィラメントを直接溶接すると、前記イで示したとおり、LaB6がタングステンと化学反応を起こし安定に使用することは困難であることが本願の出願時の技術常識であったところ、一対の溶接電極による通電によって被溶接物を局所的に高温にすることにより、LaB6がタングステンと化学反応を起こし、安定に使用することができないことをなぜ解決できるのか、両者の技術的な関連性が理解できない。
b この点について審判請求人は意見書において、被処理物を局所的に高温にすることができるため、溶接に必要な通電時間を短くでき、その結果、LaB6で構成されたチップとタングステンとの化学反応を抑制できるため、両者を強固に接合することができる旨を主張している。
しかしながら、被処理物を局所的に高温にすることにより、溶接に必要な通電時間を短くできることや、その結果、LaB6で構成されたチップとタングステンとの化学反応を抑制できることは、発明の詳細な説明には記載も示唆もされていないから、審判請求人の主張は発明の詳細な説明の記載に基づくものではない。
また、被処理物を局所的に高温にすることができるのは、熱がチップの横方向に逃げにくいためとの請求人の前記(ア)の主張に基づけば、チップの厚さを薄くすることで通電時間を短くできるのは、通電開始後に溶接箇所の温度上昇が早くなるからであると解される。そうすると、通電時間が短くなるのは、加熱開始から溶接に必要な温度となるまでの時間が短くなるためであって、溶接に必要な温度になってから溶接が完了するまでに当該温度を維持すべき時間が短くなることをただちに意味するものではない。そして、溶接に必要な温度になってから溶接が完了するまでに当該温度を維持すべき時間ではなく、加熱開始から溶接に必要な温度となるまでの時間が短くなることにより、なぜ化学反応を抑制できるのかは依然として不明である。さらに、溶接部を局所的に高温にすることと、化学反応を抑制できることの関係は、本願出願時の技術常識を考慮しても判然としない。
さらに、仮に、審判請求人の上記主張のように溶接時にチップとタングステンとの化学反応を抑制できたとしても、LaB6とタングステンフィラメントを直接溶接すると、安定に使用することは困難であることが本願の出願時の技術常識であったところ(前記イ)、溶接後の使用時において、LaB6がタングステンと化学反応を起こし安定に使用することは困難であることがなぜ解決できるのか、依然として不明である。
よって、審判請求人の主張は採用できない。
(ウ) 被溶接物の厚さとチップ及びタングステンフィラメントの厚さの関係について
a 前記ウで摘記した実施例の記載によれば、実施例1(【0029】・【0030】)は、LaB6のチップの厚さT1が90μm、タングステンフィラメントの厚さT2が127μm、比較例1(【0031】・【0032】)は、LaB6のチップの厚さT1が500μm、タングステンフィラメントの厚さT2が127μm、実施例2(【0033】・【0034】)は、HfCのチップの厚さT1が90μm、タングステンフィラメントの厚さT2が127μm、実施例3(【0035】・【0036】)は、Ir7Ce2のチップの厚さT1が90μm、タングステンフィラメントの厚さT2が127μmであって、各実施例はチップの厚さT1がそれぞれ異なるものの、タングステンフィラメントの厚さT2は共通である。
このように、実施例による裏付けはチップの厚さを変更した場合に限られるところ、前記(ア)及び(イ)で検討したとおり「被溶接物の溶接方向の厚さが50~500μmであ[る]」ことと、チップとタングステンフィラメントが強固に接合できることとの関係は不明であるから、チップの厚さを変更することと、チップの厚さとタングステンフィラメントの厚さの合計である被溶接物の厚さを変更することとが等価であるのかどうか理解できない。
したがって、実施例を踏まえてもなお、「被溶接物の溶接方向の厚さが50~500μmであ[る]」ことの技術上の意義が理解できない。
b この点について審判請求人は意見書において、タングステンフィラメントは通電によって発熱する熱源である一方、LaB6チップはタングステンフィラメントからの熱を受け取る部材であり、チップにおける伝熱量はチップの厚さに依存する旨を主張している。
しかしながら、チップにおける伝熱量はチップの厚さに依存する旨の審判請求人の主張からは、チップとタングステンフィラメントが強固に接合できることの関係で特定すべきはチップの厚さであって、本願発明のように被溶接物の厚さではないと解されるから、審判請求人の上記主張を踏まえても、タングステンフィラメントの厚さを含めた被溶接物の溶接方向の厚さを50~500μmとすることにより、なぜチップとタングステンフィラメントを溶接によって強固に接合することができるのか、その理由が依然として理解できない。
また、審判請求人はさらに、フィラメントの厚さを一定としたのは、フィラメントの断面積を変更することが困難であるという事情がある旨も主張している。
審判請求人が当該主張によりなぜ委任省令要件違反が解消すると考えるのかは判然としないが、仮に、フィラメントの厚さは一般に一定であり、本願発明は実質的にチップの厚さを特定するものであるとの趣旨であるとすると、LaB6を用いた電子源のタングステンフィラメントとしては、従来から様々な径のものが知られているから(例えば、特開昭58-225527号公報:「直径0.12mmのタングステン線」(3頁左上欄3行)、特開昭54-51461号公報:「直径0.1mmのタングステン線」(2頁左下欄17行)、特開昭54-51463号公報:「直径0.2mmのタングステン線」(2頁右下欄5行)参照。)、本願発明の被溶接物の厚さの特定が、特定のフィラメントの厚さを前提として実質的にチップの厚さを特定したものと解することはできない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。
(3) 小括
以上検討のとおり、審判請求の意見書における主張を踏まえても、本願発明の「電子放出材料のチップとタングステンフィラメントが直接接するように重ね合わせた被溶接物」に関して、「前記被溶接物の溶接方向の厚さが50~500μmであ[る]」ことの技術上の意義は、発明の詳細な説明の記載からは不明であり、この結果、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、「電子放出材料のチップがタングステンフィラメントに直接接合された構造の電子源の製造方法を提供する」という発明の課題と、被溶接物の溶接方向の厚さの数値の特定との実質的な関係を理解することができず、発明の課題の解決手段を理解できないから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することにより、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
2 理由3(サポート要件違反)について
(1) 本願発明は「電子放出材料のチップとタングステンフィラメントが直接接するように重ね合わせた被溶接物」に関して、「前記被溶接物の溶接方向の厚さが50~500μmであ[る]」ことを発明特定事項とする。
しかしながら、上記1(2)エで述べたとおり、「前記被溶接物の溶接方向の厚さが50~500μmであ[る]」ことにより、なぜ「電子放出材料のチップがタングステンフィラメントに直接接合された構造の電子源の製造方法を提供する」との発明が解決しようとする課題を解決できるのか不明であるから、当業者は、発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、本願発明によって発明の課題が解決できることを認識できるとはいえない。
よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
(2) 審判請求人は意見書において、「被溶接物の厚さが50~500μm」であるという事項は、被溶接物の局所的な加熱、及び、LaB6チップとタングステンフィラメントの強固な接合を可能にするものであって、当業者であれば、当該事項によって本願発明が解決しようとする課題(電子放出材料のチップがタングステンフィラメントに直接接合された構造の電子源の製造方法を提供すること)を解決できることを理解できる旨を主張しているが、「被溶接物の溶接方向の厚さが50~500μm」であるという事項と、被溶接物を局所的に加熱できることや、LaB6チップとタングステンフィラメントの強固な接合を可能にすることの関係が理解できないことは上記1(2)で説示したとおりであるから、審判請求人の主張は採用できない。
第5 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。また、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-020978