特許拒絶査定不服審判
2022-018039
情報処理装置及びプログラム
- 審判番号
- 2022-018039
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-015772
- 請求日
- 2022年11月09日
- 審決日
- 2023年04月11日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社ELEMENTS
- 【請求人代理人】齋藤 拓也
- 【請求人代理人】菅沼 和弘
- 審判長/審判官
- 審判長 五十嵐 努
- 審判官 木方 庸輔
- 審判官 田中 啓介
- 分類
- P18 .536-Z (G06T)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-15772「情報処理装置及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年8月9日出願公開、特開2018-124999〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年1月31日(優先権主張 平成29年1月31日)の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。
令和3年12月23日付け 拒絶理由通知書
令和4年 3月 7日 意見書、手続補正書の提出
同年 8月 2日付け 拒絶査定
同年11月 9日 審判請求書、上申書の提出
第2 本願の特許請求の範囲に記載された発明(本願発明)
本願の特許請求の範囲に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年3月7日付け手続補正書に記載された、以下のとおりのものと認める。また、本願の請求項1に係る発明を、以下「本願発明1」という。
「【請求項1】
類似度の閾値を用いる1:N認証(Nは2以上の整数値)の認証対象となるユーザの生体情報を少なくとも含む情報を、ユーザ情報として取得するユーザ情報取得手段と、
前記ユーザ情報に基づいて、仮想ユーザ情報を生成する仮想ユーザ情報生成手段と、
前記ユーザと異なる複数のユーザについての既に登録された生体情報を少なくとも含む情報を、既登録ユーザ情報として管理する既登録ユーザ情報管理手段と、
前記仮想ユーザ情報又は前記ユーザ情報同士の第1比較の結果を示す類似度の第1分布、及び、前記仮想ユーザ情報又は前記ユーザ情報と既登録ユーザ情報の第2比較の結果を示す類似度の第2分布を算出する類似度分布算出手段と、
前記類似度分布算出手段により算出された類似度の前記第1分布と前記第2分布との位置関係に基づいて、前記ユーザの認証に適用する前記閾値をユーザ閾値として設定し、当該ユーザ閾値に基づいて、前記ユーザにとっての前記Nの限界値を算出する適正値算出手段と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記ユーザ情報に含まれる前記ユーザの前記生体情報は、指紋情報であり、
前記仮想ユーザ情報生成手段は、前記ユーザの前記指紋情報に関する画像情報の変更を伴う方法、又は前記画像情報から取得される特徴量にランダムな追加又は変更を伴う方法のうち、少なくとも何れか一方の方法に基づいて、前記仮想ユーザ情報を生成する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記適正値算出手段により算出された結果に基づいて、前記ユーザに適した認証の方法を提示する認証方法提示手段を備える、
請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
コンピュータに、
類似度の閾値を用いる1:N認証(Nは2以上の整数値)の認証対象となるユーザの生体情報を少なくとも含む情報を、ユーザ情報として取得するユーザ情報ステップと、
前記ユーザ情報に基づいて、仮想ユーザ情報を生成する仮想ユーザ情報生成ステップと、
前記ユーザと異なる複数のユーザについての既に登録された生体情報を少なくとも含む情報を、既登録ユーザ情報として管理する既登録ユーザ情報管理ステップと、
前記仮想ユーザ情報又は前記ユーザ情報同士の第1比較の結果を示す類似度の第1分布、及び、前記仮想ユーザ情報又は前記ユーザ情報と既登録ユーザ情報の第2比較の結果を示す類似度の第2分布を算出する類似度分布算出ステップと、
前記類似度分布算出ステップにおいて算出された類似度の前記第1分布と前記第2分布との位置関係に基づいて、前記ユーザの認証に適用する前記閾値をユーザ閾値として設定し、当該ユーザ閾値に基づいて、前記ユーザにとっての前記Nの限界値を算出する適正値算ステップと、
を含む処理を実行させるプログラム。」
第3 原査定の拒絶の理由
拒絶査定における拒絶の理由(令和3年12月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由)のうち、本願発明の実施可能要件についての理由には、次のものが含まれる。
「理由1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
・請求項 1-4
…明細書には「…。そして、適正結果算出部54は、算出したNに関する情報からユーザに合った認証方法を決定する。更に、適正結果算出部54は、決定した認証方法に関する情報を、認証方法決定情報として、認証方法提示部55と、認証部56に提示する。」(段落[0043])と記載されていることから、一応、「認証方法の決定に用いる値」は「Nに関する情報」であると考えられる。
しかしながら、明細書には「サーバ1の適正結果算出部54は、前記類似度分布算出手段により算出された類似度の分布に基づいて、前記ユーザが利用するのに適した所定の認証方法の決定に用いる値を算出する。即ち、適正結果算出部54は、類似度分布算出部53で算出された類似度の分布に基づいて、各ユーザにとっての適正なNの値を算出する。…」(段落[0036])と記載されているのみであり、類似度の分布に基づいて、どのように適正な「N」を算出するのか、具体的な説明がなされていない。」
第4 当審の判断
本願発明1の「適正値算出手段」は、上記「第2」のとおり、「1:N認証(Nは2以上の整数値)」の「N」に関して、「前記類似度分布算出手段により算出された類似度の前記第1分布と前記第2分布との位置関係に基づいて、前記ユーザの認証に適用する前記閾値をユーザ閾値として設定し、当該ユーザ閾値に基づいて、前記ユーザにとっての前記Nの限界値を算出する」ものである。
一方、出願時の技術常識を考慮すると、生体情報によるユーザ認証の技術分野において、「1:N認証」の1対Nは、通常1対多の意味で用いられ(Nは特別な意味のある数値ではない)、またNについて具体的な数値を算出することが周知技術や技術常識とも言えないから、本願発明1において「Nの限界値」を算出することは、発明の特徴部分を構成するものと言える。
そこで、本願発明1の適正値算出手段が「Nの限界値」を算出することについて、本願発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が実施できる程度に明確かつ充分に記載されたものであるか、以下に検討する。
1.本願の発明の詳細な説明の記載
本願発明1の「適正値算出手段」に関して、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は、当審により強調のために付した。
「【0010】
まず、本発明の実施形態を説明するに先立ち、本発明の一実施形態に係る情報処理システムの適用対象となるサービス(以下、「本サービス」と呼ぶ)について簡単に説明する。
本サービスとは、ユーザの生体情報(例えば、指紋情報)の状況等に応じて、当該ユーザに対して、最適な認証方法による生体認証の方法を提案し、当該方法を用いて、当該ユーザの生体認証を行う生体認証サービスである。
具体的に、本サービスおいて、サーバ1は、各ユーザに対してNの見極めを行う。
つまり、上述のとおり、従来、単に1:N方式の認証を行う場合、事前にデータベースに登録された既知のユーザ以外の未登録の第三者を誤って受け入れてしまうというリスクを排除するため、認証を行うユーザから取得された生体情報の特徴量から想定される他人受入率に対して、Nの制限を極めて低くするのが通常であった。
これに対して、本サービスにおいて、サーバ1は、ユーザの指紋情報の状況やデータベースに登録された既知のユーザ(以下、「既登録ユーザ」と呼ぶ)の指紋情報との差等を考慮することで、各ユーザに対して1:N認証を行い得るNの見極めを行う。
そして、サーバ1は、その結果各ユーザにより見極められたNの限界値(最適値)に基づいて、各ユーザに合った最適な認証方法を提供し、当該認証方法によって各ユーザの生体認証を行う。なお、このサーバ1が、各ユーザのNを見極める方法については、図6等を用いて後述する。」
「【0031】
次に、図4を参照しつつ、サーバ1の機能的構成の一例について説明していく。
図4に示すように、サーバ1のCPU11においては、ユーザ情報取得部51と、仮想ユーザ情報生成部52と、類似度分布算出部53と、適正結果算出部54と、認証方法提示部55と、認証部56と、が機能する。
また、サーバ1の記憶部18の一領域には、既登録ユーザDB500が設けられる。
なお、既登録ユーザDB500には、既登録ユーザのユーザID、指紋情報等が紐付されて格納されている。また、この既登録ユーザDB500には、例えば、後述する仮想ユーザ情報等が格納されてもよい。」
「【0036】
サーバ1の適正結果算出部54は、前記類似度分布算出手段により算出された類似度の分布に基づいて、前記ユーザが利用するのに適した所定の認証方法の決定に用いる値を算出する。
即ち、適正結果算出部54は、類似度分布算出部53で算出された類似度の分布に基づいて、各ユーザにとっての適正なNの値を算出する。そして、適正結果算出部54は、算出された適正なNの値に基づいて、当該ユーザに最適な認証方法を決定する。
ここで、当該ユーザに最適な認証方法とは、例えば、「無条件で1:N認証を行う」、「ある特定の条件を満たした場合のみ1:N認証を行う」、「(1:N認証は困難なため)1:1認証を行う」等である。
本サービスでは、このようにユーザ毎算出された適正なNの値から、当該ユーザが、どの程度1:N認証に適正を有するかを考慮しつつ、当該ユーザにとって最適な認証方法を決定することができる。
また、適正結果算出部54は、適正なNの値を算出するにあたり、閾値の概念を利用することができる。この閾値を利用した適正なNの値の算出の詳細については、図6等を用いて後述する。」
「【0042】
ステップS3において、サーバ1の類似度分布算出部53は、ユーザと異なる複数のユーザについての既に登録された生体情報を少なくとも含む情報を、既登録ユーザ情報として管理する。
即ち、サーバ1の類似度分布算出部53は、既登録ユーザDB500に格納された仮想ユーザ情報を取得、管理する。
また、サーバ1の類似度分布算出部53は、仮想ユーザ情報又はユーザ情報のうち少なくともいずれか一方の情報と、既登録ユーザ情報との比較に基づいて、仮想ユーザ情報又はユーザ情報のうち少なくともいずれか一方の情報と既登録ユーザ情報との類似度の分布を算出する。
ここでは、説明の便宜上、仮想ユーザ情報のみを用いて説明する。
即ち、サーバ1の類似度分布算出部53は、ステップS2で生成された仮想ユーザ情報と、既登録ユーザDB500に格納された仮想ユーザ情報を用いてユーザの類似度の分布を算出する。
そして、類似度分布算出部53は、ユーザの類似度の分布から、上述のユーザが同一か否かを判断するための適切な閾値を設定して、閾値に関する情報を生成する。
なお、他人受入率と本人拒否率は、トレードオフの関係にあり、本人拒否率を低く抑えようとすれば、他人受入率は高くなる。逆に、他人受入率を低く抑えようとすれば、本人拒否率は高くなる。したがって、類似度分布算出部53は、他人受入率と本人拒否率のバランスを考慮して閾値を設定する。
なお、ステップS3において、サーバ1の類似度分布算出部53は、ステップS2で生成された仮想ユーザ情報の代わりに、ステップS1で取得したユーザ情報を用いてユーザの類似度の分布を算出してもよい。また、同様に、サーバ1の類似度分布算出部53は、既登録ユーザDB500に格納された仮想ユーザ情報の代わりに既登録ユーザDB500に格納されたユーザ情報を用いてユーザの類似度の分布を算出してもよい。
【0043】
ステップS4において、サーバ1の適正結果算出部54は、類似度分布算出手段により算出された類似度の分布に基づいて、ユーザが所定の認証方法を利用するのに適するか否かを算出する。
即ち、適正結果算出部54は、ステップS3で設定された閾値に関する情報から、ユーザに適した適正結果を算出する。
そして、適正結果算出部54は、算出したNに関する情報からユーザに合った認証方法を決定する。更に、適正結果算出部54は、決定した認証方法に関する情報を、認証方法決定情報として、認証方法提示部55と、認証部56に提示する。」
「【0047】
図6は、縦軸に生体情報の類似度、横軸に頻度、を採用した場合の例であり、認証対象とするユーザ(ユーザA)から取得された任意の指紋情報と、既登録のユーザの指紋情報との類似度の分布を示している。
ここで、図6で示すように、図6の左部には、ユーザAと既登録ユーザとの比較における、類似度が比較的低い類似度の頻度のピークが確認できる。そして、図6の右部には、ユーザAから生成された仮想ユーザ情報どうしの比較における、比較的高い類似度の頻度のピークが確認できる。
ここで、図6を見ると、図6の左右には、二つの異なる分布のピークが確認できる。例えば、ユーザAのユーザ情報と、ユーザA以外の既登録ユーザの既登録ユーザ情報とを比較した場合、全く異なる他者の指紋画像から取得された特徴点を比較することになるため、その類似度は傾向として低くなるはずである。
一方で、例えば、ユーザAのユーザ情報と当該ユーザ情報から生成された仮想ユーザ情報とを比較した場合、元々同一人から取得された指紋画像から取得された特徴点を比較することになるため、その類似度は傾向として高くなるはずである。
サーバ1の適正結果算出部54は、このように算出された類似度の分布予測に基づいて、ユーザAにとっての適正なNの値を算出するための閾値(類似度)を決定する。
【0048】
つまり、適正結果算出部54により決定される閾値(類似度)が高すぎれば、ユーザAから取得される指紋画像の状況等によっては、閾値(類似度)を下回ってしまい、指紋認証を行うユーザが、本人であるにも関わらず認証を拒否されてしまう事態が生じ得る。
一方で、適正結果算出部54により決定される閾値(類似度)が低すぎれば、ユーザA以外の第三者から取得された指紋画像で指紋認証を行ったにも関わらず、同一ユーザとして受け入れてしまう事態が生じ得る。
即ち、適正結果算出部54では、このように算出された類似度の分布予測から、他人受入率及び本人拒否率のバランスを考慮して、閾値(類似度)を決定し適正なNの値を算出する。そして、適正結果算出部54は、算出された適正なNの値に基づいて、ユーザAにとって適切な認証方法を決定する。
【0049】
図7は、ユーザ(ユーザA)の指紋情報との類似度が高い既登録ユーザが存在する場合の、類似度の分布予測の一例を示す図である。
ここで、図7の例では、図6と同様、図7の左部には、ユーザAと既登録ユーザとの比較における、類似度が比較的低い類似度の頻度のピークが確認できる。そして、図7の右部には、ユーザAから生成された仮想ユーザ情報どうしの比較における、比較的高い類似度の頻度のピークが確認できる。
図7は、図6の例とは異なり、二つの異なる分布のピークは確認できるものの、その差が比較的小さい場合の例である。
図7のような例は、例えば、ユーザAの指紋情報から取得された特徴量に特異性が少ないような場合に生じ得る。
つまり、ユーザAの指紋情報から取得された特徴量に特異性が少ないために、結果として、ユーザA以外の他の既登録ユーザの中にもユーザAと比較的類似度が高い第三者が存在してしまうのである。
ここで、適正結果算出部54は、上述の通り、他人受入率及び本人拒否率のバランスを考慮して、閾値(類似度)を決定し適正なNの値を算出する。しかしながら、図7の例のように、左右のピークの一部が重なり合っているような場合、閾値(類似度)の決定が困難な場合も生じ得る。
このような場合、例えば、適正結果算出部54は、暫定的に、閾値(類似度)を決定し適正なNの値を算出してもよい。そして、適正結果算出部54は、算出された適正なNの値に基づいて、ユーザAに合った最適な認証方法として、認証用のカードを別途配布して、1:1認証を推奨するようなことも可能である。
図7のような例は、例えば、ユーザAの指紋が薄い場合や、指紋画像の撮影条件が劣悪な場合等、指紋画像から十分な特徴量の取得ができない場合に生じ得る。
つまり、ユーザAの指紋画像から十分な特徴量の取得ができない場合等には、同一ユーザの指紋画像であっても、その類似度は、相対的に低下する場合がある。
【0050】
図8は、図6及び図7の例とは異なり、環境の違いに応じて取得される画像のぶれにより、二つの異なる分布のピークは確認できるものの、その差が比較的小さい場合の例である。
ここで、図8の例では、図6及び図7と同様、図8の左部には、ユーザAと既登録ユーザとの比較における、類似度が比較的低い類似度の頻度のピークが確認できる。そして、図8の右部には、ユーザAから生成された仮想ユーザ情報どうしの比較における、比較的高い類似度の頻度のピークが確認できる。
ここで、図8は、図6や図7とは異なり、環境の異なる場合に生じ得る分布予測である。
即ち、例えば、指紋においては、水分含有量、指紋を押すときの姿勢、指紋の経年変化といった各種環境の違いによって取得される画像にぶれが生じる場合がある。このような場合、適正なNの値を算出するために、そのぶれを考慮する必要がある。
そのため、上述のぶれを考慮するために、例えば、指紋情報の変形、各種特徴量のランダムな追加・削除を行い、仮想ユーザ情報を生成する。
そのデータを用いて、適正結果算出部54は、生体情報の類似度の分布を算出することで、上述のブレを考慮することができる。
なお、概して、特に同一生体情報通しでの類似度の分布が広くなる傾向がある。
このような場合、図7の例と同様に、適正結果算出部54は、閾値(類似度)の決定が困難と考えられる。したがって、図7の場合と同様に、適正結果算出部54は、暫定的に、閾値(類似度)を決定し適正なNの値を算出してもよい。そして、適正結果算出部54は、算出された適正なNの値に基づいて、ユーザAに合った最適な認証法として、例えば、高い認証精度を要するような場合には、別途カード等を渡して1:1認証を推奨し、低い認証精度でも問題とならないような場合には、1:N認証を推奨するというような提案を行うこともできる。」
2.本願の発明の詳細な説明に記載された事項の実施可能性
上記1の記載によれば、本願の「1:N認証」における適正な「N」の値(本願発明1の「Nの限界値」は、明細書の【0010】に「Nの限界値(最適値)」と記載があり、発明の詳細な説明では「適正なNの値」に対応する。)を導き出すことについては、サーバ1に備えられた「適正結果算出部54」において、「類似度分布算出部53で算出された類似度の分布」に基づいて、「他人受入率と本人拒否率のバランスを考慮して閾値(類似度)を設定」し、「各ユーザにとっての適正なNの値(Nの限界値)を算出する」という処理の流れであることが読み取れる。
しかし、「適正結果算出部54」において、「類似度の分布」から決定した「閾値」に基づいてどのような処理を行うことで、各ユーザにとって適正な「N」を算出するのかについては、具体的には記載されておらず、出願時の技術常識を考慮しても、当業者が本願発明1を実施できる程度に明確かつ充分に記載したものではない。
よって、「1:N認証」における適正な「N」の値を導き出すことが、可能であるとは認められない。
3.審判請求人の主張
審判請求人は、令和4年11月9日付け審判案請求書を提出し、その「3.本願発明が特許されるべき理由」において、以下のように主張している。
「(2)理由1、2(特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号)の解消について
閾値が決まれば、閾値を超えた類似度を有する、ユーザとは異なるユーザ(以下、「類似他既登録ユーザ」と呼ぶ)の人数が決まる。段落[0049]でいう「第三者」の人数が決まる。
他人受入率は、文献を挙げるまでもなく、周知事項である。この点、段落[0042]、[0048]、[0049]にも他人受入率が記載されている。
他人受入率が与えられれば、類似既登録ユーザの人数を、他人受入率で除算することでNが求められる。
このNが、システム(サービス提供者)として受け入れられるものであればそのNを採用すればよいし、受け入れられないものであれば[0049]に記載されているように「認証用のカードを別途配布して、1:1認証を推奨する」ようなこともできる。
このように、「当該ユーザ閾値に基づいて、前記ユーザにとっての前記Nの限界値を算出する」ための具体的な実現手段(数式など)は、当該事項が当業者にとって自明な事項であり、明確であると思料する。
よって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1乃至4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであると思料する。」
すなわち、審判請求人は、「閾値」が決まれば、「類似他既登録ユーザの人数」が決まり、「他人受入率」が与えられれば、「類似既登録ユーザの人数」を「他人受入率」で除算することで適正な「N」が求められるとの主張をするものである。
しかし、閾値を設定する際、本願の図6ないし図8の類似度の分布予測は、1人あたり何個の特徴情報を比較に使用したものなのか不明であり(本願明細書の【0042】には、既登録ユーザDB500に格納された仮想ユーザ情報を用いてユーザの類似度の分布を算出することが記載されている。)、図中左部の分布のうち閾値を超えた領域の面積は、必ずしも類似する他人の人数を表すものではなく、類似する特徴情報(仮想ユーザ情報)の数を表すものとも言える。そのため、「閾値」が決まれば直ちに「類似既登録ユーザの人数」が決まるとは言えず、また「閾値」から「類似既登録ユーザの人数」を求める際の構成も不明であることから、上記主張のような算出方法を前提とするのであれば、明細書の記載が不足している。
したがって、審判請求人は、「閾値が決まれば、類似他既登録ユーザの人数が決まり、他人受入率が与えられれば、類似既登録ユーザの人数を他人受入率で除算することでNが求められる」と主張しているものの、(「類似既登録ユーザ」と「類似他既登録ユーザ」が同一の技術的事項を指し示すものであるとしても、)そのようなNの算出方法は、本願の出願時に添付された明細書、特許請求の範囲および図面の記載に基づくものではなく、また、出願時に当業者にとって自明な事項であるとも言えず、周知技術または技術常識と言えるものでもない。
よって、「閾値」から適正な「N」を導き出す具体的な方法については、本願の出願時に添付された明細書、特許請求の範囲および図面の記載に基づくものではなく、また、当業者にとって自明のこととも言えない。
よって、審判請求書の主張を勘案しても、「1:N認証」における「Nの限界値」(適正な「N」)の値を導き出すことが、可能であるとは認められない。
第5 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明が、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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