2022-017807
積層コア、積層コアの製造方法、および回転電機
- 審判番号
- 2022-017807
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-561439外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年11月07日
- 審決日
- 2023年09月25日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 分類
- P18 .121-WY (H02K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 18項目
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)12月17日(優先権主張 2018年12月17日)を国際出願日とする出願であって、令和4年6月8日付けで拒絶理由通知がされ、令和4年7月27日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、令和4年9月5日付けで拒絶査定がされ、これに対し、令和4年11月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
第2 原査定の概要
原査定(令和4年9月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願の請求項1-15に係る発明は、以下の引用文献1-7に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開2000-152570号公報
2.特開2017-28911号公報
3.国際公開第2018/216565号
4.特開平11-162724号公報
5.特開2013-253153号公報
6.特開2004-150859号公報
7.再公表特許第2011/013691号
第3 本願発明
本願の請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、令和4年11月7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】互いに積層され、両面が絶縁被膜により被覆された複数の電磁鋼板と、積層方向に隣り合う前記電磁鋼板同士の間に配置され、これらの電磁鋼板同士を接着する接着部と、を備え、前記積層方向に隣り合う前記電磁鋼板同士の全ての組が、前記電磁鋼板同士の間の複数の前記接着部により接着され、続きを表示(全16行)前記接着部が前記電磁鋼板同士の間の複数箇所において点状に設けられ、前記接着部が、エポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂とアクリル樹脂を含むエポキシ樹脂系接着剤であり、かつSP値が7.8~10.7(cal/cm3)1/2であり、前記エポキシ樹脂系接着剤が、アクリル樹脂がグラフト重合されたアクリル変性エポキシ樹脂100質量部と、フェノールノボラック樹脂5~35質量部とからなる、積層コア。【請求項2】前記エポキシ樹脂系接着剤が、アクリル樹脂がグラフト重合されたアクリル変性エポキシ樹脂100質量部と、フェノールノボラック樹脂5~35質量部と、エラストマー5~50質量部とからなる接着剤である、請求項1に記載の積層コア。【請求項3】ステータ用接着積層コアである、請求項1または2に記載の積層コア。【請求項4】請求項1~3のいずれか一項に記載の積層コアを備える回転電機。【請求項5】請求項1に記載の積層コアの製造方法であって、前記電磁鋼板の表面に前記接着剤を塗布した後に別の電磁鋼板の上に重ねて圧着し、前記接着部を形成する操作を繰り返す、積層コアの製造方法。」
第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1(特開2000-152570号公報)について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)。
(1)引用文献1の記載事項
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・「【0032】このように構成されたプレス機械24において、上型装置25のポンチ27を作動させる第2のプレス工程として、帯状の電磁鋼鈑12から鉄心51の外形形状たる円形の打ち抜き加工が行われ(図7参照)、この時対峙している下型39,40のうちの例えば図示例では下型39の内部に蓄積され、図示しないカウンタ機構等により所定枚数積層される。尚、この鉄心51が積層保留される下型39,40の内周面39a,40aにはテトラフルオロエチレンの離型処理が施されている。そしてこの打ち抜かれた鉄心51が所定枚数積層されると下型39及び40は左移動されて、図5に示す如く夫々第2及び第1の上型機構に対峙した位置にて停止する。この移動後の下型装置26の平面構成を図6に示す。
【0033】尚、図8は製造後における磁石鉄心50の一部を拡大して示す断面図で、これを構成する各積層鉄心51の一枚(電磁鋼鈑12)の板厚とか、溝23内における挿入結合された磁石52と積層鉄心51とのギャップG及びこれらの内部に充填されて硬化した後の接着剤16等は、説明上実態より拡大してその配置構成を明確に図示したものである。」
・「【0038】しかる後、第2の上型機構が上記の下降動作状態に保持される中、下型39内部の加熱手段たる電熱ヒータ45が通電されて発熱し、また押し子31内部に具備した図示しない電熱ヒータにも通電されて夫々120度Cまで昇温させ、鉄心51に対してその内外から加熱する。この結果、鉄心51と同様に積層状態にあるフィルム状接着剤16は可塑化し始めるが、加圧状態下にある該接着剤16はやがて溶融状態となり各鉄心51との積層間で展延される(最終的に数μmの極薄い状態となる)ようにして流動し始める。この展延による余剰分の溶融接着剤16の流動は、鉄心51の外周部と軸孔22を形成した内周部に流れ出ようとするが、特に図9に二点鎖線で示したように外周部へは下型39により阻止され、また内周部に対しては押し子31の筒状突部35によって阻止されるため、残る空間として溝23内における磁石52と鉄心51との間に生じた隙間に流入する以外になく、従って溝23の内周全域から接着剤16が流入し磁石52との隙間に隈なく充填される。
【0039】その後、この加熱状態を所定時間続けると、溶融展開した接着剤16は化学反応による硬化反応が始まり、この接着剤16の硬化により積層状態の各鉄心51同士はもとより、溝23内における鉄心51と磁石52との間においても接着固定され、以って鉄心51の結束と磁石52の結合が同時に接着固定されて磁石鉄心50が作製される。そして作製された磁石鉄心50は、昇降部材49が自動制御により下降することで押し子31と受け台43との間で挟持された状態で下降せられ、下型39外に取り出される。この場合、下型39の内周面39aにはテトラフルオロエチレンの離型処理が施されているので、該下型39には接着されず容易にこれら型内から取り出すことができる。」
・「【0045】(第2の実施の形態)上記の製造方法に対し、図9は本発明の第2実施例を示し特に鉄心を接着固定するための接着剤の塗布工程に特徴を有するもので、第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ述べる。図9は本実施例における製造工程と設備の概略配置構成を示すもので、第1実施例と同様フープ材11から帯状の電磁鋼鈑12を引き出し、或いは送り供給するための一対の上,下ローラ13a,13bからなる搬送用ローラ13を備えている。
【0046】そして53は塗布工程を構成するところの高粘度の液状接着剤54を電磁鋼鈑12の両面に塗布するための塗工装置で、前段には回転駆動される上塗工ローラ55とその下方に所定の間隙をもって電磁鋼鈑12を挟んで相対する補助ローラ56を転動可能に設け、この上塗工ローラ55の上部に臨んで液状接着剤54の貯留槽57内に連通し該接着剤54を供給するノズル58を設けている。59は適宜の静止部位に固着されたブレイドで、これは先端が上塗工ローラ55の外表面と近接し、上記ノズル58から供給された液状接着剤54を一時的に留めながら適量に絞り、回転する上塗工ローラ55の外表面上に均等に順次付着せしめる作用をなす。従って、上塗工ローラ55が回転することによりこれと接触する(極近接した状態も含む)電磁鋼鈑12の表面上には、液状接着剤54が移動付着し且つ補助ローラ56との協働作用にて所望の厚さに塗布される。
【0047】そしてこの上塗工ローラ55に隣接して、電磁鋼鈑12の裏面側に接触する状態で回転駆動される下塗工ローラ60が設けられ、該下塗工ローラ60の下部は上記貯留槽57内の液状接着剤54に浸かり、また上部には他端が貯留槽57の適宜の部位に固着されたブレイド61が近接して設けられている。このブレイド61は、下塗工ローラ60の回転に伴いその外表面に付着してくる接着剤54を適量に絞り、以って下塗工ローラ60を経てこれと接触する電磁鋼鈑12の裏面上に均等な厚さで塗布することができる。」
・「【0049】ここで、上記した液状接着剤54の具体的特性仕様について述べると、該接着剤54は例えばエポキシ樹脂を主成分とし、乾燥装置62を経て固形化した後では80度Cで加熱溶融する高分子状態をなすように生成される。因みに乾燥装置62では、電磁鋼鈑12の温度が100度Cで約10分間加熱された時と同条件となるように、送り速度と図示しない赤外線ランプの温度調節を行って通過せしめ、しかる後、加熱処理された接着剤54が化学反応を起こさないように冷却用ローラ63にて速やかに冷却するようになしている。」
・「【0052】斯くして得られた被接着剤電磁鋼鈑12は、以後、第1実施例と同じ工程を進行するので以下概述するに、第1のプレス機械21に送られ、ここでは第1のプレス工程が行われ、第1実施例における図3に示したと同様の鉄心51の内部形状である軸孔22,磁石52挿入用の4個の溝23と、他に位置決め用の2個の小孔12aが形成される。そしてさらに第2のプレス機械24による第2のプレス工程に至り、第1実施例における図5ないし図8に示したと同様に複数の上型機構を有する上型装置25及び同下型装置26とにより、鉄心51の外形形状の打ち抜きからこの積層された各鉄心51間の接着固定と鉄心51と磁石52との接着固定が同時に行われ、以って磁石鉄心50が作製される。
【0053】ただ、第1実施例と異なる点は、本実施例における接着剤54はその加熱溶融温度が80度C(第1実施例では同温度60度C)と高く設定されているから、型内の電熱ヒータ45または46による加熱温度も150度C(同120度C)まで加熱されることである。
【0054】従って、本実施例の磁石鉄心50の製造方法によれば、液状の接着剤54を電磁鋼鈑12の面上に塗布するようにしたので、電磁鋼鈑12との密着性が良くてプレスによる打ち抜き加工が精度良く容易にできるばかりか、加熱溶融時の温度上昇が均一にでき、その展延流動がより安定化する。」
・「【0058】また、接着剤はエポキシ樹脂を主成分として説明したが、それ以外にアクリル樹脂,ポリエステル樹脂或いはシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分としたものでも同様の作用効果が得られ、さらにこれらの樹脂を主成分として油面接着剤或いは吸油接着剤成分を付加することにより、電磁鋼鈑従って鉄心の被接着面に機械加工油や離型剤が付着していてもこれら油成分を収蔵したり浸透して被接着面に直接接着できるから、被接着面を予め洗浄する必要がなくそれだけ作業工程の簡素化が図れる等、実用に際して要旨を逸脱しない範囲内にて種々変更して実施できるものである。
【0059】
【発明の効果】本発明は以上説明した通り、接着剤を用いての積層鉄心の結束と、該鉄心と磁石との固定を同時に行えると共に、接着強度が十分で且つ磁気性能の向上と安定化が図り得、しかも型内での自動結束が可能で精度に優れ生産性に富んだ磁石鉄心の製造方法を提供できる。」
・「【図8】
[図:0001402521000001.jpg]
」
イ 上記の記載及び図面の記載からすると、次のことがわかる。
(ア)電磁鋼鈑12の表面上に液状接着剤54が所望の厚さに塗布され、電磁鋼鈑12の裏面上に液状接着剤54が均等な厚さで塗布されること(【0046】-【0047】)。
(イ)液状接着剤54は、エポキシ樹脂を主成分とするものであること(【0049】)。
(ウ)上型装置25及び下型装置26とにより、鉄心51の外形形状の打ち抜きから積層された各鉄心51間の接着固定と鉄心51と磁石52との接着固定が同時に行われ、以って磁石鉄心50が作製されること(【0052】-【0054】)。
(エ)接着剤に油面接着剤或いは吸油接着剤成分を付加することにより、電磁鋼鈑の被接着面に機械加工油や離型剤が付着していてもこれら油成分を収蔵したり浸透して被接着面に直接接着できること(【0058】-【0059】)。
また、段落【0045】の「第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ述べる。」との記載に鑑みれば、第2実施例の積層鉄心51は、第1実施例と同様に以下のことがいえる。
(オ)積層鉄心51をなす所定枚数積層された電磁鋼鈑12の積層間に液状接着剤54が充填され、硬化されること(【0032】-【0033】、【0038】-【0039】、【図8】)。すなわち、積層鉄心51をなす積層された電磁鋼鈑12について、積層方向に隣り合う電磁鋼板同士の全ての組が、積層間の液状接着剤54により接着されること。
(2)引用発明
上記(1)及び図面からみて、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「所定枚数積層された複数の電磁鋼鈑12と、前記電磁鋼鈑12の積層間に充填され、硬化された液状接着剤54と、を備え、積層方向に隣り合う前記電磁鋼板12同士の全ての組が、前記電磁鋼板12同士の間の複数の前記液状接着剤54により接着され、前記液状接着剤54が前記電磁鋼鈑12の表面上に所望の厚さに塗布されるとともに、前記電磁鋼鈑12の裏面上に均等な厚さで塗布され、前記液状接着剤54は、エポキシ樹脂を主成分とし、前記液状接着剤54に油面接着剤或いは吸油接着剤成分を付加することにより、前記電磁鋼鈑12の被接着面に機械加工油や離型剤が付着していてもこれら油成分を収蔵したり浸透して被接着面に直接接着する、積層鉄心。」
2.引用文献4(特開平11-162724号公報)について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)。
・「【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、打ち抜き、剪断、プレス加工等の加工後に加圧・加熱(加熱圧着)により接着して用いられる接着鉄芯用電磁鋼板の製造方法に関するものである。」
・「【0026】これに対して、ベース樹脂として上記のような水分散型エポキシ樹脂を使用する場合について検討したところ、ベース樹脂として高分子量エポキシ樹脂と高分子量アクリル系樹脂のグラフト化物である下記[i]に示す水分散型樹脂を用い、且つ焼付温度と硬化剤配合量を最適化することにより、優れた接着強度と良好な耐食性、耐ブロッキング性を有する皮膜が得られることが判った。
[i]下記重量比の高分子量エポキシ樹脂(A)と高分子量アクリル系樹脂(B)からなるグラフト化物
(A)/(B)=55/45~95/5(固形分重量比)
【0027】上記水分散型樹脂である高分子量エポキシ樹脂(A)と高分子量アクリル系樹脂(B)のグラフト化物は、(A)/(B)の固形分重量比を55/45~95/5とする。この重量比が55/45未満では、高分子量アクリル系樹脂の比率が過剰(熱可塑成分が過剰)であるため、常温及び高温環境下での接着強度が劣る。一方、重量比が95/5を超えるとベース樹脂が水系塗料組成物中で分散しにくくなり、塗料安定性が劣る。また、特に優れた高温接着強度を得る場合には、(A)/(B)の固形分重量比を70/30~90/10とすることが望ましい。上記グラフト化物以外の水分散型エポキシ樹脂を単独で用いた場合は、ある程度の接着強度は得られるものの、その接着強度レベルは十分なものではない。」
・「【0047】塗料組成物に使用する硬化剤は、一般に使用されるエポキシ樹脂硬化剤を使用することができ、例えば、脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ポリアミドポリアミン、変性ポリアミン等のようなポリアミン系硬化剤;一官能性酸無水物(無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水クロレンディック酸等)、2官能性酸無水物(無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメート)、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物等)、遊離酸酸無水物(無水トリメリット酸、ポリアゼライン酸無水物等)等のような酸無水物系硬化剤;ノボラック型またはレゾール型フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等のようなメチロール基含有初期縮合物;潜在性硬化剤等の中から選ばれる少なくとも1種を使用できる。
【0048】塗料組成物中の硬化剤の配合量は、固形分の割合で水分散型樹脂100重量部に対して1~40重量部とする。硬化剤の配合量が1重量部未満では加熱圧着時に十分な硬化が行われず、接着強度に劣る。また、硬化剤の配合量が40重量部を超えると塗料組成物が増粘したり、造膜性が悪くなり、このため耐食性、接着強度が劣る。」
3.引用文献7(再公表特許第2011/013691号)について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)。
・「【0002】
自動車部材、家電の筐体、家具、OA機器部品等の様々な用途において、軽量で、剛性及び耐衝撃性が高く、かつ、せん断、曲げ、深絞り、張り出し等の加工性や、加工後の形状安定性に優れる鋼板が広く求められている。近年、地球温暖化対策として、CO2の排出量が厳しく規制されている。特に、自動車部材の用途においては、CO2の排出量を削減するために、軽量化だけではなく、剛性や耐衝撃性、加工性や加工後の形状安定性も高い水準の性能が特に要求される。このような要求に対する解決策として、樹脂シート、無機フィラー入り樹脂シート、加工金属板、ハニカム、繊維等からなるコア層を鋼板間に積層した積層鋼板が種々提案されている。」
・「【0062】
(樹脂シートと表層鋼板や網状の線材群との接合)
次に、本実施形態における樹脂シート13と表層鋼板5又は網状の線材群11との接合について説明する。
【0063】
本実施形態に係る樹脂シート13と表層鋼板5又は網状の線材群11との接合には、表層鋼板5又は網状の線材群11に樹脂シート13を直接積層して接合しても、表層鋼板5又は網状の線材群11と樹脂シート13との間に接着剤層を積層して接合してもよい。接着剤層を積層する場合、接着剤は樹脂シート13と表層鋼板5又は網状の線材群11との双方に親和性がなければならない。樹脂シート13と接着剤との親和性は、接着剤と樹脂シート13との溶解度パラメーターの差が6MJ/m3以下であることが目安となる。又は、極性基がある樹脂シート13の場合は、この極性基と共有結合、水素結合、イオン相互作用、配位結合等の化学結合、又は、電荷の移動を伴わない物理結合等を形成できる官能基(結合基を含む)を接着剤に導入されているかが目安となる。溶解度パラメーターは、構成するユニットの化学構造等からFedorsやSmallの方法等で推定することができる。接着剤と樹脂シート13との溶解度パラメーターの差は、好ましくは6MJ/m3以下であり、より好ましくは3MJ/m3以下、さらに好ましくは2MJ/m3以下である。接着剤と樹脂シート13との溶解度パラメーターの差が小さいほど両者の相溶性が向上し、初期密着性が向上する。」
第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明における「複数の電磁鋼鈑12」、「液状接着剤54」、「積層鉄心」は、それぞれ本願発明1における「複数の電磁鋼板」、「接着部」、「積層コア」に相当する。
また、引用発明における複数の電磁鋼鈑12が「所定枚数積層され」ることは、本願発明1における複数の電磁鋼板が「互いに積層され」ることに相当し、同様に、液状接着剤54が「前記電磁鋼鈑12の積層間に充填され、硬化され」ることは、接着部が「積層方向に隣り合う前記電磁鋼板同士の間に配置され、これらの電磁鋼板同士を接着する」ことに相当する。
加えて、引用発明における「前記液状接着剤54が前記電磁鋼鈑12の表面上に所望の厚さに塗布されるとともに、前記電磁鋼鈑12の裏面上に均等な厚さで塗布され」ることは、電磁鋼鈑12が所定枚数積層されて接着されることに鑑みると、本願発明1における「前記接着部が前記電磁鋼板同士の間の複数箇所において点状に設けられ」ることと、「前記接着部が前記電磁鋼板同士の間」「に設けられ」る点において共通する。
さらに、引用発明における「液状接着剤54」は「エポキシ樹脂を主成分と」するものであるから、本願発明1における「エポキシ樹脂系接着剤」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「互いに積層された複数の電磁鋼板と、積層方向に隣り合う前記電磁鋼板同士の間に配置され、これらの電磁鋼板同士を接着する接着部と、を備え、前記積層方向に隣り合う前記電磁鋼板同士の全ての組が、前記電磁鋼板同士の間の複数の前記接着部により接着され、前記接着部が前記電磁鋼板同士の間に設けられ、前記接着部が、エポキシ樹脂系接着剤である、積層コア。」
(相違点1)本願発明1の複数の電磁鋼板は、「両面が絶縁被膜により被覆された」ものであるのに対し、引用発明はそのような構成を備えるか不明である点。
(相違点2)本願発明1の接着部は、電磁鋼板同士の間の「複数箇所において点状に設けられ」るのに対し、引用発明はそのような構成を備えるか不明である点。
(相違点3)本願発明1の接着部は、「エポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂とアクリル樹脂を含むエポキシ樹脂系接着剤であり、かつSP値が7.8~10.7(cal/cm3)1/2であり、前記エポキシ樹脂系接着剤が、アクリル樹脂がグラフト重合されたアクリル変性エポキシ樹脂100質量部と、フェノールノボラック樹脂5~35質量部とからなる」のに対し、引用発明の液状接着剤54は、エポキシ樹脂を主成分とし、油面接着剤或いは吸油接着剤成分を付加することにより、電磁鋼鈑12の被接着面に機械加工油や離型剤が付着していてもこれら油成分を収蔵したり浸透して被接着面に直接接着するものであるものの、前記のような樹脂材料、SP値、配合割合からなるものか不明である点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点3から検討する。
引用発明は、「油面接着剤或いは吸油接着剤成分を付加することにより、電磁鋼鈑の被接着面に機械加工油や離型剤が付着していてもこれら油成分を収蔵したり浸透して被接着面に直接接着する」ものであり、電磁鋼板同士の接着において、電磁鋼板の被着面に存在する油成分が当該接着を阻害し得るという点に着目したものであるとはいえるが、引用文献1には、SP値を7.8~10.7(cal/cm3)1/2とすることや、SP値を当該範囲とするために、接着剤として、エポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂とアクリル樹脂を含むエポキシ樹脂系接着剤であり、アクリル樹脂がグラフト重合されたアクリル変性エポキシ樹脂100質量部と、フェノールノボラック樹脂5~35質量部とからなるものを用いることは、記載も示唆もされていない。
また、引用文献4には、接着鉄芯用電磁鋼板に用いる接着剤として、ベース樹脂として高分子量エポキシ樹脂と高分子量アクリル系樹脂のグラフト化物である水分散型樹脂を用いること、塗料組成物に使用する硬化剤について、複数の選択肢の一つとしてノボラック型フェノール樹脂が挙げられること、塗料組成物中の硬化剤の配合量は、固形分の割合で水分散型樹脂(高分子量エポキシ樹脂と高分子量アクリル系樹脂のグラフト化物)100重量部に対して1~40重量部とすることは記載されているものの、これらの樹脂材料の選択や配合割合と、SP値との関係については、何ら記載されていない。
加えて、引用文献7には、樹脂シート等からなるコア層を鋼板間に積層した積層鋼板において、接着剤がコア層と鋼板とに対する親和性が必要であり、接着剤とコア層との溶解度パラメーターの差が小さいほど両者の相溶性が向上し、初期密着性が向上するといった旨の技術事項は開示されているものの、そもそも、引用文献7における溶解度パラメーターと本願発明1におけるSP値との関係が不明であるし、仮に引用文献7における溶解度パラメーターと本願発明1におけるSP値とが、ともに溶解度に関するパラメータである点で共通するとしても、接着剤とコア層との溶解度パラメーターあるいはSP値の差を小さくすることを、具体的な樹脂材料の選択や配合割合を調整して実現することについては何ら記載されていない。
加えて、引用文献2-3、5-6にも、SP値を7.8~10.7(cal/cm3)1/2とすることや、SP値を当該範囲とするために、接着剤として、エポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂とアクリル樹脂を含むエポキシ樹脂系接着剤であり、アクリル樹脂がグラフト重合されたアクリル変性エポキシ樹脂100質量部と、フェノールノボラック樹脂5~35質量部とからなるものを用いることは記載されていない。
したがって、引用発明に、引用文献2-7に記載された事項を適用したとしても、本願発明1の相違点3に係る構成には到達し得ない。そして、本願発明1は、相違点3に係る構成を備えることにより、本願の発明の詳細な説明の段落【0023】に記載された「接着剤(X)は打ち抜き加工後の電磁鋼板の積層において優れた油面接着性を発現し、電磁鋼板同士が高い接着強度で接着される。そのため、機械強度が高く、低騒音および低振動のステータコア21が得られる。」といった顕著な作用効果を奏するものであるから、相違点3に係る構成は単なる設計事項といえる程度のものではない。
なお、原査定においては、本願発明1の接着部が、「SP値が7.8~10.7(cal/cm3)1/2である接着剤から形成されている」という相違点3に含まれる構成は、当業者の通常の創作能力の発揮であるとの判断がなされているが、上記のとおり、当該構成は原査定で引用されたどの文献にも記載されておらず、当該構成が顕著な作用効果を奏するものであるから、引用発明に「SP値が7.8~10.7(cal/cm3)1/2である接着剤から形成されている」という構成を設けることが設計的事項であるとはいえない。
したがって、本願発明1は、相違点1、2を検討するまでもなく、当業者であっても引用発明、引用文献2-7に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2.本願発明2-5について
本願発明2-5も、本願発明1の相違点3に係る構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-7に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-017807