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特許拒絶査定不服審判

2022-017659

ロータ、モータ、ファン、空気調和装置、及びロータの製造方法

審判番号
2022-017659
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-533989外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年11月04日
審決日
2024年05月08日
公報発行日
2024年07月26日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (H02K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-533989「ロータ、モータ、ファン、空気調和装置、及びロータの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 2月 6日国際公開、WO2020/026403〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 13項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、2018年(平成30年)8月2日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 2年 8月24日 :手続補正書の提出
令和 3年 9月 6日付け:拒絶理由通知書
令和 3年11月11日 :意見書の提出
令和 4年 3月 7日付け:拒絶理由通知書
令和 4年 5月12日 :意見書の提出
令和 4年 9月 6日付け:拒絶査定
令和 4年11月 4日 :審判請求書の提出
令和 5年 9月 6日付け:拒絶理由通知書
令和 5年11月 2日 :意見書、手続補正書の提出
令和 5年12月18日付け:拒絶理由通知書
令和 6年 1月31日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1ないし16に係る発明は、令和6年1月31日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

・本願発明

「【請求項1】
第1の磁極中心及び第1の極間部を持つ第1の磁束発生部と、第2の磁極中心及び第2の極間部を持ち、軸方向において前記第1の磁束発生部に隣接している、ロータの回転位置の検出用の位置検出磁束発生部である第2の磁束発生部とを有する樹脂マグネットと、
前記樹脂マグネットに固定されたシャフトと
を備え、
続きを表示(全11行)
前記第1の極間部及び前記第2の極間部は、周方向において互いにずれており、
前記第1の磁極中心及び前記第2の磁極中心は、前記周方向において互いにずれており、
前記第1の磁束発生部の外径は、前記第2の磁束発生部の外径よりも大きく、
前記第2の極間部は、前記第1の極間部に対して前記ロータの回転方向における下流側にずれており、
前記第1の極間部に対する前記第2の極間部の位置のずれ量は、電気角で0度より大きく10度よりも小さく、
前記周方向において、前記第2の磁束発生部からの磁束の向きの変化は、前記第1の磁束発生部からの磁束の向きの変化よりも早い
ロータ。」

第3 当審が通知した拒絶の理由

令和5年12月18日付けで当審が通知した拒絶理由は、次の理由を含むものである。

本件補正前の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができず、本件補正前の請求項2に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特許第3236578号公報
引用文献2:特開2000-287430号公報

なお、本願発明の「前記周方向において、前記第2の磁束発生部からの磁束の向きの変化は、前記第1の磁束発生部からの磁束の向きの変化よりも早い」という事項は、本件補正前の請求項2(請求項1を引用する形式で記載された請求項である。)において、特定されていた事項であるから、以下、本件補正前の請求項2に対して通知した拒絶理由について、検討する。

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1

(1)引用文献1の記載事項

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引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同様。)。

ア 「【請求項1】 固定子鉄心に電機子巻線を巻装した固定子と、極異方性磁石を用いた磁石回転子と、ホールICなどの電子部品を実装したプリント基板を内蔵した無刷子電動機であって、前記磁石回転子は軸方向に並んで位置する主磁極部とセンサ用磁極部からなり、このセンサ用磁極部の外径は前記主磁極部の内径よりも小さく構成され、前記主磁極部と前記センサ用磁極部は樹脂マグネットで一体成形されるとともに、前記主磁極部は前記樹脂マグネットの磁性粉体微粒子の磁化容易軸を極配向に配列させ、前記センサ用磁極部は前記樹脂マグネットの磁性粉体微粒子の磁化容易軸をランダムな状態の等方性にしたことを特徴とする無刷子電動機。」

イ 「【請求項6】 磁石回転子の着磁は主磁極部とセンサ用磁極部の磁極をずらしたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の無刷子電動機。」

ウ 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】プリント基板59を電動機内部に内蔵し、ホールIC60を用いて磁石回転子55の磁極位置を検出する場合、磁石58の軸方向長さの少なくともプリント基板59側は固定子鉄心51に巻装された電機子巻線53の軸方向長さ以上とする必要がある。しかしながら、この方法では固定子鉄心51の軸方向中心と磁石58の軸方向中心がずれるので、磁気中心がずれ、固定子鉄心51と磁石58との磁力において軸方向にアンバランスを生じて、軸方向の振動が大きくなるという課題があり、固定子鉄心と極異方性磁石の磁気中心がずれることなく、軸方向の振動が抑制され、プリント基板を内蔵した無刷子電動機が要求されている。
【0007】また、磁石58の軸方向長さをプリント基板59の反対側へも同様に長くすれば、磁石58と固定子鉄心51の磁気中心のずれは無くなるが、無刷子電動機の軸方向長さが長くなりすぎ、小型化できないという課題があり、小型化できる無刷子電動機が要求されている。
【0008】また、ホールIC60にて確実に磁極位置を検出するためなどに、磁石58の軸方向長さが固定子鉄心51に軸方向長さよりも異常に長くなった場合、固定子鉄心51が磁気飽和を生じるので、誘起電圧位相がセンサ信号よりも進むとともに、誘起電圧波形のピークが凹状に歪むため、通電位相が遅れ、消費電力が異常に上昇し、出力が低下し、トルクリップルおよびトルク変化率が大きくなり、回転方向の振動が大きくなるという課題があり、常に固定子鉄心の磁気飽和を抑え、最適な通電位相で動作し、低消費電力で、出力低下が抑制されたトルクリップル・トルク変化率の小さい低振動の無刷子電動機が要求されている。
【0009】また、無刷子電動機を搭載する商品によって回転方向の変更や特性を若干変更するために、転流タイミングなどを変更する。このときホールIC60の実装位置をずらす必要があるが、駆動IC61を実装するプリント基板59の場合、基板面積の制約から1種類のプリント基板58では対応できないという課題があり、転流タイミングが搭載される商品の仕様によって自由に調整できる無刷子電動機が要求されている。」
エ 「【0036】
【実施例】(実施例1)
図1~図3に示すように、1は複数のスロットを有する固定子鉄心4に絶縁材にて形成されたインシュレータ2を介して電機子巻線3を巻装した固定子で、固定子1は熱硬化性樹脂16にてモールド成形されて外被を形成しており、17はブラケットで軸受け14を保持している。10はホールIC11、駆動IC12および電子部品13などを実装したプリント基板で、8は磁石回転子であり、フェライト樹脂マグネット5を使用し、磁性粉体のフェライト微粒子の磁化容易軸が極配向された主磁極部6と、シャフト9の軸方向に並び、磁性粉体のフェライト微粒子の磁化容易軸が配向されていない等方性のセンサ用磁極部7と保持部15より一体的に構成され、主磁極部6とセンサ用磁極部7の境界には環状の溝部23が設けてあり、センサ用磁極部7の外径は主磁極部6の内径よりも小さく、センサ用磁極部7の外径から外側および主磁極部6の外径より内側の範囲に空間部18を設けている。また、プリント基板10への駆動IC12などの配置は、ホールIC11はセンサ用磁極部7に対向した位置に、駆動IC12についてはプリント基板10に電気的に接続する接続脚12aの長さ(プリント基板10の端面からの高さ)が2mm以上のため、接続脚12aのプリント基板10への半田部12bが空間部18に位置するよう配置され、同様に電子部品13の中で高さが2mm以上あるツェナーダイオード、コンデンサなどの電子部品13aについても空間部18に位置するよう配置されている。」
オ 「【0040】(実施例2)
図4~図6に示すように、24は磁石回転子であり、フェライト樹脂マグネット5を使用し、磁性粉体のフェライト微粒子の磁化容易軸が極配向された主磁極部6と、シャフト9の軸方向に並び、磁性粉体のフェライト微粒子の磁化容易軸が軸方向に配向されている軸方向異方性のセンサ用磁極部25と保持部15より一体的に構成されており、その他の構成は実施例1と同一である。
【0041】以上のように構成された無刷子電動機の電動機本体内部の磁石回転子24について説明する。磁石回転子24は図5(a)は磁石回転子24成形時の要部平面断面図で、図5(b)は磁石回転子24成形時の要部縦断面図である。図において、20は主磁極部を極配向するための主磁極部配向用磁石で、21は同様に主磁極部を極配向するための主磁極部配向用磁性材で、27はセンサ用磁極部25を軸方向に配向するためのセンサ用磁極部配向用磁石で、22は融解したフェライト樹脂マグネット5を注入するゲートであり、シャフト9を成型金型26内にセットし、上型を締め、ゲート22より融解したフェライト樹脂マグネット5を注入する。このとき、回転トルクを発生させるための主磁極部6は主磁極配向用磁石20および主磁極配向用磁性材21によって、フェライト微粒子の磁化容易軸が極配向となるよう異方化される。また、センサ用磁極部25はセンサ用磁極部配向用磁石27によって、フェライト微粒子の磁化容易軸が軸方向配向となるよう異方化される。そして、成型金型26内で冷却固化して磁石回転子24の成形が完了する。完成された磁石回転子24は着磁状態であるため、いったん空真コイル(図示せず)で脱磁し、磁石回転子24の保持部15の突部15aに当てるように軸受け14をシャフト9に圧入した後、着磁ヨークにて、センサ用磁極部25をシャフト9の軸方向から平面着磁してから主磁極部6を着磁して磁石回転子24組が完成する。また、センサ用磁極部25の着磁と主磁極部6の着磁において、磁極をずらして着磁することができるような着磁ヨークの構造としておく。なお、図において磁束の配向を示す二点鎖線は仮想線である。
【0042】このような本発明の無刷子電動機によれば、主磁極部6と、この主磁極部6の内径より小さい外径のセンサ用磁極部25とを同一のフェライト樹脂マグネット5で主磁極部6を極配向、センサ用磁極部25を軸方向異方性に磁性粉体であるフェライト微粒子の磁化容易軸の配向を形成しながら一体成形した磁石回転子24の構成とすることによって、固定子鉄心4の磁気中心と回転トルクを発生する主磁極部6の磁気中心とが一致するので、軸方向の振動の発生が抑制できる。また、磁気飽和が抑制され、鎖交磁束が正弦波になるため、常に誘起電圧位相に対して最適な通電位相で運転できるので、トルクリップル・トルク変化率の増大が抑制され、回転方向の振動の増大が抑制される。また、部品点数および加工工数の削減ができ、センサ用磁極部25が軸方向に異方化していることから軸方向長さを短くしてもホールIC11で検出できる磁束量は確保できるため、コスト低減・小型化がさらにできる。また、センサ用磁極部25が軸方向に異方化していることから、センサ用磁極部25の着磁電圧を下げることができるので、加工に要する電力が削減できるとともに、主磁極部6におけるセンサ用磁極部25近傍の磁束量の低下が抑制可能となるので、固定子鉄心4に鎖交する磁束量は増加する。したがって、低振動、より一層の低コスト・小型化・低消費電力の無刷子電動機が得られる。
【0043】また、磁石回転子24の着磁において、主磁極部6とセンサ用磁極部25の磁極をずらすことを可能とすることによって、通電タイミングを容易に変更できるので、1種類のプリント基板10にて、搭載する商品の使用に応じて任意の特性が得られることになり、回転方向変更対応など従来標準化が困難であったプリント基板10の標準化が図れるので、より低コストの無刷子電動機が得られる。
【0044】また、磁石回転子24の着磁はセンサ用磁極部25の着磁を行った後に、主磁極部6の着磁を行うことによって、主磁極部6におけるセンサ用磁極部25近傍の磁束量の低下が抑制可能となるので、固定子鉄心4に鎖交する磁束量は増加することとなり、より一層の低消費電力化のできる無刷子電動機が得られる。」

カ 引用文献1には、図4ないし6として、次の図が記載されている。

[図:0001411756000001.jpg]

キ 上記アないしオより、次の事項が引用文献1に記載されていると認められる。

(ア)磁石回転子24に使用されるフェライト樹脂マグネット5は、主磁極部6と、シャフト9の軸方向に並ぶセンサ用磁極部25とにより構成されている(上記オの【0040】)。

(イ)磁石回転子24の成形は、まず、シャフト9を成型金型26内にセットし、上型を締め、ゲート22より融解したフェライト樹脂マグネット5を注入した後、成型金型26内で冷却固化させて行われるものである(上記オの【0041】)。シャフト9が成型金型26内にセットされた状態で、注入されたフェライト樹脂マグネット5が冷却固化すると、技術的にみて、シャフト9は、冷却固化したフェライト樹脂マグネット5に固着するといえる。また、この点は、磁石回転子24として回転するフェライト樹脂マグネット5の回転をシャフト9に伝える必要があることとも整合する。また、これより、引用文献1に記載された磁石回転子24は、フェライト樹脂マグネット5とシャフト9とを備えているといえ、これは、上記カに示す図6の記載とも整合する。

(ウ)通電タイミングを変更するために、主磁極部6とセンサ用磁極部25の磁極はずれている(上記オの【0043】)。これは、上記カに示す図6の記載とも整合する。

(エ)主磁極部6の内径よりセンサ用の磁極部25外径は小さく構成されている(上記オの【0042】)。

(2)引用文献1に記載された発明

上記(1)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

・引用発明

「主磁極部6と、シャフト9の軸方向に並ぶセンサ用磁極部25とにより構成されているフェライト樹脂マグネット5と、
前記フェライト樹脂マグネット5に固着されたシャフト9と
を備え、
前記主磁極部6及び前記センサ用磁極部25の磁極はずれており、
前記主磁極部6の内径より前記センサ用磁極部25の外径は小さい
磁石回転子24。」

2 引用文献2

引用文献2には、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】駆動電流の通電により回転磁界を発生させるステータと、前記ステータの発生する前記回転磁界により回転駆動されるマグネットを有するロータと、前記ロータの作る磁界を検出することにより前記ロータの回転位置を検出する磁極位置センサと、を備えたブラシレスモータであって、前記マグネットは、前記磁極位置センサの回転位置の検出に利用される検出磁界発生部と、前記ステータの発生する前記回転磁界により回転駆動するための磁界の発生に利用される駆動磁界発生部と、を備え、前記検出磁界発生部と前記駆動磁界発生部とが異なる着磁をされたことを特徴とするブラシレスモータ。
【請求項2】前記駆動磁界発生部は、前記ロータの回転方向に対して磁化の大きさの変化が正弦波状となるように着磁され、前記検出磁界発生部は、前記ロータの回転方向に対して磁化の大きさの変化が矩形波状となるように着磁されたことを特徴とする請求項1に記載のブラシレスモータ。」

(2)「【0096】図3(a)は図1のポンプに内設された実施の形態1のブラシレスモータのロータに搭載されるマグネットの中心軸に沿った断面図であり、図3(b)は図3(a)のマグネットの前側面図であり、図3(c)は図3(a)のマグネットの後側面図である。」

(3)「【0099】図3において、21はマグネット、21aは検出磁界発生部、21bは駆動磁界発生部であり、これらは図1と同様のものであるので同一の符号を付して説明は省略する。
【0100】検出磁界発生部21a及び駆動磁界発生部21bは、円周方向に沿って等間隔に4つの磁区21a-1~21a-4、21b-1~21b-4が形成されており、隣り合う検出磁界発生部21aの磁区と駆動磁界発生部21bの磁区とは円周方向に対してはそれぞれが同一の極性を有する。磁区21a-1~21a-4、21b-1~21b-4は、何れも半径方向に磁化が向くように着磁されており、検出磁界発生部21a及び駆動磁界発生部21bの外側表面には、各外側表面に略垂直な方向に磁界が形成される。」

(4)「【0105】図4(a)は図3のマグネットの円周方向に沿った磁力の変化を表す図であり、図4(b)は図4(a)の磁化極性の変化点付近の区間の拡大図である。」

(5)「【0108】図4において、磁化極性の変化点(図4(a)の回転角0,90,180,270,360度)に注目すると、矩形波着磁の場合の磁力変化を表す線Aと比較して正弦波着磁の磁力変化を表す線Bは変化が緩やかである。図1に示すように、回路基板24はマグネット21の発生する磁界により磁極位置を磁極位置センサ23で検出し、ステータ22の巻線の通電制御(通電相切り換え制御)を行いロータ17を回転させるので、磁極位置センサ23にとってマグネット21の磁化極性の変化点における磁力変化の傾きは非常に重要なものである。
【0109】図4(b)において、M1は磁極位置センサ23の検出感度のヒステリシス成分であり、磁極位置センサ23が磁化極性の変化を捉えるための最低限必要な磁力の変化量を示す。θ1は矩形波着磁された場合の磁化極性の変化点から実際に磁極位置センサ23により検出される磁化極性の変化点の位置ずれ量であり、矩形波着磁された場合の磁力の変化を表す線Aに対しヒステリシス成分M1のために生じる検出位置のずれ量に対応する。θ2は正弦波着磁された場合の磁化極性の変化点から実際に磁極位置センサ23により検出される磁化極性の変化点の位置ずれ量であり、正弦波着磁された場合の磁力の変化を表す線Bに対しヒステリシス成分M1のために生じる検出位置のずれ量に対応する。明らかに、正弦波着磁の場合のずれ量θ2は矩形波着磁の場合のずれ量θ1と比較して大きく、磁極位置センサ23でロータ17の回転位置を検出する場合には、検出磁界発生部21aに正弦波着磁をした場合よりも矩形波着磁をした場合の方が検出精度が高い。特に、ロータ17を高速回転で駆動する場合、このずれ量は、回転磁界を発生させるためのステータ22に流す駆動電流の通電相切換のタイミングを最適のタイミングから遅らせることになり、ブラシレスモータの効率が低下する原因となる。従って、本実施の形態1のブラシレスモータでは、磁極位置センサ23による磁極の位置検出用の磁界を発生させる検出磁界発生部21aの磁化極性の変化点における磁力の変化を大きく急峻にすることにより、正確な磁極位置検出、延いては効率良い運転を可能としている。」

(6)引用文献2には、図3及び4として、次の図が記載されている。

[図:0001411756000002.jpg]

第5 対比、一致点及び相違点

本願発明と引用発明とを対比する。

1 引用発明の「主磁極部6」は、着磁された磁石である(上記第4・1(1)オの【0041】参照。)から、磁極中心及び極間部を持つことは、技術的にみて明らかである。したがって、引用発明の「主磁極部6」は、本願発明の「第1の磁極中心及び第1の極間部を持つ第1の磁束発生部」に相当する。

引用発明の「センサ用磁極部25」は、着磁された磁石である(上記第4・1(1)オの【0041】参照。)から、磁極中心及び極間部を持つことは、技術的にみて明らかである。また、引用文献1の記載によれば、ホールIC60は、磁石回転子55の磁極位置を検出するものであり(上記第4・1(1)ウの【0006】参照。)、「センサ用磁極部25」は、このホールIC60と同等の機能を有するホールIC11が検出するための磁束を生じさせるものである(上記第4・1(1)オの【0042】参照。)から、この「センサ用磁極部25」は、磁石回転子24の回転位置を検出するためのものである。さらに、引用発明において、センサ用磁極部25が主磁極部6と「シャフト9の軸方向に並ぶ」ことは、本願発明の第2の磁束発生部が「軸方向において前記第1の磁束発生部に隣接している」ことに相当する。したがって、引用発明の「シャフト9の軸方向に並ぶセンサ用磁極部25」は、本願発明の「軸方向において前記第1の磁束発生部に隣接している、ロータの回転位置の検出用の位置検出磁束発生部である第2の磁束発生部」に相当する。

また、引用発明の主磁極部6とセンサ用磁極部25と「により構成されている」ことは、本願発明の第1の磁束発生部と第2の磁束発生部と「を有する」ことに相当し、引用発明の「フェライト樹脂マグネット5」は、本願発明の「樹脂マグネット」に相当する。

したがって、引用発明の「主磁極部6と、シャフト9の軸方向に並ぶセンサ用磁極部25とにより構成されているフェライト樹脂マグネット5」は、本願発明の「第1の磁極中心及び第1の極間部を持つ第1の磁束発生部と、第2の磁極中心及び第2の極間部を持ち、軸方向において前記第1の磁束発生部に隣接している、ロータの回転位置の検出用の位置検出磁束発生部である第2の磁束発生部とを有する樹脂マグネット」に相当する。

2 引用発明の「固着」は、本願発明の「固定」に相当する。したがって、引用発明の「前記フェライト樹脂マグネット5に固着されたシャフト9」は、本願発明の「前記樹脂マグネットに固定されたシャフト」に相当する。

3 引用発明において、「前記主磁極部6及び前記センサ用磁極部25の磁極はずれて」いるのは、周方向に互いにずれていることを意味(上記第4・1(1)カの【図6】参照。)し、主磁極部6及びセンサ用磁極部25の磁極がずれていれば、上記1に示す主磁極部6の極間部及びセンサ用磁極部25の極間部も互いに周方向にずれ、また、上記1に示す主磁極部6の磁極中心及びセンサ用磁極部25の磁極中心も周方向にずれることとなる(このような理解は、上記第4・1(1)カに示す【図6】の記載とも整合する。)から、引用発明の「前記主磁極部6及び前記センサ用磁極部25の磁極はずれて」いることは、本願発明の「前記第1の極間部及び前記第2の極間部は、周方向において互いにずれており、前記第1の磁極中心及び前記第2の磁極中心は、前記周方向において互いにずれて」いることに相当する。

4 引用発明において、主磁極部6の内径は、主磁極部6の外径よりも小さいから、「主磁極部6の内径より」小さい「センサ用磁極部25の外径」は、主磁極部6の外径よりも小さいこととなり、これを言い換えれば、主磁極部6の外径は、センサ用磁極部25の外径よりも大きいこととなる。したがって、引用発明の「前記主磁極部6の内径より前記センサ用磁極部25の外径は小さい」ことは、本願発明の「前記第1の磁束発生部の外径は、前記第2の磁束発生部の外径よりも大き」いことに相当する。

5 引用発明の「磁石回転子24」は、本願発明の「ロータ」に相当する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明とは、次の一致点で一致し、相違点1及び2の点で相違する。

・一致点

「第1の磁極中心及び第1の極間部を持つ第1の磁束発生部と、第2の磁極中心及び第2の極間部を持ち、軸方向において前記第1の磁束発生部に隣接している、ロータの回転位置の検出用の位置検出磁束発生部である第2の磁束発生部とを有する樹脂マグネットと、
前記樹脂マグネットに固定されたシャフトと
を備え、
前記第1の極間部及び前記第2の極間部は、周方向において互いにずれており、
前記第1の磁極中心及び前記第2の磁極中心は、前記周方向において互いにずれており、
前記第1の磁束発生部の外径は、前記第2の磁束発生部の外径よりも大きい
ロータ。」

・相違点1

本願発明は、「前記第2の極間部は、前記第1の極間部に対して前記ロータの回転方向における下流側にずれており、前記第1の極間部に対する前記第2の極間部の位置のずれ量は、電気角で0度より大きく10度よりも小さ」いのに対し、引用発明は、主磁極部6とセンサ用磁極部25のずれる方向及び大きさが特定されていない点。

・相違点2

本願発明は、「前記周方向において、前記第2の磁束発生部からの磁束の向きの変化は、前記第1の磁束発生部からの磁束の向きの変化よりも早い」のに対し、引用発明は、主磁極部6及びセンサ用磁極部25の磁束の向きの変化の早さについて特定されていない点。

第6 判断

以下、相違点について検討する。

1 相違点1について

引用発明において、「前記主磁極部6及びセンサ用磁極部25の磁極はずれて」いるのは、「通電タイミングを容易に変更できる」ようにし、「1種類のプリント基板10にて、搭載する商品の使用に応じて任意の特性が得られる」ものとして、「回転方向変更対応など従来標準化が困難であったプリント基板10の標準化が図」られ、「より低コストの無刷子電動機」を得るためであることが引用文献1の記載から理解できる(上記第4・1(1)オの【0043】参照。)。すなわち、引用発明は、主磁極部6及びセンサ用磁極部25の磁極がずれていない場合でも動作する無刷子電動機において、標準化されたプリント基板10を使用しつつ、任意の特性に変えられるようにするために、主磁極部6及びセンサ用磁極部25の磁極をずらしたものである。そうすると、主磁極部6及びセンサ用磁極部25の磁極のずれる方向及び大きさは、「搭載する商品の使用に応じて」要求される特性により定められることとなり、この要求される特性が、主磁極部6及びセンサ用磁極部25の磁極がずれていない場合に得られる特性に近い場合には、当然、そのずれる大きさも小さいものとなることは、自明であり、また、そのずれる方向も、センサ用磁極部25が主磁極部6に対して磁石回転子24の回転方向における下流側にずらしたときに得られる特性であるならば、そのような方向にずらすことは、引用文献1に接した当業者にとって、自明な事項である。

ところで、引用文献1に記載された無刷子電動機は、センサ用磁極部25の磁極位置をホールIC11で検出することでセンサ用磁極部25の磁極位置を検出し、磁石回転子24の回転制御を行うものであるが(上記第4・1(1)ウの【0008】及び同オの【0042】参照。)、このような磁極位置の検出や磁石回転子24の回転制御には、検出遅れや制御遅れが不可避的に生じることが技術的にみて明らかである。このような検出遅れや制御遅れに予め対応するために、センサ用磁極部25を回転方向の下流側にずらしておくことは、当業者が容易に想到し得た事項である。

また、引用発明は、主磁極部6とセンサ用磁極部25の磁極をずらすことで、無刷子電動機を「1種類のプリント基板10にて、搭載する商品の使用に応じて任意の特性が得られる」ようにするものであるが、変数である磁極のずれを除いて「1種類のプリント基板10」で行われる無刷子電動機の制御は同じであると解されるから、当該制御により無刷子電動機の特性を変えられる範囲、すなわち、主磁極部6とセンサ用磁極部25の磁極をずらすことのできる範囲には限度があり、過度に大きくずらすことができないことも自明である。

さらに、第1の極間部に対する第2の極間部の位置のずれ量をロータの回転方向における下流側に、「電気角で0度より大きく10度よりも小さく」することに臨界的な意義はない。そうすると、引用発明において、センサ用磁極部25を主磁極部6に対してどちらの方向にどの程度ずらすかは、当業者が適宜定める設計事項であり、回転方向における下流側にずらすと共に、ずらす範囲として、前記限度も考慮の上、電気角で0度より大きく10度よりも小さい範囲でずらすものとし、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得た事項である。

2 相違点2について

まず、引用文献2には、上記第4・2に示す事項が記載されており、これらの記載から、引用文献2には、位置検出用の磁界を発生させる検出磁界発生部21aの磁化極性の変化点における磁力の変化を大きくすることにより、正確な磁極位置検出が行われるようにし、これにより効率のよい運転を可能としたブラシレスモータが記載されていると認められる(上記第4・2(5)に示す【0109】、同(6)に示す【図4】参照。)。

そして、引用発明においても、正確な磁極位置を検出することで効率のよい運転を可能とすることは、自明な課題であり、そのために、引用発明に引用文献2に記載された上記事項を適用し、センサ用磁極部25の周方向における磁束の向きの変化を早くし、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得た事項である。

3 効果などについて

上記一致点、相違点1、2に係る本願発明の発明特定事項を合わせてみても、本願発明の奏する効果は、引用発明、引用文献2に記載された事項から、当業者が予測できるものであり、格別なものとはいえない。

4 請求人の主張について

審判請求人は、令和6年1月31日提出の意見書において、本願発明のうち、「前記第2の極間部は、前記第1の極間部に対して前記ロータの回転方向における下流側にずれており」(以下、「構成要件F」という。)、「前記第1の極間部に対する前記第2の極間部の位置のずれ量は、電気角で0度より大きく10度よりも小さく」(以下、「構成要件G」という。)、「前記周方向において、前記第2の磁束発生部からの磁束の向きの変化は、前記第1の磁束発生部からの磁束の向きの変化よりも早い」(以下、「構成要件H」という。)ことは、いずれの引用文献においても開示も示唆もされておらず、本願発明は、「これにより、第1の磁束発生部からの第2の磁束発生部の磁束への影響、すなわち、モータの騒音を低減することができ、さらに、位置検出素子を用いて第2の極間部の位置を検出することにより、ロータの回転位置の検出精度を向上させることができる(段落0037)、という引用文献の有する効果とは異質な効果を有」し、「このような顕著な効果は、引用文献に記載の発明からは得られません」と主張している。

しかしながら、引用発明は、「前記主磁極部6及び前記センサ用磁極部25の磁極はずれて」いるものであり、このずれる方向及び大きさは、要求される特性に応じて当業者が適宜定める設計事項であることは、上記第6の「相違点1について」において示すとおりであり、また、これにより、センサ用磁極部25の極間部は、主磁極部6の極間部からずれ、その結果、センサ用磁極部25の極間部での位置検出精度が向上することは、自明な効果である。さらに、引用発明において、引用文献2に記載された事項を適用し、位置検出精度を向上させるために、センサ用磁極部25の周方向における磁束の向きの変化を早くすることは、上記第6の「相違点2について」において示すとおり、当業者が容易になし得たものであるところ、この結果、得られるロータの回転位置の検出精度を向上するという効果は、「前記主磁極部6及び前記センサ用磁極部25の磁極はずれて」いることによる効果とセンサ用磁極部25の周方向における磁束の向きの変化を早くすることによる効果のそれぞれから予測できる範囲のものであり、顕著な効果とはいえない。よって、請求人の主張は採用することができない。

また、請求人は、上記意見書により、引用発明において、構成要件F及びGを想到し得たとしても、その上で、さらに構成要件Hを採用する動機付けはないと主張している。

請求人のこの主張は、構成要件Hを採用する動機は、構成要件F及びGを備えることを前提としているという主張と解されるが、引用発明において、主磁極部6に対するセンサ用磁極部25の磁極のずれている方向及び大きさにかかわらず、正確な磁極位置を検出することで効率のよい運転を可能とすることは、引用発明に接した当業者にとって、自明な課題であるから、上記第6の「相違点2について」において示すとおり、相違点2に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者にとって容易になし得た事項であり、請求人の主張は、採用することができない。

さらに、請求人は、上記意見書において、「モータの騒音を低減するとともに、位置検出素子を用いて第2の極間部の位置を検出することによりロータの回転位置の検出精度を向上させる(段落0037)という課題については、いずれの引用文献にもおいても開示も示唆もされておりません」と主張するが、そもそも、モータの騒音を低減するということは、モータを駆動する際に当業者にとって、自明な課題であり、引用発明においても、そのような課題を有しているといえる。さらに、引用発明のセンサ用磁極部25は、引用文献1の記載によれば、その磁束をホールIC11で検出するものであり(上記第4・1(1)オに示す【0042】参照。)、この検出精度を向上させることは、引用発明に接した当業者にとって、自明な課題であるから、請求人の主張は採用することができない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第7 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

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2022-017659

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