2022-014745
流量計
- 審判番号
- 2022-014745
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-003069外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年09月16日
- 審決日
- 2024年04月10日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .121-WZ (G01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 14項目
第1 手続の経緯
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本願は、平成31年1月11日の外国語書面出願(パリ条約による優先権主張 2018年(平成30年)1月22日 (DE)ドイツ連邦共和国)であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
同年12月 3日 :意見書、手続補正書の提出
(同年 5月17日 :拒絶査定の謄本の送達)
同年 9月16日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年11月 9日 :手続補正書の提出(請求の理由の補正)
以下、当審において令和5年6月22日付けで通知した拒絶理由通知を「当審拒絶理由通知」といい、これに対して同年11月13日に請求人が提出した意見書を単に「意見書」という。
また、2018年1月22日を「優先日」という。
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和5年11月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。なお、参考として、本願の図面の【図1】と【図2】を示した。
「【請求項1】流体の流量を計測するための流量計(1)であって、前記流体が通って流れることができる計測チャンバ(11)を形成する計測チューブ(10)を有し、前記計測チャンバ(11)内に配置された少なくとも1つの渦発生体(12)を有し、さらに、前記計測チャンバ(11)内で前記渦発生体(12)の下流に配置され、前記渦発生体(12)における渦の形成によって偏向され得る計測体(13)を有する流量計において、前記計測チャンバ(11)内に突出する2つの突起(15)が、前記計測チャンバ(11)を画定する内壁(14)において前記渦発生体(12)の上流に形成されていて、前記突起(15)は、前記突起(15)において形成された乱流が、前記突起(15)から離れ、前記渦発生体(12)において発生した形成カルマン渦列の渦を増幅させるように形成され、前記突起(15)が、前記計測チャンバ(11)を通る垂直軸線(17)と平行に、および前記渦発生体(12)が延びる長手軸方向と平行に、延びる流縁(18)を備える、ことを特徴とする、流量計(1)。」
「【図1】 【図2】[図:0001414504000001.jpg]」
第3 当審拒絶理由通知において通知した拒絶の理由の概要
当審拒絶理由通知において通知した拒絶の理由のうち、理由4(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
なお、当審拒絶理由通知においては、引用文献の参照番号については、前置審査も含めて審査及び審判の手続において共通のものとするため、新たに引用した二つの文献をそれぞれ「引用文献5」及び「引用文献6」の表記とした。
理由4(進歩性の欠如)
本願の請求項1~9に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において発行された下記の引用文献5に記載された発明、引用文献1に記載された事項及び周知の事項(引用文献6参照)に基づいて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献5 特開2004-69500号公報(主たる引用文献)
引用文献1 特開昭51-73466号公報
引用文献6 特開平2-307018号公報
第4 各引用文献に記載された事項及び引用発明の認定等
1 引用文献5に記載された事項及び引用発明の認定
(1) 引用文献5に記載された事項
当審拒絶理由通知において引用した引用文献5(特開2004-69500号公報)には、以下の事項が記載されている。下線は合議体が付したもので、後記(2)において「引用発明」の認定に直接用いる記載箇所に付してある。
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、管内を通過する流体の流量を測定するための渦流量計に関するものである。【0002】【従来の技術】従来、一様な速さで流れる流体中の下流にはカルマン渦を発生させ、このカルマン渦の周波数を検出することによって流体の流速を測定することができる。この方法を利用して流体の流速又は流量を測定する装置は、流量に応じて比例信号を出力するもので、液晶、半導体洗浄装置、スーパーコンピュータ冷却装置、純水製造装置、粋瞬間湯沸器のフィードフォワード制御やバーナの発停などに使用されるほか、浴槽への積算流量、電気温水器の残湯量検出用センサ等各種流体流量の制御、監視などに広く用いられており、例えば、特開平10-142017号公報に開示されている。【0003】図6は、その一例を示すもので、この渦流量計F’は、本体21、渦発生体22、渦検出器23、弾性鞘体24、圧電素子25等で構成されている。本体21には、内部を貫通する断面円形の流路21aが形成され、流路21aを流体がX方向に流れる。また、外側壁の一部に平坦部21bが形成されている。この平坦部21bは、流路21aに連通する第1の孔21b1と第2の孔21b2とが所定間隔をおいて穿設され、第1の孔21b1が上流に位置する。」
「【図6】[図:0001414504000002.jpg]」
「【0004】渦発生体22は、図7に示すように、角柱、例えば台形状6角柱の外形を有し、軸部22aと第1の孔21b1に嵌合すると共に平坦部21bに係合する頭部22bとで構成され、第1の孔21b1から流路21aに軸部22aが挿入されている。」
「【図7】[図:0001414504000003.jpg]」
「【0005】渦検出器23は、絶縁性を有する弾性鞘体24と圧電素子25とで構成され、第2の孔21b2から流路21aに弾性鞘体24の受圧翼片24aが挿入されている。弾性鞘体24は、弾性合成樹脂で成形され、流路21aの上流側と下流側とに向かって張り出した受圧翼片24aと第2の孔21b2に嵌合するとともに、平坦部21bに嵌合する頭部24bとで構成されている。圧電素子25は、弾性鞘体24の圧電素子収容部24cに絶縁性を有する熱硬化性の弾性エポキシ樹脂で埋設され、検出信号はリード線25aによって外部に出力される。蓋体27は、平坦部21bにねじ止め等の手段によって取り付けられ、第1の孔21b1に対応させた第1のねじ孔27a1と、第2の孔21b2に対応させた第2のねじ孔27a2とが設けられている。【0006】第1の環体28Aは、第1のねじ孔27a1に螺合して、渦発生体22の頭部22bを第1のパッキン20Aを介して平坦部21bに密着させ、流体の漏洩が生じないようにしている。また、第2の環体28Bは、第2のねじ孔27a2に螺合して、弾性鞘体24の頭部24bを第2のパッキン20Bを介して平坦部21bに密着させ、流体の漏洩が生じないようにしている。【0007】上記構成を有する流量計F’の動作は、本体1の流路21aをX方向に流れる流体に、渦発生体22によってカルマン渦が発生し、このカルマン渦は渦検出器23に向かって移動し、弾性鞘体24の受圧翼片24aの両側を交互に通過するので、カルマン渦が通過する度に、圧電素子25に歪力による電荷が発生する。【0008】したがって、圧電素子25に発生する電荷を検出信号としてリード線25aで取り出し、例えば、波形整形回路によって渦周波数に対応した矩形波信号等に変換し、係数回路によって流量表示出力信号等に変換するか、あるいは流量制御装置等への制御信号とすることにより、流量の測定をすることができる。」
(2) 引用発明の認定
前記(1)において摘記した事項から、引用文献5には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、括弧内に参考として引用文献5の該当する段落番号を示した。
<引用発明>
「渦流量計F’であって、(【0003】)本体21、渦発生体22、渦検出器23、弾性鞘体24、圧電素子25等で構成されており、(【0003】)本体21には、内部を貫通する断面円形の流路21aが形成され、流路21aを流体がX方向に流れるものであり、(【0003】)本体21の外側壁の一部に平坦部21bが形成されており、この平坦部21bは、流路21aに連通する第1の孔21b1と第2の孔21b2とが所定間隔をおいて穿設され、第1の孔21b1が上流に位置するものであり、(【0003】)続きを表示(全11行)渦発生体22は、台形状6角柱の外形を有し、軸部22aと第1の孔21b1に嵌合すると共に平坦部21bに係合する頭部22bとで構成され、第1の孔21b1から流路21aに軸部22aが挿入されており、(【0004】)渦検出器23は、絶縁性を有する弾性鞘体24と圧電素子25とで構成され、第2の孔21b2から流路21aに弾性鞘体24の受圧翼片24aが挿入されており、(【0005】)弾性鞘体24は、弾性合成樹脂で成形され、流路21aの上流側と下流側とに向かって張り出した受圧翼片24aと第2の孔21b2に嵌合するとともに、平坦部21bに嵌合する頭部24bとで構成されており、(【0005】)圧電素子25は、弾性鞘体24の圧電素子収容部24cに絶縁性を有する熱硬化性の弾性エポキシ樹脂で埋設され、検出信号はリード線25aによって外部に出力されるものであり、(【0005】)本体1の流路21aをX方向に流れる流体に、渦発生体22によってカルマン渦が発生し、このカルマン渦は渦検出器23に向かって移動し、弾性鞘体24の受圧翼片24aの両側を交互に通過するので、カルマン渦が通過する度に、圧電素子25に歪力による電荷が発生するものであり、(【0007】)圧電素子25に発生する電荷を検出信号としてリード線25aで取り出し、例えば、波形整形回路によって渦周波数に対応した矩形波信号等に変換し、係数回路によって流量表示出力信号等に変換するか、あるいは流量制御装置等への制御信号とすることにより、流量の測定をすることができる、(【0008】)渦流量計F’。」
2 引用文献1に記載された事項と引用文献1技術事項A、Bの認定
(1) 引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由通知において引用した引用文献1(特開昭51-73466号公報)には、以下の事項が記載されている。下線は合議体が付したもので、後記(2)の「引用文献1技術事項A及び引用文献1技術事項Bの認定」において参照する箇所及び後記6の「判断」において参照する箇所に付してある。
ア 1頁左欄13行から2頁左上欄6行まで
「3 発明の詳細な説明本発明は、カルマン渦を利用した流速(流量)測定装置に関するものである。本発明の目的は、超低流領域も含めて、広い範囲にわたって高精度の流速測定ができるようにした、この種装置を実現することにある。また、本発明の他の目的は、被測定流体内の流速分布の変化による影響を受けない、この種装置を実現することにある。本願発明者らは、カルマン渦発生体の下流、上流あるいは上下流の管壁に突起物を設けた場合、これによってカルマン渦がどのような影響を受けるか観察したところ、次のような点が明らかとなった。(i) 渦発生体の下流側に管路の管壁から延びる突起物を設けた場合、生成される渦の周波数が著しく増加する。(ii) 突起物を設ける範囲は、渦発生体の中心線から下流側0.1D(Dは管路の内径)から5Dの範囲が渦周波数に影響を与え、特に0.2Dから0.6D付近が最も強く影響を与える。(iii) 突起物としては単に管路の幅を狭める形状のものだけでなく、管壁に沿った流れを乱す作用をなすものであればどのような形状でもよく、表面に凹凸を有するサンドペーパ等であってもよい。(iv) 突起物の管壁からの高さ(半径方向に計った高さ)によっても渦の強さが影響される。(v) 突起物の管壁からの高さは、突起物の形状によっても変わるが管路の内径Dに対して0.1D付近にしたとき渦の強さを最も効果的に制御でき、直線性が向上する。本発明者は、これらの明らかになった事柄をもとにしてなされたものである。」
イ 2頁左上欄7行から同頁右上欄11行まで及び第1図
「 第1図は本発明の一実施例を示す構成説明図で、(a)はその縦断面図、(b)は(a)図におけるb-b断面図、(c)は(b)図におけるc-c断面図である。図において、10は流れ方向とほぼ直角に挿入された渦発生体で、ここでは断面矩形状のものを用いてある。11は渦発生体10に設けた連通孔で、渦発生体10の両側面において開口している。21,22は突起物、30は内径Dの管路、40は渦発生体10の連通孔11内に配置した流体変位検出素子で、例えばサーミスタ、白金抵抗線等が用いられる。突起物21,22は、ここでは渦発生体10の下流側であって、渦発生体10の中心線lから0.5Dだけ離れた管壁の一部に設けられており、渦発生体10の側面と平行な側面をもつ半円形状の平板で構成されている。なお、これらの突起物21,22の管壁からの高さは0.1Dとしてある。このように構成すると、渦発生体10によって生成される渦は突起物を設けない場合に比較して著しく強力となり、渦周波数が増加するとともに流速分布の変化による影響を受けなくなる。渦発生体10によって生成される渦が強力にしかも安定になると、これに対応して連通孔11内の流体の変位も強力でかつ安定となり、流体変位検出素子40から安定でかつS/Nの良い被測定流体の流速に関連した信号を得ることができる。」
「第1図[図:0001414504000004.jpg]」
ウ 2頁右上欄12-20行及び第2図
「 第2図は、第1図に示す装置によるレイノルズ数Re(Re = hV/ν、V:被測定流体の流速、ν:動粘性係数、h:渦発生体の幅)とストロウハル数S(S = hf/V、f:単位時間に生成される渦の数)との関係を示した実験結果の一例である。実線で示す特性(イ)が第1図に示す装置であり、点線で示す特性(ロ)が第1図装置において、突起物21,22を取り除いた場合のもので、突起物を設けた効果が著しく表わされている。」
「第2図[図:0001414504000005.jpg]」
エ 2頁左下欄1行から同頁右下欄3行まで及び第3図
「 次に、渦発生体10の下流側に突起物を配置させた場合のカルマン渦列の状況について第3図を参照しながら説明してみよう。渦発生体10にあたった流れは渦発生体の前面によって左右2つの流れa,bに分かれ、エッジ付近から流れが剥離し以後管壁に沿って下流に流れようとする。エッジ付近から剥離した流れは、不連続面を形成し、これが渦発生体の後側で渦に発達し、下流側に渦列を作る。また、剥離した流れは、下流側の突起物によってさえぎられるので、後流の流れ幅が急速にせばめられることになる。この結果、突起物がない場合、点線a1,b1に示すように流れるはずであった流れは、実線a2,b2に示すような流れとなり、カルマン渦列の間隔mが狭くなる。力ルマン渦列の間隔mが狭くなると、渦と渦の距離Lも、m/Lが一定であるという渦列の性質から小さくなる。一方、渦の発生周波数fと流速Vとの関係は、V - v = f・L(v:渦が流れに逆らって進む速度)で表わされるから、V - vを一定とすると、渦と渦の距離Lの減少は、渦の周波数fを増加させ、これがストロウハル数Sの増加を招くことになる。このようにして、突起物を設けた場合には、渦周波数が増加し、S/Nがよく測定精度が向上する。」
「第3図[図:0001414504000006.jpg]」
オ 2頁右下欄4行から3頁左上欄11行まで及び第4-7図
「 第4図~第7図は本発明の他の実施例を示す構成説明図で、それぞれ(a)は縦断面図、(b)は(a)図におけるb-b断面図である。第4図は、突起物21,22を渦発生体10の下流側0.4D離れた管壁の一部に設けるとともに、三日月形状の平板で構成したものである。第5図は、突起物21,22を渦発生体10の下流側0.2D離れた管壁の一部に設けるとともに、馬蹄形状の平板で構成したものである。第6図は、渦発生体10を断面円形状で構成し、突起物21,22は渦発生体10の上流側と下流側とに配置させたものである。このように構成すると、両方向の流速測定に対して同じ効果をあけることができる。第7図は、渦発生体10を断面ほぼ三角形状で構成するとともに突起物として、管壁にサンドベーパを取り付けたものである。なお、上記した各実施例のうち、第5図~第7図に示すものは、渦を検出する手段について示してないが、この渦検出手段を渦発生体の表面に設けるようにしてもよいし、渦発生体の下流側に配置させるようにしてもよい。また渦検出手段としては、種々のものを用いることが可能である。また、突起物は、渦発生体10の後側の2個所に設けたものについて示したが、1個所であってもよい。以上に説明したように、本発明によれば、広い範囲にわたって高精度の流速測定が可能な装置が実現できる。」
「[図:0001414504000007.jpg][図:0001414504000008.jpg]」
(2) 引用文献1技術事項A及び引用文献1技術事項Bの認定
ア 引用文献1技術事項Aの認定
(ア) 引用文献1の第1図に関する記載を参照すると、次のaからcまでの記載がある。
a 「本発明は、カルマン渦を利用した流速(流量)測定装置に関するものである。」(1頁左欄13-14行)
b 「10は流れ方向とほぼ直角に挿入された渦発生体で、ここでは断面矩形状のものを用いてある。」(2頁左上欄10-12行)
c 「突起物21,22は、ここでは渦発生体10の下流側であって、渦発生体10の中心線lから0.5Dだけ離れた管壁の一部に設けられており、渦発生体10の側面と平行な側面をもつ半円形状の平板で構成されている。」(2頁左上欄17から同頁右上欄1行)
(イ) 前記(ア)に摘記した事項をまとめると、引用文献1には次の事項(以下「引用文献1技術事項A」という。)が記載されていると認められる。
<引用文献1技術事項A>
「カルマン渦を利用した流速(流量)測定装置において、流れ方向とほぼ直角に挿入された断面矩形状の渦発生体10を有し、渦発生体10の下流側であって、渦発生体10の中心線lから0.5Dだけ離れた管壁の一部に、渦発生体10の側面と平行な側面をもつ半円形状の平板で構成されている突起物21,22を設けること。」
イ 引用文献1技術事項Bの認定
(ア) 引用文献1には、次のa及びbの記載がある。
a 「第4図~第7図は本発明の他の実施例を示す構成説明図で、それぞれ(a)は縦断面図、(b)は(a)図におけるb-b断面図である。」(2頁右下欄4-6行)
b 「第6図は、渦発生体10を断面円形状で構成し、突起物21,22は渦発生体10の上流側と下流側とに配置させたものである。このように構成すると、両方向の流速測定に対して同じ効果をあけることができる。」(2頁右下欄13-17行)
(イ) 引用文献1の第1図と第6図においては、次に再掲するように、突起物21,22は、いずれの断面図においても同じ形状で記載されている。
[図:0001414504000009.jpg]
(ウ) そうすると、引用文献1の第6図の渦発生体10の上流側の突起物21’,22’と下流側の突起物21,22は、いずれも第1図の突起物21,22と同一の形状、すなわち引用文献1でいうところの「半円形状の平板」の形状であると理解される。
(エ) 以上の検討結果をまとめると、引用文献1には次の事項(以下「引用文献1技術事項B」という。)が記載されていると認められる。
<引用文献1技術事項B>
「カルマン渦を利用した流速(流量)測定装置において、流れ方向とほぼ直角に挿入された断面円形状の渦発生体10を有し、渦発生体10の上流側と下流側の管壁の一部に、それぞれ、いずれも渦発生体10の側面と平行な側面をもつ半円形状の平板で構成されている突起物21'、22'及び突起物21,22を設けること。」
3 引用文献6に記載された事項及び周知の技術事項Cの認定
当審拒絶理由通知書において引用した引用文献6(特開平2-307018号公報)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は合議体が付したものである。
(1) 引用文献6に記載された事項
ア 2頁右上欄2-17行及び第1-3図
「〔実施例〕以下、この発明の一実施例を図について説明する。第1図はこの発明による渦流量計の横断平面図、第2図は渦流量計を流体入口側より見た正面図、第3図は第1図のIII-III線断面図を示す。各図において、渦流量計は全体を符号1で示し、2は被測定流体の流れる導管である。3は導管1内に配置した渦発生柱で、上流側渦発生柱31と下流側渦発生柱32から構成されている。4は上記導管1の流体入口側の開口部に取付けたハニカム形状の整流器で、この整流器4は固定部材5bをリベット6で導管2の開口フランジ2aに支持してある。5aは上記整流器4の入口面側で上記渦発生柱3の中心軸線上に位置しかつ、これと平行に配置した乱流発生体であり、この乱流発生体5aは上記固定部材5bと一体的に成形されている。」
「第1図[図:0001414504000010.jpg]第2図[図:0001414504000011.jpg]第3図[図:0001414504000012.jpg]」
ウ 2頁右上欄18行から同頁右下欄5行まで及び第4図
「 次に動作について説明する。第1図において、流体がF1~F3で示す流れを有していると、主導管1内の渦発生柱3の直上流の流体はf1,f21,f22,f3に示す流れとなり、渦発生柱3の後流にカルマン渦vが発生する。ここで、乱流発生体5aがない場合は破線で示す流体f2が流体f1,f3と平行に生じることになるが、乱流発生体5aが存在すると流体F2は乱流発生体5aの直後より乱れが発生する。そして、流体f21,f22で囲まれる領域Eは乱流域である。渦発生柱3に衝突する流体に乱れがあるとカルマン渦が発生しやすいことは周知のことである。ここで、上記した乱流域Eの乱流状態を説明する。乱流発生体5aの後流の渦は流れに対して直角断面では渦柱状となる。また渦はいわゆるカルマン渦である。しかし、乱流発生体5aの直後の整流器4によって直角断面方向に流れが分断されるため、第4図(当審注:「第3図」とすべきところの誤記である。)に示すvf2に示す流速分布にて明らかなように渦柱はくずされる。したがって乱流域E内は流れに平行面および直角面のいずれかの方向にも乱れることになる。このため、乱流発生体5aの発生する乱流が渦発生柱3のカルマン渦発生のトリガ的要素となるのみで、渦発生柱3のカルマン渦発生周期に大きく拘わることがない。したがって、乱流発生体5aの幅寸法dが多少変化しても渦発生柱3によって決定されるカルマン渦発生周期を乱すことがないため、乱流発生体5aの寸法精度を高める必要はなくなる。」
(2) 周知の技術事項Cの認定
前記(1)に摘記した引用文献6の記載事項に例示されるように、次の技術事項は周知の技術事項(以下「周知の技術事項C」という。)であったと認められる。
<周知の技術事項C>
「渦流量計において、渦発生柱に衝突する流体に乱れがあるとカルマン渦が発生しやすいこと。」
第5 対比
1 対比分析
本願発明の発明特定事項の記載の順に沿って、本願発明と引用発明を対比する。
(1) 「流量計」の発明である点
「流体の流量を計測するための流量計」の発明である本願発明と「渦流量計F’」の発明である引用発明は、「流体の流量を計測するための流量計」の発明である点において一致する。
(2) 計測チューブについて
ア 引用発明においては、「本体21には、内部を貫通する断面円形の流路21aが形成され、流路21aを流体がX方向に流れるものであ[る]」ところ、「本体21」のうち「流体がX方向に流れる」「流路21a」を形成する部分は、本願発明における「流体が通って流れることができる計測チャンバ」に相当する。
イ そして、かかる「流路21a」が形成された「本体21」は、本願発明における「前記流体が通って流れることができる計測チャンバを形成する計測チューブ」に相当する。
ウ そうすると、本願発明と引用発明は次の点において一致する。
「前記流体が通って流れることができる計測チャンバを形成する計測チューブを有[する]」点。
(3) 渦発生体について
ア 引用発明における「渦発生体22」は、本願発明における「渦発生体」に相当する。
イ そして、引用発明においては、渦発生体22は、「流路21aに軸部22aが挿入されて[いる]」から、引用発明は、本願発明の「前記計測チャンバ内に配置された少なくとも1つの渦発生体を有[する]」という構成に相当する構成を備えるといえる。
ウ したがって、本願発明と引用発明は次の点において一致する。
「前記計測チャンバ内に配置された少なくとも1つの渦発生体を有[する]」点。
(4) 計測体について
ア 引用発明においては、「本体1の流路21aをX方向に流れる流体に、渦発生体22によってカルマン渦が発生し、このカルマン渦は渦検出器23に向かって移動し、弾性鞘体24の受圧翼片24aの両側を交互に通過するので、カルマン渦が通過する度に、圧電素子25に歪力による電荷が発生するもの」であるから、「流路21a」に挿入された「弾性鞘体24の受圧翼片24a」は、渦発生体22の下流に配置され、渦発生体22によるカルマン渦の発生により、偏向され得るものであることは、明らかである。
イ そうすると、引用発明における「弾性鞘体24の受圧翼片24a」は、本願発明の「計測体」に相当し、引用発明は、本願発明の「前記計測チャンバ内で前記渦発生体の下流に配置され、前記渦発生体における渦の形成によって偏向され得る計測体を有する」という構成に相当する構成を備えるといえる。
ウ したがって、本願発明と引用発明は次の点において一致する。
「前記計測チャンバ内で前記渦発生体の下流に配置され、前記渦発生体における渦の形成によって偏向され得る計測体を有する」点。
2 一致点及び相違点の認定
前記1の対比分析の検討結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の(1)の一致点において一致し、本願発明の構成から当該一致点を差し引いたものを備えるか否かという後記(2)の相違点において相違する。
(1) 一致点
「流体の流量を計測するための流量計であって、前記流体が通って流れることができる計測チャンバを形成する計測チューブを有し、前記計測チャンバ内に配置された少なくとも1つの渦発生体を有し、さらに、前記計測チャンバ内で前記渦発生体の下流に配置され、前記渦発生体における渦の形成によって偏向され得る計測体を有する流量計」である点。
(2) 相違点
本願発明においては、
「前記計測チャンバ内に突出する2つの突起が、前記計測チャンバを画定する内壁において前記渦発生体の上流に形成されていて、前記突起は、前記突起において形成された乱流が、前記突起から離れ、前記渦発生体において発生した形成カルマン渦列の渦を増幅させるように形成され、前記突起が、前記計測チャンバを通る垂直軸線と平行に、および前記渦発生体が延びる長手軸方向と平行に、延びる流縁を備える」
のに対して、
引用発明においては、このような構成を備えない点。
第6 判断
1 相違点についての検討
(1) 相違点に係る構成の想到容易性について
ア 引用文献1は、カルマン渦を利用した流速(流量)測定装置において、管壁の一部に突起物を設けることを開示するものであるところ、当該突起物の作用効果については、もっぱら、渦流量計において、カルマン渦発生体の下流の管壁に設けた突起物の作用効果を開示するものであり、上流側の管壁に設けた突起の作用効果の説明はしていない。
イ しかしながら、前記第4の2(1)の摘記事項アにおいて示したとおり、引用文献1には、「本願発明者らは、カルマン渦発生体の下流、上流あるいは上下流の管壁に突起物を設けた場合、これによってカルマン渦がどのような影響を受けるか観察した」(下線は合議体による。)との記載があるように、「カルマン渦発生体の上流の管壁に突起物を設けた場合」にカルマン渦がどのような影響を受けるかということも、当業者としては、大変気になり、興味が湧くものであるというべきである。
ウ しかも、引用文献1の1頁右下欄14-16行には「突起物としては単に管路の幅を狭める形状のものだけでなく、管壁に沿った流れを乱す作用をなすものであればどのような形状でもよく」と記載されており(前記摘記事項アを参照)、突起物の作用として、「流れを乱す作用」が認識されているところ、「渦発生柱に衝突する流体に乱れがあるとカルマン渦が発生しやすいこと」は、周知の技術事項である(前記第4の3(2)の「周知の技術事項C」参照)から、管壁に沿った流れを乱す作用をする突起物をカルマン渦発生体の上流の管壁に設けた場合において、発生するカルマン渦の強度が増すであろうことは、当業者が合理的な期待を持てるところであるといえる。
エ そして、カルマン渦を利用した流速(流量)測定装置において、低流領域も含めて、広い範囲にわたって高精度の流速測定ができるようにすることは、当業者には自明の課題であり(引用文献1の1頁左下欄14-18行参照)、引用文献1には「突起物の管壁からの高さ(半径方向に計った高さ)によっても渦の強さが影響される。」(1頁右下欄19-20行参照)と記載されているように、低流領域も含めて、広い範囲にわたって高精度の流速測定ができるように、渦の強さを強くするための手段を検討するという観点から実験等を行って探求・評価することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
オ そうすると、突起物の作用として、「流れを乱す作用」が認識され、渦発生柱に衝突する流体に乱れがあるとカルマン渦が発生しやすいことは周知の事項であり、カルマン渦を利用した流速(流量)測定装置において、低流領域も含めて、広い範囲にわたって高精度の流速測定ができるようにするために、渦の強さの影響について実験等を行って評価することは、当業者にとって、強い誘因があったと認められる。
カ(ア) なお、突起の設け方としては、引用文献1には、引用文献1技術事項A(渦発生体の下流側に設けること)及び引用文献1技術事項B(渦発生体の上流側と下流側に設けること)の開示があるところ、いずれにおいても、二つの突起物21、22及び二つの突起物21'、22'は、流れ方向とほぼ直角に挿入された渦発生体10の側面と平行な側面をもつ半円形状の平板で構成されている。
(イ) このように、流路を構成する壁の部分から管内に突出する二つの突起として「流路を通る垂直軸線と平行に、かつ、渦発生体が延びる長手軸方向と平行に、延びる流縁を備える突起」は、特別な形状ではなく、まずは試みる、代表的な形状であるといえる。
キ そうすると、引用発明において、(ア)渦発生体22の上流に、流路を構成する壁の部分から管内に突出する二つの突起であって、流路を通る垂直軸線と平行に、かつ、渦発生体が延びる長手軸方向と平行に、延びる流縁を備える突起を設けて、(イ)前記突起において形成された乱流が前記渦発生体22において発生した形成カルマン渦列の渦に対して、特に低流領域においてどのような影響があるかを調べることは、当業者には十分な誘因があったと認められ、その結果、前記突起において形成された乱流が、前記突起から離れ、前記渦発生体22において発生した形成カルマン渦列の渦を増幅させること、及び、前記渦発生体での周期的な渦の形成が、前記突起での事前渦の形成によって増幅されることを認識し、本願発明の相違点に係る構成を備えるようにすることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないというべきである。
ク したがって、引用発明において、前記相違点に係る構成を備えるようにすることは、引用発明、引用文献1に記載の技術事項及び周知の技術事項Cに基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
(2) 本願発明の想到容易性のまとめ
前記(1)において検討したとおり、引用発明において、前記相違点に係る構成を備えるようにすることは、引用発明、引用文献1に記載の技術事項及び周知の技術事項Cに基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本願発明の奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載の技術事項及び周知の技術事項Cに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 請求人の主張について
(1) 請求人の主張の概要
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請求人は意見書において、本願発明が進歩性を有することの根拠として、次の点を主張している。
ア 突起15と渦発生体12の距離について
本願発明においては、突起(障害物)15は、流れの方向に対して、渦発生体12の前方にかなりの距離を置いて配置されている(前記第2において摘記した図1を参照)。
イ 流縁18の延びる方向について
本願発明の特徴には、渦発生体によって渦が発生し、突起によって作用する乱流によって渦が増幅されることのほかにも、流縁18が垂直軸に平行に、したがって渦発生体の延長線に平行に延びているということもあるところ(前記第2において摘記した図2を参照)、引用文献1は、図4及び図5に見られる突起を特徴としており、突起21及び22は、突起21'及び22'と同一であり、三日月状の流縁を有する湾曲した三日月形状を特徴としているから、引用文献1の技術的教示は、本願発明の技術的教示に反している。
ウ 突起による渦周波数の影響について
前記ア及びイの構成の差異によって、本願発明においては、次のように突起を設置しても渦周波数が保たれるという違いが生まれる。
[図:0001414504000013.jpg]
一方、引用文献1の第2図をみると、一定範囲においてストロハル数が、約0.175から0.25へとほぼ50%増加しており、これは、渦周波数も同じファクターで増加することを示しており、明らかに変化しているストロハル数は、モデルの流れ-力学的類似性が保たれていないことを示している。
[図:0001414504000014.jpg]
すなわち、引用文献1と本願の突起は異なる振る舞いをしており、当業者がたとえ引用文献1と周知技術を参照し、突起による流れを乱す作用を認識し、カルマン渦を増幅するために渦発生体の上流に突起を設置したとしても、本願発明のように渦振動数に影響が出ないようにしつつ、渦を増幅する構成に至ることは当業者といえども容易ではない。
(2) 請求人の主張に対する当審の判断
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ア 突起15と渦発生体12の距離について
本願発明の「前記計測チャンバ(11)内に突出する2つの突起(15)」の配置については、「前記計測チャンバ(11)を画定する内壁(14)において前記渦発生体(12)の上流に形成されていて」と規定されているものの、「渦発生体(12)の上流」が具体的にどの箇所を指し示すのかについてまでは特定されていない。
また、本願発明においては、「前記突起(15)は、前記突起(15)において形成された乱流が、前記突起(15)から離れ、前記渦発生体(12)において発生した形成カルマン渦列の渦を増幅させるように形成され」とあるから、突起と渦発生体とは、突起において形成された乱流が、突起から離れて、渦発生体において発生した形成カルマン渦列の渦を増幅させることができる程度の距離だけ離れていることは特定されているものの、かかる特定により、突起が渦発生体の「前方にかなりの距離を置いて」配置されていることまでは読み取ることはできない。
そうすると、突起が、流れの方向に対して、渦発生体の前方にかなりの距離を置いて配置されているとの請求人の主張は、本願の請求項1の記載に基づかないものである。
仮に請求人の主張に沿って、本願発明の「突起(15)」が、流れの方向に対して、「渦発生体(12)」の前方にかなりの距離を置いて配置されているとして検討しても、かかる配置は、流量測定の安定化と形成カルマン渦列の渦増幅という要請を同時に満たすために当業者が最適な配置の設定を行った結果にすぎず、引用発明においてかかる配置とすることは、自明な設計事項にすぎない。
イ 流縁18の延びる方向について
前記第4の2(2)において検討したとおり、第1図及び第6図における突起21'及び22'及び突起21及び22は、いずれも流れ方向とほぼ直角に挿入された渦発生体10の側面と平行な側面をもつ(引用文献1でいうところの)半円形状の平板で構成されていると認められる。
したがって、引用文献1の技術的教示は本願発明の技術的教示に反している旨の請求人の主張は採用することができないものであり、前記1(2)の結論を左右するものではない。
ウ 突起による渦周波数の影響について
引用文献1の第2図は、第1図に示す装置によるレイノルズ数Reとストロウハル数Sとの関係を示した実験結果の一例であるところ、第1図に示す装置においては、突起21及び22は、渦発生体10の下流に配置されており、渦発生体10の上流に配置されたものではない。
半円形状の平板で構成された突起21及び22が、渦発生体10の上流に配置された場合には、突起の設置の有無によって渦周波数が変動しないようにすることは、当業者ならば当然配慮すべき事項であって、引用発明において、かかる配慮の下で、突起15と渦発生体12の距離や流縁18の延びる方向について検討することは、自明な設計事項にすぎない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-014745