特許拒絶査定不服審判
2022-011914
雨水排水装置
- 審判番号
- 2022-011914
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-144895
- 請求日
- 2022年08月02日
- 審決日
- 2024年04月25日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】積水化学工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 居島 一仁
- 審判官 土屋 真理子
- 分類
- P18 .537-WZ (E04D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2018-144895「雨水排水装置」拒絶査定不服審判事件〔令和2年2月6日出願公開、特開2020-20165〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年8月1日の出願であって、その手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和4年 3月30日付:拒絶理由通知
同年 5月16日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月14日付:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月21日 :原査定の謄本の送達)
同年 8月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和5年 9月14日付:拒絶理由通知
同年10月18日 :意見書、手続補正書の提出
第2 当審の拒絶理由通知の概要
当審において通知した拒絶の理由である、令和5年9月14日付けで通知した拒絶の理由の概略は、特許請求の範囲の請求項1~3の記載が下記の点で、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないという理由を含むものである。
記
(1)発明の課題について
本願の請求項1ないし3に係る発明の課題について検討する。
令和4年8月2日付け手続補正書により補正された明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」といい、また、「段落」とは発明の詳細な説明の段落をいう。)の段落【0007】~【0009】の記載を踏まえると、本願発明の課題は、
「大きな位置エネルギーを持つ雨水に対し、雨水配管の縮径部を利用して、排水中におけるエネルギー損失を大きくして安定的に効率よく雨水を排水する」(以下、「課題A」という。)とともに、
「エネルギー損失を大きくして排水していくと大きくなるおそれがある、縮径部において発生する騒音を低減する」(以下、「課題B」という。)こと、言い換えれば、課題Aの解決に伴い大きくなるおそれがある騒音を低減すること、
が可能な雨水排水装置を提供すること(を少なくとも含む)と認識される。
(2)課題の解決について
ア 本願発明1について
本願発明1が、課題Aと課題Bをともに解決できると当業者が認識できるか否か、以下検討する。
本願発明1は、
「雨水が流入する流入口と、
略鉛直方向に沿って配置され、前記流入口から流入した前記雨水を下流側へ排水する排水配管部と、
を備え、
前記排水配管部は、
断面が略円形であって、第1直径を有する第1配管部と、
前記第1配管部の下流側に接続され、断面が略円形であって、前記第1直径よりも小さい第2直径を有する第2配管部と、
前記第1配管部と前記第2配管部とを連結し、前記第1直径から前記第2直径まで外径を縮小する縮径部と、
を有しており、
前記縮径部における縮径率は、0.5以上であって、
前記縮径部の前記雨水の排水方向における長さは、90mmよりも大きい、
雨水排水装置。」
というもので、すなわち、縮径部における縮径率(以下「縮径率」という。)と、雨水の排水方向における長さ(以下「長さ」という。)の数値範囲を特定するものである。
これに対し、発明の詳細な説明においては、「本実施形態において特定した縮径部12の縮径率、長さの好ましい範囲について、以下の実施例においてその数値の根拠について説明する。」(段落【0062】)と記載されているが、その実施例(及び実施例に対する比較例)の記載(段落【0063】~【0112】及び図5、6)をみても、
「 【実施例】
【0063】
図5に、上記実施形態に係る雨水排水装置10において、・・・縮径部12において発生する排水音(騒音)の大きさ(dB)と振動の大きさとを測定した結果を示す。」、
「 【比較例】
【0085】
次に、本発明の騒音および振動の低減効果を立証するための比較例として、縮径部12の縮径率および縮径長さを変化させた場合の排水時における騒音の大きさ、振動の発生の有無について検証した結果を以下に示す。」
とあるように、騒音(および振動)についての説明にとどまるものであり、課題Aの解決については触れられておらず、このような記載から、本願発明1が、課題Aを解決できると、当業者が認識できるものではない。
さらに、課題Bについても、上記(1)で検討したように、課題Bは、課題Aの解決に伴い大きくなるおそれがある騒音を低減することであるから、課題Aを解決できているかどうかが認識できない以上、課題Bを解決できていることが認識できるものではない。
しかしながら、上記段落【0062】で触れられている、「本実施形態において特定した縮径部12の縮径率、長さの好ましい範囲」について、発明の詳細な説明の段落【0056】~【0061】の記載をみても、やはり本願発明1が、課題Aを解決できることを認識できるような記載はみられず、本願発明1が課題Aを解決できることを当業者が認識できるものではない。
ここで、令和4年5月16日提出の意見書の(3-2)における請求人の主張について検討すると、段落【0010】~【0012】は、本願発明1の構成についての記載であり、段落【0013】は、その記載を受けて、「これにより」すなわち本願発明1の構成により、「雨水の排水時に雨水の位置エネルギーが大きい場合でも、縮径によってエネルギー損失を大きくして効率よく排水するとともに、縮径部における縮径率と長さとを適切な範囲に設定することで、騒音の発生要因となる振動の発生を抑制することができる。
この結果、効率よく雨水を排水するとともに、騒音を低減することができる。」と述べるものである。
つまり、段落【0010】~【0013】は、本願発明1の構成と、これにより課題AとBを解決「できる」と述べるものに過ぎず、解決できることを当業者が認識できるような内容を記載するものではない。
さらに付け加えれば、請求人は、「“縮径部”があることでエネルギー損失を大きくしつつ安定的な排水を可能とする」と主張しているが、課題Aを解決するエネルギー損失は、単にエネルギー損失が生じるかどうかではなく、「大きな位置エネルギーを持つ雨水に対し、雨水配管の縮径部を利用して、排水中におけるエネルギー損失を大きくして安定的に効率よく雨水を排水する」に足るエネルギー損失である。これに対し、本願発明1の縮径率と長さの数値範囲は、いずれも、縮径の程度がより低くなる方向を限度なく含む、言い換えれば、エネルギー損失が小さくなる方向を限度なく含むものとなっており、そのような縮径部である本願発明1が、上記主張のように「“縮径部”があることで」課題Aを解決するようにエネルギー損失を大きくできるものではない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
以上より、本願発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
以上のことから、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
第3 本願発明
本願の請求項1~3に係る発明は、令和5年10月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
雨水が流入する流入口と、
略鉛直方向に沿って配置され、前記流入口から流入した前記雨水を下流側へ排水する排水配管部と、
を備え、
前記排水配管部は、
断面が略円形であって、第1直径を有する第1配管部と、
前記第1配管部の下流側に接続され、断面が略円形であって、前記第1直径よりも小さい第2直径を有する第2配管部と、
前記第1配管部と前記第2配管部とを連結し、前記第1直径から前記第2直径まで外径を縮小する縮径部と、
を有しており、
前記縮径部における縮径率は、0.5以上、1.0未満であって、
前記縮径部の前記雨水の排水方向における長さは、90mmよりも大きく、170mm以下である、
雨水排水装置。」
第4 本願の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明に関連する以下の記載がある(下線は当審で付したものである。以下同じ。)。
1 段落【0006】~【0014】
「 【0006】
しかしながら、上記従来の雨水排水装置では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示された雨水排水装置は、軒先に取り付けられた軒樋の底部に、家屋の外壁材に沿って配管される。しかし、近年、非住宅ビルでは、ビル外観の意匠性の問題から、雨水配管は屋内に設置される。
【0007】
例えば、サイフォン現象を利用した雨水排水装置では、サイフォン現象による引力と重力とが加算されて雨水が大きな位置エネルギーを持つ。このため、特に、雨水排水装置が高層建造物へ導入された場合には、雨水を排水する際に、下流側の配水管の接続部分が破壊されたり、排水量をコントロールすることが困難になったりするおそれがある。
【0008】
そこで、雨水配管の縮径部を利用して、排水中におけるエネルギー損失を大きくして安定的に排水していくことが行われるが、縮径部において発生する騒音が大きくなるおそれがある。
【0009】
本発明の課題は、縮径部を含む構成において、騒音を低減することが可能な雨水排水装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明に係る雨水排水装置は、雨水が流入する流入口と、略鉛直方向に沿って配置され流入口から流入した雨水を下流側へ排水する排水配管部と、を備えている。排水配管部は、断面が略円形であって第1直径を有する第1配管部と、第1配管部の下流側に接続され断面が略円形であって第1直径よりも小さい第2直径を有する第2配管部と、第1配管部と第2配管部とを連結し第1直径から第2直径まで外径を縮小する縮径部と、を有している。縮径部における縮径率は、0.5以上、1.0未満であって、縮径部の雨水の排水方向における長さは、90mmよりも大きく、170mm以下である。
【0011】
ここでは、例えば、マンションやビル等の建造物のスラブを貫通するように屋内に設けられた雨水排水装置において、第1配管部と、第1配管部よりも外径が小さい第2配管部と、第1配管部と第2配管部とを連結する縮径部と、を備えている。そして、縮径部は、縮径率が0.5以上であって、雨水の排水方向における長さが90mmよりも大きい。
【0012】
なお、縮径率とは、第1配管部の断面積に対する第2配管部の断面積の面積比であって、排水が移動する配管の断面積が縮小する程度を意味する。
【0013】
これにより、雨水の排水時に雨水の位置エネルギーが大きい場合でも、縮径によってエネルギー損失を大きくして効率よく排水するとともに、縮径部における縮径率と長さとを適切な範囲に設定することで、騒音の発生要因となる振動の発生を抑制することができる。
【0014】
この結果、効率よく雨水を排水するとともに、騒音を低減することができる。
第2の発明に係る雨水排水装置は、第1の発明に係る雨水排水装置であって、排水配管部によって排水される雨水にサイフォン現象を誘発させるサイフォン誘発部を、さらに備えている。」
2 段落【0059】~【0061】
「 【0059】
なお、縮径部12の縮径率は、0.5以上、1.0未満の範囲内であることがより好ましい。
【0060】
また、縮径部12の排水方向における長さは、80mm以上、170mm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0061】
縮径部12の排水方向における長さの上限を設定したのは、縮径部12の長さが170cmを超えると、縮径部12を設けたことによる効果がほとんど変わらなくなるためである。」
3 段落【0063】
「 【0063】
図5に、上記実施形態に係る雨水排水装置10において、第1配管部11の外径a、第2配管部13の外径b、第1配管部11と第2配管部13との外径断面積比(縮径率)、縮径部12の長さc、縮径部12のR径d、第1配管部11を流れる流量を変化させた際に、縮径部12において発生する排水音(騒音)の大きさ(dB)と振動の大きさとを測定した結果を示す。」
4 段落【0085】
「 【比較例1】
【0085】
比較例1では、図6に示すように、第1配管部11の外径a=100mm、第2配管部13の外径b=75mm、第1配管部11と第2配管部13との外径断面積比(縮径率)=0.61、縮径部12の長さc=30mm、R径dなし、流量20L/sとした。」
5 【図5】及び【図6】
「【図5】
[図:0001411698000001.jpg]
【図6】
[図:0001411698000002.jpg]
」
第5 検討・判断
1 サポート要件の判断基準について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の要件(以下「サポート要件」という。)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、上記判断基準に基づいて、本願発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるか、検討・判断する。
2 本願発明の課題について
令和5年10月18日付け手続補正書により、本願明細書の段落【0009】は、「本発明の課題は、効率よく雨水を排水するとともに、騒音を低減することが可能な雨水排水装置を提供することにある。」から「本発明の課題は、縮径部を含む構成において、騒音を低減することが可能な雨水排水装置を提供することにある。」と補正されたが、本願発明の課題は、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】~【0009】の記載を総合的にみて、
「雨水配管の縮径部を利用して、排水中におけるエネルギー損失を大きくして安定的に排水していくことが行われるが、縮径部において発生する騒音が大きくなるおそれがある」ことから、そのような従来の雨水排水装置の問題点に対応した、「縮径部を含む構成において、騒音を低減することが可能な雨水排水装置を提供すること」と認められる。
3 サポート要件適合性について
本願発明が、前記2に示した課題を解決することができるかについて検討する。
(1) 縮径部について
ア 「縮径部における縮径率」は、同段落【0012】から、「第1配管部の断面積に対する第2配管部の断面積の面積比であって、排水が移動する配管の断面積が縮小する程度を意味する」ものである。
そして、同段落【0013】に「雨水の排水時に雨水の位置エネルギーが大きい場合でも、縮径によってエネルギー損失を大きくして効率よく排水するとともに、縮径部における縮径率と長さとを適切な範囲に設定することで、騒音の発生要因となる振動の発生を抑制することができる。」、同段落【0008】に「雨水配管の縮径部を利用して、排水中におけるエネルギー損失を大きくして安定的に排水していくことが行われるが、縮径部において発生する騒音が大きくなるおそれがある」と記載され、同段落【0063】~【0111】において、実施例や比較例に示された「縮径率」と「縮径部12の縮径長さc」では、縮径率と流量を実施例と比較例で同じとし、「縮径部12の縮径長さc」を比較例において実施例より短くすることで「騒音および振動が増加」することが記載されている。
イ 以上のことから、「雨水排水装置」において、「縮径によってエネルギー損失を大きく」するものであり、「縮径部の長さ」を「適切な範囲に設定」することで、「エネルギー損失」により生じる「騒音の発生要因となる振動の発生」を抑制することができるものであるといえるから、論理的には、「雨水排水装置」が、「縮径部」における「縮径部における縮径率と長さとを適切な範囲に設定する」ことにより、「縮径部を含む構成において、騒音を低減することが可能な雨水排水装置を提供する」ものと考えられるため、以下、この点からサポート要件適合性について検討する。
(2) 「縮径率」と「縮径部の前記雨水の排水方向における長さ」に係る数値範囲について
前記(1)から「雨水排水装置」において、「縮径部」における「縮径部における縮径率と長さとを適切な範囲に設定する」ことにより、「縮径部を含む構成において、騒音を低減することが可能」となり、前記2に示した従来の雨水排水装置の問題点に対応した、「縮径部を含む構成において、騒音を低減することが可能な雨水排水装置を提供する」ことを解決することができると解することができる。
そのため、本願発明の「前記縮径部における縮径率は、0.5以上、1.0未満であって、
前記縮径部の前記雨水の排水方向における長さは、90mmよりも大きく、170mm以下である」ことにより、前記課題を解決し得るか否かについて、本願発明の明細書等を参酌して検討する。
ア まず、「縮径部における縮径率」が「0.61」及び「0.71」である場合について検討する。
本願発明の明細書の発明の詳細には「雨水排水装置」の実施例1~3及び5~8として、「縮径部」が「0.61」であって「縮径部の前記雨水の排水方向における長さ」が「135mm」、「170mm」であるものと、「縮径部」が「0.71」であって「縮径部の前記雨水の排水方向における長さ」が「145mm」であるものが記載されており、これらは、比較例と比較して排水騒音が低減されていることを一応把握することができる(なお、流量が20(L/s)と30(L/s)とでは、排水騒音(dB)の○×評価(特に実施例6~8と比較例1、2)が異なっているため、騒音値が「騒音」抑制効果に直接関係を示すか否かが不明な点にも疑問がある。)。
イ 次に、本願発明の「前記縮径部における縮径率は、0.5以上、1.0未満」のうち、「縮径率」が「0.61」及び「0.71」以外であって、「前記縮径部の前記雨水の排水方向における長さは、90mmよりも大きく、170mm以下である」ことによって、課題を解決することができるかについて検討する。
(ア) 前記(1)に示した「縮径によってエネルギー損失を大きく」する点からみて、「縮径部における縮径率」は「1.0未満」であって「1.0」に限りなく近い値である場合、「第1配管部」と「第2配管部」の直径がほぼ同一のものとなり、「縮径部」における「エネルギー損失」は極めて小さなものとなるから、「前記縮径部の前記雨水の排水方向における長さは、90mmよりも大きく、170mm以下である」範囲内で長さを変化させたとしても、実質的には「振動」により発生した「騒音」を抑制する機能が有意なものといえず、有意であることが自明ともいえない。
(イ) 前記(ア)で検討した「縮径率」が「1.0」に限りなく近い値以外の数値範囲のものについては、前記本願発明の明細書の発明の詳細の段落【0059】に「縮径部12の縮径率は、0.5以上、1.0未満の範囲内であることがより好ましい。」及び同段落【0060】に「また、縮径部12の排水方向における長さは、80mm以上、170mm以下の範囲内であることがより好ましい。」と記載されているが、その数値範囲のついての妥当性等について、特段の説明がされているものではない。
(ウ) また、実施例や比較例の結果からみて、「縮径率」が「0.5」に近い値である場合に「縮径部の前記雨水の排水方向における長さ」が、「90mm」近傍のものが「騒音」の抑制が有意なものとなるかまで読み取ることもできない。
ウ そうすると、本願明細書の記載からみて、「縮径部」が「0.61」近傍であって「縮径部の前記雨水の排水方向における長さ」が「135mm」、「170mm」近傍、及び、「縮径部」が「0.71」近傍であって「縮径部の前記雨水の排水方向における長さ」が「145mm」近傍において適切な範囲に設定することにより、騒音を抑制することができると仮にいえるとしても、少なくとも「縮径率」が「1.0」に限りなく近い「1.0未満」の範囲の場合、あるいは「0.5」に近い場合において、「前記縮径部の前記雨水の排水方向における長さは、90mmよりも大きく、170mm以下である」ことにより、課題を解決することができることについて、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、「前記縮径部における縮径率は、0.5以上、1.0未満であって、前記縮径部の前記雨水の排水方向における長さは、90mmよりも大きく、170mm以下である」との範囲において、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
(3) 請求人の主張について
ア 請求人は、令和5年10月18日に提出した意見書の(3)において、次の主張をしている。
「・・・これにより、審判官殿が拒絶理由通知における『本願発明1の縮径率と長さの数値範囲は、いずれも、縮径の程度がより低くなる方向を限度なく含む、言い換えれば、エネルギー損失が小さくなる方向を限度なく含むものとなっており、そのような縮径部である本願発明1が、上記主張のように「“縮径部”があることで」課題Aを解決するようにエネルギー損失を大きくできるものではない。』との主張には当たりません。
また、本願発明の解決課題は、上記補正により、『本発明の課題は、縮径部を含む構成において、騒音を低減することが可能な雨水排水装置を提供することにある。』と補正されました。
これにより、“効率よく雨水を排水する”という効果を“縮径部を設けた”点のみに依存していた補正前の請求項1と比較して、“課題A”に対応する“効率よく雨水を排水する”との記載を削除し、“縮径部を含む構成において”と置換したことで、課題Bのみが本願発明の解決課題として設定されました。
これにより、審判官殿による『“縮径部”があることでエネルギー損失を大きくしつつ安定的な排水を可能とする」と主張しているが、課題Aを解決するエネルギー損失は、単にエネルギー損失が生じるかどうかではなく、「大きな位置エネルギーを持つ雨水に対し、雨水配管の縮径部を利用して、排水中におけるエネルギー損失を大きくして安定的に効率よく雨水を排水する」に足るエネルギー損失である。これに対し、本願発明1の縮径率と長さの数値範囲は、いずれも、縮径の程度がより低くなる方向を限度なく含む、言い換えれば、エネルギー損失が小さくなる方向を限度なく含むものとなっており、そのような縮径部である本願発明1が、上記主張のように「“縮径部”があることで」課題Aを解決するようにエネルギー損失を大きくできるものではない。』との主張には当たりません。
よって、本願の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものであることは明らかであることから、サポート要件に関する拒絶理由は解消されたものと思料いたします。」
イ 請求人は、審査及び審判段階において、本願明細書の発明の詳細な説明の「課題」に関する段落【0009】を累次にわたり補正しているが、課題については前記2に示したものは、主張する課題Bを含むものであり、本願発明が課題を解決できるかについては、前記(1)及び(2)に示したとおりである。
そして、令和5年10月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲において、「縮径率」の上限を「1.0未満」と限定して、請求人が主張する課題Bを本願発明が解決することができる旨主張する点について、前記(2)に示した「縮径率」が「1.0」に限りなく近い「1.0未満」の範囲の場合において、「前記縮径部の前記雨水の排水方向における長さは、90mmよりも大きく、170mm以下である」ことにより、課題を解決することができることに関して、特段の主張を行うものでない。
また、拒絶査定の理由2において、令和4年5月16日に提出された意見書での主張について、
「(3)また、出願人は意見書の「(3-2)サポート要件違反について」において、「なお、審査官殿は、理由2の前段において「縮径部が、排水中におけるエネルギー損失を大きくして安定的に排水するためのものとされるところ、実施例1ないし8に対して、第1配管の断面積と第2配管の断面積の差が小さいもの、すなわち、縮径率が0.72より大きく1より小さいものにおいて、安定的な排水が可能であることを推認するに足る根拠が本願の発明の詳細な説明には示されていない。」と主張されています。これについては、出願当初明細書の段落0013に“縮径によってエネルギー損失を大きくして安定的に排水する”と記載されているように、本願発明は“縮径部”があることでエネルギー損失を大きくしつつ安定的な排水を可能とするものです。この記載は、請求項1の手段の欄(段落0013)に記載されたものですが、本願発明の課題では“安定的”ではなく“効率よく”排水する、と記載されているため、段落0013の記載を、課題の記載に合わせて“安定的に”を”効率よく”に補正いたしました。」とも主張している。
(4)しかしながら、縮径部があっても、その縮径率が0.72より大きく1より小さいものにおいて安定的または効率的な排水が可能であることを推認するに足る根拠は依然として示されないままなので、上記(3)の主張を受け入れることができない。」と示しており、また、令和5年9月14日付けの拒絶理由通知において「さらに、課題Bについても、上記(1)で検討したように、課題Bは、課題Aの解決に伴い大きくなるおそれがある騒音を低減することであるから、課題Aを解決できているかどうかが認識できない以上、課題Bを解決できていることが認識できるものではない。」と指摘したが、これらに対応して、「縮径率が0.72より大きく1より小さいもの」において「騒音を低減」することについての特段の主張を行っていない。
以上のことから、当該主張は、前記(2)の判断を左右するものとはいえず、採用できない。
(4) まとめ
前記(1)~(3)で検討したとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の請求項1の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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