特許拒絶査定不服審判
2022-011468
レーザーマーキング方法
- 審判番号
- 2022-011468
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-250367
- 請求日
- 2022年07月25日
- 審決日
- 2023年11月13日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ポリプラスチックス株式会社
- 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 河原 正
- 審判官 関根 洋之
- 分類
- P18 .121-WZ (B41M) / P18 .575-WZ (B41M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-250367「レーザーマーキング方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 7月18日出願公開、特開2019-115990〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特願2017-250367号(以下「本件出願」という。)は、平成29年12月27日に出願された特許出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 3年 4月 2日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 6月 8日提出:意見書
令和 3年 6月 8日提出:手続補正書
令和 3年11月17日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和 4年 1月13日提出:意見書
令和 4年 1月13日提出:手続補正書
令和 4年 5月 2日付け:(令和4年1月13日提出の手続補正書による手続補正についての)補正の却下の決定
令和 4年 5月 2日付け:拒絶査定
令和 4年 7月25日提出:審判請求書
令和 4年 7月25日提出:手続補正書
令和 5年 3月 2日付け:拒絶理由通知書
令和 5年 4月27日提出:意見書
令和 5年 4月27日提出:手続補正書
令和 5年 6月30日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和 5年 9月 1日提出:意見書
令和 5年 9月 1日提出:手続補正書
第2 令和5年9月1日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年9月1日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前である、令和5年4月27日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 波長1064nmのレーザー光に対する肉厚1mmの成形品における吸光度が0.6未満の樹脂からなる成形品の表面に油性マーカーを用いてカーボンブラックを塗布し、レーザー光を照射することでカーボンブラックを成形品表面に固定することを含む、被マーキング部材の製造方法であって、樹脂がポリアセタールである、製造方法。」
(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「 波長1064nmのレーザー光に対する肉厚1mmの成形品における吸光度が0.6未満の樹脂からなる成形品の表面に油性マーカーを用いてカーボンブラックを塗布し、800~1200nmの赤外レーザー光を出力11.7~30Wで照射することでカーボンブラックを成形品表面に固定することを含む、被マーキング部材の製造方法であって、樹脂がポリアセタールであり、レーザー光の照射エネルギーが0.5~30J/mm2である、製造方法。」
(3) 本件補正について
ア 本件補正は、補正前の請求項1において、(A)「レーザー光」について、「800~1200nmの赤外」「レーザー光」に限定し、(B)「レーザー光を照射する」について、「レーザー光を」「出力11.7~30Wで」「照射する」ものに限定し、(C)「レーザー光の照射エネルギーが0.5~30J/mm2である」ものに限定する、補正事項を含むものである。
ここで、補正事項(A)は、本件出願の出願当初の明細書の【0023】の「800~1200nmの赤外レーザー光を好適に用いることができる。」との記載、補正事項(B)は、同【0023】の「レーザー光の出力は、・・・3~30Wであることがさらに好ましい。」との記載、及び、【0035】の「マーキング部での出力:11.7W(13Wに対し90%設定)」との記載、補正事項(C)は、同【0023】の「照射エネルギー量は、成形品の表面付近のみを発熱させるような範囲として、例えば・・・0.5~30J/mm2に制御することが好ましい。」との記載にそれぞれ基づくものである。
さらに、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明の、産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0005】)。
イ してみると、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。
ウ そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。
2 独立特許要件(進歩性)についての判断
(1) 引用文献1の記載
令和5年6月30日付け拒絶理由通知書(最後)において引用された特開平2-235686号公報(以下「引用文献1」という。)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 特許請求の範囲
「2. 特許請求の範囲
1.(a)マーキングされるべき物体を、少なくとも1種類の着色成分を含む可溶性ラッカーフイルムでコートし、
(b)前記フィルムが乾燥した後に、塗布された物体に所望のマーキング形状に応じて該物体の表面にレーザービームを向け、そしてその直後に前記のフィルムとそれに直接的に隣接する物体表面とが照射領域において軟化して着色成分がプラスチック物体の表面に浸透するように連続的に励起したレーザーを照射し、そして
(c)残りの非照射残留フィルムを溶剤で溶解して前記プラスチック物体の照射領域に目視できる色対比マーキングを残存させる
ことを含む所望の形状のプラスチック物体のレーザー着色マーキング方法。
・・・略・・・
3. 前記プラスチック物体の材料が、ポリオレフィン・・・略・・・ポリアセタール・・・略・・・からなる群より選ばれる、請求項1記載の方法。
4. 前記着色成分が可視領域で吸収する請求項1記載の方法。
5. 前記着色成分が無機または有機顔料もしくは重合体可溶性染料である請求項1記載の方法。
6. 前記無機顔料が、白色顔料・・・略・・・カーボンブラックまたはグラファイトである請求項5記載の方法。」
イ 2頁左下欄5~8行
「3.発明の詳細な説明
本発明は、任意の形状のプラスチック物体にレーザー着色マーキングをする方法ならびにこの方法でマーキングされた物体に関する。」
ウ 4頁左下欄下から7行~右下欄2行
「 本発明方法に特に適しているプラスチック材料はポリオレフィン、ポリビニルアセタールのようなポリビニルエステル、・・・略・・・ポリアセタール、フェノール系樹脂、アミノプラストまたはエポキン樹脂である。」
エ 4頁右下欄下から9行~5頁左上欄15行
「本発明の方法用の着色成分として適当なものは、無機および有機顔料、ならびに重合体可溶性染料であって、特に可視領域において吸収されるものが適している。
無機顔料を例示すれば、二酸化チタン(アナターゼ、ルチル)・・・略・・・ケイ酸ジルコニウム、およびカーボンブラックまたはグラファイトが挙げられる。」
オ 6頁左上欄12~15行
「ラッカーフィルムも天然のものでも合成のものでもよく、いずれの場合にも、フィルム形成剤またはバインダーとして溶解された形の材料から調製することができる。」
カ 6頁右下欄下から4行~7頁左上欄16行
「ラッカーフィルムはプラスチック物体に既知の方法、例えば凸版印刷、凹版印刷、平版印刷またはスクリーン印刷法により印刷インキを付与する方法で付与される。すなわち、たとえばフィルム形成材料および着色成分を、さらに必要によりフィルム添加剤とともに、例えば共通有機溶剤(joint organic solvent)または溶剤混合物中に微分散するか溶解させる。この手順としては、個々の成分または数種の成分を一緒にして分散させるか溶解させ、そして最後に全成分を組合わせる。ついで、均質になった着色フィルム材料を前記した印刷法のうちの一つでマークされるべき物体に付与し、乾燥させて得られたフィルムは通常は膜厚が5ないし50ミクロメートルであって、このフィルムに対して本発明方法によりマーキングを行なう。
このフィルムは、プラスチック物体に例えばドクター・コーティング、回転塗布、浸漬、噴霧またははけ塗りで付与することができる。」
キ 7頁右上欄1行~8頁左上欄16行
「連続レーザーのような高エネルギー源をマーキング用に使用する。この操作は、マークされるべき材料の表面に、付与されるべき図形記号の形態に応じてエネルギー源を印加し、必要があれば照射領域にコントラスト・マーキングを惹起するように該エネルギー源の焦点を合せることを含む。
・・・略・・・ レーザー源としては、例えば、周波数逓倍器を有するCW Nd:YAGレーザーまたはCWイオンレーザー(Ar,Kr)を基礎とする連続励起もしくは連続波レーザー、あるいは可視光線を直接または周波数二倍器により放射する高容量パルス半導体レーザーおよびCO2レーザーのようなガスレーザーが挙げられる。
1cm2当り0.1キロワット乃至1メガワットの強さのものを使用するのが有利である。
・・・略・・・
次の表は、本発明を実施するのに適する多数の市販レーザーを掲げたものである。
[図:0001406244000001.jpg]
本発明方法においては、マーキングは、例えば連続CO2レーザーにより 約4ワットの強さで行なわれる。
レーザーはそのパラメーター、例えばパルス内容、パルス持続時間を容易に調節することができるものであれば、マークされるべき物体の要件に最も良く適応することができる。
照射のために選択される最良の波長は、フィルムやマークされるべき物体または着色成分が、約50ミクロンの厚さの層にレーザー照射の半分以上を吸収するような波長である。軟化とは、プラスチック材料が軟らかくなる状態ならびにその材料が溶融する状態を意味するものと了解されるべきである。
本発明を実施するためのレーザーマーキング法には相異なる3種類の方法が適している。すなわちマスク法、線状マーキング法およびドットマトリックス法である。後者の二つの方法(動的焦点法)においては、任意の例えばコンビュータープログラムによるディジット、文字および特殊記号で物体がマークされうるようにレーザー偏向システムと組合わせるのが好ましい。
レーザーシステムの選択は、その容量について採用するマーキング法に応じて行なわれる。マスク露光の場合には高容量が好ましい。動的焦点を必要とするマーキングを行なう場合には、中程度ないし低容量が好ましい。ビームの偏向は、ガルボ鏡(galvo-mirrors)または多角スキャナー(polygon-scanners)により、例えば音波光学的(acousto-optically)、ホログラフィー的に行なうことができる。動的焦点は、マークを電子工学的につくるので極めて融通のきくマーキングを行なえる。」
ク 8頁左下欄7~12行
「本発明方法により、成形品、厚板、シートおよびフィルムのような広範囲のプラスチック物体をマークすることもできる。このような物体を例示すれば、リボン、板、管およびプロフィール、鍵およびプラスチック被覆電子部品である。」
ケ 9頁左上欄下から7行~最下行
「それぞれの空気乾燥着色ラッカーを厚さ2mmの熱可塑性プラスチック板[クラスチン・・・略・・・S600、チバガイギー製ポリエステル]に、アプリケーターで未乾燥フィルムの厚さ12ミクロメーターに塗布し、50℃で1時間乾燥する。」
コ 10頁左下欄下から6行~2行
「次に、前記の実施例IないしXIIIのプラスチック材料で作製した長方形の平板に、アプリケーターで前記のラッカーを未乾燥フィルムの厚さが100ミクロメートルになるように塗布する。」
(2) 引用発明
引用文献1の上記(1)アの請求項1には、次の「所望の形状のプラスチック物体のレーザー着色マーキング方法」に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 (a)マーキングされるべき物体を、少なくとも1種類の着色成分を含む可溶性ラッカーフィルムでコートし、
(b)前記フィルムが乾燥した後に、塗布された物体に所望のマーキング形状に応じて該物体の表面にレーザービームを向け、そしてその直後に前記のフィルムとそれに直接的に隣接する物体表面とが照射領域において軟化して着色成分がプラスチック物体の表面に浸透するように連続的に励起したレーザーを照射し、そして
(c)残りの非照射残留フィルムを溶剤で溶解して前記プラスチック物体の照射領域に目視できる色対比マーキングを残存させる、ことを含む、所望の形状のプラスチック物体のレーザー着色マーキング方法。」
(3) 対比
本件補正後発明と、引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「マーキングされるべき物体」は、「プラスチック物体」である。
そうすると、引用発明の「マーキングされるべき物体」と、本件補正後発明の「成形品」は、「樹脂からなる」物品である点で共通している。
イ 引用発明において、工程(b)の記載を踏まえると、工程(a)は、「マーキングされるべき物体」の表面に、「少なくとも1種類の着色成分を含む可溶性ラッカーフィルム」を「塗布」しているといえる。
引用発明の「少なくとも1種類の着色成分」と、本件補正後発明の「カーボンブラック」とは、着色剤である点で共通する。
そうすると、引用発明と、本件補正後発明は、「樹脂からなる」物品「の表面」に「着色剤」「を塗布し」ている点で共通する。
ウ 引用発明は、「塗布された物体に所望のマーキング形状に応じて該物体の表面にレーザービームを向け」、「フィルムとそれに直接的に隣接する物体表面とが照射領域において軟化して着色成分がプラスチック物体の表面に浸透するように」「レーザーを照射し」、「前記プラスチック物体の照射領域に目視できる色対比マーキングを残存させる」ものである。
引用発明の「レーザービーム」は、本件補正後発明の「レーザー光」に相当する。
また、引用発明において、「レーザーを照射し」、「フィルムとそれに直接的に隣接する物体表面とが照射領域において軟化して着色成分がプラスチック物体の表面に浸透」させ、「前記プラスチック物体の照射領域に目視できる色対比マーキングを残存させる」ことは、「レーザービーム」を「照射」することで「着色成分」を「マーキングされるべき」物品の表面に固定しているということができる、
そうすると、引用発明と、本件補正後発明は、「レーザー光を照射することで」「着色剤」を物品「表面に固定することを含む」点で共通する。
エ 上記ア~ウより、引用発明の「前記プラスチック物体の照射領域に目視できる色対比マーキングを残存させ」た「プラスチック物体」は、本件補正後発明の「被マーキング部材」に相当し、引用発明と、本件補正後発明は、「被マーキング部材の製造方法」である点で共通する。
オ 以上の対比結果を踏まえると、本件補正後発明と引用発明は、「樹脂からなる物品の表面に着色剤を塗布し、レーザー光を照射することで着色剤を物品表面に固定することを含む、被マーキング部材の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1-1)
本件補正後発明においては、「物品」が、「波長1064nmのレーザー光に対する肉厚1mmの成形品における吸光度が0.6未満の樹脂からなる成形品」であり、「樹脂がポリアセタール」であるのに対して、引用発明においては、そのような特定がなされていない点。
(相違点1-2)
本件補正後発明においては、「着色剤」が「カーボンブラック」であり、「着色剤」の「塗布」が、「油性マーカーを用い」たものであるのに対して、引用発明においては、「着色剤」は特定されておらず、また、「着色剤」の「塗布」が、「少なくとも1種類の着色成分を含む可溶性ラッカーフィルム」で「コート」するものである点。
(相違点1-3)
本件補正後発明においては、「レーザー光」が「800~1200nmの赤外レーザー光」であり、「レーザー光」を「出力11.7~30W」で照射し、「レーザー光の照射エネルギーが0.5~30J/mm2である」のに対して、引用発明は、「レーザービーム」(「レーザー光」)が、「800~1200nmの赤外レーザー光」と特定されておらず、その「出力」及び「照射エネルギー」も、それぞれ「11.7~30W」及び「0.5~30J/mm2」と特定されていない点。
(4) 判断
ア 相違点1-1について
引用文献1の8頁左下欄7~12行には、引用発明によると、成形品、厚板、シート及びフィルムのような広範囲のプラスチック物体をマークすることができることが記載され、4頁左下欄最下行~右下欄1行には、引用発明に特に適しているプラスチック材料として、ポリアセタールが例示されている。
してみると、引用発明において、マーキングされるべきプラスチック物品を成形品とし、その材料をポリアセタールとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。そして、ポリアセタールの透明性(例えば、特開平5-92657号公報の【請求項4】、【0004】、【0007】等の記載から理解されるように、ポリアセタールは、波長1.06μmのNd:YAGレーザを殆ど吸収しない。)を考慮すれば、このように構成してなる引用発明のプラスチック物体(成形品)は、波長1064nmのレーザー光に対する肉厚1mmの成形品における吸光度が0.6未満(1mmで透過率25%程度以上)の樹脂からなる成形品との要件を満たすといえる。
イ 相違点1-2について
(ア) 引用発明においては、「マーキングされるべき物体」の表面に、「少なくとも1種類の着色成分を含む可溶性ラッカーフィルム」で「コート」、「塗布」(上記(3)イ参照)されている。
(イ) ここで、引用文献1の請求項5、6には、引用発明の「着色成分」として、「カーボンブラック」が例示されている(引用文献1の4頁右下欄下から5行~5頁左上欄15行にも、着色成分として、「カーボンブラック」が例示されている。)。
また、引用文献1の6頁左上欄12~15行には、ラッカーフィルムを、フィルム形成剤又はバインダーとして溶解された形の樹脂材料から調製すること、引用文献1の6頁右下欄下から4行~7頁左上欄5行目には、フィルム形成材料及び着色成分を、共通有機溶剤又は溶剤混合物中に微分散するか溶解させることが記載されているところ、上記のような有機溶剤を使用する塗料を油性塗料ということは技術常識である。
そうすると、引用文献1には、着色成分としてカーボンブラック、バインダーを含む油性のラッカーが示されている。
(ウ) 引用文献1の7頁左上欄10~16行には、乾燥させて得られたフィルムは通常膜厚が5~50μmであること、フィルムはプラスチック物体に、例えば、ドクター・コーティング、回転塗布、浸漬、噴霧又ははけ塗りで付与することができることが記載されている。実施例においても、プラスチック板に、アプリケータで未乾燥フィルムを塗布し、乾燥することにより、乾燥着色ラッカーフィルムとすること(9頁左上欄下から7行~最下行、10頁左下欄下から6行~2行等)が記載されている。
上記(イ)で述べたとおり、引用文献1には、着色成分としてカーボンブラック、バインダーを含む油性のラッカーが示されるところ、着色成分、バインダーを含む油性の塗料を塗布する方法として、マーカー(マーキングペン)を用いることは、本件出願時周知の技術である(例えば、国際公開第2005/021244号の14頁3~13行、28頁20行~29頁11行、特開2011-218384号公報の【0018】~【0020】、特開2013-232604号公報の【0021】~【0022】、特開2013-142052号公報の【0025】、【0042】、特開平3-42274号公報の7頁左下欄下から1行~右下欄3行、特開2001-116048号公報の【0009】~【0010】、【0014】、特開2010-147235号公報の【0065】等を参照。)。
そうしてみると、引用発明において、ラッカーが、顔料(着色剤)としてのカーボンブラック、有機(油性)溶剤を含み、カーボンブラックを含むラッカーフィルム(層)のコート、塗布を、当該ラッカーを内蔵した油性マーカーを用いて行う構成として、相違点1-2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 相違点1-3について
(ア) 引用文献1(上記(1)キの記載(特に、下線部参照)及び引用発明に適した多数の市販レーザーを例示する表(特に、「主波長」[nm]欄の「約800」、「約905」、「1064」等)参照。)の記載からみて、引用文献1には、引用発明の「レーザー着色マーキング方法」において使用されるレーザー源及びレーザーマーキング条件に関し、波長約800nm、約905nm、1064nmの赤外レーザーをマーキングに用いること、lcm2当り0.1キロワット乃至1メガワット(1mm2当たりに換算すると1W乃至10KW)の強さのものを使用すること、レーザー光は、連続光としてもよいし、パルス光としてもよいこと、パルス持続時間(パルス幅)等のパルス内容を調整してもよいこと、レーザーの集光点(焦点)を走査してマーキングを行ってもマスク法を用いてマーキングを行ってもよいことが示されている。
(イ) また、レーザーマーキングの技術分野に属する当業者にとって、マーキング条件に係るパラメータについて、(i)レーザーパワーは、低いとマーキングを行うことができず、高いほどマーキングが濃いものとなるが、高すぎるとワーク表面に損傷を生じてしまうこと、(ii)パルス周波数は、低いほどパルスエネルギーが高くなり、低いとパルス間に間隙が発生しレーザーの平均出力が落ちること、(iii)スキャンスピードは、速いほどマーキング時間が短くなるが、速すぎるとマーキングを行うことができないこと、(iv)(焦点位置を調整する)集光スポット(可変)は、デフォーカス(大きく)すると表面のダメージの少ないマーキングを行うことができ、デフォーカス(大きく)しすぎるとエネルギー密度が小さくなりマーキングを行うことができなくなることは、当業者の技術常識である(例えば、下記参考文献1の4頁「印字条件にかかわる主なパラメータ」を参照。)。
(ウ) そうすると、上記(ア)の引用文献1の上記記載や、上記(イ)で示した技術常識に基づき、引用発明において、レーザー光を、800~1200nmの赤外レーザー光(例えば、1064nmの赤外レーザー光)とすること、また、レーザーマーキング条件として、マーキングを行うために必要な着色剤によるレーザー光の吸収、加熱、軟化、浸透条件(着色成分のレーザー光の吸収率、着色成分の含有量、ラッカーフィルムの厚み、ラッカーフィルム及びプラスチック物体の材質等に依存)を前提に、必要な解像度(集光スポット)、ラッカーフィルム及びプラスチック物体へのダメージ(照射エネルギー密度、パワー)、走査法(スキャンスピード)、マスク法どちらによりマーキングを行うか、連続光(CW)とするかパルス光(パルス周波数)とするか、などを複合的に考慮して、レーザー光の出力を11.7~30Wの範囲、レーザー光の照射エネルギーを0.5~30J/mm2の範囲とすることは、引用発明のレーザーマーキング方法の具体化に際し当業者が適宜になし得る設計的事項である。
例えば、下記参考文献2の第3葉(第1頁)の「レーザ仕様」、第88~89葉(付録の付2~付3頁)の「基本仕様」から理解される、市販のMD-V9900(A)/991C(A)の波長(1064nm)、最大出力300kW、CW出力(13W(発振器出力:15W typical))、Qスイッチ周波数(CW(連続発振)、1~400kHz)、印字分解能(2μm)、スキャンスピード(最大12000mm/s)、印字サイズ(文字高さ/幅)(0.1~120mm)などの仕様に基づけば、当業者は、レーザー光の出力を11.7~30Wの範囲、レーザー光の照射エネルギーを0.5~30J/mm2の範囲に設定することができる。具体的には、マーキング部に照射される連続波(CW)レーザー光の出力を12W程度とし、スポット径0.1mm程度、スキャンスピード100mm/s程度に設定すると、照射エネルギー(J/mm2)=出力(W)/{スポット径(mm)×スキャンスピード(mm/s)}より、照射エネルギー1.2J/mm2程度となり、スポット径0.05mm程度、スキャンスピード10mm/s程度に設定すると、照射エネルギー24J/mm2程度となる。
相違点1-1及び相違点1-2を相違点1-3とまとめて検討しても同じである。
参考文献1:「KEYENCE レーザーの教科書 ソフトウェア編 レーザー操作の歴史|使いやすいソフトとは?|機能の活用法」,全12葉(特に、第4葉(第4頁)),[online],2015年,株式会社キーエンス,[令和5年10月2日検索],インターネット<URL:https://www.keyence.co.jp/downloads/?mode=tg&q=%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%95%99%E7%A7%91%E6%9B%B8&o=0>(前記アドレスよりダウンロードにより入手)
参考文献2:「KEYENCE 3-Axis YVO4 Laser Marker MD-V9900 Series User’s Manual」,全96葉(特に、第3葉(第1頁)、第88~89葉(付録の付2~付3頁)),[online],2013年,株式会社キーエンス,[令和5年10月2日検索],インターネット<URL:https://www.keyence.co.jp/products/marker/laser-marker/md-v9900a/models/md-v9900/downloads/?mode=ma&ad_local=CDj>(前記アドレスよりダウンロードにより入手)
エ 令和5年9月1日提出の意見書における請求人の主張について
(ア) 同意見書の「2.拒絶理由に対する意見」において、請求人は、「引用文献1に示されているのは、波長が488nm又は10600nmのレーザー光を、0.5W、3~4W、又は1cm2当たり0.1キロWもしくは1メガWの強さで照射することのみです。」、「(なお、「0.1キロワット~1メガワット」との記載は非常に広い範囲であることから、その上限値と下限値である「1cm2当たり0.1キロW」と「1cm2当たり1メガW」の2点が開示されているに過ぎないと思料します。)」、「それに対して、補正後の本発明は、「800~1200nmの赤外レーザー光を出力11.7~30Wで照射すること」、「レーザー光の照射エネルギーが0.5~30J/mm2である」を含むものであり、実施例においては11.7Wで実施したことが記載されております。」、「つまり、本発明におけるレーザー光照射工程は、引用文献1で実施されている工程よりも数倍高い出力で行うものです。」、「したがいまして、本発明は、引用文献1から容易に想到するものではなく、ムラのない良好なマーキング状態を有する被マーキング部材が得られるという効果を奏するものです。」、「以上より、本発明は、引用文献1に対して進歩性を有すると思料します。
(イ) しかしながら、相違点1-3については上記ウで述べたとおりである。また、ムラのない良好なマーキング状態を有する被マーキング部材が得られることは、本件出願時、本件補正後発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができたものであり、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものではない。
してみると、請求人の上記主張を採用することはできない。
(5) まとめ
本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明及び本件出願前に周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり、決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。
2 当審の拒絶理由
当審で令和5年6月30日付けで通知した拒絶の理由は概略以下のとおりである。
理由1(進歩性)
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(引用文献一覧)
引用文献1:特開平2-235686号公報
(当合議体注:国際公開第2005/021244号、特開2011-218384号公報、特開2013-232604号公報、特開2013-142052号公報、特開平3-42274号公報、特開2001-116048号公報及び特開2010-147235号公報を、本件出願前に周知の技術を示す文献として例示。)
3 理由1(特許法第29条第2項(進歩性))について
(1) 引用文献1及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。
(2) 対比及び判断
本願発明は、前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から、同1(3)で述べた限定事項を除いたものである。また、本願発明の構成を全て具備し、これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は、前記「第2」[理由]2(3)~(5)で述べたとおり、引用文献1に記載された発明及び本件出願前に周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると、本願発明は、前記「第2」[理由]2(3)~(5)で述べた理由と同様の理由により、引用文献1に記載された発明及び本件出願前に周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
してみると、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-011468