特許拒絶査定不服審判
2022-009757
血液成分の収納容器、シート、及び血液成分の収納容器の製造方法
- 審判番号
- 2022-009757
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-171400
- 請求日
- 2022年06月24日
- 審決日
- 2024年01月23日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社ジェイ・エム・エス
- 【請求人代理人】加藤 竜太
- 【請求人代理人】芝 哲央
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 正章
- 審判官 栗山 卓也
- 審判官 安井 寿儀
- 分類
- P18 .537-WZ (A61J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-171400「血液成分の収納容器、シート、及び血液成分の収納容器の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月22日出願公開、特開2019- 42390〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年 9月 6日の出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和 3年 8月31日付け:拒絶理由通知書
令和 3年11月 8日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 4年 3月18日付け:拒絶査定
令和 4年 6月24日 :審判請求書の提出
令和 4年12月27日付け:拒絶理由通知書
令和 5年 3月13日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 5年 3月30日付け:拒絶理由通知書
令和 5年 6月 1日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 5年11月28日付け:応対記録
第2 当審の判断
1 当審の拒絶理由
当審が令和 5年 3月30日付けで通知した拒絶理由は、この出願は、特許請求の範囲の請求項1の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。
記
発明の詳細な説明の記載(特に、段落【0008】を参照。)からみて、発明が解決しようとする課題は、血液成分に対する可塑剤の悪影響が抑制され、膜厚のバラツキが小さく、且つ破損しにくく着色が抑制された収容部を備える血液成分の収納容器を提供することであると解されるところ、請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明において上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かを検討すると、発明の詳細な説明(特に、段落【0047】-【0058】を参照。)には、塩化ビニル樹脂組成物のシートを用いた収納容器の具体例として、実施例1~6及び比較例1~5並びにその評価が記載されており、これによれば、塩化ビニル樹脂組成物が次の(A)又は(B)のいずれかを満たせば、「シート成形性」、「着色」及び「耐破損性」の評価が「○」であると理解できる。
(A):塩化ビニル樹脂100質量部に対して、エポキシ化大豆油(ESBO)が5質量部含まれるときに、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、フタル酸ジウンデシル(DUP)が72~86質量部、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛が合計0.0092~0.092質量部含まれること(実施例1~4及び比較例1~5を参照。)。
(B):塩化ビニル樹脂100質量部に対して、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛が合計0.023質量部含まれるときに、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、フタル酸ジウンデシル(DUP)が72~86質量部、エポキシ化大豆油(ESBO)が2~10質量部含まれること(実施例5~6を参照。)。
しかし、請求項1に係る発明は、そのように特定されたものではないから、請求項1に係る発明は、上記課題を解決するとは理解できない。
また、発明の詳細な説明の段落【0054】、【0056】の記載によれば、前記「着色」及び「耐破損性」の評価は、「○」と「×」とに分けるための評価の基準が明確であるから、上記課題のうち、破損しにくく着色が抑制された収容部を備える血液成分の収納容器を提供するという課題(以下「耐破損性及び着色に係る課題」という。)に関して、収納容器の収容部の血液成分と接触する面を構成するシートがどのような要件を備える場合に「○」であると評価するのかが明らかである一方、同段落【0049】の記載をみても、前記「シート成形性」の評価が「○」であるのは、シートの膜厚のバラツキ(測定位置7カ所におけるシートの膜厚の測定値のうちの最大値と最小値との差)がどの範囲にあるときか、理解することができない。また、シートの膜厚のバラツキの範囲と、前記「シート成形性」の「○」又は「×」の評価との関係は、本件出願(以下「本願」という。)の出願時の技術常識でもない。
したがって、前記「シート成形性」の評価が「○」であるものがどのようなものであるのか、実質的に理解できず、上記課題のうち、膜厚のバラツキが小さい収容部を備える血液成分の収納容器を提供するという課題(以下「膜厚のバラツキに係る課題」という。)を解決するとは理解できないから、請求項1に係る発明が、塩化ビニル樹脂組成物が上記(A)又は(B)のいずれか一方を満たすものであったとしても、膜厚のバラツキに係る課題を解決するとは理解できない。
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決することができると認識し得る範囲のものであるということはできない。また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決することができると認識し得る範囲のものであるということもできない。
よって、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。
2 本願発明
令和 5年 6月 1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「血液成分の収納容器であって、
前記収納容器が、前記血液成分を収容する収容部を備え、
前記収容部の前記血液成分と接触する面が、塩化ビニル樹脂組成物のシートからなり、
前記塩化ビニル樹脂組成物が、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、脂肪酸金属塩とを含み、
前記可塑剤が、フタル酸ジウンデシルと、エポキシ化植物油とを含み、
前記エポキシ化植物油の量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、3~7質量部であり、前記フタル酸ジウンデシルの量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、72~86質量部であり、前記脂肪酸金属塩の量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.0092~0.092質量部であるか、
前記エポキシ化植物油の量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、2~10質量部であり、前記フタル酸ジウンデシルの量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、72~86質量部であり、前記脂肪酸金属塩の量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.023質量部であり、
前記シートのL*a*b*表色系におけるb*の値が、前記シート中の任意の5点のb*の値の平均値として1.7未満である、収納容器。」
3 特許法第36条第6項第1号についての当審の判断
(1)サポート要件について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に係る規定(いわゆる「サポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部平成17年(行ケ)第10042号。また、知財高裁平成28年(行ケ)第10147号、知財高裁平成28年(行ケ)第10057号、知財高裁平成21年(行ケ)第10296号参照)。
このような観点に立ち、以下、検討する。
(2)本願明細書の発明の詳細な説明の記載について
本願明細書の発明の詳細な説明には、特に本願発明に関連する以下の記載がある。(下線は当審で付したものである。以下同じ。)
ア「【0006】
そこで、塩化ビニル樹脂に添加する可塑剤として、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(以下、DEHPとも記す。)の使用等が検討されている(特許文献1を参照。)
しかし、DEHPに代表される可塑剤のほとんどは、その可塑化効果の高さに起因して、血液保存容器の機械的強度を過度に低下させたり、成形加工性を過度に悪化させたりしやすい。このため、塩化ビニル樹脂へ可塑剤の添加量は制限される。
このような状況において、制限された量の可塑剤の使用によっては、血液保存容器の気体透過性を所望する程度まで向上させることは困難であった。
【0007】
さらに、可塑剤の多くについて、生体適合性が低い点でも問題がある。特にDEHPは血小板の凝集能を抑制することが報告されている。
輸血の際の、血液又は血液成分を含む液への可塑剤の溶出を考えると、血液保存容器に可塑剤を大過剰に添加することは好ましいことではなかった。…また、従来の軟質塩化ビニル樹脂に共通する欠点として、低温における柔軟性の低下や物理的強度の著しい低下がある。このため、従来の塩化ビニル樹脂製の血液保存容器は、4℃程度の低温でも、柔軟性の低下により取り扱い性が損なわれるし、-20℃程度の極低温では破損することが多いという問題があった。
そして、血液保存容器の製造に用いられる塩化ビニル樹脂組成物には、内容物の視認性の観点から着色が少ないことが求められる。しかし、可塑剤の溶出や、低温での破損のしやすさ等の上記の課題を解決する目的で、塩化ビニル樹脂組成物の組成を種々変更すると、多様な要因によってシートに加工された塩化ビニル樹脂組成物が着色してしまうことが往々にしてある。」
イ「【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、血液成分に対する可塑剤の悪影響が抑制され、膜厚のバラツキが小さく、且つ破損しにくく着色が抑制された収容部を備える血液成分の収納容器と、当該血液成分の収納容器の製造に用いられるシートと、当該シートを用いる血液成分の収納容器の製造方法とを提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、塩化ビニル樹脂と、所定量のフタル酸ジウンデシル及びエポキシ化植物を含む可塑剤と、脂肪酸金属塩とを含む塩化ビニル樹脂組成物からなるシートを用いて、血液成分の収納容器における、血液成分を収容する収容部を形成することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。」
ウ「【0017】
収納容器1が備える収容部11は、以下に説明する塩化ビニル樹脂組成物からなるシートを用いて形成されているため、低温下での柔軟性の低下が抑制され、凍結時における耐衝撃性に優れ、破損しにくい。」
エ「【0026】
<塩化ビニル樹脂組成物>
前述の収容部11の血液成分と接触する面は、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成される。
塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、脂肪酸金属塩とを含む。
可塑剤が、フタル酸ジウンデシルと、エポキシ化植物油とを含む。
フタル酸ジウンデシルの量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、65~94質量部であり、脂肪酸金属塩の量が、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.0092~0.46質量部である。
上記の組成の塩化ビニル樹脂組成物からなるシートが血液成分と接触するように、収納容器1の収容部11を形成することにより、血液細胞を長期保存可能であり、血液適合性が高く、膜厚のバラツキが小さく、且つ破損しにくく着色が抑制された収容部11を備える血液保存容器を、容易に製造することができる。」
オ「【0032】
(可塑剤)
前述の通り、塩化ビニル樹脂組成物は、可塑剤として、フタル酸ウンデシル(DUP)と、エポキシ化植物油とを含む。
塩化ビニル樹脂組成物が、所定量のDUPを含むことにより、可塑剤の血液成分への溶出による悪影響が抑制され、破損しにくい収容部11を作製でき、加工時の着色と膜厚のバラツキとが抑制されたシートを形成可能である。
【0033】
また、塩化ビニル樹脂が、可塑剤としてエポキシ化植物油を含むことにより、シートに、機械的強度を維持しつつ良好な柔軟性が付与され、破損しにくい収容部11を形成しやすい。
しかし、塩化ビニル樹脂組成物が所定量のDUPを含む一方で、エポキシ化植物油を含まない場合、必ずしも、塩化ビニル樹脂組成物の加工時の加熱等による着色を防げない場合がある。
対して、塩化ビニル樹脂組成物が、DUPとともに、エポキシ化植物油と、脂肪酸金属塩とを組み合わせて含む場合には、エポキシ化植物油の使用と、脂肪酸金属塩の使用との相乗的な効果によって、塩化ビニル樹脂組成物の加工時の加熱等による着色が効果的に抑制される。
つまり、塩化ビニル樹脂組成物に、所定量のDUPと、エポキシ化植物油と、所定量の脂肪酸金属塩との3成分を組み合わせて含む塩化ビニル樹脂組成物からなるシートを用いることによって、膜厚のバラツキが小さく、且つ破損しにくく着色が抑制された収容部を備える血液成分の収納容器が得られる。
【0034】
エポキシ化植物油としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、及びエポキシ化ひまし油等が挙げられ、エポキシ化大豆油が好ましい。
【0035】
DUPの使用量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、65~94質量部であり、72~86質量部が好ましい。
かかる範囲内の量のDUPを用いることにより、膜厚が均一なシートを形成しやすい。また、かかる範囲内の量のDUPを含む塩化ビニル樹脂組成物からなるシートを用いることにより、血液成分に対する可塑剤の悪影響が抑制され、且つ破損しにくい収容部11を備える血液成分の収納容器を得やすい。…
【0036】
エポキシ化植物油の使用量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、2~10質量部が好ましく、2~8質量部がより好ましく、3~7質量部が特に好ましい。
かかる範囲内の量のエポキシ化植物油を用いることにより、シートを用いて収容部11を成形する際の良好な成形性を維持しつつ、破損しにくい収容部11を良好に加工できるシートを得やすい。
【0037】
(脂肪酸金属塩)
塩化ビニル樹脂組成物は、脂肪酸金属塩を含有する。塩化ビニル樹脂組成物は、可塑剤の種類や配合量次第で、加工時の加熱等の影響で着色されることがある。しかし、塩化ビニル樹脂組成物が脂肪酸金属塩を含有することにより、塩化ビニル樹脂組成物の加工時の加熱等による着色が抑制される。より具体的には、脱塩素反応による塩化ビニル樹脂からのHClの発生が抑制され、それによって、塩化ビニル樹脂組成物や塩化ビニル樹脂組成物からなるシートが黄みや赤みを帯びることを抑制する。…
【0038】
脂肪酸金属塩の種類は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。また、2種以上の脂肪酸金属塩が組み合わせて用いられてもよい。
脂肪酸金属塩は、本発明の目的を阻害しない範囲でどのような金属の塩であってもよい。脂肪酸金属塩は、Li塩、Na塩、K塩、Ca塩、Mg塩、Sr塩、Zn塩、Cs塩、又はAl塩であるのが好ましく、Li塩、Na塩、K塩、Ca塩、Mg塩、及びZn塩がより好ましく、Na塩、Ca塩、及びMg塩がさらに好ましい。
また、脂肪酸金属塩は、本発明の目的を阻害しない範囲でどのような脂肪酸の金属塩であってもよい。好適な脂肪酸の例としては、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、2-エチルヘキシル酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ウンデシレン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、クロロステアリン酸、12-ケトステアリン酸、フェニルステアリン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレイン酸、オレイン酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、及びブラシジン酸、並びに獣脂脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、桐油脂肪酸、大豆油脂肪酸、及び綿実油脂肪酸等の天然に産出する上記の酸の混合物が挙げられる。
上記の脂肪酸の金属塩の中でも、ラウリン酸金属塩、ミリスチン酸金属塩、パルミチン酸金属塩、ステアリン酸金属塩、イソステアリン酸金属塩、リシノール酸金属塩、リノール酸、リノレイン酸、オレイン酸金属塩、及びベヘン酸金属塩が好ましく、ステアリン酸金属塩がより好ましい。
ステアリン酸金属塩としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、及びステアリン酸マグネシウムが好ましい。
【0039】
塩化ビニル樹脂組成物における、脂肪酸金属塩の含有量は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.0092~0.46質量部であり、0.0092~0.2質量部が好ましく、0.0092~0.1質量部がより好ましい。
かかる範囲内の量の脂肪酸金属塩を塩化ビニル樹脂に配合することにより、所望する効果を得やすい。
また、かかる範囲内の量の脂肪酸金属塩を、前述の範囲内の量のDUPとともに塩化ビニル樹脂に配合することにより、膜厚が均一なシートを安定して形成しやすい。膜厚が均一なシートを安定して形成できるということは、すなわち、塩化ビニル樹脂組成物の溶融加工が安定して行われているということである。」
カ「【0048】
〔実施例1~6、及び比較例1~5〕
実施例及び比較例において、塩化ビニル樹脂としては株式会社カネカ製のS-1004(平均重合度1400、開口度28)を用いた。それぞれ、表1に記載される量(質量部)の、塩化ビニル樹脂と、フタル酸ジウンデシル(DUP)と、エポキシ化大豆油と、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛とを、混練して、ペレット化された塩化ビニル樹脂組成物を得た。
表1に記載のステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛の量は、両者の量の合計値である。
なお、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛は、これらを含有する安定剤組成物として塩化ビニル樹脂組成物に配合した。ステアリン酸塩含有安定剤は、ステアリン酸カルシウム3.2質量%と、ステアリン酸亜鉛6質量%とを含有する。
得られた塩化ビニル樹脂組成物を用いて、押出機(D2025、株式会社東洋精機製作所製)と、Tダイ(T250C、株式会社東洋精機製作所製)とを用いて、以下の条件で溶融押出しを行い、厚さ400±20μmの塩化ビニル樹脂のシートを得た。」
キ「【0049】
<シート成形性評価>
実施例、及び比較例で得た塩化ビニル樹脂組成物を用いて、押出機(D2025、株式会社東洋精機製作所製)と、Tダイ(T250C、株式会社東洋精機製作所製)とを用いて、以下の条件で溶融押出しを行い、ロール状に巻き取られた幅23cm、厚さ400±20μmのシートを作成した。
押出し開始後、押出し開始時の位置と、押出し開始後0分後、5分後、10分後、15分後、20分後、25分後、30分後の位置(計7カ所)について、シートの厚さを測定した。なお、各測定位置と隣接する測定位置との間隔は2.8mである。
各位置におけるシートの厚さの測定は、シート幅方向に対して30mm間隔でとった点に対して行った。
測定位置7カ所(0分、5分、10分、15分、20分、25分、30分)における膜厚の測定値のうちの最大値と最小値との差を、膜厚のバラツキとして採用した。」
ク「【0054】
<着色評価>
シート成形性評価で作成された、作成直後のシートを用いて高周波ウェルダーにより製袋を行った。作成されたバッグについて、色彩色差計(CR-400、コニカミノルタジャパン株式会社製)を用いてL*a*b*表色系におけるb*の値を求めた。具体的には、シート中の任意の5点について色度座標の測定を行い、5点のb*の平均値をシートのb*の値とした。b*の値は、黄みの指標となる値である。b*の値が1.7以上である場合を×と判定し、1.7未満である場合を○と判定した。」
ケ「【0056】
<耐破損性評価>
前述の方法で製造された収納容器に水240mL充填した後、収納容器を厚さ5μmのポリエチレン製フィルムからなる幅250mm高さ400mmの内袋に入れた。次いで、ヒートシールにより内袋内に収納容器を封入した。内袋内に封入された収納容器を凍結保存用の箱に入れた後、水の入った収納容器を-30℃で24時間凍結保存した。
凍結保存後の箱10個を、箱の底面がアルミ板に衝突するように、それぞれアルミ板上に自由落下させた。その後、箱の中から収納容器を取出し、収納容器の破損の有無を確認した。なお、落下高さは、アルミ板と、箱の底面との距離として30cmであった。
10個全ての収納容器に破損が無かった場合を○と評価し、1個以上の収納容器に破損が認められた場合を×と判定した。
コ「【0057】
[図:0001408338000001.jpg]
」
サ「【0058】
実施例から、塩化ビニル樹脂と、塩化ビニル樹脂100質量部に対して65~94質量部のフタル酸ジウンデシルと、エポキシ化植物油と、塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.0092~0.46質量部の脂肪酸金属塩とを含む塩化ビニル樹脂組成物からなるシートを用いて形成された収容部は、膜厚のバラツキ、焦げ、DUPの析出、及びフィッシュアイが抑制され、且つ破損しにくく着色が抑制されていることが分かる。」
(3)本願発明の解決すべき課題について
本願発明の解決すべき課題は、本願明細書の【0008】に「血液成分に対する可塑剤の悪影響が抑制され、膜厚のバラツキが小さく、且つ破損しにくく着色が抑制された収容部を備える血液成分の収納容器」「を提供する」とある(上記(2)イ)とおり、血液成分に対する可塑剤の悪影響が抑制され、膜厚のバラツキが小さく、且つ破損しにくく着色が抑制された収容部を備える血液成分の収納容器を提供することであると解される。
(4)発明の課題を解決できるか否かについて
ア 本願発明の課題である「血液成分に対する可塑剤の悪影響が抑制され、膜厚のバラツキが小さく、且つ破損しにくく着色が抑制された収容部を備える血液成分の収納容器を提供すること」に関連する発明の詳細な説明としては、上記(2)エの【0026】、オの【0032】~【0033】、【0035】~【0037】、【0039】、及びサの【0058】の記載がある。
イ これらの記載によれば、以下のことが技術常識である。
フタル酸ジウンデシルは、塩化ビニル樹脂組成物のシート成形性(膜厚のバラツキ)、着色及び耐破損性に影響する(【0032】及び【0035】参照)。
エポキシ化植物油は、塩化ビニル樹脂組成物のシート成形性(膜厚のバラツキ)、着色及び耐破損性に影響する(【0033】及び【0036】参照)。
脂肪酸金属塩は、塩化ビニル樹脂組成物のシート成形性(膜厚のバラツキ)及び着色に影響する(【0033】、【0037】及び【0039】参照)。
そうすると、本願発明は、塩化ビニル樹脂組成物に、フタル酸ジウンデシルと、エポキシ化植物油と、脂肪酸金属塩とをそれぞれ所定量含有することで、膜厚のバラツキが小さく、且つ破損しにくく着色が抑制された収容部を備える血液成分の収納容器が得られると解される(【0033】参照)。
すなわち、本願発明の課題である塩化ビニル樹脂組成物からなるシートの膜厚のバラツキ、着色、耐破損性を解決する範囲は、フタル酸ジウンデシル、エポキシ化植物油及び脂肪酸金属塩が相互に影響を及ぼすものであるから、フタル酸ジウンデシル、エポキシ化植物油及び脂肪酸金属塩のそれぞれの量は、具体的に上記課題を解決できることが確認されたものから上記課題を解決できると理解できる範囲である。
ウ そして、
(A):「前記エポキシ化植物油の量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、7質量部であり、前記フタル酸ジウンデシルの量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、72~86質量部であり、前記脂肪酸金属塩の量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.0092~0.092質量部である」
のものについては、発明の課題を解決することが実施例において確認されておらず、課題を解決するものであると理解することはできない。
より具体的には、以下のとおりである。
上記(2)アの「DEHPに代表される可塑剤のほとんどは、その可塑化効果の高さに起因して、血液保存容器の機械的強度を過度に低下させたり、成形加工性を過度に悪化させたりしやすい。このため、塩化ビニル樹脂へ可塑剤の添加量は制限される。」、「可塑剤の多くについて、生体適合性が低い点でも問題がある。」及び「輸血の際の、血液又は血液成分を含む液への可塑剤の溶出を考えると、血液保存容器に可塑剤を大過剰に添加することは好ましいことではなかった。」との記載からみて、可塑剤の添加量が多すぎると、成形加工性の悪化や成形品の機械的強度の低下、生体適合性の低下、血液成分への溶出等につながるため、その量は制限される。
このことを踏まえると、塩化ビニル樹脂に添加する可塑剤の合計量が最も大きい実施例である実施例2及び3(塩化ビニル樹脂100質量部に対してエポキシ化大豆油(ESBO)が5質量部であり、フタル酸ジウンデシルが86質量部であって、可塑剤の合計量が91質量部である実施例)では、シート成形性が「○」評価であることが確認されており、本願の膜厚のバラツキに係る課題を解決すると当業者が認識し得るのに対して、上記(A)の、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、エポキシ化植物油の量が7質量部であり、フタル酸ジウンデシルの量が86質量部である可塑剤の合計量が93質量部であるものは、具体的に確認されておらず、膜厚のバラツキに係る課題を解決するとは理解できない。
そもそも、本願明細書の記載は、本願の課題を解決するか否かに関して、実施例で「○」又は「×」の評価がされるのみであり、具体的な測定値等を示してそれらが本願の課題を解決する数値範囲内にあるかどうかを評価したものではないから、実施例における「○」評価が、上記数値範囲内における上限値や下限値からどの程度の関係であるのか把握することができない。したがって、上記のように可塑剤の合計量が91質量部の実施例ではシート成形性が「○」評価であって、本願の上記課題を解決すると解され、また、可塑剤の合計量が105質量部であって91質量部より14質量部大きい比較例1ではシート成形性が「×」評価であることは把握できるものの、可塑剤の合計量が91質量部よりわずか2質量部大きい上記の93質量部の場合に、それが「○」評価に相当するのか否か、技術的な妥当性をもって理解することができない。
この点につき、令和 5年 6月 1日提出の意見書の2(3)において、シート成形性に関連する指標である膜厚のバラツキの0.04mm程度をしきい値として、「○」評価又は「×」評価と判定したことが釈明された。
しかし、上記の可塑剤の合計量が91質量部の実施例における「○」評価が、上記課題を解決する測定値等の数値範囲に照らして、上限値や下限値との関係でどのような「○」評価であるのか依然として不明であるから、上記意見書の釈明から、「○」評価と「×」評価の境界が0.04mm程度なるしきい値であるとしてみても、上記の可塑剤の合計量が93質量部である場合に本願の課題を解決すると理解することはできない。
さらに、令和 5年10月23日に当該釈明の書面が提出され(令和 5年11月28日付け応対記録に添付。)、当該書面の4ページには、塩化ビニル樹脂100質量部に対するエポキシ化植物油とフタル酸ジウンデシルとを合わせた可塑剤の総量が93質量部である場合に、膜厚のバラツキが0.04mm程度以下の要件を満たすことが、可塑剤総量を横軸とし、膜厚のバラツキを縦軸とするグラフの提示とともに釈明されている。
しかし、上述したとおり、可塑剤総量という指標に着目してみても、本願の実施例では、当該指標が最も大きい場合として、実施例2及び3の、エポキシ化大豆油(ESBO)5質量部とフタル酸ジウンデシル86質量部の合計である可塑剤総量91質量部のものが、本願の上記課題を解決することが確認されるに留まっているところ、上記書面において請求人が示した、上記グラフにおける二次曲線や三次曲線による近似は、本願発明における可塑剤総量とシートの膜厚のバラツキの関係を考察するにあたって、二次曲線や三次曲線を用いることが技術常識であることを示す証拠は存在せず、その実験結果において技術的に妥当であるともいえない。
そして、上述した二次曲線や三次曲線による近似は妥当でないから、グラフ上に描いた二次曲線や三次曲線が、可塑剤総量が93質量部のときに膜厚のバラツキが0.04mm程度以下となる点を通るからといって、そのことから直ちに、エポキシ化植物油が7質量部かつフタル酸ジウンデシルが86質量部であって可塑剤の合計量が93質量部のときに膜厚のバラツキが0.04mm程度以下である、すなわち、本願発明が本願の膜厚のバラツキに係る課題を解決するとは理解できない。
しかも、請求人が主張する、可塑剤総量なる上記指標に基づけば、本願発明中の「前記エポキシ化植物油の量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、10質量部であり、前記フタル酸ジウンデシルの量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、86質量部であり、前記脂肪酸金属塩の量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.023質量部であ」るものは、可塑剤総量が96質量部となるのであるから、上述のとおり、本願発明の課題を解決するものとは理解できない。
したがって、可塑剤総量に基づく請求人の上記主張は、的を射たものではない。
エ よって、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決することができると認識し得る範囲のものであるということはできない。また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決することができると認識し得る範囲のものであるということもできない。
よって、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。
第3 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-009757