審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2022-004198

環状ホスホン酸ナトリウム塩の結晶及びその製造方法

審判番号
2022-004198
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-072782
請求日
2022年03月22日
審決日
2024年06月11日
公報発行日
2024年08月30日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】大塚化学株式会社
  • 【請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 瀬良 聡機
  • 審判官 木村 敏康
  • 審判官 松元 麻紀子
分類
P18 .121-WZ (C07F)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020- 72782「環状ホスホン酸ナトリウム塩の結晶及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 7月16日出願公開、特開2020-109131〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)8月12日(優先権主張 平成26年8月12日)を国際出願日とする特願2016-542597号の一部を、令和2年4月15日に新たな特許出願としたものであって、 令和2年4月15日付けで上申書の提出がなされ、同年5月15日(受付日)に上申書の提出がなされ、 令和3年4月2日付けの拒絶理由通知に対して、同年8月5日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされるとともに、同年8月10日(受付日)に手続補足書の提出がなされ、 同年12月20日付けの拒絶査定に対して、令和4年3月22日付けで審判請求がなされるとともに、同年3月25日(受付日)に物件提出書の提出がなされ、 令和5年7月25日付けの審判合議体による拒絶理由通知に対して、同年10月2日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされるとともに、同年10月4日(受付日)に手続補足書の提出がなされ、 令和6年1月30日付けの審判合議体による拒絶理由通知に対して、同年3月8日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされるとともに、同年3月11日(受付日)に手続補足書の提出がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1~2に係る発明は、令和6年3月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 式(1) 【化1】 [図:0001412540000001.jpg] で表され、モノクロメーターを通したλ=1.54059Å の銅放射線で得られるX線粉末回折スペクトルにおいて、下記d(格子面間隔)にピークを有する、環状ホスホン酸ナトリウム塩(2ccPA)の結晶。 d(格子面間隔/Å) 15.7684 ~ 16.1724 9.5425 ~ 9.6675 4.9024 ~ 4.9403 4.7869 ~ 4.8335 4.4802 ~ 4.5164 4.1641 ~ 4.2070 3.7263 ~ 3.8145」 第3 令和6年1月30日付けの拒絶理由通知の概要 令和6年1月30日付けの審判合議体による拒絶理由通知(以下「先の拒絶理由通知」ともいう。)は、理由3として、次の理由を含むものである。 「理由3:この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 そして、その「記」には、次のような指摘がなされている。 「2.理由3(進歩性)について ・請求項1~4 (1)引用例及びその記載事項 引用例1:国際公開第2013/069404号(原査定の文献1) 引用例2:平山令明編,有機化合物結晶作製ハンドブック-原理とノウハウ-,丸善株式会社,2008年 7月25日,p.57-84(周知技術を示す文献) 引用例3:生活工学研究 2002, v.4, pp.310-317(周知技術を示す文献) 引用例4:有機合成化学協会誌 2007, v.65, pp.907-913(周知技術を示す文献) 引用例5:特表2003-519698号公報(周知技術を示す文献) 引用例6:国際公開第02/094286号(周知技術を示す文献) 引用例7:薬剤学,2008年,68(5),p.344-349(周知技術を示す文献) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpstj/68/5/68_344/_pdf/-char/en …本1発明は、引用例1~7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。… 〔なお、本願請求項4の(c)の要件を満たす結晶(実施例3)のみについては、…本願明細書の段落0539に記載の「実施例3」の「良溶媒:メタノール、貧溶媒:メチルエチルケトン」を用いた結晶化の手法が、本願優先日前の技術水準における一般的な手法でないことが示され、本願明細書の実施例1~2及び4~26の結晶と、異なる溶媒和物の結晶形であることが示されれば、当該(c)の要件を満たす結晶についての進歩性は、これを否定できないものと当審は現時点で判断する。〕」 (なお、「…」は摘記の省略を表し、下線は当審合議体が追記した。以下同じ。) 第4 当審の判断 1.理由3(進歩性)について (1)引用例1~7の記載事項 ア 引用例1には、次の記載がある。 摘記1a:請求項1 「[請求項1] 下記式(1)で示される化合物を有効成分として含有する関節症治療剤。 [化1] [図:0001412540000002.jpg] (式中、Rは、炭素数1~30の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数2~30の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基、又は炭素数2~30の直鎖状若しくは分岐状アルキニル基であり、これらの基はシクロアルカン環又は芳香環を含んでいてもよい。X及びYはそれぞれ独立に、酸素原子、又はメチレン基を示すが、X及びYが同時にメチレン基になることはない。Mは、水素原子又はアルカリ金属原子である。)」 摘記1b:段落0027~0028、0030及び0033~0036 「[0027]式(I)で示される環状ホスファチジン酸誘導体中のMは、水素原子又はアルカリ金属原子である。アルカリ金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられ、ナトリウムが特に好ましい。 [0028]本発明で用いられる式(1)で示される化合物の具体例としては、1位アシル基として、Rが炭素原子数17のアルケニル基であるオレオイル基(C18:1と略す)、Rが炭素原子数15のアルケニル基であるパルミトオレオイル基(C16:1と略す)を有する環状ホスファチジン酸及びカルバ環状ホスファチジン酸誘導体が特に好ましい。… [0030]また、式(I)の化合物は、水あるいは各種溶媒との付加物(水和物又は溶媒和物)の形で存在することもあるが、これらの付加物も本発明の範囲内のものである。さらに、式(I)の化合物及びその塩の任意の結晶形も本発明の範囲内のものである。… [0033]また、一般式(1)で示される化合物のうちXが酸素原子であり、Yがメチレン基である化合物は、文献記載の方法(Kobayashi,S.,他,Tetrahedron Letters 34,4047-4050(1993))に準じて合成することができ、また国際公開WO2002/094286号公報に記載の方法により合成することができる。具体的な合成経路の一例を以下に示す。 [0034] [化3] [図:0001412540000003.jpg] [0035]上記においては、先ず、市販の(R)-ベンジルグリシジルエーテル(1)をBF3・Et2Oで活性化させ、メチルホスホン酸ジメチルエステルにn-BuLiを作用させて得られるリチオ体を反応させることでアルコール(2)を得る。 得られたアルコールを、トルエン中で過剰のp-トルエンスルホン酸のピリジニウム塩を用いて80℃で反応させることにより、環化体(3)を得る。この環化体を、水素雰囲気下で20% Pd(OH)2-Cを用いて加水素分解し、脱ベンジル化を行う(4)。縮合剤として1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を用いて、脂肪酸と反応させてカップリング体(5)を得る。次に、求核剤としてブロモトリメチルシランを用いて、メチル基だけを位置選択的に除去し、環状ホスホン酸(6)を得る。これをエーテルを用いて分液ロートに移しこみ、少量の0.02Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、分液操作を行い、ナトリウム塩(7)として目的化合物を抽出、精製する。 [0036]また、一般式(1)で示される化合物のうちXがメチレン基であり、Yが酸素原子である化合物は、特開2004-010582号公報又は国際公開WO03/104246号公報に記載の方法により合成することができる。」 摘記1c:段落0044~0048、0055~0056、0060及び0070 「[0044]実施例1: (1)方法 (1-1)関節軟骨細胞及び滑膜細胞の培養 変形性膝関節症の患者より人工膝関節置換術時に除去採取した関節硝子軟骨を用いた。関節軟骨片は洗浄後、プロナーゼ・コラゲナーゼ酵素処理により軟骨基質を分解、細胞を採取し培養、凍結保存した。また、滑膜細胞も採取した。本実施例ではそのような変形性関節症患者の関節軟骨細胞及び滑膜細胞を用い、形質変化を避けるために単層高密度にて培養し実験に用いた。培地はDMEM + 10%FBS+1%antibiotics/antifungusを用い、confluent後無血清培地に代え、実験を開始した。 [0045](1-2)環状ホスファチジン酸又はカルバ環状ホスファチジン酸(cPA)の添加 環状ホスファチジン酸又はカルバ環状ホスファチジン酸は、C16:1-cPA (cPA)および、native cPA(NcPA)を用いそれぞれ、濃度(0~50nM),時間(0~48時間)にて、ヒアルロン酸(HA)産生、ヒアルロン酸(HA)合成酵素(HAS1、HAS2及びHAS3)の発現、及びヒアルロン酸(HA)分解酵素(HYAL1及びHYAL2)について検討した。 [0046]C16:1-cPA (図中では、「cPA」と表記する)の化学構造は以下の通りである。 [化4] [図:0001412540000004.jpg] [0047]また、native cPA(図中では、NcPAと表記する)は、以下の通り調製したものである(特願2011-126901の実施例1及び3を参照)。 大豆リン脂質(レシチン含量:70%)10gを0.3M塩化カルシウムを含有する100mlの1M酢酸バッファー(pH6.5)で溶解させた後、6000単位のストレプトマイセス属由来のホスホリパーゼA2を添加し、40℃で18時間攪拌して反応させた。反応液をpH2.5に調整して酵素を失活させた後、100mlのクロロホルム、50mlのメタノールを添加して十分攪拌混合し脂質成分を抽出した。クロロホルム層を集め、ロータリーエバポレータで減圧乾固させた。固形分に100mlのアセトンを加えリン脂質を沈殿させ遊離脂肪酸を除去した。沈殿物5gを40mlのクロロホルムに溶解させ、1M酢酸バッファー(pH5.5)10mlを加え、更に1500単位のアクチノマジュラ属由来のホスホリパーゼDを添加して40℃で18時間攪拌しながら反応を行った。反応液に20mlの3M塩化ナトリウム、20mlの0.1M EDTA溶液を添加して40℃で1時間攪拌を行った。更に20mlのメタノールを添加して十分攪拌した後、3000回転、5分間遠心分離してクロロホルム層を集めた。この溶液をロータリーエバポレータで減圧乾固させ環状ホスファチジン酸ナトリウム塩3.8gを得た。収率はレシチン含量70%(10g中7g)から環状ホスファチジン酸Naを3.8gを得たので54.3%であった。環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の純度分析は、シリカゲルプレートを用い、クロロホルム:メタノール:酢酸:5%二亜硫酸ナトリウム(100:40:12:5、V/V)で展開後、5%酢酸銅:8%燐酸:2%硫酸混合液に短時間浸漬し風乾後、180℃で約10分加熱した後、生成したスポットをスキャナー(アトー社製)法によって行った。即ち、標準品(97%純度品)をコントロールとして、薄層クロマトグラフのスポットをデンシトメーターにより測定し、面積比で定量した。上記工程で得られた生成物中環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の純度は54%であった。 [0048]上記の環状ホスファチジン酸ナトリウム塩500mgを5mlの10%メタノールを含むクロロホルムに溶解させ、シリカゲルカラムにかけ、同一溶媒で展開、更に20%メタノールを含むクロロホルムで展開し、10mlの画分に分取した。上記のTLC法によって環状ホスファチジン酸ナトリウム塩を含有する画分を確認して集め、ロータリーエバポレータで減圧乾固させ環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の粉末320mgを得た。本試料の環状ホスファチジン酸ナトリウム塩の純度は95%であった。… [0055]実施例2:ウサギ変形性膝関節症に対するScPAの薬効評価… [0056](1-2)投与物質 (9Z)-9-オクタデセン酸-(2-ヒドロキシ-2-オキシド-1,2-オキサホスホラン-4-イル)メチルエステルナトリウム塩:C18:1-cPA(以下、ScPA)を使用した。 [化5] [図:0001412540000005.jpg] … [0060]モデル作製処理後、体重が均一になるよう1群6羽の2群に分け、媒体投与群(動物番号101~106)と、被験物質(ScPA)投与群(動物番号201~206)とした。… [0070] [表3] [図:0001412540000006.jpg] 」 引用例2には、次の記載がある。 摘記2a:第59、63及び65頁 「4.2.1 結晶多形の検索 複数の結晶層が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である。… 一方,創薬段階においてはコンビナトリアル合成が導入され,膨大な数の化合物から“薬”としての候補品を短時間で効率的にスクリーニングするハイスループット・スクリーニングが一般的となっている。薬効を中心としたスクリーニングがなされた後,治験段階に用いられる原薬の基本形を選択するにあたっても,多くの候補品につき安定性や溶解度などを改善することを目指した結晶多形,塩,あるいは共結晶(co-crystal;図4.2にバルピツール酸の例を示す10))の可能性をロボットシステムを用いて探索する報告がなされている11)。このシステムは,図4.3に示すような96穴のプレートを用いて溶媒や温度などの結晶化条件を変化させ,得られた析出物の結晶状態を粉末X線回折,ラマンスペクトルや熱分析などを用いて同定するものである。従来のマニュアル操作では見逃していた結晶多形や有用な塩を臨床試験に入る前に探索することにより,開発途中で新規結晶多形の出現による開発の遅れなどのリスク回避やジェネリック品の参入を防御するための特許対策など,その有用性が注目されている。」 摘記2b:第78~79頁 「4.5.1 一般的な結晶化条件 医薬品を開発するうえで,初期段階においては種々の条件下における結晶多形の検索を行い,製剤化検討の結果なども考慮して開発の基本形となる結晶形を選択する。その後,工業化に向けたスケールアップの検討を行い,工場での生産が安定に行えるように準備する必要がある。したがって,開発初期段階における結晶多形の有無などを含めた結晶状態の検討は,医薬品の開発を効率的に進めるうえで非常に重要である。晶析条件に関する文献も多いが35),ここでは,医薬品を結晶化する一般的な条件を示し,さらに医薬品の結晶化の実例を記述する。 一般に使用される晶析溶媒としては,水,メタノール,エタノール,1-プロパノール,2-プロパノール,1-ブタノール,2-ブタノール,1-ペンタノール,酢酸エチル,アセトン,メチルエチルケトン,トルエン,シクロヘキサン,シクロヘキサノン,ジメチルホルムアミドなどである。 結晶化はおおよそ以下のような方法を用いる。 (1)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する。熱時濾過し,残留試料を除いた後,室温付近まで徐々に冷却する。 (2)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する。熱時濾過し,残留試料を除いた後,氷などにより急冷する。 (3)試料を適当な溶媒に溶かした液に,試料が溶けにくい溶媒を滴下する。 (4)試料を適当な溶媒に溶かした液をエバポレーターなどを用いて脱溶媒する。 (5)試料を適当な溶媒(引火しないもの)に溶かした液を噴霧する。 (6)試料をホットステージなどを用いて融解し,室温付近まで徐々にあるいは急激に冷却する。」 (なお、上記下線の「濾」は、原文で「さんずい」に「戸」の表記である。) 引用例3には、次の記載がある。 摘記3a:第310頁右欄第4行~第312頁左欄第4行 「2.医薬品開発とその物性 …近年,日本の製薬会社では,新薬の製造販売の許可を日本よりも先にまづ米国のFDA(Food and Drug Administration)に申請することが多い.申請の際には,狭義の薬効だけでなく,原薬の結晶形crystal form(結晶多形を含む)や粒子径particle size等の固体物性に関しても言及することになっている.これは,消化管からの薬効成分の吸収特性を左右する因子としてこれらの物性が重要であることに配慮したものである1).… 米国FDAのガイドライン3)では,主薬のすべての結晶形の種類を記載し,それぞれの結晶形の単離・同定を行ない,その特徴を明確にすることを規定している.さらに,主薬の結晶形が一つしかないと主張する場合には,その根拠を明確にすることが求められている. 市販されている薬物にどのくらい結晶多形が存在するかをTable 1に示す4).常用Steroid剤やBarbiturate鎮痛剤の半数以上が結晶多形を有し,Sulfonamide感染症治療薬でもその4割が結晶多形を有している.各医薬品は普通,2~5種類の結晶多形を有している.従って,製薬会社は主薬の薬効のみならず,結晶多形等の固体物性にも大きな配慮をせざるを得ないのである.… 3.結晶多形 …抗生物質であるChloramphenicol PalmitateはA形,B形,C形の3つの結晶形を有する7).この中で,安定形はA形であり,主に見られる準安定形はB形である.B形の融点が86℃であるのに対しA形は91℃,A形の溶解度はB形の28%に過ぎない.この抗生物質は懸濁シロップ剤として経口投与されるが,その際の粒子径は5μmに調整されている.しかしながら,A形製剤を投与した場合はB形に比べ血中濃度は1/5にしかならない.従って,A形では期待した薬効が得られないことになり得るのでB形での開発が必要になる.」 引用例4には、次の記載がある。 摘記4a:第907頁左欄第23行~右欄第11行 「医薬品については構造の複雑さとコンフォーメーションの自由度から,その約80%に結晶多形が存在するといわれている2)。医薬品の結晶多形に関して重要な点は,製品特性としての安定性,溶解性,さらには固形剤の場合はバイオアベイラビリティーに影響を与えることがあげられる。従って,製薬企業では主として物性研究者によって,溶解度測定,溶解速度測定,保存時の安定性測定などが,結晶多形のキャラクタリゼーションとあわせて行われている3)。 …最近では,積極的に結晶多形を見つけ出すことを目的とした結晶多形スクリーニングが盛んに行われるようになってきた。」 引用例5には、次の記載がある。 摘記5a:段落0006及び0012 「【0006】医薬化合物などの物質は、多くの異なる結晶形態および大きさを有することができる。製薬業界では、結晶の構造および大きさが製造、製剤化および生物学的利用能などの薬物動態に影響し得ることから、これらの結晶特性、特には多形、結晶の大きさ、晶癖および結晶径分布が特に重視されてきた。ある化合物の結晶を区別することができる4つの広い分類があり、それらは組成;晶癖;多形;および結晶径である。… 【0012】2.1.4.多形 さらに、同一化合物が複数の異なる結晶種(すなわち、異なる内部構造を有する)として結晶化する場合があるか、あるいはある結晶種から別の結晶種に変わることがある。その現象は多形と称され、それらの異なる結晶種は多形体と称される。多形体は、異なる光学特性、融点、溶解度、化学反応性、溶解速度および異なる生物学的利用能を示す場合がある。同じ医薬品の異なる多形体は異なる薬物動態を有する場合があることが知られており、例えばある多形体はそれの対応するものより容易に吸収される場合がある。極端な場合、ある医薬品の1種類の多形体のみが、疾患治療に好適である場合がある。そこで、新規または有用な多形体の発見および開発が、特に医薬分野では非常に重要である。」 引用例6には、次の記載がある。 摘記6a:第5頁第16行~第8頁第21行 「即ち、本発明によれば、一般式(I): [図:0001412540000007.jpg] (式中、Rは、炭素数1~30の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数2~30の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基、又は炭素数2~30の直鎖状若しくは分岐状アルキニル基であり、これらの基はシクロアルカン環又は芳香環を含んでいてもよい。Mは、水素原子又は対カチオンである。) で示される化合物を有効成分として含む、癌転移抑制剤が提供される。 本発明の特に好ましい態様では、一般式(I)においてRは、-C15H31、-(CH2)7CH=CHC6H13、又は-(CH2)7CH=CHC8H17である。… 図2は、化学合成されたcPA誘導体の構造を示す図である。… 以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書で使用する略号の説明を以下に記載する。 … Ole- オレイン酸,18:1」 摘記6b:図2 「 [図:0001412540000008.jpg] 」 引用例7には、次の記載がある。 摘記7a:第345頁左欄第36行~第346頁左欄第18行 「4.企業における塩・結晶多形の選択 結晶形選択の重要性は多くの製薬企業で認識されており,ほぼ共通したプロセスの概念(Fig.1)を持っていると思われる.しかし,実際には短期間かつ低コストを可能とする効率的な結晶形の選択方法及び物性評価方法については十分体系的に議論されておらず,多くの製薬企業では結晶形の選択及び物性評価は各社のノウハウに依存した独自のプロセスで行われ,時には非効率的な場合も見受けられる.… 実際には塩・結晶多形の選択に費やすコスト,期間や検討に用いる原薬量を考慮した上,スケジュールを調整し,開発可能な結晶形の選択を効率良く実施する.… 塩・結晶多形の選択は一般に,物性評価,結晶化スクリーニング,塩スクリーニング,安定性結晶スクリーニング等の組合せから構成される.これら全てのスクリーニングについて,より早期での実施が可能な手法が開発されており,受託研究企業数社から,それぞれ特徴を有したスクリーニングが供給されている.」 摘記7b:第346頁右欄第7行~第347頁右欄第7行 「5.塩・結晶多形スクリーニング法の開発 医薬品候補化合物の塩や結晶多形の中から開発に適した結晶形を効率的に選択するためには,塩や結晶多形を含めた全ての結晶形について短期間で把握する必要がある.複数の塩それぞれについての結晶多形の存在を考えると,その数は膨大であり,そのため実施されるのが塩・結晶多形のスクリーニングである.スクリーニング方法として,計算化学による予測とスクリーニング実験による手法に分けれらるが,現時点での医薬品開発に取り入れられているのは実験による塩や結晶多形の探索である.… 多塩基酸や多酸塩基から構成される塩は複数の組合せが可能であり,組合せの異なる塩は物性のプロファイルが異なることから,従来の塩及び結晶多形選択の過程では全てを合成し評価する必要がある.」 摘記7c:第348頁左欄第4~25行 「6.新規な固体物性評価法の開発 効率的な結晶形の選択には,スクリーニング法だけでなく物性評価方法にも効率化が求められる.… 分析機器のスクリーニング技術の進歩,さらには医薬品開発における結晶形選択の重要性が認識され,結晶形の選択は化合物量が少量の早期の段階で実施される傾向にある.結晶形選択は溶解性,安定性,製造性等の複数の観点から実施される.」 (2)引1発明 引用例1の請求項1(摘記1a)に記載の「関節症治療剤。」の有効成分として含有される「式(I)の化合物」に関して、同段落0030(摘記1b)には「式(I)の化合物及びその塩の任意の結晶形も本発明の範囲内のものである。」との記載があり、その「式(I)の化合物及びその塩の任意の結晶形」に対応した具体例として、同段落0055~0056(摘記1c)には「実施例2:ウサギ変形性膝関節症に対するScPAの薬効評価…(1-2)投与物質 (9Z)-9-オクタデセン酸-(2-ヒドロキシ-2-オキシド-1,2-オキサホスホラン-4-イル)メチルエステルナトリウム塩:C18:1-cPA(以下、ScPA)」が記載されている。 そして、同段落0070(摘記1c)の表3には、媒体投与群に比して、被験物質(ScPA)投与群が、疼痛評価(両後肢重量配分比)のDay42の測定において有意な差(p=0.0053)が認められたという「薬効評価」が記載され、同段落0033~0036(摘記1b)の具体的な合成方法の記載や、同段落0044~0048(摘記1c)の実施例1〔式(I)のRが、炭素原子数15のアルケニル基であるパルミトオレオイル基(C16:1)であるもの〕の記載を参酌すると、上記「ScPA」を製造できる程度の「製造方法」についての記載もあるといえる。 したがって、引用例1には、 『(9Z)-9-オクタデセン酸-(2-ヒドロキシ-2-オキシド-1,2-オキサホスホラン-4-イル)メチルエステルナトリウム塩:C18:1-cPA(ScPA)。』についての発明(以下「引1発明」という。)が記載されているといえる。 (3)対比 本1発明と引1発明とを対比する。 引1発明の「(9Z)-9-オクタデセン酸-(2-ヒドロキシ-2-オキシド-1,2-オキサホスホラン-4-イル)メチルエステルナトリウム塩」は、その化合物名の記載からみて、引用例1の請求項1(摘記1a)の式(1)において、Xがメチレン基であり、Yが酸素原子であり、Rが引用例6の第6頁(摘記6a)の「一般式(I)においてRは、…-(CH2)7CH=CHC8H17である。」との記載、及び図2(摘記6b)の「 [図:0001412540000009.jpg] 」との記載にあるとおりの化学構造を有する「炭素原子数17のアルケニル基であるオレオイル基」であり、Mがアルカリ金属である、環状ホスファチジン酸のナトリウム塩であることが明らかであるから、本1発明の式(1)で表されるとおりの「環状ホスホン酸ナトリウム塩(2ccPA)」に相当する。 してみると、本1発明と引1発明は「式(1) [図:0001412540000010.jpg] で表される、環状ホスホン酸ナトリウム塩(2ccPA)。」という点において一致し、次の(α)の点において相違する。 (α)環状ホスホン酸ナトリウム塩(2ccPA)が、本1発明は「モノクロメーターを通したλ=1.54059Å の銅放射線で得られるX線粉末回折スペクトル」において、下記 「d(格子面間隔/Å) 15.7684 ~ 16.1724 9.5425 ~ 9.6675 4.9024 ~ 4.9403 4.7869 ~ 4.8335 4.4802 ~ 4.5164 4.1641 ~ 4.2070 3.7263 ~ 3.8145」の「d(格子面間隔)」にピークを有する「結晶」であるのに対して、引1発明は「モノクロメーターを通したλ=1.54059Å の銅放射線で得られるX線粉末回折スペクトル」において、特定の「d(格子面間隔)」にピークを有する「結晶」であると特定されていない点。 (4)相違点についての判断 ア 本願優先日における医薬化合物に関する技術常識について (ア)先ず、引用例1の請求項1(摘記1a)の「式(I)で示される化合物を有効成分として含有する関節症治療剤」との記載にあるように、式(I)の化合物は医薬化合物であり、同段落0030(摘記1b)の「式(I)の化合物及びその塩の任意の結晶形も本発明の範囲内のものである。」との記載にあるように、引用例1には、式(I)の化合物の塩の「結晶形」も範囲内とすることが明示的に記載されている。 (イ)次に、引用例2(摘記2a)の「創薬段階においてはコンビナトリアル合成が導入され,膨大な数の化合物から“薬”としての候補品を短時間で効率的にスクリーニングするハイスループット・スクリーニングが一般的となっている。薬効を中心としたスクリーニングがなされた後,治験段階に用いられる原薬の基本形を選択するにあたっても,多くの候補品につき安定性や溶解度などを改善することを目指した結晶多形…の可能性をロボットシステムを用いて探索する」との記載、 引用例3(摘記3a)の「米国のFDA…に申請…の際には,狭義の薬効だけでなく,原薬の結晶形…(結晶多形を含む)…等の固体物性に関しても言及することになっている.…米国FDAのガイドライン…では,主薬のすべての結晶形の種類を記載し,それぞれの結晶形の単離・同定を行ない,その特徴を明確にすることを規定している.…製薬会社は主薬の薬効のみならず,結晶多形等の固体物性にも大きな配慮をせざるを得ないのである.」との記載、 引用例4(摘記4a)の「医薬品の結晶多形に関して重要な点は,製品特性としての安定性,溶解性,さらには固形剤の場合はバイオアベイラビリティーに影響を与えることがあげられる。従って,製薬企業では主として物性研究者によって,溶解度測定,溶解速度測定,保存時の安定性測定などが,結晶多形のキャラクタリゼーションとあわせて行われている」との記載、 引用例5(摘記5a)の「製薬業界では、結晶の構造および大きさが製造、製剤化および生物学的利用能などの薬物動態に影響し得ることから、これらの結晶特性、特には多形、結晶の大きさ、晶癖および結晶径分布が特に重視されてきた。…新規または有用な多形体の発見および開発が、特に医薬分野では非常に重要である。」との記載、並びに 引用例7(摘記7b及び7c)の「医薬品候補化合物の塩や結晶多形の中から開発に適した結晶形を効率的に選択するためには,塩や結晶多形を含めた全ての結晶形について短期間で把握する必要がある.…その数は膨大であり,…塩及び結晶多形選択の過程では全てを合成し評価する必要がある.」との記載、及び「医薬品開発における結晶形選択の重要性が認識され,結晶形の選択は化合物量が少量の早期の段階で実施され…溶解性,安定性,製造性等の複数の観点から実施される.」との記載にあるように、 医薬品開発においては、医薬品候補化合物の結晶多形の膨大な数を含めた全てを合成し評価して、全ての結晶形について短期間で把握する必要があり、結晶形の選択を早期の段階から、安定性などの観点から実施することの重要性が認識されていることが、本願優先日時点の技術常識であったと認められる。 イ 相違点の容易想到性について (ア)動機付けについて 式(I)の化合物は医薬化合物であり、医薬化合物の候補品につき「安定性」や「溶解度」などを改善するために効率的にスクリーニングすることが本願優先日時点の技術常識になっており、米国のFDA(食品医薬品局)のガイドラインにおいても「結晶多形」などの固体物性を明確にすることが規定され、医薬化合物の結晶多形の探索は非常に強く求められているのであるから(摘記2b、摘記3a、摘記4a、摘記5a、摘記7a)、引1発明のScPA(環状ホスホン酸のナトリウム塩)につき、その「安定性」や「溶解度」などの有用性の観点から、その「結晶多形」を探索することには、強い動機付けがあるといえる。 そして、式(I)の化合物の結晶を得るにあたり、結晶を得るためによく用いられる手法を試すことにより、一般に使用される晶析溶媒を用い、よく用いられる晶析方法で結晶化を行って、粉末X線回折によって結晶を同定し、安定性等に優れた結晶を選ぶことは、以下に述べるとおり、当業者が通常行うことであると認められる。 (イ)結晶化の手法について a 例えば、引用例2(摘記2b)の「一般に使用される晶析溶媒としては,…エタノール,1-プロパノール,2-プロパノール…などである。結晶化はおおよそ以下のような方法を用いる。(1)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する。熱時濾過し,残留試料を除いた後,室温付近まで徐々に冷却する。」との記載にあるように、エタノールや1-プロパノールやイソプロピルアルコールを晶析溶媒として用い、室温付近まで徐冷することで、結晶化を行う手法は普通に知られている。 b そして、本願明細書の具体的記載を検討すると、本願明細書の段落0533以下に記載された実施例1~26のもののうち、例えば、同段落0548の「実施例6 2ccPAの結晶の製造(良溶媒:エタノール、晶析温度10℃) G5の製法で得られた環状ホスホン酸エステル(9a)1.0gを、メチルエチルケトン11.6mlに溶解させ、これにヨウ化ナトリウム522.3mgを加えて、加熱還流下、13時間反応させた。反応後、反応液を濃縮し、次いでエタノール7.5mlに60℃で溶解させ、10℃に冷却し、1時間熟成した。その後、結晶を濾過し、アセトン30mlで洗浄し、減圧下で乾燥させて、純度98.890%の2ccPA 846.6mgを得た。」との記載や、同段落0551以下の実施例7の「2ccPAの結晶の製造(良溶媒:エタノール、晶析温度20℃」との記載や、同段落0560以下の実施例10及び11の「2ccPAの結晶の製造(良溶媒1-プロパノール、晶析温度10℃)」又は「20℃」との記載や、同段落0568以下の実施例13の「2ccPAの結晶の製造(良溶媒:イソプロピルアルコール、晶析温度20℃)」との記載にあるものは、上記aに示した周知慣用の一般的な手法(結晶析出溶媒としてエタノールなどの周知のものを用い、結晶析出方法として周知の冷却法を用いるという手法)を用いるものである。 c そして、上記aの一般的な手法で得た、本願明細書の段落0550に記載された、d(格子面間隔/Å)の値が、15.8248Å、9.5425Å、4.9078Å、4.7920Å、4.4937Å、4.1796Å、及び3.7762Åである実施例6の結晶〔本件特許の請求項2の(f)の選択肢のもの〕、同段落0553に記載された、d値が、16.0548Å、9.6046Å、4.9294Å、4.8075Å、4.5073Å、4.2070Å、3.7858Åである実施例7の結晶〔同(g)の選択肢のもの〕、並びに同実施例10~11及び13の結晶の各々は、いずれも本1発明の「15.7684~16.1724」等の数値範囲で特定される「d(格子面間隔/Å)」の要件の各々を満たす結晶である。したがって、本1発明の結晶(少なくとも実施例6~7、10~11及び13の具体例に示される結晶)は、周知慣用の結晶化の手法を用いることにより結晶を得ることができるから、当業者が容易になし得た技術的事項である。 d 審判請求人は、令和6年3月8日付けの意見書の(3)本発明が進歩性を有する事の説明の項(第2~3頁)において、「本発明(補正後の請求項1及び2)の記載は、相互に、同じ2ccPAの結晶のピークの組み合わせとして表しており、相互に、2ccPAの結晶として同じものを意味します。」と主張している。 したがって、本願請求項2に記載された発明の(a)~(y)の要件を満たす結晶(実施例1~25の結晶)の各々は、相互に同じ結晶を意味すると理解する他なく、本1発明の結晶は、本願優先日時点における一般的な手法によって得ることができるといわざるを得ない。 ウ 結晶のX線回折法(XRD)分析による同定について 引用例2の第63頁(摘記2a)の「得られた析出物の結晶状態を粉末X線回折,ラマンスペクトルや熱分析などを用いて同定するものである。」との記載にあるように、得られた析出物の結晶状態を「粉末X線回折」を用いて同定することは、当業者にとって周知慣用の常套手段にすぎない。 してみると、上記(α)の相違点に係る構成を導入することは、医薬化合物の候補品である引1発明のScPA(環状ホスホン酸のナトリウム塩)について、その多形体の結晶を探索するという医薬化合物の分野における通常の動機付けに従って、本願優先日前の技術水準における一般的な結晶化の手法により析出させた結晶を、周知慣用のX線回折法(XRD)分析により同定した結果を面間隔であるd値で提示したに過ぎないものといえる。 エ 本1発明の効果について (ア)「安定性」や「純度」の利点について 本1発明の効果について検討する。 本願明細書には、段落0111の「環状ホスホン酸ナトリウム塩(2ccPA)の結晶は、高純度であり、かつ保存安定性に優れるという利点を有する。」との記載や、同段落0625の「試験例1:35℃安定性試験 実施例3で得られた2ccPAの結晶(本発明)、比較例5で得られた2ccPA(文献処方)及び2ccPAのアモルファスをそれぞれ35℃で1ヶ月間保存して、安定性試験を実施した。結果を下記表1に示す。」という「実施例3」の具体例を踏まえた「本発明の製造方法で得られた2ccPAの結晶は、高純度であり、且つ、安定な結晶であった。」(同段落0630)との記載がある。 しかしながら、例えば、国際公開第2011/152411号(周知例A)の段落0081の「I形およびII形結晶は比較的安定であったが、非晶質(アモルファス)は0.2%を越える不純物を生じた。」との記載にあるように、一般的に結晶がアモルファスよりも安定であることは当業者の技術常識である。 また、例えば、国際公開第2013/069297号(周知例B)の段落0010の「得られた結晶の中で結晶Aおよび結晶Bは、結晶Cおよび複数の擬似結晶形に比べ温度および湿度の影響による純度低下(分解)が抑制されており、温度や湿度に対する保存安定性が非常に高いことが確認された。」との記載にあるように、結晶多形間に「純度」や「安定性」の点で、一定の有意差があることも当業者の技術常識である。 してみると、結晶多形の探求の結果として得られる「安定性」や「純度」の利点は、当業者にとって普通に期待される効果にすぎず、本1発明は、引1発明に本願優先日当時の技術常識を適用して、本1発明を想定した場合の効果と比較して、予測できない顕著な効果とはいえない。 (イ)審判請求書の「比較合成例2」の試験結果について 令和4年3月22日付けの審判請求書の3.(d)本願発明と引用発明との対比の項(第3~4頁)において、審判請求人は、引用例1の段落0035の記載にある方法と同様の方法を追試したとし、その比較合成例2で、0.05Mの苛性ソーダ水溶液を添加し、5分間攪拌し、2時間静置後、分液し、水相を凍結乾燥することで、凍結乾燥品2ccPAを得て、その実験例1で、比較合成例2で得られた2ccPAをメタノールに溶解させ、10℃に冷却し、アセトンを滴下したが、2ccPAが全く得られず、壁面に粘性オイル状成分が付着した状態となったと主張している。 しかしながら、上記「比較合成例2」及び「実験例1」においては、引用例1の段落0035(摘記1b)の「少量の0.02Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、分液操作を行い、ナトリウム塩(7)として目的化合物を抽出、精製する。」との記載にある「精製」の工程、あるいは同段落0048(摘記1b)の「シリカゲルカラムにかけ、…分取した。」との記載にある分画(分離・精製)がなされておらず、苛性ソーダ水(水酸化ナトリウム水溶液)の濃度も異なっているなど、その基本的な実験条件が同じではなく、本願明細書の段落0624~0625の、収率57%で、純度67.034%で得られた「比較例5」の「2ccPA(文献処方)」のように、その収率や純度のデータも明らかにされていない。 したがって、引用例1の実験例の追試といえない実験結果に基づく、審判請求人の上記主張は採用できない。 また、同項(第7頁)において、審判請求人は、引用例1に記載の方法によって2ccPAを合成すると、TMSBrの酸性が強いために、環状ホスファチジン酸の開環(分解)が生じ、この開環体と環状ホスファチジン酸との極性が酷似しているため分離することが困難であり、2ccPAの結晶を得ることが不可能である旨の主張をしているが、令和5年10月2日付けの意見書(第2頁)で示された、審判請求書に添付した比較合成例2で得られた凍結乾燥品2ccPAのHPLC(高速液体クロマトグラフ法)の「 [図:0001412540000011.jpg] 」というスペクトルからみて、リテンションタイムが15.1分の開環体と、同20.8分の2ccPAは、容易に分離・精製できるものと解される。 してみると、上記「比較合成例2」及び「実験例1」の試験結果によって本1発明に予測できない顕著な効果があるとは認められない。 (ウ)令和6年3月8日付けの意見書の主張について 令和6年3月8日付けの意見書の(3)本発明が進歩性を有する事の説明の項(第2~3頁)において、審判請求人は「本発明の各要件を満たす2ccPAの結晶は、本発明の(c)の要件を満たす結晶(実施例3)が実証する通り、本発明の(a)~(b)及び(d)~(y)の要件を満たす結晶(実施例1~2及び4~25)についても、本願明細書の「試験例1:35℃安定性試験」において、比較例5で得られた2ccPA(結晶化前の精製をせずに得られたもの)及び2ccPAのアモルファスに比べて、安定な結晶である事が、十分に理解出来ます。斯くして、本発明は、有利な効果を奏し、進歩性を有します。」と主張する。 しかしながら、結晶の方が、アモルファスよりも、安定で、純度が高いことは、当業者に予測できない顕著に優れた効果であるとは認められない。 第5 むすび 以上総括するに、本1発明は、引用例1~7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2022-004198

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決9件(大塚化学株式会社)
  • 2025-003280拒絶査定不服審判 / 2026-04-22 / 原査定取消(特許/登録すべき)湿式潤滑用摺動部材、軸受用保持器、および転がり軸受
    同じ当事者: 大塚化学株式会社
  • 2018-000891拒絶査定不服審判 / 2020-03-24 / 請求不成立
    同じ当事者: 大塚化学株式会社
  • 2022-700770異議申立 / 2022-11-29 / 維持摩擦調整材、摩擦材組成物、摩擦材、及び摩擦部材
    同じ当事者: 大塚化学株式会社
  • 2022-700771異議申立 / 2022-11-29 / 維持摩擦調整材、摩擦材組成物、摩擦材、及び摩擦部材
    同じ当事者: 大塚化学株式会社
  • 2022-700054異議申立 / 2022-06-28 / 維持チタン酸カリウム粉末、摩擦調整材、樹脂組成物、摩擦材、並びに摩擦部材
    同じ当事者: 大塚化学株式会社
検索でもっと見る →
同じ論点・分野の審決(審決分類)108件(121・C07F)
  • 2024-009723拒絶査定不服審判 / 2026-05-12 / 原査定取消(特許/登録すべき)光学活性な2-アミノ-ホスホノアルカン酸、光学活性な2-アミノ-ホスホノアルカン…
    共通の審決分類: 121・C07F
  • 2024-001939拒絶査定不服審判 / 2026-04-28 / 原査定取消(特許/登録すべき)電子素子のための材料
    共通の審決分類: 121・C07F
  • 2024-004849拒絶査定不服審判 / 2026-03-23 / 原査定取消(特許/登録すべき)結晶
    共通の審決分類: 121・C07F
  • 2024-002983拒絶査定不服審判 / 2026-02-24 / 原査定取消(特許/登録すべき)ジルコニウム錯体の合成方法
    共通の審決分類: 121・C07F
  • 2023-005562拒絶査定不服審判 / 2026-01-06 / 原査定取消(特許/登録すべき)複雑な混合リンカー構造
    共通の審決分類: 121・C07F

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存