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特許拒絶査定不服審判

2022-000391

記録方法、及び記録装置

審判番号
2022-000391
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-190597外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年01月11日
審決日
2022年12月08日
公報発行日
2023年02月24日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (B41M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2017-190597「記録方法、及び記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月25日出願公開,特開2019- 64087〕について,次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は,成り立たない。

理由

目次 ▾ 13項目
理 由

1 手続の経緯

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本件査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,平成29年9月29日の出願であって,令和3年5月19日付けで拒絶理由が通知され,同年7月26日に手続補正書及び意見書が提出されたが,同年10月6日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされた。

本件査定不服審判事件は,「原査定を取り消す。本願の発明は特許すべきものとする,との審決を求める。」との趣旨で,令和4年1月11日に請求され,審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

2 本件出願の請求項1に係る発明について

本件出願の請求項1に係る発明(以下,「本件発明」という。)は,令和4年1月11日に提出された手続補正書による補正後の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ,当該請求項1の記載は,次のとおりである。

「色材と樹脂粒子と有機溶剤と水とを含むインク組成物と,該インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する凝集液と,を用いて記録する記録方法であって,
前記凝集液を被記録媒体の記録領域に付着させる凝集液付着工程と,
前記インク組成物を記録用ヘッドから吐出して前記記録領域に付着させるインク組成物付着工程と,
送風の乾燥手段により,前記凝集液及び前記インク組成物が付着した前記記録領域を,該記録領域の有機溶剤量が2.0mg/inch2以下に乾燥し,記録物を得る乾燥工程と,を有し,
前記送風の風速が0.5~5.0m/secである,
記録方法。」

3 原査定の拒絶の理由の概要

本件発明は,実質上本件補正前の請求項2に係る発明に相当するところ,本件補正前の請求項2に対する原査定の拒絶の理由は,概略,次のような理由(以下,「査定理由」という。)を含んでいる。

本件発明は,本件出願の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び周知技術(周知例:引用文献3,引用文献6)に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

査定理由で引用された引用例及び周知例は,次のとおりである。

引用文献1:特開2017-110182号公報
引用文献3:特開2015-131404号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:特開2010-115854号公報(周知技術を示す文献)

4 引用文献1

(1)引用文献1の記載

引用文献1は,本件出願の出願前である平成28年10月31日に,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって,当該引用文献1には,次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)

ア 「【請求項11】
インク組成物の成分を凝集又は増粘させることが可能な凝集剤を含有する凝集液を被記録媒体に付着させる凝集液付着工程と,
色材と水と有機溶剤とポリマー粒子とを含有するインク組成物を,表面温度が38℃以下である被記録媒体へ付着させるインク組成物付着工程と,を有し,
前記インク組成物において,前記有機溶剤は,標準沸点が150℃以上250℃以下である有機溶剤を含み,標準沸点が280℃以上のアルキルポリオールである有機溶剤の含有量が該インク組成物の総量に対して,2.0質量%以下である,記録方法。」
イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,インク組成物,及び記録方法に関する。
【背景技術】
続きを表示(全20行)
【0002】
インクジェット記録方法は,比較的単純な装置で,高精細な画像の記録が可能であり,各方面で急速な発展を遂げている。その中で,より安定して高品質な記録物を得ることについて種々の検討がなされている。
【0003】
例えば,特許文献1には,速印刷する際にインクの乾燥性が優れ,かつインクの保存安定性に優れているインクを提供することを目的として,インクジェット用インクであって,インクジェット用インクを硬化させるための反応液と共に用いるためのものであり,水,水溶性有機溶剤,着色剤,バインダ樹脂を含み,バインダ樹脂は,コア部と当該コア部を覆うシェル部とにより構成され,シェル部の表面に反応液と反応する反応性基を有し,シェル部のMFT(最低造膜温度)がコア部のMFTよりも高いことを特徴とするインクジェット用インクが開示されている。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているようなインク組成物は反応液と共に用いるものであるが,特定のバインダ樹脂を含むことにより,一定程度のインク組成物の乾燥性を得ることができる。また,このインク組成物は,特定のバインダ樹脂を含むことにより,吐出安定性にも優れる。しかしながら,このようなインク組成物は,標準沸点が280℃以上であるアルキルポリオールの含有量が所定量を超えていることに起因して,被記録媒体に着弾した後の乾燥性をより高い水準で得ることができず,耐擦性が十分ではなく,得られた記録物にブリードが生じる場合がある。
【0006】
そこで,本発明は,上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり,被記録媒体に凝集液及びインク組成物を付着させた場合に,優れた吐出安定性を維持しつつ,耐擦性に優れ,かつ記録物のブリードが抑制されるインク組成物を提供することを第1の目的とする。また,本発明は,38℃以下の被記録媒体に凝集液及びインク組成物を付着させた場合に,優れた吐出安定性を維持しつつ,記録物のブリードが抑制される記録方法を提供することを第2の目的とする。・・・(中略)・・・
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは,上記課題を解決するために鋭意検討した結果,色材と水と有機溶剤とポリマー粒子とを含み,上記有機溶剤が所定範囲の標準沸点を有する有機溶剤を含み,アルキルポリオールである有機溶剤の含有量が所定量以下であり,上記ポリマー粒子がコアポリマーとシェルポリマーとを備えるコア-シェル構造を有し,該シェルポリマーのガラス転移温度が該コアポリマーのガラス転移温度よりも高いインク組成物を,該インク組成物と該インク組成物の成分を凝集又は増粘させることが可能な凝集剤を含有する凝集液とを用いて記録する記録方法に用いることにより,吐出安定性,耐擦性及び画質に優れることを見出して,本発明を完成させた。
・・・(中略)・・・
【0011】
加えて,本発明の記録方法の他の態様は,インク組成物の成分を凝集又は増粘させることが可能な凝集剤を含有する凝集液を被記録媒体に付着させる凝集液付着工程と,色材と水と有機溶剤とポリマー粒子とを含有するインク組成物を,表面温度が38℃以下である被記録媒体へ付着させるインク組成物付着工程と,を有し,前記インク組成物において,前記有機溶剤は,標準沸点が150℃以上250℃以下である有機溶剤を含み,かつ,標準沸点が280℃以上のアルキルポリオールである有機溶剤の含有量が,該インク組成物の総量に対して,0.5質量%以下であると好ましく,前記ポリマー粒子は,構成単位として,少なくとも芳香族モノマー単位を含有すると好ましい。」
ウ 「【発明を実施するための形態】
【0013】
以下,必要に応じて図面を参照しつつ,本発明の実施の形態(以下,「本実施形態」という。)について詳細に説明するが,本発明はこれに限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。・・・(中略)・・・
【0090】
続きを表示(全33行)
〔記録方法〕
本実施形態の記録方法は,大きく二つの形態に分けることができる。本実施形態の記録方法の一形態(以下,「第1記録方法」という。)は,本実施形態のインク組成物と,上述した凝集液とを,被記録媒体へ付着させる付着工程を有する。・・・(中略)・・・
【0091】
本実施形態の記録方法の他の形態(以下,「第2記録方法」という。)は,凝集液を被記録媒体に付着させる凝集液付着工程と,色材と水と有機溶剤とポリマー粒子とを含有するインク組成物を,表面温度が38℃以下である被記録媒体へ付着させるインク組成物付着工程とを有する。また,第2記録方法に用いられる上記インク組成物において,有機溶剤は,標準沸点が150℃以上250℃以下である有機溶剤を含み,かつ,標準沸点が280℃以上のアルキルポリオールである有機溶剤の含有量が,該インク組成物の総量に対して,2.0質量%以下,好ましくは0.5質量%以下である。第2記録方法を用いることにより,優れた吐出安定性を維持しつつ,得られる記録物の耐擦性及び画質(ブリード抑制)を向上させることができる。本実施形態の第2記録方法によると,優れた吐出安定性,耐擦性,及び画質(ブリード抑制)に加えて,光沢性にも優れた記録物を得ることができる。すなわち,第2記録方法は,用いるインク組成物において,有機溶剤の標準沸点が150℃以上250℃以下である有機溶剤を含み,かつ,標準沸点が280℃以上のアルキルポリオールである有機溶剤の含有量が該インク組成物の総量に対して2.0質量%以下,好ましくは0.5質量%以下とすることに加え,被記録媒体の表面温度を38℃以下とし,ポリマー粒子を上述したコア-シェル構造を有するものに限定しなくても,従来の記録方法と比べて,優れた吐出安定性を維持しつつ,得られる記録物の耐擦性及び画質(ブリード抑制)を向上することができる。
・・・(中略)・・・
【0093】
以下,第1及び第2記録方法における,凝集液付着工程とインク組成物付着工程とを併せて説明する。
【0094】
〔凝集液付着工程〕
凝集液付着工程は,凝集液を被記録媒体に対して付着させる工程である。凝集液を付着させる手段としては,特に限定されないが,例えば,ローラー塗布,スプレー塗布,インクジェット方式を利用することができる。このなかでも,インクジェット方式により付着させることが好ましい。凝集液をインクジェット方式により付着させることにより,メディアの面質変化の抑制や,耐擦性がより向上する傾向にある。
・・・(中略)・・・
【0097】
〔インク組成物付着工程〕
インク組成物付着工程は,インク組成物を被記録媒体に対して付着させる工程であり,上述した凝集液付着工程と同時に又は凝集液付着工程の前後に設けることができるが,本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から,凝集液付着工程の後に設けることが好ましい。インク組成物を付着させる手段としては,特に限定されないが,例えば,ローラー塗布,スプレー塗布,インクジェット方式を利用することができる。このなかでも,インクジェット方式により付着させることが好ましい。インク組成物をインクジェット方式により付着させることにより,メディアの面質変化の抑制や,耐擦性がより向上する傾向にある。
【0098】
耐擦性をさらに高める観点から,インク組成物付着工程は,加熱した被記録媒体へインク組成物を付着させる工程であることが好ましい。つまりインク組成物付着工程中,及び又はインク組成物付着工程の前に被記録媒体を加熱する工程を有することが好ましい。また,被記録媒体へ付着したインク組成物を早期に乾燥させてブリードを抑制させ画質を向上させるためにも上記工程が好ましい。インク組成物を付着させる工程における被記録媒体を加熱する工程は1次加熱工程とも言う。加熱した被記録媒体の表面温度は,下限を限定するものではないが,25℃(常温)以上であることが好ましいが,30℃以上であることがより好ましく,32℃以上であることがさらに好ましく,35℃以上であることがよりさらに好ましい。また,該表面温度は,上限を限定するものではないが,80℃以下であることが好ましく,60℃以下であることがより好ましく,50℃以下であることがさらに好ましく,40℃以下であることが特に好ましく,38℃以下であることがより特に好ましい。なお,第2記録方法においては,インク組成物付着工程における上記表面温度が38℃以下であること以外は第1記録方法と同様にすればよい。第2記録方法において,上述のインク組成物及び凝集液を用い,かつ被記録表面温度が38℃以下の被記録媒体においても,優れた吐出安定性,耐擦性,画質(ブリード抑制),及び光沢性が得られる。
【0099】
インク組成物及び凝集液を付着させた記録領域を乾燥させた後の乾燥膜の膜厚は,好ましくは0.10~3.0μmであり,より好ましくは0.10~2.0μmであり,さらに好ましくは0.10~1.0μmである。乾燥膜の膜厚が0.10μm以上であることにより,得られる記録物のベタムラや罫線玉がより抑制される傾向にある。また,乾燥膜の膜厚が3.0μm以下であることにより,得られる記録物の光沢度変化がより抑制される傾向にある。ここで,「記録領域」とは,被記録媒体表面上の画像が形成される領域をいう。
・・・(中略)・・・
【0109】
〔記録装置〕
次に,本実施形態の記録方法に用い得る記録装置について説明する。1は,本実施形態に用い得るインクジェット記録装置1の一例の全体の概略を示す側面図である。図1に示すように,インクジェット記録装置1は,被記録媒体の給送部10と,搬送部20と,記録部30と,乾燥装置90と,排出部70とを備えている。
【0110】
このうち,乾燥装置90は,凝集液を乾燥させる第1乾燥部40と,本実施形態に係る記録方法により得られた記録物を乾燥する第2乾燥部50とを有する。
・・・(中略)・・・
【0114】
このうち,プラテン34は,被記録媒体Fを裏面から支持することができるように設けられている。また,プラテン34には,被記録媒体Fに付着した凝集液,並びに被記録媒体Fに付着したインク組成物を乾燥させる第1乾燥部40が設けられている。さらに,プラテン34より送り方向Y下流側には,第2送りローラー43が設けられている。そして,第2送りローラー43は,記録された被記録媒体Fを送り方向Y下流側である第2乾燥部50へ送ることができるように構成されている。
【0115】
また,第2乾燥部50は,被記録媒体Fに付着した凝集液,並びに被記録媒体Fに付着したインク組成物をさらに乾燥させることができるように構成されている。さらに,第2乾燥部50の出口64近傍には,第3送りローラー65が設けられている。第3送りローラー65は,被記録媒体Fの裏面と接触するように配設され,送り方向Y下流側である排出部70へ被記録媒体Fを送ることができるように構成されている。被記録媒体Fに付着した凝集液,並びに被記録媒体Fに付着したインク組成物をさらに乾燥させる工程を被記録媒体を加熱して行うことを二次加熱工程という。二次加熱工程における被記録媒体の表面温度は,記録物の耐擦性を優れさせ被記録媒体の熱変形を防止する点で,好ましくは50~200℃であり,より好ましくは60~150℃であり,さらに好ましくは70~120℃である。」
エ 「【実施例】
【0117】
以下,本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。本発明は,以下の実施例によって何ら限定されるものではない。なお,下記において,「コア-シェル構造を有するポリマー粒子」を「コアシェル型ポリマー粒子」という。
【0118】
続きを表示(全80行)
[コアシェル型ポリマー粒子の水分散液用の材料]
スチレン(Tg:80℃)
n-ブチルアクリレート(Tg:-55℃)
メチルアクリレート(Tg:10℃)
メチルメタクリレート(Tg:105℃)
アクリル酸(Tg:106℃)
【0119】
[コアシェル型ポリマー粒子の水分散液の調製]
反応容器に滴下装置,温度計,水冷式還流コンデンサー,攪拌機を備えた反応容器を準備した。その反応容器にイオン交換水100質量部を入れ,攪拌しながら窒素雰囲気下,70℃で,重合開始剤の過硫酸アンモニウムを0.2部添加した。次いで,スチレン13.5質量部,メチルアクリレート12.0質量部,メチルメタクリレート21.0質量部,及びアクリル酸3.5質量部を含有するモノマー溶液を準備した。そのモノマー溶液を,上記反応容器に滴下して反応させてシェルポリマーを重合し調製した。その後,過硫酸カリウム0.2質量部,スチレン35.0質量部,及びn-ブチルアクリレート15.0質量部の混合液を上記反応容器に滴下して70℃で攪拌しながら重合反応させた。その後,水酸化ナトリウムで中和しpHを8~8.5の範囲に調整して0.3μmのフィルターでろ過することにより,コアシェル型ポリマー粒子の水分散液(ポリマー粒子A)を調製した。
・・・(中略)・・・
【0124】
表1に,ポリマー粒子A~Iにおける,各モノマーの含有割合,平均粒子径,酸価,及びTgを併記した。
【0125】
【表1】
[図:0001393739000001.jpg]
【0126】
[顔料分散液の調製]
まず,攪拌機,温度計,還流管及び滴下ロートを備えた反応容器を窒素置換した。その後,ベンジルメタクリレート20質量部,2-エチルヘキシルメタクリレート5.0質量部,ブチルメタクリレート15質量部,ラウリルメタクリレート10質量部,メタクリル酸2.0質量部,t.ドデシルメルカプタン0.3質量部を上記反応容器に入れて70℃に加熱した。次いで,別に用意したベンジルメタクリレート150質量部,アクリル酸15質量部,ブチルメタクリレート50質量部,t-ドデシルメルカプタン1.0質量部,メチルエチルケトン20質量部及びアゾビスイソブチロニトリル1.0質量部の混合液を滴下ロートに入れて4時間かけて上記反応容器に滴下しながら分散ポリマーを重合反応させた。次に,反応容器にメチルエチルケトンを添加して40質量%濃度の分散ポリマー溶液を調製した。
【0127】
上記分散ポリマー溶液40質量部,シアン顔料としてクロモファインブルー C.I.Pigment Blue15:3(大日精化工業株式会社製,商品名)30質量部,0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100質量部,及びメチルエチルケトン30質量部を混合し,アルティマイザー25005(スギノマシン株式会社製)で8パスの分散処理を行った。得られた混合物にイオン交換水を300質量部添加して,ロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンの全量と水の一部を留去した後,0.1mol/Lの水酸化ナトリウムで中和してpH9に調整した。次に,シアン顔料の体積平均粒径を粒度分布計で測定しながら,体積平均粒径が100nmとなるまで分散してから,3.0μmのメンブレンフィルターでろ過して,固形分(分散ポリマーと顔料)が20質量%である顔料分散液を得た。
【0128】
[インク組成物用の材料]
下記の記録物の作製において使用したインク組成物用の主な材料は,以下の通りである。
〔色材〕
上記顔料分散液
〔有機溶剤〕
1,2-ヘキサンジオール(標準沸点:223℃)
プロピレングリコール(標準沸点:188℃)
2-ピロリドン(標準沸点:245℃)
グリセリン(標準沸点:290℃)
〔ポリマー粒子〕
コアシェル型ポリマー粒子の水分散液A~I
〔ワックス〕
AQUACER593(商品名,ビック・ケミー社製)
〔界面活性剤〕
BYK348(商品名,ビック・ケミー社製)
【0129】
[インク組成物の調製]
各材料を下記の表2に示す組成で混合し,十分に撹拌し,インク組成物を得た。なお,下記の表2中,数値の単位は質量%であり,合計は100.0質量%である。
【0130】
【表2】
[図:0001393739000002.jpg]
【0131】
[凝集液用の材料]
下記の記録物の作製において使用した凝集液用の主な材料は,以下の通りである。
〔凝集剤〕
硫酸マグネシウム
アリルアミン系樹脂(ニットーボーケミカル社製,商品名「PAA-HCL-01」)
〔溶媒〕
プロピレングリコール
2-ピロリドン
〔界面活性剤〕
BYK348(商品名,ビック・ケミー社製)
【0132】
[凝集液の調製]
各材料を下記の表3に示す組成で混合し,十分に撹拌し,凝集液を得た。なお,下記の表3中,数値の単位は質量%であり,合計は100.0質量%である。
【0133】
【表3】
[図:0001393739000003.jpg]
【0134】
〔記録物の作製〕
プラテンにヒーターを取り付けたPX-G930(エプソン社製の商品名)の改造機であるインクジェット方式のプリンタを準備し,プラテンにおける被記録媒体の表面温度が表4及び表5中に示す一次加熱温度になるようヒーターで調整した。次に,プリンタに被記録媒体を移送し,ヘッドに充填した凝集液を,720×720dpiの解像度,1.7mg/inch2の付着量で,インクジェット方式により塗布した。次いで,記録用ヘッドに充填したインク組成物を,凝集液付着面に,720×720dpiの解像度,12mg/inch2の付着量でインクジェット塗布し,被記録媒体上に記録物を得た。その後,被記録媒体をプリンタから排出し,その被記録媒体を80℃の環境に10分間静置して乾燥した(二次加熱)。ただし,記録例19においては,二次加熱の条件を80℃から25℃(常温)に変更して行った。なお,被記録媒体として,コート紙(リンテック社製の商品名「PET50A PLシン」)を用いた。
【0135】
〔耐擦性〕
得られた記録物を,学振型摩擦堅牢度試験機AB-301(テスター産業社製の商品名)に白綿布(JIS L 0803準拠)を取り付けた摩擦子で,荷重300gをかけて記録物が剥がれるまで,又は,30往復擦った。そして,被記録媒体の記録物の剥がれを目視で観察し,下記評価基準により耐擦性を評価した。得られた結果を,表4及び表5に示す。
(評価基準)
A:記録物の傷又は剥離が認められなかった。
B:擦った面積(ストローク面積)の20%未満に,記録物の傷又は剥離が認められた。
C:擦った面積(ストローク面積)の20%以上50%未満に,記録物の傷又は剥離が認められた。
D:擦った面積(ストローク面積)の50%以上90%未満に,記録物の傷又は剥離が認められた。
E:擦った面積(ストローク面積)の90%以上に,記録物の傷又は剥離が認められた。
・・・(中略)・・・
【0140】
【表5】
[図:0001393739000004.jpg]
」

(2)引用文献1の記載から把握される発明

前記(1)アないしエで摘記した引用文献1の記載から,引用文献1に,請求項11(第2記録方法)の実施例である「記録例11」の記録方法に係る発明が記載されていると認められるところ,引用文献1の【0099】の「インク組成物及び凝集液を付着させた記録領域」という記載や凝集剤の機能からみて,凝集液が,少なくとも,被記録媒体表面上の画像が形成される「記録領域」に塗布され,インク組成物1が,インク組成物1が付着された「記録領域」にインクジェット塗布されることが自明であり,引用文献1の【0114】の記載から,プラテンによる被記録媒体の一次加熱が,凝集液付着工程ばかりでなく,インク組成物付着工程においても行われることが把握され,かつ,引用文献1の【0127】の「メチルエチルケトンの全量と水の一部を留去」という記載から,実施例11のインク組成物における顔料分散液は,水を分散媒としていて有機溶剤を含有しないことが理解されるから,前記「記録例11」の記録方法に係る発明は,次のようなものである。

「インク組成物の成分を凝集又は増粘させることが可能な凝集剤を含有する凝集液を被記録媒体に付着させる凝集液付着工程と,色材と水と有機溶剤とポリマー粒子とを含有するインク組成物を,表面温度が38℃以下である被記録媒体へ付着させるインク組成物付着工程とを有し,前記インク組成物において,前記有機溶剤は,標準沸点が150℃以上250℃以下である有機溶剤を含み,かつ,標準沸点が280℃以上のアルキルポリオールである有機溶剤の含有量が,該インク組成物の総量に対して,2.0質量%以下である,記録方法であって,
前記凝集液に,凝集剤である硫酸マグネシウムを10.0質量%,プロピレングリコール(標準沸点:188℃)を10.0質量%,2-ピロリドン(標準沸点:245℃)を15.0質量%,界面活性剤であるビック・ケミー社製BYK348を5.0質量%含有し,残量を純水とする凝集液1を用い,
前記インク組成物として,固形分である分散ポリマーと顔料が合計20質量%であり有機溶剤を含有しない顔料分散液を2.0質量%,1,2-ヘキサンジオール(標準沸点:223℃)を5.0質量%,プロピレングリコール(標準沸点:188℃)を5.0質量%,2-ピロリドン(標準沸点:245℃)を10.0質量%,ポリマー粒子としてのコアシェル型ポリマー粒子の水分散液Aを3.0質量%,ワックスであるビック・ケミー社製AQUACER593を0.5質量%,界面活性剤であるビック・ケミー社製BYK348(商品名,)を1.0質量%含有し,残量を純水とするインク組成物1を用い,
前記凝集液付着工程では,プラテンにヒーターを取り付けたPX-G930(エプソン社製の商品名)の改造機であるインクジェット方式のプリンタを準備し,前記プラテンにおける被記録媒体の表面温度が一次加熱温度35℃になるよう前記ヒーターで調整し,次に,前記プリンタに前記被記録媒体を移送し,ヘッドに充填した前記凝集液1を,720×720dpiの解像度,1.7mg/inch2の付着量で,インクジェット方式により,少なくとも,前記被記録媒体の記録領域に塗布し,
前記インク組成物付着工程では,前記プラテンにおける被記録媒体の表面温度が一次加熱温度35℃になるよう前記ヒーターで調整した状態で,記録用ヘッドに充填したインク組成物1を,720×720dpiの解像度,12mg/inch2の付着量で,前記凝集液1が付着された前記被記録媒体の前記記録領域にインクジェット塗布し,
前記インク組成物付着工程の後に,前記被記録媒体を加熱して前記被記録媒体に付着した前記凝集液1及び前記インク組成物1をさらに乾燥させる二次加熱工程として,前記被記録媒体を80℃の環境に10分間静置して乾燥する工程を行い,
テスター産業社製学振型摩擦堅牢度試験機AB-301にJIS L0803準拠の白綿布を取り付けた摩擦子で,荷重300gをかけて記録物が剥がれるまで,又は,30往復擦るという耐擦性の評価において,擦った面積(ストローク面積)の20%未満に,記録物の傷又は剥離が認められるという評価結果Bの記録物が得られる,
記録方法。」(以下,「引用発明」という。)

5 本件発明と引用発明の対比

(1) 引用発明の「顔料」,「コアシェル型ポリマー粒子」,「『1,2-ヘキサンジオール(標準沸点:223℃)』,『プロピレングリコール(標準沸点:188℃)』,『2-ピロリドン(標準沸点:245℃)』」,「純水」,「インク組成物1」,「硫酸マグネシウム」,「凝集液1」,「被記録媒体」,「記録用ヘッド」,「記録領域」及び「記録方法」が,本件発明の「色材」,「樹脂粒子」,「有機溶剤」,「水」,「インク組成物」,「凝集剤」,「凝集液」,「被記録媒体」,「記録用ヘッド」,「記録領域」及び「記録方法」にそれぞれ対応する。

(2) 引用発明の「インク組成物1」(本件発明の「インク組成物」に対応する。以下,「5 本件発明と引用発明の対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に続く()内の文言は,当該引用発明の構成に対応する本件発明の発明特定事項を指す。)は,固形分である分散ポリマーと「顔料」(色材)が合計20質量%であり有機溶剤を含有しない顔料分散液と,「1,2-ヘキサンジオール(標準沸点:223℃)」(有機溶剤)と,「プロピレングリコール(標準沸点:188℃)」(有機溶剤)と,「2-ピロリドン(標準沸点:245℃)」(有機溶剤)と,ポリマー粒子としての「コアシェル型ポリマー粒子」(樹脂粒子)の水分散液Aと,「純水」(水)とを含有するから,本件発明の「色材と樹脂粒子と有機溶剤と水とを含むインク組成物」に相当する。

また,引用発明の「硫酸マグネシウム」(凝集剤)は,インク組成物の成分を凝集又は増粘させることが可能な凝集剤であり,かつ,本件明細書に記載された実施例において,「インク組成物の成分を凝集させる凝集剤」として用いている硫酸マグネシウム・七水和物と合致するから,本件発明の「インク組成物の成分を凝集させる凝集剤」に相当し,引用発明の「凝集液1」は,当該「硫酸マグネシウム」(インク組成物の成分を凝集させる凝集剤)を含有するから,本件発明の「インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する凝集液」に相当する。

そして,引用発明は,当該「凝集液1」(インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する凝集液)を被記録媒体に付着させる凝集液付着工程と,当該「インク組成物1」(色材と樹脂粒子と有機溶剤と水とを含むインク組成物)を被記録媒体に付着させるインク組成物付着工程とを有する「記録方法」(記録方法)であるから,「インク組成物1」(色材と樹脂粒子と有機溶剤と水とを含むインク組成物)と,「凝集液1」(インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する凝集液)と,を用いて記録する「記録方法」(記録方法)といえる。

したがって,引用発明と本件発明は,「色材と樹脂粒子と有機溶剤と水とを含むインク組成物と,該インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する凝集液と,を用いて記録する記録方法」である点で一致する。

(3) 引用発明の「凝集液付着工程」では,ヘッドに充填した「凝集液1」(凝集液)を,720×720dpiの解像度,1.7mg/inch2の付着量で,インクジェット方式により,少なくとも,「被記録媒体」(被記録媒体)の「記録領域」(記録領域)に塗布するから,引用発明の「凝集液付着工程」と本件発明の「凝集液付着工程」は,「凝集液を被記録媒体の記録領域に付着させる」点で一致する。

(4) 引用発明の「インク組成物付着工程」は,「記録用ヘッド」(記録用ヘッド)に充填した「インク組成物1」(インク組成物)を,720×720dpiの解像度,12mg/inch2の付着量で,「凝集液1」(凝集液)が付着された「被記録媒体」(被記録媒体)の「記録領域」(記録領域)にインクジェット塗布するから,引用発明の「インク組成物付着工程」と本件発明の「インク組成物付着工程」は,「インク組成物を記録用ヘッドから吐出して記録領域に付着させる」点で一致する。

(5) 引用発明の「二次加熱工程」は,被記録媒体を80℃の環境に10分間静置して,当該被記録媒体に付着した凝集液1及びインク組成物1を乾燥する工程であるから,本件発明の「乾燥工程」と,「乾燥手段により,凝集液及びインク組成物が付着した記録領域を乾燥し,記録物を得る」点で,一致する。

(6) 前記(1)ないし(5)に照らせば,本件発明と引用発明は,

「色材と樹脂粒子と有機溶剤と水とを含むインク組成物と,該インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する凝集液と,を用いて記録する記録方法であって,
前記凝集液を被記録媒体の記録領域に付着させる凝集液付着工程と,
前記インク組成物を記録用ヘッドから吐出して前記記録領域に付着させるインク組成物付着工程と,
乾燥手段により,前記凝集液及び前記インク組成物が付着した前記記録領域を乾燥し,記録物を得る乾燥工程と,を有する,
記録方法。」

である点で一致し,次の点で相違する又は一応相違する。

相違点1:

本件発明の乾燥工程では,送風の乾燥手段を用いて乾燥しており,当該送風の風速が0.5~5.0m/secであるのに対して,

引用発明の二次加熱工程では,80℃の環境に10分間静置して乾燥しており,送風の乾燥手段は用いていない点。

相違点2:

本件発明の乾燥工程は,記録領域を,記録領域の有機溶剤量が2.0mg/inch2以下に乾燥するのに対して,

引用発明の二次加熱工程によって,記録領域の有機溶剤量がいかなる値になるのかは定かでない点。

6 判断

(1)相違点1について

査定理由で周知例として例示された引用文献3(特に,【0123】,【0127】等を参照。)や,引用文献6(特に,【0120】,【0121】等を参照。)のほか,例えば,特開2015-67731号公報(特に,【0054】等を参照。以下,「周知例1」という。)や,特開2014-8675号公報(特に,【0025】,【0027】,【0028】等を参照。以下,「周知例2」という。)や,特開2015-143000号公報(特に,請求項17,【0040】,【0041】等を参照。以下,「周知例3」という。)等にもみられるように,被記録媒体に付着させたインク組成物を乾燥させる手段として,熱風を吹き付ける強制空気加熱手段を設けたり,被記録媒体を加熱する手段と送風する手段を併用するといった手段を用いることは,本件出願の出願前に周知技術であったと認められる。また,その場合の送風の風速として,0.5~5.0m/secという範囲内の値は,前記周知例2の【0042】の記載や,前記周知例3の請求項18及び【0082】の記載からみて,ごく普通に採用される値であったと認められる。

ここで,引用文献1の記載(特に,【0115】)からみて,引用発明の二次加熱工程において,被記録媒体に付着した凝集液及びインク組成物を乾燥させる手段としては,被記録媒体の表面温度を,50~200℃,さらに好ましくは70~120℃にできるものであれば,被記録媒体を80℃の環境に10分間静置するという手段に限られないことが,当業者に自明である。

そうすると,引用発明の二次加熱工程において,被記録媒体を80℃の環境に10分間静置するという手段に代えて,70~120℃という範囲内の温度の熱風を吹き付ける強制空気加熱手段を設けたり,被記録媒体の表面温度を70~120℃という範囲内の温度に加熱する手段と送風する手段とを併用するという手段を採用するとともに,前記強制空気加熱手段や前記送風する手段における風速を0.5~5.0m/secという範囲内の値に設定して,被記録媒体を80℃の環境に10分間静置した場合と同程度以上に乾燥させること,すなわち,引用発明を,相違点1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について

ア 引用文献1の【0005】及び【0006】等の記載から把握されるように,引用発明は,従来のインク組成物は,標準沸点が280℃以上であるアルキルポリオールの含有量が所定量を超えていることに起因して,被記録媒体に着弾した後の乾燥性をより高い水準で得ることができず,耐擦性が十分ではなく,得られた記録物にブリードが生じる場合があるという課題を解決するためになされたものであり,請求項11や【0011】等の記載からみて,引用発明は,標準沸点が280℃以上であるアルキルポリオールの含有量を,インク組成物の総量に対して2.0質量%以下にするという構成を採用することによって,被記録媒体に着弾した後の乾燥性を高いものにし,前記課題を解決したものと理解されるところ,引用発明の当該課題は,本件明細書の【0005】に記載された,得られる記録物のインク層中に有機溶剤が多量に残存していることに起因して,画像の耐久性に改良の余地があるという本件発明が解決しようとする課題と,得られた画像の乾燥が十分でないと画像の耐久性が不十分になるという点で共通するものである。

イ ここで,引用発明における有機溶剤の付着量についてみると,凝集液中の有機溶剤(プロピレングリコール,2-ピロリドン)の含有量が合計で25.0(=10.0+15.0)質量%,インク組成物中の有機溶剤(1,2-ヘキサンジオール,プロピレングリコール,2-ピロリドン)の含有量が合計で20.0(=5.0+5.0+10.0)質量%であり,凝集液及びインク組成物の付着量がそれぞれ1.7mg/inch2及び12mg/inch2であるから,凝集液付着工程及びインク組成物付着工程で被記録媒体上に塗布される凝集液及びインク組成物中の有機溶剤の量は,それぞれ,0.425(=1.7×25.0/100)mg/inch2及び2.4(=12×20.0/100)mg/inch2であり,被記録媒体には合計で2.825mg/inch2の有機溶剤が付着すると算出される。

そして,引用発明は,上記アに示したとおり,耐擦性を向上させるとともに,得られた記録物にブリード(本件明細書でいうところの滲み)が生じることを防止するために,被記録媒体に着弾した後の乾燥性をより高い水準としたものであり,耐擦性の程度やブリードの程度は,有機溶媒の乾燥の程度に依存するものと認められるところ,被記録媒体を乾燥するにあたって,どの程度まで有機溶媒を乾燥させるのかは,当該乾燥に要する時間と画像の耐久性の程度及びブリードの程度等とを総合的に勘案し,決定すれば足りる事項である。

また,引用発明において,有機溶媒を0.825mg/inch2以上乾燥させて,2.0mg/inch2以下とすることに技術的困難性は見出せない。

ウ したがって,引用発明を,相違点2に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

(3)効果について

ア 本件発明の効果は,本件出願の出願当時本件発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた程度のものであり,当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものではない。

イ なお,請求人は,審判請求書において,本件発明は,送風の乾燥手段を用いた上で,その送風の風速が0.5ないし5.0m/secとすることにより,一定の時間内でインク層中に有機溶剤が多量に残存することを防止することができ,それによって,画質に優れ,かつ画像の耐久性を向上させることができる,という優れた効果を奏することができる旨主張するので,以下に検討する。

風速が0.5ないし5.0m/secの送風乾燥手段を設けることにより,送風乾燥手段を設けないものに比べて,乾燥時間を短くできることは当業者に自明な効果であり,また,引用文献1の【0005】等には,被記録媒体への着弾後の乾燥性をより高水準のものとすることで,耐擦性を向上し,ブリードの抑制による画質の向上ができることが記載されていることから,画質に優れ,かつ画像の耐久性を向上させることができるという効果は,本件出願の出願時の技術常識等に基づいて,風速が0.5ないし5.0m/secの送風乾燥手段を設け,記録領域を,記録領域の有機溶剤量が2.0mg/inch2以下に乾燥するという本件発明の構成が奏するものとして当業者が予測できたものである。

また,本件明細書の【0131】及び【0135】の表2によれば,本件実施例は,引用発明の耐擦性の評価で用いているのと同じ試験器であるテスター産業社製学振型摩擦堅牢度試験機AB-301にJIS L0803準拠の白綿布を取り付けた摩擦子で,引用発明の耐擦性の評価における荷重より100g小さい荷重200gをかけて記録物が剥がれるまで,又は,引用発明の耐擦性の評価における往復数より10往復少ない20往復擦るという耐擦性の評価において,画像に擦り跡が認められず,白綿布へのインク組成物の付着も認められないという評価結果A,画像に擦り跡又は白綿布へのインク組成物の付着が認められるという評価結果B又は画像に擦り跡及び白綿布へのインク組成物の付着が認められるという評価結果Cと評価されているところ,前記評価結果Bと前記評価結果Cの違いは,本件明細書に明記はないものの,画像における擦り跡の面積の大小と考えるのが自然であるから,引用発明の耐擦性の評価における擦った面積(ストローク面積)の20%未満に,記録物の傷又は剥離が認められるという評価結果Bは,少なくとも,本件実施例の耐擦性の評価では,評価結果B以上に評価されるものと推察され,かつ,本件実施例において評価しているベタムラや滲みといった画質の点で,本件発明の各実施例が,引用発明に比べて当業者が予測できないほど顕著に優れているということもできないから,本件出願の出願時の技術常識等に基づいて,本件発明の効果が,風速が0.5ないし5.0m/secの送風乾燥手段を設け,記録領域を,記録領域の有機溶剤量が2.0mg/inch2以下に乾燥するという本件発明の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものということもできない。

したがって,請求人の主張は採用できない。

(4)小括

以上のとおりであるから,本件発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 むすび

前記6のとおり,本件発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。

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2022-000391

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