特許拒絶査定不服審判
2022-000129
多層組成物および製造方法
- 審判番号
- 2022-000129
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-526095
- 請求日
- 2022年01月05日
- 審決日
- 2023年04月24日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
- 【請求人代理人】園田・小林弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 五十嵐 努
- 審判官 田中 啓介
- 審判官 渡辺 努
- 分類
- P18 .121-WZ (H04R) / P18 .575-WZ (H04R)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第4号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-526095「多層組成物および製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 1日国際公開、WO2017/089560、平成30年12月13日国内公表、特表2018-537034〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)11月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年11月27日、(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年12月23日付け:拒絶理由通知書
令和3年 3月31日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月31日付け:拒絶査定
令和4年 1月 5日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 9月29日付け:拒絶理由通知書(当審:最後)
令和5年 1月 4日 :意見書、手続補正書の提出
第2 令和5年1月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年1月4日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。(下線部は、補正箇所である。)
なお、各構成の符号A~B121等は、説明のために当審で付したものであり、以下「構成A」~「構成B121」等という。以下、同様である。
「【請求項1】
A’ ダイヤフラムを有するラウドスピーカまたはマイクロフォンである電気または電子デバイスであって、
B ダイヤフラムは、シートまたはフィルムの形態の組成物(C)から少なくとも部分的に形成され、
B1 組成物(C)は、芳香族ポリマー(ポリマーP)からなる少なくとも1つの層(a)および層(a)の少なくとも1つの面上にコーティングされた金属化合物(M1)の層(b)を含み、
B11 層(a)の厚さは、1~10マイクロメートルであり、
B12 層(b)の厚さは、100~1500ナノメートルであり、
B111 前記ポリマーPが、ポリアリールエーテルケトン(PAEK、ポリマーP1)、ポリスルホン(ポリマーP2)、またはそれらの混合物から選択され、
B121 前記金属化合物(M1)が、
i.Cu、Ni、Pd、Ag、Au、Coおよびそれらの合金、
ii.SiOx、ZnO、In2O3、SnO2およびそれらの混合物からなる群から選択される非ドープ金属酸化物であって、xは、0.5~2に含まれる、非ドープ金属酸化物、
iii.ZnO、In2O3、SnO2、CdO、およびそれらの混合物からなる群から選択されるSn-ドープ金属酸化物、ならびに
iv.Zn2SnO4、ZnSnO3、Zn2In2O5、Zn3In2O6、In2SnO4、CdSnO3およびそれらの混合物
からなる群から選択される、
A 電気または電子デバイス。」
(2)本件補正前の、令和4年1月5日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、4の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
A ダイアフラムを有するラウドスピーカまたはマイクロフォンである電気または電子デバイスであって、
B ダイヤフラムは、シートまたはフィルムの形態の組成物(C)から少なくとも部分的に形成され、
B1 組成物(C)は、芳香族ポリマー(ポリマーP)からなる少なくとも1つの層(a)および層(a)の少なくとも1つの面上にコーティングされた金属化合物(M1)の層(b)を含み、
B11 層(a)の厚さは、1~10マイクロメートルであり、
B12 層(b)の厚さは、100~1500ナノメートルであり、
B111 前記ポリマーPが、ポリアリールエーテルケトン(PAEK、ポリマーP1)、ポリスルホン(ポリマーP2)、またはそれらの混合物から選択される、
A 電気または電子デバイス。
【請求項4】
前記金属化合物(M1)が、
i.Cu、Al、Ni、Pd、Ag、Au、Coおよびそれらの合金、
ii.SiOx、ZnO、In2O3、SnO2およびそれらの混合物からなる群から選択される非ドープ金属酸化物であって、xは、0.5~2に含まれる、非ドープ金属酸化物、
iii.ZnO、In2O3、SnO2、CdO、およびそれらの混合物からなる群から選択されるSn-またはAlドープ金属酸化物、ならびに
iv.Zn2SnO4、ZnSnO3、Zn2In2O5、Zn3In2O6、In2SnO4、CdSnO3およびそれらの混合物
からなる群から選択される、請求項1に記載の電気または電子デバイス。」
2 補正の適否
請求項1に係る本件補正は、以下の補正事項からなるものである。
(1)本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ダイアフラム」について、「ダイヤフラム」とする。
(2)本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「金属化合物(M1)」について、「前記金属化合物(M1)が、
i.Cu、Ni、Pd、Ag、Au、Coおよびそれらの合金、
ii.SiOx、ZnO、In2O3、SnO2およびそれらの混合物からなる群から選択される非ドープ金属酸化物であって、xは、0.5~2に含まれる、非ドープ金属酸化物、
iii.ZnO、In2O3、SnO2、CdO、およびそれらの混合物からなる群から選択されるSn-ドープ金属酸化物、ならびに
iv.Zn2SnO4、ZnSnO3、Zn2In2O5、Zn3In2O6、In2SnO4、CdSnO3およびそれらの混合物
からなる群から選択される」との、本件補正前の請求項4に記載された発明を特定するために必要な事項に類似する限定を付加する。
上記補正事項(1)は、本件補正前の請求項1の「ダイアフラム」(構成A)と「ダイヤフラム」(構成B)とが、同一の事項を意味するものであることを明確にするためのものであるから、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、または本件の明細書においては「ダイヤフラム」との用語のみが用いられていることを踏まえると「ダイヤフラム」の誤記とも考えられることから、同法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。
上記補正事項(2)は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定する事項を限定するものであって、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正による請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、同法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
ア 本件補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
イ 引用文献の記載事項、引用発明等
(ア)引用文献1について
a 引用文献1の記載事項
当審の拒絶の理由で引用された特開2007-221754号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(以降の下線は、強調のために当審で付した。)
「【0001】
本発明は、スピーカー用振動板に関し、さらに詳細には、成形性と高出力時の耐久性に優れたスピーカー用振動板およびこれに好適に用いられるフィルムに関する。」
「【0020】
また、本発明のスピーカー用振動板は、前記したポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルムを用いればよく、該フィルムを構成する樹脂組成物には、必要性に応じて他の樹脂を混合してもかまわない。混合する場合の混合質量比は、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を(A)、他の樹脂を(B)とすると、(A)/(B)=1~99/99~1、好ましくは、30~90/70~10、更に好ましくは、50~80/50~20である。
【0021】
ここで他の樹脂としては、特に制限されるものではないが、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、液晶ポリマーおよび熱可塑性エラストマーなどが挙げられるが、本発明においては、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂との混合性やフィルムの製膜加工性などの点からポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂およびポリエーテルイミド樹脂が好適に用いられ、特にポリエーテルエーテルケトン樹脂が好適に用いられる。これらの混合する他の樹脂は、1種のみを単独で、又は2種以上を適宜混合して使用してもよい。
・・・
【0024】
本発明で用いられるフィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、スピーカー用振動板としては、5~150μm、通常8~100μm程度である。ここで、フィルムの厚み精度(%)(〔(フィルム厚み-平均厚み)/(平均厚み)〕×100)は、再生周波数帯、周波数特性などの音響特性に影響するため、±10%以内であることが好ましく、±8%以内であることがさらに好ましい。また、フィルムの押出機からの流れ方向(MD方向)とその直交方向(TD方向)における物性の異方性をできるだけなくすように製膜することも重要である。
【0025】
このようにして得られたフィルムは、スピーカー用振動板としてさらに加工される。加工方法は特に限定されるものではないが、該フィルムをそのガラス転移温度や軟化温度を考慮して加熱しプレス成形や真空成形等によりドーム形状やコーン形状などに加工される。また、振動板の形状は特に制限されず、任意であり、円形状、楕円形状、オーバル形状などが選択できる。さらに、振動板面には、所謂タンジェンシャルエッジと呼ばれている横断面形状がV字状の溝などを適宜付与することができる。この際、フィルムの平均厚みが40μm以下、より好ましくは20~38μmであると、厚みが十分確保されているためにハンドリング性も良く、プレス成形等の時間当たりの加工性や加工精度(形状の再現性)が向上しやすいため好ましい。また、振動板の加工適性や防塵性あるいは、音響特性の調整等のために用いるフィルムや成形した振動板の表面にさらに帯電防止剤や各種エラストマー(例えば、ウレタン系、シリコーン系、炭化水素系、フッ素系など)をコーティングしたり、金属を蒸着したり、スパッタリングするなどの処理を適宜行ってもよい。
【0026】
本発明のスピーカー用振動板は、高出力時の耐久性に優れている。例えば、携帯電話においては汎用機種の0.3W程度に対して、高出力機種に適用できる0.6~1.0W程度の耐出力レベルに対応が可能となる。また、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂は、通常、非晶性の高耐熱樹脂であるため、スピーカー用振動板、特にマイクロスピーカーの振動板としての基本的な音響特性に加えて、耐熱性や振動板加工時の成形性にも優れている。
【0027】
以上、スピーカー用振動板を中心に説明したが、本発明のフィルムから得られる振動板の適用範囲としては、スピーカーに限定されることなく、レシーバやマイクロホン等の電気音響変換器であれば、全てに適用可能である。」
b 引用文献1に記載された発明(引用発明)
(a)【0027】の記載から、引用文献1には、振動板を有するスピーカーやマイクロホンである電気音響変換器の発明が記載されている。
(b)【0020】の「スピーカー用振動板は、前記したポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルムを用いればよく」、「該フィルムを構成する樹脂組成物には、必要性に応じて他の樹脂を混合してもかまわない」との記載から、引用文献1において、振動板は、樹脂組成物により構成されるフィルムが用いられ、前記樹脂組成物は、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂、またはポリビフェニルエーテルサルホン樹脂に他の樹脂を混合した混合物から選択される。
(c)【0025】の記載から、引用文献1において、フィルムの表面に金属を蒸着したり、スパッタリングするなどの処理が行われている。
(d)【0024】の記載から、引用文献1において、フィルムの厚みは5~150μm程度である。
(e)【0020】の「スピーカー用振動板は、前記したポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を含有するフィルムを用いればよく」、「該フィルムを構成する樹脂組成物には、必要性に応じて他の樹脂を混合してもかまわない。混合する場合の混合質量比は、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を(A)、他の樹脂を(B)とすると、(A)/(B)=1~99/99~1、好ましくは、30~90/70~10、更に好ましくは、50~80/50~20である。」との記載から、引用文献1において、樹脂組成物として、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂に他の樹脂を混合する場合の混合質量比は、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を(A)、他の樹脂を(B)とすると、(A)/(B)=1~99/99~1、好ましくは、30~90/70~10、更に好ましくは、50~80/50~20であり、また、【0021】の記載から、他の樹脂としては特にポリエーテルエーテルケトン樹脂が好適に用いられる。
したがって、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。なお、各構成の符号a~b111は、説明のために当審で付したものであり、以下「構成a」~「構成b111」という。
[引用発明]
a 振動板を有するスピーカーやマイクロホンである電気音響変換器であって、
b 振動板は、樹脂組成物により構成されるフィルムが用いられ、
b1 前記樹脂組成物は、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂、またはポリビフェニルエーテルサルホン樹脂に他の樹脂を混合した混合物から選択され、表面に金属を蒸着したり、スパッタリングするなどの処理が行われており、
b11 フィルムの厚みは5~150μm程度であり、
b111 前記ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂に他の樹脂を混合する場合の混合質量比は、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂を(A)、他の樹脂を(B)とすると、(A)/(B)=1~99/99~1、好ましくは、30~90/70~10、更に好ましくは、50~80/50~20で、他の樹脂としては特にポリエーテルエーテルケトン樹脂が好適に用いられる、
a 電気音響変換器。
(イ)引用文献2について
a 引用文献2の記載事項
同じく当審の拒絶の理由で引用された特開2008-131239号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、各種音響機器に使用される電気音響変換器用振動板とこれに用いられるフィルムに関し、さらに詳細には、スピーカー振動板として好適であり、成形性と高出力時の耐久性に優れた電気音響変換器用振動板に関する。」
「【0042】
また、振動板の加工適性や防塵性あるいは、音響特性の調整や意匠性向上等のために用いるフィルムや成形した振動板の表面にさらに帯電防止剤や各種エラストマー(例えば、ウレタン系、シリコーン系、炭化水素系、フッ素系など)をコーティングや積層したり、金属を蒸着したり、スパッタリングあるいは、着色(黒色や白色など)するなどの処理を適宜行ってもよい。さらに、アルミニウムなどの金属や他のフィルムとの積層、あるいは、不織布との複合化なども適宜行ってもよい。
【0043】
本発明の電気音響変換器用振動板は、スピーカー振動板に用いた場合に、高出力時の耐久性に優れている。例えば、携帯電話においては汎用機種の0.3W程度に対して、高出力機種に適用できる0.6~1.0W程度の耐出力レベルに対応が可能となる。また、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂(A)と結晶性樹脂(B)とを主成分として含有するフィルムは、スピーカー振動板、特にマイクロスピーカーの振動板としての基本的な音響特性に加えて、耐熱性や振動板加工時の成形性にも優れている。」
b 引用文献2に記載された技術(文献2技術)
(a)【0001】、【0043】の記載から、引用文献2には、スピーカー振動板に用いられる、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂と結晶性樹脂とを主成分として含有するフィルムに関する技術が記載されている。
(b)【0042】の記載から、引用文献2において、フィルムの表面に、アルミニウムなどの金属を蒸着したり、スパッタリングしたり、積層するなどの処理を行う。
上記(a)~(b)から、引用文献2には次の技術(以下「文献2技術」という。)が記載されているといえる。
[文献2技術]
スピーカー振動板に用いられる、ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂と結晶性樹脂とを主成分として含有するフィルムの表面に、アルミニウムなどの金属を蒸着したり、スパッタリングしたり、積層するなどの処理を行う技術。
ウ 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)構成A’について
引用発明の「振動板」は、本件補正発明の「ダイヤフラム」に相当する。
また、引用発明の「スピーカー」、「マイクロホン」、「電気音響変換器」は、それぞれ本件補正発明の「ラウドスピーカ」、「マイクロフォン」、「電気デバイス」に相当する。
してみると、引用発明の「振動板を有するスピーカーやマイクロホンである電気音響変換器」は、本件補正発明の「ダイヤフラムを有するラウドスピーカまたはマイクロフォンである電気または電子デバイス」に相当する。
(イ)構成Bについて
引用発明の「振動板」が「樹脂組成物により構成されるフィルムが用いられ」たものであることは、本件補正発明の「ダイヤフラムは、シートまたはフィルムの形態の組成物(C)から少なくとも部分的に形成され」ることに相当する。
(ウ)構成B1について
引用発明の「樹脂組成物」に用いる「ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂」、または「ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂」に「他の樹脂」として「ポリエーテルエーテルケトン樹脂」を混合したものは、いずれも芳香族ポリマーであるから、それらは本件補正発明における「芳香族ポリマー(ポリマーP)」に相当する。
また、引用発明の樹脂組成物の表面に蒸着する「金属」は、具体的な物質名等が特定されていないが、技術常識を考慮すると、金属化合物を含むものと考えるのが自然である。
さらに、引用発明において樹脂組成物の表面に金属を蒸着したり、スパッタリングするなどされたものは、樹脂組成物により構成されるフィルムの面上に金属がコーティングされて、樹脂組成物と金属とがそれぞれ層をなすといえるものである。
してみると、引用発明における当該「樹脂組成物」の層、「金属」の層は、それぞれ本件補正発明における「芳香族ポリマー(ポリマーP)からなる少なくとも1つの層(a)」、「層(a)の少なくとも1つの面上にコーティングされた金属化合物(M1)の層(b)」に相当し、引用発明の「樹脂組成物」は本件補正発明の「組成物(C)は、芳香族ポリマー(ポリマーP)からなる少なくとも1つの層(a)および層(a)の少なくとも1つの面上にコーティングされた金属化合物(M1)の層(b)を含」むものに相当する。
(エ)構成B111について
本件補正発明における「ポリスルホン(ポリマーP2)」及び「ポリアリールエーテルケトン(PAEK、ポリマーP1)」について、明細書の詳細な説明を参照すると、【0031】に「熱消散の点で特に良好な結果は、(P)が、ポリ(アリールエーテル)スルホン(P2a)、ポリスルホン(P2b)、ポリ(ビフェニルエーテルスルホン)(P2c)、またはそれらの混合物である場合に得られる。」、【0024】に「優れた結果は、ポリ(アリールエーテルケトン)(P1)が、ポリエーテルエーテルケトンホモポリマー、・・・である場合に得られる。」と記載されており、本件補正発明の「ポリスルホン(ポリマーP2)」及び「ポリアリールエーテルケトン(PAEK、ポリマーP1)」は、それぞれ「ポリ(ビフェニルエーテルスルホン)(P2c)」及び「ポリエーテルエーテルケトン」を含むものである。
したがって、引用発明の「ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂」、「ポリエーテルエーテルケトン樹脂」は、それぞれ本件補正発明の「ポリスルホン(ポリマーP2)」、「ポリアリールエーテルケトン(PAEK、ポリマーP1)」に相当する。
そうすると、引用発明において、フィルムを構成する「樹脂組成物」が「ポリビフェニルエーテルサルホン樹脂、またはポリビフェニルエーテルサルホン樹脂と他の樹脂の混合物から選択され」、「他の樹脂」として「ポリエーテルエーテルケトン樹脂」を混合することは、本件補正発明の構成B111に相当する。
(オ)構成B121について
本件補正発明では、金属化合物(M1)が「i.Cu、Ni、Pd、Ag、Au、Coおよびそれらの合金、
ii.SiOx、ZnO、In2O3、SnO2およびそれらの混合物からなる群から選択される非ドープ金属酸化物であって、xは、0.5~2に含まれる、非ドープ金属酸化物、
iii.ZnO、In2O3、SnO2、CdO、およびそれらの混合物からなる群から選択されるSn-ドープ金属酸化物、ならびに
iv.Zn2SnO4、ZnSnO3、Zn2In2O5、Zn3In2O6、In2SnO4、CdSnO3およびそれらの混合物
からなる群から選択される」のに対して、引用発明では、金属について特定されていない点で相違する。
(カ)構成B11について
引用発明における樹脂組成物により構成されるフィルムの厚みが「5~150μm程度」であることは、本件補正発明における層(a)の厚さが「1~10マイクロメートル」であることに含まれる。
(キ)構成B12について
本件補正発明では、金属化合物(M1)の層(b)の厚さが「100~1500ナノメートル」であるのに対して、引用発明では、金属の層の厚さについて特定されていない点で相違する。
以上の対比から、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
ダイヤフラムを有するラウドスピーカまたはマイクロフォンである電気または電子デバイスであって、
ダイヤフラムは、シートまたはフィルムの形態の組成物(C)から少なくとも部分的に形成され、
組成物(C)は、芳香族ポリマー(ポリマーP)からなる少なくとも1つの層(a)および層(a)の少なくとも1つの面上にコーティングされた金属化合物(M1)の層(b)を含み、
層(a)の厚さは、1~10マイクロメートルであり、
前記ポリマーPが、ポリアリールエーテルケトン(PAEK、ポリマーP1)、ポリスルホン(ポリマーP2)、またはそれらの混合物から選択される、
電気または電子デバイス。
[相違点1]
本件補正発明では、金属化合物(M1)が「i.Cu、Ni、Pd、Ag、Au、Coおよびそれらの合金、
ii.SiOx、ZnO、In2O3、SnO2およびそれらの混合物からなる群から選択される非ドープ金属酸化物であって、xは、0.5~2に含まれる、非ドープ金属酸化物、
iii.ZnO、In2O3、SnO2、CdO、およびそれらの混合物からなる群から選択されるSn-ドープ金属酸化物、ならびに
iv.Zn2SnO4、ZnSnO3、Zn2In2O5、Zn3In2O6、In2SnO4、CdSnO3およびそれらの混合物
からなる群から選択される」のに対して、引用発明では、金属について特定されていない点。
[相違点2]
本件補正発明では、金属化合物(M1)の層(b)の厚さが「100~1500ナノメートル」であるのに対して、引用発明では、金属の層の厚さについて特定されていない点。
エ 判断
各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
引用文献2には、スピーカー振動板に用いられるポリビフェニルエーテルサルホン樹脂と結晶性樹脂とを主成分として含有するフィルムの表面に、アルミニウムなどの金属を蒸着したり、スパッタリングしたり、積層するなどの処理を行う技術が記載されている。(上記イ(イ)bの文献2技術参照)。
ここで、樹脂フィルムの表面に金属を蒸着したスピーカー振動板において、蒸着する金属としては、アルミニウム、金、銀、銅、チタン、ニッケルクロム合金などの様々な金属化合物の群から選択されることは周知技術である(必要とあらば、特開平11-113095号の段落【0001】、【0026】、特開2007-43458号公報の段落【0001】、【0031】-【0035】を参照されたい。)ことから、文献2技術においてポリビフェニルエーテルサルホン樹脂と結晶性樹脂とを主成分として含有するフィルムの表面に、蒸着したり、スパッタリングする「アルミニウムなどの金属」としては、アルミニウムのみならず、金、銀、銅、チタン、ニッケルクロム合金などの様々な金属化合物の群から選択されるものと解することができる。
そして、引用発明と文献2技術は、いずれもスピーカー振動板に用いられる樹脂組成物を主成分として含有するフィルムの表面に、金属を蒸着したり、スパッタリングするという共通の技術分野に属するものであり、引用発明に文献2技術及び周知技術を適用して、金属としてアルミニウムのみならず、金、銀、銅、チタン、ニッケルクロム合金などの様々な金属化合物の群から選択される構成を採用して相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
(イ)相違点2について
積層構造の振動板における各層の厚さをどの程度にするかは、当該振動板を有するスピーカーの態様に応じて、当業者が最適なものを適宜選択する設計的事項であり、本件補正発明の各数値範囲における各上限値及び各下限値自体の数値限定、並びに、これら各上限値及び各下限値の組み合わせとしての数値限定には、臨界的意義も認められないことから、引用発明における樹脂組成物により構成されるフィルムの厚みが「5~150μm程度」であること(構成b11)を踏まえると、当該フィルムの表面に蒸着したり、スパッタリングする引用発明における金属化合物の層の厚さを100~1500ナノメートルとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、本件補正発明は、引用発明1、文献2技術、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
オ 請求人の主張について
令和5年1月4日付けで提出された意見書において、請求人は、次の主張をしている。
「引用文献2は、審判官殿が指摘する明細書段落〔0042〕及び〔0043〕において、「さらに、アルミニウムなどの金属や他のフィルムとの積層、あるいは、不織布との複合化なども適宜行ってもよい」と記載するものの、新請求項に係る金属化合物(M1)を具体的に開示しません。当業者であっても、引用文献2の開示内容から、新請求項に係る金属化合物(M1)に容易に想到しないものと思料致します。」
しかしながら、上記「エ(ア)」で述べたように、引用発明に文献2技術及び周知技術を適用して、金属としてアルミニウムのみならず、金、銀、銅、チタン、ニッケルクロム合金などの様々な金属化合物の群から選択される構成を採用して相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものであることから、当該主張は採用することはできない。
カ 補正の適否のまとめ
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
したがって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和5年1月4日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和4年1月5日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2」の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 当審の拒絶の理由
本願発明についての当審の拒絶の理由は、次のとおりのものである。
本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項1-3、5-7について:引用文献1
・請求項4について:引用文献1-2
<引用文献等一覧>
1.特開2007-221754号公報
2.特開2008-131239号公報
3 引用文献
上記拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記「第2」の[理由]2イに記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記「第2」の[理由]2で検討した本件補正発明の構成Aの「ダイヤフラム」を「ダイアフラム」にするとともに、本件補正発明から、「金属化合物(M1)」に係る構成B121の限定事項を削除したものである。
そうすると、「ダイアフラム」が「ダイヤフラム」を意図したものであることも踏まえると、本願発明と引用発明との相違点は、上記「第2」の[理由]2ウにおいて相違点2とした次の相違点のみとなる。
[相違点]
本願発明では、金属化合物(M1)の層(b)の厚さが「100~1500ナノメートル」であるのに対して、引用発明では、金属の層の厚さについて特定されていない点。
上記相違点について検討すると、上記「第2」の[理由]2エ(イ)に記載したとおり、積層構造の振動板における各層の厚さをどの程度にするかは、当該振動板を有するスピーカーの態様に応じて、当業者が最適なものを適宜選択する設計的事項であり、本件補正発明の各数値範囲における各上限値及び各下限値自体の数値限定、並びに、これら各上限値及び各下限値の組み合わせとしての数値限定には、臨界的意義も認められないことから、引用発明における金属化合物の層の厚さを100~1500ナノメートルとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
してみると、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 本願発明についてのむすび
以上のことから、本願発明は、当審の拒絶の理由で通知したとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-000129