意匠無効審判
2021-880006
瓦
- 審判番号
- 2021-880006
- 法域
- 意匠
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 意願2020-002824
- 登録番号
- 1663938
- 請求日
- 2021年05月18日
- 審決日
- 2024年02月05日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】大成建設 株式会社
- 【請求人代理人】小坂 準記
- 【請求人代理人】茜ヶ久保 公二
- 【請求人代理人】細沼 萌葉
- 【請求人代理人】蕪城 雄一郎
- 【請求人】株式会社 隈研吾建築都市設計事務所
- 【請求人代理人】小坂 準記
- 【請求人代理人】茜ヶ久保 公二
- 【請求人代理人】細沼 萌葉
- 【請求人代理人】蕪城 雄一郎
- 【被請求人】小林瓦工業 株式会社
- 【被請求人代理人】鯉沼 敦規
- 【被請求人代理人】中前 佑一
- 【被請求人】碧南窯業 株式会社
- 【被請求人代理人】鯉沼 敦規
- 【被請求人代理人】中前 佑一
- 【被請求人】株式会社 神仲
- 【被請求人代理人】鯉沼 敦規
- 【被請求人代理人】中前 佑一
- 審判長/審判官
- 審判長 前畑 さおり
- 審判官 伊藤 宏幸
- 審判官 成田 陽一
- 分類
- D1113.111-Z (L6-1) / D1113.15 -Z (L6-1)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 意匠法48条1項1号意匠法52条特許法169条2項民事訴訟法61条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 意匠法第3条第1項第3号、意匠法第15条第1項、特許法第38条、特許法第30条第2項、特許法第44条、意匠法第13条、意匠法第4条第2項、意匠法第48条第1項、意匠法第24条第2項、意匠法第48条第1項第1号、意匠法第52条、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の意匠登録第1663938号「瓦」の意匠登録無効審判事件についてされた令和4年12月13日付の審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(令和5年(行ケ)第10008号、令和5年6月12日判決言渡)があり、また、この判決に対し、最高裁判所において上告棄却の決定(令和5年(行ツ)第282号、令和5年11月17日言渡)及び上告受理申立不受理の決定(令和5年(行ヒ)第315号、令和5年11月17日言渡)があったので、更に審理の上、次のとおり審決する。
結論
結 論
意匠登録第1663938号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 本件意匠
本件意匠登録に係る意匠(以下「本件意匠」という。)は、特許法第30条第2項の規定の適用を受けようとする平成29年6月16日の特許出願(特願2017-118407)を基とし、令和2年2月14日に同特許出願の一部を特許法第44条の規定に基づき新たな特許出願(特願2020-22167)として分割し、その分割した特許出願を、意匠法第13条の規定に基づき、意匠法第4条第2項の規定の適用を受けようとする意匠登録出願(意願2020-2824)として変更した上で、令和2年6月30日に意匠登録を受けたものである。
そして、本件意匠は、意匠に係る物品を「瓦」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形態」という。)を願書に添付した図面に記載したとおりとしたものである。(別紙第1参照)
第2 手続の経緯
請求人は、令和3年5月18日、結論同旨の審決を求める意匠登録無効審判を請求し、無効理由として次項のとおり主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第42の6号証の書証を提出したが、原審決は、令和4年12月13日付で、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をした。
請求人は、原審決を不服として、令和5年1月20日、知的財産高等裁判所に訴えを提起し、同裁判所は、令和5年(行ケ)第10008号として審理した上で、令和5年11月17日、原審決を取り消す旨の判決(以下、単に「判決」という。)を言い渡し、その後、判決は確定した。
第3 請求人が主張した無効理由
1 無効理由1(意匠法第3条第1項第3号(新規性)違反)
本件意匠は、意匠登録出願より前に公然知られた意匠である「万葉」に釉薬を塗布して焼成し疑似漆喰模様を施した瓦(以下「本件模様瓦」という。)の意匠に類似し、本件模様瓦の意匠は、本件パンフレット(甲第4号証、別紙第2参照)及び本件写真(甲第5号証、別紙第3参照)の交付により公然実施されたものであるから、本件意匠は意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、本件意匠登録は、同法第48条第1項1号により無効とされるべきである。
2 無効理由2(意匠法第15条第1項において準用する特許法第38条(共同出願)違反)
本件意匠登録は、意匠法第15条第1項において準用する特許法第38条の規定に違反(共同出願違反)してされたものであって、意匠法第48条第1項1号により、無効とされるべきである。
第4 判決の理由
判決は、原告(審判請求人)が取消事由1とした本件意匠と本件模様瓦の意匠との類否判断の誤り(本件審判請求における無効理由1に相当)及び同取消事由2とした共同出願違反の認定判断の誤り(本件審判請求における無効理由2に相当)に係る原審決の判断について審理した上で、取消事由2には理由がないが、取消事由1には理由があるから、本件審決は取り消されるべきであるとした。
第5 当審の判断
上記判決は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により当審を拘束するものであるため、判決の趣旨を踏まえ、本件審判請求に係る無効理由について検討し、判断する。
1 無効理由1について
(1)本件模様瓦の公知性
本件模様瓦は、平成29年2月16日に請求人(株式会社隈研吾建築都市設計事務所)の事務所(以下「請求人事務所」という。)に本件パンフレット及び本件写真が送付されたところ、本件写真及び本件パンフレットには、本件模様瓦の意匠が開発中のものであることや開発者に対する内部的なものであることの記載はなく、また、「秘」、「部外秘」、「非公開資料」などの記載がないばかりか、本件写真や本件パンフレットを添付した電子メールにおいても、その本文などに、添付された本件写真や本件パンフレットの電子データが営業秘密であるとか内部的なものであるなどの記載もなく、請求人事務所及びその従業員について、被請求人(小林瓦工業株式会社)との間で、本件模様瓦の意匠に関し守秘義務を結んでいるなどの事実は認められないから、遅くとも、同日には請求人事務所の従業員らに対して知られるところとなり、公然知られたものと認められる。
(2)新規性喪失の例外規定と本件パンフレット及び本件写真との関係
本件意匠に係る出願に際して提出された新規性喪失の例外証明書の記載は、説明会における市長プレゼンテーションに係るものであって、請求人事務所への本件パンフレット及び本件写真の送付とは異なる行為であり、しかも本件パンフレット及び本件写真の送付は説明会の前に行われたものであるから、これを説明会と実質的に同一の行為とみることができるような密接に関連するものであるということはできない。
よって、請求人事務所への本件パンフレット及び本件写真の送付による本件模様瓦の意匠の公開行為に基づき、本件意匠について、新規性喪失の例外の規定の適用を受けることはできない。
(3)本件意匠と本件模様瓦の意匠の類否
ア 意匠に係る物品
本件意匠と本件模様瓦の意匠の意匠に係る物品は、いずれも「瓦」であり、同一である。
イ 形態の共通点及び相違点の評価
(ア)登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行われるものであり(意匠法第24条第2項)、本件意匠に係る物品である瓦は、これを施工する建築業者等及びこれを注文しその所有者等となる屋根工事の施主がその需要者であり、また、建築業者等であっても、最終的には施工後に施主から見た美感の観点を重視するというべきであるから、本件意匠に係る類否判断における需要者の視覚を通じて起こさせる美感の観点については、施工する建築業者に加え、施工後に施主が重視する美感の観点からも行うべきである。
(イ)本件意匠と本件模様瓦の基本的構成態様は一致しており、具体的構成態様のうち、「男瓦の両側部と上部に、コ字状のラインを270度回転して下方開口とした縦長の模様が形成されている。」、「男瓦に形成されたコ字状のラインの模様において、コ字状のラインの内側線が、男瓦の外側線と略平行に形成されている。また、左右と上側のラインの幅は、男瓦の横幅の約6分の1である。」、「右上端に位置する一段低く形成された円弧部分の表面は平坦に形成されている。」、「女瓦の左下端が直角に形成されている。」、「右側面から見ると、男瓦の外側線のほぼ中間位置に、クランク状の段差が形成されている。」との部分においても、一致している。
(ウ)本件意匠の具体的構成態様のうち、「男瓦の両側部と上部に、コ字状のラインを270度回転して下方開口とした縦長の模様が形成されている」、「男瓦に形成されたコ字状のラインの模様において、コ字状のラインの内側線が、男瓦の外側線と略平行に形成されている。また、左右と上側のラインの幅は、男瓦の横幅の約6分の1である」との部分は、いずれも男瓦の全面にわたる模様であり、施工後は特に施主を中心とした需要者にとり最も目に付くものであり、下方開口構成に係るこうした瓦は知られていない。
(エ)本件意匠と本件模様瓦の意匠とで異なる具体的構成である、コ字状のラインの模様の部分が男瓦表面の他の部分から僅かに段差状に隆起している(本件意匠)との部分については、瓦全体からみると隆起による差異はごくわずかであり、特に瓦屋根の施工後においては、その隆起の程度も屋根全体からみて相対的に小さいことから、コ字状のラインの模様には需要者の注意がいくものの、その隆起の程度にまでは注意がいくものとは認め難い。
(オ)具体的構成態様のうち、右上端に位置する一段低く形成された円弧部分の「右側端は、男瓦の右側端と略平行に形成されている。」(本件意匠)か「右側端はやや左側に傾斜し、男瓦の右側端はやや右側に傾斜している。」(本件模様瓦)との点、「女瓦の上端に波線状の凸部が一本形成されている。」(本件意匠)か「女瓦の上端に略小矩形状の凹部が五つ形成されている。」(本件模様瓦)との点、及び、「裏面に上側端と、下側端と、中央部に三つの凸部が横方向に形成されている。」(本件意匠)か「裏面に上側端と、下側端と、中央部に三つの凸部が横方向に形成されているか否かは本件パンフレット及び本件写真からは不明である。」(本件模様瓦)との点は、いずれも、瓦の施工後は完全に隠れてしまう部分であることに加え、瓦全体からすると小さくその差異も直ちには認識し難いこと、本件意匠公報の【A-A断面図】に示された平置き時の状況と本件写真に示された本件模様瓦の平置き時の状況に変わりがなく、裏面の凸部自体が瓦の美観に影響を与えるものとも認め難いことから、需要者に異なる印象をもたらすものとは認められない。
(カ)具体的構成態様のうち、「左側面から見ると、女瓦の左端部の壁は、瓦のほぼ中央に斜めクランク状に現わされている。」(本件意匠)か「女瓦の左端部の壁には、瓦のほぼ中央に斜めの段差が現わされている。」(本件模様瓦)との点についても、左側面から見た女瓦の左端部の壁は、瓦の施工後は隠れてしまう部分であるうえに、正面から見た場合に、女瓦のほぼ中央に斜めの段差が現わされていることから、本件意匠と本件模様瓦とで異なる点はなく、需要者に異なる印象をもたらすものとは認められないというべきである。
(キ) 本件意匠のその余の具体的構成のうち、「右上端に位置する一段低く形成された円弧部分の表面は平坦に形成されている。また、円弧部分の右側端は、男瓦の右側端と略平行に形成されている。」、「女瓦の上端に波線状の凸部が一本形成されている。」、「女瓦の左下端が直角に形成されている。」、「裏面に上側端と、下側端と、中央部に三つの凸部が横方向に形成されている。」との部分は、いずれも、施工後には完全に見えなくなる部分であることに加え、瓦全体に比して小さいか、美観に影響を与えるものとは認め難い部分であり、需要者が特に注目する部分とはいえない。
(ク)そうすると、前記需要者の観点からみた場合、本件意匠と本件模様瓦の意匠の形態は、類似するというべきである。
ウ 類否判断
本件意匠と本件模様瓦の意匠は、意匠に係る物品が同一であり、形態においても類似するものであるから、本件意匠は本件模様瓦の意匠に類似するものである。
(4)小括
そうすると、本件意匠は、本件意匠の出願前に公然知られた意匠(本件模様瓦の意匠)と類似するから、意匠法第3条第1項第3号に規定する意匠に該当し、同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないものである。
よって、請求人が主張する無効理由1には、理由がある。
2 無効理由2について
(1)検討
意匠の創作者であるといえるためには、当該意匠における美感の創作行為に現実に加担したこと、すなわち、美感の創作行為、とりわけ従前の意匠とは異なる特徴的部分の完成に現実に関与することが必要である。
本件意匠に係る創作性は、疑似漆喰模様を下方開口構成とし、これに厚みを持たせたこと、にあるものと認められる。
このうち、疑似漆喰模様に5mm程度の厚みを持たせることについては、瓦業者である被請求人(小林瓦工業株式会社)において、美感の観点からそれまでは想定もしていなかったものであり、隈氏から厚みを5mm程度とするようその具体的な指示を受けたことは認められるものの、その指示に基づいて試作をしたのは被請求人(小林瓦工業株式会社)であって、隈氏は単に厚みを持たせるアイデアを示したにすぎないものと認められる。
また、疑似漆喰模様を下方開口構成としたことについては、被請求人(小林瓦工業株式会社)から請求人事務所に提供された試作品には疑似漆喰模様を下方開口構成のコの字形にしたものが示されているから、この疑似漆喰模様を下方開口構成とした点が隈氏の発案によるものか否かについては定かとはいえない。
そうすると、隈氏は、本件意匠の創作行為に現実に加担したものと直ちには認められないから、隈氏が本件意匠の共同創作者の一人であるものとは認め難いというべきである。
(2)小括
そうすると、隈氏が本件意匠の創作をしたということはできないから、本件意匠登録は、意匠法第15条第1項において準用する特許法38条の規定(共同出願)に違反してされたものであるとはいえない。
よって、請求人が主張する無効理由2には、理由がない。
第5 むすび
以上のとおり、請求人が主張する無効理由のうち、無効理由2には理由がないが、無効理由1には理由があるから、本件意匠登録は、意匠法第48条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。
審判に関する費用については、意匠法第52条の規定で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり、審決する。
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