特許拒絶査定不服審判
2021-015891
車輪速度推定装置
- 審判番号
- 2021-015891
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-208783外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年11月19日
- 審決日
- 2022年07月25日
- 公報発行日
- 2022年08月26日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】トヨタ自動車株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人プロスペック特許事務所
- 分類
- P18 .121-WY (B60K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-208783「車輪速度推定装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月30日出願公開、特開2019- 81408、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年10月30日の出願であって、令和2年12月22日付けの拒絶理由の通知に対し、令和3年3月2日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、令和3年8月20日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対して令和3年11月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
第2 原査定の概要
原査定(令和3年8月20日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
1 本願請求項1に係る発明は、以下の引用文献1-3に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 本願請求項2-3に係る発明は、以下の引用文献1-4に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 本願請求項4に係る発明は、以下の引用文献1-5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開2007-45194号公報
2.特開平8-244593号公報(周知技術を示す文献)
3.実願昭63-123104号(実開平2-45461号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
4.特開平11-278083号公報
5.実願平1-50077号(実開平2-142367号)のマイクロフィルム
第3 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、令和3年3月2日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「【請求項1】
四輪駆動車両であって、
駆動源が発生する駆動トルクが動力伝達装置を介して伝達される駆動出力部と左後輪が連結された左後輪車軸との係合状態である左後輪係合状態を、前記左後輪車軸が前記駆動出力部と一体回転する状態である完全拘束状態と、前記左後輪車軸が前記駆動出力部に対して自由に回転する状態である解放状態と、前記左後輪車軸が前記駆動出力部に対してスリップしながら回転する状態である不完全拘束状態と、の何れかに変更可能な第1カップリング装置と、
前記駆動出力部と右後輪が連結された右後輪車軸との係合状態である右後輪係合状態を、前記右後輪車軸が前記駆動出力部と一体回転する状態である完全拘束状態と、前記右後輪車軸が前記駆動出力部に対して自由に回転する状態である解放状態と、前記右後輪車軸が前記駆動出力部に対してスリップしながら回転する状態である不完全拘束状態と、の何れかに変更可能な第2カップリング装置と、
前記第1カップリング装置を用いて前記左後輪係合状態を制御するとともに前記第2カップリング装置を用いて前記右後輪係合状態を制御する制御部と、
を備え、
前記動力伝達装置が、前記四輪駆動車両の直進中において前記左後輪係合状態が前記完全拘束状態である場合に左前輪が連結された左前輪車軸の回転速度と右前輪が連結された右前輪車軸の回転速度との平均値に対する前記左後輪車軸の回転速度の比が1よりも大きい所定比率となり、且つ、前記車両が直進中において前記右後輪係合状態が前記完全拘束状態である場合に前記平均値に対する前記右後輪車軸の回転速度の比が前記所定比率となる、ように構成された四輪駆動車両、
に適用される車輪速度推定装置であって、
それぞれが、前記左前輪、前記右前輪、前記左後輪及び前記右後輪のそれぞれの車輪の回転速度に応じた車輪回転速度信号を発生する複数の回転速度センサと、
前記車輪のそれぞれの車輪径の差が当該それぞれの車輪の車輪速度に及ぼす影響の程度に応じて変化する補正パラメータを前記車輪回転速度信号の全てに基づいて当該それぞれの車輪に対して算出する補正パラメータ算出部と、
前記車輪回転速度信号のそれぞれと、前記補正パラメータのそれぞれと、に基づいて前記車輪のそれぞれの車輪速度を演算する車輪速度演算部と、
を備え、
前記補正パラメータ算出部は、
前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の少なくとも一方が前記不完全拘束状態である場合に前記補正パラメータの算出を停止し、
前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の少なくとも一方が前記完全拘束状態である場合にも前記補正パラメータの算出を停止し、
前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の両方が前記解放状態である場合、前記四輪駆動車両が直進中であるか否かに関わらず前記補正パラメータの算出を許容する、
ように構成された、
車輪速度推定装置。
【請求項2】
四輪駆動車両であって、
駆動源が発生する駆動トルクが動力伝達装置を介して伝達される駆動出力部と左後輪が連結された左後輪車軸との係合状態である左後輪係合状態を、前記左後輪車軸が前記駆動出力部と一体回転する状態である完全拘束状態と、前記左後輪車軸が前記駆動出力部に対して自由に回転する状態である解放状態と、前記左後輪車軸が前記駆動出力部に対してスリップしながら回転する状態である不完全拘束状態と、の何れかに変更可能な第1カップリング装置と、
前記駆動出力部と右後輪が連結された右後輪車軸との係合状態である右後輪係合状態を、前記右後輪車軸が前記駆動出力部と一体回転する状態である完全拘束状態と、前記右後輪車軸が前記駆動出力部に対して自由に回転する状態である解放状態と、前記右後輪車軸が前記駆動出力部に対してスリップしながら回転する状態である不完全拘束状態と、の何れかに変更可能な第2カップリング装置と、
前記第1カップリング装置を用いて前記左後輪係合状態を制御するとともに前記第2カップリング装置を用いて前記右後輪係合状態を制御する制御部と、
を備え、
前記動力伝達装置が、前記四輪駆動車両の直進中において前記左後輪係合状態が前記完全拘束状態である場合に左前輪が連結された左前輪車軸の回転速度と右前輪が連結された右前輪車軸の回転速度との平均値に対する前記左後輪車軸の回転速度の比が1よりも大きい所定比率となり、且つ、前記車両が直進中において前記右後輪係合状態が前記完全拘束状態である場合に前記平均値に対する前記右後輪車軸の回転速度の比が前記所定比率となる、ように構成された四輪駆動車両、
に適用される車輪速度推定装置であって、
それぞれが、前記左前輪、前記右前輪、前記左後輪及び前記右後輪のそれぞれの車輪の回転速度に応じた車輪回転速度信号を発生する複数の回転速度センサと、
前記車輪のそれぞれの車輪径の差が当該それぞれの車輪の車輪速度に及ぼす影響の程度に応じて変化する補正パラメータを前記車輪回転速度信号の全てに基づいて当該それぞれの車輪に対して算出する補正パラメータ算出部と、
前記車輪回転速度信号のそれぞれと、前記補正パラメータのそれぞれと、に基づいて前記車輪のそれぞれの車輪速度を演算する車輪速度演算部と、
を備え、
前記補正パラメータ算出部は、
前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の何れもが前記解放状態である場合と、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の何れもが前記完全拘束状態である場合と、に限り、前記補正パラメータの算出を実行するように構成された、
車輪速度推定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車輪速度推定装置において、
前記補正パラメータ算出部は、
前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の何れもが前記解放状態である場合、前記それぞれの車輪の車輪回転速度信号に基づいてそれぞれの車輪の所定期間における回転角度に相関を有する計算用パラメータを算出し、前記計算用パラメータを用いて前記補正パラメータを算出し、
前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の何れもが前記完全拘束状態である場合、前記それぞれの車輪の車輪回転速度信号に基づいて前記計算用パラメータを算出し、前記左前輪に対する前記計算用パラメータと、前記右前輪に対する前記計算用パラメータと、前記左後輪に対する前記計算用パラメータを前記所定比率により除した値と、前記右後輪に対する前記計算用パラメータを前記所定比率により除した値と、を用いて前記補正パラメータを算出する、
ように構成された車輪速度推定装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の車輪速度推定装置において、 前記補正パラメータ算出部は、
前記車両が今回の運転を開始した時点から当該今回の運転を終了する1トリップ期間において、前記補正パラメータの算出が停止されていない場合に前記補正パラメータを所定時間が経過する毎に更新するように構成され、
更に、前記補正パラメータ算出部は、
前記車両が前記今回の運転を開始した時点において前記補正パラメータを初期化し、
前記補正パラメータを更新したとき、当該更新された補正パラメータである今回補正パラメータと、当該補正パラメータが更新された時点から前記所定時間だけ前に更新された補正パラメータである前回補正パラメータと、の偏差の大きさが第1所定偏差以下であるときに成立する第1の収束条件と、前記左前輪に対する補正パラメータと前記右前輪に対する補正パラメータとの偏差の大きさが第2所定偏差以下であるとの条件及び前記左後輪に対する補正パラメータと前記右後輪に対する補正パラメータとの偏差の大きさが第3所定偏差以下であるとの条件の少なくとも一方が成立したときに成立する第2の収束条件と、が同時に成立した時点から前記今回の運転を終了する時点まで前記補正パラメータの更新を停止する、
ように構成された車輪速度推定装置。」
第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図1-2とともに次の事項が記載されている。
(1)「動力源からの動力を左右前輪へ伝達する前輪動力伝達経路と、動力源からの動力をクラッチを介して左右後輪へ伝達する後輪動力伝達経路と、を備えた車両の駆動力配分装置において、
前記後輪動力伝達経路は、前輪側のトランスファギヤ機構と後輪側のリヤファイナルギヤ機構とをプロペラシャフトのみを介して連結し、前記リヤファイナルギヤ機構の駆動出力部から第1クラッチを介して左後輪ドライブシャフトに連結し、前記リヤファイナルギヤ機構の駆動出力部から第2クラッチを介して右後輪ドライブシャフトに連結し、
前記トランスファギヤ機構のギヤ比と前記リヤファイナルギヤ機構のギヤ比を、前輪よりも後輪を増速させる増速ギヤ比となる設定とし、かつ、前記第1クラッチと第2クラッチは、外部からそれぞれ独立に伝達トルクを変更制御する独立可変制御型クラッチとしたことを特徴とする車両の駆動力配分装置。」(特許請求の範囲 請求項1)
(2)「本発明の車両の駆動力配分装置にあっては、前輪側のトランスファギヤ機構と後輪側のリヤファイナルギヤ機構とをプロペラシャフトのみを介して連結されるため、プロペラシャフトの途中位置に変速装置が配置される後輪駆動力伝達経路に比べ、高いレイアウト自由度を確保することができるし、ギヤ機構やクラッチによるフリクション損失が低減されるし、コスト面や重量面でも大幅な低減が図られる。そして、トランスファギヤ機構のギヤ比とリヤファイナルギヤ機構のギヤ比を、前輪よりも後輪を増速させる増速ギヤ比となる設定としているため、旋回時に4輪のうち最も高い回転となる左右後輪の旋回外輪を増速する後輪増速機能が発揮される。また、第1クラッチと第2クラッチは、外部からそれぞれ独立に伝達トルクを変更制御する独立可変制御型クラッチとしているため、左右後輪への駆動力を独立に制御する左右駆動力独立制御機能が発揮される。この結果、高いレイアウト自由度の確保と、フリクション損失・コスト・重量の低減を図りながら、後輪増速機能と左右駆動力独立制御機能を発揮することができる。」(段落[0006])
(3)「図1は実施例1の駆動力配分装置が適用された前輪駆動ベースの四輪駆動車両の駆動系を示すスケルトン図、図2は実施例1の後輪動力伝達経路のリヤファイナルギヤ機構及びリヤクラッチ機構を示す断面図である。
実施例1の車両の駆動力配分装置は、図1に示すように、エンジン1と、トランスミッション2と、フロントディファレンシャル機構3と、左前輪ドライブシャフト4と、右前輪ドライブシャフト5と、左前輪6と、右前輪7と、トランスファギヤ機構8と、プロペラシャフト9と、リヤファイナルギヤ機構10と、第1クラッチ11と、第2クラッチ12と、左後輪ドライブシャフト13と、右後輪ドライブシャフト14と、左後輪15と、右後輪16と、を備えている。」(段落[0008])
(4)「前記エンジン1とトランスミッション2による動力源からの動力をクラッチを介して左右後輪15,16へ伝達する後輪動力伝達経路は、前輪側のトランスファギヤ機構8と後輪側のリヤファイナルギヤ機構10とをプロペラシャフト9のみを介して連結し、前記リヤファイナルギヤ機構10の駆動出力部から第1クラッチ11を介して左後輪ドライブシャフト13に連結し、前記リヤファイナルギヤ機構10の駆動出力部から第2クラッチ12を介して右後輪ドライブシャフト14に連結することで構成される。」(段落[0010])
(5)「前記リヤファイナルギヤ機構10は、前記プロペラシャフト9の端部に設けた第2ハイポイドギヤ27(ハイポイドギヤ)と、前記左右後輪15,16の車軸RLを中心軸とする円筒状デフケース28に固定され、前記第2ハイポイドギヤ27と噛み合う第2リングギヤ29(リングギヤ)と、により構成される。」(段落[0012])
(6)「[駆動力配分制御作用について]
実施例1の駆動力配分装置では、前後輪への駆動力配分制御として、第1クラッチ11と第2クラッチ12を開放する前輪駆動状態から、第1クラッチ11と第2クラッチ12の締結力を強めることで、後輪への駆動力配分を徐々に高めて4輪駆動傾向を強めるというようにシームレスな前後配分を行う。」(段落[0019])
(7)「また、左右後輪15,16への駆動力配分制御として、第1クラッチ11と第2クラッチ12とを独立に締結・開放制御することで、100対0から0対100まで無段階に配分するというようにシームレスな後左右配分を行う。」(段落[0020])
(8)「そして、前後・後輪左右の駆動力配分制御は、舵角センサや横Gセンサやヨーレートセンサや車速センサやアクセル開度センサ等の情報を基に、ドライバーの運転操作や車両の挙動や走行状況を検知し、図外のコントローラにおいて、最適な駆動力配分演算し、この演算結果に基づいて、第1クラッチ11の第1電磁石34と第2クラッチ12の第2電磁石35に対し、コイル電流指令を独立に出力することで行われる。」(段落[0021])
(9)「したがって、例えば、直線道路を巡行速度で走っているときは、第1クラッチ11と第2クラッチ12を開放する前輪駆動状態とし、損失を最小に抑えて高い燃費性能を発揮する。また、発進時や直進加速時には、後輪への駆動力配分を徐々に高めて4輪駆動傾向を強めることで、駆動スリップを抑えた高い駆動性能を発揮する。」(段落[0022])
(10)「動力源からの動力を左右前輪6,7へ伝達する前輪動力伝達経路と、動力源からの動力をクラッチを介して左右後輪15,16へ伝達する後輪動力伝達経路と、を備えた車両の駆動力配分装置において、前記後輪動力伝達経路は、前輪側のトランスファギヤ機構8と後輪側のリヤファイナルギヤ機構10とをプロペラシャフト9のみを介して連結し、前記リヤファイナルギヤ機構10の駆動出力部から第1クラッチ11を介して左後輪ドライブシャフト13に連結し、前記リヤファイナルギヤ機構10の駆動出力部から第2クラッチ12を介して右後輪ドライブシャフト14に連結し、前記トランスファギヤ機構8のギヤ比TGと前記リヤファイナルギヤ機構10のギヤ比FGを、前輪6,7よりも後輪15,16を増速させる増速ギヤ比となる設定とし、かつ、前記第1クラッチ11と第2クラッチ12は、外部からそれぞれ独立に伝達トルクを変更制御する独立可変制御型クラッチとしたため、高いレイアウト自由度の確保と、フリクション損失・コスト・重量の低減を図りながら、後輪増速機能と左右駆動力独立制御機能を発揮することができる。」(段落[0031])
(11)「前記トランスファギヤ機構8のギヤ比TGと前記リヤファイナルギヤ機構10のギヤ比FGによる増速ギヤ比を、前輪6,7よりも後輪15,16を2%~5%増速させる設定としたため、加速旋回時、左右後輪15,16のうち、旋回外輪となる後輪側のクラッチを締結する際、駆動力伝達ロスを適切に低減し、旋回回頭性能を向上させることができる。」(段落[0032])
上記(1)~(11)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「エンジン1からの動力を左右前輪6、7へ伝達する前輪動力伝達経路と、エンジン1からの動力をクラッチを介して左右後輪15、16へ伝達する後輪動力伝達経路と、を備えた四輪駆動車両の駆動力配分装置において、
前記後輪動力伝達経路は、前輪側のトランスファギヤ機構8と後輪側のリヤファイナルギヤ機構10とをプロペラシャフト9のみを介して連結し、前記リヤファイナルギヤ機構10の円筒状デフケース28から第1クラッチ11を介して左後輪ドライブシャフト13に連結し、前記リヤファイナルギヤ機構10の円筒状デフケース28から第2クラッチ12を介して右後輪ドライブシャフト14に連結し、
前記トランスファギヤ機構8のギヤ比TGと前記リヤファイナルギヤ機構10のギヤ比FGを、前輪6、7よりも後輪15、16を増速させる増速ギヤ比となる設定とし、かつ、前記第1クラッチ11と第2クラッチ12は、外部からそれぞれ独立に伝達トルクを変更制御する独立可変制御型クラッチとし、
前後輪への駆動力配分制御として、第1クラッチ11と第2クラッチ12を開放する前輪駆動状態から、第1クラッチ11と第2クラッチ12の締結力を強めることで、後輪への駆動力配分を徐々に高めて4輪駆動傾向を強めるというようにシームレスな前後配分を行い、
左右後輪15、16への駆動力配分制御として、第1クラッチ11と第2クラッチ12とを独立に締結・開放制御することで、100対0から0対100まで無段階に配分するというようにシームレスな後左右配分を行い、
直線道路を巡行速度で走っているときは、第1クラッチ11と第2クラッチ12を開放する前輪駆動状態とし、発進時や直進加速時には、後輪への駆動力配分を徐々に高めて4輪駆動傾向を強める、
四輪駆動車両の駆動力配分装置。」
2 引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2の請求項1、5及び段落[0010]-[0026]、図4から、次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「エンジンEによって駆動される左右一対の駆動輪WFL、WFR(前輪)と、車両の走行に伴って回転する左右一対の従動輪WRL、WRR(後輪)とを備える前輪駆動車両の車輪速度補正装置において、左駆動輪WFLの車輪速度VWFL及び右駆動輪WFRの車輪速度VWFRはそれぞれ駆動輪速度センサ1FL、1FRにより検出され、また左従動輪WRLの車輪速度VVRL及び右従動輪WRRの車輪速度VVRRはそれぞれ従動輪速度センサ1RL、1RRにより検出され、
少なくとも駆動輪速度VW及び従動輪速度VVを含む車両の運転状態を検出する運転状態検出手段M1と、
運転状態検出手段M1の出力に基づいて車両の定常直進状態を推定する定常直進状態推定手段M2と、
運転状態検出手段M1の出力に基づいて駆動輪のスリップ率を算出するスリップ率算出手段M3と、
運転状態検出手段M1の出力に基づいて駆動輪のトルクを算出する駆動輪トルク算出手段M4と、
駆動輪速度VW及び従動輪速度VVの速度比を算出する速度比算出手段M5と、
速度比算出手段M5の出力に基づいて駆動輪速度VW又は従動輪速度VVを補正する補正手段M6と、
定常直進状態推定手段M2が車両の定常直進状態を推定し且つスリップ率算出手段M3で算出した駆動輪のスリップ率が所定値以下である場合、或いは定常直進状態推定手段M2が車両の定常直進状態を推定し且つ駆動輪トルク算出手段4で算出した駆動輪のトルクが所定値以下である場合に、前記補正の実行を判定する補正実行判定手段M7と、 を備え、
前記補正手段M6は、前記速度比算出手段M5で算出した速度比に基づいて駆動輪速度VW又は従動輪速度VVの一方を補正し、
前記補正実行判定手段M7、前記定常直進状態推定手段M2、スリップ率算出手段M3及び駆動輪トルク算出手段M4の出力に基づいて車両が車輪速度の補正に適した安定状態にあるか否かを判定し、所定の条件が満たされた場合に補正手段M6に車輪速度の補正を指令する
車輪速度補正装置。」
3 引用文献3について
また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3の実用新案登録請求の範囲の1)、2)、明細書第7頁第14-15行、第7頁第20行-第8頁第4行、第10頁第16行-第13頁第2行、第14頁第17行―第15頁第10行、第1図から、次の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「後輪駆動車の車輪速度補正装置において、
前輪11、12及び後輪13、14に、各輪の速度を検出し、車輪速度検出値ωiを出力する車輪速度検出手段1と、
車両が直進走行状態であることを検出する直進走行状態検出手段2と、
前記直進走行状態検出手段2による直進走行状態検出時に、車輪速度の補正係数kiを求める補正係数演算手段3と、
前記補正係数演算手段3により得られた補正係数kiに車輪速度検出値ωiを乗じることで車輪速度補正値ωi0を求める車輪速度補正値演算手段4とを備え、
前記補正係数演算手段3は、車輪速度検出値ωiの平均値と規定タイヤ半径により車両速度Vを求める車両速度演算部301と、この車両速度Vと各車輪速度検出値ωiにより各輪の実タイヤ半径riを演算により求める実タイヤ半径演算部302と、前記規定タイヤ半径に対する実タイヤ半径riの比を補正係数kiとして求める補正係数演算部303を有する
後輪駆動車の車輪速度補正装置。」
4 引用文献4について
また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4の請求項1、4、段落[0049]-[0058]から、次の事項が記載されていると認められる。
「エンジン10から複数の車輪24、26、38、40へそれぞれ伝達されるトルクの割合を調節する電磁クラッチ30(トルク配分クラッチ)を備える車両において、該車両の直進走行時において該電磁クラッチ30の入出力回転速度差に基づいて車輪の径差を検出する車輪径差検出装置であって、
前記電磁クラッチ30の入力トルクtinを算出する入力トルク算出手段122と、
該入力トルク算出手段122により算出された入力トルクtinに基づいて、前記車輪の径差を決定する径差決定手段242とを、
前記電磁クラッチ30の回転速度差ΔNを算出する回転速度差算出手段124と、
前記径差決定手段242により決定された前記車輪の径差に基づいて、該回転速度差算出手段124により算出される回転速度差ΔNを補正する回転速度差補正手段132とを含む
車輪径差検出装置。」
5 引用文献5について
また、原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5の実用新案登録請求の範囲と、明細書第4頁第17行-第5頁第1行、第21頁第18行-第22頁第2行から、次の事項が記載されていると認められる。
「第一および第二の車輪の角速度を検出する車輪角速度検出手段と、
その車輪角速度検出手段により検出された角速度から算出される第一車輪の周速と第二車輪の周速とが等しくなるように第二車輪の周速を補正する補正係数を算出する補正係数算出手段と、
前記補正係数に基づいて前記第二車輪の周速を補正する車輪周速補正手段と、
を有する補正機能付車輪周速検出装置において、
前記第一車輪と第二車輪との周速の比が実質的に変化しない状態が基準時間以上継続した場合に前記補正係数算出手段を作動させ、基準時間以上継続しない場合は作動させない補正係数算出制御手段を設けた
車輪周速検出装置。」
第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比すると、まず、引用発明の「四輪駆動車両」は、本願発明1の「四輪駆動車両」に相当し、以下同様に、「エンジン1」は「駆動源」に、「後輪動力伝達経路」の「前輪側のトランスファギヤ機構8」及び「プロペラシャフト9」は「動力伝達装置」に、「後輪側のリヤファイナルギヤ機構10」の「円筒状デフケース28」は「駆動出力部」に、「左後輪15」は「左後輪」に、「左後輪ドライブシャフト13」は「左後輪車軸」に、「第1クラッチ11」又は「クラッチ」は「第1カップリング装置」に、「右後輪16」は「右後輪」に、「右後輪ドライブシャフト14」は「右後輪車軸」に、「第2クラッチ12」又は「クラッチ」は「第2カップリング装置」にそれぞれ相当する。
イ 次に、引用発明は「エンジン1からの動力を左右前輪6、7へ伝達する前輪動力伝達経路と、エンジン1からの動力をクラッチを介して左右後輪15、16へ伝達する後輪動力伝達経路と、を備えた四輪駆動車両の駆動力配分装置において、前記後輪動力伝達経路は、前輪側のトランスファギヤ機構8と後輪側のリヤファイナルギヤ機構10とをプロペラシャフト9のみを介して連結し、前記リヤファイナルギヤ機構10の円筒状デフケース28から第1クラッチ11を介して左後輪ドライブシャフト13に連結」するものであるから、本願発明1と同様に「駆動源が発生する駆動トルクが動力伝達装置を介して伝達される駆動出力部と左後輪が連結された左後輪車軸との係合状態である左後輪係合状態」を有することは明らかである。
また、引用発明は「左右後輪15、16への駆動力配分制御として、第1クラッチ11と第2クラッチ12とを独立に締結・開放制御することで、100対0から0対100まで無段階に配分するというようにシームレスな後左右配分を行」うものであり、「左右後輪15,16への駆動力配分制御として、第1クラッチ11」を「独立に締結・開放制御」し、「100対0から0対100まで無段階に配分するというようにシームレスな」「配分を行う」ものであるから、本願発明1と同様に「左後輪係合状態を、前記左後輪車軸が前記駆動出力部と一体回転する状態である完全拘束状態と、前記左後輪車軸が前記駆動出力部に対して自由に回転する状態である解放状態と、前記左後輪車軸が前記駆動出力部に対してスリップしながら回転する状態である不完全拘束状態と、の何れかに変更可能な第1カップリング装置」を備えることは明らかである。
ウ 上記イと同様に、引用発明は「エンジン1からの動力を左右前輪6、7へ伝達する前輪動力伝達経路と、エンジン1からの動力をクラッチを介して左右後輪15、16へ伝達する後輪動力伝達経路と、を備えた四輪駆動車両の駆動力配分装置において、前記後輪動力伝達経路は、前輪側のトランスファギヤ機構8と後輪側のリヤファイナルギヤ機構10とをプロペラシャフト9のみを介して連結し、」「前記リヤファイナルギヤ機構10の円筒状デフケース28から第2クラッチ12を介して右後輪ドライブシャフト14に連結」するものであるから、本願発明1と同様に「前記駆動出力部と右後輪が連結された右後輪車軸との係合状態である右後輪係合状態」を有することは明らかである。
また、引用発明は「左右後輪15、16への駆動力配分制御として、第1クラッチ11と第2クラッチ12とを独立に締結・開放制御することで、100対0から0対100まで無段階に配分するというようにシームレスな後左右配分を行」うものであり、「左右後輪15、16への駆動力配分制御として、」「第2クラッチ12」を「独立に締結・開放制御」し、「100対0から0対100まで無段階に配分するというようにシームレスな」「配分を行う」ものであるから、本願発明1と同様に「右後輪係合状態を、前記右後輪車軸が前記駆動出力部と一体回転する状態である完全拘束状態と、前記右後輪車軸が前記駆動出力部に対して自由に回転する状態である解放状態と、前記右後輪車軸が前記駆動出力部に対してスリップしながら回転する状態である不完全拘束状態と、の何れかに変更可能な第2カップリング装置」を備えることは明らかである。
エ また、引用発明は「左右後輪15、16への駆動力配分制御として、第1クラッチ11と第2クラッチ12とを独立に締結・開放制御することで、100対0から0対100まで無段階に配分するというようにシームレスな後左右配分を行」うものであるから、本願発明1と同様に「前記第1カップリング装置を用いて前記左後輪係合状態を制御するとともに前記第2カップリング装置を用いて前記右後輪係合状態を制御する制御部」を備えることは明らかである。
オ また、引用発明の「前記トランスファギヤ機構8のギヤ比TGと前記リヤファイナルギヤ機構10のギヤ比FGを、前輪6、7よりも後輪15、16を増速させる増速ギヤ比となる設定とし」、「直線道路を巡行速度で走っているときは、第1クラッチ11と第2クラッチ12を開放する前輪駆動状態とし、発進時や直進加速時には、後輪への駆動力配分を徐々に高めて4輪駆動傾向を強める」ことは、「発進時や直進加速時に」「第1クラッチ11」の締結を100とした状態である場合に、「左前輪6」が連結された「左前輪ドライブシャフト4」の回転速度と「右前輪7」が連結された「右前輪ドライブシャフト5」の回転速度との平均値に対する「左後輪ドライブシャフト13」の回転速度の比が1よりも大きい所定比率となり、且つ、「第2クラッチ12」の締結を100とした状態である場合に、前記平均値に対する「右後輪ドライブシャフト14」の回転速度の比が前記所定比率」とすることを意味するから、本願発明1の「前記動力伝達装置が、前記四輪駆動車両の直進中において前記左後輪係合状態が前記完全拘束状態である場合に左前輪が連結された左前輪車軸の回転速度と右前輪が連結された右前輪車軸の回転速度との平均値に対する前記左後輪車軸の回転速度の比が1よりも大きい所定比率となり、且つ、前記車両が直進中において前記右後輪係合状態が前記完全拘束状態である場合に前記平均値に対する前記右後輪車軸の回転速度の比が前記所定比率となる」ことに相当する。
カ 引用発明の「四輪駆動車両の駆動力配分装置」であって、「前輪動力伝達経路」と「後輪動力伝達経路」とを備え、「前輪6、7よりも後輪15、16を増速させる増速ギヤ比となる設定とし」かつ「外部からそれぞれ独立に伝達トルクを変更制御する独立可変制御型クラッチとし」、「前輪への駆動力配分制御として」「シームレスな前後配分を行い」、「左右後輪15、16への駆動力配分制御として」「シームレスな後左右配分を行」う「駆動力配分装置」は、「四輪駆動車両」の限りにおいて、本願発明1の「四輪駆動車両に適用される車輪速度推定装置」と一致する。
したがって、本願発明1と引用発明とは、次の点で一致し、相違すると認められる。
(一致点)
「四輪駆動車両であって、
駆動源が発生する駆動トルクが動力伝達装置を介して伝達される駆動出力部と左後輪が連結された左後輪車軸との係合状態である左後輪係合状態を、前記左後輪車軸が前記駆動出力部と一体回転する状態である完全拘束状態と、前記左後輪車軸が前記駆動出力部に対して自由に回転する状態である解放状態と、前記左後輪車軸が前記駆動出力部に対してスリップしながら回転する状態である不完全拘束状態と、の何れかに変更可能な第1カップリング装置と、
前記駆動出力部と右後輪が連結された右後輪車軸との係合状態である右後輪係合状態を、前記右後輪車軸が前記駆動出力部と一体回転する状態である完全拘束状態と、前記右後輪車軸が前記駆動出力部に対して自由に回転する状態である解放状態と、前記右後輪車軸が前記駆動出力部に対してスリップしながら回転する状態である不完全拘束状態と、の何れかに変更可能な第2カップリング装置と、
前記第1カップリング装置を用いて前記左後輪係合状態を制御するとともに前記第2カップリング装置を用いて前記右後輪係合状態を制御する制御部と、
を備え、
前記動力伝達装置が、前記四輪駆動車両の直進中において前記左後輪係合状態が前記完全拘束状態である場合に左前輪が連結された左前輪車軸の回転速度と右前輪が連結された右前輪車軸の回転速度との平均値に対する前記左後輪車軸の回転速度の比が1よりも大きい所定比率となり、且つ、前記車両が直進中において前記右後輪係合状態が前記完全拘束状態である場合に前記平均値に対する前記右後輪車軸の回転速度の比が前記所定比率となる、ように構成された四輪駆動車両。」
(相違点1)
本願発明1は、四輪駆動車両に適用される「車輪速度推定装置であって、それぞれが、前記左前輪、前記右前輪、前記左後輪及び前記右後輪のそれぞれの車輪の回転速度に応じた車輪回転速度信号を発生する複数の回転速度センサと、前記車輪のそれぞれの車輪径の差が当該それぞれの車輪の車輪速度に及ぼす影響の程度に応じて変化する補正パラメータを前記車輪回転速度信号の全てに基づいて当該それぞれの車輪に対して算出する補正パラメータ算出部と、前記車輪回転速度信号のそれぞれと、前記補正パラメータのそれぞれと、に基づいて前記車輪のそれぞれの車輪速度を演算する車輪速度演算部と、を備え、
前記補正パラメータ算出部は、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の少なくとも一方が前記不完全拘束状態である場合に前記補正パラメータの算出を停止し、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の少なくとも一方が前記完全拘束状態である場合にも前記補正パラメータの算出を停止し、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の両方が前記解放状態である場合、前記四輪駆動車両が直進中であるか否かに関わらず前記補正パラメータの算出を許容する、ように構成された、車輪速度推定装置」を備えるのに対して、
引用発明は、「四輪駆動車両の駆動力配分装置」であって、「四輪駆動車両に適用される車輪速度推定装置」ではなく、「車輪回転速度信号を発生する」「回転速度センサ」を備えておらず、したがって、「左前輪、右前輪、左後輪及び右後輪のそれぞれの車輪の回転速度」を検出することはなく、「補正パラメータ」を算出することも、「車輪回転速度信号」及び「補正パラメータ」に基づいて「車輪速度」を演算することもない点。
(2)判断
上記相違点1について検討するに、上記相違点1に係る本願発明1の構成のうち、「それぞれが、左前輪、右前輪、左後輪及び右後輪のそれぞれの車輪の回転速度に応じた車輪回転速度信号を発生する複数の回転速度センサと、前記車輪のそれぞれの車輪径の差が当該それぞれの車輪の車輪速度に及ぼす影響の程度に応じて変化する補正パラメータを前記車輪回転速度信号の全てに基づいて当該それぞれの車輪に対して算出する補正パラメータ算出部と、前記車輪回転速度信号のそれぞれと、前記補正パラメータのそれぞれと、に基づいて前記車輪のそれぞれの車輪速度を演算する車輪速度演算部」を備えた「車輪速度推定装置」は、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項に例示されるとおり、二輪駆動車両において、本願出願前の周知技術である。
この点、上記相違点1に係る本願発明1の構成と引用文献2記載事項とを対比すると、後者の「車輪速度補正装置」、「左駆動輪WFL」、「右駆動輪WFR」、「左従動輪WRL」、「右従動輪WRR」、「駆動輪速度センサ1FL、1FR及び従動輪速度センサ1RL、1RR」、「速度比算出手段M5」で算出した「駆動輪速度VW及び従動輪速度VVの速度比」、「速度比算出手段M5」、「補正手段M6」は、それぞれ、前者の「車輪速度推定装置」、「左前輪」、「右前輪」、「左後輪」、「右後輪」、「複数の回転速度センサ」、「補正パラメータ」、「補正パラメータ算出部」、「車輪速度演算部」に相当することから、引用文献2事項においては、上記周知技術に相当する構成が示されているといえる。
また、上記相違点1に係る本願発明1の構成と引用文献3記載事項とを対比すると、後者の「車輪速度補正装置」、「前輪12」、「前輪11」、「後輪14」、「後輪13」、「車輪速センサ21、22、23、24」、「補正係数ki」、「補正係数演算手段3」、「車輪速度補正値演算手段4」は、それぞれ、前者の「車輪速度推定装置」、「左前輪」、「右前輪」、「左後輪」、「右後輪」、「複数の回転速度センサ」、「補正パラメータ」、「補正パラメータ算出部」、「車輪速度演算部」に相当することから、引用文献3事項においても、同様に、上記周知技術に相当する構成が示されているといえる。
しかしながら、上記相違点1に係る本願発明1の構成のうち、上記周知技術に相当する構成を除く構成、すなわち、「前記補正パラメータ算出部は、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の少なくとも一方が前記不完全拘束状態である場合に前記補正パラメータの算出を停止し、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の少なくとも一方が前記完全拘束状態である場合にも前記補正パラメータの算出を停止し、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の両方が前記解放状態である場合、前記四輪駆動車両が直進中であるか否かに関わらず前記補正パラメータの算出を許容する、ように構成された、車輪速度推定装置」(以下「本願補正パラメータ構成」という。)は、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項には示されていない。
すなわち、本願補正パラメータ構成は、「各車輪の車輪径の相違の程度を示す補正パラメータを各車輪毎に算出し、この補正パラメータと各車輪の車輪回転速度とに基づいて各車輪の車輪速度を算出する方法」を「四輪駆動車両に適用して車輪速度を推定する」際に「その補正された車輪速度もまた正しくないという問題がある」という課題を解決するために、四輪駆動車両の「左後輪係合状態」及び「右後輪係合状態」に基づいて「補正パラメータの算出を許容する」こととしたものである(本願明細書の段落[0006]~[0009]、[0016]~[0021])。これに対して、引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項は、いずれも、二輪駆動車両に係る「車輪速度補正装置」であるから、四輪駆動車両の「左後輪係合状態」及び「右後輪係合状態」に基づいて、車輪速度の補正を行うものとはいえない。
そうすると、引用発明に引用文献2及び3記載事項をどのように組み合わせたとしても、本願補正パラメータ構成に到達することはできない。
そして、本願補正パラメータ構成を備える本願発明1は、「各車輪の車輪径の差がそれぞれの車輪の車輪速度に及ぼす影響の程度に応じて変化する補正パラメータを精度良く求め、その補正パラメータを用いて正しい車輪速度を算出することが可能な四輪駆動車両の車輪速度推定装置を提供」できるという格別の効果を生じるものである。
したがって、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、引用発明及び引用文献2及び3記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3)まとめ
以上のとおり、本願発明1は、引用発明並びに引用文献2及び3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 本願発明2について
(1)対比
本願発明2は、本願発明1の「前記補正パラメータ算出部は、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の少なくとも一方が前記不完全拘束状態である場合に前記補正パラメータの算出を停止し、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の少なくとも一方が前記完全拘束状態である場合にも前記補正パラメータの算出を停止し、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の両方が前記解放状態である場合、前記四輪駆動車両が直進中であるか否かに関わらず前記補正パラメータの算出を許容する」の構成を削除し、「前記補正パラメータ算出部は、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の何れもが前記解放状態である場合と、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の何れもが前記完全拘束状態である場合と、に限り、前記補正パラメータの算出を実行するように構成された」の構成を追加したものである。
そうすると、本願発明2と引用発明とは、上記1(1)で示した一致点において一致し、次の点で相違すると認められる。
(相違点2)
本願発明2は、四輪駆動車両に適用される車輪速度推定装置であって、「それぞれが、前記左前輪、前記右前輪、前記左後輪及び前記右後輪のそれぞれの車輪の回転速度に応じた車輪回転速度信号を発生する複数の回転速度センサと、前記車輪のそれぞれの車輪径の差が当該それぞれの車輪の車輪速度に及ぼす影響の程度に応じて変化する補正パラメータを前記車輪回転速度信号の全てに基づいて当該それぞれの車輪に対して算出する補正パラメータ算出部と、前記車輪回転速度信号のそれぞれと、前記補正パラメータのそれぞれと、に基づいて前記車輪のそれぞれの車輪速度を演算する車輪速度演算部と、を備え、
前記補正パラメータ算出部は、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の何れもが前記解放状態である場合と、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の何れもが前記完全拘束状態である場合と、に限り、前記補正パラメータの算出を実行するように構成された、車輪速度推定装置。」を備えるのに対して、
引用発明は、「四輪駆動車両の駆動力配分装置」であって、「四輪駆動車両に適用される車輪速度推定装置」ではなく、「車輪回転速度信号を発生する」「回転速度センサ」を備えておらず、したがって、「左前輪、右前輪、左後輪及び右後輪のそれぞれの車輪の回転速度」を検出することはなく、「補正パラメータ」を算出することも、「車輪回転速度信号」及び「補正パラメータ」に基づいて「車輪速度」を演算することもない点。
(2)判断
上記1(2)に示したとおり、上記相違点2に係る本願発明2の構成のうち、上記周知技術に相当する構成を除く構成、すなわち、「前記補正パラメータ算出部は、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の何れもが前記解放状態である場合と、前記左後輪係合状態及び前記右後輪係合状態の何れもが前記完全拘束状態である場合と、に限り、前記補正パラメータの算出を実行するように構成された、車輪速度推定装置」(以下「本願補正パラメータ構成2」という。)は、引用文献2記載事項、引用文献3記載事項には示されていない。
そうすると、引用発明に引用文献2及び3記載事項をどのように組み合わせたとしても、「本願補正パラメータ構成2」に到達することはできない。
また、「本願補正パラメータ構成2」は、引用文献4記載事項には示されていない。
そして、「本願補正パラメータ構成2」を備える本願発明2は、「各車輪の車輪径の差がそれぞれの車輪の車輪速度に及ぼす影響の程度に応じて変化する補正パラメータを精度良く求め、その補正パラメータを用いて正しい車輪速度を算出することが可能な四輪駆動車両の車輪速度推定装置を提供」できるという格別の効果を生じるものである。
したがって、上記相違点2に係る本願発明2の構成は、引用発明及び引用文献2、3及び4記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3)まとめ
以上のとおり、本願発明2は、引用発明及び引用文献2、3及び4記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 本願発明3~4について
本願発明3~4は、本願発明1又は2の下位概念の発明であるから、本願発明3~4と引用発明とは、上記相違点1又は2において、相違するものと認められる。そして、上記相違点1又は2に係る本願発明3~4の構成については、上記1又は2で示した理由と同様の理由により、引用発明及び引用文献2~5記載事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、本願発明3~4は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2~5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-015891