特許拒絶査定不服審判
2021-012060
N-アセチルシステインアミドによる網膜色素変性症の治療
- 審判番号
- 2021-012060
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-191044
- 請求日
- 2021年09月10日
- 審決日
- 2023年11月15日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー
- 【請求人代理人】廣田 雅紀
- 【請求人代理人】東海 裕作
- 【請求人代理人】堀内 真
- 【請求人代理人】山内 正子
- 【請求人代理人】園元 修一
- 【請求人】ナキュイティ ファーマシューティカルズ, インク.
- 【請求人代理人】廣田 雅紀
- 【請求人代理人】東海 裕作
- 【請求人代理人】堀内 真
- 【請求人代理人】山内 正子
- 【請求人代理人】園元 修一
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 浩子
- 審判官 前田 佳与子
- 審判官 岩下 直人
- 分類
- P18 .121-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-191044「N-アセチルシステインアミドによる網膜色素変性症の治療」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 2月13日出願公開、特開2020- 23549〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)11月6日(パリ条約による優先権主張 2014年11月7日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2017-544552号の一部を令和1年10月18日に新たな出願としたものであり、その主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和2年 9月10日付け 拒絶理由通知書
令和3年 2月 3日 意見書及び手続補正書の提出
同年 4月22日付け 拒絶査定
同年 9月10日 審判請求書及び手続補正書の提出
同年10月15日 手続補正書(方式)の提出
令和5年 2月 1日付け 拒絶理由通知書(当審)
同年 8月 4日 意見書及び手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~7に係る発明は、令和5年8月4日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1を引用する請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1を引用しない形式で書き下すと、下記のとおりであると認められる。
「N-アセチルシステインアミド(NACA)が、薬学的に許容される担体中、又は薬学的に許容される担体と共に提供される、ヒトにおける網膜色素変性症の治療剤又は予防剤であって、1回当たり、治療有効量のN-アセチルシステインアミド(NACA)の固体経口用量で300、333、400、500、600、700、750、800、900、1000、2500、5000、7500又は10000mgが経口投与され、NACAの網膜色素変性症における錐体細胞機能及び錐体生存に対する効果が、同じ用量のNACよりも大きい、前記治療剤又は予防剤。」
第3 当審における拒絶の理由
当審において令和5年2月1日付けで通知した拒絶の理由のうち、特許法第29条第2項(進歩性)に係る[理由1]の概要は下記のとおりである。
[理由1](進歩性)
本願の下記の請求項に係る発明は、優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記(引用文献については引用文献一覧を参照)
・請求項1~7
・引用文献1(主引用例)、引用文献2~8
<引用文献一覧>
1.Dong A. et al. April 2014,Vol.55, Issue 13,1736,
<URL>https://iovs.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2267004
2.PNAS, 2006, Vol.103, No.30, p.11300-11305
3.「目と健康シリーズ No.25 Eye&Health 特集:目の病気の薬物治療」,(企画・制作)株式会社 創新社,2012,p.1-7,
<URL>https://www.skk-net.com/health/me/files/Eye25_1902_2.pdf
4.The FASEB Journal, 2007, Vol.22, p.659-661
5.耳展, 2002, Vol.45, No.5, p.381-384
6.特表2008-538586号公報
7.Journal of Neurochemistry, 2004, Vol.89, p.1241-1251
8.Free Radical Research, 2013, Vol.47, No.5, p.357-367
第4 引用文献に記載された事項及び引用発明
1 引用文献1に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には以下の事項が記載されている。原文は外国語で記載されているので、当審合議体による日本語訳を記載する。なお、下線は当審合議体が付したものである。
(摘記1a)
「N-アセチルシステイン(NAC)と比較した、N-アセチルシステインアミド(NACA)の、網膜色素変性症のモデルにおける錐体機能の保護の向上
・・・
要約
目的:網膜色素変性症(RP)は、杆体光受容体の障害を起こす多様な変異に起因する失明の主要な原因である。杆体の障害後、進行性の酸化的損傷により錐体は徐々に障害される。我々は、以前に、よく知られたチオール抗酸
化物質であるN-アセチルシステイン(NAC)が錐体細胞の障害を減らし、RPのモデルにおいて錐体機能を維持することを発見した。N-アセチルシステインアミド(NACA)は、バイオアベイラビリティが向上したNACのプロドラッグである。この研究では、RPのモデルにおいてNACとNACAを比較した。」(文献タイトル~「Abstract」の「Purpose」の項目)
(摘記1b)
「方法:生後(P)14日目から開始して、rd10+/+マウスに通常の飲用水(n=6)又は7mg/mlのNACA若しくは20mg/mlのNACを含有する水(各群についてn=8)を与えた。暗順応及び明順応網膜電図(ERG)をP35日目及びP50日目に記録した。錐体密度は、フルオレセイン標識ピーナッツアグルチニン(PNA)で染色した網膜フラットマウントにおける視神経の中心の0.5mm上方、側方、下方及び鼻側に位置する4つの230mm×230mm(512×512ピクセル)領域においてP50日目に測定した。」(「Abstract」の「Methods」の項目)
(摘記1c)
「結果:P35日目において、7mg/mlのNACAで治療したrd10+/+マウス又は20mg/mlのNACで治療したrd10+/+マウスは、類似の平均ピーク暗順応ERGb波振幅を示し、対照群よりも有意に(約2倍)大きかった。平均ピーク明順応b波振幅は、NACA治療マウスではNAC治療マウスよりも41%高く(p=0.024)、いずれも対照群より3倍以上高かった。P50日目において、NAC又はNACA治療マウスの平均ピーク暗順応ERGb波振幅は、対照群より5倍以上大きく、平均b波振幅は、11のうち10の刺激強度においてNAC治療マウスと比較してNACA治療マウスで有意に大きかった。平均明順応ERGb波振幅は、NAC治療マウスに対してNACA治療マウスでは、3つの刺激強度全てにおいて50%大きく(p=0.001)、対照群より4倍以上大きかった。P50日目において、錐体細胞密度は、NAC治療マウスと比較してNACA治療マウスにおいて、4象限中3つで有意に大きかった。」(「Abstract」の「Results」の項目)
(摘記1d)
「結論:実質的に低経口用量であっても、rd10+/+マウスにおいて、NACAはNACと比較して、有意に大きな錐体細胞機能の維持及び錐体生存を示した。」(「Abstract」の「Conclusions」の項目)
(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)の記載によれば、引用文献1の動物実験では、7mg/mlのN-アセチルシステインアミド(NACA)を含有する水を、rd10+/+マウスに経口投与している(摘記1b)。
そして、上記「rd10+/+マウス」は「RPのモデル」、すなわち網膜色素変性症のモデル動物である(摘記1a)。
そうすると、引用文献1には、下記の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「網膜色素変性症のモデル動物であるrd10+/+マウスに経口投与される、7mg/mlのN-アセチルシステインアミド(NACA)を含む水。」
2 引用文献3に記載された事項
引用文献3には以下の事項が記載されている。
(摘記3a)
「
[図:0001409453000001.jpg]
」(p.1右欄の「眼科で使われている薬の種類」の「内服薬」の項目)
3 引用文献4に記載された事項
引用文献4には以下の事項が記載されている。原文は外国語で記載されているので、「Figure 1.」及び「TABLE 1.」以外は、当審合議体による日本語訳を記載する。なお、下線は当審合議体が付したものである。
(摘記4a)
「動物からヒトへの用量変換の再検討
・・・
概要
新薬が開発されるにつれ、ある動物種から別の動物種に薬の投与量を適切に変換することが不可欠である。特に新しい動物又は臨床研究を開始する場合、相対成長用量変換の適切な方法に関して誤解が存在するようである。適切な変換に関する教育が必要であることは、ブドウや赤ワインに含まれる化合物であるレスベラトロールがマウスの健康と寿命を改善することを著者が示した最近のいくつかの研究に関するメディアの反応から明らかである。これらの論文がオンラインで公開された直後、科学界と人気のある報道機関は、著者が使用したレスベラトロールの投与量の関連性について懸念を表明した。報告されているように、動物の用量は、体重に基づく単純な変換によってヒトの等価用量(HED)に外挿されるべきではない。動物実験から人間研究への薬物投与量のより適切な変換のために、体表面積(BSA)正規化法を使用することをお勧めする。BSAは、いくつかの哺乳動物種にわたって、酸素利用、カロリー消費、基礎代謝、血液量、循環血漿タンパク質、腎機能などの生物学のいくつかのパラメーターとよく相関している。特に第I相及び第II相臨床試験では、動物からヒトへの変換のために用量を変換する際の要因としてBSAの使用を推奨する。」(文献タイトル及び「ABSTRACT」)
(摘記4b)
「ヒトの用量当量は、図1に示す式を使用してより適切に計算できる。マウスで使用される用量をヒトの表面積に基づく用量に変換するには、22.4mg/kg(バウアのマウス用量)にマウスのKm係数(3)を掛けて、そして、ヒトのKm係数(37)で割る(表1)。」(p.660左欄7-12行)
(摘記4c)
「
[図:0001409453000002.jpg]
」(p.660左欄の「Figure 1.」)
(摘記4d)
「
[図:0001409453000003.jpg]
」(p.660右欄の「TABLE 1.」)
4 引用文献5に記載された事項
引用文献5には以下の事項が記載されている。
(摘記5a)
「
[図:0001409453000004.jpg]
」(p.(381)51左欄下から5行-最下行)
5 引用文献6に記載された事項
引用文献6には以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付したものである。
(摘記6a)
「【請求項1】
細胞および組織において酸化物質の過剰生産を抑制するために、グルタチオン濃度を増やすための薬学的組成物であって、N-アセチルシステインアミド(NACアミド)、またはその薬学的に許容される塩、エステル、または誘導体を含む、薬学的組成物。
【請求項2】
生命体の細胞および組織において抗酸化物質の濃度を増やすための方法であって、抗酸化物質の濃度を増やすのに有効な量のNACアミドを前記生命体に投与する工程を含む、方法。
【請求項3】
前記生命体は、酸化物質の過剰生産に関連する病状、疾患、疾病、または病変を患うヒトである、請求項2に記載の方法。」(【請求項1】~【請求項3】)
(摘記6b)
「【0105】
外用投与のためのNACアミドまたはその誘導体を含有する製剤は、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、坐薬、滴剤、液体、スプレー、および粉剤を含んでよいが、これらに限定されない。NACアミドまたはその誘導体は、パッドあるいはスポンジに吸収された液体、ゲル、クリーム、およびゼリーの形状で粘膜に投与してよい。従来の薬剤担体、水性、粉末、または油性基剤、増粘剤などは、必要あるいは望ましくてよい。経口投与のためのNACアミドまたはその誘導体を含有する組成物には、粉剤または顆粒、水あるいは非水性媒体を用いた懸濁液あるいは溶液、サッシェ、カプセル、または錠剤が含まれる。増粘剤、希釈剤、香料、分散補助剤、乳化剤、または結合剤は、望ましくてよい。非経口的投与のための製剤には、緩衝剤、希釈剤、およびその他の適切な添加剤も含んでよい滅菌溶液が含まれるが、これに限定されない。
・・・
【0109】
NACアミドまたはその誘導体の用量、量、または分量、また使用される投与経路は、個別基準で決定され、当業者に既知の、同種の用途あるいは適応症で使用される量に相当する。当業者には当然なように、投薬は、処置される病気の重症度および反応性によるが、通常は1日1回以上であり、処置過程は数日から数ヶ月、あるいは治癒がもたらされるまで、または病状の減退が達成されるまで継続される。当業者は、最適な用量、投薬法、繰り返し率を容易に判断することができる。例えば、経口投与の投与形態のための製剤処方は、NACアミド、または薬学的に許容される塩、エステル、またはその誘導体を、1用量当り少なくとも25~500mgに相当する量、・・・で含有することができる。NACアミドまたはその誘導体は、ヒトにもヒト以外の哺乳動物にも投与することができる。したがって、ヒトおよび動物医学双方での用途を有する。」(【0105】及び【0109】)
(摘記6c)
「【0246】
(実施例13)
本実施例では、NACまたはNACアミド(TOVA)の存在下または非存在下でX線の全身単回照射(XRT)を受けたラットの生存率を観察する試験について記述する。・・・NACまたはTOVAを投与されるグループについては、同量(500mg/kgのNACまたはTOVAを毎日)を4または5日連続で施した。
・・・
図6は、表16に示される生存率(%)を比較するグラフ表示である。これらの結果は、XRT前にNACまたはTOVAで前処理を受けたラットが、XRTを単独で受けたラットよりも高い生存率を持つことを示す。」(【0246】~【0252】)
6 引用文献7に記載された事項
引用文献7には以下の事項が記載されている。原文は外国語で記載されているので、当審合議体による日本語訳を記載する。なお、下線は当審合議体が付したものである。
(摘記7a)
「低分子量銅キレート剤は血液脳関門を通過し、実験的自己免疫性脳脊髄炎を軽減する
・・・
概要
活性酸素種(ROS)の産生の亢進が、MAPキナーゼ、c-JunN末端プロテインキナーゼ(JNK)及びマイトジェン活性化プロテインキナーゼMAPK(p38)を活性化することを示唆する証拠が増えている。ストレス活性化経路におけるこれらのリン酸化中間体は、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の発現を誘導し、多発性硬化症(MS)の病因に関与する炎症反応や病理学的損傷を引き起こす。今回我々は、N-アセチルシステインアミド(AD4)が血液脳関門(BBB)を通過し、フリーラジカル形成を触媒するCu2+をキレートし、ROSによるJNK、p38、MMP-9の活性化を防止することを報告する。MSのマウスモデルであるミエリン希突起膠細胞糖タンパク質(MOG)誘発実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)では、AD4の経口投与により臨床症状、炎症、MMP-9活性が劇的に減少し、軸索が脱髄損傷から保護された。in vitro研究と一致して、我々は、MOG処置動物におけるAD4によるROS除去が、MAPK経路の阻害を通じてMMPの誘導とその後の損傷を防止したと提案する。AD4の低毒性とBBB浸透により、この化合物はMS及びその他の神経変性疾患の治療における優れた潜在的候補となる。」(文献タイトル~「Abstract」)
(摘記7b)
「血液脳関門を通過する
AD4(10~30mg/kg)をマウスに腹腔内注射、又は経口投与(160mg/kg)した。15分後、動物に100mLの冷生理食塩水を灌流して、脳から循環しているAD4を洗い流した。」(p.1244左欄2-6行)
7 引用文献8に記載された事項
引用文献8には以下の事項が記載されている。原文は外国語で記載されているので、当審合議体による日本語訳を記載する。なお、下線は当審合議体が付したものである。
(摘記8a)
「N-アセチルシステインアミド:N-アセチルシステインの期待を実現する誘導体
・・・
概要
現在の人間の健康シナリオでは、神経変性、心血管、肝臓、腎臓、肺疾患、癌などの多くの病状における酸化ストレスの関与が注目を集めている。N-アセチルシステイン(NAC)は、一般的なチオール抗酸化物質であり、さまざまな病態生理学的障害の治療に臨床的に使用されている。ただし、NAC療法はパラセタモール中毒の場合と粘液溶解剤としてのみ日常的に行われる。60年以上にわたり、NAC療法に関する数多くの研究で一貫性のない結果が得られてきましたが、これは生物学的利用能の低さが原因である可能性がある。NACの限界を克服するために、親油性、膜透過性、抗酸化特性を改善するアミド誘導体 N-アセチルシステインアミド(NACA)が合成された。最近の研究では、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、遅発性ジスキネジア、HIV関連神経障害などの神経障害におけるNACAの血液脳関門透過性と治療可能性が実証されている。さらに、NACAは肺炎症及び抗生物質誘発性アポトーシスに対する保護効果を示す。細胞外マトリックスの分解及び酸化ストレス関連の炎症に関連する病状の管理におけるNACA及びそのジェネリック医薬品の可能な治療特性に関する今後の研究は、非常に興味深いものである。NACAの優れたバイオアベイラビリティは、NACの期待を実現するだけでなく、バイオ足場や生体材料の耐久性と滞留時間を改善する分子となる可能性がある。現在までに、NACに関する800件を超えるレビューが公開されている。しかし、NACAの治療への応用に関する包括的なレビューはない。したがって、今回のレビューは、NACAとその誘導体の治療可能性を初めて強調するものとなるであろう。」(文献タイトル~「Abstract」)
(摘記8b)
「最近、Banerjeeら[42]は、動物におけるディーゼル エンジンの排気によって誘発される炎症と酸化ストレスに対するNACAの保護的役割を研究した。この研究では、NACA(250mg/kg,経口)又は生理食塩水で前処理した雄のC57BL/6マウスをディーゼル排気粒子(DEPs-15mg/m3)又は濾過空気(1.5~3時間/日)に、9日間連続で曝露した。」(p.361左欄2段落1-7行)
(摘記8c)
「3番目のモデルでは、ラットをロテノン(5mg/kg/日,28日間)で治療し、その後 NACA(100mg/kg/日,経口)を投与した。」(p.363左欄6-9行)
(主任注:当審拒理では誤訳で「マウス」になっていましたが、正しくは「ラット」ですので、この起案では修正しました。)
第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用文献1には、網膜色素変性症(RP)において、錐体に障害が生じること、N-アセチルシステイン(NAC)が錐体細胞の障害を減らし、RPモデルであるrd10+/+マウスにおいて錐体機能を維持することが記載されている(摘記1a)。
そして、引用文献1には、生後(P)14日目から、20mg/mlのN-アセチルシステイン(NAC)を含む水を与えたrd10+/+マウス(NAC治療マウス)、及び引用発明の「7mg/mlのN-アセチルシステインアミド(NACA)を含む水」を与えたrd10+/+マウス(NACA治療マウス)の実験について、P35日目において、NAC又はNACA治療マウスの「平均ピーク暗順応ERGb波振幅」は対照群より有意に(約2倍)大きく、「平均ピーク明順応b波振幅」は対照群よりも3倍以上高かったこと、P50日目において、NAC又はNACA治療マウスの「平均ピーク暗順応ERGb波振幅」は対照群より5倍以上大きく、NACA治療マウスの「平均明順応ERGb波振幅」は対照群より4倍以上大きく、NACA治療マウスの「錐体細胞密度」はNAC治療マウスと比較して4象限中3つで有意に大きかったこと、を示す結果が記載されている(摘記1b及び1c)。
これらの結果から、引用発明の「7mg/mlのN-アセチルシステインアミド(NACA)を含む水」は、網膜色素変性症(RP)における錐体細胞の障害を減らすといえるので、rd10+/+マウスにおける網膜色素変性症を治療する作用を有するといえる。
また、引用発明の「7mg/mlのN-アセチルシステインアミド(NACA)を含む水」における「水」は、本願発明の「薬学的に許容される担体」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、下記のとおりであると認められる。
<一致点>
「N-アセチルシステインアミド(NACA)が、対象に、薬学的に許容される担体中、又は薬学的に許容される担体と共に経口投与で提供される、網膜色素変性症の治療剤又は予防剤。」
<相違点1>
本願発明の対象は「ヒト」であるのに対し、引用発明の対象は「網膜色素変性症のモデル動物であるrd10+/+マウス」である点。
<相違点2>
本願発明では、NACAの用量が「1回当たり、治療有効量のN-アセチルシステインアミド(NACA)の固体経口用量で300、333、400、500、600、700、750、800、900、1000、2500、5000、7500又は10000mg」であることが特定されているのに対し、引用発明では、このような特定がされていない点。
<相違点3>
本願発明では、「NACAの網膜色素変性症における錐体細胞機能及び錐体生存に対する効果が、同じ用量のNACよりも大きい」ことが特定されているのに対し、引用発明では、このような特定がされていない点。
第6 判断
1 相違点1について
新薬の開発において、ヒトの疾患のモデル動物を対象とする前臨床試験を、ヒトを対象とする臨床試験の前段階として実施することは、本願優先日当時の技術常識である(摘記4a)。
そして、引用発明の「N-アセチルシステインアミド(NACA)を含む水」は、網膜色素変性症のモデル動物であるrd10+/+マウスにおいて網膜色素変性症の治療作用を有するのであるから、引用発明の対象を上記モデル動物に代えて「ヒト」にすることにより、引用発明を相違点1に係る本願発明の構成を備えたものとすることを、当業者は容易に想到し得たといえる。
2 相違点2について
本願明細書には、本願発明の「固体経口用量」の定義は記載されていないが、本願明細書における「本明細書での使用に対して想定されている経口送達ビヒクルは、錠剤またはカプセル剤を含む。固体組成物に対して、賦形剤は通常、実用的なサイズが圧縮に対して得られるように、錠剤またはカプセル剤の嵩を増加させるのに必要である。」(【0102】)という記載から、本願発明の「固体経口用量」は経口投与用固体製剤の用量を意味するという前提で、以下の判断を行う。
(1)引用発明の「7mg/mlのN-アセチルシステインアミド(NACA)を含む水」は経口投与用の液体である。
そして、引用文献6には、N-アセチルシステインアミド(NACA)は、水を含む液体の製剤以外に、カプセルや錠剤などの経口投与用固体製剤とすることも記載されており(摘記6aの【0105】)、また、引用文献3には、ヒトにおける目の病気の薬物治療において、点眼や軟膏では薬の成分が届かない眼球の後方にある網膜等の病気の治療に用いられる内服薬の剤形として、錠剤及びカプセル剤を示すイラスト図が記載されており(摘記3a)、錠剤、カプセル剤などは経口投与用固体製剤である(引用文献5の摘記5a)。
そうすると、網膜の病気である網膜色素変性症の対象に投与する引用発明の剤形を、N-アセチルシステインアミド(NACA)の周知の剤形である経口投与用固体製剤とすることを、当業者は自然に想起し得たといえる。
(2)また、ヒトに投与する製剤における有効成分の用量を、その有効成分を含有する従前の製剤における用量を参考にして決定することは、当業者が当然に試みる事項であり、ヒトに投与した際に安全と見込まれる少ない用量から開始して薬効と副作用のバランスを考慮しつつ用量を漸増して、好適な用量を設定することは、本願優先日当時の技術常識である(要すれば、「「○新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」,平成四年六月二九日,薬新薬第四三号,各都道府県衛生主管部局長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知,<URL>https://www.pmda.go.jp/files/000206739.pdfを参照。)。
そして、N-アセチルシステインアミド(NACA)を経口投与する際に使用された用量について、本願優先日前に公知になった引用文献6~8には、それぞれ以下の事項が記載されている。
引用文献6には、経口投与の投与形態のための製剤処方でN-アセチルシステインアミド(NACA)を1用量当り少なくとも25~500mg
に相当する量で含有すること、及びNACアミドはヒト及び動物医学双方での用途を有すること(摘記6a、摘記6b)、さらに実施例13の実験では、NACアミドをラットに500mg/kgの用量で経口投与したこと(摘記6c)が記載されており、ラットに対する500mg/kgの用量を、引用文献4の記載(摘記4b~4c)に基づいて換算したヒト等価用量は500×(6÷37)=81mg/kg程度、体重60kgのヒトに対する用量は4860mg程度である。
引用文献7には、N-アセチルシステインアミド(NACA)を、マウスに160mg/kgの用量で経口投与したことが記載されており(摘記7b)、マウスに対する160mg/kgの用量を、引用文献4の記載(摘記4b~4c)に基づいて換算したヒト等価用量は160×(3÷37)=13mg/kg程度、体重60kgのヒトに対する用量は780mg程度である。
引用文献8には、N-アセチルシステインアミド(NACA)を、マウスに250mg/kg(摘記8b)、又はラットに100mg/kgの用量で経口投与した実験が記載されており(摘記8b)、マウスに対する250mg/kg及びラットに対する100mg/kgの用量を、引用文献4の記載(摘記4b~4c)に基づいて換算したヒト等価用量は、それぞれ250×(3÷37)=20mg/kg程度及び100×(6÷37)=16mg/kg程度、体重60kgのヒトに対する用量は1200mg程度及び960mg程度である。
(3)そうすると、引用発明を、ヒトを対象とする経口投与用固体製剤にした際に、ヒトに対するN-アセチルシステインアミド(NACA)の1回当たりの用量を、上記(2)で説示した従前に使用された用量(引用文献6~8)から算出した、体重60kgのヒトに対する用量(4860mg程度、780mg程度、1200mg程度及び960mg程度)を参考にして、ヒトに投与した際に安全と見込まれる少ない用量から開始して薬効と副作用のバランスを考慮しつつ用量を漸増して設定することによって、引用発明を相違点2に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が適宜調整し得た事項にすぎない。
3 相違点3について
本願発明における「NACAの網膜色素変性症における錐体細胞機能及び錐体生存に対する効果が、同じ用量のNACよりも大きい」という記載は、単に本願発明による効果を説明する記載であって、本願発明の構成をさらに特定する記載ではないので、相違点3は実質的な相違点ではない。
仮に、相違点3が実質的な相違点であるとしても、引用文献1には、7mg/mlのNACAを含む水を与えたrd10+/+マウス(NACA治療マウス)と、20mg/mlのNACを含む水を与えたrd10+/+マウス(NAC治療マウス)とを比較した実験(摘記1b及び1c)から、「実質的に低経口用量であっても、rd10+/+マウスにおいて、NACAはNACと比較して、有意に大きな錐体細胞機能の維持及び錐体生存を示した」という結果が得られたこと(摘記1d)が記載されており、この結果は、NACAがNACよりも低い用量で、より大きな効果を示したことを意味するものであるから、NACAとNACを同じ用量で投与した場合は、NACAによる上記効果が、NACによる上記効果よりも大きくなることを、当業者は当然に理解できるといえるので、引用発明を相違点3に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。
4 上記1~3のとおりであるから、引用発明を、相違点1~3に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。
5 本願発明の効果について
本願明細書の実施例には、rd10+/+マウスに、通常の飲用水(n=6)又は7mg/mlのNACA若しくは7mg/mlのNAC若しくは20mg/mlのNACを含む水(各群についてn=8)を与えた実験により、rd10+/+マウスにおいて、同じ経口用量では、又は実質的に低用量であっても、NACAはNACと比較して有意に大きな錐体細胞機能の維持及び錐体生存を示したという効果が得られたこと(【0060】~【0064】)が記載されている。
しかし、上記3で説示したように、引用文献1の記載から、NACAとNACを同じ用量で投与した場合は、NACAによる「錐体細胞機能の維持及び錐体生存を示した」という効果が、NACによる上記効果よりも大きくなることを、当業者は当然に理解できるといえるのであるから、本願明細書の実施例に記載された効果は、当業者が予測し得た程度のものにすぎない。
また、本願発明の有効成分及び引用発明の有効成分はいずれもNACAという同一の成分であるから、NACAの効果とNACの効果を比較しても、本願発明の効果と引用発明の効果を比較したことにはならない。
そして、本願明細書には、NACAを含む経口投与用固体製剤を、本願発明で特定される用量でヒトに経口投与して、ヒトにおける網膜色素変性症の治療効果又は予防効果を実際に確認した臨床試験等の結果は記載されていないのであるから、本願発明によって、ヒトにおける網膜色素変性症に対して、どの程度の治療効果又は予防効果が得られるのかは不明である。
よって、本願発明によって、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が得られたとはいえない。
6 請求人の主張について
請求人は、令和5年8月4日提出の意見書の「2-2-1(2)出願人の意見」において、下記(1)及び(2)の主張をしているので、順次検討する。
(1)「本願請求項1に係る発明では、「1回当たり、治療有効量のN-アセチルシステインアミド(NACA)の固体経口用量で300、333、400、500、600、700、750、800、900、1000、2500、5000、7500又は10000mgが経口投与され」ることを特定しております。
しかし、引用文献1~8のいずれにも、NACAをかかる投与量で投与することは開示されておりません。」
上記主張について検討する。
引用発明を、上記「1回当たり、・・・が経口投与され」ること、すなわち上記「相違点2」に係る本願発明の構成を備えたものとすることは当業者が容易に想到し得た事項にすぎないことは、上記2で説示したとおりである。
よって、上記(1)の主張を参酌しても、上記1~5の判断に誤りはない。
(2)「加えて、本願請求項1(及びそれに従属する請求項2~7)に係る発明は、「NACAの網膜色素変性症における錐体細胞機能及び錐体生存に対する効果が、同じ用量のNACよりも大きい」ことが特定されております。NACAの網膜色素変性症における錐体細胞機能及び錐体生存に対する効果が、約3倍(20÷7)の用量のNACと比較しても、約2倍以上であることが、本願の図4A~図4M(特に図4M)に示されております。すなわち、かかるNACAの効果は、同じ用量のNACと比較すると、約6倍以上に相当し、顕著な効果に該当するものと思料します。」
上記主張について検討する。
引用文献1の記載から、NACAとNACを同じ用量で投与した場合は、NACAによる「錐体細胞機能の維持及び錐体生存を示した」という効果が、NACによる上記効果よりも大きくなることを、当業者は当然に理解できるといえることは、上記3で説示したとおりであるから、請求人が主張するNACAとNACとを比較した効果は、引用文献1の記載から当業者が予測し得た効果を単に確認したものにすぎない。
そして、本願発明の有効成分及び引用発明の有効成分はいずれもNACAという同一の成分であるから、NACAの効果とNACの効果を比較しても、本願発明の効果と引用発明の効果を比較したことにはならないことは、上記5で説示したとおりである。
よって、上記(2)の主張を参酌しても、上記1~5の判断に誤りはない。
7 まとめ
上記1~6のとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明(引用発明)、及び引用文献1、3~8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1を引用する請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-012060