特許拒絶査定不服審判
2021-011328
レール波状摩耗に伴う車内騒音評価方法および車内騒音評価システム、並びにこれを用いたレールの保守方法
- 審判番号
- 2021-011328
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-163119
- 請求日
- 2021年08月25日
- 審決日
- 2022年01月05日
- 公報発行日
- 2022年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】公益財団法人鉄道総合技術研究所
- 【請求人代理人】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
- 【請求人代理人】石橋 良規
- 審判長/審判官
- 審判長 福島 浩司
- 審判官 樋口 宗彦
- 審判官 伊藤 幸仙
- 分類
- P18 .121-Z (G01H) / P18 .561-Z (G01H) / P18 .571-Z (G01H) / P18 .536-Z (G01H) / P18 .537-Z (G01H) / P18 .574-Z (G01H) / P18 .575-Z (G01H)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第1号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第5項第4号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-163119「レール波状摩耗に伴う車内騒音評価方法および車内騒音評価システム、並びにこれを用いたレールの保守方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月14日出願公開、特開2019- 39857〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件出願は平成29年8月28日を出願日とする出願であって、令和2年7月28日付けで拒絶理由通知がなされ、同年9月10日に意見書及び手続補正書(これによる補正を以下「1回目の補正」という。)が提出され、同年11月27日付けで拒絶理由通知(最後)がなされ、令和3年1月27日に意見書及び手続補正書(これによる補正を以下「2回目の補正」という。)が提出され、同年6月10日付けで補正の却下の決定及び拒絶査定が同日になされ、令和3年8月25日に審判請求書及び手続補正書(これによる補正を以下「本件補正」という。)が同日に提出されたものである。
第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
以下の理由により、本件補正を却下する。
[理由]
1 本件補正について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1~3の記載を含む補正であり、本件補正により、特許請求の範囲の記載は、上記1回目の補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~7(以下、それぞれ「本件補正前請求項1」などという。)から、本件補正後の請求項1~3(以下、それぞれ「本件請求項1」などという。)に補正された。
一方、本件請求項1には、「軌道上を走行する車両の車内騒音評価システムを用いて判定された指標に基づき、レール波状摩耗を整備するレールの保守方法」係る発明が記載されており、本件請求項2・3は、前記本件請求項1を引用した「レールの保守方法」の発明が記載されている。
(1)本件補正前請求項1~7
本件補正前請求項1~7はそれぞれ次のとおりである。ここで、各構成単位冒頭の「4A」などは分説番号であり、以下該各構成単位を該分説番号をもとに「構成A」などという。また、下線部は請求人が本件補正による補正箇所を示すために付したものに対応する。
本件補正前請求項1~3には「車内騒音評価方法」についての発明が記載され、うち、本件補正前請求項1は独立形式で記載されている。
本件補正前請求項4~6には「車内騒音評価システム」についての発明が記載され、うち、本件補正前請求項4は独立形式で他請求項を引用することなく記載されている。
本件補正前請求項7には、「請求項4から6のいずれか1項に記載の車内騒音評価システム」を引用する「レールの保守方法」の発明が記載されている。
「 【請求項1】
1A 軌道上を走行する車両の車内騒音評価方法であって、
1B 前記車両の車内の床面に設置した第1の計測手段によって前記車内の床面における床面騒音データを生成し、
1C 前記車両の車内に設置した第2の計測手段によって前記車内の車内騒音データを生成し、
1D 前記床面騒音データを用いて前記軌道のレール波状摩耗の発生区間を決定し、
1E 前記車内騒音データを用いて前記レール波状摩耗に伴う車内快適性の評価を行い、
1F 前記車内快適性の評価は、ラウドネス、シャープネス、トーナリティ、ラフネス及び変動強度の5変数を含む回帰式とし、不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F(A~Fは変数)を用いて算出することを特徴とする
1G 車内騒音評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車内騒音評価方法において、
2A 前記第1の計測手段は、収納箱に収納されていることを特徴とする車内騒音評価方法。
【請求項3】
請求項2に記載の車内騒音評価方法において、
3A 前記収納箱は、下面のみに開口していることを特徴とする車内騒音評価方法。
【請求項4】
4A 軌道上を走行する車両の車内騒音評価システムであって、
4B 前記車内の床面における床面騒音データを生成する第1の計測手段と、
4C 前記車内の車内騒音データを生成する第2の計測手段と、
4D 前記床面騒音データ及び前記車内騒音データを用いて前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定及び車内快適性の評価を行う情報処理手段とを備え、
4E 前記車内快適性の評価は、ラウドネス、シャープネス、トーナリティ、ラフネス及び変動強度の5変数を含む回帰式とし、不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F(A~Fは変数)を用いて算出することを特徴とする
4F 車内騒音評価システム。
【請求項5】
請求項4に記載の車内騒音評価システムにおいて、
5A 前記第1の計測手段は、収納箱に収納され、
5B 前記収納箱は、前記床面に載置されることを特徴とする車内騒音評価システム。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の車内騒音評価システムにおいて、
6A 前記第2の計測手段は、前記車内に設置されることを特徴とする車内騒音評価システム。
【請求項7】
7X 請求項4から6のいずれか1項に記載の車内騒音評価システムを用いて判定された指標に基づき、
7Y レール波状摩耗を整備することを特徴とするレールの保守方法。」
(2)本件補正後の本件請求項1~3
本件補正後の本件請求項1~3は次のとおりである。文節番号については上記(1)と同様である。また、下線部は請求人が本件補正による補正箇所を示すために付したものに対応する。
下記本件請求項1には、「軌道上を走行する車両の車内騒音評価システムを用いて判定された指標に基づき、レール波状摩耗を整備するレールの保守方法」係る発明が記載されており、本件請求項2・3は、前記本件請求項1を引用した「レールの保守方法」の発明が記載されている。
「 【請求項1】
A1 軌道上を走行する車両の車内騒音評価システムを用いて判定された指標に基づき、
A2 レール波状摩耗を整備するレールの保守方法であって、
B 前記車内騒音評価システムは、
C 前記車内の床面における床面騒音データを生成する第1の計測手段と、
D 前記第1の計測手段は、前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知に用いられる加速度センサ及びジャイロセンサを含み、
E 前記車内の車内騒音データを生成する第2の計測手段と、
F 前記床面騒音データ及び前記車内騒音データを用いて前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定及び車内快適性の評価を行う情報処理手段とを備え、
G 前記車内快適性の評価は、ラウドネス、シャープネス、トーナリティ、ラフネス及び変動強度の5変数を含む回帰式とし、不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F(A~Eは係数、Fは定数)を用いて算出され、
H 前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定は、前記ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間に基づいて、所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置との照合を行い、
I 前記第1の計測手段及び前記第2の計測手段で得られた時間軸データを変換して得られた空間軸データの位置を補正することを含むことを特徴とする
J レールの保守方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレールの保守方法において、
K 前記第1の計測手段は、収納箱に収納され、
L 前記収納箱は、前記床面に載置されることを特徴とするレールの保守方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレールの保守方法において、
M 前記第2の計測手段は、前記車内に設置されることを特徴とするレールの保守方法。」
2 補正の適否
(1)本件補正前請求項7について
ア 引用形式で記載された、本件補正前請求項4を引用する本件補正前請求項7(以下「本件補正前請求項7-4」という。)の構成を独立形式の請求項に書き換えたものは次のとおりになると認められる。以下、この書き換えられた本件補正前請求項7の構成を特に「本件補正前認定請求項7-4」という。分説番号については上記1(2)と同様である。
「7A1 軌道上を走行する車両の車内騒音評価システムを用いて判定された指標に基づき、
7A2 レール波状摩耗を整備することを特徴とするレールの保守方法であって、
7B 前記車内騒音評価システムは、
7C 前記車内の床面における床面騒音データを生成する第1の計測手段と、
7E 前記車内の車内騒音データを生成する第2の計測手段と、
7F 前記床面騒音データ及び前記車内騒音データを用いて前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定及び車内快適性の評価を行う情報処理手段とを備え、
7G 前記車内快適性の評価は、ラウドネス、シャープネス、トーナリティ、ラフネス及び変動強度の5変数を含む回帰式とし、不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F(A~Fは変数)を用いて算出される、
7J レールの保守方法。」
イ 同様に、本件補正前請求項4を引用する本件補正前請求項5を、さらに引用する本件補正前請求項7(以下「本件補正前請求項7-5」という。)の構成を、上記本件補正前認定請求項7-4を引用する形式で書き換えたもの(以下「本件補正前認定請求項7-5」という。)は次のとおりになると認められる。
「本件補正前認定請求項7-4に記載のレールの保守方法において、
7K 前記第1の計測手段は、収納箱に収納され、
7L 前記収納箱は、前記床面に載置される、
レールの保守方法。」
ウ 同様に、本件補正前請求項4を引用する本件補正前請求項6を、さらに引用する本件補正前請求項7(以下「本件補正前請求項7-6」という。)の構成を、上記本件補正前認定請求項7-4を引用する形式で書き換えたもの(以下「本件補正前認定請求項7-6」という。)は次のとおりになると認められる。
「本件補正前認定請求項7-4又は7-5に記載のレールの保守方法において、
7M 前記第2の計測手段は、前記車内に設置される、
レールの保守方法。」
(2)本件補正
ア(ア)本件補正前請求項1~3は「車内騒音評価方法」に関し、本件補正前請求項7により引用されておらず、本件請求項1においても「車内騒音評価方法」は前提構成とされていない。
(イ)一方、本件補正前請求項4~6は「車内騒音評価システム」に関し、本件補正前請求項4~6を引用する本件補正前請求項7は、本件補正前請求項4~6に係る「車内騒音評価システム」を前提構成とする「レールの保守方法」に関するものである。
イ(ア)本件請求項1~3は「車内騒音評価システム」を前提構成とする「レールの保守方法」に関する。
(イ)本件請求項1は、本件補正前請求項4の構成4A、4B、4C、4D、4Eにそれぞれ対応する構成A1、C、E、F、Gを備える。
(ウ)本件請求項2は、本件補正前請求項5の構成5A,5Bにそれぞれ対応する構成K、Lを備える。
(エ)本件請求項3は、本件補正前請求項6の構成6Aに対応する構成Mを備える。
ウ 本件補正の適法性について審判請求書において特段の主張はなされていない。
エ 以上ア~ウ、並びに、「拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき」になされた補正の目的は、特許法17条の2第5項各号に掲げられた事項に制限されるところ、発明のカテゴリの変更を伴う補正は前記事項に含まれないこと、及び、上記ア、イに示した本件補正前後の各請求項の対応関係、からみて、本件補正は、前提構成のカテゴリの変更を伴って、本件補正前に引用関係のない本件補正前請求項1と7とを組み合わせて本件請求項1に補正したものではなく、本件補正前請求項1~3を削除し、本件請求項1~3はそれぞれ、本件補正前請求項4~6を引用する本件補正前請求項7に対応して補正されたもの、とみることが妥当であるといえる。
(3)本件補正に含まれる補正事項
上記(2)の検討も踏まえると、本件補正は、平仄に関する補正事項を除き、特許請求の範囲について、以下に挙げる補正事項を含むものである。
ア 補正事項1
本件補正前請求項1~3を削除する補正。
イ 補正事項2
本件補正前請求項7-4を、本件請求項1に変更する補正。この補正には、上記(1)で認定した本件補正前認定請求項7-4の構成を前提とすれば、下記の各補正事項2-1~2-3が含まれる。
(ア)補正事項2-1
補正前認定請求項7-4の構成7Cで特定される「第1の計測手段」について、構成Dとして「前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知に用いられる加速度センサ及びジャイロセンサを含」む点を加入する補正。
(イ)補正事項2-2
補正前認定請求項7-4の構成7Gで特定される「回帰式」の注釈「(A~Fは変数)」を、対応する構成Gにおいて、「(A~Eは係数、Fは定数)」と変更する補正。
(ウ)補正事項2-3
補正前認定請求項7-4の構成7Fで特定される「軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定」について、「前記ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間に基づいて、所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置との照合を行い」(構成H)、「前記第1の計測手段及び前記第2の計測手段で得られた時間軸データを変換して得られた空間軸データの位置を補正することを含む」(構成I)点を加入する補正。
ウ 補正事項3
本件補正前請求項5を引用する本件補正前請求項7を、本件請求項1を引用する本件請求項2に変更する補正。
エ 補正事項4
本件補正前請求項6を引用する本件補正前請求項7を、本件請求項1を引用する本件請求項3に変更する補正。
(4)新規事項の有無についての検討
ア 補正事項1について
補正事項1が当初明細書等の記載に対しいわゆる新規事項を追加するものでないことは明らかである。
イ 補正事項2-1について
(ア)本件補正により追加された構成Dは、「前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知に用いられる加速度センサ及びジャイロセンサを含」む、すなわち加速度センサ及びジャイロセンサを共に含むことのみを意味する。
一方、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、(従来技術ではなく)特許請求の範囲に記載された発明の実施形態として、「加速度センサ」・「ジャイロセンサ」を備える点に関し、その【0023】に「センサ部14は、第1の計測手段11及び加速度センサ/ジャイロセンサ13を備えており」なる記載が、また、それらの機能(用途)として、同【0026】には「加速度センサ/ジャイロセンサ13は、車両1の動揺管理や曲線検知に用いられ、加速度センサは、例えば抵抗線式、サーボ式、圧電式、及びMEMS式等が用いられ、ジャイロセンサは、例えば機械式、流体式、光学式、量子式、及びMEMS式等が好適に用いられる。」なる記載がある。
前記各記載において「加速度センサ/ジャイロセンサ13」なる表記が、センサ部14が加速度センサとジャイロセンサとを共に備えることを指すのか、又は何れか一方を備えることを指すのか、表記上何れとも断定できず、後者の意味とのみ解釈すべき理由となりうる他の記載も明細書等に見出せない。
よって、当初明細書等の「加速度センサ/ジャイロセンサ」を備える旨の開示に対し、構成Dで「加速度センサ及びジャイロセンサを含」む、すなわち該各センサを共に備える旨の特定事項を加入したことについて、当初明細書等の記載事項に対し新規事項を加入するものであるとまでいえない。
(イ)構成Dの「前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知に用いられる加速度センサ及びジャイロセンサを含」む、なる特定事項が、「前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知」なる両機能(用途)を「加速度センサ」も備えることを意味する場合を含むことは明らかである。
一方、当初明細書等において、「加速度センサ」の機能(用途)については、上記【0026】に「ジャイロセンサ」と不可分な形での「車両1の動揺管理や曲線検知に用いられ」る旨の記載を除き、特許請求の範囲に記載された発明に係る実施形態としての記載は見出せない。
従来技術に関しては、当初明細書等の【0004】に「車両上で測定した振動加速度又は騒音データから時間軸データを生成し、当該時間軸データを車両の走行距離に関連付けられた空間軸データに変換し、この空間軸データを空間周波数軸上でフィルタ処理を施してフィルタ処理データを生成し、このフィルタ処理データによりレールの波状摩耗の発生区間を特定する」なる記載が、同【0005】に「GPSアンテナ、3軸加速度センサ及び騒音計を用いた車両走行動揺/騒音解析システム」なる記載があり、「加速度センサ」が車両の動揺を計測するセンサとして従来技術において利用されていたことを読み取ることができる。
しかし、当初明細書等の記載を通じ、「加速度センサ」が「軌道の曲線区間検知」に用いられる構成については開示も示唆もなく、該構成が、当初明細書等の記載から自明の事項であるともいえないが、一方で、上記【0026】の「加速度センサ/ジャイロセンサ13は、車両1の動揺管理や曲線検知に用いられ、」なる記載から、加速度センサの機能(用途)として「曲線検知」を含まないことを明確に読み取ることもできない。
よって、前記特定事項に含まれ得る、「軌道の曲線区間検知に用いられる加速度センサ・・・を含」む点は、当初明細書等に記載された技術事項に対し、新たな技術事項を導入するものとまでいえない。
(ウ)(イ)と同様に、構成Dの「前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知に用いられる加速度センサ及びジャイロセンサを含」む、なる特定事項が、「前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知」なる両機能(用途)を「ジャイロセンサ」も備えることを意味することは明らかである。
しかし、当初明細書等の記載を通じ、「ジャイロセンサ」が「車両の動揺管理」に用いられる点については、上記【0026】の「加速度センサ/ジャイロセンサ13は、車両1の動揺管理や曲線検知に用いられ、」なる記載以外に開示も示唆もない。
ただ、該【0026】の記載は、「ジャイロセンサ」の機能(用途)として「車両1の動揺管理」を含まないことを明確に読み取ることができるものではない。
よって、前記特定事項に含まれ得る、「車両1の動揺管理・・・に用いられる・・・ジャイロセンサを含」む点は、当初明細書等に記載された技術事項に対し、新たな技術事項を導入するものとまでいえない。
(エ)以上(ア)~(ウ)のとおりであるから、補正事項2-1は、当初明細書等の記載事項に対しいわゆる新規事項を追加するものであるとまでいえない。
ウ 補正事項2-2について
当該補正事項の根拠となりうる、回帰式に関する記載は、当初明細書等における【0030】に「不快度は、車内騒音の音質の指標であるラウドネス(dB)、シャープネス(acum)、トーナリティ(tu)、ラフネス(asper)及び変動強度(vacil)の5変数に基づいて算出することができ、例えばこれらの変数を含む回帰式として、不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F(変数)を用いて算出される」なる記載のみである。
前記記載において、係数A~Fについては特段の説明がなく、回帰式末尾に「(変数)」と付記されるのみである。
しかし、「ラウドネス(dB)、シャープネス(acum)、トーナリティ(tu)、ラフネス(asper)及び変動強度(vacil)の5変数を含む回帰式」との記載、及び「不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F」なる式の形態から、線形回帰モデルに関する技術常識に照らし、前記回帰式は前記5変数からなる説明変数についての線形の回帰式であり、各(説明)変数に積算されるA~Eは各説明変数の係数にあたり、Fは定数項(切片)にあたることが明らかである。
よって、補正事項2-2は、構成Gの回帰式について、技術常識に照らし自明である事項についての注釈を追記したものに過ぎず、当初明細書に記載された前記回帰式に関する技術事項を変更するものでも、新たな技術事項を導入するものでもなく、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものである。
エ 補正事項2-3について
エー1 当初明細書等の記載事項
補正事項2-3のうち、構成Hに係る「前記ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間に基づいて、所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置との照合を行」う点について、当初明細書等には、次の記載がある。
「【0026】
加速度センサ/ジャイロセンサ13は、車両1の動揺管理や曲線検知に用いられ、・・・。
【0027】
また、本実施形態に係る車内騒音評価システム10は、上述したセンサ部14及び第2の計測手段15の他に、速度検知手段としてのGPSレシーバ16、速度検知の補助手段及び位置検知手段としてのマーカスイッチ17及びデータ収録・処理部18を備えている。GPSレシーバ16は、車両1の走行速度を検出するために用いられ、マーカスイッチ17は、車両1の現在の位置を特定するために用いられる。さらに、情報処理手段を構成するデータ収録・処理部18は、計測データを収録するための記録装置、収録データの処理プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)と、処理プログラムを格納するROM(Read Only Memory)と、CPUの処理に必要なデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを備えている。なお、速度検知手段は、GPSレシーバの他、速度発電機パルスを速度データに変換する装置や速度発電機パルスそのものを入力して、後処理で速度データを演算するように構成することも可能である。また、速度検知の補助手段は、マーカスイッチの他、線路に建植されている100m間隔のキロ程標識で定期的にマーカ入力をすれば、その間の平均速度を求めることができ、これによって位置検出を行っても構わないし、位置検出手段は、ジャイロによる曲線検知を用いても構わない。」
【0028】
次に、本実施形態に係る車内騒音評価方法を実行するための車内騒音評価システムの動作について説明を行う。図3に示すように、第1の計測手段11によって計測された床面騒音N1の測定結果から床面騒音データを生成する(S101)。ここで測定された床面騒音データは、時間サンプリングされた時間軸上のデータであるので、これを距離サンプリングの空間軸データに変換する(S102)。次に地上との位置補正を行う(S103)。具体的にはマーカスイッチ17によって約1km間隔で地上に設置されているキロ程標識をマーキングすることによって、空間軸上のデータに保線作業で用いられるキロ程を付与する。次に、波状摩耗検出フィルタ(S104)によって空間軸データを空間周波数軸上でバンドパスフィルタ処理して波状摩耗に起因する周波数成分のみを抽出する(S104)。次いで、レール波状摩耗データを標準偏差に代表される区間統計量で評価することで波状摩耗の評価(S105)を行い、レール波状摩耗の発生区間を決定する。なお、波状摩耗の評価方法は周知技術を適用することができるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0029】
次いで、車内快適性の評価を行う。本実施形態に係る車内騒音評価システム10では、車内快適性と相関が高い車内騒音N2を用いて車内快適性の評価を行う。具体的には、第2の計測手段15によって計測された車内騒音N2の測定結果から車内騒音データを生成する(S106)。この車内騒音データに基づいて車内快適性の評価を行う(S107)。車内快適性の評価は、種々の評価方法を採用することができ、例えば車内騒音に対する乗客の不快感を示す不快度を用いて評価すると好適である。また、通常の騒音レベルを用いて車内快適性を評価しても構わない。その後、床面騒音N1の場合と同様に、時間軸から空間軸へ変換し(S108)、地上との位置補正を行って(S109)、キロ程を付与する。」
「【0031】
また、本実施形態に係る車内騒音評価システム10は、ジャイロセンサを備えているので、曲線を検知することで、地上の絶対位置との照合を行い、位置を補正することが可能となる。」
エー2 「曲線区間」について
(ア)ジャイロセンサによって「曲線検知」を行うことは、上記【0026】・【0027】・【0031】の記載から読み取ることができる。しかし、構成Hに加入された、「軌道の曲線区間」を検知することについては当初明細書等に開示がない。「曲線検知」もその対象が「軌道」であることは自明であるが、曲線を検知することは、例えば走行中に現在位置が曲線であることをその時点で判断すれば足るのに対し、曲線区間を検知するためには、走行中の現在位置が曲線であるとの判断に加え、曲線の開始位置と終了位置など、前後の位置(経過)についての判断との比較も要することが明らかであるから、検知対象及び検知の手順の何れも同一ではない。
(イ)よって、補正事項2-3によって加入された、「曲線区間」を「ジャイロセンサで検知」することは、当初明細書等に根拠を欠き、新規事項にあたる。
エー3 【0031】の解釈について
(ア)【0027】において、「位置検知」・「位置検出」または「車両1の現在の位置を特定する」こと、を実現する手順については、「マーカスイッチ」が用いられることのほか、「キロ程標識で定期的にマーカ入力」すること、「ジャイロによる曲線検知を用いること」なる各手法が、「・・・行っても構わない」・「用いても構わない」なる記述を伴って択一的に記載され、さらに、それら各手法の併用についての言及もない。
また、該併用については、当初明細書等の全体を通じてその記述が見出せない。
(イ)上記摘記した【0031】の「位置を補正」は、同【0028】・【0029】の「地上との位置補正」に対応し、ここでの「位置」は上記(ア)で挙げた【0027】~【0029】に記載された「位置検知」・「位置検出」または「車両1の現在の位置を特定する」ことにおける「位置」、及び【0031】の「地上の絶対位置」における「位置」に対応すると理解される。
よって、【0031】の「位置を補正」することは、該各段落の記載から、床面騒音データや車内騒音データ(N1、N2)を空間軸へ変換したデータを対象とした処理を指すと解される。
(ウ)【0031】の「ジャイロセンサを備えているので、曲線を検知することで、地上の絶対位置との照合を行い、位置を補正する」なる記載は、ジャイロセンサにしか言及されていない。ジャイロセンサの機能については、【0027】に「位置検出手段は、ジャイロによる曲線検知を用いても構わない」と記載され、上記(ア)のとおり位置検出を(単独で)行う手段の一つとして位置づけられていることに照らせば、前記【0031】の記載は、
「ジャイロセンサ」による「曲線の検知」(のみ)により(空間軸へ変換した)床面・車内騒音データと、「地上の絶対位置との照合を行」うことで、(空間軸へ変換した)床面・車内騒音データの(地上との)「位置を補正」すること、
を意味するとの解釈が妥当かつ自然である。
(エ)一方、補正事項2-3の構成Hに対応する、
「前記ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間に基づいて、所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置との照合を行い」
は、上記【0031】の記載事項について、その「地上の絶対位置」を「所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる」ものと特定し、その「ジャイロセンサを備えているので、曲線を検知することで」を「ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間に基づいて、」に変更したものと位置づけられる。
しかし、【0031】の妥当かつ自然な解釈は上記(ウ)のとおりであり、補正事項2-3のように、「地上の絶対位置」が、【0031】に記載されない「所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる」ものを指すと解し得る根拠は、当該段落の記載からは見出せず、当初明細書等全体からも、見出せない。
また、「地上の絶対位置」を「所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる」ものと特定することで、構成Hは、ジャイロセンサで検知した軌道の曲線区間と、キロ程標識から得られる情報との併用を行うとの技術事項を含むことになったが、そのような技術事項についても、【0031】の記載からも、当初明細書等全体からも導出することはできない。
(オ)当該補正後の構成H・Iは、「所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置との照合を行」う対象(曲線区間か、空間軸データの位置か)、及び「前記ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間に基づいて、」が対象とする処理(照合か補正か)について、文理解釈上複数の解釈が成り立ち、多義的である。
しかし、何れの解釈によるとしても、「空間軸データの位置を補正」する処理が、「ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間」及び「所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置」なる2つの位置情報が重畳して用いられることになるし、「ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間」と「所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置」なる2つの位置情報を「照合」する処理を含むとの解釈も含まれる。
そして、前記2つの位置情報を重畳して用いる処理も、2つの位置情報を照合する処理も、上記摘記した【0026】~【0029】及び【0031】を含む、当初明細書等には記載も示唆もない。
(カ)また、上記(ア)で挙げたとおりの、地上の位置情報を、【0027】に記載されたマーカスイッチやキロ程標識のマーカ入力、ジャイロセンサによる曲線検知のいずれか1つの手法にて検出し、それを空間軸データの補正に用いることと、補正事項2-3に含まれる、前記複数の手法による検出結果を合わせて前記補正に用いること、さらには前記複数の手法を相互に照合した結果を前記補正に用いることとは、全く技術思想が異なる。
エー4 小括
以上のとおりであるから、補正事項2-3は、上記エー2・エー3各点について、構成H・Iの何れの解釈によっても、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、また、これらすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において新たな技術事項を導入するものである。
オ 補正事項3・4について
補正事項3・4による補正は、本件請求項2・3を共に補正事項2-3による補正を伴う本件請求項1を引用する形式とするものであるから、上記エと同様の理由により、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、また、これらすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において新たな技術事項を導入するものである。
カ まとめ
以上、特にエ・オのとおりであるから、本件補正は、他の補正の要件を検討するまでもなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
(5)補正の目的要件違反についての検討
上記(4)で説示したとおり本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるが、以下念のため、補正の目的要件違反についても検討する。
ア 補正事項1について
補正事項1は特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。
イ 補正事項2-1について
補正事項2-1は、本件補正前認定請求項7-4の構成7Cで特定される「第1の計測手段」について、構成Dとして「前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知に用いられる加速度センサ及びジャイロセンサを含」む点を限定するものであり、当該補正によって、本件補正前認定請求項7-4に係る発明と本件請求項1に係る発明との間で産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、共に軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定及び車内快適性の評価に関するという点で同一であるといえる。
よって、補正事項2-1は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
ウ 補正事項2-2について
上記(4)ウに説示したとおり、当該補正事項は本件補正前認定請求項7-4の構成7Gで特定される回帰式について、拒絶査定における明確性要件に関する拒絶の理由(理由1)の解消を図るべく、その係数についての注釈を追記したものであるから、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
エ 補正事項2-3について
当該補正事項は、本件補正前認定請求項7-4の構成7Fで特定される「軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定」について、本件請求項1の構成H・Iに係る事項により限定したものといえる。
よって、外形的には、補正事項2-3は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。
オ 補正事項3・4について
該各補正事項は、本件補正前請求項1~3を削除し、本件補正前請求項4を引用する本件補正前請求項7を本件請求項1としたことに伴う、本件補正前請求項5・6についての従属形式から独立形式への変更と引用請求項番号の変更とに関する補正であるといえるから、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。
カ 小括
以上のとおりであるから、本件補正に含まれる補正事項は何れも、特許法第17条の2第5項各号に掲げる事項を目的とするものに該当する。
(6)まとめ
以上、上記(4)のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
しかし、上記(5)のとおり、本件補正は、外形的に特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正を伴うので、念のため下記3において、独立特許要件の充足性について更に検討することとする。
3 本件発明の独立特許要件についての検討
本件補正後の本件補正請求項1~3に係る発明は、その本件補正請求項1~3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その本件補正請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。
3-1 本件補正発明について
上記1の(2)に分説番号と共に記載した請求項1のとおりのものである。
3-2 実施可能要件の充足性について
(1)構成Dについて
ア 本件補正により追加された構成Dで、「第1の計測手段」に「前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知に用いられる加速度センサ及びジャイロセンサを含」む点が特定されている。
イ 上記2(4)イ(イ)・(ウ)で説示したとおり、構成Dの上記特定事項は、文理上、「前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知」なる両機能(用途)を「加速度センサ」及び「ジャイロセンサ」が共に備えるとの意味を含む。
ウ しかし、上記第1に挙げた各手続補正を経た明細書及び図面(以下「現明細書・図面」という。)において、「加速度センサ」による「軌道の曲線区間検知」、及び「ジャイロセンサ」による「車両の動揺管理」について、それらの具体的な手順や原理に関する記載が見出せない。また、技術常識に照らしても、前記手順や原理が何らの説明もなく当業者にとって自明であるともいえない。
エ よって、構成Dに係る特定事項は、それに含まれる「加速度センサ」による「軌道の曲線区間検知」、及び「ジャイロセンサ」による「車両の動揺管理」について、当業者が、現明細書・図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、請求項に係る発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解できない。
したがって、現明細書・図面には、本件請求項1の構成Dに係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(2)構成Fについて
ア 構成Fは「前記床面騒音データ及び前記車内騒音データを用いて前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定及び車内快適性の評価を行う情報処理手段とを備え」るというものである。
イ 構成Fは、「前記床面騒音データ及び前記車内騒音データ」及び「前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定及び車内快適性の評価」相互の関係が多義的であり、文理解釈上、床面騒音データを用いて車内快適性の評価を行うとの技術事項、及び車内騒音データを用いて軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定を行うとの技術事項を含む。
ウ しかし、現明細書・図面によれば、【0028】には、レール波状摩耗の発生区間の決定に床面騒音データが用いられること、【0029】には、車内快適性の評価に「車内快適性と相関が高い車内騒音N2」が用いられることが開示されるのみであり、床面騒音データを用いて車内快適性の評価を行うとの技術事項、及び車内騒音データを用いて軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定を行うこと、については記載も示唆もない。
よって、軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定に車内騒音データがどのように用いられるのか、また、車内快適性の評価に床面騒音データがどのように用いられるのか、さらには、床面騒音データ及び車内騒音データ双方を併用してどのように軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定及び車内快適性の評価を行うのか、についても、開示も示唆もない。また、これらは技術常識に照らしても、当業者にとって自明であるともいえない。
エ よって、構成Fに係る特定事項は、それに含まれる「床面騒音データ」による「車内快適性の評価」、及び「車内騒音データ」による「軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定」、並びに、床面騒音データ及び車内騒音データ双方を用いて軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定及び車内快適性の評価を共に行うことについて、当業者が、現明細書・図面に記載から、出願時の技術常識を参酌したとしても、請求項に係る発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解できない。
したがって、現明細書・図面には、本件請求項1の構成Fに係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(3)構成H・Iについて
ア 上記2(4)エ-3(オ)で説示したとおり、構成H・Iは、「所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置との照合を行」う対象について≪曲線区間か、空間軸データの位置か≫の2とおりの解釈が成り立ち、「前記ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間に基づいて、」が対象とする処理について≪照合するのか補正するのか≫の2とおりの解釈が成り立つものであり、これら各解釈の組合せが複数とおり成り立つため、多義的である。
イ 上記アの何れの解釈も、構成Iの「前記第1の計測手段及び前記第2の計測手段で得られた時間軸データを変換して得られた空間軸データの位置を補正する」ために、構成Hに挙げた「前記ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間」及び「所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置」が共に用いられることを含む点では共通する。
ウ 2(4)エ-3(ア)で説示したとおり、構成Hにいう「地上の絶対位置」に対応する「位置検知」・「位置検出」・「車両1の現在の位置の特定」を実現する手順としては、現明細書・図面の【0027】において、「マーカスイッチ」が用いられること、「キロ程標識で定期的にマーカ入力」すること、「ジャイロによる曲線検知を用いること」、なる各手法が、択一的に記載されているにすぎず、該複数の手法を併用することについては、該段落及び現明細書・図面の他の記載箇所を通じ、開示がない。
エ さらに、構成Hの「照合」は、「キロ程標識で定期的にマーカ入力」すること、及び「ジャイロによる曲線検知を用いること」なる両手法による地上の絶対位置についての情報を「照合」する意味とも解されるが、当該照合についても現明細書・図面に開示はない。
オ 上記複数の手法は個々に、車両の地上における位置についての、必ずしも相互に整合しない情報を検出可能なものであるから、これらを複数併用するということは、各手法による複数の位置情報から、構成Iにおいて「空間軸データの位置を補正」に用いられるに足る位置情報を生成するために、相互に整合または照合させる何らかの手段を要することが明らかである。
しかし、現明細書・図面に該手段についての開示はないから、当該分野の技術常識に照らしても、当業者は、本件補正発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解できない。
カ したがって、現明細書・図面には、本件補正発明の構成H・Iに係る技術事項について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
3-3 サポート要件の充足性について
(1)構成Dについて
上記3-2(1)で説示したとおり、構成Dに含まれる「前記第1の計測手段は、前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知に用いられる加速度センサ及びジャイロセンサを含み」なる特定事項は、文理上、「前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知」なる両機能(用途)を「加速度センサ」及び「ジャイロセンサ」が共に備えるとの意味を含む。
これに関し、【0026】には「加速度センサ/ジャイロセンサ13は、車両1の動揺管理や曲線検知に用いられ」なる記載があるが、これ以外、現明細書・図面中に、「加速度センサ」の用途や機能について発明の実施形態として記載は見出せない。また、「ジャイロセンサ」については、【0027】・【0031】に「曲線検知」に用いる旨の記載があるのみで、車両の動揺管理に用いることやその測定原理については何ら記載されていない。
以上のとおりであるから、構成Dに文理上含まれる技術事項のうち、少なくとも、「加速度センサ」による「軌道の曲線区間検知」、及び「ジャイロセンサ」による「車両の動揺管理」について、現明細書・図面に記載も示唆もない。
(2)構成Fについて
ア 構成Fは「前記床面騒音データ及び前記車内騒音データを用いて前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定及び車内快適性の評価を行う情報処理手段とを備え」るというものである。
イ 構成Fは、「前記床面騒音データ及び前記車内騒音データ」及び「前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定及び車内快適性の評価」相互の関係が多義的であり、文理解釈上、床面騒音データ及び車内騒音データ双方を用いて、軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定も、車内快適性の評価も行うとの技術事項を含む。
ウ しかし、現明細書・図面によれば、【0028】には、レール波状摩耗の発生区間の決定に床面騒音データが用いられること、【0029】には、車内快適性の評価に「車内快適性と相関が高い車内騒音N2」が用いられることが開示されるのみであり、軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定に車内騒音データがどのように用いられるのか、また、車内快適性の評価に床面騒音データがどのように用いられるのか、さらには、床面騒音データ及び車内騒音データ双方を用いてどのように軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定や車内快適性の評価を行うのかについて、開示も示唆もない。また、これらは技術常識に照らしても、当業者にとって自明であるともいえない。
(3)構成H・Iについて
構成H・Iは、「前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定は、前記ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間に基づいて、所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置との照合を行い、前記第1の計測手段及び前記第2の計測手段で得られた時間軸データを変換して得られた空間軸データの位置を補正すること」なる技術事項を含む。
しかし、「地上の絶対位置」に相当する「位置」または「車両の現在の位置」の「検知」・「検出」・「特定」を行う手段については、【0027】に、「位置検知」・「位置検出」または「車両1の現在の位置を特定する」こと、を実現する手順として、「マーカスイッチ」が用いられることのほか、「キロ程標識で定期的にマーカ入力」すること、「ジャイロによる曲線検知を用いること」なる各手法が、「・・・行っても構わない」・「用いても構わない」なる記述を伴って択一的に記載されているにすぎず、それら各手法を併用することや、「キロ程標識で定期的にマーカ入力」すること及び「ジャイロによる曲線検知を用いること」なる各手法と「空間軸データの位置を補正する」という処理との三者を相互に関連づけることについては、現明細書・図面において記載も示唆もない。
(4)小括
以上(1)~(3)のとおりであるから、本件補正発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
3-4 明確性について
(1)構成H・Iには、「前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定は、前記ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間に基づいて、所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置との照合を行い、前記第1の計測手段及び前記第2の計測手段で得られた時間軸データを変換して得られた空間軸データの位置を補正することを含む」なる記載がある。
しかし、
(文a)「前記ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間に基づいて」、
(文b)「所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置との照合を行い、」及び
(文c)「前記第1の計測手段及び前記第2の計測手段で得られた時間軸データを変換して得られた空間軸データの位置を補正する」
の各文の関係が、文aは文b・c何れに掛かるのか(「基づいて・・・照合を行う」のか、「基づいて・・・補正する」のか、何れでもないのか)、文bの「照合」を行う対象は何であるのか、などに関し文章構造上明確でない。
現明細書・図面には、そもそも文aの曲線区間、文bのキロ程標識から得られる地上の絶対位置(地上での位置)、文cの空間軸データなる三者について、合わせて何らかの関連づけを行うことについて開示がないから、現明細書・図面を参照しても、また、さらに出願時の技術常識を考慮しても、前記記載について当業者は理解できず、発明が不明確となっている。
(2)構成H・Iは「H 前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定は、前記ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間に基づいて、所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置との照合を行い、
I 前記第1の計測手段及び前記第2の計測手段で得られた時間軸データを変換して得られた空間軸データの位置を補正することを含むことを特徴とする」
というものであるが、ここでの「第1の計測手段」には、構成Dで
「D 前記第1の計測手段は、前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知に用いられる加速度センサ及びジャイロセンサを含み、」
と特定された、「前記車両の動揺管理や前記軌道の曲線区間検知に用いられる加速度センサ及びジャイロセンサ」が含まれる。
これら「加速度センサ及びジャイロセンサ」なる各センサも第1の計測手段の他のセンサ(床面騒音データを生成するセンサ)と同様に、まず時間軸のデータとして取得されることが明らかであるところ、構成Iの「第1の計測手段・・・で得られた時間軸データを変換して得られた空間軸データの位置を補正する」ために、第1の計測手段に含まれる「ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線区間」のデータが用いられていることになり、第1の計測手段に含まれるジャイロセンサの測定データは、構成Iの補正対象であり、且つ構成Hで、前記補正のために用いるデータであることにもなっており、技術的に矛盾を生じている。
よって、発明特定事項の内容に技術的な欠陥があるといえ、発明が不明確となっている。
3-5 進歩性について
(1)本件補正発明の認定について
ア 構成Dについて
(ア)多義的に解釈可能な構成Dに文理解釈上含まれる技術事項のうち、少なくとも、「加速度センサ」による「軌道の曲線区間検知」、及び「ジャイロセンサ」による「車両の動揺管理」について、実施可能要件及びサポート要件を充足しないことは上記3-2・3-3で説示したとおりである。
(イ)よって、構成Dが記載要件を満たすためには、構成Dは、
「前記第1の計測手段は、前記車両の動揺管理」「に用いられる加速度センサ及び」「前記軌道の曲線区間検知」に用いられる「ジャイロセンサを含み、」
なる技術事項(以下「認定構成D」という。)を意味すると解釈するほかない。
(ウ)以下、構成Dが上記認定構成Dと読み替えられることを前提として下記(2)以下にて進歩性欠如の検討を行う。
(エ)なお、仮に構成Dに含まれうる上記(ア)で挙げた「加速度センサ」による「軌道の曲線区間検知」、又は「ジャイロセンサ」による「車両の動揺管理」なる技術事項が記載要件を満たすといえるとしても、そのためには、現明細書・図面に裏付けとなる開示がない以上、該技術事項が技術常識から自明であることを要するから、結局、当該技術事項を含む構成Dが引用発明との対比において相違点となったとしても、該技術常識に基づいて容易想到といえることになる。
イ 構成Fについて
(ア)多義的に解釈可能な構成Fに文理解釈上含まれる技術事項のうち、文理解釈上、床面騒音データを用いて車内快適性の評価を行うとの技術事項、及び車内騒音データを用いて軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定を行うとの技術事項、については、上記3-2・3-3で説示したとおり、実施可能要件もサポート要件も満たさない。
(イ)よって、構成Fが記載要件を満たすためには、構成Fは、現明細書・図面に裏付けとなる記載を伴う、
「前記床面騒音データ」「を用いて前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定」を行い、「前記車内騒音データを用いて」「車内快適性の評価を行う情報処理手段とを備え、」
なる技術事項(以下「認定構成F」という。)を意味すると解するほかない。
(ウ)以下、構成Fが上記認定構成Fと読み替えられることを前提として、下記(2)以下にて進歩性欠如の検討を行う。
(エ)なお、仮に構成Fに含まれうる上記(ア)の技術事項が記載要件を満たすといえるとしても、そのためには、現明細書・図面にその裏付けとなる開示がない以上、該技術事項が技術常識から自明であることを要するから、結局、当該技術事項を含む構成Fが引用発明との対比において相違点となったとしても、該技術常識に基づいて容易想到といえることになる。
ウ 構成H・Iについて
(ア)構成H・Iは、そもそも上記2で説示したとおり新規事項の加入を伴うものであるし、上記3-2~3-4で説示したとおり、実施可能要件・サポート要件・明確性要件を何れも満たさない。
(イ)実施可能要件を措き、構成Hにおいて、仮に、構成Iにおける「補正」の対象が、【0028】・【0029】などの記載からみて、時間軸データから変換された床面騒音データ及び車内騒音データについての空間軸データの位置であり、また、当該「補正」の根拠となるデータが、【0027】などの記載からみて、「ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線に基づいて得られ(る地上の絶対位置)」と、「所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置」とのいずれか(択一)である、との技術事項を意味するよう修正の上読み替えられる場合のみ、実施可能要件の不充足は解消しないものの、上記2(4)エ・3-3(3)・3-4で説示したような、前記【0027】・【0028】・【0031】の記載事項との矛盾や明確性要件の不充足は生じない。
(ウ)また、構成Iの「時間軸データ」が、「前記第1の計測手段により得られた床面騒音データ及び前記第2の計測手段により得られた車内騒音データ」と修正の上読み替えられる場合のみにおいて、上記3-4で説示したような大きな技術的矛盾を伴わない。
(エ)そこで、構成H・Iが、
「H1 前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定は、前記ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線に基づいて得られる地上の絶対位置、または、所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置との照合を行い、」(以下「認定構成H」という。)
I1 前記第1の計測手段により得られた床面騒音データ及び前記第2の計測手段により得られた車内騒音データの各時間軸データを変換して得られた各空間軸データの位置を補正することを含む、」(以下「認定構成I」という。)
と修正して読み替えられることを前提として、下記(2)以下にて進歩性欠如の検討を行うこととする。
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1の記載事項
(ア)原査定の拒絶理由において引用文献1として提示された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2012-021790号公報には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール上を走行する鉄道車両上で鉄道車両の走行時間に対して振動加速度および騒音の少なくとも一方を測定して時間軸データを生成し、前記時間軸データを鉄道車両の走行距離に関連付けられた空間軸データに変換し、前記空間軸データを空間周波数軸上でバンドパスフィルタ処理してフィルタ処理データを生成し、前記フィルタ処理データに基づいてレールの波状摩耗の発生区間を決定する、レール波状摩耗検出方法。」
「【0024】
図2に示すように、鉄道車両20は、車体21と、空気バネを22介在して車体21を支持する台車23と、軸バネ24を介在して台車23に取り付けられた軸箱25と、軸箱25に回転可能に支持された車軸に取り付けられると共にレール31上で回転可能な車輪26を有する。ここで、「波状摩耗」とは、繰返しレール上を走行する鉄道車両の荷重によってレールが周期的に摩耗または損傷し、凹凸を形成する現象である。
【0025】
加速度センサ11Aは、例えば、車体21の床21aの上に設置される。加速度センサ11Bは、軸箱25に設置される。加速度センサ11A、11Bは、例えば、抵抗線型、サーボ型、圧電型を含む。加速度センサ11Aは、車体21上で車体21の振動から車体振動加速度を測定する。また、加速度センサ11Bは、軸箱25上で軸箱25の振動から軸箱振動加速度を測定する。
【0026】
マイクロホン12は、例えば、車体21の床21a上に設置される。マイクロホン12は、例えば、普通騒音計、精密騒音計、その他のコンデンサ型マイクロホンを含む。マイクロホン12は、レール31と車輪26の接触に起因する車内騒音を測定する。
【0027】
処理装置13は、処理プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)と、処理プログラムを格納するROM(Read Only Memory)と、CPUの処理に必要なデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)を有する。処理装置13は、測定した車体振動加速度、軸箱振動加速度、車内騒音の時間軸データから空間軸データに変換する。処理装置13は、車体振動加速度、軸箱振動加速度、車内騒音の空間軸データを空間周波数軸上でバンドパスフィルタ処理して波状摩耗の周波数成分を抽出し、フィルタ処理データを生成する。処理装置13は、フィルタ処理データを標準偏差処理して標準偏差データ、または、フィルタ処理データを空間重み付きレベル化処理してレベル化処理データを生成する。
・・・
【0029】
次に、レールの波状摩耗の検出方法について説明する。
【0030】
先ず、図3を用いて概略の検出方法について説明する。
【0031】
測定した車体振動加速度、軸箱振動加速度、車内騒音の時間サンプリングの時間軸データを距離サンプリングの空間軸データに変換する(ステップS13)。次に、空間軸データを空間周波数軸上でバンドパスフィルタ(以下、BPFと称する。)処理して、波状摩耗に起因する周波数成分のみを抽出する(ステップS14)。この際、波状摩耗の波長に応じて、BPFの波長帯域を設定する。この処理波形から、目視等で波状摩耗の発生箇所で見分けることも可能である。一方、検出精度を高めるため、本実施形態ではBPF処理を行った空間軸データについて区間標準偏差を求める(ステップS16)。
【0032】
なお、空間軸データに変換する際のアンチエイリアジングのために、時間軸データに対して時間軸上でローパスフィルタ処理を行ってもよい(ステップS11)。また、このローパスフィルタ処理を行った時間軸データに対してドリフト補正フィルタ処理を実行してもよい(ステップS12)。また、空間軸データについて車上データと地上データとの位置ずれを補正してもよい(ステップS15)。
【0033】
次に、詳細な検出方法を説明する。
【0034】
先ず、図2に示すように、鉄道車両20を波状摩耗が発生したレール31上で走行させる。加速度センサ11A、11Bによって、車体21、軸箱25で、それぞれ、車体振動加速度、軸箱振動加速度を時間軸上で鉄道車両20の走行時間に対して測定する。マイクロホン12によって、車体21の内部で車内騒音を時間軸上で鉄道車両20の走行時間に対して測定する。これらの測定データを時間軸データと称する。
【0035】
次に、図3において、時間軸データに対してアンチエイリアジングフィルタ処理を実行する(ステップS11)。
・・・
【0039】
次に、時間軸データを空間軸データに変換する(ステップS13)。時間軸上の時間軸データを速発パルスで空間軸上のデータ、つまり、鉄道車両の走行距離についての空間軸データに変換する。ここで、速発パルスとは、車輪の回転に伴って発生するパルス信号であり、空間軸上で等間隔なパルスを刻む。
【0040】
次に、空間軸データを空間周波数軸上でBPF処理して波状摩耗の周波数成分が抽出されたフィルタ処理データを生成する(ステップS14)。具体的には、内軌波状摩耗の抽出には、空間軸データに対して波長約0.10~0.25mでBPF処理を実行する。同じく、直線波状摩耗や外軌波状摩耗の抽出には、空間軸データに対して波長約0.20~0.60mでBPF処理を実行する。
・・・
【0042】
そこで、内軌波状摩耗に起因する信号のみを抽出するため、波長0.10~0.25mでBPF処理を実行する。
【0043】
図5において、位置P1と位置P2との間は直線区間であり、位置P2と位置P3との間は緩和曲線区間であり、位置P3と位置P4との間は円曲線区間である。このBPF処理によって、図5(B)、(D)、(F)に示すように、軸箱振動加速度、車体振動加速度および車内騒音の空間軸データから波状摩耗以外の周波数成分が除去される。これにより、円曲線区間P3-P4と直線区間P1-P2との振幅の差が顕著になり、波状摩耗の検出精度が向上する。以上から、軸箱振動加速度、車体振動加速度および車内騒音の空間軸データを空間周波数軸上でBPF処理して波状摩耗の発生区間を検出することができる。
【0044】
次に、空間軸データに対して車輪の空転や滑走による位置ずれを補正する(ステップS15)。具体的には、約1km間隔で地上に敷設されている地上子の信号を用いて、空間軸上のデータに、さらに、保線で用いられている「キロ程」を付与してもよい。この処理により、車上データと地上データとの位置ずれが解消され、測定時期の異なるデータの経時変化の分析が可能となる。」
(イ) 引用発明
上記アに摘記した記載事項によれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。ここで、分説番号については上記のとおりであり、各構成単位末尾の括弧内には、引用元となった引用文献1の記載箇所を示した。
「a レール上を走行する鉄道車両上で鉄道車両の走行時間に対して振動加速度および車内騒音の少なくとも一方を測定して時間軸データを生成し、前記時間軸データを鉄道車両の走行距離に関連付けられた空間軸データに変換し、前記空間軸データを空間周波数軸上でバンドパスフィルタ処理したフィルタ処理データに基づいてレールの波状摩耗の発生区間を決定する、レール波状摩耗検出方法であって、
「波状摩耗」とは、繰返しレール上を走行する鉄道車両の荷重に
よってレールが周期的に摩耗または損傷し、凹凸を形成する現象であり、(【請求項1】、【0024】、【0026】)
c 鉄道車両の車体の床上に設置され、レールと車輪の接触に起因する車内騒音を測定する、例えば、普通騒音計、精密騒音計、その他のコンデンサ型マイクロホンを含むマイクロホンと、(【0026】)
d 車体の床の上に設置され、車体上で車体の振動から車体振動加速度を測定する加速度センサと、(【0025】)
f 前記加速度センサにより車体振動加速度、軸箱振動加速度を時間軸上で鉄道車両の走行時間に対して測定し、また、
前記マイクロホンにより床上で車内騒音を時間軸上で鉄道車両の走行時間に対して測定した各時間軸データを、空間軸データに変換し、空間周波数軸上でバンドパスフィルタ処理して波状摩耗の発生区間を検出する処理装置と、を備え、(【0027】、【0034】、【0043】)
h 前記空間軸データに対して、約1km間隔で地上に敷設されている地上子の信号を用いて、空間軸上のデータに、さらに、保線で用いられている「キロ程」を付与し、車上データと地上データとの位置ずれを補正する、(【0032】、【0044】)
j レール波状摩耗検出方法。」
イ 引用文献2の記載事項
(ア)原査定の拒絶理由において引用文献2として提示された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2012-047483号公報には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラウドネス(dB)だけではなく、シャープネス(acum)、トーナリティ(tu)、ラフネス(asper)、変動強度(vacil)を含む変数による回帰式に基づいた、鉄道車両内騒音に対する不快感の評価指標を用いることを特徴とする鉄道車両内騒音の評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の鉄道車両内騒音の評価方法において、前記回帰式が、不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F(定数)とした線形回帰式であることを特徴とする鉄道車両内騒音の評価方法。」
「【0014】
本発明では、これらの新幹線鉄道車両内騒音に対する乗客の心理的な不快度についての検討を行うため、3種類の新幹線車両(A,B,C形式)において走行中および停車中の様々な車内騒音を収録した。なお、この測定にあたっては積分型普通騒音計(RIONNL-20)を用いた。
図1は本発明に係る鉄道車両内騒音の測定位置の概略図である。
【0015】
この図において、1は鉄道車両、2は車輪、3は台車、4はドア、5は窓、6は車体左右中心線、7は車体前後中心線、8は床面である。
測定位置は、車体前後中心線7上(車体中央部の座席位置に相当)とした。高さは、乗客の耳の位置に相当するように床面8から1.2mとした。」
「【0020】
市販されているソフトウェアパッケージ(上記非特許文献3参照)(以下、単に,Oscopeという)により算出できる音質評価パラメータには、ラウドネス以外にシャープネス(単位:acum、音の甲高さを示し、周波数分析した結果の重心が高域に偏る割合で示される)、トーナリティ(単位:tu、音の成分に純音が含まれる割合)、ラフネス(単位:asper、音の粗さ感を示し、ラウドネスの変調周期が比較的短く(70Hz)変動するもの)、変動強度(単位:vacil、音の変動感を示し、ラウドネスの変調周期が長く(4Hz)変動するもの)がある。
(被験者による主観評価実験)(1)実験の概要上記したように、車内騒音には多種多様なものがあり、その大きさも様々である。本発明の主眼は、「大きさ」だけでは評価できない車内騒音に対する不快感の原因がどこにあるかを明らかにすることであるため、実際に収録した車内騒音を実験室環境でスピーカにより再生し、被験者がその印象を答える主観評価実験を実施した。また、主観評価の結果との比較に用いる音の物理量は前述の各種音質評価指標の実測値とし、主観評価試験において被験者が座る椅子の位置に騒音計(RIONNL-04)のマイクロホンを設置してスピーカからの再生音を収録し、前述したソフトウェア(Oscope)により解析して得た。音の再生方法や実験方法の詳細は以下に示す。」
「【0040】
上記したように、車内騒音に対する乗客の不快感は、まず第一に音の聞こえる大きさを示すラウドネスとの相関が高いが、それだけでは同じ大きさの音でも不快度が異なる理由を説明できない。これを説明するため、他の音質評価指標も用いた重回帰分析により、さらに不快度との相関が高く乗客の不快感をより効率的に説明できるような総合的な評価指標を提案する。市販の統計解析ソフト(SPSS)を用いて、次に示す線形回帰式において各変数の係数を検討した。
【0041】
不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F(定数)…(1)
7つの音質評価指標のうち、音圧レベル、騒音レベルはラウドネスと同じく「音の大きさ」という特徴を示すものであるため除外し、残る5つの指標を説明変数として、最も効率的な変数の組み合わせを重回帰分析のステップワイズ法により検討した。表4にその結果を示す。ただし、従属変数としては主観評価点(5段階評価の平均点)、説明変数である各音質指標値としてはそれぞれの実測値を用いたので、係数A~E(非標準化係数)では各変数の寄与の大小は比較できない。このため、表4には寄与度をあらわす標準化係数を併せて示す。」
(イ)上記(ア)の記載事項によれば、引用文献2には次の事項(以下「技術事項2」という。)が記載されているといえる。
「新幹線車内の車内騒音を床面から1.2mの測定位置で収録した音に対する主観評価試験の結果と、市販のソフトウェアにより解析して得たラウドネス、シャープネス、トーナリティ、ラフネス、変動強度なる各音質評価パラメータとから求めた、不快度との相関が高く乗客の不快感を説明できる総合的な評価指標としての
不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F(定数)
なる回帰式に基づいた、鉄道車両内騒音に対する不快感の評価指標を用いることを特徴とする鉄道車両内騒音の評価方法。」
ウ 引用文献3の記載事項
(ア)原査定の拒絶理由において引用文献3として提示された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-081102号公報には、図面と共に次の事項が記載されている
「【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1はこの発明の第1の実施形態による車両走行動揺/騒音解析システムの構成を示すブロック図である。
図1に示すように、この車両走行動揺/騒音解析システムは、軌道上を走行する車両の3軸方向(前後方向、左右方向、上下方向)の加速度を計測するための3軸加速度センサー11と、車両の内部の騒音を測定するための騒音計12と、車両の位置をGPS測位により計測するためのGPSアンテナ13およびGPS受信機14とを有する。3軸加速度センサー11からは、車両の前後方向、左右方向および上下方向の加速度がアナログ電気信号としてそれぞれ出力される。・・・。」
「【0059】
次に、騒音測定を行う試験路線の出発駅において、この車両走行動揺/騒音解析システムを収納した収納ケース23を計測者が手に持って試験列車の車両に乗り込む。そして、車内の所定位置にGPSアンテナ13を設置し、3軸加速度センサー11を車両の床に固定し、車内の左右方向および前後方向の中心位置で床面からの高さ1.2~1.6m(JISE4021に準じた)の位置にマイクロフォンの先端部が位置するように騒音計12を設置する。このとき、駅停止スイッチ22bはオンとする。
次に、試験列車が出発駅を発車した時、駅停止スイッチ22bをオフとする。
次に、列車走行中に線路構造物を通過する毎に状態スイッチ22aをオンとする。線路構造物は通過駅、踏切、ポイント、トンネル入口および出口、キロポストなどである。
途中の駅に停車した時に駅停止スイッチ22bをオンとし、その駅を発車した時に駅停止スイッチ22bをオフとする。
こうして列車が終点駅に到着し、停止した時、駅停止スイッチ22bをオンとする。
対向列車通過時の音、ドア開閉時の音などの突発的な音が発生した時のように騒音解析より除外したいところで、必要に応じて騒音解析除外スイッチ22eを押して騒音解析除外信号を入れる。」
「【0064】
以上のように、この第1の実施形態による車両走行動揺/騒音解析システムによれば、軌道上を走行する車両の動揺測定および/または騒音測定を高い位置精度または距離精度で正確に行うことができる。この動揺測定および/または騒音測定の結果から軌道の状態を把握し、異常動揺値および/または異常騒音値が測定された場合などには適宜補修などの適切な処置を施してから、動揺測定および/または騒音測定を再度行って処置の効果を確認することにより、軌道を良好な状態に維持することができ、乗客の乗り心地を良くし、あるいは、車両の安全運転を実現することができる。例えば、この車両走行動揺/騒音解析システムによる車内騒音測定によりレール波状摩耗が発生している区間を把握し、その区間においてレール削正を行ってレール波状摩耗を解消することにより、乗客の乗り心地を良くすることができる。また、車両に回転パルスを得るための設備を設ける必要がないため、この設備を有していない在来線普通列車などの動揺解析および/または騒音解析を低コストで行うことができる。さらに、この車両走行動揺/騒音解析システムによれば、一人の計測者で負担なく測定を簡単に行うことができる。」
「【0067】
この第2の実施形態による車両走行騒音解析システムによれば、軌道上を走行する車両の騒音測定を高い位置精度または距離精度で正確に行うことができる。この騒音測定の結果から軌道の状態を把握し、異常騒音値が測定された場合などには適宜補修などの適切な処置を施してから、騒音測定を再度行って処置の効果を確認することにより、軌道を良好な状態に維持することができ、乗客の乗り心地を良くし、あるいは、車両の安全運転を実現することができる。例えば、この車両走行騒音解析システムによる車内騒音測定によりレール波状摩耗が発生している区間を把握し、その区間においてレール削正を行ってレール波状摩耗を解消することにより、乗客の乗り心地を良くすることができる。また、車両に回転パルスを得るための設備を設ける必要がないため、この設備を有していない在来線普通列車などの騒音解析を低コストで行うことができる。さらに、この車両走行騒音解析システムによれば、一人の計測者で負担なく測定を簡単に行うことができる。」
(イ)上記(ア)の記載事項によれば、引用文献3には次の事項(以下「技術事項3」という。)が記載されているといえる。
「軌道上を走行する車両の動揺測定および/または騒音測定を行う、3軸加速度センサーと車両の内部の騒音を測定する騒音計とを含む車両走行動揺/騒音解析システムにより、車内騒音測定によりレール波状摩耗が発生している区間を把握し、その区間においてレール削正を行ってレール波状摩耗を解消することにより、乗客の乗り心地を良くする方法。」
エ 周知文献1
本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-26109号公報(以下「周知文献1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、制御付振子システムなど軌道形状を基に制御を行うシステムで必要となる軌道形状データを収集する方法として、従来方式に代えて、軌道の実態を正確に表し、かつ、その収集に多くの人手や費用を要しない「軌道形状データ収集装置」で得られた軌道形状データ信号を計算機などで処理をして制御付振子システムの制御用データとして使用できるようにする方法を提案するものである。すなわち、台車に装架したジャイロスコープにより得られる台車枠のロール角信号データやヨー角速度信号データ、ATS地上子検知信号データ、車軸や主電動機軸に取り付けたパルス式速度発電機より得られるパルス信号データを計算機などで処理をして、軌道データの曲線部分を抽出し、制御付振子システムの制御用データとして各曲線のカント量や曲率などの形状やATS地上子との相対距離を数値データとして作成する。」
「【0008】
【実施例】
本発明による軌道形状データ処理方法の1実施例を図1、図2、図3、図4、図5、図6、図7に示す。図1は、本発明の軌道形状データ処理方法を用いて、パルス式速度発電機のパルス信号、ATS地上子検知装置の検知信号、ジャイロスコープで計測した台車枠ヨー角速度から計算される曲線の曲率信号とジャイロスコープで計測した台車枠ロール角から計算される曲線のカント量信号を処理して車体傾斜制御に必要な軌道形状データ(曲線の位置、曲線の半径、カント量など)を作成し、車体傾斜制御装置の軌道データ記憶部に入力して車体傾斜制御を行う場合の制御信号の流れを示している。・・・」
「【0016】
のように一定の長さの区間(2・Lh・ΔL)について曲率またはカント量の差分を求め、その区間の距離で割ることによって曲率変化率(図3の(D))またはカント量変化率(図4の(D))を求める。曲率変化率またはカント量変化率を求める際の区間の長さとしては、短い円曲線についても正しく求められるように10mから20m程度とする。図3の(D)または図4の(D)に示す通り、曲率変化率またはカント量変化率が大きい部分が緩和曲線に対応し、該緩和曲線に挟まれた曲率変化率またはカント量変化率の小さい部分が円曲線に相当していることが判る。そこで、曲率変化率またはカント量変化率の絶対値が所定値を超えた部分を緩和曲線の区間とみなし、また、曲線部のうち緩和曲線に挟まれた区間を円曲線の区間とみなして円曲線部分の曲率データおよびカント量データの平均値を求め、それぞれ円曲線の曲率平均値およびカント量平均値とする。
【0017】
次に、緩和曲線とみなされた区間のうちで平均化処理後の曲率またはカント量が、当該緩和曲線の前後の直線または円曲線の区間の曲率平均値またはカント量平均値の1/2の値となる点を求め緩和曲線の中間点とする(図6の(A)、図7の(A))。この緩和曲線の中間点を基にして、当該円曲線の曲率平均値またはカント量平均値の1/4および3/4となるP1点およびP2点を求め(図6の(B)、図7の(B))、該P1点およびP2点間の曲率変化率またはカント量変化率を求め、該緩和曲線前後の曲率平均値の差を算出した曲率変化率で割ることによりまたは該緩和曲線前後のカント量平均値の差を算出したカント量変化率で割ることにより、該緩和曲線区間の長さすなわち緩和曲線長を求める(図6の(C)、図7の(C))。このようにして求めた緩和曲線長を先に求めた緩和曲線の中間点(図6の(A)、図7の(A))を中心に割り振り、その両端を入口の緩和曲線の場合であれば入口緩和曲線開始点と円曲線開始点、出口の緩和曲線の場合であれば円曲線終了点と出口緩和曲線終了点とする。
【0018】
以上のようにして求めた曲線形状の円曲線開始点から円曲線終了点の区間における曲率平均値を当該円曲線の曲率とし、カント量平均値を当該円曲線のカント量とする。
【0019】
さらに、軌道に沿って数キロ置きに設置した信号システム用のATS地上子を基準として各曲線の位置を算出するため、軌道形状データと共に記録しておいたATS地上子の検知地点のデータの中から当該曲線の前にある最寄りのATS地上子の位置データと前述の処理により得られた当該曲線の入口緩和曲線開始点、円曲線開始点、円曲線終了点、出口緩和曲線終了点との距離を算出し、各曲線の位置データを作成する。」
オ 周知文献2
本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-65038号公報(以下「周知文献2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行線区の実際の曲線のカントや曲率、軌道の水準狂い量や通り狂い量に応じた車体傾斜制御や車体振動制御を行うため、鉄道車両の車軸や主電動機軸に取り付けたパルス式速度発電機が発生するパルス信号と車輪の直径から一定距離間隔のパルス信号とその各瞬時の走行速度を算出し、自動列車停止装置の地上子など軌道に沿って常設された基準となる地点検知信号と該一定距離間隔のパルス信号を測定、記録の距離基準として、台車に装架したロール角を検出するジャイロスコープや傾斜計で測定した台車枠のロール角から走行線区の曲線のカントや軌道の水準狂い量を表す信号および台車に装架したヨー角速度を検出するジャイロスコープで測定した台車枠のヨー角速度と各瞬時の走行速度から走行線区の曲線の曲率や軌道の通り狂いの曲率を表す信号を演算し、該一定距離間隔のパルス信号、ATS地上子など基準点の検知信号、軌道形状データ信号を同時に記録し、または、メモリーカードのような記憶媒体を介して車体傾斜制御装置や車体振動制御装置に入力できる形にデータを編集するなど車体傾斜制御用や車体振動制御用の軌道形状データを簡便に作成できるようにしたことを特徴とする軌道形状データ収集装置。」
「【0008】
・・・すなわち、距離の基準としては、従来と同じATS地上子の検知信号とパルス式速度発電機の1mパルス信号を用い、曲線部のカントや曲率、軌道の水準狂い信号や通り狂い信号を求めるため、車両のばね系の影響を極力受けないようにジャイロスコープを台車に装架し、台車枠のロール角やヨー角速度を測定してロール角から曲線部のカントや軌道の水準狂いを、また、ヨー角速度から曲線の曲率や軌道の通り狂いの曲率などを演算し、演算結果の信号をそのまま制御に用いることとした。」
(3)対比
ア 構成aの「レール」、「鉄道車両」、「決定」はそれぞれ、構成A1の「軌道」、「車両」、「判定」に相当する。
また、構成aで決定される「レールの波状摩耗の発生区間」は、レール波状摩耗の有無や存在位置に関する情報であるから、構成A1で「レール波状摩耗を整備する」工程が基づくとする「指標」に相当する。
イ(ア)構成cの「車体の床上」は構成Cの「車内の床面」に相当する。
(イ)構成cの「測定」は、それにより測定信号が生成されることが明らかであるから、構成Cの「生成」に相当する概念を内包するものである。
(ウ)構成cの「マイクロホン」は、構成Cの「第1の計測手段」に含まれる1要素としてこれに相当する。
(エ)上記(イ)で説示したように、構成cで、「レールと車輪の接触に起因する車内騒音」が「マイクロホン」により「測定」されたことにより生成されることが自明である測定信号は、構成Cの、「第1の計測手段」により「生成」される「車内の床面における床面騒音データ」に相当する。
ウ 構成dの「車体の振動」及び「車体振動加速度」は、認定構成Dの「車両の動揺」に相当する。
構成dの「加速度センサ」は認定構成Dの「加速度センサ」に相当する。
エ 構成fの「波状摩耗の発生区間を検出する」こと、「処理装置」はそれぞれ、認定構成Fの「軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定」すること、「情報処理手段」に相当する。
よって、構成fで「前記マイクロホンにより床上で車内騒音を時間軸上で鉄道車両20の走行時間に対して測定した時間軸データを、空間軸データに変換し、空間周波数軸上でバンドパスフィルタ処理して波状摩耗の発生区間を検出する」ことは、認定構成Fの特定事項に含まれる、「前記床面騒音データ」「を用いて前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定」することに相当する。
オ 構成hの「前記空間軸データ」は、構成fで「前記マイクロホンにより床上で車内騒音を時間軸上で鉄道車両20の走行時間に対して測定した時間軸データを、空間軸データに変換」したものにあたるから、認定構成Iの「前記第1の計測手段により得られた床面騒音データ」の「時間軸データを変換して得られた空間軸データ」に相当する。
構成hの「約1km間隔で地上に敷設されている地上子」は認定構成Hの「所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識」に相当する。
よって、構成hの「約1km間隔で地上に敷設されている地上子の信号を用いて、空間軸上のデータに、さらに、保線で用いられている「キロ程」を付与」することは、認定構成Hの、「空間軸データの位置」を対象として「所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置との照合を行」うこと、に相当するといえる。
カ 構成cの「マイクロホン」、構成dの「加速度センサ」、及び構成fの「処理装置」からなるシステムは、構成aの≪「レールの波状摩耗の発生区間を決定」すること≫、及びそれに付随する≪「車体の揺動」を測定すること≫に用いられるものであり、このうち構成aの≪「レールの波状摩耗の発生区間を決定」すること≫は、上記イで説示した事項からみて構成A1の「指標」を「判定」することに相当するから、前記システムは合わせて構成A1・Bの「車内騒音評価システム」に相当するといえる。
キ 上記ア~カによれば、本件補正発明と引用発明とは、下記(ア)の点で一致し、下記(イ)の各点で相違する。
(ア)一致点
「A1 軌道上を走行する車両の車内騒音評価システムを用いて判定された指標に基づき、
A2’ レール波状摩耗を検出する方法であって、
B 前記車内騒音評価システムは、
C 前記車内の床面における床面騒音データを生成する第1の計測手段と、
D’ 前記第1の計測手段は、前記車両の動揺管理に用いられる加速度センサを含み、
F’ 前記床面騒音データを用いて前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定を行う情報処理手段とを備え、
H’ 前記軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定は、所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られる地上の絶対位置との照合を行い、
I’ 前記第1の計測手段で得られた床面騒音データの時間軸データを変換して得られた各空間軸データの位置を補正することを含むことを特徴とする
J’ 方法。」
(イ)相違点
a 相違点1(構成A2・J)
本件補正発明の方法は、「レール波状摩耗を整備するレールの保守方法」すなわち「レール波状摩耗」を整備し、レールを保守する工程を備えるのに対し、引用発明の方法は「レール波状摩耗検出方法」、すなわち「波状摩耗の発生区間を検出する」工程までにとどまる点。
b 相違点2(構成D・認定構成H・認定構成I)
本件補正発明では、ジャイロセンサを含み、地上の絶対位置は、前記ジャイロセンサで検知した前記軌道の曲線に基づいて得られるものでもあるのに対し、引用発明では、ジャイロセンサを含まず、地上の絶対位置がジャイロセンサで検知した軌道の曲線区間に基づいて得られるものであるとも特定されない点。
c 相違点3(構成E・認定構成F・構成G・認定構成H・I)
車内騒音評価システムとして、本件補正発明は「車内の車内騒音データを生成する第2の計測手段」を備え、情報処理手段が「車内騒音データを用いて軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定及び車内快適性の評価を行」い、該「車内快適性の評価は、ラウドネス、シャープネス、トーナリティ、ラフネス及び変動強度の5変数を含む回帰式とし、不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F(A~Eは係数、Fは定数)を用いて算出され」、該「第2の計測手段で得られた車内騒音データの時間軸データを変換して得られた空間軸データ」についても、「位置を補正」するのに対し、引用発明では、車内騒音データの計測手段を備えず、よって車内騒音データについての評価も、その空間軸データの補正も行わない点。
(4)相違点の検討
ア 相違点1について
レールの波状摩耗は、保線作業により検出し、また補修する対象となるレールの損傷形態としてごく周知のものであるから、引用発明のレール波状摩耗検出方法においてレール波状摩耗が検出されたことを契機に、さらにレールの補修を行うことを想起すること、すなわち、相違点1に係る構成A2の「整備し、レールを保守する」作業(工程)の引き続いての実施を想起することは、当業者が容易に想到できたことである。
また、レールの波状摩耗の検出を、車内での音響測定に基づいて行う場合に限っても、車内騒音測定によりレール波状摩耗が発生している区間を把握し、その区間においてレール削正を行ってレール波状摩耗を解消することは、引用文献3に上記技術事項3として記載されたとおり、公知であり、ここでの「レール削正を行ってレール波状摩耗を解消すること」は相違点1に係る構成A2の「レール波状摩耗を整備し、レールを保守する」構成に相当する。
よって、引用発明に公知の引用文献3に記載された技術事項3を適用して相違点1の構成とすることも、当業者が容易になし得たことである。
イ 相違点2について
当初明細書等の【0027】・【0028】の記載に基づけば、認定構成Hにおいて、地上の絶対位置がジャイロセンサで検知した軌道の曲線区間に基づいて得られるものであることと、所定の間隔で地上に設置されているキロ程標識から得られるものであることとは並列的すなわち択一的なものであるから、ジャイロセンサを設けることも任意選択的な事項であることとなり、相違点2は実質的なものではない。
また、仮に、相違点2が実質的なものであるとしても、ジャイロセンサを走行中の車両に搭載し、それによる計測結果を用いて軌道の曲線区間やその位置を求めることは、周知文献1・2にも記載されたとおりの周知技術である。
また、認定構成H・Iが、ジャイロセンサによる曲線区間とキロ程標識による位置との何らかの併用を意味するとしても、ジャイロセンサによる曲線区間の測定と、「軌道に沿って数キロ置きに設置した信号システム用のATS地上子」や「自動列車停止装置の地上子など軌道に沿って常設された基準となる地点検知信号」など別の位置検出データとを併用することも、周知文献1・2に記載されるとおり周知である。
以上のとおりであるから、相違点2は実質的なものでないか、実質的なものであるとしても、引用発明において相違点2の構成とすることは、周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 相違点3について
(ア)車内騒音の測定において、
「新幹線車内の車内騒音を床面から1.2mの測定位置で収録した音に対する主観評価試験の結果と、市販のソフトウェアにより解析して得たラウドネス、シャープネス、トーナリティ、ラフネス、変動強度なる各音質評価パラメータとから求めた、不快度との相関が高く乗客の不快感を説明できる総合的な評価指標としての
不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F(定数)
なる回帰式に基づいた、鉄道車両内騒音に対する不快感の評価指標を用いることを特徴とする鉄道車両内騒音の評価方法。」
は引用文献2から上記(2)イにおいて技術事項2として認定したとおり、公知であり、引用発明において、別途車内の騒音環境も同時に測定すべく前記技術事項2を適用することは当業者が容易になし得たことである。
(イ)また、引用発明においては、構成fにおいて、「前記加速度センサにより車体振動加速度、軸箱振動加速度を時間軸上で鉄道車両の走行時間に対して測定し」た時間軸データについても、同時に測定した車内騒音(本件補正発明の「床上騒音データ」に相当する)についての時間軸データと共に、空間軸データに変換することを行っている。
よって、引用発明に技術事項2を適用し、本件補正発明の「車内騒音データ」に相当する車内騒音を他の、床上騒音や加速度と共に同時に測定することとした場合に、該車内騒音もまずは時間軸信号として取得されることが明らかであるから、他の時間軸での取得データと同様に空間軸データに変換し、地上の絶対位置による補正を行う対象とすべきことは自明であるし、そうすることは、引用発明1における前記他の取得データの処理形態から当業者が容易に想到できたことである。
(ウ)以上のとおりであるから、引用発明に引用文献2(技術事項2)を適用して相違点3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(5)小括
したがって、上記(3)において検討したように、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2・3に記載された技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
4 中括
上記2・3において検討したことからみて、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反し、また、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~7に係る発明は、上記1回目の補正により補正された、特許請求の範囲の本件補正前請求項1~7に記載された、上記第2の1(1)に示したとおりのものである。
そして、その、引用形式で記載された、本件補正前請求項4を引用する本件補正前請求項7に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の2(1)で「本件補正前認定請求項7-4」として示したとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定における本件補正前認定請求項7-4についての(本件補正前請求項4及びそれを引用する請求項7についての)拒絶の理由は、概略次のとおりである。
(理由1)(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記アの点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
ア 請求項4には、「不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F(A~Fは変数)」との記載があるが、「A~Fは変数」とされているところ、不快度の算出の際に、変数である「A~F」に具体的にどのような値を代入すれば良いのかわからず、意味が不明確である。
(理由2)(進歩性)この出願の請求項7に係る発明(本件補正前認定請求項7-4に係る発明)は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記アの引用文献1~3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
ア 引用文献等一覧
引用文献1.特開2012-021790号公報
引用文献2.特開2012-047483号公報
引用文献3.特開2008-081102号公報
3 対比・判断
(1)本件補正前認定請求項7-4と本件補正請求項1との比較
本件補正前認定請求項7-4に係る発明(以下「本件補正前認定発明7-4」という。)は、本件補正発明の発明特定事項から、構成D・H・Iを削除し、構成Gにおける係数及び定数についての注釈記載を「(A~Eは係数、Fは定数)」から「(A~Fは変数)」に変更したものである。
(2)理由2について
ア 上記(1)によると、本件補正前認定発明7-4と引用発明との相違点は、上記相違点1と、相違点3のうちの、時間軸から空間軸への変更を除いた一部(「車内騒音評価システムとして、本件補正発明は「車内の車内騒音データを生成する第2の計測手段」を備え、情報処理手段が「車内騒音データを用いて軌道のレール波状摩耗の発生区間の決定及び車内快適性の評価を行」い、該「車内快適性の評価は、ラウドネス、シャープネス、トーナリティ、ラフネス及び変動強度の5変数を含む回帰式とし、不快度=A×ラウドネス+B×シャープネス+C×トーナリティ+D×ラフネス+E×変動強度+F(A~Eは変数)を用いて算出され」る点)である。
イ 引用発明において相違点1の構成とすることが当業者にとって想到容易であることは上記第2の3-5(4)アで説示したとおりである。
ウ 引用発明において相違点3の上記アの点の構成とすることが当業者にとって想到容易であることは、上記第2の3-5(4)ウ(ア)で説示したとおりである。
(3)理由1について
本件補正前請求項4、すなわち本件補正前認定請求項7-4の構成7Gに
、不快度についての回帰式の注釈において、回帰式の係数や定数にあたる「A]~「F」について「変数」と記載されていることは、発明特定事項に技術的な不備があるといえ、結果として発明が不明確となっている。
4 むすび
上記3(2)のとおりであるから、本件補正前認定発明7-4は、引用発明及び引用文献2・3並びに周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、上記3(3)のとおりであるから、本件補正前の特許請求の範囲の記載は不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-011328